(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】梗塞予防装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/01 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
A61F2/01
(21)【出願番号】P 2018112093
(22)【出願日】2018-06-12
【審査請求日】2021-03-25
(32)【優先日】2017-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514030023
【氏名又は名称】山之内 大
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山之内 大
【審査官】山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0305604(US,A1)
【文献】特開平11-047140(JP,A)
【文献】特表2014-534006(JP,A)
【文献】特表2007-516039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内に留置されるフィルターを備えた梗塞予防装置であって、
前記フィルターは、
当該フィルターを前記血管内に留置するため
に前記血管内に挿入される細長形状の
フィルターチューブの端部に基端側端部が接続される接続部と、
前記接続部の先端側端部に接続され、筒状の外形を有し、径方向に拡縮自在な本体部と、
前記血管内に留置された前記フィルターの前記本体部を前記血管の内壁から離れる方向に収縮可能な機構と、
を備え、
前記本体部は、血液が通液可能な開口が形成され且つ前記フィルターが留置される部位とは異なる部位で発生した前記血管内の血液中の
血栓を捕捉可能な、自己拡張可能な網目状の捕捉部を有し、前記血管から分岐する側方血管の入口に前記捕捉部を配置して前記血管の内壁を前記径方向の外側に向けて押圧可能に構成され、
前記接続部は、前記
血栓が
当該接続部を通じて前記フィルターの内外に通過可能
であるように形成さ
れ、
前記機構は、前記フィルターが前記血管内に留置されたときに前記血管の中枢側に位置することになる前記本体部の先端側開口を前記血管の内壁から離れる方向に収縮させるように構成された紐状部材を、有する、
梗塞予防装置。
【請求項2】
前記捕捉部は、前記側方血管に流れ込む血液中の
前記血栓を補足可能である、請求項1に記載の梗塞予防装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梗塞予防装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管内治療の際に、血管内に血栓等の異物が発生、飛散し、梗塞を生じる懸念がある。特許文献1は、血管内に挿入される長尺部材の先端に取り付けられるフィルターを備えた血管保護装置を開示している。フィルターが、血栓等の異物を捕捉し、異物が終動脈、終静脈等に流入することを予防する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、大動脈に生じた大動脈瘤及び大動脈解離などを、ステントグラフトを用いて治療する場合においても、発生した血栓等の異物により梗塞が発症するおそれがあるため、梗塞を適正に予防する技術が求められている。
【0005】
本発明は、梗塞の発症を適正に予防することができる梗塞予防装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の梗塞予防装置は、血管内に留置されるフィルターを備えた梗塞予防装置であって、前記フィルターは、当該フィルターを前記血管内に留置するために前記血管内に挿入される細長形状のフィルターチューブの端部に基端側端部が接続される接続部と、前記接続部の先端側端部に接続され、筒状の外形を有し、径方向に拡縮自在な本体部と、前記血管内に留置された前記フィルターの前記本体部を前記血管の内壁から離れる方向に収縮可能な機構と、を備え、前記本体部は、血液が通液可能な開口が形成され且つ前記フィルターが留置される部位とは異なる部位で発生した前記血管内の血液中の血栓を捕捉可能な、自己拡張可能な網目状の捕捉部を有し、前記血管から分岐する側方血管の入口に前記捕捉部を配置して前記血管の内壁を前記径方向の外側に向けて押圧可能に構成され、前記接続部は、前記血栓が当該接続部を通じて前記フィルターの内外に通過可能であるように形成され、前記機構は、前記フィルターが前記血管内に留置されたときに前記血管の中枢側に位置することになる前記本体部の先端側開口を前記血管の内壁から離れる方向に収縮させるように構成された紐状部材を、有している。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、梗塞の発症を適正に予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、ステントグラフトを大動脈弓に留置するとともに、本発明に係る梗塞予防装置のフィルターを腕頭動脈に一時的に留置している状態を模式的に示す図である。
【
図2】
図2(a)及び
図2(b)は、本発明の第1実施形態に係る梗塞予防装置を示す斜視図であり、
図2(a)は、梗塞予防装置のフィルターを血管内の所定位置に留置する際の状態を模式的に示し、
図2(b)は、血管内を移動する際の状態を模式的に示す。
【
図3】
図3は、本発明の第1実施形態に係る梗塞予防装置のフィルターを示す斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2実施形態に係る梗塞予防装置のフィルターを示す斜視図である。
【
図5】
図5(a)~
図5(c)は、本発明の第3実施形態に係る梗塞予防装置を示す斜視図であり、
図5(a)は、梗塞予防装置のフィルターを血管内の所定位置に留置する際の状態を模式的に示し、
図5(b)は、
図5(a)に示すフィルターの先端側端部の周囲を拡大して示し、
図5(c)は、
図5(a)に示すフィルターの基端側端部の周囲を部分的に透視しながら拡大して示す。
【
図6】
図6(a)~
図6(d)は、腕頭動脈に留置されている本発明の第3実施形態に係る梗塞予防装置のフィルターをシースチューブに収納する際の手順を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
以下、図面を用いて、本発明に係る梗塞予防装置の具体的な第1実施形態について詳述する。先ず、
図1を参照しながら、大動脈瘤等の治療に使用されるステントグラフトおよび当該治療時に、ステントグラフトと併せて利用される梗塞予防装置の概要について説明する。
【0010】
図1に示すように、人体の大動脈は、心臓(の左心室)Hから上行して大動脈弓Aに沿って弓状に屈曲した後、下行して腹部大動脈の分岐箇所で総腸骨動脈に分岐されるまでの動脈であって、全身への血液循環の大元となる動脈である。この大動脈を構成する血管壁の一部がこぶ状に膨らんだ状態を大動脈瘤Bで示している。一方、図示は省略するが、大動脈を構成する血管壁の内膜に生じた裂孔等を通じて流出した血液によって中膜に剥がれ(解離)が生じた状態を「大動脈解離」という。これら大動脈瘤等は、大動脈の様々な部位に発生し得るものである。
【0011】
大動脈瘤等の外科的治療法としては、近年、「ステントグラフト内挿術」などと呼ばれる手法が注目されている。この手法は、シース内部に縮径保持されたステントグラフトを備えるステントグラフト留置装置を用いる方法である。具体的には、この方法は、例えば、鼠径部と呼ばれる太股の付け根部分を小さく切開してシースを大動脈内に挿入し、患部においてシースの先端からステントグラフトを露出・展開させてステントグラフトを患部に留置することにより、大動脈瘤等の破裂を防止する方法である。ステントグラフト内挿術は、いわゆる人工血管置換術と比べ、開胸又は開腹手術を行わなくてもよい低侵襲な治療方法である。
図1においては、ステントグラフト100が、大動脈瘤Bが発生した大動脈弓Aに留置されている。
【0012】
このような治療の際に、大動脈弓A(発生源)から血栓等の異物F(
図3等参照)が発生、飛散し、大動脈とは異なる血管にて梗塞を生じる懸念があるため、例えば、
図1に示すように、ステントグラフト100の留置前に、予め本発明に係る梗塞予防装置1のフィルター40を、腕頭動脈C等に一時的に留置することが行われる。これにより、フィルター40が、発生した血栓などの異物Fが右総頚動脈(RCA;Right Common carotid Artery)、椎骨動脈(VA;Vertebral Artery)等に飛散することを防止することができる。なお、
図1では、本発明の第1実施形態に係る梗塞予防装置1が図示されているが、後述される第2実施形態および第3実施形態に係る梗塞予防装置1A,1Bも
図1に示すように用いられ得る。
【0013】
図2(a)及び
図2(b)は、第1実施形態に係る梗塞予防装置1を示す斜視図である。
図2(a)は、梗塞予防装置1のフィルター40を血管内の所定位置に留置する際の状態を示し、
図2(b)は、血管内を移動する際の状態を示している。
【0014】
梗塞予防装置1は、本体10と、シースチューブ20と、このシースチューブ20の内側に配置されるフィルターチューブ30と、このフィルターチューブ30の先端に取り付けられたフィルター40と、フィルターチューブ30の内側に配置されるガイドチューブ60と、ガイドチューブ60の先端に取り付けられたチップ50と備える。なお、フィルター40の先端側は留置時に血管の中枢側に位置することになり、フィルター40の基端側は留置時に血管の末梢側に位置することになる。
【0015】
本体10は、人体の外側に配され、例えば、液体充填ポートなどが配設されている。また、本体10の先端側には、シースチューブ20が取り付けられている。
シースチューブ20は、例えば、可撓性を有する材料で形成されている。このシースチューブ20の内側にフィルターチューブ30が配設されている。
フィルターチューブ30は、例えば、樹脂(プラスチック及びエラストマー等)並びに金属など、適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料により構成される。また、フィルターチューブ30は、シースチューブ20に対して当該シースチューブ20の軸方向に沿って移動することが可能である。
【0016】
フィルターチューブ30の内側にガイドチューブ60が配設されている。
ガイドチューブ60は、フィルターチューブ30に対して当該フィルターチューブ30の軸方向に沿って移動することが可能である。ガイドチューブ60は例えば樹脂、ゴム等により構成され、その内部は中空であって通路を有しており、図示せぬガイドワイヤを挿通可能となっている。例えば、予め血管内にガイドワイヤを挿入しておき、このガイドワイヤにガイドチューブ60に外挿させることで、梗塞予防装置1を
図2(b)の状態として血管内での進退を案内可能となる。
【0017】
また、ガイドチューブ60の先端にチップ50が取り付けられている。
チップ50は、経皮的挿入術が可能となるように、例えば、その基端側の部分の外径がシースチューブ20の内径とほぼ等しく、先端側にかけて次第に縮径された形状に形成されている。
また、チップ50を構成する材料として、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂およびポリ塩化ビニル系樹脂等から構成された合成樹脂(エラストマー)などの、適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料が挙げられる。
【0018】
フィルター40は、大動脈弓A(
図1)とは異なる腕頭動脈C等の血管に留置され、当該血管内の血液中の異物Fの流れを制御可能となっている。フィルター40は、拡張時に筒状の外形を有する筒状本体部(本体部)41と、筒状本体部41の基端側の端部に接続された接続部42とを備えている。
【0019】
筒状本体部41は、拡張状態での外径が腕頭動脈C等の血管の内径とほぼ等しいか、あるいは、それよりも大きくなっており、血管の内壁を径方向外側に押圧した状態で当該血管の内壁に密着する。また、接続部42は、その基端側がフィルターチューブ(留置手段)30の先端に任意の方法で接続されている。
【0020】
なお、筒状本体部41及び接続部42は、例えば、弾力性のある金属や樹脂等の素材により構成され、同一の素材であってもよいし、互いに異なる素材であってもよい。
【0021】
フィルター40は、血管内に留置される前は、
図2(b)に示すように、シースチューブ20の内側において、径方向に圧縮された状態で収納されている。すなわち、人体内に経皮的に挿入される際は、梗塞予防装置1のシースチューブ20の先端部とチップ50の基端部とが密着した状態をとっている。ガイドワイヤに案内されて目的の留置部位まで進められた梗塞予防装置1のフィルターチューブ30に対してシースチューブ20を操作者から見たときの手前側に移動させる(あるいは、シースチューブ20に対してフィルターチューブ30を操作者から見たときの奥側に移動させる)ことにより、シースチューブ20からフィルター40を放出する。シースチューブ20から放出されると、フィルター40は、例えば、径方向に拡がるように自己拡張し、
図2(a)の状態となる。
【0022】
なお、フィルター40を拡張させる手法は、一例であってこれに限られるものではなく、例えば、詳細な説明は省略するが、特開2000-350785号公報又は国際公開第2005/99806号パンフレットに記載の公知の方法を用いてもよい。
【0023】
一方、フィルター40の使用後においては、梗塞予防装置1のフィルターチューブ30に対してシースチューブ20を奥側に移動させる(あるいは、シースチューブ20に対してフィルターチューブ30を手前側に移動させる)。これにより、フィルター40は、シースチューブ20の先端側開口21の開口縁等に接触して径方向内側に向けて収縮するように変形しながら、基端側から先端側にかけて徐々にシースチューブ20の内側に収納される。フィルター40をシースチューブ20内に収納すると、梗塞予防装置1は、再び
図2(b)の状態となる。
【0024】
次に、ステントグラフト100を大動脈弓Aに留置する方法について説明する。
この方法においては、梗塞予防装置1のフィルター40を、腕頭動脈Cに留置するものとするが、例えば、左総頚動脈LCAや左鎖骨下動脈LSCA等の血管に留置してもよい(
図1参照)。
【0025】
操作者は、先ずフィルター40をシースチューブ20内に収納した状態(
図2(b)参照)の梗塞予防装置1を右の肘(図示略)内側から経皮的に挿入し、腕頭動脈Cの目的の留置位置まで血流の下流側から進行させる(
図1中、矢印X参照)。そして、操作者は、例えば、梗塞予防装置1のフィルターチューブ30に対してシースチューブ20を手前側に移動させることで、シースチューブ20からフィルター40を放出し、径方向に拡張した状態(
図2(a)参照)のフィルター40を腕頭動脈Cに一時的に留置させる。
【0026】
その後、操作者は、公知の手法を用いて、ステントグラフト100を腕頭動脈Cとは異なる大動脈弓Aに留置する。
【0027】
このように、梗塞予防装置1のフィルター40は、腕頭動脈Cとは異なる大動脈弓(他の血管)Aの治療の際に、腕頭動脈C内に留置され、フィルター40を腕頭動脈C内に留置した後、ステントグラフト(血管内治療具)100を用いて腕頭動脈Cとは異なる大動脈弓(他の血管)Aを治療する。
【0028】
また、ステントグラフト100の留置後、操作者は、例えば、梗塞予防装置1のフィルターチューブ30に対してシースチューブ20を奥側に移動させることで、フィルター40をシースチューブ20内に収納した後、当該梗塞予防装置1全体を血管内から抜去する。
【0029】
図3は、本発明の第1実施形態に係る梗塞予防装置1のフィルター40を示している。このフィルター40は、血栓等の異物Fがフィルター40のいずれかの領域、特に接続部42の付近に溜まる構造を有する。
【0030】
すなわち、第1実施形態においては、フィルター40は、筒状本体部41及び接続部42が網目状に形成され、血管内の血液中の異物Fを捕捉可能な捕捉部43を構成している。これにより、筒状本体部41において異物Fを捕捉するのみならず、接続部42においても異物Fを捕捉することができる。
図3においては、血管Vの内壁に沿って配置された筒状本体部41が、血液の流れZに沿って上流側から流れる異物Fを捕捉して、
図1の右総頚動脈RCAや椎骨動脈VA等、終動脈、終静脈等、異物Fが流れては困る側方血管Pに拡散するのを防止するとともに、接続部42が筒状本体部41で捕捉されなかった異物Fを捕捉する。このように、第1実施形態のフィルター40においては、筒状本体部41と併せて血液の流れZの最下流にある接続部42が異物Fを捕捉するように異物Fの流れを制御可能であり、血液中の異物Fをできるだけ捕捉して体外に除去することができる。
【0031】
接続部42は、例えば、筒状本体部41を構成する素材と同じ素材によって構成され、筒状本体部41と一体的に構成されることが好ましい。このような構成により、フィルター40を容易に製造することができる。また、接続部42は、例えば、当該フィルター40が拡張した状態で、筒状本体部41側からフィルターチューブ30との接続部分に向かう方向で、径が次第に小さくなる円錐型の形状を有している。
【0032】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態に係る梗塞予防装置1Aのフィルター40Aを示している。このフィルター40Aは、血栓等の異物Fの少なくとも一部が通過する構造を有する。
すなわち、フィルター40Aは、筒状本体部41Aが網目状に形成され、血管内の血液中の異物Fを捕捉可能な捕捉部43を構成している。これにより、筒状本体部41Aは異物Fを捕捉可能であるが、血液の流れZに沿って最下流にある接続部42Aにおいては、異物Fが通過可能な形態を採っている。具体的には、接続部42Aは、筒状本体部41Aの基端部とフィルターチューブ30の先端部とを接続する複数(例えば、4本等)の紐状部材44によって構成されている。
【0033】
このフィルター40Aにおいては、特に筒状本体部41Aが、血液の流れZに沿って上流側(中枢側)から流れる異物Fを捕捉するとともに、血液の流れZの最下流(末梢側)にある接続部42Aが異物Fを捕捉し難く、できるだけ異物Fを通過させるようになっている。すなわち、異物Fを意図的に任意の方向に流出させるように異物Fの流れを制御する。この構造では、フィルター40Aの回収時に異物Fの飛散を抑制することができ、また、異物Fが多い場合でもフィルター40Aの目詰まりが防止される等のメリットがある。
【0034】
なお、第2実施形態において、異物Fを流出させる任意の方向は特に限定されないが、基本的には右総頚動脈RCAや椎骨動脈VA等、終動脈、終静脈等、異物Fが流れては困る側方血管Pではない、末梢血管等に向かう方向などが挙げられる。
【0035】
また、接続部42Aの構造は、紐状部材44に限定されるものではなく、例えば、筒状本体部41Aの網目よりも粗い網目形状としてもよい。接続部42Aの網目の面積や、隣り合う紐状部材44どうしの間の空間面積の大きさを調整し、流出させる、又は捕捉する異物Fの量を制御することができる。
【0036】
以上のように、本発明の第1実施形態および第2実施形態に係る梗塞予防装置1,1Aを、発生した異物Fによる梗塞が懸念されるステントグラフト内挿術等の血管内治療において併用することにより、当該梗塞予防装置1,1Aのフィルター40,40Aが留置される血管とは異なる部位(例えば、大動脈弓A等)で発生した異物Fが飛散してもフィルター40,40Aが留置される血管内の血液中の異物Fの流れを制御することができる。これにより、異物Fが側方血管、特に他の動脈や静脈に接続されていない終動脈、終静脈に流入することを防止し、脳梗塞(組織の壊死)の発症を適正に予防することができる。
【0037】
また、フィルター40,40Aは、縮経時に伸長し、異物Fが絡まる網目構造を有するため、従来のIVC(Inferior Vena Cava;下大静脈)フィルター等より大きなサイズの異物Fを飛散させることなく回収可能である。加えて、頚動脈ステント用保護フィルターとは異なり、留置される血管の血流の下流側からフィルター40,40Aを留置することが可能となるため、血流の上流側からアクセスする他の血管内治療用部材との併用も容易に行うことができる。
【0038】
<第3実施形態>
図5(a)~
図5(c)及び
図6(a)~
図6(d)は、本発明の第3実施形態に係る梗塞予防装置1Bを示している。第3実施形態に係る梗塞予防装置1Bは、フィルター40Bの筒状本体部41Bの先端側開口45を開閉可能なフィルター開閉機構80、及び、筒状本体部41Bの全体を径方向内側に収縮させるフィルター収縮機構90を有するように構成されている。なお、「径方向内側」は、血管の内壁から離れる向きと言い換え得る。
【0039】
具体的には、第3実施形態に係る梗塞予防装置1Bは、
図5(a)~
図5(c)に示すように、第1実施形態に係る梗塞予防装置1と同様の各部材と、フィルター開閉機構80及びフィルター収縮機構90の一部として機能する線状部材70(クロージャストリング)と、を有するように構成されている。
【0040】
線状部材70は、ガイドチューブ60に設けられた中空部61(ルーメン)の内部に挿通されるように設けられている。線状部材70の一端は、ガイドチューブ60の先端側に形成された開口部62から中空部61の外部に出ており、一方、線状部材70の他端は、本体10(
図2(a)及び
図2(b)参照)の所定箇所に形成された開口部(図示略)から中空部61の外部に出ている。
線状部材70における先端側の開口部62から出た一端側の部分は、筒状本体部41Bの先端側開口45の近傍に周方向に離間して形成された複数の孔46をステッチ状に縫うように、周方向の一方向に向けて複数の孔46に順に挿通されている。そして、線状部材70における複数の孔46に挿通された一端側の末端部は、筒状本体部41Bの所定位置に任意の方法で固定されている。
なお、ガイドチューブ60の開口部62は、フィルター40Bの先端側開口45よりも先端側に配置されている。
【0041】
以下、フィルター開閉機構80及びフィルター収縮機構90について、
図6(a)~
図6(d)を参照しながらより詳細に説明する。
図6(a)~
図6(d)では、
図1に示すように腕頭動脈Cにフィルター40Bが留置された場合において、使用後のフィルター40Bをシースチューブ20の内側に収納する際の手順の一例が示されている。
【0042】
先ず、
図6(a)に示すように、フィルター40Bが腕頭動脈Cに留置された状態では、拡張状態にあるフィルター40Bの筒状本体部41Bが、右総頚動脈RCA及び椎骨動脈VAに対応する分岐箇所を覆っている。なお、拡張状態にあるフィルター40Bの内部には異物F(
図3参照。図示略)が捕捉されている。
【0043】
この状態から、先ず、操作者は、梗塞予防装置1Bの本体10側にて中空部61から出ている線状部材70の他端(図示略)を、手前側(
図6(b)において左側)に引く。すると、
図6(b)に示すように、筒状本体部41Bの先端側開口45の近傍に繋がる線状部材70がガイドチューブ60に向けて引かれ、筒状本体部41Bに先端側開口45を閉じる力が作用する。そして、筒状本体部41Bの先端側開口45が、腕頭動脈Cの内壁から離れるように径方向内側に移動する。換言すると、筒状本体部41Bは、先端側開口45を閉じるように変形する。これにより、フィルター40Bの内側に捕捉されている異物Fが、筒状本体部41Bの先端側開口45を介してフィルター40Bの外側に再び飛散することが抑制される。
このように、ガイドチューブ60の中空部61及び開口部62並びに線状部材70は、フィルター開閉機構80を構成している。
【0044】
なお、筒状本体部41Bの先端側開口45が「閉じる」とは、先端側開口45の開口面積が減少するように筒状本体部41Bが変形することを表す。具体的には、筒状本体部41Bは、先端側開口45の開口面積が実質的にゼロになる程度まで変形されてもよいし、先端側開口45の開口面積が
図6(a)に示す状態のときの開口面積よりも小さく且つゼロよりも大きい所定の開口面積となるまで変形されてもよい。
【0045】
次に、操作者は、筒状本体部41Bの先端側開口45が閉じた状態で、本体10側にて線状部材70の他端(図示略)を所定の方法で固定する。これにより、線状部材70が繋がっている筒状本体部41Bの先端側開口45の位置が、軸方向に移動しないように保持されることになる。そして、
図6(c)に示すように、操作者は、シースチューブ20及びガイドチューブ60に対してフィルターチューブ30を手前側(
図6(c)において左側)に引く。すると、線状部材70によって先端側開口45の位置が保持された状態で、筒状本体部41が基端側(
図6(c)において左側)に引かれ、フィルター40B全体を軸方向に伸張する力がフィルター40Bに作用する。そして、フィルター40B全体が腕頭動脈Cの内壁から離れるように径方向内側に変形し、筒状本体部41Bが腕頭動脈Cの内壁から離間する。換言すると、フィルター40B全体が、径方向内側に収縮するように変形する。
このように、フィルターチューブ30、ガイドチューブ60及び線状部材70は、フィルター収縮機構90を構成している。
【0046】
次に、操作者は、
図6(d)に示すように、フィルターチューブ30とガイドチューブ60との相対位置を維持しながら(即ち、フィルター40Bの収縮状態を維持しながら)、シースチューブ20に対して、フィルターチューブ30及びガイドチューブ60を手前側(
図6(d)において左側)に引くことで、フィルター40Bをシースチューブ20の内側に収納する。
【0047】
図6(d)に示すようにフィルター40Bを収縮状態に維持しながらシースチューブ20に収納することで、シースチューブ20の先端側開口21の開口端等とフィルター40Bとが接触することが抑制される。これにより、仮にフィルター40Bの網目の隙間から異物Fの一部がフィルター40Bの外側に向けて突出した状態となっている場合であっても、突出している異物Fの一部にシースチューブ20の先端側開口21の開口端等が接触することで異物Fの一部が砕かれて血液中に飛散することが抑制される。即ち、フィルター40Bの内側に捕捉されている異物Fが、フィルター40Bの収納時に再び飛散することが抑制される。
【0048】
更に、
図6に示す例では、
図6(a)~
図6(d)の過程に亘って、チップ50(梗塞予防装置1Bの先端部)が、
図6(a)に示す位置から腕頭動脈Cの中枢側(
図6において右側)に移動することがない。このため、腕頭動脈Cの中枢側の大動脈弓Aに留置されたステントグラフト100にチップ50が接触すること等が防がれる。
【0049】
更に、
図6(d)に示すように、腕頭動脈Cにおける、右総頚動脈RCAや椎骨動脈VAの分岐箇所より血流の下流側の位置において、シースチューブ20の内側にフィルター40Bが収納される。このため、仮にフィルター40Bの網目の隙間から突出した異物Fの一部がフィルター40Bの収納時に飛散しても、飛散した異物Fは血流の下流側に流れることとなり、右総頚動脈RCAや椎骨動脈VAに流入することが抑制される。
【0050】
<他の形態>
なお、上記した各実施形態にて、梗塞予防装置1,1A,1Bのフィルター40,40A,40Bを左総頚動脈LCA及び左鎖骨下動脈LSCAに留置する場合、必ずしも筒状本体部41,41A,41B全体が捕捉部43を構成している必要はなく、筒状本体部41,41A,41Bのうち、少なくともフィルター40,40A,40Bの接続部42が捕捉部43を構成していればよい。
【0051】
また、梗塞予防装置1,1A,1Bのフィルター40,40A,40Bを腕頭動脈Cに留置する場合、フィルター40,40A,40Bの筒状本体部41,41A,41B全体が捕捉部43を構成している必要はなく、筒状本体部41,41A,41Bのうち、少なくとも右総頚動脈RCAや椎骨動脈VA等、終動脈、終静脈等、異物Fが流れては困る側方血管Pに対応する部分のみが網目状に形成され、血管内の血液中の異物Fを捕捉可能な捕捉部43を構成していればよい。
【0052】
さらに、異物Fの発生源としては、例えば、上記した各実施形態では、フィルター40,40A,40Bが留置される一の血管(例えば、腕頭動脈C)とは異なる他の血管を例示したが、一例であってこれに限られるものではなく、フィルター40,40A,40Bが留置される一の血管におけるフィルター40,40A,40Bが留置される部位とは異なる部位であってもよいし、これら双方であってもよい。
フィルター40,40A,40Bは、捕捉部43で血管内の血液中の異物Fを捕捉し、且つ、血管内の血液中の異物の流れを制御可能なものであれば如何なる構成であってもよい。すなわち、捕捉部43は、必ずしも網目状に形成されている必要はなく、例えば、図示は省略するが、山部と谷部とが交互に現れるように金属細線がジグザグ状や波状に屈曲された形状であってもよい。
【0053】
また、上記した各実施形態では、大動脈瘤Bを治療する際に、梗塞予防装置1,1A,1Bのフィルター40,40A,40Bを腕頭動脈C、左総頚動脈LCA、左鎖骨下動脈LSCA等の血管に留置するようにしたが、一例であってこれに限られるものではなく、フィルター40,40A,40Bが留置される血管は適宜任意に変更可能である。例えば、腹部大動脈瘤(図示略)を治療する際に、梗塞予防装置1,1A,1Bのフィルター40,40A,40Bを左右の腎動脈に留置して、腎梗塞の発症を予防するようにしてもよい。くわえて、例えば、腕頭動脈C、左総頚動脈LCA、左鎖骨下動脈LSCA等の血管を治療する際に、当該血管に梗塞予防装置1を留置するようにしてもよい。
【0054】
すなわち、本発明の梗塞予防装置1,1A,1Bは、多様な種類、多様なサイズなど、多種多様な異物Fの流れを効果的に制御することができる。
【0055】
さらに、上記した第3実施形態では、線状部材70を用いてフィルター40Bの先端側の端部の位置を保持した状態で、フィルターチューブ30を用いてフィルター40Bの基端側の端部を基端側に引くことにより、フィルター40B全体を収縮させている(
図6(b)及び
図6(c)参照)。しかし、フィルター40B全体を収縮する上で、フィルター40Bを軸方向に伸張する力は如何なる手順および構成によって当該フィルター40Bに作用させてもよい。すなわち、フィルター40Bの基端側の端部と先端側の端部との距離を大きくするようにフィルター40Bを変形させればよく、例えば、基端側の端部を固定して先端側の端部を先端向きに移動させてもよいし、逆に先端側の端部を固定して基端側の端部を基端向きに移動させてもよいし、先端側の端部と基端側の端部とが離れるように双方を移動させてもよい。
【0056】
また、上記した第3実施形態では、シースチューブ20の位置を固定し、収縮状態にあるフィルター40Bをシースチューブ20に引き込むことで、フィルター40Bをシースチューブ20に収納するようになっている(
図6(d)参照)。しかし、フィルター40Bを収納する手法は本手法に限られず、例えば、収縮状態にあるフィルター40Bを固定してシースチューブ20を奥側に押し進めることでフィルター40Bを収納してもよいし、シースチューブ20を奥側に押し進めながらフィルター40Bをシースチューブ20に引き込むように双方を移動させることでフィルター40Bを収納してもよい。また、異物Fが右総頚動脈RCAや椎骨動脈VAに流入することをより適正に抑制する観点から、収縮状態にあるフィルター40B及びシースチューブ20を含む梗塞予防装置1の全体を、右総頚動脈RCA及び椎骨動脈VAとの分岐箇所から離れるように血流の下流側に(
図6(d)における左側)に移動させた上で、フィルター40Bをシースチューブ20に収納してもよい。
【0057】
また、上記した第3実施形態では、線状部材70が、筒状本体部41Bの先端側開口45の近傍に形成された複数の孔46に挿通されている。しかし、線状部材70は、筒状本体部41Bの先端側開口45を閉じることが可能であるように筒状本体部41Bに取り付けられていればよく、如何なる取り付け方が用いられてもよい。例えば、線状部材70は、筒状本体部41Bの先端側開口45の近傍に周方向に沿って延びるように設けた筒状部の内側に挿通されていてもよいし、筒状本体部41Bの先端側開口45の近傍に螺旋状に設けられていてもよいし、周方向においてジグザグ状に屈曲された形状に設けられていてもよい。また、筒状本体部41Bの構造によっては、第3実施形態のように先端側開口45の周方向の全体に亘って線状部材70で外力を及ぼす必要はなく、先端側開口45の周方向の一部のみに線状部材70で外力を及ぼすようにしてもよい。
【0058】
また、上記した第3実施形態では、第1実施形態に係る梗塞予防装置1のフィルター40(
図3参照)と同等のフィルター40Bに線状部材70を設けているが、第2実施形態に係る梗塞予防装置1Aのフィルター40A(
図4参照)に線状部材70を設けてもよい。
【0059】
なお、上記実施形態にて、フィルター40,40A,40Bは、筒状本体部41,41A,41Bや接続部42を網目状に形成したが、一例であってこれに限られるものではなく、血液が通液可能な開口を有する形状であれば適宜任意に変更可能である。すなわち、例えば、糸状部材(図示略)を縦や横に織り込んだ形状であってもよいし、レーザー加工により複数の開口を有する形状であってもよい。
【0060】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、留置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の梗塞予防装置は、血管の治療の際に発生し得る様々な異物の流れを効果的に制御可能であり、梗塞の発症を適正に予防し得る治療の提供に有用である。
【符号の説明】
【0062】
1,1A,1B 梗塞予防装置
10 本体
20 シースチューブ
30 フィルターチューブ
40,40A,40B フィルター
41,41A,41B 筒状本体部(本体部)
42,42A 接続部
43 捕捉部
45 先端側開口
50 チップ
60 ガイドチューブ
70 線状部材
80 フィルター開閉機構
90 フィルター収縮機構
100 ステントグラフト