(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】硬化性水膨張止水材、止水鋼矢板、止水鋼矢板製造方法および止水工法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20230418BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20230418BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20230418BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20230418BHJP
C08G 18/72 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C09K3/10 Z
C08G18/10
C08G18/32
C08G18/48 004
C08G18/72 040
(21)【出願番号】P 2020566416
(86)(22)【出願日】2020-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2020000923
(87)【国際公開番号】W WO2020149269
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2019007316
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391035577
【氏名又は名称】日本化学塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】東野 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】加藤 研二
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/047249(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/114849(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/132736(WO,A1)
【文献】特開2014-084345(JP,A)
【文献】特開2003-292939(JP,A)
【文献】特開2005-113464(JP,A)
【文献】国際公開第2010/008079(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/10- 3/12
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
E02D 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される加水分解性アルコキシシリル基を有する硬化性樹脂(A)40~
100質量部、ポリエーテルポリオール(B)
0~60質量部からなる樹脂成分100質量部に対して、アミノシランカップリング剤(C)0.3~25質量部、
吸水により重量が3.0倍以上に膨潤する吸水性樹脂(D)20~250質量部
、および体質顔料(E)0~160質量部を含む硬化性水膨張止水材。
-X-CH
2-SiR
1
Y(OR
2)
3-Y ・・・式(1)
(ただし、前記式(1)において、Xは加水分解性珪素基に含まれる珪素原子に結合するメチレン基に非共有電子対を有するヘテロ原子が結合している結合官能基を示し、R
1、R
2はそれぞれ炭素数1~3個のアルキル基を示し、Yは0、1または2を示す。)
【請求項2】
前記吸水性樹脂(D)が、ポリエチレンオキシド系樹脂、カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩およびポリアクリル酸アルカリ金属塩から選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の硬化性水膨張止水材。
【請求項3】
前記体質顔料(E)が、
ベントナイト、タルクまたはシリカである請求項1または請求項2に記載の硬化性水膨張止水材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の硬化性水膨張止水材からなる塗膜が鋼矢板の継手部に設けられている止水鋼矢板。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の硬化性水膨張止水材を鋼矢板の継手部に塗布する塗布工程と、
前記硬化性水膨張止水材を硬化させて塗膜を形成させる塗膜形成工程と、
を含む止水鋼矢板の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の硬化性水膨張止水材を止水鋼矢板の継手部に連続的に塗布しながら当該止水鋼矢板の少なくとも一部を地中に打設または圧入する打設・圧入工程と、
前記硬化性水膨張止水材を硬化させて止水する硬化工程と、
を含む止水工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性水膨張止水材、止水鋼矢板、止水鋼矢板製造方法および止水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物処理場、護岸工事、海および河川の締切り工事、橋脚・橋台の新設・撤去等の工事、共同溝設置工事、ビル建設や上下水道管敷設工事に伴う根切り工事などに鋼矢板が用いられている。鋼矢板にはU形鋼矢板、Z形鋼矢板、ハット形鋼矢板、直線形鋼矢板などがあり、いずれも両端に他の鋼矢板との係合を可能にする継手部(爪部)が設けられている。そして、鋼矢板には、この継手部に塗膜状の硬化性水膨張止水材を設けたものがある。このような鋼矢板は止水鋼矢板などと呼ばれている。止水鋼矢板に設けられた硬化性水膨張止水材は、止水鋼矢板の少なくとも一部が地中に打設または圧入(以下単に「打設など」と記載することがある)された後、地下水や海・河川の水を吸水し、膨潤(膨張)して継手部間の隙間を埋め、止水する。
【0003】
前記した硬化性水膨張止水材に関する発明が多数提案されている。
例えば、特許文献1には、芳香族系イソシアネート基末端プレポリマーおよび特定の群から選択される一以上の化合物である脂肪族系有機ポリイソシアネートを含有し、イソシアネート基の含有量および数の比が所定範囲である止水材用有機ポリイソシアネート組成物と、公称平均官能基数が3~6であるアミン系ポリオールとを、イソシアネート基/水酸基の比が所定範囲となるように含有するポリウレタン樹脂形成性組成物が記載されている。そして、このポリウレタン樹脂形成性組成物は、前記芳香族系イソシアネート基末端プレポリマーが、芳香族ポリイソシアネートとポリエーテルポリオールとの反応生成物であり、前記ポリエーテルポリオールが、特定範囲のオキシエチレン基含有量を有し公称平均官能基数が2であるポリエーテルポリオールと、特定範囲のオキシエチレン基含有量を有し公称平均官能基数が3であるポリエーテルポリオールとからなるものである。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、電離性吸水ポリマー、多価金属化合物およびエラストマーの有機溶剤溶液からなる水膨張性塗料組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5447655号公報
【文献】特開平1-168766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載の発明には、打設時に鋼矢板同士の摩擦により硬化性止水材が剥がれることを防止するため、金属との接着性をさらに向上させて欲しいという要望があった。また、止水材の膨張率が低かったり、膨張した止水材の強度が低かったりすると水圧に耐えられず漏水することがあった。さらに、特許文献2に記載の発明は、組成中に揮発性の有機溶剤を含んでいるので作業員や環境に好ましいものとは言えなかった。さらに、特許文献1、2に記載の発明に限らず、硬化性水膨張止水材には、十分な止水性を得るため、水を吸収して膨張し、ある程度の強度(膨潤体膜強度)を保つことが要求される。
【0007】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものであり、作業員や環境に優しく、金属との接着性に優れ、かつ十分な膨張率および膨潤体膜強度を備えた硬化性水膨張止水材、止水鋼矢板、止水鋼矢板の製造方法および止水工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決した本発明に係る硬化性水膨張止水材は、式(1)で表される加水分解性アルコキシシリル基を有する硬化性樹脂(A)40~100質量部、ポリエーテルポリオール(B)0~60質量部からなる樹脂成分100質量部に対して、アミノシランカップリング剤(C)0.3~25質量部、吸水により重量が3.0倍以上に膨潤する吸水性樹脂(D)20~250質量部、および体質顔料(E)0~160質量部を含む。
-X-CH2-SiR1
Y(OR2)3-Y ・・・式(1)
【0009】
ただし、前記式(1)において、Xは加水分解性珪素基に含まれる珪素原子に結合するメチレン基に非共有電子対を有するヘテロ原子が結合している結合官能基を示し、R1、R2はそれぞれ炭素数1~3個のアルキル基を示し、Yは0、1または2を示す。
【0010】
本発明に係る止水鋼矢板は、前記した硬化性水膨張止水材からなる塗膜が鋼矢板の継手部に設けられている。
本発明に係る止水鋼矢板の製造方法は、前記した硬化性水膨張止水材を鋼矢板の継手部に塗布する塗布工程と、前記硬化性水膨張止水材を硬化させて塗膜を形成させる塗膜形成工程と、を含む。
また、本発明に係る止水工法は、前記した硬化性水膨張止水材を止水鋼矢板の継手部に連続的に塗布しながら当該止水鋼矢板の少なくとも一部を地中に打設または圧入する打設・圧入工程と、前記硬化性水膨張止水材を硬化させて止水する硬化工程と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る硬化性水膨張止水材、止水鋼矢板、止水鋼矢板の製造方法および止水工法は、作業員や環境に優しく、金属との接着性に優れ、かつ十分な膨張率および膨潤体膜強度を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る止水鋼矢板を複数係合させた様子を示す横断面図である。
【
図3】
図2の拡大図において、硬化性水膨張止水材が水を吸収して膨張した様子を示す説明図である。
【
図4】本実施形態に係る止水鋼矢板の製造方法の内容を説明するフローチャートである。
【
図5】本実施形態に係る止水工法の内容を説明するフローチャートである。
【
図6】打設・圧入工程で圧入を行っている様子を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面を参照して、本発明に係る硬化性水膨張止水材、止水鋼矢板、止水鋼矢板の製造方法および止水工法の一実施形態について詳細に説明する。
なお、本明細書に記載される「~」は、その前後に記載される数値を下限値および上限値として有する意味で使用する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的に記載されている上限値または下限値に置き換えてもよい。本明細書に記載される数値範囲の上限値または下限値は、実施例中に示されている値に置き換えてもよい。
【0014】
〔硬化性水膨張止水材〕
本実施形態に係る硬化性水膨張止水材は、式(1)で表される加水分解性アルコキシシリル基を有する硬化性樹脂(A)40~100質量部、ポリエーテルポリオール(B)0~60質量部からなる樹脂成分100質量部に対して、アミノシランカップリング剤(C)0.3~25質量部、吸水性樹脂(D)20~250質量部および体質顔料(E)0~160質量部を含む組成物である。
-X-CH2-SiR1
Y(OR2)3-Y ・・・式(1)
【0015】
ただし、前記式(1)において、Xは加水分解性珪素基(SiR1
Y)に含まれる珪素原子に結合するメチレン基に非共有電子対を有するヘテロ原子が結合している結合官能基を示す。また、R1、R2はそれぞれ炭素数1~3個のアルキル基を示す。Yは0、1または2を示す。
【0016】
硬化性樹脂(A)は、分子末端の前記式(1)で表される加水分解性アルコキシシリル基が水と反応して縮重合し、ポリマーを形成する。つまり、硬化性樹脂(A)は、硬化性水膨張止水材の組成中に揮発性の有機溶剤を含有させなくても縮合反応を進めることができる。また、硬化性樹脂(A)の加水分解性アルコキシシリル基は、縮合反応により硬化性水膨張止水材を硬化させるとともに、金属との接着を行う。そのため、硬化性樹脂(A)は、前記式(1)で表される加水分解性アルコキシシリル基を直鎖状の主鎖の両末端に有していることが好ましい。なお、硬化性樹脂(A)は、前記式(1)で表される加水分解性アルコキシシリル基が側鎖に含まれていてもよい。
【0017】
前記した結合官能基は、加水分解性珪素基と主鎖とをつなぐ構造を有している官能基である。そのような結合官能基としては、例えば、(チオ)ウレタン結合、(チオ)尿素結合、(チオ)置換尿素結合、(チオ)エステル結合、(チオ)エーテル結合などのうちの少なくとも1つを有している官能基であることが好ましい。なお、結合官能基は、加水分解性珪素基に含まれる珪素原子に結合するメチレン基に非共有電子対を有するヘテロ原子が結合していればよく、前記したものに制限されない。ヘテロ原子とは、炭素および水素以外の原子をいい、本実施形態においては、例えば、N、O、F、Si、P、S、Cl、Br、Iなどを用いることができる。
【0018】
また、前記式(1)で表されるように、珪素原子は、メチレン基との結合以外に加水分解性基としてアルコキシ基(OR2)が1~3個結合するとともに、珪素原子の残りの結合手にアルキル基(R1)が2~0個結合している。
【0019】
ここで、R1およびR2はそれぞれ炭素数1~3個のアルキル基である。そのため、アルコキシ基(OR2)としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が挙げられるが、好ましくはメトキシ基またはエトキシ基である。珪素原子の残りの結合手に結合するアルキル基(R1)としては、メチル基、エチル基が挙げられるが、好ましくはメチル基である。
【0020】
また、前記した加水分解性珪素基は、アルキルジアルコキシシリル基(前記Yが1)またはトリアルコキシシリル基(前記Yが0)であることが、入手の容易さ、金属との接着性、水を吸収して膨張した後の強度、つまり、膨潤体膜強度を保つなどの点から好ましい。
【0021】
硬化性樹脂(A)の添加量は、前記したように、硬化性樹脂(A)と後記するポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に、40~100質量部の範囲で任意に調整できる。硬化性樹脂(A)の含有量は、この範囲内で多くするほど金属との接着性を高くできる。また、硬化性樹脂(A)の含有量は、この範囲内で多くするほど硬化性水膨張止水材の粘性が高くなり、硬化時間も早くなる。金属との接着性、粘性、硬化時間を考慮して、硬化性樹脂(A)の添加量は、硬化性樹脂(A)と後記するポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に、50~90質量部とすることができ、60~80質量部とすることもできる。
【0022】
硬化性樹脂(A)の分子量は特に制限されないが、例えば、1000~80000が好ましく、1500~60000がより好ましく、2000~40000がさらに好ましい。硬化性樹脂(A)の分子量が1000~80000であると、適切な架橋密度であるので金属との接着性や膨潤体膜強度を保つなどの点で好ましく、また、適度な粘度も得られるので作業性が良い。
硬化性樹脂(A)が前記した化学構造を有していると、通常の加水分解性珪素基よりも極めて高い湿分反応性が得られる。そのため、シラノール縮合触媒として作用する有機錫化合物、例えば、ジブチル錫ジラウレートなどの触媒を使用しなくても、或いは通常よりもはるかに少量の使用量でも充分な硬化速度を得ることができる。
【0023】
硬化性樹脂(A)の主鎖骨格は、例えば、ポリオキシアルキレン、ビニル重合体、飽和炭化水素重合体、不飽和炭化水素重合体、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂および変成シリコーン樹脂に一般的に用いられている主鎖骨格から選ばれる1種以上を採用し得るが、これらに限定されない。硬化性樹脂(A)の主鎖骨格は、これらの中でもポリオキシアルキレンであることが、入手の容易さや膨潤体膜強度を保つなどの点から好ましい。なお、ポリオキシアルキレンは、その構造が硬化性樹脂(A)の主鎖骨格である繰り返し単位の主要素であることが好ましい。ポリオキシアルキレンは、硬化性樹脂(A)の中にその構造が単独で含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0024】
硬化性樹脂(A)は、従来公知の方法で製造することができる。従来公知の方法として、例えば、ポリオール化合物にイソシアネートメチルアルコキシシラン化合物を反応させる方法が挙げられる。また、従来公知の方法として、例えば、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物を反応させてウレタンプレポリマーを合成した後、ウレタンプレポリマーにアミノメチルアルコキシシラン化合物などのα位に活性水素基を有するヘテロ原子が結合している化合物を反応させる方法が挙げられる。
【0025】
硬化性樹脂(A)は、例えば、Wacker Chemie AG製のGENIOSIL(登録商標) STP-E10、GENIOSIL STP-E30、GENIOSIL STP-E15、GENIOSIL STP-E35などを好適に用いることができる。
【0026】
ポリエーテルポリオール(B)は、硬化性水膨張止水材の粘性や硬化時間などを調整する可塑剤(希釈剤)として添加される。ポリエーテルポリオール(B)を含有させると、硬化性水膨張止水材の塗膜の機械特性、例えば、柔軟性や弾性回復性などが向上する。したがって、止水鋼矢板を打設などするときに剥がれ難く、止水性が低下し難くなる。
【0027】
ポリエーテルポリオール(B)は所望する硬化性水膨張止水材の物性に応じて任意に添加することができ、0質量部とすることもできる。つまり、ポリエーテルポリオール(B)の添加量は、前記したように、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に、0~60質量部の範囲で調整できる。ポリエーテルポリオール(B)の含有量は、この範囲内で多くするほど硬化性水膨張止水材の粘性が低くなり、硬化時間も長くなる。所望する硬化性水膨張止水材の物性に応じて、ポリエーテルポリオール(B)の添加量は、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に、0~50質量部とすることができ、0~40質量部とすることができ、0~30質量部とすることができる。なお、ポリエーテルポリオール(B)の添加量は、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に10質量部以上とすることができ、20質量部以上とすることができる。
【0028】
ただし、ポリエーテルポリオール(B)の添加量が、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に60質量部を超えると(すなわち、硬化性樹脂(A)の添加量が、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に40質量部未満となると)、硬化性樹脂(A)の式(1)で表される加水分解性アルコキシシリル基が相対的に少なくなるので、金属との接着性が低下する。また、この場合、硬化性樹脂(A)の式(1)で表される加水分解性アルコキシシリル基による縮合反応が十分な架橋密度で行われなくなるので、吸水性樹脂(D)の保持を十分に行うことができず流失等してしまう。そのため、水を吸収しても十分に膨張できない。したがって、十分な止水性が得られないおそれがある。
【0029】
ポリエーテルポリオール(B)は、従来公知の方法で製造することができる。例えば、ポリエーテルポリオール(B)は、グリコール、グリセリン、ソルビトール、ショ糖などの分子内に水酸基を2つ以上持った低分子化合物にプロピレンオキサイドやエチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを付加重合させて製造することができる。ポリエーテルポリオール(B)は、例えば、官能基数2~8、平均分子量200~10000のものを好適に用いることができる。
ポリエーテルポリオール(B)は、例えば、日油株式会社製ユニオール(登録商標)D-700やユニオールTG-1000Rなどを好適に用いることができる。
【0030】
アミノシランカップリング剤(C)は、1分子中にアルコキシ基が結合した珪素原子と、窒素原子を含有する官能基と、を含有している化合物である。硬化性水膨張止水材にアミノシランカップリング剤(C)を含ませることにより、金属との接着性を向上させることができる。
【0031】
アミノシランカップリング剤(C)に含まれるアミノ基は、第1級、第2級、第3級のいずれのアミノ基でもよいが、金属への接着性付与効果がより発現し易い第1級または第2級アミノ基が好ましく、第1級アミノ基がより好ましい。また、アミノシランカップリング剤(C)中に含まれるアミノ基は、1個であってもよく2個以上であってもよい。また、アミノシランカップリング剤(C)に含まれる加水分解性珪素基は、例えば、アルキルジアルコキシシリル基またはトリアルコキシシリル基であることが、入手の容易さ、金属との接着性、膨潤体膜強度を保つなどの点から好ましい。アミノシランカップリング剤(C)に含まれる加水分解性珪素基は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。
【0032】
アミノシランカップリング剤(C)は、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N’-ビス-〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N,N’-ビス-〔3-(トリエトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N,N’-ビス-〔3-(メチルジメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N,N’-ビス-〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕ヘキサメチレンジアミン、N,N’-ビス-〔3-(トリエトキシシリル)プロピル〕ヘキサメチレンジアミンなどを用いることができる。アミノシランカップリング剤(C)は、これらの化合物を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
アミノシランカップリング剤(C)の含有量は、前記したように、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に、0.3~25質量部の範囲で調整できる。アミノシランカップリング剤(C)の含有量は、この範囲内で多くするほど金属との接着性を向上させることができる。
アミノシランカップリング剤(C)の含有量は、金属との接着性とその他の物性、例えば、硬化時間、貯蔵安定性、作業時の取扱い性などを考慮し、前記範囲内で任意に調整可能である。これらの点から、アミノシランカップリング剤(C)の含有量は、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に、1.5~20質量部とすることができ、2~15質量部とすることができ、4~8質量部とすることができる。
【0034】
ただし、アミノシランカップリング剤(C)の含有量が、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に0.3質量部未満となると、アミノシランカップリング剤(C)が少な過ぎるため、金属との接着性が低下する。
その一方で、アミノシランカップリング剤(C)の含有量が、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に25質量部を超えると、架橋密度が高くなり過ぎてしまうため、水を吸収しても十分に膨張できない。そのため、十分な止水性が得られないおそれがある。また、アミノシランカップリング剤(C)の含有量が多過ぎると硬化時間が極めて短くなることから、貯蔵安定性や作業時の取扱い性などが低下する。
【0035】
アミノシランカップリング剤(C)は、例えば、Wacker Chemie AG製のGENIOSIL GF96を好適に用いることができるが、これに限定されない。
【0036】
吸水性樹脂(D)は、水を吸収して保持し、硬化性水膨張止水材の体積を増加させる。
吸水性樹脂(D)は、例えば、ポリエチレンオキシド系樹脂、カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩およびポリアクリル酸アルカリ金属塩から選ばれた少なくとも1種を用いることができる。ポリエチレンオキシド系樹脂は、エチレンオキシドのみによって構成される樹脂であってもよく、また、エチレンオキシドと他のオキシド化合物(例えば、プロピレンオキシド)とがランダム共重合してなるエチレンオキシド・プロピレンオキシドランダム共重合体などであってもよい。カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースリチウム塩、カルボキシメチルセルロースカリウム塩などを用いることができる。ポリアクリル酸アルカリ金属塩としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリアクリル酸リチウム塩、ポリアクリル酸カリウム塩などを用いることができる。
また、吸水性樹脂(D)は、例えば、澱粉-アクリル酸グラフト重合体加水分解物、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体ケン化物、アクリロニトリル共重合体もしくはアクリルアミド共重合体の加水分解物またはこれらの架橋体、およびカチオン性モノマーの架橋重合体などを用いることができる。
吸水性樹脂(D)は、以上に挙げた化合物を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
吸水性樹脂(D)の含有量は、前記したように、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に、20~250質量部の範囲で調整できる。吸水性樹脂(D)の含有量は、この範囲内で多くするほど水の吸収量を多くすることができ、水を吸収した場合の膨張率を高くすることができるが、膨潤体膜強度が低下する。これらを考慮し、吸水性樹脂(D)の含有量は、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に、35~200質量部とすることができ、50~150質量部とすることができ、60~100質量部とすることができる。
【0038】
ただし、吸水性樹脂(D)の含有量は、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に20質量部未満となると、水を吸収しても膨張が不十分となる。そのため、十分な止水性が得られないおそれがある。
その一方で、吸水性樹脂(D)の含有量は、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に250質量部を超えると、水を吸収した場合の膨張率は高くなり体積は増えるものの、それに応じて架橋密度が低下して膨潤体膜強度が低下する。そのため、十分な止水性が得られないおそれがある。
【0039】
吸水性樹脂(D)は、例えば、日本製紙株式会社製サンローズ(登録商標)F150LC、住友精化株式会社製アクアコーク(登録商標)TWB-P、テクニカ合同株式会社製TG-SAPなどを好適に用いることができるが、これらに限定されない。
【0040】
吸水性樹脂(D)として、前記したカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩およびポリアクリル酸アルカリ金属塩などのイオン性吸水性樹脂を使用する場合は、多価金属化合物を併用することが知られている。このような構成によれば、硬化性水膨張止水材が用いられた止水鋼矢板が水と接触することにより、硬化性水膨張止水材に含まれるイオン性吸水性樹脂および多価金属化合物が水に溶解する。そして、多価金属化合物が水に溶解して生じた多価金属イオンが、イオン化したイオン性吸水性樹脂を架橋することによってイオン性吸水性樹脂は自由な移動が制限される。その結果、水がイオン性吸水性樹脂に取り込まれ、イオン性吸水性樹脂が膨潤する。一方、硬化性樹脂(A)の弾性効果により、膨潤したイオン性吸水性樹脂を鋼矢板の表面に保持する力が働き、膨張力と釣り合って膨潤平衡になり、水の移動ができなくなる。その結果、硬化性水膨張止水材は長期間安定して膨潤状態を保持でき、周囲の空隙を閉塞し続けて、高い止水性能を長期間継続して発現する。
【0041】
多価金属化合物は、2価以上の水溶性の金属塩であって、水に溶解することにより2価以上の金属イオンを生じるものである。多価金属化合物が水に溶解することにより生じた多価金属イオンは、イオン性吸水性樹脂に含まれるイオンと置換してイオン性吸水性樹脂を架橋する。そのため、膨潤体膜強度が向上する。また、多価金属化合物が樹脂組成物中に含まれることで、硬化性水膨張止水材が効率よく確実に膨潤状態となる。多価金属化合物は、含んでいなくても(0質量部でも)問題ないが、含有させることによって、これらの効果を得ることができる。
【0042】
多価金属化合物は、2価以上の水溶性の金属塩であって、溶解することにより2価以上の金属イオンを生じるものであれば種類に制限なく使用することができる。多価金属化合物としては、例えば、カルシウム化合物、アルミニウム化合物、クロム化合物、鉄化合物、亜鉛化合物などが使用できる。多価金属化合物として具体的には、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄、硫酸クロム、硫酸カリウムクロム、硫酸カルシウム、硫酸亜鉛などが使用できる。この中でも、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸クロム、硫酸カリウムクロム、硫酸アルミニウムなどが好ましい。これらの多価金属化合物は、分散性や入手の容易性の点で好ましい。多価金属化合物は、例えば、大明化学工業株式会社製タイエースS150を好適に用いることができるが、これに限定されない。
【0043】
多価金属化合物は前記したように任意に添加することができる。多価金属化合物の含有量は、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に、0~18質量部の範囲で調整できる。多価金属化合物の含有量はこの範囲で多くするほどイオン性吸水性樹脂が膨潤し易くなる。多価金属化合物の含有量は、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に、3~15質量部とすることができ、5~10質量部とすることができる。一方、多価金属化合物の含有量は、硬化性樹脂(A)とポリエーテルポリオール(B)とでなる樹脂成分を100質量部とした場合に、18質量部を超えると、イオン性吸水性樹脂の架橋が過度に進むため、水を吸収しても十分に膨張できないおそれがある。
【0044】
体質顔料(E)は、硬化性水膨張止水材のレオロジー特性を調整するために用いられる。体質顔料(E)は、含んでいなくても(0質量部でも)問題ないが、含有させることによって硬化性水膨張止水材の粘性を高くすることができ、粘土状にすることも可能である。そのため、体質顔料(E)を含有させることにより、例えば、鋼矢板を垂直に立てた状態で硬化性水膨張止水材を塗布した場合であっても流下し難くできる。これらを考慮して、体質顔料(E)の含有量は、硬化性樹脂(A)およびポリエーテルポリオール(B)からなる樹脂成分100質量部に対して0~160質量部の範囲であれば任意に調整することができる。体質顔料(E)の含有量は、所望する硬化性水膨張止水材の物性に応じて調整することができる。例えば、体質顔料(E)の含有量は、硬化性樹脂(A)およびポリエーテルポリオール(B)からなる樹脂成分100質量部に対して100質量部以下とすることができ、80質量部以下とすることができ、33.3質量部以下とすることができる。なお、体質顔料(E)の含有量は、硬化性樹脂(A)およびポリエーテルポリオール(B)からなる樹脂成分100質量部に対して10質量部以上とすることができ、25質量部以上とすることができる。
【0045】
その一方で、体質顔料(E)の含有量が、硬化性樹脂(A)およびポリエーテルポリオール(B)からなる樹脂成分100質量部に対して160質量部を超えると、体質顔料(E)の含有量が多過ぎるため十分な架橋密度を得ることができず、膨潤体膜強度が低下する。また、この場合、体質顔料(E)の含有量が多過ぎるため水の吸収が阻害され、十分に膨張することができない。さらに、この場合、体質顔料(E)の含有量が多過ぎるため、金属との接着が阻害されたり、接着点(接着密度)が疎になったりするため接着性が低下する。
【0046】
体質顔料(E)は、例えば、ベントナイト、タルク、炭酸カルシウム、シリカなどを用いることができる。体質顔料(E)は、これらのうちの少なくとも1種を用いることができる。
体質顔料(E)は、例えば、三立礦業株式会社製ベントナイト250SA-B、松村産業株式会社製ハイフィラー#12、株式会社ニューライム製カルフレックスPM、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製HDK(登録商標) H18などを好適に用いることができるが、これらに限定されない。
また、シリカは少量の添加により、粘度調整効果が大きく、好適に用いられる。さらに、乾式シリカが好ましく、シリコーンなどにより表面処理されていると樹脂との親和性が良くより好ましく用いられる。
【0047】
本実施形態に係る硬化性水膨張止水材は、脱水剤を含有させることが好ましい。脱水剤は、含んでいなくても(0質量部でも)問題ないが、含有させることによって水捕捉剤として機能するため、保存安定性が向上する。脱水剤の含有量は、硬化性樹脂(A)およびポリエーテルポリオール(B)からなる樹脂成分100質量部に対して0~15質量部の範囲であれば任意に調整することができる。脱水剤の含有量は、所望する硬化性水膨張止水材の物性に応じて調整することができる。例えば、脱水剤の含有量は、硬化性樹脂(A)およびポリエーテルポリオール(B)からなる樹脂成分100質量部に対して0~10.0質量部とすることができ、0~6.0質量部とすることができ、0~4.0質量部とすることができ、0~3.0質量部とすることができる。
【0048】
脱水剤は、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシランなどのシラン化合物を用いることができる。また、脱水剤は、例えば、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチルなどのエステル化合物を用いることができる。これらの脱水剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
脱水剤は、例えば、Wacker Chemie AG製のGENIOSIL XL10を用いることができるが、これに限定されない。なお、脱水剤としてGENIOSIL XL10を用いた場合、これに含まれているビニルメトキシシランが水と反応して加水分解し、シラノールを形成する。形成されたシラノールはそれ自体と反応してシロキサンを生成する。また、GENIOSIL XL10に含まれているビニルメトキシシランがコモノマーとして機能する。したがって、これらにより、硬化性水膨張止水材の強度や耐候性を向上させることができる。
【0050】
以上に説明した本実施形態に係る硬化性水膨張止水材は、組成中に揮発性の有機溶剤を含有させなくても縮合反応を進めることができる。そのため、本実施形態に係る硬化性水膨張止水材は、揮発性の有機溶剤の含有量をゼロ乃至極微量とすることができ、作業員や環境に優しい。
また、本実施形態に係る硬化性水膨張止水材は、前記した組成で構成されているので、金属との接着性に優れ、かつ十分な膨張率および膨潤体膜強度を備えている。そのため、本実施形態に係る硬化性水膨張止水材は、止水鋼矢板の止水材として用いられた場合に優れた止水性を得ることができる。
【0051】
以上に説明した本実施形態に係る硬化性水膨張止水材は止水鋼矢板に好適に用いることができるが、これに限定されず、止水や防水を目的とする部材であればどのようなものにも用いることができる。本実施形態に係る硬化性水膨張止水材は、例えば、ボックスカルバートの接合部、ライナープレートの接合部などにも用いることができる。
【0052】
〔止水鋼矢板〕
図1は、本実施形態に係る止水鋼矢板1を複数係合させた様子を示す横断面図である。
図2は、
図1のII部分の拡大図である。
図3は、
図2の拡大図において、硬化性水膨張止水材が水を吸収して膨張した様子を示す説明図である。
【0053】
止水鋼矢板1は、根切り工事で従来使用されているU形鋼矢板、Z形鋼矢板、ハット形鋼矢板、直線形鋼矢板などであればどのような矢板も用いることができる。なお、
図1はU形鋼矢板を用いた止水鋼矢板1を例示している。止水鋼矢板1は、矢板の幅方向における両端に一部を折り返してなる継手部2を有している。
図1に示すように、止水鋼矢板1は、隣り合う他の止水鋼矢板1と継手部2同士を係合させ、少なくとも一部が地中に打設などされる。
【0054】
図2に示すように、止水鋼矢板1は、継手部2の折り返してなる内側部3に、前述した本実施形態に係る硬化性水膨張止水材の塗膜4が設けられている。この塗膜4は、止水鋼矢板1の少なくとも一部が地中に打設などされた後、地下水や海・河川の水を吸水し、
図3に示すように膨張して継手部2間の隙間を埋める。このようにして、止水鋼矢板1は、継手部2と継手部2との間における水の通流を止めることができる。
【0055】
〔止水鋼矢板の製造方法〕
本実施形態に係る止水鋼矢板1は次のようにすると好適に製造できる。
図4は、本実施形態に係る止水鋼矢板1の製造方法(以下、「本製造方法」という)の内容を説明するフローチャートである。
図4に示すように、本製造方法は、塗布工程S41と塗膜形成工程S42とを含んでいる。
【0056】
塗布工程S41は、前述した本実施形態に係る硬化性水膨張止水材を止水鋼矢板1の継手部2に塗布する工程である。
硬化性水膨張止水材の塗布は、例えば、継手部2の端部を養生テープなどでせき止めた後、ここに硬化性水膨張止水材をオイルジョッキなどで注ぎ入れることによって行うことができる。また、刷毛、ヘラなどで継手部2に硬化性水膨張止水材を付着させてもよい。オイルジョッキ、刷毛は、硬化性水膨張止水材の粘性が低く液体状である場合に好適であり、ヘラは、硬化性水膨張止水材の粘性が高く粘土状である場合に好適である。また、硬化性水膨張止水材の塗布は、例えば、硬化性水膨張止水材をシーラント用カートリッジに充填し、電動シーリングガンで押し出すことによって行うことができる。
【0057】
塗膜形成工程S42は、塗布工程S41で塗布した硬化性水膨張止水材を硬化させて塗膜4(
図2参照)を形成させる工程である。
硬化性水膨張止水材の硬化は、組成に応じて適宜の条件で行うことができる。硬化性水膨張止水材の硬化は、例えば、塗布後、1時間から24時間放置しておくことで行わせることができるが、季節や気温などに応じて適宜変更できる。
【0058】
なお、本製造方法は、塗布工程S41および塗膜形成工程S42以外の工程を含んでいてもよい。例えば、本製造方法は、塗布工程S41の前に、継手部2の異物検査や除去清掃を行う前処理工程(図示せず)を含んでいてもよい。
【0059】
〔止水工法〕
本実施形態においては、次のような止水工法を行うことができる。
図5は、本実施形態に係る止水工法の内容を説明するフローチャートである。
図6は、打設・圧入工程S51で圧入を行っている様子を示した説明図である。
図5に示すように、本実施形態に係る止水工法は、打設・圧入工程S51と硬化工程S52とを含んでいる。
【0060】
打設・圧入工程S51は、前述した本実施形態に係る硬化性水膨張止水材を止水鋼矢板1の継手部2に連続的に塗布しながら当該止水鋼矢板1の少なくとも一部を地中に打設または圧入する工程である。つまり、この打設・圧入工程S51においては、硬化性水膨張止水材4aは液体状乃至粘土状のままであってもよい(つまり、塗膜4(
図2参照)を形成していなくてもよい)。
【0061】
打設・圧入工程S51は、継手部2に連続的に硬化性水膨張止水材を塗布できる塗布手段61(
図6参照)を備えた杭打ち機または圧入機を用いて行うことができる。なお、
図6は、圧入機62で止水鋼矢板1の少なくとも一部を地中に圧入する様子を図示している。杭打ち機としては、例えば、バイブロハンマーが挙げられる。圧入機62としては、例えば、油圧式杭圧入引抜機が挙げられる。
【0062】
塗布手段61は、タンク61aと、圧力付与装置61bと、チューブ61cと、塗着具61dと、を備えている。タンク61aは、硬化性水膨張止水材を収容する容器である。圧力付与装置61bは、タンク61a内の硬化性水膨張止水材に圧力を加えるポンプやコンプレッサーなどである。チューブ61cは、タンク61aから硬化性水膨張止水材を移送させるフレキシブル性を有した中空管である。塗着具61dは、チューブ61cで移送された硬化性水膨張止水材を止水鋼矢板1の継手部2に塗布するスプレー、ノズル、刷毛などである。塗着具61dは、硬化性水膨張止水材の供給が継手部2の内側部3(
図2参照)に行えるように設けられていることが好ましい。また、塗布手段61として、硬化性水膨張止水材をシーラント用カートリッジに充填し、電動シーリングガンにセットしたものを用いることができる。塗布手段61は、止水鋼矢板1の圧入スピードに合わせて塗布量を調節することが好ましい。
【0063】
図6を参照して打設・圧入工程S51における硬化性水膨張止水材の塗布の一具体例を説明する。打設・圧入工程S51では、
図6に示すように、圧入機62を用いて前回圧入を行った止水鋼矢板1aの継手部2aに、今回圧入を行う止水鋼矢板1bの継手部2bを係合させつつ地中に圧入する。圧入機62は、今回圧入を行う際に塗着具61dから止水鋼矢板1bの継手部2bの内側部3に硬化性水膨張止水材を連続的に供給する。このようにして用いられる硬化性水膨張止水材は、垂直に立てた止水鋼矢板1bに塗布しても垂れない程度の粘性を有していることが好ましい。
【0064】
硬化工程S52は、打設・圧入工程S51を行った後、硬化性水膨張止水材を硬化させて止水する工程である。本実施形態に係る止水工法においては、硬化性水膨張止水材を速やかに硬化させた方が好ましいため、硬化時間が短い硬化性水膨張止水材を用いることが好ましい。硬化性水膨張止水材は、例えば、アミノシランカップリング剤(C)の含有量や体質顔料(E)の含有量を多めにしたり、ポリエーテルポリオール(B)の含有量をゼロ乃至極微量としたりすることにより、硬化時間を短くできる。
【0065】
なお、本実施形態に係る止水方法は、打設・圧入工程S51および硬化工程S52以外の工程を含んでいてもよい。例えば、本実施形態に係る止水方法は、打設・圧入工程S51の前に、継手部2の異物検査や除去清掃を行う前処理工程(図示せず)を含んでいてもよい。
【0066】
本実施形態に係る止水工法を採用した工事などが終了したら、止水鋼矢板1を地中から引き抜き、止水鋼矢板1の継手部2に付着している硬化性水膨張止水材をスクレイパーやウォータージェットなどを用いて除去する。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、表1~5は紙面の関係で分けているが、項目は共通している。
【0068】
(実施例1~24および比較例1~9)
まず、表1~5に示すように、硬化性樹脂(A)、ポリエーテルポリオール(B)、アミノシランカップリング剤(C)、吸水性樹脂(D)、体質顔料(E)、ウレタン系硬化性樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、脱水剤、多価金属化合物、硬化促進剤を適宜用い、表1~5の実施例1~24および比較例1~9に示す組成の水膨張止水材を製造した。なお、硬化性樹脂(A)、ポリエーテルポリオール(B)、アミノシランカップリング剤(C)、吸水性樹脂(D)および体質顔料(E)は実施形態で既に説明したものを用いた。これらの具体的な商品名などを表1~5に記載している。また、これらの製造業者などについては実施形態に記載している。
【0069】
製造した実施例1~24および比較例1~9に係る水膨張止水材について、金属接着性、重量膨潤率、膨潤体膜強度、粘度、硬化時間、塗膜強度を測定した。これらの測定は以下のようにして行った。なお、金属接着性は硬化塗膜と金属との接着性を測定した。重量膨潤率は海洋での止水を想定し、塩水(塩濃度3%)で膨潤させた場合の膨張率を測定した。塗膜強度は引張強度を測定した。これらの測定項目のうち、金属接着性、重量膨潤率、膨潤体膜強度について合否の判定を行った。
【0070】
〔金属接着性(硬化塗膜)〕
金属接着性の測定は、精密万能試験機オートグラフAG-IS50kN(株式会社島津社製)で塗膜表面に接着したドーリーを引っ張ることにより行った。
金属接着性は、3.0kgf/cm2以上を合格とし、3.0kgf/cm2未満を不合格とした。
【0071】
〔重量膨潤率(塩水)〕
重量膨潤率の測定は、20℃の3%食塩水に48時間浸漬し、浸漬前と浸漬後の重量を量ることにより行った。
重量膨潤率は、3.0倍以上を合格とし、3.0倍未満を不合格とした。
【0072】
〔膨潤体膜強度〕
膨潤体膜強度は、小型卓上試験機EZ-SXに直径3mmの進入治具を取付け、膨潤塗膜の進入弾性値を測定した。
膨潤体膜強度は、3.0N以上を合格とし、3.0N未満を不合格とした。
【0073】
〔粘度〕
粘度は、20℃を保持した試料をB型粘度計により測定した。
【0074】
〔硬化時間〕
硬化時間は、JIS K 5600-3-3の方法で硬化状態を判定した。
【0075】
〔塗膜強度(引張強度)〕
塗膜強度(引張強度)は、JIS K 6251ダンベル2号形打抜刃で作製した試験片を小型卓上試験器EZ-SXで引っ張り、破断する強度を測定した。
【0076】
実施例1~24および比較例1~9に示す硬化性水膨張止水材の組成と、金属接着性(硬化塗膜)、重量膨潤率(塩水)、膨潤体膜強度、粘度、硬化時間および塗膜強度(引張強度)の測定結果と、を表1~5に示す。表1~5に示す実施例1~24および比較例1~9の組成について、空欄は原料を添加していないことを示している。なお、表1~5中、含有量の検討(含有の有無の検討)の関係から、原料を添加していないことを特に示したいものについては「0.0」と記載している。また、表2の実施例8は、表2中の他の実施例および比較例との比較を容易とするために記載しているが、これは、表1の実施例2と同じものである。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
実施例1~24に示す硬化性水膨張止水材は、組成中に揮発性の有機溶剤を含有していないので、作業員や環境に優しい。また、表1~5に示すように、実施例1~24に示す硬化性水膨張止水材は、本発明の要件を満たしていたので、金属接着性、重量膨潤率および膨潤体膜強度が優れていた。
【0083】
比較例1、3~9に示す硬化性水膨張止水材は、組成中に揮発性の有機溶剤を含有していないので、作業員や環境に優しいものであった。しかしながら、表1~5に示すように、比較例1~9に示す硬化性水膨張止水材は、本発明の要件を満たしていなかったので、金属接着性、重量膨潤率および膨潤体膜強度のうちの少なくとも1つが劣る結果となった。
【0084】
具体的には、比較例1に示す硬化性水膨張止水材は、ウレタン系の従来型の硬化性水膨張止水材であるので、金属接着性が劣っていた。
比較例2に示す硬化性水膨張止水材は、組成中に揮発性の有機溶剤(トルエン)を含有する従来型の硬化性水膨張止水材である。比較例2に示す硬化性水膨張止水材は、組成中に揮発性の有機溶剤を含有していたので、作業員や環境に優しいものではなかった。また、比較例2に示す硬化性水膨張止水材は、金属接着性が劣っていた。
【0085】
比較例3に示す硬化性水膨張止水材は、アミノシランカップリング剤(C)の含有量が下限未満であったため、金属接着性が劣っていた。
比較例4に示す硬化性水膨張止水材は、アミノシランカップリング剤(C)の含有量が上限を超えていたため、重量膨潤率が劣っていた。
比較例5に示す硬化性水膨張止水材は、多価金属化合物の含有量が多過ぎたため、重量膨潤率が劣っていた。
【0086】
比較例6に示す硬化性水膨張止水材は、ポリエーテルポリオール(B)の含有量が上限を超えていたため(すなわち、硬化性樹脂(A)の添加量が下限未満であったため)、金属接着性および重量膨潤率が劣っていた。
【0087】
比較例7に示す硬化性水膨張止水材は、吸水性樹脂(D)の含有量が下限未満であったため、重量膨潤率が劣っていた。
比較例8に示す硬化性水膨張止水材は、吸水性樹脂(D)の含有量が上限を超えていたため、金属接着性および膨潤体膜強度が劣っていた。
比較例9に示す硬化性水膨張止水材は、体質顔料(E)の含有量が上限を超えていたため、金属接着性、重量膨潤率および膨潤体膜強度が劣っていた。
【0088】
(実施例25)
JIS A 5523に規定されるU形鋼矢板SP-2型(長さ10m)を水平に設置した。次いで、実施例17に示す硬化性水膨張止水材をオイルジョッキに入れ、両方の継手部(爪部)に合計で0.2kg/mの塗布量となるように流し込んだ(片方の継手部に0.1kg/mの塗布量となるように流し込んだ)。そして、24時間放置して十分に硬化させ、塗膜を形成させた。
このようにして製造した止水鋼矢板28枚を水深4mの湖沼に5枚×9枚の長方形状に、かつ根入れ長5mとなるようバイブロハンマーで打設した。この状態で一日(24時間)放置して十分に止水材を膨潤(膨張)させ、締切部分をポンプで排水した。
排水後、止水状況を目視で確認したところ、止水材の剥がれも見られず十分膨潤して漏水もなく、止水性は良好であった。
【0089】
(実施例26)
実施例20に示す硬化性水膨張止水材をシーラント用カートリッジに充填し、電動シーリングガンにセットした。また、河川の護岸において、JIS A 5523に規定されるU形鋼矢板SP-2型(長さ10m)をバイブロハンマーにセットした。
そして、この鋼矢板28枚を打設しながら圧入スピードに合わせて片方の継手部の内側(つまり、他の鋼矢板の継手部に係合させつつ圧入している鋼矢板の継手部の内側)に、0.1kg/mの塗布量となるように電動シーリングガンにセットした硬化性水膨張止水材を押し出して塗布し、5枚×9枚の長方形状に打設した。
一日(24時間)放置後、内部を深さ5m掘削し、地下水の止水状態を目視で確認したところ、止水材の剥がれも見られず十分膨潤して漏水もなく、止水性は良好であった。
【0090】
以上、本発明に係る硬化性水膨張止水材、止水鋼矢板、止水鋼矢板の製造方法および止水工法について実施形態および実施例により詳細に説明したが、本発明の主旨はこれに限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。
【符号の説明】
【0091】
1、1a、1b 止水鋼矢板
2、2a、2b 継手部
3 内側部
4 塗膜
61 塗布手段
62 圧入機
S41 塗布工程
S42 塗膜形成工程
S51 打設・圧入工程
S52 硬化工程