(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】基油拡散防止剤及びそれを含有するグリース
(51)【国際特許分類】
C10M 131/10 20060101AFI20230418BHJP
C10M 169/00 20060101ALI20230418BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C10M131/10
C10M169/00
C10M107/02
(21)【出願番号】P 2019142652
(22)【出願日】2019-08-02
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】503121505
【氏名又は名称】株式会社フロロテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】神保 雅子
(72)【発明者】
【氏名】服部 雅高
(72)【発明者】
【氏名】小原 弘明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆彦
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-002211(JP,A)
【文献】特開2014-194006(JP,A)
【文献】特開平10-140173(JP,A)
【文献】特開平11-335689(JP,A)
【文献】特開平08-081690(JP,A)
【文献】特開平05-078682(JP,A)
【文献】特開2014-231548(JP,A)
【文献】米国特許第06056849(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリαオレフィンよりなる基油の拡散防止剤であって、化1で表されるフッ素含有化合物を含む基油拡散防止剤。
【化1】
(式中:
Rfは
すべての水素原子がフッ素原子で置換されている炭素数
4~6のアルキル基を表し、
Xは
CH
2
又はCH
2
OCH
2
CH
2
を表し、
Yは水素原子又は1個以上の水素原子がフッ素原子で置換されている炭素数1~8のアルキル基を表し、
R1は水素原子又はメチル基を表し、
R2は水素原子又はメチル基を表し、
nは2
~10の整数を表し、
mは0~
22の整数を表す。)
【請求項2】
RfがC
6F
13である請求項1記載の基油拡散防止剤。
【請求項3】
ポリαオレフィンよりなる基油、増ちょう剤及び請求項1
又は2に記載の基油拡散防止剤を含有するグリース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリαオレフィンを基油とするグリースの基油の拡散を防止するために用いる基油拡散防止剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種機器の急速な高性能化及び小型化に伴って、その機械的な回転部や摺動部等に使用されるグリースに対して、従来よりも優れた特性が求められている。たとえば、小型化された各種機構部、モーター類、各種ベアリング類、接点類又はスイッチ類等に使用するグリースでは、特に、耐熱性、低温安定性及び軽トルク性等の特性が求められている。
【0003】
これらの特性を満足するために、エステル系又はポリαオレフィン系等の合成潤滑油を基油として、ウレア系又は石鹸系等の増ちょう剤を添加したグリースが市販されている。しかしながら、かかる市販のグリースは、基油が比較的低粘度であるため、グリース塗布後に、時間の経過と共に基油が塗布面から拡散してしまうという問題があった。特に、小型化された機器に適用されるグリースでは、基油の拡散は防止されるべき事項である。このため、特許文献1には、基油拡散防止剤としてフッ素系界面活性剤を用いることが提案されている。また、特許文献2には、オキシアルキレン基の両端にパーフルオロアルキル基を結合したフッ素系化合物よりなる基油拡散防止剤が提案されている。さらに、特許文献3には、オキシアルキレン基の片端のみにパーフルオロアルキル基を結合したフッ素系化合物よりなる基油拡散防止剤が提案されている。
【0004】
【文献】特開昭63-57693号公報
【文献】特開平10-140173号公報
【文献】特開平11-335689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、先行文献に記載されているフッ素系化合物化合物とは異なるフッ素系化合物を採用することにより、基油拡散防止性能のより向上した基油拡散防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリオキシエチレン基の側鎖にフルオロアルキル基を結合させたフッ素系化合物を基油拡散防止剤とすることにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明は、
ポリαオレフィンよりなる基油の拡散防止剤であって、化1で表されるフッ素含有化合物を含む基油拡散防止剤及びこの基油拡散防止剤を含有するグリースに関するものである。
【化1】
(式中:Rfは
すべての水素原子がフッ素原子で置換されている炭素数
4~6のアルキル基を表し、Xは
CH
2
又はCH
2
OCH
2
CH
2
を表し、Yは水素原子又は1個以上の水素原子がフッ素原子で置換されている炭素数1~8のアルキル基を表し、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、nは2
~10の整数を表し、mは0~
22の整数を表す。)
【0007】
本発明で用いる化1で表されるフッ素系化合物の具体例としては、以下の化合物を挙げることができる。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0008】
基油及び増ちょう剤に、本発明に係る基油拡散防止剤を添加混合して、グリースが得られる。基油としては、ポリαオレフィンが採用される。この基油の場合、より優れた基油拡散防止効果が得られるからである。増ちょう剤としては、従来公知のものが採用される。たとえば、リチウム石けんやカルシウム石けん等の金属石けん系増ちょう剤又はポリテトラフロロエチレン(PTFE)やベントン等の非石けん系増ちょう剤等が採用される。
【0009】
本発明に係る基油拡散防止剤は、市販グリースに添加して、本発明に係るグリースを得てもよい。市販グリースとしては、スミテック331、スミテック308、スミテック108(住鉱潤滑剤株式会社製)等のポリαオレフィン系グリースを挙げることができる。
【0010】
本発明に係る基油拡散防止剤は、グリースの総重量に対して、0.1~10重量%程度添加され、特に0.5~5重量%程度添加されるのが好ましい。この程度の添加量で、満足しうる基油拡散効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る基油拡散防止剤を含有するグリースは、グリースの潤滑特性を損なわせることなく、基油の拡散を良好に防止することができる。したがって、かかるグリースは小型化された機器にも十分に適用しうるものである。
【実施例】
【0012】
実施例1
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(EO≒9モル)15. 87g、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン50. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 17gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながら3-[2-(ペルフルオロヘキシル) エトキシ]-1,2-エポキシプロパン50. 00gを滴下した。そして、フラスコ内温度を40℃に保ちながら4時間攪拌し、反応を進行させた。その後、反応液に水を投入し反応を停止させた後、水層を除去し、有機層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄した。洗浄後、有機層を硫酸ナトリウムで脱水乾燥した後、エバポレーターで溶剤を溜去し、化6で表される化合物を含む基油拡散防止剤Aを得た。
【化6】
なお、含フッ素ポリエチレングリコールのn数は、プロトン核磁気共鳴分光法(日本電子株式会社製「JNM-ECS400」、
1H-NMR、CDCl
3、TMS、390MHz)にて、n=3であることを確認した。
【0013】
実施例2
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(EO≒9モル)2.66g、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン10. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 04gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながら3-ペルフルオロヘキシル-1,2-エポキシプロパン10. 00gを滴下した。その後は、実施例1と同様にして、化3で表される化合物を含む基油拡散防止剤Bを得た。
【化3】
【0014】
実施例3
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、ポリエチレングリコール(EO≒4.5モル)2.66g、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン10. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 04gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながら3-ペルフルオロヘキシル-1,2-エポキシプロパン10. 00gを滴下した。その後は、実施例1と同様にして、化4で表される化合物を含む基油拡散防止剤Cを得た。
【化4】
【0015】
実施例4
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(EO≒9モル)1.52g、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン10. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 04gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながら3-ペルフルオロヘキシル-1,2-エポキシプロパン10. 00gを滴下した。その後は、実施例1と同様にして、化5で表される化合物を含む基油拡散防止剤Dを得た。
【化5】
【0016】
実施例5
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(EO≒22モル)15.87g、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン20. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 07gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながら3-[2-(ペルフルオロヘキシル) エトキシ]-1,2-エポキシプロパン20. 00gを滴下した。その後は、実施例1と同様にして、化9で表される化合物を含む基油拡散防止剤Eを得た。
【化9】
【0017】
実施例6
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、ポリプロピレングリコール(PO≒7モル)6.35g、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン20. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 07gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながら3-[2-(ペルフルオロヘキシル) エトキシ]-1,2-エポキシプロパン20. 00gを滴下した。その後は、実施例1と同様にして、化7で表される化合物を含む基油拡散防止剤Fを得た。
【化7】
【0018】
実施例7
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(EO≒9モル)4.78g、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン10. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 04gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながら3-ペルフルオロブチル-1,2-エポキシプロパン10. 00gを滴下した。その後は、実施例1と同様にして、化2で表される化合物を含む基油拡散防止剤Gを得た。
【化2】
【0019】
実施例8
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン20. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 12gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながら3-[2-(ペルフルオロヘキシル) エトキシ]-1,2-エポキシプロパン12. 00gを滴下した。その後は、実施例1と同様にして、化11で表される化合物を含む基油拡散防止剤Hを得た。
【化11】
【0020】
実施例9
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、トリエチレングリコールモノメチルエーテル1.29g、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン10. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 04gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながら3-[2-(ペルフルオロヘキシル) エトキシ]-1,2-エポキシプロパン10. 00gを滴下した。その後は、実施例1と同様にして、化8で表される化合物を含む基油拡散防止剤Iを得た。
【化8】
【0021】
実施例10
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(EO≒9モル)1.98g、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン20. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 07gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながら3-[2-(ペルフルオロヘキシル) エトキシ]-1,2-エポキシプロパン20. 00gを滴下した。その後は、実施例1と同様にして、化10で表される化合物を含む基油拡散防止剤Jを得た。
【化10】
【0022】
実施例11
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8トリデカフルオロオクタン-1-オール3.54g、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン20. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 07gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながら3-[2-(ペルフルオロヘキシル) エトキシ]-1,2-エポキシプロパン20. 00gを滴下した。その後は、実施例1と同様にして、化12で表される化合物を含む基油拡散防止剤Kを得た。
【化12】
【0023】
比較例1
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(EO≒9モル)9.51g、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン10. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 04gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながら3-[2-(ペルフルオロヘキシル) エトキシ]-1,2-エポキシプロパン10. 00gを滴下した。その後は、実施例1と同様にして、化13で表される化合物を含む基油拡散防止剤Lを得た。
【化13】
【0024】
比較例2
市販のフッ素系ノニオン界面活性剤[C6F13CH2(OCH2CH2)OHを主成分とするもの]を、基油拡散防止剤Mとして準備した。
【0025】
比較例3
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8トリデカフルオロオクタン-1-オール9.10g、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン10. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 04gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながらエチレングリコールジグリシジルエーテル2.82gを滴下した。その後は、実施例1と同様にして、化14で表される化合物を含む基油拡散防止剤Nを得た。
【化14】
【0026】
比較例4
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8トリデカフルオロオクタン-1-オール9.10g、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン10. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 04gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながらポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(EO≒4モル)4.62gを滴下した。その後は、実施例1と同様にして、化15で表される化合物を含む基油拡散防止剤Nを得た。
【化15】
【0027】
比較例5
攪拌装置を備えたガラスフラスコに、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8トリデカフルオロオクタン-1-オール18.20g、1, 3-ビス(トリフルオロメチル) ベンゼン20. 00g及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0. 07gを仕込んだ。次いで、フラスコ内を40℃に昇温し、攪拌しながらポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(EO≒9モル)13.40gを滴下した。その後は、実施例1と同様にして、化16で表される化合物を含む基油拡散防止剤Oを得た。
【化16】
【0028】
[基油拡散防止性能の評価]
実施例1~11で得られた基油拡散防止剤A~K及び比較例1~5で得られた基油拡散防止剤L~Oの各々を、ポリαオレフィン系グリース(住鉱潤滑剤株式会社製、商品名「スミテック331」)に1重量%添加し、均一に攪拌して16種類のグリースを得た。
得られた各グリースを、
図1に示す如く、直径6mmで高さ1mmの円柱状になるようにポリエステルフィルム(ソマール株式会社製、商品名「ソマブラックフィルム R100MD」)に塗布した。なお、ポリαオレフィン系グリース(住鉱潤滑剤株式会社製、商品名「スミテック108」)を、基油拡散防止剤を添加することなく、そのまま塗布したものを比較例6とした。次いで、80℃の恒温器に入れて促進試験を行い、24時間後の基油の拡散状態を評価した。この評価は、
図1に示すように、基油が滲み出し拡散した直径Ammを測定し、Amm-6mm=拡散幅(mm)を計算した。この結果を表1に示した。拡散幅(mm)の値が小さいほど、基油拡散防止性能に優れる。
【0029】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━
拡散幅(mm)
━━━━━━━━━━━━━━━━
実施例1 0mm
実施例2 0mm
実施例3 0mm
実施例4 0mm
実施例5 0mm
実施例6 0mm
実施例7 0mm
実施例8 0mm
実施例9 0mm
実施例10 0mm
実施例11 0mm
比較例1 10mm
比較例2 10mm
比較例3 20mm
比較例4 10mm
比較例5 10mm
比較例6 20mm
━━━━━━━━━━━━━━━━
【0030】
表1から明らかなように、実施例に係る基油拡散防止剤を添加したグリースは、基油の拡散が顕著に防止されていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施例及び比較例に係る各グリースの基油拡散試験を行った際のグリースの塗布状態及び基油の拡散状態を示した模式的平面図である。