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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】薬液の吹付け方法
(51)【国際特許分類】
   D21F 5/00 20060101AFI20230418BHJP
   B08B 17/02 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
D21F5/00
B08B17/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019517470
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013908
(87)【国際公開番号】W WO2019189713
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-05
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/013980
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594020802
【氏名又は名称】株式会社メンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100103805
【弁理士】
【氏名又は名称】白崎 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100126516
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 綽勝
(74)【代理人】
【識別番号】100132104
【弁理士】
【氏名又は名称】勝木 俊晴
(74)【代理人】
【識別番号】100211753
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 紳吾
(72)【発明者】
【氏名】関谷 宏
(72)【発明者】
【氏名】長塚 智彦
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 和之
(72)【発明者】
【氏名】菅 綾乃
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-314814(JP,A)
【文献】特開2015-193957(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136445(WO,A1)
【文献】紙パルプ製造技術シリーズ6 紙の抄造,日本,紙パルプ技術協会,1998年12月14日,第276-277頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B3/00-3/14
15/00-17/06
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙機のドライパートにおいて、湿紙を案内するドライヤーロールを回転させた状態で、ノズル装置を前記ドライヤーロールの幅方向に延びるレールに沿って往復移動させながら、該ノズル装置が前記ドライヤーロールに薬液を吹付ける薬液の吹付け方法であって、
前記ノズル装置が片道移動するのに要する時間Tを0.4~3.0分とし、
前記ドライヤーロールの回転速度Vdを100回/分以上とし、
前記ドライヤーロール表面の一点が、前記時間Tの間に、前記湿紙と接触する接触回数Nを50~400回とし、
前記時間T、前記回転速度Vd及び前記接触回数Nが、
N=T・Vd
の関係を満たし、
前記ノズル装置の平均移動速度Vnを4~10m/分とし、
前記湿紙の紙幅Wを4~12mとし、
前記平均移動速度Vn、前記紙幅W及び前記時間Tが、
T=W/Vn
の関係を満たし、
前記薬液の総吹付け量を有効成分量として0.3~500mg/m2とし、
前記薬液が、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、ポリブテン、植物油及び合成エステルオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する汚染防止剤組成物であり、
前記薬液のゼータ電位の絶対値が3~100mVである薬液の吹付け方法。
【請求項2】
前記湿紙の搬送速度Vpを600m/分以上とし、
前記ドライヤーロールの直径Dを1.50~1.85mとし、
前記回転速度Vd、前記搬送速度Vp及び前記直径Dが、
Vd=Vp/πD
の関係を満たす請求項1記載の薬液の吹付け方法。
【請求項3】
前記ノズル装置が前記ドライヤーロールに放射状に薬液を吹き付けるものであり、
前記ノズル装置が瞬間的に吹き付ける前記薬液の前記ドライヤーロールにおける吹付け幅が1.5~9cmである請求項1又は2に記載の薬液の吹付け方法。
【請求項4】
前記湿紙が、古紙パルプを90質量%以上含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の薬液の吹付け方法。
【請求項5】
前記ドライヤーロールが1回転する間における前記ノズル装置の移動距離Hが1.5~45cmである請求項1~4のいずれか1項に記載の薬液の吹付け方法。
【請求項6】
前記湿紙の前記搬送速度Vpが600~1800m/分である請求項~5のいずれか1項に記載の薬液の吹付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液の吹付け方法に関し、更に詳しくは、抄紙機のドライヤーロールに薬液を吹き付ける際の薬液の吹付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙を製造するための抄紙機は、湿紙を加熱乾燥するためのドライパートを備えている。
抄紙機においては、湿紙がドライパートに供給されてくると、湿紙は、カンバスによって、ドライヤーロールの表面に押し付けられて乾燥されるようになっている。このとき、ドライヤーロールは、湿紙の搬送速度(抄速)と略同速度で回転するようになっている。
【0003】
ところで、ドライパートにおいては、湿紙に含まれる紙粉やピッチが付着しやすいという問題がある。仮に、ドライパートに紙粉やピッチが付着すると、それが湿紙に転移し、湿紙の汚染に繋がる。
これに対し、ドライパートのドライヤーロールやカンバスに、移動型のノズル装置で汚染防止剤を塗布する方法が開発されている(例えば、特許文献1~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-96478号公報
【文献】特開2000-96479号公報
【文献】特開2004-58031号公報
【文献】特開2004-218186号公報
【文献】特開2005-314814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1~5記載の汚染防止方法によっても、紙粉やピッチの付着を十分に防止することができない。すなわち、上記特許文献1~5記載の汚染防止方法においては、薬液をドライヤーロールに吹き付けることにより、一定の効果は得られるものの、ドライヤーロールが湿紙に接触することにより、ドライヤーロールの表面に付与された薬液は、その一部が搬送される湿紙に吸い取られることになる。特に、湿紙の搬送速度に対応するドライヤーロールの回転速度が、高速になる程、ドライヤーロールの表面の一点が湿紙と接触する回数が増えることになるため、薬液が湿紙に吸い取られる頻度が多い。
そうすると、ドライヤーロールの表面の一点における薬液量が不足することになるため、結果として、薬液に基づく効果が十分に発揮できないことになる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高速で回転するドライヤーロールに対し、ノズル装置を幅方向に往復移動させながら、ドライヤーロールの表面に薬液を吹き付けると共に、十分な量の薬液を残存させることができる薬液の吹付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、薬液の総吹付け量、ノズル装置が片道移動するのに要する時間T、ドライヤーロールの回転速度Vd、及び、ドライヤーロール表面の一点が時間Tの間に湿紙と接触する接触回数N、を特定し、その範囲の中で、これらが一定の関係を満たすように調整することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、(1)抄紙機のドライパートにおいて、湿紙を案内するドライヤーロールを回転させた状態で、ノズル装置をドライヤーロールの幅方向に延びるレールに沿って往復移動させながら、該ノズル装置がドライヤーロールに薬液を吹付ける薬液の吹付け方法であって、ノズル装置が片道移動するのに要する時間Tを0.4~3.0分とし、ドライヤーロールの回転速度Vdを100回/分以上とし、ドライヤーロール表面の一点が、時間Tの間に、湿紙と接触する接触回数Nを50~400回とし、時間T、回転速度Vd及び接触回数Nが、
N=T・Vd
の関係を満たし、ノズル装置の平均移動速度Vnを4~10m/分とし、湿紙の紙幅Wを4~12mとし、平均移動速度Vn、紙幅W及び時間Tが、
T=W/Vn
の関係を満たし、薬液の総吹付け量を有効成分量として0.3~500mg/m2とし、薬液が、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、ポリブテン、植物油及び合成エステルオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する汚染防止剤組成物であり、薬液のゼータ電位の絶対値が3~100mVである薬液の吹付け方法に存する。
【0009】
本発明は、(2)湿紙の搬送速度Vpを600m/分以上とし、ドライヤーロールの直径Dを1.50~1.85mとし、回転速度Vd、搬送速度Vp及び直径Dが、
Vd=Vp/πD
の関係を満たす上記(1)又は(2)に記載の薬液の吹付け方法に存する。
【0010】
本発明は、(3)ノズル装置がドライヤーロールに放射状に薬液を吹き付けるものであり、
ノズル装置が瞬間的に吹き付ける薬液のドライヤーロールにおける吹付け幅が1.5~9cmである上記(1)又は(2)に記載の薬液の吹付け方法に存する。
【0011】
本発明は、(4)湿紙が、古紙パルプを90質量%以上含有する上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の薬液の吹付け方法に存する。
【0012】
本発明は、(5)ドライヤーロールが1回転する間におけるノズル装置の移動距離Hが1.5~45cmである上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の薬液の吹付け方法に存する。
【0013】
本発明は、(6)湿紙の搬送速度Vpが600~1800m/分である上記()~(5)のいずれか1つに記載の薬液の吹付け方法に存する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の薬液の吹付け方法においては、ドライヤーロールの回転速度Vdを上記範囲内とすることにより、生産性が向上し、紙製品をより安価に製造することが可能となる。
これに加え、薬液の総吹付け量、ノズル装置が片道移動するのに要する時間T、及び、ドライヤーロール表面の一点が時間Tの間に湿紙と接触する接触回数N、を上記範囲内とし、更に、その範囲の中で、これらが
N=T・Vd
の関係を満たすように調整することにより、高速で回転するドライヤーロールに対して、ノズル装置を幅方向に往復移動させながら薬液を吹き付ける場合においても、ドライヤーロールの表面に十分な量の薬液を残存させることが可能となる。
このことから、上記接触回数の範囲内において、搬送される湿紙が、接触する毎に、ドライヤーロールの表面に付与された薬液を吸い取ったとしても、十分な量の薬液が残存しているので、ドライヤーロールが部分的に薬液量不足となることを防止できる。その結果、薬液に基づく効果を十分に発揮することが可能となる。
【0015】
本発明の薬液の吹付け方法においては、ノズル装置の平均移動速度Vnを上記範囲内とすることにより、ノズル装置による安定した薬液の吹付けが可能となり、湿紙の紙幅Wを上記範囲内とすることにより、本発明の効果を確実に発揮することができる。
また、平均移動速度Vn及び湿紙の紙幅Wから、ノズル装置が片道移動するのに要する時間Tを算出することができるので、例えば、湿紙の段取り変えで紙幅が変わった場合であっても、ノズル装置の移動速度等を調整することにより、ドライヤーロールの表面に十分な量の薬液を残存させることが可能となる。
【0016】
本発明の薬液の付与方法においては、湿紙の搬送速度Vpを上記範囲内とすることにより、生産性が向上し、紙製品をより安価に製造することが可能となり、ドライヤーロールの直径Dを上記範囲内とすることにより、本発明の効果を確実に発揮することができる。
また、湿紙の搬送速度Vp及びドライヤーロールの直径Dから、ドライヤーロールの回転速度Vdを算出することができるので、例えば、ドライヤーロールの直径に応じて、湿紙の搬送速度Vp等を調整することにより、ドライヤーロールの表面に十分な量の薬液を残存させることが可能となる。
【0017】
本発明の薬液の付与方法においては、ノズル装置が瞬間的に放射状に吹き付ける薬液のドライヤーロールにおける吹付け幅を上記範囲内とすることにより、薬液の横方向への飛散を抑制し、効率良く薬液をドライヤーロールに付与することができる。
【0018】
本発明の薬液の付与方法においては、湿紙が、古紙パルプを90質量%以上含有するものである場合、当該湿紙が薬液を吸い取る量が多くなる傾向にあるため、本発明の効果をより発揮することができる。
【0019】
本発明の薬液の付与方法においては、薬液が、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、ポリブテン、植物油及び合成エステルオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する汚染防止剤組成物である場合、湿紙に含まれる紙粉やピッチがドライヤーロールに付着することを抑制することができる。
このとき、薬液のゼータ電位の絶対値が3~100mVであると、薬液がドライヤーロールに付着し易くなるため、ドライヤーロールの表面により十分な量の薬液を残存させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本実施形態に係る薬液の吹付け方法が用いられる抄紙機のドライパートを示す概略図である。
図2図2は、本実施形態に係る薬液の吹付け方法において、ドライヤーロールにノズル装置が薬液を吹付けている状態を示す概略斜視図である。
図3図3の(a)及び図3の(b)は、本実施形態に係る薬液の吹付け方法においてドライヤーロールに薬液を吹付けた場合のドライヤーロール1回転分の展開図である。
図4図4は、本実施形態に係る薬液の吹付け方法における接触回数を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0022】
本実施形態に係る薬液の吹付け方法は、抄紙機のドライパートで用いられる。
図1は、本実施形態に係る薬液の吹付け方法が用いられる抄紙機のドライパートを示す概略図である。
図1に示すように、抄紙機のドライパートDPは、湿紙Xを加熱乾燥しながら案内する複数の円筒状のドライヤーロール(ヤンキードライヤー)D1,D2,D3,D4,D5,D6,D7,D8及びD9(以下「D1~D9」という。)と、ドライヤーロールD1~D9それぞれに当接されたドクターブレードDKと、湿紙XをドライヤーロールD1~D9の表面に押し付けながら走行するカンバスK1と、ドライヤーロールD1~D9により加熱乾燥された湿紙Xを仮押圧しながら回転するブレーカースタックロールBと、ブレーカースタックロールBにより仮押圧された湿紙Xを押圧しながら回転するカレンダーロールCと、を備える。すなわち、ドライパートDPは、ドライヤーロールD1~D9、カンバスK1、ブレーカースタックロールB及びカレンダーロールCを備えている。
そして、本実施形態に係る薬液の吹付け方法は、ドライヤーロールD1~D9に対して用いられる。
【0023】
ドライパートDPにおいては、湿紙Xがドライパートに供給されてくると、回転するドライヤーロールD1~D9の表面にカンバスK1により圧接される。これにより、湿紙Xは、ドライヤーロールD1~D9に付着し、加熱乾燥されると共に、回転するドライヤーロールD1~D9及び走行するカンバスK1により案内される。
その後、湿紙Xは、ブレーカースタックロールBにより、平滑性と紙厚を緩やかに調整され、次いで、カレンダーロールCにより、再度、平滑性と紙厚を調整されて高密度化されることにより、紙が得られるようになっている。
なお、このとき、ドライヤーロールD1~D9、カンバスK1、ブレーカースタックロールB及びカレンダーロールCは、湿紙Xと略同速度で回転する。
【0024】
ドライパートDPにおいては、ドライヤーロールD1,D3,D5,D7及びD9に、ドクターブレードDKが当接されているため、ドライヤーロールD1,D3,D5,D7及びD9が回転することによって、付着した紙粉やピッチがドクターブレードDKによりかき取られるようになっている。
また、カンバスK1は、ドライヤーロールD1~D9の上方に設置された複数のカンバスロールにより十分なテンションがかけられた状態で案内される。
【0025】
薬液の吹付け方法においては、ドライヤーロールD1~D9の最上流側のドライヤーロールD1に対して、図1に示す矢印Pの位置でノズル装置Sにより薬液が吹付けられるようになっている。
このとき、ドライヤーロールD1に吹き付けられた薬液は、一部がドライヤーロールD1の表面に被膜を形成し、一部が湿紙Xにより吸い取られる。
そして、湿紙Xに吸い取られた薬液は、湿紙Xを介して、カンバスK1や後続のドライヤーロールD2~D9に付与されることになる。
したがって、薬液の吹付け方法においては、薬液を湿紙Xに十分に吸い取らせる必要があり、且つ、ドライヤーロールD1に十分な被膜を形成する必要があるため、最上流側のドライヤーロールD1には十分な量の薬液を吹き付けることが極めて重要である。
【0026】
図2は、本実施形態に係る薬液の吹付け方法において、ドライヤーロールにノズル装置が薬液を吹付けている状態を示す概略斜視図である。
図2に示すように、薬液の吹付け方法においては、ドライヤーロールD1を回転させた状態で、1基のノズル装置SをドライヤーロールD1の幅方向に延びるレールLに沿って往復移動させながら、該ノズル装置Sが前記ドライヤーロールD1に薬液を吹付ける。
【0027】
薬液の吹付け方法においては、ノズル装置Sによる薬液の吹付け量が有効成分量として0.3~500mg/mであり、1~250mg/mであることが好ましく、1.5~95mg/mであることがより好ましい。なお、「有効成分量」とは、薬液において、水以外の、油、界面活性剤、樹脂、無機塩等の成分の総量を意味する。
したがって、かかる吹付け量は、ドライヤーロール1mあたりに付与された薬液に含まれる有効成分量を意味する。
薬液の吹付け量が有効成分量として0.3mg/m未満であると、薬液が湿紙に吸い取られ、薬液に基づく効果を十分に発揮できない。また、薬液の総吹付け量が有効成分量として500mg/mを超えると、薬液自体に含まれる固形分が汚染の原因となる恐れがある。
【0028】
薬液の吹付け方法において、湿紙Xとしては、古紙パルプを90質量%以上含有するものが好適に用いられる。この場合、湿紙Xが薬液を吸い取る量が多くなる傾向にあるため、本発明の効果をより発揮することができる。
なお、湿紙Xの搬送速度Vp(抄速)は、600m/分以上が好ましく、600~2000m/分であることがより好ましく、600~1800m/分であることがより好ましく、800~1800m/分であることが更に好ましい。この場合、生産性が向上し、紙製品をより安価に製造することが可能となる。
【0029】
ドライヤーロールD1は、上述したように、湿紙Xの搬送速度Vpと略同速度で回転する。
このとき、ドライヤーロールの直径Dは、1.50~1.85mであることが好ましい。
これらのことから、ドライヤーロールD1の回転速度Vdは、
Vd=Vp/πD
を満たすように、湿紙Xの搬送速度Vp及びドライヤーロールD1の直径Dから算出される。
【0030】
具体的には、ドライヤーロールD1の回転速度Vdは、100回/分以上であり、100~425回/分であることが好ましく、100~320回/分であることがより好ましく、120~320回/分であることが更に好ましい。この場合、生産性が向上し、紙製品をより安価に製造することが可能となる。
なお、ドライヤーロールD1の回転速度Vdをこの範囲に固定し、上記式を満たすように、湿紙Xの搬送速度Vp又はドライヤーロールD1の直径Dを変更することも可能である。
【0031】
薬液の吹付け方法において、ノズル装置Sは、レールLに内蔵されたベルト(図示しない)により、レールLに沿って幅方向に往復移動するようになっている。
このとき、ノズル装置Sは、湿紙Xの一端に相当するレールLの位置P1、すなわち、湿紙Xの一端に接するドライヤーロールD1の部分が、回転し、レールL側に来たとき、その部分に対向するレールLの位置P1から、湿紙Xの他端に相当するレールLの位置P2、すなわち、湿紙Xの中央に接するドライヤーロールD1の部分が、回転し、レールL側に来たとき、その部分に対向するレールLの位置P2までの間を往復移動するようになっている。
なお、ノズル装置Sの移動制御は、レールLに取り付けられた複数のセンサー(図示しない)を用いて行われる。
これにより、薬液の吹付け方法においては、薬液の付与効率が向上し、ドライヤーロールD1全体に対して、より均一に薬液を付与することが可能となる。
【0032】
ノズル装置Sは、薬液を瞬間的に放射状に吹き付けるようになっている。
ノズル装置Sが瞬間的に薬液をドライヤーロールD1に吹き付けた場合のドライヤーロールD1における薬液の吹付け幅Rは、1.5~9cmであることが好ましく、3~6cmであることがより好ましい。
吹付け幅Rが1.5cm未満であると、吹付け幅Rが上記範囲内にある場合と比較して、ノズル装置Sが往復して再散布するまでの時間が長く、後述する湿紙の接触回数が多くなる欠点があり、吹付け幅Rが9cmを超えると、吹付け幅Rが上記範囲内にある場合と比較して、インパクトが弱いスプレー幅端部が飛散して対象への付着効率が低下するという欠点がある。なお、かかる吹付け幅Rは、幅方向における薬液の吹付け部分の最大幅を意味する。
【0033】
薬液の吹付け方法において、各ノズル装置Sが移動する片道の距離は、湿紙の紙幅Wの全幅に相当する。すなわち、ノズル装置Sが移動する往復の距離は、湿紙の紙幅Wの2倍に相当する。
そして、湿紙の紙幅Wは、生産性の観点から、4m以上のものが好適に用いられ、歩留まりの観点から、12m以下のものが好適に用いられる。
【0034】
ノズル装置Sは、レールLに沿って一定速度で往復移動するようになっている。なお、両側の折り返し部分では、減速及び加速を伴うものの、上記一定速度は超えないようになっている。
一定速度Vmaxは、例えば、ドライヤーロールD1が1回転する間におけるノズル装置Sの移動距離Hを、ドライヤーロールD1が1回転する時間(回転速度Vdの逆数)で除することにより設定することができる。
【0035】
図3の(a)及び図3の(b)は、本実施形態に係る薬液の吹付け方法においてドライヤーロールに薬液を吹付けた場合のドライヤーロール1回転分の展開図である。
薬液の吹付け方法においては、ドライヤーロールD1が1回転する間にノズル装置Sが幅方向に移動しながら連続的に薬液を吹付ける。このため、図3の(a)及び図3の(b)に示すように、薬液は、ドライヤーロール1回転分の展開図において、平行四辺形状の吹付け部分を形成することになる。
【0036】
例えば、図3の(a)に示すように、薬液の吹付け幅Rが、ドライヤーロールD1が1回転する間におけるノズル装置Sの移動距離Hよりも大きい場合、吹付け部分同士が重なり合うことになる。一方、図3の(b)に示すように、薬液の吹付け幅Rが、ドライヤーロールD1が1回転する間におけるノズル装置Sの移動距離Hよりも小さい場合、吹付け部分同士の間に隙間が生じることになる。
したがって、ドライヤーロールD1に対して、吹付け部分間に隙間が生じないように薬液を付与するためには、
H≦R
となるように、ドライヤーロールD1が1回転する間におけるノズル装置Sの移動距離H及び薬液の吹付け幅Rを設定することが好ましい。
これにより、隙間が生じないように薬液を付与可能なノズル装置Sの一定速度Vmaxが算出できる。なお、上述したように、ノズル装置Sが両側の折り返し部分で減速及び加速を伴う場合であっても、上記一定速度Vmaxを超えないため、隙間は生じない。
【0037】
具体的には、ドライヤーロールD1が1回転する間におけるノズル装置Sの移動距離Hは、1.5~45cmであることが好ましく、1.5~30cmであることがより好ましい。
移動距離Hが1.5cm未満であると、移動距離Hが上記範囲内にある場合と比較して、ノズル装置Sが往復して再散布するまでの時間が長く、後述する湿紙の接触回数が多くなるという欠点があり、移動距離Hが45cmを超えると、移動距離Hが上記範囲内にある場合と比較して、インパクトが弱いスプレー幅端部が飛散して対象への付着効率が低下する欠点がある。
【0038】
ノズル装置Sの平均移動速度Vnは、上述した一定速度Vmax並びに折り返し部分の減速及び加速を加味して設定される。
具体的には、ノズル装置の平均移動速度Vnは、4~10m/分であることが好ましい。この場合、ノズル装置による安定した薬液の吹付けが可能となる。
そして、ノズル装置Sが片道移動するのに要する時間Tは、
T=W/Vn
の関係を満たすように、湿紙の紙幅W及びノズル装置Sの平均移動速度Vnから算出される。なお、片道移動するのに要する時間とは、ノズル装置Sが往復移動するのに要する時間を半分にした時間であり、片道が往路であるか復路であるかは問わない。
【0039】
具体的には、ノズル装置Sが片道移動するのに要する時間Tは、0.4~3.0分である。
時間Tが0.4分未満であると、ノズル装置SとレールLとの摩擦が大きく故障の原因となる恐れがあり、時間Tが3.0分を超えると、ノズル装置Sが往復して薬液を再散布するまでの時間が長く、薬液に基づく効果が得られ難くなる傾向にある。
なお、ノズル装置Sが片道移動するのに要する時間Tをこの範囲に固定し、上記式を満たすように、湿紙の紙幅W又はノズル装置Sの平均移動速度Vnを変更することも可能である。
【0040】
ドライヤーロールD1は、上述したように高速で回転するため、ドライヤーロールD1の表面における任意の一点Q(図2参照)は、回転する毎に繰り返し、湿紙Xと接触することになる。
図4は、本実施形態に係る薬液の吹付け方法における接触回数を説明するための説明図である。
図4に示すように、ドライヤーロールD1の表面における一点Qは、湿紙Xと接触した状態から、ドライヤーロールD1が回転することにより、湿紙Xと乖離し、その後、更にドライヤーロールD1が回転することにより、湿紙Xと再び接触することになる。この一点Qが湿紙Xと接触するサイクルの繰り返し回数が、接触回数Nに相当する。
【0041】
ここで、ノズル装置Sが片道移動するのに要する時間Tの間に、湿紙Xと接触する接触回数Nは、
N=T・Vd
の関係を満たすように、ノズル装置Sが片道移動するのに要する時間T及びドライヤーロールD1の回転速度Vdから算出される。
この関係を満たすように、接触回数Nを設定することにより、高速で回転するドライヤーロールD1に対して、ノズル装置Sを幅方向に往復運動させながら薬液を吹き付ける場合においても、ドライヤーロールD1の表面に十分な量の薬液を残存させることが可能となる。
【0042】
具体的には、接触回数Nは、50~400回であり、80~300回であることが好ましく、100~150回であることがより好ましい。
接触回数Nが50回未満であると、湿紙Xが吸い取る薬液の量が少なくなり、一方で、ドライヤーロールD1に残存する薬液量が多くなるため、薬液自体に含まれる固形分によりドライヤーロールD1が汚染される場合があり、接触回数Nが400回を超えると、湿紙が吸い取る薬液の量が多くなり、ドライヤーロールD1が部分的に薬液量不足となる場合がある。
【0043】
薬液は、そのゼータ電位の絶対値が3~100mVであることが好ましく、20~80mVであることがより好ましい。ゼータ電位の絶対値が3mV未満であると、ゼータ電位の絶対値が上記範囲内にある場合と比較して、薬液のドライヤーロールD1への吸着力が小さいため、ドライヤーロールD1に残存する薬液量が不十分となる恐れがあり、ゼータ電位の絶対値が100mVを超えると、ゼータ電位の絶対値が上記範囲内にある場合と比較して、薬液のドライヤーロールD1への吸着力が大きいため、ドライヤーロールD1に残存する薬液量が多くなり過ぎ、その結果、薬液自体に含まれる固形分により当該ドライヤーロールD1が汚染される恐れがある。
【0044】
薬液の吹付け方法で用いられる薬液としては、汚染防止剤組成物、剥離剤組成物、洗浄剤組成物等が挙げられる。
これらの中でも、薬液は、少なくとも、汚染防止剤と水とを含む汚染防止剤組成物であることが好ましい。この場合、湿紙に含まれる紙粉やピッチがドライヤーロールに付着することを抑制することが可能となる。
汚染防止剤は、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、ポリブテン、植物油及び合成エステルオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、アミノ変性シリコーンオイル、合成エステルオイル又は植物油を含有することがより好ましい。
【0045】
ここで、汚染防止剤が、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル及びポリエーテル変性シリコーンオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコーン系オイルを含有する場合は、pHが3.0~6.0であることが好ましく、メジアン径が0.05~1.2μmであることが好ましく、粘度が100mPa・s以下であることが好ましく、ゼータ電位が23~80mVであることが好ましい。
また、汚染防止剤が、ポリブテン、植物油及び合成エステルオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種の非シリコーン系オイルを含有する場合は、pHが8.5~10.5であることが好ましく、メジアン径が0.05~1.2μmであることが好ましく、粘度が100mPa・s以下であることが好ましく、ゼータ電位が-80~-15mVであることが好ましい。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0047】
本実施形態に係る薬液の吹付け方法においては、ドライヤーロールD1~D9の最上流側のドライヤーロールD1に対してノズル装置Sにより薬液を吹き付けているが、他のドライヤーロールD2~D9に薬液を吹き付けることも当然可能である。
例えば、ドライヤーロールD1に加え、中間に位置するドライヤーロールD5にも薬液を吹き付けると効果的である。
【0048】
本実施形態に係る薬液の吹付け方法においては、ノズル装置Sの一定速度Vmaxを、H≦R
となるように設定したドライヤーロールD1が1回転する間におけるノズル装置Sの移動距離H及び薬液の吹付け幅Rから算出するとしているが、この算出方法は必須ではない。すなわち、吹付け部分間に隙間が生じる条件として、ノズル装置Sの一定速度Vmaxを算出してもよい。なお、仮に、吹付け部分間に隙間が生じる場合であっても、ノズル装置Sは、繰り返し往復移動しながら薬液を吹付けるものであるため、隙間はいずれ解消されることになる。
【0049】
本実施形態に係る薬液の吹付け方法は、ドライヤーロールD1に対して採用しているが、カンバスK1、ブレーカースタックロールB又はカレンダーロールCに採用することも可能である。
【0050】
本実施形態に係る薬液の吹付け方法においては、1基のノズル装置Sを用いて薬液を吹き付けているが、2基以上のノズル装置Sで薬液を吹き付けることも可能である。
【実施例
【0051】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1~32及び比較例1~10)
図1に示すような抄紙機の実機において、図2に示すようにドライヤーロールD1に対し、1基のノズル装置を用いて、薬液を吹き付けた。
このとき用いた湿紙の紙幅Wは6mであり、ドライヤーロールの直径Dは1.83mであった。
また、薬液として、実施例1~20及び比較例1~8ではゼータ電位56.8mVのアミノ変性シリコーンオイルを主成分とする汚染防止剤組成物(商品名:ダスクリーンCMS8144G、株式会社メンテック製)を用い、実施例21~26及び比較例9ではゼータ電位0mVのポリエーテル変性シリコーンオイルを主成分とする汚染防止剤組成物を用い、実施例27~32及び比較例10ではゼータ電位-64.0mVの合成エステルオイルを主成分とする汚染防止剤組成物(商品名:ダスクリーンPBE2677N、株式会社メンテック製)を用い、これらの薬液の総吹付け量が有効成分量として20mg/mとなるようにドライヤーロールD1に付与した。
その他の湿紙の搬送速度Vp、ノズル装置の平均移動速度Vn、ドライヤーロールの回転速度Vd、ノズル装置が片道移動するのに要する時間T、及び、薬液のゼータ電位の絶対値(mV)の条件は、表1に示すように調整し、その値から接触回数Nを算出した。
なお、表1中、使用した薬品として、アミノ変性シリコーンオイルを主成分とする汚染防止剤組成物を「Am」、ポリエーテル変性シリコーンオイルを主成分とする汚染防止剤組成物を「PE」、合成エステルオイルを主成分とする汚染防止剤組成物を「ES」で示す。
【0053】
(表1)
【0054】
[評価方法]
実施例1~32及び比較例1~10において、1時間経過後のドライヤーロールD1の表面に付着したピッチや紙粉等による汚染の状況について目視にて評価した。
評価は、ドライヤーロールD1表面に汚れが付着していない状態を「◎」とし、ドライヤーロールD1表面の全体の1割程度に汚れが付着している状態を「〇」とし、ドライヤーロールD1表面の全体の1~3割程度に汚れが付着している状態を「△」とし、ドライヤーロールD1表面の全体の3割以上に汚れが付着している状態を「×」とした。なお、かかる評価が「◎」、「〇」又は「△」であれば、汚染防止剤組成物に基づく汚染防止効果が発揮されているといえる。
得られた結果を表2に示す。
【0055】
(表2)
【0056】
表2に示した結果から明らかなように、実施例1~32の薬液の吹付け方法によれば、比較例1~10の薬液の吹付け方法と比較して、ドライヤーロールD1の汚染を十分に抑制できているので、ドライヤーロールD1表面に汚染防止剤組成物が十分に残存しており、それによる効果を発揮していると言える。
また、ゼータ電位の絶対値が56.8mVである汚染防止剤組成物を用いた実施例1~20、及び、ゼータ電位の絶対値が64.0mVである汚染防止剤組成物を用いた実施例27~32、においては、汚染防止効果がより優れるものであった。さらに、その中でも、接触回数を70~142回とした場合に汚染防止効果がより一層優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る薬液の吹付け方法は、抄紙機におけるドライパートに薬液を吹付ける場合の吹付け方法として好適に用いられる。本発明によれば、高速で回転するドライヤーロールに対し、ノズル装置を幅方向に往復移動させながら、ドライヤーロールの表面に薬液を吹き付けると共に、十分な量の薬液を残存させることができる。
【符号の説明】
【0058】
B・・・ブレーカースタックロール
C・・・カレンダーロール
D・・・直径
D1,D2,D3,D4,D5,D6,D7,D8,D9・・・ドライヤーロール
DK・・・ドクターブレード
DP・・・ドライパート
H・・・移動距離
K1・・・カンバス
L・・・レール
P1,P2・・・位置
Q・・・一点
R・・・吹付け幅
S・・・ノズル装置
W・・・紙幅
X・・・湿紙
図1
図2
図3
図4