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7264485熱硬化性樹脂組成物、絶縁性フィルム、層間絶縁性フィルム、多層配線板、および半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、絶縁性フィルム、層間絶縁性フィルム、多層配線板、および半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/02 20060101AFI20230418BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230418BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C08F299/02
H05K1/03 630C
H01B3/30 Q
H01B3/30 N
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019555358
(86)(22)【出願日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2018043127
(87)【国際公開番号】W WO2019103086
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2017225537
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148219
【弁理士】
【氏名又は名称】渡會 祐介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳也
(72)【発明者】
【氏名】黒川 津与志
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真樹
(72)【発明者】
【氏名】寺木 慎
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/152427(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/175326(WO,A1)
【文献】特開2015-189834(JP,A)
【文献】特開2017-171925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F299
C08G65
C08J5/18
C08L71
H05K1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)末端に不飽和二重結合を有する数平均分子量が1500~2500のポリフェニレンエーテル、
(B)融点が200℃以上のフェノール系酸化防止剤、および
(C)熱可塑性エラストマー
を含むことを特徴とする、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、(D)無機充填剤を含む、請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(D)成分が、一般式(10)で表されるシランカップリング剤で表面処理されたシリカフィラー
【化15】
(式中、R21~R23は、それぞれ独立して、炭素数が1~3のアルキル基であり、R24は、少なくとも末端に不飽和二重結合を有する官能基であり、nは、3~9である)を含む、請求項2記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
一般式(10)のR24が、ビニル基、または(メタ)アクリル基である、請求項3記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
(A)成分が、末端にスチレン基を有するポリフェニレンエーテルである、請求項1~4のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物を含む、絶縁性フィルム。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物を含む、層間絶縁性フィルム。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物、請求項記載の絶縁性フィルムの硬化物、または請求項記載の層間絶縁性フィルムの硬化物を有する、多層配線板。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物、請求項記載の絶縁性フィルムの硬化物、または請求項記載の層間絶縁性フィルムの硬化物を有する、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、絶縁性フィルム、層間絶縁性フィルム、多層配線板、および半導体装置に関する。特に、高周波化に対応可能な熱硬化性樹脂組成物、絶縁性フィルム、層間絶縁性フィルム、多層配線板、および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、各種通信機器等の電子機器には、高周波化が求められることが多い。例えば、ミリ波通信等の高周波用途の多層プリント配線板には、低伝送損失が要求されることが多い。この高周波用途の多層プリント配線板の接着層やカバーレイ、または基板自体に使用される材料として、優れた高周波特性を有するポリフェニレンエーテル(PPE)を用いることが、知られている。
【0003】
一方、エポキシ等の硬化成分やエラストマーを使用して、樹脂組成物に、PPE並みの高周波特性を持たせることが、報告されており(特許文献1)、エポキシ樹脂に含有されたフェノール系酸化防止剤が、樹脂組成物の高周波特性を悪化させることなく使用できると、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-201642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、熱硬化性のPPEは、反応性及び溶媒への可溶性の観点から、低分子量化することが、好ましい。
【0006】
しかしながら、低分子量の熱硬化性PPEを重合させて得られたPPE重合体は、高温での酸化劣化が非常に早く、多層配線板に使用した際に、耐熱信頼性試験後の誘電正接(tanδ)値が変動してしまう、という問題があることを、本発明者らは見出した。加えて、多層配線版には、はんだ耐熱性も要求され、この要求も満たす必要がある。
【0007】
本発明の目的は、上述の観点から、高周波特性、および耐熱信頼性に優れ(誘電正接(tanδ)の変化量が小さく)、かつはんだ耐熱性に優れる、PPE系熱硬化性樹脂組成物を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有することによって上記問題を解決した熱硬化性樹脂組成物、絶縁性フィルム、層間絶縁性フィルム、多層配線板、および半導体装置に関する。
〔1〕(A)末端に不飽和二重結合を有する数平均分子量が800~4500のポリフェニレンエーテル、
(B)融点が200℃以上のフェノール系酸化防止剤、および
(C)熱可塑性エラストマー
を含むことを特徴とする、熱硬化性樹脂組成物。
〔2〕さらに、(D)無機充填剤を含む、上記〔1〕記載の熱硬化性樹脂組成物。
〔3〕(D)成分が、一般式(10)で表されるシランカップリング剤で表面処理されたシリカフィラー
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R21~R23は、それぞれ独立して、炭素数が1~3のアルキル基であり、R24は、少なくとも末端に不飽和二重結合を有する官能基であり、nは、3~9である)を含む、上記〔1〕または〔2〕記載の熱硬化性樹脂組成物。
〔4〕一般式(10)のR24が、ビニル基、または(メタ)アクリル基である、上記〔1〕~〔3〕のいずれか記載の熱硬化性樹脂組成物。
〔5〕上記〔1〕~〔4〕のいずれか記載の熱硬化性樹脂組成物を含む、絶縁性フィルム。
〔6〕上記〔1〕~〔4〕のいずれか記載の熱硬化性樹脂組成物を含む、層間絶縁性フィルム。
〔7〕上記〔1〕~〔4〕のいずれか記載の樹脂組成物の硬化物、上記〔5〕記載の絶縁性フィルム、または上記〔6〕記載の層間絶縁性フィルムの硬化物。
〔8〕上記〔1〕~〔4〕のいずれか記載の樹脂組成物の硬化物、上記〔5〕記載の絶縁性フィルム、または上記〔6〕記載の層間絶縁性フィルムの硬化物を有する、多層配線板。
〔9〕上記〔1〕~〔4〕のいずれか記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物、〔5〕記載の絶縁性フィルム、または上記〔6〕記載の層間絶縁性フィルムの硬化物を有する、半導体装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明〔1〕によれば、高周波特性、および耐熱信頼性に優れ(誘電正接(tanδ)の変化量が小さく)、はんだ耐熱性に優れる、PPE系熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0012】
本発明〔5〕によれば、高周波特性、および耐熱信頼性に優れ、かつはんだ耐熱性に優れる、PPE系熱硬化性樹脂組成物により形成された層間絶縁性フィルムを提供することができる。
本発明〔6〕によれば、高周波特性、および耐熱信頼性に優れ、かつはんだ耐熱性に優れる、PPE系熱硬化性樹脂組成物により形成された層間絶縁性フィルムを提供することができる。
【0013】
本発明〔7〕によれば、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物、上記絶縁性フィルム、または上記層間絶縁性フィルムの硬化物により、高周波特性、および耐熱信頼性に優れる多層配線板を提供することができる。本発明〔8〕によれば、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物、上記絶縁性フィルム、または上記層間絶縁性フィルムの硬化物により、高周波特性、および耐熱信頼性に優れる多層配線板を提供することができる。本発明〔9〕によれば、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物、上記絶縁性フィルム、または上記層間絶縁性フィルムの硬化物により、高周波特性、および耐熱信頼性に優れる半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔熱硬化性樹脂組成物〕
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、
(A)末端に不飽和二重結合を有する数平均分子量が800~4500のポリフェニレンエーテル、
(B)融点が200℃以上のフェノール系酸化防止剤、および
(C)熱可塑性エラストマー
を含む。
【0015】
(A)成分は、末端に不飽和二重結合を有する数平均分子量が800~4500のポリフェニレンエーテルであり、本発明の熱硬化性樹脂組成物(以下、熱硬化性樹脂組成物という)に、接着性、高周波特性、耐熱性を付与する。ここで、高周波特性とは、高周波領域での伝送損失を小さくする性質をいう。(A)成分は、10GHzにおける比誘電率(ε)が3.5以下、誘電正接(tanδ)が0.003以下であると、高周波特性の観点から、好ましい。(A)成分としては、末端にスチレン基を有するポリフェニレンエーテルが、好ましい。
【0016】
末端にスチレン基を有するポリフェニレンエーテル(PPE)としては、高周波特性に優れ、誘電特性(特にtanδ)の温度依存性(常温(25℃)での測定値に対する、高温(120℃)での測定値の変化)が小さいため、一般式(1)で示される化合物が好ましい。
【0017】
【化2】
【0018】
(式(1)中、-(O-X-O)-は、一般式(2)または(3)で表される。)
【0019】
【化3】
【0020】
【化4】
【0021】
(式(2)中、R,R,R,R,Rは、同一または異なってもよく、炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基である。R,R,Rは、同一または異なってもよく、水素原子、炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基である。)
【0022】
(式(3)中、R,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16は、同一または異なってもよく、水素原子、炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基である。-A-は、炭素数20以下の直鎖状、分岐状または環状の2価の炭化水素基である。)
【0023】
(式(1)中、-(Y-O)-は、一般式(4)で表され、1種類の構造または2種類以上の構造がランダムに配列している。)
【0024】
【化5】
【0025】
(式(4)中、R17,R18は、同一または異なってもよく、炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基である。R19,R20は、同一または異なってもよく、水素原子、炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基である。)
【0026】
(式(1)中、a,bは、少なくともいずれか一方が0でない、0~100の整数を示す。)
【0027】
(式(3)における-A-としては、例えば、メチレン、エチリデン、1-メチルエチリデン、1,1-プロピリデン、1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)、1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)、シクロヘキシリデン、フェニルメチレン、ナフチルメチレン、1-フェニルエチリデン、等の2価の有機基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。)
【0028】
(式(1)で示される化合物としては、R,R,R,R,R,R17,R18が炭素数3以下のアルキル基であり、R,R,R,R,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16,R19,R20が水素原子または炭素数3以下のアルキル基であるものが好ましく、特に一般式(2)または一般式(3)で表される-(O-X-O)-が、一般式(5)、一般式(6)、または一般式(7)であり、一般式(4)で表される-(Y-O)-が、式(8)または式(9)であるか、あるいは式(8)と式(9)がランダムに配列した構造であることがより好ましい。)
【0029】
【化6】
【0030】
【化7】
【0031】
【化8】
【0032】
【化9】
【0033】
【化10】
【0034】
式(1)で示される化合物の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、2官能フェノール化合物と1官能フェノール化合物を酸化カップリングさせて得られる2官能フェニレンエーテルオリゴマーの末端フェノール性水酸基をビニルベンジルエーテル化することで製造することができる。
【0035】
(A)成分の熱硬化性樹脂の数平均分子量は、GPC法によるポリスチレン換算で800~4,500の範囲であり、1000~3500の範囲が好ましく、重合による酸化劣化の起点を減らしつつ低粘度化を図る観点から、1500~2500の範囲が、より好ましい。数平均分子量が800以上であれば、本発明の熱硬化性樹脂組成物を塗膜状にした際にべたつき難く、また、4500以下であれば、溶剤への溶解性の低下を防止できる。(A)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0036】
(B)成分は、融点が200℃以上のフェノール系酸化防止剤であり、熱硬化性樹脂に、はんだ耐熱性を付与する。(B)成分の融点が、200℃未満では、熱硬化性樹脂のはんだ耐熱性が、不十分になる。(B)成分の融点が200℃以上のフェノール系酸化防止剤としては、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデネジ-m-クレゾール等が、挙げられる。
【0037】
(B)成分の市販品としては、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン(アデカ製、品名:AO-20、融点:220~222℃、分子量:784);
【0038】
【化11】
【0039】
1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼン(アデカ製、品名:AO-330、融点:243~245℃):
【0040】
【化12】
【0041】
が、挙げられる。(B)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0042】
(C)成分は、熱硬化性樹脂組成物に柔軟性を付与する、柔軟性付与樹脂として機能する。(C)成分の熱可塑性エラストマーとしては、誘電特性の観点から、スチレン系熱可塑性エラストマーが、好ましく、誘電特性(特にtanδ)の温度依存性(常温(25℃)での測定値に対する、高温(120℃)での測定値の変化)の小ささの観点から、水添スチレン系熱可塑性エラストマーが、より好ましい。なお、ポリブタジエンを水添したものは、耐熱性は良くなるが、温度依存性が増大する場合がある。
【0043】
(C)成分として好ましい水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、分子中の主鎖の不飽和二重結合が水添されたスチレン系ブロックコポリマーであり、この水添スチレン系ブロックコポリマーとしては、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)や、スチレン-(エチレン-エチレン/プロピレン)-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)等が、挙げられ、SEBS、SEEPSが好ましい。SEBSやSEEPSは、誘電特性に優れ、(A)成分の選択肢であるポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE等と相溶性がよく、耐熱性をもつ熱硬化性樹脂組成物を形成できるからである。さらに、スチレン系ブロックコポリマーは、熱硬化性樹脂組成物の低弾性化にも寄与するため、絶縁性フィルムに柔軟性を付与し、また熱硬化性樹脂組成物の硬化物に3GPa以下の低弾性が求められる用途に好適である。
【0044】
(C)成分の重量平均分子量は、30,000~200,000であるものが好ましく、80,000~120,000であることがより好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、標準ポリスチレンによる検量線を用いた値とする。(C)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0045】
(A)成分と(C)成分は樹脂であり、(A)成分は、(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、10~70質量部であると好ましく、20~60質量部であると、より好ましい。
【0046】
(A)成分が少ないと、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の硬化が充分でなく、ピール強度の低下や熱膨張係数(CTE)の増大、耐熱性の低下等の不具合が生じやすくなる。(A)成分が多いと、熱硬化性樹脂組成物から作製されるフィルムが硬く、脆く、割れやすくなり、フィルム性が損なわれ、また熱硬化性樹脂組成物の硬化物も硬く、脆くなり、ピール強度の低下や、ヒートショックによるクラックが、発生しやすくなる、高温での酸化により耐熱信頼性が低下する、などの不具合が生じやすくなる。
【0047】
(A)成分および(C)成分以外の樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂等を併用してもよい。
【0048】
(B)成分は、熱硬化性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して、高周波特性の観点から、0.1~10質量部であると好ましく、0.3~5質量部であると、より好ましく、0.5~2質量部であると特に好ましい。
【0049】
熱硬化性樹脂は、さらに、(D)無機充填剤を含むと、熱硬化性樹脂の硬化物のCTEを低くする観点から、好ましい。(D)成分としては、高周波特性の観点から、シリカフィラーであると、好ましい。(D)成分の無機充填剤は、表面処理されていると、耐湿信頼性の観点から、より好ましい。この表面処理剤としては、一般式(10):
【0050】
【化13】
【0051】
(式中、R21~R23は、それぞれ独立して、炭素数が1~3のアルキル基であり、R24は、少なくとも末端に不飽和二重結合を有する官能基であり、nは、3~9である)で表されるシランカップリング剤であると、耐湿性向上の観点から好ましく、また、式中、nは5~9であると、より好ましい。さらに、一般式(10)のR24が、反応性による(A)との接着性の観点から、ビニル基、または(メタ)アクリル基であると好ましく、ビニル基であるとピール強度の観点から、より好ましい。
【0052】
(D)成分に使用されうるシランカップリング剤としては、オクテニルトリアルコキシシランや(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが、挙げられる。オクテニルトリアルコキシシランとしては、オクテニルトリメトキシシラン、オクテニルトリエトキシシラン等が、挙げられる。(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシランとしては、(メタ)アクリロキシオクチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシオクチルトリエトキシシラン等が、挙げられる。熱硬化性樹脂組成物のピール強度向上の観点から、オクテニルトリメトキシシランが、より好ましい。(D)成分に使用されうるシランカップリング剤の市販品としては、信越化学工業(株)製オクテニルトリメトキシシラン(品名:KBM-1083)、信越化学工業(株)製メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(品名:KBM-5803)、信越化学工業(株)製3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(品名:KBM-503)が、挙げられる。(D)成分に使用されうるシランカップリング剤は、単独でも2種以上であってもよい。
【0053】
(D)成分に使用されるシリカフィラーとしては、溶融シリカ、普通珪石、球状シリカ、破砕シリカ、結晶性シリカ、非晶質シリカ等が挙げられ、特に限定されない。シリカフィラーの分散性、熱硬化性樹脂組成物の流動性、硬化物の表面平滑性、誘電特性、低熱膨張率、接着性等の観点からは、球状の溶融シリカが、望ましい。また、シリカフィラーの平均粒径(球状でない場合は、その平均最大径)は、特に限定されないが、比表面積の小ささによる硬化後の耐湿性向上の観点から、0.05~20μmであると、好ましく、0.1~10μmであると、より好ましく、1~10μmであると、さらに好ましい。ここで、シリカフィラーの平均粒径は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準のメジアン径をいう。
【0054】
上述のカップリング剤を用いて、シリカフィラーを表面処理する方法は、特に限定されず、例えば、乾式法、湿式法等が、挙げられる。
【0055】
乾式法は、シリカフィラーと、シリカフィラーの表面積に対して適切な量のシランカップリング剤を撹拌装置に入れ、適切な条件で撹拌するか、予めシリカフィラーを攪拌装置に入れ、適切な条件で攪拌しながら、シリカフィラーの表面積に対して適切な量のシランカップリング剤を、原液または溶液にて滴下または噴霧等により添加し、攪拌によってシリカフィラー表面にシランカップリング剤を均一に付着させ、(加水分解させることによって)表面処理する方法である。撹拌装置としては、例えば、ヘンシェルミキサー等の高速回転で、撹拌・混合ができるミキサーが挙げられるが、特に、限定されるものではない。
【0056】
湿式法は、表面処理をするシリカフィラーの表面積に対して、十分な量のシランカップリング剤を、水または有機溶剤に溶解した表面処理溶液に、シリカフィラーを添加し、スラリー状になるよう撹拌することにより、シランカップリング剤とシリカフィラーを、十分反応させた後、濾過や遠心分離等を用い、シリカフィラーを表面処理溶液から分離し、加熱乾燥して、表面処理を行う方法である。
【0057】
(D)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0058】
(D)成分は、低CTE化の観点から、熱硬化性樹脂組成物(但し、溶剤を除く)中、45~75体積%(中実シリカフィラーであれば64~88質量%)であることが好ましく、50~70体積%(中実シリカフィラーであれば69~85質量%)であることが、より好ましい。(D)成分が少ないと、所望する熱硬化性樹脂組成物のCTEを達成することができず、(D)成分が多いと、熱硬化性樹脂組成物のピール強度が低下しやすくなる。
【0059】
なお、熱硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、(A)成分の硬化促進剤としての有機過酸化物や、シランカップリング剤等のカップリング剤(インテグラルブレンド)、難燃剤、粘着性付与剤、消泡剤、流動調整剤、揺変剤、分散剤、酸化防止剤、難燃剤等の添加剤を、含むことができる。シランカップリング剤としては、P-スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-1403)、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(信越化学工業(株)製、KBE-846)、ポリスルフィド系シランカップリング剤(株式会社大阪ソーダ製、カブラス4)、オクテニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-1083)、メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-5803)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-503)、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBE-503)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-403)、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBE-403)等が、挙げられる。難燃剤としては、ホスフィン酸金属塩(クラリアントジャパン製、OP-935)等が、挙げられる。
【0060】
熱硬化性樹脂組成物は、樹脂組成物を構成する(A)、(B)、(C)成分等の原料を、有機溶剤に溶解又は分散等させることにより、作製することができる。これらの原料の溶解又は分散等の装置としては、特に限定されるものではないが、加熱装置を備えた攪拌機、デゾルバー、ライカイ機、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を使用することができる。また、これら装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0061】
有機溶剤としては、芳香族系溶剤として、例えば、トルエン、キシレン等、ケトン系溶剤として、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。有機溶剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。作業性の観点から、熱硬化性樹脂組成物は、200~3000mPa・sの粘度の範囲であることが好ましい。粘度は、E型粘度計を用いて、回転数50rpm、25℃で測定した値とする。
【0062】
得られる熱硬化性樹脂組成物は、高周波特性、および耐熱信頼性に優れ(誘電正接(tanδ)の変化量が小さく)、かつはんだ耐熱性に優れる。
【0063】
〔絶縁性フィルム〕
本発明の絶縁性フィルムは、上述の熱硬化性樹脂組成物を含む。絶縁性フィルムは、熱硬化性樹脂組成物から、所望の形状に形成される。具体的には、絶縁性フィルムは、上述の熱硬化性樹脂組成物を、支持体の上に、塗布した後、乾燥することにより、得ることができる。支持体は、特に限定されず、銅、アルミニウム等の金属箔、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)等の有機フィルム等が挙げられる。支持体はシリコーン系化合物等で離型処理されていてもよい。なお、熱硬化性樹脂組成物は、種々の形状で使用することができ、形状は特に限定されない。
【0064】
熱硬化性樹脂組成物を支持体に塗布する方法は、特に限定されないが、薄膜化・膜厚制御の点からはグラビア法、スロットダイ法、ドクターブレード法が好ましい。スロットダイ法により、厚さが5~300μmの熱硬化性樹脂組成物の未硬化フィルム、すなわち絶縁性フィルムを、得ることができる。
【0065】
乾燥条件は、熱硬化性樹脂組成物に使用される有機溶剤の種類や量、塗布の厚み等に応じて、適宜、設定することができ、例えば、50~120℃で、1~60分程度とすることができる。このようにして得られた絶縁性フィルムは、良好な保存安定性を有する。なお、絶縁性フィルムは、所望のタイミングで、支持体から剥離することができる。
【0066】
絶縁性フィルムの硬化は、例えば、150~230℃で、30~180分間の条件で行うことができる。本発明の層間絶縁性フィルムは、上記と同様の方法で作製し、また、硬化を行うことができる。絶縁性フィルムを層間絶縁性フィルムとして用いる場合、層間絶縁性フィルムの硬化は、銅箔等による配線が形成された基板間に層間絶縁性フィルムを挟んでから行ってもよく、銅箔等による配線を形成した層間絶縁性フィルムを、適宜積層した後に行ってもよい。また、絶縁性フィルムは、基板上の配線を保護するカバーレイフィルムとして用いることもでき、その際の硬化条件も同様である。なお、熱硬化性樹脂組成物も、同様に硬化させることができる。また、硬化時に、例えば、1~5MPaの圧力で、プレス硬化させてもよい。
【0067】
〔多層配線板〕
本発明の多層配線板は、上述の熱硬化性樹脂組成物の硬化物、上述の絶縁性フィルム、または層間絶縁性フィルムの硬化物を有する。本発明のプリント配線板は、上述の熱硬化性樹脂組成物、上述の絶縁性フィルム、または層間絶縁性フィルムを用い、これを硬化して作製する。このプリント配線板は、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物、上記絶縁性フィルム、または層間絶縁性フィルムの硬化物により、高周波特性、および耐熱信頼性に優れ(誘電正接(tanδ)の変化量が小さく)、かつはんだ耐熱性に優れる。多層配線板の中では、マイクロ波やミリ波通信用の基板、特に車載用ミリ波レーダー基板等の高周波用途のプリント配線板等が、挙げられる。多層配線板の製造方法は、特に、限定されず、一般的なプリプレグを使用してプリント配線板を作製する場合と同様の方法を、用いることができる。
【0068】
〔半導体装置〕
本発明の半導体装置は、上述の熱硬化性樹脂組成物、上述の絶縁性フィルム、または層間絶縁性フィルムを用い、これを硬化して作製する。この半導体装置は、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物、上記絶縁性フィルム、または層間絶縁性フィルムの硬化物により、高周波特性、および耐熱信頼性に優れる(誘電正接(tanδ)の変化量が小さい)。ここで、半導体装置とは、半導体特性を利用することで機能しうる装置全般を指し、電子部品、半導体回路、これらを組み込んだモジュール、電子機器等を含むものである。
【実施例
【0069】
本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、部、%はことわりのない限り、質量部、質量%を示す。
【0070】
〔実施例1~11、比較例1~3〕
〈熱硬化性樹脂組成物の作製〉
表1~2に示す配合で、各成分を容器に計り取り、自転・公転式の攪拌機(品名:マゼルスター(登録商標)、クラボウ製)で3分間攪拌混合した後、ビーズミルを使用して分散し、トルエンで粘度調整して、熱硬化性樹脂組成物を調整した。次に、熱硬化性樹脂組成物を、塗布機により、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に、50~100μmの厚さになるよう塗布し、100~120℃で10~20分間、乾燥し、フィルム化した。
【0071】
ここで、表1~2に記載したOPE-2St 2200は、三菱ガス化学(株)製スチレン末端変性PPE(分子量(Mn):2200)を、
OPE-2St 1200は、三菱ガス化学(株)製スチレン末端変性PPE(分子量(Mn):1200)を、
AO-20は、ADEKA製ヒンダードフェノール系酸化防止剤(融点:220~222℃)を、
AO-330は、ADEKA製ヒンダードフェノール系酸化防止剤(融点:243~245℃)を、
AO-80は、ADEKA製ヒンダードフェノール系酸化防止剤(融点:110~120℃、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニロキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン:
【0072】
【化14】
【0073】
G1652は、クレイトンポリマー製SEBS(スチレン比30%エラストマー)を、
G1657は、クレイトンポリマー製SEBS(スチレン比13%エラストマー)を、
KBM-1403は、信越化学工業(株)製スチリル系カップリング剤(p-スチリルトリメトキシシラン)を、
カブラス4は、大阪ソーダ製スルフィド系カップリング剤を、
SFP-130MC M処理は、DENKA製SiOフィラー(平均粒径:0.7μm品)に、メタクリル系カップリング剤(信越化学工業(株)製3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、製品名:KBM-503)処理を行ったものを、
FB-3SDX M処理は、DENKA製SiOフィラー(平均粒径:3.4μm品)に、メタクリル系カップリング剤(信越化学工業(株)製3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、製品名:KBM-503)処理を行ったものを、
FB-3SDX O処理は、DENKA製SiOフィラー(平均粒径:3.4μm品)に、オクテニル系カップリング剤(信越化学工業(株)製7-オクテニルトリメトキシシラン、製品名:KBM-1083)処理を行ったものを、
FB-3SDX 未処理は、DENKA製SiOフィラー(平均粒径:3.4μm品)を、
使用した。
【0074】
〔評価方法〕
【0075】
〈誘電特性〉
PET基材から剥離したフィルムを、200℃で1時間、1MPaでプレス硬化させた後、70×50mmに裁断し、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により、誘電体共振周波数10GHzで、常温常湿の比誘電率(ε)、誘電正接(tanδ)を測定した。比誘電率は、3.5以下、誘電正接は、0.0030以下であると、好ましい。表1~2に、結果を示す。
【0076】
〈耐熱信頼性(tanδ変化)〉
上述の誘電特性を測定した硬化フィルムを、125℃で200時間、放置した後、常温常湿で、SPDR法(10GHz)により、tanδを測定し、tanδの変化量と変化率を求めた。変化率は、80%以下であると、好ましい。表1~2に、結果を示す。
【0077】
〈はんだ耐熱性〉
2枚のCu箔(福田金属箔粉工業(株)製、品名:CF-T9FZSV)に、PET基材から剥離したフィルムを挟み、200℃で1時間、1MPaでプレス硬化させて接着した後、3cm×3cmに切出したものを試験片とし、270℃の半田浴に60秒間フロートし、膨れ発生の有無を、目視で確認した。膨れ等の外観に変化がなかった場合を「OK」(合格)、膨れが観察された場合を「NG」(不合格)とした。表1~2に、結果を示す。
【0078】
〈耐湿信頼性(tanδ変化)〉
上述の誘電特性を測定した硬化フィルムを、85℃/85%RHの恒温恒湿槽中に200時間放置した後、常温常湿で、SPDR法(10GHz)により、tanδを測定し、tanδの変化量と変化率を求めた。変化率は、55%以下であると好ましく、45%以下であると、より好ましく、40%以下であるとさらに好ましい。表3に、結果を示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
表1~3からわかるように、実施例1~11は、比誘電率(ε)、誘電正接(tanδ)、耐熱信頼性(tanδの変化量、変化率)、はんだ耐熱性、耐湿信頼性のすべてにおいて良好な結果であった。さらに、実施例1~10は、耐湿信頼性(tanδの変化量、変化率)の結果も、より良好であった。なお、シランカップリング剤で処理されていないシリカフィラーを使用した実施例11は、耐湿信頼性の結果は、53%であった。これは、シリカフィラー自体の耐湿性が悪いため、単にシリカフィラーを加えると耐湿信頼性が低下するのに対し、シリカフィラーの表面処理を行うことで、耐湿信頼性の低下を防止できるためである、と考えられる。また、(A)成分の分子量が異なる実施例1と6とを比較すると、分子量の小さな方が、耐熱信頼性の結果が悪く、酸化劣化が進行することがわかる。これに対して、(B)成分を使用しなかった比較例1と2は、耐湿信頼性の変化率が大きかった。また、(B’)成分を使用した比較例3は、はんだ耐熱性が、悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、高周波特性、および耐熱信頼性に優れ(誘電正接(tanδ)の変化量が小さく)、かつはんだ耐熱性に優れる絶縁性フィルムや層間絶縁性フィルムを形成可能であり、非常に有用である。本発明の多層配線板は、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物、上記絶縁性フィルム、または層間絶縁性フィルムの硬化物により、高周波特性、および耐熱信頼性に優れる(誘電正接(tanδ)の変化量が小さい)。本発明の半導体装置は、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物、上記絶縁性フィルム、または層間絶縁性フィルムの硬化物により、高周波特性、および耐熱信頼性に優れる(誘電正接(tanδ)の変化量が小さい)ため、高周波用途に適する。