(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】接合構造体の製造方法及び接合構造体
(51)【国際特許分類】
B29C 65/16 20060101AFI20230418BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20230418BHJP
B23K 26/324 20140101ALI20230418BHJP
【FI】
B29C65/16
B23K26/21 G
B23K26/324
(21)【出願番号】P 2019154700
(22)【出願日】2019-08-27
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2019091668
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭兵
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 励一
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/169998(WO,A1)
【文献】特開2002-178189(JP,A)
【文献】特開2008-208296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系材料またはマグネシウム系材料の押出材からなる第1部材に、極性官能基を有する樹脂材料からなる第2部材を重ねる工程と、
前記第2部材に、前記第1部材と同種材料からなる長尺エレメントを保持させる工程と、
前記長尺エレメントに幅広のレーザ光を照射し、前記長尺エレメントを前記第2部材の上面にレーザ溶着する工程と、
前記長尺エレメントにレーザ光を照射し、前記長尺エレメントを前記第1部材の上面にレーザ溶接する工程と、
を含み、
前記長尺エレメントを前記第2部材の上面にレーザ溶着する工程において照射される前記幅広のレーザ光は、前記長尺エレメントを前記第1部材の上面にレーザ溶接する工程において照射される前記レーザ光よりも低強度である、
ことを特徴とする接合構造体の製造方法。
【請求項2】
前記長尺エレメントとして、幅Wが5mm以上、長さLが15mm以上であって、前記幅Wと前記長さLの比L/Wが3以上100以下のエレメントを用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の接合構造体の製造方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合構造体の製造方法及び接合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
異種材同士を接合する技術として、樹脂製の第一被接合部材と金属製の第二被接合部材とを鋲によって接合する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この接合技術では、接合側に形成された凹部の裏側から鋲を打ち込み、第一被接合部材を第二被接合部材に重ね、鋲を第二被接合部材に溶接する。これにより、第一被接合部材と第二被接合部材とを鋲によって接合させる。
【0003】
また、穴をあけたアルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1の板を鋼製の第2の板に重ね合わせ、鋼製の接合補助部材を穴に挿入し、レーザ光を接合補助部材に形成された凹部に照射して接合補助部材を第2の板に接合する技術がある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
さらに、軽合金材に貫通される鋼製の長尺のリベットを鋼材にスポット溶接して鋼材と軽合金材とを接合させる接合技術も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-26079号公報
【文献】特開2018-51570号公報
【文献】特開2019-7623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両等の構造材として汎用性の高いアルミニウムの押出材に対して、樹脂材料を接着以外の方法で接合することが考えられている。また、アルミニウムの押出材に異種材料からなる板材などの接合部材を接合させる接合法としては、押圧材側からのツールの浸入を必要としない片面アクセスが条件となるため、接合部材側からリベットをねじ込んで接合するフロードリルスクリュー(FDS(登録商標):Flow Drilling Screw)方式などの機械接合法がある。
【0007】
しかしながら、この機械接合法は接合作業に時間がかかるため製造コストが嵩張り、しかも、押出材と樹脂材料とを直接接合するのは困難である。特許文献1に記載の技術では、樹脂製の第一被接合部材に凹部を形成するための突出部があり、第一被接合部材と第二被接合部材との間に隙間が生じてしまう。
【0008】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルミニウム系材料またはマグネシウム系材料からなる押出材に対して樹脂材料からなる部材を短時間にかつ容易に接合することができ、製造コストを大幅に削減することが可能な接合構造体の製造方法及び接合構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は下記構成からなる。
(1) アルミニウム系材料またはマグネシウム系材料の押出材からなる第1部材に、樹脂材料からなる第2部材を重ねる工程と、
前記第1部材と同種材料からなる長尺エレメントを前記第2部材側から前記第1部材にレーザ溶接して前記第1部材と前記第2部材とを接合する工程と、
を含む
ことを特徴とする接合構造体の製造方法。
(2) アルミニウム系材料またはマグネシウム系材料の押出材からなる第1部材と、
前記第1部材に重ねられた樹脂材料からなる第2部材と、
前記第1部材と同種材料からなり、前記第2部材に形成された嵌合孔に嵌合され、前記第1部材にレーザ溶接されて前記第2部材を前記第1部材との間に挟んで、前記第1部材に前記第2部材を接合する長尺エレメントと、
を有する接合構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接合構造体の製造方法及び接合構造体によれば、アルミニウム系材料またはマグネシウム系材料からなる押出材に対して樹脂材料からなる部材を短時間にかつ容易に接合することができ、製造コストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る接合構造体の斜視図である。
【
図3】第2部材に組付けられた長尺エレメントを示す斜視図、A-A断面図及びB-B断面図である。
【
図4】接合構造体の製造方法を説明する第2部材及び長尺エレメントの斜視図である。
【
図5】接合構造体の製造方法を説明する作製途中の接合構造体の斜視図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る接合構造体の斜視図である。
【
図8】接合構造体の製造方法を説明する第2部材及び長尺エレメントの斜視図である。
【
図9】接合構造体の製造方法を説明する作製途中の接合構造体の斜視図である。
【
図10】変形例1に係る長尺エレメントの斜視図である。
【
図11】第2部材に組付けられた変形例1に係る長尺エレメントを示す斜視図、D-D断面図及びE-E断面図である。
【
図12】変形例2に係る長尺エレメントの斜視図である。
【
図13】第2部材に組付けられた変形例2に係る長尺エレメントを示す斜視図、F-F断面図及びG-G断面図である。
【
図14】変形例3に係る長尺エレメントの斜視図である。
【
図15】第2部材に組付けられた変形例3に係る長尺エレメントを示す斜視図、H-H断面図及びI-I断面図である。
【
図16】接合構造体から構成されたバッテリーケースの一部を断面視した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る接合構造体の斜視図である。
【0013】
図1に示すように、第1実施形態に係る接合構造体100は、第1部材10と、第2部材20と、長尺エレメント30と、有している。
【0014】
第1部材10は、アルミニウム系材料またはマグネシウム系材料の押出材である。本例では、第1部材10として、アルミニウム系材料の押出材を用いた場合を例示する。この第1部材10は、底壁部11と、一対の側壁部12と、上壁部13と、を有している。これにより、第1部材10は、中空部15を有する断面視矩形状の中空状に形成されている。接合構造体100は、二つの第1部材10を備えており、これらの第1部材10は、押出方向である長手方向に揃えて並列に配置されている。
【0015】
第2部材20は、特に限定されず、ポリプロピレンなど極性官能基を有さない樹脂や、ポリアミドなど、例えば、ヒドロキシル基(OH基)、カルボキシル基(COOH基)あるいはアミノ基(NH2基)などの極性官能基を有する樹脂材料からなるもので、平板状
に形成されている。第2部材20は、並列に配置された第1部材10に重ねられている。これにより、第2部材20は、第1部材10に架け渡されている。
【0016】
長尺エレメント30は、第1部材10と同種材料からなる長尺の部材である。本例では、長尺エレメント30として、第1部材10と同種のアルミニウム系材料の長尺の部材を用いた場合を例示する。アルミニウム系材料としては、純アルミニウム系材あるいはアルミニウム合金系材のようなアルミニウム材が例として挙げられる。また、アルミニウム合金としては、溶接部の割れ防止の観点から、4000系(AL-Si系)や5000系(Al-Mg系)などが好適に用いられる。
【0017】
長尺エレメント30は、例えば、プレス加工もしくは鍛造によって作製されている。なお、長尺エレメント30は、押出成形によって作製してもよい。接合構造体100は、二つの長尺エレメント30を備えており、これらの長尺エレメント30は、第2部材20の上面側において、長手方向に揃えて並列に配置されている。第2部材20の上面に配置された長尺エレメント30は、それぞれ第2部材20を介して第1部材10の上部に配置されている。
【0018】
図2は、長尺エレメントの斜視図である。
図3は、第2部材に組付けられた長尺エレメントを示す斜視図、A-A断面図及びB-B断面図である。
【0019】
図2及び
図3に示すように、長尺エレメント30は、板状に形成されたエレメント本体31と、エレメント本体31の一方の面に長手方向に沿って突設された突条部32と、を有している。エレメント本体31は、突条部32から幅方向の外側に張り出した部分がフランジ部33とされている。第2部材20には、第1部材10への重ね合わせ箇所に、表裏に貫通する嵌合孔21が形成されている。長尺エレメント30は、突条部32を第2部材20へ向けた状態で突条部32が嵌合孔21に嵌合されて第2部材20に組付けられている。この長尺エレメント30は、幅Wが5mm以上、長さLが15mm以上であり、幅Wと長さLの比L/Wが3以上100以下とされている。
【0020】
第2部材20を介して第1部材10の上部に配置された長尺エレメント30は、第1部材10に対してレーザ溶接されている。具体的には、長尺エレメント30は、エレメント本体31の幅方向の中央部が長手方向にわたって第1部材10にレーザ溶接されている。このレーザ溶接されたビードを有する溶接部35では、長尺エレメント30の突条部32と第1部材10の上壁部13とが溶接されて固定されている。そして、第2部材20は、第1部材10にレーザ溶接された長尺エレメント30のフランジ部33によって嵌合孔21の縁部が係止された状態で第1部材10に接合されている。
【0021】
次に、上記構造の接合構造体100を作製する製造方法について説明する。
図4は、接合構造体の製造方法を説明する第2部材及び長尺エレメントの斜視図である。
図5は、接合構造体の製造方法を説明する作製途中の接合構造体の斜視図である。
【0022】
まず、
図4に示すように、第2部材20に予め形成した嵌合孔21に、長尺エレメント30の突条部32を上方から嵌合させる。これにより、第2部材20に長尺エレメント30を保持させる。
【0023】
次に、
図5に示すように、並列に配置させた押出材からなる第1部材10の上部に第2部材20を重ねて架け渡す。このとき、第2部材20の嵌合孔21に突条部32を嵌合させて保持させた長尺エレメント30を第1部材10の上壁部13の上部に配置させる。
【0024】
その後、長尺エレメント30の幅方向の中央部に、一端から他端へわたってレーザ溶接用のレーザ光Lnを照射する。そして、長尺エレメント30を、その幅方向の中央部の突条部32において、第1部材10の上壁部13に対してレーザ溶接して固定し、第2部材20の嵌合孔21の縁部を長尺エレメント30のフランジ部33によって係止させる。これにより、長尺エレメント30によって第1部材10と第2部材20とが接合された接合構造体100が得られる。なお、長尺エレメント30を第1部材10にレーザ溶接して形成する溶接部35のビード形状としては、溶接部の割れやブローホール防止の観点から、直線よりも波形やウォブリング形状などが好適である。
【0025】
以上、説明したように、第1実施形態に係る接合構造体100の製造方法及び接合構造体100によれば、機械接合法では接合が困難な、アルミニウム系材料またはマグネシウム系材料の押出材からなる第1部材10と樹脂材料からなる第2部材20とを容易に接合させることができる。しかも、第2部材20を接合する第1部材10として押出材を用いるので、専用品を用いる場合と比較して汎用性が高く、コストを削減できる。
【0026】
また、第2部材20側から長尺エレメント30を第1部材10にレーザ溶接することで、短時間に第1部材10に第2部材20を接合させることができるので、樹脂材料からなる第2部材20への熱の影響を極力抑え、しかも、イニシャルコスト及びランニングコストをともに抑えることができる。これにより、高品質な接合構造体100を低コストに製造することができる。
【0027】
ところで、第1部材10にレーザ溶接される長尺エレメント30は、その幅Wが5mmに満たないと、レーザ溶接時に溶け落ちや溶接部の割れが生じやすくなる。また、長尺エレメント30の長さLが15mmに満たないと、第1部材10へのレーザ溶接が不安定となる。
【0028】
本実施形態では、長尺エレメント30として、幅Wが5mm以上、長さLが15mm以上であって、幅Wと長さLの比L/Wが3以上100以下のエレメントを用いる。したがって、第1部材10に対して長尺エレメント30を溶け落ちなどの不具合なく強固にかつ安定してレーザ溶接することができ、これにより、第1部材10に対して第2部材20を良好に接合させることができる。
【0029】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。
なお、上記第1実施形態と同一構成部分は同一符号を付して説明を省略する。
図6は、本発明の第2実施形態に係る接合構造体の斜視図である。
図7は、
図6におけるC-C断面図である。
【0030】
図6及び
図7に示すように、第2実施形態に係る接合構造体200は、第1部材10に接合された第2部材20と長尺エレメント30とがレーザ溶着されている。具体的には、第2部材20の上面と長尺エレメント30の両側部のフランジ部33とが長尺エレメント30の長手方向にわたってレーザ溶着された溶着部37を有している。この溶着部37では、長尺エレメント30のフランジ部33の表面と第2部材20の表面とが結合されている。具体的には、溶着部37では、アルミニウム系材料である長尺エレメント30のフランジ部33の表面の酸化皮膜(アルミナ:Al
2O
3)と、第2部材20のOH基、CO
OH基あるいはNH
2基などの極性官能基とが、レーザの熱によって化学的に結合されて
いる。これにより、接合構造体200では、溶着部37において、長尺エレメント30と第2部材20との間のシール性が確保されている。
【0031】
次に、この接合構造体200の製造方法について説明する。
図8は、接合構造体の製造方法を説明する第2部材及び長尺エレメントの斜視図である。
図9は、接合構造体の製造方法を説明する作製途中の接合構造体の斜視図である。
【0032】
まず、第2部材20に予め形成した嵌合孔21に、長尺エレメント30の突条部32を上方から嵌合させる、第2部材20に長尺エレメント30を保持させる(
図4参照)。
【0033】
次に、
図8に示すように、長尺エレメント30に幅広のレーザ光Lwを照射する。このレーザ光Lwは、例えば、焦点位置や強度を調整することで、溶接に用いるレーザ光Lnよりも低強度とした幅広のレーザ光である。そして、このレーザ光Lwを、長尺エレメント30の一端から他端へわたって幅方向の全体に照射する。このように、レーザ光Lwを長尺エレメント30に照射すると、第2部材20の上面と長尺エレメント30の両側部のフランジ部33とが長尺エレメント30の長手方向にわたってレーザの熱によって化学的に結合され、溶着部37が形成される。
【0034】
第2部材20に長尺エレメント30をレーザ溶着させたら、
図9に示すように、並列に配置させた押出材からなる第1部材10の上部に、長尺エレメント30が第1部材10の上壁部13の上部に配置されるように第2部材20を重ねて架け渡す。
【0035】
その後、長尺エレメント30の幅方向の中央部に、一端から他端へわたってレーザ光Lnを照射する。そして、長尺エレメント30を、その幅方向の中央部の突条部32において、第1部材10の上壁部13に対してレーザ溶接して固定し、第2部材20の嵌合孔21の縁部を長尺エレメント30のフランジ部33によって係止させる。これにより、長尺エレメント30によって第1部材10と第2部材20とが接合された接合構造体200が得られる。
【0036】
このように、第2実施形態に係る接合構造体200の製造方法及び接合構造体200によれば、第1実施形態に加えて、さらに、長尺エレメント30と第2部材20とをレーザ溶着させることで、シール部材等の別部材を用いることなく、長尺エレメント30と第2部材20との間のシール性を容易に確保できる。また、第2部材20に長尺エレメント30が溶着されるので、第1部材10へ第2部材20を重ねる際の良好なハンドリング性を得ることができる。
【0037】
また、第2部材20として、OH基、COOH基あるいはNH2基などの極性官能基を有する樹脂材料からなる部材を用いるので、レーザ光Lwの熱によって長尺エレメント30と第2部材20とを良好に化学的に結合させてシール性を高めることができる。
【0038】
なお、長尺エレメント30にレーザ光Lwを照射して長尺エレメント30と第2部材20とをレーザ溶着させる工程は、長尺エレメント30にレーザ光Lnを照射して長尺エレメント30を第1部材10にレーザ溶接する工程の後に行ってもよく、また、同時に行ってもよい。
【0039】
次に、長尺エレメント30の各種の変形例について説明する。
(変形例1)
図10は、変形例1に係る長尺エレメントの斜視図である。
図11は、第2部材に組付けられた変形例1に係る長尺エレメントを示す斜視図、D-D断面図及びE-E断面図である。
【0040】
図10及び
図11に示すように、変形例1に係る長尺エレメント30Aは、突条部32に対してエレメント本体31が幅方向の外側とともに長手方向の外側にも張り出してフランジ部33とされている。
【0041】
この長尺エレメント30Aでは、第2部材20の嵌合孔21に嵌合した際に、両側部のフランジ部33とともに両端部のフランジ部33が嵌合孔21の縁部を係止する。これにより、第1部材10に長尺エレメント30Aをレーザ溶接した際に、第1部材10と第2部材20とをより高い接合強度で接合させることができる。また、長尺エレメント30Aを第2部材20にレーザ溶着した場合では、長尺エレメント30Aの両側部及び両端部を第2部材20に溶着して全周にわたってシール性を確保することができる。
【0042】
(変形例2)
図12は、変形例2に係る長尺エレメントの斜視図である。
図13は、第2部材に組付けられた変形例2に係る長尺エレメントを示す斜視図、F-F断面図及びG-G断面図である。
【0043】
図12及び
図13に示すように、変形例2に係る長尺エレメント30Bは、第2部材20と略同一厚さとされている。また、この長尺エレメント30Bを用いる場合、第2部材20に段付きの嵌合孔21を形成する。具体的には、嵌合孔21における第1部材10への接合側と反対側に、エレメント本体31が嵌合可能な大きさの座ぐり孔部21aを形成しておく。
【0044】
この長尺エレメント30Bでは、第2部材20の嵌合孔21に突条部32を嵌合させた際に、フランジ部33を有するエレメント本体31が嵌合孔21の座ぐり孔部21aに嵌合される。これにより、長尺エレメント30Bは、その上面が第2部材20の上面と面一とされる。したがって、この長尺エレメント30Bを用いれば、第2部材20の上面からの出っ張りがなくなるので、良好な外観を得ることができ、しかも、周囲の構造物や部材との干渉をなくすことができる。
【0045】
なお、長尺エレメント30Bの厚さを第2部材20よりも薄くし、嵌合孔21に嵌合させた際に、長尺エレメント30の上面を第2部材20の上面から引き込んだ位置に配置させてもよい。
【0046】
(変形例3)
図14は、変形例3に係る長尺エレメントの斜視図である。
図15は、第2部材に組付けられた変形例3に係る長尺エレメントを示す斜視図、H-H断面図及びI-I断面図である。
【0047】
図14及び
図15に示すように、変形例3に係る長尺エレメント30Cは、突条部32が断面視V字状に形成された先細り形状とされている。
【0048】
この長尺エレメント30Cでは、第2部材20に対して荷重を付与して突条部32を打ち込むことができる。これにより、第2部材20の嵌合孔21を予め形成する必要がなく製造コストをさらに抑えることができ、また、第2部材20に対する長尺エレメント30Cの組付け位置の制約をなくすことができる。
【0049】
次に、上記の接合構造体100(200)の適用例について説明する。
図16は、接合構造体から構成されたバッテリーケースの一部を断面視した斜視図である。
【0050】
図16に示すものは、バッテリーBを収容したバッテリーケース300である。このバッテリーケース300は、例えば、電気自動車やハイブリッド車等の車両に搭載される。バッテリーケース300は、底板部51と、枠体52と、蓋体53と、固定部材54とから構成されている。枠体52は、金属製または樹脂製などの底板部51の上面に固定されており、この枠体52の上部に、固定部材54によって蓋体53が組付けられている。このバッテリーケース300は、底板部51、枠体52及び蓋体53によって囲われた空間が収容空間Sとされており、この収容空間SにバッテリーBが収容されている。
【0051】
このバッテリーケース300は、底板部51の上面に、接合構造体100(200)が組付けられて構成されている。つまり、底板部51の上面に、第1部材10からなる枠体52が固定され、この枠体52の上面に、長尺エレメント30からなる固定部材54を枠体52にレーザ溶接することで第2部材20からなる蓋体53が組付けられている。
【0052】
このように、本実施形態に係る接合構造体の製造方法及び接合構造体によれば、バッテリーケース300等を容易にかつ低コストで構成することができる。また、第2部材20からなる蓋体53に長尺エレメント30からなる固定部材54をレーザ溶着させることで、蓋体53と固定部材54とのシール性を確保することができ、防水性に優れたバッテリーケース300とすることができる。また、枠体52が押出材からなる第1部材10から構成されているので、側方からの耐衝撃性を高めることができる。
なお、底板部51も、長尺エレメント30からなる固定部材54によって枠体52に固定されてもよい。
【0053】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0054】
例えば、上記実施形態で用いたレーザ光Ln,Lwの種類は、特に限定されず、YAGレーザ、CO2レーザ、ファイバーレーザ、ディスクレーザ、半導体レーザ等の種々のものを選択することができる。
【実施例】
【0055】
以下、長尺エレメント30の材料、及び溶接条件を変更しながら、本発明の接合構造体を製造し、溶接部の割れの有無について確認を行った。
ここで、下板となる第1部材10としては、厚さ3mmのA7N01-T6材を用いた。また、上板となる第2部材20としては、厚さ1mmのポリプロピレンを用い、5×80mmの嵌合孔21を形成した。また、長尺エレメント30には、A4032-T6材およびA5083-O材の材料を用い、
図3に示す形状とした。したがって、上記実施形態と同様に、長尺エレメント30の突条部32を第2部材20の嵌合孔21に嵌合させて、エレメント本体31が上部に位置した第2部材20を第1部材10の上に載置した。
【0056】
溶接条件は、いずれも表1に示す条件で、ガルバノレーザヘッドから長尺エレメント30に向けてレーザ光を照射して溶接した。また、作成した継手に対して、断面観察を行い、割れの有無を調べた。なお、観察位置は、溶接線方向中央部とした。その結果を表2に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
表2に示すように、長尺エレメント30の材料、及び溶接条件を変更したいずれの試料においても割れは観察されず、健全な溶接部が形成可能であることが確認された。
【0060】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) アルミニウム系材料またはマグネシウム系材料の押出材からなる第1部材に、樹脂材料からなる第2部材を重ねる工程と、
前記第1部材と同種材料からなる長尺エレメントを前記第2部材側から前記第1部材にレーザ溶接して前記第1部材と前記第2部材とを接合する工程と、
を含む
ことを特徴とする接合構造体の製造方法。
この構成によれば、機械接合法では接合が困難な、アルミニウム系材料またはマグネシウム系材料の押出材からなる第1部材と樹脂材料からなる第2部材とを容易に接合させることができる。しかも、第2部材を接合する第1部材として押出材を用いるので、専用品を用いる場合と比較して汎用性が高く、コストを削減できる。
また、第2部材側から長尺エレメントを第1部材にレーザ溶接することで、短時間に第1部材に第2部材を接合させることができるので、樹脂材料からなる第2部材への熱の影響を極力抑え、しかも、イニシャルコスト及びランニングコストをともに抑えることができる。これにより、高品質な接合構造体を低コストに製造することができる。
【0061】
(2) 前記長尺エレメントにレーザ光を照射し、前記長尺エレメントと前記第2部材とをレーザ溶着させる工程を含む
ことを特徴とする(1)に記載の接合構造体の製造方法。
この構成によれば、長尺エレメントと第2部材とをレーザ溶着させることで、シール部材等の別部材を用いることなく、長尺エレメントと第2部材との間のシール性を容易に確保できる。また、第2部材に長尺エレメントが溶着されるので、第1部材へ第2部材を重ねる際の良好なハンドリング性を得ることができる。
【0062】
(3) 前記第2部材として、極性官能基を有する樹脂材料からなる部材を用いる
ことを特徴とする(1)または(2)に記載の接合構造体の製造方法。
この構成によれば、レーザの熱によって長尺エレメントと第2部材とを良好に化学的に結合させてシール性を高めることができる。
【0063】
(4) 前記長尺エレメントとして、幅Wが5mm以上、長さLが15mm以上であって、前記幅Wと前記長さLの比L/Wが3以上100以下のエレメントを用いる
ことを特徴とする(1)から(3)のいずれか一つに記載の接合構造体の製造方法。
この構成によれば、第1部材に対して長尺エレメントを溶け落ちなどの不具合なく強固にかつ安定してレーザ溶接することができ、これにより、第1部材に対して第2部材を良好に接合させることができる。
【0064】
(5) アルミニウム系材料またはマグネシウム系材料の押出材からなる第1部材と、
前記第1部材に重ねられた樹脂材料からなる第2部材と、
前記第1部材と同種材料からなり、前記第2部材に形成された嵌合孔に嵌合され、前記第1部材にレーザ溶接されて前記第2部材を前記第1部材との間に挟んで、前記第1部材に前記第2部材を接合する長尺エレメントと、
を有する接合構造体。
この構成によれば、機械接合法では接合が困難な、アルミニウム系材料またはマグネシウム系材料の押出材からなる第1部材と樹脂材料からなる第2部材とが容易に接合される。しかも、第2部材が接合された第1部材として押出材が用いられているので、専用品を用いる場合と比較して汎用性が高く、コストを削減できる。
また、第2部材側から長尺エレメントを第1部材にレーザ溶接して短時間に第1部材に第2部材を接合させることが可能であるので、製造する際の樹脂材料からなる第2部材への熱の影響が極力抑えられ、しかも、イニシャルコスト及びランニングコストがともに抑えられる。これにより、低コストで高品質な接合構造体とすることができる。
【0065】
(6) 前記長尺エレメントと前記第2部材とがレーザ溶着されている
ことを特徴とする(5)に記載の接合構造体。
この構成によれば、長尺エレメントと第2部材とがレーザ溶着されているので、これらの長尺エレメントと第2部材との間のシール性が確保された接合構造体とすることができる。したがって、長尺エレメントと第2部材との間をシールするためのシール部材等の別部材を不要にでき、コストを抑えることができる。
【0066】
(7) 前記第2部材は、極性官能基を有する樹脂材料からなる
ことを特徴とする(5)または(6)に記載の接合構造体。
この構成によれば、レーザの熱によって長尺エレメントと第2部材とが良好に化学的に結合されてシール性が高められた接合構造体とすることができる。
【0067】
(8) 前記長尺エレメントは、幅Wが5mm以上、長さLが15mm以上であって、前記幅Wと前記長さLの比L/Wが3以上100以下とされている
ことを特徴とする(5)から(7)のいずれか一つに記載の接合構造体。
この構成によれば、第1部材に対して長尺エレメントが溶け落ちなどの不具合なく強固にかつ安定してレーザ溶接され、第1部材に対して第2部材が良好に接合された接合構造体とすることができる。
【符号の説明】
【0068】
10 第1部材
20 第2部材
30 長尺エレメント
100,200 接合構造体
Ln,Lw レーザ光
L 長尺エレメントの長さ
W 長尺エレメントの幅