(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】害虫発生抑制方法
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20230418BHJP
A01N 59/26 20060101ALI20230418BHJP
A01N 25/12 20060101ALI20230418BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20230418BHJP
A01M 1/20 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
A01N59/16 A
A01N59/26
A01N25/12
A01P7/04
A01M1/20 A
(21)【出願番号】P 2021007729
(22)【出願日】2021-01-21
(62)【分割の表示】P 2020521009の分割
【原出願日】2019-01-10
【審査請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2018100516
(32)【優先日】2018-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515248458
【氏名又は名称】DR.C医薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 成実
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-193818(JP,A)
【文献】特開2014-040416(JP,A)
【文献】Kasuga E,Bactericidal activities of woven cotton and nonwoven polypropylene fabrics coated with hydroxyapatite-binding silver/titanium dioxide ceramic nanocomposite "Earth-plus",International Journal of nanomedicine,2011年,6,1937-1943
【文献】Oana,Applicability assessment of ceramic microbeads coated with hydroxyapatite-binding silver/titanium dioxide ceramic composite earthplus to the eradication of Legionella in rainwater storage tanks for household use,International Journal of nanomedicine,4971-4979,2015年,10
【文献】Udayabhanu J.,Nanotitania crystals induced efficient photocatalytic color degradation, antimicrobial and larvicidal activity,Journal of photochemistry & photobiology, B: Biology,2018年,178,496-504
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン粒子、
銀粒子及びリン酸カルシウム粒子を含む複合粒子と、
前記複合粒子が固定化された部材と、を含む害虫防除用部材。
【請求項2】
前記部材が、不織布、発泡スチロールシートまたは発泡スチロールビーズのいずれかから選択されるものである、請求項1記載の害虫防除用部材。
【請求項3】
酸化チタン粒子、
銀粒子及びリン酸カルシウム粒子を含む複合粒子と害虫又は害虫の卵を接触あるいは近接させる工程を含む害虫防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は害虫発生抑制方法に関する。詳しくは、酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子とを含んでなる複合粒子を用いて害虫の発生を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の熱帯から温帯地域にかけて、未だに年間約7億2千万人の人々が蚊を媒介とする感染症に罹患して、その内200万から400万人が亡くなっていると推定されている。
これら多くの感染症に有効なワウチンおよび抗ウイルス薬は未だに開発途上である。このような現状では、媒介蚊を制御する方法の開発が感染症を抑制する唯一の方法であり期待がかかっている。しかし、マラリアが蚊によって媒介されることがわかって、100年以上経過した現在も蚊に有効な方法は見出されていない。
【0003】
蚊の駆除方法として、例えば幼若ホルモン様の活性化合物などを昆虫成長制御剤として成虫に暴露し、その成虫が水際に産卵することにより蚊の幼虫を駆除する方法として特許文献1の方法が知られている。しかし本方法で使用される、幼若ホルモン様の活性化合物は生態系への影響が懸念される。
【0004】
また、蚊の発生そのものを防止する方法として、特許文献2が知られている。本方法は、上面を大気に開放し、底部に排水口を設けた貯水部と排水口を開閉する排水弁と、排水弁の駆動制御手段とを備え、貯水部に水を貯えた日、一定時間経過後に排水弁を駆動して貯水部の水を排水することを特徴とする蚊の発生防止装置に関する。しかし、本方法は駆動装置を要し、複雑な構成であり、広範囲な蚊の発生地域では現実的ではない。
また、このほかに殺虫剤を散布したり、忌避剤などの防虫剤を皮膚に塗布する方法も一般的ではあるが、一時的なものであり、また多くの場合の有効成分である有機化合物の継続的な使用は健康上からも環境への影響からも望ましいとは言えない。
【0005】
ところで、非特許文献1には、株式会社信州セラミックス(日本国長野県)が製造及び販売する「アースプラス(earthplus)」(商標)が、黄色ブドウ球菌、大腸菌及び緑膿菌に対して殺菌作用を有することが記載されている。アースプラスは、酸化チタン、銀及びハイドロキシアパタイトが複合化された複合材料の粉末であり、1個以上の酸化チタン粒子と、1個以上の銀粒子と、1個以上のハイドロキシアパタイト粒子とを含んでなる複合粒子を含有する。当該複合粒子において、1個以上の酸化チタン粒子、1個以上の銀粒子及び1個以上のハイドロキシアパタイト粒子は、三次元かつランダムに配置されており、少なくとも1個の銀粒子は、少なくとも1個の酸化チタン粒子に固着されている。アースプラスは、酸化チタン粒子の光触媒作用、銀粒子の殺菌作用及びハイドロキシアパタイト粒子の吸着作用に基づいて、殺菌作用を発揮する。すなわち、アースプラスは、ハイドロキシアパタイト粒子の吸着作用により、微生物を吸着し、酸化チタン粒子の光触媒作用及び銀粒子の殺菌作用により、微生物に対して殺菌作用を発揮する。
しかし、蚊などの害虫に対する作用についてはなんら着目されておらず、開示も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-320001号公報
【文献】特開2003-144031号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Eriko Kasuga et al., Bactericidal activities of woven cotton and nonwoven polypropylene fabrics coated with hydroxyapatite-binding silver/titanium dioxide ceramic noncomposite "Earth-plus", International Journal of Nanomedicine, 2011:6, pp.1937-1943
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、環境への影響が少なく、扱いが容易な害虫発生防止方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子とを含んでなる複合粒子と害虫や害虫の卵を接触あるいは近接させることで効果的に殺虫でき、害虫の発生を抑制できることを見出し本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1)酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子とを含んでなる複合粒子と害虫又は害虫の卵を接触あるいは近接させる工程を含む害虫防除方法。
(2)害虫が人獣共通感染症の媒介をする害虫である(1)に記載の方法。
(3)人獣共通感染症の媒介をする害虫が蚊である(2)に記載の方法。
(4)接触あるいは近接させる工程が水中で行われる請求項1~3のいずれかに記載の方法。
(5)酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子とを含んでなる複合粒子を部材表面に含む、害虫防除用部材。
(6)部材が不織布、容器、マンホール、雨水枡、コンクリート製品から選ばれるいずれか1つである(4)に記載の害虫防除用部材。
(7)水と組み合わせて、あるいは水中で用いられる(5)又は(6)に記載の害虫防除用部材。
(8)酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子とを含んでなる複合粒子を含む、害虫防除用塗料。
(9)酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子とを含んでなる複合粒子を含む害虫防除剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、害虫を防除することができる。特に、蚊の卵の孵化を抑制でき、また、蚊の幼虫であるボウフラを殺虫することができる。したがって、蚊を媒介とする感染症の拡大を効果的に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】試験例1の蚊の産卵容器を示す写真と説明図である。(A)試験区の産卵容器(B)対照区の産卵容器
【発明を実施するための形態】
【0012】
(対象生物)
本発明の複合粒子による蚊の卵孵化抑制法は環境への影響が少なく、扱いが容易な害虫防除方法である。本方法は害虫を殺虫し、また衛生昆虫・ダニを含む害虫の卵の孵化を抑制することによりそれら害虫を防除することができる。防除の対象としては、人獣共通感染症を媒介する衛生昆虫を含む害虫が挙げられ、具体的には、蚊、蛾、ミジンコ、ダニ、及びこれらの卵や幼虫が挙げられる。
【0013】
人獣共通感染症としては、炭疽、ペスト、結核、仮性結核、パスツレラ症、サルモネラ症、リステリア症、カンピロバクター症、レプトスピラ病、ライム病、豚丹毒、細菌性赤痢、エルシニア・エンテロコリティカ感染症、野兎病、鼠咬症、ブルセラ症等の細菌性人獣共通感染症、インフルエンザ、SARS、狂犬病、ウエストナイル熱、エボラ出血熱、マールブルグ熱、Bウイルス感染症、ニューカッスル病、日本脳炎、ダニ脳炎、腎症候性出血熱、ハンタウイルス肺症候群、サル痘等のウイルス性人獣共通感染症、Q熱、ツツガムシ病、猫ひっかき病等のリケッチア・コクシエラ・バルトネラ性人獣共通感染症、オウム病等のクラミジア性人獣共通感染症、睡眠病、シャーガス病、リーシュマニア症、クリプトスポリジウム感染症等の原虫性人獣共通感染症、エキノコックス症、日本住血吸虫症、肺吸虫症、旋毛虫症、肝吸虫症、肝蛭症、アニサキス症等の人獣共通寄生虫症、クリプトコッカス症、カンジダ症、アスペルギルス症、皮膚真菌症等の真菌性人獣共通感染症、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病等のプリオン病が挙げられる。
【0014】
(複合粒子)
本発明で使用される複合粒子は、1個以上の酸化チタン粒子と、1個以上の金属粒子と、1個以上のリン酸カルシウム粒子とを含んでなる。
複合粒子1個あたりの酸化チタン粒子の個数は、1個であってもよいし、2個以上であってもよい。複合粒子1個あたりの酸化チタン粒子の個数は、通常2個以上である。
【0015】
複合粒子に含まれる酸化チタン粒子の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、球状、粒状、針状、薄片状、不定形状等が挙げられる。複合粒子は、異なる形態を有する2個以上の酸化チタン粒子を含んでいてもよい。
【0016】
複合粒子に含まれる酸化チタン粒子の粒子径は、複合粒子の粒子径よりも小さい限り特に限定されるものではなく、複合粒子の粒子径に応じて適宜調整することができる。複合粒子に含まれる酸化チタン粒子は、例えば、ナノ粒子又はサブミクロン粒子である。
【0017】
酸化チタン粒子を構成する酸化チタンの結晶構造としては、例えば、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型等が挙げられ、これのうち、アナターゼ型が好ましい。
【0018】
複合粒子1個あたりの金属粒子の個数は、1個であってもよいし、2個以上であってもよい。複合粒子1個あたりの金属粒子の個数は、通常2個以上である。
【0019】
複合粒子に含まれる金属粒子の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、球状、粒状、針状、薄片状、不定形状等が挙げられる。複合粒子は、異なる形態を有する2個以上の金属粒子を含んでいてもよい。
【0020】
複合粒子に含まれる金属粒子の粒子径は、複合粒子の粒子径よりも小さい限り特に限定されるものではなく、複合粒子の粒子径に応じて適宜調整することができる。複合粒子に含まれる金属粒子は、例えば、ナノ粒子又はサブミクロン粒子である。
【0021】
複合粒子に含まれる金属粒子は、例えば、銀粒子、金粒子、白金粒子及び銅粒子からなる群から選択される。複合粒子に含まれる金属粒子は、好ましくは、銀粒子である。複合粒子は、異なる種類の2個以上の金属粒子を含んでいてもよい。
【0022】
複合粒子1個あたりのリン酸カルシウム粒子の個数は、1個であってもよいし、2個以上であってもよい。複合粒子1個あたりのリン酸カルシウム粒子の個数は、通常2個以上である。
【0023】
複合粒子に含まれるリン酸カルシウム粒子の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、球状、粒状、針状、薄片状、不定形状等が挙げられる。複合粒子は、異なる形態を有する2個以上のリン酸カルシウム粒子を含んでいてもよい。
【0024】
複合粒子に含まれるリン酸カルシウム粒子の粒子径は、複合粒子の粒子径よりも小さい限り特に限定されるものではなく、複合粒子の粒子径に応じて適宜調整することができる。複合粒子に含まれるリン酸カルシウム粒子は、例えば、ナノ粒子又はサブミクロン粒子である。
【0025】
リン酸カルシウム粒子を構成するリン酸カルシウムとしては、例えば、アパタイト(リン灰石)、リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム等が挙げられ、これらのうち、アパタイトが好ましい。アパタイトとしては、例えば、ハイドロキシアパタイト、フッ化アパタイト、炭酸アパタイト等が挙げられ、これらのうち、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)が好ましい。
【0026】
複合粒子1個あたりの酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子の含有量は、特に限定されないが、酸化チタン粒子の含有量の下限値は、金属粒子1質量部に対して、通常10質量部、好ましくは20質量部、さらに好ましくは25質量部、さらに一層好ましくは30質量部であり、酸化チタン粒子の含有量の上限値は、金属粒子1質量部に対して、通常300質量部、好ましくは250質量部、さらに好ましくは200質量部、さらに一層好ましくは180質量部である。また、リン酸カルシウム粒子の含有量の下限値は、金属粒子1質量部に対して、通常1質量部、好ましくは2質量部、さらに好ましくは3質量部であり、リン酸カルシウム粒子の含有量の上限値は、通常100質量部、好ましくは80質量部、さらに好ましくは60質量部、さらに一層好ましくは50質量部である。
【0027】
動的光散乱法により測定される複合粒子の粒子径は、好ましくは100~600nm、さらに好ましくは200~500nm、さらに一層好ましくは250~350nmである。動的光散乱法による粒子径の測定は、市販の動的光散乱式粒子径分布測定装置、好ましくは動的光散乱式ナノトラック粒子径分布測定装置「UPA-EX150」(日機装株式会社製)により測定される。
【0028】
複合粒子において、1個以上の酸化チタン粒子、1個以上の金属粒子及び1個以上のリン酸カルシウム粒子は、三次元かつランダムに配置されていることが好ましい。
【0029】
三次元かつランダムな配置の一実施形態では、少なくとも1個の金属粒子が、少なくとも1個の酸化チタン粒子に固着されている。
【0030】
三次元かつランダムな配置の一実施形態では、ある1個の粒子(酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子から選択される1個の粒子)の周囲に、別の1個以上の粒子(酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子から選択される1個以上の粒子)が存在している。この実施形態において、ある1個の粒子には、同種の1個以上の粒子が隣接していてもよいし、異種の1個以上の粒子が隣接していてもよい。隣接する粒子は互いに結合し、固着していることが好ましい。隣接する粒子の組み合わせとしては、酸化チタン粒子同士、金属粒子同士、リン酸カルシウム粒子同士、酸化チタン粒子と金属粒子、酸化チタン粒子とリン酸カルシウム粒子、金属粒子とリン酸カルシウム粒子等が挙げられる。
【0031】
三次元かつランダムな配置の一実施形態では、酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子から選択される少なくとも1個の粒子の一部が、複合粒子の表面に露出している。
【0032】
三次元かつランダムな配置の一実施形態では、少なくとも1個の酸化チタン粒子の一部、少なくとも1個の金属粒子の一部及び少なくとも1個のリン酸カルシウム粒子の一部が、複合粒子の表面に露出している。
【0033】
三次元かつランダムな配置の一実施形態では、酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子から選択される少なくとも1個の粒子が、複合粒子の表面に露出することなく、複合粒子の内部に存在している。
【0034】
三次元かつランダムな配置の一実施形態では、酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子から選択される少なくとも1個の粒子が膜状の形態を有し、複合粒子の表面の少なくとも一部に存在している。
【0035】
三次元かつランダムな配置の一実施形態では、酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子から選択される2個以上の粒子が一体となって又は連なって膜状の形態を有し、複合粒子の表面の少なくとも一部に存在している。
【0036】
ある1個の粒子が粒子形態を有するか、あるいは、膜状の形態を有するか、あるいは、別の1個以上の粒子と一体となって又は連なって膜状の形態を有するかは、複合粒子を製造する際の粒子の配合比等の影響を受け得る。配合比によっては、ある1個の粒子が、もはや粒子形態を維持せず、複合粒子の表面の少なくとも一部に存在する膜状の形態をとり得る。例えば、ビーズミル、ボールミル等の機械的手法により粒子複合化を実施する場合、その他の粒子よりも硬度が低い材料で構成される粒子(例えば、銀粒子)は、このような膜状の形態をとり得る。
三次元かつランダムな配置に関する上記実施形態のうち2種以上が組み合わせられてもよい。
【0037】
複合粒子としては、例えば、株式会社信州セラミックスから、商品名「アースプラス(earthplus)」の下で販売されている複合材料の粉末を使用することができる。アースプラスは、酸化チタン、銀及びハイドロキシアパタイトが複合化された複合材料の粉末であり、1個以上の酸化チタン粒子と、1個以上の銀粒子と、1個以上のハイドロキシアパタイト粒子とを含んでなる複合粒子を含有する。当該複合粒子において、1個以上の酸化チタン粒子、1個以上の銀粒子及び1個以上のハイドロキシアパタイト粒子は、三次元かつランダムに配置されており、少なくとも1個の銀粒子は、少なくとも1個の酸化チタン粒子に固着されている。また、当該複合粒子において、少なくとも1個の酸化チタン粒子の一部、少なくとも1個の銀粒子の一部及び少なくとも1個のハイドロキシアパタイト粒子の一部は、複合粒子の表面に露出していると考えられる。
【0038】
複合粒子は、例えば、湿式ミルを使用して、酸化チタン粉末、金属粉末及びリン酸カルシウム粉末を液体中で混合し、酸化チタン粉末に含まれる1個以上の酸化チタン粒子と、金属粉末に含まれる1個以上の金属粒子と、リン酸カルシウム粉末に含まれる1個以上のリン酸カルシウム粒子とを複合化することにより製造することができる。なお、こうして製造された複合粒子は、その後、焼結されずに、本発明において使用される。
【0039】
酸化チタン粉末における酸化チタン含量(純度)は、好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、さらに一層好ましくは98%以上である。上限値は、例えば、99%である。
【0040】
酸化チタン粉末に含まれる酸化チタン粒子(一次粒子)の粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.03~0.1μmである。湿式ミルは、粒子凝集体を個々の粒子に分散させることができるので、酸化チタン粉末には、酸化チタン粒子の凝集体(二次粒子)が含まれていてもよい。酸化チタン粒子の凝集体の粒子径は、例えば、1~2μmである。酸化チタン粒子又はその凝集体の粒子径は、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)又は走査電子顕微鏡(SEM)を使用して測定される。
【0041】
金属粉末における金属含量(純度)は、好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、さらに一層好ましくは98%以上である。上限値は、例えば、99.9%である。
【0042】
金属粉末に含まれる金属粒子(一次粒子)の粒子径は、特に限定されないが、例えば、1.1~1.9μmである。湿式ミルは、粒子凝集体を個々の粒子に分散させることができるので、金属粉末には、金属粒子の凝集体(二次粒子)が含まれていてもよい。なお、金属粉末を使用まで冷凍保存しておくことにより、金属粉末に含まれる金属粒子の凝集を抑制することができる。金属粒子又はその凝集体の粒子径は、例えば、比表面積に基づいて算出される。
【0043】
リン酸カルシウム粉末におけるリン酸カルシウム含量(純度)は、好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、さらに一層好ましくは98%以上である。
【0044】
リン酸カルシウム粉末に含まれるリン酸カルシウム粒子(一次粒子)の粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.1~0.2μmである。湿式ミルは、粒子凝集体を個々の粒子に分散させることができるので、リン酸カルシウム粉末には、リン酸カルシウム粒子の凝集体(二次粒子)が含まれていてもよい。リン酸カルシウム粒子の凝集体の粒子径は、例えば、4~5μmである。リン酸カルシウム粒子又はその凝集体の粒子径は、例えば、レーザー回折・散乱法によって測定される。
【0045】
湿式ミルは、酸化チタン粉末、金属粉末及びリン酸カルシウム粉末に含まれる粒子を液体中で分散及び微粉砕しながら、1個以上の酸化チタン粒子と、1個以上の金属粒子と、1個以上のリン酸カルシウム粒子とを複合化することができる。湿式ミルとしては、例えば、ビーズミル、ボールミル等が挙げられ、これらのうち、ビーズミルが好ましい。ビーズミル、ボールミル等のミルで使用されるビーズ、ボール等の粉砕メディアの材質としては、例えば、アルミナ、ジルコン、ジルコニア、スチール、ガラス等が挙げられ、これらのうち、ジルコニアが好ましい。粉砕メディアのサイズ(直径)は、製造すべき複合粒子の粒子径等に応じて適宜調整することができるが、通常0.05~3.0mm、好ましくは0.1~0.5mmである。粉砕メディアとしては、例えば、サイズが約0.1mm、質量が約0.004mgのビーズ又はボールを使用することができる。
【0046】
混合の際に使用される液体は、例えば、水等の水性媒体である。混合の際に使用される液体が水である場合、酸化チタン粉末、金属粉末及びリン酸カルシウム粉末の合計配合量は、水65質量部に対して、通常25~45質量部、好ましくは30~40質量部となるように調整される。
【0047】
酸化チタン粉末、金属粉末、リン酸カルシウム粉末及び液体を含む原料を湿式ミルで混合する際、各種条件、例えば、原料粉末の合計添加量、液の流量、シリンダー内の羽根の周速、攪拌温度、攪拌時間等は、製造すべき複合粒子の粒子径等に応じて適宜調整することができる。原料粉末(酸化チタン粉末、金属粉末及びリン酸カルシウム粉末)の合計添加量は、例えば4kg以上であり、シリンダー容積は、例えば0.5~4L、液の流量は、例えば0.5~3L/分であり、羽根の周速は、例えば300~900m/分であり、液温は、例えば20~60℃であり、原料粉末1kgあたりの混合時間は、例えば0.5~2時間である。原料粉末の合計添加量の上限値は、シリンダー容積等に応じて適宜調整可能である。混合時間は、原料粉末の合計添加量等に応じて適宜調整可能である。
【0048】
原料には、酸化チタン粉末、金属粉末、リン酸カルシウム粉末及び液体に加えて、分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、例えば、高分子型分散剤、低分子型分散剤、無機型分散剤等が挙げられ、湿式混合で使用される液体の種類に応じて適宜選択することができる。混合の際に使用される液体が水等の水性媒体である場合、分散剤としては、例えば、アニオン性高分子型分散剤、非イオン性高分子型分散剤等を使用することができ、アニオン性高分子型分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸系分散剤、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合系分散剤等が挙げられ、非イオン性高分子型分散剤としては、例えば、ポリエチレングリコール等が挙げられる。分散剤の添加量は、適宜調整することができるが、酸化チタン粉末、金属粉末及びリン酸カルシウム粉末の合計配合量35質量部に対して、例えば、0.1~3質量%、好ましくは、0.3~1質量%である。
【0049】
湿式ミルを使用して、酸化チタン粉末、金属粉末及びリン酸カルシウム粉末を液体中で混合し、酸化チタン粉末に含まれる1個以上の酸化チタン粒子と、金属粉末に含まれる1個以上の金属粒子と、リン酸カルシウム粉末に含まれる1個以上のリン酸カルシウム粒子とを複合化することにより、複合粒子の懸濁液(スラリー)を製造することができる。その後、懸濁液中の溶媒を蒸発等により除去することにより、複合粒子の集合体(乾燥粉末)を製造することができる。噴霧乾燥造粒法等の公知の造粒法により、複合粒子の懸濁液(スラリー)から、複合粒子の集合体(乾燥粉末)を製造することもできる。
【0050】
動的光散乱法により測定される複合粒子の集合体の粒子径は、例えば100~600nm、好ましくは200~500nmである。動的光散乱法により体積基準で測定される複合粒子の集合体のメディアン径(d50)は、例えば250~350nm、好ましくは約300nmである。動的光散乱法による粒子径は、市販の動的光散乱式粒子径分布測定装置、好ましくは動的光散乱式ナノトラック粒子径分布測定装置「UPA-EX150」(日機装株式会社製)を使用して測定される。
【0051】
製造された複合粒子は、そのまま、本発明において使用することができるが、本発明において使用する前に、粒子径の調整を行ってもよい。粒子径の調整は、例えば、粉末の状態又は懸濁液の状態の複合粒子を篩化することにより行うことができる。
【0052】
複合粒子の集合体において、複合粒子1個あたりの酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子のそれぞれの個数は、複合粒子の間で同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0053】
複合粒子の集合体には、1個以上の酸化チタン粒子と、1個以上の金属粒子と、1個以上のリン酸カルシウム粒子とを含んでなる複合粒子に加えて、該複合粒子を製造する際に副生され得るその他の粒子が混在していてもよい。その他の粒子としては、例えば、単独の酸化チタン粒子、単独の金属粒子、単独のリン酸カルシウム粒子、酸化チタン粒子同士の結合体(金属粒子及びリン酸カルシウム粒子を含まない)、金属粒子同士の結合体(酸化チタン粒子及びリン酸カルシウム粒子を含まない)、リン酸カルシウム粒子同士の結合体(酸化チタン粒子及び金属粒子を含まない)、酸化チタン粒子と金属粒子との結合体(リン酸カルシウム粒子を含まない)、酸化チタン粒子とリン酸カルシウム粒子との結合体(金属粒子を含まない)、金属粒子とリン酸カルシウム粒子との結合体(酸化チタン粒子を含まない)等が挙げられる。
【0054】
(複合粒子と害虫の接触あるいは近接させる方法)
本発明の複合粒子と害虫の接触方法としては、害虫や害虫の卵の生息域に本発明の複合粒子を存在させる方法であればいずれでもよく、生息域に存在させる方法としては生息域に部材として載置する方法が挙げられる。また、生息域にすでに存在する部材に塗布、接着、付着させることにより存在させる方法がある。
部材の種類としては、本発明の複合粒子を保持できる形態のものであればいずれでもよく、不織布などの通気性シート部材、建築物の壁、特に外壁、排水路、雨水桝、マンホールの内部や蓋、U字溝、建設部材、建築資材、砂利、濾材、水たまりへ投下発泡スチロール等の樹脂、紙などが挙げられる。
また、害虫や害虫の卵はこれらの部材に直に接触することのほかに、非接触であっても近傍に接近することにより媒体を介して間接的に接触することも本発明に含まれる。近接させる例としては、水中に本発明の複合粒子を付着した部材を設置した場合にボウフラやミジンコなどの水中生物が遊泳して複合粒子に近接することをいう。この場合、水中生物は水媒体を介して部材に接することになる。近接の程度は、好ましくは5cm以下、より好ましくは3cm以下、さらに好ましくは1cm以下、最もこのましくは5mm以下である。すなわち、本発明の複合粒子を含む害虫防除用部材は、水と組み合わせて、あるいは水中で用いることも好ましい。
本発明によれば、その作用機序は必ずしも明らかではないが、害虫や害虫の卵が複合粒子と接触・近接することで粒子から派生する作用、粒子と生体との相互作用により、生体が何らかのダメージを受けることで死滅、産卵抑制、卵の孵化抑制が行われるものと思われる。
【0055】
本発明の複合粒子の各部材への適用方法としては、完成した部材に後から付着させる方法や部材の原料に含ませて部材を製造する方法が挙げられる。付着の方法としては、複合粒子をバインダー樹脂等と混合し、部材に付着する方法が挙げられる。コンクリートに付着させる例としては、コンクリートにバインダー樹脂として塗装する方法が挙げられる。
部材の材質としては、複合粒子が固定化されうるものであればいずれでもよく、このうちでも多孔体が望ましい。多孔体の孔径は、数マイクロから数十マイクロが好ましく、透水スピードはあまり速くないものの方が望ましい。
部材の素材としては、コンクリート、アスファルト、セラミックス、スポンジ、不織布、発泡スチロールなどの樹脂、紙等が挙げられる。なお、環境への影響を考慮し、放置しても環境や生態系に悪影響を及ぼさないようなもの(自然分解、生分解、リサイクル可能、回収可能)が望ましい。
【0056】
以下、代表例としてバインダ樹脂を介して通気性シート部材に本発明の複合粒子を付着させる例について説明するが、部材は上述したいずれにも使用することができる。
複合粒子及びバインダ樹脂を含有する混合液を通気性シート部材に供給した後、あるいは、複合粒子及びバインダ樹脂を含有する混合液中に通気性シート部材を浸漬した後、通気性シート部材を乾燥することにより、複合粒子がバインダ樹脂を介して付着した通気性シート部材を製造することができる。また、複合粒子及びバインダ樹脂を含有する混合液を通気性シートの原反に供給した後、あるいは、複合粒子及びバインダ樹脂を含有する混合液中に通気性シートの原反を浸漬した後、通気性シートの原反を乾燥し、次いで、通気性シートの原反から通気性シート部材を切り出すことにより、複合粒子がバインダ樹脂を介して付着した通気性シート部材を製造することができる。
【0057】
混合液に含有されるバインダ樹脂の量は、複合粒子100質量部に対して、好ましくは20~90質量部、さらに好ましくは30~85質量部、さらに一層好ましくは40~80質量部である。通気性シート部材に含有されるバインダ樹脂の量も同様である。
【0058】
通気性シート部材の単位面積あたりの複合粒子及びバインダ樹脂の合計付着量は、特に限定されないが、合計付着量の下限値は、通常2g/m2、好ましくは3g/m2、さらに好ましくは4g/m2、さらに一層好ましくは5g/m2、さらに一層好ましくは6g/m2であり、合計付着量の上限値は、通常30g/m2、好ましくは25g/m2、さらに好ましくは20g/m2、さらに一層好ましくは15g/m2である。
本付着量は、コンクリートなどの他の部材に塗布する際にも同様の付着量を好ましい範囲として挙げることができる。
【0059】
バインダ樹脂としては、接着性を有する公知の樹脂を1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。バインダ樹脂としては、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、シェラック、ダンマル、エレミー、サンダラック等の天然糊料あるいは天然樹脂類;メチルセルロース、エチルセルロース、ニトロセルロース、カルボキシメチルセルロース、アセテート等の半合成糊料又は半合成樹脂類;イソフタル酸系、テレフタル酸系、ビスフェノール系、ビニルエステル系のポリエステル樹脂;エチレンーアクリル酸、エチレンーアクリル酸エステル、アクリルエステルービニル、メタクリル酸エステルービニル等のアクリル系共重合樹脂;トリレンジシソシアネート、4,4‘-ジフェニルメタンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート等のイソシアネート誘導体又はイソシアヌレート誘導体と、トリレンジイソシアネート等のイソシアネート誘導体又はイソシアヌレート誘導体と、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルロイルオール、フェノーリックポリオール等のポリオールとの反応により形成されるウレタン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化ポリマー;ポリ酢酸ビニル、エチレンー酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリアクリルエステル、ポリスチレン、ポリビニルアセタール等のアセタール系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;セルロースアセテート等のセルロース系樹脂;ポリオレフィン系樹脂;尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂等の合成糊料あるいは合成樹脂類;ポリアルキルシロキサン、ポリアルキル水素シロキサン、ポリアルキルアルケニルシロキサン、ポリアルキルシリコネート、ポリアルカリアルキルシリコネート、ポリアルキルフェニルシロキサン等のシリコーン樹脂をはじめ、エポキシ変性、アミノ変性、ウレタン変性、アルキド変性、アクリル変性等の変性体、共重合体等を含むシリコーン樹脂;あるいは、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン等の重合体、これらのモノマーと他種モノマーとの共重合体等のフッ素樹脂等が挙げられる。これらのうち、接着性等の観点から、ウレタン系樹脂、シリコーン樹脂が好ましく、ウレタン系樹脂が特に好ましい。また、コンクリートに適用するバインダ樹脂としては、アクリル系共重合樹脂が好ましく、トナンボンド(トナンボンド株式会社製)を例示することができる。
【0060】
バインダ樹脂に代えて又はバインダ樹脂と組み合わせて、無機バインダを1種単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。無機バインダとしては、例えば、アルキルシリケート、ハロゲン化ケイ素、これらの部分加水分解物等の加水分解性ケイ素化合物を分解して得られる生成物、有機ポリシロキサン化合物とその重縮合物、シリカ、コロイダルシリカ、水ガラス、ケイ素化合物、リン酸亜鉛等のリン酸塩、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、重リン酸塩、セメント、石膏、石灰、ほうろう用フリット等が挙げられる。
【0061】
本発明の酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子とを含んでなる複合粒子を有効成分として含む害虫防除剤は、前記複合粒子そのものでもよいし、本発明の害虫防除作用を損なわない範囲で他の公知の成分を含むことができる。他の公知の成分としては、他の殺虫成分などが挙げられる。また、他の公知の害虫駆除方法や害虫防除方法と組み合わせて用いることももちろん可能である。例えば、他の蚊取り用具に本発明の害虫防除剤を塗布することも可能である。また、蚊は水のあるところや二酸化炭素を好むことから、二酸化炭素発生方法との組み合わせや、後述する試験例のように水の存在と組み合わせることも効果的である。
【実施例】
【0062】
以下、製造例及び試験例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明の範囲は、これらの製造例及び試験例によって限定されるものではない。
【0063】
製造例1:複合粒子の製造
本製造例では、酸化チタン粉末、銀粉末及びハイドロキシアパタイト粉末を原料粉末として使用し、1個以上の酸化チタン粒子、1個以上の銀粒子及び1個以上のハイドロキシアパタイト粒子を含んでなる複合粒子を製造した。
【0064】
本製造例では、2種類の複合粒子M1及びM2を製造した。複合粒子M1及びM2は、酸化チタン、銀及びハイドロキシアパタイトの含有比の点で異なる。複合粒子M1及びM2は、株式会社信州セラミックスが製造及び販売する「アースプラス(earthplus)」(商標)と同様にして製造した。複合粒子M1及びM2の製造は、株式会社信州セラミックスに委託した。
【0065】
表1に示す原料粉末を準備した。酸化チタン粉末の粒子径は、透過電子顕微鏡(TEM)又は走査電子顕微鏡(SEM)を使用して測定された値であり、銀粉末の粒子径は、比表面積に基づいて算出された値であり、ハイドロキシアパタイト粉末の粒子径は、レーザー回折・散乱法によって測定された値である。銀粉末は使用まで冷凍保存しておいたので、銀粉末に含まれる銀粒子の凝集は抑制されていた。
【0066】
【0067】
市販の湿式ビーズミル(アシザワ・ファインテック株式会社製「スターミルLME」)を使用して、酸化チタン粉末、銀粉末、ハイドロキシアパタイト粉末及びポリカルボン酸系分散剤を水中で混合することにより、酸化チタン粉末に含まれる1個以上の酸化チタン粒子と、銀粉末に含まれる1個以上の銀粒子と、ハイドロキシアパタイト粉末に含まれる1個以上のハイドロキシアパタイト粒子とを複合化し、複合粒子の懸濁液(スラリー)を製造した。使用した湿式ビーズミルは、原料粉末に含まれる酸化チタン粒子、銀粒子及びハイドロキシアパタイト粒子を分散させながら微粉砕し、ナノ粒子又はサブミクロン粒子まで微粒子化することができるとともに、微粒子化した粒子を複合化することができる。
【0068】
湿式ビーズミルを使用した粒子複合化の条件は、次の通りである。
原料粉末の合計添加量:4kg以上
シリンダー容積:3.3L
ビーズ:ジルコニア製ビーズ(直径0.5mm、質量0.37mg)
液の流量:2L/分
シリンダー内の羽根の周速:540m/分
液温:35~45℃
原料粉末1kgあたりの混合時間:30~40分(約36分)
【0069】
酸化チタン粉末、銀粉末及びハイドロキシアパタイト粉末の合計配合量は、水65質量部に対して、35質量部に調整した。ポリカルボン酸系分散剤の配合量は、酸化チタン粉末、銀粉末及びハイドロキシアパタイト粉末の合計配合量35質量部に対して、0.5質量部に調整した。
【0070】
複合粒子M1の製造では、酸化チタン粉末の配合量を、銀粉末1質量部に対して約160質量部(155~165質量部)に調整し、ハイドロキシアパタイト粉末の配合量を、銀粉末1質量部に対して約40質量部(39~41質量部)に調整した。
【0071】
複合粒子M2の製造では、酸化チタン粉末の配合量を、銀粉末1質量部に対して約30質量部(29~31質量部)に調整し、ハイドロキシアパタイト粉末の配合量を、銀粉末1質量部に対して約3質量部(2.5~3.5質量部)に調整した。
【0072】
複合粒子の懸濁液(スラリー)を乾燥することにより、複合粒子M1及びM2を製造した。動的光散乱法により測定された複合粒子M1及びM2の粒子径は、200~500nmであった。動的光散乱法により体積基準で測定された複合粒子M1及びM2のメディアン径(d50)は、約300nmであった。動的光散乱法による粒子径は、市販の動的光散乱式粒子径分布測定装置、具体的には、動的光散乱式ナノトラック粒子径分布測定装置「UPA-EX150」(日機装株式会社製)を使用して測定した。
【0073】
[試験例1]本発明の複合粒子による蚊の卵の孵化抑制試験
本試験では、本発明の複合粒子で処理した濾紙上で蚊に卵を産ませ、孵化数を未処理の対照区と比較することで本発明の複合粒子による蚊の卵の孵化に対する影響を調べた。
1.試験方法
1-1.材料
(1)産卵容器
(i)試験区
250mLプラスチック容器内(直径12cm、高さ7cm)に50mLのMilli-Q水と前記M1粒子溶液20μLを加えた(M1粒子の最終濃度0.014%)。次に、産卵用濾紙(高さ4cm、長さ9cm)を前記プラスチック容器の内璧面に貼り付け、試験区とした(
図1(A))。産卵用濾紙の高さ1cm分は水面下にあり、3cm分は空気中にあるが湿っている状態である。そして水層と空気層の境界(つまり水際)のより湿った濾紙部分に卵が産み付けられるようにした。
(ii)対照区
本発明の複合粒子を含まないMiliQ水50mLを250mLプラスチック容器内に添加した以外は試験区と同様にしたものを対照区とした(
図1(B)。
【0074】
(2)蚊
東京都新宿区初台の人家内で採集した成虫を実験室内で継代したヒトスジシマカ(Aedes albopictus)成虫150個体と米国ノートルダム大学より分与されたネッタイシマカ(Aedes aegypti)成虫150個体を用いた。ヒトスジシマカが媒介する感染症はジカウイルス感染症、デング熱、チクングニア熱、ウエストナイル熱、日本脳炎等である。なお、ウエストナイル熱の媒介蚊は鳥類からの吸血嗜好性をもつアカイエカ類(Culex pipiens, Cx. p. molestus, Cx. p. pallense)であるが、ヒトスジシマカも橋渡し媒介蚊(bridge vector)として本症に関与することが知られている。また、日本脳炎の主な媒介蚊はコガタアカイエカ(Culex tritaeniorhyncus)であるが、ヒトスジシマカも実験的に感染することが知られている。ネッタイシマカが媒介する感染症は、ジカウイルス感染症、デング熱、チクングニア熱、黄熱等である。
【0075】
1-2.試験手順
(1)蚊の吸血
ネッタイシマカとヒトスジシマカをそれぞれ別の布製成虫ケージ(20×20×30cm)に入れ、Hemotek社製の人工吸血装置により人工膜を介してヘパリン含馬全血を吸血させた。成虫ゲージは37℃の加湿器内に設置された。
【0076】
(2)蚊の産卵
吸血直後、成虫ケージ内に、試験区と対照区の産卵容器を設置した。その後、24℃の恒温槽(1日の照明時間は16時間、暗黒は8時間)で成虫が湿った濾紙に卵を産むのを待った。
【0077】
(3)産下卵の処理 (
図4)
吸血6日後には、試験区と対照区それぞれの産卵容器の湿った産卵用濾紙上に卵が確認されたため、容器を成虫ケージ内から取り出して、蓋をして3日間、24℃に静置した。
その後、卵が生みつけられた濾紙を同じ産卵容器内の水中に浸漬した。幼虫の餌としては、CE-2粉末飼料(クレア社製)を適量の水で溶いて与えた。
【0078】
(4)孵化幼虫数と卵のカウント
幼虫の孵化を確認するために、約2週間孵化の有無を観察し、孵化した幼虫の数をカウントした。産卵用濾紙上の卵の数は、試験終了の際にカウントした。
検定はフィッシャーの正確確率検定(Fisher’s exact test)を採用した。
【0079】
2.試験結果
ヒトスジシマカについては、試験区の本発明の複合粒子で処理された産卵用濾紙に生まれた卵の数は250個であり、そのうち孵化した数は45個(孵化率18%)であった。これに対して、対照区では、無処理の産卵用濾紙に産まれた卵の数は、170個であり、そのうち孵化した数は148個(孵化率87%)であった。オッズ比は、0.033(95%信頼性区間:0.019、0.057)であった。
また、ネッタイシマカについては、試験区の本発明の複合粒子で処理された産卵用濾紙に生まれた卵の数は75個であり、このうち孵化した数は12個(孵化率16%)であった。これに対して、対照区では、無処理の産卵用濾紙に生まれた卵の数は、51個であり、そのうち孵化した数は32(孵化率62.7%)であった。オッズ比は、0.113(95%信頼性区間:0.049、0.262)であった。
以上より、本発明の複合粒子は蚊の種類を問わず、蚊の孵化率を有意に抑制できることがわかった。
【0080】
【0081】
[試験例2]本発明の複合粒子による害虫防除試験(室内)
本試験では、本発明の複合粒子を含むバインダーで塗装処理した培養容器中に微小生物を泳がせ、本発明の複合粒子による生存への影響を調べた。
1.試験方法
1-1.材料
(1)培養容器
素焼きの培養容器(容量30~50ml)に本発明の複合粒子M1:バインダー(製品名トナンボンド):水=1:1:1で混合したスラリーを筆で一様に塗布し、常温で12時間放置して乾燥することにより試験用の培養容器を作製した。
また、バインダー:水=1:1のスラリーを素焼きの培養容器に同様に塗布してコントロール用培養容器を作製した。
(2)微小生物
タマミジンコ、カイミジンコ、ボウフラは、神奈川県麻生区の民家の池より採取した。
1-2.試験方法
(1)コントロール区
コントロール用培養容器に池の水を入れタマミジンコ4匹とカイミジンコ4匹を投入した。
(2)試験区1
試験用培養容器に池の水を入れタマミジンコ15匹、カイミジンコ3匹を投入した。
(3)試験区2
試験用培養容器に池の水を入れタマミジンコ30匹、カイミジンコ8匹、ボウフラ8匹を投入した。
上記試験はすべて室温(約26℃)で行った。
【0082】
2.試験結果
(1)コントロール区
試験開始後10日間経過してもミジンコは全て元気に泳ぎ回っていた。
(2)試験区1
試験開始後3時間でタマミジンコ全て死亡、カイミジンコは1日後に全て死亡した。
(3)試験区2
試験開始後4時間でタマミジンコが全て死亡、1日後にカイミジンコが全て死亡、15日後にボウフラは6匹が死亡、28日後には全て死亡した。
以上より、本発明の複合粒子はミジンコ類及びボウフラに対して殺虫効果があることがわかった。
【0083】
〔試験例3〕本発明の複合粒子による害虫防除試験(屋外)
本試験では、下記試験場所にて、本発明の複合粒子を含むバインダーで塗装処理した容器に水を入れ、本発明の複合粒子によるボウフラ、蚊の発生抑制効果を長期間にわたって調べた。
1.試験方法
1-1.材料
(1)容器
(a)試験区1のコンクリート容器
上部が開放された円柱型のコンクリート容器(内径45cm、高さ19cm、内容量約30L)に本発明の下記複合粒子溶液(i)30ml、バインダー溶液(ii)30ml、水30mlの混合溶液90mlのうち、約25mlを刷毛で円柱型のコンクリート容器内側全面に高さ15cmくらいまで塗装(塗布)し、常温で3日間放置して乾燥することにより試験用の容器を作製した。
(i)複合粒子溶液;本発明の複合粒子M1を35重量%含む水溶液
(ii)バインダー溶液;製品名トナンボンド(トナンボンド株式会社製)をごく少量の水に溶かしたもの
(b)試験区2のコンクリート容器
コンクリート容器に塗布した混合溶液を、上記(i)の複合粒子溶液30ml、(ii)のバインダー溶液30ml、水120mlの混合溶液180mlとした以外は試験区1のコンクリート容器と同様に作製した。
(c)対照区のコンクリート容器
上記(ii)のバインダー溶液30ml、水30mlの混合溶液60mlを用いた以外は試験区1のコンクリート製の容器と同様に作製した。
1-2.試験方法
対照区のコンクリート容器1個、試験区1のコンクリート容器3個、試験区2のコンクリート容器6個に水道水を24L入れ、ビニールシートのテントの下に約1年間放置して、4ヶ月目から約1ヶ月毎のボウフラの発生個数をカウントした。7ヶ月目のカウント後に水を全部入れ替えた。テントは屋根のみで側面は外気にさらされている状態であり、容器の下面には木製の高さ5cmほどのスノコを敷き、直接地面に容器が触れないようにした。
1-3.試験場所
神奈川県秦野市戸川
1-4.試験期間
2017年12月5日より1年間。試験期間中の気温は3℃~35℃であった。
【0084】
2.試験結果
結果を表3に示す。本発明の複合粒子を含むバインダーを塗布した試験区1、試験区2では1年間にわたりほとんどボウフラが発生しなかった。これに対して本発明の複合粒子を塗布しなかった対照区では80匹もボウフラが発生した。
以上より、本発明の複合粒子は蚊の産卵を抑制し、ボウフラの発生を有意に抑制する効果があることがわかった。
【0085】
【0086】
[試験例4]害虫防除用部材の製造
上記試験例1では本発明の複合粒子溶液をしみこませた濾紙、試験例2、試験例3では複合粒子をバインダーで塗装処理した容器で効果を確認した。このほかに、ハイドロ銀チタンを固定化した不織布や発泡スチロールでも同様の効果が期待できる。
1.複合粒子付着不織布の製造
製造例1で得られた複合粒子M1の懸濁液(スラリー)にバインダ樹脂を加えて混合液を調製した後、ポリエステル製スパンポンド不織布を混合液に浸漬し、不織布に混合液を含浸させた。浸漬後、混合液から不織布を取り出し、ローラーでプレスして余剰の混合液を絞り出した。プレス後、不織布を約130℃で約1分間乾燥して、複合粒子付着不織布N1を製造した。バインダ樹脂としては、ウレタン系樹脂(C3H7NO2/NH2COOC2H5)を使用した。
【0087】
混合液中の複合粒子M1及びバインダ樹脂の濃度を調整することにより、複合粒子付着不織布N1の単位面積あたりの複合粒子M1及びバインダ樹脂の合計付着量(合計固定量)を4g/m2、6g/m2、8g/m2又は10g/m2に調整した。
【0088】
4g/m2の内訳は、酸化チタン2.27g/m2、ハイドロキシアパタイト0.571g/m2、銀0.014g/m2、バインダ樹脂1.14g/m2であった。
【0089】
6g/m2の内訳は、酸化チタン3.41g/m2、ハイドロキシアパタイト0.857g/m2、銀0.021g/m2、バインダ樹脂1.71g/m2であった。
【0090】
8g/m2の内訳は、酸化チタン4.54g/m2、ハイドロキシアパタイト1.143g/m2、銀0.029g/m2、バインダ樹脂2.29g/m2であった。
【0091】
10g/m2の内訳は、酸化チタン5.68g/m2、ハイドロキシアパタイト1.428g/m2、銀0.036g/m2、バインダ樹脂2.86g/m2であった。
【0092】
複合粒子M1の懸濁液に代えて複合粒子M2の懸濁液を使用した点を除き、上記と同様にして、複合粒子付着不織布N2を製造した。
【0093】
混合液中の複合粒子M2及びバインダ樹脂の濃度を調整することにより、複合粒子付着不織布N2の単位面積あたりの複合粒子M2及びバインダ樹脂の合計付着量(合計固定量)を13.5g/m2に調整した。
【0094】
13.5g/m2の内訳は、酸化チタン6.525g/m2、ハイドロキシアパタイト0.750g/m2、銀0.225g/m2、バインダ樹脂6.00g/m2であった。
【0095】
2.複合粒子付着発泡スチロールシートまたは発泡スチロールビーズの製造
発泡スチロールの原材料に本発明の複合粒子M1又はM2を混ぜて複合粒子付着発泡スチロールシート及び発泡スチロールビーズを製造した。
【0096】
3.利用方法
(1)不織布を容器内壁面に被覆する
水を入れた容器の内壁面に前記1.の不織布N1又はN2を張り巡らせ、下部が水に浸るように設置する。蚊の多くは水面近くの壁に卵を産み付けるため、内壁に張り巡らされた水面付近の不織布に卵を産み付けることになる。したがって、卵は不織布中の複合粒子と接触することで孵化が抑制される。
【0097】
(2)不織布を水中にランダムに挿入する
水を入れた容器の水中に前記1.の不織布N1又はN2をランダムに丸めて浸漬する。これにより水面近くの不織布を壁面として蚊は卵を産み付ける。したがって、卵は不織布中の複合粒子と接触することで孵化が抑制される。
【0098】
(3)発泡スチロールシートまたは発泡スチロールビーズを水面に浮かせる
水を入れた容器の水面に前記2.の発泡スチロールシートまたは発泡スチロールビーズを浮かせる。蚊のうちでもマラリアを媒介するハマダラカは水面に直立するように卵を産むことが知られている。したがって、このような蚊の卵は水面に浮いている発泡スチロールシートや発泡スチロールビーズと接触することで効率的に孵化を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、害虫を防除することができる。特に蚊の卵の孵化を抑制することができる。また、蚊の幼虫であるボウフラを殺虫することができる。したがって、蚊を媒介とする感染症の拡大を効果的に防ぐことができる。