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  • 特許-粘着性物品 図1
  • 特許-粘着性物品 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】粘着性物品
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20230418BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20230418BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J5/00
C09J201/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018181177
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2019065280
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2017192138
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 淳
(72)【発明者】
【氏名】巻幡 陽介
(72)【発明者】
【氏名】水原 銀次
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-135473(JP,U)
【文献】特開平02-102280(JP,A)
【文献】特開平02-238078(JP,A)
【文献】特開昭60-124679(JP,A)
【文献】特表平08-507567(JP,A)
【文献】特表2004-508449(JP,A)
【文献】特開2015-151479(JP,A)
【文献】実開昭48-067061(JP,U)
【文献】実公昭38-028672(JP,Y1)
【文献】特開2000-290603(JP,A)
【文献】特開平01-308471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸により粘着性を発現する粘着性物品であって、
前記粘着性物品は複数の凝集性粒子の集合体を含み、
前記複数の凝集性粒子の各々は、粘着性のコアと、前記コアを被覆する非粘着性のシェルからなるコアシェル構造を有するポリマー粒子であり、
線状である、粘着性物品。
【請求項2】
前記粘着性物品は線状の芯材をさらに含み、
前記芯材の長手方向の表面は前記複数の凝集性粒子の集合体からなる層によって被覆されている請求項に記載の粘着性物品。
【請求項3】
下記プローブタック試験4により測定される前記粘着性物品の2倍延伸後のタック値が、下記プローブタック試験3により測定される延伸前のタック値より1gf以上大きい請求項またはに記載の粘着性物品。
(プローブタック試験3)
測定温度23℃の環境下、前記粘着性物品の表面に、直径2mmのステンレス鋼製プローブ(SUS304)を接触荷重50gfで接触させた後、30mm/分の速度で1mm引き離す際にプローブにかかる荷重を経時的に測定し、引き剥がす際に要する最大荷重を求める。
(プローブタック試験4)
測定温度23℃の環境下、前記粘着性物品を長さ方向に延伸した後、前記粘着性物品の表面に、直径2mmのステンレス鋼製プローブ(SUS304)を接触荷重50gfで接触させた後、30mm/分の速度で1mm引き離す際にプローブにかかる荷重を経時的に測定し、引き剥がす際に要する最大荷重を求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着性物品に関し、より詳細には、延伸により粘着性を発現する粘着性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着シートや粘着テープが、金属、ガラス、木材、紙、ダンボール、プラスチック材料等の各種被着体の接着などに用いられている。このような粘着シートは、通常、被着体へ貼り付けるまでの間、粘着面を保護するために、粘着面がセパレータ(剥離シート)で保護されている。また、ロール状の粘着テープのような巻回された形態の場合には、巻き戻しを容易にするため、粘着面が接触する背面に剥離処理を施した基材が用いられている。
【0003】
しかしながら、セパレータを用いた粘着シートにおいて、使用時に剥離されるセパレータは剥離後に廃棄されるため、省資源化や低コスト化の観点からは、その使用は望ましくない。また、使用者が手袋をしながら使用する場合や、使用される粘着シートあるいは粘着テープの大きさが小さい場合には、粘着シートからセパレータを剥離する際や粘着テープを巻き戻す際の作業性が悪いという問題がある。したがって、セパレータや基材裏面の剥離処理を必要としない粘着シートあるいは粘着テープが提供できれば、有用であると考えられる。
【0004】
このような粘着シートとして、特許文献1には、常温では粘着性が低く、一方、加熱した場合に粘着性を発現する、粘着シートおよび粘着テープなどに有用な感熱粘着剤組成物、及びその感熱粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する感熱粘着シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-231464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたような感熱粘着シートは、加熱により粘着性を発現するため、以下のような問題を有している。第一に、該感熱粘着シートに粘着性を発現させるための熱源が必要である。第二に、被着体への貼り付け後に熱がかかるような使用環境下では、使用が困難であり、すなわち保存安定性が悪い。第三に、被着体に接触させた状態で加熱して粘着性を発現させるような場合、熱に弱い被着体への適用が困難である。第四に、基材を有する粘着シート(粘着テープ)の形態をとる場合、熱に弱い基材を用いることが困難である。
【0007】
以上のような問題を鑑みて、本発明は、初期状態では実質的に非粘着性でありながら、使用時には簡易な操作により粘着性を発現可能であり、また、多様な条件下で適用可能な粘着性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、延伸により粘着性を発現する粘着性物品であって、前記粘着性物品は複数の凝集性粒子の集合体を含み、前記複数の凝集性粒子の各々は、粘着性のコアと、前記コアを被覆する非粘着性のシェルからなるコアシェル構造を有するポリマー粒子である粘着性物品に関する。
【0009】
本発明の一態様において、前記粘着性物品は、シート状であってもよい。
【0010】
本発明の一態様において、前記粘着性物品は基材をさらに含み、前記基材の少なくとも一方の面上に前記複数の凝集性粒子の集合体からなる層が設けられていてもよい。
【0011】
本発明の一態様において、前記粘着性物品は、下記プローブタック試験2により測定される前記粘着性物品の2倍延伸後のタック値が、下記プローブタック試験1により測定される延伸前のタック値より20gf以上大きいことが好ましい。
(プローブタック試験1)
測定温度23℃の環境下、前記粘着性物品の表面に、直径5mmのステンレス鋼製プローブ(SUS304)を接触荷重50gfで接触させた後、30mm/分の速度で1mm引き離す際にプローブにかかる荷重を経時的に測定し、引き剥がす際に要する最大荷重を求める。
(プローブタック試験2)
測定温度23℃の環境下、前記粘着性物品を長さ方向に延伸した後、前記粘着性物品の表面に、直径5mmのステンレス鋼製プローブ(SUS304)を接触荷重50gfで接触させた後、30mm/分の速度で1mm引き離す際にプローブにかかる荷重を経時的に測定し、引き剥がす際に要する最大荷重を求める。
【0012】
本発明の一態様において、前記粘着性物品は、線状であってもよい。
【0013】
本発明の一態様において、前記粘着性物品は線状の芯材をさらに含み、前記芯材の長手方向の表面は前記複数の凝集性粒子の集合体からなる層によって被覆されていてもよい。
【0014】
本発明の一態様において、前記粘着性物品は、下記プローブタック試験4により測定される前記粘着性物品の2倍延伸後のタック値が、下記プローブタック試験3により測定される延伸前のタック値より1gf以上大きいことが好ましい。
(プローブタック試験3)
測定温度23℃の環境下、前記粘着性物品の表面に、直径2mmのステンレス鋼製プローブ(SUS304)を接触荷重50gfで接触させた後、30mm/分の速度で1mm引き離す際にプローブにかかる荷重を経時的に測定し、引き剥がす際に要する最大荷重を求める。
(プローブタック試験4)
測定温度23℃の環境下、前記粘着性物品を長さ方向に延伸した後、前記粘着性物品の表面に、直径2mmのステンレス鋼製プローブ(SUS304)を接触荷重50gfで接触させた後、30mm/分の速度で1mm引き離す際にプローブにかかる荷重を経時的に測定し、引き剥がす際に要する最大荷重を求める。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様に係る粘着性物品は、初期状態では実質的に非粘着性であるため、セパレータや剥離処理が不要である。また、簡易な操作により粘着性を発現可能であり、作業性に優れる。また、多様な条件下で適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、シート状の粘着性物品の一構成例の模式的な断面図である。
図2図2は、線状の粘着性物品の一構成例の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際の製品のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
また、本明細書においては、質量を基準とした割合(百分率、部など)は、重量を基準とした割合(百分率、部など)と同じである。
【0018】
本発明の実施形態に係る粘着性物品は、延伸により粘着性を発現する粘着性物品であって、前記粘着性物品は複数の凝集性粒子の集合体を含み、前記複数の凝集性粒子の各々は、粘着性のコアと、前記コアを被覆する非粘着性のシェルからなるコアシェル構造を有するポリマー粒子である。
【0019】
本実施形態の粘着性物品は、複数の凝集性粒子の集合体を少なくとも含む。そして、その複数の凝集性粒子は、各々、粘着性のコアと、コアを被覆する非粘着性のシェルからなるコアシェル構造を有するポリマー粒子(以下、コアシェルポリマー粒子ともいう)である。なお、コアシェルポリマー粒子のシェルは、典型的には上記コアの外面全体を覆って配置されるが、これに限定されない。すなわち、コアの外面のうち少なくとも一部の領域がシェルで被覆されている粒子は、ここでいうコアシェルポリマー粒子の概念に包含され得、初期状態の粘着性物品が実質的に非粘着性である範囲において、粘着性物品に含有されうる。
【0020】
コアシェルポリマー粒子を構成する粘着性のコアには、粘着性を有するポリマー(粘着性成分)が用いられる。そのようなコア材料として用いられうるポリマーとしては、アクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、フッ素系ポリマー等の各種ポリマーが挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、粘着性の観点からは、アクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー等が好適に用いられ、アクリル系ポリマーが特に好適に用いられうる。
【0021】
また、コアシェルポリマー粒子を構成する非粘着性のシェルには、非粘着性のポリマー(非粘着性成分)が用いられる。そのようなシェル材料として用いられうるポリマーとしては、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ウレタン系ポリマー等の各種ポリマーが挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、生産性(低コストであり、高ベース品を得やすいことなど)の観点からはアクリル系ポリマーが特に好適に用いられうる。
【0022】
以下において、本実施形態の粘着性物品に用いられうるコアシェルポリマー粒子の一例として、コアがアクリル系重合体(A)を含み、シェルがアクリル系重合体(B)を含むコアシェル構造アクリル系共重合体粒子の例について説明するが、本実施形態はこれに何ら限定されるものではない。
【0023】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよびメタクリロイルを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートおよびメタクリレートを、「(メタ)アクリル」とはアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。
【0024】
コアシェル構造アクリル系共重合体粒子のシェルとなるアクリル系重合体(B)としては、好ましくは、例えば、主たるモノマーユニットがメタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアクリレート等であるアクリル系共重合体が挙げられる。中でも、主たるモノマーユニットがメタクリル酸メチルであるアクリル系共重合体(B1)が好ましく、具体的には、メタクリル酸メチル及びカルボキシ基含有モノマーをモノマーユニットとして含有するアクリル系共重合体(B1-1)、メタクリル酸メチル、カルボキシ基含有モノマー及び(メタ)アクリル酸C2-14アルキルエステルをモノマーユニットとして含有するアクリル系共重合体(B1-2)等が挙げられる。
【0025】
カルボキシ基含有モノマーは特に限定はされないが、例えば、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等を挙げることができる。中でも、アクリル酸及び/またはメタクリル酸が好ましく、より好ましくはアクリル酸及びメタクリル酸の併用である。なお、アクリル酸及びメタクリル酸を併用する場合、その量比は特に限定はされないが、略同量であるのが好ましい。カルボキシ基含有モノマーは1種または2種以上を使用できる。
【0026】
(メタ)アクリル酸C2-14アルキルエステルは、炭素原子数が2~14のアルキル基が、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよく、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシルが挙げられる。かかる(メタ)アクリル酸C2-14アルキルエステルは、好ましくはアクリル酸C2-12アルキルエステルであり、より好ましくはアクリル酸C4-8アルキルエステルであり、特に好ましくはアクリル酸n-ブチルである。
【0027】
アクリル系共重合体(B1)は、全モノマーユニット中、メタクリル酸メチルを50~99重量%含有することが好ましく、60~90重量%含有することがより好ましく、60~70重量%含有することが特に好ましい。
【0028】
メタクリル酸メチル及びカルボキシ基含有モノマーをモノマーユニットとして含有するアクリル系共重合体(B1-1)の組成は、メタクリル酸メチル:カルボキシ基含有モノマー(重量比)が80~99:20~1が好ましく、80~95:20~5がより好ましく、85~95:15~5が特に好ましい。また、メタクリル酸メチル、カルボキシ基含有モノマー及び(メタ)アクリル酸C2-14アルキルエステルをモノマーユニットとして含有するアクリル系共重合体(B1-2)の組成は、メタクリル酸メチル:カルボキシ基含有モノマー:(メタ)アクリル酸C2-14アルキルエステル(重量比)が、50~98:1~20:1~30(但し、3成分の合計重量が100)が好ましく、60~90:5~20:5~20(但し、3成分の合計重量が100)がより好ましい。
【0029】
なお、アクリル系共重合体(B1)及び(B1-1)は、それぞれ、全モノマーユニット中の10重量%以下の範囲内で、メタクリル酸C2-18アルキルエステルやヒドロキシ基含有モノマーをモノマーユニットとして含有することができる。また、アクリル系共重合体(B1-2)は、全モノマーユニット中の10重量%以下の範囲内で、メタクリル酸C15-18アルキルエステルやヒドロキシ基含有モノマーをモノマーユニットとして含有することができる。
【0030】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシラウリル、(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチルメタクリレート等が挙げられる。
【0031】
コアシェル構造アクリル系共重合体粒子のシェルを形成するアクリル系重合体(B)のガラス転移温度は、特に限定されるものではないが、良好な非粘着性を示すためには、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましい。また、上限値としても特に限定されるものではないが、造膜性の観点からは、例えば150℃以下である。
【0032】
本明細書において、アクリル系重合体(B)のガラス転移温度(℃)は、アクリル系重合体(B)を構成するモノマーユニットとその割合から、下記のFOXの式により算出される理論ガラス転移温度(K)を、摂氏温度(℃)に換算したものである。
【0033】
FOXの式:1/Tg=W/Tg+W/Tg+・・・+W/Tg
(Tg:重合体のガラス転移温度(K)、Tg、Tg、・・・、Tg:各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(K)、W、W、・・・、W:各モノマーの重量分率)
【0034】
上記FOXの式より求められる理論ガラス転移温度(摂氏温度(℃)に換算)は、示差走査熱量測定(DSC)や動的粘弾性などにより求められる実測ガラス転移温度とよく一致する。
【0035】
コアシェル構造アクリル系共重合体粒子のシェルには、アクリル系重合体(B)に加えて、アクリル系重合体(B)以外のポリマーが含有されていてもよい。その場合、非粘着性の観点からは、シェルを形成するポリマー全体に対するアクリル系重合体(B)の割合が、50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。
【0036】
コアシェル構造アクリル系共重合体粒子のコアを形成するアクリル系重合体(A)としては、好ましくは、例えば、主たるモノマーユニットとして、(メタ)アクリル酸C1-14アルキルエステルから選択される1種または2種以上を含むホモポリマーまたはコポリマーが挙げられる。
【0037】
(メタ)アクリル酸C1-14アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル等が挙げられる。
【0038】
(メタ)アクリル酸C1-14アルキルエステルは、アクリル酸C1-14アルキルエステルであるのが好ましく、アクリル酸C1-10アルキルエステルであるのがより好ましく、アクリル酸C2-8アルキルエステルであるのがさらに一層好ましく、特に好ましくは、アクリル酸C4-8アルキルエステルである。
【0039】
主たるモノマーユニットが、(メタ)アクリル酸C1-14アルキルエステルから選択される1種または2種以上からなるホモポリマーまたはコポリマーは、モノマーユニットとしてカルボキシ基含有モノマーやヒドロキシ基含有モノマーをさらに含むコポリマーであってもよい。ここでいう「カルボキシ基含有モノマー」及び「ヒドロキシ基含有モノマー」の具体例としては、前述のアクリル系重合体(B)のモノマーユニットとして例示したものを挙げることができる。
【0040】
コアシェル構造アクリル系共重合体粒子のコアを形成するアクリル系重合体(A)のガラス転移温度は、特に限定されるものではないが、良好な粘着性を示すためには、0℃以下であることが好ましく、-20℃以下であることがより好ましい。なお、ここでいう「アクリル系重合体(A)のガラス転移温度」は、アクリル系重合体(A)を構成するモノマーユニットとその割合から、前記のFOXの式により算出される理論ガラス転移温度(K)を、摂氏温度(℃)に換算したものである。
【0041】
アクリル系重合体(A)の好適な具体例としては、アクリル酸n-ブチル(BA)のホモポリマー、アクリル酸n-ヘキシル(HA)のホモポリマー、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)のホモポリマー、BA、HA及び2EHAから選択される2種以上をモノマーユニットとするコポリマー等が挙げられる。
【0042】
コアシェル構造アクリル系共重合体粒子のコアには、アクリル系重合体(A)に加えて、アクリル系重合体(A)以外のポリマーが含有されていてもよい。その場合、粘着性の観点からは、コアを形成するポリマー全体に対するアクリル系重合体(A)の割合が、50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。
【0043】
以下において、コアシェル構造を有するポリマー粒子(コアシェルポリマー粒子)の一製造例について説明するが、これに限定されるものではない。
【0044】
本製造例においては、まず、コアシェルポリマー粒子のコアとなる重合体を生成するための乳化重合を行う。この乳化重合は常法により行なうことができる。すなわち、コアとなる重合体のモノマーユニットとなるモノマー(コア形成用モノマー)とともに、乳化剤(界面活性剤)、ラジカル重合開始剤、必要に応じて連鎖移動剤等を適宜配合し、一括仕込み法(一括重合法)、モノマー滴下法、モノマーエマルション滴下法等の公知の乳化重合法にて乳化重合を行う。なお、モノマー滴下法では、連続滴下又は分割滴下が適宜選択される。コアとなる重合体を得るための乳化重合の反応条件は適宜選択されるが、例としてアクリル系モノマーを用いる場合であれば、重合温度は、例えば、40~95℃程度であるのが好ましく、重合時間は30分間~24時間程度であるのが好ましい。
【0045】
上記の乳化重合において、乳化剤としては、例えば、乳化重合に通常使用される各種の非反応性界面活性剤が用いられる。非反応性界面活性剤としては、例えば、アニオン系非反応性界面活性剤、ノニオン系非反応性界面活性剤が用いられる。アニオン系非反応性界面活性剤の具体例としては、オレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸エステル塩およびその誘導体類;ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩類等を例示することができる。ノニオン系非反応性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート等のソルビタン高級脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等のポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート等のポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類;オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル等を例示することができる。
【0046】
また、上記非反応性界面活性剤の他に、界面活性剤としては、エチレン性不飽和二重結合に係るラジカル重合性官能基を有する反応性界面活性剤を用いることができる。反応性界面活性剤としては、前記アニオン系非反応性界面活性剤にプロペニル基やアリルエーテル基などのラジカル重合性官能基が導入されたアニオン系反応性界面活性剤、前記ノニオン系非反応性界面活性剤にプロペニル基やアリルエーテル基などのラジカル重合性官能基が導入されたノニオン系反応性界面活性剤等が挙げられる。なお、乳化剤としては、1種または2種以上を使用できる。
【0047】
アニオン系反応性界面活性剤の具体例としては、アルキルエーテル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンKH-05、KH-10、KH-20、株式会社ADEKA製アデカリアソープSR-10N、SR-20N、花王株式会社製ラテムルPD-104等);スルホコハク酸エステル系(市販品としては、例えば、花王株式会社製ラテムルS-120、S-120A、S-180P、S-180A、三洋化成株式会社製エレミノールJS-20等);アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンH-2855A、H-3855B、H-3855C、H-3856、HS-05、HS-10、HS-20、HS-30、HS-1025、BC-05、BC-10、BC-20、株式会社ADEAKA製アデカリアソープSDX-222、SDX-223、SDX-232、SDX-233、SDX-259、SE-10N、SE-20N);(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製アントックスMS-60、MS-2N、三洋化成工業株式会社製エレミノールRS-30等);リン酸エステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製H-3330PL、株式会社ADEAKA製アデカリアソープPP-70等)が挙げられる。
【0048】
ノニオン系反応性界面活性剤としては、例えばアルキルエーテル系(市販品としては、例えば、株式会社ADEAKA製アデカリアソープER-10、ER-20、ER-30、ER-40、花王株式会社製ラテムルPD-420、PD-430、PD-450等);アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンRN-10、RN-20、RN-30、RN-50、株式会社ADEAKA製アデカリアソープNE-10、NE-20、NE-30、NE-40等);(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製RMA-564、RMA-568、RMA-1114等)が挙げられる。
【0049】
上記のラジカル重合開始剤としては、特に制限されず、乳化重合に通常使用される公知のラジカル重合開始剤が用いられる。例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩などのアゾ系開始剤;例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩系開始剤;例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素などの過酸化物系開始剤;例えば、フェニル置換エタンなどの置換エタン系開始剤;例えば、芳香族カルボニル化合物などのカルボニル系開始剤などが挙げられる。これら重合開始剤は、適宜、単独または併用して用いられる。また、乳化重合を行なうに際して、所望により重合開始剤とともに還元剤を併用するレドックス系開始剤とすることができる。これにより、乳化重合速度を促進したり、低温において乳化重合を行ったりすることが容易になる。このような還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラート等の金属塩等の還元性有機化合物;チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物;塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素などを例示できる。
【0050】
上記の乳化重合におけるモノマーエマルションの組成は、モノマー100重量部当たり、界面活性剤を0.5~6重量部(好ましくは1~4重量部)、水を40~80重量部(好ましくは45~60重量部)を含有する組成が好ましい。なお、ここでいう、「界面活性剤」及び「水」の量は、乳化重合がモノマーエマルション滴下法であるときは、それぞれ、滴下するモノマーエマルションと重合反応容器内に仕込んでおくものとの合計量である。
【0051】
上記のようにコアとなる重合体を生成するための乳化重合を行った後、生成したコアとなる重合体を含む水分散液に、シェルとなる重合体のモノマーユニットとなるモノマーを加えて乳化重合させることで、コアシェルポリマー粒子の水分散液を得ることができる。
【0052】
ここで、生成したコアとなる重合体を含む水分散液に、シェルとなる重合体のモノマーユニットとなるモノマー(シェル形成用モノマー)を加える際には、該モノマーに乳化剤を添加しないことが好ましい。このようにすれば、本実施形態の粘着性物品を構成する、粘着性のコアが非粘着性のシェルに被覆されたコアシェル構造を有するポリマー粒子が生成されやすい。この理由は必ずしも定かではないが、上記のようにすることでコアシェル率が高められるためと考えられる。すなわち、コア形成用モノマーの単独重合体からなる粒子やシェル形成用モノマーの単独重合体からなる粒子の生成が少なくなるためと考えられる。
【0053】
なお、生成したコアとなる重合体を含む水分散液にシェル形成用モノマーを加える際には、シェル形成用モノマーとともに、必要に応じてラジカル重合開始剤や連鎖移動剤等を適宜配合してもよい。また、重合にあたってはモノマー滴下法、モノマーエマルション滴下法、シード重合法等の公知の乳化重合法を採用できる。なお、モノマー滴下法では、連続滴下又は分割滴下が適宜選択される。反応条件は適宜選択されるが、例としてアクリル系モノマーを用いる場合であれば、重合温度は、例えば、40~95℃程度であるのが好ましく、重合時間は30分間~24時間程度であるのが好ましい。
【0054】
また、このようにして得られるコアシェルポリマー粒子の水分散液には、塗工(塗布)性向上のために、例えば、アンモニア水等のアルカリを添加して、pHを7.0~9.0程度に調整するのが好ましい。
【0055】
コアシェルポリマー粒子におけるコアを形成するポリマー(C)とシェルを形成するポリマー(S)の含有量比((C)/(S))は95/5~65/35(重量比)が好ましく、より好ましくは90/10~70/30、特に好ましくは85/15~75/25である。当該比((C)/(S))がかかる好ましい範囲を超えてコアを形成するポリマー(C)の割合が多いと、初期粘着力が高くなる傾向がある。一方、シェルを形成するポリマー(S)の割合が多いと、延伸しにくくなったり、粘着力が発現しにくくなる傾向がある。
【0056】
本実施形態の粘着性物品は複数の凝集性粒子(コアシェルポリマー粒子)の集合体を含む。また、本実施形態の粘着性物品は、延伸により粘着性を発現するものであり、延伸前の初期状態においては粘着性を実質的に有さず、すなわち実質的に非粘着性である。
【0057】
ここで、本実施形態の粘着性物品が延伸により粘着性を発現する理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。すなわち、本実施形態の粘着性物品に含有される複数の凝集性粒子(コアシェルポリマー粒子)の少なくとも一部は、重合反応後の乾燥工程等において、隣接するコアシェルポリマー粒子のシェル同士が互いに融着した状態となると考えられる。そして、粘着性物品が延伸されることにより、隣接するコアシェルポリマー粒子において互いに融着したシェル部分に応力がかかることでシェルの破断が生じ、非粘着性のシェルに被覆されていた粘着性のコアが外部に露出することで粘着性を発現すると推察される。
【0058】
本実施形態の粘着性物品の形状は、延伸可能な形状であれば特に限定されず、例えば、シート状、線状、塊状、袋状、チューブ状、ハニカム状、メッシュ状等の種々の形態をとることができる。ここで、本実施形態の粘着性物品は、複数の凝集性粒子の集合体から構成される支持体レスの粘着性物品であってもよいが、粘着性物品の形態に応じた性状を有する支持体をさらに備えていてもよい。一実施形態において、複数の凝集性粒子の集合体からなる層(以下、凝集性粒子層ともいう)は、基材の少なくとも一つの面上に設けられる。
【0059】
以下において、シート状の粘着性物品を例にとり説明する。なお、ここにいうシート状とは、シート状の他に、テープ状、フィルム状、ラベル状、ロール状等の形状をも包含する概念である。
【0060】
シート状の粘着性物品は、複数の凝集性粒子の集合体からなる層からなるシート状の支持体レスの粘着性物品でありうる。シート状の支持体レスの粘着性物品の場合、その厚みは特に限定されないが、厚みが小さすぎると延伸時に粘着性物品が破断するおそれがあることから、例えば1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。また、厚みが大きすぎると延伸時に大きな応力を必要とする場合があることから、例えば100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0061】
また、シート状の粘着性物品は、支持体としての基材をさらに備えていてもよい。基材を有するシート状の粘着性物品においては、その基材の少なくとも一方の面上に、複数の凝集性粒子の集合体からなる層が設けられる。図1に、支持体としての基材を有するシート状の粘着性物品の一構成例の模式的な断面図を示す。
【0062】
図1に示されるシート状の粘着性物品1においては、複数の凝集性粒子5の集合体からなる層(凝集性粒子層)が、支持体としての基材3の一方の面上に設けられている。複数の凝集性粒子5は、各々、粘着性のコア51と、コア51を被覆する非粘着性のシェル52からなるコアシェル構造を有するポリマー粒子である。
【0063】
なお、図1に示されるシート状の粘着性物品においては、凝集性粒子層が基材の一方の面のみに設けられているが、凝集性粒子層は基材の両面に設けられていてもよい。また、図1に示されるシート状の粘着性物品においては、凝集性粒子層は基材の一方の面側の全面上に設けられているが、これに限定されるものではなく、基材の一方または両方の面側の一部のみに設けられていてもよい。また、凝集性粒子層は典型的には連続的に形成されるが、かかる形態に限定されるものではなく、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成されてもよい。
【0064】
シート状の粘着性物品に用いられる基材としては、粘着性物品の延伸を妨げないものであれば特に限定されないが、それ自体が延伸可能な材質のものが好ましく、例えば、樹脂フィルム、紙、布、ゴムシート、発泡体シート、これらの複合体(多層体)等を用いることができる。樹脂フィルムの例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン系フィルム;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルム;ウレタン、アクリルウレタン等のウレタン系フィルム;塩化ビニル樹脂フィルム;酢酸ビニル樹脂フィルム;ポリイミド樹脂フィルム;ポリアミド樹脂フィルム;フッ素樹脂フィルム;セロハン等が挙げられる。紙の例としては、和紙、クラフト紙、グラシン紙、上質紙、合成紙、トップコート紙等が挙げられる。布の例としては、各種繊維状物質の単独または混紡等による織布や不織布等が挙げられる。上記繊維状物質としては、綿、スフ、マニラ麻、パルプ、レーヨン、アセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等が例示される。ゴムシートの例としては、天然ゴムシート、ブチルゴムシート等が挙げられる。発泡体シートの例としては、発泡ポリウレタンシート、発泡ポリクロロプレンゴムシート等が挙げられる。
【0065】
なお、ここでいう不織布は、主として粘着テープその他の粘着シートの分野において使用される粘着シート用不織布を指す概念であって、典型的には一般的な抄紙機を用いて作製されるような不織布(いわゆる「紙」と称されることもある。)をいう。また、ここでいう樹脂フィルムとは、典型的には非多孔質の樹脂シートであって、例えば不織布とは区別される(すなわち、不織布を含まない)概念である。上記樹脂フィルムは、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムのいずれであってもよい。また、該基材の表面には、下塗り剤の塗付、コロナ放電処理、プラズマ処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0066】
なかでも、延伸のしやすさの観点からは、ポリオレフィン系フィルム、ウレタン系フィルムが好ましい。
【0067】
基材の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択できるが、厚みが小さすぎると延伸時に粘着性物品が破断するおそれがあることから、例えば5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、厚みが大きすぎると延伸時に大きな応力を必要とする場合があることから、例えば100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0068】
上記基材には、必要に応じて、充填剤(無機充填剤、有機充填剤など)、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、着色剤(顔料、染料など)等の各種添加剤が配合されていてもよい。基材の表面には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、下塗り剤の塗布等の、公知または慣用の表面処理が施されていてもよい。
【0069】
また、図1のような基材を有するシート状の粘着性物品の場合において、凝集性粒子層の厚みは特に限定されないが、粘着力の観点からは、例えば1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。また、乾燥性の観点からは、例えば200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。
【0070】
また、複数の凝集性粒子の集合体からなる層(凝集性粒子層)は、基材の表面上に直接的に設けられていてもよいが、粘着剤層を介して設けられていてもよい。粘着剤層を構成する粘着剤としては特に限定されず、公知の粘着剤を用いることが可能である。例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ウレタン系粘着剤、フッ素系粘着剤、エポキシ系粘着剤などが挙げられる。中でも、接着性の点から、ゴム系粘着剤やアクリル系粘着剤が好ましく、特にアクリル系粘着剤が好ましい。なお、粘着剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本実施形態における粘着剤は、常温で粘着性を有し、粘着剤の表面と被着体の表面との接触時に生じる圧力によって、被着体をその表面に貼付できる感圧型粘着剤であることが好ましい。感圧型粘着剤であれば、加熱を要さず、熱に弱い被着体にも適用可能である。
【0071】
アクリル系粘着剤は、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これらに必要によりアクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸、無水マレイン酸、ビニルピロリドン、グリシジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミドなどの改質用単量体を加えてなる単量体の重合体を主剤としたものである。
【0072】
ゴム系粘着剤は、天然ゴム、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ブチルゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴムなどのゴム系ポリマーを主剤としたものである。
【0073】
また、これら粘着剤にはロジン系、テルペン系、スチレン系、脂肪族石油系、芳香族石油系、キシレン系、フエノール系、クマロンインデン系、それらの水素添加物などの粘着付与樹脂や、液状樹脂、液状ゴム、ポリブデン、プロセスオイル、ジオクチルフタレートなどの軟化剤、酸化防止剤、充填剤、顔料、架橋剤などの添加物を適宜配合できる。
【0074】
粘着剤層の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。通常は、粘着剤層の厚さとして1μm~200μm程度が適当であり、3μm~150μm程度が好ましい。
【0075】
本明細書において、初期状態(延伸前)のシート状の粘着性物品が「粘着性を実質的に有さない(実質的に非粘着性である)」とは、該粘着性物品の表面の下記プローブタック試験1により測定されるタック値が5gf以下であることを表す。また、初期状態(延伸前)のシート状の粘着性物品が「粘着性を有する」とは、該粘着性物品の表面の下記プローブタック試験1により測定されるタック値が5gf超であることを表す。該タック値は、より具体的には、後述する実施例の欄に記載のプローブタック測定方法に準じて測定される。
【0076】
(プローブタック試験1)
測定温度23℃の環境下、粘着性物品の表面に、直径5mmのステンレス鋼製プローブ(SUS304)を接触荷重50gfで接触させた後、30mm/分の速度で1mm引き離す際にプローブにかかる荷重を経時的に測定し、引き剥がす際に要する最大荷重を求める。
【0077】
また、本明細書において、延伸後のシート状の粘着性物品が「粘着性を実質的に有さない(実質的に非粘着性である)」とは、該粘着性物品の延伸後の、該粘着性物品の表面の下記プローブタック試験2により測定されるタック値5gf以下であることを表す。また、延伸後のシート状の粘着性物品が「粘着性を有する」とは、該粘着性物品の延伸後の、該粘着性物品の表面の下記プローブタック試験2により測定されるタック値が5gf超であることを表す。該タック値は、より具体的には、後述する実施例の欄に記載のプローブタック測定方法に準じて測定される。
【0078】
(プローブタック試験2)
測定温度23℃の環境下、粘着性物品を長さ方向に延伸した後、粘着性物品の表面に、直径5mmのステンレス鋼製プローブ(SUS304)を接触荷重50gfで接触させた後、30mm/分の速度で1mm引き離す際にプローブにかかる荷重を経時的に測定し、引き剥がす際に要する最大荷重を求める。
【0079】
また、粘着性物品が「延伸により粘着性を発現する」とは、延伸前の初期状態では実質的に非粘着性であり、かつ延伸後には粘着性を有することを表す。
【0080】
ここで、延伸による粘着性の発現がより良好に発揮されるためには、シート状の粘着性物品の2倍延伸後のタック値が、延伸前のタック値よりも20gf以上大きいことが好ましく、30gf以上大きいことがより好ましく、40gf以上大きいことがさらに好ましい。
【0081】
また、同様の観点から、シート状の粘着性物品の2倍延伸後のタック値は、好ましくは30gf以上であり、より好ましくは40gf以上であり、さらに好ましくは50gf以上である。なお、2倍延伸後のタック値の上限値は特に限定されないが、せん断力との兼ね合いの観点からは、例えば1000gf以下である。
【0082】
また、以下において、線状の粘着性物品を例にとり説明する。なお、ここにいう線状とは、直線状、曲線状、折れ線状等の他にも、糸のように多様な方向、角度に曲げられうる状態(以下、糸状ともいう)をも包含する概念である。
【0083】
線状の粘着性物品は、複数の凝集性粒子の集合体からなる線状の支持体レスの粘着性物品でありうる。線状の支持体レスの粘着性物品の場合、その断面の形状及びサイズは特に限定されないが、その断面の形状としては、例えば、円形、楕円形、四角形等の矩形等が挙げられる。かかる粘着性物品の断面形状が円形である場合、断面の直径は特に限定されないが、直径が小さすぎると延伸時に粘着性物品が破断するおそれがあることから、例えば10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。また、直径が大きすぎると延伸時に大きな応力を必要とする場合があることから、例えば2000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましい。
【0084】
また、線状の粘着性物品は、支持体としての線状の芯材をさらに備えていてもよい。線状の芯材を有する線状の粘着性物品においては、その芯材の長手方向の表面が、複数の凝集性粒子の集合体からなる層によって被覆されている。図2に、支持体としての芯材を有する線状の粘着性物品の一構成例について、該粘着性物品の長手方向に垂直な方向における模式的な断面図を示す。
【0085】
図2に示される線状の粘着性物品2においては、複数の凝集性粒子5の集合体からなる層(凝集性粒子層)が、支持体としての線状の芯材4の表面(長手方向の表面)を被覆している。複数の凝集性粒子5は、各々、粘着性のコア51と、コア51を被覆する非粘着性のシェル52からなるコアシェル構造を有している。
【0086】
なお、線状の粘着性物品において、凝集性粒子層は芯材表面(長手方向の表面)の全部を被覆していてもよいが、芯材表面の一部のみを被覆していてもよい。また、凝集性粒子層は典型的には連続的に形成されるが、かかる形態に限定されるものではなく、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成されてもよい。なお、芯材の端面は凝集性粒子層によって被覆されていてもいなくともよい。例えば、線状の粘着性物品が切断されて使用されるような場合には、芯材の端面は凝集性粒子層によって被覆されないことがありうる。
【0087】
線状の粘着性物品に用いられる芯材としては、粘着性物品の延伸を妨げないものであれば特に限定されないが、それ自体が延伸可能な材質のものが好ましく、例えば、樹脂、ゴム、発泡体、無機繊維、これらの複合体等を用いることができる。樹脂の例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル;塩化ビニル樹脂;酢酸ビニル樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアミド樹脂;フッ素樹脂等が挙げられる。ゴムの例としては、天然ゴム、ポリウレタン等の合成ゴム等が挙げられる。発泡体の例としては、発泡ポリウレタン、発泡ポリクロロプレンゴム等が挙げられる。繊維の例としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等が挙げられる。また、芯材の断面形状は特に限定されないが、通常、粘着性物品の断面形状に応じた断面形状を有する。
【0088】
また、糸状の粘着性物品に用いられうる芯材の材質としては、レーヨン、キュプラ、アセテート、プロミックス、ナイロン、アラミド、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリクラール、ポリ乳酸等の各種高分子材料、ガラス、炭素繊維、天然ゴム、ウレタンゴム等の合成ゴム等の各種ゴム、綿、ウール等の天然材料、金属等が使用できる。また、糸状の芯材の形態としては、例えば、モノフィラメントの他、マルチフィラメント、スパンヤーン、捲縮加工や嵩高加工等を施した一般的にテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーンと称される加工糸、あるいはこれらを撚り合わせる等して組み合わせた糸が使用できる。また、断面形状も、円形だけでなく、四角形状等の短形状、星型形状、楕円形状、中空等でありうる。
【0089】
なお、芯材には、シート状の粘着性物品において用いられうる基材に配合されうる各種添加剤を配合してもよく、シート状の粘着性物品において用いられうる基材に適用され得る各種表面処理を適用してもよい。
【0090】
芯材の断面のサイズは特に限定されず、目的に応じて適宜選択できるが、例えば円形の断面形状である場合、ハンドリング性(延伸のしやすさ、切れにくさ)の観点からは、その直径は好ましくは1μm~2000μmであり、より好ましくは10μm~1000μmである。
【0091】
また、図2のような芯材を有する線状の粘着性物品の場合において、凝集性粒子層の厚みは特に限定されないが、粘着性の観点からは、例えば1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。また、乾燥性の観点からは、例えば200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。
【0092】
また、複数の凝集性粒子の集合体からなる層(凝集性粒子層)は、芯材の表面上に直接的に設けられていてもよいが、粘着剤層を介して設けられていてもよい。粘着剤層を構成する粘着剤としては、シート状の粘着性物品において用いられうる粘着剤と同様のものを使用可能である。
【0093】
ここで、本明細書において、初期状態(延伸前)の線状の粘着性物品が「粘着性を実質的に有さない(実質的に非粘着性である)」とは、該粘着性物品の表面の下記プローブタック試験3により測定されるタック値が2gf以下であることを表す。また、初期状態(延伸前)の線状の粘着性物品が「粘着性を有する」とは、該粘着性物品の表面の下記プローブタック試験3により測定されるタック値が2gf超であることを表す。該タック値は、より具体的には、後述する実施例の欄に記載されたシート状の粘着性物品のプローブタック測定方法において、ステンレス鋼製プローブの直径を2mmに変更した条件にて測定される。
【0094】
(プローブタック試験3)
測定温度23℃の環境下、粘着性物品の表面に、直径2mmのステンレス鋼製プローブ(SUS304)を接触荷重50gfで接触させた後、30mm/分の速度で1mm引き離す際にプローブにかかる荷重を経時的に測定し、引き剥がす際に要する最大荷重を求める。
【0095】
また、本明細書において、延伸後の線状の粘着性物品が「粘着性を実質的に有さない(実質的に非粘着性である)」とは、該粘着性物品の表面の下記プローブタック試験4により測定されるタック値が2gf以下であることを表す。また、延伸後の線状の粘着性物品が「粘着性を有する」とは、該粘着性物品の表面の下記プローブタック試験4により測定されるタック値が2gf超であることを表す。該タック値は、より具体的には、後述する実施例の欄に記載されたシート状の粘着性物品のプローブタック測定方法において、ステンレス鋼製プローブの直径を2mmに変更した条件にて測定される。
【0096】
(プローブタック試験4)
測定温度23℃の環境下、粘着性物品を長さ方向に延伸した後、粘着性物品の表面に、直径2mmのステンレス鋼製プローブ(SUS304)を接触荷重50gfで接触させた後、30mm/分の速度で1mm引き離す際にプローブにかかる荷重を経時的に測定し、引き剥がす際に要する最大荷重を求める。
【0097】
また、粘着性物品が「延伸により粘着性を発現する」とは、延伸前の初期状態では実質的に非粘着性であり、かつ延伸後には粘着性を有することを表す。
【0098】
ここで、延伸による粘着性の発現がより良好に発揮されるためには、線状の粘着性物品の2倍延伸後のタック値が、延伸前のタック値よりも1gf以上大きいことが好ましく、1.5gf以上大きいことがより好ましく、2gf以上大きいことがさらに好ましい。
【0099】
また、同様の観点から、線状の粘着性物品の2倍延伸後のタック値は、好ましくは1gf以上であり、より好ましくは1.5gf以上であり、さらに好ましくは2gf以上である。なお、2倍延伸後のタック値の上限値は特に限定されないが、せん断力との兼ね合いの観点からは、例えば100gf以下である。
【0100】
本実施形態の粘着性物品は、線状であることから、細幅の部材や幅の狭い領域にもはみ出しを抑えながら貼り付け可能であり、また、易解体(リワーク)可能な点において好ましい。例えば、携帯電話、スマートフォン等の携帯端末の狭額縁の固定にも適用できる。
加えて、本実施形態の粘着性物品であれば、線状であることから、狭い隙間に入り込ませた後に延伸して粘着性を発現させることで、隙間の表面に接着したり、隙間を埋めたりすることができる。
【0101】
さらに、本実施形態の粘着性物品は、可曲性を有することが好ましく、糸のように多様な方向、角度に曲げられうる糸状であることが特に好ましい。可曲性を有する粘着性物品、特に糸状である粘着性物品によれば、上記した効果に加えて、曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状にも適用させやすいという利点を有する。
例えば、曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状の部分を有する被着体に粘着テープを貼り付けようとすると、かかる部分において粘着テープにしわや重なりが生じてしまい、はみ出しを抑えて綺麗に貼り付けることは困難であり、また、しわや重なりの生じた部分は粘着力が低下する要因ともなるおそれがある。また、しわや重なりを生じないようにしながら粘着テープを貼り付けるには、粘着テープを細かく切断しながら貼り付けることも考えられるが、作業性が大幅に悪化することとなる。一方、可曲性を有する粘着性物品、特に糸状である粘着性物品であれば、曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状の部分に貼り付ける際にも、しわや重なりを生じることなく強固に貼り付けることができる。さらに、かかる粘着性物品は、貼り付けたい部分に、一度に、すなわち一工程で貼り付け可能であることから、作業性にも優れ、自動化ラインにも適用可能である。
【0102】
糸状の粘着性物品の具体的な用途の一例としては、例えば、電線や光ファイバー等のケーブル、LEDファイバーライト、FBG(Fiber Bragg Gratings、ファイバブラッググレーティング)等の光ファイバセンサ、糸、紐、ワイヤ等の各種線材(線状部材)や、細幅の部材を、所望の形態で固定する用途が挙げられる。たとえば、線材や細幅の部材を複雑な形状で他の部材に固定するような場合においても、糸状の粘着性物品であれば、線材や細幅の部材の有すべき複雑な形状にあわせて、はみ出しやしわ、重なりを抑えながら、優れた作業性で強固に固定することができる。なお、線材や細幅の部材を他の部材に固定する場合においては、他の部材の表面における線材や細幅の部材が固定されるべき形態にあわせて糸状の粘着性物品を予め貼り付けた後に、他の部材表面に貼付された粘着性物品にあわせて線材や細幅の部材を貼り合わせて固定することができる。あるいは、糸状の粘着性物品を線材や細幅の部材に貼り付けた後に、線材や細幅の部材を所望の形態で他の部材に固定してもよい。
【0103】
また、糸状の粘着性物品は、一の物品を他の物品の表面に仮固定(仮止め)するための、物品の仮固定(仮止め)用途にも好適に用いることができる。より具体的には、糸状の粘着性物品は、例えば、衣服、靴、鞄、帽子等の繊維製品や皮革製品等を製造する際の仮固定(仮止め)用途に、特に好適に用いられる。ただし、その用途はこれに限定されるものではなく、仮固定(仮止め)が所望される各種用途に好適に用いられる。
例えば、一の物品を他の物品の表面に固定する際に、該一の物品を該他の物品の表面に糸状の粘着性物品を用いて予め仮固定させて位置決めした後に、両物品を熱圧着や縫製等の固定方法により固定(本固定)する。この場合において、糸状の粘着性物品であれば、両物品間に設けられる固定部を避けて仮固定することが容易である。例えば、繊維製品や皮革製品を縫製する場合において、糸状の粘着性物品により仮固定を行えば、縫製部分を避けて仮固定することが容易であり、粘着剤の針への付着を容易に防止できる。
また、糸状の粘着性物品であれば、上述したように、両物品の形状が曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状であっても、はみ出しやしわ、重なりを抑えながら良好に貼り付けでき、しかも一工程で貼り付け可能であり、作業性が良好である。
また、例えば、繊維製品ないし皮革製品を構成する生地、布、皮革等といった変形しやすい部材であっても、糸状の粘着性物品による仮固定を行うことにより、引張による部材の変形が抑制ないし防止でき、固定(本固定)後の意匠性が良好となる。
さらには、糸状の粘着性物品であれば、両物品の固定(本固定)後に、必要に応じて固定(本固定)された両物品間から糸状の粘着性物品を抜き取り除去することも容易である。このようにすれば、粘着剤のはみ出しが防止でき、残存する粘着剤の経時的な変色に由来する意匠性の劣化を良好に防止できる。
【0104】
また、糸状の粘着性物品であれば、他の材質からなる糸と撚り合わせて組み合わせた糸としたり、他の材質からなる糸や布(不織布、シートを含む)と編み込んだりすることで、機能の複合化を図ることもできる。
【0105】
本実施形態の粘着性物品を形成する方法は特に限定されないが、例えばシート状の粘着性物品を形成するにあたっては、コアシェルポリマー粒子(凝集性粒子)の分散液を剥離性または非剥離性の基材に直接塗布して加熱乾燥させる方法(直接法)等を適宜採用することができる。上記分散液の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて行うことができる。加熱乾燥温度は、適宜採用可能であるが、好ましくは40℃~200℃であり、さらに好ましくは、50℃~180℃であり、特に好ましくは70℃~120℃である。乾燥時間は、適宜、適切な時間が採用され得る。上記乾燥時間は、好ましくは5秒~20分、さらに好ましくは5秒~10分、特に好ましくは、10秒~5分である。
【0106】
また、線状の粘着性物品を形成するにあたっては、線状の芯材に上記分散液をディッピングにより塗工した後に加熱乾燥させる方法(ディッピング)等を適宜採用することができる。加熱乾燥条件としては、シート状の粘着性物品を形成する際の条件と同様の条件を適宜採用できる。
【実施例
【0107】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。
【0108】
(実施例1)
容器中に、イオン交換水260重量部、アクリル酸n-ブチル(BA)130重量部、ラウリルメルカプタン(連鎖移動剤)0.13重量部、乳化剤(商品名「ラテムルE-118B」花王(株)製)10重量部を入れ、ホモミキサー(特殊機化工業(株)製)を用いて、窒素雰囲気下で5分間、6000rpmで撹拌し、モノマーエマルション(A)を調製した。
【0109】
次に、環流冷却器、窒素導入管、温度計、滴下設備および攪拌機を備える反応容器内で、当該モノマーエマルション(A)350重量部と水溶性アゾ重合開始剤である過硫酸アンモニウム0.34重量部とを混合し、撹拌しつつ75℃で3時間の乳化重合反応(一括重合)を行って、コアとなる共重合体を得た。次に、メタクリ酸メチル(MMA)29重量部とアクリル酸(AA)5.8重量部のモノマー混合物(A)を10分かけて滴下した後、75℃で3時間反応させた。当該反応液を30℃に冷却した後、10重量%のアンモニア水溶液を加えることによって反応液をpH8に調整し、コアシェル構造を有する共重合体粒子の水分散液(1)を得た。
【0110】
上記コアシェル構造を有する共重合体粒子の水分散液(1)を、乾燥後の厚みが40μmとなるように、離型フィルム(ポリエチレンテレフタレート基材、商品名:ダイアホルムMRF-38、三菱化学ポリエステル(株)製)上にアプリケーターにより塗布した後、130℃で2分間乾燥して、実施例1の評価用サンプルを得た。なお、評価用サンプルのサイズは、幅3cm×長さ6cmである。
【0111】
(比較例1)
容器に、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)100重量部、アニオン系反応性界面活性剤であるアクアロンHS-1025(第一工業製薬(株)製)1.5重量部(固形分)、イオン交換水82重量部を入れ、ホモミキサー(特殊機化工業(株)製)を用いて、窒素雰囲気下で5分間、6000rpmで撹拌し、モノマーエマルション(B)を調製した。
【0112】
また、別の容器に、メタクリル酸メチル(MMA)80重量部、アクリル酸ブチル(BA)10重量部、アクリル酸(AA)5重量部、メタクリル酸(MAA)5重量部、アニオン系反応性界面活性剤であるアクアロンHS-1025(第一工業製薬(株)製)1.5重量部(固形分)、イオン交換水82重量部を入れ、ホモミキサー(特殊機化工業(株)製)を用いて、窒素雰囲気下で5分間、6000rpmで撹拌し、モノマーエマルション(C)を調製した。
【0113】
冷却管、窒素導入管、温度計、滴下設備、及び攪拌機を備えた反応容器に、アニオン系反応性界面活性剤であるアクアロンHS-1025(第一工業製薬(株)製)0.5重量部(固形分)、イオン交換水76.8重量部を入れ、撹拌しながら十分に窒素置換した後、反応液を60℃まで昇温した。60℃で一定になったことを確認した後、水溶性アゾ重合開始剤であるVA-057(和光純薬工業(株)製、化合物名:2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ハイドレート)0.05重量部を添加し、10分後にモノマーエマルション(B)150.6重量部を2.5時間かけて滴下し、コアとなる共重合体を得た。次いで、VA-057を0.05重量部更に添加し、10分後、モノマーエマルション(C)37.6重量部を45分かけて滴下し、60℃で3時間撹拌してシェルとなる共重合体を形成した。当該反応液を30℃に冷却した後、10重量%のアンモニア水溶液を加えることによって反応液をpH8に調整し、コアシェル構造を有する共重合体粒子の水分散液(2)を得た。
【0114】
上記コアシェル構造を有する共重合体粒子の水分散液(2)を、乾燥後の厚みが40μmとなるように、離型フィルム(ポリエチレンテレフタレート基材、商品名:ダイアホルムMRF-38、三菱化学ポリエステル(株)製)上にアプリケーターにより塗布した後、130℃で2分間乾燥して、比較例1の評価用サンプルを得た。なお、評価用サンプルのサイズは、幅3cm×長さ6cmである。
【0115】
(比較例2)
冷却管、窒素導入管、温度計、滴下設備および攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水40重量部を入れ、窒素ガスを導入しながら60℃で1時間以上攪拌して窒素置換を行った。この反応容器に、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物(重合開始剤)0.1重量部を加えた。系を60℃に保ちつつ、ここに下記モノマーエマルション(D)を4時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。モノマーエマルション(D)としては、2-エチルヘキシルアクリレート98重量部、アクリル酸1.25重量部、メタクリル酸0.75重量部、ラウリルメルカプタン(連鎖移動剤)0.05重量部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名「KBM-503」)0.02重量部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2重量部を、イオン交換水30重量部に加えて乳化したものを使用した。
【0116】
モノマーエマルション(D)の滴下終了後、系をさらに60℃で3時間保持してから室温まで冷却した後、10重量%アンモニア水の添加によりpHを7に調整して、アクリル系重合体エマルション(水分散型アクリル系重合体)を得た。
【0117】
つづいて、上記アクリル系重合体エマルションに含まれるアクリル系重合体100部当たり、固形分基準で20部の粘着付与樹脂エマルション(荒川化学工業(株)製、商品名「E-865NT」)を加えた。さらに、pH調整剤としての10重量%アンモニア水および増粘剤としてのポリアクリル酸(東亞合成(株)製、商品名「アロンB-500」)を用いて、pHを7.2、粘度を10Pa・sに調整した。このようにして、水分散型アクリル系粘着剤組成物を得た。
【0118】
上記水分散型アクリル系粘着剤組成物を、乾燥後の厚みが40μmとなるように、離型フィルム(ポリエチレンテレフタレート基材、商品名:ダイアホルムMRF-38、三菱化学ポリエステル(株)製)上にアプリケーターにより塗布した後、130℃で2分間乾燥して、比較例2の評価用サンプルを得た。なお、評価用サンプルのサイズは、幅3cm×長さ6cmである。
【0119】
(比較例3)
容器中に、水273重量部、アクリル酸n-ブチル(BA)138重量部、メタクリ酸メチル(MMA)35重量部、アクリル酸(AA)3.5重量部、ラウリルメルカプタン0.17重量部、乳化剤(商品名「ラテムルE-118B」花王(株)製)13重量部を入れ、ホモミキサー(特殊機化工業(株)製)を用いて、窒素雰囲気下で5分間、6000rpmで撹拌し、モノマーエマルション(E)を調製した。
【0120】
次に、環流冷却器、窒素導入管、温度計、滴下設備および攪拌機を備える反応容器内で、当該モノマーエマルション(E)450重量部と水溶性アゾ重合開始剤(過硫酸アンモニウム)0.47重量部を混合し、撹拌しつつ75℃で6時間乳化重合反応(一括重合)を行った。当該反応液を30℃に冷却した後、10重量%のアンモニア水溶液を加えることによって反応液をpH8に調整し、アクリル系重合体エマルション(水分散型アクリル系重合体)を得た。
【0121】
上記アクリル系重合体エマルションを、乾燥後の厚みが40μmとなるように、離型フィルム(ポリエチレンテレフタレート基材、商品名:ダイアホルムMRF-38、三菱化学ポリエステル(株)製)上にアプリケーターにより塗布した後、130℃で2分間乾燥して、比較例3の評価用サンプルを得た。なお、評価用サンプルのサイズは、幅3cm×長さ6cmである。
【0122】
(比較例4)
感熱粘着剤組成物であるアロンタックTT-1214(東亞合成(株)製)を、乾燥後の厚みが40μmとなるように、離型フィルム(ポリエチレンテレフタレート基材、商品名:ダイアホルムMRF-38、三菱化学ポリエステル(株)製)上にアプリケーターにより塗布した後、60℃で5分間乾燥して、比較例4の評価用サンプルを得た。なお、評価用サンプルのサイズは、幅3cm×長さ6cmである。
【0123】
〔初期状態(延伸前)のタック値の測定〕
各例に係る評価用サンプルから離形フィルムを剥離した後、その片面を、日東電工(株)製の両面接着テープ「No.5000N」(厚さ:0.16mm)を用いて松浪硝子工業(株)製のスライドガラスに貼り合わせ、試験片を作製した。
【0124】
作製した試験片について、プローブタック測定機(RHESCA社製のTACKINESS TESTER Model TAC-II)を用いてプローブタック試験を行った。
具体的には、測定温度23℃の環境下、上記試験片の評価用サンプル側の表面に、直径5mmのステンレス鋼製プローブ(SUS304)を接触荷重50gfで接触させた後、30mm/分の速度で1mm引き離す際にプローブにかかる荷重を経時的に測定し、引き剥がす際に要する最大荷重を求め、初期状態(延伸前)のタック値A(gf)とした。
【0125】
なお、該プローブタック試験により測定されるタック値が5gf以下であれば、「粘着性を実質的に有さない(実質的に非粘着性である)」と評価される。
【0126】
〔延伸後のタック値の測定〕
各例に係る評価用サンプルから離形フィルムを剥離し、長さ方向に2倍に延伸した後、その片面を、日東電工(株)製の両面接着テープ「No.5000N」(厚さ:0.16mm)を用いて松浪硝子工業(株)製のスライドガラスに貼り合わせ、試験片を作製した。
【0127】
作製した試験片について、初期状態(延伸前)のタック値Aと同様の試験方法・試験条件によりプローブタック試験を行い、2倍延伸後のタック値B(gf)を測定した。
【0128】
表1に、各例に係る評価用サンプルについての、初期状態(延伸前)のタック値A、2倍延伸後のタック値Bの測定結果を示す。また、2倍延伸後のタック値Bと初期状態(延伸前)のタック値Aとの差(B-A)の算出結果を併せて示す。
【0129】
【表1】
【0130】
実施例1に係るサンプルは、初期状態ではタック値が0.4gfと低く実質的に非粘着性であり、また、2倍延伸後にはタック値が66gfまで増大しており、延伸により粘着性を発現した。
他方、比較例1~3に係るサンプルは、初期状態において粘着性を有しており、また、2倍延伸後のタック値は初期状態のタック値よりも低下しており、延伸より粘着性を発現するものではなかった。
比較例4に係るサンプルは、初期状態において粘着性を有しており、また、2倍に延伸する前に破断してしまい、延伸により粘着性を発現するものではなかった。
【0131】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0132】
1、2 粘着性物品
3 基材
4 芯材
5 凝集性粒子
51 コア
52 シェル
図1
図2