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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】スティック状化粧料用型構造
(51)【国際特許分類】
   A45D 40/16 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
A45D40/16 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019155708
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021029850
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 美佳
(72)【発明者】
【氏名】松元 樹
【審査官】東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-300338(JP,A)
【文献】実開平01-118714(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2002/0086079(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 40/00 - 40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のスリーブ部に進退可能に収容され、該スリーブ部に沿ってスライドさせて用いるスティック状化粧料を成形するための化粧料用型構造であって、
前記スティック状化粧料における、前記スリーブ部の内周壁形状に沿った外周壁形状を備える柱状部分を成形する柱状部成形用金型と、前記スティック状化粧料における端面部分のみを成形する端面部成形部材とを備え、
前記柱状部成形用金型は、前記スティック状化粧料の柱状部分の前記外周壁形状に沿った内周壁形状を備える成形穴が、上下方向に貫通して設けられ、
前記端面部成形部材は、弾性変形可能な弾性モールドであり、前記柱状部成形用金型における前記成形穴の下端開口を覆って、該下端開口の開口周縁部に固着された状態で取り付けられている、
スティック状化粧料用型構造。
【請求項2】
前記柱状部成形用金型には、前記成形穴の下端開口の開口周縁部と該開口周縁部に固着された前記端面部成形部材との間に気体を送り込む、気体通路が形成されている請求項1記載のスティック状化粧料用型構造。
【請求項3】
前記柱状部成形用金型は、上部に嵌込み凹部が形成された金型本体部と、前記嵌込み凹部に着脱可能に一体として装着された嵌込み装着部材とを含んでおり、前記成形穴は、前記嵌込み装着部材及び前記金型本体部の下部を貫通して設けられており、前記嵌込み装着部材を貫通する部分の前記成形穴は、上部領域に縮径部を備えており、前記気体通路は、前記嵌め込み凹部の底面部に上端部を開口させて設けられている請求項2記載のスティック状化粧料用型構造。
【請求項4】
前記柱状部成形用金型の下端面に重ね合わされる当接重合面を備える下部金型が、前記柱状部成形用金型に一体として取り付けられており、前記下部金型の前記当接重合面と、前記柱状部成形用金型の下端面との間に挟み込まれて、前記端面部成形部材が、前記成形穴の下端開口を覆ってこれの開口周縁部に固着された状態で取り付けられており、前記下部金型の前記当接重合面における、前記端面部成形部材を挟み込む部分の内側に、前記端面部成形部材を前記成形穴の下端開口から離れる側に弾性変形可能とする変形用空間部が形成されている請求項1~3のいずれか1項記載のスティック状化粧料用型構造。
【請求項5】
前記変形用空間部は、気体吸引口と連通しており、該気体吸引口を介して気体を吸引することにより減圧されて、前記端面部成形部材を前記成形穴の下端開口から離間する側に弾性変形させる請求項4記載のスティック状化粧料用型構造。
【請求項6】
請求項3~6のいずれか1項記載のスティック状化粧料用型構造を用いたスティック状化粧料製品の製造方法であって、
溶融状態の化粧料を前記成形穴に充填する充填工程と、充填された溶融状態の化粧料を冷却固化してスティック状化粧料を成形する冷却工程と、スティック状化粧料の端面部分から前記端面部成形部材を剥離させる端面剥離工程と、スティック状化粧料容器と共にスティック状化粧料を前記柱状部成形用金型から抜き取ってスティック状化粧料製品とする抜き取り工程とを含んで構成されており、
前記端面剥離工程及び前記抜き取り工程において、前記嵌め込み凹部の底面部に上端部が開口する気体通路から、前記成形穴の下端開口の開口周縁部と該開口周縁部に固着された前記端面部成形部材との間に気体を送り込むスティック状化粧料製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スティック状化粧料用型構造に関し、特に、スリーブ部に沿ってスライドさせて用いる口紅等のスティック状化粧料を成形するためのスティック状化粧料用型構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば口紅等のスティック状化粧料は、溶融状態の化粧料を成形用の型の内部に充填して固化させることで、所望のスティック状の形状を備えるように成形されるようになっており、成形されたスティック状化粧料は、中皿を介して筒状のスリーブ部に収容され、中皿を進退させる進退機構によりスリーブ部に沿ってスライドして、スリーブ部から出し入れされるようになっている。
【0003】
また、このような口紅等のスティック状化粧料を成形するための成形方法として、従来より、金型を用いた成形方法(例えば、特許文献1参照)や、スリーブ部を備える容器に溶融状態の化粧料を直接充填して固化させる成形方法(例えば、特許文献2参照)や、ラバーモールド(弾性型)を用いた成形方法(例えば、特許文献3参照)等が、一般に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-23113号公報
【文献】特開2015-93043号公報
【文献】特開2000-290139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来のスティック状化粧料を成形するための成形方法によれば、金型を用いた成形方法では、一定の形状の金型を使用することで、スティック状化粧料を所定の形状となるように精度良く成形することが可能であるが、その一方で、例えば表面に複雑な凹凸模様を有する化粧料を成形することは困難であり、デザイン性に制約を受けることになる。容器に化粧料を直接充填して固化させる成形方法では、生産工程がシンプルで生産ピッチが高く、大量生産には向いているが、その一方で、成形される化粧料の形状に自由度が無く、固化したスティック状化粧料の外周面と容器のスリーブ部の内周面とが密着することになるため、スリーブ部に沿って進退スライドさせる際に固化した化粧料に折れが生じたり、化粧料の外周面に不良個所が生じたりする場合がある。
【0006】
また、ラバーモールドを用いた成形方法では、型に凹凸模様等を施すことが容易であり、型を弾性変形させて脱型できることから、デザイン性に優れた化粧料を成形することが可能であるが、その一方で、型の弾性の影響により所定の形状にスティック状化粧料を精度良く成形することが難しくなる。このため、特にスティック状化粧料における、スリーブ部の内径と同様の外径を有するように成形される柱状部分の外周部に、膨らんだ部分や傾いた部分が生じ易くなることで、スティック状化粧料をスリーブ部に沿ってスライド移動させる際に、これらの膨らんだ部分や傾いた部分が、スリーブ部と干渉することになって、スティック状化粧料の外周面が削り取られたり、折れ曲がったりする場合がある。
【0007】
このようなことから、表面に凹凸模様を形成可能としてデザイン性の向上を図りつつ、容器のスリーブ部と干渉しない所定の形状となるようにスティック状化粧料を精度良く成形できるようにする技術の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、表面に凹凸模様を形成可能としてデザイン性の向上を図りつつ、容器のスリーブ部と干渉しない所定の形状を備えるスティック状化粧料を精度良く成形することのできるスティック状化粧料用型構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、筒状のスリーブ部に進退可能に収容され、該スリーブ部に沿ってスライドさせて用いるスティック状化粧料を成形するための化粧料用型構造であって、前記スティック状化粧料における、前記スリーブ部の内周壁形状に沿った外周壁形状を備える柱状部分を成形する柱状部成形用金型と、前記スティック状化粧料における端面部分のみを成形する端面部成形部材とを備え、前記柱状部成形用金型は、前記スティック状化粧料の柱状部分の前記外周壁形状に沿った内周壁形状を備える成形穴が、上下方向に貫通して設けられ、前記端面部成形部材は、弾性変形可能な弾性モールドであり、前記柱状部成形用金型における前記成形穴の下端開口を覆って、該下端開口の開口周縁部に固着された状態で取り付けられている、スティック状化粧料用型構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスティック状化粧料用型構造によれば、表面に凹凸模様を形成可能としてデザイン性の向上を図りつつ、容器のスリーブ部と干渉しない所定の形状を備えるスティック状化粧料を精度良く成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の好ましい一実施形態に係るスティック状化粧料用型構造の構成を説明する断面図である。
図2】柱状部成形用金型の構成を説明する、(a)は金型本体部の断面図、(b)は嵌込み装着部材の断面図である。
図3】下部金型の構成を説明する断面図である。
図4】端面部成形部材の構成を説明する、(a)は上面図、(b)は(a)のA-Aに沿った断面図である。
図5】(a)~(e)は、スティック状化粧料用型構造を用いて、スティック状化粧料及び口紅製品を製造する工程の説明図である。
図6】スティック状化粧料用型構造を用いて製造された、口紅製品の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示す本発明の好ましい一実施形態に係るスティック状化粧料用型構造10は、スティック状化粧料として、例えば口紅20(図6参照)を成形するための型構造として採用されたものである。本実施形態では、成形される口紅20は、例えばスリムタイプの口紅となっている。図6に示すように、成形された口紅20は、中皿24に一体として装着された状態で、口紅容器21の筒状のスリーブ部22に収容されることにより、公知の進退機構23による中皿24の進退に伴って、スリーブ部22に沿って進退可能にスライドすることで、スリーブ部22から出し入れされるようになっている。本実施形態の化粧料用型構造10は、スティック状化粧料である口紅20における、特にスリーブ部22の内周壁形状に沿った外周壁形状を備える柱状部分20aを、精度良く成形できるようにして、口紅20をスリーブ部22から出し入れする際に、適度なクリアランスを保持して口紅20の外周面がスリーブ部22と干渉するのを回避できるようにすると共に、口紅20のデザイン性を向上できるようにする機能を備える。
【0013】
そして、本実施形態のスティック状化粧料用型構造10は、口紅容器21の筒状のスリーブ部22に進退可能に収容され、スリーブ部22に沿ってスライドさせて用いるスティック状化粧料として、好ましくは口紅20(図6参照)を成形するための化粧料用型構造であって、図1図4に示すように、スティック状化粧料(口紅)20における、口紅容器21のスリーブ部22の内周壁形状に沿った外周壁形状を備える柱状部分20a(図6参照)を成形する柱状部成形用金型11と、スティック状化粧料(口紅)20における端面部分20b(図6参照)のみを成形する端面部成形部材12とを備えている。柱状部成形用金型11には、スティック状化粧料(口紅)20の柱状部分20aの外周壁形状に沿って、それが転写されることで、スティック状化粧料(口紅)20の柱状部分20aの外周壁形状を決めることとなる内周壁形状を備える成形穴13が、上下方向に貫通して設けられており、端面部成形部材12は、柱状部成形用金型11における成形穴13の下端開口13aを覆って、下端開口13aの開口周縁部に固着された状態で取り付けられている。そして、端面部成形部材12は、弾性材料で作られ、変形可能な弾性モールドとなっている。
【0014】
また、本実施形態では、柱状部成形用金型11には、成形穴13の下端開口13aの開口周縁部と該開口周縁部に固着された端面部成形部材12との間に外気(空気)などの気体を送り込む、気体通路14が、好ましくは成形穴13の軸方向(延長方向)に平行に形成されている。
【0015】
さらに、本実施形態では、柱状部成形用金型11は、上部に嵌込み凹部15aが形成された金型本体部15と、嵌込み凹部15aに着脱可能に一体として装着された嵌込み装着部材16とを含んでおり(図2(a)、(b)参照)、成形穴13は、嵌込み装着部材16及び金型本体部15の下部を貫通して設けられている。成形穴13は、嵌込み装着部材16の上部領域において縮径部13bを備えており、気体通路14は、嵌込み凹部15aの底面部に上端部を開口させて設けられている。
【0016】
さらにまた、本実施形態では、柱状部成形用金型11の下端面11aに重ね合わされる当接重合面17aを備える下部金型17が、柱状部成形用金型11に一体として取り付けられている。そして、端面部成形部材12が、下部金型17の当接重合面17aと、柱状部成形用金型11の下端面11aとの間に挟み込まれることで、成形穴13の下端開口13aを覆ってこれらの開口周縁部に固着された状態で取り付けられている。下部金型17の端面部成形部材12を挟み込む当接重合面17aの内側に、言い換えると、端面部成形部材12を挟み込む当接重合面17aを周縁部とする、変形用空間部18が形成されている。変形用空間部18は、気体吸引口18aと連通しており、気体吸引口18aを介して内部の気体を吸引することにより減圧されて、端面部成形部材12を成形穴13の下端開口13aから離間する側に弾性変形させるための空間である。
【0017】
本実施形態では、スティック状化粧料用型構造10によって成形されるスティック状化粧料20は、口紅である。ここで、スティック状化粧料用型構造10によって成形されるスティック状化粧料20は、口紅の他、コンシーラー、リップクリーム、リップグロス、スティックアイシャドウ、アイブロー、アイライナー、スティックファンデーションなど、棒状の形状を有するその他の種々の化粧料であっても良い。これらの化粧料に用いる組成物の処方は、この種のスティック状(棒状)化粧料に用いられている組成物の処方と同様とすることができる。すなわち、これらの組成物の処方は、一般にワックス類、ペースト類及びオイル類を主成分として含んでおり、更に着色顔料、パール顔料等の着色剤、体質顔料等の粉体、ポリマー、増粘剤、ゲル化剤、防腐剤、保湿剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を含んでいる。ワックス類としては、植物ワックス、動物ワックス、石油ワックス及び鉱物ワックス等の天然ワックス又は合成ワックスのいずれでもよく、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ヒマワリ種子ロウ、水素添加ホホバ油、ミツロウ、モクロウ、硬化ひまし油、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス、エチレンプロピレンオリゴマー、シリコーンワックス等を適宜配合したものを用いることができる。一方オイル類としては、トリグリセライド、ジグリセライド、モノエステル、ジエステル等のエステル油、その他ポリイソブテン、スクワラン等の分岐炭化水素油、シリコーン油、フッ素油、高級アルコール、ポリグリセリンエステル、コレステロールエステル、フィトステロールエステル、イソドデカン等の揮発性炭化水素油、揮発性シリコーン等を用いることができる。これらワックス類及びオイル類はそれぞれ一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本実施形態のスティック状化粧料用型構造10では、後述するように、成形穴13に充填された溶融状態の化粧料の全体を、金型に接触させた冷媒によって直接冷却固化することによりスティック状化粧料20を形成できるので、より安定した状態で冷却することを可能にして、軟らかい物性の組成物からなるスティック状化粧料20であっても、所定の形状となるように精度良く成形することが可能になる。また、軟らかい物性のスティック状化粧料を成形する際に、容器の挿入時の押し付けによるスティックのへこみの発生や、容器抜き取り時の金型とスティック側面とのすれの発生を防止することが可能になる。
【0019】
本実施形態では、スティック状化粧料用型構造10を構成する柱状部成形用金型11は、好ましくはアルミニウム、ジュラルミン等の高い熱伝導性を有する金属材料からなるものである。柱状部成形用金型11は、図1及び図2(a)、(b)に示すように、金型本体部15と嵌込み装着部材16を含んで構成されている。
【0020】
金型本体部15には、図2(a)に示すように、上部の立設壁15bに囲まれる部分に、筒状の中空断面形状を有する嵌込み凹部15aが形成されていると共に、下端部に、柱状部成形用金型11の下端面11aとなる、L字状の断面形状を有する斜め切欠き面15cが形成されている。断面形状がL字状の斜め切欠き面15cは、L字の長辺部15dが、スティック状化粧料20の端面部分20b(図6参照)の傾斜角度と略同様の傾斜角度で斜めに延設して、金型本体部15の横幅方向の一方の縁部から、横幅方向の中央部分を超えて、金型本体部15の横幅方向の他方の縁部に近接する領域まで設けられている。L字形状の斜め切欠き面15cの短辺部15eは、長辺部15dに対して略垂直下方に折れ曲がって、金型本体部15の横幅方向の他方の縁部に接続するように設けられている。
【0021】
また、金型本体部15には、嵌込み凹部15aよりも下方の部分である下部に、成形穴13の下半部分が上下方向に貫通して、上端を嵌込み凹部15aの底面部に開口させると共に、下端を下端開口13aとして切欠き面15cの長辺部15dに斜めに開口させた状態で設けられている。また成形穴13に隣接して、気体通路14が、上端を嵌込み凹部15aの底面部に開口させると共に、下端を成形穴13の下端開口13aの周縁部分に斜めに開口させた状態で設けられている。
【0022】
金型本体部15の嵌込み凹部15aに装着される嵌込み装着部材16は、図2(b)に示すように、金型本体部15の嵌込み凹部15aの中空形状と同じ形状を有している。これによって嵌込み装着部材16は、嵌込み凹部15aを形成する金型本体部15の上部の立設壁15bに囲まれた部分に、着脱可能にぴったりと嵌め込むようにして装着される。嵌込み装着部材16の上端部には、鉛直方向において矩形の断面形状を有する凹溝部16cが形成されている。この凹溝部16cの底面と嵌込み装着部材16の下面との間を上下方向に貫通して、成形穴13の上半部分が、金型本体部15に設けられた下半部分と連続させることが可能な状態で形成されている。嵌込み装着部材16を貫通する成形穴13の上半部分は、これの略2/3の上部領域が、段部13dを介して縮径している縮径部13bとなっている。
【0023】
本実施形態では、金型本体部15に、下部金型17が取り付けられている。下部金型17は、柱状部成形用金型11の下端面11aとなる金型本体部15の斜め切欠き面15cに重ね合わされる、当接重合面17aを備えている。下部金型17は、柱状部成形用金型11と同様に、好ましくはアルミニウム、ジュラルミン等の、高い熱伝導性を有する金属材料からなり、図1及び図3に示すように、上端部に、金型本体部15の斜め切欠き面15cと合致する、その輪郭がL字状断面形状である当接重合面17aを備えている。当接重合面17aは、L字の長辺部17dに相当する面を金型本体部15の斜め切欠き面15cの長辺部15dに相当する面に重ね合わせると共に、その短辺部17eに相当する面を金型本体部15の斜め切欠き面15cの短辺部15eに相当する面に重ね合わせた状態で配置される。当接重合面17aの長辺部17dには、柱状部成形用金型11の下端面11aに開口する成形穴13の下端開口13aと対向する領域に、変形用空間部18を形成するための円形凹部17fが設けられている。
【0024】
円形凹部17fは、金型本体部15の斜め切欠き面15cの長辺部15dにおいて楕円形状に開口する、円形の成形穴13の下端開口13aの長径よりも一回り大きな直径の、円形の中空断面形状を備えると共に、例えば10mm程度の深さで形成されている。また円形凹部17fの当接重合面17aに沿った開口周縁部には、当該当接重合面17aと、柱状部成形用金型11の下端面11aとの間に端面部成形部材12の周縁部を挟み込んだ状態で固着するための、挟込み係止凹部17gが、環状に連続して設けられている。成形穴13に隣接して金型本体部15に設けられた気体通路14は、斜め切欠き面15cの長辺部15dにおける、下部金型17の円形凹部17fの開口周縁部の挟込み係止凹部17gと対向する領域に、下端を開口させた状態で設けられている。
【0025】
また、下部金型17の横幅方向の中央部分には、円形凹部17fの斜めに配置された底部と、下部金型17の底面との間を上下方向に貫通して、下部気体流路17hが形成されている。下部気体流路17hの下端は、円形凹部17fによる変形用空間部18と連通する気体吸引口18aとして、下部金型17の底面に開口している。
【0026】
本実施形態では、柱状部成形用金型11と共にスティック状化粧料用型構造10を構成する端面部成形部材12は、弾性変形可能な弾性モールドとして、例えばシリコンゴム等からなるラバー製のモールド(ラバーモールド)であることが好ましい。端面部成形部材12として、好ましくはラバーモールド等の弾性モールドを用いることで、成形されるスティック状化粧料(口紅)20における端面部分20bに、凹凸模様等による、デザイン性に優れた外観形状を付与することが可能になる。
【0027】
端面部成形部材12は、その全体形状が、本実施形態では、図1及び図4(a)、(b)に示すように、下部金型17の円形凹部17fの開口周縁部に環状に形成された挟込み係止凹部17gと同様の外径を備える円盤形状である。また端面部成形部材12は、下部金型17の環状の挟込み係止凹部17gにおいて、下部金型17の当接重合面17aと、柱状部成形用金型11の下端面11aとの間に挟み込まれる部分である環状の周縁挟込み係止部12bと、周縁挟込み係止部12bの内側の円形領域である、円形凹部17fの開口面を覆って配置される弾性変形部12aとを含んで形成されている。下部金型17の円形凹部17fの開口面を覆って配置される端面部成形部材12の弾性変形部12aにおける、成形穴13の下端開口13aをも覆って配置される楕円領域の上面側には、種々の凹凸模様による装飾を施しておくことができる。
【0028】
端面部成形部材12は、柱状部成形用金型11の下端面11aに当接重合面17aを重ね合わせた状態で、下部金型17を、例えば固定ネジ等による公知の接合手段(図示せず)を介して柱状部成形用金型11の金型本体部15に一体として固定する際に、周縁挟込み係止部12bが、下部金型17の環状の係止凹部17gにおいて、下部金型17の当接重合面17aと、柱状部成形用金型11の下端面11aとの間に強固に挟み込まれる。これによって、端面部成形部材12を、成形穴13の下端開口13aを覆ってこれの開口周縁部に固着することができる。またこれによって、下部金型17の当接重合面17aにおける、端面部成形部材12を挟み込む部分である挟込み係止凹部17gに囲まれた部分、すなわち、挟込み係止凹部17gの内側に、端面部成形部材12を成形穴13の下端開口13aから離れる側に弾性変形可能とする、変形用空間部18が形成されることになる(図1参照)。
【0029】
上述の構成を備える本実施形態のスティック状化粧料用型構造10を用いて、スティック状化粧料である口紅20や口紅製品30を製造するには、図5(a)~(e)に示すように、溶融状態の化粧料を成形穴13に充填する充填工程(図5(a)参照)と、充填された溶融状態の化粧料を冷却固化して口紅20を成形する冷却工程(図5(b)参照)と、成形した口紅20を口紅容器21(図6参照)に差し込むようにして装着する紅差し工程(図5(c)参照)と、口紅20の端面部分20bから端面部成形部材12を剥離させる端面剥離工程(図5(d)参照)と、口紅容器21と共に口紅20を柱状部成形用金型11から抜き取って口紅製品30とする抜き取り工程(図5(e)参照)とを含む製造方法を採用することができる。また、紅差し工程(図5(c)参照)に換えて、口紅容器21を、柱状部成形用金型11と端面部成形部材12とを備える化粧料用型構造10に予めセットしておき、セットされた口紅容器21の底部分から溶融状態である化粧料を充填して充填工程を行ない、しかる後に充填された溶融状態の化粧料を冷却固化して口紅20を成形する冷却工程と、口紅20の端面部分20bから端面部成形部材12を剥離させる端面剥離工程と、口紅容器21と共に口紅20を柱状部成形用金型11から抜き取って口紅製品30とする抜き取り工程とを行う製造方法を採用することもできる。
【0030】
充填工程では、例えば図1に示すように組み付けられたスティック状化粧料用型構造10における柱状部成形用金型11の成形穴13に、嵌込み装着部材16の上端部の凹溝部16cに開口する開口部を介して、溶融状態の化粧料を、凹溝部16cの底面に至る高さまで充填する(図5(a)参照)。
【0031】
冷却工程では、柱状部成形用金型11の成形穴13に溶融状態の化粧料が充填された化粧料用型構造10を、冷媒31によって外側から冷却することにより、成形穴13に充填された溶融状態の化粧料を冷却固化する(図5(b)参照)。本実施形態では、スティック状化粧料用型構造10を構成する柱状部成形用金型11及び下部金型17は、好ましくはアルミニウム、ジュラルミン等の、高い熱伝導性を有する金属材料からなり、これらを固体、液体等の冷媒で直接に接触冷却可能なことから、一般のラバーモールドによる場合と比較して、安定した状態で冷却固化することが可能になるので、軟らかい物性の組成物からなる口紅20であっても、所定の形状となるように成形することが可能になる。
【0032】
紅差し工程では、図5(c)に示すように、柱状部成形用金型11の金型本体部15から嵌込み装着部材16を抜き出して、当該装着部材16を貫通する成形穴13の上半部分によって成形された、略2/3の上部領域が縮径部20cとなっている上半部分の口紅20(図5(b)参照)を、嵌込み装着部材16が抜き出された嵌込み凹部15aの内側に露出させる。しかる後に、紅差し工程では、口紅容器21のスリーブ部22の開口を下方に向けた状態で、口紅20の縮径部20cが、スリーブ部22の内側に配置された当該縮径部20cの外径と同様の内径を備える中皿24(図6参照)の内部に押し込まれるまで、口紅容器21を嵌込み凹部15aの内側に下降させて、口紅20を中皿24に一体として装着する。ここで、口紅20の縮径部20cの段差部分20dとなっている基端部は、嵌込み凹部15aの底面の上方に当該底面と離間した状態で配置されているので(図5(b)参照)、スリーブ部22の先端を嵌込み凹部15aの底面と干渉させることなく、口紅20の縮径部20cを、中皿24の奥深くまで装着することが可能になる。
【0033】
端面剥離工程では、図5(d)に示すように、端面部成形部材12の背面側に形成された変形用空間部18と連通する気体吸引口18aに吸引装置32を接続し、下部気体流路17hを介して気体を吸引することにより変形用空間部18を減圧すると共に、気体通路14を介して、端面部成形部材12の弾性変形部12aと、固化した口紅20の端面部分20bとの間に空気などの気体を送り込むことによって、端面部成形部材12を口紅20の端面部分20bから剥離させる。
【0034】
抜き取り工程では、図5(e)に示すように、口紅容器21の中皿24に一体として装着された口紅20を、口紅容器21を嵌込み凹部15aから引き上げることで成形穴13から抜き取ることができる。この際に、気体通路14を介して、端面部成形部材12と、固化した口紅20の端面部分20bとの間に空気などの気体を送り込むことにより、これらの間の空間部分が負圧になるのを回避して、口紅20の抜き取りをスムーズに行なうことが可能になる。抜き取られたスティック状の口紅20は、口紅容器21と共に口紅製品30を形成する。
【0035】
また、形成された口紅製品30は、図6に示すように、例えば口紅容器21の把持スリーブ25をスリーブ部22に対して回転させることで、公知の進退機構23を介して、中皿24を上下に進退移動させることができるようになっている。これによって、中皿24に装着された状態で、筒状のスリーブ部22に収容されているスティック状の口紅20を、進退機構23による中皿24の進退に伴って、スリーブ部22に沿って進退スライドさせることで、スリーブ部22から出し入れさせて、使用に供することが可能になる。
【0036】
そして、上述の構成を備える本実施形態のスティック状化粧料用型構造10によれば、表面に凹凸模様を形成可能としてデザイン性の向上を図りつつ、口紅容器21のスリーブ部22と干渉しないクリアランスを保持した所定の形状を備えるスティック状化粧料である口紅20を、精度良く成形することが可能になる。
【0037】
すなわち、本実施形態によれば、化粧料用型構造10は、口紅20における、口紅容器21のスリーブ部22の内周壁形状に沿った外周壁形状を備える柱状部分20aを成形する柱状部成形用金型11と、口紅20における端面部分20bのみを成形する弾性モールドからなる端面部成形部材12とを備えており、口紅20の柱状部分20aの全体を、これの外周壁形状に沿った内周壁形状を備える成形穴13を有する柱状部成形用金型11を用いて成形することが可能となっている。これによって、一般のラバーモールドによる成形方法によって柱状部分が成形される場合と比較して、口紅20の柱状部分20aの全体を、口紅容器21のスリーブ部22と干渉しないクリアランスを保持した所定の形状となるように、高い精度で成形することが可能になる。
【0038】
また、口紅20における端面部分20bのみを成形する、弾性モールドからなる端面部成形部材12を弾性変形させることで、例えば装飾性に富んだ凹凸模様を端面部分20bに容易に形成することができるので、端面部分20bに形成された凹凸模様によってデザイン性が向上した口紅を、容易に得ることが可能になる。
【0039】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、柱状部成形用金型の下端面に、変形用空間部が形成された下部金型が一体として取り付けられている必要は必ずしも無く、端面部成形部材は、下部金型の当接重合面と、柱状部成形用金型の下端面との間に挟み込まれて、成形穴の下端開口の開口周縁部に固着されている必要は必ずしも無い。端面部成形部材は、接着剤等を介して、成形穴の下端開口の開口周縁部に固着されていても良い。
【符号の説明】
【0040】
10 スティック状化粧料用型構造
11 柱状部成形用金型
11a 下端面
12 端面部成形部材
12a 弾性変形部
12b 周縁挟込み係止部
13 成形穴
13a 下端開口
13b 縮径部
14 気体通路
15 金型本体部
15a 嵌込み凹部
15b 立設壁
15c 斜め切欠き面
16 嵌込み装着部材
17 下部金型
17a 当接重合面
18 変形用空間部
18a 気体吸引口
20 スティック状化粧料(口紅)
20a 柱状部分
20b 端面部分
20c 縮径部
20d 段差部分
21 口紅容器21
22 スリーブ部
23 進退機構
24 中皿
30 口紅製品
31 冷却水
32 吸引装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6