(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】モルガネラ属細菌由来ナノ小胞およびその用途
(51)【国際特許分類】
A61K 35/74 20150101AFI20230418BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20230418BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20230418BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230418BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230418BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230418BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20230418BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230418BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20230418BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230418BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20230418BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230418BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20230418BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20230418BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230418BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20230418BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20230418BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230418BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230418BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230418BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230418BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230418BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230418BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230418BHJP
A61P 31/06 20060101ALI20230418BHJP
A61P 31/08 20060101ALI20230418BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230418BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230418BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230418BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230418BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20230418BHJP
【FI】
A61K35/74 Z
A23L33/135
A61P1/00
A61P9/00
A61P9/10
A61P9/10 101
A61P11/00
A61P11/02
A61P11/06
A61P13/10
A61P13/12
A61P15/00
A61P17/00
A61P17/06
A61P17/10
A61P19/02
A61P19/08
A61P19/10
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P27/02
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P31/04
A61P31/06
A61P31/08
A61P35/00
A61P37/02
A61P37/08
A61P43/00 105
A61P43/00 111
C12N1/20 E ZNA
(21)【出願番号】P 2021185327
(22)【出願日】2021-11-15
(62)【分割の表示】P 2020557894の分割
【原出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】10-2018-0004603
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0158636
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516348577
【氏名又は名称】エムディー ヘルスケア インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MD HEALTHCARE INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ユン-クン
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-073276(JP,A)
【文献】JOURNAL OF BACTERIOLOGY, 1998, Vol.180, No.20, p.5478-5483
【文献】Acta Pharmaceutica Sinica B, 2021, Vol.11, No.8, pp.2114-2135
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00 - 35/768
C12N 1/00 - 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、および炎症性疾患よりなる群から選ばれる1つ以上の疾病の予防または治療用薬学的組成物であって、
モルガネラ・モルガニイ(Morganella morganii)由来小胞を有効成分として含
み、前記炎症性疾患が、インターロイキン-6(IL-6)または腫瘍壊死因子-α(TNF-α)により媒介される疾患である、薬学的組成物。
【請求項2】
前記炎症性疾患は、アトピー皮膚炎、にきび、乾癬、副鼻腔炎、鼻炎、結膜炎、喘息、皮膚炎、炎症性コラーゲン血管疾患、糸球体腎炎、脳炎、炎症性腸炎、慢性閉鎖性肺疾患、敗血症、敗血症性ショック、肺線維症、未分化脊椎関節症、未分化関節症、関節炎、炎症性骨溶解、ウイルスまたはバクテリア感染による慢性炎症疾患、大腸炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、関節炎、関節リウマチ、反応性関節炎、骨関節炎、鞏皮症、骨粗しょう症、アテローム性動脈硬化症、心筋炎、心内膜炎、心嚢炎、嚢胞性線維症、橋本甲状腺炎、グレーブス病、ハンセン病、梅毒、ライム病(Lyme disease)、ボレリア症(Borreliosis)、神経性ボレリア症、結核、サルコイドーシス(Sarcoidosis)、ループス、凍瘡状ループス、結核性ループス、ループス腎炎、全身性エリテマトーデス、黄斑変性、ブドウ膜炎、過敏性腸症候群、クローン病、シェーグレン症候群、線維筋痛、慢性疲労症候群、慢性疲労免疫不全症候群、筋痛性脳脊髄炎、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、および多発性硬化症よりなる群から選ばれる1つ以上である
、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記小胞は、平均直径が10~200nmである
、請求項
1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記小胞は、
モルガネラ・モルガニイ(Morganella morganii)から自然的または人工的に分泌される
、請求項
1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、および炎症性疾患よりなる群から選ばれる1つ以上の疾病の予防または改善用食品組成物であって、
モルガネラ・モルガニイ(Morganella morganii)由来小胞を有効成分として含
み、前記炎症性疾患が、インターロイキン-6(IL-6)または腫瘍壊死因子-α(TNF-α)により媒介される疾患である、食品組成物。
【請求項6】
前記炎症性疾患は、アトピー皮膚炎、にきび、乾癬、副鼻腔炎、鼻炎、結膜炎、喘息、皮膚炎、炎症性コラーゲン血管疾患、糸球体腎炎、脳炎、炎症性腸炎、慢性閉鎖性肺疾患、敗血症、敗血症性ショック、肺線維症、未分化脊椎関節症、未分化関節症、関節炎、炎症性骨溶解、ウイルスまたはバクテリア感染による慢性炎症疾患、大腸炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、関節炎、関節リウマチ、反応性関節炎、骨関節炎、鞏皮症、骨粗しょう症、アテローム性動脈硬化症、心筋炎、心内膜炎、心嚢炎、嚢胞性線維症、橋本甲状腺炎、グレーブス病、ハンセン病、梅毒、ライム病(Lyme disease)、ボレリア症(Borreliosis)、神経性ボレリア症、結核、サルコイドーシス(Sarcoidosis)、ループス、凍瘡状ループス、結核性ループス、ループス腎炎、全身性エリテマトーデス、黄斑変性、ブドウ膜炎、過敏性腸症候群、クローン病、シェーグレン症候群、線維筋痛、慢性疲労症候群、慢性疲労免疫不全症候群、筋痛性脳脊髄炎、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、および多発性硬化症よりなる群から選ばれる1つ以上である
、請求項
5に記載の食品組成物。
【請求項7】
前記小胞は、平均直径が10~200nmである
、請求項
5に記載の食品組成物。
【請求項8】
前記小胞は、
モルガネラ・モルガニイ(Morganella morganii)から自然的または人工的に分泌される
、請求項
5に記載の食品組成物。
【請求項9】
モルガネラ・モルガニイ(Morganella morganii)由来小胞の、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫
、および炎症性疾患よりなる群から選ばれる1つ以上の疾病の予防または治療用薬剤の製造のための使用であって、
前記炎症性疾患が、インターロイキン-6(IL-6)または腫瘍壊死因子-α(TNF-α)により媒介される疾患である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルガネラ属細菌由来ナノ小胞およびその用途に関し、より具体的には、モルガネラ属細菌に由来するナノ小胞を用いた胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌およびリンパ腫などの悪性疾患、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中などの心血管疾患、糖尿病、およびパーキンソン病の診断方法、および前記小胞を含む前記疾患または炎症性疾患に対する予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
21世紀に入って過去伝染病と認識された急性感染性疾患の重要性が低下することになる反面、ヒトとマイクロバイオームとの不調和によって発生する免疫機能の異常を伴った慢性疾患が生活の質と人間の寿命を決める主な疾患になり、疾病のパターンが変わった。21世紀難治性慢性疾患として、癌、心血管疾患、慢性肺疾患、代謝疾患、炎症性疾患、および神経-精神疾患が、人間の寿命と生活の質を決める主な疾患として国民保健に大きい問題になっている。
【0003】
炎症(Inflammation)は、細胞および組織の損傷や感染に対する局所的または全身的な防御機序であって、主に免疫系を成す体液性メディエーター(humoral mediator)が直接反応し、局所的または全身的作動システム(effector system)を刺激することによって起こる連鎖的な生体反応により誘発される。主な炎症性疾患としては、胃炎、炎症性腸炎などの消化器疾患、歯周炎などの口腔疾患、喘息、慢性閉鎖性肺疾患(COPD)、鼻炎などの呼吸器疾患、アトピー皮膚炎、脱毛、乾癬などの皮膚疾患、退行性関節炎、関節リウマチなどのような関節炎;および肥満、糖尿病、肝硬変症などの代謝疾患に含まれる。また、多様な研究を通じて持続的な炎症が癌を誘発することができるという結果が報告されてきた。
【0004】
人体に共生する微生物は、100兆に達し、ヒト細胞より10倍多く、微生物の遺伝子数は、ヒト遺伝子数の100倍を超えると知られている。微生物叢(microbiotaあるいはmicrobiome)は、与えられた棲息地に存在する真正細菌(bacteria)、古細菌(archaea)、真核生物(eukarya)を含む微生物群集(microbial community)を言う。
【0005】
人体に共生する細菌および周辺環境に存在する細菌は、他の細胞への遺伝子、低分子化合物、タンパク質などの情報を交換するために、ナノメートルサイズの小胞(vesicle)を分泌する。粘膜は、200ナノメートル(nm)サイズ以上の粒子は通過できない物理的な防御膜を形成して、粘膜に共生する細菌である場合には、粘膜を通過しないが、細菌由来小胞は、サイズが略100ナノメートルサイズ以下であるので、比較的自由に粘膜を通じて上皮細胞を通過した後に人体に吸収される。局所的に分泌された細菌由来小胞は、粘膜の上皮細胞あるいは皮膚角質細胞を通じて吸収されて、局所炎症反応を誘導すると共に、人体に吸収されて各臓器に分布し、吸収された臓器で免疫および炎症反応を調節する。例えば、大腸菌(Eshcherichia coli)のような病原性グラム陰性細菌に由来する小胞は、血管に吸収された場合に、血管内皮細胞の炎症反応を通じて全身的な炎症反応および血液凝固を促進させ、また、インスリンが作用する筋肉細胞などに吸収されて、インスリン抵抗性と糖尿病を誘発する。反面、有益な細菌に由来する小胞は、病原性小胞による免疫機能および代謝機能の異常を調節して疾病を調節することができる(Choi YW et al.,Gut microbe-derived extracellular vesicles induce insulin resistance,thereby impairing glucose metabolism in skeletal muscle.Scientific Reports,2015.)。
【0006】
細菌に由来する小胞などの因子に対する免疫反応は、IL-17サイトカインの分泌を特徴とするTh17免疫反応であって、これは、細菌由来小胞に曝露時にIL-6が分泌され、これは、Th17免疫反応を誘導する。Th17免疫反応による炎症は、好中球の浸潤を特徴とし、炎症が発生する過程でマクロファージなどのような炎症細胞で分泌されるTNF-alphaが重要な役割を担当する。
【0007】
モルガネラ属細菌は、嫌気性グラム陰性細菌であって、人間と動物の腸に共生する細菌と知られている。前記細菌のうちモルガネラ・モルガニイ(Morganella morganii)菌は、手術後に感染または尿道感染などを起こす病原性細菌と知られている。しかしながら、現在まで、モルガネラ属細菌が細胞外に小胞を分泌するという事実は報告されておらず、特に癌、心血管疾患、代謝疾患、炎症性疾患、および神経-精神疾患の診断および治療に応用した事例は報告されたことがない。
【0008】
これより、本発明では、モルガネラ属細菌由来小胞が正常ヒトに比べて癌、心血管疾患、代謝疾患、炎症性疾患、および神経-精神疾患の患者の臨床サンプルに有意に減少していることを確認して、疾病を診断することができることを確認した。また、モルガネラ・モルガニイ菌から小胞を分離し、特性を分析した結果、悪性疾患、心血管疾患、代謝疾患、炎症性疾患、および神経-精神疾患の予防または治療用組成物に用いられることを確認した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、前記のような従来の問題点を解決するために鋭意研究した結果、メタゲノム分析を通して正常ヒトに比べて胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌およびリンパ腫などの悪性疾患、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中などの心血管疾患、糖尿病、およびパーキンソン病などの患者臨床サンプルでモルガネラ属細菌由来小胞の含量が有意に減少していることを確認した。また、モルガネラ属細菌に属するモルガネラ・モルガニイ菌から小胞を分離してマクロファージに処理したとき、病原性小胞によるTNF-alphaの分泌を顕著に抑制することを確認し、これに基づいて本発明を完成した。
【0010】
これより、本発明は、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、またはパーキンソン病の診断のための情報提供方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、モルガネラ由来小胞を有効成分として含む胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、パーキンソン病、または炎症性疾患の予防または治療用組成物を提供することを他の目的とする。
【0012】
しかしながら、本発明が解決しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、下記の記載から当業者に明確に理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、下記の段階を含む、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、またはパーキンソン病の診断のための情報提供方法を提供する:
(a)正常ヒトおよび被検者のサンプルから分離した小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNAに存在する遺伝子配列に基づいて作製したプライマーペアを用いてPCRを行って、それぞれのPCR産物を収得する段階;および
(c)前記PCR産物の定量分析を通して正常ヒトに比べてモルガネラ属細菌由来小胞の含量が低い場合、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、またはパーキンソン病と判定する段階。
【0014】
また、本発明は、下記の段階を含む、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、またはパーキンソン病の診断方法を提供する:
(a)正常ヒトおよび被検者のサンプルから分離した小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNAに存在する遺伝子配列に基づいて作製したプライマーペアを用いてPCRを行って、それぞれのPCR産物を収得する段階;および
(c)前記PCR産物の定量分析を通して正常ヒトに比べてモルガネラ属細菌由来小胞の含量が低い場合、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、またはパーキンソン病と判定する段階。
【0015】
本発明のさらに他の具現例において、前記段階(a)でのサンプルは、血液、尿、または便でありうる。
【0016】
本発明のさらに他の具現例において、前記段階(b)でのプライマーペアは、配列番号1および配列番号2のプライマーでありうる。
【0017】
また、本発明は、モルガネラ属細菌由来小胞を有効成分として含む、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、パーキンソン病、および炎症性疾患よりなる群から選ばれる1つ以上の疾病の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0018】
また、本発明は、モルガネラ属細菌由来小胞を有効成分として含む、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、パーキンソン病、および炎症性疾患よりなる群から選ばれる1つ以上の疾病の予防または改善用食品組成物を提供する。
【0019】
また、本発明は、モルガネラ属細菌由来小胞を有効成分として含む薬学的組成物を個体に投与する段階を含む、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、パーキンソン病、および炎症性疾患よりなる群から選ばれる1つ以上の疾病の予防または治療方法を提供する。
【0020】
また、本発明は、モルガネラ属細菌由来小胞の、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、パーキンソン病、および炎症性疾患よりなる群から選ばれる1つ以上の疾病の予防または治療用途を提供する。
【0021】
本発明の一具現例において、前記炎症性疾患は、アトピー皮膚炎、にきび、乾癬、副鼻腔炎、鼻炎、結膜炎、喘息、皮膚炎、炎症性コラーゲン血管疾患、糸球体腎炎、脳炎、炎症性腸炎、慢性閉鎖性肺疾患、敗血症、敗血症性ショック、肺線維症、未分化脊椎関節症、未分化関節症、関節炎、炎症性骨溶解、ウイルスまたはバクテリア感染による慢性炎症疾患、大腸炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、関節炎、関節リウマチ、反応性関節炎、骨関節炎、鞏皮症、骨粗しょう症、アテローム性動脈硬化症、心筋炎、心内膜炎、心嚢炎、嚢胞性線維症、橋本甲状腺炎、グレーブス病、ハンセン病、梅毒、ライム病(Lyme disease)、ボレリア症(Borreliosis)、神経性ボレリア症、結核、サルコイドーシス(Sarcoidosis)、ループス、凍瘡状ループス、結核性ループス、ループス腎炎、全身性エリテマトーデス、黄斑変性、ブドウ膜炎、過敏性腸症候群、クローン病、シェーグレン症候群、線維筋痛、慢性疲労症候群、慢性疲労免疫不全症候群、筋痛性脳脊髄炎、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、および多発性硬化症よりなる群から選ばれる1つ以上でありうる。
【0022】
本発明の他の具現例において、前記炎症性疾患は、IL-6またはTNF-αにより媒介される疾患でありうる。
【0023】
本発明のさらに他の具現例において、前記小胞は、平均直径が10~200nmのものでありうる。
【0024】
本発明のさらに他の具現例において、前記小胞は、モルガネラ属細菌から自然的にまたは人工的に分泌されるものでありうる。
【0025】
本発明のさらに他の具現例において、前記モルガネラ属細菌由来小胞は、モルガネラ・モルガニイから分泌されるものでありうる。
【発明の効果】
【0026】
本発明者らは、腸内細菌である場合には、体内に吸収されないが、細菌由来小胞である場合には、上皮細胞を通じて体内に吸収されて、全身的に分布し、腎臓、肝臓、肺を通じて体外に排泄されることを確認し、患者の血液、尿、または便などに存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を通して胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、およびパーキンソン病の患者の血液、尿、または便に存在するモルガネラ属細菌由来小胞が正常ヒトに比べて有意に減少していることを確認した。また、モルガネラ属細菌の一種であるモルガネラ・モルガニイを体外で培養して小胞を分離して、体外で炎症細胞に投与したとき、病原性小胞による炎症メディエーターの分泌を有意に抑制すると同時に、癌動物モデルで癌の発生を抑制することを観察したところ、本発明によるモルガネラ属細菌由来小胞は、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、およびパーキンソン病に対する診断方法、および前記疾患または炎症性疾患に対する食品または薬物などの予防用あるいは治療用組成物に有用に用いられるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1a-b】
図1aは、マウスに細菌と細菌由来小胞(EV)を口腔で投与した後、時間別に細菌と小胞の分布様相を撮影した写真であり、
図1bは、口腔で投与した後12時間目に、血液、腎臓、肝臓、および様々な臓器を摘出して、細菌と小胞の体内分布様相を評価した結果である。
【
図2b-c】
図2a~
図2cは、胃癌患者および正常ヒトの便(
図2a)、血液(
図2b)、および尿(
図2c)に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図3】
図3は、大腸癌患者および正常ヒトの尿に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図4】
図4は、すい臓癌患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図5】
図5は、胆管癌患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図6】
図6は、乳癌患者および正常ヒト尿に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図7a-b】
図7aおよび
図7bは、卵巣癌患者および正常ヒトの血液(
図7a)および尿(
図7b)に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図8a-b】
図8aおよび
図8bは、膀胱癌患者および正常ヒトの血液(
図8a)および尿(
図8b)に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図9】
図9は、前立腺癌患者および正常ヒトの尿に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図10】
図10は、リンパ腫患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図11】
図11は、心筋梗塞患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図12】
図12は、心筋症患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図13】
図13は、心房細動患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図14】
図14は、異型狭心症患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図15】
図15は、脳卒中患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図16a-b】
図16aおよび
図16bは、糖尿病患者および正常ヒトの血液(
図16a)および尿(
図16b)に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図17】
図17は、パーキンソン病患者および正常ヒトの尿に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図18】
図18は、モルガネラ・モルガニイ由来小胞の細胞死滅効果を評価するために、モルガネラ・モルガニイ由来小胞をマクロファージに処理して、モルガネラ・モルガニイ由来小胞の細胞死滅効果を評価した結果である。
【
図19a-b】
図19aおよび
図19bは、モルガネラ・モルガニイ由来小胞の抗炎症効果を評価するために、病原性小胞である大腸菌小胞(E.coli EV)の処理前にモルガネラ・モルガニイ由来小胞を前処理して、大腸菌小胞による炎症メディエーターであるIL-6(
図19a)およびTNF-α(
図19b)の分泌に及ぼす影響を評価した結果である。
【
図20】
図20は、モルガネラ・モルガニイ由来小胞の抗炎症効果に対する互いに異なる菌株に由来した小胞の影響を比較するために、病原性小胞である大腸菌小胞(E.coli EV)の処理前に互いに異なるヒトから分離したモルガネラ・モルガニイ(MMR101、MMR201)由来小胞を前処理して、大腸菌小胞によるTNF-αの分泌に及ぼす影響を評価した結果である(NC:negative control;PC:positive control;L.plantarum:Lactobacillus plantarum)。
【
図21】
図21は、モルガネラ・モルガニイ由来小胞の抗炎症効果に対する熱処理または酸処理の影響を評価するために、病原性小胞である大腸菌小胞(E.coli EV)の処理前に熱処理または酸処理したモルガネラ・モルガニイ(MMR101,MMR201)由来小胞を前処理して、大腸菌小胞によるTNF-αの分泌に及ぼす影響を評価した結果である(NC:negative control;PC:positive control;L.plantarum:Lactobacillus plantarum)。
【
図22】
図22は、モルガネラ・モルガニイ由来小胞の抗癌効能を評価するために、モルガネラ・モルガニイ由来小胞をマウスに投与したプロトコルである。
【
図23】
図23は、モルガネラ・モルガニイ由来小胞の抗癌効能を評価するために、モルガネラ・モルガニイ小胞を腹腔(IP)または経口(PO)で投与して、癌細胞による腫瘍発生に及ぼす影響を評価した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、モルガネラ属細菌由来小胞およびその用途に関する。
【0029】
本発明者らは、メタゲノム分析を通して正常ヒトに比べて胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、およびパーキンソン病の患者由来サンプルでモルガネラ属細菌由来小胞の含量が顕著に減少していることを確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0030】
これより、本発明は、下記の段階を含む、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、またはパーキンソン病の診断のための情報提供方法を提供する。
(a)正常ヒトおよび被検者のサンプルから分離した小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNAに存在する遺伝子配列に基づいて作製したプライマーペアを用いてPCRを行って、それぞれのPCR産物を収得する段階;および
(c)前記PCR産物の定量分析を通して正常ヒトに比べてモルガネラ属細菌由来小胞の含量が低い場合、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、またはパーキンソン病と判定する段階。
【0031】
本発明において使用される用語「診断」とは、広い意味では患者の病の実態をすべての面にわたって判断することを意味する。判断の内容は、病名、病因、病型、軽重、病床の詳細な様態、合併症の有無、および予後などである。本発明において診断は、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、およびパーキンソン病の発病の有無および疾患の水準などを判断することである。
【0032】
本発明において使用される用語「ナノ小胞(Nanovesicle)あるいは小胞(Vesicle)」とは、多様な細菌から分泌されるナノサイズの膜からなる構造物を意味する。グラム陰性菌(gram-negative bacteria)由来小胞、または外膜小胞(outer membrane vesicles,OMVs)は、内毒素(lipopolysaccharide)だけでなく、毒性タンパク質および細菌DNAとRNAも有しており、グラム陽性菌(gram-positive bacteria)由来小胞は、タンパク質と核酸の他にも、細菌の細胞壁構成成分であるペプチドグリカン(peptidoglycan)とリポタイコ酸(lipoteichoic acid)も有している。本発明において、ナノ小胞あるいは小胞は、モルガネラ属細菌から自然的に分泌されたり、または人工的に生産されるものであって、球形の形態であり、10~200nmの平均直径を有している。
【0033】
前記小胞は、モルガネラ属細菌を含む培養液を遠心分離、超高速遠心分離、高圧処理、押出、超音波分解、細胞溶解、均質化、冷凍-解凍、電気穿孔、機械的分解、化学物質処理、フィルターによる濾過、ゲル濾過クロマトグラフィー、フリーフロー電気泳動、およびキャピラリー電気泳動よりなる群から選ばれる1つ以上の方法を使用して分離することができる。また、不純物の除去のための洗浄、収得された小胞の濃縮などの過程をさらに含むことができる。
【0034】
本発明において使用される用語「メタゲノム(metagenome)」とは、「群 遺伝子」とも言い、土、動物の腸など孤立した地域内のすべてのウイルス、細菌、かびなどを含む遺伝子の総和を意味するものであって、主に培養にならない微生物を分析するために、配列分析器を使用して一度に多くの微生物を同定することを説明するゲノムの概念に使用される。特に、メタゲノムは、一種のゲノムまたは遺伝子を言うものではなく、1つの環境単位のすべての種の遺伝子であって、一種の混合遺伝子を言う。これは、オミックス的に生物学が発展する過程で一種を定義するとき、機能的に既存の一種だけでなく、多様な種が互いに相互作用して完全な種を作るという観点から出た用語である。技術的には、速い配列分析法を利用して、種に関係なく、すべてのDNA、RNAを分析して、1つの環境内でのすべての種を同定し、相互作用、代謝作用を解明する技法の対象である。
【0035】
本発明において、前記段階(a)でのサンプルは、血液、尿、または便でありうるが、これに制限されるものではない。
【0036】
本発明において、前記段階(b)でのプライマーペアは、配列番号1および配列番号2のプライマーでありうる。
【0037】
本発明の他の様態として、本発明は、モルガネラ属細菌由来小胞を有効成分として含む、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、パーキンソン病、および炎症性疾患よりなる群から選ばれる1つ以上の疾病の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0038】
本発明のさらに他の様態として、本発明は、モルガネラ属細菌由来小胞を有効成分として含む、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、パーキンソン病、および炎症性疾患よりなる群から選ばれる1つ以上の疾病の予防または改善用食品組成物を提供する。
【0039】
本発明において、前記炎症性疾患は、アトピー皮膚炎、にきび、乾癬、副鼻腔炎、鼻炎、結膜炎、喘息、皮膚炎、炎症性コラーゲン血管疾患、糸球体腎炎、脳炎、炎症性腸炎、慢性閉鎖性肺疾患、敗血症、敗血症性ショック、肺線維症、未分化脊椎関節症、未分化関節症、関節炎、炎症性骨溶解、ウイルスまたはバクテリア感染による慢性炎症疾患、大腸炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、関節炎、関節リウマチ、反応性関節炎、骨関節炎、鞏皮症、骨粗しょう症、アテローム性動脈硬化症、心筋炎、心内膜炎、心嚢炎、嚢胞性線維症、橋本甲状腺炎、グレーブス病、ハンセン病、梅毒、ライム病(Lyme disease)、ボレリア症(Borreliosis)、神経性ボレリア症、結核、サルコイドーシス(Sarcoidosis)、ループス、凍瘡状ループス、結核性ループス、ループス腎炎、全身性エリテマトーデス、黄斑変性、ブドウ膜炎、過敏性腸症候群、クローン病、シェーグレン症候群、線維筋痛、慢性疲労症候群、慢性疲労免疫不全症候群、筋痛性脳脊髄炎、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、および多発性硬化症よりなる群から選ばれる1つ以上でありうるが、これに制限されない。
【0040】
本発明において、前記炎症性疾患は、インターロイキン-6(Interleukin-6;IL-6)または腫瘍壊死因子-アルファ(Tumor necrosis factor-alpha;TNF-α)により媒介される疾患でありうるが、これに制限されない。
【0041】
本発明において使用される用語「予防」とは、本発明による食品または薬学的組成物の投与により癌、炎症疾患、心血管疾患、代謝疾患、または神経-精神疾患を抑制させたり発病を遅延させるすべての行為を意味する。
【0042】
本発明において使用される用語「治療」とは、本発明による薬学的組成物の投与により癌、炎症疾患、心血管疾患、代謝疾患、または神経-精神疾患に対する症状が好転したり有利に変更されるすべての行為を意味する。
【0043】
本発明において使用される用語「改善」とは、治療される状態と関連したパラメーター、例えば症状の程度を少なくとも減少させるすべての行為を意味する。
【0044】
本発明の一実施例では、細菌および細菌由来小胞をマウスの経口で投与して細菌および小胞の体内吸収、分布、および排泄様相を評価し、細菌である場合には、腸粘膜を通じて吸収されないのに対して、小胞は、投与5分以内に吸収されて全身的に分布し、腎臓、肝臓などを通じて排泄されることを確認した(実施例1参照)。
【0045】
本発明の他の一実施例では、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、およびパーキンソン病の患者に年齢と性別をマッチングした正常ヒトの血液、尿、または便から分離した小胞を用いて細菌メタゲノム分析を実施した。その結果、正常ヒトのサンプルに比べて、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、およびパーキンソン病の患者のサンプルにモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(実施例3~15参照)。
【0046】
本発明のさらに他の実施例では、炎症細胞でモルガネラ・モルガニイ由来小胞(M.morganii EV)の細胞死滅効果を評価するために、マウスマクロファージ細胞株であるRaw 264.7細胞にモルガネラ・モルガニイ(MMR101、MMR201、MMR202)由来小胞を多様な濃度(0.1、1、10μg/ml)で処理した後、細胞死滅程度を評価した結果、モルガネラ・モルガニイ(MMR101、MMR201、MMR202)由来小胞の処理時に細胞死滅は観察されないことを確認した(実施例17参照)。
【0047】
本発明のさらに他の実施例では、前記実施例の結果に基づいてモルガネラ属細菌に属するモルガネラ・モルガニイ種細菌由来小胞の特性を分析するためにさらに研究した結果、モルガネラ・モルガニイ菌株を培養してこれから分泌された小胞が抗炎症効果を示すかを評価したが、多様な濃度のモルガネラ・モルガニイ由来小胞をマクロファージに処理した後、炎症疾患の原因因子である大腸菌由来小胞を処理して炎症メディエーターの分泌を評価した結果、大腸菌由来小胞によるIL-6およびTNF-αの分泌をモルガネラ・モルガニイ由来小胞が効率的に抑制することを確認した(実施例18参照)。
【0048】
本発明のさらに他の実施例では、モルガネラ・モルガニイ由来小胞の抗炎症作用が熱処理または酸処理の効果を評価するために、マクロファージに大腸菌由来小胞を処理する前に熱処理または酸処理した小胞を投与してTNF-αの分泌に及ぼす影響を評価した結果、モルガネラ・モルガニイ由来小胞によるTNF-αの分泌抑制効果が熱処理や酸処理により変わらないことを確認した(実施例19参照)。
【0049】
本発明のさらに他の実施例では、モルガネラ・モルガニイ菌株を培養してこれから分泌された小胞が抗癌治療効果を示すかを評価した。このために、癌細胞株を皮下で注射して癌モデルを作成し、モルガネラ・モルガニイ由来小胞を癌細胞株の処置4日前からマウスに経口または腹腔で投与した後、20日間癌組織の大きさを測定した結果、前記小胞を腹腔および経口で投与した場合に、対照群に比べて癌組織の大きさが減少し、特に経口で投与した場合に顕著に減少していることを確認した(実施例20参照)。
【0050】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。前記薬学的に許容可能な担体は、製剤時に通常用いられるものであって、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、シクロデキストリン、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、リポソームなどを含むが、これに限定されず、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液など他の通常の添加剤をさらに含むことができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤などを付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒、または錠剤に製剤化することができる。適切な薬学的に許容される担体および製剤化に関しては、レミントンの文献に開示されている方法を用いて各成分によって好適に製剤化することができる。本発明の薬学的組成物は、剤形に特別な制限はないが、注射剤、吸入剤、皮膚外用剤、または経口摂取剤などに製剤化することができる。
【0051】
本発明の薬学的組成物は、目的とする方法によって経口投与したり、非経口投与(例えば、静脈内、皮下、皮膚、鼻腔、気道に適用)することができ、投与量は、患者の状態および体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路および時間によって異なるが、当業者により適宜選択され得る。
【0052】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において、薬学的に有効な量は、医学的治療に適用可能な合理的な利益/リスクの割合で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量の水準は、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路および排出比率、治療期間、同時使用される薬物を含む要素およびその他医学分野によく知られた要素によって決定され得る。本発明による組成物は、個別治療剤として投与したり他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤とは順次または同時に投与され得、単一または多重投与され得る。上記した要素を全部考慮して副作用なしに最小の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは、当業者によって容易に決定され得る。
【0053】
具体的に、本発明による薬学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、体重によって変わり得、一般的には、体重1kg当たり0.001~150mg、好ましくは0.01~100mgを毎日または隔日投与したり、1日1~3回に分けて投与することができる。しかしながら、投与経路、肥満の重症度、性別、体重、年齢などによって増減され得るので、前記投与量がいかなる意味でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0054】
本発明の食品組成物は、健康機能食品組成物を含む。本発明による食品組成物は、有効成分を食品にそのまま添加したり他の食品または食品成分と共に使用され得、通常の方法によって適切に使用され得る。有効成分の混合量は、その使用目的(予防または改善用)によって適宜決定され得る。一般的に、食品または飲料の製造時に、本発明の組成物は、原料に対して15重量%以下、好ましくは10重量%以下の量で添加される。しかしながら、健康および衛生を目的としたりまたは健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、前記量は、前記範囲以下でありうる。
【0055】
本発明の食品組成物は、指示された割合で必須成分として前記有効成分を含有すること他に、他の成分には特別な制限がなく、通常の飲料のように様々な香味剤または天然炭水化物などをさらなる成分として含有することができる。上述した天然炭水化物の例は、単糖類、例えば、ブドウ糖、果糖など;二糖類、例えばマルトース、スクロースなど;および多糖類、例えばデキストリン、シクロデキストリンなどのような通常の糖、およびキシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールである。上述したもの以外の香味剤として天然香味剤(ソーマチン、ステビア抽出物(例えばレバウジオシドA、グリシルリジンなど)および合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を有利に使用することができる。前記天然炭水化物の比率は、当業者の選択によって適切に決定され得る。
【0056】
前記の他に本発明の食品組成物は、様々な栄養剤、ビタミン、ミネラル(電解質)、合成風味剤および天然風味剤などの風味剤、着色剤および充填剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸およびその塩、アルギン酸およびその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含有することができる。このような成分は、独立して、または組み合わせて使用することができる。このような添加剤の比率も、当業者によって適宜選択され得る。
【0057】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をさらに容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例によって本発明の内容が制限されるものではない。
【実施例】
【0058】
[実施例1.腸内細菌および細菌由来小胞の体内吸収、分布、および排泄様相の分析]
腸内細菌と細菌由来小胞が胃腸管を通じて全身的に吸収されるかを評価するために、次のような方法で実験を行った。マウスの胃腸に蛍光で標識した腸内細菌と腸内細菌由来小胞をそれぞれ50μgの用量で胃腸管に投与し、0分、5分、3時間、6時間、12時間後に蛍光を測定した。マウス全体像を観察した結果、
図1aに示されたように、細菌である場合には、腸粘膜を通じて全身的に吸収されないが、細菌由来小胞である場合には、投与後5分に全身的に吸収され、投与30分には、膀胱に蛍光が濃く観察されて、小胞が泌尿器系に排泄されることが分かった。また、小胞は、投与12時間まで体内に存在することが分かった(
図1a参照)。
【0059】
腸内細菌と腸内細菌由来小胞が全身的に吸収された後、様々な臓器に浸潤された様相を評価するために、蛍光で標識した50μgの細菌と細菌由来小胞を前記の方法のように投与した後、投与12時間後に血液、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、脂肪、筋肉を採取した。採取した組織から蛍光を観察した結果、
図1bに示されたように、細菌由来小胞が、血液、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、脂肪、筋肉、腎臓に分布したが、細菌は吸収されないことが分かった(
図1b参照)。
【0060】
[実施例2.臨床サンプルで細菌由来小胞メタゲノム分析]
血液、尿、便などの臨床サンプルをまず10mlチューブに入れて遠心分離法(3,500xg、10min、4℃)で浮遊物を沈め、上澄み液だけを新しい10mlチューブに移した。0.22μmのフィルターを使用して細菌および異物を除去した後、セントリプレップチューブ(Centriprep centrifugal filters 50kD)に移して1500×g、4℃で15分間遠心分離して、50kDより小さい物質は捨てて、10mlまで濃縮させた。さらに0.22μmのフィルターを使用してバクテリアおよび異物を除去した後、Type 90tiローターで150,000×g、4℃で3時間の間超高速遠心分離方法を使用して上澄み液を捨てて、固まったペレットを生理食塩水(PBS)で溶かした。
【0061】
前記方法で分離した小胞100μlを100℃で沸かして内部のDNAを脂質外に出るようにし、その後、氷上で5分間冷ました。そして、残った浮遊物を除去するために、10,000×g、4℃で30分間遠心分離し、上澄み液だけを集めた。そして、Nanodropを用いてDNA量を定量した。その後、前記抽出されたDNAに細菌由来DNAが存在するかを確認するために、下記表1に示した16s rDNA primerでPCRを行って、前記抽出された遺伝子に細菌由来遺伝子が存在することを確認した。
【0062】
【0063】
前記方法で抽出したDNAを前記の16S rDNAプライマーを使用して増幅した後、シーケンシングを行い(Illumina MiSeq sequencer)、その結果をStandard Flowgram Format(SFF)ファイルで出力してGS FLX software(v2.9)を利用してSFFファイルをsequenceファイル(.fasta)とnucleotide quality scoreファイルに変換した後、リードの信用度評価を確認し、window(20bps)平均base call accuracyが99%未満(Phred score<20)である部分を除去した。Operational Taxonomy Unit(OTU)分析のためには、UCLUSTとUSEARCHを利用してシークエンス類似度によってクラスタリングを行い、genusは94%、familyは90%、orderは85%、classは80%、phylumは75%シークエンス類似度を基準としてクラスタリングを行い、各OTUのphylum、class、order、family、genusレベルの分類を行い、BLASTNとGreenGenesの16S RNAシークエンスデータベース(108,453シークエンス)を用いて属水準で97%以上のシークエンス類似度を有する細菌をプロファイリングした(QIIME)。
【0064】
[実施例3.胃癌患者の便、血液および尿細菌由来小胞メタゲノム分析]
実施例2の方法で胃癌患者63人および、年齢と性別をマッチングした正常ヒト126人の便を対象に、便内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの便に比べて胃癌患者の便にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表2および
図2a参照)。
【0065】
【0066】
実施例2の方法で胃癌患者66人および、年齢と性別をマッチングした正常ヒト198人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて胃癌患者の血液にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表3および
図2b参照)。
【0067】
【0068】
また、実施例2の方法で胃癌患者61人の尿および、性別と年齢をマッチングした正常対照群120人の尿を対象に、尿内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの尿に比べて胃癌患者の尿にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表4および
図2c参照)。
【0069】
【0070】
[実施例4.大腸癌患者の尿細菌由来小胞メタゲノム分析]
実施例2の方法で大腸癌患者38人および、年齢と性別をマッチングした正常ヒト38人の尿を対象に、尿内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの尿に比べて大腸癌患者の尿にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表5および
図3参照)。
【0071】
【0072】
[実施例5.すい臓癌患者の血液細菌由来小胞メタゲノム分析]
実施例2の方法ですい臓癌患者176人および、年齢と性別をマッチングした正常ヒト271人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べてすい臓癌患者の血液にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表6および
図4参照)。
【0073】
【0074】
[実施例6.胆管癌患者の血液細菌由来小胞メタゲノム分析]
実施例2の方法で胆管癌患者79人および、年齢と性別をマッチングした正常ヒト259人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて胆管癌患者の血液にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表7および
図5参照)。
【0075】
【0076】
[実施例7.乳癌患者の尿細菌由来小胞メタゲノム分析]
実施例2の方法で乳癌患者127人の尿および、性別と年齢をマッチングした正常対照群220人の尿を対象に、尿内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの尿に比べて乳癌患者の尿にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表8および
図6参照)。
【0077】
【0078】
[実施例8.卵巣癌患者の血液および尿細菌由来小胞メタゲノム分析]
実施例2の方法で卵巣癌患者137人および、年齢と性別をマッチングした正常ヒト139人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて卵巣癌患者の血液にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表9および
図7a参照)。
【0079】
【0080】
また、実施例2の方法で卵巣癌患者136人の尿および、性別と年齢をマッチングした正常対照群136人の尿を対象に、尿内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの尿に比べて卵巣癌患者の尿にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表10および
図7b参照)。
【0081】
【0082】
[実施例9.膀胱癌患者の血液および尿細菌由来小胞メタゲノム分析]
実施例2の方法で膀胱癌患者96人の血液および、性別と年齢をマッチングした正常対照群184人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて膀胱癌患者の血液にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表11および
図8a参照)。
【0083】
【0084】
また、実施例2の方法で膀胱癌患者95人の尿および、性別と年齢をマッチングした正常対照群157人の尿を対象に、尿内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの尿に比べて膀胱癌患者の尿にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表12および
図8b参照)。
【0085】
【0086】
[実施例10.前立腺癌患者の尿細菌由来小胞メタゲノム分析]
実施例2の方法で前立腺癌患者53人の尿および、性別と年齢をマッチングした正常対照群159人の尿を対象に、尿内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの尿に比べて前立腺癌患者の尿にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表13および
図9参照)。
【0087】
【0088】
[実施例11.リンパ腫患者の血液細菌由来小胞メタゲノム分析]
実施例2の方法でリンパ腫患者63人および、年齢と性別をマッチングした正常ヒト53人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べてリンパ腫患者の血液にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表14および
図10参照)。
【0089】
【0090】
[実施例12.心臓疾患患者の血液細菌由来小胞メタゲノム分析]
実施例2の方法で心筋梗塞患者57人の血液および、性別と年齢をマッチングした正常対照群163人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて心筋梗塞患者の血液にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表15および
図11参照)。
【0091】
【0092】
また、実施例2の方法で拡張性心筋症患者72人の血液および、性別と年齢をマッチングした正常対照群163人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて拡張性心筋症患者の血液にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表16および
図12参照)。
【0093】
【0094】
また、実施例2の方法で心房細動患者32人の血液と性別と年齢をマッチングした正常対照群32人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて心房細動患者の血液にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表17および
図13参照)。
【0095】
【0096】
また、実施例2の方法で異型狭心症患者80人および、年齢と性別をマッチングした正常ヒト80人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて異型狭心症患者の血液にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表18および
図14参照)。
【0097】
【0098】
[実施例13.脳卒中患者の血液細菌由来小胞メタゲノム分析]
実施例2の方法で脳卒中患者115人および、年齢と性別をマッチングした正常ヒト109人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて脳卒中患者の血液にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表19および
図15参照)。
【0099】
【0100】
[実施例14.糖尿病患者の血液細菌由来小胞メタゲノム分析]
実施例2の方法で糖尿病患者73人の血液および、性別と年齢をマッチングした正常対照群146人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて糖尿病患者の血液にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表20および
図16a参照)。
【0101】
【0102】
また、実施例2の方法で糖尿病患者60人および、年齢と性別をマッチングした正常ヒト134人の尿を対象に、尿内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの尿に比べて糖尿病患者の尿にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表21および
図16b参照)。
【0103】
【0104】
[実施例15.パーキンソン病患者の尿細菌由来小胞メタゲノム分析]
実施例2の方法でパーキンソン病患者39人の尿および、性別と年齢をマッチングした正常対照群79人の尿を対象に、尿内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、モルガネラ属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの尿に比べてパーキンソン病患者の尿にモルガネラ属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(表22および
図17参照)。
【0105】
【0106】
[実施例16.モルガネラ・モルガニイ培養液から小胞分離]
前記実施例に基づいて、モルガネラ・モルガニイ(M.morganii)菌株は、韓国微生物保存センター(KCCM)で標準菌株1種(MMR101)およびヒトから分離した2種の分離菌株(MMR201、MMR202)を培養した後、培養液から小胞を分離して特性を分析した。モルガネラ菌株(M.morganii)を37℃培養器で吸光度(OD600)が1.0~1.5になるまでLB(Luria-Bertani)培地で培養した後、サブカルチャーした。以後、菌株が含まれている培養液を回収して10,000g、4℃で20分間遠心分離して菌株を除去し、0.22μmのフィルターに濾過した。濾過した上澄み液を100kDa Pellicon 2 Cassetteフィルターメンブレイン(Merck Millipore,US)でMasterFlex pump system(Cole-Parmer,US)を用いてマイクロフィルター濾過を通じて50ml以下の体積に濃縮した。濃縮させた上澄み液をさらに0.22μmのフィルターで濾過した。以後、BCAアッセイを用いてタンパク質を定量し、得られた小胞に対して下記実験を実施した。
【0107】
[実施例17.モルガネラ・モルガニイ由来小胞の細胞死滅効果]
炎症細胞でモルガネラ・モルガニイ由来小胞(M.morganii EV)の細胞死滅効果を評価するために、マウスマクロファージ細胞株であるRaw 264.7細胞にモルガネラ・モルガニイ(MMR101、MMR201、MMR202)由来小胞を多様な濃度(0.1、1、10μg/ml)で処理した後、細胞死滅程度を評価した。より具体的に、48ウェル細胞培養プレート内に5×10
4個ずつ分注したRaw 264.7細胞にDMEM無血清培地で希釈した多様な濃度のモルガネラ・モルガニイ(MMR101、MMR201、MMR202)由来小胞を処理して12時間の間培養した。以後、細胞死滅は、EZ-CYTOX(Dogen,Korea)を用いて測定した。その結果、モルガネラ・モルガニイ(MMR101、MMR201、MMR202)由来小胞の処理時に細胞死滅は観察されなかった(
図18参照)。
【0108】
[実施例18.モルガネラ・モルガニイ由来小胞の抗炎症効果]
モルガネラ・モルガニイ由来小胞が、炎症細胞で炎症メディエーターの分泌に対する影響を調べてみるために、マウスマクロファージ細胞株であるRaw 264.7細胞にモルガネラ・モルガニイ(MMR101)由来小胞を多様な濃度(0.1、1、10μg/ml)で処理した後、炎症疾患病原性小胞である大腸菌由来小胞(E.coli EV)を処理して炎症メディエーター(IL-6、TNF-αなど)の分泌量を測定した。より具体的に、Raw 264.7細胞を1x10
5個ずつ24ウェル細胞培養プレートに分注した後、24時間の間DMEM完全培地で培養させた。以後、培養上澄み液を1.5mlのチューブに集めて3000gで5分間遠心分離して上澄み液を集めて4℃に保管しておいて、ELISA分析を進めた。その結果、モルガネラ・モルガニイ由来小胞を前処理した場合、大腸菌由来小胞によるIL-6およびTNF-αの分泌が顕著に抑制されることを確認した(
図19aおよび19b参照)。特に、モルガネラ・モルガニイ由来小胞を前処理した場合に、マクロファージでTNF-αの分泌がラクトバチルスプランタルム小胞に比べて抑制程度が顕著に高かった(
図19b参照)。
【0109】
また、多様なサンプルから分離したモルガネラ・モルガニイ菌株から分離した小胞の抗炎症効果を評価するために、多様な濃度(0.1、1、10μg/ml)のモルガネラ・モルガニイ(MMR101、MMR201、MMR202)由来小胞をマウスマクロファージ細胞株に12時間前処理した後、病原性小胞である大腸菌由来小胞1μg/mlを処理し、12時間後に炎症性サイトカインであるTNF-αの分泌をELISAで測定した。その結果、有用微生物対照群であるラクトバチルスプランタルム(Lactobacillus plantarum)由来小胞の前処理によるTNF-αの分泌抑制効果よりモルガネラ・モルガニイ(MMR101、MMR201、MMR202)由来小胞の抑制効果がさらに高いことを確認した(
図20参照)。これは、モルガネラ・モルガニイのソースに関係なくモルガネラ・モルガニイ菌が分泌する小胞が、抗炎症効果があることを意味する。
【0110】
[実施例19.モルガネラ・モルガニイ由来小胞の抗炎症作用に対する熱または酸処理の効果]
前記実施例18を通じてモルガネラ・モルガニイ標準菌株(MMR101)および分離菌株(MMR201)由来小胞の抗炎症効果を確認し、ひいては、前記小胞の安定性および有効物質の特性を具体的に調べてみようとした。このために、100℃で10分間煮沸、又は10分間酸処理(pH2.0)をした2種のモルガネラ・モルガニイ由来小胞(MMR101、MMR201)をマクロファージ(Raw 264.7)に前処理して抗炎症効果を評価した。その結果、小胞を100℃の煮沸処理や、酸処理をしても、モルガネラ・モルガニイ由来小胞の抗炎症効果が維持されることを確認した(
図21参照)。これは、モルガネラ・モルガニイ由来小胞の抗炎症作用は、温度と酸に対して安定であることを意味する。
【0111】
[実施例20.モルガネラ・モルガニイ由来小胞の抗癌効果]
前記実施例に基づいて、ひいては、モルガネラ・モルガニイ由来小胞の抗癌効果を調べてみようとした。このために、
図22に示されたように、モルガネラ・モルガニイ分離菌株(MMR201)由来小胞を6週齢C57BL/6雄性マウスに腹腔注射または経口で投与し、投与4日目に癌細胞株(CT26 cell)を皮下で注射して癌モデルを作成した。癌細胞株を投与した後、モルガネラ・モルガニイ分離菌株由来小胞を腹腔注射または経口で毎日投与し、24日目まで癌組織の大きさを測定した(
図22参照)。その結果、癌組織の大きさは、対照群である生理食塩水経口投与群に比べて、前記小胞を腹腔注射で投与したマウスと経口で投与したマウスにおいて癌組織の大きさが減少し、特に、経口で投与した場合に大きさがさらに減少した(
図23参照)。これは、モルガネラ・モルガニイ由来小胞を投与したとき、癌組織の成長を効率的に抑制することができることを意味する。
【0112】
前記記述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形が可能であることを理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的でないものと理解しなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によるモルガネラ属細菌由来小胞は、胃癌、大腸癌、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、脳卒中、糖尿病、およびパーキンソン病に対する診断方法、および前記疾患または炎症性疾患に対する食品または薬物などの予防用あるいは治療用組成物に有用に用いられるものと期待される。
【配列表】