(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】繊維強化材料、及び繊維強化材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20230418BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20230418BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20230418BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20230418BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20230418BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20230418BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20230418BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20230418BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20230418BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20230418BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20230418BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20230418BHJP
A61L 29/06 20060101ALI20230418BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20230418BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C08J5/24 CEY
A61L27/50 300
A61L27/40
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/20
A61L27/22
A61L31/12
A61L31/04 110
A61L31/04 120
A61L31/06
A61L27/50
A61L31/14
A61L29/04 100
A61L29/06
A61L29/12
A61L29/14
(21)【出願番号】P 2019013537
(22)【出願日】2019-01-29
【審査請求日】2021-12-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構委託研究、産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)「有機材料の極限機能創出と社会システム化をする基盤技術の構築及びソフトマターロボティクスへの展開」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】中田 善知
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-310949(JP,A)
【文献】特表2006-518420(JP,A)
【文献】特開2004-231849(JP,A)
【文献】特開2015-157369(JP,A)
【文献】特開昭58-029813(JP,A)
【文献】特開2017-101162(JP,A)
【文献】特表2012-524705(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216628(WO,A1)
【文献】特開2020-120825(JP,A)
【文献】特開2019-210348(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216549(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
A61L 15/00-33/00
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00;301/00
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材と、重合体を含む樹脂組成物とを一体化させた繊維強化材料であって、
前記重合体が、エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有する単量体(A)に由来する構造単位、及びエチレン性不飽和基とラクタム環とを有する単量体(B)に由来する構造単位の少なくとも一方の構造単位を有
し、
前記重合体が前記単量体(A)に由来する構造単位を含む場合、前記単量体(A)に由来する構造単位が下記式(II)で表される構造単位、下記式(IA)で表される構造単位、及び下記式(IB)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記重合体が単量体(B)に由来する構造単位を有する場合、前記重合体は更に架橋剤に由来する構造単を有し、前記架橋剤が、多官能(メタ)アクリル酸アミド及び多官能(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも一方を含む、繊維強化材料。
【化1】
(式(II)中、R
1
は、水素原子またはメチル基、R
4
は、炭素数1~4のアルキレン基を示す。)
【化2】
(式(IA)中、R
1
は、水素原子又はメチル基を表し、R
5
は、-CH
2
-、-CO-又は直接結合を表し、nは、0~20以下の数を表し、R
5
が-CO-の場合、nは0ではない。)
【化3】
(式中、R
5
は、-CH
2
-、-CO-又は直接結合を表す。mは、0~20の数を表す。)
【請求項2】
前記重合体が、重合体の総量に基づいて、前記単量体(A)に由来する構造単位、及び前記単量体(B)に由来する構造単位の少なくとも一方の構造単位を40質量%以上含有する、請求項1に記載の繊維強化材料。
【請求項3】
前記重合体が、単量体(A)に由来する構造単位及び単量体(B)に由来する構造単位の合計100質量部に対して、架橋剤に由来する構造単位を0.5~10質量部含む、請求項1又は2に記載の繊維強化材料。
【請求項4】
前記重合体が式(II)で表される構造単位を含む、請求項
1~3のいずれか一項に記載の繊維強化材料。
【請求項5】
前記重合体が、単量体(B)に由来する構造単位を含み、
単量体(B)が、下記式(III)で表される化合物である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の繊維強化材料。
【化4】
(式中、R
7、R
8、R
9は、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、pは、0~4の整数であり、qは、2~6の整数であり、ラクタム環の一つ以上の水素原子が置換基により置換されていてもよい。)
【請求項6】
単量体(B)が、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-5-メチルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、1-(2-プロペニル)-2-ピペリドンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、請求項
5に記載の繊維強化材料。
【請求項7】
前記樹脂組成物の25℃における飽和含水率が30%以上87%未満である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の繊維強化材料。
【請求項8】
前記繊維基材が、布帛、編み物又は不織布である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の繊維強化材料。
【請求項9】
前記繊維基材が、2次元又は3次元の網目状構造を有する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の繊維強化材料。
【請求項10】
前記繊維基材が、綿、絹、毛糸、セルロース繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載の繊維強化材料。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の繊維強化材料を含む、医療用具。
【請求項12】
人工血管、組織形成用の足場材料、又は癒着防止材である、請求項
11に記載の医療用具。
【請求項13】
エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有する単量体(A)、及びエチレン性不飽和基とラクタム環とを有する単量体(B)の少なくとも一方を含む単量体組成物を繊維基材に含浸させた繊維強化材料前駆体に対して加熱又は光照射を行って、前記単量体組成物を重合して繊維強化材料を得る重合工程を備
え、
前記重合工程において、前記繊維強化材料前駆体に水を含ませた状態で、前記加熱又は光照射を行う、繊維強化材料の製造方法。
【請求項14】
前記繊維強化材料を50℃以上の温水に浸漬して不純物を除去する工程を更に備える、請求項
13に記載の繊維強化材料の製造方法。
【請求項15】
エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有する単量体(A)、及びエチレン性不飽和基とラクタム環とを有する単量体(B)の少なくとも一方を含む単量体組成物を繊維基材に含浸させた繊維強化材料前駆体に対して加熱又は光照射を行って、前記単量体組成物を重合して繊維強化材料を得る重合工程と、
前記繊維強化材料を50℃以上の温水に浸漬して不純物を除去する工程とを備える、繊維強化材料の製造方法。
【請求項16】
前記重合工程において、80℃以下の温度で重合を行う、請求項
13~15のいずれか一項に記載の繊維強化材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化材料、及び繊維強化材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体による拒絶反応がない材料、いわゆる生体適合性材料が知られている。生体適合性材料は、このような特性を活かして、人工血管、人工関節等、生体内に埋め込む埋め込み型医療用具として使用されている。生体適合性材料としては、特許文献1及び2に記載される両性高分子電解質、又はポリビニルアルコールのハイドロゲルを使用した繊維強化材料が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-531737号公報
【文献】米国特許第6855743号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、生体適合性材料は、人工血管等に使用する場合、周囲の血管等と吻合される。その際に、生体適合性材料の引き裂き強度が小さいと、生体適合性材料に針又は糸を通したときにそこから材料が容易に裂けてしまう。そのため、生体適合性材料として引き裂き強度が高い材料が望まれている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、生体適合性材料として好適に使用でき、引き裂き強度の高い繊維強化材料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の繊維強化材料は、繊維基材と、重合体を含む樹脂組成物とを一体化させた繊維強化材料であって、重合体が、エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有する単量体(A)に由来する構造単位、及びエチレン性不飽和基とラクタム環とを有する単量体(B)に由来する構造単位の少なくとも一方の構造単位を有する。
【0007】
上記重合体が、重合体の総量に基づいて、単量体(A)に由来する構造単位、及び単量体(B)に由来する構造単位の少なくとも一方の構造単位を40質量%以上含有すると好ましい。
【0008】
重合体が、単量体(A)に由来する構造単位及び単量体(B)に由来する構造単位の合計100質量部に対して、架橋剤に由来する構造単位を0.5~10質量部含むと好ましい。
【0009】
上記重合体が、単量体(A)に由来する構造単位を含み、単量体(A)が、下記式(I)で表される化合物であると好ましい。
【化1】
(式(I)中、R
1は、水素原子又はメチル基、R
2は、2個以上の水酸基を有する有機基を示す。)
【0010】
式(I)において、R2が、-COOR3基、-OCOR3基、-OR3基、-CONHR3基、-CH2OR3基、-CH2OCOR3基、-CONHR3基、-CON(R3)2基又は-NHCOR3基(R3は、2個以上の水酸基を有する有機基を示す)であると好ましい。
【0011】
単量体(A)が、下記式(II)で表される化合物であると好ましい。
【化2】
(式中、R
1は、水素原子またはメチル基、R
4は、炭素数1~4のアルキレン基を示す。)
【0012】
重合体が、単量体(B)に由来する構造単位を含み、単量体(B)が、下記式(III)で表される化合物であると好ましい。
【化3】
(式中、R
7、R
8、R
9は、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、pは、0~4の整数であり、qは、2~6の整数であり、ラクタム環の一つ以上の水素原子が置換されていてもよい。)
【0013】
単量体(B)が、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-5-メチルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、1-(2-プロペニル)-2-ピペリドンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物であると好ましい。
【0014】
樹脂組成物の25℃における飽和含水率が30%以上87%未満であると好ましい。
【0015】
繊維基材が、布帛、編み物又は不織布であると好ましい。
【0016】
繊維基材が、2次元又は3次元の網目状構造を有すると好ましい。
【0017】
繊維基材が、綿、絹、毛糸、セルロース繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維からなる群から選択される1種以上を含むと好ましい。
【0018】
本発明の医療用具は、上記繊維強化材料を含む。
【0019】
上記医療用具は、人工血管、組織形成用の足場材料、又は癒着防止材であると好ましい。
【0020】
本発明の繊維強化材料の製造方法は、エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有する単量体(A)、及びエチレン性不飽和基とラクタム環とを有する単量体(B)の少なくとも一方を含む単量体組成物を繊維基材に含浸させた繊維強化材料前駆体に対して加熱又は光照射を行って、単量体組成物を重合して繊維強化材料を得る重合工程を備える。
【0021】
上記重合工程において、繊維強化材料前駆体に水を含ませた状態で、加熱又は光照射を行うことが好ましい。
【0022】
上記重合工程において、80℃以下の温度で重合を行うと好ましい。
【0023】
繊維強化材料を50℃以上の温水に浸漬して不純物を除去する工程を更に備えると好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、生体適合性材料として好適に使用でき、引き裂き強度の高い繊維強化材料、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本実施形態の繊維強化材料は、繊維基材と、重合体を含む樹脂組成物とを一体化させた繊維強化材料であって、重合体が、エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有する単量体(A)に由来する構造単位、及びエチレン性不飽和基とラクタム環とを有する単量体(B)に由来する構造単位の少なくとも一方の構造単位を有する。なお、「一体化」とは、繊維強化材料を破壊せずに樹脂組成物と繊維基材とを分離することができないことを言う。また、本実施形態の繊維強化材料は、引張強度にも優れる傾向にある。
【0026】
上記重合体が、重合体の総量に基づいて、単量体(A)に由来する構造単位、及び単量体(B)に由来する構造単位の少なくとも一方の構造単位を40質量%以上含有すると好ましく、60質量%以上含有するとより好ましく、80質量%以上含有すると更に好ましい。重合体における、単量体(A)に由来する構造単位、及び単量体(B)に由来する構造単位の少なくとも一方の構造単位の含有量は、特に制限はなく、98質量%以下であってよく、95質量%以下であってもよい。本開示において、「単量体(A)に由来する構造単位」とは、典型的には単量体(A)が重合して形成される構造単位と同一の構造単位を表す。つまり、「単量体(A)に由来する構造単位」とは、単量体(A)が実際に重合して形成される構造単位に限定されず、それらと同一の構造であれば、単量体(A)を重合する以外の方法で形成される構造単位も、単量体(A)に由来する構造単位に含まれる。例えば、後述する式(II)で表される化合物に由来する構造単位であれば、-CH2-C(-R1)(-C(=O)-O-R4-C(OH)CH2OH)-、で表すことができる。単量体(B)に由来する構造単位についても同様である。
【0027】
単量体(A)としては、エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有するものであれば、特に制限はないが、例えば、下記式(I)で表される化合物であると好ましい。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
【化4】
(式(I)中、R
1は、水素原子またはメチル基、R
2は、2個以上の水酸基を有する有機基を示す。)
【0029】
式(I)において、R2は、2個以上の水酸基を有する有機基である。それらのなかでは、親水性(水濡れ性)を向上させる観点から、-COOR3基、-OCOR3基、-OR3基、-CONHR3基、-CH2OR3基、-CH2OCOR3基、-CONHR3基、-CON(R3)2基または-NHCOR3基(R3は、2個以上の水酸基を有する有機基を示す)であることが好ましい。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
R3は、2個以上の水酸基を有する有機基であり、親水性(水濡れ性)を向上させる観点から、好ましくは2個以上の水酸基を有する炭素数1~30の有機基であり、より好ましくは2個以上の水酸基を有する炭素数1~20の有機基である。この有機基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数4~20のポリオキシアルキレン基、炭素数7~20のアラルキル基などが挙げられる。なお、1分子中にR3が2個以上含まれる場合には、各R3はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。また、R3には、例えば、フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子、窒素原子、水酸基以外の官能基などが含まれていてもよい。
【0031】
単量体(A)としては、例えば、3個以上の水酸基を有する多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、糖類と(メタ)アクリル酸とのエステル、アミノ基を有する糖類と(メタ)アクリル酸とのエステルなどが挙げられる。これらのエステルは、エステル化反応のみならず、エステル交換反応や(メタ)アクリル酸グリシジルエステルの開環反応によって調製されたものであってもよい。
【0032】
3個以上の水酸基を有する多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ペンタエリスリトール、1,2,6-ヘキサントリオール、2-ヒドロキシメチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールなどが挙げられる。糖類としては、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、グロース、フルクトース、D-リボースなどの単糖類、当該単糖類から誘導されるグルコシド、ガラクトシド、フルクトシドなどをはじめ、これらの二量体、三量体などが挙げられる。アミノ基を有する糖類としては、例えば、D-グルコサミンなどが挙げられる。
【0033】
単量体(A)としては、下記式(II)で表される化合物であると好ましい。
【0034】
【化5】
(式(II)中、R
1は、水素原子またはメチル基、R
4は、炭素数1~4のアルキレン基を示す)で表わされる(メタ)アクリル酸エステルがより好ましく、親水性(水濡れ性)をより一層向上させる観点から、グリセリンモノ(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0035】
単量体(A)の分子量としては500以下であると好ましい。
【0036】
また、単量体(A)としては、下記式(IA)又は(IB)のものであってもよい。
【0037】
【化6】
(式中、R
1は、水素原子又はメチル基を表す。R
5は、-CH
2-、-CO-又は直接結合を表す。nは、0~20以下の数を表し、R
5が-CO-の場合、nは0ではない。nは、2~15であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。)
【化7】
(式中、R
5は、-CH
2-、-CO-又は直接結合を表す。mは、0~20の数を表し、2~15であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。)
【0038】
重合体が、単量体(A)に由来する構造単位を含む場合、単量体(A)に由来する構造単位の含有量としては、重合体の総量に基づいて、40質量%以上含有すると好ましく、60質量%以上含有するとより好ましく、80質量%以上含有すると更に好ましい。重合体における、単量体(A)に由来する構造単位の含有量は、特に制限はなく、98質量%以下であってよく、95質量%以下であってもよい。重合体が単量体(A)に由来する構造単位を含む場合、繊維強化材料の引裂き強度だけでなく、引張強度についても優れる傾向にある。
【0039】
上記単量体(B)としては、分子内にエチレン性不飽和基とラクタム環とを有するものであれば特に制限はないが、下記式(III)で表される化合物であると好ましい。式(III)で表される化合物は、1種又は2種以上を用いることができる。
【化8】
(式中、R
7、R
8、及びR
9は、それぞれ、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、pは、0~4の整数であり、qは、2~6の整数であり、ラクタム環の炭素原子に結合する一つ以上の水素原子が、置換基により置換されていてもよい。当該置換基は、炭素数1~10の置換又は未置換のアルキル基であってよい。)
【0040】
上記R7、R8、及びR9におけるアルキル基の炭素数としては、1~6が好ましく、より好ましくは1~4である。上記アルキル基として好ましくはメチル基、エチル基であり、特に好ましくはメチル基である。上記R7、R8、及びR9における置換基としては、特に制限されないが、カルボキシル基、スルホン酸基及びこれらのエステル又は塩;アミノ基、水酸基等が挙げられる。R7、R8、及びR9におけるアルキル基が有する置換基の個数は、R7、R8、及びR9としては0~2個であることが好ましく、1個であることがより好ましい。水素原子であることが好ましい。
【0041】
式(III)において、ラクタム環の炭素原子に結合する一つ以上の水素原子が炭素数1~10の置換又は未置換のアルキル基により置換されていてもよい。言い換えれば、式(III)において、ラクタム環の炭素原子には、一つ以上の置換基が結合していてもよく、当該置換基は、炭素数1~10の置換又は未置換のアルキル基であってよい。ラクタム環の炭素原子に結合する置換基の個数は、0~2個であることが好ましく、1個であることがより好ましい。ラクタム環が置換基として有するアルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、より好ましくは1~4である。より具体的には、当該アルキル基としては、メチル基が好ましい。アルキル基が置換基を有する場合、当該置換基としては、特に制限されないが、カルボキシル基、スルホン酸基及びこれらのエステル又は塩;アミノ基、水酸基等が挙げられる。アルキル基に結合する置換基の個数は、0~2個であることが好ましく、1個であることがより好ましい。ラクタム環は未置換であってよい。
【0042】
pは、0~2の整数であることが好ましく、より好ましくは0~1の整数であり、最も好ましくは0である。qは、2~5であることが好ましく、3~5であることがより好ましい。
【0043】
上記式(III)で表される化合物としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-5-メチルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、1-(2-プロペニル)-2-ピペリドンが挙げられる。
【0044】
重合体が、単量体(B)に由来する構造単位を含む場合、単量体(B)に由来する構造単位の含有量としては、重合体の総量に基づいて、40質量%以上含有すると好ましく、60質量%以上含有するとより好ましく、80質量%以上含有すると更に好ましい。重合体における、単量体(B)に由来する構造単位の含有量のは、特に制限はなく、98質量%以下であってよく、95質量%以下であってもよい。
【0045】
重合体は、上記単量体(A)及び(B)のいずれでもない単量体(C)に由来する構造単位を含んでいてもよい。単量体(C)としては、エチレン性不飽和基に炭素数4以上の有機基が結合した構造を有する単量体が挙げられる。そのような単量体としては、式(IC)で表される(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0046】
【化9】
(式(IC)中、R
11は、水素原子又はメチル基を表す。R
12は、炭素が連続して4個以上結合した炭素鎖を有する有機基を表す。)で表される構造単位が好ましい。
【0047】
式(IC)で表される(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸、n-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸s-アミル、(メタ)アクリル酸t-アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸β-メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β-エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル等が挙げられる。
【0048】
上記エチレン性不飽和基に炭素数4以上の有機基が結合した構造を有する単量体のうち、式(IC)の(メタ)アクリル酸エステル以外のものとしては、ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、トリエチレングリコールビニルエーテル等のビニルエーテル類、N-ビニルモルホリン、N-ビニルカルバゾール等のN-ビニル類(ラクタム環を有するものを除く)、N-フェニルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-イソプロプルマレイミド、N-エチルマレイミド等のN置換マレイミド類等が挙げられる。
【0049】
また、単量体(C)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、及び(メタ)アクリル酸イソプロピルのいずれかの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等;エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレン等のオレフィン類;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニル化合物;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルマレイミド等を使用することもできる。
【0050】
単量体(C)に由来する構造単位の含有量としては、重合体の総量に対して、50質量%以下であると好ましく、30質量%以下であると好ましく、10質量%以下であると好ましい。
【0051】
上記重合体は、架橋剤により化学架橋した構造を有していることが好ましい。架橋剤としては、分子内に分子内にエチレン性不飽和基を二つ以上有する化合物が挙げられ、多官能(メタ)アクリル酸アミド、多官能(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。言い換えれば、多官能(メタ)アクリル酸アミド、多官能(メタ)アクリル酸エステル等の分子内に分子内にエチレン性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する構造単位を有する。架橋剤としては、1種又は2種以上を使用できる。
【0052】
多官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、デンドリマーアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、及びトリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられる。
【0053】
多官能(メタ)アクリル酸アミドとしては、N,N’-メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0054】
上記重合体における、架橋剤に由来する構造単位の含有量は、単量体(A)に由来する構造単位及び単量体(B)に由来する構造単位の合計100質量部に対して、0.5~10質量部であると好ましく、1~3質量部であるとより好ましい。
【0055】
上記重合体は、架橋体であることが好ましく、架橋していない重合体の含有量は、好ましくは上記重合体の総量に対して3質量%未満、より好ましくは1質量%未満である。架橋していない重合体を含む場合、その重量平均分子量が1,000~10,000,000であることが好ましい。重量平均分子量がこのような範囲であると、耐久性や機械強度に優れた材料となり好ましい。重量平均分子量は、より好ましくは、5,000~2,000,000であり、更に好ましくは、10,000~500,000である。
【0056】
上記重合体は、分子量が5000以下の成分の割合が重合体全体の5.0質量%以下であることが好ましい。分子量5000以下の成分の割合が重合体全体の5.0質量%以下であると、長期の使用によっても血液中への低分子量成分の溶出を抑制することができ、生体組織との親和性がより良好となる。分子量5000以下の成分の割合は、より好ましくは、重合体全体の1.0%以下であり、更に好ましくは、重合体全体の0.5質量%以下である。
重合体の重量平均分子量、及び、分子量5000以下の成分の割合は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、測定することができる。
【0057】
本実施形態の樹脂組成物は、上記重合体と水とを含むハイドロゲルであってよい。樹脂組成物における含水率(樹脂組成物の総質量に対する水の質量の割合)は、30%以上95%未満であると好ましく、50~90%であると好ましく、65~85%であるとより好ましい。樹脂組成物において、重合体と任意成分である水の合計量は、樹脂組成物の総量の90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよく、98質量%以上であってよい。
【0058】
本実施形態の樹脂組成物は上記重合体と水以外の成分を含んでいても構わない。重合体と水以外の成分としては、例えば酸化防止剤、安定剤、着色剤、香料、増粘剤、潤滑剤、消泡剤、防腐剤、抗菌剤、防かび剤などを含んでも構わない。
【0059】
本実施形態の繊維強化材料の含水率は、95%未満であると好ましく、90%以下であるとより好ましく、85%以下であると更に好ましく、80%以下であると特に好ましい。なお、本実施形態の繊維強化材料の含水率は、30%以上であってよく、50%以上であってよい。
【0060】
なお、繊維強化材料の含水率は、以下の式により定義される。
(含水率[%])={(繊維強化材料の含水質量[g])-(繊維強化材料の乾燥質量[g])}/(繊維強化材料の含水質量[g])
繊維強化材料の含水質量は、水分を含んだ状態での繊維強化材料の質量である。繊維強化材料の乾燥質量は、繊維強化材料を乾燥し、水分を除去した後の質量である。繊維強化材料の乾燥は、例えば、熱風乾燥機で行いことができる。より具体的には、繊維強化材料を熱風乾燥機中で、120℃で1時間静置して乾燥し、デシケーター中で放冷後、直ちに測定した質量とすることができる。
なお、樹脂組成物の含水率は、繊維基材と一体化していない樹脂組成物を用意して、同様の方法で測定することができる。
【0061】
また、本実施形態の繊維強化材料の25℃における飽和含水率は、95%未満であると好ましく、90%以下であるとより好ましく、87%未満であると更に好ましく、85%以下であるとより更に好ましく、80%以下であると特に好ましい。なお、本実施形態の繊維強化材料の25℃における飽和含水率は、30%以上であってよく、50%以上であってよい。
【0062】
繊維強化材料の飽和含水率は、以下の式により定義される。
(飽和含水率[%])={(飽和含水状態の繊維強化材料の質量[g])-(繊維強化材料の乾燥質量[g])}/(飽和含水状態の繊維強化材料の質量[g])
飽和含水状態の繊維強化材料の質量は、例えば以下のとおり測定することができる。まず、繊維強化材料を厚さ1.0mm、長さ40mm、及び幅10mmの短冊状に切り出した試験片を用意する。次に、試験片を5時間以上、イオン交換水に浸漬して飽和含水状態とする。そして、飽和含水状態の試験片の質量を測定し、「含水質量」とする。なお、上記短冊状の繊維強化材料に代えて、2g以下の試料(形状は問わない)を代わりに用いることもできる。
その後、試験片を、例えば熱風乾燥機で乾燥して水分を除去する。より具体的には、熱風乾燥機中で、120℃の1時間静置して乾燥し、デシケーター中で放冷後、直ちに質量を測定し、「乾燥質量」とすることができる。
なお、飽和含水率は、上述の繊維強化材料を飽和含水状態とする工程を25℃で行った、25℃における飽和含水率であってもよい。また、上述の繊維強化材料を飽和含水状態とする工程を保管、輸送、店頭における陳列等、繊維強化材料が置かれている環境における雰囲気温度に等しい温度(例えば、5~40℃等)で行った、雰囲気温度における飽和含水率であってもよい。本明細書では、特に飽和含水率の温度を指定していない場合は、雰囲気温度における飽和含水率を意味するものとする。
【0063】
本実施形態の繊維強化材料の含水率は、飽和含水率の90%未満であると好ましく、89%以下であるとより好ましく、88%以下であると更に好ましく、85%以下であると特に好ましい。
【0064】
本実施形態の樹脂組成物の25℃における飽和含水率は、95%未満であると好ましく、94%以下であるとより好ましく、93%以下であると更に好ましく、90%以下であると特に好ましい。なお、本実施形態の樹脂組成物の25℃における飽和含水率は、30%以上であってよく、50%以上であってよい。
【0065】
樹脂組成物の25℃における飽和含水率は、以下の式により定義される。
(飽和含水率[%])={(飽和含水状態の重合体の含水質量[g])-(重合体の乾燥質量[g])}/(飽和含水状態の樹脂組成物の含水質量[g])
飽和含水状態の樹脂組成物の含水質量は以下のとおり測定する。まず、重合体を厚さ1.0mm、長さ40mm、及び幅10mmの短冊状に切り出した試験片を用意する。次に、試験片を5時間以上、室温(25℃)でイオン交換水に浸漬して飽和含水状態とする。そして、飽和含水状態の試験片の質量を測定し、「含水質量」とする。なお、上記短冊状の試験片に代えて、2g以下の試料(形状は問わない)を代わりに用いることもできる。
その後、試験片を例えば熱風乾燥機により乾燥して水分を除去する。試験片の乾燥は、例えば、熱風乾燥機中で、120℃で1時間静置して乾燥し、デシケーター中で放冷後、直ちに質量を測定し、「乾燥質量」とすることができる。なお、樹脂組成物の飽和含水率は、水を含むゲル(ハイドロゲル)を上記試験片として測定してもよい。
なお、繊維強化材料の場合と同様に、25℃における樹脂組成物の飽和含水率は、25℃で飽和含水状態とした場合の飽和含水率である。
【0066】
上記繊維基材に含まれる繊維としては、合成繊維及び天然繊維が挙げられ、天然繊維には、天然繊維を化学修飾または化学変性した繊維、物理的に加工した繊維等も含まれる。より具体的には、綿、絹、毛糸、セルロース繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を使用することができる。繊維基材は、ポリオレフィン繊維等の疎水性繊維を含んでいてもよく、その含有量としては、繊維基材の総量に対して20質量%以下が好ましく、10質量%以下であってもよく、実質的に0質量%であってもよい。
【0067】
繊維基材は、布帛、編み物又は不織布であってよい。繊維基材は、ニット生地、メリヤス生地であってもよい。繊維基材は、2次元又は3次元の網目状構造を有するものであってよい。
【0068】
繊維強化材料の形状は、特に制限されず、用途に合わせて、シート状、チューブ状などの形状とすることができる。
【0069】
本実施形態の繊維強化材料の製造方法は、エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有する単量体(A)、及びエチレン性不飽和基とラクタム環とを有する単量体(B)の少なくとも一方を含む単量体組成物を繊維基材に含浸させた繊維強化材料前駆体に対して加熱又は光照射を行って、単量体組成物を重合して繊維強化材料を得る重合工程を備える。
【0070】
単量体組成物は、単量体(A)及び単量体(B)の少なくとも一方と、重合開始剤とを含み、任意に上記架橋剤、単量体(C)等を含んでいてもよい。単量体組成物における単量体(A)、単量体(B)、単量体(C)及び架橋剤の含有量は、重合体に含まれる各単量体に由来する構造単位の含有量が所望の含有量となるように配合する。
【0071】
単量体組成物を繊維基材に含浸させて繊維強化材料前駆体を作製する。この際に、単量体組成物は、水溶液の状態で含浸させてよい。また、繊維強化材料前駆体は、水溶液の状態の単量体組成物を繊維基材に吹き付けることによって形成してもよい。これらの場合、上記重合行程において、繊維強化材料前駆体が水を含んだ状態で重合反応を行うことができる。
単量体組成物に対する水の量は、単量体組成物100質量部に対して、40~900質量部であってよく、100~600質量部であってよい。
【0072】
重合開始剤は、熱又は光によりラジカルを生成し、ラジカル重合反応を開始できるものである。重合開始剤としては、特に限定されないが、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオナミジン)ジヒドロクロリド等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酢酸、ジ-t-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物等が好適である。これらの重合開始剤は、単独で使用されてもよく、2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0073】
重合行程における温度は、80℃以下であると好ましく、40℃~70℃であるとより好ましい。重合反応は、常圧(1atm)、加圧、減圧のいずれの条件下で行ってもよい。
【0074】
本実施形態の製造方法は、得られた繊維強化材料を50℃以上の温水に浸漬して不純物を除去する行程をさらに備えると好ましい。温水の温度としては、60℃以上であるとより好ましく、70℃以上であると更に好ましい。
【0075】
本実施形態の繊維強化材料は優れた引裂き強度を有するため、これまでハイドロゲルでは適用できなかった種々の用途に用いることができる。シート状として保水したい表面に貼り付けたり、物品を巻いたり包むことも好ましい使用法である。食品包装、各種保護シート、保水材、クッション材、水分供給シート、薬剤徐放シート、美容用シート、玩具として好適である。また、シート状、管状、その他所望の形状に賦形して使用することができる。
【0076】
本実施形態の繊維強化材料は、優れた生体適合性を有するため、医療用具の材料として好適に用いることができる。本実施形態の繊維強化材料は、血液と接触しても血栓を生じにくい抗血栓性材料として好適に使用することができ、各種医療用具の生体成分又は生体組織と接触する部分を構成する材料としても好適に使用することができる。更に、本実施形態の繊維強化材料は、細胞培養基材としても好適に使用することができる。
【0077】
本実施形態の繊維強化材料を医療用具として使用する場合、具体的には、人工血管や人工臓器等の人工生体組織用や、血液フィルター、各種カテーテル、若しくは各種ステント等;生体組織と接触する用具用の部材として、また、細胞培養基材、血液透析装置用の部材、血液若しくは組織検査用器具の部材等;生体由来成分(細胞や血液等)と接触する用具用の部材として適用することができる。また、本実施形態の繊維強化材料は、組織形成用の足場材料、又は癒着防止材、火傷治療材、創傷治療材にも使用することができる。すなわち、本実施形態の医療用具には、生体組織と接触する用具、生体由来成分(細胞や血液等)と接触する用具等が含まれる。
【実施例】
【0078】
[繊維強化材料の作製法]
ポリプロピレン板上に、0.4mm厚のテフロンシートで作製したコの字型のスペーサーを置いた。コの字型のスペーサーに囲まれた領域の内側に繊維基材としてガーゼを敷いた。表1の組成の単量体組成物の水溶液を繊維基材に注ぎ、繊維基材を水溶液で浸した。上からもう一枚のポリプロピレン板を被せ、2枚のポリプロピレン板でスペーサーを挟んだ状態で締め付け具により固定した。この状態で、スペーサーを介して2枚のポリプロピレン板から構成される注型枠ができ、枠内が繊維基材と単量体水溶液とで満たされた状態となった。注型枠をバイブレーターで振動させて単量体組成物の水溶液を脱泡した後、60℃の熱風乾燥機中に1時間静置し、単量体組成物の水溶液をゲル化させた。その後、注型枠の締め付け具を外し、繊維強化材料(繊維強化ゲルシート)を取出した。約60℃のイオン交換水が入った容器中に繊維強化ゲルシートを浸漬し、緩やかに撹拌しながら5時間、60℃に保ち、不純物を抽出除去した。更に室温でイオン交換水に浸漬して繊維強化ゲルシートに十分吸水させた。これにより、実施例1~3及び比較例1~2の繊維強化ゲルシートを得た。
【0079】
<評価方法>
[飽和含水率]
繊維基材を除いた以外は、実施例1~3及び比較例1~2と同様にして、樹脂組成物のゲルシートを作製した。樹脂組成物のゲルシートをイオン交換水に25℃で5時間以上浸漬し、飽和含水させて質量を測定し、含水質量とした。その後、ゲルシートを120℃の熱風乾燥機中で1時間静置して乾燥し、デシケーター中で放冷後、直ちに質量を測定し、乾燥重量とした。下式より飽和含水率を求めた。
(飽和含水率[%])={(含水重量[g])-(乾燥重量[g])}/(含水重量[g])
【0080】
[引張強度]
実施例1~3及び比較例1~2の繊維強化ゲルシートを、イオン交換水に5時間以上浸漬し、飽和含水させた後、幅10mm、長さ40mmの短冊状に切り出し、試験片とした。チャック間距離20mm、引張速度50mm/minで引張り、破断時の引張り力を測定し、引張強度とした。なお、試験片は引張試験直前まで、イオン交換水中で保管した。結果を表1に示す。
【0081】
[引き裂き強度]
実施例1~3及び比較例1~2の繊維強化ゲルシートを、イオン交換水に5時間以上浸漬し、飽和含水させた後、幅20mm、長さ40mmの短冊状に切り出して繊維強化ゲルシート片を作製した。繊維強化ゲルシート片の長手方向の一端から繊維強化ゲルシート片の他端に向かって長手方向に平行に下半分に切れ目を入れ、試験片とした。つまり、当該試験片は、下部のみ幅10mm、長さ20mmに二股に分かれるものである。チャック間距離20mm、引張速度50mm/minで引き裂き、引裂き強度を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
[補体活性]
試料をヒト血清に浸漬し、37℃で1hr間、インキュベートした。インキュベート終了後、4℃、3500回転/分で10分間遠心し、上清を取り出し、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)測定を行った。ELISA測定は補体因子SC5b-9(QUIDEL Corporation製、商品名:MICROVUE SC5b-9 Plus EIA)について、ELISAキット付属の説明書に従って測定した。陰性対照物質として、高密度ポリエチレンフィルム(エチレンオキサイドガス滅菌済)、陽性対照物質としてセルロース(Regenerated cellulose製、商品名:Whatman RC55 Membrane Filters)を用いた。各々3つのサンプルについて測定を行い、3つの測定値の平均値を測定値とした。下式より、補体活性価を計算し、補体活性価が5%以下をA、5より大きく30%以下をBと判定した。補体活性価は数値が低いほど生体適合性が優れていることを示している。結果を表1に示す。
[補体活性価(%)]={(試料の測定値)-(陰性対照物質の測定値)}/{(陽性対照物質の測定値)-(陰性対照物質の測定値)}×100
【0083】
なお、表1で使用される略号は、以下のとおりである。
GLMA:グリセリンモノアクリレート
NVP:N-ビニルピロリドン
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
MBAAm:N,N’-メチレンビスアクリルアミド(架橋剤)
V-50:2,2-アゾビス(2-メチルプロピオナミジン)ジヒドロクロリド(重合開始剤、富士フィルム和光純薬株式会社製、商品名)
ガーゼ:株式会社ヨコイ製(綿製、2プライ)
不織布:旭化成せんい株式会社製ベンリーゼSE803(セルロース製、1プライ)
【0084】
なお、表1に参考例として、繊維基材にゲルを一体化しなかった(つまり繊維基材のみを使用した)こと以外は、実施例及び比較例の繊維強化ゲルシートと同様に引張強度及び引裂き強度を測定した。結果を表1に示す。
【0085】
【0086】
樹脂組成物と一体化していない比較例1では、引裂き強度が測定できないほど強度が低かった。また、参考例1に示すように、ガーゼのみでは試験片が糸状に変形して、引裂き強度の測定にならなかった。一方、樹脂組成物とガーゼ(繊維基材)とを一体化した実施例1では、比較例1及び参考例1と比較して高い引裂き強度を有すると共に、引張強度にも優れ、補体活性価の値から生体適合性も十分であった。
樹脂組成物と不織布(繊維基材)とを一体化した実施例2では、不織布のみを使用した参考例2よりも引張強度及び引裂き強度に優れ、補体活性価の値から生体適合性も十分であった。
樹脂組成物と不織布(繊維基材)とを一体化した実施例3についても、十分な引張強度及び引裂き強度を示し、補体活性価の値から生体適合性も十分であった。
一方、単量体として2-ヒドロキシエチルメタクリレートを使用した比較例2では、引張強度及び引裂き強度は十分であったものの、実施例1~3と比較して生体適合性が不十分であった。