(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】構造物構築用の3Dプリンタ
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20230418BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230418BHJP
【FI】
B28B1/30
B33Y30/00
(21)【出願番号】P 2019219329
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2019147048
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598037569
【氏名又は名称】會澤高圧コンクリート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】青木 涼
(72)【発明者】
【氏名】東 大智
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-086747(JP,A)
【文献】特表2016-535687(JP,A)
【文献】特開2018-199939(JP,A)
【文献】特開2016-108801(JP,A)
【文献】登録実用新案第3201809(JP,U)
【文献】特表2007-518586(JP,A)
【文献】特開平03-279199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30-1/42
B33Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の車両と、該第1の車両に設けられている多関節ロボットアームと、該多関節ロボットアームの先端に設けられているノズル部とからなり、前記多関節ロボットにより駆動される前記ノズル部から水硬化性硬化体が押し出され建築物等の構造物を構築するようになっている3Dプリンタであって、
前記第1の車両は地面に敷設されている軌道上を走行する
ための軌道用車輪と前記軌道以外の路面を走行するための路面走行手段とを備え、前記軌道用車輪と前記路面走行手段とが切り換え可能になっている軌陸車であることを特徴とする構造物構築用の3Dプリンタ。
【請求項2】
請求項1に記載の3Dプリンタにおいて、前記軌道用車輪に切り換えて前記軌道上を走行するようになっているとき、前記軌道上において前記第1の車両に付随して走行する第2の車両が設けられ、前記第2の車両には前記第1の車両に供給する水硬化性硬化体を混練するミキサと、該ミキサに水硬化性硬化体の材料を供給するサイロとが設けられていることを特徴とする構造物構築用の3Dプリンタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の3Dプリンタにおいて、
前記軌道用車輪に切り換えて前記軌道上を走行するようになっているとき、前記軌道上において前記第1の車両に付随して走行する第3の車両が設けられ、前記第3の車両には前記第1の車両に電力を供給する発電機が設けられていることを特徴とする構造物構築用の3Dプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動制御により駆動されるノズル部を備え、該ノズル部からコンクリート等の水硬化性硬化体を押し出して立体的な建築物、構造物を製造する構造物構築用の3Dプリンタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
製造業の分野において利用が促進されている3Dプリンタは、CADデータ等に基づいて立体的な成形品を自動的に製造することができるので、少量の製品の製造を低コストで実施でき優れている。近年は建築分野においても3Dプリンタの適用が進んできている。建築分野で使用される3Dプリンタは、材料として速硬コンクリート等の水硬化性硬化体を使用して、これを3次元的に自動制御により駆動されるノズル部から押し出すようになっている。建築用の3Dプリンタには、ノズル部の駆動方式によっていろいろなタイプがある。例えば特許文献1の
図19に示されているようなガントリ式のタイプの3Dプリンタにおいては、離間して平行に敷設された直線状の一対のレール上をガントリが走行するようになっている。ノズル部はこのガントリに設けられ、ガントリに対して上下方向に駆動されると共にガントリの幅方向にスライドされるようになっている。つまりガントリ式の建築用3Dプリンタにおいては、レール方向をX方向、ガントリの幅方向をY方向、上下方向をZ方向としてノズル部が自由に3次元的に駆動されるようになっている。この3Dプリンタによって建築される建築物は一対のレールで挟まれたエリアになる。これに対して、ノズル部が多関節ロボットアームの先端に設けられている建築用3Dプリンタも周知である。多関節ロボットアームは、例えば自走する車両に設けられている。アウトリガーにより車両を地面に固定し、多関節ロボットアームを駆動してノズル部を3次元的に駆動する。ノズル部は所定の半径内で駆動されることになり、建築物は3Dプリンタの近傍に建築される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガントリ式の3Dプリンタであっても、多関節ロボットアーム式の3Dプリンタであっても、任意の形状の建築物を建築でき優れている。しかしながら、解決すべき課題も見受けられる。例えばガントリ式の3Dプリンタの場合には、一対のレールで挟まれたエリア内にしか建築物を建築できないという問題がある。ノズル部がガントリ内でしか移動できないからであり、建築したい建築物の大きさ、つまり建築物の上面形状が一対のレール間の幅を超える場合には建築することができない。さらにはガントリ式の3Dプリンタの場合には、レール方向つまりX方向にノズル部を繰り返し移動させる必要があるとき、必要なエネルギーが大きくなり、効率が低下するという問題がある。ノズル部をX方向に繰り返し駆動する場合、レールに沿ってガントリ全体を繰り返し走行させなければならない。ガントリ全体は重量が大きいのでこれを駆動するにはエネルギーを要し、駆動に必要な時間も長くなってしまう。多関節ロボットアーム式の3Dプリンタの場合には、ノズル部は多関節ロボットアームによって駆動されるので必要なエネルギは小さく効率は高い。しかしながら3Dプリンタの近傍にしか建築物を建築できないという問題がある。ノズル部が多関節ロボットアームによって駆動される範囲を超えて駆動できないからである。このような範囲を超えてノズル部を駆動したい場合には、一旦アウトリガーを車両内に引き込み、車両を必要な距離だけ移動し、再びアウトリガーにより車両を地面に固定する必要がある。このようにすると、建築物の上面形状が大きくても建築することはできる。しかしながら、アウトリガーの待避、車両の移動、アウトリガーの設置を繰り返す必要があり時間がかかるしコストも大きくなるという問題がある。さらには、材料である水硬化性硬化体の供給についても問題がある。材料である水硬化性硬化体は所定のミキサによって混練されるが、ミキサは3Dプリンタの近傍に設置される必要がある。3Dプリンタの車両を移動する毎に、ミキサも移動しなければならず移動のためのコストが嵩む。
【0005】
従って本発明は、建築物等の構築可能な構造物の大きさ、つまり上面形状の大きさに実質的に制約がなく、低コストでかつ比較的短時間で建築物、構造物を構築できる構造物構築用の3Dプリンタを提供することを目的としている。さらに本発明においては、構造物構築用の3Dプリンタに対して低コストで建築材料を供給することができるような3Dプリンタを提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、構造物構築用の3Dプリンタは、第1の車両と、該第1の車両に設けられている多関節ロボットアームと、該多関節ロボットアームの先端に設けられているノズル部とから構成される。ノズル部は多関節ロボットにより駆動され、水硬化性硬化体が押し出されて構造物を構築するようになっている。そして本発明においては、第1の車両は地面に敷設されている軌道上を走行するための軌道用車輪と軌道以外の路面を走行するための路面走行手段とを備え、軌道用車輪と路面走行手段とが切り換え可能になっている軌陸車として構成される。さらに、軌道上には第1の車両に付随して走行する第2の車両が設けられ、この第2の車両には第1の車両に供給する水硬化性硬化体を混練するミキサと、該ミキサに水硬化性硬化体の材料を供給するサイロとが設けられるように構成する。
【0007】
すなわち請求項1に記載の発明は、第1の車両と、該第1の車両に設けられている多関節ロボットアームと、該多関節ロボットアームの先端に設けられているノズル部とからなり、多関節ロボットにより駆動されるノズル部から水硬化性硬化体が押し出され建築物等の構造物を構築するようになっている3Dプリンタであって、第1の車両は地面に敷設されている軌道上を走行するための軌道用車輪と軌道以外の路面を走行するための路面走行手段とを備え、軌道用車輪と路面走行手段とが切り換え可能になっている軌陸車であることを特徴とする構造物構築用の3Dプリンタとして構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の3Dプリンタにおいて、軌道用車輪に切り換えて軌道上を走行するようになっているとき、軌道上において第1の車両に付随して走行する第2の車両が設けられ、第2の車両には第1の車両に供給する水硬化性硬化体を混練するミキサと、該ミキサに水硬化性硬化体の材料を供給するサイロとが設けられていることを特徴とする構造物構築用の3Dプリンタとして構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の3Dプリンタにおいて、軌道用車輪に切り換えて軌道上を走行するようになっているとき、軌道上において第1の車両に付随して走行する第3の車両が設けられ、第3の車両には第1の車両に電力を供給する発電機が設けられていることを特徴とする構造物構築用の3Dプリンタとして構成される。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明は、第1の車両と、該第1の車両に設けられている多関節ロボットアームと、該多関節ロボットアームの先端に設けられているノズル部とからなり、多関節ロボットにより駆動されるノズル部から水硬化性硬化体が押し出され建築物等の構造物を構築するようになっている構造物構築用の3Dプリンタを対象としている。つまり、いわゆる多関節ロボットアーム式の構造物構築用の3Dプリンタを対象としている。そして本発明によると、第1の車両は地面に敷設されている軌道上を走行するための軌道用車輪と軌道以外の路面を走行するための路面走行手段とを備え、軌道用車輪と路面走行手段とが切り換え可能になっている軌陸車になっている。そうすると多関節ロボットアーム式の構造物構築用の3Dプリンタにおける欠点である、構築可能な構造物の大きさに制約がある、という問題が解決する。つまり、構造物構築用の3Dプリンタは軌道上を任意の位置に移動して多関節ロボットアームを駆動できるので、軌道を適切に敷設していれば実質的に構築できる構造物の大きさ、つまり構造物の上面形状の大きさに制約はない。また第1の車両の移動は軌道上を走行させるだけでいいので時間もかからず必要なエネルギも小さくて済む。これによって低コストで比較的短時間で構造物を構築できる効果が得られる。また、軌陸車として構成されているので、例えば路面走行手段をいわゆるキャタピラー(登録商標)と呼ばれる無限軌道から構成すると、建築現場において軌道が敷設されていない場合であっても建築現場を自由に走行して所望の建造物を建造することができる。また路面走行手段を車道走行用の車輪から構成すると、一般道を自走することができるという効果が得られる。さらに他の発明によると、軌道上には第1の車両に付随して走行する第2の車両が設けられ、第2の車両には第1の車両に供給する水硬化性硬化体を混練するミキサと、該ミキサに水硬化性硬化体の材料を供給するサイロとが設けられている。構造物構築用の3Dプリンタにおいては混練した水硬化性硬化体をどのように供給するか、という点に課題があるが、この発明によって効率よく水硬化性硬化体を3Dプリンタに供給できることが保証される。これによってさらに低コストで効率よく構造物を構築できる。他の発明によると、軌道上には第1の車両に付随して走行する第3の車両が設けられ、第3の車両には第1の車両電力を供給する発電機が設けられている。そうすると、構造物構築用の3Dプリンタに必要な電力が、常に3Dプリンタの近傍から供給されることが保証されるので、3Dプリンタを移動するときに電源ケーブルの引き回し等の問題がないという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】地面に敷設された軌道と、該軌道上を走行する本実施の形態に係る構造物構築用の3Dプリンタとを示す図で、その(A)は上面図、その(B)は正面図である。
【
図2】地面に敷設された軌道と、該軌道上を走行する本発明の他の実施の形態に係る構造物構築用の3Dプリンタの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態に係る構造物構築用の3Dプリンタ1は、
図1の(A)、(B)に示されているように、所定の軌道3上を走行するようになっている。軌道3すなわちレール3は、建築したい建築物つまり構築したい構造物の近傍に予め地面に敷設されている。レール3は直線状に敷設されていてもよいし、構築したい構造物の上面形状に合わせて、湾曲していてもよい。あるいはレール3は環状に敷設されていてもよい。このように敷設された軌道3上に本実施の形態に係る構造物構築用の3Dプリンタ1は走行自在に設けられている。
【0011】
本実施の形態に係る構造物構築用の3Dプリンタ1は、第1の車両5、第2の車両6、第3の車両7から構成され、これら第1~3の車両5、6、7は互いに連結されている。本実施の形態においては、第1~3の車両5、6、7は、いわゆる軌陸車からなる。すなわち第1~3の車両5、6、7は、地面等の路面を走行するための路面走行手段、つまりキャタピラー(登録商標)と呼ばれている無限軌道5a、6a、7aと、軌道3上を走行するための軌道用車輪5b、5b、6b、6b、7b、7bとを備えている。
図1の(B)には、第1~3の車両5、6、7は、軌道用車輪5b、5b、6b、6b、7b、7bによって軌道3上を走行するようになっているが、これらの軌道用車輪5b、5b、6b、6b、7b、7bは、車輪を支持する支持部材が回動して上側に跳ね上げられるようになっている。上側に跳ね上げられると、無限軌道5a、6a、7aによって地面を走行できる。
【0012】
このような第1の車両5には、多関節ロボットアーム10が設けられ、この多関節ロボットアーム10の先端にノズル部11が設けられている。従って多関節ロボットアーム10を制御すれば、所定の半径内においてノズル部11を任意の位置に駆動することができる。ノズル部11からは速硬コンクリート等の水硬化性硬化体を押し出すことができ、所望の構築物を構築することがができる。第1の車両5は軌道3上を走行できるので、構築したい構築物の大きさや形状によって、適宜第1の車両5を移動させながら建築することができる。
【0013】
第2の車両6には、第1の車両5側に水硬化性硬化体を供給するための装置が設けられている。すなわち第2の車両6には、水硬化性硬化体の材料であるセメント、細骨材等の粉体を貯蔵するサイロ13、このサイロ13から材料の供給を受けて混練水、混和剤等と共に混練するミキサ14とが設けられている。なお、混練水、混和剤が貯蔵されているタンクは
図1には示されていないが、第2の車両6に設けられている。ミキサ14によって混練された水硬化性硬化体は、供給管15を介して第1の車両5の多関節ロボットアーム10に連続的に供給されるようになっている。従って、多関節ロボットアーム10に設けられているノズル部11から、連続的に水硬化性硬化体を押し出すことができる。
【0014】
第3の車両7には、第1、2の車両5、6に電力を供給するための発電機17が設けられている。発電機17は例えばディーゼルエンジンによって発電するようになっており、
図1には示されていないが軽油等を貯蔵する燃料タンクも第3の車両7に設けられている。発電機17によって発電された電力は多関節ロボットアーム10、ミキサ14等に供給されるようになっている。
【0015】
本実施の形態に係る建築用3Dプリンタ1はこのように第1~3の車両5、6、7から構成されているので、外部から材料や電力の供給を受ける必要がなく、軌道3上を所望の位置に走行して、構築物を構築できるようになっている。なお、多関節ロボットアーム10、ミキサ14、発電機17等を制御するコントローラは、第1~3の車両5、6、7のいずれかに1台設けられていてもよいし、車両毎に設けられていてもよい。
【0016】
本実施の形態に係る構造物構築用の3Dプリンタ1は色々な変形が可能である。例えば、第1~3の車両5、6、7において無限軌道5a、6a、7aの代わりに道路走行用の車輪を設けてもよい。
図2には、他の実施の形態に係る構造物構築用の3Dプリンタ1’が示されているが、第1~3の車両5、6、7には、それぞれ軌道3上を走行するための軌道用車輪5b、5b、6b、6b、7b、7bは設けられているが、無限軌道等の路面走行手段は設けられていない。このように、3Dプリンタ1’を軌道3上でのみ使用できるように構成することもできる。他の変形も可能であり、第1の車両5のみを軌陸車から構成し、第2、3の車両6、7を
図2に示されているような軌道3上でのみ使用できる車両から構成してもよい。さらに他の変形も可能である。例えば第2、3の車両6、7は必ずしも必須ではない。サイロ13、ミキサ14、発電機17は第1の車両5にまとめて搭載するようにしてもよい。あるいは、サイロ13、ミキサ14、発電機17は地面に設置しておき、所定の供給管と電力線によって第1の車両5に水硬化性硬化体と電力とを供給するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0017】
1 構造物構築用の3Dプリンタ
3 軌道
5 第1の車両
5a 無限軌道
5b 軌道用車輪
6 第2の車両
6a 無限軌道
6b 軌道用車輪
7 第3の車両
7a 無限軌道
7b 軌道用車輪
10 多関節ロボットアーム
11 ノズル部
13 サイロ
14 ミキサ
15 供給管
17 発電機