(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】井戸の補修方法
(51)【国際特許分類】
E21B 43/10 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
E21B43/10
(21)【出願番号】P 2019206092
(22)【出願日】2019-11-14
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000157108
【氏名又は名称】関東天然瓦斯開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】前田 篤志
(72)【発明者】
【氏名】川向 晃
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孔二
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-150448(JP,A)
【文献】特開2009-293292(JP,A)
【文献】特開平02-167985(JP,A)
【文献】特公昭36-023707(JP,B1)
【文献】特表2017-500273(JP,A)
【文献】特開平04-102613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 1/00-49/10
G01N 1/00- 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
坑の内部にケーシングパイプが設けられ、前記坑の下部区間の坑壁と前記ケーシングパイプとの間に下部アニュラス部が、前記坑の上部区間の坑壁と前記ケーシングパイプとの間に上部アニュラス部が設けられ、前記上部アニュラス部と前記下部アニュラス部が遮水体によって仕切られ、前記上部アニュラス部に前記ケーシングパイプの内部空間に接続された接続配管が設けられた井戸を、前記上部アニュラス部のセメンチングを行うことによって補修する方法であって、
前記セメンチングを行うことは、
前記接続配管の前記内部空間との接続を遮断することと、
前記接続配管に前記上部アニュラス部と連通する開口を形成することと、
前記接続が遮断された前記接続配管にセメントを注入し、前記開口を通して前記上部アニュラス部に前記セメントを充填することと、を有する、井戸の補修方法。
【請求項2】
前記井戸は前記下部区間に生産層が位置する生産井であり、予め、前記生産井の近傍に位置する還元井から排出される還元水が前記生産井の上部アニュラス部に侵入しているか否かの評価を行い、前記還元水が侵入していると判断された場合に前記上部アニュラス部のセメンチングを行う、請求項1に記載の井戸の補修方法。
【請求項3】
前記井戸は前記下部区間に還元層が位置する還元井であり、予め前記遮水体の遮水性能の評価を行い、前記遮水性能が不良と判断された場合に前記上部アニュラス部のセメンチングを行う、請求項1に記載の井戸の補修方法。
【請求項4】
前記上部アニュラス部に、前記ケーシングパイプの内部空間と接続される他の接続配管が設けられており、
前記評価は、
前記他の接続配管の前記内部空間との接続を遮断することと、
前記他の接続配管に前記上部アニュラス部と連通する開口を形成することと、
前記還元井の水位を変動させることと、
前記他の接続配管の水位を測定することと、
前記還元井の水位と前記他の接続配管の水位の相関関係を求めることと、を有する、請求項2または3に記載の井戸の補修方法。
【請求項5】
前記評価は、
前記還元井の水位を変動させることと、
前記接続配管の水位を測定することと、
前記還元井の水位と前記接続配管の水位の相関関係を求めることと、を有する、請求項2または3に記載の井戸の補修方法。
【請求項6】
前記接続配管の前記開口は、前記接続配管の内部に挿入した高圧旋回ノズルから前記接続配管の内壁に高圧水を噴射することによって形成される、請求項1から5のいずれか1項に記載の井戸の補修方法。
【請求項7】
前記接続配管は前記ケーシングパイプとの接続部の近傍に曲がり部を有し、前記接続配管の前記接続を遮断することは、前記接続配管に前記曲がり部を通過しない部材を投入し、その後遮水材を前記接続配管に投入することによって行われる、請求項1から6のいずれか1項に記載の井戸の補修方法。
【請求項8】
前記接続の遮断は、前記ケーシングパイプとの接続部をパッカーで閉鎖し、その後遮水材を前記接続配管に投入することによって行われる、請求項1から6のいずれか1項に記載の井戸の補修方法。
【請求項9】
前記接続配管はガスリフト用吹込管である、請求項1から8のいずれか1項に記載の井戸の補修方法。
【請求項10】
前記上部アニュラス部のセメンチングを行った後、前記上部アニュラス部に注入されたセメントの遮水性能を評価し、前記遮水性能が不良と判断された場合に前記上部アニュラス部の別の場所にセメンチングを行う、請求項1から9のいずれか1項に記載の井戸の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は井戸の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油、天然ガスなどの採掘は通常、立坑に設置されたケーシングパイプを用いて行われる。具体的には、立坑を生産層の深さまで掘削し、生産層の位置に開口の形成されたケーシングパイプを立坑に設置する。このような井戸は生産井と呼ばれる。生産井からは、原油や天然ガスを含むとともに液体が採取される。液体の採取によって発生する可能性のある地盤沈下を防止するため、原油や天然ガスが分離された液体(還元水)が、生産井の近傍に設けられた還元井に戻されることがある。還元井は生産井と同様、立坑に設置されたケーシングパイプを備えており、還元水はケーシングパイプの還元層の位置に設けられた開口から還元層に注入される。還元層は、砂層、礫層などの透水性の高い地層で形成されている。還元井のコストを抑えるため、還元層は生産層の上方に設定される場合がある。
【0003】
生産井では、坑壁とケーシングパイプとの間に空間(アニュラス部)が形成されている。このため、還元水は還元層を通って生産井に達し、生産井のアニュラス部を通って上昇する可能性がある。同様に、還元井では、坑壁とケーシングパイプとの間に空間(アニュラス部)が形成されており、還元水は還元井のアニュラス部を通って上昇する可能性がある。このため、還元層の上方に清水層があると、還元水が清水層に混入し、還元水に塩分が含まれていると清水層を汚染する可能性がある。清水層は農業用水などとして用いられることがあり、清水層の汚染はできるだけ防止することが望ましい。
【0004】
従って、アニュラス部が還元水の清水層への侵入経路となることを防止するため、アニュラス部にセメントを充填することが望まれる。アニュラス部にセメントを充填する方法として、ケーシングパイプの内側からセメントを充填する方法が考えられる。特許文献1には、トンネルの背面の空洞にセメントと増量材と水とを含む主材を注入する方法が開示されている。トンネルの内部に可塑化材の供給装置と、主材と可塑化材を混合して注入材を作る混合装置と、注入材の注入管が設置され、注入材が注入管によってトンネルの背面の空洞に注入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された方法を井戸に応用することでアニュラス部にセメントを充填することは、原理上可能である。例えば、セメントの供給設備を地上に配置し、アニュラス部に注入管を配置することでアニュラス部にセメントを充填することができる。しかし、ケーシングパイプにセメント注入用の穴をあける必要があること、注入管を穴に接続する必要があること、セメント注入後に穴を塞ぐ必要があることなど、多くの課題があり、現実的ではない。これに対し、アニュラス部にセメントの注入管を下ろし入れることができれば、アニュラス部に直接セメントを充填することが可能である。しかし、アニュラス部が狭隘である場合、注入管を下ろし入れることは困難である。
【0007】
本発明は、狭隘なアニュラス部にもセメントを充填することが可能な井戸の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の井戸の補修方法は、坑の内部にケーシングパイプが設けられ、坑の下部区間の坑壁とケーシングパイプとの間に下部アニュラス部が、坑の上部区間の坑壁とケーシングパイプとの間に上部アニュラス部が設けられ、上部アニュラス部と下部アニュラス部が遮水体によって仕切られ、上部アニュラス部にケーシングパイプの内部空間と接続された接続配管が設けられた井戸を、上部アニュラス部のセメンチングを行うことによって補修する方法である。セメンチングを行うことは、接続配管の内部空間との接続を遮断することと、接続配管に上部アニュラス部と連通する開口を形成することと、接続が遮断された接続配管にセメントを注入し、開口を通して上部アニュラス部にセメントを充填することと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、狭隘なアニュラス部にもセメントを充填することが可能な井戸の補修方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】生産井とその近傍に設けられた還元井とを示す概念図である。
【
図2】第1の実施形態に係る生産井の補修方法の手順を示すフロー図である。
【
図3】接続配管を閉塞し接続配管に穿孔する工程を示す概念図である。
【
図5】接続配管に水位測定用の開口を形成する方法を示す概念図である。
【
図6】第1の実施形態における侵入水の流れを示す概念図である。
【
図7】接続配管にセメント注入用の開口を形成する方法を示す概念図である。
【
図9】第2の実施形態に係る還元井の補修方法の手順を示すフロー図である。
【
図10】第2の実施形態における侵入水の流れを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の井戸の補修方法の実施形態について説明する。
図1は、生産井1とその近傍に設けられた還元井21とを示す概念図である。生産井1は天然ガスを採掘可能な井戸であり、生産井1の周囲には天然ガスを含む生産層41が存在している。生産層41から採取した液体を、天然ガス成分を除いた後に地中に戻すため、生産層41の上方に還元層42が設けられている。還元層42に注入される液体を還元水という。還元層42の上方には清水層43が存在している。還元層42と清水層43は透水性の高い砂層ないし礫層であり、生産層41と還元層42の間及び還元層42と清水層43の間には透水性の低い層44(例えば、シルトや粘土を主体とする泥岩層)が存在している。
【0012】
生産井1においては、生産層41とその上層とを貫通する坑2が掘削され、坑2の内部にケーシングパイプ3が設けられている。生産層41の上層、すなわち生産層41と地表面Gとの間の層(以下、非生産層45という)は上述の還元層42や清水層43を含んでいる。坑2とケーシングパイプ3は、生産層41と非生産層45とを貫通している。生産層41の深さ位置では、ケーシングパイプ3の側壁に天然ガスを採取するための多数の開口4が設けられている。非生産層45の深さ位置では、ケーシングパイプ3の側壁に開口4は設けられていない。坑壁5とケーシングパイプ3との間にはアニュラス部6(環状の空間)が設けられている。アニュラス部6の下部は通常、地下水が充填されており、アニュラス部6の上部は通常、空気層が形成されている。アニュラス部6の生産層41の直上に、セメントなどの遮水性能の高い材料で形成された遮水体7が設けられている。遮水体7はアニュラス部6の一部を埋める環状の構造体であり、ケーシングパイプ3の設置時に設けられる。遮水体7はアニュラス部6を上部アニュラス部6Aと下部アニュラス部6Bとに分割する。すなわち、坑2の下部区間の坑壁5とケーシングパイプ3との間に下部アニュラス部6Bが、坑2の上部区間の坑壁5とケーシングパイプ3との間に上部アニュラス部6Aが設けられる。下部アニュラス部6Bは生産層41と連通し、上部アニュラス部6Aは還元層42及び清水層43と連通している。遮水体7は、生産層41の天然ガスを含む液体が、アニュラス部6を通って還元層42や清水層43に流出することを防止する。これによって、天然ガスの採取効率を高め、且つ清水層43の汚染を防止することができる。遮水体7はケーシングパイプ3の下部支持構造物としても機能する。地表面G付近にも遮水体8が設けられている。遮水体8はアニュラス部6の地下水が地上に流出することを防止するとともに、ケーシングパイプ3の上部支持構造物として機能する。
【0013】
還元井21においては、還元層42とその上層とを貫通する坑22が掘削され、坑22の内部にケーシングパイプ23が設けられている。坑22とケーシングパイプ23は、還元層42とその上層とを貫通している。還元層42の上層は清水層43を含んでいる。坑22とケーシングパイプ23は、還元層42とその上層を貫通している。還元層42の深さ位置では、ケーシングパイプ23の側壁に還元水を還元層42に注入するための多数の開口24が設けられている。還元層42の上層では、ケーシングパイプ23の側壁に開口24は設けられていない。坑壁25とケーシングパイプ23との間には生産井1と同様のアニュラス部26が設けられている。アニュラス部26の還元層42の直上に、生産井1と同様の構造の遮水体27が設けられている。遮水体27はアニュラス部26を上部アニュラス部26Aと下部アニュラス部26Bとに分割する。すなわち、坑22の下部区間の坑壁25とケーシングパイプ23との間に下部アニュラス部26Bが、坑22の上部区間の坑壁25とケーシングパイプ23との間に上部アニュラス部26Aが設けられる。下部アニュラス部26Bは還元層42と連通し、上部アニュラス部26Aは清水層43と連通している。遮水体27は還元井21に注入された還元水がアニュラス部26を通って清水層43に流出することを防止する。これによって、還元水を還元層42に閉じ込め、且つ清水層43の汚染を防止することができる。遮水体27はケーシングパイプ23の下部支持構造物としても機能する。地表面G付近にも遮水体28が設けられている。遮水体28はアニュラス部26の地下水が地上に流出することを防止するとともに、ケーシングパイプ23の上部支持構造物として機能する。
【0014】
生産井1の上部アニュラス部6Aには、ケーシングパイプ3の内部空間11と接続された第1及び第2の接続配管9,10が設けられている。第1及び第2の接続配管9,10は塩ビ管で形成されている。第1及び第2の接続配管9,10はケーシングパイプ3との接続部14(
図4参照)の近傍に曲がり部12を有する、概ねL字型のパイプである。第1及び第2の接続配管9,10はガスリフト用吹込管である。ガスリフト用吹込管はメタンなどのガスをケーシングパイプ3内に吹き込むために用いられる。生産層に遊離ガスが多く含まれる井戸では、遊離ガスの圧力がケーシングパイプ内で解放され、遊離ガスが膨張する。これによって、ケーシングパイプ内の液体の見掛けの比重が低下し、膨張したガスが上昇エネルギーを発生させる。このような井戸は、外部からのエネルギーの供給がなくても液体がケーシングパイプ内を上昇するため、自噴井と呼ばれる。これに対して、遊離ガスが少ない井戸あるいは遊離ガスがない井戸では上述の効果が得られないため、高圧のガスをケーシングパイプ内に吹き込み、自噴井と同様の状態を意図的に作り出している。このような井戸はガスリフト井と呼ばれる。生産井1が自噴井かガスリフト井かは掘削するまで不明であるため、生産井1にはガスリフト用吹込管が予め設けられている。ガスリフト用吹込管はケーシングパイプ3と比べて小径であり、一例では内径25mm程度である。ガスリフト用吹込管はケーシングパイプ3にテープなどで固定され、ケーシングパイプ3の設置時にケーシングパイプ3とともに坑2内に吊り下ろされる。上部アニュラス部6Aと下部アニュラス部6Bの径方向寸法はガスリフト用吹込管の設置スペースを考慮して決定されるため、一例では30mm程度と非常に狭隘である。
【0015】
還元井21にも、ケーシングパイプ23の内部空間31と接続された第1及び第2の接続配管29,30が設けられている。還元井21の第1及び第2の接続配管29,30は生産井1の第1及び第2の接続配管9,10と同様の構成を有している。還元井21の還元能力は目詰まりなどによって低下することがある。還元井21の第1及び第2の接続配管29,30は、こうした際に気体を注入することによって還元井21を洗浄するために設けられている。第1及び第2の接続配管29,30を用いて気体を吹き込むと、還元井21は生産井1と同様の挙動を示す。すなわち、還元層42から流体が開口部24を通じてケーシングパイプ23に流れ込み、ガスリフトによって地上まで上がってくる。この際、開口部24や還元層42を目詰まりさせていた固体成分が剥離、上昇し、坑22の外部に排出される。従って、還元井21の第1及び第2の接続配管29,30もガスリフト用吹込管である。
【0016】
以上説明した生産井1及び還元井21では、還元井21に注入された還元水の一部が清水層43に達し、清水層43を汚染する可能性がある。還元水が清水層43に達する経路として、2つの経路P1,P2が考えられる。第1の経路P1は、生産井1の近傍に位置する還元井21に注入された還元水が、ケーシングパイプ23の開口24と下部アニュラス部26Bと還元層42とを通って、生産井1の上部アニュラス部6Aに侵入し、生産井1の上部アニュラス部6Aを通って、清水層43に達する経路である。還元水は還元層42以外の経路を通って生産井1に達することもあり得る。第2の経路P2は、還元井21に注入された還元水が、ケーシングパイプ23の開口24と下部アニュラス部26Bと劣化した遮水体27とを通って、還元井21の上部アニュラス部26Aに侵入し、還元井21の上部アニュラス部26Aを通って清水層43に達する経路である。これらの事態を防止するため、第1の実施形態では、生産井1の上部アニュラス部6Aのセメンチングを行うことによって、生産井1を補修する。第2の実施形態では、還元井21の上部アニュラス部26Aのセメンチングを行うことによって、還元井21を補修する。以下、これらの実施形態について説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
図2は生産井1の補修方法、すなわち第1の経路P1を遮断する方法の手順を示すフロー図である。生産井1の補修方法は、予め、還元水が生産井1の上部アニュラス部6Aに侵入しているか否かの評価を行う工程(侵入水評価工程)と、生産井1の上部アニュラス部6Aにセメンチングを行う工程(セメンチング工程)と、セメンチング評価工程と、セメンチング評価工程の結果に応じて実施する再セメンチング工程と、に分かれる。
【0018】
まず、侵入水評価工程について説明する。
図3に示すように、第2の接続配管10の下部に遮水材13を投入し、ケーシングパイプ3の内部空間11との接続を遮断する(ステップS1)。
図4(a)には遮水材13の投入方法を示している。予め、第2の接続配管10に、曲がり部12を通過しない寸法を有する部材51を投入する。部材51の材質や形状は特に限定されないが、本実施形態では塩ビ製の円柱片を用いている。部材51は曲がり部12に留まり、曲がり部12の流路断面を局所的に減少させる。遮水材13としては粒状のベントナイトを用いる。ベントナイトは水分を吸収することで膨張するため、遮水材13として好適に用いることができる。ベントナイトの一部は曲がり部12を通過し、ケーシングパイプ3との接続部14からケーシングパイプ3に落下する可能性があるが、ベントナイトは徐々に曲がり部12に蓄積し、最終的に円筒形の部材51の周囲の隙間を埋める。
【0019】
図4(b)には遮水材13の他の投入方法を示している。まず、パッカー61をケーシングパイプ3内に吊り下ろし、第2の接続配管10のケーシングパイプ3との接続部14をパッカー61で閉鎖する。パッカー61は気体によって膨張する膨張部62と、膨張部62を支持する支持部63とを有し、気体は支持部63に設けられた気体供給ライン(図示せず)を通って膨張部62に供給される。気体によって膨張した膨張部62は接続部14を封鎖する。この状態で第2の接続配管10の上部開口から遮水材13を投入する。遮水材13としてはセメントを用いることが好ましい。この際、予め、第2の接続配管10の下部(鉛直部の曲がり部12の直上)に後述の方法によって開口10Aを形成することが望ましい。第2の接続配管10に存在している液体(第2の接続配管10には接続部14を通してケーシングパイプ3の内部空間11の液体が侵入している)が開口10Aから排出されるため、セメントを効率的に第2の接続配管10の下部に充填することができる。その後水を注入しセメントを押し込むことが好ましい。これは次に形成する水位測定用の開口16をセメントで封鎖しないため、及び水位計15の設置スペースを確保するためである。セメントが十分に硬化した後、膨張部62の気体を抜き、パッカー61をケーシングパイプ3から吊り上げる。
図4(a)に示す方法は
図4(b)に示す方法と比べて、使用する設備が簡易であること、第2の接続配管10に高い圧力を掛ける可能性が小さいこと、などの長所を持つ。
図4(b)に示す方法は
図4(a)に示す方法と比べて、より確実に第2の接続配管10の下部に遮水材13を充填できるという長所を持つ。
【0020】
次に、第2の接続配管10の遮水材13で閉塞された部分より上方、且つ上部アニュラス部6Aの水位L2より下方に水位測定用の開口16を形成する(ステップS2)。上部アニュラス部6Aの地下水が開口16を通じて第2の接続配管10に流入し、第2の接続配管10の水位が上部アニュラス部6Aの水位と一致する。第2の接続配管10に水位計15(
図6参照)を挿入する。水位計15で水位を測定することによって、上部アニュラス部6Aの水位を測定することができる。
【0021】
第2の接続配管10の開口16は、第2の接続配管10の内部に設置した高圧旋回ノズル71から高圧水を噴射することによって形成される。
図5に第2の接続配管10に開口16を形成する方法を示している。高圧旋回ノズル71は高圧水を供給するホース72に接続されている。地上からホース72を第2の接続配管10に挿入することによって、高圧旋回ノズル71を第2の接続配管10の内部の所定に深度に設置することができる。高圧旋回ノズル71の深度は第2の接続配管10に挿入されたホース72の長さから知ることができる。上述のように第2の接続配管10は塩ビ管で作成されているため、高圧水の圧力と噴射時間とを制御することで、側壁に容易に開口16を形成することができる。以上の工程によって、ケーシングパイプ3の内部空間11と接続されていた第2の接続配管10は、ケーシングパイプ3の内部空間11から遮断され、上部アニュラス部6Aと連通する。なお、第2の接続配管10のケーシングパイプ3の内部空間11との接続を遮断する工程と、第2の接続配管10に開口16を形成する工程はどちらを先に実施してもよいが、水位測定用の開口16が遮水材13で閉塞されることを防止するため、前者の工程を先に実施するほうが好ましい。
【0022】
次に、侵入水評価、すなわち、侵入水が存在しているか、より具体的には、還元層42に注入した還元水が生産井1の上部アニュラス部6Aに侵入しているか否かの評価を行う(ステップS3)。
図6(a)は還元井21に注入された還元水が還元層42を通って生産井1の上部アニュラス部6Aに侵入している状況を示している。
図6(b)は還元井21に注入された還元水が生産井1の上部アニュラス部6Aに侵入していない状況を示している。前述の通り、第2の接続配管10の水位L2は生産井1の上部アニュラス部6Aの水位と一致している。上部アニュラス部6Aの水位は、周辺の地層や地下水の分布状況に応じた所定の水位(自然水位)となっている。同様に、還元井21のケーシングパイプ23の水位L1も自然水位となっている。
【0023】
まず、還元井21のケーシングパイプ23に水を注入する。注入する水は特に限定されず、例えば地下水、水道水などの水を用いることができる。同時に第2の接続配管10の水位を水位計15で測定する。
図6(a)に示すように、還元井21のケーシングパイプ23の水位の上昇(水位L1→L3)に伴って第2の接続配管10の水位が上昇(水位L2→L4)すれば、生産井1の上部アニュラス部6Aが、還元層42を介して還元井21と接続されていると判断される。
図6(b)に示すように、ケーシングパイプ23の水位が上昇しても(水位L1→L3)、第2の接続配管10の水位が不変、またはケーシングパイプ23の水位変動に対してわずかな変動しか示さなければ、生産井1の上部アニュラス部6Aが、還元層42を介して還元井21と接続されていないと判断される。
図6(b)に示す状況はいくつかの理由によって生じると考えられる。一例として、還元水は還元層42を全方向に均一に拡散するのではなく、地層の透水係数の異方性や断層等の影響で、特定の方向に浸透することが考えられる。第2の接続配管10の水位の上昇とケーシングパイプ23の水位の上昇との間にはある程度の時間差が生じるため、還元井21と生産井1の距離、地層の状況などを考慮して、ケーシングパイプ23の水位を変動させてからしばらくの間水位計15の測定を行うことが望ましい。
【0024】
さらに、ケーシングパイプ23への注水を停止することで、ケーシングパイプ23の水位を低下させることが望ましい。これは、ケーシングパイプ23の水位の上昇が、降雨やそれに伴う地下水レベルの変動、地下水流量の変動などの自然現象によって生じている可能性があるためである。ケーシングパイプ23の水位を上下に変動させることで、自然現象による水位の変動の影響を排除することができる。ケーシングパイプ23の水位の低下に連動して第2の接続配管10の水位が低下すれば、侵入水が存在しているとの判断の信頼性がより高められる。同様に、ケーシングパイプ23の水位の低下が第2の接続配管10の水位と連動していない場合、侵入水が存在していないとの判断の信頼性がより高められる。このように、還元井21のケーシングパイプ23の水位と第2の接続配管10の水位の相関関係を求めることによって、還元層42に注入した還元水が生産井1の上部アニュラス部6Aに侵入しているか否かを評価することができる。
【0025】
侵入水が存在していると判断された場合、以下の方法によって生産井1の上部アニュラス部6Aのセメンチング(セメンチング工程)を行う。侵入水が存在していないと判断された場合、生産井1の補修は不要であり、生産井1の上部アニュラス部6Aのセメンチングは行わない。
【0026】
生産井1の上部アニュラス部6Aのセメンチング工程について説明する。セメンチング工程には第1の接続配管9を用いる。
図7に示すように、まず、第2の接続配管10と同様の方法で第1の接続配管9に遮水材17を充填し、第1の接続配管9とケーシングパイプ3の内部空間11との接続を遮断する(ステップS4)。次に、第2の接続配管10と同様の方法で、第1の接続配管9の遮水材17で閉塞された部分より上方にセメント注入用の開口18を形成する(ステップS5)。図示は省略するが、セメント注入用の開口18は、第1の接続配管9の複数の深さ位置に設けることが好ましい。すなわち、ある深さ位置で高圧水の噴射によって開口18を形成した後、高圧旋回ノズル71の深さ位置を変え、再び同じ作業を行う。多数のセメント注入用の開口18が形成されるため、セメントの充填効率が高められ、且つセメンチングの信頼性が向上する。セメンチングに要する時間も短縮される。以上の工程によって、ケーシングパイプ3の内部空間11と接続されていた第1の接続配管9は、ケーシングパイプ3から遮断され、上部アニュラス部6Aと連通する。
【0027】
次に、
図8に示すように、第1の接続配管9にセメントを注入し、セメント注入用の開口18を通して上部アニュラス部6Aにセメントを充填する(ステップS6)。第1の接続配管9の開口18の向きは特に限定されない。開口18はケーシングパイプ3と対向していてもよいし、坑壁5と対向していてもよい。セメント注入用の開口18から供給されたセメントは上部アニュラス部6A内を沈降し、所定時間の経過後に固化し、上部アニュラス部6Aの下部空間に新たな遮水体19を形成する。セメントは第1の接続配管9のセメント注入用の開口18を埋める程度の量を充填することが望ましい。これによって、セメントを上部アニュラス部6Aの全周に行き届かせ、セメンチングの信頼性を高めることができる。セメントは第2の接続配管10の水位測定用の開口16に達しない程度の量を充填する。これによって、次に述べるセメンチング評価工程で第2の接続配管10を再利用することができる。第1の接続配管9にセメントを注入した後、第1の接続配管9に水を注入することが好ましい。これによって、第1の接続配管9の内部のセメントを押し出すことができる。また、後述する再セメンチング工程で、第1の接続配管9を使って再びセメントを注入することができる。
【0028】
上部アニュラス部6Aにセメントを充填した後、上部アニュラス部6Aに注入されたセメント(遮水体19)の遮水性能を評価する(セメンチング評価工程)(ステップS7)。この工程は、第2の接続配管10を用いて、上述の侵入水評価(ステップS3)と同様の方法で行うことができる。還元井21のケーシングパイプ23の水位の変動に伴って第2の接続配管10の水位が変動しなければ、セメント(遮水体19)の遮水性能が良好であると判断され、生産井1の補修は終了する。セメント(遮水体19)の遮水性能が不良と判断された場合は、上部アニュラス部6Aの別の場所にセメンチングを行う(再セメンチング工程)(ステップS8)。具体的には、第1の接続配管9の、すでに形成したセメント注入用の開口18の上部に、セメント注入用の新たな開口を形成し、同様の手順でセメンチングを行う。第1及び第2の接続配管9,10の他に他の接続配管が設けられている場合は、他の接続配管を用いて同様の工程を繰り返してもよい。
【0029】
水位測定とセメンチングは同じ接続配管を用いて実施してもよい。例えば、第1の接続配管9を用いて上部アニュラス部6Aの水位を測定し、同じ第1の接続配管9を用いて上部アニュラス部6Aのセメンチングを実施してもよい。セメントは水位測定用の開口16から注入することができる。水位測定用の開口16がセメントで閉塞された場合は、第2の接続配管10に水位測定用の開口を形成し、この開口を用いてセメンチング評価工程を実施する。あるいは、第2の接続配管10を用いて上部アニュラス部6Aの水位測定と上部アニュラス部6Aのセメンチングを行ってもよい。
【0030】
(第2の実施形態)
次に、還元井21の補修方法について説明する。
図9は還元井21の補修方法、すなわち第2の経路P2を遮断する方法の手順を示すフロー図である。還元井21の補修方法は、予め、還元井21の遮水体27の遮水性能を評価する工程(遮水体の遮水性能評価工程)と、還元井21の上部アニュラス部26Aにセメンチングを行う工程(セメンチング工程)と、セメンチング評価工程と、セメンチング評価工程の結果に応じて実施する再セメンチング工程と、に分かれる。セメンチング工程以降の工程は第1の実施形態とほぼ同様であるため、ここでは遮水体性能評価工程を中心に説明する。なお、
図3,7,8には本実施形態で参照する符号を括弧書きで示している。
【0031】
まず、
図3に示すように、第1の実施形態と同様にして、第2の接続配管30の下部に遮水材33を投入し、ケーシングパイプ23の内部空間31との接続を遮断する(ステップS101)。次に、第2の接続配管30の遮水材33で閉塞された部分より上方、且つ上部アニュラス部26Aの水位L2より下方に水位測定用の開口36を形成する(ステップS102)。上部アニュラス部26Aの地下水が開口36を通じて第2の接続配管30に流入し、第2の接続配管30の水位が上部アニュラス部26Aの水位と一致する。第2の接続配管30に水位計15を挿入する。水位計15で水位を測定することによって、上部アニュラス部26Aの水位を測定することができる。第2の接続配管30の開口36は、第1の実施形態と同様、高圧旋回ノズル71を用いて形成することができる。本実施形態においても、第2の接続配管30のケーシングパイプ23の内部空間31との接続を遮断する工程と、第2の接続配管30に開口36を形成する工程はどちらを先に実施してもよい。
【0032】
次に、遮水体27の遮水性能の評価、すなわち還元水が還元井21の上部アニュラス部26Aに侵入しているか否かの評価を行う(ステップS103)。第2の接続配管30の水位L2は還元井21の上部アニュラス部26Aの水位と一致している。ケーシングパイプ23は開口24を介して下部アニュラス部26Bと連通している。遮水体27の遮水性能が不十分である場合、ケーシングパイプ23の還元水が下部アニュラス部26Bと遮水体27を通って上部アニュラス部26Aに侵入する。遮水体27の遮水性能が大幅に劣化している場合は、上部アニュラス部26Aの水位はケーシングパイプ23の水位と一致することもあり得るが、遮水体27の遮水性能がある程度維持されている場合、上部アニュラス部26Aの水位はケーシングパイプ23の水位と一致していない可能性もある。
【0033】
まず、還元井21のケーシングパイプ23に水を注入し、第2の接続配管30の水位を水位計15で測定する。注入する水は特に限定されず、例えば地下水、水道水などの水を用いることができる。同時に第2の接続配管30の水位を水位計15で測定する。
図10(a)は還元井21のケーシングパイプ23の還元水が還元井21の上部アニュラス部26Aに侵入している状況を示している。この図に示すように、ケーシングパイプ23の水位の上昇(水位L1→L3)に伴って第2の接続配管30の水位が上昇すれば(水位L2→L4)、ケーシングパイプ23が、遮水体27を介して上部アニュラス部26Aと接続されていると判断される。
図10(b)は還元井21のケーシングパイプ23の還元水が還元井21の上部アニュラス部26Aに侵入していない状況を示している。この図に示すように、ケーシングパイプ23の水位が上昇しても(水位L1→L3)、第2の接続配管10の水位が不変、またはケーシングパイプ23の水位変動に対してわずかな変動しか示さなければ、還元井21の上部アニュラス部26Aが、遮水体27を介してケーシングパイプ23と接続されていないと判断される。第2の接続配管10の水位の上昇とケーシングパイプ23の水位の上昇との間には、第1の実施形態よりは短いとはいえ、ある程度の時間差が生じるため、ケーシングパイプ23の水位を変動させてからしばらくの間水位計15の測定を行うことが望ましい。さらに、第1の実施形態と同様の理由から、ケーシングパイプ23の水を抜き、ケーシングパイプ23の水位を低下させてもよい。このように、ケーシングパイプ23の水位と第2の接続配管30の水位の相関関係を求めることによって、遮水体27が十分な遮水性能を有しているか否かを評価することができる。
【0034】
遮水体27の遮水性能が不良と判断された場合、第1の実施形態と同様の方法によって還元井21の上部アニュラス部26Aのセメンチングを行う(ステップS104~S106)。遮水体27の遮水性能が良好と判断された場合、還元井21の補修は不要であり、還元井21の上部アニュラス部26Aのセメンチングは行わない。還元井21の上部アニュラス部26Aのセメンチングは第1実施形態と同様の方法によって行うことができる。さらに、上部アニュラス部26Aにセメントを充填した後、第1の実施形態と同様の方法によって上部アニュラス部26Aに注入されたセメント(新たな遮水体39)の遮水性能を評価する(セメンチング評価工程)(ステップS107)。ケーシングパイプ23の水位の変動に伴って第2の接続配管30の水位が変動しなければ、セメント(遮水体39)の遮水性能が良好であると判断され、還元井21の補修は終了する。セメント(遮水体39)の遮水性能が不良と判断された場合は、第1実施形態と同様の方法によって上部アニュラス部26Aの別の場所にセメンチングを行う(再セメンチング工程)(ステップS108)。本実施形態でも、水位測定とセメンチングは同じ接続配管を用いて実施することができる。
【0035】
上述の実施形態は以下の利点を有する。まず、本実施形態では、既存のガスリフト用吹込管を利用するため、ケーシングパイプ3,23自体に穿孔する必要がない。このため、ケーシングパイプ3,23の健全性に悪影響を及ぼすことがない。次に、本実施形態では、上部アニュラス部6A,26Aに侵入する侵入水が存在しているか否かを予め評価している。侵入水が存在していないと判断されればセメンチングを行う必要がないため、無駄な工事を回避することができる。さらに、本実施形態では、セメンチング後に再度同様の評価を行っている。セメンチングが成功したか否かを知ることができ、不成功の場合は追加のセメンチングを実施することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 生産井
2,22 坑
3,23 ケーシングパイプ
5,25 坑壁
6A,26A 上部アニュラス部
6B,26B 下部アニュラス部
7,8,19、27,28,39 遮水体
9,19 第1の接続配管
10,30 第2の接続配管
21 還元井
41 生産層
42 還元層
43 清水層
45 非生産層