(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】油脂抽出方法
(51)【国際特許分類】
C11B 1/10 20060101AFI20230418BHJP
B01D 11/02 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C11B1/10
B01D11/02 A
(21)【出願番号】P 2019043827
(22)【出願日】2019-03-11
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100206944
【氏名又は名称】吉川 絵美
(72)【発明者】
【氏名】岡島 いづみ
(72)【発明者】
【氏名】孔 昌一
(72)【発明者】
【氏名】佐古 猛
(72)【発明者】
【氏名】土屋 陽子
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-056793(JP,A)
【文献】特開2015-168718(JP,A)
【文献】特表2003-512481(JP,A)
【文献】特開平08-231978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/10
B01D 11/02
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素及び無極性液体溶媒を含有し連続相が液体である媒体を、リンを含む油脂含有物に浸透させることにより、該油脂含有物から油脂を抽出することを含
み、前記媒体における無極性液体溶媒と二酸化炭素とのモル比が0.19:0.81~0.05:0.95であり、前記抽出が、温度20~40℃及び圧力2~7MPaで行われる、油脂抽出方法。
【請求項2】
前記媒体における無極性液体溶媒と二酸化炭素とのモル比が0.18:0.82~0.05:0.95である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記油脂含有物が、植物原料である、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記植物原料が米糠である、請求項
3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂含有物から油脂を採取する方法として、圧搾法による搾油、又はヘキサン等の有機溶媒を抽出溶媒として用いる抽出が用いられている。また、特許文献1には、超臨界又は亜臨界二酸化炭素を用いた油脂抽出方法が開示されている。
【0003】
米の副産物として得られる米糠からは、溶媒抽出により米糠油が得られる。油分を抽出した後の抽残物(脱脂米糠)は、肥料等として用いられている。一般に、植物から得られる油脂は、食用、化粧品等の原料の他に、バイオディーゼルの原料としても用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘキサン等の有機溶媒による油脂抽出では、植物から油脂とともに夾雑物が多く溶解するため、食品、化粧品、燃料等に利用するためには、精製等の後処理工程が多く必要とされる。特に、夾雑物としてリン脂質等のリンが多く抽出されるため、得られる夾雑物含含有油脂を例えばバイオディーゼル燃料に用いると、燃焼されずに残ったリンがディーゼルエンジンの噴射ノズルに詰まってエンジントラブルを起こすという問題がある。
【0006】
また、超臨界又は亜臨界二酸化炭素を用いた抽出では、例えば15MPa以上の高圧にする必要があるため、装置製作のコストが高く、また、装置の操作に危険を伴う。
【0007】
本発明は、より温和な条件で油脂を高収率で抽出することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、二酸化炭素及び無極性液体溶媒を含有し連続相が液体である媒体(以下、「抽出媒体」とも称する。)を、リンを含む油脂含有物に浸透させることにより、該油脂含有物から油脂を抽出することを含む、油脂抽出方法を提供する。
【0009】
上記抽出媒体における無極性液体溶媒と二酸化炭素とのモル比は0.18:0.82~0.05:0.95であることが好ましい。モル比が当該範囲内であることによって、油脂をより高収率で抽出することができ、かつ得られる油脂中のリン等の夾雑物をより低減することができる。
【0010】
上記抽出方法において、抽出が、温度20~40℃及び圧力2~7MPaで行われることが好ましい。上記条件で抽出を行うことによって、より高収率かつ夾雑物をより低減して油脂を抽出することができる。
【0011】
上記油脂含有物は、植物原料であってよい。植物原料は米糠であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抽出方法により、より温和な条件で油脂を高収率で抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】25℃におけるヘキサン-二酸化炭素系の相平衡を示す図である。
【
図2】抽出媒体消費量に対する油脂抽出量を示すグラフである。
【
図3】ヘキサン抽出による油脂抽出量に対する、様々な二酸化炭素モル分率の抽出媒体抽出による油脂抽出量の比を示すグラフである。
【
図4】二酸化炭素モル分率に対する油脂抽出量及び油脂中のリン濃度を示すグラフである。
【
図5】(a)はヘキサン抽出による抽出油、(b)は抽出媒体による抽出油を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本実施形態に係る抽出方法は、無極性液体溶媒及び二酸化炭素を含み、連続相が液体である媒体(抽出媒体)を用いる。連続相が液体であることは、肉眼で確認できる。通常、水等の極性溶媒に二酸化炭素を溶解しても溶媒の体積はほとんど増加しないが、無極性液体溶媒に、同じく無極性である二酸化炭素を溶解させると、液体溶媒の体積が大きく膨張するという現象が見られることがある。本実施形態に係る抽出媒体においても、無極性液体溶媒に二酸化炭素ガスが溶けて、膨張した液体の状態となり得る。また、二酸化炭素ガスが無極性液体溶媒に溶解しきれない場合は、連続相が液体でその中に気泡が分散した状態になる。本実施形態に係る抽出溶媒は、二酸化炭素ガスが全て無極性液体溶媒に溶解している場合、及び二酸化炭素ガスの一部が気泡となって液体中に分散している場合のいずれであっても、連続相は液体である。
【0016】
無極性液体溶媒を単独で油脂抽出に用いた場合、油脂含有物から油脂を溶解(抽出)する能力は強いが、油脂だけでなくリン等の夾雑物の溶解量も多い。また、無極性液体溶媒単独では油脂含有物への浸透力は弱いため、油脂含有物内部の油脂の抽出量は少ない。一方、本実施形態に係る抽出媒体は、高い溶解力を有しながらも、リン等の夾雑物の溶解量が少なく、油脂を選択的に溶解する能力を有する。また、本実施形態に係る抽出媒体は、油脂含有物への浸透力が強いため、油脂含有物の内部へ浸透しやすく、油脂含有物の表面だけでなく内部からも油脂を高効率で溶解することができる。本実施形態に係る抽出媒体の浸透力が高いのは、無極性液体溶媒が二酸化炭素により希釈されて、液体溶媒の粘度が低減されているためである。
【0017】
図1は、無極性液体溶媒-二酸化炭素系相平衡の一例として、25℃におけるヘキサン-二酸化炭素系気液平衡を示すグラフである。無極性液体溶媒-二酸化炭素系は、温度、圧力、及びモル分率によって相状態が変わる。グラフ中の実線は、相が液相のみである領域と、系が気相及び液相の2相である領域との境界である。液相では、無極性液体溶媒中に二酸化炭素ガスが溶けている状態である。気液2相の領域では、無極性液体溶媒中に溶けきれない二酸化炭素が気相を形成している。例えば系が液相のみである状態において、圧力及び温度を一定に保ったまま二酸化炭素のモル分率を徐々に上げるか、又は無極性液体溶媒及び二酸化炭素のモル分率並びに温度を一定に保ったまま圧力を徐々に低下させると、溶けきれない二酸化炭素が気泡となって表れる。グラフ中の破線は、系が気液2相である領域と、系が気相のみである領域との境界である。本実施形態に係る抽出方法は、抽出媒体の相が液相のみであってもよく、気液2相であってもよい。
【0018】
本実施形態に係る抽出媒体は、超臨界状態の二酸化炭素とは異なるものである。本実施形態に係る抽出方法において、抽出温度及び圧力は、二酸化炭素が超臨界状態とならない範囲であればよく、31.1℃未満であるか、又は7.4MPa未満である。
【0019】
抽出温度は、40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましい。抽出温度の下限は特に限られないが、室温で操作することを考えると例えば10℃以上であってもよい。
【0020】
抽出圧力は、10MPa未満であることが好ましく、7MPa以下であることがより好ましい。抽出圧力は、例えば、2MPa以上であってよく、3MPa以上であることが好ましく、4MPa以上であることがより好ましい。抽出圧力は、油脂の溶解量が多く夾雑物の溶解量が少ない限りは0.1MPaに近い方が好ましい。本実施形態に係る抽出方法は、超臨界又は亜臨界二酸化炭素を用いる抽出方法と比べ、低圧で実施することができる。
【0021】
本実施形態に係る抽出媒体において、無極性液体溶媒及び二酸化炭素の含有割合は、抽出媒体の連続相が液相である状態を保てるものであればよい。本実施形態の抽出方法に用いられる抽出媒体は、無極性液体溶媒のモル分率が高いほど溶解力、すなわち油脂含有物から油脂を抽出する能力が高い傾向にある。本実施形態の抽出媒体における無極性液体溶媒及び二酸化炭素との合計量に対する無極性液体溶媒のモル比は、0.05以上であることが好ましく、0.07以上、0.10以上、0.12以上、0.15以上又は0.18以上であってもよい。抽出媒体における無極性液体溶媒及び二酸化炭素との合計量に対する無極性液体溶媒のモル比は、例えば、0.4以下であってよい。
【0022】
また、抽出媒体における二酸化炭素のモル分率が高いほど、得られる抽出物中の夾雑物、特にリンの含有量が低くなる傾向にある。本実施形態において、抽出媒体における無極性液体溶媒及び二酸化炭素との合計量に対する二酸化炭素のモル比は、0.6以上であることが好ましい。抽出媒体における無極性液体溶媒及び二酸化炭素との合計量に対する二酸化炭素のモル比は、例えば、0.95以下であってよい。
【0023】
本実施形態に係る抽出方法において、抽出媒体における無極性液体溶媒及び二酸化炭素のモル比は、0.18:0.82~0.05:0.95であることが好ましく、0.15:0.85~0.07:0.93、又は、0.12:0.88~0.10:0.90であってもよい。なお、本明細書において、抽出媒体における無極性液体溶媒及び二酸化炭素のモル比は、抽出媒体の相全体のモル比を指し、例えば系が気液2相の場合においても、気相及び液相に存在する分を合計したモル比を指す。
【0024】
本実施形態に係る抽出媒体は、実質的に無極性液体溶媒及び二酸化炭素のみからなるものであることが好ましい。抽出媒体における、無極性液体溶媒及び二酸化炭素の合計量は、抽出媒体全量に対して、例えば、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、又は99.8質量%以上であってよい。
【0025】
抽出温度、抽出圧力、及び無極性液体溶媒と二酸化炭素とのモル比は、抽出媒体の連続相が液体である状態を保てる範囲であればよい。例えば、抽出条件は、10~40℃、2~10MPa、及び無極性液体溶媒と二酸化炭素とのモル比が0.18:0.82~0.05:0.95の組合せとすることが好ましく、20~40℃、2~7MPa、及び無極性液体溶媒と二酸化炭素とのモル比が0.18:0.82~0.05:0.95の組合せとすることがより好ましく、20~30℃、4~6MPa、及び無極性液体溶媒と二酸化炭素とのモル比が0.15:0.85~0.07:0.93の組合せとすることが更に好ましい。
【0026】
無極性液体溶媒は、例えば炭化水素、アセトン等のケトン、テトラヒドロフラン等のエーテルであってよい。炭化水素は、例えば、アルカン、アルケン、アルキン、シクロアルカン、又は芳香族炭化水素等であってよい。炭化水素は、炭素数5以上であることが好ましく、炭素数5~12であることがより好ましい。無極性液体溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本実施形態に係る抽出方法において、油脂含有物1g当たりの抽出媒体の使用量は、例えば、2g以上であってよく、3g以上、5g以上、8g以上、又は10g以上であってよい。抽出媒体の使用量は、油脂含有物1g当たり、例えば、20g以下又は15g以下であってよい。
【0028】
本実施形態に係る抽出方法は、高効率で油脂を油脂含有物から抽出できるため、短時間での抽出が可能である。抽出時間は抽出対象である油脂含有物の形状、大きさ等に応じて適宜設定すればよい。抽出時間は例えば、1時間~3時間とすることができる。本実施形態に係る抽出方法は高効率で油脂を抽出できるため、例えば油脂含有物に対して抽出媒体を連続して供給し続ける半連続式とすることができる。
【0029】
本実施形態に係る抽出方法において、抽出対象物である油脂含有物は、リン脂質等のリン及び油脂を含んでいるものであればよい。油脂含有物は、水、遊離脂肪酸等の成分を含んでいてもよい。油脂含有物としては、例えば植物原料であってよい。植物原料は、例えば、米糠、ダイズ、ナタネ、ゴマ、ヒマワリ、ベニバナ、綿実、落花生、オリーブ、パーム、トウモロコシ胚芽、ポンガミア、ジャトロファ等であってよい。抽出対象とする植物原料としては、採取したものを直接用いてもよく、乾燥物、搾油により油脂が採取された後の残渣を用いてもよい。植物原料は、米糠、綿実、ひまわり種、又はこれらの搾油残渣であることが好ましい。油脂含有物が水分を含む場合、乾燥等の処理により水分量が低減されたものであることが好ましい。また、本実施形態に係る抽出方法は抽出効率が高いため、油脂含量が少なく圧搾による搾油に向かないような油脂含有物に対しても有効である。
【0030】
油脂含有物は、例えば、粒径0.5~10mm程度とすることが好ましく、粒径0.5~5.0mm、0.5~3.0mmとしてもよい。油脂含有物は、抽出効率を高めるため、破砕及び/又は粉砕されたものであることが好ましい。
【0031】
本実施形態に係る抽出方法は、抽出媒体を調製することを含んでいてよい。抽出媒体は、例えば、予めそれぞれ温度及び圧力を調整した無極性液体溶媒及び二酸化酸素を混合することにより調製することができる。抽出媒体は、抽出対象である油脂含有物と無極性液体溶媒及び二酸化酸素とを混合した後で、所定温度及び圧力に調整することにより、抽出媒体としてもよい。
【0032】
抽出媒体の油脂含有物への浸透は、油脂含有物に抽出媒体を接触させることにより行うことができる。抽出媒体の油脂含有物への浸透は、抽出媒体としての状態を保てる耐熱耐圧容器内で行うことが好ましい。油脂含有物に抽出媒体を浸透させることにより、油脂含有物から油脂が溶解し、油脂を含む抽出媒体を得ることができる。
【0033】
抽出により、油脂を溶解した抽出媒体が得られる。この抽出媒体を、その後大気圧まで減圧することにより、抽出媒体中の二酸化炭素をガスとして放出することができる。減圧後の油脂を溶解した無極性液体溶媒は、沸点の差を利用して、減圧して加熱し無極性液体溶媒を蒸発させることにより両者を分離することができる。分離された無極性液体溶媒は、回収し再利用してもよい。本実施形態に係る抽出方法は、無極性液体溶媒と油脂とを分離することを含んでいてよい。
【0034】
本実施形態に係る抽出方法により、油脂含有物から油脂を抽出することができる。油脂とは、グリセリド類(モノグリセライド、ジグリセライド及びトリグリセライド)を指す。本実施形態に係る抽出方法により得られる油脂は、リン脂質等のリン含有物、水、ロウなどの夾雑物が少なく、透明度が高い傾向にある。本実施形態に係る抽出方法により、より温和な条件でありながら、超臨界又は亜臨界二酸化炭素による抽出と同程度の油脂収率を達成することができる。
【0035】
本実施形態に係る抽出方法により得られる油脂は、その後必要に応じて、脱酸、脱リン、脱ロウ等の精製処理や脱水処理等の後処理を施してもよい。得られた油脂は、性質に応じて、例えば、食品、化粧品等の製造に利用することができ、また、バイオディーゼル燃料として利用することができる。本実施形態に係る抽出方法により得られる油脂は夾雑物が少ないため、例えばバイオディーゼル燃料用には、後処理を行わなくてもそのまま用いることが可能である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0037】
[試料]
抽出対象の油脂含有物としては、静岡県浜松市内の精米所で得た米糠を用いた。米糠は、500μmメッシュの篩を通過させることにより籾殻等を除去して抽出に用いた。
【0038】
[ヘキサンによる抽出]
抽出溶媒としてヘキサンのみを用いた場合の米糠からの油脂の抽出量を調べた。米糠50gを、室温(25℃)のヘキサンgに浸漬し、大気圧下で24時間攪拌することにより、油脂を溶解したヘキサンを得た。
【0039】
[油脂量の測定]
減圧蒸留し、ヘキサンを蒸発させることによって、ヘキサンと油脂を分離した。ヘキサンが分離された後の量を油脂量として計量した。
【0040】
[リン量の測定]
得られた抽出油脂中のリン濃度は以下の方法により測定した。抽出油脂0.2gを450℃で3時間焼成した後、1mol/L塩酸を20mL加えて16時間撹拌した。その溶液をろ過後、蒸留水で50mlに希釈し、ICPプラズマ発光分析によりリン濃度を測定した。
【0041】
ヘキサン抽出によって得られた油脂量は、使用した米糠1g当たり平均0.225gであった。得られた混合液中のリン濃度は平均323ppmであった。
【0042】
[抽出媒体による抽出]
以下の試験例では、ヘキサン及び二酸化炭素からなる抽出媒体による米糠からの油脂抽出を行った。耐圧容器に米糠50gを入れ、温度を25~27℃に保った。ヘキサン及び二酸化炭素を、所定の圧力、温度及びモル分率となるように混合して抽出媒体を調製した。米糠を入れた耐圧容器に抽出媒体を一定流速で流通した。耐圧容器からは、流入速度と同じ速度で、抽出後の油脂が溶解した抽出媒体を流出させた。得られた油脂を溶解した抽出媒体は大気圧まで減圧して二酸化炭素を大気中に開放した。一方、油脂及びヘキサンは、減圧蒸留により分離した。抽出した油脂中のリンの量はヘキサンによる抽出と同じ方法で測定した。
【0043】
抽出媒体が液相のみの系(1相)であるか、又は気相及び液相からなる系(2相)であるかは、ヘキサン及び二酸化炭素の供給比率、並びに
図1の相図から判断した。
【0044】
(検討1)
ヘキサン:二酸化炭素のモル比を0.10:0.90、抽出温度を27℃、抽出圧力を5MPaに統一した条件で、抽出媒体消費量の増加に伴う抽出された油脂量の変化を調べた。結果を
図2に示す。
図2は、米糠1g当たりの抽出媒体消費量(g)に対する、米糠1g当たりに得られた油脂量を示すグラフである。一方、図中の破線は大気圧・室温下でヘキサン単独により抽出された油脂量の平均値(0.225g)を示す。抽出媒体により抽出される油脂量は、抽出媒体消費量の増加とともに増え、米糠1g当たり抽出媒体消費量が0.8g付近で頭打ちとなったが、最大抽出油脂量はヘキサン単独による抽出の場合よりも、15%高かった。
【0045】
(検討2)
抽出媒体におけるヘキサン:二酸化炭素のモル分率と油脂抽出量との関係を調べた。ヘキサン及び二酸化炭素からなる抽出媒体中の二酸化炭素のモル分率を0.81~0.95の範囲で変動させ、圧力を4.6~5.3MPaの範囲内に調整し、その他の条件を統一して、米糠からの抽出媒体による抽出を行い、抽出された油脂量を測定した。結果を
図3に示す。
図3は、米糠1gからヘキサン単独で抽出される油脂抽出質量に対する、抽出媒体で抽出される油脂質量の比を示す。いずれの二酸化炭素モル分率の例でもヘキサン単独による大気圧・室温抽出の場合よりも、抽出媒体による米糠1g当たりの油脂抽出量は少なくとも10%程度高かった。さらに、系が液相のみ、及び気液2相のいずれの場合も高い油脂抽出力を有することが確認された。
【0046】
(検討3)
抽出媒体におけるヘキサン:二酸化炭素のモル分率と、抽出媒体1g当たりの油脂抽出量、及び抽出油脂中のリン濃度との関係を調べた。ヘキサン及び二酸化炭素からなる抽出媒体中の二酸化炭素のモル分率を0.81~0.95の範囲で変動させ、圧力を4.6~5.3MPaの範囲内に調整し、その他の条件を統一して、米糠からの抽出媒体による抽出を行い、油脂抽出量及び抽出油脂中のリン濃度を測定した。結果を
図4に示す。
【0047】
図4の左の縦軸に、抽出媒体1g当たりの油脂抽出量を示す。二酸化炭素モル分率が低いほど油脂抽出量は高い傾向が見られた。
図4の右の縦軸に、得られた油脂中のリン濃度を示す。二酸化炭素モル分率が0.82以上であると、油脂中のリン濃度が特に抑えられることが確認された。
【0048】
図5に、ヘキサン抽出(a)及び抽出媒体抽出(b)により得られた油脂の一例を示す。
図5(b)の油脂は、27℃、5MPa、ヘキサン:二酸化炭素のモル比=0.10:0.90で抽出したものである。抽出媒体により得られた油脂は、ヘキサン抽出により得られた油脂に比べ、ガラス容器に付着した夾雑物が少なく、液の透明性が高かった。