(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】誘導SAWデバイスのための水晶方位
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
H03H9/25 C
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018194054
(22)【出願日】2018-10-15
【審査請求日】2021-09-06
(32)【優先日】2017-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517090646
【氏名又は名称】コーボ ユーエス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100162846
【氏名又は名称】大牧 綾子
(72)【発明者】
【氏名】井上 将吾
(72)【発明者】
【氏名】マーク・ソラル
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0222622(US,A1)
【文献】国際公開第2012/086639(WO,A1)
【文献】特開2016-184900(JP,A)
【文献】Michio Kadota,Improved Quarlity Factor of Hetero Acoustic Layer (HAL) SAW Resonator Combining LiTaO3 Thin Plate and Quartz Substrate,2017 IEEE International Ultrasonic Symposium,米国,IEEE,2017年09月06日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面弾性波(SAW)デバイスであって、
水晶キャリア基板と、
前記水晶キャリア基板の表面上の圧電層と、
前記水晶キャリア基板に対向する前記圧電層の表面上の少なくとも1つの櫛形変換器(IDT)とを備え、
前記水晶キャリア基板は、Yカット水晶基板を55°~80°の範囲でX軸に沿って回転させることによって得られた
切断面を含み、伝播方向は、前記X軸を前記
切断面内で75°~105°の範囲で回転させることによって得られ
、
前記切断面の結晶方位を、前記伝播方向に沿って0°~30°の範囲で、または150°~210°の範囲で、または330°~360°の範囲で回転させている
、SAWデバイス。
【請求項2】
前記
切断面は、前記Yカット水晶基板を60°~80°の範囲で前記X軸に沿って回転させることによって得られる、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項3】
前記
切断面は、前記Yカット水晶基板を65°~80°の範囲で前記X軸に沿って回転させることによって得られる、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項4】
前記
切断面は、前記Yカット水晶基板を66.31°だけ前記X軸に沿って回転させることによって得られる、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項5】
前記
切断面は、前記Yカット水晶基板を69°だけ前記X軸に沿って回転させることによって得られる、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項6】
前記
伝播方向は、前記X軸を80°~100°の範囲で回転させることによって得られる、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項7】
前記
伝播方向は、前記X軸を87°~93°の範囲で回転させることによって得られる、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項8】
前記圧電層の厚さは、前記少なくとも1つのIDTのIDT周期の2倍未満である、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項9】
前記圧電層の厚さは、前記少なくとも1つのIDTのIDT周期の1倍未満である、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項10】
前記圧電層の厚さは、前記少なくとも1つのIDTのIDT周期の約70%未満である、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項11】
前記少なくとも1つのIDTは、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項12】
前記少なくとも1つのIDTの厚さは、IDT周期の約15%未満である、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項13】
前記少なくとも1つのIDTの厚さは、IDT周期の3%~14%の範囲にある、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項14】
前記圧電層は、Y~Y+60°の間の方位を有するタンタル酸リチウムを含む、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項15】
前記圧電層は、Y-20°~Y+60°の間の方位を有するニオブ酸リチウムを含む、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項16】
前記水晶キャリア基板と前記圧電層との間に前記水晶キャリア基板の前記表面上の1つ以上の層を更に備える、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項17】
前記1つ以上の層は、少なくとも1つの酸化ケイ素層を含む、請求項1
6に記載のSAWデバイス。
【請求項18】
前記酸化ケイ素は、フッ化物またはホウ素原子を含む不純物でドーピングされている、請求項1
7に記載のSAWデバイス。
【請求項19】
前記少なくとも1つの櫛形変換器は、1つ以上の誘電体層の内部に埋め込まれている、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項20】
前記1つ以上の誘電体層は酸化ケイ素を含む、請求項
19に記載のSAWデバイス。
【請求項21】
前記酸化ケイ素は、フッ化物またはホウ素原子を含む不純物でドーピングされている、請求項2
0に記載のSAWデバイス。
【請求項22】
遮断周波数は、共振周波数より少なくとも1.07倍高い、請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項23】
前記Yカット水晶基板(θ1)の回転角、前記圧電層の回転角(θ2)、前記少なくとも1つのIDTの厚さ(h1)、前記圧電層の厚さ(h2)、前記水晶キャリア基板と前記圧電層との間の誘電体層の厚さ(h3)、及び前記IDTのデューティファクタ(DF)は、不等式
【数1】
を満たし、
式中、
【数2】
であり、
h2<0.7λのとき、
【数3】
h2≧0.7λのとき、
【数4】
θ1≦69°のとき、
【数5】
θ1>69°のとき、
【数6】
である、請求項2
2に記載のSAWデバイス。
【請求項24】
表面弾性波(SAW)デバイスであって、
水晶キャリア基板と、
前記水晶キャリア基板の表面上の圧電層と、
前記水晶キャリア基板に対向する前記圧電層の表面上の少なくとも1つの櫛形変換器(IDT)とを備え、
前記水晶キャリア基板の切断面は、
αが-55°~-65°の範囲にあり、βが18°~28°の範囲にあり、γが85°~95°の範囲にある;または
αが-5°~5°の範囲にあり、βが-18°~-28°の範囲にあり、γが-85°~-95°の範囲にある;または
αが55°~65°の範囲にあり、βが18°~28°の範囲にあり、γが85°~95°の範囲にある、
のうちの少なくとも1つのオイラー角(α、β、γ)を有する結晶方位を含
み、
前記切断面の前記結晶方位を、伝播方向に沿って0°~30°の範囲で、または150°~210°の範囲で、または330°~360°の範囲で回転させている、前記SAWデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連案件の相互参照
本出願は、2017年10月23日出願の仮特許出願第62/575,819号の利益を主張するものであり、当該仮特許出願の開示は、その全体がここで参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、表面弾性波(Surface Acoustic Wave、SAW)デバイスに関し、特に、水晶キャリア基板を備えたSAWデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
SAW共振器やSAWフィルタなどの表面弾性波(SAW)デバイスが、無線周波数(Radio Frequency、RF)フィルタなどの多くの用途において使用されている。例えば、SAWフィルタは、一般に、第2世代(Second Generation、2G)、第3世代(Third Generation、3G)及び第4世代(Fourth Generation、4G)無線受信機フロントエンド、送受切り換え器及び受信フィルタにおいて使用されている。SAWフィルタの広範にわたる使用は、少なくとも部分的には、SAWフィルタが、十分な除去と共に低挿入損失を呈し、広帯域幅を実現することができ、更には、従来の空洞及びセラミックフィルタのごく一部の大きさであるという事実に基づいている。あらゆる電子デバイスと同様に、SAWデバイスの性能は、システムの全体性能に影響を与え得る重要なパラメータである。この点に関して、高性能SAWデバイスが求められている。
【発明の概要】
【0004】
本明細書に開示された態様は、誘導表面弾性波(SAW)デバイスのための水晶方位(quartz orientation)を含む。誘導SAWデバイスは、水晶キャリア基板と、水晶キャリア基板の表面上の圧電層と、水晶キャリア基板に対向する圧電層の表面上の少なくとも1つの櫛形変換器(Interdigitated Transducer、IDT)とを備える。水晶キャリア基板は、改善された性能パラメータをSAWデバイスに提供する方位を含む。このようなパラメータには、電気機械結合係数、共振器Q値、周波数温度係数、及びΔ周波数温度係数が含まれる。
【0005】
一態様では、水晶キャリア基板は、Yカット水晶基板を55°~80°の範囲でX軸に沿って回転させることによって得られた平面を含み、伝播方向は、X軸を当該平面内で75°~105°の範囲で回転させることによって得られる。いくつかの実施形態では、平面は、Yカット水晶基板を60°~80°の範囲で、または65°~80°の範囲で回転させることによって得られる。いくつかの実施形態では、平面は、Yカット水晶基板を66.31°だけX軸に沿って回転させることによって得られる。他の実施形態では、平面は、Yカット水晶基板を69°だけX軸に沿って回転させることによって得られる。いくつかの実施形態では、圧電層は、Y~Y+60°の間の方位を有するタンタル酸リチウムを含む。他の実施形態では、圧電層は、Y-20°~Y+60°の間の方位を有するニオブ酸リチウムを含む。いくつかの実施形態では、SAWデバイスは、水晶キャリア基板と圧電層との間の誘電体層などの、追加の層を含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、SAWデバイスの各種層の形状及び方位のパラメータ範囲は、共振周波数より少なくとも1.07倍高い遮断周波数を提供するように構成されている。パラメータ範囲は、水晶キャリア基板の回転角、圧電層の回転角及び厚さ、IDTのデューティファクタ及び厚さ、ならびに誘電体層の厚さを含んでもよい。
【0007】
別の態様では、SAWデバイスは、水晶キャリア基板と、水晶キャリア基板の表面上の圧電層と、水晶キャリア基板に対向する圧電層の表面上の少なくとも1つのIDTとを備え、水晶キャリア基板の切断面は、αが-55°~-65°の範囲にあり、βが18°~28°の範囲にあり、γが85°~95°の範囲にある;またはαが-5°~5°の範囲にあり、βが-18°~-28°の範囲にあり、γが-85°~-95°の範囲にある;またはαが55°~65°の範囲にあり、βが18°~28°の範囲にあり、γが85°~95°の範囲にある、のうちの少なくとも1つのオイラー角(α、β、γ)を有する結晶方位を含む。いくつかの実施形態では、結晶方位を、伝搬方向に沿って0°~30°の範囲で、または150°~210°の範囲で、または330°~360°の範囲で回転させている。
【0008】
当業者は、添付図面に関連して好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読んだ後に、本開示の範囲を認識し、その追加的な態様を理解するであろう。
【0009】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付図面は、本開示のいくつかの態様を例示するものであり、本説明と共に、本開示の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】表面弾性波(SAW)櫛形変換器(IDT)の原理を示す図である。
【
図3】SAW共振器のインピーダンス(Z)の例を示すプロットである。
【
図4】はしご形フィルタの原理を示す回路図である。
【
図5】共振器とカスケード接続された結合共振フィルタの例を示す図である。
【
図6】キャリア基板、圧電フィルム及び任意層を使用したSAWデバイスを示す図である。
【
図7】本開示のいくつかの実施形態に係る水晶キャリア基板、圧電フィルム/層及び任意に1つ以上の層を有するSAWデバイスを示す図である。
【
図8】YカットZ伝搬水晶におけるバルク弾性モードのスローネス曲線を表す。
【
図9】
図9Aは、LT/Z伝搬SAWデバイスの電気機械結合係数(K2)をLTのみのSAWデバイスと、Z軸に沿った回転角θ全体で比較したプロットである。
図9Bは、LT/Z伝搬SAWデバイスの共振器Q値(Q)をLTのみのSAWデバイスと比較したプロットである。
図9Cは、LT/Z伝搬SAWデバイスの周波数温度係数(Temperature Coefficient of Frequency、TCF)をLTのみのSAWデバイスと、共振周波数と反共振周波数との両方において比較したプロットである。
図9Dは、LT/Z伝搬SAWデバイスのΔTCFをLTのみのSAWデバイスと比較したプロットである。
【
図10】低速剪断速度の2番目に速い最大値を有するバルク水晶結晶の伝搬方向を示す。
【
図11A】
図10の第1の結晶方向を有する水晶キャリア基板の切断面を示す。
【
図11B】
図10の第1の結晶方向を有する水晶キャリア基板の切断面内の伝搬方向におけるバルク弾性モードのスローネス曲線を示す。
【
図12A】
図10の第2の結晶方向を有する水晶キャリア基板の切断面を示す。
【
図12B】
図10の第2の結晶方向を有する水晶キャリア基板の切断面内の伝搬方向におけるバルク弾性モードのスローネス曲線を示す。
【
図13A】
図10の第3の結晶方向を有する水晶キャリア基板の切断面を示す。
【
図13B】
図10の第3の結晶方向を有する水晶キャリア基板の切断面内の伝搬方向におけるバルク弾性モードのスローネス曲線を示す。
【
図14】
図14Aは、LT/Z伝搬SAWデバイス、LTのみのSAWデバイス及びLT/1,2,3伝搬SAWデバイスのK2係数を回転角θ全体で比較したプロットである。
図14Bは、LT/Z伝搬SAWデバイス、LTのみのSAWデバイス及びLT/1,2,3伝搬SAWデバイスのQ値を回転角θ全体で比較したプロットである。
図14Cは、LT/Z伝搬SAWデバイス、LTのみのSAWデバイス及びLT/1,2,3伝搬SAWデバイスのTCFを、共振周波数と反共振周波数との両方において回転角θ全体で比較したプロットである。
図14Dは、LT/Z伝搬SAWデバイス、LTのみのSAWデバイス及びLT/1,2,3伝搬SAWデバイスのΔTCFを回転角θ全体で比較したプロットである。
【
図15】
図10の第2の結晶方向を有する切断面の改善された性能パラメータと共に回転角θの範囲を示す。
【
図17】
図17Aは、弾性エネルギーが圧電層の内部に誘導されるSAWデバイスにおけるバルク遮断周波数の相対位置を示す。
図17Bは、弾性エネルギーが水晶キャリア基板のバルク内に放射するSAWデバイスにおけるバルク遮断周波数の相対位置を示す。
【
図18】いくつかの実施形態に係るSAWデバイスを表す。
【
図19-1】Aは、正規化fsに対するシミュレーション結果を
図18の水晶キャリア基板の回転角θ1の関数として表したプロットである。Bは、正規化fsに対するシミュレーション結果を
図18の圧電層の回転角θ2の関数として表したプロットである。Cは、正規化fsに対するシミュレーション結果を
図18の誘電体層の厚さh3の関数として表したプロットである。Dは、正規化fsに対するシミュレーション結果を、水晶基板を含まないSAWデバイス、すなわちLTのみのSAWデバイスにおける
図18の圧電層の回転角θ2の関数として表したプロットである。
【
図19-2】Eは、正規化fsに対するシミュレーション結果を
図18の圧電層の厚さh2の関数として表したプロットである。Fは、正規化fsに対するシミュレーション結果を
図18のIDT電極の厚さh1の関数として表したプロットである。Gは、正規化fsに対するシミュレーション結果を
図18のIDT電極のデューティファクタ(DF)の関数として表したプロットである。Hは、正規化遮断周波数fcに対するシミュレーション結果を
図18の水晶キャリア基板の回転角θ1の関数として表したプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に記載した実施形態は、当業者が実施形態を実施できるようにするために必要な情報を表し、実施形態の実施における最良の形態を示す。添付図面に照らして以下の説明を読むことにより、当業者は、本開示の概念を理解すると共に、本明細書において特に対象とされないこれらの概念の適用例を理解するであろう。これらの概念及び適用例は、開示の範囲及び添付された特許請求の範囲に含まれることを理解すべきである。
【0012】
第1、第2などの用語は、各種要素を記載するために本明細書で使用され得るが、これらの要素は、これらの用語によって制限されるべきではないことが理解されよう。これらの用語は、単に、ある要素を別の要素から区別するために使用される。例えば、本開示の範囲から逸脱せずに、第1の要素を第2の要素と称することができ、同様に、第2の要素を、第1の要素と称することができる。本明細書で使用される場合、用語「及び/または」は、リストに記載された関連項目のうちの1つ以上のいずれか及び全ての組み合わせを含む。
【0013】
層、領域または基板などの要素が、別の要素の「上に」ある、または「上まで」延在していると呼ばれるとき、当該要素は、他の要素の直接上にある、または直接上まで延在している場合があり、あるいは介在要素が存在してもよいことが理解されよう。これに対して、ある要素が別の要素の「直接上にある」、または「直接上まで」延在していると呼ばれるとき、介在要素は存在しない。同様に、層、領域または基板などの要素が、別の要素の「上方に」ある、または「上方まで」延在していると呼ばれるとき、当該要素は、他の要素の直接上方にある、または直接上方まで延在している場合があり、あるいは介在要素が存在してもよいことが理解されよう。これに対して、ある要素が別の要素の「直接上方にある」、または「直接上方まで」延在していると呼ばれるとき、介在要素は存在しない。要素が、別の要素に「接続されている」、または「結合されている」と呼ばれるとき、当該要素は、他の要素に直接接続されている、または結合されている場合があり、あるいは介在要素が存在してもよいことも理解されよう。これに対して、ある要素が別の要素に「直接接続されている」、または「直接結合されている」と呼ばれるとき、介在要素は存在しない。
【0014】
「下」または「上」または「上方」または「下方」または「水平」または「垂直」などの相対的な用語を本明細書で使用して、図面に示したように、ある要素、層または領域と別の要素、層または領域との関係を説明する場合がある。これらの用語及び上述したものは、図面に表された方位に加えてデバイスの種々の方向を含むように意図されることが理解されよう。
【0015】
本明細書で使用される用語は、単に特定の実施形態を説明するためのものであり、開示を限定するように意図されない。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、特に文脈が明確に指示していない限り、複数形も含むように意図される。用語「備える」、「備えている」、「含む」及び/または「含んでいる」は、本明細書で使用されるとき、明言された特徴、整数、ステップ、操作、要素及び/または構成要素の存在を指定するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、構成要素及び/またはこれらのグループの存在及び/または追加を排除しないことが更に理解されよう。
【0016】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用される用語は、本明細書及び関連技術の文脈におけるその意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想的な意味または過度に形式的な意味には、本明細書でそのように明確に定義されていない限り解釈されないことが更に理解されよう。
【0017】
本明細書に開示された態様は、誘導表面弾性波(SAW)デバイスのための水晶方位を含む。誘導SAWデバイスは、水晶キャリア基板と、水晶キャリア基板の表面上の圧電層と、水晶キャリア基板に対向する圧電層の表面上の少なくとも1つの櫛形変換器(IDT)とを備える。水晶キャリア基板は、改善された性能パラメータをSAWデバイスに提供する方位を含む。このようなパラメータには、電気機械結合係数、共振器Q値、周波数温度係数(TCF)、及び共振周波数のときのTCFと反共振周波数のときのTCFとの間の差(ΔTCF)が含まれる。
【0018】
無線周波数(RF)SAWデバイスが剪断水平波を使用している場合の損失の主な要因は、SAWデバイスのバルク基板内への弾性放射である。この放射を抑制する方法は、キャリア基板上に積層させた圧電フィルムまたは層を使用することである。本開示は、キャリア基板として水晶を使用することに関する。水晶は、粘性損失が小さく、誘電率が小さく、かつ温度感応性が低いという利点を提示する。更に、ケイ素(Si)と比較すると、基板内の抵抗損失が、水晶の場合には存在しない。いくつかの実施形態では、水晶基板のための最適な方位が開示される。
【0019】
本開示の実施形態について更に詳しく説明する前に、SAWデバイス及びいくつかの関連する課題について述べることは有益である。SAWフィルタは、圧電基板の表面における弾性波の伝搬を利用する。
図1は、SAW IDT10の一例を示す。図に示すように、IDT10は、圧電基板(図示せず)の表面上に(例えば、直接上に)堆積されている2つの電極12-1及び12-2を含む。電圧は、2つの電極12-1と12-2との間に印加される。これにより、2つの電極12-1と12-2との間に電界が生じ、圧電効果によってSAWが生成される。一連の電極が交互の電位にあるため、2つの連続電極の電界は逆方向である。これは、IDT10が、電極ピッチが弾性波長の半分であるときにその最大効率を有することを意味する。
【0020】
図2は、SAW共振器14の一例を示す。SAW共振器14は、2つの格子18-1と18-2との間に挿入されたIDT16を含む。これらの格子は、
図2においてグラウンドに接続されている。2つの格子18-1及び18-2は、反射器として作用し、(弾性)空洞を画定する。代替構成では、格子18-1及び18-2は信号に接続されてもよく、あるいは格子18-1及び18-2はフローティング状態であってもよい。
【0021】
図3は、共振器インピーダンス(すなわち、例えば、
図2のSAW共振器14などのSAW共振器の一例のインピーダンス)の例を示す。
図3は、ログスケールである。すなわち、これは、プロットされているabs(Z)でなく、何らかのスケーリング因子との対数である。
図3は、単に説明のためのものである。共振周波数のとき、SAW共振器のインピーダンスはゼロに近くなり、SAW共振器は短絡回路として作用する。反共振周波数のとき、SAW共振器のインピーダンスは非常に大きくなり、SAW共振器は開放回路として作用する。これらの性質を利用して、はしご形フィルタを設計することが可能である。
【0022】
はしご形フィルタ20の一例を
図4に示す。図に示すように、いくつかのSAW共振器22-1~22-7が電気回路内部で接続されている。一般に、はしご形フィルタ20は、シャント共振器(すなわち、SAW共振器22-1、22-3、22-5及び22-7)がはしご形フィルタ20の中心周波数の近くに反共振周波数を有するように設計される。更に、直列共振器(すなわち、
図4の例のSAW共振器22-2、22-4及び22-6)は、はしご形フィルタ20の中心周波数の近くにそれらの共振周波数を有するように設計される。従って、中心周波数のとき、シャント共振器は開放回路として作用し、直列共振器は短絡回路として作用し、はしご形フィルタ20の入力と出力との間が直接接続される。共振周波数のとき、シャント共振器は短絡回路として作用し、はしご形フィルタ20の伝達関数のノッチが通過帯域下に生じる。同様に、反共振周波数のとき、直列共振器は、開放回路として作用し、阻止帯域より上にノッチが生じる。当然、これは単に模式的な説明であり、物理フィルタは、シャント共振器のいくつかの異なる共振周波数と直列共振器の反共振周波数とを有することが多い。更に、設計は、共振器の実効共振周波数をシフトさせる容量またはインダクタンスなどの、いくつかの集中素子を含んでもよい。更に、
図4に示したフィルタは、(入力で)開始しており、シャント共振器によって(出力で)終了している。当然、これは単に説明のためであり、直列共振器を入力及び/または出力に接続することもできる。図示しないが、はしご形フィルタのための多くの代替構成が可能である。例えば、限定されるものではないが、場合によっては、はしご形フィルタは、いくつかの連続的な直列共振器またはシャント共振器を有してもよい。
【0023】
はしご形フィルタに加えて、いわゆる結合共振器フィルタ(Coupled Resonator Filter、CRF)またはダブルモードSAW(Double Mode SAW、DMS)フィルタを設計することが可能である。回路素子としてSAW共振器を使用する代わりに、CRFは、2つの反射格子の間にいくつかの変換器を配置することによって設計される。
図5に示した例示的なCRF24では、3つのIDT26-1~26-3が、2つの反射器28-1と28-2との間に配置されている。中心のIDT26-2は入力信号に接続されているのに対し、2つの外側のIDT26-1及び26-3は並列に接続されている。2つの反射器28-1と28-2との間の空洞は、いくつかの縦モードを有する。IDT26-1~26-3の対称的な配置を選択することにより、対称的な縦モードのみが励起される。この種類のCRFは、通常、主に2つの縦モードを利用して、入力IDT26-2を出力IDT26-1及び26-3に結合する。通過帯域幅は、これら2つのモードの周波数差に比例する。結合係数は、フィルタと電気的に整合する可能性を定める。はしご形フィルタに関しては、結合係数をより大きくすると、相対帯域幅をより広くすることができる。
図5の例では、CRF段の出力IDT26-1及び26-3は、この例においてIDT30ならびに反射器32-1及び32-2によって形成された直列共振器に接続されている。
【0024】
より一般的には、1つまたはいくつかのCRF段を、いくつかのはしご素子のうちの1つにカスケード接続することができる。はしご素子は、直列共振器またはシャント共振器とすることができる。更に、格子間の変換器の数は、例えば、2から9程度の数まで変えることができる。周知のように、変換器の間で空間がずれており、それら変換器の長さ、極性及び周期は、デバイスの性能に対して大きな影響を与える。
【0025】
いくつかのパラメータは、SAW共振器にとって重要である。1つの重要なパラメータは、実効圧電結合係数である。この係数は、反共振周波数と共振周波数との間の比に依存する。より大きい結合係数を有するSAW共振器は、共振と反共振との間でより大きい周波数シフトを有し、広帯域フィルタを設計するために使用することができる。結合係数は、主として、選択された圧電基板に依存する。SAW共振器の別の重要なパラメータは共振器Q値(Q)である。この値は、SAW共振器を用いて設計されたフィルタの挿入損失及びフィルタ応答の急峻度に影響を与える。Q値(Q)は、主としてSAW共振器内の弾性損失及び電気的損失に依存する。
【0026】
更に、SAW共振器の共振周波数は、SAWの速度に比例する。温度が変化すると、波の速度が変化し、フィルタは周波数においてシフトする。加えて、熱膨張のため、構成要素の寸法が変化し、更なる周波数シフトをも招く。SAWフィルタは、通常は摂氏(C)100度以上の範囲である温度領域にわたって周波数帯を選択可能であることを必要とする。SAWフィルタの中心周波数の温度感応性が大きいと、結果として、フィルタ応答が周波数においてシフトし、所与の温度範囲内で性能が全体的に低下する。温度感応性は、係数TCFによって測定される。大半の材料は負のTCFを有し、温度が上昇すると周波数が減少することを意味する。
【0027】
SAWフィルタに対する基板の選択は、デバイスの性能にとって非常に重要である。タンタル酸リチウム(LiTaO3)(本明細書では時としてLTと略記される)で作られた基板を、通常Y+0°~Y+60°の間の方位、かつLT結晶のX軸(すなわち、LTの結晶学的なX軸)に沿った伝搬で使用することが一般的である。一般に、Y+θ、伝播Xとして指定された方位は、平面に対する垂線が、θだけ回転させた軸Yであることを意味する。この場合、回転は、X軸の周りで行われる。これらの基板上で、デバイスは、主としていわゆる漏洩SAWまたは擬似SAWまたは剪断水平波を励起している。これらの波に関連した機械的変位は、主として電極に対して平行な方向内である。この種類の波の利点は、デバイス周波数の温度安定度を比較的良好に保ちつつ、大きい電気弾性結合を生じさせることである。同様に、Y-20°~Y+60°の間の方位で、かつX軸に沿った伝播で、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)の基板に対してフィルタを設計することも可能である。この場合、同じ種類の弾性波が励起される。大きい結合係数を得ることができる。
【0028】
漏洩SAWを励起するSAWデバイスを設計するとき、周知の課題は伝搬損失の存在である。この損失があると、SAW共振器の場合にはQ値が悪化することになり、SAWフィルタの場合には急峻な周波数推移及び低挿入損失を実現することができなくなる。これらの伝搬損失は、速度が漏洩SAWの速度に近いときにバルクモードが存在することに起因する。これにより、弾性エネルギーがバルク内に放射または散乱することになる。
【0029】
このバルク放射を抑制する方法は、本明細書では圧電層またはフィルムと呼ばれる圧電材料の層をキャリア基板の表面上に(例えば、直接上に)結合または堆積させた層状基板を使用することである。キャリア基板38上に結合または堆積させた圧電層またはフィルム36を含むSAWデバイス34の一例を
図6に示す。図に示すように、SAWデバイス34は、キャリア基板38、キャリア基板38の表面上の(例えば、直接上の)1つ以上の任意層40、キャリア基板38に対向する1つ以上の任意層40の表面上の圧電層36、及びキャリア基板38に対向する圧電層36の表面上の金属変換器またはIDT42を備える。あるいは、任意層(複数可)40を無くして、圧電層36がキャリア基板38の表面上に(例えば、直接上に)あるようにしてもよい。任意層40は、1つ以上の誘電体層、金属層、圧電層及びこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0030】
SAWが伝搬する方向におけるキャリア基板38のバルク弾性波(Bulk Acoustic Wave、BAW)速度が(擬似)SAWデバイス34の速度より速い場合、圧電層36の内部に弾性エネルギーを誘導することが可能であり、バルク内への損失(すなわち、基板内への損失)を無効化することができる。いくつかの中間層(例えば、1つ以上の任意層40)を、圧電層36とキャリア基板38との間に配置することができる。これらの層は、弾性誘導または圧電結合を改善するために使用することができ、または、それらは、デバイスの製造プロセスのために必要とされる場合がある。例えば、この種類のアプローチは、「DEVICE WITH ACOUSTIC WAVES GUIDED IN A FINE PIEZOELECTRIC MATERIAL FILM BONDED WITH A MOLECULAR BONDING ON A BEARING SUBSTRATE AND METHOD FOR MAKING THE SAME」と題する、2002年9月3日に発行された米国特許第6,445,265号;「DISPOSITIF A ONDES ACOUSTIQUES GUIDEES DANS UNE FINE COUCHE DE MATERIAU PIEZO-ELECTRIQUE COLLEE PAR UNE COLLE MOLECULAIRE SUR UN SUBSTRAT PORTEUR ET PROCEDE DE FABRICATION」と題する、2001年5月25日に発行されたフランス特許第2788176号;Solal,M.et al.,“Oriented Lithium Niobate Layers Transferred on 4”[100] Silicon Wafer for RF SAW Devices”,Proceedings of the 2002 IEEE Ultrasonics Symposium,Vol.1,October 8-11,2002,pages 131-134(以下、「Solal」);及びPastureaud,T.et al.,“High-Frequency Surface Acoustic Waves Excited on Thin-Oriented LiNbO3 Single-Crystal Layers Transferred onto Silicon”,IEEE Transactions on Ultrasonics,Ferroelectrics, and Frequency Control,Vol.54.No.4,April 2007,pages 870-876(以下、「Pastureaud」)において提案されている。これらの文献は、キャリア基板の上部の圧電材料の薄層上に組み込まれたSAWデバイスを開示している。他の層は、圧電層とキャリア基板との間に存在することができる。これらの中間層は、通常、誘電体層であるが、場合によっては、金属層を使用することが提案された。圧電層も可能である。キャリア基板内の速度は、弾性波を誘導することができる程度に大きい。
【0031】
SAWデバイス34を製造するために使用されるプロセスは、いくつかの例では、キャリア基板38、または堆積層(例えば、1つ以上の任意層40)を備えたキャリア基板38の上の圧電材料のウェーハのウェーハボンディングを使用する。任意層40のうちの1つとして酸化ケイ素(SiO2)を使用し、SiO2層上に圧電層36を結合することは比較的一般的でもある。圧電層36は、米国特許第6,445,265号;フランス特許第2788176号;Solal;及びPastureaudに記載されているように、例えば、イオンスライシングプロセスを利用することによって形成することができる。この場合、圧電基板は、キャリア基板38に結合される前に注入される。この注入により、注入エネルギーに応じた深さで圧電基板の内部に欠陥が生じる。これにより、圧電基板を破壊し、圧電材料の薄層を圧電層36としてキャリア基板38の表面に残存させることができる。このアプローチの欠点は、圧電基板の厚さが注入エネルギーによって制限されることであり、0.数マイクロメートルより厚い圧電層を得ることは困難である。更に、注入は、圧電フィルムに損傷を与え得るため、損失がより大きくなる、または結合係数がより小さくなる。このプロセスは、一般に「イオンスライシング」と呼ばれる。別のプロセスは、圧電材料の薄層(すなわち、圧電層36)を得るために圧電基板を研磨することからなる。この場合、厚さの精度を得るのが困難であり、通常、周波数と、周波数の感度を最小化する層厚とを選択することが製造プロセスにとって良好な実施である。
【0032】
キャリア基板38の選択は、良好な性能を得るために非常に重要である。米国特許第6,445,265号及びフランス特許第2788176号は、ガラス、サファイア、Siまたはガリウム砒素で作られたキャリア基板を開示しているが、普通使用されるキャリア基板は、Siで作られたものである。Siの1つの課題は、その導電率であり、これによって誘電作用による損失が生じる。これは、注入によってSiを処理することによって、または圧電層36とキャリア基板38との間に比較的厚い層を使用することによって低減することができる。SAWデバイス34の製造コストを高くすることに加えて、堆積層を使用すると、良好な品質の堆積材料を得ることが困難であるために弾性伝搬損失が多少増大し得る。この課題は、SiO2層がキャリア基板38と圧電層36との間に使用されるときに存在する。SiO2の使用は、その速度の温度係数が正であるために好都合であり、これを使用して、SAWデバイス34のTCFを低減することができる。更に、SiO2には、低誘電率を有するという利点がある。これにより、SAWデバイス34の容量が減少し、その結合係数が増加する。
【0033】
図7は、本開示のいくつかの実施形態に係るSAWデバイス44を示す。図に示すように、SAWデバイス44は、水晶キャリア基板48上の圧電層またはフィルム46、水晶キャリア基板48の表面上の(例えば、直接上の)1つ以上の任意層50、水晶キャリア基板48に対向する1つ以上の任意層50の表面上の圧電層46、水晶キャリア基板48に対向する圧電層46の表面上の金属変換器またはIDT52、ならびに金属変換器52の表面及び圧電層46の露出表面の上の任意に1つ以上の誘電体層53(例えば、いくつかの実施形態においてドーピングされ得る1つ以上のSiO
2層)を備える。いくつかの実施形態では、IDT52は、1つ以上の誘電体層53内に埋め込まれる。なお、1つの金属変換器52のみが示されているが、圧電層46の表面上には任意の数の1つ以上の金属変換器52及び格子/反射器があってもよいことを理解すべきである。金属変換器52の個々の指の間の分離は、ピッチ(p)を定義する。中心周波数波長(λ)またはIDT周期は、IDTの指が同じものを反復している場所で定義される。例えば、「単一電極」変換器とも呼ばれ得る単一の交互指を備えたIDTの中心周波数波長(λ)またはIDT周期は、ピッチ(p)の約2倍である。交互対の指または「二重電極」変換器などの、複数の交互指を備えたIDTの場合、中心周波数波長(λ)またはIDT周期は、ピッチ(p)の約4倍である。また、1つ以上の層50及び53が
図7に示されているが、1つ以上の層50及び53は任意である。更に、いくつかの実施形態では、1つ以上の層50及び53は、少なくとも1つのSiO
2層を含む。この層は、いくつかの実施形態では、TCFを更に改善するために、例えば、フッ化物またはホウ素などの不純物でドーピングされている。
【0034】
キャリア基板48のために使用される材料の選択は、SAWデバイス44の性能にとって非常に重要である。キャリア基板48は、以下の性質を有することを必要とする。
・キャリア基板48は、絶縁性でなければならない。金属基板は、フィルタの入力と出力との間に強い結合を生じさせ、容量を付加する。この容量は、電気弾性結合を低減する。半導体基板は、その導電率のために多少の損失も生じさせる。
・キャリア基板48は、デバイス容量を低減し、かつ圧電結合を高めるために低誘電率を有する必要がある。
・キャリア基板48は、小さい弾性粘性損失を有する必要がある。これは、通常、単結晶基板を使用することによって得ることができる。
・キャリア基板48のTCFは、(絶対値で)小さくすべきであり、可能な場合、負である、圧電層46のTCFの符号とは逆の符号を有するべきである。加えて、小さい熱膨張係数が好適である。
【0035】
弾性デバイスのために広く使用される結晶の1つが水晶である。水晶は、いくつかの利点を提示する。
・水晶は、約4.5の低誘電率を有する。
・水晶は半導体ではない。これは、その導電率が非常に小さいことを意味する。
・水晶は、SAW及びBAWデバイスのために広範囲にわたって研究されており、水晶の品質は、粘性損失を低減するために高められている。このために、非常に良好なQ値を有する共振器は、水晶上の圧電層を使用して得ることができる。
・温度感応性の観点からは、水晶は、温度感応性が低いという利点を有し、TCFが0になる補償済みカットを有する。
このことから、水晶は、SAWデバイス44のキャリア基板48のための材料として利用される。このようなデバイスの更なる詳細は、2016年3月31日出願の、同一出願人による米国特許出願第2017/0222622号において見ることができる。この出願の全体は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0036】
前述したように、1つ以上の層50は任意である。使用する場合、1つ以上の任意層50は、例えば、総厚(toptional)を有するSiO2などの、1つ以上の誘電材料を含んでもよい。任意層(複数可)50は、通常、それぞれ中心周波数波長(λ)またはIDT周期より薄い。圧電層46は、任意の好適な圧電材料(複数可)から形成されている。本明細書に記載されたいくつかの好ましい実施形態では、圧電層46は、LTまたはLiNbO3から形成されているが、これに限定されない。いくつかの実施形態では、圧電層46は、IDT周期の2倍未満である厚さ(tpiezo)を有する。他の実施形態では、圧電層46の厚さ(tpiezo)は、IDT周期の1倍未満である。他の実施形態では、圧電層46の厚さ(tpiezo)は、IDT周期の約70%未満である。更に、例えば、SiO2、窒化ケイ素、及び酸化アルミニウムなどの、任意に1つまたはいくつかの誘電体層(すなわち、誘電体層(複数可)53)を表面に堆積させて、不動態化を実現することができる。電極をSiO2の誘電体フィルム内に埋め込んでSAWデバイス44の温度感応性を更に低減することも有利となり得る。
【0037】
例えば、いくつかの実施形態では、圧電層46はLTであり、圧電層46の厚さ(tpiezo)はIDT周期の2倍未満である。更に、いくつかの実施形態では、圧電層46のために使用されるLTは、Y~Y+60°の間の方位を有する。いくつかの実施形態では、圧電層46はLiNbO3であり、圧電層46の厚さ(tpiezo)はIDT周期の2倍未満である。更に、いくつかの実施形態では、圧電層46のために使用されるLiNbO3は、Y-20°~Y+60°の間の方位を有する。
【0038】
上述したように、SAWが伝搬する方向における水晶キャリア基板のバルク弾性速度が(擬似)SAWデバイスの速度より速い場合、圧電層の内部に弾性エネルギーを誘導することが可能であり、バルク内への損失を無効化することができる。換言すれば、SAWが伝搬する方向における水晶キャリア基板のバルク弾性速度が、SAWデバイスの速度と比較してできる限り速いことが望ましい。
【0039】
図8は、Yカット面水晶内の伝播におけるバルク弾性モードのスローネス曲線を表す。名目上の伝搬方向はZ方向である。
図8では、切断面54は、水晶結晶のY面に沿って得られる。回転角θは、Z軸に沿った回転角を表す。スローネス曲線は、縦波56、高速剪断波58及び低速剪断波60に対するプロットを含む。図に示すように、最も速い低速剪断速度を伴う結晶方位は、Z方位、すなわちZ伝搬である。特に、Z方位に沿った速度は、少なくとも4670メートル毎秒(m/s)の値を含み得る。全体的に、これは、結晶Z軸に関して10°より小さい角をなす伝搬方向、すなわちZ伝搬を伴う水晶キャリア基板が最も速い低速剪断速度を有することを意味する。
【0040】
図9A~9Dは、Z伝搬水晶基板上にY+42°LT圧電層を含む(LT/Z伝搬)SAWデバイスの各種の性能パラメータに対するシミュレーション結果を、Y+42°LT圧電基板のみを含む(LTのみ)別のSAWデバイスと比較している。
図9Aは、LT/Z-伝搬SAWデバイスの電気機械結合係数(K2)をLTのみのSAWデバイスと、水晶基板のZ軸に沿った回転角θ全体で比較したプロットである。電気機械結合係数(K2)は、圧電材料が電気エネルギーから機械エネルギーにどの程度効率的に変換するかに関連し、逆もまた同様である。一般に、K2が大きいことは、変換効率が上昇したことを意味する。
図9Aに示すように、LT/Z伝搬SAWデバイスは、LTのみのSAWデバイスより顕著に大きいK2を有する。
図9Bは、LT/Z伝搬SAWデバイスの共振器Q値(Q)をLTのみのSAWデバイスと比較したプロットである。Q値がより高いことは、エネルギー損失率がより小さいことを示す。図に示すように、LT/Z伝搬SAWデバイスは、LTのみのSAWデバイスより顕著に高いQを有する。
図9Cは、LT/Z伝搬SAWデバイスのTCFをLTのみのSAWデバイスと、共振周波数fsと反共振周波数fpとの両方において比較したプロットである。図に示すように、TCFは、LT/Z伝搬SAWデバイスの場合でもわずかに改善されるに過ぎない。
図9Dは、LT/Z伝搬SAWデバイスのΔTCFをLTのみのSAWデバイスと比較したプロットである。ΔTCFは、共振周波数と反共振周波数との間のTCFの差であり、ΔTCFができる限り小さいことが望まれる。図に示すように、ΔTCFは、LT/Z伝搬SAWデバイスにおいてより大きくなる。従って、LT/Z伝搬SAWデバイスは、K2及びQ値の顕著な改善を示すが、TCFはわずかに増加するに過ぎず、ΔTCFはより悪くなる。
【0041】
いくつかの実施形態では、SAWデバイスは、K2、Q、TCF及びΔTCFパラメータに改善を施す結晶方位及び伝搬方向を有する水晶キャリア基板を含む。その点に関して、
図10は、低速剪断速度の2番目に速い最大値を有するバルク水晶結晶の伝搬方向を示す。前述したように、Z伝搬方向は最も速い。
図10は、第1の結晶方向62、第2の結晶方向64及び第3の結晶方向66を含む。これらは、水晶結晶の対称性のために互いに全て同等である。第1の結晶方向62、第2の結晶方向64及び第3の結晶方向66は、それぞれXY結晶面からの同一角Aを含む。加えて、第1の結晶方向62及び第3の結晶方向66は、XZ結晶面からオフセットされている同一角Bを含むのに対し、第2の結晶方向64は、YZ結晶面に位置合わせされている。いくつかの実施形態では、第1の結晶方向62、第2の結晶方向64及び第3の結晶方向66を、それらの全てが低速剪断速度の2番目に速い最大値を有するように提供するために、角度Aは約23.69°であり、かつ角度Bは約30°である。いくつかの実施形態では、角Aは、XY結晶面から約10°~約35°の間の範囲にある。更なる実施形態では、角Aは、XY結晶面から約18°~約27°の間の範囲にある。いくつかの実施形態では、角Bは、約20°~40°の間、または約25°~35°の間の範囲にある。水晶キャリア基板は、この基板が切断された結晶面に従って特徴付けることができる。例えば、Yカット水晶結晶は、結晶のY面に沿って、すなわち、XZ平面に沿って、かつ結晶のY軸に垂直に切断されている。切断面をXZ平面からX軸に沿って回転させた場合、水晶キャリア基板は、回転Yカットとして特徴付けることができる。従って、第1の結晶方向62、第2の結晶方向64または第3の結晶方向66を含む平面に沿って切断された水晶キャリア基板は、回転Yカット結晶方位を有するものとして特徴付けることができる。角AがXY結晶面から約10°~約35°の間の範囲を含む実施形態の場合、対応する水晶キャリア基板は、55°~80°回転Yカットとして特徴付けることができる。角AがXY結晶面から約18°~約27°の間の範囲を含む実施形態の場合、対応する水晶キャリア基板は、63°~72°回転Yカットとして特徴付けることができる。角AがXY結晶面から約23.69°を含む実施形態の場合、対応する水晶キャリア基板は、66.31°回転Yカットとして特徴付けることができる。
【0042】
図11Aは、
図10の第1の結晶方向62を有する水晶キャリア基板の切断面68を示す。切断面68の結晶方位及び伝搬方向は、オイラー角に関して定めることができる。これは、元のXY平面及び伝搬方向と相対的な切断面68の3次元方位を特徴付ける。例えば、切断面68の結晶方位は、3つの回転の一組を定めるオイラー角(α,β,γ)によって特徴付けることができる。ここで、αは、Z軸の周りの第1の回転角であり、βは、ここで回転させたX軸(またはX’)の周りの第2の回転角であり、γは、ここで回転させたZ軸(Z’)の周りの第3の回転角である。加えて、ノードライン70は、切断面68と元のXY平面との間の交差を定め、オイラー角αは、元のX軸とノードライン70との間の角を定め、オイラー角βは、元のZ軸と回転させたZ軸との間の角を定め、オイラー角γは、ノードライン70と回転させたX軸との間の角を定める。いくつかの実施形態では、第1の結晶方向62の切断面68の前面側(または+Z軸側)は、オイラー角(-60°,23.69°,90°)を含む。逆方向、すなわち切断面68の前面側の第1の結晶方向62から180°は、オイラー角(-60°,23.69°,-90°)を含む。第1の結晶方向62の切断面68の背面側(または-Z軸側)は、オイラー角(-60°,-156.31°,-90°)を含む。逆方向、すなわち切断面68の背面側の第1の結晶方向62から180°は、オイラー角(-60°,-156.31°,90°)を含む。その点に関して、SAWデバイスは、X伝搬方向が90°である66.31°回転Yカットの結晶方位を含む水晶キャリア基板を含んでもよい。いくつかの実施形態では、伝搬方向は、90°のX伝搬から外れる場合がある。例えば、X伝搬方向範囲は、75°~105°、または80°~100°、または87°~93°を含んでもよい。その点に関して、SAWデバイスは、X伝搬方向範囲が75°~105°である55°~80°回転Yカットの範囲の結晶方位、またはX伝搬方向が75°~105°である63°~72°回転Yカットの範囲の結晶方位、またはX伝搬方向範囲が80°~100°である55°~80°回転Yカットの範囲の結晶方位、またはX伝搬方向範囲が87°~93°である55°~80°回転Yカットの範囲の結晶方位を含む水晶キャリア基板を備えてもよい。
【0043】
図11Aでは、切断面68の結晶方位及び伝搬方向は、オイラー角(-60°,23.69°,90°)から外れるオイラー角を含んでもよい。いくつかの実施形態では、水晶キャリア基板は、オイラー角(α,β,γ)を有する結晶方位を含む。ここで、αは-55°~-65°の範囲にあり、βは18°~28°の範囲にあり、γは85°~95°の範囲にある。
【0044】
図11Bは、
図10の第1の結晶方向62を有する水晶キャリア基板の切断面68内の伝搬方向におけるバルク弾性モードのスローネス曲線を示す。回転角θは、第1の結晶方向62に沿った回転角を表す。スローネス曲線は、縦波72、高速剪断波74及び低速剪断波76を含む。図に示すように、第1の結晶方向62は、切断面68における最も速い低速剪断速度を含む。特に、第1の結晶方向62に沿った速度は、少なくとも4620m/sの値を含むことができる。この値は、Z伝搬の速度のみに対する第2の最大値である。
【0045】
図12Aは、
図10の第2の結晶方向64を有する水晶キャリア基板の切断面78を示す。前述したように、水晶結晶の対称性のため、第2の結晶方向64は第1の結晶方向62と同等である。ノードライン80は、切断面78と元のXY平面との間の交差を定める。切断面78にとって、ノードライン80は元のX軸に対応する。いくつかの実施形態では、第2の結晶方向64の切断面78の前面側(または+Z軸側)は、オイラー角(0°,-23.69°,-90°)を含む。逆方向、すなわち切断面78の前面側の第2の結晶方向64から180°は、オイラー角(0°,-23.69°,90°)を含む。第2の結晶方向64の切断面78の背面側(または-Z軸側)は、オイラー角(0°,156.31°,90°)を含む。逆方向、すなわち切断面78の背面側の第2の結晶方向64から180°は、オイラー角(0°,156.31°,-90°)を含む。第2の結晶方向64は、90°のX伝搬として特徴付けることができる伝搬方向に対応する。切断面78の結晶方位は、上記で挙げられたオイラー角から外れるオイラー角を含んでもよい。例えば、前面側の第2の結晶方向64に対するいくつかの実施形態では、水晶キャリア基板は、オイラー角(α,β,γ)を有する結晶方位を含む。ここで、αは-5°~5°の範囲にあり、βは-18°~-28°の範囲にあり、γは-85°~-95°の範囲にある。
【0046】
図12Bは、
図10の第2の結晶方向64を含む水晶キャリア基板の切断面78内の伝搬方向におけるバルク弾性モードのスローネス曲線を示す。回転角θは、第2の結晶方向64に沿った回転角を表す。スローネス曲線は、縦波82、高速剪断波84及び低速剪断波86を含む。図に示すように、第2の結晶方向64は、切断面78における最も速い低速剪断速度を含む。特に、第2の結晶方向64に沿った速度は、少なくとも4620m/sの値を含むことができる。この値は、第1の結晶方向62と等しく、Z伝搬の速度のみに対する第2の最大値である。
【0047】
図13Aは、
図10の第3の結晶方向66を有する水晶キャリア基板の切断面88を示す。前述したように、水晶結晶の対称性のため、第3の結晶方向66は、第1の結晶方向62及び第2の結晶方向64と同等である。ノードライン90は、切断面88と元のXY平面との間の交差を定める。いくつかの実施形態では、第3の結晶方向66の切断面88の前面側(または+Z軸側)は、オイラー角(60°,23.69°,90°)を含む。逆方向、すなわち切断面88の前面側の第3の結晶方向66から180°は、オイラー角(60°,23.69°,-90°)を含む。第3の結晶方向66の切断面88の背面側(または-Z軸側)は、オイラー角(60°,-156.31°,-90°)を含む。逆方向、すなわち切断面88の背面側の第3の結晶方向66から180°は、オイラー角(60°,-156.31°,90°)を含む。切断面88の結晶方位は、上記で挙げられたオイラー角から外れるオイラー角を含んでもよい。例えば、切断面88の前面側の第3の結晶方向66に対するいくつかの実施形態では、水晶キャリア基板は、オイラー角(α,β,γ)を有する結晶方位を含む。ここで、αは55°~65°の範囲にあり、βは18°~28°の範囲にあり、γは85°~95°の範囲にある。
【0048】
図13Bは、
図10の第3の結晶方向66を含む水晶キャリア基板の切断面88内の伝搬方向におけるバルク弾性モードのスローネス曲線を示す。回転角θは、第3の結晶方向66に沿った回転角を表す。スローネス曲線は、縦波92、高速剪断波94及び低速剪断波96を含む。図に示すように、第3の結晶方向66は、切断面88における最も速い低速剪断速度を含む。特に、第3の結晶方向66に沿った速度は、少なくとも4620m/sの値を含むことができる。この値は、第1の結晶方向62及び第2の結晶方向64と等しく、Z伝搬の速度のみに対する第2の最大値である。
【0049】
図14A~14Dは、LT/Z伝搬SAWデバイス及びLTのみのSAWデバイスに対する
図9A~9Dのシミュレーション結果を、
図10の第1の結晶方向62、第2の結晶方向64または第3の結晶方向66に沿った伝搬方向を有する水晶基板上のY+42°LT圧電層を含む(LT/1,2,3伝搬)SAWデバイスに対するシミュレーション結果と比較している。シミュレーション結果は、回転角θによってプロットされている。LT/Z-伝搬SAWデバイスの回転角θはZ軸に沿っているのに対し、LT/1,2,3伝搬SAWデバイスの回転角θは、
図10の第1の結晶方向62、第2の結晶方向64または第3の結晶方向66に沿っている。
【0050】
図14Aは、LT/Z伝搬SAWデバイス、LTのみのSAWデバイス及びLT/1,2,3伝搬SAWデバイスのK2係数を回転角θ全体で比較したプロットである。
図14Aに示したように、LT/1,2,3伝搬SAWデバイスは、LTのみのSAWデバイスのK2係数より顕著に大きく、かつ同様に、約0°~30°及び330°~360°の範囲を含むある回転角θ全体でLT/Z伝搬SAWデバイスのK2係数より大きいK2係数を有する。
【0051】
図14Bは、LT/Z伝搬SAWデバイス、LTのみのSAWデバイス及びLT/1,2,3伝搬SAWデバイスのQ値を回転角θ全体で比較したプロットである。図に示すように、LT/1,2,3伝搬SAWデバイスのQ値は、回転角θのある範囲においてLTのみのSAWデバイスのQ値より高くなるに過ぎない。例えば、Q値は、波を誘導する効果を生じさせるより速い速度を結晶方位が有するため、回転角θが約0°~30°の範囲、または約150°~210°の範囲、または約330°~360°の範囲を含むときにより高い。前述したように、LT/1,2,3伝搬SAWデバイスの水晶キャリア基板の伝搬方向は、90°のX伝搬方向を含んでもよい。いくつかの実施形態では、LT/1,2,3伝搬SAWデバイスの水晶キャリア基板の伝搬方向は、約75°~105°の範囲を含んでもよい。従って、SAWデバイスは、75°~105°のX伝搬方向に沿って0°~30°の範囲で、または150°~210°の範囲で、または330°~360°の範囲で回転させた結晶方位を有する水晶基板を備えてもよい。
【0052】
図14Cは、LT/Z伝搬SAWデバイス、LTのみのSAWデバイス及びLT/1,2,3伝搬SAWデバイスのTCFを、共振周波数fsと反共振周波数fpとの両方において回転角θ全体で比較したプロットである。図に示すように、LT/1,2,3伝搬SAWデバイスのTCFは、約0°~30°、または約150°~210°、または約330°~360°の回転角θの範囲において、LT/Z伝搬SAWデバイスとLTのみのSAWデバイスとの両方のTCFに比べて顕著に改善されているが、これらの範囲は、最も高いQ値を提供するのと同じ範囲である。
【0053】
図14Dは、LT/Z伝搬SAWデバイス、LTのみのSAWデバイス及びLT/1,2,3伝搬SAWデバイスのΔTCFを回転角θ全体で比較したプロットである。図に示すように、LT/1,2,3伝搬SAWデバイスのΔTCFは、全ての回転角θにおいてLT/Z伝搬SAWデバイスのΔTCFと比較して顕著に改善されている、またはより小さい。加えて、LT/1,2,3伝搬SAWデバイスのΔTCFは、約0°~30°、または約150°~210°、または約330°~360°の回転角θの範囲において、LTのみのSAWデバイスのΔTCFより小さいが、これらの範囲は、最も高いQ値を提供するのと同じ範囲である。従って、X伝搬方向範囲が75°~105°である55°~80°回転Yカットの範囲の結晶方位を含む水晶キャリア基板の場合、その一例はX伝搬方向が90°である66.31°回転Yカットであるが、結晶方位を、伝搬方向に沿って0°~30°の範囲で、または150°~210°の範囲で、または330°~360°の範囲で回転させて、K2、Q、TCF及びΔTCFの顕著に改善された性能パラメータを提供するようにしてもよい。
【0054】
図15は、
図10の第2の結晶方向64を有する切断面78の改善された性能パラメータと共に回転角θの範囲を示す。
図15では、切断面78は、0°の回転角θを表し、切断面78’は、第2の結晶方向64に沿った30°の回転角θを表し、切断面78’’は、第2の結晶方向64に沿った150°の回転角θを表す。従って、回転角θの範囲は、0°~30°を含む第1の範囲98、150°~210°を含む第2の範囲100、及び330°~360°を含む第3の範囲102として図示されている。前述したように、第2の結晶方向64は、水晶結晶の対称性のため、第1の結晶方向62及び第3の結晶方向66と同等である。従って、これらの回転角θの範囲98、100及び102は、
図10の第1の結晶方向62及び第3の結晶方向66に等しく適用されてもよい。
【0055】
上述したように、X伝搬方向が90°である66.31°回転Yカット結晶方位を有する水晶キャリア基板を含むSAWデバイスは、バルク弾性速度の2番目に速い最大値、ならびに性能パラメータK2、Q、TCF及びΔTCFの改善された組み合わせを含む。SAWデバイスの水晶キャリア基板の切断面は、66.31°回転Yカット方位及び90°のX伝搬方向からの多少の偏差を含んでもよく、それでも性能パラメータK2、Q、TCF及びΔTCFの改善された組み合わせを提供するのに十分速いバルク弾性速度を提供することかできる。そのようにして、
図16は、
図10の第2の結晶方向64の方向範囲を示す。前述したように、第2の結晶方向64は、XY結晶面から約23.69°の角を含むと共にYZ結晶面に位置合わせされていてもよい。
図16に示したように、第2の結晶方向64は、この方位から任意の方向に偏る場合がある。いくつかの実施形態では、偏差は、任意の方向において約10°以下を含む。従って、SAWデバイスは、いくつかの実施形態では55°~80°回転Yカットの範囲にある、またはいくつかの実施形態では60°~80°回転Yカットの範囲にある、または65°~80°の範囲にある水晶キャリア基板を備えてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、SAWデバイスは、X伝搬方向が90°である69°回転Yカットを有する水晶キャリア基板を備える。
【0056】
上述したように、SAWデバイスは、水晶キャリア基板上に圧電層を備えてもよい。SAWが伝搬する方向における水晶キャリア基板のバルク弾性速度が(擬似)SAWデバイスの速度より速い場合、圧電層の内部に弾性エネルギーを誘導することが可能であり、バルク内へのあらゆる損失を無効化することができる。換言すれば、SAWが伝搬する方向における水晶キャリア基板のバルク弾性速度が、SAWデバイスの速度と比較してできる限り速いことが望ましい。
【0057】
図17A及び17Bは、弾性エネルギーが圧電層の内部に誘導される第1のSAWデバイス104と、弾性エネルギーが水晶キャリア基板のバルク内に放射する第2のSAWデバイス106とにおけるバルク遮断周波数の相対位置を示す。
図17Aは、第1のSAWデバイス104を表す。このSAWデバイスは、IDT108、42°の方位を有するLTの圧電層110、及びキャリア基板112を備え、このキャリア基板は、X伝搬方向が90°である69°回転Yカットを有する方位を有する水晶を含む。第1のSAWデバイス104は、共振周波数fsより少なくとも1.07倍高いバルク遮断周波数114を有するように構成されている。従って、弾性エネルギー116は、共振周波数のときに圧電層110内部に反射され、誘導される。
図17Bは、第2のSAWデバイス106を表す。このSAWデバイスは、IDT118、42°の方位を有するLTの圧電層120、及びキャリア基板122を備え、このキャリア基板は、X伝搬方向が90°である42°回転Yカットを有する方位を有する水晶を含む。特に、第2のSAWデバイス106は、共振周波数fsの1.07倍未満のバルク遮断周波数124を有するように構成されている。従って、弾性エネルギー126は、バルク波としてキャリア基板122内に放射し、第2のSAWデバイス106は、共振周波数のときに低いQを含む。このように、不等式1.07×fs≦fcを満たすようにSAWデバイスが構成されることが望ましい。式中、fsは共振周波数であり、fcはバルク遮断周波数である。更なる実施形態では、SAWデバイスは、不等式1.08×fs≦fc、または1.09×fs≦fc、または1.10×fs≦fc、または1.11×fs≦fcを満たすように構成されてもよい。
【0058】
図18は、いくつかの実施形態に係るSAWデバイス128を表す。SAWデバイス128は、アルミニウム(Al)を含むIDT電極130、42°の方位を有するLTの圧電層132、SiO
2を含む誘電体層134、及びキャリア基板136を備え、このキャリア基板は、X伝搬方向が90°である66.31°回転Yカットを有する方位を有する水晶を含む。IDT電極130は、間隔またはピッチp、幅w、厚さh1、及び約w/p(0.5)であるデューティファクタ、すなわちDFを含む。中心周波数波長λは2pであり、厚さh1は約0.1λである。圧電層132は、約0.15λの厚さh2を含み、誘電体層134は、約0.0λの厚さh3を含む(誘電体層134は、いくつかの実施形態では任意であることを示す)。SAWデバイス128が不等式1.07×fs≦fcを満たすように形状及び方位のパラメータ範囲を決定するために、SAWデバイス128のモデルを使用して可変パラメータでシミュレーションを実施した。上記に挙げられたパラメータ値は、シミュレーション結果に使用された中心値または初期値である。
【0059】
図19Aは、正規化共振周波数fsに対するシミュレーション結果を
図18の水晶キャリア基板136の回転角θ1の関数として表したプロットである。回転角θ1は、66.31°の中心回転から変化する。fsは、全てのパラメータがその中心値または初期値であるとき、共振周波数によって正規化される。シミュレーション結果は、以下の関数(1)として表すことができる。
(1)
【数1】
【0060】
図19Bは、正規化fsに対するシミュレーション結果を
図18の圧電層132の回転角θ2の関数として表したプロットである。回転角θ2は、42°のLT方位から変化する。fsは、全てのパラメータがその中心値または初期値であるとき、共振周波数によって正規化される。シミュレーション結果は、以下の関数(2)として表すことができる。
(2)
【数2】
【0061】
図19Cは、正規化fsに対するシミュレーション結果を
図18の誘電体層134の(λと相対的な)厚さh3の関数として表したプロットである。厚さh3は、0.0λの値から変化する。fsは、全てのパラメータがその中心値または初期値であるとき、共振周波数によって正規化される。シミュレーション結果は、以下の関数(3)として表すことができる。
(3)
【数3】
【0062】
図19Dは、正規化fsに対するシミュレーション結果を、水晶基板を含まないSAWデバイス、すなわちLTのみのSAWデバイスにおける
図18の圧電層132の回転角θ2の関数として表したプロットである。回転角θ2は、42°のLT方位から変化する。fsは、全てのパラメータがその中心値または初期値であるとき、共振周波数によって正規化される。シミュレーション結果は、以下の関数(4)として表すことができる。
(4)
【数4】
【0063】
図19Eは、正規化fsに対するシミュレーション結果を
図18の圧電層132の(λと相対的な)厚さh2の関数として表したプロットである。厚さh2は、0.15λの値から変化する。fsは、全てのパラメータがその中心値または初期値であるとき、共振周波数によって正規化される。シミュレーション結果は、以下の関数(5)として表すことができる。
(5)
h2<0.7λのとき、
【数5】
h2≧0.7λのとき、
【数6】
【0064】
図19Fは、正規化fsに対するシミュレーション結果を
図18のIDT電極130の(λと相対的な)厚さh1の関数として表したプロットである。厚さh1は、0.1λの値から変化する。fsは、全てのパラメータがその中心値または初期値であるとき、共振周波数によって正規化される。シミュレーション結果は、以下の関数(6)として表すことができる。
(6)
【数7】
【0065】
図19Gは、正規化fsに対するシミュレーション結果を、電極幅(w)と電極ピッチ(p)との比として定義された
図18のIDT電極130のデューティファクタDFの関数として表したプロットである。デューティファクタDFは、w/p(0.5)から変化する。fsは、全てのパラメータがその中心値または初期値であるとき、共振周波数によって正規化される。シミュレーション結果は、以下の関数(7)として表すことができる。
(7)
【数8】
【0066】
図19Hは、正規化遮断周波数fcに対するシミュレーション結果を
図18の水晶キャリア基板136の回転角θ1の関数として表したプロットである。回転角θ1は、66.31°の中心回転から変化する。fcは、全てのパラメータがその中心値または初期値であるとき、共振周波数によって正規化される。シミュレーション結果は、以下の関数(8)として表すことができる。
(8)
θ1≦69°のとき、
【数9】
θ1>69°のとき、
【数10】
【0067】
上記のシミュレーション結果によれば、
図10のSAWデバイス128の形状及び方位のパラメータ範囲は、不等式1.07×fs≦fcを満たすように選択することができる。この不等式は、以下に示すように書き直されてもよい。
【数11】
【0068】
図19Hのシミュレーション結果によって示したように、遮断周波数fcは、水晶キャリア基板136の回転角θ1が約69°であるときにピーク値となる。この結果は、66.31°の回転角を考慮すれば予想外であり、先に実証したように、水晶のスローネス曲線に従ったバルク弾性速度の2番目に速い最大値を含み、従って、fcの2番目に高い最大値を有することが予想されることになる。実際には、SAWデバイスは、Yカット水晶キャリア基板の回転角(θ1)、圧電層の回転角(θ2)、IDTの厚さ(h1)、圧電層の厚さ(h2)、水晶キャリア基板と圧電層との間の誘電体層の厚さ(h3)、及びIDTのデューティファクタ(DF)を用いて不等式1.07×F5(θ1,θ2,h2,h3)×F6(h1)×F7(DF)≦F8(θ1)を満たすように構成することができ、回転角が約69°であるときにfcの2番目に高い最大値を提供することができる。いくつかの実施形態では、SAWデバイスがより高いfcを有することは、バルク弾性速度の2番目に速い最大値を有することより重要である。この点に関して、いくつかの実施形態では、SAWデバイスは、Yカット基板をX軸に沿って69°回転させることによって得られた平面を有する水晶キャリア基板を備える。68°~70°の範囲など、69°から多少の偏差があっても、依然として高いfcが提供され得る。
【0069】
前述したように、回転角は、最大約10°などのより大きい偏差を有してもよく、それでも改善された性能パラメータを提供することができる。そのようにして、いくつかの実施形態では、SAWデバイスは、X伝搬方向範囲が75°~105°である59°~79°回転Yカットの範囲の結晶方位を含む水晶キャリア基板を含む。いくつかの実施形態では、Yカット回転は66°~72°の範囲を含んでもよい。いくつかの実施形態では、X伝播方向は80°~100°の範囲を含んでもよい。いくつかの実施形態では、X伝搬方向は90°を含んでもよい。
【0070】
いくつかの実施形態では、
図18のIDT電極130は、Al、アルミニウム-銅(Al-Cu)合金などのAlの合金、またはチタン(Ti)の層に続くAl-Cu合金の層などの多層を含んでもよい。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのIDT電極は、約0.15λ未満の厚さを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのIDT電極は、約0.14λ未満の厚さを含む。更なる実施形態では、少なくとも1つのIDT電極は、0.03λ~約0.14λの範囲の厚さを含む。
図19A~19Hに関して上述した関数について、シミュレーションは、IDT電極130が、厚さh1の中心値が0.1λであるAlを含む場合に実施された。IDT電極130が、Al-Cu合金、またはTiの層に続くAl-Cu合金の層を含む実施形態の場合、h1は、以下のように変換されてもよい。Alの電極の場合、h1は、以下の関係に従って特徴付けることができる。
質量∝ρ1×ha
h1=ρ1×ha/ρ1=ha
式中、ρ1はAlの質量密度であり、haはAl電極の厚さである。従って、h1は、Al電極の厚さに等しい。Al-Cu合金の層を含む電極の場合、h1は、以下の関係に従って変換されてもよい。
質量∝ρ2×hb
h1=ρ2×hb/ρ1
式中、ρ1はAlの質量密度であり、ρ2はAl-Cu合金の質量密度であり、hbはAl電極の厚さである。Tiの層に続くAl-Cu合金の層を含む電極の場合、h1は、以下の関係に従って変換されてもよい。
質量∝ρ2×hc+ρ3×hd
h1=(ρ2×hc+ρ3×hd)/ρ1
式中、ρ1はAlの質量密度であり、ρ2はAl-Cu合金の質量密度であり、ρ2はTiの質量密度であり、hcはAl-Cu層の厚さであり、hdはチタン層の厚さである。
【0071】
当業者は、本開示の好ましい実施形態に対する改良及び修正を認めるであろう。全てのこのような改良及び修正は、本明細書に開示された概念及び後続する請求項の範囲内にあるとみなされる。