(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】超音波検査システム及び超音波検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/265 20060101AFI20230418BHJP
G01N 29/40 20060101ALI20230418BHJP
G01N 29/48 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
G01N29/265
G01N29/40
G01N29/48
(21)【出願番号】P 2019155807
(22)【出願日】2019-08-28
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 睦三
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-097942(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0216158(US,A1)
【文献】特開2012-013347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01B 17/00-17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を介して被検査体へ超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査システムであって、
前記超音波ビームを放出する送信プローブを備え、
前記被検査体に関して前記送信プローブの反対側に設置された受信プローブを備え、
x軸及びy軸によって形成されるxy平面が前記被検査体の底面に対して略水平となっている状態で、前記送信プローブと前記受信プローブはx軸方向又はy軸方向に走査を行い、
前記x軸と前記y軸によって形成される前記xy平面に対して送信音軸が垂直となるように前記送信プローブが配置され、
前記送信プローブの前記送信音軸と前記受信プローブの受信音軸との偏心距離をゼロよりも大きな距離に調整する距離調整部
を備え
、
前記送信プローブと前記受信プローブとは、前記偏心距離を保ちながら走査する
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波検査システムであって、
前記距離調整部は、
前記受信プローブで検出される受信信号強度が、前記被検査体の健全部における信号強度よりも、欠陥部における信号強度の方が大きくなるように前記偏心距離を設定する
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波検査システムであって、
前記距離調整部は、
前記被検査体の健全部では有意の受信信号が出ないように前記偏心距離を設定する
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波検査システムであって、
前記受信プローブの焦点距離は、前記送信プローブの焦点距離よりも長い
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波検査システムであって、
前記受信プローブのビーム入射面積は、前記送信プローブのビーム入射面積よりも大きい
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項6】
請求項1に記載の超音波検査システムであって、
前記送信プローブの送信音軸と前記受信プローブの受信音軸とがなす角が、ゼロよりも大きく、かつ、90°未満となるよう前記送信プローブ及び前記受信プローブの少なくとも一方を調整して設定する設置角度調整部
を備えることを特徴とする超音波検査システム。
【請求項7】
請求項1に記載の超音波検査システムであって、
前記受信プローブが、複数の前記受信プローブで構成される
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項8】
請求項7に記載の超音波検査システムであって、
複数の前記受信プローブそれぞれの出力が信号処理部を経由して入力され、複数の前記受信プローブのうち、どの前記受信プローブで欠陥部からの散乱波を検知したかを判定する欠陥情報判定部
を備えることを特徴とする超音波検査システム。
【請求項9】
請求項7に記載の超音波検査システムであって、
複数の前記受信プローブは、前記送信プローブの音軸を中心として放射状に配置される
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項10】
請求項7に記載の超音波検査システムであって、
複数の前記受信プローブは、前記送信プローブの音軸に関して、両側に配置される
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項11】
請求項1に記載の超音波検査システムであって、
前記受信プローブの振動子の形状は、前記偏心距離の方向の特性長さが、それに直交する方向の特性長さよりも長い
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項12】
超音波検査部と、前記超音波検査部を制御する制御部と、を有し、気体を介して被検査体へ超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査システムにおいて、
前記超音波検査部は、
超音波ビームを放出する送信プローブと、
前記被検査体に関して前記送信プローブの反対側に設置される受信プローブと、
を備え、
x軸及びy軸によって形成されるxy平面が前記被検査体の底面に対して略水平となっている状態で、前記送信プローブと前記受信プローブはx軸方向又はy軸方向に走査を行い、
前記x軸と前記y軸によって形成される前記xy平面に対して送信音軸が垂直となるように前記送信プローブが配置され、
前記送信プローブの前記送信音軸と、前記受信プローブの受信音軸との
偏心距離をゼロよ
りも大きな距離に調整する距離調整部と、
を備え、
前記制御部は、
前記送信プローブから超音波ビームを放出する超音波ビーム放出ステップと、
前記受信プローブにおいて、前記被検査体の欠陥部で散乱した散乱波を受信する散乱波受信ステップと、
受信した散乱波の信号を基に、信号強度データを生成する波形解析ステップと、
を実行
し、
前記送信プローブと前記受信プローブとは、前記偏心距離を保ちながら走査する
ことを特徴とする超音波検査方法。
【請求項13】
請求項12に記載の超音波検査方法であって、
前記波形解析ステップで生成された前記信号強度データが、予め設定されている閾値以上か否かを判定することで、前記欠陥部の有無を判定する欠陥部判定ステップ
を実行することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項14】
気体を介して被検査体へ超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査システムであって、
前記超音波ビームを放出する送信プローブを備え、
前記被検査体に関して前記送信プローブの反対側に設置された受信プローブを備え、
前記送信プローブの送信音軸と前記受信プローブの受信音軸との偏心距離をゼロよりも大きな距離に調整する距離調整部を備え、
前記受信プローブの焦点距離は、前記送信プローブの焦点距離よりも長い
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項15】
請求項14に記載の超音波検査システムであって、
前記距離調整部は、
前記受信プローブで検出される受信信号強度が、前記被検査体の健全部における信号強度よりも、欠陥部における信号強度の方が大きくなるように前記偏心距離を設定する
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項16】
請求項14に記載の超音波検査システムであって、
前記距離調整部は、
前記被検査体の健全部では有意の受信信号が出ないように前記偏心距離を設定する
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項17】
請求項14に記載の超音波検査システムであって、
前記受信プローブは、非収束型プローブである
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項18】
請求項14に記載の超音波検査システムであって、
前記送信プローブの送信音軸と前記受信プローブの受信音軸とがなす角が、ゼロよりも大きく、かつ、90°未満となるよう前記送信プローブ及び前記受信プローブの少なくとも一方を調整して設定する設置角度調整部
を備えることを特徴とする超音波検査システム。
【請求項19】
請求項14に記載の超音波検査システムであって、
前記受信プローブが、複数の前記受信プローブで構成される
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項20】
気体を介して被検査体へ超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査システムであって、
前記超音波ビームを放出する送信プローブを備え、
前記被検査体に関して前記送信プローブの反対側に設置された受信プローブを備え、
前記送信プローブの送信音軸と前記受信プローブの受信音軸との偏心距離をゼロよりも大きな距離に調整する距離調整部
を備え、
前記受信プローブのビーム入射面積は、前記送信プローブのビーム入射面積よりも大きい
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項21】
気体を介して被検査体へ超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査システムであって、
前記超音波ビームを放出する送信プローブを備え、
前記被検査体に関して前記送信プローブの反対側に設置された受信プローブを備え、
前記送信プローブの送信音軸と前記受信プローブの受信音軸との偏心距離をゼロよりも大きな距離に調整する距離調整部
を備え、
前記受信プローブが、複数の前記受信プローブで構成され、
複数の前記受信プローブそれぞれの出力が信号処理部を経由して入力され、複数の前記受信プローブのうち、どの前記受信プローブで欠陥部からの散乱波を検知したかを判定する欠陥情報判定部
を備えることを特徴とする超音波検査システム。
【請求項22】
気体を介して被検査体へ超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査システムであって、
前記超音波ビームを放出する送信プローブを備え、
前記被検査体に関して前記送信プローブの反対側に設置された受信プローブを備え、
前記送信プローブの送信音軸と前記受信プローブの受信音軸との偏心距離をゼロよりも大きな距離に調整する距離調整部
を備え、
前記受信プローブが、複数の前記受信プローブで構成され、
複数の前記受信プローブは、前記送信プローブの音軸を中心として放射状に配置される
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項23】
気体を介して被検査体へ超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査システムであって、
前記超音波ビームを放出する送信プローブを備え、
前記被検査体に関して前記送信プローブの反対側に設置された受信プローブを備え、
前記送信プローブの送信音軸と前記受信プローブの受信音軸との偏心距離をゼロよりも大きな距離に調整する距離調整部
を備え、
前記受信プローブが、複数の前記受信プローブで構成され、
複数の前記受信プローブは、前記送信プローブの音軸に関して、両側に配置される
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項24】
気体を介して被検査体へ超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査システムであって、
前記超音波ビームを放出する送信プローブを備え、
前記被検査体に関して前記送信プローブの反対側に設置された受信プローブを備え、
前記送信プローブの送信音軸と前記受信プローブの受信音軸との偏心距離をゼロよりも大きな距離に調整する距離調整部
を備え、
前記受信プローブの振動子の形状は、前記偏心距離の方向の特性長さが、それに直交する方向の特性長さよりも長い
ことを特徴とする超音波検査システム。
【請求項25】
超音波検査部と、前記超音波検査部を制御する制御部と、を有し、気体を介して被検査体へ超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査システムにおいて、
前記超音波検査部は、
超音波ビームを放出する送信プローブと、
前記被検査体に関して前記送信プローブの反対側に設置される受信プローブと、
を備え、
前記送信プローブの送信音軸と、前記受信プローブの受信音軸との距離をゼロよりも大きな距離に調整する距離調整部と、
を備え、
前記受信プローブの焦点距離は、前記送信プローブの焦点距離よりも長く設定されており、
前記制御部は、
前記送信プローブから超音波ビームを放出する超音波ビーム放出ステップと、
前記受信プローブにおいて、前記被検査体の欠陥部で散乱した散乱波を受信する散乱波受信ステップと、
受信した散乱波の信号を基に、信号強度データを生成する波形解析ステップと、
を実行することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項26】
超音波検査部と、前記超音波検査部を制御する制御部と、を有し、気体を介して被検査体へ超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査システムにおいて、
前記超音波検査部は、
超音波ビームを放出する送信プローブと、
前記被検査体に関して前記送信プローブの反対側に設置される受信プローブと、
を備え、
前記送信プローブの送信音軸と、前記受信プローブの受信音軸との距離をゼロよりも大きな距離に調整する距離調整部と、
を備え、
前記制御部は、
前記送信プローブから超音波ビームを放出する超音波ビーム放出ステップと、
前記受信プローブにおいて、前記被検査体の欠陥部で散乱した散乱波を受信する散乱波受信ステップと、
受信した散乱波の信号を基に、信号強度データを生成する波形解析ステップと、
前記波形解析ステップで生成された前記信号強度データが、予め設定されている閾値以上か否かを判定することで、前記欠陥部の有無を判定する欠陥部判定ステップと、
を実行することを特徴とする超音波検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波で欠陥部を探索する超音波検査システム及び超音波検査方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば超音波ビームの照射により、音響インピーダンスの違いによる超音波の反射特性を利用することで、被検査体の内部に存在する欠陥部を検出できる。
【0003】
また、超音波の透過特性を用いて被検査体の内部に存在する欠陥部を検出することもできる。例えば、被検査体の内部に空気等音響インピーダンスが小さな欠陥部(空洞等)がある場合、被検査体の内部で音響インピーダンスのギャップが生じるため、超音波ビームの透過量が小さくなる。したがって、超音波ビームの透過量を計測することで、被検査体内部の欠陥部を検出することができる。
【0004】
被検査体に対する超音波検査技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、「被検体の表面に平行な平面方向に超音波探触子を走査させながら前記超音波探触子から前記被検体に向けて超音波を送出し、前記被検体から戻ってくる反射エコー波を前記超音波探触子で受信し、前記反射エコー波に係る信号をデジタル波形データに変換し、前記デジタル波形データを演算処理手段に送り、当該演算処理手段で演算処理を行って前記被検体の内部欠陥を検査する超音波検査装置において、前記演算処理手段は、前記被検体から戻ってくる前記反射エコー波が複数であってかつ相互に干渉するとき、干渉した複数の前記反射エコー波に係る受信波形の周波数領域での波形特性で生じる変化部位を抽出する抽出手段と、抽出された前記変化部位に基づき前記内部欠陥に係る画像を作成する画像作成手段と、を備え、前記抽出手段は、前記受信波形に係るデータをフーリエ変換処理してパワースペクトルを算出する変換処理手段と、前記フーリエ変換処理により算出されたパワースペクトル上でパワースペクトル値が低下している少なくとも1つのディップ周波数を計算する演算手段と、前記ディップ周波数に対して帯域を設定する帯域設定手段と、を備え、作成された前記画像に基づいて前記内部欠陥を検査することを特徴とする」超音波検査装置及び超音波検査方法が開示されている(請求項1参照)。
【0005】
特許文献1に記載の手法は水浸法と呼ばれ、被検査体を水中に浸す必要がある。水浸法を用いる理由は、超音波ビームの減衰をできるだけ防ぐためである。
【0006】
しかしながら、水浸法では、水への接触を嫌う被検査体の検査を行うことができない等、被検査体に大きな制約が発生する。このため、被検査体を空気中に設置した状態で、送信プローブ及び受信プローブを被検査体に対して非接触で配置して検査する方法が求められている。
【0007】
一方、空気を経由して超音波ビームが非検査体に入射すると、受信信号が極めて微弱になるという課題がある。例えば、特許文献2には、「連続する所定個数の負の矩形波からなる矩形波バースト信号(a)を被検体(11)に空気(46)を介して対向配設された送信超音波探触子(12)に印加する。被検体に空気を介して対向配設され受信超音波探触子(13)で被検体を伝搬した超音波を透過波信号(b)に変換する。この透過波信号の信号レベルに基づき被検体の欠陥の有無を判定する。また、送信超音波探触子及び受信超音波探触子は、振動子(42)及び当該振動子の超音波の送受信側に取付られた前面板(45)の音響インピーダンスを、被検体に当接して使用する接触型超音波探触子に比較して低く設定している」空中超音波探傷システムが開示されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5075850号明細書
【文献】特開2008-128965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、発明者らが検討したところ、特許文献2に記載の技術には、微小な欠陥部を検出しにくいという課題が存在することがわかった。
【0010】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、欠陥部の検出精度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するため、本発明は、気体を介して被検査体へ超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査システムであって、前記超音波ビームを放出する送信プローブを備え、前記被検査体に関して前記送信プローブの反対側に設置された受信プローブを備え、x軸及びy軸によって形成されるxy平面が前記被検査体の底面に対して略水平となっている状態で、前記送信プローブと前記受信プローブはx軸方向又はy軸方向に走査を行い、前記x軸と前記y軸によって形成される前記xy平面に対して送信音軸が垂直となるように前記送信プローブが配置され、前記送信プローブの前記送信音軸と前記受信プローブの受信音軸との偏心距離をゼロよりも大きな距離に調整する距離調整部を備え、前記送信プローブと前記受信プローブとは、前記偏心距離を保ちながら走査することを特徴とする。
その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、欠陥部の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態の超音波検査システムの構成を示す図である。
【
図2A】送信音軸、受信音軸、偏心距離の説明をする図(その1)である。
【
図2B】送信音軸、受信音軸、偏心距離の説明をする図(その2)である。
【
図4】送信プローブの構造を示す断面模式図である。
【
図5A】受信プローブからの受信波形を示す図(その1)である。
【
図5B】受信プローブからの受信波形を示す図(その2)である。
【
図6】信号強度データのプロットの例を示す図である。
【
図7A】本実施形態における超音波ビームの伝搬経路を模式的に示した図(その1)である。
【
図7B】本実施形態における超音波ビームの伝搬経路を模式的に示した図(その2)である。
【
図8A】これまでの超音波検査法での超音波ビームの伝搬経路を模式的に示した図(その1)である。
【
図8B】これまでの超音波検査法での超音波ビームの伝搬経路を模式的に示した図(その2)である。
【
図9】これまでの超音波検査法での信号強度データのプロットを示す図である。
【
図10A】被検査体内での欠陥部と超音波ビームとの相互作用を模式的に示した図(その1)である。
【
図10B】被検査体内での欠陥部と超音波ビームとの相互作用を模式的に示した図(その2)である。
【
図11】第2実施形態に係る超音波検査装置における送信プローブと、受信プローブの関係を示す図である。
【
図12】送信プローブにおけるビーム入射面積及び受信プローブにおけるビーム入射面積の関係を模式的に示す図である。
【
図13】第3実施形態に係る受信プローブの例を示す図である。
【
図14】第4実施形態に係る超音波検査装置の構成を示す図である。
【
図15】第4実施形態による効果が生じる理由を説明する模式図である。
【
図16】第5実施形態に係る超音波検査装置の構成を示す模式図である。
【
図17】第5実施形態に係る超音波検査装置の機能ブロック図である。
【
図18】第6実施形態における受信プローブの配置を示す図である。
【
図19】第7実施形態における受信プローブの配置を示す図(その1)である。
【
図20】第7実施形態における受信プローブの配置を示す図(その2)である。
【
図21】超音波検査装置による処理手順を示すフローチャートである。
【
図22】制御装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限られず、例えば異なる実施形態同士を組み合わせたり、本発明の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。
また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。図示の内容は、図示の都合上、本発明の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更することがある。
【0015】
[第1実施形態]
(超音波検査装置1)
図1は、第1実施形態の超音波検査システムZの構成を示す図である。
図1に示すように、超音波検査システムZは、超音波検査装置1、表示装置3が接続されている制御装置2を有する。
図1において、超音波検査装置1は、断面模式図で示している。
超音波検査装置1は、気体を介した被検査体Eへの超音波ビームUの入射により被検査体Eの検査を行うものである。つまり、筐体101の内部は空洞となっている。
図1には、紙面直交方向としてx軸、紙面左右方向としてy軸、紙面上下方向としてz軸を含む直交3軸の座標系を示している。
【0016】
超音波検査装置1は、筐体101に固定された試料台102を備え、試料台102には被検査体Eが載置される。被検査体Eは、空気等の気体よりも音速が速い材料で構成されたものであれば任意である。被検査体Eは例えば固体材料であり、より具体には例えば金属、ガラス、樹脂材料、あるいはCFRP(炭素繊維強化プラスチック、Carbon-Fiber Reinforced Plastics)等の複合材料等である。また、
図1の例において、被検査体Eは内部に欠陥部Dを有している。欠陥部Dは、空洞等である。被検査体Eにおいて、欠陥部D以外の部分を健全部Nと称する。
【0017】
超音波検査装置1は、探触子P(
図4参照)を備える送信プローブ110と、受信プローブ120とを有する。受信プローブ120は、被検査体Eに関して送信プローブ110とは反対側に配置され、送信プローブ110から放出された超音波ビームUを受信する。具体的には、超音波検査装置1は、送信プローブ走査部103を介して筐体101に設置されている送信プローブ110を備える。
【0018】
ここで、「送信プローブ110の反対側」とは、被検査体Eにより区切られる2つの空間のうち、送信プローブ110が位置する空間と反対側(z軸方向において反対側)の空間という意味であり、x、y座標が同一の反対側(つまり、xy平面に関して面対称の位置)という意味ではない。
図1に示す通り、送信音軸AX1と、受信音軸AX2とが、偏心距離Lだけずれるよう、送信プローブ110及び受信プローブ120が設置される。なお、送信音軸AX1、受信音軸AX2、偏心距離Lについては後記する。
【0019】
前記したように、受信プローブ走査部104が移動することにより、受信プローブ120は試料台102をx軸及びy軸方向に走査する。送信プローブ110と受信プローブ120とは、被検査体Eをはさんでx軸方向、あるいは、y軸方向に対して偏心距離Lを保ちながら走査する(太両矢印)。
【0020】
筐体101に設置されている受信プローブ走査部104には、偏心距離調整部105が備えられている。そして、偏心距離調整部105には受信プローブ120が備えられている。偏心距離調整部105により、受信音軸AX2と、送信音軸AX1とのずれが偏心距離Lになるように設定する。
本実施形態では、偏心距離調整部105を受信プローブ走査部104側に設けたが、偏心距離調整部105を送信プローブ走査部103側に設けてもよい。
【0021】
また、超音波検査装置1には、制御装置2が接続されている。制御装置2は、送信プローブ走査部103及び受信プローブ走査部104に指示することで、送信プローブ110及び受信プローブ120の移動(走査)を制御する。送信プローブ走査部103及び受信プローブ走査部104がx軸及びy軸方向に同期して移動することにより、送信プローブ110及び受信プローブ120は被検査体Eをx軸及びy軸方向に走査する。さらに、制御装置2は、送信プローブ110から超音波ビームUを発射し、受信プローブ120から取得した信号に基づいて波形解析を行う。
【0022】
なお、本実施形態では、被検査体Eが試料台102を介して筐体101に固定された状態、つまり、被検査体Eは筐体101に対し固定された状態で、送信プローブ110と受信プローブ120とを走査する例を示している。これとは逆に、送信プローブ110と受信プローブ120とが筐体101に対して固定され、被検査体Eが移動することで、走査が行われる構成としてもよい。
【0023】
送信プローブ110と被検査体Eとの間、及び受信プローブ120と被検査体Eとの間には空気等の気体である気相が介在する。言い換えると、超音波検査装置1は、送信プローブ110及び受信プローブ120のいずれも被検査体Eに接触しない、非接触型の超音波検査装置1である。
【0024】
送信プローブ110は、収束型の送信プローブ110である。一方で、受信プローブ120は、収束性が送信プローブ110よりも緩いプローブを用いる。本実施形態では、受信プローブ120には探触子面が平面である非収束型のプローブを用いている。このような、非収束型の受信プローブ120を用いることで、幅広い範囲について欠陥部Dの情報を収集することができる。
【0025】
本実施形態では、送信プローブ110に対して、
図1のy軸方向に偏心距離Lだけ受信プローブ120がずらされて配置されているが、
図1のx軸方向にずらされた状態で受信プローブ120が配置されてもよい。あるいは、x軸方向にL1、y軸方向にL2(すなわち、送信プローブ110のxy平面での位置を原点とすると、(L1,L2)の位置)に受信プローブ120が配置されてもよい。
【0026】
(偏心距離Lの定義)
図2A及び
図2Bは、送信音軸AX1、受信音軸AX2、偏心距離Lの説明をする図である。
音軸とは、超音波ビームUの中心軸と定義される。ここで、送信音軸AX1は、送信プローブ110が放出する超音波ビームUの伝搬経路の音軸と定義される。言い換えると、送信音軸AX1は、送信プローブ110が放出する超音波ビームUの伝搬経路の中心軸である。
また、受信音軸AX2は、受信プローブ120が超音波ビームUを放出すると想定した場合の仮想超音波ビームの伝搬経路の音軸と定義される。言い換えると、受信音軸AX2は、受信プローブ120が超音波ビームUを放出すると想定した場合の仮想超音波ビームの中心軸である。
さらに、送信音軸AX1は、
図2Bに示すように、被検査体Eの界面による屈折を含めることとする。つまり、
図2Bに示すように、送信プローブ110から放出された超音波ビームUが、被検査体Eの界面で屈折する場合は、その超音波ビームUの伝搬経路の中心(音軸)が送信音軸AX1となる。
【0027】
偏心距離Lとは、送信音軸AX1と、受信音軸AX2とのずれの距離で定義される。従って、
図2Bに示すように、送信プローブ110から放出された超音波ビームUが屈折する場合、偏心距離Lは、屈折している送信音軸AX1と、受信音軸AX2とのずれの距離で定義される。本実施形態の超音波検査システムZは、このように定義される偏心距離Lが、ゼロより大きな距離となるよう、偏心距離調整部105によって送信プローブ110及び受信プローブ120が調整される。
【0028】
図2Aは、送信プローブ110を被検査体Eの表面における法線方向に配置した場合を示す図である。
ここで、
図2A及び
図2Bにおいて、送信音軸AX1を実線の矢印で示している。また、受信音軸AX2を一点鎖線の矢印で示している。なお、
図2A及び
図2Bにおいて、破線で示す受信プローブ120Aの位置が、偏心距離Lがゼロの位置である。また、実線で示す受信プローブ120は偏心距離Lの位置に配置されている受信プローブ120である。
図2Aに示す例のように、送信音軸AX1が水平面(
図1のxy平面)に対して垂直になるよう、送信プローブ110が設置される場合、超音波ビームUの伝搬経路は屈折しない。つまり、送信音軸AX1は屈折しない。
【0029】
図2Bは、送信プローブ110を被検査体Eの表面における法線方向から角度αだけ傾けて配置した場合を示す図である。
図2Bでも
図2Aと同様、送信音軸AX1を実線の矢印で示し、受信音軸AX2を一点鎖線の矢印で示している。
図2Bに示す例の場合、前記したように、被検査体Eと空気との界面で、超音波ビームUの伝搬経路が屈折する。そのため、送信音軸AX1は、
図2Bの実線矢印で示すように折れ曲がる(屈折する)。この場合、破線で示した受信プローブ120Aの位置は、送信音軸AX1上に位置するため偏心距離Lがゼロの位置である。そして、前記したように、実線で示す受信プローブ120の位置が、偏心距離Lとなる受信プローブ120の位置である。
【0030】
なお、
図1に示す例では、送信プローブ110を被検査体Eの表面における法線方向に設置しているので、偏心距離Lは、
図2Aに示すようなものとなる。
【0031】
偏心距離Lは、被検査体Eの健全部Nでの受信信号よりも、欠陥部Dでの信号強度の方が大きくなるような位置に設定する。この点については後記する。
【0032】
(制御装置2)
図3は、制御装置2の機能ブロック図である。
超音波検査装置1に備えられる制御装置2は、超音波検査装置1の駆動を制御するものである。制御装置2は、送信系統210と、受信系統220と、データ処理部201と、スキャンコントローラ204と、駆動部202と、位置計測部203とを備える。
【0033】
送信系統210は、送信プローブ110への印加電圧を生成する系統である。送信系統210は、波形発生器211及び出力アンプ212を備える。波形発生器211でバースト波信号が発生する。そして、発生したバースト波信号は出力アンプ212で増幅される。出力アンプ212から出力された電圧は送信プローブ110に印加される。
【0034】
受信系統220は、受信プローブ120から出力される受信信号を検出する系統である。受信プローブ120から出力された信号は、信号アンプ222に入力されて増幅される。増幅された信号は、波形解析部221に入力される。
波形解析部221は、受信信号から後記する信号強度データ(
図6参照)を生成する。生成された信号強度データはデータ処理部201に送られる。
【0035】
データ処理部201は、被検査体Eの欠陥部Dに関する情報を画像化したり、欠陥部Dの存在の有無を検出したりするといった、取得した情報を所望の形態に処理する。なお、データ処理部201で生成された画像や情報は表示装置3に表示される。
【0036】
スキャンコントローラ204は、
図1に示す送信プローブ走査部103及び受信プローブ104を駆動制御する。送信プローブ走査部103及び受信プローブ104の駆動制御は、駆動部202を通じて行われる。また、スキャンコントローラ204は、位置計測部203を介して、送信プローブ110及び受信プローブ120の位置情報を計測する。
【0037】
ここで、データ処理部201は、スキャンコントローラ204から受け取る送信プローブ110及び受信プローブ120の位置情報を基にして、それぞれの位置での信号強度データをプロットして画像化し、表示装置3に表示する。
後記するように、本実施形態では、欠陥部Dで取得した信号強度データは、健全部の信号強度データよりも大きい。したがって、送信プローブ110の(x,y)走査位置に対して信号強度データをプロットすると、(x,y)位置のどこに欠陥があるかを示す画像が取得できる。この欠陥位置を示す画像を表示装置3が表示する。
【0038】
(送信プローブ110の構造)
図4は、送信プローブ110の構造を示す断面模式図である。
図4では、簡略化のために、放出される超音波ビームUの外郭のみを図示しているが、実際には、探触子面114の全域にわたり、探触子面114の法線ベクトル方向に多数の超音波ビームUが放出される。
【0039】
送信プローブ110は、超音波ビームUを収束するように構成される。これにより、被検査体E中の微小な欠陥部Dを高精度に検出できる。微小な欠陥部Dを検出できる理由は後記する。送信プローブ110は、送信プローブ筐体115を備え、送信プローブ筐体115の内部に探触子Pを備える。探触子Pは、バッキング112と、振動子111と、整合層113とを備える。探触子Pは、リード線118により、コネクタ116に接続されている。さらに、コネクタ116はリード線117により電源装置(図示しない)及び制御装置2に接続される。
【0040】
(受信波形)
図5A及び
図5Bは、受信プローブ120からの受信波形を示す図である。
図5Aは被検査体Eの健全部N、すなわち欠陥部Dが無い部分での受信波形を示す図である。
図5Bは被検査体E内に設けられた幅2mm幅の空洞(欠陥部D)のxy座標位置に送信プローブ110を配置した時の受信信号である。なお、
図5A及び
図5Bにおいて、時間はバースト波が送信プローブ110に印加されてからの経過時間を示している。
【0041】
図5A及び
図5Bでは、被検査体Eとして厚さ2mmのステンレス板を用いた。送信プローブ110には周波数800KHzのバースト波を印加した。より具体的には、10波の正弦波で構成されるバースト波を一定周期で被検査体Eに印加した。
【0042】
図5Aでは、有意な信号は観測されていないが、
図5Bでは、バースト波が送信プローブ110に印加されてから90マイクロ秒後に有意な信号が観測されている。この有意な信号が観測されるまでの90マイクロ秒の遅れは、受信プローブ120に散乱波U1が到達するのに要する時間である。具体的には、空中の音速が340(m/s)であるのに対し、ステンレス中では6000(m/s)程度である。
【0043】
図6は、幅2mmの欠陥部Dに対し、送信プローブ110と受信プローブ120とをx軸方向に走査し、x軸位置での受信信号(
図5Bに示す受信信号)から抽出した信号強度データをプロットしたものである。
本実施形態では、信号強度データの抽出方法は、
図5Bに示す受信信号のPeak To Peak値、すなわち、適切な時間領域での最大値と最小値の差を抽出した。
信号強度データの抽出方法の他の例として、
図5Bに示す受信信号が、短時間フーリエ変換などの信号処理により周波数成分に変換され、適切な周波数成分の強度が抽出されてもよい。さらには、信号強度データとして、適切な参照波を基準として、相関関数が計算されてもよい。
このようにして信号強度データが、送信プローブ110の各走査位置に対応して取得される。
図6に示した信号強度データのプロットにおいて、幅2mm幅の空洞は、
図6の符号D1に対応する。
被検査体Eの健全部N(符号D1以外の部分)ではノイズレベルの信号であるのに対し、内部に欠陥部Dがある位置(符号D1)では、受信信号が有意に大きくなっていることがわかる。
【0044】
このように偏心距離調整部105は、受信プローブ120で検出される受信信号強度が、被検査体Eの健全部Nにおける信号強度よりも、欠陥部Dにおける信号強度の方が大きくなるように偏心距離Lを設定する。
偏心距離調整部105は、被検査体Eの健全部Nでは有意の受信信号が出ないように偏心距離Lを設定すると、さらに好ましい。
【0045】
送信プローブ110をx軸方向のみの1次元で走査した場合は、表示装置3には
図6に示す信号強度データのグラフ(信号強度グラフG)が表示される。送信プローブ110の走査方向がx,yの2次元の場合については、信号強度データをプロットすることで、欠陥位置が2次元画像として示され、それが表示装置3に表示される。
【0046】
図7A及び
図7Bは、本実施形態における超音波ビームUの伝搬経路を模式的に示した図である。
図7Aは、健全部Nに超音波ビームUが入射した場合を示し、
図7Bは、内部に空洞を有する欠陥部Dに超音波ビームUが入射された場合を示す。
図7A及び
図7Bに示されるように、送信プローブ110から放出された超音波ビームUは被検査体Eに入射する。
図7Aに示すように、健全部Nに超音波ビームUが入射した場合、超音波ビームUは送信音軸AX1の中心付近を通過する。そのため、偏心距離Lを保って配置されている受信プローブ120では受信信号が観測されない。これに対し、
図7Bに示すように、欠陥部Dに超音波ビームUが入射された場合、欠陥部Dで超音波ビームUが散乱され、その散乱波U1が偏心設置された受信プローブ120で受信される。そのため、受信信号が観測される。
【0047】
このように、本実施形態に係る超音波検査装置1では、被検査体Eにおける欠陥部Dにより散乱された散乱波U1が受信プローブ120で観測される。そのため、健全部Nでの受信信号よりも欠陥部Dでの受信信号の方が大きくなることが特徴である。すなわち、信号が大きな位置に欠陥部Dがあると判定される。
【0048】
(比較例)
ここで、比較例として、これまで行われている超音波検査の手法を説明する。
図8A及び
図8Bは、これまでの超音波検査法での超音波ビームUの伝搬経路を模式的に示した図である。
図8Aは、健全部Nに超音波ビームUが入射した場合を示し、
図8Bは、内部に空洞を有する欠陥部Dに超音波ビームUが入射された場合を示す。
これまでの超音波検査法では、例えば特許文献2に記載されているように、送信音軸AX1と受信音軸AX2とが一致するように、送信プローブ110及び受信プローブ120が配置される。
図8Aに示すように、被検査体Eの健全部Nに超音波ビームUが入射された場合、超音波ビームUが被検査体Eを通過して受信プローブ120に到達する。従って、受信信号が大きくなる。一方、
図8Bに示すように、欠陥部Dに超音波ビームUが入射された場合、欠陥部Dにより超音波ビームUの透過が阻止されるために受信信号が減少する。このように受信信号の減少により欠陥部Dを検出する。これは、特許文献2に示されている通りである。
【0049】
ここで、
図8A及び
図8Bに示すように、欠陥部Dにおいて超音波ビームUの透過が阻止されることによって受信信号が減少し、欠陥部Dを検出する方法を、ここででは「阻止法」と呼ぶことにする。一方、本実施形態のように、欠陥部Dでの散乱波U1を検出する検査方法を「散乱法」と呼ぶことにする。
【0050】
図9は、発明者らが、
図8A及び
図8Bに示す阻止法による超音波検査法、すなわち、送信音軸AX1と受信音軸AX2を一致させた配置で、
図6で用いられた被検査体Eと同じ欠陥部Dを有する被検査体Eを検査した信号強度グラフを示す図である。
図9において、符号D1の部分が欠陥部Dに相当する部分である。
【0051】
図9では、欠陥部Dの中心位置(
図9の位置「0」)で信号の減少が認められるが、その減少量は小さい。これに対し、
図6に示すように、本実施形態の散乱法による構成によれば、阻止法による
図9の結果と比べると、欠陥部Dの位置を明確に検出できることがわかる。つまり、比較例である
図9に示す受信結果と、
図6に示す本実施形態による手法の受信結果とを比較すると、
図6に示す本実施形態による手法の方が、高いSN比を得ることができていることは明らかである。
このように、実施形態の散乱法が高いSN比を得られる理由について、
図10A及び
図10Bを参照して説明する。
【0052】
図10A及び
図10Bは、被検査体E内での欠陥部Dと超音波ビームUとの相互作用を模式的に示した図である。
ここでは、欠陥部Dの大きさが超音波ビームUの幅(以下、ビーム幅BWと称する)よりも小さい場合を考察する。ここでのビーム幅BWとは、欠陥部Dに到達した時の超音波ビームUの幅である。
図10A及び
図10Bは、欠陥部D近傍の微小領域での超音波ビームUの形状を模式的示しているので超音波ビームUを平行に描いてあるが、実際には収束させた超音波ビームUである。
また、
図10A及び
図10Bでの受信プローブ120の位置は、わかりやすく説明するために概念的な位置を記入したものであり、受信プローブ120の位置と形状は正確にスケールされていない。すなわち、欠陥部Dと超音波ビームUとの形状の拡大スケールで考えると、
図10A及び
図10Bに示す位置よりも離れた位置に受信プローブ120は位置する。
超音波ビームUは、収束させて入射させても欠陥部D近傍ではある有限の幅を持つ。これを、欠陥部Dの位置でのビーム幅BWとする。
ちなみに、
図10A及び
図10Bでは、欠陥部Dの位置でのビーム幅BWが欠陥部Dの大きさよりも広い場合を示している。
【0053】
図10Aは阻止法の場合を示す図である。欠陥部Dがビーム幅BWよりも小さい場合、一部の超音波ビームUは阻止されるので受信信号は減少するが、ゼロにはならない。例えば、欠陥部Dの幅がビーム幅BWの20%の場合、受信信号は概ね20%の減少に止まるので、欠陥部Dの検出が困難である。つまり、
図10Aに示すような場合、欠陥部Dが存在する箇所では、受信信号が20%減少するにとどまる(
図9参照)。
【0054】
図10Bは、本実施形態の手法の場合、すなわち散乱法の場合を示す図である。散乱法では、欠陥部Dに超音波ビームUが当たらない場合、超音波ビームUは受信プローブ120に入射しないので、受信信号はゼロである。そして、
図10Bに示すように、超音波ビームUの一部が欠陥部Dに当たった場合でも、散乱波U1が受信プローブ120で観測されるので、阻止法と比べて欠陥部Dの検出が容易である。つまり、欠陥部Dが存在しなければ受信信号はゼロとなり、微小でも欠陥部Dが存在すれば受信信号は非ゼロとなる。そのため、SN比を高くすることが可能になる(
図6参照)。
このように、本実施形態による手法(散乱法)によれば、ビーム幅BWよりも小さな欠陥部Dを、高精度で検出することが可能になるという効果がある。
【0055】
また、
図10Aで示すように、阻止法では、健全部Nに対応する受信信号量を基準として、そこからの減少量で欠陥部Dを判定する。従って、健全部Nでの受信信号が一定値であることが必要である。
しかしながら、特に空中超音波では、水浸法の検査装置と比較して、受信プローブ120に到達する超音波強度が極めて小さい。そのため、受信信号は高い増幅率(ゲイン)で増幅する必要がある。このため、ゲインを一定に保つには高精度な信号増幅回路が必要になる。
【0056】
一方、本実施形態による散乱法では、
図6に示すように、健全部Nでは信号が、ほぼゼロであり、欠陥部Dで信号が観測されるので、信号増幅回路のゲイン安定性への要求を小さくすることができる。ただし、
図6では、オフセット値だけ信号強度の値が底上げされている。
【0057】
また、本実施形態による手法の、もう一つの特徴は、ポジ画像が得られることである。すなわち、散乱法では健全部Nには信号が発生しない、もしくは信号が小さく、欠陥部Dで信号が発生する、もしくは信号が大きくなる。つまり、欠陥部Dのポジ画像が得られる。これに対して、阻止法では、阻止法では健全部Nで信号が大きく、欠陥部Dで信号が減少する。つまり、欠陥部Dのネガ画像が得られる。
【0058】
また、これまで用いられている(阻止法の)超音波検査装置の受信プローブ120の位置を偏心距離Lだけずらすだけで、本実施形態に係る超音波検査装置1を実現することができる。つまり、これまで使用していた超音波検査装置を利用することができるので、コストを軽減することができる。
【0059】
[第2実施形態]
図11は、第2実施形態に係る超音波検査装置1における送信プローブ110と、受信プローブ120の関係を示す図である。
第2実施形態では、送信プローブ110と、受信プローブ120の収束性の関係について説明する。
図11に示すように、本実施形態では、受信プローブ120の収束性を送信プローブ110の収束性よりも緩くしている。
被検査体Eの内部における欠陥部Dの深さや、欠陥部Dの形状、傾き等により散乱波U1の伝搬経路は多少変化する。そこで、散乱波U1の経路が変化しても受信プローブ120が散乱波U1を検出できるように、第2実施形態では受信プローブ120の収束性を緩くしている。ビーム入射面積T1,T2については後記する。
【0060】
ここで、第2実施形態において収束性の大小関係は、被検査体Eの表面におけるビーム入射面積T1,T2の大小関係で定義される。
図12は、送信プローブ110におけるビーム入射面積T1及び受信プローブ120におけるビーム入射面積T2の関係を模式的に示す図である。
送信プローブ110のビーム入射面積T1とは、送信プローブ110から放出された超音波ビームUの被検査体E表面での交差面積である。また、受信プローブ120のビーム入射面積T2は、受信プローブ120から超音波ビームUが放出された場合を想定した仮想的な超音波ビームU2と被検査体E表面での交差面積である。
【0061】
なお、
図12において、超音波ビームUの経路は、被検査体Eがない場合における経路を示したものである。被検査体Eがある場合は、被検査体E表面で超音波ビームUが屈折するため、破線で示した経路とは異なる経路を伝搬する。
ここで、
図12に示すように、本実施形態では受信プローブ120のビーム入射面積T2は、送信プローブ110のビーム入射面積T1よりも大きい。
【0062】
このように、本実施形態においては受信プローブ120の収束性が送信プローブ110の収束性よりも緩くなっている。これは、
図12からわかるように、受信プローブ120の焦点距離R2が、送信プローブ110の焦点距離R1よりも長いことを意味している。
このように、第2実施形態では、受信プローブ120の収束性を送信プローブ110の収束性よりも緩くしている。すなわち、受信プローブ120の焦点距離R2は、送信プローブ110の焦点距離R1よりも長く設定されている。この結果、受信プローブ120のビーム入射面積T2が広くなるため、広い範囲の散乱波U1を検出することができる。これにより、散乱波U1の伝搬経路が多少変化しても、受信プローブ120で散乱波U1を検出可能になる。その結果、広い範囲の欠陥部Dを検出できるという効果を奏する。
【0063】
なお、受信プローブ120として、第1実施形態で用いているような非収束型のプローブが用いられてもよい。非収束型のプローブでは焦点距離R2が無限大なので、送信プローブ110の焦点距離R1よりも長くなる。すなわち、非収束型の受信プローブ120でも、受信プローブ120の収束性は送信プローブ110の収束性よりも緩くなる。
【0064】
[第3実施形態]
図13は、第3実施形態に係る受信プローブ120の例を示す図である。
図13は第3実施形態における超音波検査装置1を、送信プローブ110の位置と、受信プローブ120の位置とをz軸のマイナス側から見た平面図である。つまり、受信プローブ120側からみた図である。本実施形態の特徴は、受信プローブ120の振動子111の縦横比「b/a」を1より大きくしたことにある。ここで、受信プローブ120の偏心距離Lの方向に沿った受信プローブ120の特性長さを「b」、それに直交する方向の特性長さを「a」とする。
ここで特性長さとは、矩形振動子に対しては、矩形の辺の長さを意味し、楕円形の振動子に対しては、楕円の長軸と短軸を意味する。
【0065】
このように受信プローブ120の縦横比を設定すると、欠陥部Dの深さ位置が変化して散乱波U1の到達位置が変化しても、散乱波U1を受信プローブ120で検出することができるという効果がある。
【0066】
散乱波U1は、送信音軸AX1を中心として放射方向に散乱する。従って、
図13の位置に受信プローブ120が配置されている場合、受信プローブ120の長手方向(「b」の方向)に散乱波U1が散乱する。換言すると、「b」の方向は、散乱波U1が放射される方向である。従って、「b」の値を大きくすることで、さまざまな欠陥部Dで散乱した散乱波U1を検出することができる。つまり、欠陥部Dの深さ位置が変化して散乱波U1の到達位置が変化しても、散乱波U1を受信プローブ120で検出することができる。
【0067】
なお、
図13では、受信プローブ120として直方体(矩形状)の受信プローブ120を図示したが、楕円形状にして、長軸・短軸比を同様に設定しても同様の効果が得られる。
【0068】
[第4実施形態]
次に、
図14と
図15とを参照して、本発明による第4実施形態に係る超音波検査装置1aを述べる。
第4実施形態では、受信プローブ120を傾斜配置する点に特徴がある。これにより、受信信号の強度を増大させることができ、信号のSN比(Signal to Noise比、信号雑音比)を高めることができる。
【0069】
図14は、第4実施形態に係る超音波検査装置1aの構成を示す図である。
ここで、受信音軸AX2と、送信音軸AX1とがなす角を受信プローブ設置角度と定義する。
図14の場合、送信プローブ110は鉛直方向に設置されているので、受信プローブ設置角度は、
図14に示すθ2となる。
【0070】
つまり、第4実施形態では、受信プローブ設置角度θ2を送信音軸AX1が存在する側に傾け、受信プローブ設置角度θ2をゼロより大きな値に設定することを特徴とする。すなわち、受信プローブ120が傾斜配置される。具体的には、本実施形態ではθ2=10°に設定する例を示すが、θ2は、この角度に限らない。ただし、θ2<90°の条件を満たす。
また、受信プローブ120を傾斜配置する場合の偏心距離Lは以下のように定義される。受信音軸AX2と、受信プローブ120との交点C2を定義する。また、送信音軸AX1と、送信プローブ110(探触子P)との交点C1を定義する。交点C1の位置をxy平面に投影した座標位置(x1,y1)と、交点C2の位置をxy平面に投影した座標位置(x2,y2)との距離を偏心距離Lと定義する。
【0071】
このように受信プローブ120を傾斜配置して、発明者らが、実際に欠陥部Dの検出を行ったところ、受信信号の信号強度が3倍に増加した。
【0072】
図15は、第4実施形態による効果が生じる理由を説明する模式図である。
散乱波U1は送信音軸AX1から外れた方向に伝搬する。したがって、
図15に示すように、散乱波U1は被検査体Eの外側に到達した際、被検査体E表面の法線ベクトルとは非ゼロの角度α2をもって被検査体-外部界面に入射する。そして、被検査体Eの表面から出る散乱波U1の角度は被検査体E表面の法線方向に対して非ゼロの出射角β2を有する。受信プローブ120の探触子面の法線ベクトルを散乱波U1の進行方向と一致させた時に最も効率よく受信できる。つまり、受信プローブ120を傾斜配置することで受信信号強度が増大する効果を得ることができる。
【0073】
なお、
図15に示すような構造から、被検査体Eから出射する超音波ビームUの角度β2と、受信音軸AX2と、受信プローブ120の探触子面の法線ベクトルとの角度θ2とが一致すると、最も受信効果が高くなる。しかしながら、β2とθ2が完全に一致しない場合であっても、受信信号増大の効果が得られるので、
図15に示しているように、β2とθ2が完全に一致しなくてもよい。
【0074】
(受信プローブ設置角度調整機構)
なお、
図14に示す超音波検査装置1aでは、受信プローブ設置角度調整部106が設けられており、受信プローブ設置角度調整部106によって受信プローブ120が設置されている。受信プローブ設置角度調整部106により、受信プローブ120の受信プローブ設置角度θ2を調整することが可能である。被検査体Eの材料や、厚み等により散乱波U1の経路は多少変化するので、受信プローブ設置角度θ2の最適値も変化する。したがって、受信プローブ設置角度調整部106で受信プローブ設置角度θ2が調整可能とすることにより、被検査体Eの材料や、厚み等に応じて受信プローブ設置角度θ2を適切に調整することができる。
【0075】
ちなみに、第4実施形態では、受信プローブ120が水平面に対して傾いた状態で配置されているが、送信プローブ110も傾いた状態で配置されてもよい。あるいは、送信プローブ110が水平面に対して傾いた状態で配置され、受信プローブ120の探触子面が水平面(xy平面)に対して並行となるよう配置されてもよい。いずれの場合も、
図2Bに示すように、送信音軸AX1と、受信音軸AX2とは、ずらした状態で配置される。
【0076】
[第5実施形態]
図16は、第5実施形態に係る超音波検査装置1bの構成を示す模式図である。
第5実施形態では、複数個の受信プローブ120a~120cを用いることが特徴である。
図16に示す例では、複数個(
図16の例では、3つ)の受信プローブ120a~120cが設置されている。
欠陥部Dの深さにより、散乱波U1の経路が多少変化するので、複数個の受信プローブ120a~120cを用いて、どの位置のプローブで受信したかの情報を用いることにより、欠陥部Dの深さに関する情報を得ることができる。
複数の受信プローブ120a~120cとしては、複数の感音素子を一つの筐体に収納したアレイプローブが用いられてもよい。この場合、
図16の受信プローブ120a~120cがそれぞれ感音素子に対応し、それらが一つの筐体の中に収納されている。
感音素子とは、超音波を電気信号に変換する素子である。感音素子としては、圧電素子の他に、静電容量感音素子(CMUT,Capacitive Micro-machined Ultrasonic Transducer)等が用いられてもよい。
【0077】
(機能ブロック図)
図17は、第5実施形態に係る超音波検査装置1bの機能ブロック図である。
複数個の受信プローブ120a~120cは、それぞれに対応する受信系統220a~220cに接続される。それぞれの受信系統220a~220cの構成は、
図3に示す受信系統220の構成と同様である。受信系統220a~220cそれぞれからの出力は、欠陥情報判定部205に入力される。欠陥情報判定部205は、受信系統220a~220cそれぞれにおける波形解析結果を基に、欠陥部Dに関する情報を判定する。欠陥部Dに関する情報とは、具体的には、受信プローブ120a~120cのうち、どの受信プローブ120で散乱波U1を検出したかが欠陥情報判定部205によって判定され、その判定に基づく、欠陥部Dの深さ等である。散乱波U1が観測された位置の情報とは、どの受信プローブ120a~120cで、どの程度の受信信号(散乱波U1)が検知されたかである。このようにすることで、欠陥部Dの位置情報の精度を向上させることができる。
【0078】
欠陥情報判定部205の出力は、データ処理部201に入力される。データ処理部201では、プローブを走査するスキャンコントローラ204からの位置情報と合わせることにより、欠陥部Dの情報を画像化して表示装置3に表示する。
【0079】
なお、
図17では、欠陥情報判定部205の出力をデータ処理部201に入力する構成を示したが、欠陥情報判定部205をデータ処理部201の中に設けてもよい。
【0080】
[第6実施形態]
次に、本発明における第6実施形態の超音波検査装置1について
図18を参照して説明する。
図18は第6実施形態における、送信プローブ110の位置と受信プローブ120の位置とを、
図1のz軸のマイナス側、つまり、受信プローブ120側から見た平面図である。
第6実施形態の特徴は、受信プローブ120をxy平面方向に2次元的に配置していることに特徴がある。
図18の例では、受信プローブ120が、送信音軸AX1を中心として放射状に配置されている。
【0081】
散乱波U1の方向は、欠陥部Dの形状や傾斜方向等により多少変化する。そのため、
図17のように、2次元的に受信プローブ120を配置し、どの方向で散乱波U1を検出したかを記録することにより、欠陥部Dの形状や傾斜方向等の情報を、より精度高く得ることができる。
【0082】
[第7実施形態]
次に、
図19及び
図20を参照して、本発明の第7実施形態について説明する。
図19では、
図15の構成において、受信プローブ120が送信音軸AX1に対して、対称に受信プローブ120が配置されている。
図20では、
図1の構成において、受信プローブ120が送信音軸AX1に対して、対称に受信プローブ120が配置されている。2つの受信プローブ120は、受信音軸AXが送信音軸AX1から偏心距離Lの位置となるよう配置されている。
図19や、
図20に示すように、送信プローブ110に対して、両側に受信プローブ120が配置されることで、広い範囲の散乱波U1を検知することができる。さらに、制御装置2は、両側それぞれの受信プローブ120で散乱波U1を検知したとき、実際に欠陥部Dを検知し、どちらか一方でのみ散乱波U1を検知した場合では、エラーと判定することができる。これにより、欠陥部Dの検知精度を向上させることができる。
【0083】
[フローチャート]
図21は、超音波検査システムZによる処理手順を示すフローチャートである。
図21では、第1実施形態における超音波検査システムZの処理について説明する。
まず、制御装置2の指令により、送信プローブ110から超音波ビームUが放出される(S101)。
続いて、受信プローブ120が欠陥部Dによる散乱波U1を受信する(S102)。
その後、受信プローブ120から取得した受信信号に基づいて波形解析部221が波形解析を行う(S103)。ここで、波形解析部221は、
図5Bに示す受信信号から信号強度データを抽出(生成)する。
【0084】
信号強度データとしては、
図5Bに示す受信信号のPeak To Peak値、すなわち、適切な時間領域での最大値と最小値の差が抽出されればよい。信号強度データの他の例は、
図5Bに示す受信信号から、短時間フーリエ変換などの信号処理により周波数成分に変換し、適切な周波数成分の強度を抽出してもよい。さらには、信号強度データとして、適切な参照波を基準として、相関関数が抽出されてもよい。
このようにして信号強度データが、送信プローブ110の各走査位置に対応して取得される。
【0085】
送信プローブ110と受信プローブ120の走査位置情報は、位置計測部203からスキャンコントローラ204に送信される。
データ処理部201は、スキャンコントローラ204から取得した送信プローブ110の走査位置情報に対して、それぞれの走査位置での信号強度データをプロットする(信号強度グラフG)。このようにして、
図6に示す信号強度データを視覚化する。
図6は走査位置が1次元(1方向)の場合である。
走査位置情報がx,yの2次元の場合については、信号強度データをプロットすることで、欠陥位置が2次元画像として示され、それが表示装置3に表示される。
【0086】
また、データ処理部201は、生成した信号強度データの値が所定の閾値以上であるか否かを判定する(S104)。これにより、欠陥部Dが検出されたか否かが判定される。なお、ステップS104のような手法で欠陥部Dの有無を判定できるのは、
図6に示すように、本実施形態による手法が、良好なSN比を得ることができるためである。比較例の場合、
図9に示すようにSN比が低いため、ステップS104のような手法では、エラーが頻発してしまう。
【0087】
生成した信号強度データの値が所定の閾値以上である場合(S104→Yes)、データ処理部201は欠陥部Dが検知された旨をユーザに通知する(S105)。なお、ステップS105の処理は、すべての走査が終了した後でもよい。欠陥部Dが検知された旨の通知は、例えば、表示装置3に表示される。その後、データ処理部201は、ステップS111へ処理を進める。
ステップS104の結果、生成した信号強度グラフGの値が所定の閾値未満である場合(S104→No)、データ処理部201は、走査が完了したか否かを判定する(S111)。
走査が完了している場合(S111→Yes)、制御装置2は処理を終了する。
走査が完了していない場合(S111→No)、データ処理部201は駆動部202に指令を出力することによって、次の走査位置まで送信プローブ110及び受信プローブ120を移動させ(S112)、ステップS101へ処理を戻す。
【0088】
[ハードウェア構成]
図22は、制御装置2のハードウェア構成を示す図である。
制御装置2は、RAM(Random Access Memory)等のメモリ251、CPU(Central Processing Unit)252、ROM(Read Only Memory)や、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置253、NIC(Network Interface Card)等の通信装置254、I/F(Interface)255等を備えて構成されている。
【0089】
そして、制御装置2は、記憶装置253に格納されている所定の制御プログラムがメモリ251にロードされ、CPU252によって実行される。これにより、
図3や、
図17の、データ処理部201、位置計測部203、スキャンコントローラ204、欠陥情報判定部205、波形解析部221等が具現化する。
【0090】
本実施形態では、欠陥部Dは空洞である例を記載しているが、欠陥部Dとして被検査体Eの材質とは異なる材質が混入している異物であってもよい。この場合も、異なる材料が接する界面で音響インピーダンスの差(Gap)があるため、散乱波U1が発生するので、本実施形態の構成が有効である。
本実施形態に係る超音波検査システムZは、超音波欠陥映像装置を前提としているが、非接触インライン内部欠陥検査装置に適用されてもよい。
【0091】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0092】
また、前記した各構成、機能、各部201~205,211~212,221~222、記憶装置253等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、
図22に示すように、前記した各構成、機能等は、CPU252等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、HDに格納すること以外に、メモリ251や、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カードや、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納することができる。
また、各実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0093】
1,1a,1b 超音波検査装置(超音波検査部)
2 制御装置(制御部)
105 偏心距離調整部(距離調整部)
106 受信プローブ設置角度調整部(設置角度調整部)
110 送信プローブ
120,120a~120c 受信プローブ
205 欠陥情報判定部
221 波形解析部(信号処理部)
AX1 送信音軸(第1の音軸)
AX2 受信音軸(第2の音軸)
D 欠陥部
E 被検査体
G 信号強度グラフ(信号強度データ)
N 健全部
R1 焦点距離(送信プローブ)
R2 焦点距離(受信プローブ)
T1 ビーム入射面積(送信プローブ)
T2 ビーム入射面積(受信プローブ)
U 超音波ビーム
U1 散乱波
Z 超音波検査システム
S101 超音波ビームの放出(超音波ビーム放出ステップ)
S102 散乱波の受信(散乱波受信ステップ)
S103 波形解析(波形解析ステップ)
S104 閾値以上である否かを判定(欠陥部判定ステップ)