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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】タービン静翼、及びタービン
(51)【国際特許分類】
   F01D 9/02 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
F01D9/02 101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019059262
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020159275
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】木村 泰徳
(72)【発明者】
【氏名】檜山 貴志
(72)【発明者】
【氏名】黒柳 篤史
(72)【発明者】
【氏名】清水 邦弘
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-515983(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0141863(US,A1)
【文献】特開2006-207556(JP,A)
【文献】特表2014-508895(JP,A)
【文献】特開2002-213206(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2133573(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0202444(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って流れる流体の流路中に設けられるタービン静翼であって、
前記軸線の径方向に延びるとともに、径方向から見て高圧側となる腹面、及び低圧側となる背面が形成された翼型の断面を有する翼本体を有し、
該翼本体は、
最も径方向外側に位置するチップ側部と、
該チップ側部の径方向内側に設けられた中央部と、
該中央部のさらに径方向内側に設けられたハブ側部と、
を有し、
前記チップ側部、及び前記ハブ側部の少なくとも一方では、前記中央部における前記翼型である基準翼型に対して、上流側の端縁である前縁が前記基準翼型の翼弦に直交する方向における腹面側に位置し、下流側の端縁である後縁が前記翼弦に直交する方向における背面側に位置するように捻れており、
前記チップ側部、及び前記ハブ側部の少なくとも一方における後縁では、前縁に比べて前記基準翼型に対する捻れ量が小さく、かつ後縁の捻じれ量がゼロよりも大きい
タービン静翼。
【請求項2】
前記軸線に対する周方向から見て、前記中央部では前縁が径方向に延びる直線状をなしている請求項1に記載のタービン静翼。
【請求項3】
前記軸線方向から見て、前記チップ側部では、径方向外側に向かうに従って前縁が前記腹面側に向かって傾斜して延びている請求項1又は2に記載のタービン静翼。
【請求項4】
前記軸線方向から見て、前記ハブ側部では、径方向内側に向かうに従って前縁が前記腹面側に向かって傾斜して延びている請求項1からのいずれか一項に記載のタービン静翼。
【請求項5】
前記軸線方向から見て、前記チップ側部では、径方向外側に向かうに従って後縁が前記背面側に向かって傾斜して延びている請求項1からのいずれか一項に記載のタービン静翼。
【請求項6】
前記軸線方向から見て、前記ハブ側部では、径方向内側に向かうに従って後縁が前記背面側に向かって傾斜して延びている請求項1からのいずれか一項に記載のタービン静翼。
【請求項7】
前記軸線に対する周方向から見て、前記チップ側部では、径方向外側に向かうに従って前縁が上流側に向かって延びている請求項1からのいずれか一項に記載のタービン静翼。
【請求項8】
前記軸線に対する周方向から見て、前記ハブ側部では、径方向内側に向かうに従って前縁が上流側に向かって延びている請求項1からのいずれか一項に記載のタービン静翼。
【請求項9】
前記軸線に対する周方向から見て、前記チップ側部では、径方向外側に向かうに従って後縁が下流側に向かって延びている請求項1からのいずれか一項に記載のタービン静翼。
【請求項10】
前記軸線に対する周方向から見て、前記ハブ側部では、径方向内側に向かうに従って後縁が下流側に向かって延びている請求項1からのいずれか一項に記載のタービン静翼。
【請求項11】
軸線に沿って延びる回転軸と、
該回転軸上で軸線方向に間隔をあけて配列された複数のタービン動翼段と、
軸線方向において前記タービン動翼段と交互に配置された請求項1から10のいずれか一項に記載の複数のタービン静翼を有する複数のタービン静翼段と、
を備えるタービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン静翼、及びタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンは、圧縮機と、燃焼器と、タービンと、を備えている。圧縮機は外部の空気を圧縮して高圧空気を生成する。燃焼器は、この高圧空気に燃料を混合して燃焼させることで高温高圧の燃焼ガスを生成する。タービンは、この燃焼ガスによって回転駆動される。タービンの回転力は軸端から取り出されて種々の利用に供される。
【0003】
タービンは、軸線回りに回転する回転軸と、この回転軸上に軸線方向に沿って配列されたタービン動翼段と、回転軸及びタービン動翼段を外側から覆うケーシングと、ケーシングの内周面に設けられ、上記のタービン動翼段と軸線方向に交互に配列されたタービン静翼段と、を有している。
【0004】
タービン静翼段は、軸線に対する周方向に配列された複数のタービン静翼を有する。各タービン静翼は、軸線に対する径方向に延びている。軸線方向一方側から流れてきた流体(燃焼ガス)は、これらタービン静翼に衝突することで流れの向きが変わり、後続のタービン動翼段に導かれる。ここで、タービン静翼では、径方向における延在長さのうち、チップ側(径方向外側)の部分と、ハブ側(径方向内側)の部分とでは、これらチップ側及びハブ側を除く中央部に比べて、二次流れと呼ばれる流れ成分が生じやすいことが知られている。二次流れとは、タービン静翼の前縁から後縁に向かって旋回しながら進む流れである。二次流れが卓越すると、タービン静翼に沿って流れる主流のエネルギー損失が大きくなってしまう。その結果、タービンの効率が低下する可能性がある。
【0005】
そこで、例えば下記特許文献1に記載された構成が提唱されている。特許文献1に記載されたタービン静翼(ノズル翼)では、翼の後縁を周方向に湾曲させることで、翼高さ方向における中央部でスロートピッチ比を拡大している。これにより、中央部に流れが集中し、二次流れが抑制されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4724034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたタービン静翼では、流速が相対的に大きい後縁を湾曲させていることから、流体とタービン静翼との間の摩擦損失が増大してしまう。その結果、二次流れの抑制効果が摩擦損失によって相殺され、タービンの効率向上が限定的となる可能性がある。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、二次流れを抑制することで効率がさらに向上したタービン静翼及びタービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るタービン翼は、軸線に沿って流れる流体の流路中に設けられるタービン静翼であって、前記軸線の径方向に延びるとともに、径方向から見て高圧側となる腹面、及び低圧側となる背面が形成された翼型の断面を有する翼本体を有し、該翼本体は、最も径方向外側に位置するチップ側部と、該チップ側部の径方向内側に設けられた中央部と、該中央部のさらに径方向内側に設けられたハブ側部と、を有し、前記チップ側部、及び前記ハブ側部の少なくとも一方では、前記中央部における前記翼型である基準翼型に対して、上流側の端縁である前縁が前記基準翼型の翼弦に直交する方向における腹面側に位置し、下流側の端縁である後縁が前記翼弦に直交する方向における背面側に位置するように捻れており、前記チップ側部、及び前記ハブ側部の少なくとも一方における後縁では、前縁に比べて前記基準翼型に対する捻れ量が小さく、かつ後縁の捻じれ量がゼロよりも大きい
【0010】
上記構成によれば、チップ側部、及び前記ハブ側部の少なくとも一方では、中央部における翼型である基準翼型に対して、前縁が基準翼型の翼弦に直交する方向における腹面側に位置し、後縁が翼弦に直交する方向における背面側に位置するように捻れている。これにより、チップ側部、及びハブ側部では、軸線方向における全域のうち、圧力(静圧)が最も低くなる部分が、後縁側から前縁側にずれる。その結果、前縁から後縁に向かうに従って中央部からチップ側部又はハブ側部に向かう圧力勾配が形成される。この圧力勾配によって、二次流れをチップ側部又はハブ側部に押さえ付けることできる。即ち、二次流れの成長による損失を低減することができる。
さらに、上記構成によれば、前縁に比べて後縁の捻れ量を小さくすることで、後縁側の濡れ面積を小さくすることができる。濡れ面積を小さくすることで、後縁を通過する流体の摩擦損失を抑制することができる。ここで、後縁側では流速が高いため、濡れ面積が増大した場合に摩擦損失が生じやすい。しかしながら、上記の構成によれば、濡れ面積が抑えられていることから、このような摩擦損失を効果的に小さくすることができる。
【0013】
上記タービン静翼では、前記軸線に対する周方向から見て、前記中央部では前縁が径方向に延びる直線状をなしていてもよい。
【0014】
上記構成によれば、タービン静翼の中央部では、前縁が径方向に延びる直線状をなしている。これにより、例えば前縁の全体が直線状ではなく曲線状である場合に比べて、濡れ面積の増加を抑えることができる。その結果、摩擦損失の増大を抑えることができる。
【0015】
上記タービン静翼では、前記軸線方向から見て、前記チップ側部では、径方向外側に向かうに従って前縁が前記腹面側に向かって傾斜して延びていてもよい。
【0016】
上記構成によれば、チップ側部では、径方向外側に向かうに従って前縁が腹面側に向かって傾斜している。これにより、チップ側部では、軸線方向における全域のうち、圧力(静圧)が最も低くなる部分が、後縁側(下流側)から前縁側にずれる。その結果、前縁から当該最も静圧が小さくなる位置に向かうに従って中央部からチップ側部に向かう圧力勾配が形成される。この圧力勾配によって、二次流れをチップ側部に押さえ付けることできる。即ち、二次流れの成長による損失を低減することができる。
【0017】
上記タービン静翼では、前記軸線方向から見て、前記ハブ側部では、径方向内側に向かうに従って前縁が前記腹面側に向かって傾斜して延びていてもよい。
【0018】
上記構成によれば、ハブ側部では、径方向内側に向かうに従って前縁が腹面側に向かって傾斜している。これにより、ハブ側部では、軸線方向における全域のうち、圧力(静圧)が最も低くなる部分が、後縁側(下流側)から前縁側(上流側)にずれる。その結果、前縁から当該最も静圧が小さくなる位置に向かうに従って中央部からハブ側部に向かう圧力勾配が形成される。この圧力勾配によって、二次流れをハブ側部に押さえ付けることできる。即ち、二次流れの成長による損失を低減することができる。
【0019】
上記タービン静翼では、前記軸線方向から見て、前記チップ側部では、径方向外側に向かうに従って後縁が前記背面側に向かって傾斜して延びていてもよい。
【0020】
上記構成によれば、チップ側部では、径方向外側に向かうに従って後縁が背面側に向かって傾斜している。これにより、チップ側部では、軸線方向における全域のうち、圧力(静圧)が最も低くなる部分が、後縁側から前縁側(上流側)にずれる。その結果、前縁から当該最も静圧が小さくなる位置に向かうに従って中央部からチップ側部に向かう圧力勾配が形成される。この圧力勾配によって、二次流れをチップ側部に押さえ付けることできる。即ち、二次流れの成長による損失を低減することができる。
【0021】
上記タービン静翼では、前記軸線方向から見て、前記ハブ側部では、径方向内側に向かうに従って後縁が前記背面側に向かって傾斜して延びていてもよい。
【0022】
上記構成によれば、ハブ側部では、径方向外側に向かうに従って後縁が背面側に向かって傾斜している。これにより、ハブ側部では、軸線方向における全域のうち、圧力(静圧)が最も低くなる部分が、後縁側から前縁側(上流側)にずれる。その結果、前縁から当該最も静圧が小さくなる位置に向かうに従って中央部からハブ側部に向かう圧力勾配が形成される。この圧力勾配によって、二次流れをハブ側部に押さえ付けることできる。即ち、二次流れの成長による損失を低減することができる。
【0023】
上記タービン静翼では、前記軸線に対する周方向から見て、前記チップ側部では、径方向外側に向かうに従って前縁が上流側に向かって延びていてもよい。
【0024】
上記タービン静翼では、前記軸線に対する周方向から見て、前記ハブ側部では、径方向内側に向かうに従って前縁が上流側に向かって延びていてもよい。
【0025】
上記タービン静翼では、前記軸線に対する周方向から見て、前記チップ側部では、径方向外側に向かうに従って後縁が下流側に向かって延びていてもよい。
【0026】
上記タービン静翼では、前記軸線に対する周方向から見て、前記ハブ側部では、径方向内側に向かうに従って後縁が下流側に向かって延びていてもよい。
【0027】
本発明の一態様に係るタービンは、軸線に沿って延びる回転軸と、該回転軸上で軸線方向に間隔をあけて配列された複数のタービン動翼段と、軸線方向において前記タービン動翼段と交互に配置された上記いずれか一の態様に係る複数のタービン静翼を有する複数のタービン静翼段と、を備える。
【0028】
上記構成によれば、タービン静翼における二次流れの形成が抑制されることで、より効率的に運用することが可能なタービンを提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、二次流れを抑制することで効率がさらに向上したタービン静翼及びタービンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態に係るタービンの構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るタービン静翼を軸線に対する周方向から見た図である。
図3】本発明の実施形態に係るタービン静翼を軸線に対する径方向から見た図である。
図4】本発明の実施形態に係るタービン静翼の構成を示す斜視図である。
図5】本発明の実施形態に係るタービン静翼の背面側における圧力分布(等圧線)を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係るタービン静翼の翼弦方向における静圧分布を示すグラフである。
図7】本発明の実施形態の変形例に係るタービン静翼を軸線に対する周方向から見た図である。
図8】本発明の実施形態に係るタービン静翼のさらなる変形例を示す図であって、タービン静翼を軸線に対する周方向から見た図である。
図9】本発明の実施形態の変形例に係るタービン静翼の構成を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の第一実施形態について、図1から図6を参照して説明する。本実施形態に係るタービン100は、ヘリコプターに搭載されるターボシャフトエンジンに好適に用いられる。詳しくは図示しないが、ターボシャフトエンジンは、外部の空気を圧縮して高圧空気を生成する圧縮機と、高圧空気に燃料を混合して燃焼させることで高温高圧の燃焼ガスを生成する燃焼器と、燃焼ガスによって回転駆動されるタービン100と、圧縮機及びタービン100を同軸に接続するロータと、を備えている。ロータの回転力は変速装置等を介して外部に取り出され、ヘリコプターの場合にはメインローター・テールローターの回転に用いられる。
【0032】
次に、タービン100の構成について説明する。図1に示すように、タービン100は、回転軸1と、タービン動翼段2と、タービン静翼段3と、を有している。回転軸1は、軸線Acに沿って延びる円柱状をなしている。タービン動翼段2は、回転軸1の外周面上で軸線Ac方向に間隔をあけて複数(2つ)設けられている。各タービン動翼段2は、軸線Acに対する周方向に配列された複数のタービン動翼20を有している。タービン動翼20は、翼型断面を有する動翼本体21と、この動翼本体21の径方向内側に設けられたプラットフォーム22と、を有している。さらに、動翼本体21の径方向外側の端部には、分割環4が対向している。
【0033】
タービン静翼段3は、軸線Ac方向において上記のタービン動翼段2と交互に配置されている。具体的には、各タービン静翼段3は、各タービン動翼段2の下流側に配置されている。タービン静翼段3は、軸線Acに対する周方向に配列された複数のタービン静翼30を有している。各タービン静翼30は、翼型断面を有する静翼本体31(翼本体)と、静翼本体31の径方向外側の端部に設けられたチップシュラウド32と、径方向内側の端部に設けられたハブシュラウド33と、を有している。詳しくは図示しないが、チップシュラウド32はケーシングの内周面に対して固定されている。
【0034】
上記のタービン100の上流側には、燃焼器の尾筒5が接続されている。尾筒5を流れてきた燃焼ガスは、タービン静翼段3を通過する際に整流され、タービン動翼段2に衝突する。これにより、回転軸1に回転力が与えられる。
【0035】
次いで、図2から図4を参照して、タービン静翼30の構成について説明する。図2は、タービン静翼30を軸線O方向から見た図である。図2に示すように、タービン静翼30は、径方向外側から内側に向かって、上記のチップシュラウド32と、静翼本体31と、ハブシュラウド33と、を有している。静翼本体31は、径方向外側から内側に向かって、チップ側部31Aと、中央部31Bと、ハブ側部31Cと、を有している。チップ側部31Aの径方向外側の端部はチップシュラウド32に接続されている。チップ側の径方向内側のシュラウドは中央部31Bの径方向外側の端部に一体に接続されている。ハブ側部31Cの径方向外側の端部は中央部31Bの径方向内側の端部に一体に接続されている。ハブ側部31Cの径方向内側の端部はハブシュラウド33に接続されている。
【0036】
図3に示すように、チップ側部31A、中央部31B、及びハブ側部31Cは、いずれも翼型の断面形状を有している。より具体的には、この翼型は、径方向から見て高圧側となる腹面S1と、低圧側となる背面S2と、を有している。腹面S1は下流側に向かって凹んでいる。背面S2は、下流側に向かって膨らんでいる。腹面S1及び背面S2の接続部のうち、上流側を臨む端縁は前縁6とされ、下流側を望む端縁は後縁7とされている。前縁6を含む端部は腹面S1側から背面S2側にかけて滑らかな曲面状をなしている。後縁7を含む端部では、腹面S1と背面S2とが鋭角をなして交差している。
【0037】
図3中において実線はチップ側部31A、及びハブ側部31Cの翼型断面を示し、鎖線は中央部31Bの翼型断面を示している。ここで、中央部31Bの翼型を基準翼型Wcと呼ぶ。さらに、基準翼型Wcの前縁6cと後縁7cとを結ぶ直線を基準翼弦線Chと呼び、この基準翼弦線Chに直交する方向を直交方向Dcと呼ぶ。この場合、図3に示すように、チップ側部31A、及びハブ側部31Cでは、前縁6dが基準翼型Wcに対して、直交方向Dcにおける腹面S1側に位置している。一方で、後縁7dは基準翼型Wcに対して、直交方向Dcにおける背面S2側に位置している。つまり、チップ側部31A、及びハブ側部31Cの翼型は、基準翼型Wcに対して、径方向外側から見て、反時計回りに捻れている。さらに、チップ側部31A、及びハブ側部31Cでは、基準翼型Wcに対する捻れ量が前縁6d側で相対的に大きく、後縁7d側で相対的に小さくなっている。なお、チップ側部31A、及びハブ側部31Cにおける捻れ量は互いに同等である。なお、ハブ側部31Cでは、静翼本体31の径方向高さ5%~30%程度以下の領域で上記前縁6d、及び後縁7cに捻れが形成されていることが望ましく、チップ側部31Aでは径方向高さの70~95%程度以上の領域で捻れが形成されていることが望ましい。
【0038】
これにより、軸線O方向から見た場合、図2に示すように、チップ側部31A及びハブ側部31Cでは、前縁6dと後縁7dとが下流側に向かって斜めに延びている。具体的には、チップ側部31Aでは、径方向内側から外側に向かうに従って前縁6dと後縁7dとが下流側に向かって傾斜している。ハブ側部31Cでは、径方向外側から内側に向かうに従って前縁6dと後縁7dとが下流側に向かって傾斜している。一方で、中央部31Bの前縁6cと後縁7cとは、径方向に直線状に延びている。このような構成を有することにより、斜めの方向から当該タービン静翼30を見た場合、図4に示すような形状を呈している。
【0039】
なお、タービン静翼を腹面側(周方向の腹面側)から見た場合(図3の下側から見た場合)、チップ側部31Aでは、径方向外側に向かうに従って前縁6dが上流側に向かって延びている。さらに、ハブ側部31Cでは、径方向内側に向かうに従って前縁6dが上流側に向かって延びている。また、チップ側部31Aでは、径方向外側に向かうに従って後縁7dが下流側に向かって延びている。さらに、ハブ側部31Cでは、径方向内側に向かうに従って後縁7dが下流側に向かって延びている。
【0040】
続いて、図5図6を参照して、本実施形態に係るタービン静翼30の挙動について説明する。図5は、タービン静翼30の背面S2における流体の静圧分布(等圧線)を示し、図示左方を前縁6側とし、右方を後縁7側としている。また、図示上方はチップ側部31Aであり、下方はハブ側部31Cである。同図に示すように、背面S2上では、前縁6側から後縁7側に向かって静圧が次第に低くなるように圧力勾配が形成される(図5中の鎖線矢印)。さらに、チップ側部31Aの近傍、及びハブ側部31Cの近傍では、等圧線の間隔が狭くなるとともに、等圧線の端部が中央部31Bに比べて前縁6側に位置している。即ち、図6に示すように、翼弦線方向において、チップ側部31A及びハブ側部31Cで最も静圧が小さくなる位置P1は、中央部31Bで最も静圧が小さくなる位置P2よりも前縁6側に位置することとなる。
【0041】
ここで、タービン静翼30では、径方向における延在長さのうち、チップ側部31A、及びハブ側部31Cとでは、中央部31Bに比べて、二次流れと呼ばれる流れ成分が生じやすいことが知られている。二次流れとは、タービン静翼30の前縁6から後縁7に向かって旋回しながら進む流れである。二次流れが卓越すると、タービン静翼30に沿って流れる主流のエネルギー損失が大きくなってしまう。その結果、タービン100の効率が低下する可能性がある。
【0042】
しかしながら、上記構成によれば、チップ側部31A、及び前記ハブ側部31Cの少なくとも一方では、中央部31Bにおける翼型である基準翼型Wcに対して、前縁6dが基準翼型Wcの翼弦に直交する方向における腹面S1側に位置し、後縁7dが翼弦に直交する方向における背面S2側に位置するように捻れている。これにより、チップ側部31A、及びハブ側部31Cでは、軸線Ac方向における全域のうち、圧力(静圧)が最も低くなる部分が、後縁7d側から前縁6d側にずれる。その結果、前縁6dから最も圧力(静圧)が小さくなる位置P1に向かうに従って中央部31Bからチップ側部31A又はハブ側部31Cに向かう圧力勾配が形成される。この圧力勾配によって、二次流れをチップ側部31A又はハブ側部31Cに押さえ付けることできる。即ち、二次流れの成長による損失を低減することができる。その結果、タービン100の効率を向上させることができる。
【0043】
さらに、上記構成によれば、チップ側部31A、及びハブ側部31Bにおいて、前縁6dに比べて後縁7dの捻れ量を小さくすることで、後縁7d側の濡れ面積を小さくすることができる。濡れ面積を小さくすることで、後縁7dを通過する流体の摩擦損失を抑制することができる。ここで、後縁7d側では前縁6d側に比べて流速が高いため、濡れ面積が増大した場合に摩擦損失が生じやすい。しかしながら、上記の構成によれば、濡れ面積が抑えられていることから、このような摩擦損失を効果的に小さくすることができる。
【0044】
加えて、上記構成によれば、タービン静翼30の中央部31Bでは、前縁6cが径方向に延びる直線状をなしている。これにより、例えば前縁6の全体が直線状ではなく曲線状である場合に比べて、濡れ面積の増加を抑えることができる。その結果、摩擦損失の増大を抑えることができる。
【0045】
さらに加えて、上記構成によれば、チップ側部31Aでは、径方向外側に向かうに従って前縁6dが腹面S1側に向かって傾斜するとともに、後縁7dが背面S2側に向かって傾斜している。これにより、チップ側部31Aでは、軸線Ac方向における全域のうち、圧力(静圧)が最も低くなる部分が、後縁7d側から前縁6d側にずれる。その結果、前縁6dから、最も静圧が小さくなる位置P1に向かうに従って中央部31Bからチップ側部31Aに向かう圧力勾配が形成される。この圧力勾配によって、二次流れをチップ側部31Aに押さえ付けることできる。即ち、二次流れの成長による損失を低減することができる。
【0046】
さらに、上記構成によれば、ハブ側部31Cでは、径方向内側に向かうに従って前縁6dが腹面S1側に向かって傾斜するとともに、後縁7dが背面S2側に向かって傾斜している。これにより、ハブ側部31Cでは、軸線Ac方向における全域のうち、圧力(静圧)が最も低くなる部分が、前縁6d側にずれる。その結果、前縁6dから、最も静圧が小さくなる位置P1に向かうに従って中央部31Bからハブ側部31Cに向かう圧力勾配が形成される。この圧力勾配によって、二次流れをハブ側部31Cに押さえ付けることできる。即ち、二次流れの成長による損失を低減することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記実施形態では、チップ側部31A、及びハブ側部31Cの両方で、基準翼型Wcに対して捻れを形成した例について説明した。しかしながら、図7又は図8に示すように、チップ側部31A、及びハブ側部31Cのうち、いずれか一方のみに捻れを形成した構成を採ることも可能である。この場合、図9に示すように、タービン静翼30の内部に冷却流路を形成するためのインサート部材90を備える構成を採る際に、捻れが形成されていない方の端部から当該インサート部材90を容易に挿入することができる。
【0048】
さらに、上記実施形態では、ヘリコプターに搭載されるターボシャフトエンジンにタービン静翼30を適用した例について説明した。しかしながら、タービン静翼30の適用対象はターボシャフトエンジンに限定されない。他の適用例として、構造の簡素化やコスト低減のために翼列の段数削減、高負荷・低アスペクト比翼が要求されるエンジンであれば、いかなるものにも上記のタービン静翼30を適用することが可能である。より具体的には、垂直離着陸機、飛昇体、ドローン等の航空機用エンジンに上記のタービン静翼30を好適に用いることが可能である。なお、上述のアスペクト比とは,翼のコード長に対する翼高さの比のことを指す。コード長とは,前縁6と後縁7を結ぶ線分の長さである。例えば、このアスペクト比が1以下の場合、低アスペクト比であると言える。
【符号の説明】
【0049】
100…タービン
1…回転軸
2…タービン動翼段
3…タービン静翼段
4…分割環
5…尾筒
6,6c,6d…前縁
7,7c,7d…後縁
20…タービン動翼
21…動翼本体
22…プラットフォーム
30…タービン静翼
31…静翼本体
32…チップシュラウド
33…ハブシュラウド
31A…チップ側部
31B…中央部
31C…ハブ側部
Ac…軸線
Ch…基準翼弦線
Dc…直交方向
S1…腹面
S2…背面
Wc…基準翼型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9