(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】陽極配置構造、溶融塩電解装置及び、金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20230418BHJP
C25C 7/00 20060101ALI20230418BHJP
C22B 26/22 20060101ALN20230418BHJP
【FI】
C25C7/02 308Z
C25C7/00 302
C22B26/22
(21)【出願番号】P 2019140345
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】林 辰美
(72)【発明者】
【氏名】小林 純也
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-005995(JP,A)
【文献】特公昭38-000007(JP,B1)
【文献】実開昭63-094966(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 26/22
C25C 7/00,7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部の溶融塩浴で溶融塩電解を行う電解槽、前記電解槽の開口部を覆蓋する蓋体、及び、黒鉛製の陽極を含む電極を備える溶融塩電解装置における、前記蓋体に対する前記陽極の配置構造であって、
貫通孔を有する蓋体と、前記蓋体の前記貫通孔を通って配置される陽極とを有し、
前記陽極が、少なくとも前記貫通孔内に位置する表面に形成されたリン酸塩又はアルミナチタニアを含む被覆層を含み、前記陽極と前記蓋体との間に、一個以上の黒鉛ブロックが前記陽極の表面に接触して配置されてなる陽極配置構造。
【請求項2】
前記貫通孔内で前記黒鉛ブロックの電解槽内部側に、断熱材が配置されてなる請求項1に記載の陽極配置構造。
【請求項3】
前記断熱材が、ガラスウール及び/又はセラミックファイバーを含む請求項2に記載の陽極配置構造。
【請求項4】
前記黒鉛ブロックの少なくとも電解槽外部側のブロック部分が、遮蔽材中に埋設されてなる請求項1~3のいずれか一項に記載の陽極配置構造。
【請求項5】
前記遮蔽材がフッ化カルシウムを含む請求項4に記載の陽極配置構造。
【請求項6】
前記黒鉛ブロックが接触する前記陽極の接触面に対して垂直な方向に沿う縦断面視で、前記黒鉛ブロックの最大幅が、前記貫通孔の内面と前記陽極の表面との最大離隔距離よりも大きい請求項1~5のいずれか一項に記載の陽極配置構造。
【請求項7】
前記黒鉛ブロックが接触する前記陽極の接触面に対して垂直な方向に沿う縦断面視で、前記黒鉛ブロックが、電解槽内部側のブロック部分よりも電解槽外部側のブロック部分で広幅である請求項1~6のいずれか一項に記載の陽極配置構造。
【請求項8】
前記黒鉛ブロックが、前記陽極と前記蓋体との間で前記貫通孔の電解槽外部側の開口箇所に位置してなる請求項1~7のいずれか一項に記載の陽極配置構造。
【請求項9】
前記黒鉛ブロックが、前記貫通孔の表面に接して配置されてなる請求項1~8のいずれか一項に記載の陽極配置構造。
【請求項10】
内部の溶融塩浴で溶融塩電解を行う電解槽と、貫通孔を有し、前記電解槽の開口部を覆蓋する蓋体と、前記蓋体の前記貫通孔を通って配置され、前記電解槽の内部及び外部に延びる陽極を含む電極とを備える溶融塩電解装置であって、
請求項1~
9のいずれか一項に記載の陽極配置構造を有する溶融塩電解装置。
【請求項11】
請求項
10に記載の溶融塩電解装置を用いて、金属塩化物を含む溶融塩浴で溶融塩電解を行い、金属を製造する、金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融塩電解装置で蓋体の貫通孔を通って配置される陽極の、蓋体に対する配置構造、ならびに、その陽極配置構造を有する溶融塩電解装置及び、金属の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、クロール法による金属チタンの製造時に副次的に生成される塩化マグネシウムを金属マグネシウムと塩素に分解する際には、溶融塩電解装置を用いて、電解槽の内部を溶融塩浴として溶融塩の電気分解を行う溶融塩電解が行われる。
溶融塩電解では一般に、電解槽の内部の溶融塩浴に浸した電極間に電圧を印加することにより、塩化マグネシウム等の溶融塩である金属塩化物が、金属マグネシウム等の溶融金属と塩素等のガスとに分解される。
【0003】
溶融塩電解装置で用いられる電極のうち、陽極は、電解槽の開口部を覆蓋する蓋体に設けた貫通孔を通り、電解槽の内外にわたって延びるように配置されることがある。陽極は、電解槽内部に位置する部分を溶融塩浴に浸漬させる一方で、電解槽外部に位置する部分を電源に接続して使用される。
【0004】
蓋体と、その蓋体の貫通孔を通って配置される陽極との間には、隙間が生じることがあり、この隙間には、所定の材料ないし部材を充填する場合がある。かかる隙間の充填は、電解槽内部の気密性を確保して溶融塩電解で発生し得る塩素等の漏出を防止し、また、溶融塩浴を電解槽外部の大気との接触から防止するために行われる。
【0005】
これに関連して、特許文献1には、「塩素ガスの発生を伴う電解反応を行い、電解反応室と外部との気密を保持するシール部を有する電解槽において、前記シール部がシート状部材により構成されることを特徴とする電解槽」が開示されている。具体的には、「前記シート状部材は耐熱樹脂シートであり、その内面側に形成された断熱層と組み合わされている」と記載されており、さらに、「塩とフラックスの混合物26を堆積することにより、シート状部材23の内面側に断熱層を形成している。」と記載されている。そして、これによれば、「電解反応室の対外シール性に優れ、外気侵入による電力原単位の低下を回避できる。また、そのシール部で電解反応室内の圧力変動を吸収でき、塩素ガスの漏出をより確実に防止できる。更に、シール部の経済性及び耐久性に優れ、メンテナンス作業も容易である。」とされている。
【0006】
また、特許文献2には、「溶融塩電解装置に用いる陽極の損耗を効果的に抑制することができる陽極シール構造およびこの構造を有する電解装置の運転方法の提供」を目的として、「陽極シール構造は、電解装置外部において陽極に設けられた金属製シールカバーと、電解室蓋上部に設けられたシール材保持部と、このシール材保持部に充填されたシール材と、陽極および電解室蓋の空隙に装填された断熱材から構成されており、金属製シールカバーと電解室蓋とがシール材を介して密閉されている」ものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-232061号公報
【文献】特開2010-116602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、陽極において蓋体の貫通孔内に位置する部分は、電解槽内部の溶融塩浴の影響を受けやすく比較的高温になる。また、陽極の貫通孔内に位置する当該部分には、電解槽の外部の大気に近いことから、大気中の酸素が到達し得る。これらのことが原因となり、黒鉛製の陽極は使用するに伴って、その貫通孔内に位置する部分が酸化消耗し、最終的にはそこで折損することがある。当該酸化消耗は電気抵抗の増大、ひいては電力コストの増加を招き、折損すれば新しいものと交換することを余儀なくされる。
【0009】
特許文献2に記載された技術は、「シールカバー」と「陽極」とを「セラミック接着層」等を用いて接着したり、「電解室蓋上部」に「シール材保持部」を設けたりすることが必要になり、種々の条件下で容易かつ簡便に適用できるとは言い難い。
【0010】
この発明の目的は、陽極の酸化消耗を良好に抑制することができる陽極配置構造、溶融塩電解装置及び、金属の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は鋭意検討の結果、主として黒鉛製の陽極の表面にリン酸塩被覆又はアルミナチタニア溶射等の耐酸化処理を施すことにより、当該被覆層が内側の黒鉛部分と大気中の酸素との接触を抑制し、その結果として陽極の酸化消耗が抑えられることに着目した。その上で、当該陽極と蓋体との間にリン酸塩被覆等の耐酸化処理をしていない黒鉛ブロックを表面処理済の陽極の表面に接触させて配置すれば、被覆層を含む陽極よりも黒鉛ブロックが優先して酸化されるので、陽極の酸化消耗を良好に抑制できることを見出した。
【0012】
この発明の陽極配置構造は、内部の溶融塩浴で溶融塩電解を行う電解槽、前記電解槽の開口部を覆蓋する蓋体、及び、黒鉛製の陽極を含む電極を備える溶融塩電解装置における、前記蓋体に対する前記陽極の配置構造であって、貫通孔を有する蓋体と、前記蓋体の前記貫通孔を通って配置される陽極とを有し、前記陽極が、少なくとも前記貫通孔内に位置する表面に形成されたリン酸塩又はアルミナチタニアを含む被覆層を含み、前記陽極と前記蓋体との間に、一個以上の黒鉛ブロックが前記陽極の表面に接触して配置されてなるものである。
【0013】
上記の陽極配置構造では、前記貫通孔内で前記黒鉛ブロックの電解槽内部側に、断熱材が配置されていることが好ましい。
この断熱材は、ガラスウール及び/又はセラミックファイバーを含むことが好適である。
【0014】
また、上記の陽極配置構造では、前記黒鉛ブロックの少なくとも電解槽外部側のブロック部分が、遮蔽材中に埋設されていることが好ましい。
遮蔽材はフッ化カルシウムを含むことが好ましい。
【0015】
前記黒鉛ブロックが接触する前記陽極の接触面に対して垂直な方向に沿う縦断面視で、前記黒鉛ブロックの最大幅は、前記貫通孔の内面と前記陽極の表面との最大離隔距離よりも大きいことが好ましい。
【0016】
前記黒鉛ブロックが接触する前記陽極の接触面に対して垂直な方向に沿う縦断面視で、前記黒鉛ブロックは、電解槽内部側のブロック部分よりも電解槽外部側のブロック部分で広幅であることが好ましい。
【0017】
前記黒鉛ブロックは、前記黒鉛ブロックが、前記陽極と前記蓋体との間で前記貫通孔の電解槽外部側の開口箇所に位置させることが好適である。
【0018】
この発明の溶融塩電解装置は、内部の溶融塩浴で溶融塩電解を行う電解槽と、貫通孔を有し、前記電解槽の開口部を覆蓋する蓋体と、前記蓋体の前記貫通孔を通って配置され、前記電解槽の内部及び外部に延びる陽極を含む電極とを備えるものであって、上記のいずれかの陽極配置構造を有するものである。
【0019】
この発明の金属の製造方法は、上記の溶融塩電解装置を用いて、金属塩化物を含む溶融塩浴で溶融塩電解を行い、金属を製造するというものである。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、陽極の酸化消耗を良好に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】この発明の一の実施形態の陽極配置構造を適用することができる溶融塩電解装置の一例を示す溶融塩電解装置の縦断面図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿う陽極の縦断面図である。
【
図3】
図1の陽極配置構造を拡大して示す、陽極の厚み方向に沿う
図2と同様の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1に縦断面図で例示する溶融塩電解装置1は、たとえばAl
2O
3を含有する耐火煉瓦その他の適切な材料からなる容器状の電解槽2と、電解槽2の上方側の開口部を覆蓋する蓋体4と、陽極3a及び陰極3bを含む電極3とを備える。なお、溶融塩電解装置1はさらに、図示しないが、電解槽2の内部の回収室2b等に配置されて溶融塩浴の温度調整を行う熱交換器としての温度調整管等を備えることがある。
【0023】
ここで、この溶融塩電解装置1は、電解槽2の内部に、
図1に示すところでは実質的に深さ方向(
図1の上下方向)に沿って配置された隔壁5をさらに備えるものである。隔壁5により、電解槽2の内部は、
図1の右側に位置して電極3が配置された電解室2aと、左側に位置し、電解室2aでの電気分解により得られた溶融金属が流れ込んで該溶融金属が溶融塩との密度差により上方側に溜まる回収室2bとに区画される。隔壁5は、電解槽2の上方側の蓋体4に近接させて配置されている。これにより、電解槽2の下方側の底面との間に、回収室2bから電解室2aへの溶融塩の移動を可能にする溶融塩循環路5aが形成されている。また、隔壁5内に設けた溶融金属流路5bにより、電解室2aから回収室2bへの溶融金属の流入が可能になる。
【0024】
またここで、電解室2aに配置された電極3は、少なくとも、図示しない電源に接続される陽極3a及び陰極3bを有する。これらの陽極3a及び陰極3bでは、たとえばMgCl2→Mg+Cl2等といった所定の反応に基いて、陽極3aの表面で酸化反応により塩素等のガスが生じるとともに、陰極3bの表面で還元反応により金属マグネシウム等の溶融金属が生成される。
【0025】
電極3は、少なくとも陽極3a及び陰極3bを有するものであれば、溶融塩中の金属塩化物の電気分解を行うことができる。一方、電極3は、電気分解の生成効率向上等の観点より、
図2から解かるように、陽極3aと陰極3bとの間に、陽極3a及び陰極3b間への電圧の印加によって分極する一枚以上の複極3cをさらに有することが好ましい。この例では、複極3cは二枚としている。但し、このような複極3cは必ずしも必要ではない。なお、陽極3aは黒鉛等の炭素製のものとすることが一般的である。また陰極3bは、炭素鋼又は黒鉛等の炭素製、複極3cは黒鉛等の炭素製とすることがある。
【0026】
溶融塩電解装置1を用いて行うことのできる溶融塩電解では、たとえば、650℃~700℃程度の高温の溶融塩浴で塩化マグネシウムを電気分解することにより、
図1に示すように、溶融金属として金属マグネシウム(Mg)が生成されるとともに、ガスとして塩素(Cl
2)が発生する。なお、溶融塩電解で生成された金属マグネシウムは、金属チタンを製造するクロール法における四塩化チタンの還元に、また塩素ガスは、チタン鉱石の塩化にそれぞれ用いることができる。この電気分解の原料とする塩化マグネシウムとしては、クロール法で副次的に生成されるものを使用可能である。
【0027】
この溶融塩電解を詳説すると、溶融塩浴の対流により、
図1に示すように、溶融塩が、回収室2bから電解槽2の底面側の溶融塩循環路5aを経て電解室2aに流動する。電解室2aでは、溶融塩浴中の塩化マグネシウムが電気分解されて、電解室2aで金属マグネシウムが生成される。そして、この金属マグネシウムは、隔壁5の浴面Sb側の溶融金属流路5bを通って回収室2bに流入する。その後、溶融塩に対する比重の小さい金属マグネシウムは、回収室2bの浅い箇所に浮上してそこに溜まる。回収室2bで浮上した金属マグネシウムは、図示しないポンプ等により回収することができる。したがって、これによれば、溶融塩浴中の塩化マグネシウムを電気分解することにより、溶融金属としての金属マグネシウムを製造することができる。
【0028】
なお溶融塩浴には一般に、上記の塩化マグネシウムの他、支持塩を含む。この支持塩は、塩化マグネシウムと混合した際に晶出温度を低下させ、かつ、粘度を低下させる電解質である。支持塩は具体的には、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、フッ化マグネシウム(MgF2)及びフッ化カルシウム(CaF2)からなる群から選択される少なくとも一種とすることができる。
【0029】
上述したような溶融塩電解装置1で用いる陽極3aは、
図1に示すように、蓋体4を貫通して、電解槽2の内外にわたって延びるように配置される。この陽極3aは、電解槽2の内部に位置する部分を、その端部を含め部分的に溶融塩浴に浸漬させるとともに、電解槽2の外部に位置する部分で電源に接続される。
溶融塩電解装置1で陽極3aをこのように配置するため、蓋体4には、
図3に示すように、陽極3aが通る貫通孔4aが設けられている。
【0030】
陽極3aは、電解槽2の外部に位置する部分を冷却することが一般的であるが、高温の溶融塩浴に近接することに加えて、電解槽2の内部に位置する部分を当該溶融塩浴に浸漬させることから、蓋体4の貫通孔4a内に位置する部分の温度が350℃~400℃程度まで上昇することがある。
そして、陽極3aの貫通孔4a内に位置する部分は、溶融塩電解装置1の外部の大気中の酸素と接触し得ることから、当該部分は高温下での酸素との接触により酸化されやすい。それ故に、陽極3aはその部分で酸化消耗し、最終的に折損して寿命が尽きる場合もある。なお、電解槽2の内部は気密性が確保されているので、陽極3aの、電解槽2の内部に位置する部分は、大気中の酸素と接触せず酸化消耗がほぼ生じない。
【0031】
ここで、陽極3aの酸化消耗による短命化を抑制するため、この実施形態では、
図3に示すように、陽極3aの黒鉛製の陽極本体13aの少なくとも前記貫通孔4a内に位置する表面、たとえば貫通孔4a内を含む貫通孔4aの近傍の表面に、耐酸化処理としてリン酸塩又はアルミナチタニアを含む被覆層13bを形成する。被覆層13bを形成することにより、黒鉛製の陽極本体13aと酸素との接触が抑制されるので、黒鉛の酸化消耗を軽減することができる。被覆層13bは、黒鉛製の陽極本体13aよりも先に酸素と反応して、陽極3aの酸化消耗を遅らせるとも考えられる。
【0032】
さらにここでは、陽極3aと蓋体4との間に、一個以上の黒鉛ブロック6を、陽極3aの被覆層13bを形成した表面に接触させて配置する。ブロック表面に黒鉛が露出した黒鉛ブロック6を陽極3aの表面に接触して配置することにより、表面に被覆層13bが形成された陽極3aよりも、黒鉛ブロック6が先に酸化消耗することになる。つまり、黒鉛ブロック6は、陽極3aの代わりに酸化される目的、すなわち犠牲にする目的で配置されるものである。その結果として、陽極3aの酸化消耗が良好に抑制されるので、陽極3aを、より一層長い期間にわたって使用することができる。なお、陽極3aの代わりに酸化消耗した黒鉛ブロック6は、陽極3aに比して容易に交換することができ、陽極3aの寿命を更に延ばすことができる。
【0033】
上述した被覆層13bは、リン酸塩を含む場合、リン酸(H
3PO
4)及び/又はメタリン酸アルミニウム(Al
2O
3・3P
2O
5)を含有する層等とすることができる。かかる被覆層13bの被膜構造は、その有効成分及び水である場合がある。このような被覆層13bの形成は、たとえば、有効成分を含む液体中に、黒鉛製の陽極本体13aをどぶ漬け(浸漬処理)することにより行うことが可能である。あるいは、被覆層13bは、溶射によりアルミナチタニア溶射被膜等として形成して、アルミナチタニアを含むものとすることもできる。
黒鉛製の陽極本体13aの酸化を良好に抑制するため、被覆層13bの厚みは、好ましくは0.3mm~80mm、より好ましくは1mm~50mm、さらに好ましくは20mm~50mmとする。なお、前記陽極本体13aのサイズは適宜決定すればよいが、厚みは150mm~400mmとすることができる。また、幅(
図1に示す浴面Sbにほぼ平行な方向)は1000mm~2500mmとすることができる。陽極本体の他の実施形態として円柱状を例示できる。この場合、蓋体4の貫通孔4aは円柱状の陽極を通すことができるように形成されていればよい。
【0034】
黒鉛ブロック6は、その全体を黒鉛製とすることが多い。しかし、少なくとも、そのブロック表面の、陽極本体13aに接触する表面部分及び、大気に接する表面部分が、黒鉛剥き出しの黒鉛製であれば、黒鉛ブロック6は上述した効果を奏することができる。
【0035】
黒鉛ブロック6の寸法に関し、黒鉛ブロック6が接触する陽極3aの接触面に対して垂直な方向に沿う縦断面視、たとえば
図3では陽極3aの厚み方向(
図3の左右方向)に沿う縦断面視で、黒鉛ブロック6の一個当たりの最大幅Wbは、貫通孔4aの内面と陽極3aの表面との前記垂直な方向の最大離隔距離Dsよりも大きくすることが好適である。具体的には、最大離隔距離Dsに対する黒鉛ブロック6の最大幅Wbの比(Wb/Ds)は、好ましくは1.0超かつ4.5以下、より好ましくは1.2以上かつ3.0以下とする。これにより、黒鉛ブロック6の溶融塩浴内への落下を抑制できる他、黒鉛ブロック6の酸素との接触面を適切に確保することができる。
【0036】
黒鉛ブロック6の形状に関し、陽極3aの、黒鉛ブロック6との接触面に垂直な方向に沿う同様の縦断面視で、黒鉛ブロック6は、電解槽内部側(
図3の下方側)のブロック部分よりも電解槽外部側(
図3の上方側)のブロック部分で広幅になるように、陽極3aと蓋体4との間に配置することが好ましい。たとえば、
図3に示すように、電解槽内部側のブロック部分から電解槽外部側のブロック部分にかけて、幅が直線状に漸増する三角形状の断面のブロック形状とすることができる。あるいは、幅が曲線状に漸増し又は階段状に増加するブロック形状としてもよい。これにより、黒鉛ブロック6の表面積が電解槽外部側のブロック部分で大きくなり、電解槽内部への酸素の侵入を抑制できるとともに、黒鉛ブロックが溶融塩浴内へ落下しにくくなる。
【0037】
黒鉛ブロック6は、
図3に示す実施形態のように、陽極3aと蓋体4との間で貫通孔4aの電解槽外部側の開口箇所に位置させることができる。この実施形態では、黒鉛ブロック6を、陽極3aの表面に面接触させるとともに、蓋体4の貫通孔4aの当該開口箇所にも接触させて配置している。
【0038】
また、黒鉛ブロック6は、陽極3aの全周にわたって複数個配置することが好ましい。
なお、黒鉛ブロック6に代えて黒鉛粉末を用いることも考えられるが、通電条件下の電極近傍での導電性材質の粉体の取り扱いには相当の注意と安全対策を要するため、黒鉛粉末よりも黒鉛ブロック6を用いるほうが好ましい。
【0039】
ところで、貫通孔4a内には、断熱材7を配置することができる。この場合、断熱材7は、図示の実施形態のように、黒鉛ブロック6の電解槽内部側に配置することが好ましい。それにより、高温の溶融塩浴のある電解槽内部から外部への熱の伝達が有効に抑制されるので、陽極3aの酸化消耗をさらに抑えることができる。
【0040】
断熱材7がガラスウール及び/又はセラミックファイバーを含むものとしたときは、熱伝導率が小さくなるとともに、作業時の取扱いが良好になる。このうち、高純度のアルミナ・シリカを主成分とする人造無機繊維であるセラミックファイバーとして、生体溶解性セラミックファイバー、なかでもアルカリアースシリケートウール(AES)を採用したときは、作業者等の健康影響を十分少なくすることができる。
【0041】
また、黒鉛ブロック6と酸素との接触を適切に抑制するため、黒鉛ブロック6の少なくとも電解槽外部側のブロック部分を粉状ないし粒状等の遮蔽材8中に埋設し、遮蔽材8で黒鉛ブロック6を覆うことが好ましい。遮蔽材8による黒鉛ブロック6の埋設作業では意図的な加圧(遮蔽材の押し込み)は不要である。この場合、遮蔽材8で黒鉛ブロック6への酸素の到達が適切に抑制されるので、黒鉛ブロック6も長持ちさせることができる。
遮蔽材8は、メンテナンスの容易さやフレキシビリティ確保のため、フッ化カルシウムを含有するもの、具体的には蛍石とすることが好ましい。遮蔽材8は、目開きが149μmの篩を98%通過するサイズとすることができる。
【実施例】
【0042】
次に、この発明を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的とするものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0043】
図1及び2に示す溶融塩電解装置を用いて、後述する条件の下、溶融塩電解を行った。実施例1の陽極は、
図3に示すような陽極配置構造を備え、黒鉛ブロックのみを縦断面視で直方体状の形状に変更したものとした。なお、該黒鉛ブロックはその表面を陽極の表面および蓋体の貫通孔表面に接して配置した。陽極は厚みが200mmであり、表面にリン酸塩を含む被覆層(厚み30mm)が形成されたものとした。直方体状の黒鉛ブロックは厚み(陽極厚み方向の一辺の長さ)が10mmである。ここでは、平板状の陽極の周囲の四面にそれぞれ一つ、計四個の黒鉛ブロックが接触するように、各黒鉛ブロックを配置した。断熱材はアルカリアースシリケートウール(AES)であり、遮蔽材は蛍石(目開きが149μmの篩を98%通過するサイズ)である。
実施例2の陽極は、表面の被覆層の材質をリン酸塩に代えてアルミナチタニア(厚さ0.3mm)としたことを除いて、実施例1と同様の陽極配置構造を有するものとした。黒鉛ブロックはその表面が陽極の表面および蓋体の貫通孔表面に接するように配置した。
【0044】
比較例1の陽極は、陽極配置構造が黒鉛ブロックを有しないことを除いて、実施例1と同様の陽極配置構造を有するものとした。即ち、実施例1において黒鉛ブロックが配置される部位には断熱材、遮蔽材が充填されている。比較例2の陽極は、表面の被覆層の材質をリン酸塩に代えてアルミナチタニアとし、陽極配置構造が黒鉛ブロックを有しないことを除いて、実施例1と同様の陽極配置構造を有するものとした。即ち、実施例1において黒鉛ブロックが配置される部位には断熱材、遮蔽材が充填されている。比較例3は、表面処理を行っていない陽極を用いたことを除いて、実施例1と同様の陽極配置構造を有するものとした。黒鉛ブロックはその表面が陽極の表面および蓋体の貫通孔表面に接するように配置した。
【0045】
なお、溶融塩浴の組成はMgCl2を13~25質量%の範囲内とし、残部はCaCl2及びNaClとし、平均溶融塩温度は662℃、陽極本数は7本、陽極と陰極との間の複極の枚数は2枚とした。
【0046】
上記の条件で90日間にわたって溶融塩電解を行った後、実施例1及び2ならびに比較例1~3の各陽極の、貫通孔内に位置する部分の酸化消耗を評価するため、そこで最も厚みが薄くなった箇所の厚みを最小厚みとして測定した。
【0047】
その結果、各陽極の最小厚みは、実施例1では197mm、実施例2では196mm、比較例1では191mm、比較例2では187mm、比較例3では190mmであった。これにより、陽極の表面に所定の表面処理を施し、かつ黒鉛ブロックを配置した場合は、貫通孔内での陽極の酸化消耗が抑制されていることが解かる。
以上より、この発明によれば、陽極の酸化消耗を良好に抑制できることが解かった。
【符号の説明】
【0048】
1 溶融塩電解装置
2 電解槽
2a 電解室
2b 回収室
3 電極
3a 陽極
3b 陰極
3c 複極
4 蓋体
5 隔壁
5a 溶融塩循環路
5b 溶融金属流路
6 黒鉛ブロック
7 断熱材
8 遮蔽材
13a 陽極本体
13b 被覆層
Sb 浴面
Wb 黒鉛ブロックの幅
Ds 陽極表面と貫通孔内面との最大離隔距離