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特許7264697プラント運転支援システム及びプラント運転支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】プラント運転支援システム及びプラント運転支援方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20230418BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20230418BHJP
【FI】
G05B23/02 G
C02F1/00 T
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019070434
(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公開番号】P2020170285
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2020-10-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】町田 祐太
(72)【発明者】
【氏名】柏 良輔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 宏紹
(72)【発明者】
【氏名】星野 知也
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】鈴木 貴雄
【審判官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-59743(JP,A)
【文献】特開2016-115289(JP,A)
【文献】特開2012-226731(JP,A)
【文献】特開平7-133899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00 - 23/02
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの運転を支援するプラント運転支援システムであって、
前記プラントに入力される要素の変動の予測に用いるデータの範囲を規定する第1時間を設定し、前記プラントから得られたデータのうち、現時点から前記第1時間だけ遡った第1時点までのデータに対して予め規定された統計処理を行って、現時点から第2時間だけ先の第2時点までの前記要素の変動を予測する変動予測装置と、
前記変動予測装置で予測された前記要素の変動と、現時点で前記プラントから得られるデータとを用いて、現時点から前記第2時点までの間に設定された所定期間における前記プラントの挙動を模擬する模擬装置と、
を備え、
前記変動予測装置は、現時点で予測された、現時点から前記第2時点までの間の第3時点における前記要素の変動の予測結果と前記第3時点における前記要素の実測値との差が予め規定された判定閾値を超える場合には、前記要素の変動の予測に用いるデータに閾値以上の実測値の変動が含まれないように前記第1時間を変更して、前記要素の変動を予測しなおす、
プラント運転支援システム。
【請求項2】
前記変動予測装置は、前記第1時間と、前記第2時間とを個別に設定可能である、請求項1記載のプラント運転支援システム。
【請求項3】
前記変動予測装置は、前記第2時間で規定される時間範囲と、前記模擬装置が前記プラントの挙動を模擬する時間範囲とが異なる場合には、前記第2時間で規定される時間範囲を前記模擬装置が前記プラントの挙動を模擬する時間範囲に合わせて前記要素の変動を予測する、請求項2記載のプラント運転支援システム。
【請求項4】
プラントの運転を支援するプラント運転支援方法であって、
変動予測装置が、前記プラントに入力される要素の変動の予測に用いるデータの範囲を規定する第1時間を設定し、前記プラントから得られたデータのうち、現時点から前記第1時間だけ遡った第1時点までのデータに対して予め規定された統計処理を行って、現時点から第2時間だけ先の第2時点までの前記要素の変動を予測する第1ステップと、
模擬装置が、前記第1ステップで予測された前記要素の変動と、現時点で前記プラントから得られるデータとを用いて、現時点から前記第2時点までの間に設定された所定期間における前記プラントの挙動を模擬する第2ステップと、
を有し、
前記第1ステップは、現時点で予測された、現時点から前記第2時点までの間の第3時点における前記要素の変動の予測結果と前記第3時点における前記要素の実測値との差が予め規定された判定閾値を超える場合には、前記要素の変動の予測に用いるデータに閾値以上の実測値の変動が含まれないように前記第1時間を変更して、前記要素の変動を予測しなおすことを含む、
プラント運転支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント運転支援システム及びプラント運転支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製等の化学プラント、水処理プラント、その他のプラントでは、プラントの運転を支援するためのプラント運転支援装置が用いられることがある。このようなプラント運転支援装置の一つに、過去に得られた各種データを用いて現時点から未来のある時点までの間におけるプラントの状態(例えば、外乱や水質)を予測するものがある。以下の特許文献1~4には、このような従来のプラント運転支援装置が開示されている。
【0003】
また、他のプラント運転支援装置として、実プラントに接続されて、実プラントを模擬しながらオンラインで運転支援を行うものも提案されている。このプラント運転支援装置は、実プラントから得られた実データに基づいてシミュレーションモデルを随時修正しながら、実プラントの動作と並行してシミュレーションを行うものである。このようなプラント運転支援装置は、所謂トラッキング・シミュレータと呼ばれるものであり、例えば以下の特許文献5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-373002号公報
【文献】特開2001-214470号公報
【文献】特開平7-112103号公報
【文献】特開2002-126721号公報
【文献】特開2005-332360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献1~5に開示されたプラント運転支援装置は、プラントに流入する原料の条件(温度、圧力、組成等)が一定であれば、プラントの挙動をある程度高い精度で模擬することができる。しかしながら、上述した特許文献1~5に開示されたプラント運転支援装置は、プラントに流入する原料の条件が変動すると、プラントの挙動を模擬する精度が悪化するという問題がある。この問題は、プラントに入力されるエネルギー(例えば、電力)等が変動する場合にも生じ得る。つまり、プラントに入力される要素が変動すると、プラントの挙動を模擬する精度が悪化するという問題が生ずる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、プラントに入力される要素が変動してもプラントの挙動を高い精度で模擬することができるプラント運転支援システム及びプラント運転支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様によるプラント運転支援システムは、プラントの運転を支援するプラント運転支援システム(1)であって、前記プラントに入力される要素の変動を予測する変動予測装置(10)と、前記変動予測装置で予測された前記要素の変動(Y1)と、前記プラントから得られるデータ(D2)とを用いて前記プラントの挙動を模擬する模擬装置(20)と、を備える。
【0008】
また、本発明の一態様によるプラント運転支援システムは、前記変動予測装置が、前記プラントから得られるデータに対して予め規定された統計処理を行って前記要素の変動を予測する。
【0009】
また、本発明の一態様によるプラント運転支援システムは、前記変動予測装置が、前記要素の変動の予測結果と前記要素の実測値との差が予め規定された閾値(TH)を超える場合には、前記要素の変動を予測する方法を変更する。
【0010】
また、本発明の一態様によるプラント運転支援システムは、前記変動予測装置が、前記プラントから得られたデータのうち、前記要素の変動の予測に用いるデータの範囲を規定する第1時間(T1)と、前記要素の変動の予測を行う範囲を規定する第2時間(T2)とを個別に設定可能である。
【0011】
また、本発明の一態様によるプラント運転支援システムは、前記変動予測装置が、前記第2時間で規定される時間範囲と、前記模擬装置が前記プラントの挙動を模擬する時間範囲とが異なる場合には、前記第2時間で規定される時間範囲を前記模擬装置が前記プラントの挙動を模擬する時間範囲に合わせて前記要素の変動を予測する。
【0012】
本発明の一態様によるプラント運転支援方法は、プラントの運転を支援するプラント運転支援方法であって、前記プラントに入力される要素の変動を予測する第1ステップ(S10)と、前記第1ステップで予測された前記要素の変動(Y1)と、前記プラントから得られるデータ(D2)とを用いて前記プラントの挙動を模擬する第2ステップ(S20)と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プラントに入力される要素が変動してもプラントの挙動を高い精度で模擬することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態によるプラント運転支援システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態によるプラント運転支援システムが備える条件変動予測装置の要部構成を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態において、条件変動予測装置で行われる処理を説明するための図である。
図4】本発明の一実施形態において、使用期間の設定例を説明するための図である。
図5】本発明の一実施形態によるプラント運転支援システムの動作例を示すフローチャートである。
図6図5中のステップS10の処理の詳細を示すフローチャートである。
図7】本発明の一実施形態によるプラント運転支援システムが適用される水処理プラントの一例を示す図である。
図8】本発明の一実施形態において、水処理プラントに適用された条件変動予測装置を模式的に示す図である。
図9】本発明の一実施形態において、水処理プラントに適用されたオンラインシミュレータを模式的に示す図である。
図10】本発明の一実施形態によるプラント運転支援システムが備える条件変動予測装置及びオンラインシミュレータの実装例を示すブロック図である。
図11】条件変動予測装置の予測結果の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態によるプラント運転支援システム及びプラント運転支援方法について詳細に説明する。以下では、まず本発明の実施形態の概要について説明し、続いて本発明の実施形態の詳細について説明する。
【0016】
〔概要〕
本発明の実施形態は、プラントに入力される要素が変動してもプラントの挙動を高い精度で模擬することができるようにするものである。尚、以下では、理解を容易にするために、プラントに入力される要素がプラントに流入する原料であるものとする。つまり、プラントに流入する原料の条件(以下、「原料条件」ということもある)が変動してもプラントの挙動を高い精度で模擬することができるようにする場合を例に挙げて説明する。
【0017】
ここで、例えば、上述した特許文献1~5等に開示されたプラント運転支援装置は、「プラントに流入する原料の条件(温度、圧力、組成等)は一定」という前提の下で構築される。このような前提の下で構築されたプラント運転支援装置は、原料条件が殆ど変動しないプラントでは問題無く適用することができる。しかしながら、このようなプラント運転支援装置は、原料条件が変動するプラントでは、プラントの挙動を精度良く模擬することが困難になる。
【0018】
上記の原料条件が殆ど変動しないプラントとしては、例えば、化学プラントやLNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)プラント等が挙げられる。上記の原料条件が変動するプラントとしては、例えば、石油業界におけるアップストリーム(ガス田や油田等の井戸元やその周辺を管理制御するプラント)や水処理プラント等が挙げられる。特に、後者のプラントとして例示したもの(石油業界におけるアップストリームや水処理プラント)においては、原料条件がリアルタイムで変動することが知られている。
【0019】
ここで、例えば、水処理プラントにおいて、原料である原水の水質(例えば、濁度、pH、アルカリ度等)が変動すると、原水の水質(原料条件)の変動がプラント設備内の水質に直接的に影響を及ぼし、プラント設備内の水質が時間と共に変化してしまう。このため、プラント設備の挙動を正確に模擬するためには、原料条件の変動も含めて模擬する必要がある。
【0020】
また、上述した特許文献5に開示されたプラント運転支援装置では、原料条件が変動してしまうと、プラントの挙動を正確に模擬することができず、シミュレーションの精度が大きく低下するという不具合が生ずる。このような不具合を回避するために、例えば原料組成を液体クロマトグラフ等で計測し、その計測結果をシミュレーションに反映させることが考えられる。しかしながら、液体クロマトグラフは、計測結果が得られるまでに時間を要するためリアルタイムでのシミュレーションには適さず、また高コストである。
【0021】
また、上述した特許文献5に開示されたプラント運転支援装置では、現在時刻の原料条件を一定にしてシミュレーションを行うため、実プラントで原料条件が変動してしまうと、シミュレーション結果にその変動は反映されない。その結果、シミュレーションで得られた予測結果と実プラントの状態との間に乖離が生じ、シミュレーションの予測結果は信頼できないものになってしまう。
【0022】
本発明の実施形態では、プラントに流入する原料の条件の変動を予測する。そして、予測した原料条件の変動とプラントから得られるデータとを用いてプラントの挙動を模擬する。これにより、プラントに流入する原料の条件が変動してもプラントの挙動を高い精度で模擬することができる。
【0023】
〔実施形態〕
〈プラント運転支援システムの構成〉
図1は、本発明の一実施形態によるプラント運転支援システムの概略構成を示すブロック図である。図1に示す通り、本実施形態のプラント運転支援システム1は、条件変動予測装置10(変動予測装置)、オンラインシミュレータ20(模擬装置)、表示装置30、及び入力装置40を備える。このようなプラント運転支援システム1は、プラントに流入する原料の条件の変動を考慮してプラントの挙動を模擬することにより、プラントの運転を支援するものである。
【0024】
まず、プラント運転支援システム1の構成を説明する前に、プラント運転支援システム1によって運転が支援されるプラントについて説明する。プラントには、実プラント設備100、実プラント制御システム110、及び通信インターフェイス120が設けられている。実プラント設備100は、プラントに設置された各種の機器、装置、設備である。実プラント設備100には、フィールド機器も含まれる。フィールド機器は、例えば流量計や温度センサ等のセンサ機器、流量制御弁や開閉弁等のバルブ機器、ファンやモータ等のアクチュエータ機器、その他のプラントの現場に設置される機器である。
【0025】
実プラント制御システム110は、例えばプラントの運転員の指示に基づいて、実プラント設備100を制御するシステムである。この実プラント制御システム110は、例えば分散制御システム(DCS:Distributed Control System)等のプロセス制御システムであっても良い。つまり、実プラント制御システム110は、複数のセンサ(流量計や温度計等)の検出結果を取得し、この検出結果に応じてアクチュエータの操作量を求めてアクチュエータを操作することによって、プロセスにおける各種の状態量(例えば、圧力、温度、流量等)を制御するものであっても良い。
【0026】
通信インターフェイス120は、実プラント制御システム110と、実プラント制御システム110の上位に位置づけられる各種装置との間の通信を実現するためのインターフェイスである。ここで、実プラント制御システム110の上位に位置づけられる各種装置としては、プラント運転支援システム1の条件変動予測装置10及びオンラインシミュレータ20以外に、プラントの運転員によって操作される端末装置等がある。この通信インターフェイス120としては、プロセス制御における標準規格であるOPC(OLE for Process Control)を用いることができる。
【0027】
尚、プラント運転支援システム1によって運転が支援されるプラントとしては、例えば石油精製等の化学プラントや水処理プラントが挙げられる。これら以外に、これらのプラント以外に、工業プラント、ガス田や油田等の井戸元やその周辺を管理制御するプラント、水力・火力・原子力等の発電を管理制御するプラント、太陽光や風力等の環境発電を管理制御するプラント、上下水やダム等を管理制御するプラント等であっても良い。
【0028】
次に、プラント運転支援システム1の構成を説明する。プラント運転支援システム1の条件変動予測装置10は、変動成分に関するデータを用いて、プラントに流入する原料の条件の変動を予測し、その予測結果を示す予測データY1をオンラインシミュレータ20に出力する。ここで、上記の変動成分に関するデータには、プラントから得られる原料の条件変動に関するデータD1と、プラント外から得られるプラントでの処理に影響を及ぼすデータE1とが含まれる。尚、データE1としては、例えば、天候を示すデータや、プラント外設備の破損、工事、修復状況等の環境変動成分に関するデータが挙げられる。
【0029】
図2は、本発明の一実施形態によるプラント運転支援システムが備える条件変動予測装置の要部構成を示すブロック図である。図2に示す通り、条件変動予測装置10は、データ取得部11、データ保存部12、変動予測部13、比較部14、予測結果出力部15、及びパラメータ記憶部16を備える。
【0030】
データ取得部11は、通信インターフェイス120を介して実プラント制御システム110と通信を行い、原料条件の変動を予測するために必要なプロセス値(実測値)をデータD1として取得する。また、データ取得部11は、必要に応じてプラント外設備や天候等のプラント外部からのデータをデータE1として取得する。データ保存部12は、データ取得部11で取得されたデータD1及びデータE1を保存する。
【0031】
変動予測部13は、データ保存部12に保存されたデータの全部又は一部を用いて予め規定された統計処理を行って原料条件の変動を予測する。変動予測部13が行う統計処理としては、例えばカルマンフィルタを用いた処理が挙げられる。尚、変動予測部13が行う統計処理は、カルマンフィルタを用いた処理に限られる訳ではなく、移動平均、多変量解析(重回帰分析)等の処理であっても良い。
【0032】
変動予測部13は、図3(a)に示す通り、データ保存部12に保存されたデータのうち、現時点t0からパラメータ記憶部16に記憶された使用時間T1(第1時間)だけ遡った時点t1までのデータを用いて上記の統計処理を行う。そして、変動予測部13は、現時点t0からパラメータ記憶部16に記憶された予測時間T2(第2時間)だけ先の時点t2までの原料条件の変動を予測する。グラフの実線部分は実測値を示しており、点線部分は予測値を示している。図3は、本発明の一実施形態において、条件変動予測装置で行われる処理を説明するための図である。
【0033】
上記の使用時間T1は、任意に設定される。例えば、使用時間T1と予測時間T2とを同じ時間(例えば、30分)に設定しても良く、異なる時間に設定しても良い。使用時間T1と予測時間T2とを異なる時間に設定する場合には、使用時間T1を予測時間T2より長く設定しても良く、使用時間T1を予測時間T2より短く設定しても良い。
【0034】
ここで、オンラインシミュレータ20におけるシミュレーションの対象期間は、図3(a)に示す通り、模擬開始時刻tsから模擬時間T3だけ先の時点t3までに設定される。模擬開始時刻tsは、現時点t0と一致しても良く、現時点t0よりも後の時刻であっても良い。尚、以下では、説明を簡単にするために、模擬開始時刻tsは、現在時刻t0と一致しているとする。模擬時間T3は、シミュレーションの終了時点(時点t3)が、原料条件の予測終了時点(時点t2)を超えないように、予測時間T2以下に設定される。例えば、模擬時間T3は、5分、10分、30分、60分…といった具合に任意に設定され得る。
【0035】
オンラインシミュレータ20で用いられる上記の模擬時間T3及び模擬開始時刻tsは、変動予測部13で用いられる上記の使用時間T1及び予測時間T2とともにパラメータ記憶部16に記憶される。これら使用時間T1及び予測時間T2並びに模擬時間T3及び模擬開始時刻tsは、例えば、入力装置40からオンラインシミュレータ20に入力され、オンラインシミュレータ20から設定データC1として条件変動予測装置10に出力される。尚、上記の使用時間T1及び予測時間T2並びに模擬時間T3及び模擬開始時刻tsは、入力装置40から条件変動予測装置10に直接入力されても良い。
【0036】
原料条件の変動成分の予測データは、シミュレーションの材料として必要なので、シミュレーション開始前の時点で演算を終えた上で、シミュレータに結果が伝達される必要がある。予測時間T2における条件変動予測データの欠損時(例えば、予測に失敗、予測の再実行中等で演算が間に合わない場合、通信エラー時等)には、近い値であることが想定される直近の、既に演算済の予測データを用いたり、暫定的に固定値に戻す処理が行われても良い。
【0037】
変動予測部13は、比較部14の比較結果に応じて、原料条件の変動を予測する方法を変更する。具体的に、変動予測部13は、比較部14の比較結果が、原料条件の変動の予測結果と原料条件の実測値との差がパラメータ記憶部16に記憶された判定閾値TH(閾値)よりも大である場合には、予測をやり直すために、原料条件の変動を予測する方法を変更する。例えば、統計手法の変更や、時間範囲(使用時間T1のサンプリング時間)の変更等が行われても良い。尚、比較が実施されるのは、原料条件の予測後に、対応する予測時間T2内における実測値が得られたタイミングである。
【0038】
いま、図3(b)に示す通り、原料条件の変動が予測された時点(現時点t0)から時間ΔT経過後に、原料条件の実測値(グラフの実線部分)が得られた場合を考える。かかる場合において、実測値と予測値Y1との差が判定閾値THよりも大になったとすると、変動予測部13は、原料条件の変動の予測方法を変更する。図3(b)に示す例では、変動予測部13は、使用時間T1を、使用時間T1より短い使用時間T1′に変更し、現時点t0′から予測時間T2′だけ先の時点t2′までの予測値Y1′を算出しなおしている。
【0039】
尚、図3(b)に示す例において、オンラインシミュレータ20は、予測値Y1′を用いて、現時点t0′(模擬開始時刻ts′)から模擬時間T3′だけ先の時点t3′までのシミュレーションを実行する。ここで、予測時間T2と予測時間T2′とを等しくし、且つ、模擬時間T3と模擬時間T3′とを等しくしても良い。或いは、時点t0と時点t2と間の一定に保つために、予測時間T2から時間ΔTを差し引いた時間を予測時間T2′とし、且つ、模擬時間T3から時間ΔTを差し引いた時間を模擬時間T3′としても良い。また、原料条件の変動の予測方法の変更方法としては、使用時間T1の変更以外に、予測演算の方法を変更してもよい(例えば、移動平均による外挿から、重回帰分析に変更する等)。
【0040】
また、変動予測部13は、入力装置40から入力された(或いは、事前に設定された)、又はオンラインシミュレータ20から出力される設定データC1に応じて、原料条件の変動を予測する方法を変更してもよい。尚、設定データC1は、オンラインシミュレータ20におけるシミュレーション範囲の設定内容を含むデータである。例えば、シミュレーションの対象となる模擬時間T3を含む予測時間T2である。この場合、変動予測部13は、設定データC1に含まれる予測時間T2を参照し、使用時間T1を変更してもよい。
【0041】
上述の通り、予測時間T2の期間は任意に設定され得る。例えば、オペレータが入力装置40から「今から(或いは、30分後に)1時間分のシミュレーションを実施」と適宜入力してもよいし、予め、30分おきにシミュレーションが実施されるように事前に設定されていてもよい。これらのシミュレーションが開始される前に、条件変動予測装置10(変動予測部13)において、原料条件の変動が予測されるが、この時間範囲は、同じくオペレータが入力装置40から入力しても、事前に設定されていてもよい。また、予測時間T2のうち、開始時刻tsから模擬時間T3の間のみシミュレーションを実施するように設定してもよい。
【0042】
予測時間T2と使用時間T1の関係については、1時間のシミュレーションのためには同じく1時間(T2=T1)、より短い時間である30分(T2>T1)、より長い時間である90分(T2<T1)等は、オペレータの判断(入力装置40からの入力)、あるいは事前の設定によって、適宜選択される。
【0043】
使用時間T1を長く取れば、予測の精度が上がるとは限らない。例えば図4に示すように、原料等の実測値の中に、イレギュラーなピークPが存在する場合も想定される。このような場合には、使用時間T1の設定範囲によりこのピークPを含むか否かが、予測結果に影響する。このピークPを含んで予測すべき場合には使用時間T1は敢えて長い使用時間T1bを設定しても良いが、このピークPが含まれることにより予測に悪影響を及ぼす場合には、このピークPを含まないように使用時間T1を短い使用時間T1aに設定すべきである。図4は、本発明の一実施形態において、使用期間の設定例を説明するための図である。
【0044】
変動予測装置10の動作(原料等の実測値や予測値の状況、設定されている使用時間T1や予測時間T2の長さ等)が図1に示す表示装置30に表示されるようにすることで、オペレータが状況を視認しながら使用時間T1の期間を適宜設定、変更しても良いし、変動予測装置内のソフトウェア処理等によって、閾値以上の(イレギュラーな)実測値の変動がある場合には、これを除外する期間にT1が設定されるようにしてもよい。このように、変動予測部13が、原料条件の変動を予測する時間範囲を変更するのは、オンラインシミュレータ20のシミュレーションにおける実行精度を向上させるためである。
【0045】
ここで、変動予測部13は、原料条件の変動を予測する時間範囲と、オンラインシミュレータ20で設定されたシミュレーション範囲とが異なる場合には、原料条件の変動を予測する時間範囲を、シミュレーション範囲に合わせて原料条件の変動を予測する。仮に、原料条件の変動を予測する時間範囲が、図3(b)の現時点t0から予測時間T2だけ先の時点t2までの時間範囲に設定されており、シミュレーション範囲が、図3(b)の模擬開始時刻ts′から模擬時間T3′だけ先の時点t3′までの時間範囲に設定されているとする。すると、時点t2から時点t3′の間において、原料条件の変動の予測結果が存在しない。
【0046】
このように、オンラインシミュレータ20で設定されたシミュレーション範囲に、原料条件の変動の予測結果が存在しない部分があると、オンラインシミュレータ20でシミュレーションを実行することができない。オンラインシミュレータ20のシミュレーションを実行可能とするために、変動予測部13は、原料条件の変動を予測する時間範囲を、オンラインシミュレータ20のシミュレーション範囲と一致するように変更する。
【0047】
比較部14は、変動予測部13で求められた原料条件の変動の予測結果と原料条件の実測値とを比較する。具体的に、比較部14は、上記の予測結果と上記の実測値との差がパラメータ記憶部16に記憶された判定閾値TH以下であるか否かを判定する。比較部14は、上記の差が判定閾値THよりも大であると判定した場合には、その旨を示す判定結果を変動予測部13に出力する。これに対し、上記の差が判定閾値TH以下であると判定した場合には、比較部14は、変動予測部13で求められた原料条件の変動の予測結果を予測結果出力部15に出力する。
【0048】
予測結果出力部15は、変動予測部13で求められた原料条件の変動の予測結果を、必要に応じてオンラインシミュレータ20に適した形式に変換して予測データY1として出力する。予測結果出力部15は、例えば、変動予測部13で求められた原料条件の変動の予測結果を、時刻データと予測結果とが対応づけられたデータ配列に変換して予測データY1として出力する。
【0049】
パラメータ記憶部16は、条件変動予測装置10で用いられる各種パラメータを記憶する。具体的に、パラメータ記憶部16は、変動予測部13で用いられる使用時間T1及び予測時間T2、比較部14で用いられる判定閾値TH、並びにオンラインシミュレータ20で用いられる模擬時間T3及び模擬開始時刻tsを記憶する。これら使用時間T1、予測時間T2、及び判定閾値THは、個別に設定可能である。尚、使用時間T1は、原料条件の変動の予測に用いるデータの範囲を規定する時間ということができる。また、予測時間T2は、原料条件の変動の予測を行う範囲を規定する時間ということができる。
【0050】
プラント運転支援システム1のオンラインシミュレータ20は、条件変動予測装置10から出力される予測データY1と、プラントから得られるデータD2とを用いてプラントの挙動を模擬し(シミュレートし)、その結果を表示装置30に出力する。具体的に、オンラインシミュレータ20は、条件変動予測装置10から出力される予測データY1を取得する。また、オンラインシミュレータ20は、通信インターフェイス120を介して実プラント制御システム110と通信を行い、プラントの挙動を模擬するために必要なプロセス値、PID設定値、操作量等をデータD2として取得する。そして、オンラインシミュレータ20は、取得した予測データY1と取得したデータD2とを用いて、オンラインでプラントの挙動を模擬し、その模擬結果を表示装置30に出力する。
【0051】
ここで、本実施形態におけるオンラインシミュレータ20は、従来のものとは、プラントから得られるデータD2以外に、条件変動予測装置10から出力される予測データY1を用いてプラントの挙動を模擬する点が相違する。但し、オンラインシミュレータ20で行われる模擬は、基本的には従来のものと同様である。例えば、前述した特許文献5に開示された方法と同様の方法により模擬が行われる。このため、オンラインシミュレータ20における模擬方法の詳細については、説明を省略する。
【0052】
表示装置30は、オンラインシミュレータ20から出力される模擬結果を表示する。例えば、表示装置30は、液晶表示パネルや有機EL(Electro Luminescence)表示パネルを備えており、オンラインシミュレータ20から出力される模擬結果を、数値で表示したり、グラフ形式で表示したりする。尚、表示装置30は、例えばプラントの運転員によって操作される端末装置に設けられた表示装置であっても良い。
【0053】
〈プラント運転支援システムの動作〉
図5は、本発明の一実施形態によるプラント運転支援システムの動作例を示すフローチャートである。図5に示すフローチャートは、変動成分データが測定される一定の時間間隔(例えば、上述の使用時間T1や予測時間T2等を踏まえて適宜)で繰り返し行われる。図5に示すフローチャートの処理が開始されると、まずプラント、或いはプラント外部等から得られる変動成分に関するデータを用いて原料条件の変動を予測する処理が、条件変動予測装置10で行われる(ステップS10:第1ステップ)。
【0054】
図6は、図5中のステップS10の処理の詳細を示すフローチャートである。図6に示すフローチャートの処理が開始されると、まず、原料条件の変動を予測するために必要なプロセス値(実測値)等を予め取得する処理が、データ取得部11で行われる(ステップS11)。具体的には、通信インターフェイス120を介して実プラント制御システム110と通信を行って、データ(プロセス値等)を取得する処理がデータ取得部11で行われる。尚、プラント外部からのデータE1は、同様に通信インターフェイス120を介して取得してもよいし、オペレータ等による入力によって取得してもよい。
【0055】
次に、データ取得部11で取得されたデータ(プロセス値等)を保存する処理が、データ保存部12で行われる(ステップS12)。
【0056】
次いで、データ保存部12に保存されたデータを用いて予め規定された統計処理を行って原料条件の変動を予測する処理が、変動予測部13で行われる(ステップS13)。例えば、図3に示す通り、現時点t0からパラメータ記憶部16に記憶された使用時間T1だけ遡った時点t1までのデータを用いて上記の統計処理を行い、現時点t0からパラメータ記憶部16に記憶された予測時間T2だけ先の時点t2までの原料条件の変動を予測する処理が、変動予測部13で行われる(ステップS13)。尚、上記の統計処理は、例えばカルマンフィルタを用いた処理である。
【0057】
続いて、変動予測部13で求められた原料条件の変動の予測結果と、対象の予測時間T2内における原料条件の実測値とを比較し、上記の予測結果と上記の実測値との差がパラメータ記憶部16に記憶された判定閾値TH以下であるか否かを判定する処理が、比較部14で行われる(ステップS14)。上記の差が判定閾値THよりも大であると判定した場合(判定結果が「NO」の場合)には、比較部14は、その旨を示す判定結果を変動予測部13に出力する。これに伴い、比較部14は、変動予測部13に原料条件の変動を予測する方法を変更させた上(ステップS16)で、改めて原料条件の変動を予測する処理を、変動予測部13に行わせる(ステップS13)。
【0058】
これに対し、上記の予測結果と上記の実測値との差が判定閾値TH以下であると判定した場合(判定結果が「YES」の場合)には、変動予測部13で求められた原料条件の変動の予測結果を予測結果出力部15に出力する処理が、比較部14によって行われる。そして、変動予測部13で求められた原料条件の変動の予測結果を、必要に応じてオンラインシミュレータ20に適した形式に変換して予測データY1として出力する処理が、予測結果出力部15で行われる(ステップS15)。
【0059】
尚、上述したステップS16では、入力装置40から入力された(或いは、事前に設定された)、又はオンラインシミュレータ20から出力される設定データC1に応じて、原料条件の変動の予測に用いる時間範囲(使用時間T1)を変更する処理が、変動予測部13によって行われる。例えば、図3(a),(b)を用いて説明した通り、原料条件の変動の予測に用いる時間範囲(使用時間T1)を、適宜変更する処理が、変動予測部13で行われる。
【0060】
以上の処理が終了すると、予測された原料条件の変動と、プラントから得られるデータとを用いてプラントの挙動を模擬する処理が、オンラインシミュレータ20で行われる(ステップS20:第2ステップ)。具体的に、条件変動予測装置10から出力される予測データY1を取得する処理が、オンラインシミュレータ20で行われる。また、通信インターフェイス120を介して実プラント制御システム110と通信を行い、プラントの挙動を模擬するために必要なプロセス値、PID設定値、操作量等をデータD2として取得する処理が、オンラインシミュレータ20で行われる。
【0061】
そして、取得した予測データY1と取得したデータD2とを用いて、オンラインでプラントの挙動を模擬し、その模擬結果を表示装置30に出力する処理が、オンラインシミュレータ20で行われる。以上の処理が行われることで、プラントに流入する原料の条件の変動を考慮して行われたプラントの挙動を模擬した結果が、表示装置30に表示される。
【0062】
〈プラント運転支援システムの適用例〉
次に、上述したプラント運転支援システム1を水処理プラントに適用した例について説明する。図7は、本発明の一実施形態によるプラント運転支援システムが適用される水処理プラントの一例を示す図である。尚、図7においては、図1に示す構成に相当する構成については同一の符号を付してある。
【0063】
図7に示す通り、水処理プラントに設けられる実プラント設備100は、着水井ユニット101、混和池ユニット102、沈殿池ユニット103、水質センサ104a,104b、流量計105a~105c、及びバルブ106a~106cを備える。このような実プラント設備100は、水源地WSから得られる水(原水)を処理して、浄化された水(浄水)を得るものである。
【0064】
着水井ユニット101は、水源地WSから得られる原水を消毒するためのユニットである。この着水井ユニット101には、原水を消毒するための薬品である次亜塩素酸(例えば、次亜塩素酸ナトリウム等)が供給される。混和池ユニット102は、着水井ユニット101で処理(消毒)された水のpHを調整し、水に含まれる粒子を凝集させてかたまり(フロック)にするユニットである。この混和池ユニット102には、pH調整剤である苛性(例えば、苛性ソーダ)、及び水に含まれる粒子を凝集させるための凝集剤が供給される。沈殿池ユニット103は、混和池ユニット102で得られたフロックを沈降させ、上澄み水(浄水)と汚泥に分離するためのユニットである。
【0065】
水質センサ104aは、水源地WSと着水井ユニット101との間に設けられ、水源地WSから得られる原水の水質を測定するために設けられるセンサである。水質センサ104bは、沈殿池ユニット103の下流に設けられ、沈殿池ユニット103から流出する浄水の水質を測定するために設けられるセンサである。
【0066】
流量計105aは、着水井ユニット101に供給される次亜塩素酸の流量を測定し、流量計105bは、混和池ユニット102に供給される苛性の流量を測定し、流量計105cは、混和池ユニット102に供給される凝集剤の流量を測定する。バルブ106aは、着水井ユニット101に供給される次亜塩素酸の流量を調整し、バルブ106bは、混和池ユニット102に供給される苛性の流量を調整し、バルブ106cは、混和池ユニット102に供給される凝集剤の流量を調整する。
【0067】
水処理プラントに設けられる実プラント制御システム110は、原水水質測定部111、浄水水質測定部112、次亜塩素酸流量制御部113、苛性流量制御部114、及び凝集剤流量制御部115を備える。このような実プラント制御システム110は、実プラント設備100から得られる各種プロセス値を参照しつつ実プラント設備100を制御することによって、水源地WSから得られる原水から浄水を得るものである。
【0068】
原水水質測定部111は、水質センサ104aの検出結果を用いて、原水の水質を測定する。原水水質測定部111の測定結果は、条件変動予測装置10と実プラント制御システム110との間の通信インターフェイス120を介した通信が行われることで、データD1として条件変動予測装置10に送信される。浄水水質測定部112は、水質センサ104bの検出結果を用いて、浄水の水質を測定する。原水水質測定部111及び浄水水質測定部112で測定される水質は、例えばアルカリ度、pH、濁度等である。
【0069】
次亜塩素酸流量制御部113は、原水水質測定部111の測定結果(例えば、アルカリ度)に応じて、着水井ユニット101に供給される次亜塩素酸の流量を制御する。次亜塩素酸流量制御部113は、流量計105aの測定結果を参照しつつバルブ106aの操作量を調節することによって、着水井ユニット101に供給される次亜塩素酸の流量を制御する。
【0070】
苛性流量制御部114は、原水水質測定部111の測定結果(例えば、pH)に応じて、混和池ユニット102に供給される苛性の流量を制御する。苛性流量制御部114は、流量計105bの測定結果を参照しつつバルブ106bの操作量を調節することによって、混和池ユニット102に供給される苛性の流量を制御する。
【0071】
凝集剤流量制御部115は、原水水質測定部111の測定結果(例えば、濁度)に応じて、混和池ユニット102に供給される凝集剤の流量を制御する。凝集剤流量制御部115は、流量計105cの測定結果を参照しつつバルブ106cの操作量を調節することによって、混和池ユニット102に供給される凝集剤の流量を制御する。
【0072】
次亜塩素酸流量制御部113、苛性流量制御部114、及び凝集剤流量制御部115で制御に用いられた各種データ(プロセス値、PID設定値、操作量等)は、オンラインシミュレータ20に送信される。具体的には、オンラインシミュレータ20と実プラント制御システム110との間の通信インターフェイス120を介した通信が行われることで、データD2としてオンラインシミュレータ20に送信される。
【0073】
図8は、本発明の一実施形態において、水処理プラントに適用された条件変動予測装置を模式的に示す図である。図8に示す通り、水処理プラントに適用された条件変動予測装置10は、実プラント制御システム110から送信される原水の水質の測定結果を示すデータD1を取得する。ここで、データD1には、原水の水質の測定結果として、例えば、アルカリ度、pH、濁度等の測定結果が含まれる。尚、条件変動予測装置10による、データD1の取得は、予め規定された時間間隔(例えば、10分)で行われる。
【0074】
条件変動予測装置10は、取得した原水の水質の測定結果を示すデータD1を用いて、水処理プラントに流入する原料である原水の水質の変動を予測する。図8に示す例では、原水の水質の変動を予測する様子を、条件変動予測装置10内に示したグラフ(アルカリ度の経時変化を示すグラフ、pHの経時変化を示すグラフ、濁度の経時変化を示すグラフ)で表現している。
【0075】
これらのグラフにおいて、実線で示した部分は、過去に得られた原水の水質の測定結果を示しており、点線で示した部分は、予測された原水の水質の変動を示している。尚、図8に示すグラフにおいて、横軸における実線で示した部分と点線で示した部分の境界は現時点を示している。条件変動予測装置10は、図8に示すグラフの点線で示した部分(つまり、予測された原水の水質の変動を示す部分)を、オンラインシミュレータ20に適した形式に変換して予測データY1として出力する。
【0076】
ここで、従来のオンラインシミュレータにおいては固定値でシミュレーションを実施していた。しかしながら、実際は図8に示される通り、グラフの実線部分(実測値、過去~現在)のように変化があり、更に、グラフの点線で示されるように将来の値も変化する余地がある。特に、本例に示した水処理プラントのような場合、沈殿処理等も含むため、原水の入力から、浄水の出力までの処理に非常に大きな時定数を有する。このような場合、入力データの変化を想定せずに固定値でのシミュレーション、さらには実プラント処理を実施すれば、プロセスの制御(薬注の量やタイミング)も、結果のアウトプット(例えば浄水の品質)も不適切なものとなる。
【0077】
そこで、シミュレーションのインプットとして変動成分を予測し、変化を折り込んで入力することで、より精度の高いシミュレーションが行われることとなる。例えば、図8のように未来の濁度(点線)は上昇しているのに対し、このような上昇を折り込んでいない固定値を前提としたシミュレーションでは薬注量に過不足が発生し、生成された浄水も濁ってしまったりする。本発明では原水の水質変動の予測結果にてシミュレーション(模擬)を行うことにより、プロセス(例えば薬注量)とアウトプット(浄水品質、双方を適正化できる。
【0078】
図9は、本発明の一実施形態において、水処理プラントに適用されたオンラインシミュレータを模式的に示す図である。図9に示す通り、水処理プラントに適用されたオンラインシミュレータ20には、図7に示す実プラント設備100のプラントモデルMDが格納されている。尚、プラントモデルMDは、例えば不図示のエンジニアリング装置を用いて予め作成されて、オンラインシミュレータ20に格納されている。
【0079】
オンラインシミュレータ20は、条件変動予測装置10から、原水の水質の変動の予測結果を示す予測データY1を取得する。尚、予測データY1には、原水の水質の変動の予測結果として、例えば、アルカリ度、pH、濁度等の変動の予測結果が含まれる。また、オンラインシミュレータ20は、実プラント制御システム110から送信される制御に用いられた各種データが含まれるデータD2を取得する。尚、データD2には、プロセス値、PID設定値、操作量等が含まれる。
【0080】
オンラインシミュレータ20は、取得した原水の水質の変動の予測結果を示す予測データY1、及び取得した制御に用いられた各種データが含まれるデータD2を、プラントモデルMDに入力する。そして、実プラント制御システム110の制御ループの状態を、プラントモデルMDに等値化し、水処理プラント(実プラント設備100)の挙動を模擬する(シミュレートする)。
【0081】
オンラインシミュレータ20は、具体的に、原水の水質の変動の予測結果と制御ループ状態を入力として、各ユニット(着水井ユニット101、混和池ユニット102、沈殿池ユニット103)の中で以下を計算する。
・実プラント設備(浄水場設備)の物資収支
・物資収支変化に基づく化学反応、設備内薬品濃度及び水質の動的挙動
【0082】
図9に示す例では、オンラインシミュレータ20の模擬結果R1を、グラフ(残留塩素の経時変化を示すグラフ、pHの経時変化を示すグラフ、濁度の経時変化を示すグラフ)で表現している。これらのグラフにおいて、実線で示した部分は、過去に得られた浄水の水質の測定結果を示しており、点線で示した部分は、模擬によって得られた浄水の水質の予測結果を示している。尚、図9に示すグラフにおいて、横軸(時間軸)方向における実線で示した部分と点線で示した部分の境界は現時点を示している。オンラインシミュレータ20は、図9に示す模擬結果R1を表示装置30に出力する。表示装置30には、オンラインシミュレータ20の模擬結果R1が表示される。
【0083】
以上の通り、本実施形態では、プラント運転支援システム1の条件変動予測装置10が、プラントから得られるデータを用いて、プラントに流入する原料の条件の変動を予測する。そして、オンラインシミュレータ20が、条件変動予測装置10によって予測された原料条件の変動とプラントから得られるデータとを用いてプラントの挙動を模擬する。これにより、プラントに流入する原料の条件が変動してもプラントの挙動を高い精度で模擬することができる。
【0084】
〈実装例〉
図10は、本発明の一実施形態によるプラント運転支援システムが備える条件変動予測装置及びオンラインシミュレータの実装例を示すブロック図である。図10に示す通り、条件変動予測装置10及びオンラインシミュレータ20は、例えば、操作部51、表示部52、入出力部53、格納部54、処理部55、通信装置56、及びドライブ装置57等を備えるコンピュータによって実現することができる。尚、条件変動予測装置10及びオンラインシミュレータ20の機能は、記録媒体Mに記録されたプログラムを読み出してインストールすることによりソフトウェア的に実現される。或いは、不図示のネットワークを介してダウンロードしたプログラムをインストールすることによりソフトウェア的に実現される。
【0085】
操作部51は、例えばキーボードやポインティングデバイス等の入力装置を備えており、条件変動予測装置10又はオンラインシミュレータ20を使用するユーザの操作に応じた指示を処理部55に出力する。表示部52は、例えば液晶表示装置等の表示装置を備えており、処理部55から出力される各種情報を表示する。尚、操作部51及び表示部52は、物理的に分離されたものであっても良く、表示機能と操作機能とを兼ね備えるタッチパネル式の液晶表示装置のように物理的に一体化されたものであってもよい。
【0086】
入出力部53は、処理部55の制御の下で、各種情報の入出力を行う。例えば、入出力部53は、外部の機器との間で通信を行って各種情報を入出力するものであっても良く、着脱可能な記録媒体(例えば、不揮発性メモリ)に対する各種情報の読み出し又は書き込みを行って各種情報を入出力するものであってもよい。尚、外部の機器との間で行われる通信は、有線通信及び無線通信の何れであってもよい。
【0087】
格納部54は、例えばHDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)等の補助記憶装置を備えており、各種情報を格納する。例えば、格納部54は、データ取得部11によって取得されたデータD1を格納してもよい。つまり、図2に示すデータ保存部12の機能が、格納部54で実現されていてもよい。また、格納部54は、例えば条件変動予測装置10又はオンラインシミュレータ20で実行される各種プログラムを格納してもよい。
【0088】
処理部55は、操作部51からの指示に基づいて各種処理を行う。処理部55は、各種処理の結果を、表示部52、入出力部53、若しくは通信装置56に出力し、又は格納部54に格納させる。この処理部55には、条件変動予測装置10の主要な機能(変動予測部13及び比較部14等)、或いはオンラインシミュレータ20の主要な機能が設けられる。処理部55に設けられる機能は、その機能を実現するためのプログラムがCPU(中央処理装置)等のハードウェアによって実行されることによって実現される。つまり、条件変動予測装置10の主要な機能、或いはオンラインシミュレータ20の主要な機能は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって実現される。
【0089】
通信装置56は、処理部55の制御の下で、例えば不図示のネットワークを介した通信を行う。尚、通信装置56は、有線通信を行うものであっても、無線通信を行うものであってもよい。ドライブ装置57は、例えばCD-ROM又はDVD(登録商標)-ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体Mに記録されているデータの読み出しを行う。この記録媒体Mは、条件変動予測装置10の主要な機能、或いはオンラインシミュレータ20の主要な機能を実現するプログラムを格納している。
【0090】
尚、図10に示す実装例は、あくまでも一例であり、条件変動予測装置10又はオンラインシミュレータ20の実装が図10に示すものに制限される訳ではない点に注意されたい。例えば、条件変動予測装置10及びオンラインシミュレータ20が1台の同じコンピュータで実現されても、複数の異なるコンピュータで実現されていても良い。また、条件変動予測装置10の主要な機能、或いはオンラインシミュレータ20の主要な機能を実現するプログラムは、必ずしも記録媒体Mに格納された状態で頒布される必要はない。このプログラムは、例えばインターネット等のネットワークを介して頒布されてもよい。
【0091】
以上、本発明の一実施形態によるプラント運転支援システム及びプラント運転支援方法について説明したが、本発明は上記実施形態に制限される訳ではなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、プラントに流入する1つの原料の条件の変動を予測していたが、プラントに流入する複数の原料の条件の変動を予測するようにしても良い。
【0092】
また、原料だけでなく、プラントプロセスにおいて利用されるエネルギー条件(例えば、自然エネルギーや蓄電池を用いることによる供給量の変化)等、変動成分であればどのようなものでも適用し得る。このような予測を行う場合には、複数の条件変動予測装置を用意してもよい。例えば、プラントに流入する原料毎に、条件変動予測装置を用意しても良い。これにより、複数の原料の条件が変動する複雑なプラントにおいても、プラントの挙動を高い精度で模擬することができる。
【0093】
また、上記実施形態では、条件変動予測装置10は、オンラインシミュレータ20に入力される原料条件の変動を予測するものであった。しかしながら、条件変動予測装置10は、オペレータトレーニング用シミュレータ等のオフラインンシミュレータに入力される原料条件の変動を予測する用途にも用いることができる。これにより、オフラインシミュレータを使用する際にも、原料条件の変動を入力データとして用いることで、より現実に即したシミュレーション、トレーニングを行うことができる。
【0094】
また、上記実施形態では、オンラインシミュレータ20の模擬結果を表示装置30に表示するようにしていたが、条件変動予測装置10の予測結果を表示装置30等に表示するようにしても良い。尚、条件変動予測装置10の予測結果は、オンラインシミュレータ20の模擬結果と切り替え可能として表示しても良く、オンラインシミュレータ20の模擬結果とともに表示しても良い。
【0095】
図11は、条件変動予測装置の予測結果の表示例を示す図である。図11に示す例では、条件変動予測装置10で予測された原水の濁度の経時変化を示すグラフG1とともに、予測された原水の濁度に応じた適切な苛性注入率の設定値を示すグラフG11及び凝縮剤注入率の設定値を示すグラフG12が表示されている。尚、図11に示す例では、グラフ G11,G12の経時変化を示すテーブルTBもあわせて表示されている。
【0096】
更に、図11に示す例では、グラフG11,G12及びテーブルTBに示された苛性注入率及び凝縮剤注入率の設定値が適用された場合に模擬される浄水の濁度の経時変化を示すグラフG2も表示されている。尚、グラフG11,G12及びテーブルTBに示される苛性注入率及び凝縮剤の設定値、並びにグラフG2で示される浄水の濁度の経時変化は、例えばオンラインシミュレータ20で求めても良い。
【0097】
水処理プラントの運転員は、グラフG1を参照することで、原水の濁度がどのように変化するかを容易に把握することができる。また、水処理プラントの運転員は、グラフG11,G12及びテーブルTBを参照することで、原水の濁度を低下させるために必要な処置(苛性や凝縮剤をどのタイミングでどの程度注入すればよいか)を容易に把握することができる。更に、水処理プラントの運転員は、グラフG2を参照することで、グラフG11,G12及びテーブルTBを参照して行った場合の効果(浄水の濁度が低いまま維持されること、或いは更に低減されること)も把握することができる。
【0098】
尚、グラフG11,G12及びテーブルTBに示される苛性注入率及び凝縮剤の設定値を、オンラインシミュレータ20から実プラント制御システム110に出力して、自動制御するようにしてもよい。尚、オンラインシミュレータ20から実プラント制御システム110への設定値の出力は、自動で行うようにしても良く、プラント運転員からの指示があった場合に行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0099】
1 プラント運転支援システム
10 条件変動予測装置
20 オンラインシミュレータ
D1 データ
D2 データ
E1 データ
T1 使用時間
T2 予測時間
Y1 予測データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11