(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】光コネクタ研磨用パッド
(51)【国際特許分類】
B24B 19/00 20060101AFI20230418BHJP
G02B 6/36 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
B24B19/00 603C
G02B6/36
(21)【出願番号】P 2019160275
(22)【出願日】2019-09-03
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000102739
【氏名又は名称】エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 賢二
(72)【発明者】
【氏名】小西 正晃
(72)【発明者】
【氏名】杉田 尚樹
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-110657(JP,A)
【文献】特開2012-061572(JP,A)
【文献】特開2006-341473(JP,A)
【文献】特開2018-040916(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0282470(US,A1)
【文献】特開2003-205447(JP,A)
【文献】国際公開第2016/027671(WO,A1)
【文献】特表2015-519209(JP,A)
【文献】米国特許第05184433(US,A)
【文献】特開昭63-185558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B1/00-3/60
B24B9/00-39/06
B24D3/00-99/00
G02B6/00
G02B6/02
G02B6/24-6/255
G02B6/36-6/40
G02B6/46-6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバおよびフェルールを備えた光コネクタの端面を球面研磨する際に、研磨盤と研磨シートとの間に配置して用いられる光コネクタ研磨用パッドであって、
反発弾性が
43%以上50%以下である、光コネクタ研磨用パッド。
【請求項2】
素材がウレタン系である、請求項1に記載の光コネクタ研磨用パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、光コネクタの端面の研磨に関し、より詳細には、光ファイバおよびフェルールを備えた光コネクタの端面を球面研磨する際に用いられる光コネクタ研磨用パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバおよびフェルールを備えた光コネクタの端面を球面研磨する光コネクタ研磨において、研磨盤上に弾性体(本明細書において「光コネクタ研磨用パッド」、または、単に「研磨用パッド」ともいう。)を介して研磨盤に配置された研磨シート(本明細書において「研磨フィルム」ともいう。)と光コネクタの端面とを接触させた状態で相対的に摺動回転させる方法が知られている(例えば、特許文献1,非特許文献1参照)。
【0003】
従来、研磨用パッドとして、ニトリル系ゴム製の研磨用ラバーが用いられている。
【0004】
図1を参照して、従来の研磨用ラバーを用いた光コネクタ研磨の概要を説明する。
図1は、研磨中の光コネクタ等の断面を示す。
図1には、光ファイバ101およびフェルール102を備えた光コネクタ100と、研磨フィルム200と、研磨用ラバーである研磨用パッド300とが示されている。研磨用パッド300は、研磨盤(不図示)の主面(X-Y面)上に配置される。
【0005】
研磨装置は、光コネクタ100の上方から端面方向(Z軸方向)に研磨圧を加えて、光コネクタ100の端面を研磨フィルム200に接触させた状態を維持しながら、研磨フィルム200および光コネクタ100を相対に摺動回転させる。
図1は、研磨装置に固定された光コネクタ100に対して、研磨フィルム200が右方向(X軸方向)へ研磨運動している状態を示している。
図1において、研磨フィルム200が静止状態と考えると、光コネクタ100は、端面の左端を先頭として、研磨フィルム200上を左方向へ摺動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社,“光コネクタ研磨機 ATP-3200, ATP-3000”,[online][2019年8月19日検索],インターネット<URL: https://keytech.ntt-at.co.jp/optic1/prd_0046.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、光コネクタの端面の汚れおよび傷、並びに光反射減衰量に対する要求の高まりに応じて、光コネクタ研磨における研磨圧が高圧化している。また、光コネクタ研磨の現場では、工程時間短縮等の理由で、研磨圧が従来の数倍にまで高められている。
【0009】
しかしながら、従来の研磨用ラバーは、強い研磨圧に対して復元力(反発弾性)が十分ではない。
図1に示したように、研磨用ラバーの復元力が不足すると、光コネクタ100の端面と研磨フィルム200との間に空隙が生じる。
図1においては、光コネクタ100の端面の一部(端面の左端を含む略半面)が研磨フィルム200に密着した状態であり、光コネクタ100の端面の残りの部分(端面の右端を含む略半面)が研磨フィルム200に接触していない状態である。特に近年の過密実装化(例えば、同時に研磨するLCコネクタを18端子から50端子に増加)と、それに伴う高圧化(例えば、研磨圧を100gfから500gfに変更)の状況では、あるコネクタが通過したできた研磨軌跡を、当該研磨軌跡が凹んで平面へ戻る前に、次のコネクタが通過することになる。
【0010】
この状態では、研磨フィルム200は所定の性能を発揮できない。より具体的には、研磨時間が長くなる原因となる。または、光コネクタ100の端面と研磨フィルム200との間に生じた空隙にゴミが入り込み光ファイバ101の端面に傷が生じる原因や光ファイバ101の凹み(光コネクタ100の端面から光ファイバ101が引き込まれるファイバ引込)が生じる原因となる。
【0011】
このような問題に鑑みてなされたもので、本願発明の一実施形態の目的とするところは、研磨中の光コネクタと研磨フィルムとの間の空隙を解消する研磨用パッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本願発明の一実施形態にかかる光コネクタ研磨用パッドは、光ファイバおよびフェルールを備えた光コネクタの端面を球面研磨する際に、研磨盤と研磨シートとの間に配置して用いられる光コネクタ研磨用パッドであって、反発弾性が20%よりも大きい、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本願発明の一実施形態にかかる光コネクタ研磨用パッドによれば、研磨中の光コネクタと研磨フィルムとの間の空隙を解消することが可能となる。また、研磨フィルムに本来の性能(時間当たりの研磨量)を発揮させることが可能となる。また、研磨中に発生する光ファイバの端面の傷や凹みの発生を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】従来の研磨用ラバーを用いた光コネクタ研磨の概要を説明するための図である。
【
図2】本願発明の一実施形態に係る研磨用パッドを用いた光コネクタ研磨の概要を説明するための図である。
【
図3】本願発明の実施例1に係る研磨用パッドの測定値と、比較例1の研磨用パッドの測定値を示す表である。
【
図4】本願発明の実施例1に係る研磨用パッドの測定値と、比較例1の研磨用パッドの測定値を示すグラフである。
【
図5】本願発明の実施例2に係る研磨用パッドの測定値と、比較例
2の研磨用パッドの測定値を示す表である。
【
図6】本願発明の実施例2に係る研磨用パッドの測定値と、比較例
2の研磨用パッドの測定値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本願発明の実施形態について詳細に説明する。図面中の同一の符号は同一の要素を示し、繰り返しの説明は省略する。
【0016】
本願発明の一実施形態に係る光コネクタ研磨用パッドは、反発弾性が20%よりも大きいことを特徴とする。この様な光コネクタ研磨用パッドは、例えば、従来のニトリル系ゴムと比べて反発弾性(復元力)の強いウレタン系素材を用いて実現することができる。本願発明の一実施形態にかかる光コネクタ研磨用パッドによれば、従来の研磨用ラバーパッドの反発弾性よりも大きい反発弾性(20%よりも大きい)を有するパッドを光コネクタ研磨用パッドとすることにより、研磨中の光コネクタと研磨フィルムとの間の空隙を解消することが可能となる。
【0017】
図2を参照して、本実施形態に係る研磨用パッドを用いた光コネクタ研磨の概要を説明する。
図2は、研磨中の光コネクタ等の断面を示す。
図2には、光ファイバ101およびフェルール102を備えた光コネクタ100と、研磨フィルム200と、本実施形態に係る研磨用パッド400とが示されている。研磨用パッド400は、研磨盤(不図示)の主面(X-Y面)上に配置される。研磨用パッド400は、厚さ(Z軸方向)が5mmの板状のパッドであるが、これに限定されない。上面視形状(X-Y面の形状)は、研磨装置の仕様に合わせて、矩形、円形など任意の形状とすることができる。
【0018】
図2は、
図1と同様に、研磨装置に固定された光コネクタ100に対して、研磨フィルム200が右方向(X軸方向)へ研磨運動している状態を示している。
【0019】
本実施形態の研磨用パッド400は、強い研磨圧に対して反発弾性(復元力)が十分である。したがって、
図2に示したように、研磨装置が研磨フィルム200および光コネクタ100を相対に摺動回転させている間、光コネクタ100の端面と研磨フィルム200との間に空隙が生じずに、光コネクタ100の全面が研磨フィルム200に密着した状態となる。上述したような過密実装化およびそれに伴う高圧化の状況であっても、あるコネクタが通過したできた研磨軌跡は、次のコネクタが当該研磨軌跡を通過する前に、凹んだ状態から平面へ戻ることになる。この状態では、研磨フィルム200は所定の性能を発揮でき、研磨時間を短縮することが可能となる。また、光ファイバ101の端面に傷や凹みが発生する原因となるゴミが入り込む、光コネクタ100の端面と研磨フィルム200との間の空隙が生じなくなる。
【0020】
以下、比較例とともに、本実施形態の研磨用パッドの実施例を説明する。光コネクタ研磨では、光コネクタの端面の曲率半径を規格で定められた値の範囲に収めるため、Hs硬度(JIS K6400-3:2011)が65,70,75または80の研磨用パッドを使い分る。より太い(直径φが大きい)光コネクタの研磨には、Hs硬度がより低い研磨用パッドを用い、より細い(直径φが小さい)光コネクタの研磨には、Hs硬度がより高い研磨用パッドを用いる。
【0021】
以下に説明する2つの実施例は、ウレタン系素材のラバーである、Hs硬度80(最もHs硬度が高い)の研磨用パッド(実施例1)およびHs硬度70(Hs硬度が中程度)の研磨用パッド(実施例2)を、ニトリル系ゴム材料のラバーである、Hs硬度80の従来の研磨用ラバーパッド(比較例1)およびHs硬度70の従来の研磨用パッド(比較例2)と比較して説明する。
【0022】
比較のための指標として、光コネクタ端面における光ファイバの高さ(コネクタの端面と光ファイバの端面とが一致している場合の光ファイバの高さ(Fiber Height)の値を0とし、光ファイバが引き込まれている場合の光ファイバの高さの値を負の値で表す)を測定した。また、比較のための別の指標として、光ファイバの光反射減衰量を測定した。さらに、比較のためのさらなる別の指標として、研磨フィルムの使用回数(研磨フィルムの寿命)を測定した。
【0023】
(実施例1)
実施例1の研磨用パッドは、ウレタン系素材のラバーパッドであり、Hs硬度はHs80±2である(1つの研磨フィルムが寿命と判断されるまでの間に、複数の研磨パッドを用いた)。
【0024】
本実施例の研磨用パッドの反発弾性(復元力)の平均は50%(JIS K 6400-3:2011)であり、比較例1のニトリル系ゴム材料の研磨用ラバーパッドの反発弾性の2.5倍である。
【0025】
比較例1の研磨用ラバーパッドは、ニトリル系ゴムの研磨用ゴムパッド(従来品)であり、Hs硬度は、Hs80±3である(1つの研磨フィルムが寿命と判断されるまでの間に、複数の研磨パッドを用いた)。
【0026】
比較例1の反発弾性(復元力)の平均値は、20%(JIS K 6400-3:2011)である。
【0027】
図3および4は、実施例1の研磨用パッドおよび比較例1の研磨用ラバーパッドの特性の比較結果を示す。
【0028】
測定は、1つの研磨フィルムを用いて、光コネクタを複数回研磨し、1,10,20,30,40,・・・70,80回目の研磨後に、光ファイバの高さ及び光ファイバの光反射減衰量を測定した。研磨フィルムは、研磨する都度、洗浄を行った。測定前に、光ファイバのコアの端面に傷が発生していないかどうかを観察し、研磨フィルムの寿命を判定した。研磨フィルムが寿命と判断されるまで、光ファイバの高さ及び光ファイバの光反射減衰量の測定を繰り返した。実施例1の研磨用パッドおよび比較例1の研磨用ラバーパッドの双方について、使用機器、研磨規格、研磨条件は同一である(
図3参照)。なお、研磨条件を同一とするために、研磨時間についても、実施例1および比較例1の双方について同一(25sec)としているが、実施例1の研磨用パッドを用いると、比較例1の研磨用ラバーパッドを用いる時よりも、短い時間で研磨を完了することができる。
【0029】
図3に示すように、比較例1の研磨用ラバーパッドについては、50回目の研磨により、光ファイバのコアの端面に傷が発生したため、研磨フィルムの寿命と判断され、測定及び評価を終了している。これに対して、本実施の研磨用パッドでは、80回の研磨でも光ファイバのコアの端面に傷が発生せず、研磨フィルムの使用回数が約2倍に到達しており、研磨フィルムの寿命は、本実施例の方が比較例1よりも長くなることが判る。
【0030】
また、
図3及び4から理解されるように、光ファイバの高さは、比較例1の研磨ラバーパッドを用いたときよりも、本実施例の研磨用パッドを用いたときの方が高い(ファイバ引込の量が少ない)。また、光反射減衰量は、比較例1の研磨ラバーパッドを用いたときよりも、本実施例の研磨用パッドを用いたときの方が小さい(端面における反射量が少ない)。
【0031】
(実施例2)
実施例2の研磨用パッドは、ウレタン系素材のラバーパッドであり、Hs硬度はHs70±2である(1つの研磨フィルムが寿命と判断されるまでの間に、複数の研磨パッドを用いた)。
【0032】
本実施例の研磨用パッドの反発弾性(復元力)の平均は46%(JIS K 6400-3:2011)であり、比較例2のニトリル系ゴム材料の研磨用ラバーパッドの反発弾性の約2.88倍である。
【0033】
比較例2の研磨用ラバーパッドは、ニトリル系ゴムの研磨用ゴムパッド(従来品)であり、Hs硬度は、Hs70±2である(1つの研磨フィルムが寿命と判断されるまでの間に、複数の研磨パッドを用いた)。
【0034】
比較例2の反発弾性(復元力)の平均値は、16%(JIS K 6400-3:2011)である。
【0035】
図5および6は、実施例2の研磨用パッドおよび比較例2の研磨用ラバーパッドの特性の比較結果を示す。
【0036】
測定は、実施例1で説明したのと同じ要領で行った。本実施例においても、研磨条件を同一とするために、研磨時間を、実施例2および比較例2の双方について同一(30sec)としているが、実施例2の研磨用パッドを用いると、比較例2の研磨用ラバーパッドを用いる時よりも、短い時間で研磨を完了することができる。
【0037】
図5に示すように、比較例2の研磨用ラバーパッドについては、30回目の研磨により、光ファイバのコアの端面に傷が発生したため、研磨フィルムの寿命と判断され、測定及び評価を終了している。これに対して、本実施の研磨用パッドでは、50回の研磨で光ファイバのコアの端面に傷が発生したため、研磨フィルムの寿命と判断され、測定及び評価を終了している。本実施例では、研磨フィルムの使用回数が約2倍に到達しており、研磨フィルムの寿命は、本実施例の方が比較例2よりも長くなることが判る。
【0038】
また、
図5及び6から理解されるように、光ファイバの高さは、比較例2の研磨ラバーパッドを用いたときよりも、本実施の研磨用パッドを用いたときの方が高い(ファイバ引込の量が少ない)。また、光反射減衰量は、比較例2の研磨ラバーパッドを用いたときよりも、本実施の研磨用パッドを用いたときの方が小さい(端面における反射量が少ない)。
【0039】
詳細は割愛するが、ウレタン系素材のラバーパッドを用いて、Hs硬度がHs65(反発弾性43%)である研磨用パッドを作成し、上記と同様の測定および評価を行ったところ、同様の結果を得ることができた。
【0040】
以上説明したように、本願発明の一実施形態にかかる光コネクタ研磨用パッドによれば、従来のニトリル系ゴム材料の研磨用ラバーパッドの反発弾性よりも大きい反発弾性(20%よりも大きい)を有するパッドを光コネクタ研磨用パッドとすることにより、研磨中の光コネクタと研磨フィルムとの間の空隙を解消することが可能となる。また、研磨フィルムに本来の性能(時間当たりの研磨量)を発揮させることが可能となり、研磨フィルムの使用回数の向上や研磨時間の短縮が可能となる。また、研磨中に発生する光ファイバの端面の傷や凹みの発生の低減が可能となる。
【符号の説明】
【0041】
100 光コネクタ
101 光ファイバ
102 フェルール
200 研磨フィルム
300,400 研磨用パッド