(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】木材乾燥廃液の無色化方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/48 20230101AFI20230418BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20230418BHJP
C02F 1/58 20230101ALI20230418BHJP
【FI】
C02F1/48 A
C02F1/28 E
C02F1/58 D
(21)【出願番号】P 2019163679
(22)【出願日】2019-09-09
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100189854
【氏名又は名称】有馬 明美
(72)【発明者】
【氏名】井上 謙吾
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-137853(JP,A)
【文献】特開昭52-135553(JP,A)
【文献】特開2011-016048(JP,A)
【文献】特表平01-503764(JP,A)
【文献】特開2010-201279(JP,A)
【文献】特開2021-023917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28
C02F 1/48
C02F 1/52-1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材の乾燥処理によって排出される廃液に
金属を添加し、該廃液を略無色化する木材乾燥廃液の無色化方法であって、
前記金属は、産業廃棄物から得られ、かつ錆の生じた鉄屑であり、
前記錆の生じた鉄屑を前記廃液に10日以上接触させることを特徴とする木材乾燥廃液の無色化方法。
【請求項2】
前記錆の生じた鉄屑は、食塩水に浸漬させて錆を生じさせたことを特徴とする請求項1に記載の木材乾燥廃液の無色化方法。
【請求項3】
前記錆の生じた鉄屑を真水で洗浄した後、前記廃液に接触させることを特徴とする請求項1又は2に記載の木材乾燥廃液の無色化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材乾燥機から流出する有色の廃液を退色させ、略無色の廃液に変換する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、水分が含まれる生材の状態では変形や割れが生じるため、生材を乾燥して建築用製材などに利用される。生材の乾燥方法としては、天然乾燥のほか、人工的に加熱水蒸気を用いて乾燥させる蒸気式木材乾燥(以下、「蒸気式乾燥」という。)が広く用いられている。蒸気式乾燥においては、木材中の水分が加熱水蒸気と共に蒸気式乾燥機の排気口から大気中へ排出されると共に、蒸気式乾燥機底面から流出する液体(以下、「ドレーン」という。)が廃液として河川などに放流されている。
【0003】
蒸気式乾燥処理で排気口から出される蒸気については成分分析などが行われ、該成分を活用した有効利用が図られている。例えば、蒸気式乾燥機から排出される蒸気の有効利用については、加熱温度90度~120度の蒸気式乾燥で排出される蒸気を自然冷却させて液体を補集し、上部に浮遊した木材精油を除去して消臭剤として利用することが開示されている(特許文献1)。また、このときの排出液は、白濁しており少量の有機層が含まれていることが開示されている(同特許文献1[0013]段落参照)。
【0004】
また、乾燥機排出口から出る排気を水冷式のコンデンサーを通して液体を回収し、その液体中の油分にセスキテルペンアルコールが含まれること及びこれを用いてナメクジなどの陸生軟体動物の忌避剤とすることが開示されている(特許文献2[0010]段落参照)。
【0005】
一方、ドレーンについては何ら処理されることなく河川へ放流されており、化合物の特定や有効利用は図られていない。なお、ドレーンについての唯一の研究報告(非特許文献1)があるが、これは、スギ柱材の木材乾燥機から排出されるドレーン発生量の経時変化及びpHを明らかにしたというものであり、ドレーンにオゾンを添加して黒色を多少淡色化できたこと及びドレーンを微生物培養に利用する可能性が示唆されているのみである。
【0006】
このように、ドレーンについての研究は殆どなされておらず、また、ドレーンは、木材由来の廃液であることから、現在は法的な規制もなく放流されているが、濃い黒色の廃液であることから、放流時の水系の景観を損ねてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-87614号公報
【文献】特開平5-311388号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】宮崎県木材利用技術センター「平成20年度業務報告書2008」(2-1-1、木材化学分野、p15)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、木材乾燥機から流出する有色の廃液を無色透明にする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の特徴である木材乾燥廃液の無色化方法は、木材の乾燥処理によって排出される廃液に、磁性を有する金属又は金属化合物を接触又は非接触で接するようにしたことである。
【0011】
本発明の第2の特徴は、前記金属又は前記金属化合物に係る金属元素を、鉄、コバルト又はニッケルから選ばれる少なくとも1種を含むようにしたことである。
【0012】
本発明の第3の特徴は、前記金属化合物を金属酸化物又は金属水酸化物としたことである。
【0013】
本発明の第4の特徴は、前記金属又は前記金属化合物を、鉄、酸化鉄又は水酸化鉄を主成分となるようにしたことである。
【0014】
本発明の第5の特徴は、前記酸化鉄又は前記水酸化鉄は、溶液をpH調整して不溶性の鉄化合物として沈殿させたものであり、前記不溶性の鉄化合物と前記廃液とを接触させるようにしたことである。
【0015】
本発明の第6の特徴は、前記金属又は前記金属化合物が、産業廃棄物から得られる金属屑を原料としたことである。
【0016】
また、本発明の特徴は、前記pH調整において前記不溶性の鉄化合物を含む溶液のpHを1以上14以下としたことである。
また、本発明の特徴は、前記不溶性の鉄化合物のモル濃度を、5mMより大きく125mM以下としたことである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の特徴により、木材の乾燥処理によって排出される廃液に、磁性を有する金属などを接触又は非接触で近接するだけで、木材乾燥廃液中の有色原因物質を金属に吸着させ、有色の廃液を略無色の廃液に変換することができる。
本発明の第2の特徴により、磁性を持つ金属のうち鉄、コバルト又はニッケルであれば安価で容易に入手することができる。
本発明の第3の特徴により、金属化合物を金属酸化物又は金属水酸化物とすれば、木材乾燥廃液の無色化処理に適した結晶形となる。
本発明の第4の特徴により、強磁性の鉄などを用いて吸着させることで効率よく無色化処理を行うことができる。
本発明の第5の特徴により、沈殿によって生じた不溶性の鉄化合物に、廃液中の有色原因物質を直接吸着させることができるため効率よく無色化処理を行うことができる。
本発明の第6の特徴により、産業廃棄物である鉄屑などを原料とすることにより、不要になった廃棄物を利用して木材乾燥廃液を無色にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】不溶性酸化鉄(III)にドレーンを添加し、各種モル濃度に調整した不溶性酸化鉄(III)溶液の色の変化を示した写真である。
【
図2】各種pHに調整した同濃度の不溶性酸化鉄溶液に、同量のドレーンを添加した場合の色の変化を示した写真である。
【
図3】研磨屑を含む溶液に、同量のドレーンを添加した場合の色の変化を示した写真及び14日経過後の写真である。
【
図4】海水で錆びさせた研磨屑を一度洗浄し、ドレーンを添加したときの色の変化を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、木材の乾燥機から流出する濃い黒色のドレーンを略無色(「略無色」とは、無色透明だけでなく薄黄色などの淡色も含むものとし、以下同じである。)の廃液にする方法を見いだしたものである。下記に、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明の範囲は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
本実施例におけるドレーンは、スギ、マツ、ヒノキなどの木材の乾燥処理によって廃液として回収される。木材の乾燥処理においては、蒸気式乾燥や高周波減圧式乾燥などがあるが、木材乾燥処理において乾燥機底面から廃液として回収される木材乾燥廃液であれば本発明を利用することができる。
【0021】
乾燥処理は、例えばスギの蒸気式乾燥処理の場合、初期蒸煮工程、ドライングセット工程、乾燥工程及び冷却工程の4工程で行われる。スギの蒸気式乾燥処理で排出されるドレーンは、乾燥処理全工程183時間のうち、計51時間で行われる初期蒸煮工程及びドライングセット工程において、庫内温度96度から120度で大量に回収される。
【0022】
回収されたドレーンの色は、乾燥機底面から流出したものを回収した時点で濃い黒色を呈しているが、保管状態などによっては、濃い褐色や赤褐色などの有色を呈することもある。また、ドレーンを純水で薄めていくと黒色が淡色化されるものの、黒色の色は保持されたままである。
【0023】
ドレーンに近接させる金属又は金属化合物は、主に磁性を有する鉄、コバルト、ニッケル、ネオジム若しくはサマリウムなどの金属単体若しくはこれらの金属を主成分とする合金又はこれらの金属の錯体、酸化物、水酸化物若しくは硫化物が挙げられる。なお、磁性を有する金属又は金属化合物が木材乾燥廃液中の有色原因物質を吸着することで該ドレーンを無色透明にするため、該ドレーンと金属又は金属化合物が直接接している場合だけでなく、非接触状態で近接している状態であってもよい。
【0024】
金属酸化物は、例えば金属が鉄である場合は、赤鉄鉱(Fe2O3)、磁鉄鉱(Fe3O4)、酸化第一鉄(FeO)、鉄-チタン酸化物(Fe2TiO4)などが挙げられる。金属水酸化物は、例えば金属が鉄である場合は、水酸化鉄(II)Fe(OH)2、水酸化鉄(III)Fe(OH)3、酸化水酸化鉄(III)(FeO(OH))などが挙げられる。このような金属酸化物又は金属水酸化物であれば木材乾燥廃液の無色化処理に適した結晶形となる。
【0025】
産業廃棄物から得られる金属屑を金属原料として使用する場合は、金属の研磨、破砕、切断又は打ち抜きなどの金属加工で生ずる切削屑などを利用することができる。また、金属屑に錆を生じさせる場合は、食塩水、あるいは海水に浸漬させるか食塩水、あるいは海水を吹きかけるなどして金属を腐食させることができる。
【0026】
(実験例1)
以下に、酸化金属として酸化鉄を用い、各種モル濃度に調整した酸化鉄(III)(以下、単に「酸化鉄」という。)にドレーンを添加した場合の色の変化について実験を行った例について説明する。実験に使用したドレーンは、スギの蒸気式乾燥処理の初期蒸煮工程及びドライングセット工程において回収された木材乾燥廃液であり、濃い黒色を呈したドレーン原液である。
【0027】
まず、酸化鉄の調整について説明する。塩化鉄(III)六水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製)を水に溶解させた溶液に水酸化ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)を加えてpHを中性付近に調整すると茶褐色の酸化鉄が沈殿する(沈殿する物質は温度や脱水状況などによって酸化鉄や水酸化鉄となるが、以下単に「酸化鉄」という。)。遠心分離により、上清を廃棄し、超純水で沈殿物の不溶性酸化鉄を懸濁後、再度遠心分離し、上清を廃棄する。この作業を3回~4回繰り返し、0.5Mの不溶性酸化鉄溶液を準備した。
【0028】
次に、0.5Mの不溶性酸化鉄溶液:超純水を合計5mLとなるよう(1)0:5(2)0.1:4.9(3)0.5:4.5(4)0.75:4.25(5)1:4(6)1.5:3.5(7)2.5:2.5の割合で混合し、不溶性酸化鉄の終濃度が(1)0mM(2)5mM(3)25mM(4)37.5mM(5)50mM(6)75mM(7)125mMとなるようドレーン5mLを添加した結果を
図1に示す。
【0029】
写真にて明らかなように、不溶性酸化鉄終濃度が(3)25mMで明白な効果があり、(4)37.5mM~(6)50mMで高い効果、(7)125mMで逆効果であった。しかし、(7)125mMであっても(1)0mM、即ち不溶性酸化鉄溶液を加えていないドレーンの黒色より退色されており、黒色ではない薄黄色~薄茶色へ変換されていることから一定の効果が得られているといえる。よって、酸化鉄のモル濃度は、5mMを超えると黒色のドレーンを退色して淡色化することができ、25mM以上125mM以下で黒色を薄黄色~薄茶色に淡色化し、37.5mM以上75mM以下とすることにより無色透明にすることができる。
【0030】
(実験例2)
次に、各種pHによるドレーンの不溶性酸化鉄への吸着に与える影響について実験を行った例について説明する。なお、ドレーン、不溶性酸化鉄及び水酸化ナトリウムなどは実験例1と同様に準備し、以下の実験例においても同じである。まず、水酸化ナトリウム又は塩酸を添加してそれぞれpH1,3,5,7,9,11となるよう調整し、濃度が100mMの不溶性酸化鉄溶液を5mL準備した。これに、同量のドレーン5mLを添加したとき(不溶性酸化鉄の最終濃度50mM)の変化についての結果を
図2に示す。写真左のサンプルは、ネガティブコントロールとして示したものであり、ドレーンに同量の超純水のみを加えたものである。写真から明らかなように、pH1において効果はなく、pH3以上でドレーンの黒色が退色され、pH3とpH5にいては黒色が無色透明となった。
【0031】
このことから、pHを1より大きくすることにより黒色を退色させることができ、pH2以上6以下で無色化するが、pH7以上で僅かに濁り、pH9、pH11と高pHになるほど次第に有色化されていくことが確認できた。なお、添加後から写真撮影までの経過日数を写真下方に示しているが、不溶性酸化鉄が沈殿して落ち着くまでは常に数時間であった。また、不溶性酸化鉄が可溶化するpH1の条件では、黒色の退色が確認できなかったことから、ドレーンは不溶性の酸化鉄に吸着することが明らかとなった。
【0032】
(実験例3)
次に産業廃棄物である金属製品にて同様に吸着されるか実験を行った例について説明する。金属製品は鉄を多量に含む剪定ばさみの研磨屑を用い、これを酸化させて錆を生じさせたものを使用した。
図3は、超純水に同量のドレーンを混合し、該研磨屑を添加したときのドレーンの色の変化について示した写真である。また、右の写真は、左の写真撮影時から14日経過後の色の変化を示したものである。写真左のサンプルAは、ネガティブコントロールとして示したものであり、超純水5mLに同量のドレーン5mLのみを加えたものである。Bは、超純水5mLに同量のドレーン5mLを混合し研磨屑を添加したものである。Cは、超純水5mLに同量のドレーン5mLを混合し、5%食塩水に浸漬させ、錆を生じさせた研磨屑を添加したものである。Dは、超純水5mLに同量のドレーン5mLを混合し、5%食塩水に吹きかけ、錆を生じさせた研磨屑を添加したものである。
【0033】
左の写真から確認できるように、Bの研磨屑は効果がなく黒色に懸濁しているが、錆を生じさせた研磨屑C及びDは退色が示された。また、DよりもCの方が退色されていることから、研磨屑に食塩水を吹きかけて錆を生じさせるより食塩水に浸漬させて錆を生じさせた方がドレーンの黒色が退色されていることが確認できた。さらに、14日経過後の右の写真にて確認できるように、錆を生じさせた研磨屑C及びDは、さらに退色され、より無色に近づいたことが確認できた。以上より、産業廃棄物である研磨屑に錆を生じさせることでドレーンの黒色原因物質の吸着に利用できることが示された。また、ドレーンの黒色をより退色させるには、研磨屑と食塩水との接触面積を増やして錆を生じさせること及びドレーンと研磨屑との接触時間を長くすることが好ましいことが確認できた。
【0034】
また、酸化鉄は鉄にできる錆を構成する化合物であり磁性を有することから、ドレーンの黒色原因物質は特有の磁性を有する金属を含んでいると考えられ、また、ドレーン中の該金属と磁性を有する金属又は金属化合物とを接触又は非接触で接することにより、ドレーンの黒色原因物質が磁性を有する金属又は金属化合物に吸着・除去され、黒色のドレーンを無色化すると考えられる。
【0035】
(実験例4)
次に、錆びた研磨屑を洗浄したものにドレーンを添加したときの色の変化について実験を行った例について説明する。
図4は、食塩水で錆びさせた研磨屑を一度真水(塩分を含まない水)で洗浄し、これにドレーンを添加したときの色の変化を示した写真である。写真から分かるように、食塩水で錆びさせた研磨屑をそのまま添加するよりも、食塩水で錆びさせた研磨屑を一度真水で洗浄して使用した方が、ドレーンの黒色をより退色することが明らかとなった。
【0036】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、木材乾燥時に木材乾燥機から流出する有色の廃液を退色させ、略無色に処理することができるため、木材製造現場において利用することができる。