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  • 特許-バランサシャフト 図1
  • 特許-バランサシャフト 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】バランサシャフト
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/12 20060101AFI20230418BHJP
   F16F 15/126 20060101ALI20230418BHJP
   F16F 15/26 20060101ALI20230418BHJP
   F16D 1/06 20060101ALI20230418BHJP
   F16C 3/02 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
F16F15/12 J
F16F15/126 D
F16F15/26 H
F16D1/06 200
F16C3/02
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019112776
(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公開番号】P2020204372
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000185488
【氏名又は名称】株式会社オティックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】矢野 寿行
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 政範
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-032748(JP,U)
【文献】実開昭61-077446(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/12
F16F 15/126
F16F 15/26
F16D 1/06
F16C 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト本体と、
前記シャフト本体に固定され、重心が前記シャフト本体の中心軸線に対して偏心しているウェイトと、
前記シャフト本体における径方向外側に取り付けられ、前記シャフト本体と同軸で回転する歯車と、
前記シャフト本体の外周面及び前記歯車の内周面の間に介在されているゴム製のダンパと
を備えているバランサシャフトであって、
前記シャフト本体の内部には、オイルを導く油路が区画されており、
前記ダンパの外面と前記シャフト本体の外周面とによって、前記油路からのオイルが導かれるオイル空間が区画されており、
前記シャフト本体の外周面と前記歯車との間に、前記油路を流通するオイルを排出する隙間を有する
ことを特徴とするバランサシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バランサシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のシャフトのダンパ構造においては、中心軸から放射状に複数のハブが延びている。各ハブの径方向外側の端には、筒状の外周筒部が固定されている。外周筒部の外周面には、ゴム製のダンパを介して振動リングが取り付けられている。特許文献1のダンパ構造では、中心軸及び振動リングが共に回転する。そして、中心軸の回転トルクと振動リングの回転トルクとの間で差が生じたときには、ダンパが周方向にねじれるように弾性変形することで、回転トルクの差が吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-115666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようなシャフトのダンパ構造においては、ダンパが弾性変形・弾性復帰を繰り返すことで熱が発生する。仮に、ダンパが過度に高温になると、ダンパの弾性変形の特性が変化してしまい、期待通りのダンパ性能を得られないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、シャフト本体と、前記シャフト本体に固定され、重心が前記シャフト本体の中心軸線に対して偏心しているウェイトと、前記シャフト本体における径方向外側に取り付けられ、前記シャフト本体と同軸で回転する歯車と、前記シャフト本体の外周面及び前記ギアの内周面の間に介在されているゴム製のダンパとを備えているバランサシャフトであって、前記ダンパの外面と前記シャフト本体の外周面とによってオイル空間が区画されており、前記シャフトの内部には、前記オイル空間へとオイルを導くための油路が区画されている。
【0006】
上記構成によれば、ダンパの外面とシャフト本体の外周面とによって区画されるオイル空間にオイルが導かされ、当該オイルによってダンパを冷却できる。したがって、ダンパが弾性変形・弾性復帰を繰り返して発熱しても、ダンパが過度に高温になることは防げる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】バランサシャフトの分解斜視図。
図2】バランサシャフトの部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、バランサシャフトの実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、バランサシャフトのシャフト本体10は、円棒状の軸部11を備えている。なお、図1では、軸部11の中心軸線J方向一方側の一部のみを図示している。軸部11の外周面からは、フランジ部12が径方向外側に向かって張り出している。フランジ部12は、全体として円盤状になっている。フランジ部12の中心軸線は、シャフト本体10の中心軸線Jに一致している。フランジ部12は、中心軸線J方向において、軸部11の端面から離間した箇所に配置されている。この実施形態では、軸部11及びフランジ部12は、鉄系金属の一体成形物である。そして、シャフト本体10は、軸部11及びフランジ部12を含んで構成されている。
【0009】
軸部11の端部には、板状のウェイト15が固定されている。ウェイト15は、平面視で略扇形状になっている。ウェイト15の扇の要の部分近傍、すなわち扇形状の角度中心近傍においては、当該ウェイト15の厚み方向に円形状の取付孔15Aが貫通している。取付孔15Aの内径は、シャフト本体10の軸部11の外径と同一になっている。そして、図2に示すように、ウェイト15の取付孔15A内には、軸部11の端部が嵌め込まれている。上述のとおり、ウェイト15の形状は略扇形状であるため、ウェイト15の重心は、軸部11の中心軸線Jに対して偏心している。また、ウェイト15は、シャフト本体10の回転に伴って一体的に回転する。
【0010】
図1に示すように、シャフト本体10におけるフランジ部12の径方向外側には、円環状の歯車20が取り付けられている。この実施形態では、歯車20は、径方向内側に位置するインサート部21と、インサート部21より径方向外側に位置する歯車本体25とで構成されている。
【0011】
図2に示すように、インサート部21は、円環状の環状部22を備えている。環状部22の内径は、シャフト本体10におけるフランジ部12の外径と略同一になっている。環状部22の内側には、シャフト本体10におけるフランジ部12が挿入されている。すなわち、インサート部21は、フランジ部12の径方向外側に取り付けられている。なお、インサート部21は、シャフト本体10のフランジ部12に固定されてなく、環状部22の内周面とフランジ部12の外周面との間で摺動可能になっている。
【0012】
環状部22の外周面からは、径方向外側に向って突起部23が突出している。突起部23は、環状部22の周方向全域に亘って延びている。突起部23は、径方向外側に向かうほど中心軸線J方向の幅が広くなる断面視テーパ状になっている。
【0013】
環状部22における中心軸線J方向一方側の端面においては、凹部24が窪んでいる。凹部24は、環状部22の周方向全域に亘って延びている。凹部24は、環状部22の径方向内側の縁にまで至っている。すなわち、凹部24は、環状部22の径方向内側に向けて開放されている。
【0014】
凹部24は、中心軸線Jを含む断面で断面視すると2段階で窪む形状となっている。具体的には、凹部24の1段階目の第1凹部24Aは、環状部22における中心軸線J方向一方側の端面から窪んでいる。そして、凹部24の2段階目の第2凹部24Bは、第1凹部24Aの底面から窪んでいる。
【0015】
歯車20における歯車本体25は、円環状の歯車になっている。この実施形態では、歯車本体25の外周部には、中心軸線Jに対して傾斜するように歯部が設けられている。すなわち、歯車本体25は、いわゆる斜歯歯車である。歯車本体25の内径は、インサート部21における環状部22の外径と略同一になっている。歯車本体25の内周面においては、取付溝25Aが窪んでいる。取付溝25Aは、歯車本体25の周方向の全体に亘って延びている。取付溝25Aの断面視形状は、インサート部21の突起部23の形状に対応している。すなわち、取付溝25Aは、径方向外側に向かうほど中心軸線J方向の幅が広くなる断面視テーパ状になっている。
【0016】
歯車本体25の取付溝25Aには、インサート部21の突起部23が嵌め込まれている。これにより、歯車本体25とインサート部21とは、互いに相対移動不能に一体化されている。そして、これら歯車本体25とインサート部21は、シャフト本体10の回転に伴い、中心軸線Jを中心として回転する。また、この実施形態では、歯車本体25及びインサート部21の材質は、同一の樹脂材料である。
【0017】
インサート部21の凹部24には、フッ素ゴム製のダンパ31が挿入されている。ダンパ31の基部32は、円環板状になっている。基部32の厚み、すなわち中心軸線J方向の寸法は、インサート部21における第1凹部24Aの深さと略同一になっている。基部32の内径は、シャフト本体10におけるフランジ部12の外径よりも小さくなっている。また、基部32の外径は、インサート部21における第1凹部24Aの内径よりも小さくなっている。
【0018】
基部32における中心軸線方向一方側の面からは、挿入部33が突出している。挿入部33は、基部32における周方向の全域に亘って円環状に延びている。挿入部33の突出長、すなわち中心軸線J方向の寸法は、インサート部21における第2凹部24Bの深さよりも小さくなっている。挿入部33の幅、すなわち径方向の寸法は、インサート部21における第2凹部24Bの溝幅と同じになっている。挿入部33の突出先端面においては、溝部34が窪んでいる。溝部34は、挿入部33の周方向の全域に亘って円環状に延びている。
【0019】
ダンパ31における挿入部33は、インサート部21における第2凹部24Bとシャフト本体10のフランジ部12との間の空間に挿入されている。ダンパ31の挿入部33が上記空間に挿入された状態では、ダンパ31における基部32がインサート部21における第1凹部24Aの底面に当接している。上述したとおり、挿入部33の突出長は、第2凹部24Bの深さよりも小さい。したがって、挿入部33の突出先端面は、第2凹部24Bの底面から離間している。その結果、ダンパ31における挿入部33の突出先端面、シャフト本体10におけるフランジ部12の外周面、及びインサート部21における第2凹部24Bの内面によって、オイル空間Rが区画されている。また、挿入部33の突出先端面に溝部34が設けられているので、当該溝部34の内部空間も、オイル空間Rの一部を構成している。
【0020】
シャフト本体10における軸部11の内部には、図示しないオイルポンプからのオイルが流通する主油路41が区画されている。主油路41は、軸部11の中心軸線J上を延びている。主油路41は、軸部11におけるウェイト15が固定されている側の端面で開口している。そして、主油路41の開口は、球状の栓45によって塞がれている。
【0021】
主油路41からは、径方向外側に向って連絡油路42が延びている。連絡油路42は、軸部11及びフランジ部12の内部を通って、フランジ部12の外周面にまで至っている。すなわち、連絡油路42は、フランジ部12の外周面で開口している。連絡油路42の開口の一部は、オイル空間Rに臨んでいる。したがって、オイル空間Rには、主油路41及び連絡油路42を介してオイルが供給される。
【0022】
本実施形態の作用について説明する。
上記実施形態のバランサシャフトの歯車20には、クランクシャフトの回転トルクが伝達される図示しない他の歯車が噛み合っている。内燃機関の駆動に伴いクランクシャフトが回転すると、それと連動してバランサシャフトも回転する。ここで、バランサシャフトにおけるウェイト15の重心位置は、中心軸線Jに対して偏心しているので、バランサシャフトの回転に伴って、ウェイト15の重心位置も中心軸線Jを中心として回転する。これにより、内燃機関のピストンの往復運動に伴って生じる慣性力や慣性偶力の一部が相殺される。
【0023】
また、内燃機関が駆動しているときには、内燃機関やその他の機器にオイルを圧送するためのオイルポンプも駆動されている。そのため、バランサシャフトにおけるシャフト本体10の主油路41内にも、オイルポンプからオイルが圧送される。主油路41に圧送されたオイルの一部は、連絡油路42を介してオイル空間R内にも供給される。また、連絡油路42を流通したオイルの一部は、シャフト本体10におけるフランジ部12の外周面とインサート部21における環状部22の内周面との間のわずかな隙間を介して外部へと流出する。
【0024】
内燃機関の負荷が急変するなどしてクランクシャフトの回転トルクが急変すると、バランサシャフトの歯車本体25に伝達される回転トルクも急変する。すると、歯車20をシャフト本体10に対してねじるような力が、バランサシャフトに作用する。本実施形態ではダンパ31がフッ素ゴム製で相応の弾性力を有するので、上述のねじるような力が作用したときには、ダンパ31が周方向にねじれるように弾性変形して、回転トルクの急変に伴うショックを吸収する。
【0025】
本実施形態の効果について説明する。
(1)上記実施形態では、バランサシャフトの歯車20に入力される回転トルクが急変したときには、ダンパ31により回転トルクの急変に伴うショックを吸収する。このとき、ダンパ31は、弾性変形・弾性復帰を繰り返すことに伴い発熱する。すなわち、ダンパ31は、回転トルクの急変に伴うショックを熱に変換することにより減衰する。そして、上記実施形態では、オイル空間Rに供給されるオイルによって、ダンパ31が発した熱が持ち去られ、ダンパ31が冷却される。したがって、ダンパ31が回転トルクの急変に伴うショックを吸収したときに、当該ダンパ31が過度に高温になることは防げる。
【0026】
(2)上記実施形態では、ダンパ31における挿入部33の突出先端面に溝部34が設けられていて、当該溝部34の内部空間もオイル空間Rの一部として機能する。そのため、オイル空間Rの容積を大きくすることができ、オイル空間R内のオイルの温度が過度に高くなることを防げる。
【0027】
(3)上記実施形態では、シャフト本体10におけるフランジ部12の外周面とインサート部21における環状部22の内周面との間にオイルを供給するための連絡油路42が、オイル空間Rにオイルを供給するための油路としての機能を兼ねている。そのため、オイル空間Rにオイルを供給するための油路として個別の油路を設けることに起因して、シャフト本体10の加工が複雑化するといった弊害は生じない。
【0028】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・シャフト本体10の形状は上記実施形態の例に限らない。例えば、シャフト本体10がフランジ部12を備えてなく、軸部11の外周面に歯車20が取り付けられていてもよい。
【0029】
・中心軸線J方向においてシャフト本体10に対するウェイト15の固定位置は、軸部11の端部に限らない。バランサシャフトと内燃機関のピストンとの位置関係などに応じて、軸部11の端部以外の箇所にウェイト15を固定してもよい。
【0030】
・同様に、中心軸線J方向においてシャフト本体10に対する歯車20の取り付け位置も適宜変更できる。例えば、中心軸線J方向においてシャフト本体10の中央部に歯車20を取り付けてもよい。
【0031】
・歯車20の構造は適宜変更できる。例えば、インサート部21と歯車本体25とを組み付けて歯車20とするのではなく、歯車20を一体成形物として製造してもよい。また、3つ以上の部材を組み付けて歯車20としてもよい。
【0032】
・ダンパ31の材質は、フッ素ゴムに限らず、歯車20及びシャフト本体10よりも弾性変形しやすいゴム製であればよい。
・ダンパ31の形状は、シャフト本体10におけるフランジ部12の外周面と歯車20におけるインサート部21の内周面との間に挿入できる形状であれば問わない。例えば、一般にオーリングとして用いられている部材のような、基部32及び挿入部33の区別のない単純な円環状であってもよい。
【0033】
・ダンパ31における溝部34を省略してもよい。この場合、基部32からの挿入部33の突出長を調整すれば、オイル空間Rの容積も調整できる。
・オイル空間Rがダンパ31の外面とシャフト本体10の外周面によって区画されていてもよい。具体的には、シャフト本体10におけるフランジ部12の外周面と歯車20の内周面との間にダンパ31が介在されていて、シャフト本体10におけるフランジ部12の外周面と歯車20の内周面とが直接的に接触していない構造であってもよい。この場合には、ダンパ31の内周面とシャフト本体10の外周面とによってオイル空間Rを区画すればよい。
【符号の説明】
【0034】
10…シャフト本体、11…軸部、12…フランジ部、15…ウェイト、15A…取付孔、20…歯車、21…インサート部、22…環状部、23…突起部、24…凹部、24A…第1凹部、24B…第2凹部、25…歯車本体、31…ダンパ、32…基部、33…挿入部、34…溝部、41…主油路、42…連絡油路、45…栓、J…中心軸線、R…オイル空間。
図1
図2