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特許7264456養殖魚の集魚装置、それを用いた養殖魚の集魚方法および薬浴処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】養殖魚の集魚装置、それを用いた養殖魚の集魚方法および薬浴処理方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/60 20170101AFI20230418BHJP
   A01K 61/13 20170101ALI20230418BHJP
【FI】
A01K61/60 321
A01K61/13
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019091363
(22)【出願日】2019-05-14
(65)【公開番号】P2020184918
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】岩井 稔諭
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-034996(JP,A)
【文献】実開昭54-027996(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/60
A01K 61/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠部と、前記枠部の内側領域に設けられたシート槽部とを備え、
前記シート槽部は、所定の中空立体形状の低通水性シート部を有し、
前記枠部が角形の生け簀内の水面付近に設置されて前記シート槽部が水中に浸漬した状態において、前記シート槽部は前記枠部の開口よりも小さい開口を枠部近傍に有し、前記生け簀内に区画された前記前記シート槽部内に集魚可能であることを特徴とする養殖魚の集魚装置。
【請求項2】
前記枠部の内側に張られた網部をさらに有し、
前記網部は、その一部が切り取られて形成された開口部を有し、
前記シート槽部は、前記網部の前記開口部の周縁に取り付けられている請求項1に記載の集魚装置。
【請求項3】
前記枠部が、伸縮可能なパイプ材にて四角形に構成されている請求項1または2に記載の集魚装置。
【請求項4】
前記網部の前記開口部が円形または多角形であり、
前記シート槽部が、逆円錐形、逆円錐台形、円柱形または逆角錐形の中空形状を有する請求項2に記載の集魚装置。
【請求項5】
前記シート槽部は、通水部を底部または側部に有している請求項1~4のいずれか1つに記載の集魚装置。
【請求項6】
前記シート槽部の底部に設けられた錘をさらに備えた請求項1~5のいずれか1つに記載の集魚装置。
【請求項7】
前記枠部が、前記生け簀内の水面付近に設置される主枠部と、前記主枠部に連設されて前記生け簀の枠体の一辺に載り上げ可能な延長枠部とを有する請求項1~6のいずれか1つに記載の集魚装置。
【請求項8】
前記延長枠部は、前記延長枠部が前記生け簀の前記枠体の前記一辺に載り上げたときに前記主枠部を前記生け簀内の水面と略平行な状態に支持可能とする折り曲げ部を、前記主枠部との連設部分に有する請求項7に記載の集魚装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つに記載の集魚装置の枠部を、角形の生け簀の一の内側面のみに沿わせた状態に設置する工程と、
前記生け簀内の前記集魚装置における前記枠部の下端を、前記生け簀の前記一の内側面と対向する他の内側面の方へ前記生け簀の底面に沿って移動させる工程と、
前記生け簀内の水面付近まで前記枠部を上昇させ、それによって前記シート槽部内に前記生け簀内の養殖魚を集める工程とを含む養殖魚の集魚方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1つに記載の集魚装置の枠部を、角形の生け簀の一の内側面のみに沿わせた状態に設置する工程と、
前記生け簀内の前記集魚装置における前記枠部の下端を、前記生け簀の前記一の内側面と対向する他の内側面の方へ前記生け簀の底面に沿って移動させる工程と、
前記生け簀内の水面付近まで前記枠部を上昇させ、それによって前記シート槽部内に前記生け簀内の養殖魚を集める工程と、
前記シート槽部内の水中に魚病治療用の薬剤を添加する工程とを含む養殖魚の薬浴処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖魚の集魚装置、それを用いた養殖魚の集魚方法および薬浴処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、養殖魚の魚病の治療を行うために、洋上の生け簀の隣に海水槽を設置し、海水槽中の海水に魚病治療用の薬剤を添加して薬浴槽とし、生け簀内から養殖魚をタモ網ですくい上げて薬浴槽内に養殖魚を移して薬浴処理する方法がとられていたが、養殖魚に傷やストレスを与えて衰弱させてしまうことから、近年では生け簀内で薬浴処理する方法がとられてきている。
【0003】
例えば、特許文献1では、生け簀の外周を透明な合成樹脂膜で覆って生け簀自体を薬浴槽とする方法が提案されている。
また、特許文献2では、生け簀の内周に薬浴用カーテンを吊り下げてその内側領域を薬浴槽とする方法が提案されている。
これら特許文献1および2の方法では、生け簀内の海水量が多量であるため、魚病治療に有効な薬剤濃度とするために必要な薬剤量が多量になってしまう問題があった。また、これらの方法では、生け簀の底部から外部の海水中に薬剤成分が漏れ出て薬剤濃度が低下しやすいため、それを補うために薬剤濃度を高めに設定する場合もあった。
【0004】
そのため、特許文献3では、角形生け簀内の内周面における一面と底面と前記一面の対向面にシート状体を連続状にセットし、シート状体の前記一面側の一端部を生け簀の上縁の枠体に固定し、シート状体の前記対向面側の他端部を船上の巻き上げ機にて巻き上げることにより生け簀内の上部に集魚すると共に、シート状体によって生け簀内の区画された上部に薬剤を添加することにより、生け簀上部を薬浴槽として養殖魚を薬浴処理する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実公昭44-9502号公報
【文献】特開昭54-70999号公報
【文献】特開平6-284835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3の薬浴処理方法では、生け簀上部をシート状体で区画する前段階のシート状体のセット時に複数の重錘、複数の係止リング等が必要となるため、シート状体を含むこれらの設備費用が嵩むと共に、シート状体、複数の重錘、複数の係止リング等のセットに人手と手間と労力がかかるため、漁業者(特に、小規模漁業者)にとっては負担が大きい。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、漁業者へのコスト的および労力的な負担を軽減することができる養殖魚の集魚装置、それを用いた養殖魚の集魚方法および薬浴処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、枠部と、前記枠部の内側領域に設けられたシート槽部とを備え、
前記シート槽部は、所定の中空立体形状の低通水性シート部を有し、
前記枠部が角形の生け簀内の水面付近に設置されて前記シート槽部が水中に浸漬した状態において、前記生け簀内に区画された前記シート槽部内に集魚可能である養殖魚の集魚装置が提供される。
【0009】
また、本発明の別の観点によれば、前記集魚装置を、角形の生け簀の一の内側面に沿わせた状態に設置する工程と、
前記生け簀内の前記集魚装置における前記枠部の下端を、前記生け簀の前記一の内側面と対向する他の内側面の方へ前記生け簀の底面に沿って移動させる工程と、
前記生け簀内の水面付近まで前記枠部を上昇させ、それによって前記シート槽部内に前記生け簀内の養殖魚を集める工程とを含む養殖魚の集魚方法が提供される。
また、本発明の別の観点によれば、前記集魚方法における前記生け簀内の養殖魚を集める工程の後、前記シート槽部内の水中に魚病治療用の薬剤を添加する工程を行う養殖魚の薬浴処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の養殖魚の集魚装置は、枠部と網部とシート槽部とが一体化されたものであり、簡素な構造であるため、低コストにて作製可能であり、養殖魚の薬浴処理作業を行う漁業者に対して設備費の面での負担を軽減することができる。
また、本発明の養殖魚の集魚方法によれば、集魚による養殖魚の衰弱を抑制することができることに加えて、集魚装置の生け簀内へセットから集魚までの工程は、少ない人員により集魚装置を取り扱うことができるため、養殖を営む漁業者に対して作業人員および労力の面での負担を軽減することができる。
また、本発明の薬浴処理方法によれば、生け簀内を集魚装置のシート槽部にて区画した小区画域に魚病治療用の薬剤を添加することができるため、薬剤の使用量を低減することができる。
なお、本発明の集魚装置および集魚方法は、養殖魚の薬浴処理以外に、例えば、養殖魚を小区画域に集めて出荷作業を効率よく行う場合や、赤潮発生及びタンカーからの重油流出等の外的トラブル等で一時的に養殖魚を避難させる場合に用いられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の養殖魚の集魚装置の第1実施形態を示す斜視図である。
図2】第1実施形態の集魚装置を用いた集魚方法を説明する第1の図である。
図3】第1実施形態の集魚装置を用いた集魚方法を説明する第2の図である。
図4】第1実施形態の集魚装置を用いた集魚方法を説明する第3の図である。
図5】本発明の養殖魚の集魚装置の第2実施形態を示す斜視図である。
図6】第2実施形態の集魚装置を用いた集魚方法を説明する第1の図である。
図7】第2実施形態の集魚装置を用いた集魚方法を説明する第2の図である。
図8】第2実施形態の集魚装置を用いた集魚方法を説明する第3の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
図1は本発明の養殖魚の集魚装置の第1実施形態を示す斜視図である。また、図2図4は第1実施形態の集魚装置を用いた集魚方法を説明する第1~第3の図である。
図1図4に示すように、この集魚装置1は、平面視略正方形(角形)の生け簀70内の養殖魚を集魚する際に用いられるものであり、四角形の枠部10と、枠部10の内側に張られた網部20と、網部20に設けられた逆円錐形のシート槽部30とを備える。なお、本実施形態では、シート槽部30が、集魚装置1の使用状態において逆円錐形の中空立体形状を有する場合を例示するが、シート槽部30の中空立体形状は逆円錐形に限定されず、例えば、逆円錐台形、円柱形、半円形、逆角錐形、逆角錐台形、角柱形等であってもよい。
【0013】
本発明の集魚装置1が対象とする角形の生け簀70は、海面に浮上する平面視略正方形の枠体71と、枠体71の内周面に固定されて海中に吊り下げられた略立方体形の生け簀網72とを備え、この生け簀70では、例えば、ブリ、マダイ、カンパチ、ヒラメ、トラフグ等の養殖魚Fが養殖される。なお、これらの養殖魚Fを養殖する生け簀70としては、例えば、縦8m×横8m×深さ8m程度のサイズのものがあるが、本発明の集魚装置1は各種サイズの生け簀に対応可能である。
【0014】
第1実施形態の場合、枠部10は、大径パイプ10a内に小径パイプ10bがスライド可能に挿入されてなる伸縮可能なパイプ材にて平面視略長方形に構成されている。なお、大径パイプ10a内に小径パイプ10bが挿入されたパイプ材は、大径パイプ10aと小径パイプ10bとの間の隙間を空気または水が流通可能に構成されてもよく、あるいは大径パイプ10aに空気または水を流通させる小孔を複数形成してもよく、あるいは前者と後者を組み合わせてもよい。さらに、水深によって伸縮可能なように構成されてもよく、固定された10bパイプに網がスライドするように取り付けてもよい。
【0015】
より詳しく説明すると、枠部10は、角形の生け簀70内に収まる平面視略正方形の主枠部11と、主枠部11に連設された延長枠部12とを有する。
主枠部11は、集魚装置1が生け簀70内に設置された状態(図4参照)において、生け簀70の枠体71の内周部の三辺に沿って配置されるコ字形の部分であり、主枠部11の伸長状態における一辺の最大長さL1は枠体71の内周部の一辺の長さと概ね等しく設定されている。なお、主枠部11のコーナー部は、生け簀70内の隅部との間にできるだけ隙間ができないように丸みを小さく抑えることが好ましい。
【0016】
延長枠部12は、集魚装置1が生け簀70内に設置された状態(図4参照)において、生け簀70の枠体71の一辺に載り上げ可能なコ字形の部分である。
延長枠部12の伸長状態における対向する二辺のそれぞれの最大長さL2と、主枠部11の前記最大長さL1との和は、側方から視た生け簀70の対角線長L3(図3参照)よりも長く設定されている。
また、集魚装置1が生け簀70内に設置された状態(図4参照)のときに主枠部11が水平を保ちやすいように、延長枠部12はその対向する二辺の主枠部11との連設部分に、上方へ向かって折り曲げられた折り曲げ部12aをそれぞれ有している。
【0017】
第1実施形態の場合、主枠部11の各三辺は、両端側に大径パイプ10aが設けられ、両端側の大径パイプ10aの間に小径パイプ10bが配置された構造となっており、図1に示す拡張状態から縮小状態にすると、両端側の大径パイプ10a内に小径パイプ10bが略完全に収納される。これにより、拡張状態の主枠部11の三片の各最大長さL1は、縮小状態においては小径パイプ10bの長さ分短くなり、本実施形態では略半分に短縮する。なお、延長枠部12においても同様の構成とすることができる。
【0018】
大径パイプ10aおよび小径パイプ10bの材質は、海水によって腐食され難い材質であることが好ましく、軽量でかつ高剛性を有する材質であることがさらに好ましい。このような材料としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維を含む繊維強化プラスチック(FRP)が挙げられる。
【0019】
網部20は、養殖魚Fが通過できない大きさの網目を有し、拡張状態の枠部10の内側に複数の締結部材41を介して取り付けられている。この場合、網部20の外周部にて枠部10を上から覆うようにしており、これにより網部20と枠部10との間に隙間を作らないようにしている。
締結部材41としては、例えば、可撓性のテープ、ロープ等を用いることができる。
拡張状態の枠部10の内側に複数の締結部材41を介して網部20が張設されることにより、大径パイプ10a内から小径パイプ10bが抜け出ないようになっている。
また、網部20の外周端部には複数の沈子50がロープを介して取り付けられている。これにより、集魚装置1を生け簀70内にセットする際(図2参照)、集魚装置1が水中に沈みやすくなる。なお、図1では、網部20の外周縁における主枠部11に対応する部分にのみ複数個の沈子50を設けた場合を例示したが、網部20の外周縁における延長枠部12に対応する部分にも沈子50を設けてもよく、沈子50の数は特に限定されるものではない。また、集魚装置1を生け簀70の内側面72aに沿って沈める際の主枠部11の一辺11a側(延長枠部12とは反対側の一辺、図1図2参照)にのみ複数個の沈子50を設けてもよい。
【0020】
また、網部20は、主枠部11に張られた部分に円形の開口部21を有している。
シート槽部30が逆円錐形、逆円錐台形半、円柱形、逆角錐形、逆角錐台形、半球形等である場合の網部20の開口部21のサイズ(直径)は、集魚効率を高める観点から、できる限り大きく設定することが好ましい。なお、シート槽部30が角柱形である場合の網部20の開口部は、シート槽部30内の容積をある程度小さくするために円形の開口部21よりも小さいサイズの正方形とされる。網部20の面積と開口部21の面積との比率としては、例えば、1:0.1~99程度とすることができる。
【0021】
シート槽部30は、網部20の円形の開口部21の周縁に取り付けられた逆円錐台形の低通水性シート部31を有すると共に、低通水性シート部31の下部に縫製、接着、溶着等によって接合された逆円錐形の網状の通水部32にて構成されている。
【0022】
低通水性シート部31は、例えば、低通水性の樹脂シート(樹脂膜)、低通水性の織物またはニット等を素材として用い、1枚以上の素材の接合部分を縫製、接着、溶着等にて接合して逆円錐台形に形成することができる。なお、ここで「低通水性」とは、網部20の通水性よりも低い通水性を意味し、非通水性をも包含する。
低通水性シート部31の上端の円形の開口端縁は、網部20の円形の開口部21の周縁に、例えば、縫製、接着、溶着等によって接合されている。
【0023】
また、この集魚装置1は、図1中の二点鎖線で示すように、主枠部11における延長枠部12とは反対側の一辺の両端部に一対のロープ42の一端をそれぞれ締結すると共に、各ロープ42の他端をリング形の連結具43にそれぞれ締結してもよい。
これらのロープ42および連結具43は、集魚装置1を用いた養殖魚Fの薬浴処理作業を効率よく行う上で便利である。なお、これらのロープ42および連結具43は作業者が用意したものを集魚作業前に集魚装置1に取り付けてもよい。
【0024】
図4に示すように、このように構成された集魚装置1は、養殖魚Fの薬浴処理時に、枠部10が角形の生け簀70内の水面A付近に設置され、かつ、シート槽部30が水中に浸漬して逆円錐形に拡張した状態において、生け簀70内に区画されたシート槽部30内に集魚可能に構成されている。
以下、この集魚装置1を用いた養殖魚Fの集魚方法および薬浴処理方法について説明する。
【0025】
図2に示すように、まず、集魚装置1を、角形の生け簀70の一の内側面72aに沿わせた状態に設置する工程が行われる。
この工程においては、例えば、枠部10を拡張した集魚装置1(実線)を、生け簀70における一の内側面72aと対向する他の内側面72b側(作業船80側)の枠体71の一辺上に載せる。このとき、延長枠部12の折り曲げ部12aが枠体71よりも上方へ位置するように集魚装置1を裏返した状態とし、この状態で主枠部11を生け簀70内に落とし込む。これにより、主枠部11の延長枠部12と反対側の一辺11aが、生け簀70における枠体71の延長枠部12を載せた前記一辺とは反対の他の一辺側に配置される。
なお、予め、集魚装置1には前記一対のロープ42および連結具43(図1参照)が取り付けられると共に、作業船80に設置された巻き上げ機81のロープ82の先端のフックが連結具43に連結されている。
【0026】
次に、図2中の二点鎖線で示すように、集魚装置1の主枠部11の前記一辺11aを生け簀網72の内側面72aに沿って下降させながら集魚装置1を立て、主枠部11全体を生け簀網72の内側面72aに沿わせた状態にする。このとき、海水が流入した枠部10と共にシート槽部30が生け簀網72の内側面72aに沿って水中に沈められるが、シート槽部30内の空気は通水部32から抜け出るためシート槽部30が浮き上がりにくくなる。また、この作業は、集魚装置1の主枠部11の前記一辺11aが真っ直ぐ下降できるよう、作業船80の巻き上げ機81からロープ82を操出しながら行われる。
なお、図2で説明した集魚装置1の生け簀70内へのセット作業は、枠体71上で2人の作業者が集魚装置1を移動させる作業を行ってもよく、それにより作業効率が高められる。
【0027】
次に、図3に示すように、生け簀70内の集魚装置1における枠部10の下端(一辺11a)を、生け簀70の前記内側面72aと対向する他の内側面72bの方へ底面72cに沿って移動させる工程が行われる。
この工程では、作業船80の巻き上げ機81にてロープ82を巻き上げることにより、集魚装置1の枠部10の下端(一辺11a)が生け簀70の底面72cに沿って他の内側面72bの方へ引っ張られる。
【0028】
これにより、側面側から視て、集魚装置1の略全体が生け簀70内に傾いた状態で浸漬し、生け簀70内は集魚装置1によって区画され、区画された底面72c側のスペースにシート槽部30が配置され、区画された水面A側のスペースに養殖魚Fが移動する。このとき、集魚装置1の延長枠部12にも網部20が張設されていることにより、養殖魚Fが延長枠部12をすり抜けて生け簀70の底面72c側へ逃げることを防止できる。
また、この工程(図3参照)においては、集魚装置1の延長枠部12の端部側が生け簀70の枠体71に凭れかかった(引っ掛かった)状態となるため、集魚装置1全体が生け簀70内に落ち込むことがない。
【0029】
次に、図4に示すように、生け簀70内の水面A付近に達するまで集魚装置1の枠部10を上昇させ、それによってシート槽部30内に養殖魚Fを集める工程が行われる。
この工程では、作業船80の巻き上げ機81にてロープ82をさらに巻き上げていくことにより、集魚装置1の枠部10の前記一端11aが生け簀70の他の内側面72bに沿って上昇し、それに伴って延長枠部12が生け簀70の枠体71を摺動しながら上昇する。そして、延長枠部12の折り曲げ部12aが枠体71まで移動したところで巻き上げ機81を停止することにより、主枠部11全体が水面A付近に設置される。
【0030】
主枠部11が水面A付近へ上昇する間、主枠部11に張られた網部20(図1参照)が水面A側へ移動するため、養殖魚Fはシート槽部30によって形成されたスペース内へ移動し、最終的に逆円錐形のシート槽部30内に全ての養殖魚Fが移動することとなる。この際、集魚装置1の網部20およびシート槽部30の通水部32によって、生け簀70内の水中を移動するときの集魚装置1の抵抗が低減されている。
この工程までが、集魚装置1を用いた養殖魚Fの集魚方法であり、引き続き養殖魚Fの薬浴処理が行われる。
【0031】
薬浴処理では、図4に示すように、逆円錐形のシート槽部30内の水中に魚病治療用の薬剤(矢印D)を添加する工程が行われる。
この工程では、養殖魚Fの種類および目的とする治療等に応じた薬剤が選択され、シート槽部30内の海水量に応じて適切な薬剤濃度となる量の薬剤がシート槽部30内の水中に添加される。なお、添加方法としては、散布装置を用いた薬剤散布が一般的であるが、特に限定されるものではない。
【0032】
例えば、ブリ、マダイ、カンパチ、ヒラメ、トラフグ等の養殖魚Fの滑走細菌症を治療する場合、シート槽部30内の水中に過酸化水素濃度が0.1~3000mg/Lになるように過酸化水素または過酢酸を添加し、その濃度が維持された状態で、シート槽部30内の水中で養殖魚Fを1分~6時間薬浴処理する。
この薬浴処理の間、養殖魚Fは逆円錐形のシート槽部30の内周面に沿って回遊することができるため、養殖魚F同士の衝突による傷付き、シート槽部30の内周面への養殖魚Fの衝突による傷付き等による養殖魚Fの衰弱を抑えることができる。
【0033】
このようにして薬浴処理した後、生け簀70内から集魚装置1が撤去される。
集魚装置1の撤去方法としては、例えば、図4で示した拡張状態の集魚装置1の枠部10の延長枠部12を主枠部11側へ押して、枠部10の拡張時の長さ(図1中の最大長さL1+L2)を生け簀70内に収まる長さまで短縮し、集魚装置1の延長枠部12側を生け簀70内に落とし込んで底面72c側へ沈める。このとき、枠部10の一辺11a側はロープ82に連結されているため水面A付近に維持される。
【0034】
これにより、集魚装置1は生け簀70の他の内側面72bに沿った吊り下げ状態となり、シート槽部30は萎み、養殖魚Fが生け簀70内へ移動する。そして、ロープ82を介して作業船80で集魚装置1を引っ張って生け簀70内から取り出す。なお、集魚装置1の引き上げ時に、縮めた枠部10が再度伸長しないように、例えば、網部20の縮んだ部分をロープにて縛るようにしてもよい。
【0035】
この集魚装置1を用いた集魚方法は、図2図4で説明した方法以外で行うことも可能である。
図2では生け簀70内の作業船80の反対側に集魚装置1を立てた状態にセットした後、主枠部11を水面A付近まで上昇させる集魚方法を説明したが、生け簀70内の作業船80側に集魚装置1を立てた状態にセットした後、主枠部11を水面A付近まで上昇させるようにしてもよい。
この場合、生け簀70の作業船とは反対側の枠体71上に滑車を取り付けた支柱を予め設置し、枠体71上の作業者が集魚装置1の連結具43に予め一端を締結しておいたロープを滑車に掛け、ロープを引っ張ることにより図3図4で説明したように枠部10の主枠部11が引っ張られて水面A付近まで上昇して集魚することができる。この際、作業者または作業船80にてロープを引けばよい。なお、この場合の集魚装置1の生け簀70からの撤去方法としては、例えば、生け簀70の枠体71上に載っている延長枠部12に作業船80のロープ82を繋ぎ、巻き上げ機81にてロープ82を巻き上げて集魚装置1を生け簀70の外側へ引っ張り出すことによって行うことができる。
【0036】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態の集魚装置1は、図4中の二点鎖線で示すように、シート槽部30の底部(通水部32の頂部)にロープを介して錘33を取り付けてもよい。
これにより、シート槽部30が水中で逆円錐形を保ちやすくなる。また、シート槽部30から通水部32が省略された場合、シート槽部30の底部に錘33を設けることによって、集魚装置1を生け簀70内に設置する際、シート槽部30の底部側が錘33によって沈むため、シート槽部30内の空気がシート槽部30の開口部から外部へ抜けやすくなる。
【0037】
(第2実施形態)
図5は本発明の養殖魚の集魚装置の第2実施形態を示す斜視図である。また、図6図8は第2実施形態の集魚装置を用いた集魚方法を説明する第1~第3の図である。なお、図5図8において、図1図4中の要素と同様の要素には同一の符号を付している。
第2実施形態の集魚装置101は、第1実施形態の集魚装置1(図1参照)における延長枠部12が省略されたこと以外は、概ね第1実施形態と同様に構成されている。
以下、第2実施形態における第1実施形態とは異なる点を主に説明する。
【0038】
図5図8に示すように、第2実施形態の集魚装置101は、平面視略正方形の角形の生け簀70内に収まる平面視略正方形の枠部110と、枠部110の内側に張られた網部120と、網部120に設けられたシート槽部30と、網部120の外周端部に設けられた複数個の沈子50とを備える。なお、図5では網部120の外周端部の全周に亘って複数個の沈子50を設けた場合を例示したが、集魚装置101を生け簀70の内側面72aに沿って沈める際の主部110の一辺110a側(図5図6参照)にのみ複数個の沈子50を設けてもよい。
【0039】
枠部110は、第1実施形態と同様に、複数の大径パイプ10aと複数の小径パイプ10bとが組み合わされた伸縮可能なパイプ材にて構成されており、4つの大径パイプ10aが四つ角に配置され、隣接する2つの大径パイプ10aの間に小径パイプ10bがスライド可能に配置されている。
この枠部110の拡張状態における一辺の最大長さL1は、生け簀70の枠体71の内周部の一辺の長さと概ね等しく設定されている。
【0040】
網部120は、平面視略正方形であり、拡張状態の枠部110の内側に複数の締結部材41を介して取り付けられている。
この網部120にも円形の開口部121が設けられており、開口部121の周縁に逆円錐形のシート槽部30の円形の開口部周縁が取り付けられている。
【0041】
また、この集魚装置101は、図5中の二点鎖線で示すように、枠部110における一辺の両端部に一対のロープ42の一端をそれぞれ締結すると共に、各ロープ42の他端をリング形の連結具43にそれぞれ締結してもよく、ロープ42および連結具43は作業者が用意したものを集魚作業前時に集魚装置101に取り付けてもよい。
さらに、この集魚装置101は、枠部110の対角にそれぞれの両端が締結された2本のロープ44を別の連結具45に通してもよく、ロープ44および連結具45は作業者が用意したものを集魚作業前時に集魚装置101に取り付けてもよい。
【0042】
図8に示すように、このように構成された集魚装置101も、養殖魚Fの薬浴処理時に、枠部110が角形の生け簀70内の水面A付近に配置されてシート槽部30が水中に浸漬した状態において、生け簀70内に区画されたシート槽部30内に集魚可能となっている。
以下、この集魚装置101を用いた養殖魚Fの集魚方法および薬浴処理方法について説明する。
【0043】
図6に示すように、まず、集魚装置101を、角形の生け簀70の一の内側面72aに沿わせた状態に設置する工程が行われる。
この工程においては、例えば、枠部110を拡張し、裏返した状態の二点鎖線で示す集魚装置101を、生け簀70内の水面A上に載せる。このとき、枠部110のパイプ材内に海水が流入するが、短時間(例えば2~3分以内)に枠体110が完全に水中に沈むことはない。
なお、予め、集魚装置1には、前記一対のロープ42および連結具43(図5参照)が取り付けられると共に、一対のロープ44および連結具45が取り付けられ、作業船80に設置された巻き上げ機81のロープ82の先端のフックが連結具43に連結されると共に、作業船80に設置されたクレーン83のワイヤ84の先端のフックが連結具45に連結されている。
【0044】
次に、集魚装置1の枠部110における一対のロープ42が締結された一辺110aを生け簀網72の内側面72aに沿って下降させながら実線で示すように集魚装置1を立て、枠部110全体を生け簀網72の内側面72aに沿わせた状態にする。この作業は、集魚装置1の枠部110の前記一辺110aが真っ直ぐ下降できるよう、作業船80の巻き上げ機81およびクレーン83からロープ82およびワイヤ84を操出しながら行われる。
なお、図6で説明した集魚装置101の生け簀70内へのセット作業は、枠体71上で2人の作業者が集魚装置1を移動させる作業を行ってもよく、それにより作業効率が高められる。
【0045】
次に、図7に示すように、生け簀70内の集魚装置101における枠部10の下端(一辺110a)を、生け簀70の前記内側面72aと対向する他の内側面72bの方へ生け簀70の底面72cに沿って移動させる工程が行われる。
この工程では、作業船80の巻き上げ機81にてロープ82を巻き上げることにより、集魚装置1の枠部110の下端(一辺110a)が生け簀70の底面72cに沿って他の内側面72bの方へ引っ張られる。なおこの間に、クレーン83のアームを生け簀70の中央上方位置まで伸長させてもよい。
【0046】
次に、図8に示すように、生け簀70内の水面A付近に達するまで集魚装置101の枠部110を上昇させ、それによってシート槽部30内に養殖魚Fを集める工程が行われる。
この工程では、作業船80のクレーン83にてワイヤ84を巻き上げていくことにより、集魚装置101の枠部110が略水平状態を保ちながら生け簀網72の内側面に沿って上昇する。これにより、養殖魚Fは集魚装置101のシート槽部30内に移動していく。なおこの間に、ロープ81が邪魔とならないよう巻き上げ機81でロープ81を巻き上げてもよい。
そして、枠部110全体が水面A付近まで移動したところでクレーン83および巻き上げ機81によるワイヤ84およびロープ81の巻き上げを停止する。
【0047】
この工程までが、集魚装置101を用いた養殖魚Fの集魚方法であり、引き続き、逆円錐形のシート槽部30内の水中に魚病治療用の薬剤(矢印D)を添加する薬浴処理工程が行われる。
なお、図6図8に示すように、集魚工程においては、作業船80の巻き上げ機81のロープ82が生け簀70の枠体71および作業船80の縁部に擦れて痛まないように、それらの摺接部分に例えばゴムシート85を敷いてもよく、この点に関しては第1実施形態においても同様である。
【0048】
このようにして薬浴処理した後、生け簀70から集魚装置101が撤去される。
集魚装置1の撤去方法としては、例えば、図8で示した拡張状態の集魚装置101の一対のロープ44の各一端を枠部110から外して連結具45と各ロープ44との連結を解除し、集魚装置1の枠部110の一辺110aとは反対の他辺110b側を生け簀70内の底面72c側へ沈める。このとき、枠部110の一端110a側はロープ82にて連結されているため水面A付近に維持される。これにより、集魚装置1は生け簀70の他の内側面72bに沿った吊り下げ状態となり、シート槽部30は萎み、養殖魚Fが生け簀70内へ移動する。その後、クレーン83のアームを短縮し、ロープ82を介して作業船80で集魚装置101を引っ張って生け簀70内から取り出す。
【0049】
(第2実施形態の変形例)
第2実施形態の集魚装置101は、図8中の二点鎖線で示すように、シート槽部30の底部(通水部32の頂部)にロープを介して錘33を取り付けてもよい。
これにより、シート槽部30が水中で逆円錐形を保ちやすくなる。また、シート槽部30から通水部32が省略された場合、シート槽部30の底部に錘33を設けることによって、集魚装置1を生け簀70内に設置する際、シート槽部30の底部側が錘33によって沈むため、シート槽部30内の空気がシート槽部30の開口部から外部へ抜けやすくなる。
【0050】
(他の実施形態)
1.第1および第2実施形態では、集魚装置のシート槽部が逆円錐形の場合を例示したが、シート槽部の中空形状は特に限定されるものではなく、例えば、逆円錐台形、円柱形、逆角錐形、逆角錐台形、角柱形、半球形等でもよい。例えば、養殖魚がヒラメの場合は、底が平坦な逆円錐台形、逆角錐台形、円柱形、角柱形等のシート槽部を採用してもよい。
また、底が平坦な逆円錐台形、逆角錐台形、円柱形、角柱形等の場合は、シート槽部の平坦な底部分の一部または全体を網にて形成してもよい。
2.第1および第2実施形態では、網部を有する集魚装置を例示したが、集魚装置は網部を有さないものであってもよい。この場合、枠部にシート槽部が直接取り付けられる。
3.第1および第2実施形態では、集魚装置の枠部が伸縮可能に構成された場合を例示したが、枠部は伸縮しないタイプでもよい。あるいは、枠部の複数箇所にヒンジ部を設け、運搬や保管等の際に集魚装置全体をコンパクトに折り畳むことができるようにしてもよい。
4.第1および第2実施形態において、網部を枠部に取り付ける締結部材は、網部を枠部から取り外せるものであってもよい。これにより、保管時や運搬時に集魚装置を分解してコンパクト化することができて便利となる。
【0051】
5.前記実施形態(図1図5参照)の集魚装置ではシート槽部の底部に網状の通水部を設けた場合を例示したが、網状の通水部はシート槽部の側部に設けられてもよい。
また、通水部はシート槽部の底部または側部に設けられた可撓性チューブであってもよい。この場合、シート槽部の底部または側部に設けた孔に可撓性チューブを接続する。なお、シート槽部の底部には沈子を追加的に設けてもよい。この構成によっても、網状の通水部と同様の作用効果を得ることができる。
それに加え、可撓性チューブの先端を海面上に露出させておき、可撓性チューブ内に空気または海水を送り込むことが可能となる。空気を可撓性チューブ内に送り込む状況としては、例えば、出荷時や薬浴中、赤潮発生や重油漏洩からの一時避難時において、海水中の溶存酸素が低下するというような状況が想定される。また、海水を可撓性チューブ内に送り込む状況としては、例えば、出荷時、赤潮発生や重油漏洩からの一時避難時において、海水中の溶存酸素が低下するというような状況や、薬浴時に薬剤を過剰量添加してしまったというような状況が想定される。
【0052】
6.前記実施形態で説明した集魚装置の枠部の一部を、繊維強化プラスチック製の伸縮パイプ以外の材料を用いて構成してもよい。例えば、図1で説明した集魚装置1における枠部10のロープ42、42が取り付けられる一辺11aを、生け簀70の一辺の長さよりも長いワイヤ、チェーン等の可撓部材にて構成してもよい。また、図5で説明した集魚装置101における枠部110のロープ42、42が取り付けられる一辺110aも同様に、生け簀70の一辺の長さよりも長いワイヤ、チェーン等の可撓部材にて構成してもよい。
この構成によれば、集魚装置の枠部の一辺である下端を生け簀の底面に沿って移動させる際、生け簀の底面の撓み形状に枠部の下端が追従することができるため、枠部の下端と生け簀の底面との間に隙間が形成されにくくなり、養殖魚が隙間をすり抜けて逃げることを抑制できると共に、集魚装置としての利便性が高まる。なお、枠部の一辺11a(または110a)の対向する辺も可撓性部材にて構成してもよく、それによりより利便性が高まる。
このように、集魚装置の枠部は、四角形に限定されるものではない。
【0053】
(まとめ)
本発明の養殖魚の集魚装置は、枠部と、前記枠部の内側領域に設けられたシート槽部とを備え、
前記シート槽部は、所定の中空立体形状の低通水性シート部を有し、
前記枠部が角形の生け簀内の水面付近に設置されて前記シート槽部が水中に浸漬した状態において、前記生け簀内に区画された前記シート槽部内に集魚可能である。
この構成によれば、薬浴処理時の養殖魚の衰弱を抑制することができることに加えて、養殖魚の薬浴処理作業を行う漁業者(特に、小規模漁業者)に対してコストおよび労力の負担軽減を図ることができる。
【0054】
本発明の養殖魚の集魚装置は、次のように構成されてもよく、それらが適宜組み合わされてもよい。
【0055】
・前記枠部の内側に張られた網部をさらに有し、
前記網部は、その一部が切り取られて形成された開口部を有し、
前記シート槽部は、前記網部の前記開口部の周縁に取り付けられているものであってもよい。
この構成によれば、比較的大きな生け簀(例えば、縦8m×横8m×深さ8m程度)に対応可能な集魚装置を得ることができる。なお、比較的大きな生け簀よりもサイズが小さな生け簀に対応する場合には、網部を省略し、枠部にシート槽部を直接設けた集魚装置を用いてもよい。
【0056】
・前記枠部が、伸縮可能なパイプ材にて四角形に構成されてもよい。
この構成によれば、パイプ材を短くすることによって集魚装置全体を小さくすることができるため、集魚装置の保管および運搬に好都合となる。
【0057】
・前記網部の前記開口部が円形または多角形であり、
前記シート槽部が、逆円錐形、逆円錐台形、円柱形または逆角錐形の中空形状を有するものであってもよい。
この構成によれば、養殖魚がシート槽部の内周面に沿って泳ぐことができるため、養殖魚同士の衝突や養殖魚のシート槽部の内面への衝突を低減することができ養殖魚の衰弱をより抑制することができる。
【0058】
・前記シート槽部は、通水部を底部または側部に有しているものであってもよい。
この構成によれば、集魚装置の生け簀内へのセット時にシート槽部内に溜まった空気を通水部から外部へ容易に抜くことができる、生け簀内の底部からの集魚装置の引き上げが容易となる、生け簀内から集魚装置を撤去する際にシート槽部内に溜まった水を通水部から抜き、集魚装置を軽くして引き上げることができる等の利点が得られる。
【0059】
・前記シート槽部の底部に設けられた錘をさらに備えたものであってもよい。
この構成によれば、生け簀内での集魚時にシート槽部の底部を生け簀底部側へ迅速かつ容易に配置させることができる。
【0060】
・前記枠部が、前記生け簀内の水面付近に設置される主枠部と、前記主枠部に連設されて前記生け簀の枠体の一辺に載り上げ可能な延長枠部とを有するものであってもよい。
この構成によれば、枠部の延長枠部が生け簀の枠体の一辺に載せた状態で集魚装置を生け簀内にセットした後、枠部の延長枠部とは反対側の他の一辺のみをロープ等を用いて引き上げることにより集魚可能となるため、集魚装置の引き上げ作業が容易となる。
【0061】
・前記延長枠部は、前記延長枠部が前記生け簀の前記枠体の前記一辺に載り上げたときに前記主枠部を前記生け簀内の水面と略平行な状態に支持可能とする折り曲げ部を、前記主枠部との連設部分に有するものであってもよい。
この構成によれば、生け簀内に設置した集魚装置の主枠部全体を水面付近に略水平状態で設置しやすくなるため、シート槽部全体を水中に浸漬して所定の中空形状に拡張させた状態に保持しやすくなると共に、枠部にかかる荷重を抑えることができる。
【0062】
また、本発明の養殖魚の集魚方法は、前記集魚装置を、角形の生け簀の一の内側面に沿わせた状態に設置する工程と、
前記生け簀内の前記集魚装置における前記枠部の下端を、前記生け簀の前記一の内側面と対向する他の内側面の方へ前記生け簀の底面に沿って移動させる工程と、
前記生け簀内の水面付近まで前記枠部を上昇させ、それによって前記シート槽部内に前記生け簀内の魚を集める工程とを含む。
この集魚方法によれば、生け簀内を集魚装置のシート槽部によって区画した小区画域内に養殖魚を集める作業を少人数で行うことができ、漁業者に対して人手と手間と労力を軽減することができる。
【0063】
また、本発明の養殖魚の薬浴処理方法は、前記集魚方法における前記生け簀内の養殖魚を集める工程の後、前記シート槽部内の水中に魚病治療用の薬剤を添加する工程を行う。
この薬浴処理方法によれば、生け簀内を集魚装置のシート槽部にて区画した小区画域に魚病治療用の薬剤を添加することができるため、薬剤の使用量を低減することができる。また、本発明の集魚装置を用いることにより、薬浴処理後、養殖魚にストレスを与えることなく簡単かつ速やかに集魚装置のみを生け簀内から撤去することができる。
【0064】
なお、開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
1、101 集魚装置
10、110 枠部
11 主枠部
11a、110a 下端(一辺)
12 延長枠部
20、120 網部
21、121 開口部
30 シート槽部
31 低通水性シート部
32 網
33 錘
70 生け簀
72a、72b 内側面
72c 底面
A 水面
D 薬剤
F 養殖魚
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8