(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】陽極接続構造、溶融塩電解装置、溶融塩電解方法及び、金属マグネシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20230418BHJP
C25C 3/04 20060101ALI20230418BHJP
C22B 26/22 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C25C7/02 308Z
C25C3/04
C22B26/22
(21)【出願番号】P 2019140340
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 純也
(72)【発明者】
【氏名】林 辰美
(72)【発明者】
【氏名】秋元 文二
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-518143(JP,A)
【文献】特開2003-193281(JP,A)
【文献】実開昭63-094966(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 26/22
C25C 3/04,7/00,7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を溶融塩浴とする電解槽と、少なくとも一対の陽極及び陰極を含む電極とを備え、溶融塩の電気分解を行う溶融塩電解装置であって、
前記陽極と外部電源との接続部分に、炭素製の陽極部材と、前記陽極部材と電気的に接続される導電部材とを備える陽極接続構造
を有し、
前記陽極接続構造の前記陽極部材と前記導電部材との間に、炭素製の導電性シートが挟み込まれて配置されて
いる
溶融塩電解装置。
【請求項2】
前記陽極部材の厚みが50mm~300mmであり、前記導電性シートの厚みが0.2mm~3.0mmである請求項1に記載の
溶融塩電解装置。
【請求項3】
前記陽極接続構造が、当該陽極接続構造の厚み方向で、前記導電部材の外側に配置された冷却ジャケットをさらに備え、
前記陽極接続構造の前記導電部材と前記冷却ジャケットとの間に、炭素製のシート部材が挟み込まれて配置されて
いる請求項1又は2に記載の
溶融塩電解装置。
【請求項4】
前記導電部材が、銅もしくは銅合金又は、アルミニウムもしくはアルミニウム合金からなり、該導電部材の電気抵抗率が1.0×10
-7Ω・m以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の
溶融塩電解装置。
【請求項5】
請求項
1~4のいずれか一項に記載の溶融塩電解装置を用いて、前記溶融塩としての塩化マグネシウムの電気分解を行う溶融塩電解方法。
【請求項6】
前記電気分解の間に、溶融塩浴の溶融状態を維持するとともに前記陽極を溶融塩浴中に浸漬させたまま、前記電極への通電を一時的に停止する通電停止工程を含む請求項
5に記載の溶融塩電解方法。
【請求項7】
前記通電停止工程で、前記電解槽内に含まれる電解室及び回収室のうち、少なくとも回収室内の溶融塩浴の温度を650℃以上に維持する請求項
6に記載の溶融塩電解方法。
【請求項8】
請求項
5~
7のいずれか一項に記載の溶融塩電解方法を用いた塩化マグネシウムの電気分解により、金属マグネシウムを製造する、金属マグネシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭素製の陽極部材と、その陽極部材と電気的に接続される導電部材とを備える陽極接続構造、溶融塩電解装置、溶融塩電解方法及び、金属マグネシウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、クロール法による金属チタンの製造時に副次的に生成される塩化マグネシウムを金属マグネシウムと塩素に分解する際等には、溶融塩電解装置を用いて、電解槽の内部を溶融塩浴として溶融塩の電気分解を行う溶融塩電解が行われる。
溶融塩電解では一般に、電解槽の内部の溶融塩浴に浸した電極間に電圧を印加することにより、塩化マグネシウム等の金属塩化物を含有する溶融塩が、金属マグネシウム等の溶融金属と塩素等のガスとに分解される。
【0003】
このような電極に含まれる陽極及び陰極のうち、陽極を構成する黒鉛等の炭素製の陽極部材は、その一方の端部を溶融塩電解装置の電解槽内の溶融塩浴に浸漬する浸漬端部とし、他方の端部を溶融塩電解装置から外部に露出する露出端部として、溶融塩電解装置に配置される。そして陽極は、陽極部材を露出端部の近傍で、銅製ブスバー等の導電部材と電気的に接続することにより、外部電源に接続されて、陰極との間での電圧の印加が可能になる。
【0004】
陽極部材と導電部材との接続は、平板等の板状の陽極部材の両側のそれぞれに各導電部材を配置するとともに、それらの陽極部材及び導電部材を外側からボルト及びナット等その他の機構で挟んで加圧力の作用下で固定することにより行われることがある。これに類似する構造は、特許文献1等に示されている。なお特許文献1では、「100℃以上250℃以下の融点を有する低融点金属又は低融点合金からなる電極板の少なくとも一方の主面の一辺近傍に、該一辺の長さ以上の長さを有し、上記電極板の融点よりも高い融点を有する金属又は合金からなる保持部材が面接触により取り付けられていることを特徴とする陽極」が開示されている。
【0005】
特許文献2には、「フッ化物イオンを含有する電解浴を用いてフッ素含有物質を電解合成するために使用する電解用陽極であって、少なくともその表面が導電性炭素質材料から成る導電性基体、および該基体の少なくとも一部に被覆されたダイヤモンド構造を有する導電性炭素質皮膜を含んで成ることを特徴とする電解用陽極」が記載されている。
【0006】
なお、上述したところとは無関係であるが、特許文献3には、「厚さ方向に比べて面方向の熱伝導率が大きい、熱異方性を有する膨張黒鉛シートに関する」ものとして、「面方向の熱伝導率が、350W/(m・K)以上であることを特徴とする膨張黒鉛シート」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-208871号公報
【文献】特開2006-249557号公報
【文献】特開2006-62922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した陽極では、溶融塩浴から伝わる熱により陽極部材の露出端部側が比較的高温になると、ボルト等の機構が熱膨張に起因して緩むことがある。この場合、陽極部材と導電部材との間に隙間が生じて、その隙間に空気が入り込むことが可能になる。それにより、高温下で導電部材の特に陽極部材との接触面が酸化し、そこで接触抵抗が増大するという問題がある。接触抵抗の増大は、電力ロスの増加を招くので望ましくない。
【0009】
たとえば、陽極部材の露出端部側で導電部材の外側に冷却ジャケットを配置した場合、通常の操業時は、冷却ジャケットによる冷却で露出端部側の温度上昇が抑制される。しかしながら、操業停止時等に前記冷却ジャケットの作動を停止させたときは、溶融状態を維持するべく高温に維持される溶融塩浴からの伝熱により、上述したような導電部材への酸化被膜の形成及び、それによる接触抵抗の増大の問題が生じる。
なお、一時的な操業停止、すなわち一時的に電極への通電を停止し溶融塩の電気分解を停止した状態であっても、早期操業復帰の観点から溶融塩浴は溶融状態に保持することがある。このとき、電気分解を停止した状態で陽極部材の冷却を継続すると、その影響により電気分解で生成した金属が電極間で固化する場合がある。電極間におけるこのような金属の固化を回避するため冷却ジャケットの作動を停止させた際に、上記のような問題が生じうる。
【0010】
この発明の目的は、陽極部材と電気的に接続される導電部材の酸化による接触抵抗の増大を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は鋭意検討の結果、陽極部材と導電部材との間に炭素製の導電性シートを挟み込んで配置することにより、それらを押え付ける機構が緩んでも、炭素製の導電性シートが有する可撓性の故に陽極部材と導電部材との間への空気の流入が防止されることを見出した。
【0012】
この発明の陽極接続構造は、炭素製の陽極部材と、前記陽極部材と電気的に接続される導電部材とを備えるものであって、前記陽極部材と前記導電部材との間に、炭素製の導電性シートが挟み込まれて配置されてなるものである。
【0013】
前記陽極部材の厚みは50mm~300mmであり、前記導電性シートの厚みは0.2mm~3.0mmであることが好ましい。
【0014】
上記の陽極接続構造は、当該陽極接続構造の厚み方向で、前記導電部材の外側に配置された冷却ジャケットをさらに備えることがある。この場合、前記導電部材と前記冷却ジャケットとの間に、炭素製のシート部材が挟み込まれて配置されていることが好ましい。
【0015】
なお、前記導電部材は、銅もしくは銅合金又は、アルミニウムもしくはアルミニウム合金からなり、該導電部材の電気抵抗率が1.0×10-7Ω・m以下であることがある。
【0016】
この発明の溶融塩電解装置は、内部を溶融塩浴とする電解槽と、少なくとも一対の陽極及び陰極を含む電極とを備え、溶融塩の電気分解を行うものであって、前記陽極と外部電源との接続部分に、上記のいずれかの陽極接続構造を有するものである。
【0017】
この発明の溶融塩電解方法は、上記の溶融塩電解装置を用いて、前記溶融塩としての塩化マグネシウムの電気分解を行うというものである。
【0018】
上記の溶融塩電解方法では、前記電気分解の間に、溶融塩浴の溶融状態を維持するとともに前記陽極を溶融塩浴中に浸漬させたまま、前記電極への通電を一時的に停止する通電停止工程を含むことが好ましい。
【0019】
また前記通電停止工程では、前記電解槽内に含まれる電解室及び回収室のうち、少なくとも回収室内の溶融塩浴の温度を650℃以上に維持することが好ましい。
【0020】
この発明の金属マグネシウムの製造方法は、上記のいずれかの溶融塩電解方法を用いた塩化マグネシウムの電気分解により、金属マグネシウムを製造するというものである。
【発明の効果】
【0021】
この発明の陽極接続構造によれば、陽極部材と電気的に接続される導電部材の酸化による接触抵抗の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の一の実施形態の陽極接続構造を有する陽極を設けた溶融塩電解装置の一例を示す縦断面図である。
【
図2】
図1の溶融塩電解装置が備える電極を示す、
図1のII-II線に沿う断面図である。
【
図3】
図1の陽極の陽極接続構造を示す、
図1のII-II線に沿う拡大断面図である。
【
図4】他の実施形態の陽極接続構造を示す、
図3と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1に縦断面図で例示する溶融塩電解装置1は、たとえばAl
2O
3を含む耐火煉瓦その他の適切な材料からなる容器状の電解槽2と、陽極3a及び陰極3bを含む電極3とを備える。なお、溶融塩電解装置1はさらに、電解槽2の上方側の開口部を覆蓋する蓋部材4、ならびに、図示しないが、電解槽2の内部の回収室2b等に配置されて溶融塩浴の温度調整を行う熱交換器としての温度調整管等を備えることがある。
【0024】
ここで、この溶融塩電解装置1は、電解槽2の内部に、
図1に示すところでは実質的に深さ方向(
図1の上下方向)に沿って配置された隔壁5をさらに備えるものである。隔壁5により、電解槽2の内部は、
図1の右側に位置して電極3が配置された電解室2aと、左側に位置し、電解室2aでの電気分解により得られた溶融金属が流れ込んで該溶融金属が溶融塩との密度差により上方側に溜まる回収室2bとに区画される。隔壁5は、電解槽2の上方側の蓋部材4に近接させて配置されている。これにより、電解槽2の下方側の底面との間に、回収室2bから電解室2aへの溶融塩の移動を可能にする溶融塩循環路5aが形成されている。また、隔壁5内に設けた溶融金属流路5bにより、電解室2aから回収室2bへの溶融金属の流入が可能になる。
【0025】
またここで、電解室2aに配置された電極3は、少なくとも、外部電源PSに接続された陽極3a及び陰極3bを有する。これらの陽極3a及び陰極3bでは、たとえばMgCl2→Mg+Cl2等といった所定の反応に基いて、陽極3aの表面で酸化反応により塩素等のガスが生じるとともに、陰極3bの表面で還元反応により金属マグネシウム等の溶融金属が生成される。
【0026】
電極3は、少なくとも陽極3a及び陰極3bを有するものであれば、溶融塩中の金属塩化物の電気分解を行うことができる。一方、電極3は、電気分解の生成効率向上等の観点より、
図2から解かるように、陽極3aと陰極3bとの間に、陽極3a及び陰極3b間への電圧の印加によって分極する一枚以上の複極3cをさらに有することが好ましい。この例では、複極3cは二枚としている。但し、このような複極3cは必ずしも必要ではない。なお、陽極3aは黒鉛等の炭素製の陽極部材6aを含むことが一般的である。また陰極3bは、鋼又は黒鉛等の炭素製、複極3cは黒鉛等の炭素製とすることがある。
【0027】
溶融塩電解装置1を用いて行うことのできる溶融塩電解では、たとえば、650℃~700℃程度の高温の溶融塩浴で塩化マグネシウムを電気分解することにより、
図1に示すように、溶融金属として金属マグネシウム(Mg)が生成されるとともに、ガスとして塩素(Cl
2)が発生する。なお、溶融塩電解で生成された金属マグネシウムは、金属チタンを製造するクロール法における四塩化チタンの還元に、また塩素ガスは、チタン鉱石の塩化にそれぞれ用いることができる。この電気分解の原料とする塩化マグネシウムとしては、クロール法で副次的に生成されるものを使用可能である。
【0028】
この溶融塩電解を詳説すると、溶融塩浴の対流により、
図1に示すように、溶融塩が、回収室2bから電解槽2の底面側の溶融塩循環路5aを経て電解室2aに流動する。電解室2aでは、溶融塩浴中の塩化マグネシウムが電気分解されて、電解室2aで金属マグネシウムが生成される。そしてこの金属マグネシウムは、隔壁5の浴面Sb側の溶融金属流路5bを通って回収室2bに流入する。その後、溶融塩に対する比重の小さい金属マグネシウムは、回収室2bの浅い箇所に浮上してそこに溜まる。回収室2bで浮上した金属マグネシウムは、図示しないポンプ等により回収することができる。したがって、これによれば、溶融塩中の塩化マグネシウムを電気分解することにより、溶融金属としての金属マグネシウムを製造することができる。
【0029】
なお溶融塩浴は一般に、上記の塩化マグネシウムの他、支持塩を含む。この支持塩は、塩化マグネシウムと混合した際に晶出温度を低下させ、かつ、粘度を低下させる電解質である。支持塩は具体的には、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、フッ化マグネシウム(MgF2)及びフッ化カルシウム(CaF2)からなる群から選択される少なくとも一種とすることができる。これら支持塩の含有量を適宜調整して、例えば650℃~700℃程度のマグネシウムの融点付近の温度で溶融状態の溶融塩浴を構成できる。
【0030】
ところで、陽極3aでは、平板状等の陽極部材6aの一方の端部を電解槽2内の溶融塩浴に浸漬する浸漬端部7aとするとともに、他方の端部を蓋部材4から外部に突出して露出する露出端部7bとして配置されている。この陽極3aは、陽極部材6aの露出端部7bに、
図1及び
図3に示すような、溶融塩電解装置1の外部にある外部電源PSに接続するための陽極接続構造6を有する。言い換えれば、溶融塩電解装置1は、陽極3aと外部電源PSとの接続部分に、陽極接続構造6を有するものである。
【0031】
陽極接続構造6は、
図3に示すように、炭素製の陽極部材6aの両側のそれぞれに、炭素製の導電性シート6bと、陽極部材6aと電気的に接続される銅製のブスバー等の導電部材6cと、当該露出端部7b側を水冷等により冷却する冷却ジャケット6dとを、陽極部材6a側からこの順序で配置して構成されている。そして、それらの陽極部材6a、導電性シート6b、導電部材6c及び冷却ジャケット6dは、そこを貫通するボルト8a及びナット8bにより、陽極接続構造6の厚み方向(
図3の左右方向)の外側から挟み込まれて、クロムモリブデン鋼製等のボルト8a及びナット8bによる加圧力の作用下で相互に接触して固定される。ボルト8a及びナット8bの個数は陽極接続構造6のサイズに鑑み適宜選択されるが、ここでは各六個としている。
【0032】
ここにおいて、この実施形態では、陽極部材6aとその両側の各導電部材6cとの間に、炭素製の導電性シート6bが挟み込まれて配置されている。炭素製の導電性シート6bは、少なくとも陽極部材6aと導電部材6cとの対向面を覆うように配置される。
炭素製の導電性シート6bは可撓性を有することから、ボルト8a及びナット8bによる加圧下で陽極部材6aと導電部材6cとの間の該導電性シート6bを弾性変形させておくことにより、何らかの理由でボルト8a及びナット8bが緩んだとしても、その緩みにより生じうる空間は除荷により復元した導電性シート6bで埋まり、陽極部材6a側の導電部材6cの表面の、大気への曝露が防止される。つまり、導電部材6cの当該表面と導電性シート6bとの接触が維持される。これにより、陽極3aへの通電及び冷却ジャケット6dの冷却を停止し溶融塩浴の温度に起因して高温になることのある露出端部7bで、導電部材6cの当該表面の酸化が抑えられるので、その表面での接触抵抗の増大を良好に抑制することができる。その結果、そのような接触抵抗の増大による溶融塩電解の電力ロスの増加を防止することができる。
【0033】
また、炭素製の導電性シート6bは、導電性ペースト等よりも耐熱性に優れるとともに、陽極部材6aと導電部材6cとの間の比較的広い面積の領域に容易に配置できることから、ここで対象とする用途に特に適している。よって、一実施形態においては、導電性シート6bには導電性ペースト等の他の剤が塗布されていない。即ち、導電性シート6bは陽極部材6aおよび導電部材6cのそれぞれと直接接触している。
【0034】
従来技術では、図示は省略するが、陽極部材と導電部材との間に導電性シートが存在せず、それらが接触して配置された状態で、陽極接続構造を構成していた。この場合、鋼製等のボルト等が熱膨張した際等に緩んだときは、陽極部材と導電部材との間に空気が流入し得る隙間が発生し、導電部材が高温になると、陽極部材との接触面に酸化被膜が形成されることがあった。特に、まれに実施する溶融塩電解の操業停止時には、操業コスト抑制の観点等から冷却ジャケットの作動も停止させることがある。この際には、溶融状態を維持するために高温にしておく溶融塩浴から陽極部材の露出端部側に熱が伝わって、導電部材の温度がたとえば240℃程度まで上昇し、例えば高力ボルト及びナットが緩んだことによって導電部材が露出し、該露出部位における酸化被膜の形成が顕著になる。それにより、陽極部材と導電部材との間での接触抵抗が増大し、操業における電力ロスが増加するという問題がある。
これに対し、この実施形態では、陽極部材6aと導電部材6cとの間への導電性シート6bの挟込み配置により、かかる問題の発生を防止することができる。
【0035】
なお、陽極部材6aと導電部材6cとの間で導電性シート6bを挟み込む機構としては、ここで例示した高力ボルトその他のボルト8a及びナット8bに限らず、導電部材6cの外側から挟むクランプ等の締め具といったような種々のものを採用することができる。
【0036】
導電部材6cは、銅もしくは銅合金又は、アルミニウムもしくはアルミニウム合金からなるものとすることが、所要の優れた導電性を発揮できる点で好ましい。導電部材6cは電気抵抗率が1.0×10-7Ω・m以下であるものとすることが好適である。導電部材6cは、銅製または銅合金製としてよく、特にそのうちの銅製としてよい。
【0037】
また、陽極接続構造6の厚み方向(
図3では左右方向)で導電部材6cの外側に配置され得る冷却ジャケット6dはその内部に、たとえば複数個所にわたって迂回して延びて広い範囲に液体もしくは気体の冷却媒体を流すことができる流路が形成されたものとすることができる。
但し、冷却ジャケット6dは省略してもよい。冷却ジャケットを有しない陽極接続構造では、陽極部材、導電性シート及び導電部材がボルト及びナット等で挟み込まれて固定されたものとすることができる。
また、冷却ジャケット6dに加えて又は代えて、他の冷却機構を設けてもよい。たとえば、導電部材6cとしてのブスバー内部に穴開けして、そこに冷却媒体を流してもよい。導電部材6cは、再使用時に導電性確保等の目的で表面を削る作業を行うことがあるので、冷媒の流路を大きくするとともに導電部材6cの長期使用を可能にするとの観点からは、導電部材6c内に冷却媒体を流すよりも、冷却ジャケット6dを設けたほうが好ましい場合がある。
【0038】
導電性シート6bは、黒鉛等の炭素製のものとする。また、導電性シート6bは、膨張黒鉛等の膨張能力を有する材料をロール圧延等でシート状にした膨張黒鉛シートとすることも可能である。これにより、導電性シート6bは導電性を有するのみならず可撓性をも有することになり、陽極部材6aと導電部材6cとの間で厚み方向において弾性変形しつつ配置させることができる。なお、ボルト8a及びナット8bで導電性シート6bに作用する圧力は、たとえば300N・m~600N・m程度とすることがある。
上記したように導電性シート6bは導電部材6cの表面の大気接触を防ぐ役割を担うので、導電性シート6bの少なくとも導電部材6cとの接触面は連続的な平坦面であることが好ましい。導電部材6cとの接触面に意図的に溝、皺、凹部等が設けた場合は当該接触面の平坦度が低下し、挟み込み圧力が低下した際に前記溝、皺、凹部等に大気が侵入しやすくなるからである。ただし、陽極接続構造6が、ボルト8a及びナット8bにより厚み方向の外側から挟み込む構成である場合、導電性シート6bは前記平坦面にボルトが通過するための貫通孔を有するものであってもよい。
【0039】
導電性シート6bは、導電部材6cの、少なくとも、陽極部材6aと電気的に接続される表面を覆って配置されていればよい。導電部材6cの当該電気的に接続される表面以外の部分が酸化してもそれほど大きな問題にはならない。
【0040】
板状等の陽極部材6aの厚みTaは、たとえば50mm~300mm、典型的には150mm~250mmとすることがある。一方、導電性シート6bの厚みTsは、好ましくは0.2mm~3.0mm、より好ましくは0.5mm~1.5mmとする。陽極部材6aの厚みTaに対する導電性シート6bの厚みTsの比(Ts/Ta)は、0.0001~0.02、さらには0.001~0.01とすることが好ましい。導電性シート6bをある程度厚くすることにより、可撓性を有効に確保することができる。また導電性シート6bを比較的薄くすることにより、導電率の低下を抑制することができる。導電性シート6bの電気抵抗率は、厚み方向に10mΩ・m以下である場合がある。
【0041】
図4に、他の実施形態の陽極接続構造16を示す。この陽極接続構造16は、陽極部材6aと導電部材6cとの間の導電性シート6bのみならず、導電部材6cと冷却ジャケット6dとの間にも、炭素製のシート部材6eが挟み込まれて配置されていることを除いて、先に述べた陽極接続構造6と実質的に同様の構成を有するものである。
【0042】
導電部材6cと冷却ジャケット6dとの間に炭素製のシート部材6eを、導電性シート6bと同様に加圧力の作用下で弾性変形させて配置することにより、ボルト8a及びナット8bが緩んだときでも、シート部材6eが導電部材6cと冷却ジャケット6dとの間への空気の入込みを抑制するので、冷却ジャケット6dの表面での酸化被膜の形成をも防止することができる。その結果として、導電部材6cと冷却ジャケット6dとの間での、酸化被膜による伝熱性の悪化を防ぐことができて、冷却ジャケット6dによる所期したとおりの冷却効果を長期間にわたって発揮することができる。
【0043】
導電部材6cと冷却ジャケット6dとの間の炭素製のシート部材6eは、その材質、厚みその他の属性ないし特性が、導電性シート6bとほぼ同様のものとすることができる。シート部材6eの形状は、導電部材6cと冷却ジャケット6dとの間の配置領域に合わせて適宜選択することができるが、図示の例は、導電性シート6bと実質的に同じ形状としている。
【0044】
上述したような陽極接続構造6を有する溶融塩電解装置1を用いて、先述したように塩化マグネシウムの電気分解を行うことができる。なお、陽極接続構造16を使用してもよい。このような溶融塩電解方法では、電気分解の間に電極3への通電を一時的に停止する通電停止工程を含むことがある。すなわち、溶融塩電解装置1のメンテナンス等の目的で電気分解を一次的に停止することがある。この通電停止工程では、溶融塩浴の溶融状態を維持し、また陽極3aを溶融塩浴中に浸漬させたまま、通電を停止する。ここでは、少なくとも回収室2bの溶融塩浴の温度は、650℃以上に維持することがある。また、通電停止工程では陽極部材6aの冷却も停止されることが多い。すなわち、冷却ジャケット6dによる陽極の冷却も停止され得る。
【0045】
このとき、陽極部材6aと導電部材6cとの間に炭素製の導電性シート6bが挟み込んで配置した陽極接続構造6では、陽極3aが溶融塩浴から伝わる熱によってボルト8a及びナット8bが緩んだとしても、陽極部材6aと導電部材6cとの間への隙間の発生が導電性シート6bで抑制される。それにより、陽極部材6aと電気的に接続される導電部材6cの酸化が防止されて、当該酸化による接触抵抗の増大を抑制することができる。
【0046】
以上に述べたところでは、平板等の板状の陽極3aを例として、それに適用され得る陽極接続構造6、16について詳細に説明したが、この発明は、図示は省略するが、たとえば陰極が周囲を取り囲んで配置される円柱その他の柱状等の様々な形状の陽極に用いることが可能である。
【実施例】
【0047】
次に、この発明の陽極接続構造を試作し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0048】
実施例1として、
図1~3に示すような陽極接続構造を有する溶融塩電解装置にて、所定の期間にわたって溶融塩電解を行って操業した後、操業と陽極冷却を24時間停止し、その操業停止期間後に、導電部材である銅製ブスバーの表面での錆(酸化被膜)の発生の有無を確認した。錆の確認は、陽極部材と銅製ブスバーとの間の一定電流下での電位差を測定することにより行った。当該電位差が10mV以下であれば錆がほとんど発生していないと判断し、10mV超であれば10mVとの差の大きさに応じた量の錆が発生していると判断した。
なお、この溶融塩電解装置は、陽極を5枚備え、各陽極部材は厚さ200mm、幅1600mmとした。陽極部材と銅製ブスバーとの間の導電性シートとしては、黒鉛製の導電性シートである東洋炭素株式会社製PERMA-FOIL(登録商標)のグレードPF(厚みが1.0mmのもの)を用いた。操業停止時は、上記のとおり冷却ジャケットの作動を停止したが、溶融塩浴は650℃~680℃の温度に維持した。よって、陽極の露出端部は240℃程度まで上昇した。
【0049】
実施例2では、銅製のブスバー内に冷却流路を構成しかつ冷却ジャケットを有しない陽極接続構造とした溶融塩電解装置を用いたことを除いて、実施例1と同様にして操業及び操業停止を行い、銅製ブスバーの表面の錆の有無を確認した。
実施例3では、
図3に示す陽極接続構造に代えて、
図4に示すような銅製ブスバーと冷却ジャケットとの間に黒鉛製のシート部材を配置した陽極接続構造とした溶融塩電解装置を用いたことを除いて、実施例1と同様にして操業及び操業停止を行い、銅製ブスバーの表面の錆の有無を確認した。上記のシート部材としては、導電性シートと同様の、東洋炭素株式会社製PERMA-FOIL(登録商標)のグレードPF(厚みが1.0mmのもの)を使用した。
【0050】
比較例1では、導電性シートを含まず陽極部材と銅製ブスバーとが直接的に接触した陽極接続構造とした溶融塩電解装置を用いたことを除いて、実施例1と同様にして操業及び操業停止を行い、銅製ブスバーの表面の錆の有無を確認した。
比較例2では、冷却ジャケットを有さず且つ銅製ブスバー内に冷却流路を備えない陽極接続構造とした溶融塩電解装置を用いたことを除いて、比較例1と同様にして操業及び操業停止を行い、銅製ブスバーの表面の錆の有無を確認した。
比較例3では、銅製ブスバーと冷却ジャケットとの間に黒鉛製のシート部材を配置した陽極接続構造とした溶融塩電解装置を用いたことを除いて、比較例1と同様にして操業及び操業停止を行い、銅製ブスバーの表面の錆の有無を確認した。
【0051】
その結果、陽極部材と銅製ブスバーとの間の電位差は、実施例1~3では12.5mV以下であったことから、銅製ブスバーの表面に錆が発生していなかったか、発生したとしても少量であったと判断されたのに対し、比較例1~3ではいずれも30mV以上であったことから、銅製ブスバーの表面に錆が多く発生していると判断された。これは、実施例1~3では、陽極部材と銅製ブスバーとの間に挟み込んで配置した導電性シートが、銅製ブスバーの表面を遮蔽し、該表面への空気の到達を抑制したことによるものと考えられる。
【0052】
また、電位差測定後に各例の陽極構造を解体して銅製ブスバーの表面の付着物を採取し、その付着物に対してX線回折分析を行った。その結果、実施例1~3の付着物は、CuOが僅かしか検出されなかったのに対し、比較例1~3の付着物は、CuO、Cu2O、CuCl等が非常に多く検出された。また比較例1~3では、銅製ブスバーの表面のうち、ボルト穴周囲の僅かな部分しか金属光沢が無く、テスタチェックで電気導通が無いことが確認された。
【0053】
その後、実施例1~3並びに比較例1~3のそれぞれについて、銅製ブスバーの表面に手を加えることなく各例の陽極構造を組み立てなおして溶融塩電解装置の操業を再開し、溶融塩電解を行った。そして、操業再開後の電力ロスを求めた。なおここでは、いずれの実施例1~3並びに比較例1~3でも、操業再開時の溶融塩浴の組成は質量基準でMgCl2=20%、NaCl=50%、CaCl2=30%、平均溶融塩温度は655℃、電流密度は0.65A/cm2とした。
【0054】
電力ロスは、電位差接触部を挟んだ陽極とブスバーの定点を一定の電流の通電時に、電圧計で電位差を測定することで評価した。
【0055】
【0056】
表1から、実施例1~3では、電位差の上昇が有効に抑制されていることが解かる。実施例3は特に優れた結果であった。ブスバーと冷却ジャケットの間にも黒鉛シートを配置すると、操業停止時(すなわち冷却停止時)においてブスバーと冷却ジャケット間への空気の侵入を防げると考えられた。よって、ブスバーと冷却ジャケット間の錆発生の抑制が電位差上昇を抑制する補助的な一因であると考えられた。一方、比較例1~3では、錆の発生に起因して電位差が大きく上昇したことが解かる。これにより、比較例1~3では、接触抵抗が増大したことが推認される。
以上のことから、この発明によれば、導電部材の酸化による接触抵抗の増大を抑制できることが解かった。
【符号の説明】
【0057】
1 溶融塩電解装置
2 電解槽
2a 電解室
2b 回収室
3 電極
3a 陽極
3b 陰極
3c 複極
4 蓋部材
5 隔壁
5a 溶融塩循環路
5b 溶融金属流路
6、16 陽極接続構造
6a 陽極部材
6b 導電性シート
6c 導電部材
6d 冷却ジャケット
6e シート部材
7a 浸漬端部
7b 露出端部
8a ボルト
8b ナット
Ta 陽極部材の厚み
Ts 導電性シートの厚み
PS 外部電源