(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】樹脂系耐火性組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/06 20060101AFI20230418BHJP
C08L 23/28 20060101ALI20230418BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230418BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20230418BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20230418BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C08L23/06
C08L23/28
C08K3/04
C08K3/32
C08K3/34
E04B1/94 N
(21)【出願番号】P 2019079349
(22)【出願日】2019-04-18
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000101905
【氏名又は名称】イイダ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】加藤 涼
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-053253(JP,A)
【文献】特開2017-174551(JP,A)
【文献】特開2018-123345(JP,A)
【文献】特開2015-078344(JP,A)
【文献】特開2016-074193(JP,A)
【文献】特開2012-172052(JP,A)
【文献】特開2017-226965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
E04B 1/62-1/99、2/56-2/70、2/88-2/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂系耐火性成形体を成形する用途に用いられる樹脂系耐火性組成物であって、
低密度ポリエチレンと、塩素化ポリエチレンと、熱膨張性黒鉛とを含有し、
前記低密度ポリエチレンと前記塩素化ポリエチレンとの合計の質量部を100質量部としたときの前記低密度ポリエチレンと前記塩素化ポリエチレンとの質量比は、60:40~75:25の範囲内であり、
前記熱膨張性黒鉛の含有量は、前記低密度ポリエチレンと前記塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、3質量部以上、20質量部以下の範囲内である、樹脂系耐火性組成物。
【請求項2】
前記低密度ポリエチレンのメルトマスフローレートは、JIS K7210に準拠して温度150℃、荷重7.06kgの条件下で測定される値において、10g/10分以上、70g/10分以下の範囲内であり、
前記塩素化ポリエチレンのメルトマスフローレートは、JIS K7210に準拠して温度180℃、荷重21.6kgの条件下で測定される値において、1g/10分以上、130g/10分以下の範囲内である、請求項1に記載の樹脂系耐火性組成物。
【請求項3】
ポリリン酸アンモニウムをさらに含有し、
前記ポリリン酸アンモニウムの含有量は、前記低密度ポリエチレンと前記塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、15質量部以上、25質量部以下の範囲内である、請求項1又は請求項2に記載の樹脂系耐火性組成物。
【請求項4】
ハイドロタルサイトをさらに含有し、
前記ハイドロタルサイトの含有量は、前記低密度ポリエチレンと前記塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、1質量部以上、5質量部以下の範囲内である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の樹脂系耐火性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂系耐火性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、壁、床、筐体等に形成された区画貫通部に、配線や配管材等の挿通部材が挿通された構造が知られている。このような区画貫通部と挿通部材との間には、ゴム系耐火性成形体が配置される場合がある(特許文献1参照)。ゴム系耐火性成形体は、火災の際に区画貫通部の内周面と挿通部材との間で熱膨張することで、区画貫通部を通じた炎や煙等の拡散を抑える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなゴム系耐火性成形体の製造には、加硫工程が必要となる。この点、樹脂系耐火性成形体の製造では、例えば、加硫工程を省略できる等、製造工程を簡略化することが可能となる。ところが、樹脂系耐火性成形体における柔軟性は、ゴム系耐火性成形体よりも劣る傾向となる。このような樹脂系耐火性成形体における柔軟性を高めようとすると、成形材料である樹脂系耐火性組成物の粘度が低くなるため、この組成物から樹脂系耐火性成形体を成形する際の成形性の確保が困難となる。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、樹脂系耐火性成形体を成形する成形性と、樹脂系耐火性成形体における柔軟性とを好適に確保することを可能にした樹脂系耐火性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する樹脂系耐火性組成物は、樹脂系耐火性成形体を成形する用途に用いられる樹脂系耐火性組成物であって、低密度ポリエチレンと、塩素化ポリエチレンと、熱膨張性黒鉛とを含有し、前記低密度ポリエチレンと前記塩素化ポリエチレンとの合計の質量部を100質量部としたときの前記低密度ポリエチレンと前記塩素化ポリエチレンとの質量比は、60:40~75:25の範囲内であり、前記熱膨張性黒鉛の含有量は、前記低密度ポリエチレンと前記塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、3質量部以上、20質量部以下の範囲内である。
【0007】
上記樹脂系耐火性組成物において、前記低密度ポリエチレンのメルトマスフローレートは、JIS K7210に準拠して温度150℃、荷重7.06kgの条件下で測定される値において、10g/10分以上、70g/10分以下の範囲内であり、前記塩素化ポリエチレンのメルトマスフローレートは、JIS K7210に準拠して温度180℃、荷重21.6kgの条件下で測定される値において、1g/10分以上、130g/10分以下の範囲内であることが好ましい。
【0008】
上記樹脂系耐火性組成物は、ポリリン酸アンモニウムをさらに含有し、前記ポリリン酸アンモニウムの含有量は、前記低密度ポリエチレンと前記塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、15質量部以上、25質量部以下の範囲内であることが好ましい。
【0009】
上記樹脂系耐火性組成物は、ハイドロタルサイトをさらに含有し、前記ハイドロタルサイトの含有量は、前記低密度ポリエチレンと前記塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、1質量部以上、5質量部以下の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂系耐火性成形体を成形する成形性と、樹脂系耐火性成形体における柔軟性とを好適に確保することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、樹脂系耐火性組成物の実施形態について説明する。
樹脂系耐火性成形体を成形する用途に用いられる樹脂系耐火性組成物は、低密度ポリエチレンと、塩素化ポリエチレンと、熱膨張性黒鉛とを含有する。
【0012】
<低密度ポリエチレン>
低密度ポリエチレンは、高圧法で製造されるものであって、長く多数の側鎖を有する長鎖分岐構造を有する。そのため、低密度ポリエチレンは、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレン等に比して柔軟性のある成形体を形成するのに好適である。低密度ポリエチレンの密度は、0.910g/cm3以上、0.930g/cm3未満であることが好ましい。
【0013】
低密度ポリエチレンのメルトマスフローレート(MFR)は、JIS K7210に準拠して温度150℃、荷重7.06kgの条件下で測定される値において、10g/10分以上、70g/10分以下の範囲内であることが好ましい。低密度ポリエチレンのメルトマスフローレートは、20g/10分以上であることがより好ましく、さらに好ましくは35g/10分以上である。低密度ポリエチレンのメルトマスフローレートは、60g/10分以下であることがより好ましく、さらに好ましくは50g/10分以下である。
【0014】
<塩素化ポリエチレン>
塩素化ポリエチレンは、ポリエチレンの骨格に塩素を付加させた樹脂である。塩素化ポリエチレンは、低密度ポリエチレンとの相溶性が良好なため、組成物を調製する際の原材料の混練時間を短縮することができる。また、塩素化ポリエチレンは、低密度ポリエチレンよりも優れた柔軟性を有するため、樹脂系耐火性成形体の柔軟性を高めることができる。
【0015】
塩素化ポリエチレンのメルトマスフローレートは、JIS K7210に準拠して温度180℃、荷重21.6kgの条件下で測定される値において、1g/10分以上、130g/10分以下の範囲内であることが好ましい。塩素化ポリエチレンのメルトマスフローレートは、5g/10分以上であることがより好ましく、さらに好ましくは10g/10分以上である。塩素化ポリエチレンのメルトマスフローレートは、100g/10分以下であることがより好ましく、さらに好ましくは70g/10分以下である。
【0016】
<熱膨張性黒鉛>
熱膨張性黒鉛は、鱗片状黒鉛等の黒鉛の層に化学物質が挿入されたものである。熱膨張性黒鉛は、火災などの熱によって化学物質が膨張することで、不燃性の膨張体を形成する。すなわち、熱膨張性黒鉛を含有する樹脂系耐火性成形体は、耐火性能を発揮する。
【0017】
熱膨張性黒鉛の粒度は、30メッシュ以上、230メッシュ以下であることが好ましい。熱膨張性黒鉛の粒度が30メッシュ以上の場合、樹脂系耐火性成形体を成形する成形性をより高めることができる。熱膨張性黒鉛の粒度が230メッシュ以下の場合、熱膨張性黒鉛の膨張倍率を向上させることができる。熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は、例えば、150~250℃である。
【0018】
<主要材料の含有量>
樹脂系耐火性組成物中において、低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの合計の質量部を100質量部としたときの低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの質量比は、60:40~75:25の範囲内である。すなわち、樹脂系耐火性組成物中において、低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの合計の質量部を100質量部としたとき、塩素化ポリエチレンの含有量は、25質量部以上、40質量部以下の範囲内である。
【0019】
低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの質量比において、塩素化ポリエチレンの質量比が40よりも大きい場合、樹脂系耐火性組成物の粘度が低くなり、樹脂系耐火性成形体を成形するための成形性を確保することができない。低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの質量比において、塩素化ポリエチレンの質量比が25より小さい場合、樹脂系耐火性成形体が硬質化し、樹脂系耐火性成形体の柔軟性を確保することができない。
【0020】
樹脂系耐火性組成物中の熱膨張性黒鉛の含有量は、低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、3質量部以上、20質量部以下の範囲内である。
樹脂系耐火性組成物中の熱膨張性黒鉛の含有量が、低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、3質量部未満の場合、樹脂系耐火性成形体を成形する成形性と、樹脂系耐火性成形体における柔軟性とを確保することができない。樹脂系耐火性組成物中の熱膨張性黒鉛の含有量が、低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、20質量部を超える場合、樹脂系耐火性成形体を成形する成形性と、樹脂系耐火性成形体における柔軟性とを確保することができない。
【0021】
樹脂系耐火性組成物中において、低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの合計の含有量は、40質量%以上、97質量%以下の範囲内であることが好ましい。この合計の含有量が40質量%以上の場合、樹脂系耐火性成形体を成形する成形性と、樹脂系耐火性成形体における柔軟性とをより高めることができる。この合計の含有量は、55質量%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは65質量%である。この合計の含有量は、90質量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは85質量%以下である。
【0022】
<難燃剤>
樹脂系耐火性組成物には、必要に応じて難燃剤を含有させることもできる。難燃剤としては、例えば、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤等が挙げられる。リン系難燃剤としては、例えば、リン酸アミン塩、ポリリン酸アンモニウム、リン酸エステル、ホスファゼン、ホスフォン酸エステル、ホスフィン酸金属塩、赤燐等が挙げられる。窒素系難燃剤としては、メラミン、メラミンシアヌレート等が挙げられる。ハロゲン系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0023】
樹脂系耐火性組成物は、リン系難燃剤を含有することが好ましい。樹脂系耐火性組成物中におけるリン系難燃剤の含有量は、低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、5質量部以上、50質量部以下の範囲内であることが好ましい。
【0024】
樹脂系耐火性組成物にリン系難燃剤を含有させる場合、リン系難燃剤は、ポリリン酸アンモニウムを含むことがより好ましい。この場合、樹脂系耐火性成形体が熱膨張した膨張体の形状が維持され易くなる。樹脂系耐火性組成物中におけるポリリン酸アンモニウムの含有量は、低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、15質量部以上、25質量部以下の範囲内であることが好ましい。
【0025】
<無機充填材>
樹脂系耐火性組成物には、必要に応じて無機充填材を含有させることもできる。無機充填材としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物が挙げられる。また、他の無機充填材としては、例えば、軽質炭酸カルシウムや重質炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、タルク、クレー、マイカ、シリカ、珪藻土、ガラス繊維、ガラスビーズ、酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、カーボンブラック等が挙げられる。
【0026】
樹脂系耐火性組成物中における無機充填材の含有量は、低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、1質量部以上、100質量部以下の範囲内であることが好ましい。
【0027】
樹脂系耐火性組成物に無機充填材を含有させる場合、無機充填材は、ハイドロタルサイトを含むことが好ましい。ハイドロタルサイトは、比較的少量の配合であっても、樹脂系耐火性成形体が熱膨張した膨張体の形状を維持する効果を十分に発揮する。樹脂系耐火性組成物中におけるハイドロタルサイトの含有量は、低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、1質量部以上、5質量部以下の範囲内であることが好ましい。
【0028】
<上記以外の成分>
なお、樹脂系耐火性組成物には、必要に応じて、例えば、低密度ポリエチレン等の樹脂以外の樹脂、可塑剤、老化防止剤等を含有させることもできる。
【0029】
<樹脂系耐火性組成物の製造方法、及び樹脂系耐火性成形体の製造方法>
樹脂系耐火性組成物は、低密度ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、熱膨張性黒鉛等の原料をタンブラー混合機等の混合機やロール混練機等の混練機を用いて混合することで得られる。取り扱いを容易にするという観点から、樹脂系耐火性組成物を、造粒機を用いて造粒してもよい。
【0030】
樹脂系耐火性成形体は、射出成形法、押出成形法、プレス成形法等の周知の成形法を用いて樹脂系耐火性組成物を成形することで得られる。樹脂系耐火性成形体の形状は、例えば、板状、筒状等、適用箇所に応じて設定することができる。樹脂系耐火性成形体の用途としては、例えば、スイッチボックス等の筐体、壁、床等に形成された区画貫通部に配置する用途、ドアとドア枠との隙間等の構造部材の隙間に配置する用途等が挙げられる。
【0031】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)樹脂系耐火性組成物において、低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの合計の質量部を100質量部としたときの低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの質量比は、60:40~75:25の範囲内である。樹脂系耐火性組成物中における熱膨張性黒鉛の含有量は、低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、3質量部以上、20質量部以下の範囲内である。このように、樹脂系耐火性組成物中に低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンと熱膨張性黒鉛とを含有させることで、樹脂系耐火性成形体を成形する成形性と、樹脂系耐火性成形体における柔軟性とを好適に確保することが可能となる。
【0032】
例えば、樹脂系耐火性組成物中の熱膨張性黒鉛の含有量に対して、塩素化ポリエチレンの含有量が少なすぎると、樹脂系耐火性成形体を成形する成形性と、樹脂系耐火性成形体における柔軟性とのいずれも確保できなくなる。また、樹脂系耐火性組成物中の塩素化ポリエチレンの含有量を増やすことで、樹脂系耐火性組成物中の塩素量を増やすと、熱膨張性黒鉛が熱膨張した膨張体の飛散を抑えることもできる。
【0033】
(2)低密度ポリエチレンのMFRは、上述した条件下で測定される値において、10g/10分以上、70g/10分以下の範囲内であり、塩素化ポリエチレンのMFRは、上述した条件下で測定される値において、1g/10分以上、130g/10分以下の範囲内であることが好ましい。本実施形態の樹脂系耐火性組成物には、上記MFRで規定される流動性を有する低密度ポリエチレン及び塩素化ポリエチレンを好適に用いることができる。
【0034】
(3)樹脂系耐火性組成物中にポリリン酸アンモニウムを含有させる場合、ポリリン酸アンモニウムの含有量は、低密度ポリエチレンと前記塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、15質量部以上、25質量部以下の範囲内であることが好ましい。この場合、樹脂系耐火性成形体が熱膨張した膨張体の形状が維持され易くなり、また、樹脂系耐火性成形体を成形する成形性と、樹脂系耐火性成形体における柔軟性とをより高めることができる。
【0035】
(4)樹脂系耐火性組成物中にハイドロタルサイトを含有させる場合、ハイドロタルサイトの含有量は、低密度ポリエチレンと塩素化ポリエチレンとの合計100質量部に対して、1質量部以上、5質量部以下の範囲内であることが好ましい。この場合、樹脂系耐火性成形体が熱膨張した膨張体の形状が維持され易くなり、また、樹脂系耐火性成形体を成形する成形性と、樹脂系耐火性成形体における柔軟性とをより高めることができる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例及び比較例について説明する。
表1及び表2に示す原材料を、ロール混練機を用いて110℃で5分間混練することで、各例の樹脂系耐火性組成物のサンプルを調製した。表1及び表2中の原材料の配合量を示す数値の単位は、質量部である。
【0037】
表1及び表2中の低密度ポリエチレン(LDPE)及び塩素化ポリエチレン(CPE)の詳細は、以下のとおりである。なお、表1及び表2中のMFRの数値の単位は、「g/10分」である。
【0038】
(A1)LDPE(MFR:48)は、日本ポリエチレン株式会社製、「商品名:ノバテックLD LJ803」であり、密度の代表値は、0.921[g/cm3]である。
(A2)LDPE(MFR:38)は、大豊化学工業株式会社製、「再生LDPE_1」であり、密度は、0.921~0.925[g/cm3]である。
【0039】
(A3)LDPE(MFR:12)は、大豊化学工業株式会社製、「再生LDPE_2」であり、密度は、0.912~0.918[g/cm3]である。
(B1)CPE(MFR:126)は、昭和電工株式会社製、「商品名:エラスレン 303A」であり、密度は、1.10~1.14[g/cm3]である。
【0040】
(B2)CPE(MFR:69)は、昭和電工株式会社製、「商品名:エラスレン 353A」であり、密度は、1.14~1.18[g/cm3]である。
(B3)CPE(MFR:10)は、昭和電工株式会社製、「商品名:エラスレン 302NA」であり、密度は、1.08~1.12[g/cm3]である。
【0041】
(B4)CPE(MFR:1.3)は、昭和電工株式会社製、「商品名:エラスレン 351A」であり、密度は、1.14~1.18[g/cm3]である。
<成形性の評価>
樹脂系耐火性組成物には、押出成形や射出成形する際に、樹脂系耐火性組成物が適度な粘性を有していることが求められる。このため、成形性の評価では、以下のように樹脂系耐火性組成物のサンプルの粘性に関する評価を行った。
【0042】
・成形性の評価(1)
各例の樹脂系耐火性組成物のサンプルを110℃に設定されたロール混練機を用いて5分間混錬することにより調製した際のサンプルの状態から以下の採点基準で採点した。
【0043】
混練中のサンプル及び混練を終了してから5分経過後のサンプルがロール混練機から垂れない場合:3点
混練中のサンプルは、ロール混練機から垂れず、混練を終了してから5分経過後のサンプルがロール混練機から垂れた場合:2点
混練中にサンプルがロール混練機から垂れた場合:1点
・成形性の評価(2)
成形性の評価(1)においてロール混練機を用いた混練の終了時のサンプルの表面状態を観察し、以下の採点基準で採点した。
【0044】
サンプルの表面にヒビや割れが発生しない場合:3点
サンプルの表面にヒビや割れが発生した場合:1点
・成形性の総合評価
上記の成形性の評価(1),(2)で採点した点数の合計点が6点の場合、成形性に優れる(◎)、合計点が5点の場合、成形性が良好(○)、合計点が4点以下の場合、成形性に劣る(×)とする3段階で評価した。その結果を表1及び表2中の「組成物の成形性」欄に示す。
【0045】
<柔軟性の評価>
各例の樹脂系耐火性組成物のサンプルを2mmの厚さとなるように、100℃で熱プレスを行うことで、各例の樹脂系耐火性成形体のサンプルを得た。得られたサンプルを長さ225mm、幅10mmの寸法に切断して各例の試験片を作成した。次に、直径50mmの鉄パイプに試験片を押し当てることで、鉄パイプの外周に沿って180°の角度となるように試験片を変形した。試験片における変形部分の外周面を観察し、ヒビや割れの発生の有無について確認した。さらに、直径30mmの鉄パイプに対して、長さ175mm、幅10mmの試験片を準備し、同様に、試験片における変形部分の外周面を観察し、ヒビや割れの発生の有無について確認した。
【0046】
直径30mmの鉄パイプを用いた試験において試験片にヒビや割れの発生がない場合、柔軟性に優れる(◎)、直径50mmの鉄パイプを用いた試験において試験片にヒビや割れの発生がない場合、柔軟性が良好(○)、直径50mmの鉄パイプを用いた試験において試験片にヒビや割れが発生した場合、柔軟性に劣る(×)とする3段階で評価した。その結果を表1及び表2中の「成形体の柔軟性」欄に示す。
【0047】
【0048】
【表2】
表1及び表2に示すように、各実施例では、組成物の成形性及び成形体の柔軟性のいずれも優れる又は良好の結果が得られた。
【0049】
比較例1の塩素化ポリエチレンの質量比は各実施例よりも低い。この比較例1における成形体の柔軟性は、各実施例よりも劣る結果となった。比較例2の塩素化ポリエチレンの質量比は、各実施例よりも高い。この比較例2における組成物では、上記成形性の評価(1)の点数が1点となる結果であったため、成形性に劣ると判定し、柔軟性の評価については省略した。また、比較例3の熱膨張性黒鉛の含有量は、各実施例よりも高い。この比較例3における組成物の成形性及び成形体の柔軟性のいずれについても、各実施例よりも劣る結果となった。
【0050】
各実施例のうち、MFRが38g/10分以上、48g/10分以下の範囲内であるLDPE及びMFRが10g/10分以上、69g/10分以下の範囲内であるCPEが選択された実施例1~6,9は、実施例7,10に比して柔軟性が良好となる。また、同様にして、実施例1~6,9は、実施例8に比して成形性が良好となる。このように、MFRが38g/10分以上、48g/10分以下の範囲内であるLDPE及びMFRが10g/10分以上、69g/10分以下の範囲内であるCPEを選択することで、実施例1~6,9のように、柔軟性及び成形性がともに優れた組成物が得られるようになる。