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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】物体検出装置及び物体検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 3/06 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
G01C3/06 130
G01C3/06 120R
G01C3/06 110B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019169992
(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公開番号】P2021047093
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000143031
【氏名又は名称】コーデンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】福田 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】佐野 とし恵
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-291111(JP,A)
【文献】国際公開第2019/064750(WO,A1)
【文献】特開2010-256291(JP,A)
【文献】特開2017-181279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 3/06
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投光素子を含んで構成されており、遠距離投光信号及び近距離投光信号を送信可能な投光部と、
受光素子を含んで構成されており、前記遠距離投光信号又は前記近距離投光信号が対象物で反射した反射光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した前記反射光に基づいて、前記対象物までの距離を算出する算出部と、
前記遠距離投光信号の前記反射光の受光レベルが閾値以下である間は遠距離モードを実行し、前記遠距離投光信号の前記反射光の受光レベルが閾値を超過した場合に近距離モードを実行する制御部と、
を備え、
前記遠距離モードでは、前記投光部は第1周期で前記遠距離投光信号を送信し、前記近距離投光信号は送信せず、前記算出部は前記遠距離投光信号の前記反射光の受光レベルに基づいて前記対象物までの距離を算出し、
前記近距離モードでは、前記投光部は前記第1周期よりも短い第2周期で少なくとも前記近距離投光信号を送信し、前記算出部は、前記近距離投光信号の前記反射光に対して三角測距方式を用いて前記対象物までの距離を算出し、
前記投光部は、前記近距離モードにおいて、前記近距離投光信号に加え、前記遠距離投光信号を送信し、
前記近距離モードにおいて、前記制御部は、前記遠距離投光信号の前記反射光の受光レベルが前記閾値を超過している間は前記近距離モードを維持し、前記遠距離投光信号の前記反射光の受光レベルが前記閾値以下になった場合は前記遠距離モードに切り替えることを特徴とする物体検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物体検出装置であって、
前記遠距離投光信号の信号レベルが、前記近距離投光信号の信号レベルよりも大きいことを特徴とする物体検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の物体検出装置であって、
前記投光部は、共通の前記投光素子を用いて、前記遠距離投光信号と前記近距離投光信号を送信することを特徴とする物体検出装置。
【請求項4】
請求項1からまでの何れか一項に記載の物体検出装置であって、
前記受光部は1対の前記受光素子を備え、
前記算出部は、前記遠距離モードでは1対の前記受光素子の検出値の合計を用いて前記対象物までの距離を算出し、前記近距離モードでは1対の前記受光素子の検出値の差分又は比率を用いて前記対象物までの距離を算出することを特徴とする物体検出装置。
【請求項5】
請求項1からまでの何れか一項に記載の物体検出装置であって、
前記受光部は、第1電極と第2電極を有し、照射された光の位置と光量に応じた光信号を検出するPSD(Position Sensitive Detector)を備え、
前記算出部は、前記遠距離モードでは前記受光素子の前記第1電極と前記第2電極の検出値の合計を用いて前記対象物までの距離を算出し、前記近距離モードでは前記第1電極と前記第2電極の検出値の差分又は比率を用いて前記対象物までの距離を算出することを特徴とする物体検出装置。
【請求項6】
請求項1からまでの何れか一項に記載の物体検出装置であって、
前記受光部は、複数の受光素子を含んで構成されたCCD(Charge Coupled Device)センサを備え、
前記算出部は、前記遠距離モードでは複数の前記受光素子の検出値の合計を用いて前記対象物までの距離を算出し、前記近距離モードでは複数の前記受光素子の検出値のピーク位置を用いて前記対象物までの距離を算出することを特徴とする物体検出装置。
【請求項7】
請求項1からまでの何れか一項に記載の物体検出装置であって、
前記受光部は、前記受光素子を線状に配置した一次元センサを備え、
前記算出部は、前記遠距離モードでは前記受光素子の検出値の合計を用いて前記対象物までの距離を算出し、前記近距離モードでは前記受光素子の検出値のピーク位置を用いて前記対象物までの距離を算出することを特徴とする物体検出装置。
【請求項8】
請求項1からまでの何れか一項に記載の物体検出装置であって、
前記受光部は、前記受光素子を平面状に配置した二次元センサを備え、
前記算出部は、前記遠距離モードでは前記受光素子の検出値の合計を用いて前記対象物までの距離を算出し、前記近距離モードでは前記受光素子の検出値のピーク位置を用いて前記対象物までの距離を算出することを特徴とする物体検出装置。
【請求項9】
投光素子を含む投光部と、受光素子を含む受光部と、を用いて対象物を検出する物体検出方法において、
前記投光部から遠距離投光信号を第1周期で送信するとともに、当該遠距離投光信号の反射光を前記受光部で受光し、当該反射光の受光レベルに基づいて前記対象物までの距離を算出する遠距離測距工程と、
前記遠距離投光信号の前記反射光の受光レベルが閾値を超過した場合に、前記投光部から、前記第1周期よりも短い第2周期で少なくとも近距離投光信号を送信し、当該近距離投光信号の反射光を前記受光部で受光し、当該反射光に対して三角測距方式を用いて前記対象物までの距離を算出する近距離測距工程と、
を含み、
前記投光部は、前記近距離測距工程において、前記近距離投光信号に加え、前記遠距離投光信号を送信し、
前記近距離測距工程において、前記遠距離投光信号の前記反射光の受光レベルが前記閾値を超過している間は前記近距離測距工程を維持し、前記遠距離投光信号の前記反射光の受光レベルが前記閾値以下になった場合は前記遠距離測距工程に切り替え、当該遠距離測距工程では前記近距離投光信号は送信しないことを特徴とする物体検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、物体までの距離を計測する物体検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の物体検出装置は、発光手段と受光手段を有する光センサを備える。物体検出装置は、受光手段からのデータと、予め記憶した記憶データと、を比較する。物体検出装置は、両データの差が予め設定してある所定値以上になったと判定した場合、発光手段の発光周期を短くして、同じ判定処理を更に複数回行う。複数回の判定処理において、両データの差が繰返し所定値以上となった場合、警告信号を出力する。一方、複数回の判定処理において、両データの差が繰返し所定値以上とならなかった場合、誤動作である可能性が高いので、元の状態に戻る。
【0003】
特許文献2の距離測定装置は、発光部と受光部を備え、人物を含む被写体の距離画像を作成する。距離測定装置は、距離画像に人物が存在しない場合は省電力モードを設定し、距離画像に人物が存在する場合は高精細モードを設定する。高精細モードでは、省電力モードと比較して、発光部による発光のパルス数が多く、パルス振幅が大きい。
【0004】
特許文献3の測距装置は、TOF(Time of Flight)方式で対象物までの距離を計測する装置と、三角測距方式で対象物までの距離を計測する装置と、を備える。測距装置は、対象物までの距離に応じて、TOF方式と三角測距方式の何れか一方で計測した距離を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平09-237385号公報
【文献】特開2019-049480号公報
【文献】特開2017-181279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3の測距装置では、遠距離の測距に有効なTOF方式と、近距離の測距に有効な三角測距方式と、の両方を常に行うことで、対象物の検出範囲を広くすることができる。しかし、特許文献3の方法では、常に2つの方式の投光及び受光が必要となるため、消費電力が高くなる。そのため、消費電力を抑えつつ、対象物の検出範囲が広い装置が望まれていた。なお、特許文献1の物体検出装置は、物体の存否を検出するための装置であるため、近距離から遠距離にわたる広い範囲の対象物を検出する構成ではない。また、特許文献2の距離測定装置は、人物の有無に応じて距離検出の精度を切り替える構成であり、近距離から遠距離にわたる広い範囲の対象物を検出する構成ではない。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、消費電力を抑えつつ、対象物の検出範囲が広い物体検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の観点によれば、以下の構成の物体検出装置が提供される。即ち、この物体検出装置は、投光部と、受光部と、算出部と、制御部と、を備える。前記投光部は、投光素子を含んで構成されており、遠距離投光信号及び近距離投光信号を送信可能である。前記受光部は、受光素子を含んで構成されており、前記遠距離投光信号又は前記近距離投光信号が対象物で反射した反射光を受光する。前記算出部は、前記受光部が受光した前記反射光に基づいて、前記対象物までの距離を算出する。前記制御部は、前記遠距離投光信号の前記反射光の受光レベルが閾値以下である間は遠距離モードを実行し、前記遠距離投光信号の前記反射光の受光レベルが閾値を超過した場合に近距離モードを実行する。前記遠距離モードでは、前記投光部は第1周期で前記遠距離投光信号を送信し、前記近距離投光信号は送信せず、前記算出部は前記遠距離投光信号の前記反射光の受光レベルに基づいて前記対象物までの距離を算出する。前記近距離モードでは、前記投光部は前記第1周期よりも短い第2周期で少なくとも前記近距離投光信号を送信し、前記算出部は、前記近距離投光信号の前記反射光に対して三角測距方式を用いて前記対象物までの距離を算出する。前記投光部は、前記近距離モードにおいて、前記近距離投光信号に加え、前記遠距離投光信号を送信する。前記近距離モードにおいて、前記制御部は、前記遠距離投光信号の前記反射光の受光レベルが前記閾値を超過している間は前記近距離モードを維持し、前記遠距離投光信号の前記反射光の受光レベルが前記閾値以下になった場合は前記遠距離モードに切り替える。
【0010】
これにより、遠距離モードでは、第2周期よりも長い第1周期で遠距離投光信号を送信するため、消費電力を抑えつつ物体までの大まかな距離を算出できる。また、遠距離投光信号の反射光の受光レベルが閾値を超過した(物体までの距離が近くなった)ことを検出している間は、近距離モードが有効になる。近距離モードでは、三角測距方式を用いるため、物体までの正確な距離を算出できる。以上のように構成することで、消費電力を抑えつつ、検出範囲を広くすることができる。また、三角測距方式による検出結果に加え、受光レベルに基づく検出結果を得ることができ、対象物までの距離が遠くなった場合に、近距離モードから遠距離モードへ切り替えることができる。
【0011】
前記の物体検出装置においては、前記遠距離投光信号の信号レベルが、前記近距離投光信号の信号レベルよりも大きいことが好ましい。
【0012】
これにより、遠距離モードと近距離モードで信号レベルが同一の場合と比較して、遠距離モードにおける探知距離を長くしたり、近距離モードにおける消費電力を抑えたりすることができる。
【0013】
前記の物体検出装置においては、前記投光部は、共通の前記投光素子を用いて、前記遠距離投光信号と前記近距離投光信号を送信することが好ましい。
【0014】
これにより、遠距離モードと近距離モードで個別の投光素子を用いる場合と比較して、レンズや投光素子等の光学系の装置コストを低減することができる。
【0019】
前記の物体検出装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記受光部は1対の前記受光素子を備える。前記算出部は、前記遠距離モードでは1対の前記受光素子の検出値の合計を用いて前記対象物までの距離を算出し、前記近距離モードでは1対の前記受光素子の検出値の差分又は比率を用いて前記対象物までの距離を算出する。
【0020】
これにより、遠距離モードでの反射光の受光レベルに基づく測距と、近距離モードでの三角測距方式の測距と、を適切に行うことができる。
【0021】
前記の物体検出装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記受光部は、第1電極と第2電極を有し、照射された光の位置と光量に応じた光信号を検出するPSD(Position Sensitive Detector)を備える。前記算出部は、前記遠距離モードでは前記受光素子の前記第1電極と前記第2電極の検出値の合計を用いて前記対象物までの距離を算出し、前記近距離モードでは前記第1電極と前記第2電極の検出値の差分又は比率を用いて前記対象物までの距離を算出する。
【0022】
これにより、簡単な構成で物体までの距離を算出できる。
【0023】
前記の物体検出装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記受光部は、複数の受光素子を含んで構成されたCCD(Charge Coupled Device)センサを備える。前記算出部は、前記遠距離モードでは複数の前記受光素子の検出値の合計を用いて前記対象物までの距離を算出し、前記近距離モードでは複数の前記受光素子の検出値のピーク位置を用いて前記対象物までの距離を算出する。
【0024】
これにより、PSDを使用する場合と比較して、物体までの距離を高精度で算出することができる。
【0025】
前記の物体検出装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記受光部は、前記受光素子を線状に配置した一次元センサを備える。前記算出部は、前記遠距離モードでは前記受光素子の検出値の合計を用いて前記対象物までの距離を算出し、前記近距離モードでは前記受光素子の検出値のピーク位置を用いて前記対象物までの距離を算出する。
【0026】
これにより、1対の受光素子を使用する場合と比較して、多分割の受光素子で検出するため、物体までの距離を高精度で算出できる。
【0027】
前記の物体検出装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記受光部は、前記受光素子を平面状に配置した二次元センサを備える。前記算出部は、前記遠距離モードでは前記受光素子の検出値の合計を用いて前記対象物までの距離を算出し、前記近距離モードでは前記受光素子の検出値のピーク位置を用いて前記対象物までの距離を算出する。
【0028】
これにより、一次元センサを使用する場合と比較して、物体までの距離を更に高精度で算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】物体検出装置の概要及び対象物が移動するに連れて反射光の位置が変化する様子を示す図。
図2】物体検出装置の構成を示すブロック図。
図3】駆動電流及び光電変換電圧を示すグラフ。
図4】物体検出装置のタイミングチャート。
図5】変形例の物体検出装置の構成を示す概要図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。初めに、図1を参照して、物体検出装置1の概要について説明する。
【0031】
物体検出装置1は、光(投光信号)を送信する投光部10と、対象物100で反射した反射光を受光する受光部20と、を備える。物体検出装置1は、受光部20が受光した反射光に基づいて、対象物100の存在を検出するとともに、対象物100までの距離を算出する。物体検出装置1は、例えば、対象物100としての人が近接した場合に、スリープ状態を解除する機器等に搭載される。
【0032】
ただし、対象物100は、人に限られず、人以外の生物であってもよいし、乗物又は自律移動体等の機械であってもよい。また、対象物100までの距離は、スリープ状態の解除に限られず、その他の目的で用いられてもよい。
【0033】
次に、図2及び図3を参照して、物体検出装置1の詳細な構成について説明する。
【0034】
図2に示すように、物体検出装置1は、信号処理部30を備える。信号処理部30は、投光部10が送信する投光信号を変更したり、受光部20が受光した反射光を解析したり、解析結果を出力したりする。
【0035】
信号処理部30は、投光部10を制御するための構成として、制御部31と、発振回路32と、駆動回路33と、を備える。制御部31は、入力された信号(詳細は後述)に基づいて、遠距離モードか近距離モードの何れかを設定する。制御部31は、設定したモードに応じて、異なる種類の信号を投光部10から投光させる。発振回路32は、制御部31が設定したモードに応じて投光部10を所定の周期で発光させるために、周期的に変化する電流信号を生成する。駆動回路33は、発振回路32の電流信号に基づいて、駆動用の電流信号を投光部10に供給する。
【0036】
投光部10は、投光素子11と、投光レンズ12と、を備える。投光素子11は、電流信号を光(投光信号)に変換する素子であり、例えばLED(発光ダイオード)である。投光素子11は、駆動回路33から供給された電流信号に基づいて、所定の周期で間欠的に発光する。駆動回路33から投光素子11に入力される電流信号の一例が図3(a)に示されている。図3(a)に示す電流信号が投光素子11に入力されることで、投光素子11は1パルスの投光信号を送信する。投光素子11が送信した投光信号は、投光レンズ12によって絞られ、近くに対象物100が存在する場合は、対象物100に照射される。
【0037】
投光部10は、図4(a)に示すように、遠距離投光信号と近距離投光信号とを送信可能に構成されている。遠距離投光信号の信号レベルPfは、近距離投光信号の信号レベルPnよりも大きい。ただし、両者の信号レベルが同じであってもよい。遠距離投光信号の第1周期T1は、近距離投光信号の第2周期T2よりも長い。遠距離投光信号は、第1周期T1の間に1パルスを送信する。近距離投光信号は、第2周期T2の間に複数パルスを第3周期T3で送信する(1パルスのみを送信してもよい)。遠距離投光信号のパルス幅と近距離投光信号のパルス幅は同じであるが、異なっていてもよい。
【0038】
投光部10は、遠距離投光信号のみの送信、近距離投光信号のみの送信、両者を切り替えて送信の何れを行うこともできる。本実施形態では、遠距離モードでは遠距離投光信号のみを送信し、近距離モードでは遠距離投光信号と近距離投光信号を切り替えて送信する。これに代えて、近距離モードで近距離投光信号のみを送信してもよい。
【0039】
本実施形態では、共通の投光素子11を用いて、遠距離投光信号と近距離投光信号が送信される。そのため、物体検出装置1が備える投光素子11の数を少なくすることができる。これに代えて、遠距離投光信号を送信する投光素子と、近距離投光信号を送信する投光素子と、が別であっても良い。
【0040】
図1に示すように、対象物100に照射された投光信号の反射光(散乱反射光)の一部は、受光部20によって受光される。受光部20は、受光レンズ21と、第1受光素子22と、第2受光素子23と、を備える。本実施形態では、この1対の受光素子のうち、投光素子11に近い方の受光素子が第2受光素子23である。対象物100からの反射光は、受光レンズ21によって絞られ、第1受光素子22、第2受光素子23に照射される。第1受光素子22及び第2受光素子23は、光(反射光)を電流信号に変換する素子であり、例えばフォトダイオードである。以下では、反射光に基づく電流信号及び電圧信号を受光信号と称する。
【0041】
信号処理部30は、受光信号に基づいて対象物100までの距離を算出する算出部34を備える。図2に示すように、算出部34は、変換回路41,42と、加算回路43と、減算回路44と、切替器45と、比較回路46と、判定回路47と、を備える。
【0042】
変換回路41は、第1受光素子22の受光信号を電流信号から電圧信号(図3(b)を参照)に変換する。変換回路42は、第2受光素子23の受光信号を電流信号から電圧信号(図3(c)を参照)に変換する。加算回路43は、第1受光素子22の受光信号と、第2受光素子23の受光信号と、を加算して受光信号の合計を示す合計信号(図3(d)を参照)を出力する。減算回路44は、第1受光素子22の受光信号から、第2受光素子23の受光信号を、減算して受光信号の差分を示す差分信号(図3(e)を参照)を出力する。なお、差分信号は、第1受光素子22の受光信号の対数値から、第2受光素子23の受光信号の対数値を、減算した信号であってもよい。この場合、対数の減算は除算となり信号の比率とみなすことができる。
【0043】
合計信号及び差分信号は、それぞれ対象物100までの距離を算出するために用いられる。初めに、合計信号を用いて、受光レベル方式で対象物100までの距離を算出する方法を説明する。この方法は、遠距離モードの設定時において、遠距離投光信号の反射光を用いて行われる。ここで、対象物100が近くに位置しているほど、反射光の受光レベル(受光部20が受光する反射光の光量)は当然大きくなる。また、反射光の受光レベルの大きさは、合計信号の電圧の大きさと対応している。従って、合計信号の電圧の大きさは、対象物100までの距離と相関性のある値である。
【0044】
次に、差分信号を用いて三角測距方式で対象物100までの距離を算出する方法を説明する。この方法は、対象物100が比較的近くに位置している状況において、近距離投光信号の反射光を用いて行われる。図1に示すように、対象物100が近づくに連れて、受光部20で検出される反射光の向きも変化し、結果として第1受光素子22又は第2受光素子23に照射される反射光の集光位置(結像位置)も変化する。例えば、図1に示すように、対象物100までの距離がD1、D2、D3のときの集光位置は、それぞれP1、P2、P3である。対象物100までの距離と、反射光の集光位置の変化と、には相関性がある。また、反射光の集光位置が変化することで、それに応じて、第1受光素子22と第2受光素子23の受光レベルの割合が変化する。つまり、上記の差分信号の電圧の大きさは、対象物100までの距離と相関性のある値である。
【0045】
物体検出装置1は、遠距離モードにおいては、対象物100までの距離が所定距離(図1の距離D2)より近いか否かを検出し、近距離モードにおいては、対象物100までの距離が別の所定距離(図1の距離D3)より近いか否かを検出する。一方で、物体検出装置1は、対象物100までの具体的な距離を表示又は通知することは行わない。この場合においても、物体検出装置1は、対象物100までの距離と相関性のある値を算出して距離の判定を行っているため、「対象物100までの距離の算出」を行っているものとする。なお、物体検出装置1は、対象物100までの具体的な距離を表示又は通知してもよい。
【0046】
切替器45には、合計信号と差分信号が入力されている。切替器45は、制御部31の出力に応じて、合計信号と差分信号の何れか一方を比較回路46へ出力する。具体的には、制御部31は、遠距離投光信号の反射光の受光信号に対しては、合計信号を比較回路46へ出力させる。一方、制御部31は、近距離投光信号の反射光の受光信号に対しては、差分信号を比較回路46へ出力させる。
【0047】
比較回路46は、合計信号が入力される場合は、合計信号を電圧V1と比較して、比較結果(例えば差分)を出力する。この電圧V1は、例えば図1の距離D2に対応する。つまり、比較回路46は、対象物100までの距離が距離D2よりも近いか否かを算出して出力する。比較回路46は、差分信号が入力される場合は、差分信号を電圧V2と比較して、比較結果(例えば差分)を出力する。この電圧V2は、例えば図1の距離D3に対応する。つまり、比較回路46は、対象物100までの距離が距離D3よりも近いか否かを算出して出力する。判定回路47は、比較回路46による比較結果を示す信号を制御部31及び出力回路48に出力する。なお、出力回路48は、判定回路47の判定結果を外部に出力するための回路である。
【0048】
制御部31は、判定回路47からの出力に基づいて、投光信号を変更する。具体的には、制御部31は、対象物100までの距離が距離D2よりも遠い場合(合計信号の電圧が電圧V1よりも小さい場合)、遠距離モードを設定して、上述のように遠距離投光信号のみを投光部10から送信させる。また、制御部31は、対象物100までの距離が距離D2よりも近い場合(合計信号の電圧が電圧V1よりも大きい場合)、近距離モードを設定して、上述のように遠距離投光信号と近距離投光信号の両方を切り替えつつ投光部10から送信させる。近距離モードでも遠距離投光信号を送信する理由は、遠距離投光信号の受光レベルが低くなった場合に、近距離モードから遠距離モードに移行するためである。つまり、近距離モードにおいて、合計信号の電圧が電圧V1よりも小さくなった場合は、近距離モードから遠距離モードに変更される。
【0049】
次に、更に図4(b)及び図4(c)を参照して、距離D3にある対象物100が物体検出装置1に徐々に近づく場合の処理(物体検出方法)について説明する。また、図4(b)及び図4(c)に示す出力信号は、対象物100までの距離が距離D3よりも近い場合にONとなる信号である。
【0050】
対象物100までの距離が距離D1である場合、遠距離投光信号の反射光の合計信号の電圧はV1よりも小さくなる。そのため、制御部31が遠距離モードを設定するので、投光部10は、図4(b)に示すように、遠距離投光信号を送信する。また、算出部34は、受光レベル方式による測距を行う(遠距離測距工程)。
【0051】
その後、対象物100が物体検出装置1に近づき、対象物100までの距離が距離D2よりも近くなった場合、遠距離投光信号の反射光の合計信号の電圧はV1よりも大きくなる。そのため、制御部31が近距離モードを設定するので、投光部10は、図4(c)に示すように、遠距離投光信号と近距離投光信号の両方を送信する。また、算出部34は、近距離投光信号の反射に基づいて三角測距方式による測距を行う(近距離測距工程)。
【0052】
対象物100までの距離が距離D2よりも近く距離D3よりも遠い場合、近距離投光信号の反射光の差分信号の電圧はV2よりも小さくなる。従って、出力信号はOFFのままである。その後、対象物100までの距離が距離D3よりも近くなることで、近距離投光信号の反射光の差分信号の電圧はV2よりも大きくなる。その結果、図4(c)に示すように、出力信号がOFFからONに切り替わる。なお、近距離投光信号は複数のパルスを含んでおり、全て又は大部分のパルスの反射波の差分信号の電圧が電圧V2を超えたタイミングで、出力信号がOFFからONに切り替わる。これにより、誤動作を抑制できる。
【0053】
以上のように処理を行うことで、対象物100が遠くに位置している場合は、近距離投光信号が送信されないので、消費電力が抑制される。特に、近距離投光信号は周期が短いので、消費電力の低減量が大きい。また、遠距離モードでは、三角測距方式ではなく受光レベル方式を用いて対象物100までの距離を算出することで、より遠くの対象物100を検出することができる。一方で、対象物100が近くに位置している場合は、近距離投光信号が送信される。近距離投光信号は周期が短いので、対象物までの距離が距離D3よりも近くなった場合は即座にその旨を検出できる。また、受光レベル方式ではなく三角測距方式を用いて対象物100までの距離を算出することで、対象物100までの距離を正確に算出できる。
【0054】
次に、図5を参照して、上記実施形態の変形例を説明する。なお、本変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0055】
上記実施形態では、受光部20は、独立した2つの受光素子を組み合わせた構成である。これに代えて、例えば1次元のPSD(Position Sensitive Detector)を用いてもよい。1次元のPSDは、受光面の両端に第1電極と第2電極があり、照射された光の位置と光量に応じて第1電極と第2電極までの距離に反比例した電流信号が出力される。これらの2つの電流信号は、上記実施形態の2つの電流信号と実質的に同じであり、その処理方法も同じである。なお、PSDは2次元であってもよい。
【0056】
図5(a)に示す変形例では、受光部20は、受光素子としてCCD(Charge Coupled Device)を線状に配置した(1列に並べた)構成の一次元CCDセンサ24を備える。一次元CCDセンサ24が出力する信号からは、受光素子毎の受光信号を個別に取り出すことができる。従って、全ての(複数の)受光素子の受光信号を全て加算することで合計信号を生成できる。この合計信号は、上記実施形態と同様に利用される。つまり、この合計信号を用いて受光レベル方式による演算を行うことで、遠距離モードにおいて、上記実施形態と同様に対象物100までの距離を算出できる。
【0057】
また、この変形例では、差分信号の代わりに、受光素子毎の受光信号に基づいて受光レベルのピーク位置(受光レベルが最も高い位置、受光レベルの分布の中心位置)を算出する。このピーク位置は、反射波の集光位置に相当するため、ピーク位置を用いて三角測距方式による演算を行うことで、近距離モードにおいて、上記実施形態と同様に対象物100までの距離を算出できる。
【0058】
図5(b)に示す変形例では、受光部20は、受光素子としてCCDを平面状に配置した(直交する2方向に並べた)構成の二次元CCDセンサ25を備える。二次元CCDセンサ25が出力する信号からは、受光素子毎の受光信号を個別に取り出すことができる。従って、図5(a)に示す変形例と同様に、近距離モード及び遠距離モードの何れの場合においても、対象物100までの距離を算出できる。
【0059】
以上に説明したように、上記実施形態の物体検出装置1は、投光部10と、受光部20と、算出部34と、制御部31と、を備える。投光部10は、投光素子11を含んで構成されており、遠距離投光信号及び近距離投光信号を送信可能である。受光部20は、受光素子(第1受光素子22及び第2受光素子23等)を含んで構成されており、遠距離投光信号又は近距離投光信号が対象物100で反射した反射光を受光する。算出部34は、受光部20が受光した反射光に基づいて、対象物100までの距離を算出する。制御部31は、遠距離投光信号の反射光の受光レベルが閾値以下である間は遠距離モードを実行し、遠距離投光信号の反射光の受光レベルが閾値を超過した場合に近距離モードを実行する。遠距離モードでは、投光部10は第1周期T1で遠距離投光信号を送信し、算出部34は遠距離投光信号の反射光の受光レベルに基づいて対象物100までの距離を算出する。近距離モードでは、投光部10は第1周期T1よりも短い第2周期T2で少なくとも近距離投光信号を送信し、算出部34は、近距離投光信号の反射光に対して三角測距方式を用いて対象物100までの距離を算出する。
【0060】
これにより、遠距離モードでは、第2周期T2よりも長い第1周期T1で遠距離投光信号を送信するため、消費電力を抑えつつ対象物100までの大まかな距離を算出できる。また、遠距離投光信号の反射光の受光レベルが閾値を超過した(物体までの距離が近くなった)ことを検出している間は、近距離モードが有効になる。近距離モードでは、三角測距方式を用いるため、物体までの正確な距離を算出できる。以上のように構成することで、消費電力を抑えつつ、検出範囲を広くすることができる。
【0061】
また、上記実施形態の物体検出装置1においては、遠距離投光信号の信号レベルが、近距離投光信号の信号レベルよりも大きい。
【0062】
これにより、遠距離モードと近距離モードで信号レベルが同一の場合と比較して、遠距離モードにおける探知距離を長くしたり、近距離モードにおける消費電力を抑えたりすることができる。
【0063】
また、上記実施形態の物体検出装置1においては、投光部10は、共通の投光素子11を用いて、遠距離投光信号と近距離投光信号を送信する。
【0064】
これにより、遠距離モードと近距離モードで個別の投光素子11を用いる場合と比較して、レンズや投光素子等の光学系の装置コストを低減することができる。
【0065】
また、上記実施形態の物体検出装置1においては、投光部10は、近距離モードにおいて、近距離投光信号に加え、遠距離投光信号を送信する。
【0066】
これにより、三角測距方式による検出結果に加え、受光レベルに基づく検出結果を得ることができる。
【0067】
また、上記実施形態の物体検出装置1においては、近距離モードにおいて、制御部31は、遠距離投光信号の反射光が閾値を超過している間は近距離モードを維持し、遠距離投光信号の反射光が閾値以下になった場合は遠距離モードに切り替える。
【0068】
これにより、対象物100までの距離が遠くなった場合に、近距離モードから遠距離モードへ切り替えることができる。
【0069】
また、上記実施形態の物体検出装置1においては、受光部20は1対の受光素子(第1受光素子22及び第2受光素子23)を備える。算出部34は、遠距離モードでは1対の受光素子の検出値の合計を用いて対象物100までの距離を算出し、近距離モードでは1対の受光素子の検出値の差分又は比率を用いて対象物100までの距離を算出する。
【0070】
これにより、遠距離モードでの反射光の受光レベルに基づく測距と、近距離モードでの三角測距方式の測距と、を適切に行うことができる。
【0071】
また、上述したように、物体検出装置1の受光部20は、PSD又はCCDセンサを備えていてもよい。また、物体検出装置1は、受光素子を線状に配置した一次元センサ、又は、受光素子を平面状に配置した二次元センサを備えていてもよい。
【0072】
これにより、様々なデバイスを用いて物体検出装置1を実現できる。
【0073】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0074】
一次元CCDセンサ24及び二次元CCDセンサ25は、CCDに代えてCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)を用いることもできる。
【0075】
図2に示す信号処理部30は一例であり、別の構成であってもよい。例えば、信号処理部30に別の機器(例えば増幅器)が更に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 物体検出装置
10 投光部
11 投光素子
20 受光部
21 受光レンズ
22 第1受光素子
23 第2受光素子
24 一次元CCDセンサ(一次元センサ、CCDセンサ)
25 二次元CCDセンサ(二次元センサ、CCDセンサ)
30 信号処理部
31 制御部
34 算出部
図1
図2
図3
図4
図5