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特許7264537ヒトサイトメガロウイルス用の併用薬物治療
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  • 特許-ヒトサイトメガロウイルス用の併用薬物治療 図1A
  • 特許-ヒトサイトメガロウイルス用の併用薬物治療 図1B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】ヒトサイトメガロウイルス用の併用薬物治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/522 20060101AFI20230418BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
A61K31/522
A61K31/517
A61P31/22
A61P43/00 121
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021553017
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 US2020022332
(87)【国際公開番号】W WO2020186025
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】62/817,069
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512007155
【氏名又は名称】マイクロバイオティックス, インク.
【氏名又は名称原語表記】MICROBIOTIX, INC.
【住所又は居所原語表記】One Innovation Drive,Worcester, MA 01605 (US).
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フセイン,イスラム
(72)【発明者】
【氏名】ブルックス,ジェニファー,エル.
(72)【発明者】
【氏名】ボーリン,テリー,エル.
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】Antimicrobial Agents and Chemotherapy,2015年,Vol.59, No.6,pp.3140-3148
【文献】Antiviral Research,2018年,Vol.158,pp.255-263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物におけるサイトメガロウイルス感染症を処置又は予防するための薬学的組成物であって、相乗的に治療有効量のフィロシクロビル又は薬学的に許容されるその塩及びレテルモビル又は薬学的に許容されるその塩を含む、薬学的組成物
【請求項2】
前記サイトメガロウイルスがヒトサイトメガロウイルスである、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項3】
前記フィロシクロビル及び前記レテルモビルが同時に投与される、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項4】
前記フィロシクロビル及び前記レテルモビルが順次又は連続して投与される、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項5】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の薬学的組成物
【請求項6】
哺乳動物におけるサイトメガロウイルス感染症を処置又は予防する上で使用するための薬剤を製造する際の、相乗的に治療有効量のフィロシクロビル及びレテルモビルの使用。
【請求項7】
前記哺乳動物がヒトである、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
サイトメガロウイルス感染症を処置又は予防するための、相乗的な治療有効量のフィロシクロビル及びレテルモビルを含む、薬学的組成物
【請求項9】
前記サイトメガロウイルスがヒトサイトメガロウイルスである、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
サイトメガロウイルス感染症を処置又は予防するための、相乗的に治療有効量のフィロシクロビル及びレテルモビルを含む、組み合わせ医薬
【請求項11】
前記サイトメガロウイルスがヒトサイトメガロウイルスである、請求項10に記載の組み合わせ医薬
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトサイトメガロウイルスの併用薬物治療の分野に存在する。特に、本発明は、ヒトサイトメガロウイルスに感染した対象、又はヒトサイトメガロウイルスに感染している危険性がある対象の治療又は予防のために投与される時、薬物であるフィロシクロビル及びレテルモビルの併用が相乗効果を有するという発見に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、β-ヘルペスウイルスによる感染は、地理条件及び社会経済的条件によって50~90%の範囲の血清有病率を有することから、ヒトに非常にありふれている(非特許文献1)。ウイルスは持続感染を確立し、患者は通常無症状のままである。ただし、免疫無防備状態の患者においては、HCMV感染症によって著しい病的状態及び死亡数が生じる(非特許文献2)。最大で75%の固形臓器移植患者が、新規感染症又は移植後に潜在型ウイルスが再活性することのいずれかが原因で、CMV疾患を発症する(非特許文献3)。更には、HCMVは世界的規模で最も一般的な先天性-後天性感染症である(非特許文献4)。HCMVは、小児において難聴、認知機能障害、及びCNS損傷の主要な感染原因である(非特許文献5)。
【0003】
治療用に認可されている抗HCMV薬物は、ウイルスのDNAポリメラーゼを標的とする。ガンシクロビル(GCV)及びその経口プロドラッグであるバルガンシクロビル(VGCV)は、治療及び発症予防用の第1選択薬である。二次療法は、シドフォビル(CDV)及びホスカルネット(FOS)を含む。用量制限毒性、経口バイオアベイラビリティ及び耐性に関する課題により、現在認可されている抗HCMV療法の有用性及び有効性は制限されている(非特許文献6)。最近では、幹細胞移植患者におけるHCMV発症予防を目的として、FDAによりレテルモビル(LMV)が認可された(非特許文献7)。LMVは、ウイルスのターミナーゼ複合体を標的とし、鎖状体であるウイルスDNAが複数の単位長のゲノムへと切断されるのを阻止する(非特許文献8)。
【0004】
マリバビル(MBV)は、第3相発症予防試験において臨床的エンドポイントに合致しなかった別のHCMV阻害薬であるが(非特許文献9)、難治疾患及び抵抗性疾患に関する第2相治験では有効性が見られた(非特許文献10)。
【0005】
フィロシクロビル(FCV)は、メチレンシクロプロパンヌクレオシドアナログであり、これはヒト第1相安全試験を首尾よく完了し(非特許文献11)、現在免疫無防備状態(例えば、移植)の患者におけるHCMV関連疾患の治療に対する第2相ヒト臨床有効性試験に入っている。HCMV感染細胞においては、FCVはウイルスコード化UL97キナーゼによりリン酸化される(非特許文献12)。次いでFCV-一リン酸塩(FCV-MP)は、細胞性キナーゼによりFCV三リン酸塩(FCV-TP)へと変換される(非特許文献13)。FCV-TPは、感染細胞においてGCV-TPよりも高いピークレベルに達し(非特許文献14)、HCMV DNAポリメラーゼUL54に対して約10倍高い親和性を呈する(非特許文献15)。HCMVのいくつかのGCV耐性UL97変異株は、FCVに対して交差耐性を示すものの、臨床上、一般にGCV-CDV交差耐性に関連するエクソヌクレアーゼ及びUL54コドンでの領域V変異は、FCVに対して与えられる、増加された感受性を分離させる(非特許文献16)。したがって、FCVは選択されたGCV耐性HCMV株に感染した患者を治療する、有用な代替療法であってもよい。
【0006】
単剤療法は、薬物耐性株用に、特に免疫無防備状態の宿主に最終的に選択してもよい。それ故に、HIV及び肝炎といった慢性ウイルス性感染症向けの併用療法の必要がある(非特許文献17)。LMVはナノモル範囲ではEC50値に関して非常に高く、UL56ターミナーゼ遺伝子における高度耐性変異はインビトロ(非特許文献18)及び処置される患者では(非特許文献19)容易に出現するということが示され、LMV単剤療法に関する懸念が生じた。HCMVにとって高度に特異的であるLMVとは異なり(非特許文献20)、FCVはより広範なスペクトラムを有し、移植患者に著しい危険性を提起する何種類かのウイルスに対して有効である(非特許文献21)。また、双方の薬物の有利な安全プロファイル及び作用の異なる機序により、交差耐性に対する可能性が大幅に減少する。ここから、FCVは予防及び治療といった双方の指示に対して処方されるLMV合剤について、特に魅力的な候補となる。
【0007】
したがって、現在、安全に関する必要並びにHCMV感染症の治療及び/又は予防に関する有効な方法に対する必要が存在する。LMV及びFCVの相乗的な組合せを含む組成物は特に関心対象であり、薬物及び異なる作用機序の両方の有利な安全プロファイルを提供する。以下に記載されるように、発明者らはインビトロでのFCV及びLMV間で予想しなかった相乗効果を実証し、FCVがLMV耐性に一般的には関連する3UL56コドンにて4つの変異を保有するHCMV株に対し、非常に強力であることを示す(非特許文献22)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Staras et al.,Clin.Infect.Dis.,43(9):1143-1151(2006);Cannon et al.,Rev.Med.Virol.,20(4):202-213(2010);Bate et al.,Clin.Infect.Dis.,50(11):1439-1447(2010)
【文献】Kovacs et al.,N.Engl.J.Med.,341(2):77-84(1999);Griffiths et al.,J.Antimicrob.Chemother.,45Suppl.T3:29-34(2000)
【文献】Azevedo et al.,Clinics,70(7):515-523(2015)
【文献】Boppana et al.,Pediatrics,104(1Pt.1):55-60(1999);Barbi et al.,Pediatr.Infect.Dis.J.,22(1):39-42(2003);Demmler,G.J.,Reviews of Infectious Diseases,13(2):315-329(1991)
【文献】Fowler,K.B.,Clin.Infect.Dis.,57Suppl4:S182-4(2013);Kawasaki et al.,Pathol.Int.,67(2):72-82(2017)
【文献】Britt,W.J.and Prichard,M.N.,Antiviral Res.,159:153-174(2018)
【文献】Marty et al.,N.Engl.J.Med.,377:2433-2444(2017)
【文献】Griffiths,P.D.and Emery,V.C.,New Engl.J.Med.,370(19):1844-1846(2014);Goldner et al.,J.Virol.,85(20):10884-10893(2011)
【文献】Marty et al.,Lancet Infect.Dis.,11(4):284-292(2011)
【文献】Papanicolaou et al.,Clin.Infect.Dis.,68:1255-1264(2019)
【文献】Rouphael et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,63(9):e00717-19(2019)
【文献】Gentry et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,54(8):3093-3098(2010)
【文献】Li et al.,Nucleosides,Nucleotides Nucleic Acids,28(9):795-808(2009);Gentry et al.,Biochem.Pharmacol.,81(1):43-49(2011)
【文献】Gentry,B.G.and Drach,J.C.,Antimicrob.Agents Chemother.,58(4):2329-2333(2014))
【文献】Chen et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,60(7):4176-4182(2016)
【文献】Chou et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,56(1):197-201(2012)
【文献】Shinazi et al.,Liver Int.,34Suppl.1:69-78(2014);DeClercq,E.,Nat.Rev.Drug Discov.,6:1001-1018(2007)
【文献】Goldner et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,58(1):610-613(2014)
【文献】Marty et al.,N.Engl.J.Med.,377:2433-2444(2017);Lischka et al.,J.Infect.Dis.,213:23-30(2016)
【文献】Marschall et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,56(2):1135-1137(2012)
【文献】Hartline et al.,Antiviral Res.,159:104-112(2018);Prichard et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,57(8):3518-3527(2013)
【文献】Marty et al.,supra;Goldner et al.,supra;Chou et al.,supra;Lischka et al.,supra
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、いずれかの薬物を単独投与するよりも有効である、安全で有効で強力な治療を提供する、薬物の治療的組合せの投与によるウイルス性疾患を処置するための新規方法に関し、この発明は、合剤を投与することから予想される効果以上に向上した治療的相乗効果を実証する。特に、本発明はサイトメガロウイルス感染症を処置又は予防する新規方法の発見に関し、特にヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染症を処置又は予防する新規方法の発見に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この新規方法は、相乗的に治療有効量のフィロシクロビル(FCV)及びレテルモビル(LTV)の組合せを、その必要がある対象に投与することを含む。本明細書にて、発明者らは、フィロシクロビル及びレテルモビルの両方の組合せを投与することは、HCMV感染症を処置又は予防するのに効果的であり、これはこれらの薬物のいずれかの独立した投与により予想されるものよりも、はるかに強力であることを実証する。換言すると、本明細書にて説明されるように、フィロシクロビル及びレテルモビルを組み合わせた投与の方法は、例えばEC50値などの各化合物の阻害特性がサイトメガロウイルスに対し、別々に又は独立して試験される時に観察される、理論的に組み合わせられた相加効果よりも更に有効である。換言すると、フィロシクロビル/レテルモビル合剤の投与により、HCMV感染症を治療又は予防するための本明細書にて説明される新規方法は、これらの2つの化合物を組み合わせることにより、予想されるであろう効果以上の、予想しなかったレベルの有効性を実証する。すなわち、合剤は「相乗的な」治療効果を呈する。本明細書にて説明される新規方法は、哺乳動物におけるサイトメガロウイルス感染症の治療及び/又は予防に好適であり、特にヒトにおけるサイトメガロウイルス感染症を処置又は予防するのに好適である。
【0011】
別の実施形態において、本発明は、サイトメガロウイルス、特に哺乳動物におけるHCMV感染症を処置又は予防するための方法で使用するための、フィロシクロビル及びレテルモビルの治療的組合せを含む薬剤の製造における、フィロシクロビル及びレテルモビルの使用に関する。好ましい実施形態において、哺乳動物はヒトである。
【0012】
フィロシクロビル及びレテルモビルは、同じ組成物中に処方されてもよい。又は後に組み合わせるために異なる組成物中に処方されてもよい。又は併用して、同時に、連続して、及び/若しくは設定された間隔で別々に投与され得る、異なる組成物中に代替的に処方されてもよい。複数の用量の1つ以上の製剤もまた企図される。
【0013】
相乗的な治療有効量のフィロシクロビル、又は薬学的に許容されるその塩、及びレテルモビル、又は薬学的に許容されるその塩、及び薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物もまた開示される。薬学的組成物は、このフィロシクロビル及びレテルモビルの両方の化合物の同時投与のために、フィロシクロビル及びレテルモビルの組合せを含んでもよい。代替的には、フィロシクロビル及びレテルモビルは、異なる薬学的組成物中に処方されてもよく、この場合、相乗的な治療合剤は、併用用量若しくは同時用量で投与されてもよく、又は設定された間隔で連続して投薬されてもよい。例えば、合剤の連続投与については、フィロシクロビルを含む薬学的組成物は、レテルモビルを含む薬学的組成物の前に投与されてもよい。次いで、レテルモビルを含むこの薬学的組成物はその後、ある一定の時間間隔内に投与される。又はレテルモビルを含む薬学的組成物が、フィロシクロビルを含む薬学的組成物の前に投与される場合には、この逆でもよい。いずれの場合においても、合剤を投与する治療効果の向上は維持される。
【0014】
薬学的組成物は、哺乳動物、特にヒトにおけるHCMV感染症を処置又は予防するための開示される方法で使用するのに好適である。薬学的組成物は、その必要がある対象又は患者に、非経口投与及び/又は経口投与の両方のために処方されてもよい。
【0015】
別の実施形態において、本明細書にて説明されるフィロシクロビル及びレテルモビルを含む合剤は、1つ以上の追加の抗ウイルス薬と任意で組み合わせて、その必要がある対象へと投与されてもよい。追加の1つ以上の抗ウイルス薬は、本明細書にて説明される、フィロシクロビル/レテルモビルである相乗的な治療合剤の投与前、投与と同時に、又はその投与後に投与されてもよい。
【0016】
定義
本明細書にて使用される場合、用語「相乗的な」又は「相乗効果」又は「相乗的な治療効果」又は「相乗的な治療有効量」又は「相乗的な予防有効量」及びこれらの変形は、薬学的配合で組み合わせられ、対象に投与されるとき、又は異なる医薬製剤にて処方され、同じ時に、同時に、併用して、又は連続してのいずれかで組み合わせて対象に投与されるとき、対象に拮抗的ではなく又は毒性なしで、対象のウイルス感染症を処置、予防、又はそれ以外の場合には回復させる、有効な効果を有し、いずれかの抗ウイルス化合物を単独で投与することによるその個別効果の累積により観察又は予測されるもの以上に向上した効果を示す(相乗効果)、各抗ウイルス化合物の濃度を指す。
【0017】
1つ以上明記された要素又は工程を「含む(comprising)」又は「含む(comprises)」ように本明細書にて説明される組成物又は方法は、オープンエンド形式であり、明記された要素又は工程は重要であるが、他の要素又は工程は組成物又は方法の範囲内で加えられてもよい。冗長さを避けるために、1つ以上の命名される要素又は工程「を含む」ように説明される任意の組成物又は方法はまた、同様に命名される要素又は工程「から本質的になる(consisting essentially of)」(又は「から本質的になる(consists essentially of)」、対応し、より限定される組成物又は方法を説明する。これは、この組成物又は方法が、命名される本質的な要素を含み、この組成物又は方法の根源的かつ新規の1つ以上の特性に実質的に影響することのない、追加要素又は工程も含み得ることもまた、理解される。1つ以上の命名される要素又は工程「を含む」又は「から本質的になる」ように本明細書にて説明される任意の組成物又は方法はまた、任意の他の要素又は工程を除外して、命名される要素又は工程「からなる(consisting of)」(又は「からなる(consists of)」、対応し、より限定され、かつクローズドエンドの組成物又は方法を説明するとも理解される。本明細書にて説明される任意の組成物又は方法において、命名される任意の本質的な要素又は工程の公知の、又は開示される同等物は、それぞれその要素又は工程に置換されてもよい。
【0018】
本明細書にて使用される場合、用語「対象」はヒト、ヒト以外の霊長類、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ネコ、モルモット又はげっ歯類であり得る。「患者」又は「その必要がある対象」は、疾患又は障害に苦しめられている哺乳動物を指す。用語「患者」は、ヒト又は獣医学対象を含む。
【0019】
「非経口の」、「非経口的に」及び同様のものといった用語は、化合物又は組成物を個体へと投与する、消化管に沿う以外の経路又は形式を指す。投与の非経口経路の例としては、皮下投与(s.c.)、静脈内投与(i.v.)、筋肉内投与(i.m.)、動脈内投与(i.a.)、腹腔内投与(i.p.)、経皮投与(皮膚又は皮膚層を介した吸収)、鼻腔投与(「鼻腔内」投与、鼻粘膜にわたる吸収)、又は肺投与(例えば、肺組織にわたって吸収するための吸入)、膣内投与、消化管への直接注射又は注入以外の体腔又は器官への直接注射又は注入、並びに身体へ様々ないずれかのデバイスを埋め込むこと(例えば、組成物、デポーのデバイス、又は化合物若しくは組成物を身体へと能動放出又は受動放出可能とするデバイス)によるものが挙げられるが、これに限定されない。
【0020】
用語「経口的」、「非経口的に」、「経腸性」、「経腸的に」、「経口」、「経口的に」及び同様の用語は、消化管に沿った経路又は形式による、個体への化合物又は組成物の投与を指す。投与の経腸経路の例としては、固形(例えば錠剤)又は液状(例えばシロップ)剤形を嚥下するといったような経口、舌下(例えば舌の下など、口腔の床を覆う粘膜を介した吸収)、頬側(頬の粘膜を覆う粘膜を介した吸収)、経鼻空腸管又は胃瘻管(胃への送達)、十二指腸内投与、及び直腸投与(例えば、薬物組成物の放出及び消化管の下部腸管による吸収用坐薬)が挙げられるが、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A-1B】ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)株AD169に対する、様々な濃度のフィロシクロビル及びレテルモビルの効果を試験する阻害アッセイの結果を示す。図1(A)は、HCMVに感染したHFF細胞で別々に試験される、フィロシクロビル(上)及びレテルモビル(下)の用量反応曲線を示す。図1(B)は、HCMVに感染したHFF細胞で合剤として投与される、フィロシクロビル及びレテルモビルの阻害効果を示す3DSynergyプロットである。0%超で示される2つのピークは、フィロシクロビル及びレテルモビル合剤が相乗的に作用してHCMV感染症を阻害する濃度を表す。0%未満の単一ピークは、フィロシクロビル及びレテルモビル合剤が拮抗的に作用する濃度を表す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、β-ヘルペスウイルスによる感染症は、地理条件及び社会経済条件によって50~90%の範囲の血清有病率を有することからヒトに非常にありふれている(Staras et al.,Clin.l Infect.Dis.,43(9):1143~1151(2006);Cannon et al.,Rev.Med.Virol.20(4):202~213(2010);Bate et al.,Clin.Infect.Dis.,50(11):1439~1447(2010))。ウイルスは持続感染を確立し、患者は通常無症状のままである。ただし、免疫無防備状態の患者においては、HCMV感染症によって著しい病的状態及び死亡数が生じる(Kovacs et al.,N.Engl.J.Med.,341(2):77-84(1999);Griffiths et al.,J.Antimicrob.Chemother.,45Suppl.T3:29-34(2000))。最大で75%の固形臓器移植患者が、新規感染症又は移植後に潜在型ウイルスが再活性することのいずれかが原因でCMV疾患を発症する(Azevedo et al.,Clinics,70(7):515-523(2015))。更には、HCMVは世界的規模で最も一般的な先天性-後天性感染症である(Boppana et al.,Pediatrics,104(1Pt.1):55-60(1999);Barbi et al.,Pediatr.Infect.Dis.J.,22(1):39-42(2003);Demmler,G.J.,Rev.Infect.Dis,13(2):315-329(1991))。HCMVは、小児において難聴、認知機能障害、及びCNS損傷の主要な感染原因である(Fowler,K.B.,Clin.Infect.Dis.,57Suppl4:S182-4(2013);Kawasaki et al.,Pathol.Int.,67(2):72-82(2017))。したがって、現在、HCMVを治療するための安全で有効な方法が必要とされている。
【0023】
本明細書にて、発明者らは、フィロシクロビル(FCV)又は薬学的に許容されるその塩、及びレテルモビル(LMV)又は薬学的に許容されるその塩の治療的組合せの投与により、哺乳動物におけるウイルス感染症を処置及び/又は予防するための新規方法の発見を説明する。好ましい実施形態において、哺乳動物はヒトである。
【0024】
フィロシクロビル((Z)-9-{[2,2-ビス-(ヒドロキシメチル)シクロプロピリデン]メチル]}グアニン)は、以下の構造を有するメチレンシクロプロパンヌクレオシドアナログである。
【化1】
【0025】
レテルモビルは、2-[(4S)-8-フルオロ-2-[4-(3-メトキシフェニル)ピペラジン-1-イル]-3-[2-メトキシ-5-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-キナゾリン-4-イル]酢酸であり、ターミナーゼ複合体であるUL51、UL56、又はその両方の成分と結合することにより、HCMV複製を阻害する抗ウイルス薬である。レテルモビルは以下の構造を有する。
【化2】
【0026】
本明細書にて説明される結果は、フィロシクロビル及びレテルモビルの組合せを投与することが、サイトメガロウイルス感染症、特にヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染症を処置及び/又は予防するには単独又は個々にいずれかの化合物を投与するよりも有効であり、別々に又は個々に投与される各化合物のウイルス阻害特性の観察される総計又は予想される相加効果に基づき、組合せの投与から予想されるもの以上にHCMVを阻害する点で向上した(相乗的な)治療効果を示すことを実証する。換言すると、本明細書にて開示されるようなフィロシクロビル/レテルモビル合剤を投与することにより確認される結果は、各化合物を個々に投与することで観察される、例えばEC50値といった阻害特性の単なる「添加剤」ではない。むしろ、これら2つの薬物の組合せを投与することによるHCMVを処置及び/又は予防するという有効性は、予想される相加効果のレベルを超えており、計算される理論的相加効果より高く、かつこれを超える治療相乗効果を思いがけず実証する。
【0027】
一実施形態において、本発明に従う薬学的組成物は、同一の組成物中に処方されるフィロシクロビル及びレテルモビルを含み、これにより単一用量で両化合物を同時に投与することが可能となる。複数の用量のこの組成物もまた企図される。
【0028】
代替的には、フィロシクロビル及びレテルモビルは異なる薬学的組成物中に処方されてもよく、第1薬学的組成物はフィロシクロビルを含み、第2薬学的組成物はレテルモビルを含むが、これは逆であってもよい。本実施形態に従い、異なる製剤は同時に投与されてもよい。又はこれらは、様々な時間間隔にて順次、又はいずれかの順で連続して投与されてもよい。例えば、フィロシクロビルを含む医薬製剤が最初に投与される場合には、レテルモビルを含む医薬製剤はその後、例えば24時間以内、12時間未満、8時間未満、6時間未満、4時間未満、2時間未満、1時間未満、30分未満、10分未満、1分未満で順次、又は連続して投与されてもよい、又はフィロシクロビルを含む医薬製剤の直後に投与されてもよい。又はレテルモビルを含む医薬製剤がフィロシクロビルを含む医薬製剤の前に投与される場合には、逆であってもよい。同時、順次又はいずれかの順で連続する、複数の用量のこれらの製剤の投与もまた企図される。
【0029】
好ましい実施形態において、本発明の方法は複数のサイトメガロウイルス株による感染症を処置又は予防するのに効果的である。以下に説明されるように、HCMV感染哺乳動物細胞に対するフィロシクロビル及びレテルモビルの阻害効果を測定する標準アッセイを使用することで、フィロシクロビル及びレテルモビルの組合せの投与が、図1(b)に示される3Dシナジープロットに見られるように、単独でいずれかの化合物を投与するよりもヒトサイトメガロウイルス(HCMV)株AD169に対して、思いがけず向上した治療効果を呈することが実証される。図1(a)は、HCMV株AD169に感染した哺乳動物細胞における、フィロシクロビル(上のグラフ)及びレテルモビル(下のグラフ)といった、別々に試験される各化合物の阻害効果を示す。図1(a)及び図1(b)に示される結果は、本明細書にて説明されるようなサイトメガロウイルスに対する治療合剤としてのフィロシクロビル及びレテルモビルの投与(図1(b))が、図1(a)に示されるような各化合物の個々の投与から観察される結果(EC50)に基づいて理論的「相加」効果により予想されるものよりも、更に有効なことを実証する。
【0030】
本発明は、ウイルス性サイトメガロウイルス感染症、特にヒトサイトメガロウイルス感染症を処置又は予防するため、フィロシクロビル及びレテルモビル合剤を含む製剤の使用に更に関する。本発明は、哺乳動物(例えばヒト)におけるサイトメガロウイルス感染症を処置又は予防するための方法で使用するための薬剤の製造時の、フィロシクロビル、又は薬学的に許容されるその塩、及びレテルモビル、又は薬学的に許容されるその塩の使用に更に関する。この方法は、薬学的に許容される担体又は希釈剤を伴う、当該フィロシクロビル又は薬学的に許容されるその塩、及び当該レテルモビル、又は薬学的に許容されるその塩の併用投与を含む。
【0031】
別の態様において、本発明は少なくともフィロシクロビル、又は薬学的に許容されるその塩、溶媒和、又はその多形、及びレテルモビル、又は薬学的に許容されるその塩、溶媒和、又はその多形を含むキットに関する。一実施形態において、フィロシクロビルを含む医薬製剤及びレテルモビルを含む医薬製剤は、同じバイアル瓶又は容器中にあってもよい。又は代替的には、異なるバイアル瓶若しくは容器中にあってもよい。キットは、
a)任意で、抗ウイルス活性を有することが知られている少なくとも1つの追加の薬剤、
b)サイトメガロウイルス関連疾患を処置するための指示、
c)サイトメガロウイルス感染症を処置することと関連する、フィロシクロビルを含む組成物及びレテルモビルを含む組成物を処方、組み合わせ、及び/又は投与するための指示、
d)サイトメガロウイルス関連疾患を処置することで知られている、少なくとも1つの薬剤を有する化合物を投与するための指示、のうち1つ以上を含む。
【0032】
更なる態様において、このキットは、フィロシクロビル、又は薬学的に許容されるその塩、溶媒和、又はその多形、及びレテルモビル、又は薬学的に許容されるその塩、溶媒和、又はその多形の複数の剤形を含み、この複数の剤形は、各化合物の1つ以上の用量を含み、各用量は、それぞれ本発明に従い、相乗的組み合わせに好適である治療有効量のフィロシクロビル、及び治療有効量のレテルモビルを含む。フィロシクロビル及びレテルモビルの合剤は各化合物の異なる用量として処方され、同時又は連続して(例えば、フィロシクロビルを含む製剤を最初に投与し、その後レテルモビルを含む製剤を投与するといういずれか、又はその逆であってもよい)投与されてもよいこともまた企図される。
【0033】
キットはまた、他の成分と同一に包装され、同時に処方され、及び/又は同時に送達される化合物及び/又は生成物も含むことができる。例えば、薬物製造者、薬物販売者、医師、調剤薬局、又は薬剤師は、本発明の開示される化合物及び/又は生成物及び患者に送達するための別の成分を含むキットを提供することができる。
【0034】
更なる態様において、本発明に従う有効量のフィロシクロビル及びレテルモビルの組合せは、相乗的に治療有効量である。いっそう更なる態様において、本発明に従う有効量のフィロシクロビル及びレテルモビルの組合せは、相乗的な予防有効量である。
【0035】
本発明の合剤は、薬学的に許容される担体又は賦形剤中に処方される、約1nM~約1mMの濃度のフィロシクロビル、及び約0.0001nM~約100nMの濃度のレテルモビルを含んでもよい。
【0036】
フィロシクロビル及びレテルモビルのいずれか又は両方は、薬学的に許容される塩として投与され得る。こうした薬学的に許容される塩は、グルコン酸塩、乳酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、マレイン酸塩、ホウ酸塩、硝酸塩、硫酸塩、及び塩酸塩を含む。本明細書にて説明される化合物の塩は、例えば塩基化合物と溶液中の所望の酸とを反応させることにより調製され得る。反応が完了した後、塩は、それ自体が不溶である適切な量の溶媒を加えることで、溶液から結晶化される。いくつかの実施形態において、塩酸塩は、塩化水素気体を遊離塩基のエタノール溶液へと通過させることにより作製される。したがって、いくつかの実施形態において、薬学的に許容される塩は塩酸塩である。
【0037】
別の実施形態において、化合物は、その必要がある対象へ投与するため、薬学的に許容される担体又は賦形剤へと処方される。別の実施形態において、化合物は医薬製剤へと処方されてよく、追加の抗ウイルス化合物を更に含んでもよい。別の実施形態において、医薬製剤は処方され、経口的に、非経口的に、又は局所的に投与されてもよい。
【0038】
組成物及び方法
本発明に従う薬学的組成物又は医薬製剤は、本明細書にて説明されるように、フィロシクロビル及びレテルモビルといった化合物、又は「活性成分」として、薬学的に許容されるそれらの塩、溶媒和、又は多形及び薬学的に許容される担体(又は「ビヒクル」)を含み、これは液状化合物、固形化合物又は半固形化合物であってもよい。
【0039】
経口活性のある治療薬を開発することが好ましい。これは、この治療薬が曝される1つ以上の個体又は集団に薬物を投与するための、最も好都合かつ迅速な方法であるためである。ただし、本明細書にて説明される合剤は、静脈内(i.v.)投与に好適であるとも予想される。したがって、本明細書にて説明される医薬製剤は、サイトメガロウイルス感染症を処置又は予防するための、有効で安全で簡単な治療選択肢を提供する。
【0040】
本明細書にて使用される場合、用語「処置する(treat)」、「処置する(treating)」及びそれらを文法的に変形したもの、並びに語句「処置する方法」及び「予防する方法」は、任意の所望される治療的介入を包含することを意味しており、対象において現存のサイトメガロウイルス感染症を処置するための方法、及び本明細書にて開示されるようにサイトメガロウイルスに曝露された患者、又は本明細書にて開示されるようにサイトメガロウイルスに曝露されている疑いがある患者において、サイトメガロウイルス感染症の発症予防(すなわち予防)のための方法を含むがこれに限定されない。
【0041】
別の実施形態において、フィロシクロビル及びレテルモビルは、薬学的に許容される担体中へと処方されてもよく、皮内、経皮、筋肉内、腹腔内及び静脈内を含むがこれに限定されない注射によって、その必要がある対象へと適用/投与されてもよい。
【0042】
本発明の別の実施形態に従い、投与は経口であり、組成物は、例えば、錠剤の形態で提供されてもよく、又はゼラチンカプセル若しくはマイクロカプセルに入れられてもよく、これにより経口適用が容易になる。投与のこれらの形態の製造は、当業者の一般的な知識の範囲内である。投与の複数の経路はこれらの薬物様分子のために考えられており、高いコスト効果の製造戦略は容易に達成されるであろう。
【0043】
更なる態様において、本発明の医薬製剤は、カプセル、錠剤、粉末、顆粒、発泡剤、ゲル、ペースト、トローチ剤、及びパスティールから選択される固形剤形である。いっそう更なる態様において、医薬製剤は、エマルション、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシル剤から選択される液状剤形である。
【0044】
本明細書にて使用される場合、用語「薬学的に許容される塩」は、薬学的に許容される非毒性の塩基又は酸から調製される塩を指す。本発明の組成物が酸性である時には、その対応する塩は無機塩基及び有機塩基を含む、薬学的に許容される非毒性塩基から好都合に調製され得る。こうした無機塩基から誘導される塩は、アルミニウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、銅(copperic及びcopperous)塩、第二鉄塩、第一鉄塩、リチウム塩、マグネシウム塩、マンガン(maganesic及びmaganesous)塩、カリウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩及び同様の塩を含む。薬学的に許容される有機非毒性塩基から誘導される塩は、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンの塩、並びに環状アミン、並びに天然に存在する置換アミン及び化学合成された置換アミンといった置換アミンを含む。塩を形成することができる他の薬学的に許容される有機非毒性塩基は、例えば、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N-エチルモルフォリン、N-エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピンアミン、トロメタミン及び同様のものといったイオン交換樹脂を含む。
【0045】
本明細書にて使用される場合、用語「薬学的に許容される非毒性酸」は、無機酸、有機酸及びそれらから調製される塩を含み、例えば、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、酪酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、粘液酸、硝酸、パモ酸、パントテン酸、リン酸、スクシン酸、硫酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸などである。クエン酸、臭化水素酸、塩酸、マレイン酸、リン酸、硫酸及び酒石酸が好ましい。
【0046】
経口剤形用に製剤を調製する場合、任意の好都合な薬学的媒質が使用され得る。例えば、水、グリコール、油、アルコール、香料、保存料、着色剤などは、懸濁液、エリキシル剤及び溶液といった経口液状調製物を形成するために使用され得る。一方、デンプン、砂糖、結晶セルロース、希釈剤、造粒剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤などの担体は、粉末、カプセル及び錠剤といった経口固形調製物を形成するために使用され得る。それらの投与が容易となることから、錠剤及びカプセルは好ましい経口用量単位であり、それにより固形の薬学的担体が使用される。任意で、錠剤は標準的な水溶性技術又は非水溶性技術によりコーティングされ得る。
【0047】
本発明の組成物を含有する錠剤は、圧縮成形又は射出成形により調製されることができ、任意で1つ以上の付属成分又は補助剤を有して調製されることができる。圧縮錠剤は、好適な機械にて、粉末又は顆粒といった流動性が高い形態で、任意では結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、界面活性剤又は分散液と混合される活性成分を圧縮することで調製され得る。射出成形される錠剤は、不活性である液状希釈剤を使用して湿らせた粉末化合物の混合物を、好適な機械にて射出成形により作製することができる。
【0048】
非経口投与に好適な本発明の薬学的組成物は、活性化合物の水溶液又は水性懸濁液として調製され得る。好適な界面活性剤には、例えばヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられ得る。分散液は、グリセロール、液状ポリエチレングリコール、及び油中のそれらの混合物で調製され得る。更には、微生物の有害な成長を防止するために保存料が含まれ得る。
【0049】
注射用使用に好適な本発明の薬学的組成物は、滅菌水溶液又は分散液を含む。更には、組成物はこうした注射用滅菌溶液又は分散液による即時調製のために、滅菌粉末形態であり得る。全ての場合にて、注射用最終形態は滅菌状態でなければならず、容易な通針性のために有効な液体でなければならない。薬学的組成物は、製造条件及び保存条件の下で安定してなくてはならない。これにより、好ましくは細菌及び真菌といった微生物による混入作用に対して保存されなくてはならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液状ポリエチレングリコール)、植物油、及び好適なそれらの混合物を含有する溶媒又は分散媒であり得る。
【0050】
本発明の医薬製剤は、例えばエアロゾル、クリーム、軟膏、ローション、粉剤、マウスウォッシュ、うがい薬などといった、局所使用に好適な形態であり得る。更には、組成物は経皮デバイスで使用するのに好適な形態であり得る。こうした製剤は、本発明の化合物、又は薬学的に許容されるその塩を利用し、従来の加工方法によって調製されることができる。
【0051】
本発明の医薬製剤は、直腸投与に好適な形態であり得、担体は固形である。混合物は、単位用量の坐薬を形成することが好ましい。好適な担体は、ココアバター及び本技術分野にて一般的に使用される他の材料を含む。坐薬は、まず組成物と軟化又は溶融させた1つ以上の担体とを混合し、続いて型にて冷却及び形を作ることにより好都合に形成され得る。
【0052】
上述の担体成分に加え、上で説明される医薬製剤は、必要に応じて、希釈剤、緩衝剤、香料、結合剤、界面活性剤、増粘剤、潤滑剤、保存料(抗酸化剤を含む)などといった1つ以上の追加の単体成分を含むことができる。更には、他の補助剤は、意図した移植患者の血液と等張な製剤とするために含まれ得る。本発明の組成物、及び薬学的に許容されるその塩はまた、粉末又は液状濃縮形態で調製され得る。
【0053】
本発明の医薬製剤は、投与のために単一製剤へと共に組み合わせられる治療有効量のフィロシクロビル及びレテルモビルを含んでもよい。又はこれらは異なる製剤中に処方されてもよい。第1製剤はフィロシクロビルを含み、第2製剤はレテルモビルを含む。本実施形態に従い、異なる製剤は同じ時に、併用して、同時に、又は任意の順番で、又は設定された間隔で、一方の後にもう一方を連続して投与されてもよい、すなわち、フィロシクロビルを含む製剤は、フィロシクロビル及びレテルモビルの組合せが、対象、例えばヒト対象におけるサイトメガロウイルス感染症を処置又は予防するための本発明に従う治療効果を呈する限り、レテルモビルを含む製剤の前に、設定された時間にて投与されてもよく、又はこの逆であってもよい。例えば、フィロシクロビルを含む医薬製剤が最初に投与される場合には、レテルモビルを含む医薬製剤は、例えば、24時間以内、12時間未満、8時間未満、6時間未満、4時間未満、2時間未満、1時間未満、30分未満、10分未満、1分未満、又はフィロシクロビルを含む医薬製剤の投与直後に、又はその逆で、その後も別々に投与されてもよい。別々に又は共に処方されるかどうかにかかわらず、複数の用量のこれらの製剤もまた企図される。
【0054】
別の態様において、本発明は、本発明に従う少なくともフィロシクロビル及びレテルモビル、又は薬学的に許容される塩、溶媒和、又はその多形、並びに
a)任意で、抗ウイルス活性を有することが知られている少なくとも1つの追加の薬剤、
b)サイトメガロウイルス関連疾患を処置するための指示、
c)サイトメガロウイルス感染症を処置することと関連する、フィロシクロビルを含む組成物及びレテルモビルを含む組成物を処方、組み合わせ、及び/又は投与するための指示、
d)サイトメガロウイルス関連疾患を処置することで知られている、少なくとも1つの薬剤を有する化合物を投与するための指示、のうち1つ以上を含む、キットに関する。
【0055】
キットはまた、他の成分と同一に包装され、同時に処方され、及び/又は同時に送達される化合物及び/又は生成物も含むことができる。例えば、薬物製造者、薬物販売者、医師、調剤薬局、又は薬剤師は、本発明の開示される1つ以上の化合物及び/又は生成物及び患者に送達するための別の成分を含むキットを提供することができる。
【0056】
更なる態様において、このキットは複数の剤形を更に含み、この複数の剤形は1つ以上の用量を含み、各用量は、ある量の1つ以上の化合物を含む。
【0057】
更なる態様において、有効量は治療有効量である。いっそう更なる態様において、有効量は相乗的な予防有効量である。
【実施例
【0058】
以下の実施例は、本開示の主題の形式を例示するために含まれている。本開示及び当業者の一般的なレベルに照らし合わせると、当業者は以下の実施例は例示のみを意図しており、多くの変更、変形及び変化は、本開示の主題の範囲から逸脱することなく使用され得ることを理解するだろう。
【0059】
実施例1:フィロシクロビル及びレテルモビルによるサイトメガロウイルスの阻害を測定するためのアッセイ、並びに両化合物を含む組成物の相乗的な濃度の決定
【0060】
発明者らは、それぞれ、0.0064~100μM、及び0.0064~100nMの範囲の濃度で別々に、及び三つ組の組合せとしての両方で、フィロシクロビル及びレテルモビルのインビトロ抗HCMV(株AD169、ATCC#VR-538)活性を試験する。
【0061】
ヒト包皮線維芽細胞(HFF細胞、ATCC #SCRC-1041)の単層を、24ウェルプレートにて、10%の熱不活性ウシ胎児血清(Gibco #A38402-01)及び1%のペニシリン-ストレプトマイシン溶液(Hyclone #SV30010)を含有する1mLのDMEM(Corning #10-013-CM)中で成長させ、100プラーク形成単位(PFU)のHCMVに感染させた。37℃で1時間インキュベートさせた後、このウイルスを吸引し、1%のメチルセルロース(Sigma#M-0521)を含有するMEM(Corning#50-010-PB)で置換し、様々な濃度のフィロシクロビル及びレテルモビルを上に規定されるように加えた。未処理の対照として設計される一連のウェルは、2つの化合物のどちらも受け取らなかった。
【0062】
感染したプレートを37℃で9日間インキュベートし、次いで固定してクリスタルバイオレット株(20%メタノール中、0.1%)で着色した。各ウェル中のプラーク数を数え、MacSynergy(商標)II(Prichard and Shipman 1990、上記)を使用して相乗性のレベルを評価した。これにより、個々の用量応答曲線に基づく両方の薬物の理論的相加効果による偏差の全体評価を提供する。
【0063】
結果
図1(a)に示されるように、別々に試験されたフィロシクロビル及びレテルモビルに関して個々の計算されたEC50値は、それぞれ550nM及び3nMであった。これは、文書に報告される以前の値と一致している((Hartline et al.,Antiviral Res.,159:104~112(2018);Chou S.,Antiviral Res.,148:1~4(2017))。
【0064】
様々な濃度の組合せで試験されたフィロシクロビル/レテルモビルの阻害特性の分析により、統計的に有意な値である95%信頼区間で、57の相乗量(図1(b))を計算したMacSynergy(商標)IIを使用し、相乗効果を実証した。50~100の相乗値は、適切な相乗性を示す。したがって、フィロシクロビル及びレテルモビルの組合せは、例えばヒトサイトメガロウイルス感染症といったサイトメガロウイルスに対し、有望な治療選択肢又は予防選択肢を提供する。
【0065】
図1(b)にて確認されるように、5~15の範囲の平面上の2つのピークは、フィロシクロビル及びレテルモビルの組合せが相乗的に作用する濃度を表す。平面下の単一ピークは、フィロシクロビル及びレテルモビルの組合せが拮抗的である濃度を表す。
【0066】
結論
したがって、図1(b)に示される3Dシナジープロットは、サイトメガロウイルス感染症に対する合剤としてのフィロシクロビル及びレテルモビルの投与が、図1(a)に示されるデータにより証明されるように、各化合物の阻害特性が別々に試験されるときの理論的相加効果以上に向上している、有益な相乗効果を思いがけず示すことを実証する。
【0067】
実施例2:レテルモビル耐性株におけるフィロシクロビルの効果を測定するアッセイ
【0068】
レテルモビル耐性株におけるフィロシクロビルの効果を試験するため、発明者らは、V231L、V236M、C325F及びC325Yといった、診療時に遭遇する4つのHCMV UL56変異体を使用した。このうち後者の2つは、頻繁に出現して絶対的なレテルモビル耐性を与えた(Grantham et al.,Biol.Blood Marrow Transplant.25:S344~S345(2019);Turner et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,63(3):e02337-18(2019))。
【0069】
以前に説明したように、分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)レポータ遺伝子により変性されたHCMV実験室株AD169の人工染色体(BAC)クローンであるBD2へ、UL56アミノ酸置換を組み込んだ(Chou,S.,Antimicrob.Agents Chemother.,59:6588~6593(2015))。以前に説明したように、変性された網膜上皮(ARPEp)細胞へと変異誘発されたBACクローンを形質導入し、次いで回収された感染性組換えウイルスを遺伝子型同定及び表現型同定した(Chou et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,62(9):e00922-18(2018))。
【0070】
対照株は、フィロシクロビルに耐性がある、野生株UL-56及びUL-97 M460V変異体のベースライン株を含んだ。感受性アッセイのため、ARPEp細胞の24ウェルプレート培養物に較正されたウイルス接種材料を加え、一連のフィロシクロビル濃度の下でインキュベートした。3~5個のセットアップデータのそれぞれについて二重アッセイで、6日間で50%(EC50)だけSEAP活性を減少させるのに必要とされる濃度を決定した。結果を表1に示す。
【0071】
表1にて確認されるように、フィロシクロビルは、0.29~0.38μLの範囲で平均EC50値を有し、野生型ウイルスに対してよりも試験されたUL56変異体に対してより強力であった(野生型EC50=0.43μM)。これは、レテルモビル中にフィロシクロビルを含むというレジメンの有望な治療効果を強調する。
【0072】
【表1】
【0073】
前述のデータを考慮することで、フィロシクロビル及びレテルモビルの組合せが有効な抗ウイルス薬であることが示され、ここからこの合剤がウイルス感染症を処置又は予防する上で、いずれかの化合物を単独で投与するよりも更に効果的であるという結論が導かれる。また、これはウイルス感染症を処置又は予防する相乗的な治療効果が思いがけず向上していることを示す。
【0074】
本明細書にて引用される全ての刊行物、特許出願、特許及び他の文書は、参照としてその全体が本明細書に組み入れられる。上記の例は例示にすぎず、限定することを意図したものではない。本発明の開示される方法及び代替的な実施形態に対する明らかな変更は、前述の開示の観点から当業者には明白であるだろう。こうした全ての明らかな変更及び変化は、本明細書にて説明されるように本発明の範囲内にあると考えられる。
図1A
図1B