(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】機械振動加工装置及び機械振動加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/10 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
B23K20/10
(21)【出願番号】P 2019213334
(22)【出願日】2019-11-26
【審査請求日】2022-07-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594114019
【氏名又は名称】株式会社アルテクス
(74)【代理人】
【識別番号】100136180
【氏名又は名称】羽立 章二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 茂
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-194454(JP,A)
【文献】特開2004-148373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象物に対して加工を行う機械振動加工装置であって、
電気信号を発生する電気信号発振部と、
前記電気信号を機械振動に変換する振動子部と、
両持ち支持されたホーンに対して回転駆動させつつ前記機械振動を伝搬する駆動部を備え、
前記ホーンとして第1ホーンを利用して加工を行う場合に、前記振動子部は、前記電気信号を、20kHz以上の機械振動に変換し、
前記ホーンとして、前記第1ホーンとは異なる第2ホーンを利用して加工を行う場合に、前記振動子部は、前記電気信号を、20kHz未満の機械振動に変換する、機械振動加工装置。
【請求項2】
前記ホーンと前記加工対象物との間に生じる圧力を調整する圧力調整部を備え、
前記圧力調整部は、前記第2ホーンを利用した加工において前記第1ホーンを利用した加工と同じ領域の加工を行う場合に、前記第1ホーンと前記加工対象物との間の圧力と比較して、前記第2ホーンと前記加工対象物との間の圧力を小さくする、請求項
1記載の機械振動加工装置。
【請求項3】
前記電気信号発振部が発生する電気信号の周波数は、20kHz以上であ
る、請求項1
又は2に記載の機械振動加工装置。
【請求項4】
加工対象物に対して加工を行う機械振動加工方法であって、
電気信号発振部が電気信号を発生し、振動子部が前記電気信号を機械振動に変換して、駆動部が両持ち支持されたホーンに対して回転駆動させつつ前記機械振動を伝搬する加工ステップを含み、
前記加工ステップにおいて、
前記ホーンとして第1ホーンを利用して加工を行う場合に、前記振動子部は、前記電気信号を、20kHz以上の機械振動に変換し、
前記ホーンとして、前記第1ホーンとは異なる第2ホーンを利用して加工を行う場合に、前記振動子部は、前記電気信号を、20kHz未満の機械振動に変換する、機械振動加工方法。
【請求項5】
前記加工ステップにおいて、圧力調整部は、前記ホーンと前記加工対象物との間に生じる圧力を調整し、
前記圧力調整部は、前記第2ホーンを利用した加工において前記第1ホーンを利用した加工と同じ領域の加工を行う場合に、前記第1ホーンと前記加工対象物との間の圧力と比較して、前記第2ホーンと前記加工対象物との間の圧力を小さくする、請求項4記載の機械振動加工方法。
【請求項6】
前記電気信号発振部が発生する電気信号の周波数は、20kHz以上である、請求項4又は5に記載の機械振動加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械振動加工装置及び機械振動加工方法に関し、特に、加工対象物に対して加工を行う機械振動加工装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ホーンを両持ち支持して回転駆動させて超音波振動による加工を行うことが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、20kHz以下の音波振動で多層に積層された金属箔を接合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3338008号公報
【文献】特開2018-103204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、超音波は、人間の耳には聞こえない振動数をもつ弾性振動波(音波)を意味する。超音波の周波数の下限は、20kHzとされている。
【0006】
特許文献1は、超音波振動を利用することが記載されている。近時、微細な加工に対して関心が高まっている。超音波振動による加工では、微細な加工を、周波数を上げることにより実現しようとしている。
【0007】
しかしながら、周波数を上げるとホーンの近くでエネルギーが発生しやすくなる。そのため、例えば金属接合の場合に接合対象物とホーンがくっつきやすくなる。発明者は、周波数を上げることによって、微細な加工が難しくなることに気づいた。
【0008】
特許文献2は、両持ち支持であるが、回転駆動させるものではない。
【0009】
よって、本発明は、両持ち支持されたホーンを機械振動及び回転駆動させた加工において、超音波振動のみを使用することに比較して、エネルギーの発生位置を調整できる範囲を変更及び/又は拡張する機械振動加工装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の第1の観点は、加工対象物に対して加工を行う機械振動加工装置であって、電気信号を発生する電気信号発振部と、前記電気信号を機械振動に変換する振動子部と、両持ち支持されたホーンに対して回転駆動させつつ前記機械振動を伝搬する駆動部を備え、前記振動子部は、前記電気信号を、20kHz未満の機械振動に変換する。
【0011】
本願発明の第2の観点は、第1の観点の機械振動加工装置であって、第1ホーンを利用して加工を行う場合に、前記振動子部は、20kHz以上の機械振動に変換し、第2ホーンを利用して加工を行う場合に、前記振動子部は、20kHz未満の機械振動に変換する。
【0012】
本願発明の第3の観点は、第2の観点の機械振動加工装置であって、前記ホーンと前記加工対象物との間に生じる圧力を調整する圧力調整部を備え、前記圧力調整部は、前記第2ホーンを利用した加工において前記第1ホーンを利用した加工と同じ領域の加工を行う場合に、前記第1ホーンと前記加工対象物との間の圧力と比較して、前記第2ホーンと前記加工対象物との間の圧力を小さくする。
【0013】
本願発明の第4の観点は、第1から第3のいずれかの観点の機械振動加工装置であって、前記電気信号発振部が発生する電気信号の周波数は、20kHz以上であり、前記振動子部は、20kHz以上の電気信号を、20kHz未満の機械振動に変換する。
【0014】
本願発明の第5の観点は、第1から第4のいずれかの観点の機械振動加工装置であって、前記電気信号発振部が発生する電気信号は、20kHz以上であり、前記振動子部は、前記電気信号を、10kHz以上20kHz未満の機械振動に変換する。
【0015】
本願発明の第6の観点は、加工対象物に対して加工を行う機械振動加工方法であって、電気信号発振部が電気信号を発生し、振動子部が前記電気信号を機械振動に変換して、駆動部が両持ち支持されたホーンに対して回転駆動させつつ前記機械振動を伝搬する加工ステップを含み、前記加工ステップにおいて、前記振動子部は、前記電気信号を、20kHz未満の機械振動に変換する。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の各観点によれば、両持ち支持されたホーンを回転駆動させて、20kHz未満の機械振動(音波振動)による加工を実現することができる。20kHz未満の音波振動を利用することにより、20kHz以上の機械振動(超音波振動)を利用した場合に比較して、ホーンから遠い位置にエネルギーを発生させることができる。そのため、加工対象物である金属とホーンがくっつくことを防いだり、加工対象物が厚くても適切な位置にエネルギーを発生させたりすることができる。また、本願発明の第3の観点にあるように例えば微細な加工でも圧力調整部を利用して加工領域を調整することにより、対応することができる。よって、両持ち支持されたホーンを回転駆動させた加工において、超音波振動では難しかった加工対象物でも、加工をすることが可能になる。
【0017】
さらに、本願発明の第2の観点にあるように、第1ホーンを利用して20kHz以上の機械振動(超音波振動)による加工ができ、かつ、第2ホーンを利用して20kHz未満の機械振動(音波振動)による加工を実現できるものであってもよい。超音波振動も音波振動も実現できるため、加工できる加工対象物を大幅に拡張することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本願発明の実施の形態に係る機械振動加工装置1の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図1の機械振動加工装置1の実際の機械の一例を説明するための図である。
【
図3】亜鉛めっき鋼板について、15kHzの機械振動を利用して4辺をそれぞれ連続シームしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本願発明の実施例について述べる。なお、本願発明の実施の形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
図1は、本願発明の実施の形態に係る機械振動加工装置1の構成の一例を示すブロック図である。以下では、「音波振動」は20kHz未満の機械振動であり、「超音波振動」は20kHz以上の機械振動とする。
【0021】
図1を参照して、機械振動加工装置1は、制御部3と、電気信号発振部5(本願請求項の「電気信号発振部」の一例)と、振動子部7(本願請求項の「振動子部」の一例)と、右側駆動部9と、左側駆動部11(右側駆動部9と左側駆動部11を併せたものが本願請求項の「駆動部」の一例)と、ホーン13(本願請求項の「ホーン」の一例)と、圧力調整部15(本願請求項の「圧力調整部」の一例)を備える。
【0022】
制御部3は、機械振動加工装置1の各部に対して、制御信号などによって動作を制御する。
【0023】
電気信号発振部5は、電気信号を発生する。以下では、電気信号の周波数は、20kHzであるとする。
【0024】
振動子部7は、電気信号発振部5が発生した電気信号を機械振動に変換する振動子である。
【0025】
右側駆動部9及び左側駆動部11は、ホーン13を両持ち支持して回転駆動させる。振動子部7が変換した機械振動は、右側駆動部9を介してホーン13に伝搬する。
【0026】
ホーン13は、直接に、加工対象物17に押し当り、加工(接合や溶着など)を行う。
【0027】
ホーン13及び圧力調整部15は、ホーン13は上から、圧力調整部15は下から、加工対象物17を挟む。圧力調整部15は、制御部3からの制御信号に従って上昇して、ホーン13と加工対象物17との間の圧力を調整する。なお、圧力調整部15は、ホーン13が駆動することと同期してアンビル(受け治具)が駆動するものであってもよい。
【0028】
ホーン13の振動モードは、ホーンの形状により変化する。基本的には、横振動モードと縦振動モードがある。横振動モードは、一波長を基本としたホーンのセンターの振動振幅最大点を中心として、振動が平行する水平方向の横振動として伝達される。主として音波金属接合に使用される。縦振動モードは、半波長を基本としたホーンのセンターの応力最大点を中心として、振動がラジアル方向の縦振動へ分岐される。主として音波樹脂溶着に使用される。
【0029】
図2は、
図1の機械振動加工装置1の実際の機械の一例を説明するための図である。
図2(a)は、実際の機械の全体を示す。
図2(b)は、
図2(a)においてアクチュエータの部分を示す。
【0030】
図2(c)は、音波ロータリーシステムの概要を示す図である。横振動(水平方向)又は縦振動(ラジアル方向)のモードで振動するホーン39が、回転しながらパーツ41に音波エネルギーを伝えることで、連続して金属同士を接合したり、樹脂同士を溶着したりする。
図2(c)において、電気信号(Electric signal)31、トランスデューサ(Transducer)33、ブースター35及び37(Booster)、ホーン(Horn)39並びにパーツ(Parts)41が、それぞれ、
図1の電気信号発振部5が発生する電気信号、振動子部7、右側駆動部9及び左側駆動部11、ホーン13並びに加工対象物17に対応する。
【0031】
図2(d)及び(e)は、それぞれ、横振動及び縦振動を説明するための図である。
図2(d)にあるように、横振動モードでは、振動が平行する。他方、
図2(e)にあるように、縦振動モードでは、振動が縦振動に分岐される。
【0032】
従来、特許文献1に記載されているように、超音波振動を用いて加工していた。そのため、電気信号発振部5及び振動子部7は、超音波の範囲で処理を行うことが望ましかった。すなわち、超音波振動を用いるならば、電気信号発振部5は超音波の周波数での電気信号を発生し、振動子部7は超音波の周波数の電気信号を超音波振動に変換することが、効率がよいと考えられる。
【0033】
超音波振動を用いる場合、振動子部7は、基本的に、超音波の範囲で変換することになる。そうすると、変換の処理をシンプルなものとするならば、電気信号発振部5は、超音波の下限である20kHzで生成し、振動子部7は、同じ周波数か、20kHzよりも高い超音波振動に変換することにより、シンプルな処理で超音波加工を実現できることとなる。
【0034】
そして、従来の常識では、周波数が低いほど、厚く大きなアプリケーションに適したものであり、周波数が高いほど、デリケートで薄いアプリケーションに適しているとされていた。そのため、微細な加工を実現するためには、周波数を高くすることが望ましいとされた。特に、周波数が高くなるにつれて、例えばホーンが小さくなるなどにより、装置が小型化されてきた。このような歴史的な経緯から、周波数は、高いほど望ましい、ということが常識になっていた。
【0035】
発明者は、この常識が疑わしいことに気づいた。すなわち、周波数が高くなると、加工対象物においてホーンが接する表面の近くでエネルギーが発生しやすくなる。そのため、例えば金属接合の場合に接合対象物とホーンがくっつきやすくなる。すなわち、周波数が高くなると、微細な加工が難しくなるのである。
【0036】
さらに、発明者は、周波数が低くとも、微細な加工を実現できることに着目した。すなわち、周波数を低くすることにより、例えば接合対象物とホーンのくっつきを防止できる。さらに、加工領域を決定するのは、周波数のみではなく、ホーンと加工対象物の間の圧力も重要な役割を果たす。例えば、回転が停止した状態で、超音波振動と音波振動で同じ加工領域を実現する場合には、音波振動での圧力は、超音波振動での圧力よりも小さくすればよい。すなわち、周波数が低くとも、微細な加工を実現することができることに気づいた。
【0037】
そして、発明者らは、試行錯誤を重ね、超音波加工を実現するための電気信号発振部5、振動子部7並びに右側駆動部9及び左側駆動部11を利用して、ホーンを変更することで、20kHz未満の音波加工をも実現できることを明らかにするとともに、実験により確認した。(超音波加工を実現するためのホーンが本願請求項の「第1ホーン」の一例であり、音波加工を実現するためのホーンが本願請求項の「第2ホーン」の一例である。)振動子部7は、電気信号発振部5の電気信号を、それよりも低い周波数の機械振動に変換することとなる。
【0038】
音波振動は、15kHzの機械振動を利用することにより、仕上がりがよいものとなった。少なくとも10kHz以上20kHz未満で実現することができる。同様に、10kHz未満の音波振動でも、ホーンなどを適切に調整することによって実現することができる。
【0039】
図3は、亜鉛めっき鋼板について、15kHzの機械振動を利用して4辺をそれぞれ連続シームしたものである。亜鉛めっき鋼板の抵抗スポット溶接では、連続的にスポット溶接を繰り返すと、ある打点数でナゲットと呼ばれる継手板・板間の溶接部が得られなくなる。亜鉛めっき鋼板は、極端に少ないことが知られていた(例えば、近藤、外3名著,「合金化溶融亜鉛めっき鋼板の抵抗スポット溶接における電極先端形状の消耗変化」,溶接学会論文集,第27巻,第3号,2009,p.230-239参照)。
【0040】
図3によれば、亜鉛めっき鋼板で、15kHzの機械振動を利用して連続シームを得られており、従来技術とは異質な効果が得られている。接合条件は、周波数が15kHz、加圧が300N、回転数は1.0rpm、振幅は50.0μm、シーム長さは300mm、接合幅は5.0mmである。機械振動と回転駆動は、1.0秒間機械振動させつつ回転を停止して、0.5秒間回転駆動させて機械振動を停止することを繰り返す間欠交互制御を行った。
【0041】
さらに、発明者は、実験により、本願発明によって、アルミニウム、ステンレス、高張力鋼(ハイテン)などの広い範囲の金属の接合や、樹脂の溶着が可能となったことを確認した。
【0042】
さらに、低い周波数を利用することにより、超音波振動では対応できないような大きな加工対象物や厚みのある金属やプラスチックなどに対しても、適切な加工することができることとなる。
【0043】
このように、20kHz未満の音波振動を利用した加工を実現することにより、周波数が低いほどホーンから離れた位置でエネルギーが発生しやすくなり、加工対象物とホーンの間がくっつきにくく綺麗な仕上がりになり、量産への適応範囲が広くなる。
【符号の説明】
【0044】
1 機械振動加工装置、3 制御部、5 電気信号発振部、7 振動子部、9 右側駆動部、11 左側駆動部、13 ホーン、15 圧力調整部、17 加工対象物、31 電気信号、33 トランスデューサ、35,37 ブースター、39 ホーン、41 パーツ