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特許7264635バナジウム捕捉剤およびバナジウム捕捉剤の製造方法、ならびに流動接触分解触媒
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  • 特許-バナジウム捕捉剤およびバナジウム捕捉剤の製造方法、ならびに流動接触分解触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】バナジウム捕捉剤およびバナジウム捕捉剤の製造方法、ならびに流動接触分解触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/04 20060101AFI20230418BHJP
   B01J 29/06 20060101ALI20230418BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230418BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230418BHJP
   C10G 11/05 20060101ALI20230418BHJP
   C10G 11/16 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
B01J20/04 A
B01J29/06 M
B01J20/04 B
B01J20/04 C
B01J20/28 Z
B01J20/30
C10G11/05
C10G11/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018239207
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020099863
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江藤 真由美
(72)【発明者】
【氏名】水野 隆喜
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-506548(JP,A)
【文献】特開2018-167213(JP,A)
【文献】特開2018-103120(JP,A)
【文献】特表2016-534857(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131381(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/73
B01D 53/86-53/90
B01D 53/94、96
B01J 20/00-20/34
C10G 11/05
C10G 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素酸化物からなるバインダー、および粘土鉱物と、
第2族元素の酸化物と、を含み
X線回折分析において、前記第2族元素の珪酸塩のピークが検出されず、
前記第2族元素の酸化物の含有量が酸化物換算で20~80質量%であり、
アルカリ金属Mの含有量が酸化物M O換算で5.0質量%以下であり、
平均粒子径が40~100μmの範囲にあり、
比表面積が3.0~100m /gの範囲にあり、
細孔容積が0.05~0.50ml/gの範囲にあるバナジウム捕捉剤。
【請求項2】
前記第2族元素の酸化物は、マグネシウムおよびカルシウムであることを特徴とする請求項に記載のバナジウム捕捉剤。
【請求項3】
前記バナジウム捕捉剤に、さらに、希土類元素の酸化物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のバナジウム捕捉剤。
【請求項4】
前記希土類元素は、ランタン及びセリウムから選ばれた1種または2種であることを特徴とする請求項に記載のバナジウム捕捉剤。
【請求項5】
前記希土類元素の含有量は、前記バナジウム捕捉剤に対して、酸化物換算で20質量%以下であることを特徴とする請求項3または4に記載のバナジウム捕捉剤。
【請求項6】
前記第2族元素の酸化物に対する前記希土類元素の含有割合が酸化物換算で0.01~0.20であることを特徴とする請求項3ないし5のいずれか一項に記載のバナジウム捕捉剤。
【請求項7】
珪素酸化物バインダーを含むスラリーに第2族元素の化合物を混合し、混合スラリーを得る工程と、
前記珪素酸化物バインダーを含むスラリーおよび前記混合スラリーの少なくとも一方に粘土鉱物を添加する工程と、
前記混合スラリーを加熱してバナジウム捕捉剤前駆体を得る工程と、
前記バナジウム捕捉剤前駆体を乾燥した後40~80℃の温水で洗浄し、さらに300~700℃の範囲で焼成してバナジウム捕捉剤を得る工程と、
を備え、
前記バナジウム捕捉剤中の第2族元素の酸化物の含有量が酸化物換算で20~80質量%となるように、前記珪素酸化物バインダーに前記第2族元素の化合物を混合することを特徴とするバナジウム捕捉剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれか一項に記載のバナジウム捕捉剤と、ゼオライト成分と、バインダー成分と、粘土鉱物成分と、を含むことを特徴とする流動接触分解触媒。
【請求項9】
さらに、活性アルミナ、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、アルミナ-マグネシアおよびシリカ-マグネシア-アルミナのうち少なくともひとつを含むことを特徴とする請求項に記載の流動接触分解触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触分解反応過程において、流動接触分解触媒の被毒元素の一つであるバナジウムを捕捉固定化する技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
製油所での残油処理比率の増加を背景とし、残油処理用流動接触分解触媒(RFCC)に関する触媒開発や改良が急務となっている。RFCCでの問題点の一つは、原油(または残油)中に含まれる触媒被毒金属(Ni,V)の濃度が高く、触媒へのダメージが大きいことにある。この影響を緩和する対策として、この被毒金属と親和性の良い元素(被毒金属捕捉剤)を流動接触分解(FCC)触媒中に添加することや、親和性のよい元素を高濃度に含む助触媒(添加剤)を一定量FCC触媒にブレンドする方法がある。これらの対策は被毒金属をある一定の結晶相として捕捉し、触媒活性への悪影響を緩和するという考えのもとで取られている方法である。
【0003】
例えば、原料油中に不純物として存するバナジウムは流動接触分解触媒を再生する再生塔内の雰囲気においてはバナジン酸を形成し、流動接触分解触媒中のゼオライトの結晶破壊や活性低下を引き起こすことが知られている。このため、流動接触分解触媒中にバナジウムの捕捉能を有する構成物を組み込む手法や、前記構成物を添加剤として母体触媒と混合する手法が採用されている。
【0004】
特許文献1には、流動接触分解触媒に添加しバナジウムを不動態化する添加剤として、遊離酸化マグネシウム及びその場で生成したケイ酸マグネシウムセメントバインダーを含んでなる添加剤およびその製造方法が開示されている。この添加剤は、低い表面積を有し、最小の分解活性を有している。
【0005】
また特許文献2には、流動接触分解の間の金属不動態化に使われる金属捕捉粒子として、カオリン、酸化マグネシウムまたはマグセシウム水酸化物およびカルシウム炭酸塩からなる乾燥粒子で、少なくとも10wt%の酸化マグネシウムを含む粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表平08-504397号公報
【文献】特表2013-506548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では、流動接触分解触媒の劣化を十分に抑えることができないという問題があった。
本発明の目的は、炭化水素油の接触分解反応過程にて用いられる流動接触分解触媒の被毒元素の一つであるバナジウムを捕捉固定化し、流動接触分解触媒の劣化を抑えることができ、また高い触媒活性を維持できる金属捕捉剤およびその製造方法を提供することにある。更に本発明の他の目的は、その金属捕捉剤を含む流動接触分解触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような技術的背景のもと、発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、珪素酸化物バインダーおよび粘土鉱物に第2族元素からなる酸化物を、珪酸塩を形成することなく、分散させることで流動接触分解触媒の劣化を抑えた金属捕捉剤が得られることを知見し、本発明を開発するに至った。
【0009】
前記課題を解決し上記の目的を実現するため開発した本発明は、下記のとおりのものである。すなわち、本発明は、第一に、珪素酸化物からなるバインダー、および粘土鉱物と、 第1の金属成分である第2族元素の酸化物とからなり、さらに、X線回折分析において、上記第1の金属成分の珪酸塩のピークが検出されないこと、を特徴とする金属捕捉剤を提供する。
【0010】
なお、本発明にかかる上記金属捕捉剤については、
(1)上記金属捕捉剤の平均粒子径が40~100μmの範囲にあり、比表面積が3.0~100m/gの範囲にあり、細孔容積が、0.05~0.50ml/gの範囲にあること、
(2)上記第1の金属成分は、マグネシウムおよびカルシウムであること、
(3)上記第1の金属成分の含有量は、上記金属捕捉剤に対して、酸化物換算で20~80質量%であること、
(4)上記金属捕捉剤中のアルカリ金属Mの含有量が、酸化物MO換算で5.0質量%以下であること、
(5)上記金属捕捉剤に、さらに、第2の金属成分である希土類元素の酸化物を含むこと、
(6)上記第2の金属成分は、ランタン及びセリウムから選ばれた1種または2種であること、
(7)上記第2の金属成分の含有量は、上記金属捕捉剤に対して、酸化物換算で20質量%以下であること、
(8)上記第1の金属成分に対する上記第2の金属成分の含有割合が酸化物換算で0.01~0.20であること、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【0011】
また、本発明は、第二に、上記いずれかの金属捕捉剤の製造方法であって、珪素酸化物バインダーに粘土鉱物を加え、珪素酸化物スラリーを得る第1工程と、上記珪素酸化物スラリーと上記第1の金属成分の化合物を混合し、さらに、選択的に上記第2の金属成分の化合物を混合して、混合スラリーを加熱して金属捕捉剤前駆体を得る第2工程と、上記金属捕捉剤前駆体を乾燥し、さらに焼成して金属捕捉剤を得る第3工程と、を含むことを特徴とする金属捕捉剤の製造方法を提案する。
【0012】
また、本発明は、第三に、上記いずれかの金属捕捉剤と、ゼオライト成分と、バインダー成分と、粘土鉱物成分と、を含むことを特徴とする流動接触分解触媒を提供する。
【0013】
なお、本発明に係る上記流動接触分解触媒については、
(9)更に活性マトリックス成分を有する添加物を含むこと、
がより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、金属捕捉剤として、珪素酸化物からなるバインダーに、バナジウム捕捉機能を有する、例えばマグネシウムおよびカルシウムなどの金属成分である第2族元素の酸化物を、珪酸塩を形成することなく、分散させている。このため、流動接触分解触媒の劣化を抑えることができ、しかも使用した各酸化物を有効に利用することができ、言い換えると各酸化物の利用率が高く、各酸化物の使用量を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態にかかる金属捕捉剤MTR-1の600℃焼成品のX線回折強度を示すグラフである。
図2】比較例にかかる金属捕捉剤MTR-bの600℃焼成品のX線回折強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
[金属捕捉剤について]
本発明の金属捕捉剤は、珪素酸化物(SiO)からなるバインダー中にバナジウム(V)の捕捉機能を有する金属酸化物を分散させて構成されている。
【0017】
<バインダー成分>
本発明で使用されるバインダーは、珪素酸化物(SiO)からなる。珪素酸化物以外に、AlやTiの酸化物を含んでもよく、AlおよびTiから選ばれた1種または2種の酸化物の含有量が、バインダーの質量中、合計で1~20質量%であることが好ましい。
【0018】
本発明の金属捕捉剤のバインダーとして珪素酸化物を用いることにより、シリカ系バインダーに金属成分を分散した金属捕捉剤が、他のチタン酸化物及び/またはアルミナを主成分とする担体に担持した金属捕捉剤より熱的に安定であり、相転移が起こりにくく、さらにバナジウム(V)の捕捉機能を有する酸化物との相互作用が強く、金属捕捉剤表面に金属成分を容易に分散させやすいという利点がある。
【0019】
<粘土鉱物成分>
粘土鉱物成分としては、カオリン、ハロイサイトなどが使用され、好適にはカオリンが選択される。粘土鉱物成分の含有量としては、0質量%超え40質量%以下であることが好ましく、さらに、5~35質量%であることがより好ましい。粘土鉱物成分は、増量剤のほか、事前に反応液中に投入することで、金属成分(アルカリ土類)とバインダー成分との反応を抑制する機能を有する。
【0020】
<金属酸化物成分>
珪素酸化物(シリカ系)バインダー中に、金属成分として、第2族元素の酸化物またはその前駆物質(以下、第1の金属成分ともいう)と、が添加される。シリカ系バインダー中に前駆物質が添加される場合には、熱処理を行うことで、前駆物質が酸化物となる。
金属成分は、MgおよびCaの両方含まれることが好ましい。第1の金属成分の含有量は、金属捕捉剤に対して、酸化物換算として20~80質量%であることが好ましい。
【0021】
第1の金属成分の含有量が酸化物換算として20質量%より過度に小さいと、反応に必要な金属捕捉能が確保できないおそれがあり、80質量%より過度に大きいと、金属成分が凝集しやすくなり、分散性を阻害するおそれがある。
【0022】
MgOとして15~60質量%、CaOとして5~20質量%の範囲にあることが好ましい。
【0023】
金属成分には、第2の金属成分として、さらに、希土類元素を加えてもよく、例えば、LaおよびCeから選ばれた1種または2種が含まれることが好ましい。第2の金属成分の含有量は、金属捕捉剤に対して、酸化物換算として20質量%以下であることが好ましい。第2の金属成分は、第1の金属成分に対して共触媒として働き、含有量が酸化物換算として(第2の金属成分)/(第1の金属成分)の質量割合が0.01~0.20の範囲であることが好ましい。この質量割合が0.01よりも少なくなると第2の金属による共触媒の効果が小さく、一方、0.20を越えると、活性金属成分の凝集が進みやすくなり、触媒性能が低下する。
【0024】
本発明の金属捕捉剤中には、ナトリウム型やリチウム型などのアルカリ金属(M)が含まれ、Mの含有量がMO酸化物換算で5.0質量%以下であることが好ましい。主触媒には一般にゼオライト成分が含まれており、M含有量を制御することで、ゼオライトに対するMOの影響(ゼオライトの被毒等)を緩和することが可能となる。さらに、Mの含有量が4.5質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
<金属捕捉剤の物性>
本発明の金属捕捉剤は、X線回折分析において、金属成分の珪酸塩のピークが検出されない。金属成分の珪酸塩が形成されないことから、金属成分によるバナジウム等の重金属捕捉能が十分に発揮できると考えられる。
【0026】
本発明の金属捕捉剤は、平均粒子径が40~100μmの範囲にあることが好ましい。なお、粒子径評価は、乾式マイクロメッシュシーブ法により測定し、50質量%値(D50)を平均粒子径とした。平均粒子径が40μmよりも過度に小さいと金属捕捉効率が低下し、一方、100μmよりも過度に大きいと金属捕捉剤の耐摩耗性や強度が低下するおそれがある。さらに、金属捕捉剤の平均粒子径が50~90μmの範囲であることがより好ましい。
【0027】
本発明の金属捕捉剤は、BET法で測定した比表面積(SA)が、3.0~100m/gの範囲にあることが好ましい。金属捕捉剤の比表面積が3.0m/gよりも過度に小さいと、酸化物が凝集しやすくなり、金属捕捉効率が低下する。一方、比表面積が100m/gよりも過度に大きいと、金属捕捉剤として強度が小さくなり、金属捕捉剤としての形状保持性が低下するおそれがある。なお、金属捕捉剤の比表面積は、5~80m/gの範囲であることがより好ましい。
【0028】
本発明の金属捕捉剤の細孔容積は、水のポアフィリング法により測定し、0.05~0.50ml/gの範囲にあることが好ましい。細孔容積が、0.05ml/gよりも過度に小さいと金属捕捉効率が低下し、一方、0.50ml/gよりも過度に大きいと、触媒にした時の強度が得られないおそれがある。さらに、金属捕捉剤の細孔容積が、0.05~0.45ml/gの範囲であることがより好ましく、0.05~0.40ml/gの範囲であることがより一層好ましい。なお、細孔容積は細孔直径41Å(4.1nm)以上の細孔直径を有する細孔の容積を表す。
【0029】
本発明の金属捕捉剤の嵩密度(ABD)は、0.70g/ml以上とすることが好ましい。嵩密度の測定方法は、25mlのシリンダーを用いて、金属捕捉剤の重量を測定し、単位体積当たりの重量から嵩密度を計算した。嵩密度が0.70g/mlより低い場合は、耐摩耗性が不十分となり、流動触媒として使用した場合、容易に粉化して触媒が飛散する要因となり、実用的使用に向かないおそれがある。
【0030】
[金属捕捉剤の製造方法について]
本発明に係る金属捕捉剤の製造方法の1例としては、
(1)珪素酸化物(シリカ系)スラリーを得る第1工程と、
(2)上記珪素酸化物(シリカ系)スラリーに第1の金属成分および、必要に応じて第2の金属成分を添加した、金属捕捉剤前駆体を得る第2工程と、
(3)上記前駆体を乾燥し、さらに焼成して金属捕捉剤を得る第3工程と、を有する。
【0031】
以下、各工程について説明する。
<第1工程:珪素酸化物(シリカ系)スラリーを得る工程>
まず、シリカ系スラリーを調製する。シリカ系スラリーは、たとえばケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムなどのケイ酸塩の水溶液、あるいは、シリカ系のゾルをバインダーとして用いることができ、シリカ系ゾルは、ケイ酸塩の水溶液をイオン交換樹脂に通して陽イオンを除去したものを用いてもよい。この時得られたシリカ系のゲルまたはゾルはケイ素酸化物からなるシリカ系粒子であり、該シリカ系粒子の比表面積は150m/g以上、好ましくは155m/g以上であることが好ましい。ここでいうシリカ系粒子とは、上記のような方法で得られるシリカの水和物あるいは珪素酸化物(シリカ系)スラリーの総称である。シリカ系粒子には、珪素の他にAl、Tiの酸化物前駆体を加えてもよく、これらの含有量はシリカ系粒子に対して酸化物換算の内数で1~20質量%の範囲であれば珪素酸化物(シリカ系)バインダー調製時に加えてもよい。
【0032】
珪素酸化物(シリカ系)バインダーに粘土鉱物を加えるが、該スラリーの調製工程で、シリカ系スラリーを得るとき、あるいは金属成分を珪素酸化物(シリカ系)スラリーに添加するときのいずれか一方の工程で粘土鉱物を加えればよい。
【0033】
<第2工程:珪素酸化物(シリカ系)スラリーと金属成分を混合し、金属捕捉剤前駆体を得る工程>
上記第1工程で得られたスラリーに、金属成分を溶解して得られる水溶液または金属成分を同時に加えて得られる水溶液を撹拌混合し混合スラリーを得る。
混合条件は、シリカ系スラリー溶液を20~90℃、好ましくは25~80℃に加温して保持し、この溶液の温度の±5℃、好ましくは±2℃、より好ましくは±1℃に加温した金属成分を含む水溶液を、pHが3.0~10.0、好ましくは3.5~9.5、より好ましくは3.5~9.0になるように、通常5~20分、好ましくは7~15分の間に連続添加し沈殿を生成させ、混合スラリー(金属捕捉剤前駆体)を得る。
【0034】
金属成分は、第1の金属成分として第2族元素を用いる。特に、Mg及びCaの両方含まれることが好ましい。ここで用いる、MgおよびCaは、シュウ酸塩、水酸化物、炭酸塩などの化合物を用いることができる。また、酸化物を用いてもよい。
【0035】
金属成分には、第2の金属成分として希土類元素を加えてもよく、例えば、LaまたはCeであってもよいし、LaおよびCeの両方であってもよい。ここで用いる、LaおよびCeは、シュウ酸塩、水酸化物、炭酸塩などの化合物を用いることができ、同種塩を組み合わせた方が、好ましい。また、該希土類元素の酸化物を用いてもよい。
【0036】
これら第1または第2の金属成分の原料の粒子径が100μm以下であることが好ましく、場合によっては、粉砕処理して用いることが好ましい。
【0037】
<第3工程:金属捕捉剤前駆体を乾燥し、焼成し金属捕捉剤を得る工程>
第2工程で得られた混合スラリー(金属捕捉剤前駆体)を、100~600℃、好ましくは110~600℃、さらに好ましくは400~600℃の温度で、0.5~10時間、好ましくは1~8時間の乾燥および/または焼成加熱処理することにより、本発明の金属捕捉剤を製造する。
【0038】
乾燥は、乾燥機または噴霧乾燥であってもよい。噴霧乾燥の方がより実用的である。噴霧乾燥条件は、下記条件内で行うことが好ましい。
詳細には、第2工程で得られた混合スラリーを噴霧乾燥機のスラリー貯槽に充填し、120~450℃の範囲の例えば230℃に調整された気流(例えば空気)が流れる乾燥チャンバー内にスラリーを噴霧することにより、噴霧乾燥粒子が得られる。スラリーの噴霧乾燥によって上記気流の温度は低下するが、乾燥チャンバーの出口の温度は、ヒーターなどを用いて50~300℃の範囲の例えば120℃に維持される。
【0039】
該乾燥粒子は、下記洗浄を行う前に予備焼成を行ってもよい。予備焼成は、200~500℃程度の温度範囲で、0.5~5時間以内で行ってもよい。予備焼成を行うことで、後段の洗浄による構成成分の溶出や金属捕捉剤の崩壊を防止することができる。
【0040】
該乾燥粒子は、副生成物を除去するために洗浄処理することが好ましい。洗浄処理を行う場合は、詳細には温水(40~80℃)で固液比が1:3から1:50、撹拌時間として3~30分程度で洗浄することで、本願の金属捕捉剤に含まれるアルカリ金属Mの含有量を低下させることができる。本願金属捕捉剤に含まれるM含有量は、MO換算で5.0質量%以下が好ましく、さらに4.5質量%以下であることがさらに好ましい。M含有量を制御することで、主触媒に含まれているゼオライトに対するMOの影響(ゼオライトの被毒等)を緩和することが可能となる。ここで、アルカリ金属Mとしては、NaやLi、Kなどがあげられる。
【0041】
さらに、焼成処理を行う場合は、詳細には、300~700℃の範囲の例えば600℃に調整された空気雰囲気下で上記噴霧乾燥粒子の焼成を行う。焼成温度が300℃より過度に低いと、残存水分による操作性が悪くなり、また金属成分の分散状態が均一になりにくいおそれがあり、700℃を過度に超えると、金属成分が凝集を起こしたり、金属成分の珪酸塩が生成したりしやすくなるおそれがあるので好ましくない。
【0042】
本願金属捕捉剤の粒度調整のために、焼成後に適度に粉砕処理を施しても良い。
【0043】
[流動接触分解触媒について]
本発明の流動接触分解触媒(以下、本発明触媒という)には、少なくとも上記金属捕捉剤やゼオライト成分、バインダー成分、粘土鉱物成分が含まれる。該触媒を使用した接触分解処理は、固定床反応装置に触媒を充填して水素雰囲気下、高温高圧条件で行なわれる。
【0044】
<金属捕捉剤>
本発明触媒には、上記金属捕捉剤が1~10質量%の範囲で含まれる。金属捕捉剤が、1質量%より少ないと、金属を捕捉して触媒の被毒を抑える効果が十分ではないおそれがある。一方、10質量%を超えると触媒中のゼオライト比率が低下し触媒活性面で悪影響を及ぼすとともに、過剰の活性金属成分がゼオライトの被毒等の活性面への悪影響の要因ともなるので好ましくない。
【0045】
<バインダー成分>
本発明触媒には、バインダー成分が5~30質量%範囲で含まれる。バインダー成分の含有量が5質量%よりも少ないと、嵩密度が低くなりすぎたり、耐摩耗性が不十分となったりするおそれがある。一方、バインダー成分の含有量が30質量%よりも多いと、余剰のバインダー成分が細孔閉塞等を引き起こし、活性が不十分となるおそれがある。なお、バインダー成分の含有量は、5~25質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは10~20質量%の範囲である。
【0046】
本発明触媒に用いられるバインダー成分としては、シリカまたはアルミナを主成分(バインダー成分中50質量%以上含有を意味する)とするものを用いることができる。バインダー成分として、シリカゾルなどのシリカ系バインダーや、塩基性塩化アルミニウム等のアルミニウム化合物バインダーを用いることができる。そのうちシリカ系バインダーとしては、シリカゾルの他に、ナトリウム型、リチウム型、酸型等のコロイダルシリカも使用することができる。アルミニウム化合物バインダーとしては、塩基性塩化アルミニウムの他に、重リン酸アルミニウム溶液、ジブサイト、バイアライト、ベーマイト、ベントナイト、結晶性アルミナなどを酸溶液中に溶解させた粒子や、ベーマイトゲル、無定形のアルミナゲルを水溶液中に分散させた粒子、あるいはアルミナゾルも使用することができる。これらは単独で、もしくは混合して、または複合して用いることができる。
【0047】
<アルミナバインダー>
本発明触媒に使用するバインダーの一例として、アルミナバインダーについて詳細に説明する。アルミナバインダーの原料としては、例えば塩基性塩化アルミニウム([Al(OH)Cl6-n(但し、0<n<6、m≦10))を用いることができる。塩基性塩化アルミニウムは、ゼオライトなどに含まれるアルミニウム及びナトリウムやカリウムなどのカチオンの存在下で200~450℃程度の比較的低温で分解する。この結果、塩基性塩化アルミニウムの一部が分解して、水酸化アルミニウムなどの分解物が存在するサイトがゼオライトの近傍に形成されるものと考えられる。さらに分解した塩基性塩化アルミニウムを300~600℃の範囲の温度で焼成することにより、アルミナバインダー(アルミナ)が形成される。このとき、ゼオライト近傍の分解物が焼成されてアルミナバインダーになる際に、細孔径が4nm以上、50nm以下の範囲のメソ孔が比較的多く形成され、本発明触媒の比表面積を増大させることができると推定される。一方で、耐摩耗性を低下させる要因となる、細孔径が50nmより大きく、1000nm以下の範囲のマクロ孔の形成を抑えることも確認している。
【0048】
本発明触媒においてアルミナバインダーは、マトリックス成分中のアルミナとして検出される。アルミナバインダーは、マトリックス成分の一部を構成すると共に、ゼオライトとマトリックス成分を結合する目的で添加される。
【0049】
<ゼオライト>
本発明触媒にはゼオライト成分(結晶性アルミナシリケート)が含まれる。ゼオライトは、接触分解プロセス、特に流動接触分解プロセスにて炭化水素供給原料油に対する接触分解活性を持つゼオライトであれば、特段の限定はない。例えば、フォージャサイトゼオライトやZSMゼオライト、βゼオライト、モルデナイトゼオライト、天然ゼオライトから選択された1種、または2種以上のゼオライトを含むことができる。好適には本発明触媒は、合成フォージャサイトゼオライトであるUSY型(Ultra-Stable Y-Type)を含むことが望ましい。
【0050】
本発明触媒には、ゼオライト成分が10~50質量%の範囲で含まれる。ゼオライト成分の含有量が10質量%よりも少ないと、ゼオライトが少ないために活性が不十分となるおそれがある。一方、ゼオライトの含有量が50質量%よりも多いと、活性が高すぎて過分解となり、選択性が低下する場合があり、また、ゼオライト以外のマトリックス成分の含有量が少なくなるために嵩密度が低くなりすぎたり、耐摩耗性が不十分となったり、流動触媒として使用した場合、容易に粉化して触媒が飛散する要因ともなるおそれがある。なお、ゼオライト成分の含有量は15~45質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは20~40質量%の範囲である。
【0051】
<粘土鉱物成分>
粘土鉱物成分としては、カオリンやハロイサイトなどが使用され、好適にはカオリンが選択される。
本発明触媒には、粘土鉱物成分が10~40質量%の範囲で含まれる。粘土鉱物の含有量が10質量%よりも少ないと、細孔構造の維持や触媒形状の悪化を引き起こすとともに。耐摩耗性や流動性が不十分となる。一方、粘土鉱物の含有量が40質量%よりも多いと、主要な活性成分であるゼオライトの含有量が低くなり、分解活性が不十分となる場合がある。なお、粘土鉱物成分の含有量は15~40質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは20~35質量%の範囲である。
【0052】
<添加物>
本発明の流動接触分解触媒は、前述の金属捕捉剤、ゼオライト成分、バインダー成分、粘土鉱物成分に加え、他の添加物を加えてもよい。添加物としては、活性マトリックス成分、オクタン価向上や低級オレフィン成分を増加させる成分等を例示することができる。
【0053】
活性マトリックス成分としては、活性アルミナやシリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、アルミナ-マグネシア、シリカ-マグネシア-アルミナなどの固体酸を有する物質が挙げられる。
本発明触媒には、活性マトリックス成分が1~30質量%、好ましくは5~25質量%、さらに好ましくは5~20質量%の範囲で含んでもよい。活性マトリックス成分の含有量が1質量%よりも少ないと、マトリックスでの粗分解能が十分得られず、活性面で悪影響を与えるとともに、嵩密度の低下や耐摩耗性や流動性の悪化を引き起こすことが懸念される。一方、活性マトリックス成分の含有量が30質量%よりも多いと、主要な活性成分であるゼオライトの含有量が低くなり、分解活性が不十分となる場合がある。
【0054】
<平均粒子径>
本発明触媒は、触媒試料の粒度分布の測定を、堀場製作所(株)製レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LA-950V2)にて行うことができる。具体的には、光線透過率が70~95%の範囲となるように試料を溶媒(水)に投入し、循環速度 2.8L/min,超音波 3min、反復回数 30で測定した。メディアン径(D50)を平均粒子径として採用し、本発明の流動接触分解触媒の平均粒子径は、40~90μmが好適であり、50~80μmがより一層好ましい。
【0055】
<比表面積(SA)>
本発明触媒は、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法で測定した比表面積が、180~320m/gの範囲であることが好ましい。比表面積が、180m/gよりも小さいと、流動接触分解プロセスなどにおいて短い接触時間で接触分解反応を十分に進行させることができないおそれがある。一方、320m/gより大きいと流動接触分解触媒として、十分な強度が得られないおそれがある。
【0056】
<細孔容積(PV)>
本発明触媒は、水のポアフィリング法により測定した全細孔径範囲の細孔容積(PV)が0.25~0.45ml/g、好適には0.26~0.35ml/gの範囲内にあることが好ましい。細孔容積が0.25ml/gを下回ると、十分な接触分解活性が得られないおそれがある。一方で、細孔容積が0.45ml/gを超えるものは触媒強度が低下するおそれがある。
【0057】
<嵩密度(ABD)>
本発明触媒の嵩密度(ABD)の測定方法は、25mlのシリンダーを用いて、流動接触分解触媒の重量を測定し、単位体積当たりの重量から嵩密度を計算した。嵩密度は0.70g/mlを下限とすることが好ましい。嵩密度が0.70g/mlより低い場合は、耐摩耗性が不十分となり、流動触媒として使用した場合、容易に粉化して触媒が飛散する要因となるおそれがある。
【0058】
[流動接触分解触媒の製造方法]
本発明の流動接触分解触媒は、例えばゼオライト(結晶性アルミナシリケート)と、アルミナバインダーと、粘土鉱物成分と、既述の添加物と、本発明の金属捕捉剤と、を含むスラリーを調整し、噴霧乾燥を行い、噴霧乾燥して得られた粉体を例えばマッフル炉にて例えば400~600℃で、0.5~10時間焼成して得られる。
【実施例1】
【0059】
[MTR-1]金属捕捉剤MTR-1の調製 (MgO=50%, CaO=15%組成)
NaOとして、0.28質量%含む希釈水酸化ナトリウム水溶液に対して、カオリン(固形分81質量%)357.7gを添加した。上記スラリーをSiOとして24質量%の水ガラス937.5gに添加した(第1工程)。次いでこの撹拌混合溶液(25℃)に、酸化マグネシウムスラリー3000g(MgOとして25質量%、25℃)、炭酸カルシウムスラリー900g(CaOとして25質量%、25℃)を添加し、沈殿を生成させ、原料スラリーを得た(第2工程)。その後、ホモジナイザーを用いて分散処理を行った。
原料スラリーを液滴として入口温度が210℃, 出口温度が130℃の噴霧乾燥機で噴霧乾燥を行い、平均粒子径が65μmの球状粒子を得た。この噴霧乾燥粒子を電気炉にて空気雰囲気下、250℃にて1時間焼成し、焼成粒子とした。
60℃の純水2000gに、得られた焼成粒子200gを添加し、10分間撹拌した。これを吸引濾過した後、濾過残渣を60℃の純水2000gで洗浄し、洗浄粒子を得た。洗浄粒子を120℃で8時間乾燥して、600℃にて2時間焼成することで金属捕捉剤MTR-1を得た(第3工程)。
【0060】
[MTR-2]金属捕捉剤MTR-2の調製 (MgO=50%、CaO=10%組成)
カオリンを447.2g、炭酸カルシウムスラリー600gに変更した以外は、MTR-1の調製と同様にして、金属捕捉剤MTR-2を得た。
【0061】
[MTR-3]金属捕捉剤MTR-3の調製 (MgO=30%、CaO=10%組成)
カオリンを804.9g、水ガラス(SiOとして24質量%)1250g、酸化マグネシウムスラリー1800g、炭酸カルシウムスラリー600gに変更した以外は、MTR-1の調製と同様にして、金属捕捉剤MTR-3を得た。
【0062】
[MTR-4]金属捕捉剤MTR-4の調製 (MgO=50%、CaO=10%、La=5%組成)
カオリンを364.5g、酸化マグネシウムスラリー3000g、炭酸カルシウムスラリー600g、 炭酸ランタンスラリー250g(Laとして30質量%)に変更した以外は、MTR-1の調製と同様にして、金属捕捉剤MTR-4を得た。
【0063】
[MTR-a]金属捕捉剤MTR-aの調製 (MgO=70%,CaO=20%)粘土鉱物不使用
SiOとして24質量%の水ガラス625gに、酸化マグネシウムスラリー4200g(MgOとして25質量%)、炭酸カルシウムスラリー1200g(CaOとして25質量%)を添加し、原料スラリーに変更した以外は、MTR-1の調製と同様にして、金属捕捉剤MTR-aを得た。
【0064】
[MTR-b]金属捕捉剤MTR-bの調製 (MgO=10%、CaO=5%)
カオリンを2437.5g、水ガラス1250g、酸化マグネシウムスラリー600g、炭酸カルシウムスラリー300gに変更した以外は、MTR-1の調製と同様にして、金属捕捉剤MTR-bを得た。
【0065】
[MTR-c]金属捕捉剤MTR-cの調製 (NaOを規定量以上に含む系)
カオリンを477.0g、水ガラス1666.7g、酸化マグネシウムスラリー4000g、炭酸カルシウムスラリー800gに変更した以外は、MTR-1の調製と同様にして噴霧乾燥処理を行い、その後の250℃焼成と洗浄は行わず、噴霧乾燥粒子を直接600℃にて2時間焼成を行うことで、NaOを規定量以上に含む金属捕捉材MTR-cを得た。
【0066】
[MTR-d]金属捕捉剤MTR-dの調製 (Laを規定量以上に含む系)
カオリンを1687.5g、水ガラス937.5g、酸化マグネシウムスラリー1200g、炭酸カルシウムスラリー600g、炭酸ランタンスラリー500g(Laとして30質量%)に変更した以外は、MTR-1の調製と同様にして、金属捕捉剤MTR-dを得た。
【0067】
[金属捕捉剤の物性解析結果]
上記で調整した各金属捕捉剤の成分組成および600℃焼成品の性能をまとめて表1に示す。性能として、嵩密度(ABD)、細孔容積(PV)、比表面積(SA)およびX線回折により同定した珪酸塩の有無を記載した。図1に実施例1で調整した本発明の一実施形態である金属捕捉剤MTR-1の600℃焼成品のX線回折強度グラフを示す。得られたX線回折強度ピークは、炭酸カルシウム(CaCO)およびマグネシア(MgO)に関するもののみで、CaやMgの珪酸塩のピークは現れなかった。MTR-2、3および4のX線回折結果では、MTR-1と同様、珪酸塩のピークは見られなかった。図2にMTR-bの600℃焼成品のX線回折強度グラフを示す。得られたX線回折強度ピークには、珪酸塩(MgSiO)のピークが現れている。MTR-a、cおよびdのX線回折結果にも、明確な珪酸マグネシウムまたは珪酸カルシウムの回折強度ピークが現れた。MTR-1~4は、成分組成が好適範囲にあり、嵩密度(ABD)、細孔容積(PV)および比表面積(SA)がすべて金属捕捉剤として好適範囲にあった。一方、MTR-aは嵩密度が好適範囲より低く、MTR-bは細孔容積と比表面積が好適範囲より低く、MTR-dは比表面積が好適範囲より低かった。また、MTR-cは、NaO含有量が好適範囲より高かった。
【0068】
【表1】
【実施例2】
【0069】
[金属捕捉剤を含む流動接触分解触媒の性能評価]
金属捕捉剤の添加効果を確認するために、アルミナバインダーを用いた流動接触分解触媒組成物に対して、上記で製造した金属捕捉剤MTR-1、2およびcを質量比で5%ブレンドし評価用の流動接触分解触媒を調製し、性能評価を行った。用いた流動接触分解触媒は、アルミナバインダーを12.5質量%、ゼオライトを25質量%、活性アルミナを35質量%、カオリンを18質量%、希土類元素をREとして4.5質量%を含むものであり、比表面積は276m/g、細孔容積は、0.36ml/gである。
【0070】
<金属捕捉剤とブレンドするための流動接触分解触媒組成物の調製>
濃度がアルミナ換算で22.83質量%の塩基性塩化アルミニウム水溶液547.5gと純水593.2gとを混合し撹拌した。次いでこの混合溶液に、濃度30質量%ゼオライトスラリーを833.3g添加するとともに、添加物として粘土鉱物成分であるカオリン(固形分81質量%)222.5g、活性マトリックス成分である活性アルミナ(固形分77質量%)453.9g、RE濃度として21.74質量%の塩化ランタン水溶液207.0gを順次添加し、原料スラリーを得た。ホモジナイザ―を用いて分散処理を行い、得られた原料スラリーは固形分濃度が35%、pHが4.9であった。
【0071】
原料スラリーを液滴として入口温度が250℃、 出口温度が150℃の噴霧乾燥機で噴霧乾燥を行い、平均粒子径が65μmの球状粒子を得た。この噴霧乾燥粒子を電気炉にて空気雰囲気下で450℃にて1時間焼成し、焼成粒子を得た。
60℃の純水1500gに、得られた焼成粒子300gを添加し、5分間撹拌した。このスラリーのpHは3.6であった。吸引濾過した後、濾過残渣を60℃の純水1500gで洗浄し、洗浄粒子ケーキ(1)を得た。
60℃の純水1500gと洗浄粒子ケーキ(1)を混合し、再懸濁した後、硫酸アンモニウム30.5gを添加し、20分間撹拌した。吸引濾過した後、濾過残渣を60℃の純水1500gで洗浄し、洗浄粒子ケーキ(1´)を得た。
60℃の純水1500gと洗浄粒子ケーキ(1´)を混合し、再懸濁した後、ゼオライトのイオン交換用の多価のカチオン源である22質量%の塩化ランタン水溶液29gを添加し、20分間撹拌した。吸引濾過した後、濾過残渣粒子を60℃の純水1500gで洗浄した。この操作を2回行った後、濾過残渣粒子を135℃で2時間乾燥して、流動接触分解触媒組成物を得た。
【0072】
[触媒の性能評価試験]
上記のようにして得た触媒組成物に各金属捕捉剤をブレンドした流動接触分解触媒を調製し、ACE-MAT(Advanced Cracking Evaluation-Micro Activity Test)を用い、同一原油、同一反応条件下で触媒の性能評価試験を行った。各触媒の性能評価試験の結果を表2に示す。転化率は触媒/通油量の質量比(C/O)が3.75の場合を、各収率は、同一転化率での値を示し、原料油の質量に対する生成油中の各成分の質量の百分率で表す。
ただし、これらの性能評価試験を行う前に、各触媒の表面に、予めニッケルおよびバナジウムをそれぞれ1000質量ppm(ニッケルの質量を触媒の質量で除算している)および2000質量ppm(バナジウムの質量を触媒の質量で除算している)沈着させ、次いでスチーミングして擬平衡化処理を行った。具体的には、各触媒を予め600℃で2時間焼成した後、所定量のナフテン酸ニッケル、およびナフテン酸バナジウムのトルエン溶液を吸収させ、次いで110℃で乾燥後、600℃で1.5時間焼成し、次いで780℃で13時間スチーム処理を行った。
性能評価試験における運転条件は以下の通りである。
原料油:原油の脱硫常圧残渣油(DSAR)+脱硫減圧軽油(DSVGO)(50+50)
触媒/通油量の質量比(C/O):3.75、5.0
反応温度:520℃
1)転化率=100-(LCO+HCO+CLO) (質量%)
2)触媒/油の質量比を3.75、5.0にて測定し、同一転化率(=73質量%)での各収率を内挿して求めた。
3)ガソリンの沸点範囲:30~216℃ (Gasoline)
4)LCOの沸点範囲:216~343℃(LCO:Light Cycle Oil)
5)HCOおよびCLOの沸点範囲:343℃+(HCO:Heavy Cycle Oil、CLO:Clarified Oil)
6)LPG(液化石油ガス)
7)Dry Gas:メタン、エタンおよびエチレン
【0073】
【表2】
【0074】
[触媒の活性評価結果]
触媒の活性評価結果(表2)によれば、実施例1にて調製した金属捕捉剤MTR-1および2を5%含む触媒(発明例)での性能評価結果(同一C/O=3.75にて比較)は、金属捕捉剤を含まない母体触媒100%の場合(テストNo.1:基準)に比べて、転化率が増加し、H2、Dry GasおよびCoke収率の低下ならびにGasolineおよびLPG収率の増加が明らかである。珪酸塩を有する金属捕捉剤MTR-cを添加した触媒では、発明例のMTR-1やMTR-2を添加した触媒に比較して、特に、Gasoline、Coke選択性の改善が低い。
図1
図2