(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】定植装置
(51)【国際特許分類】
A01G 31/02 20060101AFI20230418BHJP
A01G 9/08 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
A01G31/02
A01G9/08 610B
(21)【出願番号】P 2018189559
(22)【出願日】2018-10-04
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】506212167
【氏名又は名称】株式会社スプレッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大岩 直弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 良彰
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-166408(JP,A)
【文献】特開2018-68222(JP,A)
【文献】特開昭63-279725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00 - 31/06
A01G 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の株を保持可能な第1装置から、前記複数の株を保持可能な複数の開口を有する第2装置への前記複数の株の移し替えを行う定植装置であって、
前記移し替えの際に、前記第1装置から取り出された少なくとも1の株から伸びている根と、前記根の下方に位置する前記複数の開口のうち少なくとも1の開口とが対応して位置付けられた状態で、空気を吸引することにより、前記株側から前記少なくとも1の開口の下面側に向かう風を供給する吸引装置を備え、
前記吸引装置は、第1端部が、前記第2装置の前記少なくとも1の開口の下部に対応して位置付けられる筒状部材と、前記第1端部とは反対の第2端部から空気を吸引する吸引駆動部とを有し、
前記吸引装置により空気が吸引された状態で、前記第2装置の下面側に対向する当該吸引装置の前記第1端部と当該第2装置の下面側との間が所定距離
の隙間を生じるように当該吸引装置を移動させる移動部を備える、定植装置。
【請求項2】
前記吸引装置と前記株とが前記第2装置の前記少なくとも1の開口に対応して配置されるように、前記第2装置を搬送する搬送装置と、前記株を移動させる移し替え機構とを備える、請求項1に記載の定植装置。
【請求項3】
前記吸引装置は、前記株の少なくとも一部が収容された収容部が前記第2装置の所定の開口の上部に位置した状態で吸引を開始して、前記株側の空気を吸引して前記少なくとも1の開口の下面側に向かう風を供給する、請求項1又は2に記載の定植装置。
【請求項4】
前記第1装置から前記第2装置に移し替えられる株の根に、水を含む液体を供給する液体供給装置を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の定植装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、株の移し替えを行うための定植装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、育苗マットから栽培カップへの定植を自動化するための定植装置が開示されている。特許文献1の定植装置は、育苗マットから取り出した株を支持し、栽培カップに引き込む引き込み手段を備えている。この引き込み手段は、支持板の上に下端が集合状態で支持されている複数の棒状部材と、複数の棒状部材の上端を拡開又は束ねる締め付け部材と有する。
【0003】
定植装置は、束ねられた棒状部材の上端を栽培カップの直下に移動させて上昇させる。これにより、栽培カップ下面の開口に棒状部材を挿入する。次に、定植装置は、締め付け部材により複数の棒状部材の上端を拡開させ、複数の棒状部材の内側に株を収容する。この状態で棒状部材を下降させることで栽培カップに株を引き込む。これにより、育苗マットから栽培カップへの定植が自動的に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の定植装置では、上述の通り機械的に株を把持し、栽培カップに引き込むことで自動的に定植を行うことができる。しかし、特許文献1では、株において成育している根を栽培カップの所望の位置に引き込むことができない課題については着目していない。よって、棒状部材で把持された株が栽培カップに挿入された際に、根が栽培カップの外に飛び出す等する場合がある。この場合、その後の株の成育に悪影響を与える。そこで、定植後に株の根が所望の位置に配置できる技術が望まれている。
【0006】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、定植後に株の根が所望の位置に配置できる定植装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[構成]
本発明に係る定植装置の特徴構成は、
複数の株を保持可能な第1装置から、前記複数の株を保持可能な複数の開口を有する第2装置への前記複数の株の移し替えを行う定植装置であって、
前記移し替えの際に、前記第1装置から取り出された少なくとも1の株から伸びている根と、前記根の下方に位置する前記複数の開口のうち少なくとも1の開口とが対応して位置付けられた状態で、空気を吸引することにより、前記株側から前記少なくとも1の開口の下面側に向かう風を供給する吸引装置を備え、
前記吸引装置は、第1端部が、前記第2装置の前記少なくとも1の開口の下部に対応して位置付けられる筒状部材と、前記第1端部とは反対の第2端部から空気を吸引する吸引駆動部とを有し、
前記吸引装置により空気が吸引された状態で、前記第2装置の下面側に対向する当該吸引装置の前記第1端部と当該第2装置の下面側との間が所定距離の隙間を生じるように当該吸引装置を移動させる移動部を備える点にある。
【0008】
上記特徴構成によれば、株側から第2装置の開口に向かう風が供給されることで、当該開口に対応して位置づけられた株から伸びている根が当該開口に入る向きに矯正され、当該開口に挿入され易くなる。よって、第2装置の開口に根が入らない状態で定植されるのを抑制できる。株毎に根の長さのばらつき及び根の曲がりなどのくせがある場合でも、風の供給により根が第2装置の対応する開口に入る向きに矯正される。また、定植の際に装置の振動等がある場合でも、風による根の矯正により根が第2装置の対応する開口に挿入され易くなる。
【0009】
これにより、第2装置へ株が定植された後も株の正常な成長を維持又は促進等可能である。また、例えば、定植により成長因子がより多く存在する根の先端が第2装置の開口から上方に飛び出す等の不都合を抑制でき、株の成長を維持等可能である。また、例えば根が第2装置の対応する開口に入るように株の向きを調整する等、株の開口への挿入経路を調整する作業を省略可能である。また、例えば、根が第2装置の対応する開口に入るように根を切る、根の向きを変更する、根を束ねる等の根の整形作業を省略可能である。
【0010】
そして、上記のように株の根を風により第2装置の開口内に送り込むため、機械的機構により株及び根等を挟持して第2装置の開口に引き入れる場合に比べて、直接的に根に触れることを抑制し、根の損傷を抑制しつつ株を定植できる。
【0012】
上記特徴構成によれば、株側から開口に向かう方向に風が吸引されるため、根が当該開口に入る向きに矯正され、当該開口に挿入され易くなる。
【0014】
上記特徴構成によれば、筒状部材の内部に空気が吸引される方向に空気の流れが生じる。よって、第2装置の開口に向かう風を効率よく発生できる。これにより、当該風が開口を通過し、根が第2装置の開口に入る向きに矯正され易くなり、根が当該開口に挿入され易くなる。
【0015】
なお、筒状部材は、概ね円筒形状であっても良く、筒状部材の軸心方向に沿って上部から下部に向かって幅が狭まる漏斗状部分を有していてもよい。漏斗状部分の最も広い部分で第2装置の開口を覆って開口から空気を効率よく吸引できる。
【0016】
また、筒状部材は、筒状部材の壁を貫通する少なくとも1の孔を有していてもよい。筒状部材は、第2装置の開口と対向する上部から空気を吸引するが、壁の孔からも空気が吸引される。これにより、筒状部材の内部に風が吸引される吸引力、つまり風圧が大きくなりすぎるのを抑制できる。また、真空で吸引されるのが防止され、吸引力、風圧及び負圧等が大きくなり過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3B】NFT方式での栽培方法を示す模式図である。
【
図3C】DFT方式での栽培方法を示す模式図である。
【
図6】吸引による風を用いた定植方法の様子を示す模式図である。
【
図7A】吸引による風を用いた定植方法の流れを示す模式図である。
【
図7B】吸引による風を用いた定植方法の流れを示す模式図である。
【
図7C】吸引による風を用いた定植方法の流れを示す模式図である。
【
図7D】吸引による風を用いた定植方法の流れを示す模式図である。
【
図7E】吸引による風を用いた定植方法の流れを示す模式図である。
【
図8】筒状部材と生育パネルとの別の位置関係を示す模式図である。
【
図11】吸引による風を用いた別の定植方法の様子を示す模式図である。
【
図12】アームに設けられたガイドを示す模式図である。
【
図13】
図11のガイドを有するアームにポットが把持されている様子を示す模式図である。
【
図14】送風を用いた定植方法の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を用いて本発明の定植装置及び定植方法に係る実施形態について説明する。株の栽培にあたって、株を育てるための育苗パネル(第1装置)から、株をさらに成長させるための生育パネル(第2装置)に移し替える定植が行われている。本発明では、定植を行うにあたって、株から伸びている根を適正な位置に配置させるために根に風を供給する。この風の供給方法としては、例えば、株から伸びている根を吸引するように風を供給して根を適正な位置に配置する方法(第1実施形態)、及び、開口に向かって風を送風することで根の根本から先端に向って空気の流れを生じさせて根を適正な位置に配置する方法(第2実施形態)等が挙げられる。
【0019】
〔第1実施形態〕
定植工程において根を適正位置に配置する方法の一例として、根を吸引するように風を供給して適正な位置に配置する定植装置及び定植方法について以下に説明する。
【0020】
(1)栽培パネル
近年、ビニールハウス及び建物等の屋内等で水耕栽培を行うことで、天候に左右されずに野菜等の青果物を栽培する方法が盛んになっている。このような水耕栽培において、本実施形態では板状の栽培パネルを用いている。栽培パネルとしては、種から育てられ成長段階の初期にある複数の株(苗株)を栽培するための育苗パネル(第1装置)10と、株の更なる成長を維持及び促進するための生育パネル(第2装置)20とが挙げられる。
【0021】
(1-1)育苗パネル
育苗パネル10は、少なくとも一部が板状の部材であり、
図1では概ね全面が板状に形成されている。育苗パネル10には、複数の平面視円形状の開口11が板状面に沿って例えばマトリクス状に並んで形成されている。開口11は、育苗パネル10の上面側から下面側に貫通するように形成されており、複数の開口11それぞれに後述の
図3に示すポット(収容部)30が配置される。ポット30には、例えば種から育てられ成長段階の初期にある複数の株(苗株)1が配置されている。
【0022】
育苗パネル10では、後述の生育パネル20に比べて開口11のピッチWbが狭くなっており、成長段階の初期にある複数の株1が密集して栽培されている。このような小さい育苗パネル10で複数の株1を一括して栽培できる。よって、複数の株1に対して照射する光源の電力、育苗パネル10に供給する水及び液体肥料等の供給量、及び、育苗パネル10を管理するスペース等を削減することができる。そのため、効率の良く株(苗株)1を育てることができる。
【0023】
(1-2)生育パネル
育苗パネル10で株1が育ってくると、成長をさらに維持及び促進等するために、複数の株1の間隔がより広い生育パネル20に移し替える定植が行われる。生育パネル20は、
図2に示すように、少なくとも一部が板状の部材であり、
図2では概ね全面が板状に形成されている。生育パネル20には、複数の平面視円形状の開口21が板状面に沿って例えばマトリクス状に並んで形成されている。開口21は、生育パネル20の上面側から下面側に貫通するように形成されており、複数の開口21それぞれにポット30が配置される。
【0024】
図2の生育パネル20のピッチWdは、
図1の育苗パネル10のピッチWbよりも大きい。なお、ピッチは、隣接する開口の中心間距離で表される。また、生育パネル20の単位面積当たりの開口数(開口面積)は、育苗パネル10の単位面積当たりの開口数(開口面積)よりも小さい。これにより、生育パネル20に載置されたポット30では、株1どうしの接触を抑制して、株の成長を維持及び促進等できるようになっている。
【0025】
(2)ポット(収容部)
育苗パネル10及び生育パネル20に株1を載置するために、本実施形態では、
図3Aに示すポット(収容部)30に株1の少なくとも一部を収容している。ポット30は、内部に株1を収容可能な空洞を有する円筒形状に形成されている。ポット30は、上端の縁部31と、縁部31から下方に延びる本体部33とを有している。縁部31は、
図3Aに示すように側面視において本体部33の上端よりも大きく形成されており、縁部31と本体部33とは段差を有している。本体部33は、側面視において、上端から下端に向かって若干先細りするように形成されている。本体部33の下端面には、上面視において概ね円形状の開口35が形成されている。そして、ポット30の空洞の内部には、株1の培地37となるウレタン等が差し込まれている。
【0026】
前述の通り、ポット30の縁部31は本体部33よりも大きい。よって、ポット30は、育苗パネル10の開口11の周縁部に縁部31が載置されることで、育苗パネル10に載置される。同様に、ポット30は、生育パネル20の開口21の周縁部に縁部31が載置されることで、生育パネル20に載置される。
【0027】
ポット30において株1を栽培する場合には、例えばポット30内の培地37に株1の種子を播き、種子に水及び液体肥料等を供給する。種子から芽、根1b及び葉等が成長すると、株1の葉はポット30の縁部31側の上部に向かって伸び、株1の根1bはポット30の本体部33に設けられた開口35からポット30の外部に向かって伸びる。
株1がこのようなポット30に保持されているため、育苗パネル10から生育パネル20への株1の移し替えの際に育苗パネル10からポット30とともに株1を取り外すことができる。よって、株1の根1b及び葉1a等への損傷を抑制できる。
【0028】
なお、生育パネル20の複数の開口21それぞれの大きさは、育苗パネル10の複数の開口11それぞれの大きさに対応しているのが好ましい。例えば、生育パネル20の複数の開口21それぞれの大きさと、育苗パネル10の複数の開口11それぞれの大きさは概ね同一である。育苗パネル10から取り外されたポット30は生育パネル20の開口21に嵌め込まれるが、それぞれの開口11及び開口21の大きさが同程度であるので、育苗パネル10から取り外したポット30が、開口21から抜け落ちる等することなく開口21に適正に嵌め込まれる。
【0029】
つまり、育苗パネル10の開口11と生育パネル20の開口11、21とが対応する大きさであるため、育苗パネル10からポット30とともに株1を取り外し、そのまま生育パネル20の開口21に嵌め込むことができる。また、ポット30に株1を保持させた状態で育苗パネル10から生育パネル20への株1の移し替えを行うことができるため、定植作業が容易である。
【0030】
(3)栽培方法
このようなポット30に収容された株1の栽培方法としては、例えば
図3Bに示すNFT(nutrient film technique)による方式と、
図3Cに示すDFT(deep flow technique)方式とが挙げられる。NFT方式では、水と液体肥料とが混合された混合液等の液体43に主に根1bの先端を浸して株1を栽培し、一方、DFT方式では、液体43に根1bの概ね全体を浸して株1を栽培する。
栽培方法は特に限定されないが、本実施形態ではDFT方式を採用しているものとする。
なお、上記では、生育パネル20についても同様の栽培方法を適用可能である。
【0031】
(4)定植装置
育苗パネル10で栽培された株1は、株1の成長を維持及び促進等するために、育苗パネル10から、株間隔がより広い生育パネル20に移し替える定植が行われる。このような定植を行う本実施形態に係る定植装置100について
図4及び
図5を用いて以下に説明する。
【0032】
本実施形態に係る定植装置100は、育苗パネル10を搬送する第1搬送装置50と、生育パネル20を搬送する第2搬送装置(移動部)60と、育苗パネル10から生育パネル20に株1を移し替える移し替え機構70と、根1bに吸引による風を供給する吸引装置(風供給装置)80と、根1bに液体を供給する液体供給装置90とを備える。
【0033】
(4-1)第1搬送装置
第1搬送装置50は、栽培工程にある育苗パネル10を定植装置100に搬送する。例えば、第1搬送装置50は、
図3B及び
図3Cの容器40から育苗パネル10を取り出す。そして、第1搬送装置50は、育苗パネル10から生育パネル20に株1を移し替えるために、移し替え機構70が設置されている位置に育苗パネル10を搬送する。本実施形態では、
図4及び
図5に示すように第1搬送装置50はX方向(+X方向及び-X方向に沿う方向)に沿って延びており、-X方向に育苗パネル10を搬送するとともに、移し替え機構70の下部に位置づける。
なお、第1搬送装置50が定植装置100に育苗パネル10を搬送する段階においては、育苗パネル10には、株1が内部に収容されたポット30が各開口11に嵌め込まれている。
【0034】
また、上記では育苗パネル10は-X方向に搬送されるが、育苗パネル10から生育パネル20に株1を定植できればよく、育苗パネル10の搬送方向はこれに限定されない。
また、上記では育苗パネル10は第1搬送装置50により定植装置100に自動搬送される。しかし、育苗パネル10は手作業で定植装置100に搬送されてもよい。
【0035】
(4-2)第2搬送装置(移動部)
第2搬送装置60(移動部)は、定植装置100の移し替え機構70に隣接する位置に生育パネル20を搬送する。例えば、本実施形態では、
図4及び
図5に示すように第2搬送装置60はY方向(+Y方向及び-Y方向に沿う方向)に沿って延びており、+Y方向に生育パネル20を搬送し、移し替え機構70に隣接する位置に生育パネル20を配置する。このとき、本実施形態では、第2搬送装置60は第1搬送装置50よりも下方に位置しており、生育パネル20は育苗パネル10よりも下部に配置される。移し替え機構70により、育苗パネル10から生育パネル20にポット30が移し替えられる。
なお、生育パネル20が移し替え機構70に対応して搬送される際には、生育パネル20の開口21にはポット30は嵌め込まれていない。
【0036】
また、上記では生育パネル20は+Y方向に搬送されるが、育苗パネル10から生育パネル20に株1を定植できればよく、生育パネル20の搬送方向はこれに限定されない。
また、上記では生育パネル20は第2搬送装置60により定植装置100に自動搬送される。しかし、生育パネル20は手作業で定植装置100に搬送されてもよい。よって、育苗パネル10及び生育パネル20の少なくともいずれかは手作業で定植装置100に搬送されてもよい。
【0037】
また、上記では、平面視において、1つの育苗パネル10から1つの生育パネル20に株1が定植される。しかし、定植時における育苗パネル10の数と生育パネル20の数との対応関係はこれに限定されない。
さらに、上記では、生育パネル20のZ方向(上下方向)の配置位置は、育苗パネル10よりも下である。しかし、育苗パネル10と生育パネル20との上下関係はこれに限定されず、例えば育苗パネル10が生育パネル20よりも下に配置されていてもよいし、育苗パネル10と生育パネル20とが同位置にあってもよい。
【0038】
(4-3)移し替え機構
移し替え機構70は、第1搬送装置50により所定位置に搬送された育苗パネル10から、第2搬送装置60により所定位置に搬送された生育パネル20に、株1が収容されたポット30を移し替える。具体的には、移し替え機構70は、例えば移動及び把持等可能に構成されたアーム(移動部)71を有しており、アーム71により育苗パネル10に載置されたポット30を把持するとともに、生育パネル20の所定の開口21の上部にポット30を移動して当該開口21に載置する。
【0039】
このとき、生育パネル20が育苗パネル10よりも下部に配置されていることから、アーム71は、ポット30を把持した状態で開口21の上部から開口21に向かってポット30を降ろして載置できる。よって、ポット30が開口21に対して上下方向に沿う状態で配置できるため、生育パネル20においてポット30が傾いて載置されるのを抑制でき好ましい。
【0040】
なお、アーム71の形状は、アーム71がポット30を把持可能であれば特に限定されない。アーム71は、例えば長尺状の板状部材から形成されており、当該板状部材の先端が二股に形成されている。ここで、ポット30は、育苗パネル10の開口11に縁部31が露出した状態で載置されている。よって、アーム71がポット30を把持する際には、アーム71の先端の二股部分が縁部31と育苗パネル10との間に挿入される。そして、縁部31と本体部33との段部が二股部分により支持されることで、アーム71がポット30を支持する。
ただし、アーム71の形状はこれに限定されず、例えば、複数の開閉可能な把持指によりアーム71が形成されていてもよい。アーム71は、複数の把持指を閉じることでポット30を上方から挟持し、所定の箇所で把持指を開くことでポット30の挟持を開放する。
【0041】
(4-4)吸引装置(風供給装置)
吸引装置(風供給装置)80は、株1が収容されたポット30を生育パネル20に移し替える際に、根1bに吸引による風を供給する。吸引装置80について、
図5及び
図6を用いて説明する。
【0042】
吸引装置80は、根1bに吸引による風を供給する筒状部材81と、筒状部材81を介して空気を吸引する吸引駆動部83と、筒状部材81を所定位置に移動させる移動部85とを有する。筒状部材81は、概ね円筒形状に形成されており、開口21の下部に対向する円形状の開口である第1端部81aと、第1端部81aとは筒軸方向に対向する円形状の開口である第2端部81bとを有している。第2端部81bは吸引駆動部83に接続されており、吸引駆動部83の駆動により第2端部81b側から空気を吸引する。これにより、開口21に対向する第1端部81aから空気を吸引する。移動部85は、筒状部材81の第1端部81aが所定の開口21に対向するように、筒状部材81を所定の開口21の下部に移動する。
【0043】
このような吸引装置80は、例えば、非使用時は
図5に示すように退避位置に退避している。次に、ポット30の定植が行われる際には、筒状部材81は、移動部85により、
図6に示すようにポット30が載置される所定の開口21の下部に移動する。アーム71は当該開口21の概ね直上に、当該開口21に載置されるべきポット30を移動する。これにより、当該開口21の上部には株1が収容されたポット30が位置付けられており、当該開口21の下部には吸引装置80が位置付けられている。このとき、ポット30の開口35側からは株1の根1bが下方に伸び出ており、反対側の上側には株1の葉1a等が伸び出ている。
【0044】
この状態で、吸引駆動部83を駆動させると、筒状部材81の第2端部81bから空気が吸引され、結果として、
図6に示すように筒状部材81の第1端部81aから空気が吸引される。これにより、開口21の上部から、例えばポット30、株1及び根1b等の側から、下部に向かう空気の流れが形成される。
【0045】
ここで、生育パネル20の開口21の上部にはポット30が配置されており、ポット30の下部の開口35から株1の根1bが伸び出ている。吸引装置80の駆動によって、開口21の上部、例えばポット30、株1及び根1b等の側から開口21の下部に向かう空気の流れが生じる。よって、吸引装置80の駆動により、生育パネル20の開口21の上部から下部に向かう風を効率良く発生できる。このとき、風が開口21を上部から下部に向かって通過することで、根1bは、開口21の上部から下部に向かう空気の流れに沿って、当該開口21に入る向きに矯正され、当該開口21に挿入され易くなる。よって、生育パネル20の開口21に根1bが入らない状態で定植されるのを抑制できる。株1毎に根1bの長さのばらつき及び根の曲がりなどのくせがある場合でも、風の供給により根1bが生育パネル20の対応する開口21に入る向きに矯正される。また、定植の際に生育パネル20及びアーム71等において振動等がある場合でも、風により開口21側に吸引されることで根1bが矯正され、根1bが生育パネル20の対応する開口21に挿入され易くなる。
【0046】
なお、生育パネル20の開口21に株1が収容されたポット30が配置され、一方で、当該開口21の下部に筒状部材81が配置されるため、当該開口21の上部に株1が収容されたポット30を移動及び保持等する機構と、筒状部材81を移動及び保持等する機構との移動の自由度が確保できるとともに、これらの接触を抑制でき好ましい。
【0047】
また、筒状部材81の第1端部81aの大きさ(径)は、生育パネル20の開口21の大きさ(径)に対応しているのが好ましい。この場合、生育パネル20の開口21の上部から下部に向かう風を効率よく発生させ、根1bが生育パネル20の開口21に挿入され易くなる。
【0048】
なお、筒状部材81の第1端部81aの大きさは、生育パネル20の開口21よりも一回り大きくすることもできる。この場合には、後述の
図7Aに示すように、筒状部材81の第1端部81aが生育パネル20の開口21を覆うように、生育パネル20と筒状部材81とを接触させる。これにより、株1から伸びている根1bを生育パネル20の開口21の下部に向かって吸引できる。なお、筒状部材81が、生育パネル20と接触しておらず、生育パネル20の開口21から離れて位置していてもよい。この場合も、根1bを開口21の下部に向かって吸引できる。
あるいは、筒状部材81の第1端部81aは、後述の
図8に示すように生育パネル20の開口21よりも一回り小さくすることもできる。
【0049】
(4-5)液体供給装置
液体供給装置90は、育苗パネル10から生育パネル20に移し替えられる株1の根1bに、水、液体肥料、及び、水と液体肥料とが混合された混合液等の液体を供給する。これにより、例えば水を介した引力により、広がり有してまとまりのない根1bを一つの束にまとめ易くなる。また、水による引力により根1bが下方に向かい易くなり、根1bを開口21に挿入し易くなる。また、定植の際に根1bが乾燥して株1の成長に悪影響を与えるのを抑制できる。
【0050】
なお、液体供給装置90は、育苗パネル10を容器40から取り出した時から、吸引装置80から根1bに風が供給されている最中までの何れかのタイミングで液体を供給できる。
例えば、液体供給装置90は、定植対象の株1が載置された育苗パネル10が容器40から取り出される際に、容器40から育苗パネル10が取り出された後に搬送されている際に、定植対象の株1が定植装置100に配置されている際に、定植対象の株1が育苗パネル10から取り出された際に、定植対象の株1が育苗パネル10から生育パネル20に移動されている際に、及び、定植対象の株1が生育パネル20の開口21に位置付けられた際に、定植対象の株1に吸引装置80により風が供給されている最中等において、当該株1の根1bに液体を供給できる。
【0051】
なお、定植対象の株1が載置された育苗パネル10を容器40から取り出し、一旦、根1b等に付着している容器40内の液体43を切ってもよい。その後、液体供給装置90が、新たな液体を根1b等に供給してもよい。この場合、新鮮な液体を根1bに供給することで、定植後の根1bの成長をさらに促進することも可能である。
【0052】
(5)定植方法
上記定植装置100による定植方法について以下に説明する。
図4及び
図5に示すように、第1搬送装置50は育苗パネル10を定植装置100の移し替え機構70に対応する位置に搬送し、第2搬送装置60は生育パネル20を移し替え機構70に対応する位置に搬送する。その後、以下の手順により定植を行う。
【0053】
まず、
図7Aに示すように、吸引装置80の移動部85は、例えば定植の指示を受信すると、生育パネル20の所定の開口21の下部に筒状部材81を移動する。所定の開口21とは、現在の定植対象であるポット30が載置されるべき開口21である。さらに、移動部85は、所定の開口21の下部を覆うように、生育パネル20の下面に筒状部材81を接触させるように移動する。このとき、所定の開口21は、筒状部材81の第1端部81aにより覆われる。
【0054】
次に、
図7Bに示すように、アーム71は、育苗パネル10から、定植対象であるポット30を把持して取り出す。本実施形態では、
図7Bに示す段階において、液体供給装置90は、根1bに液体を供給する。これにより、根1bが一つの束となり、根が下方に向かい易くなるため、根1bの開口21への挿入がし易くなる。
なお、液体供給装置90による液体の供給タイミングがこれに限定されないのは、上述の通りである。
【0055】
次に、
図7Cに示すように、アーム71は、育苗パネル10から取り出した定植対象であるポット30を、生育パネル20の所定の開口21の上部に移動する。この際、
図7Cに示すようにアーム71は、根1bが所定の開口21よりも上部に位置するようにポット30を配置するのが好ましい。
これにより、根1bが開口21の周辺等に付着するのを抑制できる。そして、筒状部材81から空気を吸引することで、根1bが開口21の方向に向かう。また、根1bが開口21の周辺等に付着せずに開口21に挿入されることで、開口21の周辺への付着による根1bの損傷及び開口21の周辺に付着した状態で開口21内に吸引されることによる根1bの損傷を抑制できる。
【0056】
ただし、開口21の周辺等に根1bが付着した場合であっても、開口21の下部から空気を吸引することで根1bが開口21に向かって引っ張られ、根1bを開口21に挿入可能となる。よって、必ずしも根1bが開口21よりも上部に位置するように配置する必要はない。
【0057】
上記の
図7A~
図7Cに示すように、筒状部材81とポット30とが所定の開口21に対応して配置されるように位置調整される。このように位置調整された状態で、所定の開口21の上部から下部に向かう風が供給されることで、根1bが当該開口21に入る向きに矯正され、当該開口21に挿入され易くなる。
【0058】
次に、
図7Cに示すように、ポット30が所定の開口21の上部に位置付けられた状態で、吸引駆動部83が駆動して筒状部材81から空気の吸引を行う。これにより、所定の開口21の上部から下部に向かう空気の流れが生じる。このとき、風が開口21を上部から下部に向かって通過することで、根1bが所定の開口21に入る向きに矯正され、当該開口21に挿入され易くなる。なお、このとき、
図7Cに示すように筒状部材81は、所定の開口21を覆うように生育パネル20の下面と接触しているため、所定の開口21の上部から下部に向かう風の風力及び風量等が大きい。よって、筒状部材81による吸引開始時において根1bにまとまりがなく広がっている場合等であっても、強い風で根1bを所定の開口21に向かわせることができる。
【0059】
次に、
図7Dに示すように、アーム71はポット30を所定の開口21に近づけるように下げる。このとき、移動部85は、筒状部材81の第1端部81aと生育パネル20の下面との間が所定距離となるように、筒状部材81を生育パネル20の下面から離す。
図7Cの段階において、根1bは筒状部材81からの吸引による風によって所定の開口21に向かって引っ張られているが、
図7Dに示すようにポット30を下げた後も吸引が継続されていることで、より確実に根1bを所定の開口21に挿入できる。
なお、
図7Dでは、筒状部材81の第1端部81aと生育パネル20の下面との間に所定距離の隙間が生じている。そのため、根1bを所定の開口21に引き込む風の力は
図7Cの場合よりも小さい。例えば、真空で吸引されるのが防止され、吸引力、風圧及び負圧等が大きくなり過ぎない。これにより、風の強い力で根1bが引っ張られる等することで根1bに損傷を与えるリスクを避けつつ、根1bを所定の開口21に挿入できる。
【0060】
筒状部材81の第1端部81aと生育パネル20の下面との間の所定距離は、これに限定されないが、例えば、根1bに与える風力及び風量、開口21の大きさ、根1bと開口21との距離、根1bと筒状部材81との距離、ポット30と生育パネル20の上面との距離、ポット30の大きさ、根1bの長さ等の様々な条件を考慮して決定される。
【0061】
最後に、
図7Eに示すように、アーム71はポット30を所定の開口21に載置し、退避位置に戻る。また、吸引駆動部83は吸引を中止する。その後、移動部85は、筒状部材81を退避位置に戻す。これにより、根1bが所定の開口21よりも下部に位置した状態で、ポット30が生育パネル20の所定の開口21に載置され、1つのポット30の育苗パネル10から生育パネル20への定植が完了する。
【0062】
上記定植方法のフローは、育苗パネル10から生育パネル20にポット30を定植する際に根1bが生育パネル20の開口21に挿入されればよく、これに限定されない。
例えば、上記では、まず吸引装置80の筒状部材81を、所定の開口21を覆うように生育パネル20の下面に接触させ(
図7A)、次にアーム71によりポット30を当該開口21の上部に配置(
図7B)している。しかし、まずアーム71によりポット30を当該開口21の上部に配置し、その後、筒状部材81を、所定の開口21を覆うように生育パネル20の下面に接触させてもよい。
【0063】
また、
図7Aにおいて筒状部材81を、所定の開口21を覆うように生育パネル20の下面に接触させているが、筒状部材81は生育パネル20に接触させず、開口21からある程度離隔した位置に配置されてもよい。この場合、
図7Dにおいて筒状部材81を開口21から離すステップは省略可能である。あるいは、
図7Dにおいて筒状部材81を開口21からさらに離してもよい。
【0064】
また、上記では、
図7Cにおいて、アーム71が所定の開口21の上部にポット30を移動した後に、吸引駆動部83が駆動して筒状部材81から空気の吸引を行う。しかし、吸引のタイミングはこれに限定されず、ポット30が開口21の上部に移動する前に、吸引駆動部83は筒状部材81から空気の吸引を行ってもよい。
【0065】
また、上記定植方法において、吸引駆動部83により空気を吸引する際の風量及び風力等は一定に保たれていてもよい。なお、空気を吸引する際の風量及び風力等は、筒状部材81の第1端部81aと生育パネル20の下面との間の距離を変化させることによっても調整可能である。このような調整により、開口21の上部から下部に向かう風により株1の根1b、茎及び葉1a等が損傷するのを抑制しつつ、根1bを開口21に挿入できる。
【0066】
(6)作用効果
上記構成によれば、吸引装置80の駆動によって、生育パネル20の開口21の上部、例えばポット30、株1及び根1b等の側から開口21の下部に向かう空気の流れが生じる。よって、生育パネル20の開口21の上部から下部に向かう風を効率良く発生できる。このとき、風が開口21を上部から下部に向かって通過することで、根1bは、開口21の上部から下部に向かう空気の流れに沿って、当該開口21に入る向きに矯正され、当該開口21に挿入され易くなる。よって、株1毎に長さ及び伸びる方向等に違いがあっても、また、生育パネル20及びアーム71等に振動があっても、根1bが当該開口21に挿入され易くなる。
【0067】
これにより、生育パネル20へ株1が定植された後も株1の正常な成長を維持又は促進等可能である。また、例えば、定植により成長因子がより多く存在する根1bの先端が生育パネル20の開口21から上方に飛び出す等の不都合を抑制でき、株1の成長を維持等可能である。また、例えば根1bが生育パネル20の開口21に入るように株1の向きを調整する等、株1の開口21への挿入経路を調整する作業を省略可能である。また、例えば、根1bが生育パネル20の開口21に入るように根1bを切る、根1bの向きを変更する、根1bを束ねる等の根1bの整形作業を省略可能である。
そして、上記のように根1bを風により生育パネル20の開口21内に送り込むため、機械的機構により株1及び根1b等を挟持して生育パネル20の開口21に引き入れる場合に比べて、直接的に根1bに触れることを抑制し、根1bの損傷を抑制しつつ株を定植できる。
【0068】
[第1実施形態の変形例]
(1)上記では、
図7Aに示すように筒状部材81の第1端部81aの大きさは、生育パネル20の開口21よりも一回り大きく形成されている。しかし、これに限定されず、筒状部材81の第1端部81aの大きさは、
図8に示すように生育パネル20の開口21よりも一回り小さくすることもできる。筒状部材81の第1端部81aの大きさが開口21よりも一回り小さいため、
図8に示すように筒状部材81を開口21に対応させる場合に、
図7でのステップに代えて、開口21から筒状部材81の少なくとも一部を突出させることができる。この場合にも、吸引装置80を駆動することで、株1から伸びている根1bを生育パネル20の開口21の下部に向かって吸引できる。なお、生育パネル20の開口21から離れた下部に
図8の筒状部材81を配置し、根1bを生育パネル20の開口21の下部に向かって吸引することもできる。
なお、筒状部材81の第1端部81aは、生育パネル20の開口21と概ね同一の径であってもよい。
【0069】
(2)上記では、吸引装置80の筒状部材81は、円筒形状に形成されている。筒状部材81は、吸引により根1bを生育パネル20の開口21に挿入できれば、形状は限定されないが、例えば
図9及び
図10に示すように形成できる。
図9に示すように、筒状部材81は、筒状部材81の壁を貫通する少なくとも1の孔86を有していてもよい。筒状部材81は、生育パネル20の開口21と対向する第1端部81aから空気を吸引するが、壁の孔86からも空気が吸引される。これにより、筒状部材81の内部に風が吸引される吸引力、つまり風圧及び風量等が大きくなりすぎるのを抑制できる。また、真空で吸引されるのが防止され、吸引力、風圧及び負圧等が大きくなり過ぎない。
【0070】
また、
図10に示すように、筒状部材81の軸心方向に沿って上部から下部に向かって幅が狭まる漏斗状部分81αを有していてもよい。
図10の場合、筒状部材81は、上部に漏斗状部分81αを有し、漏斗状部分81αに連続する円筒状部分81βを有する。漏斗状部分81αの最も広い開口によって生育パネル20の開口21を覆う。これにより、開口21から空気を効率よく吸引し、根1bを開口21に挿入し易い。なお、筒状部材81は全体として上部から下部に向かって幅が狭まる漏斗状であってもよい。
【0071】
(3)上記では、株1を培地37とともにポット30に収容し、水及び液体肥料等の液体を用いて株1を栽培する水耕栽培を例に挙げて説明した。しかし、土耕栽培において、ポット30を用いず、株1を土及びウレタン等の培地37のみで栽培し、その後に株1をポット30に定植する場合にも第1実施形態に係る吸引装置80を適用可能である。このような例について
図11を用いて説明する。
【0072】
図11に示すように、例えば土及びウレタン等の培地(第1装置)37において株1が成長しており、この培地37をポット30に挿入する場合に上記吸引装置80を用いることができる。ポット30は、図示しない把持部により、縁部31が上部に位置し、下端面の開口35が下部に位置するように配置される。このポット30の上部に、
図11に示すようにアーム71により把持した培地37を位置させる。培地37の上部には株1の葉1a等が伸びており、培地37の下部には根1bが伸びている。一方、ポット30の開口35の下部に対応させて、筒状部材81を位置させる。そして、上記と同様に、筒状部材81の第1端部81aから空気を吸引する。よって、株1及び根1b等の側から開口35の下部に向かう空気の流れが生じ、風が開口35を上部から下部に向かって通過する。
【0073】
これにより、根1bがポット30の開口35に入る向きに矯正され、当該開口35に挿入され易くなる。よって、開口35に根1bが入らない状態を抑制できる。株1毎に根1bの長さのばらつき及び根の曲がりなどのくせがある場合でも、風の供給により根1bが開口35に入る向きに矯正される。また、アーム71及びポット30を把持する図示しない把持部等において振動等がある場合でも、根1bが風により開口35側に吸引されることで矯正され、根1bが開口35に挿入され易くなる。
【0074】
上記では、1つの培地37に対して1つの株1が植えられている。しかし、1つの培地37に対して複数の株1が植えられていてもよい。特許請求の範囲における第1装置は、1つの株1が植えられた1つの培地37の複数の集合であってもよいし、複数の株1を植えることが可能な1つの培地37であってもよい。
【0075】
(4)
図12に示すように、定植装置100は、根1bが生育パネル20の開口21の上部から下部に向かう方向に風を導くガイド101を備えていてもよい。ガイド101により生育パネル20の開口21の上部から下部に向かうように風を効率よく導くことができる。よって、開口21の上部から下部に向かう風を効率よく根1bに供給できる。
【0076】
ガイド101を設ける場所及びガイド101の形状は特に限定されない。ガイド101は、例えば
図12に示すように移し替え機構70のアーム71に設けることができる。
図12に示すアーム71は、上述したように、長尺状の板状部材から形成されており、当該板状部材の先端が二股に形成されている。さらに、アーム71は、板状部材の下面にガイド101が形成されている。
【0077】
つまり、アーム71は、先端が二股に分かれた二股部分71aと、二股部分71aが長手方向に連結される本体部分71bと、半円筒形状の壁であるガイド101とを有する。ガイド101は、二股部分71aの先端より後方から本体部分71bに亘って形成されている。また、ガイド101は、U字状の二股部分71aに沿った半円筒形状の壁が、アーム71の板状面と交差する方向に延びて形成されている。ガイド101において、二股部分71aの先端側(開放端側)から本体部分71b側に向か下方に傾斜するテーパ101aを有すると好ましい。
【0078】
また、ガイド101を構成する半円筒形状の壁の内側の空間は、ポット30の本体部33を収容可能な程度の大きさである。より好ましくは、当該ガイド101の内側の空間は、ポット30の本体部33よりも一回り大きく、生育パネル20の開口21の上部から下部に向かうように風を効率的に導くことができる程度の大きさである。
【0079】
つまり、該ガイド101を構成する壁の内側とポット30の本体部33との間にある程度の隙間が形成されているのが好ましい。この場合、吸引装置80が駆動された場合には、当該隙間において、ポット30側から生育パネル20の開口21側に向かう空気の流れが生じる。
【0080】
より好ましくは、当該ガイド101の内側の空間は、ポット30の本体部33及び根1bの少なくとも一部を収容しつつ、該ガイド101を構成する壁の内側とポット30の本体部33との間にある程度の隙間を有する程度の大きさである。これにより、吸引装置80が駆動された場合には、根1bがガイド101により囲まれているため、吸引による風を効率よく根1bに供給できる。
【0081】
このようなアーム71がポット30を把持する際には、アーム71の二股部分71aの先端が縁部31と育苗パネル10との間に挿入される。そして、まず、縁部31と本体部33とにより形成される段部が二股部分71aの先端により支持される。さらに、アーム71をポット30側に押し込むことで、ガイド101のテーパ101aの下面が育苗パネル10の平面上を滑る。
【0082】
このアーム71の押し込みにより、アーム71が徐々に押し上げられる。このとき、ポット30の本体部33が開口11に未だ嵌め込まれている。よって、本体部33が開口11に引っかかっていることで、アーム71をさらに押し込むことで、二股部分71aの先端において支持されていたポット30の縁部31が、本体部分71b側に押し込まれる。そして、
図13に示すように縁部31が二股部分71aの後端により支持される。本体部33及び根1b等は、ガイド101を構成する半円筒形状の壁に取り囲まれる。
【0083】
このようにポット30及び根1b等を取り囲んだガイド101は、ガイド101により生育パネル20の開口21の上部から下部に向かうように効率よく風を導き、根1bに開口21の上部から下部に向かう風を効率よく供給できる。
なお、ガイド101に根1bが付着する場合もあるが、吸引装置80により開口21の上部から下部に向かう風を根1bに供給することで、ガイド101から根1bが離れ、開口21に挿入される。
【0084】
ここでは、アーム71にガイド101を設ける例を説明したが、ガイド101を設ける位置はアーム71に限定されない。つまり、開口21の上部に株1が収容されたポット30が位置づけられた場合に、開口21の上部から下部に向かう風を根1bに効率よく供給できるのであれば、ガイド101を設ける位置はアーム71に限定されない。よって、例えば、アーム71とは別途の装置に取り付けられたガイド101が、ポット30が開口21に位置付けられた場合に、当該開口21に対応するように位置づけられてもよい。
【0085】
(5)上記では、吸引装置80の移動部85は、生育パネル20の所定の開口21の下部に筒状部材81を移動する(
図7A)。アーム71は、育苗パネル10から取り出した定植対象であるポット30を、生育パネル20の所定の開口21の上部に移動する(
図7B、
図7C)。筒状部材81とポット30とが所定の開口21に対応して配置されればよく、上記の態様での位置調整に限定されない。
【0086】
例えば、筒状部材81とポット30とを所定の開口21に対応して配置するために、移動部85による筒状部材81の開口21への移動、アーム71によるポット30の開口21への移動、第2搬送装置60によるポット30側への生育パネル20の移動、筒状部材81(吸引装置80)側への第2搬送装置60による生育パネル20の移動等を適宜用いることができる。
例えば、第2搬送装置60は、所定の位置に配置された筒状部材81及びポット30に対して、生育パネル20を移動することで、筒状部材81及びポット30と生育パネル20の開口21とを対応づけることができる。
【0087】
〔第2実施形態〕
定植工程において根を適正位置に配置する方法の別の一例として、開口に向かって風を送風して根を適正な位置に配置する定植装置及び定植方法について以下に説明する。
【0088】
第1実施形態とは、風を利用して根1bを生育パネル20の開口21に挿入する点において共通しているが、根1bに風を供給する装置及び方法が異なる。つまり、第1実施形態では、根1bの根本から先端に向って、根1bを吸引する風を供給するために吸引装置80を用いている。一方、第2実施形態では、開口21に向かって風を送風し(風を吹き出し)、根1bの根本から先端に向って空気の流れを生じさせる吹出装置111を用いる。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0089】
(1)定植装置
本実施形態に係る定植装置100は、第1実施形態と同様に、育苗パネル10を搬送する第1搬送装置50と、生育パネル20を搬送する第2搬送装置(移動部)60と、育苗パネル10から生育パネル20に株1を移し替える移し替え機構70と、根1bに液体を供給する液体供給装置90とを備える。本実施形態の定植装置は、第1実施形態の吸引装置(風供給装置)80の代わりに、
図14に示すように、開口21に向かって風を送風し、根1bの根本から先端に向って空気の流れを生じさせる吹出装置(風供給装置)111を備える。
【0090】
吹出装置(風供給装置)111について
図14を用いて説明する。
吹出装置111は、開口21に向かって風を送風するブロアから構成されており、吹出装置111を所定位置に移動させる移動部(図示せず)を有する。移動部は、吹出装置111の吹出口111aが開口21の方向に向くように、吹出装置111を所定の開口21の上部に移動する。
このような吹出装置111は、例えば、非使用時は退避位置に退避している。次に、株1が収容されたポット30を生育パネル20に移し替える際には、吹出装置111は、移動部により、
図14に示すようにポット30が載置される所定の開口21の上部に移動する。
【0091】
一方、アーム71は当該開口21の上部に、当該開口21に載置されるべきポット30を移動する。これにより、当該開口21の上部には株1が収容されたポット30と、吹出装置111とが位置付けられている。このとき、ポット30の開口35側である下側には株1の根1bがポット30から伸び出ており、反対側の上側には株1の葉1a等が伸び出ている。
【0092】
本実施形態では、吹出装置111は例えば2つ備えられている。そして、
図14のように定植を行う際には、例えば、ポット30が開口21の概ね直上に配置され、吹出装置111がポット30を挟んで対向する位置に配置される。
【0093】
この状態で、吹出装置111を駆動させると、吹出口111aから空気が吹き出される。これにより、開口21の上部から下部に向かう空気の流れが形成される。
ここで、生育パネル20の開口21の上部にはポット30が配置されており、ポット30の下部の開口35から株1の根1bが伸び出ている。吹出装置111の駆動によって、開口21の上部、例えばポット30、株1及び根1b等の側から開口21の下部に向かう空気の流れが生じる。よって、吹出装置111の駆動により、生育パネル20の開口21の上部から下部に向かう風を効率良く発生できる。このとき、風が開口21を上部から下部に向かって通過することで、根1bは、開口21の上部から下部に向かう空気の流れに沿って、当該開口21に入る向きに矯正され、当該開口21に挿入され易くなる。
【0094】
よって、生育パネル20の開口21に根1bが入らない状態で定植されるのを抑制できる。株1毎に根1bの長さのばらつき及び根の曲がりなどのくせがある場合でも、風の供給により根1bが生育パネル20の対応する開口21に入る向きに矯正される。また、定植の際に生育パネル20及びアーム71等において振動等がある場合でも、風により開口21側に吸引されることで根1bが矯正され、根1bが生育パネル20の対応する開口21に挿入され易くなる。
【0095】
(2)定植方法
吹出装置111を備える定植装置における定植方法について、第1実施形態と異なる点を主に説明する。
【0096】
まず、吹出装置111は、移動部により、生育パネル20の所定の開口21の上部に移動される。
次に、アーム71は、育苗パネル10から定植対象であるポット30を把持して取り出す。このとき、液体供給装置90は根1bに液体を供給する。その後、アーム71は、生育パネル20の所定の開口21の上部にポット30を移動する。
【0097】
次に、ポット30が所定の開口21の上部に位置付けられた状態で、吹出装置111が空気を吹き出す。これにより、所定の開口21の上部から下部に向かう風が供給されることで、根1bが所定の開口21に入る向きに矯正され、当該開口21に挿入され易くなる。
【0098】
最後に、アーム71はポット30を所定の開口21に載置し、退避位置に戻る。また、吹出装置111は吹き出しを中止する。その後、吹出装置111は、移動部により退避位置に戻る。これにより、根1bが所定の開口21よりも下部に位置した状態で、ポット30が生育パネル20の所定の開口21に載置され、1つのポット30の育苗パネル10から生育パネル20への定植が完了する。
【0099】
なお、上記定植方法において、吹出装置111により空気を吹き出す際の風量及び風力等は一定に保たれていてもよい。なお、空気を吹き出す際の風量及び風力等は、吹出装置111と、根1b及び開口21等との距離を変化させることで調整可能である。このような調整により、開口21の上部から下部に向かう風により株1の根1b、茎及び葉1a等が損傷するのを抑制しつつ、根1bを開口21に挿入できる。
【0100】
上記定植方法のフローは、育苗パネル10から生育パネル20に定植する際に根1bが生育パネル20の開口21に挿入されればよく、これに限定されない。
例えば、上記とは異なり、まずアーム71によりポット30を当該開口21の上部に配置し、その後、当該開口21の上部に吹出装置111を配置してもよい。
【0101】
また、例えば、吹出装置111からの風の吹き出しタイミングは上記に限定されず、ポット30が開口21の上部に移動する前に、吹出装置111から空気を吹き出してもよい。
【0102】
[第2実施形態の変形例]
(1)第1実施形態の(3)の概念と同様に、土耕栽培において、ポット30を用いず、株1を土及びウレタン等の培地37のみで栽培し、その後に株1をポット30に定植する場合においても第2実施形態に係る吹出装置111を適用可能である。吹出装置111は、第1実施形態の
図11の吸引装置80とは異なり、培地37と同様にポット30の上部に配置される。吹出装置111は、例えば、ポット30の上部において、培地37を挟んで対向する位置に配置される。吹出装置111から風を吹き出すことで、根1bがポット30の開口35に入る向きに矯正され、当該開口35に挿入され易くなる。
【0103】
(2)第1実施形態の変形例(4)の概念と同様に、吹出装置111から吹き出した風を、開口21の上部から下部に向かう方向に導くガイドが備えられていてもよい。ガイドにより生育パネル20の開口21の上部から下部に向かうように風を導くことができるため、根1bに開口21の上部から下部に向かう風を効率よく供給できる。
【0104】
ガイドを設ける場所及びガイドの形状は特に限定されないが、例えば定植の際に、図示しない移動部によって、退避しているガイドが生育パネル20の対応する開口21に移動する。開口21に対して、ガイド101は、例えば板状部材であり、吹出装置111から吹き出される風を開口21に向けるように、風の方向に沿うように配置される。
【0105】
(3)第1実施形態の変形例(5)の概念と同様に、吹出装置111とポット30とが所定の開口21に対応して配置されればよく、上記の態様での位置調整に限定されない。
例えば、吹出装置111とポット30とを所定の開口21に対応して配置するために、移動部による吹出装置111の開口21への移動、アーム71によるポット30の開口21への移動、第2搬送装置60によるポット30側への生育パネル20の移動、吹出装置111側への第2搬送装置60による生育パネル20の移動等を適宜用いることができる。
例えば、第2搬送装置60は、所定の位置に配置された吹出装置111及びポット30に対して、生育パネル20を移動することで、吹出装置111及びポット30と生育パネル20の開口21とを対応づけることができる。
【0106】
〔他の実施形態〕
なお上述の実施形態(他の実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【0107】
(1)上記実施形態(第1及び第2実施形態)では、1つの株1を育苗パネル10から取り出して、生育パネル20の対応する1の開口21に定植するというように株1を一つずつ定植する態様を説明した。しかし、上記実施形態は、一度に複数の株1を育苗パネル10から取り出して、生育パネル20の対応する複数の開口21に定植する態様であっても適用可能である。
【0108】
(2)上記実施形態では、主に育苗パネル10から生育パネル20への株1の移し替えによる定植を説明した。しかし、定植には、第1株間隔の生育パネルから、第1株間隔よりも広い第2株間隔の生育パネルへの株の移し替えが含まれていてもよい。また、定植は、単に、パネル間での株の移し替えを意味しても良い。つまり、定植には、株間隔を広げるための移し替えだけでなく、株間隔に関係なく株1のパネル間での移し替え、さらには株間隔を狭くするための移し替え等が含まれていてもよい。
【0109】
(3)上記実施形態では、液体供給装置90が定植装置100に設けられているが、液体供給装置90は定植装置100とは別途に設けられていてもよい。また、液体供給装置90は省略されてもよい。
【0110】
(4)上記実施形態の吸引装置80及び吹出装置111である風供給装置は、根1bの長さに応じて風量及び風圧等を変更してもよい。この場合、例えば、図示しない検出装置によって根1bの長さを検出する。風供給装置は、検出結果に基づいて風を吸引又は吹き出す際の風量及び風圧等を変更してもよい。例えば、根1bの長さが所定値以上で長い場合には風量及び風圧等を大きくし、根1bの長さが所定値未満で短い場合には風量及び風圧等を小さくする。
【0111】
(5)上記実施形態では、吸引装置80及び吹出装置111によって、開口21の上部から下部に向かう風が生じる。しかし、根1bを開口21に挿入するために、根1b側から開口21を挟んで反対側に風が向かえばよく、風の向きは上下方向に限られない。例えば、生育パネル20の板状面の向きに応じて、風の向きは左右方向であってもよい。
【符号の説明】
【0112】
1 :株
1b :根
10 :育苗パネル(第1装置)
11 :開口
20 :生育パネル(第2装置)
21 :開口
30 :ポット(収容部)
37 :培地
50 :第1搬送装置
60 :第2搬送装置(移動部)
70 :替え機構
71 :アーム(移動部)
80 :吸引装置(風供給装置)
81 :筒状部材
81a :第1端部
81b :第2端部
85 :移動部
90 :液体供給装置
100 :定植装置
101 :ガイド
111 :吹出装置(風供給装置)