(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】懸濁水濾過システム及びこれに用いられる剥離モジュール
(51)【国際特許分類】
B01D 29/62 20060101AFI20230418BHJP
B01D 29/13 20060101ALI20230418BHJP
B01D 29/50 20060101ALI20230418BHJP
B01D 29/66 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
B01D29/38 580A
B01D29/14 A
B01D29/24 G
B01D29/38 510C
B01D29/38 520Z
(21)【出願番号】P 2019032038
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】310011011
【氏名又は名称】クリアーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中村廣義
(72)【発明者】
【氏名】中村考宏
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-279389(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00908213(EP,A1)
【文献】特開2006-043614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 24/00-35/04
B01D 35/08-37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁水が供給される濾過槽と、前記濾過槽内に設置された、前記懸濁水から懸濁物質を分離する複数のフィルターモジュールと、前記複数のフィルターモジュールで濾過された処理水を濾過槽から排出させる配管と、前記複数のフィルターモジュールに付着した懸濁物質を剥離する剥離モジュールを備える懸濁液ろ過システムであって、
前記複数のフィルターモジュールの各々は、袋状に形成された平膜ろ材と、前記袋状に形成された平膜ろ材の形状を保持する形状保持管と、通水用の空間を保持する空間材と、を含み、互いに所定の間隔をあけて前記濾過槽内に配置され、
前記剥離モジュールは、前記所定の間隔をあけて配置されているフィルターモジュールの間にそれぞれ配置されるフィルター洗浄用配管を複数備え、前記複数のフィルター洗浄用配管の各々は断面が四角形の筒状体であり、その一面に長軸方向に所定の間隔をあけて一対の噴射口を複数設け、一対の噴射口の間に断面がY字となる拡散板が設けられていることを特徴とする懸濁液ろ過システム。
【請求項2】
前記剥離モジュールは前記濾過槽の上部に、その長手方向に沿って移動可能な走行台車に結合されていることを特徴とする、請求項1に記載の懸濁液ろ過システム。
【請求項3】
前記複数の噴射口を介して噴射される洗浄水の前記平膜ろ材における被噴射領域の各々は、互いにオーバーラップする領域を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の懸濁液ろ過システム。
【請求項4】
前記袋状に形成された平膜ろ材は、複数層からなり、上層段から下層段になるに従い、任意の3cm2当たりの平均ポア径が大きくなる構成であることを特徴する請求項1~3に記載の懸濁液ろ過システム。
【請求項5】
前記一対の噴射口より噴射される
洗浄水の噴射はパルス噴射であることを特徴とする請求項1~4のいずれ
かに記載の懸濁液ろ過システム。
【請求項6】
前記一対の噴射口より噴射される洗浄水は気液混合水であることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の懸濁液ろ過システム。
【請求項7】
前記平膜ろ材は、気泡を含む樹脂で被膜されていることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の懸濁液ろ過システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工事現場(河川工事、浚渫工事、下水工事、道路工事)等で排出される懸濁水、工場設備(下水道、化学反応プロセス、無機物・金属研磨、無機物粉砕工程)等で排出される懸濁水、重金属汚水処理工程、放射性汚染物質処理工程、ウォータージェット切断工程、カッター等の切断工程、高炉から取り出されたスラグの冷却工程で排出される懸濁水を浄化するための懸濁水ろ過システムに関する。
【背景技術】
【0002】
懸濁水の個液分離ろ過は、一般的に凝集剤(PAC、硫酸バンド)等で液中の微細粒子からなる懸濁物質(以下、懸濁粒子という。)を凝集させてフロック化(凝集物)させることで、液中に沈殿させ、上澄みの清浄水を排出する凝集沈殿分離処理が一般的に行われている。しかし、この方式の濾過方法では、一定量の凝集剤を懸濁水に投入し、攪拌する必要がある。したがって、凝集剤に要するコストが常に必要になるという経済的な問題がある。また、攪拌し、懸濁粒子が凝集し、液中に沈殿させるプロセスには一定の反応時間を要するため、上記の工事現場や工場設備の運転で生じた懸濁水の処理に十分な処理量を確保しようとすると、どうしても装置が大型化してしまうという問題がある。
【0003】
さらに、凝集剤を用いた個液分離ろ過は、過懸濁水の懸濁物質の最大濃度に合わせて凝集剤を定量投入するように制御されるため、懸濁物質の濃度低下時は、凝集剤は過剰投入となり、余分に投入された凝集剤は上澄みの清浄水に混ざり、そのまま排出されてしまうため、河川に住む魚などに被害を与える等、自然環境に二次公害を引き起こすことが指摘されている。
【0004】
懸濁水の個液分離ろ過を、凝集剤を用いることなく実施する場合は、フィルタで懸濁粒子を液体から分離することになる。懸濁水に含まれる懸濁粒子は、針状や球形状などの様々な形状の粒子の場合もあり、ろ過装置のフィルタは、目詰まりしやすいうえに、フィルタを洗浄すると、その摩耗が激しいという問題があった。
【0005】
例えば、特許文献1には、エッジが鋭角又は円弧状の断面を有する長尺板状のスクレーパを有する剥離機構が、フィルタの外表面に近接して配設させることにより、駆動部によりフィルタを回転させるだけで、スクレーパによりフィルタのろ布表面に付着した懸濁物質を剥離させることが可能となり、ろ過処理中でもフィルタ表面を清掃してろ過の処理能力を略一定に保つことができる懸濁水処理装置及び布表面に付着した懸濁物質を剥離する剥離機構が記載されている。
【0006】
しかしながら、長尺板状のスクレーパからなる剥離機構では、ろ布に付着した、特に、針状の微細な粒子を十分に剥離することが難しく、また、スクレーバをろ布にしっかりと当てる必要があるため、ろ布の消耗が激しく、長期間安定的に大量のスラグの微細粒子を含む懸濁水のろ過装置としては不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、工事現場・工場等で排出される。不定形な微粒子からなる懸濁物質を含む懸濁水の大量処理を、構造が簡単でろ過特性やメンテナンス性に優れ、長期的に安定して運転でき、しかも運転費用を抑えることを可能とする懸濁液ろ過システムを提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するために、化学薬品を使用せず、オープン型の濾過水槽の中にフィルターモジュールを浸漬させ、懸濁水自然ろ過(重力ろ過)を可能とする構造からなるため、凝集剤を不要とし、電気的エネルギーを節約できる経済的なフィルターろ過システムに関するものである。
【0010】
本発明は、フィルターモジュールに付着した懸濁粒子の剥離を本発明にかかるジェット水流で行うため、目詰まりによる濾過処理量の低下を防止しつつフィルターモジュールの長寿命化を図ることを目的とし、さらにはフィルターモジュールを使い捨てにせず、長期間にわたり使用でき、経済的に長期間(数年以上)安定して懸濁水の濾過を実現することを目的とする。
【0011】
本発明にかかる懸濁液ろ過システムは、フィルターモジュールに付着する懸濁粒子が球状若しくは針状など様々な形状からなる粒子の場合に、従来の懸濁液ろ過システムに比べ、長期間にわたり使用でき、経済的に長期間(数年以上)安定して懸濁水の濾過を実現できるという効果を顕著に発揮する。フィルターモジュールに付着する懸濁粒子が球状若しくは針状など様々な形状からなる粒子の場合、従来の方法ではフィルターを傷つけることなく懸濁粒子を均一に剥離することが難しいためである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、懸濁水が供給される濾過槽と、濾過槽内に設置された、懸濁水から懸濁物質を分離する複数のフィルターモジュールと、複数のフィルターモジュールで濾過された処理水を濾過槽から排出させる配管と、複数のフィルターモジュールに付着した懸濁物質を剥離する剥離モジュールを備える懸濁液ろ過システムであって、複数のフィルターモジュールの各々は、袋状に形成された平膜ろ材と、袋状に形成された平膜ろ材の形状を保持する形状保持管と、通水用の空間を保持する空間材と、を含み、互いに所定の間隔をあけて前記濾過槽内に配置され、剥離モジュールは、所定の間隔をあけて配置されているフィルターモジュールの間にそれぞれ配置されるフィルター洗浄用配管を複数備え、複数のフィルター洗浄用配管の各々は複数の噴射口が前記フィルター洗浄用配管の長軸方向に沿って配置され、剥離モジュールは前記濾過槽の上部に、その長手方向に沿って移動可能な走行台車に結合されていることを特徴とする懸濁液ろ過システムが提供される。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、複数のフィルター洗浄用配管の各々は複数の噴射口がフィルター洗浄用配管の長軸方向に沿って互いに対向する2列になるように設けられ、2列で配置された噴射口の各々の位置は千鳥状になるように配置されてもよい。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、複数の噴射口を介して噴射される洗浄水の前記平膜ろ材における被噴射領域の各々は、互いにオーバーラップする領域を有してもよい。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、複数の噴射口の口径は、前記フィルター洗浄用配管の長軸方向において、前記濾過槽の底面に近い噴射口の口径のほうが前記濾過槽の上端に近い噴射口の口径よりも大きく構成されてもよい。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、袋状に形成された平膜ろ材は、複数層からなり、上層段から下層段になるに従い、任意の3cm2当たりの平均ポア径が大きくなる構成であってもよい。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、洗浄水の噴射はパルス噴射であってもよい。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、洗浄水は気液混合水であってもよい。
【0019】
平膜ろ材は、気泡を含む樹脂で被膜されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明にかかる懸濁水ろ過システムの一例の概略図
【
図2】本発明にかかるフィルターモジュールの一例を示す概略図
【
図3】フィルター洗浄用配管に設けられる複数の噴射口がフィルター洗浄用配管の長軸方向に対向する2列に設けられ、2列で配置された噴射口の各々の位置は千鳥状になることを示す概略図
【
図4】フィルター洗浄用配管に設けられる複数の噴射口の一例を示す図
【
図5】フィルター洗浄用配管の各噴射口にノズルを設け、扇状に洗浄水が噴射されることを示す概略図
【
図6】(a)、(b)フィルター洗浄用配管に拡散板を配置した場合の一例を示す概略図
【
図7】フィルター洗浄用配管に配置された拡散板とフィルターモジュールの関係を示す概略図
【
図8】複数の噴射口30より洗浄水が袋状の平膜ろ材22に扇状に噴射されていることを示す図
【
図9】
図8の点線で囲まれた袋状の平膜ろ材22における洗浄水の被噴射領域の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0022】
(本発明にかかる懸濁水ろ過システムの概略)
図1は、本発明にかかる懸濁水ろ過システム10の一例の概略図である。
図1は懸濁水ろ過システム10の説明の便宜のために、濾過槽の中の状態が分かるように記載されている。本発明にかかる懸濁水濾過システム10は、懸濁水が供給される濾過槽8と、濾過槽8内に設置された懸濁水から懸濁物質を分離する複数のフィルターモジュール3と、複数のフィルターモジュールで濾過された処理水を濾過槽から排出させる処理水用の第1配管4と、配管4に備えられるポンプ12と、前記ポンプ12の前に前記処理水用の第1配管4より分岐される処理水用の第2配管13とこれに設けられるバルブ6と、複数のフィルターモジュールに付着した懸濁物質を剥離する剥離モジュール(複数のフィルター洗浄用配管1と、複数のフィルター洗浄用配管1に洗浄水を送るための洗浄水用の配管5と、洗浄水を送るためのポンプ2と、及び濾過槽の上端に設けられた一対のレールを走行することで濾過槽の長手方向に移動可能に構成され、複数のフィルター洗浄用配管1をフィルターモジュール3の長手方向の端部から他端部まで移動させるためのフィルター洗浄用配管駆動部9)と、剥離モジュールに供給される洗浄水を提供する洗浄水管5とこれに備えられるポンプ2、及び濾過槽のV字状に傾斜した底面に溜まった懸濁物質を取り出す懸濁物質排出管7とから構成される。
【0023】
本発明にかかる懸濁水ろ過システムは、自然ろ過(重力ろ過)を行なう。つまり、本発明にかかる懸濁水ろ過システムは、濾過槽の上端から懸濁水を供給し、濾過槽内に互いにほぼ平行に並ぶように配置された複数のフィルターモジュールを懸濁水に浸漬させ、複数のフィルターモジュールにより処理された処理水を取り出す取水口部を懸濁水の水面より下方に配置することにより、その水圧差だけで自然流下させ取水口部からろ過された浄化水を取り出すことで、自然ろ過(重力ろ過)を行なうものである。したがって、低消費エネルギーで長く安定的に動作することができる懸濁水ろ過システムである。
【0024】
さらに本発明によれば、ポンプ吸引ろ過も可能である。複数のフィルターモジュールで濾過された処理水を濾過槽から排出させる処理水用の第1配管4に備えられるバルブ6の前に処理水用の第1配管4より分岐される処理水用の第2配管13とこれに設けられるポンプ12とを有するためである。ポンプ12は、処理水用の第1配管4に流す水量(流量)を調整可能である。ポンプ12により、流量を自然に流れる流量よりも大きくなるように調整することで、電気エネルギーを消費することになるが、濾過量を増やすことが可能となる。
【0025】
以下、本発明にかかる懸濁水ろ過システムの各構成について説明する。
【0026】
(フィルターモジュール)
図2は、フィルターモジュール3の一例を示す概略図である。なお、説明の便宜上、
図2のA-A’を境に一方を袋状の平膜ろ材、他方をフィルターモジュール3の内部構造を示している。フィルターモジュール3は、フィルターモジュール3の骨格ともなる形状保持管21と、形状保持管21を囲むように袋状に形成された平膜ろ材22と、形状保持管21の内側に設けられ、平膜ろ材22を通過することで濾過された処理水の通水用の空間を保持する空間材23とを含む。フィルターモジュール3は要求される懸濁水の処理能力に応じて複数用意され、
図1に示すように、濾過槽内に互いにほぼ平行に並ぶように等間隔で配置される。
【0027】
互いに隣接し合うフィルターモジュール3同士の間隔を狭くすると、濾過槽8内に設置できるフィルターモジュール3の数を増やすことができるため、濾過面を増やすことができる。しかしながら、互いに隣接し合うフィルターモジュール間の間隔は、ろ過水槽内を流れる懸濁水の流動抵抗に関係するため、フィルターモジュール3同士の間隔を狭くすると、ろ過水量が減少する傾向になるため、これらの要素を考慮して濾過槽8内に配置するフィルターモジュール3の数を決定するとよい。
【0028】
(平膜ろ材)フィルターモジュール3に用いられる平膜ろ材は、合成繊維などからなる織布又は不織布であって、これに設けられる空孔(ポア)の大きさは1~20μmである。特に3~8μmの空孔が好ましい。また、平膜ろ材は、複数層を積層した構造とする場合、空孔(ポア)の大きさを、上層段から下層段になるに従い、平均ポア径が大きくなる構成が望ましい。ここで、平均ポア径は、積層構造のろ材の任意の断面を切り出し、該断面の任意の箇所を倍率が10000倍に設定された走査電子顕微鏡の観察面で観察される空孔(ポア)の大きさの平均値で評価する。
【0029】
合成繊維などからなる織布又は不織布の素材としては、長期間の使用に耐えられる強度のある素材が望ましい。例えば、合成繊維としては、太さが0.1~20μm程度のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール系、ポリフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、酢酸ビニル、四フッ化エチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、などが挙げられる。
【0030】
平膜ろ材は、合成繊維などからなる織布又は不織布からなる平膜ろ材の最表面(懸濁水に接する面、別の言い方をすると、濾過面)、若しくは織布又は不織布を複数積層した構造の平膜ろ材の最表面を、気泡を含む樹脂で被膜してもよい。気泡は相対的に長径が大きい気泡と相対的に長径が小さい気泡が混在し、気泡同士は互いに連結するように構成されることで、気泡を含有する層の上面と下面を連通した構造とするのが望ましい。このように、平膜ろ材の最表面を気泡を含む樹脂で被膜することで、平膜ろ材の濾過面に、懸濁粒子を付着しにくくし、さらに剥離モジュールにより濾過面に付着した懸濁粒子、特に針状の懸濁粒子を剥離する際に生じてしまう摩耗に対する耐性を高めることが可能となる。
【0031】
気泡を含む樹脂の材料は、たとえば、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0032】
また、平膜ろ材の最上層の表面(最表面)をイオン交換樹脂で被膜してもよい。懸濁水に含まれる懸濁物質の中には帯電した状態のものがあり、平膜ろ材の最上層の表面を懸濁物質の正負の帯電状態に合わせて適宜イオン交換樹脂を選択し、これを平膜ろ材の最上層の表面に被膜することで、懸濁粒子の平膜ろ材への付着を効果的に防止することが可能となる。
【0033】
イオン交換樹脂としては、例えば、ジビニルベンゼンで架橋したポリスチレンなどの母体合成樹脂にフェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基など酸性基を結合させた高分子酸からなる陽イオン交換樹脂や、母体合成樹脂にアミノ基、イミノ基、アンモニウム基などの塩基性基を結合させた高分子塩基からなる陰イオン交換樹脂が挙げられる。
【0034】
(袋状の平膜ろ材)
図2に示すとおり、平膜ろ材22は、平膜の袋状に形成される。後述する略矩形状の形状保持管21の上下に平膜ろ材を重ねて配置し、形状保持管の取水口部24を外部に突出させた状態で、その周囲を縫製する、若しくは加熱圧着するなどの方法で袋状に形成することができる。
【0035】
(形状保持管)
形状保持管21は、例えば、内径の直径が0.5~2.5cmのパイプを略矩形状に形成したものである。前述のとおり、これを覆うように袋状の平膜ろ材22が装着されるため、形状保持管21は、袋状の平膜ろ材22の形状を維持させるための枠材として機能する。
【0036】
形状保持管21の材料としては、例えば、塩化ビニルなどの合成樹脂や金属が挙げられる。
【0037】
形状保持管21には、図示しないが、平膜ろ材に接しない側に取水孔が所定の間隔で複数形成される。袋状の平膜ろ材22の内側の水は濾過面を通過することで濾過された処理水である。取水孔の孔径は1~10mm程度であり、袋状の平膜ろ材22の内側の処理水を抜き取るために形成されている。また、形状保持管21には、袋状の平膜ろ材22の外部に突出して配置され開口部を有する取水口部24が形成される。取水口部24は、濾過槽8内の処理水を濾過槽8から外部に排出させる配管4に接続されている。したがって、形状保持管内に取り込まれた処理水は、取水口部24を介して処理水用の第1配管4からポンプ12経由で吸引排水する。または処理水用の第2配管13とバルブ6を介して自然排水し、最終的には濾過槽8の外部に排出される。
【0038】
袋状の平膜ろ材22は、その材料に起因して可撓性であるため、濾過工程中に袋状の平膜ろ材22内の処理水が通る領域が狭くなってしまうおそれがある。そこで、袋状の平膜ろ材内部の処理水が通るための通水路を確保するために、たとえば、ポリエチレン又はポリアミドなどの合成樹脂や金属を三次元網目構造で構成した空間材23を形状保持管21の内側に設けてもよい。
【0039】
変形例として、形状保持管21は水取孔が複数形成されているため、濾過槽の外部に通じる処理水用の第2配管13にコンプレッサを取り付け、取水口部24から圧縮空気を逆に流すことにより、袋状の平膜ろ材22の濾過面への懸濁粒子の付着による目詰まりを防止して、効率的に懸濁水のろ過処理を行なうようにしてもよい。
【0040】
(剥離モジュール)
剥離モジュールの構成は、
図1に基づいて説明すると、例えば、フィルターモジュール3の幅方向(
図1のX方向)に渡って配置される複数のフィルター洗浄用配管1と、複数のフィルター洗浄用配管1の各々に複数備えられる噴射口(図示しない。)と、複数のフィルター洗浄用配管1に洗浄水を送るための洗浄水用の配管5と、洗浄水を送るためのポンプ2、及び複数のフィルター洗浄用配管1をフィルターモジュール3の長手方向の端部から他端部まで移動可能にするためのフィルター洗浄用配管駆動部9とから構成される。
【0041】
(フィルター洗浄用配管)
フィルター洗浄用配管1の材料としては、塩化ビニルなどの合成樹脂やステンレスなどの金属が挙げられる。フィルター洗浄用配管1は、一端は剥離モジュールに供給される洗浄水を提供する洗浄水管5と連結されて洗浄水が供給される供給口11であり、他端は閉塞した、断面が円形若しくは四角形の筒状体(パイプ形状)である。フィルター洗浄用配管1の長軸方向には一列に並んで設けられた複数の噴射口(図示しない。)が設けられる。フィルター洗浄用配管1の長さは、フィルターモジュール3の濾過面の幅、すなわち、上端と下端に渡って延在する長さにするとよい。
【0042】
フィルター洗浄用配管1は、フィルターモジュール3とフィルターモジュール3の間(所定の間隔をあけて、互いに平行に配置されているフィルターモジュールの間)に配置される。したがって、フィルター洗浄用配管1に形成される複数の噴射口を筒状体(パイプ形状)の長軸方向に2列に向かい合うように設けることが望ましい。一方の列の噴射口から噴射される洗浄水は該噴射口に対向して位置するフィルターモジュール3の濾過面に付着した懸濁粒子を剥離し、他方の列の噴射口から噴射される洗浄水は、該噴射口に対向して位置するフィルターモジュール3の濾過面に付着した懸濁粒子を剥離することが可能となり、効率よくフィルターモジュール3に付着した懸濁粒子の剥離を実現できる。
【0043】
なお、噴射口をフィルター洗浄用配管1の長軸方向に2列に向かい合うように設ける場合、
図3に示すように、一の列に配置される噴射口30と他方の列に配置される噴射口30は千鳥状になるように配置するのが望ましい。2列からなる噴射口30を千鳥状に配置すると、2列からなる噴射口30を互いに対向するように配置する場合に比べ、噴射口から噴射される水の勢いを落とさないことが可能となる。
【0044】
図3は、フィルター洗浄用配管1に設けられる噴射口30の一例である。噴射口30の形状は、円形又は楕円形のいずれでも良い。1つのフィルター洗浄用配管に設けられる複数の噴射口30の大きさは、すべて同じ大きさにしてもよい。噴射口30の大きさは、例えば、1.5mm程度である。噴射口30の大きさは、袋状の平膜ろ材22の濾過面に付着した懸濁粒子を吹き飛ばすのに必要な洗浄液の濾過面への打力を考慮して適宜調整される。濾過面への打力としては、1.0~5.0kg/cm
2が望ましい。
【0045】
フィルター洗浄用配管1は濾過槽8の底面と交差するように配置されるところ、本発明においては、
図4に例示するように、噴射口30の大きさを濾過槽8の上端から下端(底面)に向かうにつれて大きくなるように構成する。例えば、フィルター洗浄用配管1の上端(濾過槽8を参照して特定すると、濾過槽8の上端側)に配置された噴射口30は、1つのフィルター洗浄用配管1に形成されるすべての噴射口の平均口径よりも小さくし、下端(濾過槽8を参照して特定すると、濾過槽8の下端側)に配置される噴射口の口径は該平均口径より大きくし、その間に配置される噴射口の口径を比例的に調整するように構成してもよい。
【0046】
または、フィルター洗浄用配管1を濾過槽8の上端から下端(底面)に渡る領域を上部、中部、下部に3分割し、上部に配置される噴射口の平均口径Aと中部に配置される噴射口の平均口径Bと下部に配置される噴射口の平均口径Cの関係をA<B<Cとしてもよい。
【0047】
洗浄液の噴射圧力は、フィルター洗浄用配管1の下端にいけばいくほど、弱まる傾向がある。本件発明のように、噴射口30の口径を調整すると、フィルター洗浄用配管1の上端から下端にかけて配置される噴射口30から噴射される洗浄液の噴射圧力を下水深水圧の強弱に影響されずに均一化させることが可能となる。
【0048】
フィルター洗浄用配管1から噴射される洗浄液の噴射圧力をフィルター洗浄用配管1の長軸方向に渡って均一になると、袋状の平膜ろ材22の濾過面に付着した懸濁粒子をまんべんなく剥離することが可能となる。
【0049】
ところで、フィルター(濾材)の濾過面に付着した懸濁粒子の剥離にばらつきがある場合、フィルター(濾材)の濾過面に十分に懸濁粒子が剥離されずに残ってしまう領域ができてしまう。懸濁粒子が剥離されずに付着したままの領域は、十分に懸濁粒子が剥離されている領域に比べ懸濁粒子がますます付着しやすくなり、フィルター(濾材)の濾過能力の低下を引き起こす原因にもなる。
【0050】
フィルター洗浄用配管1から噴射される洗浄液の噴射圧力をフィルター洗浄用配管1の長軸方向に渡って均一にすることを可能とする構成を有する本発明にかかる剥離モジュールによれば、フィルター(濾材)を長期的に濾過能力が低下することを防ぐことができるため、長期かつ安定的に懸濁水濾過システムを運転することを可能となる。
【0051】
フィルター洗浄用配管1に設けられる複数の噴射口30の間隔は、複数の噴射口30の口径が同じであれば、等間隔で噴射口30が設けられる。一方、フィルター洗浄用配管1の上端から下端にかけて配置される噴射口30の口径を変える場合は、噴射口30の口径に応じて、袋状の平膜ろ材22における被噴射領域の大きさが変わるので、噴射口30の口径に応じて変動する被噴射領域の大きさを考慮して複数の噴射口30の配置の間隔を決定することが望ましい。
【0052】
例えば、噴射口30が相対的に小さい場合は被噴射領域も相対的に小さくなるため、噴射口が相対的に小さい噴射口同士が配置される間隔は相対的に狭くなり、一方、噴射口30が相対的に大きい場合は被噴射領域も相対的に大きくなるため、噴射口が相対的に大きい噴射口同士が配置される間隔は相対的に大きくなる。
【0053】
図5に示すように、袋状の平膜ろ材22の濾過面における洗浄水の被噴射領域を噴射口30に比べて大きくするために、各噴射口30に洗浄水を扇状に散布するノズル32を配置してもよい。ノズル32を配置した場合、濾過面への打力としては被噴射領域あたり、平均して1.0~5.0kg/cm
2が望ましいが、1.5~2.0kg/cm
2が好適である。
【0054】
また、
図6(a)及び(b)に示すように、ノズル32の代わりに、断面が四角形の筒状体(パイプ形状)からなるフィルター洗浄用配管1の一面に、その長軸方向に所定の間隔をあけて一対の噴射口30を複数設け(2列の噴射口が形成される)、一対の噴射口の間に断面がY字となる拡散板41を設けてもよい。
図7に示すように、断面がY字となる拡散板41により、噴射口30より噴射される洗浄水がフィルター洗浄用配管1を基準に対向して位置する2つのフィルターモジュール3の濾過面に洗浄水を噴射させることが可能となる。
【0055】
このように、噴射口30の各々に対応させて設けたノズルではなく、1枚の板体で構成された拡散板41をフィルター洗浄用配管1の長軸方向にわたって設けた場合、経済的に安価で、しかも、容易にノズルと同等の効果、すなわち、扇状の噴射を得ることが可能となる。特に、噴射口30の口径をフィルター洗浄用配管1の上端から下端にかけて変える構成を採用した場合、噴射口30の口径に合わせてノズルを準備しなくてはならない。しかし、拡散板41であれば、そのような煩わしさもなく、安価にかつ簡便に剥離モジュールを製造することが可能となる。
【0056】
フィルター洗浄用配管1の噴射口から噴射される洗浄水は、パルス噴射(噴射口から間欠的に洗浄水をパルス噴射)させてもよい。パルス噴射することで、衝撃波を発生することが可能となり、袋状の平膜ろ材22の濾過面の懸濁粒子の剥離効果を向上させると共に、洗浄水の節水も可能となる。パルス噴射は、特に、懸濁粒子が針状の場合に効果的である。
【0057】
フィルター洗浄用配管1の噴射口30から噴射される洗浄水は、気液混合水であってもよい。気液混合水は、
図1において、洗浄水を送るためのポンプ2と洗浄水を送るための洗浄水用の配管5との間に、空気を供給するための空気供給部と、洗浄水に空気を溶解させる気泡溶解部と、気泡溶解部内を加圧して洗浄水に空気の溶解を促進させる加圧ポンプを備えることで、生成することが可能となる。
【0058】
図8は、複数の噴射口30より洗浄水が袋状の平膜ろ材22に扇状に噴射されていることを示す図であり、
図9は、
図8の点線で囲まれた袋状の平膜ろ材22における洗浄水の被噴射領域の一例を示す図である。
図8又は
図9に示すように、被噴射領域50の各々は互いにオーバーラップする領域51を有するようにしてもよい。例えば、ノズル32または拡散板41を用いた場合、洗浄水は扇状に噴射される。扇状に噴射された場合、扇状の端部は、被噴射面に対し、水量も打力も落ちてしまう一方、その中心部は打力も水量も相対的に大きくなり、全体として被噴射面に対する洗浄水の打力が不均一になってしまう。そこで、
図8及び
図9に示すように、ノズル32または拡散板41から噴射される洗浄水の袋状の平膜ろ材における被噴射領域の各々を互いに一部オーバーラップさせることで、被噴射面への水量及び打力の均一化を図ることが可能となる。被噴射面への水量及び打力の均一化は、ろ材の濾過面に付着した懸濁粒子をまんべんなく剥離することが可能となり、長期かつ安定的に懸濁水濾過システムを運転することを可能とする。
【0059】
フィルター洗浄用配管1には、さらに袋状の平膜ろ材22の濾過面に付着した懸濁粒子を取り除くためのブラシやスクレーバなどを、洗浄水の噴射を阻害しない場所に補助的に設けてもよい。ところで、ブラシやスクレーバなどが、袋状の平膜ろ材22の濾過面に当接する程度で袋状の平膜ろ材22の濾過面の摩耗の程度が変わる。ブラシやスクレーバなどの先端が袋状の平膜ろ材22の濾過面に触れる程度にすると、袋状の平膜ろ材22の濾過面を摩耗させることなく、洗浄水による懸濁物質の剥離効果をより高めることが可能となり、特に針状若しくは球形状などの様々な形状の懸濁粒子を効果的に平膜ろ材22の濾過面から剥離することが可能となる。
【0060】
(フィルター洗浄用配管駆動部9)フィルター洗浄用配管駆動部9は、たとえば、
図1に示すように、濾過槽の上部に、濾過槽8の長手方向に配置された一対のレールの上を動力伝達機(モーター駆動、チェーン、ワイヤー、油圧シリンダ、水圧シリンダ、ラックピニオン、ボールスプライン等)の駆動により移動する走行台車から構成されてもよい。
【0061】
走行台車の幅は少なくとも一対のレールの幅に応じたものとするのが望ましい。また、走行台車には洗浄水管5から供給される洗浄水を各フィルター洗浄用配管1に分配するための分配管、それを制御する電磁弁が設けられる。剥離モジュールが走行台車に結合されることで、フィルターモジュール3の間に配置された剥離モジュールはフィルターモジュール3の濾過面に沿ってその移動可能となり、フィルターモジュール3の濾過面に付着した懸濁粒子をまんべんなく剥離することが可能となる。
【0062】
走行台車は、タイマーなどで制御されて、定期的に往復動するように構成してもよい。
【0063】
以上のとおり、本発明にかかる懸濁液ろ過システムによれば、工事現場(河川工事、浚渫工事、下水工事、道路工事)等で排出される懸濁水、工場設備(下水道、化学反応プロセス、無機物・金属研磨、無機物粉砕工程)等で排出される懸濁水、重金属汚水処理工程、放射性汚染物質処理工程、ウォータージェット切断工程、カッター等の切断工程、高炉から取り出されたスラグの冷却工程で排出される懸濁水の大量処理を、構造が簡単でろ過特性やメンテナンス性に優れ、長期的に安定して運転でき、しかも運転費用を抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1 フィルター洗浄用配管
2 洗浄水を送るためのポンプ
3 フィルターモジュール
4 処理水を濾過槽から排出させる配管
5 洗浄水用の第1配管
6 バルブ
7 懸濁物質排出管
8 濾過槽
9 フィルター洗浄用配管駆動部
10 懸濁水ろ過システム
11 供給口
13 洗浄水用の第2配管
12 ポンプ
21 形状保持管
22 袋状に形成された平膜ろ材
23 空間材
24 取水口部
30 噴射口
32 ノズル
41 拡散板
50 袋状の平膜ろ材22における被噴射領域
51 袋状の平膜ろ材22における被噴射領域のオーバーラップ領域