(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0276 20160101AFI20230418BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20230418BHJP
H01M 8/0247 20160101ALI20230418BHJP
H01M 8/0286 20160101ALI20230418BHJP
【FI】
H01M8/0276
H01M8/0206
H01M8/0247
H01M8/0286
(21)【出願番号】P 2019231111
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 陽平
(72)【発明者】
【氏名】渡部 茂
(72)【発明者】
【氏名】儀賀 章仁
(72)【発明者】
【氏名】大森 優
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-504872(JP,A)
【文献】特開2017-139218(JP,A)
【文献】特開2016-015207(JP,A)
【文献】特開2006-228533(JP,A)
【文献】特開2016-195106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に用いられるセパレータの製造方法であって、
凸状を呈するシール用ビード部と、凸状を呈し前記シール用ビード部より突出高さが小さいストッパー用ビード部と、をそれぞれ有する第1金属セパレータ及び第2金属セパレータを成形する成形工程と、
前記第1金属セパレータ及び前記第2金属セパレータの前記シール用ビード部が突出する側の面とは反対側の面同士を接合するとともに、前記シール用ビード部の延長方向又は先端部にシール部材を設置する接合工程と、
一対の前記シール用ビード部及び前記シール部材で構成されたビードシール部、及び、一対の前記ストッパー用ビード部で構成されたストッパー部の高さ方向に予備荷重を付与し、前記ビードシール部及び前記ストッパー部を同時に塑性変形させる予備荷重付与工程と、を含むことを特徴とするセパレータの製造方法。
【請求項2】
前記予備荷重付与工程では、押さえ面と、前記押さえ面に設けられ前記ビードシール部が配置される凹溝部と、をそれぞれ有する一対の圧盤を用い、対向する前記凹溝部同士で前記ビードシール部を挟持するとともに、対向する前記押さえ面同士で前記ストッパー部を挟持して予備荷重を付与することを特徴とする請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項3】
前記予備荷重付与工程では、押さえ面をそれぞれ有する一対の圧盤と、一対のスペーサーとを用い、対向する前記押さえ面同士で前記ビードシール部を挟持するとともに、対向する前記スペーサー同士で前記ストッパー部を挟持して予備荷重を付与することを特徴とする請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられるセパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1,2に示すように、セパレータを備えた燃料電池セルが知られている。
図7は、関連技術に係るセパレータを示す断面図である。
図7に示すように、セパレータ120は、第1金属セパレータ101と、第2金属セパレータ102と、シール部材113,113とを備えている。
【0003】
第1金属セパレータ101及び第2金属セパレータ102は、凸状を呈するシール用ビード部111と、凸状を呈しシール用ビード部111より突出高さが小さいストッパー用ビード部112と、をそれぞれ備えている。第1金属セパレータ101と第2金属セパレータ102とは、シール用ビード部111が突出する側の面とは反対側の面同士が接合されている。シール用ビード部111の先端には、シール部材113が設けられている。
【0004】
セパレータ120のうち、シール用ビード部111,111及びシール部材113,113でビードシール部121が形成されている。また、セパレータ120のうち、ストッパー用ビード部112,112でストッパー部122が形成されている。対向するビードシール部121,121同士で電解質膜を挟持してシールすることにより、燃料ガス、酸化剤ガス等の反応ガスの漏洩を防ぐことができる。また、燃料電池セルに過大な押付け荷重が作用した場合には、各ストッパー部122が当該荷重を受けることで、ビードシール部121に過大なひずみやへたりが生じ難くなる。
【0005】
セパレータには、燃料電池セルを組み付ける前に、予備荷重が付与されている。
図8は、関連技術に係るセパレータにおいて、予備荷重付与工程を示す模式断面図である。
図8に示すように、予備荷重付与工程では、一対の板状の圧盤140,140によりセパレータ120に予備荷重を付与することができる。シール用ビード部111の突出方向とは逆方向に荷重を作用させてビードシール部121を予め変形させておくと、ビードシール部121に作用する押付け荷重に変動が生じた場合であっても、塑性変形を惹起することなく安定したシール性を得ることができる。
【0006】
図9は、関連技術に係るセパレータにおいて、ビードシール部及びストッパー部の変形量と押付け荷重との関係を示すグラフである。予備荷重の作用効果について詳述すると、
図9に示すように、予め変形させていないビードシール部121(点a)に対し、荷重特性線L1に沿って押付け荷重を加えシール性を発現させた場合(点b)、外乱による押付け荷重が作用すると(点c)、塑性変形が惹起されビードシール部121の荷重特性線がL1からL2に移動する。そのため、ビードシール部121は安定したシール性を維持するのが困難となる。
【0007】
これに対し、ビードシール部121に予備荷重を作用させて荷重特性線をL1からL3に移動させた後(点e)、一旦押付け荷重を取り除き(点a’)、押付け荷重を再度付与しシール性を発現させた場合(点b’)、外乱による押付け荷重が点c’まで増大した際にも、ビードシール部121に塑性変形が惹起され難く、ビードシール部121は荷重特性線L3に沿った特性を保つことができる。そのため、ビードシール部121に押付け荷重の変動が生じた場合に、塑性変形を惹起することなく安定したシール性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2006-504872号公報
【文献】米国特許出願公開第2018/0123141A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このようなセパレータにおいて、第1金属セパレータ101、第2金属セパレータ102をプレス成形すると、加工誤差等の影響によりビードシール部121の高さH1(
図7参照)と、ストッパー部122の高さH2の寸法ばらつきが大きくなる場合がある。
図10は、関連技術に係るセパレータにおいて、押付け荷重とビードシール部に発生する線圧との関係を示すグラフである。例えば、ストッパー部122の高さH2が過大な状態で、その燃料電池セルに押付け荷重が作用した場合、ストッパー部122が押付け荷重の一部を受けるため、ビードシール部121に必要な線圧が発生しない可能性がある(領域W1参照)。
【0010】
一方、例えば、この寸法ばらつきによってストッパー部122の高さ寸法が過小な状態で、その燃料電池用セルに過大な押付け荷重が作用した場合、ビードシール部121の異常変形が発生する場合があり、シール機能を損なう可能性がある(領域W2参照)。よって、ストッパー部122(ストッパー用ビード部112)の高さの高い寸法精度が必要とされている。
【0011】
本発明はかかる課題を解決するために発明されたものであり、荷重変動に対して塑性変形を惹起することなく、所望のシール面圧を得ることが可能なセパレータの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための本発明は、燃料電池に用いられるセパレータの製造方法であって、凸状を呈するシール用ビード部と、凸状を呈し前記シール用ビード部より突出高さが小さいストッパー用ビード部と、をそれぞれ有する第1金属セパレータ及び第2金属セパレータを成形する成形工程と、前記第1金属セパレータ及び前記第2金属セパレータの前記シール用ビード部が突出する側の面とは反対側の面同士を接合するとともに、前記シール用ビード部の延長方向又は先端部にシール部材を設置する接合工程と、一対の前記シール用ビード部及び前記シール部材で構成されたビードシール部、及び、一対の前記ストッパー用ビード部で構成されたストッパー部の高さ方向に予備荷重を付与し、前記ビードシール部及び前記ストッパー部を同時に塑性変形させる予備荷重付与工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
かかる製造方法によれば、ストッパー部に予備荷重を付与するので、ストッパー用ビード部の高さの寸法ばらつきを抑制することができる。これにより、燃料電池セルに荷重変動が生じた場合でも所望のシール面圧を得ることができる。また、シール用ビード部及びストッパー用ビード部の両方に予備荷重を付与するので、荷重変動に対して塑性変形を惹起することなく、所望のシール面圧を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセパレータの製造方法によれば、荷重変動に対して塑性変形を惹起することなく、所望のシール面圧を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1に係る燃料電池セルの断面図である。
【
図2】実施例1に係るセパレータの製造方法のプレス成形工程を示す断面図である。
【
図3】実施例1に係るセパレータの製造方法の予備荷重付与工程の荷重付与前を示す断面図である。
【
図4】実施例1に係るセパレータの製造方法の予備荷重付与工程の荷重付与中を示す断面図である。
【
図5】実施例1の予備変形量とストッパー部の高さとの関係を示すグラフである。
【
図6】実施例2に係るセパレータの製造方法の予備荷重付与工程を示す断面図である。
【
図7】関連技術に係るセパレータを示す断面図である。
【
図8】関連技術に係るセパレータにおいて、予備荷重付与工程を示す模式断面図である。
【
図9】関連技術に係るセパレータにおいて、ビードシール部及びストッパー部の変形量と押付け荷重との関係を示すグラフである。
【
図10】関連技術に係るセパレータにおいて、押付け荷重とビードシール部に発生する線圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示すように、実施形態に係るセパレータの製造方法及びセパレータについて図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、燃料電池セル1は、電解質膜・電極構造体2と、電解質膜・電極構造体2を挟む第1セパレータ3及び第2セパレータ4と、を備えている。
【0017】
第1セパレータ3及び第2セパレータ4は、それぞれ第1金属セパレータ21と、第2金属セパレータ22と、シール部材51,51と、を備えた接合セパレータである。第1金属セパレータ21及び第2金属セパレータ22は、それぞれ凸状を呈するシール用ビード部31と、凸状を呈しシール用ビード部31より突出高さが小さいストッパー用ビード部32と、をそれぞれ有する。第1金属セパレータ21と第2金属セパレータ22とは、シール用ビード部31が突出する側の面とは反対側の面同士が接合されている。
【0018】
第1セパレータ3(第2セパレータ4も同様)のうち、シール用ビード部31,31及びシール部材51,51でビードシール部41が形成されている。また、第1セパレータ3(第2セパレータ4も同様)のうち、ストッパー用ビード部32,32でストッパー部42が形成されている。
【0019】
本実施形態に係るセパレータの製造方法では、ビードシール部41及びストッパー部42の両方に対して予備荷重を付与する。これにより、荷重変動に対して塑性変形を惹起することなく、所望のシール面圧を得ることが可能となる。以下、実施例について詳細に説明する。
【0020】
[実施例1]
燃料電池セル1は、アノード側より供給される水素(燃料ガス)と、カソード側より供給される酸素(酸化剤ガス)との化学反応により発電する部材である。燃料電池スタックは、複数個の燃料電池セル1を積層させ、燃料電池セル1の積層方向に所定の圧縮荷重を付与したものである。
図1では、所定の圧縮荷重を付与した状態の燃料電池セル1を描画している。
【0021】
電解質膜・電極構造体(MEA:Membrane Electrode Assembly)2は、電解質膜11と、電極触媒層12,12と、ガス拡散層13,13とを含んで構成されている。電解質膜11は、ガス拡散層13よりも外側に張り出している。なお、ガス拡散層13よりも外側に張り出す部分は、樹脂フィルム(樹脂枠部材)である場合もある。
【0022】
第1セパレータ3は、電解質膜・電極構造体2の一方側(
図1では下側)に配置される板状部材である。第2セパレータ4は、電解質膜・電極構造体2の他方側(
図1では上側)に配置される板状部材である。第1セパレータ3及び第2セパレータ4は、本実施例では同じ構成になっているため、第2セパレータ4については第1セパレータ3と同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0023】
第1セパレータ3は、シール領域R1を形成するビードシール部41と、ストッパー部42とを有する。ストッパー部42は、スタックされた状態で外乱(温度変化や衝突等)が発生した際にビードシール部41が予め設定された最大圧縮量を超えて変形しないように支持する(外乱による荷重を受ける)部位である。
【0024】
ビードシール部41は、電解質膜11(又は樹脂フィルム)に向けて突出しており、例えば、無端状態となるように燃料電池セル1の外周縁の全周に亘って形成されている。ビードシール部41は、本実施例では1つであるが複数設けてもよい。ビードシール部41は、その延長方向又は先端部に延在方向に沿ってシール部材51を備えている。
【0025】
シール部材51は、弾性材料で形成されており、本実施例では断面矩形のフラットガスケットである。シール部材51は、液体状態の樹脂材料を塗布して形成されている。シール部材51の厚さは適宜設定すればよいが、例えば、50~200μm程度に設定することができる。シール部材51は、弾性を有する材料で形成すればよく、例えば、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、シリコーンゴム(VMQ)、フッ素ゴム(FKM)、ポリイソブチレン(PIB)、SIFEL(登録商標:信越化学工業株式会社)、樹脂等を用いることができる。
【0026】
ストッパー部42は、電解質膜11に向けて突出するとともに電解質膜11に当接するか、若しくはわずかな隙間をあけて対向している。ストッパー部42は、ビードシール部41の延長方向に沿って、直線状又は曲線状に延設されている。
【0027】
シール領域R1は、第1セパレータ3のビードシール部41と、第2セパレータ4のビードシール部41とで電解質膜11を挟持することにより形成されている。シール領域R1によって、燃料ガス、酸化剤ガス等の反応ガスの漏洩を防ぐことができる。対向するビードシール部41が、シール部材51をそれぞれ備えているためシール性を高めることができる。
【0028】
また、第1セパレータ3(第2セパレータ4も同様)のリブ部33,33で反応面・流路部43が形成されている。第1セパレータ3の反応面・流路部43と、第2セパレータ4の反応面・流路部43とで電解質膜・電極構造体2(ガス拡散層13,13)を挟持することにより、反応ガスが流通する反応領域が形成されている。
【0029】
第1セパレータ3及び第2セパレータ4のビードシール部41、ストッパー部42にはいずれも予備荷重が付与されている。予備荷重については後記する。
【0030】
次に、本実施例のセパレータの製造方法について説明する。本実施例のセパレータの製造方法では、プレス成形工程(成形工程)と、接合工程と、予備荷重付与工程と、を行う。
【0031】
プレス成形工程は、
図2に示すように、第1金属セパレータ21及び第2金属セパレータ22をプレス成形する工程である。プレス成形工程では、平板状の厚さ0.03~0.5mm程度の金属薄板(素材)を断面が凸凹形状になるようにプレス成形することにより第1金属セパレータ21及び第2金属セパレータ22を形成する。
【0032】
第1金属セパレータ21は、シール用ビード部31と、ストッパー用ビード部32(本実施例ではシール用ビード部31を挟んで2つずつ)とを備えている。シール用ビード部31及びストッパー用ビード部32はいずれも断面形状が凸状を呈するフルビード形状である。ストッパー用ビード部32の板厚方向の突出高さは、シール用ビード部31よりも小さくなっている。なお、シール用ビード部31及びストッパー用ビード部32の個数、配置はあくまで例示であって、適宜設定すればよい。
【0033】
接合工程は、第1金属セパレータ21と第2金属セパレータ22とを接合するとともに、シール部材51を設置する工程である。
図3に示すように、接合工程では、第1金属セパレータ21と第2金属セパレータ22とを、シール用ビード部31が突出する側の面とは反対側の面同士を接合する。第1金属セパレータ21と第2金属セパレータ22とはロウ付け、かしめ、溶接等で一体化する。さらに、シール用ビード部31,31の延長方向又は先端部にシール部材51,51を設置する。
【0034】
これにより、シール用ビード部31,31と、シール部材51,51とでビードシール部41が形成される。ビードシール部41の内部には中空部が形成されている。また、ストッパー用ビード部32,32でストッパー部42が形成される。ストッパー部42の内部には中空部が形成されている。
【0035】
予備荷重付与工程は、
図3及び
図4に示すように、接合工程で形成された第1金属セパレータ21、第2金属セパレータ22及びシール部材51(以下、「プレス・接合体」とも言う。)に圧盤61,61を用いて予備荷重を付与する工程である。圧盤61は、プレス・接合体に予備荷重を付与する部材である。圧盤61は、プレス・接合体を挟んで一対配置されている。圧盤61は、高強度の金属又は樹脂で形成されており、板状を呈する。圧盤61は、押さえ面62と、凹溝部63とをそれぞれ備えている。押さえ面62は、プレス・接合体のストッパー部42に対向する平坦な面である。
【0036】
凹溝部63は、押さえ面62の中央部に設けられた断面矩形の溝である。凹溝部63の深さは、ビードシール部41及びストッパー部42に付与する予備荷重の大きさに基づいて適宜設定される。つまり、凹溝部63の深さを調整することで、ビードシール部41及びストッパー部42に付与される予備荷重の大きさを制御することができる。凹溝部63の幅は、予備荷重を付与する際に凹溝部63とシール用ビード部31とが干渉しない大きさに設定する。
【0037】
予備荷重工程では、圧盤61の凹溝部63にビードシール部41を収容しつつ、プレス・接合体の両側から圧盤61,61を互いに近接させる。このとき、圧盤61,61からビードシール部41及びストッパー部42の両方に同時に荷重を付与する。予備荷重の大きさは、適宜設定すればよいが、例えば、燃料電池スタックの発電中に積層方向に作用する最大荷重に設定する。所定の予備荷重を付与したら、プレス・接合体から圧盤61を離間させて荷重を解放する。以上の工程により、第1セパレータ3及び第2セパレータ4がそれぞれ形成される。なお、セパレータの製造方法は、前記した工程に限定されるものではない。例えば、各工程の順番や材料は適宜変更してもよい。
【0038】
第1セパレータ3及び第2セパレータ4が形成されたら、組付け工程及び圧縮工程を行って、燃料電池セル1を形成する。組付け工程は、
図1に示すように、電解質膜・電極構造体2(電解質膜11)を、第1セパレータ3と、第2セパレータ4とで挟む工程である。
【0039】
圧縮工程は、
図1に示すように、組み付けられた燃料電池セルを複数個積層させつつ、所定の圧縮荷重を付与して燃料電池スタックを形成する工程である。ビードシール部41同士で所定の荷重で電解質膜11を挟み込むと、シール領域R1が形成される。ストッパー部42と電解質膜11とは当接するか、わずかな隙間をあけて対向する。
【0040】
次に、本実施例の作用効果について説明する。
図5は、実施例1の予備変形量とストッパー部の高さとの関係を示すグラフである。
図5の2本の実線で挟まれた領域はストッパー部42の寸法ばらつき範囲を示している。
図5に示すように、例えば、予備変形量がゼロの場合(予備荷重を付与しない場合)、ストッパー部42の高さのばらつきは大きくなる。この状態でセパレータを形成すると、前記したように荷重変動が生じた場合に所望のシール性が得られないおそれがある。
【0041】
一方、
図5に示すように、本実施例の予備荷重付与工程を終えた後の第1セパレータ3(第2セパレータ4)の高さ寸法を計測したところ、例えば、予備変形量をYT1~YT2とする場合、ストッパー部42の高さのばらつきを小さくすることができた。ビードシール部41に加え、ストッパー部42(ストッパー用ビード部32)にも予備荷重を付与することにより、ストッパー部42の寸法精度を高めることができるため、ストッパー部42の寸法ばらつきに起因するシール機能の低下を防ぐことができる。
【0042】
また、対向するストッパー部42,42によれば、スタックされた状態で外乱が発生した際に、ビードシール部41が予め設定された最大圧縮量を超えて変形しないように支持することができる。これにより、ビードシール部41の線圧を安定させることができるため、所望のシール面圧を安定的に得ることができる。
【0043】
また、凹溝部63を備えた圧盤61,61を用いることで、ビードシール部41及びストッパー部42の両方に予備荷重を容易に付与することができる。また、凹溝部63の深さを調整することで、ビードシール部41に付与する予備荷重に関わらず、ストッパー部42に作用する荷重を容易に制御することができる。換言すると、凹溝部63の深さを調整することで、ビードシール部41及びストッパー部42に作用する荷重(予備変形量)をそれぞれ変化させることができる。具体的には、凹溝部63の部分を入れ子構造とし、圧盤61の母型と入れ子との間にシムを介設して凹溝部63の深さを調整することができる。また、深さの異なる凹溝部63を備えた圧盤61を複数個用意して、これらの圧盤61を適宜入れ替えて調整することができる。
【0044】
また、予備荷重付与工程では、ビードシール部41及びストッパー部42に対して両方同時に予備荷重を付与できるため、ビードシール部41とストッパー部42との段差(高さ寸法の差)を一定にすることができる。
【0045】
例えば、ビードシール部41に予備荷重が付与されていない状態で燃料電池スタックに組み込んで使用すると、運転時の荷重変動により、ビードシール部41に塑性変形が惹起され易い。従って、荷重を加えたときと荷重を加えなかったときで、ビードシール部41は、塑性変形前の荷重特性線とは異なる荷重特性線上に移動する。これにより、所望のシール面圧を維持するための運転範囲が狭小になってしまい、外乱(温度変化や衝突)に耐える広い運転範囲を得ることが困難となる。
【0046】
これに対し、本実施例では、ビードシール部41及びストッパー部42の両方に予備荷重が付与され予め塑性変形されている。このため、ビードシール部41及びストッパー部42は、燃料電池スタックの運転時の荷重変動に起因して塑性変形することがなく、荷重を加えた際と荷重を抜いた際で、同一の荷重特性線上を移動することができる。従って、運転範囲が拡大し、外乱(温度変化や衝突等)に耐え得る広い荷重特性が得られ、所望のシール面圧を確実に得ることが可能になる。
【0047】
また、第1金属セパレータ21及び第2金属セパレータ22を接合した後に予備荷重が付与されるため、当該接合の際の第1金属セパレータ21及び第2金属セパレータ22の変形を矯正することができる。
【0048】
このように、本実施例では、第1セパレータ3及び第2セパレータ4のビードシール部41(シール用ビード部31及びシール部材51)及びストッパー部42(ストッパー用ビード部32)の両方に予備荷重を付与することにより、押付け荷重の変動に対して塑性変形を惹起することなく、相乗的にシール性能を向上させることができる。
【0049】
[実施例2]
次に、実施例2に係るセパレータの製造方法について説明する。本実施例では、実施例1と相違する部分を中心に説明する。
図6に示すように、実施例2では、圧盤61Aと、スペーサー71を用いる点で実施例1と相違する。
【0050】
実施例2の予備荷重付与工程では、圧盤61A及び4つのスペーサー71を準備する。圧盤61Aの押さえ面62は平坦になっている(凹溝部は無い)。スペーサー71,71は、圧盤61Aに固定されるとともに、圧盤61Aの中央部を挟んで両側に一枚ずつ配置される。
【0051】
実施例2の予備荷重付与工程では、ビードシール部41のシール部材51,51を押さえ面62,62にそれぞれ当接せさせつつ、ストッパー部42の両端をスペーサー71,71にそれぞれ当接させる。この状態で、圧盤61A,61Aを近接させて、ビードシール部41及びストッパー部42に予備荷重を付与する。
【0052】
以上説明した実施例2であっても、実施例1と概ね同じ効果を奏することができる。また、実施例2では、スペーサー71の厚さ寸法を調整することで、ビードシール部41及びストッパー部42に作用する荷重を容易に制御することができる。
【0053】
以上のように実施形態及び実施例について説明したが、適宜設計変更が可能である。例えば、前記したストッパー部42は、電解質膜11を挟んで両側に配置されているが、片側のみに配置される領域があってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 燃料電池セル
2 電解質膜・電極構造体
3 第1セパレータ(セパレータ)
4 第2セパレータ(セパレータ)
11 電解質膜(フィルム)
21 第1金属セパレータ
22 第2金属セパレータ
41 ビードシール部
42 ストッパー部
51 シール部材
R1 シール領域