(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】手動変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 63/20 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
F16H63/20
(21)【出願番号】P 2019033155
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2022-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】591043260
【氏名又は名称】明石機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄貴
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-211048(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10007190(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 63/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速レバーの操作に連動して軸回りに回動したり軸方向にスライドしたりする操作軸と、当該操作軸に設けたガイドピンと、当該ガイドピンの移動方向への可動範囲を規制する案内プレートとを備えた手動変速機であって、
前記案内プレートは、前記操作軸から見て外向きに突出する湾曲板状に形成され、前記操作軸の延びる方向から見て、前記操作軸の回動中心から前記案内プレートの曲率中心を偏心させるように、前記操作軸の回動中心と前記案内プレートの曲率中心との位置関係が規定されている、
手動変速機。
【請求項2】
前記操作軸は、前記変速レバーのセレクト操作に連動して軸回りに回動し、且つ、前記変速レバーのシフト操作に連動して軸方向にスライドするように構成されている、
請求項1に記載した手動変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、車両に搭載される手動変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される手動変速機は、変速レバーの操作に連動して軸回りに回動したり軸方向にスライドしたりする操作軸と、操作軸に設けたガイドピンと、ガイドピンの移動方向への可動範囲を規制する案内プレートとを備えている。案内プレートに形成した規制溝によって、ガイドピンの移動方向への可動範囲を規制することにより、ガイドピンの各移動方向のがたつき、ひいては変速レバーの各操作方向のがたつきを防止して、操作フィーリングの向上を図っている。特許文献1には、この種の手動変速機の一例が開示されている。
【0003】
特許文献1の手動変速機において、操作軸は、変速レバーのセレクト操作に連動して軸回りに回動し、且つ、変速レバーのシフト操作に連動して軸方向にスライドするように構成されている。そして、案内プレートは、操作軸から見て外向きに突出する湾曲板状に形成されている(特許文献1の
図3、
図4及び
図6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の構成では、操作軸の延びる方向から見て、操作軸の回動中心と案内プレートの曲率中心(案内プレートの湾曲側面を円弧とみなしたときの円の中心)とが一致している。このため、案内プレートの規制溝内に挿入されたガイドピンは、変速レバーの操作のたびに、規制溝に対して常に同じ位置で接触することになり、当該接触位置が局所的に摩耗し易いという問題があった。
【0006】
かかる問題を回避するには、硬度の高いガイドピンを採用することが挙げられるが、この場合、ガイドピンの製造において、硬度向上のための素材選択や特殊な熱処理が必要となり、コストの上昇を招来してしまうのであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、上記のような現状を検討して改善を施した手動変速機を提供することを技術的課題としている。
【0008】
本願発明は、変速レバーの操作に連動して軸回りに回動したり軸方向にスライドしたりする操作軸と、当該操作軸に設けたガイドピンと、当該ガイドピンの移動方向への可動範囲を規制する案内プレートとを備えた手動変速機であって、前記案内プレートは、前記操作軸から見て外向きに突出する湾曲板状に形成され、前記操作軸の延びる方向から見て、前記操作軸の回動中心から前記案内プレートの曲率中心を偏心させるように、前記操作軸の回動中心と前記案内プレートの曲率中心との位置関係が規定されているというものである。
【0009】
本願発明の手動変速機において、前記操作軸は、前記変速レバーのセレクト操作に連動して軸回りに回動し、且つ、前記変速レバーのシフト操作に連動して軸方向にスライドするように構成してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本願発明の手動変速機によると、案内プレートは、操作軸から見て外向きに突出する湾曲板状に形成され、操作軸の延びる方向から見て、操作軸の回動中心から案内プレートの曲率中心を偏心させるように、操作軸の回動中心と案内プレートの曲率中心との位置関係が規定されているから、変速レバーを操作した際に、案内プレートに対するガイドピンの接触位置が変化することになる。従って、ガイドピンの局所的な摩耗を簡単に防止できる。その結果、硬度向上のためにコストのかかる素材を採用したり特殊な熱処理をしたりせずに、一般的な焼入れ程度の硬度でガイドピンを製作することが可能になり、コストの抑制を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】手動変速機の動力伝達系統を示すスケルトン図である。
【
図4】フロアシフトでのセレクト操作及びシフト操作を示す模式的な平面図である。
【
図5】本体部及び蓋部を分離した状態での変速ギヤ機構と切換機構との斜視図である。
【
図6】本体部及び蓋部を分離した状態での変速ギヤ機構と切換機構との平面図である。
【
図7】本体部及び蓋部を分離した状態での変速ギヤ機構と切換機構との側面図である。
【
図8】変速ギヤ機構と切換機構との関係を示す拡大斜視図である。
【
図10】案内プレートの規制溝とガイドピンとの関係を示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明において必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば「左右」「上下」等)を用いる場合は、エンジンE及び手動変速機1を搭載する車両の前進方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく前進方向に向かって右側を単に右側と称して、これらを基準にしている。これらの用語は説明の便宜のために用いたものであり、本願発明の技術的範囲を限定するものではない。なお、
図1~
図10はいずれも、車両内のフロアシフト9が中立位置(ニュートラル位置)に位置しているときの状態を示している。
【0013】
図1及び
図2に示すように、実施形態の手動変速機1は、前進五速及び後進一速式のものであり、車両のエンジンルーム(図示省略)内に搭載した横置き式のエンジンEの左側に位置するように、エンジンEに取り付けられている。
図3以降に示すように、手動変速機1は、エンジンEからの出力を変速する変速ギヤ機構2と、変速ギヤ機構2を切換作動させる切換機構3と、変速ギヤ機構2及び切換機構3を収容する変速機ケース4とを備えている。
【0014】
変速機ケース4は、深さの深い本体部5と、本体部5の開口を塞ぐ蓋部6とで、二つ割り状に構成されている。詳細な図示は省略するが、本体部5は右向きに開口している。蓋部6は左右両側に向けて開口している。蓋部6には、内部を左右に区画する仕切り壁が形成されている。従って、蓋部6には、仕切り壁を底部とする左開口部と右開口部とが形成されている。
【0015】
蓋部6の左開口部内には変速ギヤ機構2及び切換機構3の一部が収まり、変速ギヤ機構2及び切換機構3の大部分が本体部5内に収まっている。実施形態では、変速機ケース4内(具体的には蓋部6の左開口部内)に差動ギヤ機構7も収容している。つまり、実施形態の変速機ケース4は、内部に変速ギヤ機構2と差動ギヤ機構7とを収容する、いわゆるトランスアクスルケースである。つまり、実施形態の手動変速機1は前輪駆動式のものに採用されている。本体部5と蓋部6(左開口部側)とは、変速ギヤ機構2、切換機構3並びに差動ギヤ機構7を収容した状態でボルト締結されている。変速ギヤ機構2及び切換機構3の軸群は、本体部5の開口方向(本体部5と蓋部6との締結方向、実施形態では左右方向)に沿って延びている。
【0016】
蓋部6の右開口部内には、エンジンEから変速ギヤ機構2への動力伝達を継断する主クラッチCLが収容されている。変速ギヤ機構2の変速入力軸10(詳細は後述する)が蓋部6内の仕切り壁を回転可能に貫通している。エンジンEから突出したエンジン出力軸SH(クランク軸)は、主クラッチCLを介して右開口部内に突出した変速入力軸10に連結されている。蓋部6(右開口部側)は、主クラッチCLを収容した状態でエンジンEにボルト締結されている。
【0017】
エンジンEの動力は、エンジン出力軸SHから変速ギヤ機構2に伝達されて適宜変速され、当該変速動力が差動ギヤ機構7を介して左右の前車輪(図示省略)に伝達される。
【0018】
次に、変速レバーとしてのフロアシフト9の操作パターンについて説明する。
図4に示すように、フロアシフト9は、車両の幅方向(左右方向)をセレクト方向、セレクト方向に交差する方向(車両の前後方向)をシフト方向とすると、セレクト方向に延びる一つのセレクト溝40と、シフト方向に延びる複数のシフト溝41~46とに沿って操作可能に設定されている。セレクト溝40を挟んで前側には、セレクト溝40の左側から順に、一速シフト溝41、三速シフト溝43及び五速シフト溝45が位置し、後側には二速シフト溝42、四速シフト溝44及び後進シフト溝46が位置している。一速シフト溝41及び二速シフト溝42の組は、シフト方向に同一直線状に並んでいる。三速シフト溝43及び四速シフト溝44の組と、五速シフト溝45及び後進シフト溝46の組も同様である。フロアシフト9の完全中立位置は、セレクト溝40と三速シフト溝43及び四速シフト溝44とが交わる箇所に設定されている。
【0019】
次に、手動変速機1の変速ギヤ機構2について説明する。
図3に詳細に示すように、変速機ケース4内に収容された変速ギヤ機構2は、エンジンEの動力が入力される変速入力軸10と、変速入力軸10と平行状に延び且つ差動ギヤ機構7に動力伝達する変速出力軸20とを備えている。変速入力軸10と変速出力軸20とには、変速入力軸10から変速出力軸20に動力伝達する複数の前進変速段ギヤ列G1~G5と、後進ギヤ列GRとが設けられている。前進変速段ギヤ列G1~G5はそれぞれ、互いに常時噛み合う二つのギヤで構成されている。後進ギヤ列GRは、後進時に互いに噛み合う三つのギヤで構成されている。実施形態の変速ギヤ機構2では、エンジンE側から、一速ギヤ列G1、後進ギヤ列GR、二速ギヤ列G2、三速ギヤ列G3、四速ギヤ列G4、及び五速ギヤ列G5の順に並んでいる。
【0020】
一速ギヤ列G1及び二速ギヤ列G2はそれぞれ、変速入力軸10に固定した一速入力ギヤ11及び二速入力ギヤ12と、変速出力軸20に相対回転可能に被嵌した一速出力ギヤ21及び二速出力ギヤ22とを有している。また、三速ギヤ列G3~五速ギヤ列G5は、変速入力軸10に相対回転可能に被嵌した三速入力ギヤ13~五速入力ギヤ15と、変速出力軸20に固定した三速出力ギヤ23~五速出力ギヤ25とを有している。後進ギヤ列GRは、変速入力軸10に固定した後進入力ギヤ17と、変速出力軸20に相対回転不能で且つ軸方向にスライド可能に被嵌した後進出力ギヤ27と、変速入力軸10及び変速出力軸20と平行状に延びる後進アイドル軸30に回転可能で且つ軸方向にスライド可能に被嵌した後進アイドルギヤ37とで構成されている。変速出力軸20のエンジンE寄りの端部(右端部)には、差動ギヤ機構7のリングギヤ8と常時噛み合う出力ギヤ28が固定されている。
【0021】
変速出力軸20上における一速出力ギヤ21と二速出力ギヤ22との間には、低速スライダ51が相対回転不能で且つ軸方向にスライド可能に被嵌されている。低速スライダ51の作用によって、一速出力ギヤ21と二速出力ギヤ22とが変速出力軸20に択一的に連結される。変速入力軸10上における三速入力ギヤ13と四速入力ギヤ14との間には、中速スライダ52が相対回転不能で且つ軸方向にスライド可能に被嵌されている。中速スライダ52の作用によって、三速入力ギヤ13と四速入力ギヤ14とが変速入力軸10に択一的に連結される。変速入力軸10上において五速入力ギヤ15よりもエンジンEから遠い箇所には、高速スライダ53が相対回転不能で且つ軸方向にスライド可能に被嵌されている。高速スライダ53の作用によって、五速入力ギヤ15が変速入力軸10に連結又は連結解除される。
【0022】
フロアシフト9の前進シフト操作(シフト溝41~45に沿った前後方向への操作)に基づきスライダ51,52,53を変速出力軸20又は変速入力軸10に沿ってスライド移動させることによって、相対回転可能な出力ギヤ21,22又は入力ギヤ13~15が変速出力軸20若しくは変速入力軸10に固定されて、対応する前進変速段ギヤ列G1~G5が動力接続状態になる。
【0023】
具体的には、低速スライダ51がエンジンE側(右側)にスライド移動すると、一速出力ギヤ21が変速出力軸20に連結する。その結果、エンジンEの動力が主クラッチCL、変速入力軸10、一速入力ギヤ11、一速出力ギヤ21、変速出力軸20、出力ギヤ28を介して差動ギヤ機構7に伝達され、左右の前車輪が前進一速状態で回転駆動する。低速スライダ51がエンジンEから離れる側(左側)にスライド移動すると、二速出力ギヤ22が変速出力軸20に連結する。その結果、エンジンEの動力が主クラッチCL、変速入力軸10、二速入力ギヤ12、二速出力ギヤ22、変速出力軸20、出力ギヤ28を介して差動ギヤ機構7に伝達され、左右の前車輪が前進二速状態で回転駆動する。
【0024】
中速スライダ52がエンジンE側にスライド移動すると、三速入力ギヤ13が変速入力軸10に連結する。その結果、エンジンEの動力が主クラッチCL、変速入力軸10、三速入力ギヤ13、三速出力ギヤ23、変速出力軸20、出力ギヤ28を介して差動ギヤ機構7に伝達され、左右の前車輪が前進三速状態で回転駆動する。中速スライダ52がエンジンEから離れる側にスライド移動すると、四速入力ギヤ14が変速入力軸10に連結する。その結果、エンジンEの動力が主クラッチCL、変速入力軸10、四速入力ギヤ14、四速出力ギヤ24、変速出力軸20、出力ギヤ28を介して差動ギヤ機構7に伝達され、左右の前車輪が前進四速状態で回転駆動する。
【0025】
高速スライダ53がエンジンE側にスライド移動すると、五速入力ギヤ15が変速入力軸10に連結する。その結果、エンジンEの動力が主クラッチCL、変速入力軸10、五速入力ギヤ15、五速出力ギヤ25、変速出力軸20、出力ギヤ28を介して差動ギヤ機構7に伝達され、左右の前車輪が前進五速状態で回転駆動する。
【0026】
後進ギヤ列GRを構成する後進出力ギヤ27は、低速スライダ51に取り付けられている。フロアシフト9の後進シフト操作(後進シフト溝46に沿った操作)に基づき後進アイドルギヤ37を後進アイドル軸30に沿ってエンジンEから離れる側にスライド移動させることによって、後進アイドルギヤ37が後進入力ギヤ17と後進出力ギヤ27との双方に噛み合う。その結果、後進ギヤ列GRが動力接続状態になる。すなわち、エンジンEの動力が主クラッチCL、変速入力軸10、後進入力ギヤ17、後進アイドルギヤ37、後進出力ギヤ27、変速出力軸20、出力ギヤ28を介して差動ギヤ機構7に伝達され、左右の前車輪が後進状態で回転駆動する。
【0027】
次に、手動変速機1の切換機構3について説明する。
図5~
図8に示すように、変速機ケース4内の切換機構3は、変速入力軸10、変速出力軸20並びに後進アイドル軸30と平行状に延びる低中速操作軸61及び高速後進操作軸62を備えている。低中速操作軸61及び高速後進操作軸62はいずれも、変速機ケース4内に軸方向にスライド可能に支持されている。実施形態では、低中速操作軸61及び高速後進操作軸62の一端側(右端側)が蓋部6の仕切り壁に軸方向にスライド可能に支持され、低中速操作軸61及び高速後進操作軸62の他端側(左端側)が本体部5の内壁に軸方向にスライド可能に支持されている。
【0028】
低中速操作軸61には、低速スライダ51に係合する低速フォーク63と、中速スライダ52に係合する中速フォーク64とが軸方向にスライド可能に被嵌されている。高速後進操作軸62には、高速スライダ53に係合する高速フォーク65と、後進アイドルギヤ37をスライド作動させる後進フォーク66とが固定されている。低中速操作軸61上における低速フォーク63と中速フォーク64との間には、低速フォーク63、中速フォーク64又は後進フォーク66を択一的に選択する選択アーム67と、選択アーム67を低中速操作軸61回りに回動作動させる案内レバー68とが取り付けられている。
【0029】
選択アーム67は、低中速操作軸61に固定されていて、低中速操作軸61と共に回動可能である。案内レバー68は、低中速操作軸61に対して相対的にスライド可能で且つ低中速操作軸61回りに回動可能に被嵌されている。案内レバー68は、低中速操作軸61に沿ったスライド移動が不能になっている。低速フォーク63、中速フォーク64及び後進フォーク66には、選択アーム67の先端側が係合可能な係合片69~71がそれぞれ突設されている。
【0030】
案内レバー68の低中速操作軸61回りの回動作用によって、選択アーム67が共に低中速操作軸61回りに回動して、低速フォーク63の低速係合片69、中速フォーク64の中速係合片70及び後進フォーク66の後進係合片71のうちいずれかに係合する。その結果、低速フォーク63と中速フォーク64と後進フォーク66とが選択アーム67ひいては低中速操作軸61に択一的に連結される。実施形態では、低速フォーク63、中速フォーク64又は後進フォーク66を選択アーム67が択一的に選択した状態では、案内レバー68の作用によって、選択外のフォークが低中速操作軸61や高速後進操作軸62に沿ってスライド移動するのを阻止するように構成されている。
【0031】
低中速操作軸61上において低速フォーク63よりもエンジンE寄りの箇所には、係止溝部73付きのシフトスリーブ72が固定されている。後述するシフトアーム81の回動に連動して、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61が軸方向にスライドするように構成されている。
【0032】
フロアシフト9のセレクト操作(セレクト溝40に沿った左右方向への操作)に基づき案内レバー68を低中速操作軸61回りに回動させると、案内レバー68に連動して選択アーム67が低中速操作軸61回りに回動して、低速フォーク63の低速係合片69、中速フォーク64の中速係合片70又は後進フォーク66の後進係合片71に、選択アーム67が択一的に係合する。その結果、低速フォーク63と中速フォーク64と後進フォーク66とが選択アーム67ひいては低中速操作軸61に択一的に連結される。
【0033】
そして、フロアシフト9の前進シフト操作に基づきシフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61を軸方向にスライド移動させると、選択されたフォーク63,64,66に対応したスライダ51~53が変速出力軸20又は変速入力軸10に沿ってスライド移動して、前述の通り、対応する前進変速段ギヤ列G1~G5が動力接続状態になる。
【0034】
具体的には、フロアシフト9をセレクト溝40と一速シフト溝41及び二速シフト溝42とが交わる箇所に操作すると、案内レバー68と共に回動した選択アーム67が低速フォーク63を選択する。それから、フロアシフト9を一速シフト操作すると、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61がエンジンE側(右側)にスライド移動して、これに伴い低速フォーク63ひいては低速スライダ51がエンジンE側にスライド移動する。その結果、一速出力ギヤ21が変速出力軸20に連結し、前述の通り、左右の前車輪が前進一速状態で回転駆動する。
【0035】
低速フォーク63を選択した状態でフロアシフト9を二速シフト操作すると、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61がエンジンEから離れる側(左側)にスライド移動して、これに伴い低速フォーク63ひいては低速スライダ51がエンジンEから離れる側にスライド移動する。その結果、二速出力ギヤ22が変速出力軸20に連結し、前述の通り、左右の前車輪が前進二速状態で回転駆動する。
【0036】
フロアシフト9をセレクト溝40と三速シフト溝43及び四速シフト溝44とが交わる箇所(完全中立位置)に操作すると、案内レバー68と共に回動した選択アーム67が中速フォーク64を選択する。それから、フロアシフト9を三速シフト操作すると、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61がエンジンE側にスライド移動して、これに伴い中速フォーク64ひいては中速スライダ52がエンジンE側にスライド移動する。その結果、三速入力ギヤ13が変速入力軸10に連結し、前述の通り、左右の前車輪が前進三速状態で回転駆動する。
【0037】
中速フォーク64を選択した状態でフロアシフト9を四速シフト操作すると、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61がエンジンEから離れる側にスライド移動して、これに伴い中速フォーク64ひいては中速スライダ52がエンジンEから離れる側にスライド移動する。その結果、四速入力ギヤ14が変速入力軸10に連結し、前述の通り、左右の前車輪が前進四速状態で回転駆動する。
【0038】
フロアシフト9をセレクト溝40と五速シフト溝45及び後進シフト溝46とが交わる箇所に操作すると、案内レバー68と共に回動した選択アーム67が後進フォーク66を選択する。それから、フロアシフト9を五速シフト操作すると、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61がエンジンE側にスライド移動して、これに伴い後進フォーク66に高速後進操作軸62を介して連結した高速フォーク65及び高速スライダ53がエンジンE側にスライド移動する。その結果、五速入力ギヤ15が変速入力軸10に連結し、前述の通り、左右の前車輪が前進五速状態で回転駆動する。
【0039】
この場合、後進フォーク66には、融通アーム74を介して後進アイドルギヤ37を連動連結させている。詳細は省略するが、融通アーム74は、後進フォーク66及び高速後進操作軸62がエンジンEから離れる側にスライド移動するときのみ、後進アイドルギヤ37を後進アイドル軸30に沿ってエンジンEから離れる側にスライド移動させるように構成されている。従って、後進フォーク66及び高速後進操作軸62がエンジンE側にスライド移動する状態では、融通アーム74の作用によって、後進アイドルギヤ37はスライド移動しない。
【0040】
後進フォーク66を選択した状態でフロアシフト9を後進シフト操作すると、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61がエンジンEから離れる側にスライド移動して、これに伴い後進フォーク66がエンジンEから離れる側にスライド移動する。その結果、融通アーム74を介して後進アイドルギヤ37が後進アイドル軸30に沿ってエンジンEから離れる側にスライド移動して、後進アイドルギヤ37が後進入力ギヤ17と後進出力ギヤ27との双方に噛み合い、前述の通り、左右の前車輪が後進状態で回転駆動する。
【0041】
さて、変速機ケース4は、請求項でいう操作軸に相当する低中速操作軸61をスライドさせるシフト操作をするシフト軸76と、低中速操作軸61を回動させるセレクト操作をするセレクト軸75とを備えている。実施形態では、シフト軸76及びセレクト軸75が低中速操作軸61と交差する方向に延びる縦向きの姿勢で、変速機ケース4の上面に回動可能に支持されている(軸支されている)。この場合、セレクト軸75は本体部5の上面に回動可能に支持されている一方、シフト軸76は蓋部6の左開口部側の上面に回動可能に支持されている。
【0042】
セレクト軸75における本体部5外の突端側には、セレクト軸75を回動操作するセレクト外レバー77が固定されている。シフト軸76における蓋部6外の突端側には、シフト軸76を回動操作するシフト外レバー78が固定されている。セレクト外レバー77とシフト外レバー78とには、リンク機構やワイヤーを含む連係機構(図示省略)を介してフロアシフト9に連動連結されている。フロアシフト9をセレクト方向に操作することによって、連係機構及びセレクト外レバー77を介してセレクト軸75が回動し、フロアシフト9をシフト方向に操作することによって、連係機構及びシフト外レバー78を介してシフト軸76が回動するように構成されている。
【0043】
シフト軸76は、低中速操作軸61と交差する方向から切換機構3に係合するように構成されている。すなわち、シフト軸76における蓋部6内の突端側には、シフトスリーブ72の係止溝部73に係合するシフトアーム81が取り付けられている。シフトアーム81がシフトスリーブ72の係止溝部73に上方から嵌め込まれている。シフトアーム81のシフト軸76回りの回動作用によって、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61が軸方向にスライドするように構成されている。
【0044】
セレクト軸75は、低中速操作軸61の軸方向から切換機構3に係合するように構成されている。すなわち、案内レバー68には、上方向及び低中速操作軸61の軸方向に開放されたU字状の係止凹部79が形成されている一方、セレクト軸75における本体部5内の突端側には、案内レバー68の係止凹部79に係合するセレクトアーム80が取り付けられている。セレクトアーム80は、低中速操作軸61の軸方向、つまり、本体部5の開口方向(本体部5と蓋部6との締結方向、実施形態では左右方向)に沿う姿勢で案内レバー68の係止凹部79に差し込まれている。セレクトアーム80のセレクト軸75回りの回動作用によって、案内レバー68ひいては選択アーム67が低中速操作軸61回りに回動するように構成されている。
【0045】
なお、詳細は省略するが、蓋部6の左開口部内には、シフト軸76をシフト方向の中立位置(フロアシフト9がセレクト溝40内にあるときの位置、低中速操作軸61を左右どちらにもスライドさせていないときの位置)に保持するシフトデテント機構が設けられている。手動変速機1の組み付け作業時も、シフト軸76をシフト方向の中立位置に保持して、シフトアーム81とシフトスリーブ72の係止溝部73とをスムーズに係合し得るように構成されている。
【0046】
また、本体部5内には、セレクト軸75を完全中立位置(フロアシフト9がセレクト溝40と三速シフト溝43及び四速シフト溝44とが交わる位置、案内レバー68を低中速操作軸61回りに回動させていないときの位置)に保持するセレクトデテント機構が設けられている。手動変速機1の組み付け作業時も、セレクト軸75を完全中立位置に保持して、セレクトアーム80と案内レバー68の係止凹部79とをスムーズに係合し得るように構成されている。
【0047】
上記の構成によると、セレクト軸75が本体部5に回動可能に支持される(軸支される)一方、シフト軸76が蓋部6に回動可能に支持されている(軸支されている)から、手動変速機1の組み立て作業時において、本体部5と蓋部6とを連結するより前に、変速ギヤ機構2及び切換機構3の軸10,20,30,61,62群の一端側を蓋部6に支持させた状態(変速ギヤ機構2及び切換機構3のユニットを蓋部6に支持させた状態)で、シフト軸76(シフトアーム81)と切換機構3(シフトスリーブ72の係止溝部73)との係合作業を目視しながら実行できる。従って、組み付け作業性が向上する。また、本体部5と蓋部6とを連結するより前に予め、シフト軸76を蓋部6に取り付けできるから、従来必要であったシフト軸76の抜け防止用の部品もなくせ、コスト抑制も図れる。
【0048】
また、本体部5と蓋部6とを連結するに際して、セレクト軸75と切換機構3(案内レバー68の係止凹部79)との係合が低中速操作軸61の軸方向、すなわち本体部5の開口方向(本体部5と蓋部6との締結方向、実施形態では左右方向)に合致するため、本体部5と蓋部6とを連結すれば、セレクト軸75(セレクトアーム80)と切換機構3(案内レバー68の係止凹部79)とがワンタッチ的に係合することになり、位置合わせ作業ひいては組み付け作業が至極簡単である。従って、組み付け作業性の向上により一層貢献できる。
【0049】
次に、
図9及び
図10を参照しながら、本願発明にかかる規制機構85について説明する。規制機構85は、フロアシフト9の各操作方向のがたつきを防止して、操作フィーリングの向上を図るためのものであり、操作軸としての低中速操作軸61に設けたガイドピン86と、ガイドピン86の移動方向への可動範囲を規制する案内プレート87とを備えている。実施形態のガイドピン86は、低中速操作軸61に固定したシフトスリーブ72に、上向きに突出する姿勢で一体的に設けられている。このため、実施形態のガイドピン86は、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61と共に、軸回りに回動可能で且つ軸方向にスライド可能に構成されている。
【0050】
図9に示すように、案内プレート87は、蓋部6における左開口部の上部側(ガイドピン86の上方箇所)に取り付けられている。案内プレート87は、低中速操作軸61から見て外向き(上向き)に突出する湾曲板状に形成されている。案内プレート87には、ガイドピン86の先端側が挿入される規制溝90~96が形成されている。規制溝90~96は、セレクト規制方向(実施形態では低中速操作軸61に交差する方向)に延びる一つのセレクト規制溝90と、シフト規制方向(実施形態では低中速操作軸61の軸方向)に延びる一速~五速規制溝91~95及び後進規制溝96とで構成されている。
【0051】
図10に示すように、セレクト規制溝90を挟んで一方側には、セレクト規制溝90の右側から順に、一速規制溝91、三速規制溝93及び五速規制溝95が位置し、他方側には二速規制溝92、四速規制溝94及び後進規制溝96が位置している。一速規制溝91及び二速規制溝92の組は、シフト規制方向に同一直線状に並んでいる。三速規制溝93及び四速規制溝94の組と、五速規制溝95及び後進規制溝96の組も同様である。フロアシフト9の完全中立位置は、セレクト規制溝90と三速規制溝93及び四速規制溝94とが交わる箇所に設定されている。
【0052】
ガイドピン86は、シフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61と共に、軸回りに回動したり軸方向にスライドしたりすることによって、セレクト規制溝90、一速~五速規制溝91~95及び後進規制溝96に沿って移動可能になっている。案内プレート87の規制溝90~96によって、ガイドピン86の移動方向への可動範囲を規制することにより、ガイドピン86の各移動方向のがたつき、ひいてはフロアシフト9の各操作方向のがたつきを防止して、操作フィーリングの向上を図っている。
【0053】
フロアシフト9のセレクト操作(セレクト溝40に沿った左右方向への操作)に基づき案内レバー68を低中速操作軸61回りに回動させると、案内レバー68に連動して選択アーム67が低中速操作軸61ひいてはシフトスリーブ72と共に軸回りに回動する。その結果、ガイドピン86がセレクト規制溝90に沿ってセレクト規制方向に移動する。
【0054】
フロアシフト9の前進又は後進シフト操作に基づきシフトアーム81をシフト軸76回りに回動させると、シフトアーム81がシフトスリーブ72ひいては低中速操作軸61を軸方向にスライド移動させる。その結果、ガイドピン86は、一速規制溝91及び二速規制溝92に沿ってシフト規制方向に移動したり、三速規制溝93及び四速規制溝94に沿ってシフト規制方向に移動したり、五速規制溝95及び後進規制溝96に沿ってシフト規制方向に移動したりする。なお、実施形態のガイドピン86は、いずれの規制方向に沿って移動しても規制溝90~96から外れない長さに設定されている。
【0055】
図9に示す実施形態では、低中速操作軸61の延びる方向(軸方向)から見て、低中速操作軸61の回動中心Oと案内プレート87の曲率中心P(案内プレート87の湾曲側面を円弧とみなしたときの円の中心)との位置をずらしている。すなわち、低中速操作軸61の延びる方向から見て、低中速操作軸61の回動中心Oから案内プレート87の曲率中心Pを偏心させている。
【0056】
このように構成すると、フロアシフト9を操作した際に、案内プレート87に対するガイドピン86の接触位置(案内プレート87の規制溝90~96内に挿入されたガイドピン86が規制溝90~96に接触する位置)が変化することになる。実施形態では、セレクト規制溝90内において一速及び二速規制溝91,92側よりも五速及び後進規制溝95,96側の方で、ガイドピン86の先端側は、案内プレート87から上向きに長く突出することになる。従って、ガイドピン86の局所的な摩耗を簡単に防止できる。その結果、硬度向上のためにコストのかかる素材を採用したり特殊な熱処理をしたりせずに、一般的な焼入れ程度の硬度でガイドピン86を製作することが可能になり、コストの抑制を図れるのである。
【0057】
なお、本願発明における各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。例えば実施形態の手動変速機1において、操作軸(低中速操作軸61)は、変速レバー(フロアシフト9)のセレクト操作に連動して軸回りに回動し、且つ、変速レバー(フロアシフト9)のシフト操作に連動して軸方向にスライドするものであったが、逆に、変速レバー(フロアシフト9)のシフト操作に連動して軸回りに回動し、且つ、変速レバー(フロアシフト9)のセレクト操作に連動して軸方向にスライドするように構成してもよい。また、実施形態の手動変速機1は前輪駆動式のものに採用されているが、これに限らず、後輪駆動式のものに採用してもよいし、四輪駆動式のものに採用することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
E エンジン
1 手動変速機
2 変速ギヤ機構
3 切換機構
4 変速機ケース
5 本体部
6 蓋部
9 フロアシフト(変速レバー)
61 低中速操作軸(操作軸)
72 シフトスリーブ
85 規制機構
86 ガイドピン
87 案内プレート
90~96 規制溝