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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】レーザー溶着装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/16 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
B29C65/16
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019088980
(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公開番号】P2020183082
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000201582
【氏名又は名称】前澤化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 翔太
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-246913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光の透過性を有する第一ワークと、レーザー光の吸収性を有する第二ワークと、をレーザー溶着するためのレーザー溶着装置であって、
前記レーザー光を発振するレーザー光発振部と、
前記レーザー光発振部側から、前記第一ワークおよび前記第二ワークを順に重ね、内部の所定の位置に固定するワーク固定部、固定された前記第一ワークおよび前記第二ワークを、前記レーザー光が照射されるように露出させる開口部、を有するワーク固定治具と、
前記第一ワークおよび前記第二ワークにおける前記レーザー光の被照射領域が所定の形態になるように、前記ワーク固定治具を駆動させるワーク駆動治具と、を備え
前記ワーク固定治具の側壁に、前記ワーク駆動治具による駆動方向に沿って溝部が設けられていることを特徴とするレーザー溶着装置。
【請求項2】
前記ワーク駆動治具が、レーザー光の被照射領域が円形になるように、前記ワーク固定治具を駆動させるワーク駆動治具であることを特徴とする請求項1に記載のレーザー溶着装置。
【請求項3】
前記レーザー光の照射方向からの平面視において、前記ワーク固定治具の開口部に対し、前記第一ワークおよび前記第二ワークが重なるように、前記第一ワークおよび前記第二ワークの位置調整を行う第一位置調整部を備えていることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のレーザー溶着装置。
【請求項4】
前記ワーク固定治具が、前記ワーク固定部を有する第一ワーク固定治具と、前記開口部を有する第二ワーク固定治具とからなり、
前記ワーク固定部と前記開口部との相対的な位置関係を調整する、第二位置調整部をさらに備えていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のレーザー溶着装置。
【請求項5】
前記第二位置調整部が、前記第一ワーク固定治具の側壁に設けられた凸部と、前記第二ワーク固定治具の側壁に設けられた凹部とで構成され、
前記凹部が、前記凸部を嵌合させつつ、一方向のみに摺動させる形状を有していることを特徴とする請求項4に記載のレーザー溶着装置。
【請求項6】
前記第二位置調整部が、前記第一ワーク固定治具または前記第二ワーク固定治具より、回転軸方向に向けて延出する延出部と、前記第二ワーク固定治具または前記第一ワーク固定治具に設けられた挿通部とで構成され、前記延出部を、前記挿通部に通しつつ、一方向のみに摺動させる形状を有していることを特徴とする請求項4に記載のレーザー溶着装置。
【請求項7】
前記ワーク駆動治具が、前記第一ワーク固定治具が固定される第一ワーク駆動治具と、前記第二ワーク固定治具が固定される第二ワーク駆動治具とからなり、前記第一ワーク駆動治具と前記第二ワーク駆動治具との相対的な位置関係を調整する、第三位置調整部をさらに備えていることを特徴とする請求項のいずれか一項に記載のレーザー溶着装置。
【請求項8】
前記レーザー光発振部による、レーザー光の発振方向を調整する方向調整部を、さらに備えていることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のレーザー溶着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー光に対し、透過性を有する樹脂材(透過性樹脂材)と吸収性を有する樹脂材(吸収性樹脂材)とを用いたレーザー溶着法が知られている。レーザー溶着法では、透過性樹脂材と吸収性樹脂材とを重ね、吸収性樹脂材に対し、透過性樹脂材越しにレーザー光を照射し、吸収性樹脂材を発熱させることによって透過性樹脂材と溶着させる。
【0003】
レーザー溶着の技術は、高度な溶着加工を可能にすることから、レーザー光の低価格化にともなって、利用分野の拡大が期待されている。例えば、特許文献1には、ワークをセットする治具を保持するXYテーブル、および2つのレーザー光を発振する手段を備え、2つのレーザー光による予備溶着後、ワークに形成される2本の予備溶着線の略中間を1つのレーザー光で走査することによって、両樹脂材が本溶着する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-246913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新規の樹脂材からなるワーク同士をレーザー溶着させる場合、レーザー光の照射強度、照射時間等の溶着条件について、サーチしておく必要があるが、その前提として、ワークを固定する固定手段、レーザー照射手段に対するワークの位置を調整する位置調整手段等の装置構成、さらには、レーザー光の照射によるワークの適切な加熱速度を確定させておく必要がある。しかしながら、それらを実現するための具体的な装置構成、ワークの加熱速度については開示されていないため、実際に、ワーク同士の適切な溶着条件を確定させることは難しい。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、新規の樹脂材または金属を含むワーク同士の適切な溶着条件について、容易に確定させることが可能なレーザー溶着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0008】
(1)本発明の一態様に係るレーザー溶着装置は、レーザー光の透過性を有する第一ワークと、レーザー光の吸収性を有する第二ワークと、をレーザー溶着するためのレーザー溶着装置であって、前記レーザー光を発振するレーザー光発振部と、前記レーザー光発振部側から、前記第一ワークおよび前記第二ワークを順に重ね、内部の所定の位置に固定するワーク固定部、固定された前記第一ワークおよび前記第二ワークを、前記レーザー光が照射されるように露出させる開口部、を有するワーク固定治具と、前記第一ワークおよび前記第二ワークにおける前記レーザー光の被照射領域が所定の形態になるように、前記ワーク固定治具を駆動させるワーク駆動治具と、を備えている。
【0009】
(2)前記ワーク駆動治具は、レーザー光の被照射領域が円形になるように、前記ワーク固定治具を駆動させるワーク駆動治具であってもよい。
【0010】
(3)前記(1)または(2)のいずれかに記載のレーザー溶着装置において、前記レーザー光の照射方向からの平面視において、前記ワーク固定治具の開口部に対し、前記第一ワークおよび前記第二ワークが重なるように、前記第一ワークおよび前記第二ワークの位置調整を行う第一位置調整部を備えていてもよい。
【0011】
(4)前記(1)~(3)のいずれか一つに記載のレーザー溶着装置において、前記ワーク固定治具が、前記ワーク固定部を有する第一ワーク固定治具と、前記開口部を有する第二ワーク固定治具とからなり、前記ワーク固定部と前記開口部との相対的な位置関係を調整する、第二位置調整部をさらに備えていてもよい。
【0012】
(5)前記(4)に記載のレーザー溶着装置において、前記第二位置調整部が、前記第一ワーク固定治具の側壁に設けられた凸部と、前記第二ワーク固定治具の側壁に設けられた凹部とで構成され、前記凹部が、前記凸部を嵌合させつつ、一方向のみに摺動させる形状を有していてもよい。
【0013】
(6)前記(4)に記載のレーザー溶着装置において、前記第二位置調整部が、前記第一ワーク固定治具または前記第二ワーク固定治具より、回転軸方向に向けて延出する延出部と、前記第二ワーク固定治具または前記第一ワーク固定治具に設けられた挿通部とで構成され、前記延出部を、前記挿通部に通しつつ、一方向のみに摺動させる形状を有していてもよい。
【0014】
(7)前記(1)~(6)のいずれか一つに記載のレーザー溶着装置において、前記ワーク固定治具の側壁に、前記ワーク駆動治具による駆動方向に沿って溝部が設けられていてもよい。
【0015】
(8)前記(1)~(7)のいずれか一つに記載のレーザー溶着装置において、前記ワーク駆動治具が、前記第一ワーク固定治具が固定される第一ワーク駆動治具と、前記第二ワーク固定治具が固定される第二ワーク駆動治具とからなり、前記第一ワーク駆動治具と前記第二ワーク駆動治具との相対的な位置関係を調整する、第三位置調整部をさらに備えていてもよい。
【0016】
(9)前記(1)~(8)のいずれか一つに記載のレーザー溶着装置において、前記レーザー光発振部による、レーザー光の発振方向を調整する方向調整部を、さらに備えていてもよい。
【0017】
(10)本発明の一態様に係るレーザー光の照射方法は、前記(1)~(9)のいずれか一項に記載のレーザー溶着装置を用いた、レーザー光の照射方法であって、前記第一ワークおよび前記第二ワークを、前記ワーク固定治具に取り付けるワーク取り付け工程と、前記第一ワークおよび前記第二ワークが取り付けられた前記ワーク固定治具を、前記ワーク駆動治具に取り付けるワーク固定治具取り付け工程と、前記第二ワークに対し、前記レーザー光の光路を調整する光路調整工程と、前記第二ワークに対し、調整した前記光路に沿って、前記第二ワークの融点以上の温度で前記レーザー光を本照射するレーザー光本照射工程と、を有する。
【0018】
(11)本発明の一態様に係るレーザー溶着部材の製造方法は、前記(1)~(9)のいずれか一つに記載のレーザー溶着装置を用いて、前記第二ワークに対するレーザー照射時間、レーザー照射強度、およびレーザー回転速度から、前記第二ワークの適切な溶着条件を求め、前記溶着条件を参照して、レーザー光の透過性を有する第一部材と、レーザー光の吸収性を有する第二部材とのレーザー溶着を行い、レーザー溶着部材を製造する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のレーザー溶着装置は、装置構成として、レーザー光発振部、ワークの固定治具、および駆動治具を備えており、それらの具体的な構成が確定しているため、ワークの加熱速度を確定させることができる。したがって、本発明のレーザー溶着装置では、新規の樹脂材または金属を含むワーク同士の適切な溶着条件について、容易に確定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第一実施形態に係るレーザー溶着装置の斜視図である。
図2図1のレーザー溶着装置の一部を拡大した図である。
図3図1のレーザー溶着装置を構成するワーク固定治具の斜視図である。
図4図2のワーク固定治具を分解した図である。
図5図1のレーザー溶着装置を構成するワーク駆動治具の斜視図である。
図6】本発明の第二実施形態に係るレーザー溶着装置の斜視図である。
図7】本発明の第三実施形態に係るレーザー溶着装置の斜視図である。
図8図7のレーザー溶着装置の変形例を示す図である。
図9】本発明の第四実施形態に係るレーザー溶着装置の斜視図である。
図10】(a)本発明の第五実施形態に係るレーザー溶着装置の斜視図である。(b)~(d)(a)のレーザー溶着装置を分解した場合の斜視図、平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した実施形態に係るレーザー溶着装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
<第一実施形態>
図1は、本発明の第一実施形態に係るレーザー溶着装置100の斜視図である。レーザー溶着装置100は、レーザー光の透過性を有する板状の第一ワークW1と、レーザー光の吸収性を有する板状の第二ワークW2と、をレーザー溶着することができるように構成されている。レーザー溶着装置100は、主に、レーザー光発振部101と、レーザー光発振部101側から、第一ワークW1、第二ワークW2を順に重ね、内部の所定の位置に固定(支持)するワーク固定治具102と、第一ワークW1および第二ワークW2(ワークW)を駆動させるワーク駆動治具103と、を備えている。
【0023】
レーザー光発振部101は、第一ワークW1を、高い透過率で透過するレーザー光を発振できるものとする。発振するレーザー光の種類については、第一ワークW1の材質等に応じて適宜変更されるものとする。
【0024】
図2は、図1のレーザー溶着装置100のうち、レーザー光発振部101周辺領域Rの構成を拡大した図である。レーザー光発振部101は、主に、光源(不図示)と接続された円柱状の光学ヘッド104と、光学ヘッド104を支持する板状の光学ヘッド支持部105と、で構成されている。光学ヘッド支持部105は、光学ヘッド104を挿通させる開口部105aを有している。光学ヘッド104は、その長手方向において一箇所のみを、開口部105aの内壁で支持されており、この一箇所を中心として回転できるように構成されている。開口部105aの近傍には、回転角度、鉛直方向における上下の位置を変えることにより、レーザー光の発振方向を調整し、レーザー光の照射位置を調整する方向調整部106が設けられている。
【0025】
方向調整部106の構成について限定されることはないが、例えば、図2に示すように、調整ねじ119aを用いて光学ヘッド104の回転角度、鉛直方向における上下の位置を調整する構成が挙げられる。ここでは、光学ヘッド支持部105は、光学ヘッド104を直接支持する第一光学ヘッド支持部105Aと、第一光学ヘッド支持部105Aと調整ねじ119aを介して連結され、光学ヘッド104を間接的に支持する第二光学ヘッド支持部105Bと、で構成されている。調整ねじ119aは、第二光学ヘッド支持部105Bを貫通する溝部105bに挿通され、一端が、第一光学ヘッド支持部105Aに固定されている。調整ねじ119aの他端は、溝部105bを通らない大きさを有しており、これを回転させることによって、調整ねじ119aに固定された第一光学ヘッド支持部105Aとともに、光学ヘッド104を回転させることができる。溝部105bは、鉛直方向に延びる形状を有しており、調整ねじ119aを溝部105bに沿って動かすことによって、第一光学ヘッド支持部105Aとともに、光学ヘッド104を鉛直方向に動かすことができる。
【0026】
図3は、図1のレーザー溶着装置100を構成するワーク固定治具102の斜視図である。図4は、図3の固定治具102を、2つの主要な部品である第一ワーク固定治具107と、第二ワーク固定治具108とに分解した図である。
【0027】
第一ワーク固定治具107は、主に、柱状部109と、その一方の底面109aにおいて、中央に取り付けられた第一板状部110と、外周に取り付けられた複数の第二板状部111と、で構成されている。
【0028】
柱状部の側面109bには、ワーク駆動治具103を構成する回転体を、柱状部109の周方向に沿って回転するように導く、溝109cが形成されている。第一ワーク固定治具107がワーク駆動治具103に取り付けられている場合、柱状部109は、駆動治具103の回転体に連動して回転する。
【0029】
第一板状部110上には、第二ワークW2、第一ワークW1が、それぞれの主面同士が重なるように、順に積層される。第一板状部110には、第一ワークW1、第二ワークW2を固定するワーク固定部110aが付設されている。ワーク固定部110aの構成について、特に制限されることはないが、本実施形態では、第一ワークW1、第二ワークW2の両方に対し、それぞれの主面の中央の位置同士を、固定ねじ110bで固定する場合について例示している。すなわち、第一ワークW1、第二ワークW2の両方に対し、主面の中央の位置において、積層方向に貫通し、第一板状部110の所定の位置に設けられた固定ねじ孔110cと重なる貫通孔が設けられている。第一ワークW1、第二ワークW2の貫通孔に固定ねじ110bを挿入し、貫通して反対側から突出した固定ねじ110bの先端を、固定ねじ孔110cに嵌合させることにより、第一板状部110に対する第一ワークW1、第二ワークW2の位置、向き等が固定されることになる。
【0030】
固定ねじ孔110cは、内側に固定ねじ110bに嵌合(螺号)可能なねじ山が設けられていてもよい。また、固定ねじ孔110cは貫通孔としてもよく、この場合は、固定ねじ110bを固定ねじ孔110cに挿通させた後、その先端をナット等の固定部材を用いて固定してもよい。
【0031】
複数の第二板状部111は、それぞれの側面が柱状部の底面109aに接するように、底面109aの外周に沿って、所定の隙間111aを空けて並んで立設されている。隙間111aの大きさについての制限はないが、外部から第一ワークW1と第二ワークW2との溶着状態を確認できる程度に空いていることが好ましい。また、複数の隙間のうち少なくとも一つが、第一ワーク固定治具107と、第二ワーク固定治具108とが合体している状態であっても、第一ワークW1、第二ワークW2の取り付け、取り外しを行える程度に空いていることが好ましい。
【0032】
これらのことを踏まえ、ワーク固定治具102としての操作性と安定性を考慮した好適な構成として、第二板状部111の数を三つとした場合について例示しているが、第二板状部111の数が制限されることはない。
【0033】
第二ワーク固定治具108は、主に、筒状部112と、その一方の開口端112aにおいて、外周に取り付けられた複数の第三板状部113と、で構成されている。筒状部112の中空部分は、第一ワークW1および第二ワークW2を、レーザー光が照射されるように露出させるための開口部112bとして機能する。
【0034】
筒状部の側面112cには、ワーク駆動治具103を構成する回転体114を、筒状部112の周方向に沿って回転するように導く、溝112dが形成されている。第二ワーク固定治具108が駆動治具103に取り付けられている場合、筒状部112は、駆動治具103の回転体114に連動して回転する。
【0035】
複数の第三板状部113は、それぞれの側面が筒状部の開口端112aに接するように、開口端112aに沿って、所定の隙間113aを空けて並んで立設されている。隙間113aの大きさについての制限はないが、第二板状部111同士の隙間と同様に、外部からの第一ワークW1と第二ワークW2との溶着状態の確認、第一ワークW1、第二ワークW2の取り付け、取り外しをできる程度に空いていることが好ましい。
【0036】
ワーク固定治具102には、レーザー光の照射方向からの平面視において、ワーク固定治具102の開口部112bに対し、第一ワークW1および第二ワークW2の一部が重なる(接触する)ように、二つのワークの位置調整を行う第一位置調整部(不図示)が設けられていることが好ましい。特に、レーザー溶着の対象領域を円とする場合、対象領域の中心に対して、第一ワークW1および第二ワークW2の重ねあわせた中心部を配置させることがより好ましい。
【0037】
ただし、第二ワーク固定治具108を第一ワーク固定治具107と合体させた際に、複数の第三板状部113のそれぞれが、複数の第二板状部111のそれぞれと一対一で対応する位置に立設されている。一対一で対応する第二板状部111と第三板状部113のうち、一方が、固定治具102の側壁の外側(外壁面)に凸部を有しており、他方が、固定治具102の側壁の内側(内壁面)に凹部を有している。ここでは、第二板状部111が凸部111bを有し、第三板状部113が凹部113bを有している場合について例示している。
【0038】
二つのワーク治具の合体時には、当該凸部と当該凹部とが嵌合されることにより、第三板状部113が第二板状部111に固定され、ひいては、第二ワーク固定治具108が第一ワーク固定治具107に固定される。
【0039】
ここでは、第二板状部の凸部111bが筒状部112側に延在し、第三板状部の凹部113bが柱状部109側に延在している。そのため、凸部111bと凹部113bとは、互いに平行な方向に延在しており、それらを互いに嵌合させることにより、共通する延在方向において互いに摺動させることができる。この摺動により、凸部111bと凹部113bとの嵌合部分の長さを変えることができるため、二つのワーク固定治具同士の距離を変えることができ、また、ワーク固定部110aと開口部112bとの距離を調整することができる。つまり、摺動可能な第二板状部の凸部111bと第三板状部の凹部113bとが、二つのワーク固定治具同士の相対的な位置関係を調整する、第二位置調整部として機能することになる。
【0040】
なお、凸部111bの所定の位置に突起部を設け、凹部113bの所定の位置に深さ方向に貫通する貫通孔を設けておけば、突起部と貫通孔の位置が重なったときに両者を嵌合させることができ、摺動のストッパーとしての機能を有することになる。
【0041】
ここでは、レーザー照射手段101に近い方に配置された第二固定治具108の位置が固定されている。そのため、嵌合部分の長さを変化させた場合には、第一ワーク固定治具107の位置が変化することになり、第一ワーク固定治具107とレーザー照射手段101との距離が変化する。つまり、第一ワーク固定治具107は、嵌合部分を長くすれば(領域を小さくする)、レーザー照射手段101から遠ざけることができ、嵌合部分を短くすれば(領域を大きくする)、レーザー照射手段101に近づけることができる。
【0042】
図5は、図1のレーザー溶着装置100を構成するワーク駆動治具103の斜視図である。ワーク駆動治具103は、第一ワークW1および第二ワークW2におけるレーザー光の被照射領域が所定の形態(例えば円形)になるように、ワーク固定治具102を回転させるものである。ワーク駆動治具103は、ワーク固定治具102のうち、第一ワーク固定治具107を回転可能に支持する第一ワーク駆動治具103Aと、第二ワーク固定治具108を回転可能に支持する第二ワーク駆動治具103Bと、からなる。
【0043】
第一駆動治具103Aと第二駆動治具103Bとの相対的な位置関係を調整する第三位置調整部(不図示)をさらに有していてもよい。この場合には、第一回転治具103Aと第二駆動治具103Bとの位置関係を調節することにより、第一ワーク固定治具107と第二ワーク固定治具108との位置関係を間接的に調整することができる。
【0044】
第一ワーク駆動治具103A、第二ワーク駆動治具103Bは、それぞれ、回転体114と、回転体114を支持する複数の回転体支持部115と、複数の回転体支持部115を固定する固定部116と、で構成されている。ここでは、第一ワーク固定治具107、第二ワーク固定治具108が、それぞれ四つの回転体114を用いて回転させられるように構成されている場合について、例示している。いずれの回転体114も、回転軸方向が平行に揃うように支持されている。
【0045】
第一ワーク固定治具107を回転させる四つの回転体114のうち二つが、固定部116の一方の側(図5では上側)に固定された回転体支持部115Aに支持され、他の二つが固定部116の他方の側(図5では下側)に固定された回転体支持部115Bに支持されている。また、第二ワーク固定治具108を回転させる四つの回転体114のうち二つが、固定部116の一方の側に固定された回転体支持部115Cに支持され、他の二つが固定部116の他方の側に固定された回転体支持部115Dに支持されている。
【0046】
ワーク固定治具102は、第一ワーク固定治具107、第二ワーク固定治具108に形成された溝109c、112dに、それぞれの回転体114が嵌るように、ワーク駆動治具103に対して取り付けられる。ワーク駆動治具103を用いて、取り付けたワーク固定治具102を回転させることにより、ワーク固定治具102の内部に固定された第一ワークW1および第二ワークW2も回転させることができる。この状態で、第一ワークW1および第二ワークW2に対してレーザー光を照射することにより、レーザー光は、第一ワークW1を透過し、第二ワークW2の円環状の領域に吸収され、発熱を起こすことによって、同領域を介して第一ワークW1と第二ワークW2を溶着させることができる。
【0047】
(レーザー光の照射方法)
本実施形態のレーザー溶着装置100を用いた、レーザー光の照射は、主に、次の工程を経て行うことができる。
【0048】
まず、ワークWを、レーザー光発振部101側から、第一ワークW1、第二ワークW2の順に重ねた状態で、ワーク固定治具102に取り付ける(ワーク取り付け工程)。
【0049】
次に、ワークWが取り付けられたワーク固定治具102を、第一ワーク回転治具103の回転体114が、第一ワーク固定治具10の溝109cに嵌るように、ワーク駆動治具103に取り付ける(ワーク固定治具取り付け工程)。
【0050】
次に、光源(不図示)から、レーザー光と同一の光路を進むガイド用の可視光を、レーザー光発振部101を介して、第二ワークW2に対して照射する。この時、照射光を目視により確認して、その照射光が被照射領域の一端から外れていた場合に、方向調整部を用いてその光路を調整する。(光路調整工程)なお、可視領域の波長を備えるレーザー光であれば、第二ワークW2の融点未満の温度(非溶着温度)でレーザー光を仮照射しながら、レーザー光の光路を調整することもできる。また、非可視光領域の波長を有するレーザー光を用いる場合、融点未満の温度で仮照射しながら、その仮照射状態をデジタル処理でモニターすることにより、そのレーザー光の位置を捉えることができる。そのため、非可視光領域のレーザー光を用いる場合は、デジタル処理を用いることで、上記可視光を用いたときと同様に、レーザー光の光路を調整することができる。
【0051】
次に、第二ワークW2に対し、方向調整部を用いて調整した光路に沿って、第二ワークW2の融点以上の温度(溶着温度)でレーザー光を本照射する(レーザー光本照射工程)。これにより、第二ワークW2の本照射された部分が、発熱して溶融することにより、第一ワークW1に対してレーザー溶着されることになる。
【0052】
(レーザー溶着部材の製造方法)
本実施形態のレーザー溶着装置100を用いることにより、レーザー溶着部材の製造を、主に、次の工程を経て行うことができる。
【0053】
まず、レーザー溶着装置100を用いて、第二ワークW2に対するレーザー照射時間、レーザー照射強度、およびレーザー回転速度、から第二ワークW2の適切な溶着条件を求める。次に、求めた溶着条件を参照して、レーザー光の透過性を有する第一部材と、レーザー光の吸収性を有する第二部材とのレーザー溶着を行うことにより、レーザー溶着部材を製造することができる。
【0054】
以上により、本実施形態に係るレーザー溶着装置100は、装置構成として、レーザー光発振部101、ワーク固定治具102、およびワーク駆動治具103を備えており、それらの具体的な構成が確定しているため、ワークの適切な溶着条件を確定させることができる。したがって、本実施形態に係るレーザー溶着装置100では、新規の樹脂材からなるワーク同士の適切な溶着条件について、容易に確定させることができる。
【0055】
本実施形態のレーザー溶着装置100では、固体状の樹脂材同士の溶着以外にも、例えば、第一ワークW1と第二ワークW2との間に、例えば、半固体状/液状の滑材や樹脂材料等を塗布した状態でのレーザー溶着試験を行うことが可能である。これにより、ワーク上に塗布したものと、ワークとの間でレーザー溶着の適否の評価といった試験を行うことも可能である。
【0056】
<第二実施形態>
図6は、本発明の第二実施形態に係るワーク固定治具102の斜視図である。本実施形態のワーク固定治具102では、第一板状部110上に、第二ワークW2を介して固定された第一ワークW1の上に、平坦な透明基板117が重ねられている。その他の構成については、第一実施形態のレーザー溶着装置100と同様であり、対応する箇所については、形状の違いによらず、同じ符号で示している。
【0057】
透明基板117の主面の面積は、第一ワークW1、第二ワークW2の主面の面積に比べて十分大きい。そのため、本実施形態では、透明基板117の主面の中央ではなく、外周付近の位置において、固定ねじ110bを貫通させ、固定ねじ110bの先端を第一板状部110上の外周付近の固定ねじ孔110cに嵌合させ、固定されている。この場合、第一ワークW1、第二ワークW2については、第一板状部110に対し、固定ねじ110bを貫通させずに固定することができる。
【0058】
<第三実施形態>
図7は、本発明の第三実施形態に係るワーク固定治具102の斜視図である。本実施形態のワーク固定治具102では、第一板状部110上に、パイプ状(筒状)部材118を挟んで第二ワークW2、第一ワークW1が順に重ねられている。第一実施形態と同様に、第一ワークW1、第二ワークW2の両方に対し、それぞれの主面の中央の位置において固定ねじ110bが貫通し、パイプ状部材118の内部を経由して突出した固定ねじ110bの先端が、第一板状部110上の固定ねじ孔110cに固定されている。その他の構成については、第一実施形態のレーザー溶着装置100と同様であり、対応する箇所については、形状の違いによらず、同じ符号で示している。
【0059】
パイプ状部材118の長手方向と直交する断面の面積は、第一ワークW1、第二ワークW2の主面の面積に比べて十分小さい。そのため、第一ワークW1、第二ワークW2の主面の第一板状部110との接触面積が小さくなり、その分、第一ワークW1、第二ワークW2から第一板状部110への放熱を抑えることができる。そのため、本実施形態では、レーザー照射による第二ワークW2の加熱を効率よく行うことができる。
【0060】
<第三実施形態の変形例>
図8は、図7のワーク固定治具102の変形例を示す図である。パイプ状(筒状)部材118を吸収性樹脂材、または透過性樹脂材により成形しても良い。例えば、図8に示すように、第二ワークW2の代わりに、パイプ状(筒状)部材118を吸収性樹脂材で成形し、パイプ状部材118の一端側に第一ワークW1を配置する。この状態のワークに対して、レーザー光を照射しながら、ワーク駆動治具が回転させることにより、パイプ状部材118が加熱され、所定の溶着条件に到達した段階で、第一ワークW1とパイプ状部材118との溶着が開始される。その後、冷却等の過程を経て、第一ワークW1とパイプ状部材118とが溶着されたワークを得ることができる。
【0061】
<第四実施形態>
図9は、本発明の第四実施形態に係るワーク固定治具102の斜視図である。本実施形態のワーク固定治具102では、第三実施形態と同様に、第一板状部110上に、パイプ状部材118を挟んで第二ワークW2、第一ワークW1が重ねられている。さらに、第二実施形態と同様に、第一ワークW1の上に、平坦な透明基板117が重ねられている。その他の構成については、第一実施形態のレーザー溶着装置100と同様であり、対応する箇所については、形状の違いによらず、同じ符号で示している。
【0062】
本実施形態では、第三実施形態と同様に、第一ワークW1、第二ワークW2を、第一板状部110に対して、ねじを貫通させずに固定することができる。さらに、本実施形態では、第三実施形態と同様に、第一板状部110への放熱を抑えることができるため、レーザー照射による第二ワークW2の加熱を効率よく行うことができる。
【0063】
<第五実施形態>
図10(a)は、本発明の第五実施形態に係るワーク固定治具102の斜視図である。図10(b)~(d)は、ワーク固定治具102を分解した場合の斜視図、平面図である。以下に挙げる構成以外の構成については、第一実施形態のレーザー溶着装置100と同様であり、対応する箇所については、形状の違いによらず、同じ符号で示している。
【0064】
図10(b)~(d)に示すように、例えば、第二ワーク固定治具108から延出する延出部108Aは、第一ワーク固定治具107の挿通部107Bに差し込まれるようにして用いることができる。この場合、第一ワーク固定治具107と第二ワーク固定治具108との嵌合は、第一実施形態のように、凸部と凹部とを嵌合させる場合に比べて容易に行うことができる。
【0065】
さらに、嵌合部分が必要ないため、第一ワーク固定治具107と第二ワーク固定治具108との距離を、第一実施形態よりも狭めることができる。また、第一ワーク固定治具107および第二ワーク固定治具108には、それぞれ、溝が形成されているため、第一実施形態と同じように、ワーク駆動治具に設置することができる。
【0066】
また、嵌合部分が必要ないため、例えば、ワーク駆動治具で、第一ワーク固定治具107と第二ワーク固定治具108との距離を、一定に保つようにすることができる。この場合の構造的はシンプルであるため、第一実施形態のワーク固定治具よりも生産コストを低減させることができる。
【0067】
また、第二ワーク固定治具108には、多数の固定ねじ穴110cが設けられている。これにより、ワークを固定する位置の選択度が増加する。
【0068】
また、本実施形態の第一ワーク固定治具107においては、第一実施形態の第二板状部111に対応するものが存在していない。このことから、第一ワーク固定治具107のワーク取り付け面側に突出するものがなく、ワークの取り付け時において、障害となるものが存在せず、取り付けの操作性が向上する。
【符号の説明】
【0069】
100・・・レーザー溶着装置、101・・・レーザー光発振部
102・・・ワーク固定治具、103・・・ワーク駆動治具
103A・・・第一ワーク駆動治具、103B・・・第二ワーク駆動治具
104・・・光学ヘッド、105・・・光学ヘッド支持部
105A・・・第一光学ヘッド支持部、105B・・・第二光学ヘッド支持部
105a・・・開口部、105b・・・溝部
106・・・方向調整部、107・・・第一ワーク固定治具
108・・・第二ワーク固定治具、109・・・柱状部
109a・・・柱状部の底面、109b・・・柱状部の側面
109c・・・柱状部の溝、110・・・第一板状部、110a・・・ワーク固定部
110b・・・固定ねじ、110c・・・固定ねじ孔
111・・・第二板状部、111a・・・隙間、111b・・・第二板状部の凸部
112・・・筒状部、112a・・・筒状部の開口端
112b・・・筒状部の開口部、112c・・・筒状部の側面
112d・・・筒状部の溝、113・・・第三板状部、113a・・・隙間
113b・・・第三板状部の凹部、114・・・回転体
115、115A、115B、115C、115D・・・回転体支持部
116・・・固定部、117・・・透明基板、118・・・パイプ状部材
119a・・・調整ねじ
W・・・ワーク、W1・・・第一ワーク、W2・・・第二ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10