(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】エラストマー
(51)【国際特許分類】
C08F 297/02 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
C08F297/02
(21)【出願番号】P 2019042384
(22)【出願日】2019-03-08
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】菊池 利充
(72)【発明者】
【氏名】佐野 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】福本 天斗
(72)【発明者】
【氏名】千賀 寛文
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/165521(WO,A1)
【文献】特開平04-236249(JP,A)
【文献】特開平07-268174(JP,A)
【文献】特開2011-236366(JP,A)
【文献】特開平05-271324(JP,A)
【文献】特開2016-035069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 293/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に重合体ブロックA及び重合体ブロックBを有するブロック共重合体であって、
前記重合体ブロックAは、1,2-ビニル結合含量が25重量%未満のポリブタジエンブロックであり、
前記重合体ブロックBは、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を50重量%以上含有し、かつ、1,2-ビニル結合含量が25重量%以上の重合体ブロックであり、
前記重合体ブロックAの含有量が53~80重量%、前記重合体ブロックBの含有量が45~5重量%(但し、重合体全体の重量を100重量%とする)であり、
前記重合体ブロックAと前記重合体ブロックBの合計量を100重量%とした場合、前記重合体ブロックAの含有割合が53~80重量%、前記重合体ブロックBの含有割合が47~20重量%であり、かつ、共役ジエン化合物の二重結合残基の90%以上が水添された共重合体であり、
重量平均分子量が10万~60万である、エラストマー。
【請求項2】
前記重合体ブロックBが、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位とを有する共重合体ブロックである、請求項1に記載のエラストマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性エラストマーは、蓄熱材、タイヤ、粘着剤の原材料として、多種多様な用途で使用されている。例えば、保護フィルム用の粘着剤として使用される熱可塑性エラストマーでは、被着体との接触面積を十分に確保するために、粘弾性(tanδ)の制御が重要であることが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、保護フィルム用の粘着剤としては、オレフィン系の熱可塑性エラストマーの適用が検討されており、低分子物質の添加や発生を極力抑えることができるエラストマーが要求されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016-063673号
【文献】特開2018-131487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の熱可塑性エラストマーでは、粘接着性、耐熱性及び耐衝撃性のバランスに優れた成形体を得ることが難しく、上記の多種多様な用途で要求される物性バランスを高いレベルで達成できていないという課題があった。
【0005】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、前記課題の少なくとも一部を解決することで、粘接着性、耐熱性及び耐衝撃性のバランスに優れた成形体を得ることができるエラストマーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下のいずれかの態様として実現することができる。
【0007】
本発明に係るエラストマーの一態様は、
25℃における貯蔵ヤング率E’が5~80MPaであり、
25℃におけるtanδが0.10以上、かつ、50℃におけるtanδが0.10未満であり、
50℃以上に融点ピーク温度を有し、かつ、融解熱量が30~90J/gであり、
ヨウ素価が3~50である。
【0008】
前記エラストマーの一態様において、
25℃における貯蔵ヤング率E’が25~80MPaであることができる。
【0009】
本発明に係るエラストマーの一態様は、
分子中に重合体ブロックA及び重合体ブロックBを有するブロック共重合体であって、
前記重合体ブロックAは、1,2-ビニル結合含量が25重量%未満のポリブタジエンブロックであり、
前記重合体ブロックBは、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を50重量%以上含有し、かつ、1,2-ビニル結合含量が25重量%以上の重合体ブロックであり、
前記重合体ブロックAの含有量が40~95重量%、前記重合体ブロックBの含有量が60~5重量%(但し、重合体全体の重量を100重量%とする)であり、かつ、共役ジエン化合物の二重結合残基の90%以上が水添された共重合体であり、
重量平均分子量が10万~60万である。
【0010】
前記エラストマーの一態様において、
前記重合体ブロックBが、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位とを含む共重合体ブロックであることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るエラストマーによれば、粘接着性、耐熱性及び耐衝撃性のバランスに優れた成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0013】
本明細書において、「~」を用いて記載された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味である。
【0014】
1.エラストマー
本発明の一実施形態に係るエラストマーは、25℃における貯蔵ヤング率E’が5~80MPaであり、25℃におけるtanδが0.10以上、かつ、50℃におけるtanδが0.10未満であり、50℃以上に融点ピーク温度を有し、かつ、融解熱量が30~90J/gであり、ヨウ素価が3~50である。
【0015】
1.1.エラストマーの特性
本実施形態に係るエラストマーの25℃における貯蔵ヤング率E’は、5~80MPaであり、好ましくは10~70MPaであり、より好ましくは15~60MPaであり、特に好ましくは15~50MPaである。25℃における貯蔵ヤング率E’が前記範囲にあると、成形体のベトツキやペレットの互着を防止することができ、成形体の粘接着性が良好となる。25℃における貯蔵ヤング率E’が前記範囲未満であると、成形体のベトツキやペレットの互着が発生しやすい。一方、25℃における貯蔵ヤング率E’が前記範囲を超えると、成形体の粘接着不良や柔軟性不足となる傾向がある。
【0016】
なお、本発明における「25℃における貯蔵ヤング率E’」は、動的粘弾性装置(レオメトリックス社製、型番「RSA」)を用いて、定速昇温引張モードにて昇温速度3℃/分、せん断速度6.28ラジアン/秒で動的粘弾性スペクトルを測定した際の、25℃の貯蔵ヤング率である。
【0017】
本実施形態に係るエラストマーの25℃におけるtanδの高さは、0.10以上であり、好ましくは0.11以上であり、より好ましくは0.12以上である。25℃におけるtanδが前記範囲にあると、粘接着性及び耐衝撃性のバランスに優れた成形体が得られる。25℃におけるtanδの高さが0.10未満であると、成形体に粘接着性不良が生じたり、耐衝撃性不良が生じたりする場合がある。
【0018】
本実施形態に係るエラストマーの50℃におけるtanδの高さは、0.10未満であり、好ましくは0.08未満であり、より好ましくは0.06未満である。25℃におけるtanδが前記範囲にあると、耐熱性に優れた成形体が得られる。50℃におけるta
nδの高さが0.10以上であると、高温保管や時間経過とともに成形体が変形するため、例えば経時的に粘接着性が不良となる場合がある。
【0019】
本実施形態に係るエラストマーのtanδピークは、-70℃~+10℃の範囲にあることが好ましく、-60℃~+5℃の範囲にあることがより好ましく、-50℃~0℃の範囲にあることが特に好ましい。また、tanδピークの高さは、好ましくは0.20以上であり、より好ましくは0.25以上であり、特に好ましくは0.30以上である。エラストマーのtanδピークがこのような条件を満たすことにより、耐熱性に優れた成形体が得られ、高温保管や時間経過とともに成形体が変形するなどの不具合の発生を抑制できる。
【0020】
なお、本発明における「tanδ」は、エラストマーを測定用試料とし、ARES-RDA(TA Instruments社製)を使用し、剪断歪1.0%、角速度100ラジアン毎秒、所期の温度条件で測定した値である。このtanδは、数値が大きいほど粘性が高く、粘接着性が良好であることを示す。
【0021】
本実施形態に係るエラストマーの融点ピーク温度は、50℃以上であり、好ましくは65℃~130℃であり、より好ましくは75℃~110℃である。融点ピーク温度が前記範囲にあると、粘接着性及び耐熱性のバランスに優れた成形体が得られる。融点ピーク温度が前記範囲未満では、成形体の耐熱性が不足し、例えばペレット同士が互着するなど成形加工時に問題が生じる場合がある。一方、融点ピークが前記範囲を超えると、エラストマー成形時の粘度が高くなりすぎるため好ましくない。
【0022】
本実施形態に係るエラストマーの融解熱量は、30~90J/gであり、好ましくは40~80J/gであり、より好ましくは50~75J/gである。融解熱量が前記範囲にあると、成形体のベトツキやペレットの互着を防止することができ、成形体の粘接着性が良好となる。融解熱量が前記範囲未満であると、成形体のベトツキやペレットの互着が発生しやすい。一方、融解熱量が前記範囲を超えると、成形体の粘接着不良や柔軟性不足となる傾向がある。
【0023】
なお、エラストマーの融点ピーク温度及び融解熱量は、示差走査熱量測定法(DSC法)により測定される。具体的には、融点ピーク温度とは、示差走査熱量計(DSC)を使用し、サンプルとなるエラストマーを200℃で10分保持した後、-80℃まで10℃/分の速度で冷却し、次いで-80℃で10分間保持した後、10℃/分の速度で昇温したときの熱流量(これを「融解熱量」という。)のピーク温度である。
【0024】
本実施形態に係るエラストマーのヨウ素価は、3~50であり、好ましくは3~40であり、より好ましくは4~35である。ヨウ素価が前記範囲にあると、エラストマーの反応性が適度となるため、架橋処理後のエラストマーの耐熱性が良好となる。ヨウ素価が前記範囲未満であると、エラストマーの反応性が不足するため、架橋処理後のエラストマーの耐熱性が不良となる場合がある。ヨウ素価が前記範囲を超えると、エラストマーの反応性が高くなりすぎるため、成形加工時のゲル分が生じやすくなり、成形不良となる場合がある。
【0025】
なお、エラストマーのヨウ素価は、「JIS K 0070:1992」に記載された試験方法に準じて測定することができる。なお、ヨウ素価は、対象となる物質100gと反応するハロゲンの量をヨウ素のグラム数に換算して表す値である。
【0026】
本実施形態に係るエラストマーの、230℃、21.2Nの荷重で測定されるメルトフローレート(MFR)は、0.1~100g/10分であることが好ましく、1.0~5
0g/10分であることがより好ましく、2.0~30g/10分であることが特に好ましい。230℃、21.2N荷重で測定されるMFRが前記範囲にあると、成形時の負荷が小さくなり、成形性が良好となる傾向にあるため好ましい。なお、メルトフローレート(MFR)は、「JIS K 7210」に記載された試験方法に準じて、230℃、21.2Nの荷重で測定して求めることができる。
【0027】
1.2.エラストマーの構造
本実施形態に係るエラストマーは、分子中に重合体ブロックA及び重合体ブロックBを有するブロック共重合体(以下、単に「ブロック共重合体」ともいう。)であって、前記重合体ブロックAは、1,2-ビニル結合含量が25重量%未満のポリブタジエンブロックであり、前記重合体ブロックBは、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を50重量%以上含有し、かつ、1,2-ビニル結合含量が25重量%以上の重合体ブロックであり、前記重合体ブロックAの含有量が40~95重量%、前記重合体ブロックBの含有量が60~5重量%(但し、重合体全体の重量を100重量%とする)であり、かつ、共役ジエン化合物の二重結合残基の90%以上が水添された共重合体であり、重量平均分子量が10万~60万である。以下、ブロック共重合体を構成する重合体ブロック、ブロック構成、ブロック共重合体の特性について説明する。
【0028】
1.2.1.重合体ブロックA
重合体ブロックAは、1,2-ビニル結合含量が25重量%未満のポリブタジエンブロックである。重合体ブロックAは、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を含む。共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエンが特に好ましい。
【0029】
重合体ブロックA中の1,2-ビニル結合含量は、25重量%未満であり、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは15重量%以下であり、特に好ましくは12重量%以下である。重合体ブロックA中の1,2-ビニル結合含量の下限値は特に限定されるものではない。重合体ブロックA中の1,2-ビニル結合含量が前記範囲にあると、機械的強度が向上するため、成形体の耐衝撃性が良好となる。
【0030】
なお、本発明における「1,2-ビニル結合含量」とは、水添前の重合体ブロック中に1,2-結合、3,4-結合及び1,4-結合の様式で組み込まれている共役ジエン化合物のうち、1,2-結合で組み込まれているものの合計割合(重量%)である。
【0031】
1.2.2.重合体ブロックB
重合体ブロックBは、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を50重量%以上含有し、かつ、1,2-ビニル結合含量が25重量%以上の重合体ブロックである。重合体ブロックBは、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を50重量%以上含有する重合体ブロックであるが、成形体に柔軟性を付与することによって粘接着性を向上させる観点から、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位を更に含む重合体ブロックであってもよい。
【0032】
共役ジエン化合物としては、重合体ブロックAと同様の化合物を使用することができ、好ましい化合物も同様である。また、重合体ブロックBに含まれる共役ジエン化合物は、重合体ブロックAに含まれる共役ジエン化合物と同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0033】
重合体ブロックBにおける共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位は、重合体ブロッ
クB中に50重量%以上含有されるが、70~100重量%含有されることが好ましく、80~100重量%含有されることがより好ましい。
【0034】
重合体ブロックBが芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位を更に含む場合、重合体ブロックBにおける芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位は、50重量%未満含有されることが好ましく、0~30重量%含有されることがより好ましく、0~20重量%含有されることがより好ましい。
【0035】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等を挙げることができる。これらの中でも、スチレンが特に好ましい。
【0036】
なお、重合体ブロックBが、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位とを含む共重合体ブロックである場合、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位の分布は、ランダム、テーパー(分子鎖に沿って共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位が増加又は減少するもの)、一部ブロック状、又はこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。
【0037】
重合体ブロックB中の1,2-ビニル結合含量は、25重量%以上であり、好ましくは30~95重量%であり、より好ましくは30~85重量%であり、特に好ましくは40~80重量%である。重合体ブロックB中の1,2-ビニル結合含量が前記範囲であると、重合体ブロックAによって付与される機械的強度を損なうことなく、得られる成形体の粘接着性を向上させることができる。
【0038】
1.2.3.ブロック構成
ブロック共重合体において、重合体ブロックAと重合体ブロックBの合計量を100重量%とした場合、重合体ブロックAの含有割合は、40~95重量%であり、好ましくは45~90重量%であり、より好ましくは50~85重量%であり、特に好ましくは55~80重量%である。一方、ブロック共重合体において、重合体ブロックAと重合体ブロックBの合計量を100重量%とした場合、重合体ブロックBの含有割合は、60~5重量%であり、好ましくは55~10重量%であり、より好ましくは50~15重量%であり、特に好ましくは45~20重量%である。ブロック共重合体において、重合体ブロックAと重合体ブロックBの含有割合が前記範囲にあると、粘接着性、耐熱性及び耐衝撃性のバランスに優れた成形体を得ることができる。
【0039】
ブロック共重合体の構造は、上記要件を満たすものであれば特に制限されないが、例えば下記構造式(1)~(3)で表される構造が挙げられる。
・構造式(1):(A-B)n1
・構造式(2):(A-B)n2-A
・構造式(3):(B-A)n3-B
【0040】
構造式(1)~(3)中、Aは重合体ブロックAを示し、Bは重合体ブロックBを示し、n1~n3は1以上の整数を示す。ここで、上記構造式(1)~(3)で表されるブロック共重合体中、重合体ブロックA及び重合体ブロックBの少なくともいずれかが2以上存在する場合、それぞれの重合体ブロックは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0041】
また、ブロック共重合体の構造は、例えば、下記構造式(4)~(7)で表される構造
のように、カップリング剤残基を介して共重合体ブロックが延長又は分岐されたものであってもよい。
・構造式(4):(A-B)mX
・構造式(5):(B-A)mX
・構造式(6):(A-B-A)mX
・構造式(7):(B-A-B)mX
【0042】
構造式(4)~(7)中、Aは重合体ブロックAを示し、Bは重合体ブロックBを示し、mは2以上の整数を示し、Xはカップリング剤残基を示す。丸括弧によって囲まれ、かつXを有する構造は、括弧内で最もXに近い位置のブロックがXに直接結合することを示す。例えば、(A-B)mXにおいては、m個の(A-B)が重合体ブロックBによってXに直接結合することを示す。
【0043】
ブロック共重合体の構造は、上記構造式(1)~(7)で表される構造の中でも、構造式(1)、(2)、(3)及び(7)で表される構造が好ましい。
【0044】
ブロック共重合体におけるカップリング率は、成形時の加工性を考慮すると、50~90%であることが好ましい。なお、カップリング剤を介して、分子が連結される割合をカップリング率とする。
【0045】
カップリング剤としては、例えば、1,2-ジブロモエタン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、テトラメトキシシラン、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル、ベンゼン-1,2,4-トリイソシアナート、トリレンジイソシアナート、エポキシ化1,2-ポリブタジエン、エポキシ化アマニ油、テトラクロロゲルマニウム、テトラクロロスズ、ブチルトリクロロスズ、ブチルトリクロロシラン、ジメチルクロロシラン、1,4-クロロメチルベンゼン、ビス(トリクロロシリル)エタンが挙げられる。
【0046】
ブロック共重合体は、例えば特許第3134504号公報、特許第3360411号公報等に記載の方法により製造することができる。
【0047】
1.2.4.水素添加(水添)
ブロック共重合体の水素添加率は、共役ジエン化合物の二重結合残基の90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上である。ブロック共重合体の水素添加率が前記範囲であることにより、架橋性や相互作用を向上させることができるので、成形体の耐熱性及び耐衝撃性を向上させることができる。
【0048】
ブロック共重合体の水素添加方法、反応条件については特に制限はなく、通常は、20~150℃、0.1~10MPaの水素加圧下、水添触媒の存在下で行われる。この場合、水素添加率は、水添触媒の量、水添反応時の水素圧力、又は反応時間等を変えることにより適宜調整することができる。
【0049】
水添触媒としては、例えば、特開平1-275605号公報、特開平5-271326号公報、特開平5-271325号公報、特開平5-222115号公報、特開平11-292924号公報、特開2000-37632号公報、特開昭59-133203号公報、特開昭63-5401号公報、特開昭62-218403号公報、特開平7-90017号公報、特公昭43-19960号公報、特公昭47-40473号公報に記載の水添触媒が挙げられる。なお、上記水添触媒は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0050】
水添後は、必要に応じて触媒の残渣を除去し、又はフェノール系若しくはアミン系の老化防止剤を添加し、その後、水添ジエン系(共)重合体溶液から水添ジエン系(共)重合体を単離する。水添ジエン系(共)重合体の単離は、例えば、水添ジエン系(共)重合体溶液にアセトン又はアルコール等を加えて沈殿させる方法、水添ジエン系(共)重合体溶液を熱湯中に撹拌下投入し、溶媒を蒸留除去する方法等により行うことができる。
【0051】
重合体ブロックAは、1,2-ビニル結合含量が25重量%未満のポリブタジエンブロックであるので、水素添加により、例えば共役ジエン化合物が1,3-ブタジエンである場合、ポリエチレンに類似の構造となり、結晶性のよい重合体ブロックとなる。一方、重合体ブロックBは、1,2-ビニル結合含量が25重量%以上の重合体ブロックであるので、重合体ブロックBは、水素添加により、例えば共役ジエン化合物が1,3-ブタジエンである場合、ゴム状であるエチレン-ブチレン共重合体と類似の構造となり、柔らかい重合体ブロックとなる。そのため、本実施形態に係るエラストマーは、例えば、共役ジエン化合物が1,3-ブタジエンである場合、オレフィン結晶-エチレン/ブチレン-オレフィン結晶ブロックポリマー構造を有する。このような構造を有するエラストマーを用いることで、成形加工する際の流動性に優れるとともに、粘接着性、耐熱性及び耐衝撃性のバランスに優れた成形体を得ることができる。
【0052】
1.2.5.重量平均分子量
ブロック共重合体の重量平均分子量は、10万~60万であり、好ましくは10万~40万であり、より好ましくは10万~30万であり、特に好ましくは10万~25万である。ブロック共重合体の重量平均分子量が前記範囲にあると、成形加工性及び粘接着性に優れた成形体が得られやすい。重量平均分子量が前記範囲未満であると、成形体のベトツキやペレットの互着が発生する場合がある。重量平均分子量が前記範囲を超えると、成形加工性又は粘接着性を十分に高めることができない場合がある。なお、ここでいう「重量平均分子量」とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量のことを指す。
【0053】
1.3.用途
本実施形態に係るエラストマーは上記構成を備えているので、粘接着性、耐熱性及び耐衝撃性等のバランスに優れた成形体を与えることができる。したがって、本実施形態に係るエラストマーの用途は、特に限定されることなく、粘接着性、耐熱性及び耐衝撃性が要求される材料として使用することができる。例えば、上記特許文献1~2に挙げたような用途に加え、特開2018-062560号公報に記載されている用途が挙げられる。
【0054】
2.実施例
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記製造例、実施例及び比較例中の「%」は、特に断りのない限り重量基準である。
【0055】
以下の実施例及び比較例において、各物性値の測定法は以下の通りである。
【0056】
2.1.物性測定方法
(1)1,2-ビニル結合含量
水素添加前の重合体における、500MHz、1H-NMRスペクトルから算出した。
【0057】
(2)重量平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、カラム:東ソー(株)製、GMHHR-H)を用いて、ポリスチレン換算で求めた。
【0058】
(3)水添率
四塩化エチレンを溶媒とし、100MHz、1H-NMRスペクトルから算出した。
【0059】
(4)ヨウ素価
「JIS K 0070:1992」に記載された試験方法に準じて測定した。
【0060】
(5)メルトフローレート(MFR)
「JIS K 7210」に記載された試験方法に準じて、230℃、21.2Nの荷重で測定して求めた。
【0061】
(6)融解熱量及び融点ピーク
示差走査熱量計(DSC)を用いてエラストマーを200℃で10分保持した後、-80℃まで10℃/分の速度で昇温した時の熱流量(融解熱量(J/g))におけるピーク温度を、結晶融解ピーク温度(℃)とした。
【0062】
(7)貯蔵ヤング率E’
動的粘弾性装置(レオメトリックス社製、型番「RSA」)を用いて、定速昇温引張モードにて昇温速度3℃/分、せん断速度6.28ラジアン/秒で動的粘弾性スペクトルを測定した際の、25℃の貯蔵ヤング率である。
【0063】
(8)tanδ
動的粘弾性装置(レオメトリックス社製、型番「RSA」)を用いて、定速昇温引張モードにて昇温速度3℃/分、せん断速度6.28ラジアン/秒で動的粘弾性スペクトルを測定した際のtanδについて、最大値、最大値となる際の温度(ガラス転移温度)、及び、0℃、25℃、50℃の各温度における値を求めた。
【0064】
2.2.エラストマーの合成例
<実施例1>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン53部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.14部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン47部、及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、ジクロロメチルシラン0.09部を加えて、さらに昇温重合を行った。上記ブロック共重合体は、1,3-ブタジエンに由来する構成単位を含み、1,2-ビニル結合含量が12重量%の重合体ブロックAと、1,3-ブタジエンに由来する構成単位を含み、1.2-ビニル結合含量が76重量%の重合体ブロックBとを有するブロック共重合体であった。また、上記ブロック共重合体において、重量平均分子量は17.8万であった。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出し、水中に攪拌投入して溶媒を水蒸気蒸留で除去することによって、実施例1のエラストマーを得た。得られたエラストマーの各種物性値等を下表1に示す。
【0065】
<実施例2>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン53部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.18部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン47部、及びテトラヒドロフラン
16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、テトラクロロシラン0.09部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出し、水中に攪拌投入して溶媒を水蒸気蒸留で除去することによって、実施例2のエラストマーを得た。得られたエラストマーの各種物性値等を下表1に示す。
【0066】
<実施例3>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン53部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.18部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、スチレン20部、1,3-ブタジエン27部、及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、テトラクロロシラン0.09部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出すことによって、実施例3のエラストマーを得た。得られたエラストマーの各種物性値等を下表1に示す。
【0067】
<実施例4>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン80部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.18部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン20部、及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、テトラクロロシラン0.09部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出すことによって、実施例4のエラストマーを得た。得られたエラストマーの各種物性値等を下表1に示す。
【0068】
<実施例5>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン53部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.23部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン47部、及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、テトラクロロシラン0.11部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出すことによって、実施例5のエラストマーを得た。得られたエラストマーの各種物性値等を下表1に示す。
【0069】
<実施例6>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタ
ジエン53部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.23部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン47部、及びテトラヒドロフラン1.6部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、テトラクロロシラン0.11部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出すことによって、実施例6のエラストマーを得た。得られたエラストマーの各種物性値等を下表1に示す。
【0070】
<実施例7>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン53部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.23部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン47部、及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、テトラクロロシラン0.11部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、1.5時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出すことによって、実施例7のエラストマーを得た。得られたエラストマーの各種物性値等を下表1に示す。
【0071】
<比較例1>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン30部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.09部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン70部、及びテトラヒドロフラン1.6部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、ジクロロメチルシラン0.07部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出すことによって、比較例1のエラストマーを得た。得られたエラストマーの各種物性値等を下表2に示す。
【0072】
<比較例2>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン30部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.10部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン70部、及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、ジクロロメチルシラン0.07部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出すことによって、比較例2のエラストマーを得た。得られたエラストマーの各種物性値等を下表2に示す。
【0073】
<比較例3>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン30部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.11部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン70部、及びテトラヒドロフラン1.6部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、テトラクロロシラン0.06部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出すことによって、比較例3のエラストマーを得た。得られたエラストマーの各種物性値等を下表2に示す。
【0074】
<比較例4>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン35部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.11部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン45部、及びテトラヒドロフラン1.6部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、スチレン20部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出すことによって、比較例4のエラストマーを得た。得られたエラストマーの各種物性値等を下表2に示す。
【0075】
<比較例5>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン35部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度70℃にてn-ブチルリチウム0.18部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、反応液を24℃に冷却し、1,3-ブタジエン65部、及びテトラヒドロフラン16部を加えて、さらに昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、テトラクロロシラン0.09部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、1.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出すことによって、比較例5のエラストマーを得た。得られたエラストマーの各種物性値等を下表2に示す。
【0076】
<比較例6>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン100部、及びテトラヒドロフラン0.8部を仕込み、重合開始温度45℃にてn-ブチルリチウム0.19部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、テトラクロロシラン0.09部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出すことによって、比較例6のエラストマーを得た。得られたエラストマーの各種物性値等を下表2に示す。
【0077】
<比較例7>
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン100部、及びテトラヒドロフラン0.03部を仕込み、重合開始温度60℃にてn-ブチルリチウム0.19部を加えて、昇温重合を行った。重合転化率が99%以上に達した後、テトラクロロシラン0.09部を加えて、さらに昇温重合を行った。その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.04部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.08部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa-Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、3.0時間後に反応溶液を60℃常圧とし、反応容器より抜き出すことによって、比較例7のエラストマーを得た。得られたエラストマーの各種物性値等を下表2に示す。
【0078】
2.3.評価試験
<粘着フィルムの製造>
基材層としてポリエチレン(三菱化学(株)製、商品名「YF30」)、粘着層として上記で作製したエラストマー(ペレット)を使用し、フィードブロックタイプのTダイを備えた二層共押出装置により、基材層の厚みが100μm、粘着層の厚みが10μmとなるように、シリンダー温度190℃、ダイス温度190℃の成形条件にて基材層と粘着層とを共押出し成形して、粘着フィルムを製造した。得られたフィルムの粘着剤層側から、NHVコーポレーション社製の電子線照射装置(EBC300-60)を用い、加速電圧を300keV、照射雰囲気を窒素下にて、100kGyの電子線を照射し、粘着フィルムを製造した。
【0079】
(1)粘接着性評価
<初期粘着力の評価>
被着体としてPMMA板を使用し、室温(23℃)にて2kgローラーで25mm幅に切出した粘着フィルムを被着体に圧着した。その後、23℃で2時間静置し、23℃、60%RH環境下においてストログラフ((株)東洋精機製作所製、型番「VES05D」)を用いて300mm/分の速度で180°引き剥がしを行い、初期粘着力を測定した。初期粘着力を用いて、以下の指標に従い粘接着性を評価した。
・「A」:初期粘着力が2.0N/25mmを超え、非常に良好であると判断できる。
・「B」:初期粘着力が0.5N/25mmを超え、2.0N/25mm以下であり、良好であると判断できる。
・「C」:初期粘着力が0.5N/25mm以下であり、不良であると判断できる。
【0080】
(2)耐熱性評価
<粘着昂進の評価>
被着材としてPMMA板を使用し、室温(23℃)にて2kgローラーで25mm幅に切出した粘着フィルムを被着体に圧着した。その後、70℃、20時間静置し、23℃、60%RH環境下においてストログラフ(東洋精機製作所社製、型番「VES05D」)を用いて300mm/分の速度で180°引き剥がしを行い、昂進粘着力を測定した。初期粘着力と昂進粘着力の値を用いて、以下の式より昂進倍率を算出した。
・昂進倍率=昂進粘着力/初期粘着力
得られた昂進倍率から、以下の指標に従い耐熱性を評価した。
・「A」:昂進倍率が120%以下であり、非常に良好であると判断できる。
・「B」:昂進倍率が120%を超え、150%以下であり、良好であると判断できる。・「C」:昂進倍率が150%を超え、不良であると判断できる。
【0081】
(3)耐衝撃性評価
<型抜き耐性の評価>
被着材としてPMMA板を使用し、室温(23℃)にて2kgローラーで25mm幅に
切出した粘着フィルムを被着体に圧着した。その後、トムソン型打ち抜きカッターにて型抜きを行い、23℃、20時間静置した。粘着フィルムとPMMA板の接触面積について、静置前に接触させておいた面積をS1、静置後の面積をS2として、以下の式から接触面積保持率を求めた。
・接触面積保持率=S2/S1
接触面積保持率を用いて、以下の指標に従い耐衝撃性を評価した。
・「A」:接触面積保持率が95%を超え、非常に良好であると判断できる。
・「B」:接触面積保持率が80%を超え、95%以下であり、良好であると判断できる。
・「C」:接触面積保持率が80%以下であり、不良であると判断できる。
【0082】
(4)低分子成分評価
上記で得られた粘着フィルムの粘着層を一部採取して重量(W0)を測定した後、熱キシレンに溶かしてゾル分をろ過により除去し、ゲル分を得た。得られたゲル分の重量(W1)を測定して、W1/W0の比率から、ゲル分率(重量%)を求めた。このゲル分率を用いて、以下の指標に従い低分子成分を評価した。
・「A」:ゲル分率が80%を超え、非常に良好であると判断できる。
・「B」:ゲル分率が60%を超え、80%以下であり、良好であると判断できる。
・「C」:ゲル分率が60%以下であり、不良であると判断できる。
【0083】
2.4.評価結果
下表1及び下表2に、各実施例及び比較例のエラストマーの特性及び評価結果を示す。
【0084】
【0085】
【0086】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。