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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】金属材の接合方法及び金属接合体
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20230418BHJP
   B32B 37/06 20060101ALI20230418BHJP
   C25F 1/04 20060101ALI20230418BHJP
   C23F 15/00 20060101ALI20230418BHJP
   B29C 65/16 20060101ALN20230418BHJP
【FI】
B32B15/08 Z
B32B37/06
C25F1/04
C23F15/00
B29C65/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020549222
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2019037295
(87)【国際公開番号】W WO2020067022
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2018178515
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135999
【氏名又は名称】株式会社ヒロテック
(73)【特許権者】
【識別番号】399037933
【氏名又は名称】株式会社シャルマン
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】和鹿 公則
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/020531(WO,A1)
【文献】特開2009-269401(JP,A)
【文献】特開2018-103548(JP,A)
【文献】国際公開第2007/029440(WO,A1)
【文献】特開2010-046831(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143521(WO,A1)
【文献】特開2015-030260(JP,A)
【文献】特開2016-132155(JP,A)
【文献】国際公開第2018/033625(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/16
B32B 1/00-43/00
B23K 26/20
C25F 1/04
C23F 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層を介して一方の金属材と他方の金属材とを当接させ、被接合界面を形成する第一工程と、
前記一方の金属材及び/又は前記他方の金属材の表面にレーザを照射し、前記被接合界面において前記樹脂層と前記一方の金属材を接合すると共に、前記樹脂層と前記他方の金属材を接合し、接合部を形成する第二工程と、を有し、
前記第一工程の予備処理として、
前記被接合界面となる前記一方の金属材及び/又は前記他方の金属材の表面にレーザを照射し、前記表面を粒径が1~100nmの酸化物粒子で被覆すること、
を特徴とする金属材の接合方法。
【請求項2】
前記樹脂層が樹脂フィルムであること、
を特徴とする請求項1に記載の金属材の接合方法。
【請求項3】
前記樹脂層の厚さが15~500μmであること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の金属材の接合方法。
【請求項4】
前記樹脂層がポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂及びポリエーテルエーテルケトン樹脂のうちの何れかであること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載の金属材の接合方法。
【請求項5】
前記一方の金属材と前記他方の金属材の組成が異なること、
を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載の金属材の接合方法。
【請求項6】
前記第二工程及び/又は前記第二工程の直後に前記接合部を加圧すること、
を特徴とする請求項1~5のうちのいずれかに記載の金属材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属材同士を接合する方法及び金属接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材同士の接合には、リベット締結等の機械的な接合やアーク溶接及びレーザ溶接等の溶融溶接が用いられてきた。しかしながら、リベット締結を用いる場合、締結部の大きさや重量によって部品が大型化・重量化することに加え、設計の自由度も低下することから、適用できる部品が限定されてしまう。
【0003】
また、溶融溶接では接合部が溶融凝固組織となることに加えて熱影響部が形成され、接合構造体として金属母材(被接合材)の機械的性質を十分に活用することができない。更に、異種金属材を接合する場合は接合界面に脆弱な金属間化合物層が形成し、継手の強度及び信頼性を担保することが困難である。
【0004】
これに対し、近年では金属材を固相で接合する方法が注目されており、摩擦圧接や摩擦攪拌接合を用いた金属材の接合方法が検討されている。例えば、特許文献1(特開2009-299138号公報)においては、鋼材とアルミニウム合金材との異材接合体であって、接合する鋼材を特定組成とする一方で、接合するアルミニウム合金材を特定組成のAl-Mg-Si系アルミニウム合金とし、異材接合体のアルミニウム合金材側の接合界面において、Li、Mnを特定量含有させるとともに、Feの含有量を規制した上で、異材接合体の接合界面にFeとAlとの反応層が形成されている異材接合体を得る金属材の接合方法、が提案されている。
【0005】
前記特許文献1に記載の金属材の接合方法では、鋼材の生地表面のMn、Siを含む外部酸化物層と、鋼材の生地表面直下のMn、Siを含む内部酸化物層との両者によって、スポット溶接時のFe、Alの拡散を抑えて、接合界面のAl-Fe系の脆い反応層の過剰生成を抑制することに加え、アルミニウム合金材の鋼材との接合面側に、鋼材表面上に存在する外部酸化物層を還元する機能を有する元素として、Li、Mnの1種または2種を予め存在させることで、鋼材の破壊されにくい外部酸化物層を、Li、Mnによる還元作用によって破壊して、スポット溶接時のFe、Alの拡散を必要なだけ、かつ過剰に抑制しないように、効果的に制御することができる。この結果、接合界面における、Al-Fe系の脆い反応層(金属間化合物層)の過剰生成を抑制する一方で、高い接合強度を得るための必要最小限のAl-Fe系の反応層(金属間化合物層)は確保して、高い接合強度を得ることができる、としている。
【0006】
また、特許文献2(特開2015-139789号公報)では、金属部材と、金属部材の融点より低い融点を有する接合部材を摩擦攪拌接合で接合する方法において、(i)接合面の穴径が反対側の穴径よりも小さい形状の孔を備える金属部材に、接合部材を重ね、(ii)上記孔の上部の接合部材に、接合工具を回転しつつ押し当て、接合部材を上記孔に圧入して接合継手を形成することを特徴とする異質部材の摩擦攪拌接合方法、が提案されている。
【0007】
前記特許文献2に記載の異質部材の摩擦攪拌接合方法では、一方の金属部材に、接合面の穴径が反対側の穴径よりも小さい形状の孔を形成し、その孔の内部に、接合しようとする他方の部材を圧入して充填することで、特性(融点)が異なる二つの部材、例えば、めっき鋼板などの鉄系部材やチタン(合金)部材と、アルミニウム、マグネシウム又はそれらの合金、又は、樹脂等からなる部材を、摩擦攪拌接合で強固に接合することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-299138号公報
【文献】特開2015-139789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、摩擦攪拌接合では高速回転するツールを被接合領域に圧入する必要があるため、被接合材の種類やサイズ、及び継手形状等が制限されてしまう。また、通常の摩擦攪拌接合では接合終了端にツールを引き抜いた穴が形成されてしまうことに加え、接合部の表面にツールマークやバリ等が形成されてしまう。更に、被接合材の種類によってはツールへの負荷が大きくなることから、例えば、鋼材を接合する場合にはツール寿命が深刻な問題となる。
【0010】
また、溶融溶接後と比較すると接合界面における金属間化合物の厚さは薄くなるが、当該金属間化合物の形成を完全に抑制することは困難である。加えて、摩擦攪拌接合で形成された異種金属接合部は異なる金属材が密着しており、電解腐食を抑制することが極めて困難である。
【0011】
前記特許文献1の接合方法では高い接合強度を得ることができるが、適用できる被接合材の組成及び組合せが厳密に限定され、汎用性が極めて乏しい。また、前記特許文献2の接合方法でも強固な異材接合部が形成されるが、融点や塑性変形抵抗の観点から適用できる被接合材の組合せが限定され、被接合材に孔を設ける必要がある等、接合プロセスが煩雑となる。
【0012】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、同種及び異種の様々な組み合わせの金属材を強固に接合する簡便な方法であって、異種金属を接合する場合は接合部の電解腐食を抑制することができる接合方法を提供することにある。また、本発明は、引張試験において継手が金属部で伸長する程度に高い接合強度の接合部を有し、当該接合部の電解腐食が極めて効率的に抑制された金属接合体を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記目的を達成すべく、金属材の接合方法について鋭意研究を重ねた結果、樹脂層を介して金属材同士を強固に接合させること等が効果的であることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、本発明は、
樹脂層を介して一方の金属材と他方の金属材とを当接させ、被接合界面を形成する第一工程と、
前記一方の金属材及び/又は前記他方の金属材の表面にレーザを照射し、前記被接合界面において前記樹脂層と前記一方の金属材を接合すると共に、前記樹脂層と前記他方の金属材を接合し、接合部を形成する第二工程と、を有すること、
を特徴とする金属材の接合方法、を提供する。
【0015】
本発明の金属材の接合方法は、一方の金属材と他方の金属材とを直接接触させた状態で接合を行うものではなく、樹脂層を介した接合界面を形成することによって間接的に接合を達成するものである。より具体的には、樹脂層と一方の金属材を強固に接合すると共に、樹脂層と他方の金属材も強固に接合することで、一方の金属材と他方の金属材を接合する。一方の金属材と他方の金属材が直接接触しないため、電気腐食を極めて効果的に抑制することができる。
【0016】
また、本発明の金属材の接合方法では、金属材表面へのレーザ照射による樹脂層/金属材界面の温度上昇により、樹脂層と金属材が接合されるため、接合工程は容易かつ短時間で完了する。樹脂層は一方の金属材及び/又は他方の金属材の表面に予め形成させてもよく、接合時に一方の金属材と他方の金属材の間に挟み込んでもよい。
【0017】
本発明の金属材の接合方法は、樹脂層を介して一方の金属材と他方の金属材とを当接させ、被接合界面を形成する第一工程と、レーザ照射により一方の金属材及び/又は他方の金属材の表面を昇温し、被接合界面において樹脂層と一方の金属材を接合すると共に、樹脂層と他方の金属材を接合し、接合部を形成する第二工程と、を有している。
【0018】
本発明の金属材の接合方法における第一工程では、樹脂層の一方の面に一方の金属材を当接させ、他方の面に他方の金属材を当接させることにより、一方の金属材/樹脂層/他方の金属材の三層状態となる被接合界面を構成することができる。なお、樹脂層には、例えばシート状又はフィルム状の樹脂材や液体樹脂等を用いることができる。
【0019】
次に、本発明の金属材の接合方法における第二工程で、一方の金属材及び/又は他方の金属材の表面からレーザを照射して被接合界面を昇温することにより、一方の金属材及び/又は他方の金属材の一部に加熱領域が形成され、当該加熱領域と重畳した樹脂層が昇温することで樹脂層と一方の金属材及び樹脂層と他方の金属材を強固に接合し、一方の金属材と他方の金属材を接合することができる。ここで、被接合界面における樹脂層表面の温度は融点以上となることが好ましいが、金属材に適当な表面処理を施すことで当該温度を低下せることができる。金属材に適当な表面処理を施す場合、被接合界面における樹脂層表面の温度はガラス転移温度以上とすることが好ましい。
【0020】
また、本発明の金属材の接合方法では、前記樹脂層が樹脂フィルムであること、が好ましい。被接合界面に存在する樹脂層の厚さは均一であることが好ましいが、均一な厚さを有する樹脂フィルムを用いることで容易に達成できる。また、樹脂フィルムは保存及び取り扱いが容易であり、更に被接合領域の形状及びサイズに合わせて容易に加工することができる。
【0021】
また、本発明の金属材の接合方法では、前記樹脂層の厚さが15~500μmであること、が好ましい。樹脂層の厚さを15μm以上とすることで被接合界面に均質な接合層を形成することができ、500μm以下とすることで樹脂層を起点とする接合部の破断を抑制することができる。ここで、より好ましい樹脂層の厚さは15~100μmであり、膜厚をこの範囲内とすることで、接合界面の樹脂層に対する荷重入力を三次元から二次元とすることができる。その結果、優れた機械的性質を有する金属接合体を得ることができる。
【0022】
また、本発明の金属材の接合方法では、前記樹脂層がポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂及びポリエーテルエーテルケトン樹脂のうちの何れかであること、が好ましい。これらの樹脂を用いることで、強固な金属/樹脂接合領域を形成させることができる。
【0023】
また、本発明の金属材の接合方法では、前記一方の金属材と前記他方の金属材の組成が異なること、が好ましい。本発明における金属材の接合方法は、樹脂層を介した一方の金属材と他方の金属材との接合であるから、双方の組成を異にしても接合界面に脆弱な金属間化合物が生じることなく健全な接合部を得ることができる。なお、一方の金属材及び他方の金属材としては、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の金属材を用いることができる。
【0024】
また、本発明の金属材の接合方法では、前記第二工程及び/又は前記第二工程の直後に前記接合部を加圧すること、が好ましい。本発明の金属材の接合方法によって得られる接合部は十分に高い強度を有しているが、加圧工程を加えることで、品質のばらつきを小さくすることができる。当該加圧により、例えば、レーザ照射による昇温時において接合部の樹脂層内に導入される気泡を外部に移動させることができ、より信頼性の高い接合部を得ることができる。更に、当該加圧によって軟化した樹脂層が一方の金属材及び他方の金属材の熱影響部の範囲を超えて広がることから、一方の金属材及び他方の金属材と樹脂材との接合界面を拡大することができる。
【0025】
また、本発明の金属材の接合方法では、
前記第一工程の予備処理として、
還元性を有するカルボン酸を用いた電解処理によって前記一方の金属材及び/又は前記他方の金属材に新生面を形成すると共に、前記カルボン酸によって前記新生面を被覆し、カルボン酸被覆金属材を得る表面処理工程を施すこと、が好ましい。
【0026】
本発明の金属材の接合方法では、一方の金属材及び/又は他方の金属材の新生面と熱分解によって生成する樹脂材由来のカルボキシル基とを化学結合させることで、より強固な接合部を形成することができる。なお、本願明細書において「新生面」とは、金属材の最表面が除去されて活性化した状態を意味し、例えば、酸化皮膜が除去されて金属材が露出した状態や、酸化皮膜の最表面が除去・清浄された状態を含むものである。
【0027】
一方の金属材及び/又は他方の金属材の新生面と樹脂材由来のカルボキシル基とを化学結合させるため、例えば、反応性を有する官能基同士を結合する場合と比較して、結合サイトの数を飛躍的に増加させ、極めて強固な金属樹脂直接接合を達成することができる。即ち、樹脂層と一方の金属材及び樹脂層と他方の金属材を更に強固に接合し、一方の金属材と他方の金属材を接合することができる。
【0028】
また、本発明の金属材の接合方法では、
前記第一工程の予備処理として、
前記被接合界面となる前記一方の金属材及び/又は前記他方の金属材の表面にレーザを照射し、前記表面を粒径が1~100nmの酸化物粒子で被覆すること、が好ましい。
【0029】
一方の金属材及び/又は他方の金属材がステンレス鋼やチタン材の場合、カルボン酸で電解処理を施してもカルボン酸塩が金属表面に配置されず、当該処理の効果があまり期待できない。これに対し、レーザ照射によって金属表面に粒径が1~100nmの酸化物粒子を生成させることで、物理的な構造によるアンカー効果等によって接合強度を担保することができる。
【0030】
更に、本発明では、
一方の金属材と他方の金属材との重ね接合部材であって、
前記一方の金属材と前記他方の金属材との接合界面に樹脂層が存在し、
前記樹脂層と前記一方の金属材が直接接合されており、
前記樹脂層と前記他方の金属材が直接接合されており、
接合部の引張試験において前記一方の金属材及び/又は前記他方の金属材が伸長すること、
を特徴とする金属接合体を提供する。
【0031】
本発明の金属接合体は、本発明における金属材の接合方法によって製造可能で、一方の金属材と他方の金属材は樹脂層を介して間接接合されており、接着剤やリベット締結によって接合されたものではない。
【0032】
従来公知の接合方法を用いて樹脂材と金属材とを直接接合する場合、接合界面の強度が十分ではなく、接合部の引張試験において金属材が伸長することはない。これに対し、本発明の金属材の接合方法で得られる接合界面は強度が高く、引張試験において一方の金属材及び/又は他方の金属材が伸長する程度の高い接合強度を有する。
【0033】
本発明の金属接合体においては、前記引張試験において前記一方の金属材又は前記他方の金属材が破断すること、が好ましい。本発明の金属接合体は接合界面の強度が極めて高いことから、一方の金属材及び他方の金属材と樹脂層との組み合わせによっては、一方の金属材又は前記他方の金属材が伸長後に破断に至る程度の極めて高い接合強度を有する。
【0034】
本発明の金属接合体においては、前記一方の金属材及び/又は前記他方の金属材が鋼材又はチタン材であること、が好ましい。一方の金属材及び/又は他方の金属材を鋼とすることで安価かつ強固な金属接合体を実現することができる。また、一方の金属材及び/又は他方の金属材をチタン材とすることで、軽量かつ強固な金属接合体を実現することができる。ここで、鋼材は種々の炭素鋼やステンレス鋼等を含み、チタン材は純チタン及び種々のチタン合金を含む。なお、本発明の金属接合体では、前記一方の金属材及び/又は前記他方の金属材が鋼材やチタン材であっても、引張試験においてこれらの金属が伸長する程に強固な接合界面を有しており、場合によっては当該鋼が破断に至る程に接合部の信頼性が高い。
【発明の効果】
【0035】
本発明における金属材の接合方法及び金属接合体によれば、同種及び異種の様々な組み合わせの金属材を強固に接合する簡便な方法であって、異種金属を接合する場合は接合部の電解腐食を抑制することができる接合方法を提供することができる。また、引張試験において継手が金属部で伸長する程度に高い接合強度の接合部を有し、当該接合部の電解腐食が極めて効率的に抑制された金属接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本実施形態における金属材の接合方法の工程図である。
図2】第一工程及び第二工程の様子を示す模式図である。
図3】本実施形態における金属接合体8の概略断面図である。
図4】樹脂材を介して第一金属材と第二金属材を重ね合わせた状態を示す模式図である。
図5】引張試験の態様を示す模式図である。
図6】実施例1で得られた金属接合体の引張試験後の概観写真である。
図7】実施例2で表面処理を施したSUS304板表面のSEM写真(低倍率)である。
図8】実施例2で表面処理を施したSUS304板表面のSEM写真(高倍率)である。
図9】実施例2で得られた金属接合体の引張試験後の概観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照しながら本発明の金属材の接合方法及び金属接合体の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0038】
(1)金属材の接合方法
図1は、本実施形態における金属材の接合方法の工程図であり、図2は、本実施形態における金属材の接合方法に用いる第一工程及び第二工程の様子を示す模式図である。本実施形態における金属材の接合方法は、第一金属材2(一方の金属材)と第二金属材4(他方の金属材)との間に樹脂材6(樹脂層)を介した接合界面を形成することによって接合を達成するものであって、樹脂材6を介して第一金属材2と第二金属材4とを当接させ、被接合界面を形成する第一工程(S01)と、レーザ照射により第一金属材2及び/又は第二金属材4の表面を昇温し、被接合界面において樹脂材6と第一金属材2を接合すると共に、樹脂材6と第二金属材4を接合し、接合部を形成する第二工程(S02)と、を有している。以下、金属材に予備処理を施し、一方の金属材からレーザ照射する場合を代表例として、各工程について詳述する。
【0039】
(1-1)表面処理工程
(1-1-1)カルボン酸を用いた電解処理
なお、第一工程(S01)の予備処理として、表面処理工程を施すことが好ましい。表面処理工程は、還元性を有するカルボン酸を用いた電解処理によって第一金属材2及び第二金属材4に新生面を形成すると共に、当該カルボン酸によって新生面を被覆し、カルボン酸被覆金属材を得るための工程である。ここで、金属材の表面を還元及び被覆が可能であれば他の酸の使用も可能であり、例えば、アミノ酸等を用いてもよい。
【0040】
カルボン酸を用いた電解処理によって第一金属材2及び第二金属材4に新生面を形成すると共に、接合に直接寄与する新生面をカルボン酸によって被覆し保護することで、第二工程(S02)で新生面を活用できるカルボン酸被覆金属材を得ることができる。
【0041】
表面処理工程で用いる還元性を有するカルボン酸は、シュウ酸又はギ酸であること、が好ましい。シュウ酸又はギ酸を用いて金属材を電解処理することで、新生面の形成、新生面への被覆及び脱離が円滑に進行し、極めて強固な接合部を円滑に形成させることができる。なお、カルボン酸はそれぞれ単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。ここで、シュウ酸とギ酸を混合する場合、シュウ酸とギ酸を1:2とすることが好ましい。鋼材に対してシュウ酸とギ酸の混合電解液を使用する場合、シュウ酸鉄は溶解度が小さく(熱水で0.026質量%)、鋼材の表面に析出して鋼材の溶解を抑制する保護被膜として作用する。これに対し、鋼材の表面はギ酸鉄として溶解することから、表面の過剰な溶解を抑制しつつ良好な新生面を形成することができる。また、カルボン酸を含む混合溶液を使用してもよい。シュウ酸及びギ酸以外には、例えば、リン酸やクエン酸水素二アンモニウム等を用いることができる。
【0042】
なお、シュウ酸等を用いてアルミニウムに対して電解処理を施す手法は、一般的にアルマイト処理(陽極酸化処理)として知られている。当該アルマイト処理(陽極酸化処理)はアルミニウム材表面への酸化皮膜の形成が目的であることに対し、表面処理工程の目的は新生面の形成及び当該新生面の保護であり、電解処理条件が大きく異なる。例えば、アルマイト処理でシュウ酸を用いる場合、2%~3%のシュウ酸濃度にて20分~30分の電解処理を施すのに対し、表面処理工程でシュウ酸を用いる場合、10%のシュウ酸濃度にてより短時間の処理を施すことが好ましい。
【0043】
第一金属材2と第二金属材4の組成は異なることが好ましい。第一金属材2及び第二金属材4としては、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の金属材を用いることができ、例えば、各種鋼材、亜鉛めっき鋼材、アルミニウム合金、マグネシウム合金等を用いることができる。また、本実施形態における金属材の接合方法は、樹脂材6を介した第一金属材2と第二金属材4の間接接合であるから、双方の組成を異にしても接合界面に脆弱な金属間化合物が生じることなく健全な接合部を得ることができる。
【0044】
(1-1-2)レーザ照射による酸化処理
第一金属材2及び/又は第二金属材4がステンレス鋼材やチタン材の場合、カルボン酸で電解処理を施してもカルボン酸塩が金属表面に配置されず、当該処理の効果があまり期待できない。この場合、カルボン酸による電解処理の代替として、レーザ照射によって金属表面に微細な酸化物粒子を生成させることが好ましい。
【0045】
金属表面を粒径が1~100nmの酸化物粒子で被覆することにより、微小かつ複雑な三次元構造が形成され、当該構造と樹脂材6との物理的なアンカー効果等によって、接合強度を向上させることができる。
【0046】
金属表面が粒径1~100nmの酸化物粒子で被覆される限りにおいて、レーザの種類や照射条件は特に限定されず、従来公知の種々のレーザを用いることができる。また、使用するレーザや金属材の種類等に応じて、レーザ出力、フォーカス径、走査速度、走査パターン等を適宜調節すればよい。また、酸化物粒子生成に必要な酸素は大気中の酸素を利用してもよく、シールドガス中に任意の割合で混合させてもよい。
【0047】
(1-2)第一工程(S01:被接合界面形成工程)
第一工程(S01)は、樹脂材6を介して第一金属材2と第二金属材4とを当接させ、被接合界面を形成するための工程である。
【0048】
樹脂材6と第一金属材2、及び樹脂材6と第二金属材4は、平面同士を当接させて一般的な重ね合わせの状態とし、より具体的には、樹脂材6の一方の面に第一金属材2を当接させ、他方の面に第二金属材4を当接させることにより、第一金属材2/樹脂材6/第二金属材4の三層状態となる被接合界面を構成する。よって、第一金属材2と第二金属材4との直接接触は行わない。
【0049】
なお、樹脂材6としては、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の樹脂材を用いることができるが、ポリアミド樹脂(PA)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、フッ素樹脂(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(PP)及びポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)のうちの何れかを用いることが好ましい。また、樹脂材6は樹脂フィルムとし、厚さを15~500μmとすることが好ましい。
【0050】
樹脂材6を樹脂フィルムとすれば被接合界面における樹脂層の厚さを均一にできることに加え、保存及び取り扱いが容易となり、更に被接合領域の形状及びサイズに合わせる加工を簡便に行うことができる。
【0051】
(1-3)第二工程(S02:接合工程)
第二工程(S02)は、第一工程(S01)で形成させた被接合界面を、レーザ照射で樹脂材6のガラス転移温度以上に昇温することにより、樹脂材6を分解してカルボキシル基を生成し、かつ第一金属材2及び第二金属材4のカルボン酸を除去してカルボン酸被覆金属材の表面に新生面を露出させ、更に被接合界面をガラス転移温度未満に冷却することにより樹脂材6のカルボキシル基と、第一金属材2及び第二金属材4の新生面と、を結合させて接合部を形成するための工程である。なお、予備処理としてレーザ照射による酸化処理を用いた場合、レーザ照射で軟化した樹脂材6が微細複雑構造を有する金属材の表面に侵入し、強固な接合が達成される。なお、以下では、主として現象がより複雑な、カルボン酸被覆金属材を接合する場合について説明する。
【0052】
昇温に用いるレーザは本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のレーザを用いることができる。より具体的には、被接合界面の温度を樹脂材6のガラス転移温度以上に昇温することができればよく、半導体レーザ、COレーザ、ファイバーレーザ及びYAGレーザ等を用いることができる。なおレーザは、第一金属材2もしくは第二金属材4のどちらか一方、又は両方の面から照射することが好ましい。当該両方の面からの照射は特に厚板の金属材を接合する場合に有利である。なお、本実施形態では、第一金属2にレーザ照射を行う例を代表として記載する。
【0053】
また、被接合界面を樹脂材6のガラス転移温度以上に昇温することで、当該接合界面から水を除去することもできる。例えば、接着剤を用いて得られた接合界面のように、接合界面に水が存在する場合は使用環境が氷点下になると継手特性が大幅に低下する。これに対し、本発明の金属材の接続方法では接合界面から水を除去することができるため、当該継手特性の低下を効果的に抑制することができる。
【0054】
また、被接合界面の昇温によって樹脂材6が分解し、当該樹脂材6由来のカルボキシル基が生成される。一方で、第一金属材2及び第二金属材4においては新生面を被覆(保護)していたカルボン酸が除去され、活性な新生面が露出する。
【0055】
なお、被接合界面の温度上昇が小さな場合は、上述した新生面の露出やカルボキシル基の生成が不十分になり、接合界面の強度を十分に高くすることができず、被接合界面の温度上昇が過剰な場合は、第一金属材2及び第二金属材4から樹脂材6が剥離し、接合界面の形成不良を生じることになる。よって、レーザ照射に用いるレーザ出力、走査速度及び焦点距離等のプロセスパラメータを制御することにより、適当な加熱条件を選択することが好ましい。
【0056】
続いて、被接合界面をガラス転移温度未満に冷却し、カルボキシル基と新生面とを化学結合することにより接合部を形成する。より具体的には、被接合界面をガラス転移温度未満に冷却することにより、第一金属材2及び第二金属材4の最表面に形成された新生面と、樹脂材6由来のカルボキシル基と、が化学結合する。この結果、樹脂材6/第一金属材2界面及び樹脂材6/第二金属材4界面の双方で極めて強固な金属樹脂直接接合が達成され、第一金属材2と第二金属材4とを間接的に接合する接合部を形成することができる。
【0057】
反応性を有する官能基同士を結合させる従来の金属樹脂接合方法と比較して、本実施形態における金属材の接合方法では金属樹脂間の結合サイト数が大幅に増加するため、接合部の強度を飛躍的に高めることができる。
【0058】
なお、第二工程(S02)による接合部形成中及び/又は接合部形成直後に接合部を加圧することが好ましい。接合部形成中に加圧を行う場合は、例えばレーザを透過可能な略透明の押圧部材等を用いて第一金属材2及び第二金属材4の両側から圧力を印加すればよく、接合部形成直後の加圧を行う場合は、単純に第一金属材2及び第二金属材4の両側から圧力を印加すればよい。なお、予備処理としてレーザ照射による酸化処理を用いた場合であっても、当該加圧による効果は同様である。
【0059】
本実施形態における金属材の接合方法によって得られる接合部は十分に高い強度を有しているが、加圧工程を加えることで、品質のばらつきを小さくすることができる。当該加圧により、例えば、レーザ照射による被接合界面の昇温時において樹脂材6の内部に導入される気泡を外部に移動させることができ、より信頼性の高い接合部を得ることができる。更に、当該加圧によって軟化した樹脂材6が第一金属材2及び第二金属材4の熱影響部の範囲を超えて広がることから、樹脂材6と、第一金属材2及び第二金属材4と、の接合界面を拡大することができる。
【0060】
なお、被接合界面において、溶融した樹脂材6が僅かにでも存在する場合、当該溶融樹脂材6が加圧によって被接合界面に濡れ広がり、溶融温度よりも低い部位についても接合が達成される。加圧は1.40~1.85MPaとすることが好ましく、1.70~1.85MPaとすることがより好ましい。加圧を0.25MPa以上とすることで、気泡の低減(移動)に効果があり、1.85MPa以下とすることで、接合部における樹脂材6が薄くなり過ぎることを抑制することができる。
【0061】
(2)金属接合体
本実施形態における金属接合体8の概略断面図を図3に示す。金属接合体8は、第一金属材12(一方の金属材)と第二金属材14(他方の金属材)との重ね接合部材であって、第一金属材12と第二金属材14との接合界面に樹脂材16(樹脂層)が存在し、樹脂材16と第一金属材12が直接接合されており、樹脂材16と第二金属材14が直接接合されており、接合部の引張試験において第一金属材12及び/又は第二金属材14が伸長すること、を特徴とするものである。金属接合体8は、樹脂材16と第一金属材12が直接接続され、また樹脂材16と第二金属材14が直接接続されることにより第一金属材12と第二金属材14が間接接続されたものであり、接合部に接着剤やリベット等は使用されていない。金属接合体8は、上述した本実施形態における金属材の接合方法によって好適に製造することができる。
【0062】
従来公知の接合方法を用いて樹脂材と金属材とを直接接合する場合、接合界面の強度が十分ではなく、接合部の引張試験において金属材が伸長することはない。これに対し、本実施形態では接合部における接合界面の強度が高く、引張試験において第一金属材12及び/又は第二金属材14が伸長する程度の高い接合強度を有する。
【0063】
第一金属材12及び第二金属材14としては、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の金属材を用いることができ、例えば、ステンレス鋼や炭素鋼を含む各種鋼材、純チタン、チタン合金、ニッケル-チタン合金等の形状記憶合金、亜鉛めっき鋼材、アルミニウム合金、マグネシウム合金等を用いることができる。
【0064】
また、樹脂材16としては、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の樹脂材を用いることができるが、ポリアミド樹脂(PA)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、フッ素樹脂(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(PP)及びポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)のうちの何れかを用いることが好ましい。
【0065】
また、金属接合体8においては、接合部の引張試験において第一金属材12及び/又は第二金属材14が破断すること、が好ましい。金属接合体8は接合界面の強度が極めて高いことから、第一金属材12及び/又は第二金属材14が伸長後に破断に至る程度の極めて高い接合強度を有する。
【0066】
また、金属接合体8においては、第一金属材12及び/又は第二金属材14が鋼材又はチタン材であること、が好ましい。第一金属材12及び/又は第二金属材14を鋼材とすることで安価かつ強固な金属接合体8を実現することができ、チタン材とすることで軽量かつ強固な金属接合体8を実現することができる。なお、金属接合体8では、第一金属材12及び/又は第二金属材14が鋼材又はチタン材であっても、引張試験においてこれらの金属が伸長する程に強固な接合界面を有しており、場合によっては破断に至る程に接合部の信頼性が高い。
【0067】
また、接合工程に加圧を有する場合、樹脂材16/第一金属材12接合界面及び樹脂材16/第二金属材14接合界面との接合界面は熱影響部の外側にまで広がっている。従来の金属材と樹脂材の直接接合体においては、接合されている領域は熱影響部の内側であるが、加圧によってより広い面積で接合が達成されるため、高い接合強度及び信頼性を実現することができる。
【0068】
金属接合体8の接合部においては、接合領域に存在する気泡の最大直径が0.1mm未満であること、が好ましい。気泡の最大直径が0.1mm未満であることから、当該気泡は継手特性に殆ど影響を及ぼすことがなく、金属接合体8は極めて良好な機械的特性を有している。また、目視では接合部の気泡を明瞭に確認することができないことから、接合部に欠陥が存在することによるイメージの低下を抑制することができる。
【0069】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0070】
≪実施例1≫
第一金属材としてSPCC鋼板(25mm×100mm×0.6mm)、第二金属材としてA5052アルミニウム合金板(25mm×100mm×1.0mm)、樹脂材としてポリアミド樹脂(東レフィルム加工社製レイファン)フィルム(25mm×15mm×100μm)を用い、レーザ照射によるSPCC鋼板/ポリアミド樹脂フィルム/A5052アルミニウム合金板の重ね接合を行った。なお、レーザ照射にはレーザライン社製の半導体レーザを用い、ビームサイズ:40mm×6mm、走査速度:2mm/秒にて、SPCC板及びアルミニウム合金板それぞれの表面を照射した。SPCC板側への照射では出力を410Wとし、A5052アルミニウム合金板側への照射では出力を1150Wとした。
【0071】
接合の予備処理として、シュウ酸濃度10%の電解液を用い、電解時間を5分としてSPCC鋼板及びA5052合金板にシュウ酸電解処理を施した(表面処理工程)。次に、ポリアミド樹脂フィルムを介してシュウ酸電解処理後のSPCC鋼板とA5052合金板を図4に示す状態に重ね合わせて被接合界面を形成し(第一工程)、SPCC鋼板側からレーザ照射を行って被接合界面の温度をポリアミド樹脂のガラス転移温度以上に昇温した後、空冷によって当該ガラス転移温度未満に冷却(第二工程)することにより実施金属接合体を製造した。
【0072】
また、上記工程で製造した実施金属接合体に対し、図5に示す態様で引張試験を行った。引張試験後の代表的な試験片の概観写真を図6に示す。SPCC鋼板が伸長し、破断に至っていることが確認できる(破断強度は5665N)。なお、接合部は健全な状態を保っている。実施例1に対する引張試験の結果から、SPCC鋼板が破断及び/又は伸長する程度に高い接合強度を有する金属接合体が得られていることが分かる。
【0073】
≪実施例2≫
第一金属材としてSUS304板(25mm×100mm×0.5mm)、第二金属材として純チタンJIS2種板(25mm×100mm×0.5mm)、樹脂材としてポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ社製トレリナ)フィルム(25mm×15mm×100μm)を用い、レーザ照射によるSUS304板/ポリフェニレンサルファイド樹脂フィルム/純チタンJIS2種板の重ね接合を行った。なお、レーザ照射にはレーザライン社製の半導体レーザを用い、ビームサイズ:40mm×6mmでSUS304板表面(非界面)の温度が380℃一定となるようにレーザ出力制御を行ない、走査速度は0.5mm/秒とした。この際、SUS304とポリフェニレンサルファイド樹脂フィルムの界面温度は350~380℃であり、純チタンJIS2種とポリフェニレンサルファイド樹脂フィルムの界面温度は230~260℃であった。なお、本実施例においては、SUS304板表面にのみレーザを照射した。
【0074】
ここで、接合の前処理として、SUS304板及び純チタンJIS2種板の表面に短パルスレーザを照射して微細な酸化物粒子を生成させた。当該処理による表面状態の一例として、SUS304板表面のSEM写真を図7及び図8に示す。SUS304板表面は粒径が1~100nmの酸化物粒子で被覆されており、微細かつ複雑な三次元構造を有していることが分かる。
【0075】
実施例1と同様の方法で引張試験を行ったところ、純チタンJIS2種板が伸長の後、4985Nにて破断した。当該結果より、SUS304板/ポリフェニレンサルファイド樹脂フィルム/純チタンJIS2種板は極めて強固に接合されていることが分かる。
【0076】
≪実施例3≫
第一金属材としてSUS304板(25mm×100mm×0.5mm)、第二金属材として純チタンJIS2種板(25mm×100mm×0.5mm)、樹脂材としてポリエチレンテレフタレート樹脂(東レ社製ルミラー)フィルム(25mm×15mm×11μm)を用い、レーザ照射によるSUS304板/ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム/純チタンJIS2種板の重ね接合を行った。なお、レーザ照射にはレーザライン社製の半導体レーザを用い、ビームサイズは40mm×6mmとしてSUS304板表面にのみレーザを照射した。
【0077】
SUS304板表面(非界面)の温度が430℃一定となるようにレーザ出力制御を行ったところ、得られた金属接合体の引張せん断強度は725Nとなり、接合部からの剥離となった。また、SUS304板表面(非界面)の温度が325℃一定となるようにレーザ出力制御を行ったところ、得られた金属接合体の引張せん断強度は4795Nとなり、チタンJIS2種板の伸長が認められた。また、SUS304板表面(非界面)の温度が315℃一定となるようにレーザ出力制御を行ったところ、得られた金属接合体の引張せん断強度は1900Nとなり、接合部からの剥離となった。ここで、最も高い強度が得られた条件(SUS304板表面(非界面)の温度が325℃一定)について再度検証したところ、得られた金属接合体の引張せん断強度は565Nで接合部からの剥離となり、強度がばらつく結果となった。樹脂フィルムの膜厚が11μmと薄過ぎることが原因であると考えられる。
【符号の説明】
【0078】
2・・・第一金属材、
4・・・第二金属材、
6・・・樹脂材、
8・・・金属接合体、
12・・・第一金属材、
14・・・第二金属材、
16・・・樹脂材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9