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特許7264813末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための局所作用用フェニトイン
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  • 特許-末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための局所作用用フェニトイン 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための局所作用用フェニトイン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4166 20060101AFI20230418BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20230418BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20230418BHJP
【FI】
A61K31/4166
A61K9/02
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/107
A61K9/12
A61K9/70
A61K47/44
A61P25/00
A61P25/02
A61P29/00
A61P3/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019531112
(86)(22)【出願日】2017-12-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 NL2017050814
(87)【国際公開番号】W WO2018106107
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】2017931
(32)【優先日】2016-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】519203666
【氏名又は名称】トピカル・イノベーションズ・ベー・フェー
(73)【特許権者】
【識別番号】519203677
【氏名又は名称】ヤン・マリウス・ケッペル・ヘッセリンク
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・マリウス・ケッペル・ヘッセリンク
(72)【発明者】
【氏名】ダーフィット・ヨス・コプスキー
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-526889(JP,A)
【文献】国際公開第01/000191(WO,A2)
【文献】特表2015-516452(JP,A)
【文献】特表2008-508339(JP,A)
【文献】編者 松本光雄 他,薬剤学マニュアル,1989年,pp.101-106
【文献】井上太郎,Hansen病患者に生じた皮膚潰瘍に対するフェニトイン外用療法の1例,臨床皮膚科,2009年,Vol.63, No.13,pp.1037-1040, 1058
【文献】Journal of Pain Research,2017年02月,Vol.10,pp.469-473
【文献】Journal of Clinical Anesthesia,2017年02月,Vol.38,pp.154-155
【文献】Pain Management,2017年11月,Vol.7, No.6,pp.537-558
【文献】Journal of Pain & Relief,2017年02月,Vol.6, No.2,1000284 (page 1-5)
【文献】TiPS,1995年,Vol.16, No.9,p.309-316
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性医薬成分としての鎮痛剤と、医薬品として許容される担体と、を含む、末梢神経障害性疼痛の治療に局所使用するための医薬組成物であって、
前記鎮痛剤が、フェニトイン及び/又はその塩、又はそれらの任意の組み合わせから選択され、
前記末梢神経障害性疼痛が、小径線維ニューロパチー、1型及び2型糖尿病性神経障害、慢性特発性軸索性多発神経障害、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、化学療法誘発性多発神経障害、外傷性神経障害、圧迫神経障害及び寛解期感染性神経障害のうちの任意の1つ以上から選択される軽度から中等度の神経原性炎症に起因するものであり、
潰瘍、創傷、病変、及び切り傷を含まない無傷の皮膚に適用される、医薬組成物。
【請求項2】
前記使用が、患者の皮膚を通しての末梢神経障害性疼痛の治療における局所使用である、請求項1に記載の末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物。
【請求項3】
前記使用が、ヒトの治療における使用である、請求項1又は2に記載の末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物。
【請求項4】
前記鎮痛剤が、フェニトイン又はフェニトインナトリウム又はそれらの組み合わせである、請求項1~3のいずれか一項に記載の末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物が、クリーム、ゲル、分散液、エマルション、フォーム、ミスト、洗口剤、ローション、膏薬、軟膏、スプレー、エアゾール、油、プラスター、パッチ、懸濁液、又は座薬から選択される局所使用のための医薬品として許容される担体を含み、好ましくは、局所使用のための医薬品として許容される前記担体は、クリームである、請求項1~のいずれか一項に記載の末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物。
【請求項6】
前記疼痛が、少なくとも、皮膚内の感覚求心性神経、侵害受容器及び前記求心性神経の周辺の組織、における及びその周辺における、限局性の軽度から中等度の末梢神経原性炎症によって引き起こされる、請求項1~のいずれか一項に記載の末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物が、1日に8回~隔日に1回投与される、請求項1~のいずれか一項に記載の末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物が、少なくとも1週間投与される、請求項1~のいずれか一項に記載の末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物。
【請求項9】
前記鎮痛剤の単位用量が、0.0005~2.0グラムである、請求項1~のいずれか一項に記載の末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物が、0.5重量%~20重量%の鎮痛剤を含有し、0.1グラム~4グラムの前記医薬組成物が投与される、請求項1~のいずれか一項に記載の末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物に関する。より具体的には、本発明は末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物に関し、当該末梢神経障害性疼痛は軽度から中等度の末梢神経原性炎症を特徴とし、医薬組成物は局所投与される。更に、本発明は、末梢神経障害性疼痛に罹患している患者の層別化に関し、それと共に、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物の有効性を高める。
【背景技術】
【0002】
疼痛は、神経終末の侵害刺激から生じる。末梢神経障害性疼痛は、末梢神経系由来の神経構造の損傷、例えば、皮膚内の末梢神経終末に対する損傷(例えば侵害受容器由来の損傷)等によって引き起こされる。これらの損傷した神経終末は、刺激の非存在下でインパルスを発生する場合があり、通常の刺激に対して過敏性であり得、かつ/又は残存している局所的炎症刺激によってインパルスが誘導され得る。表皮内の損傷を受けかつ過剰活性である小神経線維は、その数がごくわずかであっても末梢神経障害性疼痛を引き起こすのに十分である。例は、糖尿病性神経障害、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、慢性特発性軸索性多発神経障害、及び化学療法誘発性多発神経障害に起因する末梢神経障害性疼痛である。
【0003】
末梢神経損傷は、最初は、疼痛閾値の低下(アロディニアなどの臨床症状をもたらす)、侵害刺激に対する反応の増大(痛覚過敏)、及び/又は反応持続期間の延長(持続性疼痛)を引き起こす病的状態をもたらす。末梢神経障害性疼痛に罹患している患者は、一般に、抗うつ薬(例えば、アミトリプチリン及びデュロキセチン)又はガバペンチノイド(例えば、ガバペンチン及びプレガバリン)などの経口鎮痛剤で治療される。残念ながら、経口神経障害性疼痛薬は、低反応速度、薬物-薬物相互作用、副作用、並びに忍容性の問題及びコンプライアンスの問題と関係がある。これは全て、神経障害性疼痛の緩和を最適ではないものにする。
【0004】
神経障害性疼痛の治療において最も一般的に使用される2つの局所作用用化合物は、カプサイシン(バニロイド受容体アゴニスト及び反対刺激剤)及びリドカイン(膜安定剤)である。しかしながら、局所カプサイシン0.025%~0.075%並びにカプサイシン8%パッチの両方は、適用によりかなりの頻度で灼熱感を増加させるなどの許容不可能な副作用が誘導されるという欠点を有し、多くの場合、その治療は、この副作用を中和するために局所麻酔薬と組み合わせる必要がある(Jay GW&Barkin RL(2014))。米国特許出願第2014/0141056号及び米国特許出願第2013/0184351号に開示されている局所作用型リドカイン5%パッチは、12時間毎に交換する必要があり、糖尿病性神経障害を有する患者に一般的に見られる創傷、潰瘍、損傷又は炎症を起こした皮膚上で使用することができず、並びにつま先に適用するときには、特に高齢者ではパッチを切断しなければならないため、使用に問題が生じる可能性がある。クリーム及びゲルでリドカイン最大8%の他の局所作用型形態も市販されている(Derry S et al.(2014))。しかしながら、神経障害性疼痛を治療するために局所的にリドカインを使用することを支持する良質のランダム化比較試験によるエビデンスは利用できないものの、いくつかの個別研究は、局所的なリドカインが神経障害性疼痛の緩和に有効であり得ることを示唆していると考えられる(Derry S et al.(2014)。しかしながら、患者と医療専門家とは、神経障害性疼痛に罹患している患者の局所的リドカインに対する反応率、より一般的には、局所的並びに経口的両方での任意の神経障害性疼痛薬に対する反応率が全く不満足なままであるということで意見が一致している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ますます、「神経障害性疼痛」は、不十分な容器概念(container concept)であると感じられる。「神経障害性疼痛」は、様々な病原プロセスを特徴とする異なる病理学的状態の集合である。1つの薬物に、一連の異なる神経障害性疼痛症候群における有効性を期待することは、明らかに現実的ではない。したがって、特定の神経障害性疼痛症候群に罹患している患者に関して個別化された治療戦略を立てることに対しては緊急性の高いニーズが存在する。更に、長期、例えば、数日、数週間、数ヶ月間、数年の間にわたり、1日又は1週間又は1ヶ月当たり数回投与されるときにも、副作用が少なく、又は更により良好には、副作用がない治療選択肢に関する強いニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、末梢神経障害性疼痛の治療、好ましくは軽度から中等度の末梢神経原性炎症を特徴とする末梢神経障害性疼痛症候群の治療を提供する。
【0007】
本発明の第1の態様は、活性医薬成分として鎮痛剤と、医薬品として許容される担体と、を含む医薬組成物に関し、この鎮痛剤は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための、フェニトイン、又はその誘導体、プロドラッグ、立体異性体、及び/又はその塩、又はそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0008】
一実施形態では、本発明の医薬組成物中の医薬品として許容される担体は、局所使用のための医薬品として許容される担体である。
【0009】
一実施形態では、本発明の医薬組成物中の局所使用するための医薬品として許容される担体は、皮膚上で局所使用するための医薬品として許容される担体である。
【0010】
一実施形態では、活性医薬成分として鎮痛剤と、局所使用のための医薬品として許容される担体と、を含む医薬組成物は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬局所組成物であり、当該使用は末梢神経障害性疼痛の治療における局所使用である。
【0011】
一実施形態では、活性医薬成分としての鎮痛剤と、局所使用のための医薬品として許容される担体と、を含む医薬組成物は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬局所組成物であり、当該使用は、末梢神経障害性疼痛の治療において治療されるヒトの無傷皮膚上での局所使用である。
【0012】
一実施形態では、本発明による使用のための医薬組成物は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するためのものであり、末梢神経障害性疼痛は、小径線維ニューロパチー(SFN)、1型及び2型糖尿病性神経障害、慢性特発性軸索性多発神経障害(CIAP)、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、化学療法誘発性多発神経障害(CIPN)、外傷性神経障害及び寛解期感染性神経障害のうちの任意の1つ以上から選択される軽度から中等度の神経原性炎症に起因するものである。
【0013】
一実施形態では、本発明による使用のための医薬組成物は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するためのものであり、末梢神経障害性疼痛は、小径線維ニューロパチー(SFN)、1型及び2型糖尿病性神経障害、慢性特発性軸索性多発神経障害(CIAP)、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、化学療法誘発性多発神経障害(CIPN)、外傷性神経障害、圧迫神経障害及び寛解期感染性神経障害のうちの任意の1つ以上から選択される軽度から中等度の神経原性炎症に起因するものである。
【0014】
本発明の第2の態様は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物の調製方法であって、
a.20℃~95℃で油溶性構成成分を提供し、かつそれとは別に局所使用のための医薬品として許容される担体の水溶性構成成分を用意するステップ、
b.フェニトイン、又はその誘導体、プロドラッグ、立体異性体、及び/又はその塩、又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはフェニトイン又はフェニトインナトリウム、又はそれらの組み合わせから選択される鎮痛剤を用意するステップと、
c.ステップaの20℃~95℃の油溶性構成成分を撹拌することによって混合し、かつそれとは別にステップaの水溶性構成成分を水に溶解することによって水溶液を用意するステップであって、当該水を任意に20℃~95℃に加熱しながらステップaの水溶性構成成分を溶解するステップと、
d.ステップcの混合油溶性構成成分を、ステップcの水溶液と組み合わせ、撹拌することによって混合して、局所使用のための医薬品として許容される担体を用意するステップであって、当該混合油溶性構成成分及び当該水溶液の温度がほぼ同じであり、好ましくは約70℃である、ステップと、
e.5~20分間、好ましくは約20℃にて撹拌しながら、ステップbの選択された鎮痛剤を、ステップdの医薬品として許容される担体に添加することによって、当該選択された鎮痛剤を当該担体と混合するステップと、
f.水溶液のpHを4.0~6.5又は10.0~12.0に任意に調整するステップと、
を含む、方法に関する。
【0015】
本発明の更なる態様は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物を調製する方法であって、
a.局所使用のための医薬品として許容される担体を用意するステップであって、当該医薬品として許容される担体がクリームである、用意するステップと、
b.フェニトイン、又はその誘導体、プロドラッグ、立体異性体、及び/又はその塩、又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはフェニトイン又はフェニトインナトリウム、又はそれらの組み合わせから選択される鎮痛剤を用意するステップと、
c.ステップa及びbの構成成分を、高剪断ミキサーで、15℃~30℃、好ましくは約18℃の温度で、好ましくは前半は500rpm~1000rpmで3分、続いて1000rpm~2000rpmで1~4分、混合するステップと、
d.クリームを室温に冷却させるために、各回の混合の間に8~12分、好ましくは10分の休止時間をあけて、ステップcを1~8回、好ましくは3回繰り返すステップと、
e.水溶液のpHを4.0~6.5又は10.0~12.0に任意に調整するステップと、
を含む、方法に関する。
【0016】
一実施形態では、本発明による方法では、医薬組成物は医薬局所組成物であり、当該使用は末梢神経障害性疼痛の治療における局所使用である。
【0017】
一実施形態では、本発明による方法では、医薬組成物は医薬局所組成物であり、当該使用は、末梢神経障害性疼痛の治療における治療されるヒトの無傷皮膚上での局所使用である。
【0018】
本発明の第3の態様は、本発明の方法によって得ることができる医薬組成物に関する。
【0019】
一実施形態では、本発明の方法によって得ることができる医薬組成物は、フェニトイン、又はその誘導体、プロドラッグ、立体異性体、及び/又はその塩、又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはフェニトイン又はフェニトインナトリウム、又はそれらの組み合わせから選択される鎮痛剤を3重量%~15重量%含有する。
【0020】
一実施形態では、本発明の方法によって得ることができる医薬組成物は、フェニトイン、又はその誘導体、プロドラッグ、立体異性体、及び/又はその塩、又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはフェニトイン又はフェニトインナトリウム、又はそれらの組み合わせから選択される鎮痛剤を3重量%~20重量%含有する。
【0021】
本発明の第4の態様は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物に関し、医薬組成物は本発明の方法によって提供されるか、又は医薬組成物は本発明の組成物である。
【0022】
定義
別段の定義がされていない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が関係する技術分野の当業者によって通常理解されているものと同じ従来の意味を有する。
【0023】
用語「構成成分」は、その従来の意味を有し、ここでは、例えば局所使用のための例えば医薬品として許容される担体の構成要素又は同様に成分を指す。
【0024】
本明細書で使用するとき、「含む(comprising)」又は「含む(comprises)」という用語は、その従来の意味を有し、ここでは、それ以降に列挙されるものが非包括的なものであること、並びに必要に応じて任意の他の追加の好適な項目、例えば、1つ以上の更なる特徴(複数可)、構成要素(複数可)、及び/又は成分(複数可)を含むことができること、又は含むことができないこと、を意味している。
【0025】
本明細書で使用するとき、「およそ(approximately)」という用語は、その従来の意味を有し、ここでは、当業者が許容差を得る方法を知っているある特定の許容差内で特定の効果又は結果が得られることを意味し、またここでは、最終結果が著しく変化しないように、識別されたパラメータ値の妥当な量の許容偏差を示す。この妥当な量の偏差は、この偏差が最終結果を否定しない限り、識別されたパラメータ値の少なくとも±5%の偏差を含むと解釈するべきである。
【0026】
本明細書で使用するとき、「約(about)」という用語は、その従来の意味を有し、ここでは、ある特定の効果又は結果を、当業者が許容差を得る方法を知っているある特定の許容差内で得ることができる、ことを意味している。
【0027】
「混合した(mixed)」、「混合する(mix)」、「混合している(mixing)」などと組み合わせた「低温(cold)」という用語は、2つ以上の生成物、構成成分、添加物などを混合するステップの開始時の初期温度を指す。ここで、低温という用語は、したがって、15℃~30℃、好ましくは15℃~25℃の温度、例えば約18℃の室温、周囲温度を指す。
【0028】
本明細書で使用するとき、「末梢神経障害性疼痛」という用語は、その従来の意味を有し、ここでは、末梢体性感覚系に影響を及ぼす病変又は疾患の直接的又は間接的な結果として生じる疼痛として定義される。本明細書で使用される末梢神経障害性疼痛とは、例えば、アルコールなどの様々な有害物質によって誘発される1型及び2型末梢神経糖尿病性神経障害によって引き起こされる、ビタミンB1、B6及び/又はB12欠乏症などの様々な欠乏症、ビタミンB6過剰症などの様々な中毒によって引き起こされる、甲状腺機能低下症、化学療法誘発性多発神経障害(CIPN)(例えばパクリタキセル又は他のタキサン誘導体、ビンクリスチン又は他のビンカアルカロイド、シスプラチン又は他の白金誘導体による)、薬物誘発性神経障害、感染症治療用化合物(例えばストレプトマイシン、ジダノシン又はザルシタビン)によって引き起こされる、又は任意の他の化学的に有毒な化合物によって引き起こされる、全てのタイプの末梢神経障害性疼痛を含む。末梢神経障害性疼痛を引き起こし得る他の末梢神経障害としては、次のものが挙げられる、すなわち、小径線維ニューロパチー(SFN)、遺伝性運動神経障害及び感覚神経障害(HMSN)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、三叉神経痛、ヘルペス後神経痛、肋間神経痛、絞扼性神経障害(例えば手根管症候群、足根管症候群、腹部皮神経絞扼性症候群)、坐骨神経痛、慢性特発性軸索性多発神経障害(CIAP)、外陰痛、直腸肛門周囲痛、感染症状態に起因する神経障害、例えばポリオ後症候群、AIDS又はHIV関連、ライム病関連、シェーグレン症候群関連、リンパ腫性神経障害、骨髄腫性神経障害、癌性ニューロパチー、血管炎性/虚血性神経障害、並びに他の単神経障害及び多発神経障害が挙げられる。
【0029】
本明細書で使用するとき、「神経原性炎症」という用語は、その従来の意味を有し、ここでは、求心性ニューロンによって産生されるか、又はこれらの求心性ニューロンに密接に接触している組織によって産生される、炎症性メディエータの局所放出から生じる炎症として定義される。
【0030】
本明細書で使用される「表皮用製剤(epidermal formulation)」という用語は、表皮用製剤の局所投与とは異なる投与経路と比較したときに、活性医薬成分が血漿中で検出可能でないか、又は血漿中でより少ない程度で検出可能な局所製剤を指す。
【0031】
本明細書で使用するとき、「個別化医療」という用語は、その従来の意味を有し、ここでは、患者に関し予測される反応又は疾患リスクに基づき個々の患者に適合するように調整される医療的な判断、医療行為、医療介入、及び/又は医薬関連品によって、患者を異なる群に分ける医学技法である。
【0032】
本明細書で使用されるとき、「治療的(ex juvantibus)」という用語はその慣用の意味を有し、本明細書では、医学的文脈において、治療に対する疾患について観察された反応から疾患の因果関係について推論するプロセスを指す。
【0033】
本明細書で使用するとき、「治療」という用語は、その従来の意味を有し、ここでは、最も広い文脈で考慮されるべきである。「治療」という用語は、望ましくない状態を緩和する本発明による活性化合物の局所投与、及び状態の程度又は症状を排除又は軽減するための治療的投与を包含することを意図している。治療は、対象が完全に回復するまで処置されることを必ずしも意味しない。
【0034】
本明細書で使用するとき、「鎮痛剤」という用語は、その従来の意味を有し、ここでは、化合物、薬剤、薬物、又はその最も広い文脈において痛みを軽減する物質を指す。
【0035】
本明細書で使用される「局所製剤」という用語は、その従来の意味を有し、ここでは、治療効果のある化合物が皮膚内及び/又は皮膚を通って浸透することを目的として皮膚又は粘膜に適用することができる製剤を指す。
【0036】
本明細書で使用するとき、「その誘導体、プロドラッグ、立体異性体及び/又はその塩」は、その従来の意味を有し、ここでは、対象への投与時に、関連する活性化合物又はその代謝産物又は残基を(直接的又は間接的に)提供することができる、任意の医薬品として許容される互変異性体、塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、代謝産物又は他の化合物を指す。
【0037】
本明細書で使用するとき、「溶媒和物」という用語は、その従来の意味を有し、ここでは、溶質(例えば、活性化合物、活性化合物の塩)と溶媒との錯体を指す。
【0038】
本明細書で使用するとき、「誘導体」という用語は、その従来の意味を有し、ここでは、化学反応によって同様の化合物から誘導される化合物を指す。誘導体としては、エステル、アミド及びこれらの薬剤のプロトン化形態が挙げられる。フェニトインの誘導体は、当該技術分野において既知であり、例えば、フェニトイン-3-ヒスチジン(IUPAC名(S)-3-(2-アミノ-3-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパノイル)-5,5-ジフェニルイミダゾリジン-2,4-ジオン)、例えば米国特許第5,306,617号に開示されているようなフェニトイン誘導体、フェニトインとチオセミカルバジドとのハイブリッド、1,3,4-オキサジアゾール、1,3,4-チアジアゾール又は1,2,4-トリアゾールが挙げられ、また、ジフェニルメタン、5-フェニルヒダントイン、フェニルイミダゾリジン、α-アミノ酸又は誘導体、5-一置換ヒダントイン、N-アシル尿素、ウレイド、単環式ベンゼン部分、ベンゼノイド、ジカルボキシイミド、炭酸誘導体、カルボン酸誘導体、アザシクロ、炭化水素誘導体、有機酸化物、オルガノ酸素化合物、オルガノ窒素化合物、オルガノピニクトゲン化合物、有機酸素化合物、カルボニル基、有機窒素化合物及び芳香族ヘテロ単環式化合物(当業者によって知られている少数のフェニトイン誘導体を命名するために、例えばwww.drugbank.ca/drugs/DB00252参照を参照されたい)からなる群から選択される置換基の任意の1つ以上を有するフェニトインが挙げられる。
【0039】
本明細書で使用するとき、「プロドラッグ」という用語は、その従来の意味を有し、ここでは、その最も広い意味において、(例えば、酵素的又は加水分解的分解によって)対象の化合物へとin vivoで変換することができる化合物を含むことを意味している。その例としては、エステル、例えばヒドロキシル基又はチオール基のアセテート、並びにホスフェート及びスルホネートが挙げられる。ヒドロキシル基又はチオール基をアシル化するためのプロセスは、例えば、アルコール(ヒドロキシル基)又はチオール基をカルボン酸と反応させることによるプロセスであり、当業界において知られている。
【0040】
本明細書で使用するとき、「フェニトイン」及び「5,5-ジフェニルイミダゾリジン誘導体」という用語は、その従来の意味を有し、ここでは、フェニトイン、ホスフェニトイン、ヒドロキシフェニトイン、5-(3-ヒドロキシフェニル)-5-フェニルヒダントイン、5-フェニル-5-(4-ヒドロキシフェニル)ヒダントイングルクロニド、ロピトイン、ロピトインヒドロクロリド、5-(2-ヒドロキシフェニル)-5-フェニルヒダントイン、5-(3,4-ジヒドロキシ-1,5-シクロヘキサジエン-1-イル)-5-フェニルヒダントイン、N-アミノジフェニルヒダントイン、5-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-5-フェニルヒダントイン、PC-796、5-p-メチルフェニル-5-フェニルヒダントイン、1-アセチル-3-アセトキシ-5’,5-ジフェニルヒダントイン、3-ヒドロキシメチルフェニトインN,N-ジメチルグリシンエステル、3-(ヒドロキシメチル)フェニトインN,N-ジメチルアミノエチルカーボネート、5-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-5-フェニルヒダントイン、3-ペンタノイル-5,5-ジフェニルヒダントイン、3-(2-プロピルペンタノイル)-5,5-ジフェニルヒダントイン、5,5-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヒダントイン、3-(ヒドロキシメチル)フェニトイン、フェニトインジヒドロジオール、4-アミノフェニトイン、N,N-ジクロロフェニトイン、ジフェニルチオヒダントイン、ジフェニルヒダントイン-3-フェニルトリカルボニルクロムエチルアセテート、5,5-ジフェニルヒダントイン-3-バレレート-ウシ血清アルブミン、フェニトイン-1-メチルニコチニネート、2-シアノグアニジノフェニトイン、フェニトイン-ビス-ヒドロキシイソブチレート、N-アセチルフェニトイン、ジフェニルヒダントイン酸、N’-3-オキシメチルグルクロニドフェニトイン、ジフェニルヒダンチル、5-(4’-フルオロフェニル)-5-フェニルヒダントイン、アズモレン、5,5-ビス(4-トリフルオロメチルフェニル)ヒダントイン、5,5-ビス(4-メチルフェニル)ヒダントイン、5,5-ビス(4-メトキシフェニル)ヒダントイン、5-(4-メトキシフェニル)-5-フェニルヒダントイン、及び5-(4-ジメチルアミノフェニル)-5-フェニルヒダントイン、及び他の5,5-ジフェニルイミダゾリジン、又はその誘導体、プロドラッグ、立体異性体、及び/又はその塩を指す。
【0041】
末梢神経障害性疼痛における末梢神経原性炎症の評価
神経原性炎症は、ある特定の患者群における神経障害性疼痛及び痛覚過敏を理解するためのモデル及び足がかりと考えられている。末梢神経損傷は、炎症誘発性インターロイキン(IL)(例えばIL-1β)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、ブラジキニン、サブスタンスP、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、神経成長因子及びプロスタグランジンなどの多くのオータコイドを含む多くの炎症誘発性メディエータの放出を引き起こし、「炎症性スープ(inflammatory soup)」に関与し(Ellis A&Bennett DL,2013)、細胞の酸化的/ニトロソ化ストレスを誘発し、それは更に神経損傷を促進する(Vincent AM et al.,2013)。例えば、小径線維ニューロパチー(SFN)では、皮膚内の炎症誘発性サイトカインは、健康な対照と比較してかなり高い(例えばIL-6:7倍、IL-8:5倍)(Uceyler N et al.,2010)。更に、炎症性神経障害の患者は、TNF-α及びIL-2レベルなどの神経炎症マーカーがはるかに高レベルであることから、軽度から中等度の末梢神経原性炎症(例えばCIAP及びSFN)の患者と区別することができる(Uceyler N et al.,2007)。この区別に合致して、抗炎症性サイトカインIL-10遺伝子発現が、非炎症性神経障害よりも炎症性神経障害において有意に低いことが判明している(Uceyler N et al.,2015)などの多くの裏付けとなる詳細に注目することができる。また、遺伝性神経障害は、炎症性神経障害よりも炎症性細胞及びメディエータのレベルが有意に低い(Rajabally YA et al.,2016)。
【0042】
中等度から重度の末梢神経原性炎症は重篤な身体障害病理をもたらす可能性があり、軽度から中等度の末梢神経原性炎症とは異なる方法で治療するべきである。中等度から重度の末梢神経原性炎症の一般的な有効治療としては、コルチコステロイド、免疫グロブリン静注(IVIGs)、血漿交換、及び他の免疫抑制薬が挙げられる(Callaghan BC et al.,2015)。
【0043】
末梢神経障害性疼痛患者を分類するために、3つのグレードの末梢神経原性炎症、すなわち、なしから軽度(A群)、軽度から中等度(B群)及び中等度から重度(C群)の末梢神経原性炎症が定義されている。軽度から中等度の末梢神経原性炎症は、小径線維ニューロパチー、糖尿病性神経障害、慢性特発性軸索性多発神経障害、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、化学療法誘発性多発神経障害、外傷性神経障害、及び寛解期感染性神経障害などの疾患に見られる。更に、軽度から中等度の末梢神経原性炎症は圧迫神経障害において見られる。
【0044】
末梢神経障害性疼痛症候群に罹患している患者は、末梢神経原性炎症のグレードに関してA群、B群及びC群の3群に分けられる。末梢神経原性炎症のグレードに基づいて患者集団全体を群に分けることにより、適用されるべき治療に関して患者を層別化することができる。患者の層別化に関連する本発明に関して、これらの3つの区別可能な患者群は、以下のグレードとして定義される。
【0045】
A群:なしから軽度の末梢神経原性炎症
有意な炎症性構成要素を伴わない遺伝性神経障害(例えば、合併症のない遺伝性運動及び感覚神経障害(HMSN)、中毒性神経障害、例えばアルコール性神経障害、薬物関連神経障害、及び重金属又は有機化学物質(ジエチレングリコール、ヒ素)に起因する神経障害、ビタミン欠乏に起因する軸索長依存性感覚運動末梢神経障害(length-dependent sensorimotor axonal peripheral neuropathies)、例えばビタミンB12欠乏症関連多発神経障害、及び非炎症性代謝誘発性神経障害、例えば甲状腺機能低下症関連多発神経障害)。
【0046】
B群:軽度から中等度の末梢神経原性炎症
SFN、1型及び2型糖尿病性神経障害、CIAP、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、CIPN、外傷性神経障害、及び寛解期感染性神経障害。
【0047】
更に、圧迫性神経障害に罹患している患者は、B群のグレード、すなわち軽度から中等度末梢神経原性炎症にも属する。
【0048】
C群:中等度から重度の末梢神経原性炎症
シェーグレン病によって引き起こされる自己免疫性神経障害、急性及び亜急性炎症性脱髄性多発神経障害、慢性炎症性脱髄性多発神経根神経障害、血管炎性神経障害、術後炎症性神経障害、Guillain-Barre-Landy-Strohl症候群、多巣性後天性脱髄性感覚及び運動神経障害、家族性アミロイド多発神経障害、及び増悪中の感染性神経障害。
【0049】
用語「指先ユニット」又はその略語「FTU」は、その通常の科学的意味を有し、本明細書全体を通して、FTUは鎮痛剤クリームを投与するための実用的補助を指す。FTUとは、遠位指節間しわから指先まで搾り出されるクリームの量である(図1を参照されたい)。直径6mmの円形開口部を有するチューブからのクリームのストリークはおよそ0.6グラムであり、直径5mmの開口部を有するチューブからのクリームのストリークはおよそ0.5グラムである。一般に、成人の片足には約0.8FTUクリームが必要であり、片手には約0.5FTUクリームが必要である。比較的柔軟な投与(例えば、薬物を含有するある特定のクリーム約0.5グラム~0.6グラムに含まれる薬物の量、すなわちFTU中の薬物の量)により、皮膚への薬物の投与が可能であるが、これは、活性化合物(複数可)が任意の検出可能な全身濃度に達することは、皮膚にクリームで薬物を局所的に適用することによる薬物の投与の目的ではないからである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】「指先ユニット」(FTU)と呼称され、鎮痛剤クリームを投与するための実用的な補助として使用される遠位指節間のしわから指の端まで絞られた、クリーム量の例である
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明者らは、特定の神経障害性疼痛症候群に罹患している患者に関する個別化治療戦略、すなわち治療難治性神経障害性疼痛に罹患している患者の層別化を提供する。本発明者らは、驚くべきことに、末梢神経障害性疼痛症候群におけるフェニトイン及びフェニトインナトリウムの現在発見されている鎮痛効果に関連して、本発明の局所フェニトイン製剤及びフェニトインナトリウム製剤に関する全く新規な適用分野を確認した。本発明者らは、驚くべきことに、特異的かつ同定可能な末梢神経障害性疼痛症候群に罹患している患者のサブ集団が、フェニトインと、任意に本発明による皮膚浸透促進剤と、を含有するクリーム形態での局所治療に対して完全に反応することを見出した。これらの臨床所見に基づいて、本発明者らは、療法に反応するこれらの患者間の共通因子は、皮膚内の感覚求心性神経、侵害受容器及びこれらの求心性神経周辺の組織、における及びその周辺における、限局性の軽度から中等度の末梢神経原性炎症に関連する疼痛に罹患していることである、と判定した。更に、これらの臨床所見に基づいて、本発明者らは、療法に反応するこれらの患者間の共通因子は、皮膚内の感覚求心性神経、侵害受容器及びこれらの求心性神経周辺の組織、における及びその周辺における、軽度から中等度の末梢神経原性炎症に関連する疼痛に罹患していることである、とも判定した。
【0052】
したがって、本発明者らは、病理学的経路が皮膚の表皮部分に位置する可能性がある皮膚の感覚求心性神経において及びその周辺で増加するそのような疼痛の治療問題を解決することを望んでいた。本発明者らは驚くべきことに、局所投与したフェニトインは血液へと浸透せず、また、フェニトインの血中レベルを検出できなかったことから、局所投与フェニトインは当該製剤において全身性副作用を引き起こさずに実際に末梢神経障害性疼痛を軽減することを見出した。もちろん、皮膚内の感覚求心性神経における及びその周辺における疼痛に関連するかかる病原性経路の部分もまた、皮膚の表皮部分に位置し得ることは当業者によって理解される。本発明のフェニトイン10%クリームの適用後に16名の患者で測定したとき、本発明の当該フェニトイン製剤は、本発明の医薬組成物で治療された患者の血漿において検出可能なフェニトイン濃度に達しなかった。6.7グラムのフェニトイン10%クリーム(670mgのフェニトイン)を、1日1回、25日間適用後、最後の適用から2.5時間後の1名の患者の血液サンプリングにおいても、血漿中に検出可能なフェニトインは測定されなかった。このように血中に医薬成分フェニトインが存在しないことは、他の局所鎮痛製剤、例えば、1.3%パッチ中鎮痛剤ジクロフェナクエポラミン(180mg)を含有する製剤、リドカイン、アミトリプチリン、ケタミン及びドキセピンのクリームとは明らかに対照的である。更なる詳細については、下記の実施例セクションを参照されたい。末梢神経障害性疼痛に罹患している68名の患者を本発明の医薬組成物で治療し、その治療の結果を、個々の患者それぞれへの本発明の医薬組成物の投与の開始に応じて数週間から数年間追跡し記録した。
【0053】
例えば、ジクロフェナクエポラミン1.3%パッチの局所製剤は、筋肉において活性薬物レベルに達するように設計される。ヒトの皮膚及び豚の皮膚上へのパッチの適用は、測定可能な治療血漿レベル(約1.8ng/mLの平均ピーク濃度及び約6.1ng/mLの最大測定濃度)をもたらした[Petersen&Rovati,2009;TSE S.et al.,2012]。このジクロフェナクエポラミン1.3%製剤は、パッチ適用部位下の筋肉中において、経口投与後の対応する組織レベルと同等のジクロフェナク濃度に達した(局所投与後879ng/mL及び経口投与後1160ng/mLのCmax値)[Tse S.et al.,2012]。また、ドキセピン5%クリームは、最大47ng/mLのドキセピンの血漿濃度を示し、19名の患者で平均10.8ng/mLであった[Keskin G.et al.,1999]。同様のことが、多くの他の鎮痛剤についても当てはまる[Glinn MA.et al.,2017]。
【0054】
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、皮膚内のこれらの病原性経路は、末梢神経損傷の後及び/又は局所的な表皮内又は表皮下病変の後に、疼痛の慢性化をもたらす炎症プロセスによって、少なくとも影響を受けており、おそらく支配されてさえもいる、と仮定している。少数の過活動異常小神経線維などのように皮膚において分散している病変でさえも、末梢神経障害性疼痛を引き起し得る。
【0055】
本発明の第1の態様は、活性医薬成分として鎮痛剤と、医薬品として許容される担体と、を含む医薬組成物に関し、この鎮痛剤は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための、フェニトイン、又はその誘導体、プロドラッグ、立体異性体、及び/又はその塩、又はそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0056】
一実施形態では、本発明の医薬組成物中の医薬品として許容される担体は、局所使用のための医薬品として許容される担体である。
【0057】
一実施形態では、本発明の医薬組成物における局所使用のための医薬品として許容される担体は、皮膚上の局所使用のための医薬品として許容される担体である。
【0058】
一実施形態では、活性医薬成分として鎮痛剤と、局所使用のための医薬品として許容される担体などの医薬品として許容される担体と、を含む医薬組成物は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬局所組成物であり、当該使用は末梢神経障害性疼痛の治療における局所使用である。
【0059】
一実施形態では、活性医薬成分としての鎮痛剤と、局所使用のための医薬品として許容される担体と、を含む医薬組成物は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬局所組成物であり、当該使用は、末梢神経障害性疼痛の治療において治療されるヒトの無傷皮膚上での局所使用である。
【0060】
一実施形態では、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物は、患者の皮膚を通しての末梢神経障害性疼痛の治療における局所使用のためのものである。
【0061】
一実施形態では、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物は、ヒトの治療において使用するためのものである。
【0062】
一実施形態では、活性医薬成分としての鎮痛剤と、局所使用のための医薬品として許容される担体と、を含む医薬組成物は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬局所組成物であり、当該使用は、末梢神経障害性疼痛の治療において治療されるヒトの健康な無傷の皮膚上での局所使用である。ここで、無傷の皮膚及び健常な無傷の皮膚は、それらの一般的な科学的意味を有し、ここでは、例えば潰瘍、創傷、病変、切り傷を含まない非損傷皮膚を指し、また表皮の閉鎖された外層を含む皮膚を指す。
【0063】
本発明の更なる態様は、活性医薬成分として鎮痛剤と、医薬品として許容される担体と、を含む医薬組成物に関し、この鎮痛剤は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための、フェニトイン、又はその誘導体、プロドラッグ、立体異性体、及び/又はその塩、又はそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0064】
本発明のなお更なる態様は、局所使用のための活性医薬成分として鎮痛剤と、医薬品として許容される担体と、を含む医薬組成物に関し、この鎮痛剤は、ヒト患者の末梢神経障害性疼痛の治療において皮膚上で局所使用するための、フェニトイン、又はその誘導体、プロドラッグ、立体異性体、及び/又はその塩、又はそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0065】
一実施形態では、本発明による使用のための医薬組成物は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するためのものであり、末梢神経障害性疼痛は、SFN、1型及び2型糖尿病性神経障害、CIAP、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、CIPN、外傷性神経障害及び寛解期感染性神経障害のうちの任意の1つ以上から選択される軽度から中等度の神経原性炎症に起因するものである。一実施形態では、本発明による使用のための医薬組成物は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するためのものであり、末梢神経障害性疼痛は、SFN、1型及び2型糖尿病性神経障害、CIAP、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、CIPN、外傷性神経障害、圧迫神経障害及び寛解期感染性神経障害のうちの任意の1つ以上から選択される軽度から中等度の神経原性炎症に起因するものである。本発明者らは、本発明の医薬組成物の使用が末梢神経障害性疼痛に罹患している患者にとって特に有益であることを見出した。当該末梢神経障害性疼痛は、SFN、1型及び2型糖尿病性神経障害、CIAP、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、CIPN、外傷性神経障害及び寛解期感染性神経障害のうちの任意の1つ以上から選択される軽度から中等度の神経原性炎症に起因するものである。更に、本発明者らは、本発明の医薬組成物の使用は、圧迫神経障害に罹患している患者にとって特に有益であることを見出した。多数の事例研究(下記実施例セクションを参照されたい)において、本発明の医薬組成物は、少なくとも末梢神経障害性疼痛に罹患している患者に投与されたときに有効かつ効果的であることが証明された。当該末梢神経障害性疼痛は、SFN、1型及び2型糖尿病性神経障害、CIAP、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、CIPN、外傷性神経障害、圧迫神経障害及び寛解期感染性神経障害のうちの任意の1つ以上から選択される軽度から中等度の神経原性炎症に起因するものである。以下の表11~13も参照されたい。
【0066】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための本発明による医薬組成物であり、鎮痛剤は、フェニトイン又はフェニトインナトリム又はそれらの組み合わせである。
【0067】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための本発明による医薬組成物であり、その医薬組成物は、クリーム、ゲル、分散液、エマルション、フォーム、ミスト、洗口剤、ローション、膏薬、軟膏、スプレー、エアゾール、油、プラスター、パッチ、懸濁液、又は座薬から選択される局所使用のための医薬品として許容される担体を含み、好ましくは、局所使用のための医薬品として許容される担体は、クリームである。
【0068】
「治療的」アプローチにより、本発明者らは驚くべきことに、本発明の局所フェニトインクリームが、軽度から中等度の末梢神経原性炎症、例えばSFN、1型及び2型糖尿病性神経障害、CIAP、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、CIPN、及び外傷性神経障害などを特徴とする末梢神経障害性疼痛症候群において非常に効果的に神経障害性疼痛を軽減することを見出した。本発明の局所フェニトインクリームは、フェニトイン又はフェニトインナトリウムと、デシリスオレアス(decylis oleas)、マクロゴールセトステアリルエーテル、又はセトステアリルアルコールなどの1つ以上の皮膚浸透促進剤との両方を含有する。更に、「治療的」アプローチにより、本発明者らは、驚くべきことに、本発明の局所フェニトインクリームが、軽度から中等度の末梢神経原性炎症、例えば圧迫神経障害、及び寛解期感染性神経障害を特徴とする末梢神経障害性疼痛症候群において非常に効果的に神経障害性疼痛を軽減することを見出した。
【0069】
理論に拘束されることを望むものではないが、フェニトイン、フェニトインナトリウム、及びそれらの誘導体、プロドラッグ、立体異性体、並びにそれらの更なる塩、特に、フェニトイン及びフェニトインナトリウムは、皮膚、例えばヒトの皮膚、例えば無傷の皮膚への浸透に特に好適な特性を有する。すなわち、500ダルトンよりも小さい分子は、皮膚の角質層に浸透することができることは、普通の一般的知識である。角質層バリアは、水溶性化合物よりも、脂溶性分子の浸透をより容易に許す。水溶性分子は、汗腺や毛包の開口部などの別の経路で浸透し得る[Bos et al.]。本発明の記載される医薬製剤で使用される全ての活性医薬成分(API)は500ダルトンより小さい分子量を有する。したがって、理論に拘束されることを望むものではないが、これらの言及したAPIには、皮膚の角質層に浸透させ、次の皮膚層、すなわち顆粒層に存在する神経終末に到達させることを目的とした皮膚浸透促進剤は必要ない。クリーム中のより親水性のフェニトインナトリウムは、フェニトインクリームと同じ治療効果を有するため(下記の実施例セクションの症例9を参照されたい)、これらの化合物の親油性及び親水性は、(ヒトの)皮膚に浸透するそれらの能力に関して、500ダルトンより小さいこれらの分子の制限因子ではない。
【0070】
浸透戦略は、正のlogP(オクタノールと水との間の分配係数)を有する分子及び500ダルトンより小さい分子には意味がないように思われる[Korinthet al.,Boset al.]。例えば、マウスの皮膚に局所適用された10%アミトリプチリンHCl水溶液(合計2mgのアミトリプチリン)では、肺において有効な経皮吸収が生じ、最も多量にアミトリプチリンが検出された[Baily]。別の例:浸透増強技術(ナノ構造化脂質担体又はナノエトソーム中へのリドカイン)と対照(ヒドロアルコール性リドカイン溶液)とを比較した透過リドカインの累積百分率は統計的有意性に達しなかった[Babaei et al.]。以下の表17には、一連の例示的な化合物の概要が提供されており、当該化合物は、皮膚への浸透能が知られている。
【0071】
実際に、以下の表16及び症例1~14を参照すると、1つ以上の皮膚浸透促進剤を含むか、又は皮膚浸透促進剤を含まない本発明の医薬組成物は、本発明に従って、当該医薬組成物をヒト患者の皮膚上に局所投与した後に患者において末梢神経障害性疼痛を軽減するのに比較的有効かつ効果的である、ことは明らかである。
【0072】
本発明に基づいて、本明細書で提示される本発明による個別化医療の原理に従って、全患者集団の個別化された患者サブグループを最適に対象とし、提供するために、本発明者らは、末梢神経原性炎症のグレードに応じて、末梢神経障害性疼痛症候群に罹患している患者の3つの群を区別することができた。患者の3つの識別可能な群のそれぞれの特徴は、上掲「定義」の下に提供されている。
【0073】
一般にA群による疾患グレードを特徴とする患者の場合、現在の処置では、神経障害性疼痛治療は、抗てんかん薬及び抗うつ薬などの古典的な神経障害性疼痛鎮痛剤群による治療からなる。
【0074】
一般にB群による疾患グレードを特徴とする患者の場合、現在の処置では、神経障害性疼痛治療は、抗てんかん薬及び抗うつ薬などの古典的な神経障害性疼痛鎮痛剤群、並びに高用量のカプサイシンパッチ及びリドカインパッチなどの局所治療からなる。
【0075】
一般にC群による疾患グレードを特徴とする患者の場合、現在の処置では、神経障害性疼痛治療は、抗てんかん薬及び抗うつ薬などの古典的な神経障害性疼痛鎮痛剤群からなる。基礎疾患を標的にするため、有効な治療は、一般に、例えばコルチコステロイド、静脈内免疫グロブリン、血漿交換、及び他の免疫抑制薬から選択される。
【0076】
本発明に基づいて、理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、本発明による局所フェニトインを使用した治療に対する反応者の群における徴候及び症状のほとんどは、(軽度から中等度の)末梢神経原性炎症のプロセスを介して誘発されると仮定している。個別化医療に関する最近の見識に照らして、療法(すなわち、フェニトイン及び本発明による少なくとも1つの皮膚浸透促進剤を使用した局所治療モダリティ)と、患者が罹患している疾患の病因との間に最適な適合が確保されるように、新規な治療モダリティを使用して患者集団を標的とすることが推奨される。局所フェニトイン反応者が、特に、軽度から中等度の末梢神経原性炎症を特徴とする患者群に存在するという本発明の驚くべき所見は、末梢神経障害性疼痛治療のこの分野における個別化医療に対する前例のない重要な貢献を提供する。
【0077】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための本発明による医薬組成物であり、その末梢神経障害性疼痛は、SFN、1型及び2型糖尿病性神経障害、CIAP、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、CIPN、外傷性神経障害、及び寛解期感染性神経障害、又はそれらの組み合わせから選択される。
【0078】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための本発明による医薬組成物であり、その末梢神経障害性疼痛は、SFN、1型及び2型糖尿病性神経障害、CIAP、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、CIPN、外傷性神経障害、圧迫神経障害、及び寛解期感染性神経障害、又はそれらの組み合わせから選択される。
【0079】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための本発明による医薬組成物であり、末梢神経障害性疼痛は、軽度から中等度である。
【0080】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための本発明による医薬組成物であり、その疼痛は、少なくとも、皮膚内の感覚求心性神経内及び/又はその周囲における、並びに/又は侵害受容器及び/又は当該求心性神経の周囲の組織における、限局性の軽度から中等度の末梢神経原性炎症によって引き起こされる。
【0081】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための本発明による医薬組成物であり、その疼痛は、少なくとも、皮膚内の感覚求心性神経、侵害受容器及び当該求心性神経の周辺の組織、における及びその周辺における、限局性の軽度から中等度の末梢神経原性炎症によって引き起こされる。
【0082】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための本発明による医薬組成物であり、その疼痛は、少なくとも、皮膚内の感覚求心性神経、侵害受容器及び当該求心性神経の周辺の組織、における及びその周辺における、軽度から中等度の末梢神経原性炎症によって引き起こされる。
【0083】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための本発明による医薬組成物であり、その疼痛は、少なくとも、皮膚内の感覚求心性神経内及び/又はその周囲における、並びに/又は侵害受容器及び/又は当該求心性神経の周囲の組織における、軽度から中等度の末梢神経原性炎症によって引き起こされる。
【0084】
フェニトインは、一般に、抗痙攣薬の第1世代の代表として知られている。当該化合物は1908年に最初に合成された。フェニトインのIUPAC名は、5,5-ジフェニルイミダゾリジン-2,4-ジオンであり、フェニトインはまた、ジフェニルヒダントイン及び5,5-ジフェニル-2,4-イミダゾリジンジオンとも呼ばれ、フェニトインのいくつかの商品名のうちの1つとしては、フェニトインナトリウムのDilantin(ナトリウム5,5-ジフェニル-2,4-イミダゾリジンジオン)が取引されている。フェニトインは、1938年のその臨床導入以来、抗痙攣薬として広く使用されてきた。この化合物は長期使用されているにもかかわらず、その作用の分子機構は依然として完全に解明されていない。驚くべきことに、創傷治癒及び双極性うつ病などの抗痙攣薬として使用されてから、新規の効能が明らかになってきた。例えばイオンチャネル及びシナプス伝達に関するフェニトインの薬理学的効果及び作用機序の多様性は、その全ての臨床効果を説明しないと思われる。
【0085】
経口投与されたフェニトインは、経口鎮痛剤として適用されたときに申し分のない有効性を示したことはなく、かかる経口治療は、神経障害性疼痛の治療に関する治療ガイドラインに組み込まれたことは一度もない(Moulin D et al.,2014)。
【0086】
創傷治癒の促進の際に局所フェニトインを使用することについては、米国特許出願第2009/0022779号に開示されている。米国特許出願第2009/0022779号特許出願によれば、フェニトインナトリウムは、およそ12以上のpHで相当量の水に溶解するのみであり、これは創傷治癒のために開発された適用にも皮膚上の適用にも望ましくない。pHが低いほど、溶解したフェニトインと溶解していないフェニトインとの間の平衡は、溶解していないフェニトインにシフトする(Serajuddin AT & Jarowski CI,1993)。米国特許出願第2009/0022779号では、5重量%フェニトインナトリウムを油相に混合し、次いで安定剤及び水を混合しながら添加する。このようにして、フェニトインリザーバーとして機能する油相と、溶解したフェニトインナトリウムを含有する水相とを含むクリームが提供される。クリームを創傷に適用した後、フェニトインは油相から水相にゆっくりと放出される。この乳化クリームの目標pHは7~10であった。米国特許出願第2009/0022779号では、創傷の治療に使用するために、カルボマーゲル中のフェニトインナトリウムをpH7.4で安定化させるための更に別の処方が開示されている。
【0087】
37℃の水中及びpH1~6の範囲でのフェニトインナトリウム溶解度は、0.035~0.040mg/mLで変化し、より高いpHでは、pH10で約2mg/mL(0.2重量%)まで急速に増加し、pH11.1で約140mg/mL(14重量%)の最大溶解度に達し、これはフェニトインナトリウムのpKα値8.4(Kαは解離定数である)と一致する(Serajuddin AT&Jarowski C.I.,1993)。
【0088】
フェニトイン又はフェニトインのナトリウム塩と組み合わせた局所投与されるメタロアンモニウムフェニトイン錯体もまた、米国特許第5571521号に開示されているように、抗菌特性を有すると報告されており、その抗菌特性は創傷治癒に有益であり得る。
【0089】
本発明者らは、驚くべきことに、局所フェニトインクリームが、B群に属する末梢神経障害性疼痛症候群の治療に適用されたときに、最も有効であることを見出した(上記参照)。この驚くべき所見は、本発明者らが上記の3つのクラスA、B及びCにおける末梢神経障害性疼痛症候群の全スペクトルを詳細に調査することができるように必要な見識を提供した。疾患サブクラスに基づく患者のこの層別化により、フェニトインの局所製剤を使用して、神経障害性疼痛患者における標的療法を最適に定義しかつ選択し、個別化医療アプローチを開発することが可能となった。
【0090】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物であり、その医薬組成物は、1日に8回~隔日に1回、好ましくは1日に4、3、2又は1回、より好ましくは隔日に1回投与される。
【0091】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物であり、その医薬組成物は、少なくとも1日、好ましくは少なくとも1週間、より好ましくは少なくとも1ヶ月間、最も好ましくは少なくとも1年間投与され、好ましくはその医薬組成物は長期的に投与される。本出願を通して、「長期的に」とは、残りの寿命(例えば、本発明の医薬組成物が投与されるヒト患者などの患者の残りの寿命)と定義される。
【0092】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物であり、ここで、その鎮痛剤の単位用量は、0.0005グラム~1.0グラム、好ましくは0.005グラム~0.6グラム、より好ましくは0.01グラム~0.4グラム、最も好ましくは約0.25グラムである。したがって、本発明の医薬組成物の単回投与量は、本発明によれば、好ましくは0.0005グラム~1.0グラム、好ましくは0.005グラム~0.6グラム、より好ましくは0.01グラム~0.4グラム、最も好ましくは約0.25グラムの鎮痛剤を送達する。好ましくは、当該投与される鎮痛剤のかかる単回投与量の鎮痛剤は、本発明によれば、フェニトイン又はフェニトインナトリウム又はそれらの組み合わせである。
【0093】
本発明者らは、5%及び10%のフェニトインに基づく新規な局所クリームを開発し、当該クリームは、神経障害性疼痛に罹患している患者の症例シリーズによる患者の治療に有効であることが証明された(下記の実施例を参照されたい)。全ての患者は、フェニトイン以外の他の鎮痛剤に対して難治性であった。以下でより詳細に概説するように、実施例「症例1」~「症例9」の全ての患者において、フェニトインクリームは、いかなる副作用もなく、少なくとも30%、ほとんどの場合50%超の痛みを軽減するのに有効であり、血漿中にはフェニトインが存在しないか又は無症状レベルのフェニトインしか存在しないことを示しており、忍容性は優れていた。以下でより詳細に概説するように、実施例「症例10」~「症例12」のほとんどの患者において、フェニトインクリームは、いかなる副作用もなく、少なくとも30%、ほとんどの場合50%超の痛みを軽減するのに有効であり、血漿中にはフェニトインが存在しないか又は無症状レベルのフェニトインしか存在しないことを示しており、忍容性は優れていた。本発明のフェニトインクリームの鎮痛作用の発現は、驚くべきことに非常に迅速であり、10~30分以内、例えば本発明のクリームが皮膚に投与された15分後には既に発現しており、その迅速な発現は、フェニトインの鎮痛作用が血液を介したものであることを排除し、本発明の医薬組成物の作用の表皮メカニズムを示している。対照的に、従来技術の活性医薬成分を含む組成物は、経口投与した後、4~12時間後になってピーク血漿濃度に達する[Lund,L.et al.,1974]。一般に、経口で送達されるAPIは、局所製剤を介した同じAPIの送達と比較して、より短い時間内で血漿中Cmax.値に到達することは、当業者にはよく知られている。上記の文脈は、本発明のクリーム中の局所フェニトインの局所表皮内作用機序を明らかに支持している。
【0094】
本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物であって、当該医薬組成物はフェニトインを含みpHが約5であるか、又はフェニトインナトリウムを含みpHが約11であるかのいずれかであり、本発明に従って患者の末梢神経障害性疼痛を低減するのに同様に有効である、又は更には同等に有効でさえある、医薬組成物が確立される。
【0095】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物であり、当該医薬組成物は、0.5重量%~20重量%、好ましくは5重量%~10重量%の鎮痛剤、好ましくはフェニトイン又はフェニトインナトリウム又はそれらの組み合わせを含み、0.1グラム~4グラム、好ましくは0.5グラム~3.6グラムの医薬組成物が投与される。これらの重量百分率は、本発明の医薬組成物の総重量を基準としている。
【0096】
.1グラム~4グラム、好ましくは0.5グラム~3.6グラムの医薬組成物の量は、本発明に従って、単回投与量として患者に投与される、好ましくは、ヒト患者の皮膚に、好ましくはヒト患者の無傷の皮膚に局所投与される、医薬組成物の量を指す。
【0097】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物であり、局所使用のための担体は、4.0~6.5、好ましくは4.5~6.2、より好ましくは約5.5のpHを有するクリームである。本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物であり、局所使用のための担体は、10.0~12.0、好ましくは約11.3のpHを有するクリームである。
【0098】
4.0~6.5のpHを有する本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物が好ましい。かかるpHを有する患者の皮膚に適用される一般的な組成物は、4.0~6.5のpHにより患者の皮膚に穏やかであることは普通の一般的知識である。
【0099】
経口抗うつ薬(例えばアミトリプチリン、デュロキセチン)及び抗痙攣薬(例えばプレガバリン、ガバペンチン)は神経障害性疼痛の治療のための現在の第1の選択であり、オピオイド(例えばトラマドール、オキシコドン)は現在の第2の選択の一例である。しかしながら、大部分の患者は、おそらく、予想される効果の欠如又は耐え難い副作用、例えば鎮静、めまい、うつ、悪心及び便秘の誘発から、投薬を遵守しない。更に、かかる鎮痛剤の慢性使用は、薬物-薬物相互作用並びに腎毒性及び肝毒性を誘発することがある。残念ながら、標準的な治療による部分的な疼痛緩和にもかかわらず、神経障害性疼痛は経時的に悪化する場合がある。
【0100】
2つの一般に使用される局所鎮痛剤は、カプサイシン(バニロイド受容体アゴニスト)及びリドカイン(電位依存性ナトリウムチャネルブロッカー)である。カプサイシンは脱感作及び除神経を引き起こすと考えられている。除神経はTRPV1受容体活性化により誘発される神経終末の可逆的退縮を介して、全体的な長期的な疼痛の軽減をもたらす。しかしながら、カプサイシン8%パッチは、灼熱感を増加させ、しばしば、局所麻酔薬と組み合わせる必要があり、また、ペインクリニックにおいて3ヶ月に1回適用されなければならない、という欠点がある。治療に必要とされるその回数(NNT)は期待外れに低く、6から12の間である。局所カプサイシン0.025%~0.075%クリームには、5~6週間の間、1日に3~4回適用されなければならないという欠点があり、そのNNTはおよそ7であり、灼熱感、刺痛感、又は紅斑などのかなりの副作用によりその使用は難しいものになるという欠点がある。カプサイシンは親油性であり、通常はクリーム状に乳化されているので、眼及び/又は粘膜を刺激しないように徹底的な手洗い又は手袋の使用が必要であり、全てが患者のコンプライアンスの低下を招く。リドカインは、電位依存性ナトリウムチャネルを阻害し、したがって、異常に興奮性の末梢神経線維のニューロン膜電位を安定化させる。これにより、アロディニア及び痛覚過敏が減少する。リドカイン5%パッチは、いくつかの国で神経障害性疼痛の治療のために登録されており、そのNNTはおよそ4である。パッチは、少なくとも12時間のパッチのない間隔を入れて12時間毎に取り替える必要があり、糖尿病性神経障害の患者に一般的に見られる創傷、潰瘍、損傷又は炎症した皮膚上で使用することができない。更に、特に高齢者では、プラスターを正しい形状に切断しなければならない。したがって、取り扱いが複雑であるため、コンプライアンスは最適には及ばない。
【0101】
パッチの主な欠点は、パッチの固定された標準的な形状に起因して、身体の様々な部分上へのパッチの適用が複雑になる点である。本発明の局所クリームはこの欠点を有さず、適用がはるかに容易である。
【0102】
有効で安全な新規な局所クリームを見出すための本発明者らの努力において、ジフェニルヒダントイン又は5,5-ジフェニル-2,4-イミダゾリジンジオンとしても知られる古典的化合物フェニトインを、5%又は10%の局所クリームとして投与すると、副作用を招くことなく、臨床的に意味のある方法で神経障害性疼痛を軽減することが発見されている。有効で安全な新規な局所クリームを見出すための本発明者らの努力において、20%の局所クリームとしてフェニトインを投与すると、副作用を招くことなく、臨床的に意味のある方法で神経障害性疼痛を軽減する、ことも発見されている。このクリームは試験されており、良好な結果を有する他の鎮痛療法に対して全員が難治性であった幾人かの患者において有効であることが示されている(以下の実施例セクションを参照されたい)。本発明の局所クリーム中の活性医薬成分、すなわちフェニトインの作用機序は、局所麻酔薬の作用機序とは異なる。なぜならば、本発明のクリームで治療された患者は、適用後に一般的な麻酔効果を報告せず、3~30分の間に作用が発現する鎮痛効果を報告するからである。本発明の局所クリームは、例えば、10重量%のフェニトインを有する本発明のクリームの適用10~15分後に有効となり、5重量%のフェニトインを有する本発明のクリームの適用約30分後に有効となる(下記の実施例セクションを参照されたい)が、本発明のクリームの適用20分後に疼痛が出現した。
【0103】
本発明のクリームの安定性も優れており、本発明のクリームは12ヶ月間安定である。
【0104】
本発明の第2の態様は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物を調製する方法であって、
a.20℃~95℃で油溶性構成成分を提供し、かつそれとは別に局所使用のための医薬品として許容される担体の水溶性構成成分を用意するステップと、
b.フェニトイン、又はその誘導体、プロドラッグ、立体異性体、及び/又はその塩、又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはフェニトイン又はフェニトインナトリウム、又はそれらの組み合わせから選択される鎮痛剤を用意するステップと、
c.ステップaの20℃~95℃の油溶性構成成分を撹拌することによって混合し、かつそれとは別にステップaの水溶性構成成分を水に溶解することによって水溶液を用意するステップであって、当該水を任意に20℃~95℃に加熱しながらステップaの水溶性構成成分を溶解するステップと、
d.ステップcの混合油溶性構成成分を、ステップcの水溶液と組み合わせ、撹拌することによって混合して、局所使用のための医薬品として許容される担体を用意するステップであって、当該混合油溶性構成成分及び当該水溶液の温度がほぼ同じであり、好ましくは約70℃である、ステップと、
e.5~20分間、好ましくは約20℃にて撹拌しながら、ステップbの選択された鎮痛剤を、ステップdの医薬品として許容される担体に添加することによって、当該選択された鎮痛剤を当該担体と混合するステップと、
f.水溶液のpHを4.0~6.5又は10.0~12.0に任意に調整するステップと、
を含む、方法に関する。
【0105】
本発明の更なる態様は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物を調製する方法であって、
a.局所使用のための医薬品として許容される担体を用意するステップであって、当該医薬品として許容される担体がクリームである、用意するステップと、
b.フェニトイン、又はその誘導体、プロドラッグ、立体異性体、及び/又はその塩、又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはフェニトイン又はフェニトインナトリウム、又はそれらの組み合わせから選択される鎮痛剤を用意するステップと、
c.ステップa及びbの構成成分を、高剪断ミキサーで、15℃~30℃、好ましくは約18℃の温度で、好ましくは前半は500rpm~1000rpmで3分、続いて1000rpm~2000rpmで1~4分、混合するステップと、
d.クリームを室温に冷却させるために、各回の混合の間に8~12分、好ましくは10分の休止時間をあけて、ステップcを1~8回、好ましくは3回繰り返すステップと、
e.水溶液のpHを4.0~6.5又は10.0~12.0に任意に調整するステップと、
を含む、方法に関する。
【0106】
図2には、上記の方法で調製された医薬組成物が示されており、本発明に従って、かかる医薬組成物は粒子状物質を含まないという見識を提供する。驚くべきことに、本明細書の上記の方法は、視認可能な粒子が全くなく、ヒト患者の皮膚での局所使用に適した有益な塗布性(smearability)を有する本発明の医薬組成物を提供した。
【0107】
一実施形態では、本発明による方法では、医薬組成物は医薬局所組成物であり、当該使用は末梢神経障害性疼痛の治療における局所使用である。
【0108】
一実施形態では、本発明による方法では、医薬組成物は医薬局所組成物であり、当該使用は、ヒト患者の末梢神経障害性疼痛の治療における皮膚上での局所使用である。
【0109】
一実施形態では、本発明による方法では、医薬組成物は医薬局所組成物であり、末梢神経障害性疼痛の治療における組成物の使用は、末梢神経障害性疼痛の治療において治療を受けた人の無傷な皮膚上での局所使用である。
【0110】
一実施形態では、本発明による方法では、医薬組成物は医薬局所組成物であり、末梢神経障害性疼痛の治療における組成物の使用は、末梢神経障害性疼痛の治療において治療を受けた人の無傷な皮膚上での局所使用である。ここで、既に述べたように、無傷の皮膚及び健康な無傷の皮膚は、それらの一般的な科学的意味を有し、ここでは、例えば潰瘍、創傷、病変、切り傷を含まない非損傷皮膚を指し、また表皮の閉鎖された外層を含む皮膚を指す。
【0111】
一実施形態では、本発明による方法は、医薬組成物が医薬局所組成物であり、末梢神経障害性疼痛の治療における組成物の使用が末梢神経障害性疼痛の治療において患者の皮膚を介した局所使用である方法である。
【0112】
一実施形態では、本発明による方法は、末梢神経障害性疼痛の治療における組成物の使用がヒトの治療での使用である方法である。
【0113】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物を調製する方法であり、鎮痛剤は、ステップeにおいて当該鎮痛剤を局所使用のための医薬品として許容される担体と混合する前に、30~50メッシュ、好ましくは約40メッシュの細目スクリーンを通して濾過される。
【0114】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物を調製する方法であり、鎮痛剤は、ステップeにおいて当該鎮痛剤を局所使用のための医薬品として許容される担体と混合する前に、約40メッシュの篩を通して濾過される。
【0115】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物を調製する方法であり、局所使用のための医薬品として許容される担体は、クリーム、ゲル、分散液、エマルション、フォーム、ミスト、洗口剤、ローション、膏薬、軟膏、スプレー、エアゾール、油、プラスター、パッチ、懸濁液、又は座薬であり、好ましくは、局所使用のための医薬品として許容される担体はクリームである。
【0116】
本発明の局所製剤は、本発明の方法に従って調製される。本発明による局所クリームのいずれかにおいて使用されかつ本明細書に記載される基剤は、医薬組成物内に含有される活性化合物を経皮送達することができる任意の医薬品として許容される担体である。例として、これは、本発明による、クリーム、ゲル、分散液、エマルション、フォーム、ミスト、洗口剤、ローション、膏薬、軟膏、油、スプレー、エアロゾル、坐剤、懸濁液、プラスター、パッチ、並びに、経皮及び経粘膜吸収のための様々な受動的及び能動的局所デバイスである。
【0117】
クリーム基剤を提供する水中油型エマルションは、皮膚上の一般的な用途に最も好ましい。懸濁液又はエマルションなどの液体は、頭皮を治療するために望ましい。基剤は、好ましくは、従来の乳化剤及び皮膚軟化剤、例えばアルギネート、グリセリルステアレート、PEG-100ステアレート、セチルアルコール、プロピルパラベン、ブチルパラベン、ソルビトール、ポリエトキシル化アンヒドロソルビトールモノステアレート、白色ワセリン、トリエタノールアミン、ラノリン、カカオバター、及びシアバターなどが挙げられる。
【0118】
例えば、セトマクロゴールクリームの基剤中にフェニトインナトリウムを溶解した後、安定な製剤が得られた。本発明のクリームでは、本発明の安定な製剤が得られるように、1%~10%範囲のフェニトインを溶解した。本発明によると、本発明の医薬組成物は、0.5重量%~20重量%、好ましくは3重量%~15重量%、より好ましくは5重量%~10重量%、最も好ましくは約5重量%又は約10重量%の鎮静剤を含有する。
【0120】
理論に拘束されることを望むものではないが、親油性であることにより、本発明に従って、表皮の様々な部分への親油性フェニトインの浸透を促進する、本発明のクリームの3つの化合物は、セラセトマクロゴリス乳化剤(Cera cetomacrogolis emulsificans)、鉱物油(paraffinum liquidum)、白色ワセリンである。
【0121】
本発明の例示的な組成物は、実施例セクション、表2、表3、表4、表5及び表6に非網羅的に記載してある。本発明の例示的な組成物は、実施例セクション、表7、表8、及び表10に非網羅的に記載してある。末梢神経障害性疼痛に罹患している患者が経験する、本発明の医薬化合物をヒト患者の皮膚に投与した後の疼痛緩和の迅速な発現、当該組成物によって提供される疼痛緩和の持続時間及び疼痛緩和の程度を示している、症例1~14の概要を表16に提供する。症例1~14、更に68名の患者を対象とした拡張症例スタディから、以下に詳述するように、本発明の医薬組成物は、患者が経験する疼痛緩和の驚くほど迅速な発現、すなわち30分以内の発現、疼痛緩和の持続時間の延長、及び多くの場合NRSに基づく4以上の疼痛緩和の程度をもたらすことは明らかである。
【0122】
本発明の医薬組成物に適用される全ての化合物は、承認された計量機を使用して正確に計量される。必要な水量は、承認された目盛り付きシリンダーを使用して測定する。任意に、本発明の医薬組成物の活性医薬成分(例えばフェニトインナトリウム、フェニトイン)は、最初に30~50メッシュの細目スクリーンを通して、好ましくは40メッシュのメッシュスクリーンを通して、乳鉢中に濾過する。凝集する傾向を有する活性医薬成分を最初に濾過することの利点は、例えば、フェニトイン又はフェニトインナトリウムが、細かくかつ均一に分散され、その後の、選択された製剤基剤への最適な溶解が促進されることである。本発明の医薬組成物を調製する方法によれば、油溶性化合物を20℃~95℃の温度に加熱し、例えば、撹拌デバイスのステンレス鋼ボウルにおいて一緒に混合するなどして混合する(相A):例えば鉱物油、白色ワセリン。次いで、20℃~95℃の温度に最初に加熱もされている、例えばセテアレス及びセトステアリルアルコールを、例えば鉱物油、白色ワセリンに添加する。本発明の適用可能な油溶性化合物の例については、実施例セクションを参照されたい。本発明によるクリーム基剤の水溶性化合物(例えば、アスコルビン酸、クエン酸一水和物、水酸化ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウム二水和物)を、混合しながら20℃~95℃の温度の水に添加する(相B)。任意に、この段階で、本発明の方法に従ってpHを4.0~6.5、好ましくは約4.5~6.2に調整する。相A及び相Bを組み合わせて、相A及び相Bを混合する前に、2つの相を、ほぼ同じ温度、好ましくは同じ温度にする。当該相を組み合わせて混合する前の相A及び相Bの温度は、室温~約95℃、好ましくは約20℃~約95℃、より好ましくは約70℃である。本発明の方法に従って、相Bを相Aにゆっくり注ぎ、温度が、例えば約56℃、好ましくは56℃に低下するまで撹拌しながら冷却する。別の方法としては、本発明の方法に従って、相Bを相Aにゆっくり注ぎ、温度が、例えば約20℃、好ましくは室温に低下するまで撹拌しながら冷却する。本明細書では、局所使用のための医薬品として許容される担体は、本発明の医薬組成物において適用するために提供される。次いで、例えば、高剪断ホモジナイザーを使用することによって、本発明の方法に従って、5~20分、好ましくは約10分間撹拌しながら、活性化合物フェニトインナトリウム又はフェニトインを、混合物に、すなわち局所使用のための医薬品として許容される担体に、添加する。その温度は、医薬品として許容される担体に活性医薬成分を添加している間、好ましくは約20℃又はおよそ室温である。任意に、この段階で、本発明の方法に従って、pHを4.0~6.5、好ましくは約4.5~6.2に調整するか、又は本発明の方法に従って、pHを10.0~12.0、好ましくは約11.0~11.5に調整する。次いで、本発明の組成物は、例えば、30グラムのアルミニウム管にパッケージし、当該技術分野において周知の方法に従って保管する。
【0123】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物を調製する方法であり、その医薬品として許容される担体は10.0~12.0、好ましくは約11.3のpHを有する。好ましくは10.0~12.0、好ましくは約11.3のpHを有し、例えばフェニトインナトリウムを含む、本発明のクリームは、鉱物油、白色ワセリン、セテアレス-20、セトステアリルアルコール、リン酸二水素ナトリウム二水和物、アスコルビン酸1.5%、水酸化ナトリウム及び精製水からなる。同様に好ましいのは、10.0~12.0、好ましくは約11.3のpHを有し、例えば、フェニトインナトリウムを含み、セラセトマクロゴリス乳化剤、デシリスオレアス、ソルビトール70%クリスタリサビル、アスコルビン酸及び精製水からなる、本発明のクリームである。好ましくは、本発明の方法によって提供される本発明のクリームは、クリームの5重量%のフェニトインナトリウムを含む。
【0124】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物を調製する方法であり、本発明の医薬組成物に含まれる医薬品として許容される担体は、少なくとも1つの皮膚浸透促進剤を含む。
【0125】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物を調製する方法であり、少なくとも1つの皮膚浸透促進剤を、デシリスオレアス、マクロゴールセトステアリルエーテル、セトステアリルアルコール、又はそれらの任意の組み合わせから選択する。
【0126】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物を調製する方法であり、その医薬組成物は、0.5重量%~20重量%、好ましくは3重量%~15重量%、より好ましくは5重量%~10重量%の鎮痛剤を含有する。鎮痛剤は、好ましくは、フェニトイン又はフェニトインナトリウム又はそれらの組み合わせである。
【0128】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物を調製する方法であり、その医薬品として許容される担体は4.0~6.5、好ましくは4.5~6.2、より好ましくは約5.5のpHを有する。好ましくは、4.0~6.5、例えば約4.5又は例えば約6.2のpHを有し、例えばフェニトインを含む本発明のクリームは、セラセトマクロゴリス乳化剤、デシリスオレアス、ソルビトール70%クリスタリサビル、アスコルビン酸及び精製水からなる。同様に好ましいのは、4.0~6.5、例えば約4.5又は例えば約6.2のpHを有し、例えばフェニトインナトリウムを含み、セラセトマクロゴリス乳化剤、デシリスオレアス、ソルビトール70%クリスタリサビル、アスコルビン酸、クエン酸一水和物及び精製水からなる、本発明のクリームである。好ましくは、本発明の方法によって提供される本発明のクリームは、クリームの5重量%のフェニトイン又はフェニトインナトリウムを含む。
【0129】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物を調製する方法であり、その医薬組成物は、約5重量%又は約10重量%のフェニトイン又はフェニトインナトリウム又はそれらの組み合わせを含有する。
【0130】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物を調製する方法であり、その医薬組成物は、約5重量%又は約10重量%又は約20重量%のフェニトイン又はフェニトインナトリウム又はそれらの組み合わせを含有する。
【0131】
本発明の第3の態様は、本発明の方法によって得ることができる医薬組成物に関する。
【0132】
本発明の更なる態様は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための本発明の方法によって得ることができる医薬組成物に関する。
【0133】
一実施形態では、本発明の方法によって得ることができる医薬組成物は、フェニトイン、又はその誘導体、プロドラッグ、立体異性体、及び/又はその塩、又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはフェニトイン又はフェニトインナトリウム、又はそれらの組み合わせから選択される鎮痛剤を3重量%~15重量%含有する。
【0135】
本発明の一実施形態は、フェニトイン又はフェニトインナトリウム又はそれらの組み合わせを含有し、更に、鉱物油、白色ワセリン、セテアレス-20、セトステアリルアルコールを含むか、又はセラセトマクロゴリス乳化剤、デシリスオレアス、ソルビトールを医薬的に含む、本発明による医薬組成物であり、局所使用のための医薬品として許容される担体はクリームである。
【0136】
本発明の一実施形態は、0.5重量%~20重量%のフェニトイン又はフェニトインナトリウム又はそれらの組み合わせを含有する、本発明による医薬組成物である。本発明の一実施形態は、3重量%~15重量%、好ましくは5重量%~10重量%、より好ましくは約5重量%又は約10重量%のフェニトイン又はフェニトインナトリウム又はそれらの組み合わせを含有する、本発明による医薬組成物である。
【0137】
述のように、「重量%」は、別途記載のない限り、明細書及び特許請求の範囲を通して、本発明の医薬組成物の重量の百分率としての鎮痛剤の質量を示している。
【0139】
本発明によれば、本発明の局所製剤は、皮膚に、例えばヒトの皮膚に、一用量を、1日4回、好ましくは1日3回、より好ましくは1日2回、より好ましくは毎日、最も好ましくは1日おきに投与する。本発明によれば、本発明の局所製剤は、少なくとも1年、又はそれ以上、好ましくは少なくとも1ヶ月、より好ましくは少なくとも1週間、最も好ましくは少なくとも1日にわたって投与され、末梢神経障害性疼痛の連続的な減少、又は最終的には疼痛、好ましくは軽度から中等度の末梢神経原性炎症からなるB群の末梢神経障害性疼痛の完全な緩和を達成する。典型的には、投与される局所製剤の量、すなわち、本発明のフェニトインを含有する局所使用のためのクリームは、1適用当たり0.1グラム~4グラムである。したがって、本発明によれば、本発明のフェニトインを含有する局所使用のためのクリームの単位用量は約0.1グラム~4グラムである。好ましくは、単位用量は、本発明に従って、0.5グラム~3.6グラムの本発明のクリームである。
【0140】
本発明の一実施形態は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物であり、副作用が現れない限り、本発明のフェニトインを含有するクリーム最大4FTUを1日3回適用するように指示される。副作用が現れた場合(本発明のフェニトインを含有するクリームを使用している患者には殆ど現れていない)、患者は、副作用が消失するまでは、神経障害性疼痛によって影響される皮膚領域にクリームを適用しないように指示された。その後、副作用が消失したとき、本発明に従って、患者は、副作用の再発を予防するため本発明のフェニトインを投与量の半量で適用するように指示され、また、患者は、本発明のフェニトインを含有するクリームの適用頻度を減らすように指示された。必要に応じて、患者は、本発明のフェニトインを含有するクリームを、1日に4回以上、好ましくは1日に4、5、6又は7回、好ましくは1日に最大8回まで、又は望ましくかつ適用可能である場合、それ以上の回数適用することを許された。患者が一用量を1日当たり8回投与された場合であっても、末梢神経障害性疼痛が、本発明の医薬組成物の適用によって依然として管理されない場合、かかる患者は、本発明に従って、用量を、本発明のフェニトインを含有するクリームの適用1回当たり更に2~4FTU増加させることができた(したがって、1日当たり8回の投与で、1投与当たり4~6FTU、1投与当たり最大約2グラム~約3.6グラムの本発明の医薬組成物が添加され、また1日の間に8回の投与当たり約16グラム~約28.8グラムの本発明の医薬組成物が添加される)。本発明の文脈における「管理された」は、本発明の医薬組成物が投与される患者が経験する疼痛緩和の度合いが、当該疼痛を患者にとって耐え得るものにするようなものであることを指す。
【0141】
前述の方法及び組成物は、理解を明確にする目的で例示及び例として、ある程度詳細に記載されているが、本発明のそれらの方法及び組成物の教示に照らして、本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、ある特定の変更及び修正を行うことができることは、当業者には容易に明らかであろう。本発明は、本発明のいくつかの態様の実例として意図される実施例において開示される特定の実施形態によって範囲が限定されるものではなく、機能的に同等である任意の実施形態は、本発明の範囲内である。実際に、本明細書に示され説明されるものに加えて、本発明の様々な修正が当業者には明らかとなり、本発明の範囲内に含まれることが意図される。
【0142】
したがって、本開示は、本発明の様々な実施形態及び構成の任意の及び全ての適応又は変形を網羅することを意図している。上記の構成と、本明細書に具体的に記載されていない他の構成との組み合わせは、上記の説明を再検討する際に当業者には明らかとなろう。したがって、本開示は、本発明を実施するために企図される最良のモードとして開示される特定の構成(複数可)に限定されるものではないが、本発明は、本発明の範囲内に含まれる全ての実施形態及び構成を含むことが意図される。
【0143】
本発明の一実施形態は、本発明による医薬組成物であり、当該医薬組成物において、鎮痛剤は、フェニトイン又はフェニトインナトリウム、又はそれらの組み合わせであり、及び/又は鎮痛剤は、ホスフェニトイン、ヒドロキシフェニトイン、5-(3-ヒドロキシフェニル)-5-フェニルヒダントイン、5-フェニル-5-(4-ヒドロキシフェニル)ヒダントイングルクロニド、ロピトイン、ロピトインヒドロクロリド、5-(2-ヒドロキシフェニル)-5-フェニルヒダントイン、5-(3,4-ジヒドロキシ-1,5-シクロヘキサジエン-1-イル)-5-フェニルヒダントイン、N-アミノジフェニルヒダントイン、5-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-5-フェニルヒダントイン、PC-796、5-p-メチルフェニル-5-フェニルヒダントイン、1-アセチル-3-アセトキシ-5’,5-ジフェニルヒダントイン、3-ヒドロキシメチルフェニトインN,N-ジメチルグリシンエステル、3-(ヒドロキシメチル)フェニトインN,N-ジメチルアミノエチルカーボネート、5-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-5-フェニルヒダントイン、3-ペンタノイル-5,5-ジフェニルヒダントイン、3-(2-プロピルペンタノイル)-5,5-ジフェニルヒダントイン、5,5-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヒダントイン、3-(ヒドロキシメチル)フェニトイン、フェニトインジヒドロジオール、4-アミノフェニトイン、N,N-ジクロロフェニトイン、ジフェニルチオヒダントイン、ジフェニルヒダントイン-3-フェニルトリカルボニルクロムエチルアセテート、5,5-ジフェニルヒダントイン-3-バレレート-ウシ血清アルブミン、フェニトイン-1-メチルニコチニネート、2-シアノグアニジノフェニトイン、フェニトイン-ビス-ヒドロキシイソブチレート、N-アセチルフェニトイン、ジフェニルヒダントイン酸、N’-3-オキシメチルグルクロニドフェニトイン、ジフェニルヒダンチル、5-(4’-フルオロフェニル)-5-フェニルヒダントイン、アズモレン、5,5-ビス(4-トリフルオロメチルフェニル)ヒダントイン、5,5-ビス(4-メチルフェニル)ヒダントイン、5,5-ビス(4-メトキシフェニル)ヒダントイン、5-(4-メトキシフェニル)-5-フェニルヒダントイン、及び5-(4-ジメチルアミノフェニル)-5-フェニルヒダントイン、及び他の5,5-ジフェニルイミダゾリジン誘導体、又はそれらの組み合わせからなる群から選択されるフェニトイン誘導体、フェニトインプロドラッグ、フェニトイン立体異性体、並びに/又はそれらの塩である。
【0144】
本発明の第4の態様は、本発明による末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための医薬組成物に関し、その医薬組成物は本発明の方法によって提供されるか、又はその医薬組成物は本発明の組成物である。
【0145】
理論に拘束されることを望むものではないが、糖尿病性神経障害、CIAP、SFN及びCIPNでは、神経障害性疼痛を治療するための標的は、皮膚、特に表皮内に存在すると仮定される。理論に拘束されることを望むものではないが、末梢感作の機序に寄与する神経障害性疼痛を治療するためのこれらの標的は、3つの異なる因子間の相互作用、すなわち、侵害受容体の神経終末、角化細胞、及び免疫担当細胞間の相互作用に基づいている可能性がある。これらの因子の全ては、異なるクラス(NaV1.3-1.5,1.7,1.8)のナトリウムチャネルを発現する。したがって、フェニトイン及びフェニトインナトリウムは、本発明による神経障害性疼痛の局所治療のために開発された、本発明の配合クリーム中の広域作用型ナトリウムチャネル遮断薬であることから、当該ナトリウムチャネル遮断活性は、末梢神経障害性疼痛の治療に使用するための本発明の医薬組成物の効率性と有効性の基礎をなす。
【0146】
本発明を、以下の非限定的な実施例によって更に例示する。
【実施例
【0147】
下記の例示的な患者症例1~14では、全ての患者がB群による末梢神経障害性疼痛に罹患した。その症例において、末梢神経障害性疼痛の患者における本発明による局所フェニトインクリームの効果を実証する。本発明によるフェニトインを含有する医薬組成物は、以下の実施例において、5重量%又は10重量%又は15重量%又は20重量%のフェニトインを含有していた。
【0148】
A群及びC群に属する患者は、ほとんどの場合において、本発明のフェニトインクリームに対する非反応者であることが判明し、A群の患者については以下の症例1A及び2Aによって、C群の患者については症例1Cによって例示される。
A群
1A.過剰投与に起因して血液中のビタミンB6が毒性レベルであることによる神経障害に罹患している患者は、フェニトインクリームに対する非反応者であった。
2A.アルコール性神経障害に罹患している患者は、フェニトインクリームに対する非反応者であった。
及び
C群
1C.自己免疫性多発神経障害に罹患している患者はフェニトインクリームに対する非反応者であった。
【0149】
症例1.糖尿病性神経障害性疼痛
69歳の男性。2007年以来、2型真性糖尿病に起因する両前足部の末梢神経障害性疼痛に罹患していた。彼は、11ポイントの数値評価スケール(NRS)で平均疼痛9と評価された。彼の疼痛は、灼熱感、電気ショックを受けたような感覚、刺痛感、ピンや針で刺されているような感覚、軽く撫でているときのアロディニア、及び手をつないだときのしびれ感(有痛性感覚脱失)を特徴としていた。特に左足のアロディニアは夜間に彼を悩ませ、この症状に関してはNRSで10と評価された。1日2回のプレガバリン75mgも何ら効果がなかった。患者にはケタミン10重量%配合クリームを投与した(Keppel Hesselink JM & Kopsky DJ,2013)。その結果、NRSで3へとアロディニアが軽減した。疼痛の軽減は6時間続いたが、その後彼は起床し、再びケタミンクリームを適用する必要があった。本発明によるフェニトイン5重量%クリームの適用後、患者が夜間にアロディニアを経験することはなかった(NRSで0)。疼痛は、適用後30分以内に軽減し、少なくとも12時間持続した。
【0150】
局所クリーム中に5重量%のフェニトインナトリウムを含有する本発明の医薬組成物は、更に、皮膚浸透促進剤セトステアリルアルコール(クリームの6.9重量%)からなっていた。医薬組成物のpHは11.3であった。各投与中、患者は、各前足部に0.5FTU、すなわち合計約0.5グラム~0.6グラムのクリームを適用した。したがって、そのクリームは約0.025グラム~0.03グラムのフェニトインナトリウムを含有していた。患者は、1日2回、本発明のクリームを適用した。患者は、3ヶ月間、本発明のクリームを適用した。患者は、寿命の間、すなわち人生の残りの間、本発明のクリームを使用し続けることが意図されている。
【0151】
症例2.糖尿病性神経障害性疼痛
2007年以来、2型真性糖尿病及び甲状腺機能低下症に罹患している61歳の男性。500mgのメトホルミンで1日3回、並びに1000IEのビタミンDに加えてサイラックス(Thyrax)による治療を受けていた。患者は両足部に痛みがあり、NRSで8と評価された。彼の睡眠の質は神経障害性疼痛のためにかなり損なわれた。神経障害性疼痛の特徴は、灼熱感、電気感、刺痛感及びチクチク感であった。
【0152】
本発明による5重量%のフェニトインクリームで治療を開始すると、数年ぶりに夜間に疼痛がない状態がもたらされた。患者は、十分な鎮痛を得るためには24時間でクリームを3回適用する必要があり、適用1時間後に鎮痛作用が出始めた。そのクリームにより、疼痛が50%軽減され、NRSで平均値4と評価された。疼痛は数週間安定しており、生活の質は非常に改善された。
【0153】
局所クリーム中に5重量%のフェニトインナトリウムを含有する本発明の医薬組成物は、更に、皮膚浸透促進剤セトステアリルアルコール(クリームの6.9重量%)からなっていた。医薬組成物のpHは11.3であった。各投与中、患者は、各足に0.8FTU、すなわち合計約0.8グラム~1.0グラムのクリームを適用した。したがって、そのクリームは約0.04グラム~0.05グラムのフェニトインナトリウムを含有していた。患者は、1日3回、本発明のクリームを適用した。患者は、4ヶ月間、本発明のクリームを適用した。患者は、寿命の間、すなわち人生の残りの間、本発明のクリームを使用し続けることが意図されている。
【0154】
症例3.CIAPに起因する神経障害性疼痛
71歳の男性。2000年以来、足部と、膝までの肢部の両方においてCIAP疼痛に罹患していた。彼の疼痛はNRSで8と評価された。その疼痛は、灼熱感、刺痛感、しびれ感、接触とピンプリックに関する知覚減退、及び軽く撫でているときのアロディニアを特徴としていた。温かさと冷たさの識別及びアキレス腱反射は減少し、両方の第一中足指節関節(metatarsalphalangeal first joint)に振動感覚はなかった。経口アミトリプチリン、デュロキセチン、プレガバリン及びトラマドールは、鎮静、不安、睡眠障害及び浮腫などの多くの副作用を誘発し、有用ではなかった。本発明によるフェニトイン5重量%クリームで治療すると、30分以内に、患者はおよそ50%の疼痛軽減を経験した。フェニトイン5重量%クリームを1か月使用した後、彼はNRSで8から5への全般的な疼痛の軽減を経験した。特に、灼熱感はNRSで8から4へと減少した。疼痛軽減効果は、適用から10分後に出始め、全効果持続時間は3.5時間であった。
【0155】
局所クリーム中に5重量%のフェニトインナトリウムを含有する本発明の医薬組成物は、更に、皮膚浸透促進剤セトステアリルアルコール(クリームの6.9重量%)からなっていた。医薬組成物のpHは11.3であった。各投与中、患者は、足部と肢部の両方に3FTU、すなわち約1.5グラム~1.8グラムのクリームを適用した。したがって、そのクリームは約0.075グラム~0.09グラムのフェニトインナトリウムを含有していた。患者は、1日3~4回、本発明のクリームを適用した。患者は、2.5ヶ月間、本発明のクリームを適用した。患者は、寿命の間、すなわち人生の残りの間、本発明のクリームを使用し続けることが意図されている。
【0156】
症例4.CIAPとCIPNとの合併
71歳の男性。2008年以来CIAPに罹患し、2010年に診断された非ホジキンリンパ腫の治療のために化学療法を受け、その化学療法(ビンクリスチン)後に悪化していた。彼の足部や肢部の疼痛は、刺痛感、ピンや針で刺されているような感覚、電気ショックを受けたような感覚、灼熱感及び肢部の痙攣、並びに無感覚性疼痛症を特徴とした。彼の疼痛はNRSで8と評価された。以下の配合クリーム、すなわちバクロフェン5重量%、アミトリプチリン5重量%及びクロニジン0.2重量%クリームを、患者の治療レジメンで試験した(Keppel Hesselink JM,et al.,2014);(Kopsky DJ&Hesselink JM,2012);(Kopsky DJ&Keppel Hesselink JM,2013);(Kopsky DJ,et al.,2012)。これらのクリームはいずれも疼痛の全てを軽減することはできなかったものの、患者は十分な鎮痛を経験した。2013年に前立腺癌と診断されたため、彼は局所放射線療法を受け、抗テストステロン化合物であるリュープロレリン(Eligard)も投与された。彼の右足の神経障害性疼痛は再発し、処方された鎮痛剤クリームはそれらの鎮痛効果の大部分を失った。しかしながら、本発明によるフェニトイン5重量%クリームの適用は、刺痛感、ピンや針で刺されているような感覚、及び灼熱痛を20分以内に軽減し、その疼痛を、NRSで8から3へと軽減した。患者はまた、フェニトイン5重量%クリームの冷却効果も知覚し、その効果の持続時間は他の鎮痛クリームで観察された持続時間よりも長く、すなわち少なくとも5時間持続した。患者の睡眠の質は大幅に改善された。本発明によるフェニトイン5重量%クリームを使用する前は、彼は、睡眠に関する疼痛干渉を測定するNRSで6と評価された(0は干渉なし、10は完全干渉)。本発明によるフェニトイン5重量%クリームを適用した後、NRSで0と評価された。これは彼の睡眠がそれ以降妨げられなかったことを意味している。
【0157】
局所クリーム中に5重量%のフェニトインナトリウムを含有する本発明の医薬組成物は、更に、皮膚浸透促進剤セトステアリルアルコール(クリームの6.9重量%)からなっていた。医薬組成物のpHは11.3であった。各投与中、患者は、各右足に0.8FTU、すなわち約0.4グラム~0.5グラムのクリームを適用した。したがって、そのクリームは約0.02グラム~0.025グラムのフェニトインナトリウムを含有していた。患者は、1日3回、本発明のクリームを適用した。患者は、2ヶ月間、本発明のクリームを適用した。患者は、寿命の間、すなわち人生の残りの間、本発明のクリームを使用し続けることが意図されている。
【0158】
症例5.CIAP
74歳の女性。2006年以来、両方の足部のCIAP疼痛に罹患していた。彼女の疼痛は、同じ領域の灼熱感並びにしびれ感を特徴とし、その疼痛はNRSで6と評価された。疼痛は歩行後に増悪した。プレガバリンには非常に多くの副作用があった。アミトリプチリン10重量%、バクロフェン5重量%、及びリドカイン3重量%をイソソルビドジニトレート0.4重量%クリームと組み合わせて患者を治療しても十分な疼痛軽減は得られなかった(NRSで6から5)。本発明によるフェニトイン5重量%クリームは、灼熱痛をNRSで6から1に軽減させた。クリームの適用後10分以内に疼痛はかなり軽減し、その効果の持続時間は5時間であった。患者は、1日3回、クリームを適用した。疼痛が軽減されたことから、気分が大幅に改善され、患者は再び休暇を計画するようになった。
【0159】
局所クリーム中に5重量%のフェニトインナトリウムを含有する本発明の医薬組成物は、更に、皮膚浸透促進剤セトステアリルアルコール(クリームの6.9重量%)からなっていた。医薬組成物のpHは11.3であった。各投与中、患者は、両足部に1.4FTU、すなわち約0.7グラム~0.8グラムのクリームを適用した。したがって、そのクリームは約0.035グラム~0.04グラムのフェニトインナトリウムを含有していた。患者は、1日3回、本発明のクリームを適用した。患者は、4ヶ月間、本発明のクリームを適用した。患者は、寿命の間、すなわち人生の残りの間、本発明のクリームを使用し続けることが意図されている。
【0160】
症例6.三叉神経痛
86歳の女性。灼熱感及び刺痛感を伴う重度の三叉神経痛に数年来罹患していた。ガンマナイフ介入、ガバペンチン、リドカイン5重量%パッチ、及びデュロキセチンは何ら効果がなかった。クロナゼパム0.5mgの1日3回服用により生活は許容可能なものとなったが、目の周囲の疼痛はNRSで9のままと評価された。ケタミン10%クリームは当該疼痛の特徴である鋭い痛みをある程度軽減したが、その効果は殆ど目立たなかった。しかしながら、本発明のフェニトイン10重量%クリームを適用した10分後に、疼痛はNRSで9から5へと軽減した。鎮痛効果は1~数時間しか続かなかったので、頻繁にクリームを適用しなければならなかった。クリームを適用後、灼熱感及び刺痛感は9~10から6~7へと軽減した。口周りがこわばっているという主観的感覚は10から8へと軽減した。クリームの使用を1年超継続した。
【0161】
局所クリーム中に10重量%のフェニトインナトリウムを含有する本発明の医薬組成物は、更に、皮膚浸透促進剤セトステアリルアルコール(クリームの6.6重量%)からなっていた。医薬組成物のpHは11.3であった。各投与中、患者は、疼痛部位に0.2FTU、すなわち約0.1グラム~0.2グラムのクリームを適用した。したがって、そのクリームは約0.01グラム~0.02グラムのフェニトインナトリウムを含有していた。患者は、1日5~8回、本発明のクリームを適用した。患者は、1年を超える期間中、本発明のクリームを適用した。患者は、寿命の間、すなわち人生の残りの間、本発明のクリームを使用し続けることが意図されている。
【0162】
症例7.ヘルペス後神経痛
胸部ヘルペス後神経痛に2年間罹患している83歳の男性。プレガバリン600mgを毎日服用しながら、NRSで7~8の疼痛と評価されていた。リドカインクリーム、カプサイシン8重量%プラスター、及びアミトリプチリンは、彼の疼痛に効果はなかった。本発明によるフェニトイン10重量%クリームと比較した10重量%ケタミンクリームによる単純盲検治療は、フェニトインクリームの優位性を実証した。適用後20分以内に50%の疼痛軽減が現れ、約4~6時間持続した。
【0163】
局所クリーム中に10重量%のフェニトインナトリウムを含有する本発明の医薬組成物は、更に、皮膚浸透促進剤セトステアリルアルコール(クリームの6.6重量%)からなっていた。医薬組成物のpHは11.3であった。各投与中、患者は、患部の皮膚の部分に合計で0.5FTU、すなわち約0.25グラム~0.3グラムのクリームを適用した。したがって、そのクリームは約0.025グラム~0.03グラムのフェニトインナトリウムを含有していた。患者は、1日3回、本発明のクリームを適用した。患者は、4ヶ月間、本発明のクリームを適用した。患者は、寿命の間、すなわち人生の残りの間、本発明のクリームを使用し続けることが意図されている。
【0164】
症例8.CIPN
2014年7月、ミトキサントロン及びエトポシドで治療された急性白血病の48歳の男性。化学療法により、手足症候群(発赤及び浮腫)、及び足部に神経障害性疼痛が発症した。彼は自分の疼痛を灼熱感、刺痛感、ピンや針で刺されているような感覚であると説明した。その疼痛は2015年11月にNRSで8.5と評価された。身体検査により、ピンクリックと接触に関する知覚減退及びアロディニアが明らかになった。その疼痛は、化学療法に起因する神経障害性疼痛と診断された。アミトリプチリン10%クリームは、かなり疼痛を軽減し、NRSは8.5から0へと低下した。アミトリプチリン10%クリームの唯一劣る点は、神経障害性疼痛が1~1.5時間後に再発したことであった。2016年10月には、彼の神経障害性疼痛はNRSで6と評価され、追加のフェニトイン5%クリームが投与され、神経障害性疼痛は完全に消失したが、効果の発現は適用後15分であり、持続時間は3.5時間であった。
【0165】
局所クリーム中に5重量%のフェニトインを含有する本発明の医薬組成物は、更に、皮膚浸透促進剤デシリスオレアス(クリームの19重量%)からなっていた。医薬組成物のpHは4.5であった。患者は、各足に0.8FTU、すなわち合計約0.8グラム~1.0グラムのクリームを適用した。したがって、そのクリームは約0.04グラム~0.05グラムのフェニトインナトリウムを含有していた。患者は、1日3回、本発明のクリームを適用した。患者は、1ヶ月間、本発明のクリームを適用した。患者は、寿命の間、すなわち人生の残りの間、本発明のクリームを使用し続けることが意図されている。
【0166】
症例9.CIPN
2016年5月、免疫グロブリン軽鎖(AL)アミロイドーシスのために、化学療法治療(ボルテゾミブ)を受けた54歳の女性。両手の神経障害性疼痛により、治療は5回の注射後に停止しなければならなかった。手の神経障害性疼痛は減弱したが、患者は2016年5月に両足部に神経障害性疼痛を発症した。彼女は、自分の疼痛を、灼熱感、痛みのある冷感、刺痛感、ピンや針で刺されているような感覚であると説明した。患者は疼痛を軽減するためにガバペンチン2000mgを毎日、オキシコドン20mg~30mgを毎日投与され、2016年8月には依然としてNRSで8と評価された。アミトリプチリン及びトラマドールなどの他の薬剤には、鎮痛効果はなかった。患者は、疼痛によって睡眠が困難であった。
【0167】
身体検査により、ピンクリックと接触に関する知覚減退及びアロディニアが明らかになった。温覚及び冷覚は、彼女の足部において足首まで損なわれていた。彼女は、足部から膝まで、振動を感じなかった。彼女のアキレス腱反射はなかった。
【0168】
鎮痛剤クリームを使用した試験適用により、バクロフェン5%クリームは、2つの他の鎮痛剤配合クリーム、すなわち、クロニジン0.2%クリーム及びイソソルビドジニトレート0.4%と組み合わせたリドカイン3%クリームと比較して、より著明な疼痛軽減効果を有することが明らかになった。疼痛はNRSで3まで軽減することができたが、アロディニアはまだ存在していた。ケタミン10%クリーム適用後、アロディニアは消失した。
【0169】
2016年9月に、患者は本発明のフェニトイン5%クリーム(フェニトインナトリウムを使用して調製した)を投与され、この新規なクリームの疼痛軽減をバクロフェン5%クリームと比較するよう求められた。両方のクリームを適用する前、彼女の疼痛はNRSで7と評価された。発現時間は、バクロフェン5%クリーム20分、及びフェニトイン5%クリーム30分であった。患者の疼痛は、NRSにて、バクロフェン5%クリームで7から3へ、フェニトイン5%クリームで7から驚くほど低い値へ、すなわち0へと疼痛が軽減したと評価された。フェニトイン5%クリームの効果の持続時間は4時間であった。3週間後、彼女はフェニトイン5%クリーム(フェニトインを使用して調製)を投与されたが、フェニトインナトリウム5%クリームを適用することによって達成される臨床効果と同等の結果が得られた。この効果により、処方されるオキシコドンを1日20mgから10mgに、ガバペンチンを1日2000mgから1600mgに減少させた。
【0170】
2016年10月に、彼女には、フェニトイン濃度が高くなるほど得られる効果がより著名なものとなるかを試験するために、本発明のフェニトイン10%クリームが投与された。フェニトイン10%クリームを適用した後、鎮痛の発現時間は短縮し、驚くべきことに10分から15分以内に彼女はNRSで7から0への疼痛の軽減を経験した。更に、効果の持続時間は、驚くべきことに、本発明のフェニトイン5%クリームの投与後4時間から、本発明のフェニトイン10%クリームの投与後6時間まで増加した。
【0171】
局所クリーム中に5重量%のフェニトインナトリウムを含有する本発明の第1の医薬組成物は、更に、皮膚浸透促進剤セトステアリルアルコール(クリームの6.9重量%)からなっていた。この医薬組成物のpHは11.3であった。各投与中、患者は、各前足部に0.5FTU、すなわち合計約0.5グラム~0.6グラムのクリームを適用した。したがって、そのクリームは約0.025グラム~0.03グラムのフェニトインナトリウムを含有していた。患者は、1日3回、1ヶ月間、本発明のクリームを適用した。
【0172】
局所クリーム中に5重量%のフェニトインナトリウムを含有する本発明の第2の医薬組成物は、更に、皮膚浸透促進剤デシリスオレアス(クリームの19重量%)からなっていた。医薬組成物のpHは4.5であった。患者は、各足に0.5FTU、すなわち合計約0.5グラム~0.6グラムのクリームを適用した。したがって、そのクリームは約0.025グラム~0.03グラムのフェニトインナトリウムを含有していた。患者は、1日3回、1ヶ月間、本発明のクリームを適用した。
【0173】
局所クリーム中に10重量%のフェニトインを含有する本発明の第3の医薬組成物は、更に、皮膚浸透促進剤デシリスオレアス(クリームの18重量%)からなっていた。医薬組成物のpHは3.9であった。患者は、各足に0.5FTU、すなわち合計約0.5グラム~0.6グラムのクリームを適用した。したがって、そのクリームは約0.5グラム~0.6グラムのフェニトインナトリウムを含有していた。患者は、1日2回、1ヶ月間、本発明のクリームを適用した。患者は、寿命の間、すなわち人生の残りの間、本発明のフェニトイン10%クリームを使用し続けることが意図されている。
【0174】
症例10.圧迫神経障害
末梢圧迫神経障害に起因して、1976年以来、右前足部(n.digitalis proprius)の疼痛に罹患していた71歳の女性。夜前ノルトリプチリン30mgでも、彼女は自分の疼痛をNRSで9.5と評価した。疼痛の特徴は、同じ領域における灼熱感、痛みのある冷感、及びしびれ感であった。
【0175】
身体検査により、接触とピンクリックに関する知覚減退が明らかになった。超音波検査により、中足骨関節下で、脂肪室からの脂肪が立位第三趾間でヘルニア化し、それがn.digitalis propriusを圧迫していたことが分かった。超音波検査では、n.digitalis propriusはやや肥厚していた(3.4mm)。
【0176】
治療フェーズ:フェニトイン10%クリームの適用後、鎮痛効果の発現は10分であったと報告され、疼痛はNRSで9.5から6.5へと軽減し、鎮痛効果の持続時間は3時間であった。彼女は疼痛が35%軽減したと述べた。
【0177】
次いで、患者は、フェニトイン20%クリームを含有するチューブを受け取った。このクリームを適用した後、疼痛はNRSで9.5から4.5へと軽減した。患者は疼痛が55%軽減したと報告した。疼痛緩和の持続時間は4.5時間であった。20%クリームを毎日3回適用し、副作用は経験しなかった。
【0178】
患者は、フェニトイン20%クリームの適用後の鎮痛効果の持続時間は、フェニトイン10%クリームの場合の適用後3.5時間とは異なり、6時間であったと本発明者らに述べた。患者は、副作用を経験せずに24時間をカバーするために、1日4回の20%フェニトインクリームの適用を継続した。
【0179】
局所クリーム中に20重量%のフェニトインナトリウムを含有する本発明の医薬組成物は、更に、皮膚浸透促進剤デシリスオレアス(クリームの20重量%)からなっていた。医薬組成物のpHは5.0であった。各投与中、患者は、右前足部に1FTU、すなわち合計約0.5グラム~0.6グラムのクリームを適用した。そのクリームは約0.1グラム~0.12グラムのフェニトインを含有していた。患者は、1日4回、本発明のクリームを適用した。患者は、2ヶ月間、本発明のクリームを適用した。患者は、寿命の間、すなわち人生の残りの間、本発明のクリームを使用し続けることが意図されている。
【0180】
症例11.糖尿病性神経障害性疼痛
2012年以来、II型真性糖尿病に起因する両方の前足部の末梢神経障害性疼痛に罹患していた60歳の女性。彼女はNRSで自分の疼痛を10と評価し、疼痛には、次の特徴、すなわち、灼熱感、電気ショックを受けたような感覚、刺痛感、ピンや針で刺されているような感覚、かゆみ、及び同じ領域にしびれ感があると説明していた。
【0181】
身体検査では、接触とピンクリックに関する知覚減退、軽く撫でているときのアロディニア、両方の前足部で損なわれた温かさと冷たさの識別、及びアキレス腱反射は、認められなかった。
【0182】
神経障害性疼痛に関するDN-4スクリーニング質問票では10のうち9と評価された。
【0183】
過去の鎮痛剤デュロキセチンは、効果がなく、かつ30キロ体重が増加したという副作用のため、中止した。その時点での他の薬剤は1日一回のメトホルミン850mgである。
【0184】
ある日、2つの活性クリーム、すなわち左足のバクロフェン5%クリーム、及び右足のフェニトイン5%クリームを比較して、単純盲検反応試験を行った。患者は右足の疼痛軽減(フェニトイン5%)を経験したが、バクロフェン5%クリームの適用後の左足において疼痛軽減効果はなかった。したがって、更にその後の使用のためにフェニトイン5%クリームを処方し、それにより、NRSで10から6へ疼痛が軽減され、効果の発現は15分であり、鎮痛効果は4時間であった。患者は、副作用を経験せずに、フェニトイン5%クリームを3~4回適用した。
【0185】
上記の最初の単純盲検反応試験から約9ヶ月後に開始して、患者にフェニトイン10%クリームを投与した。約6週間後、患者は、非常に体調が良いと報告した。疼痛強度は、NRSで10から2へと軽減し、持続時間は6時間であり、患者は1日に3回クリームを適用した。作用の発現は15分のままであった。したがって、この症例は、疼痛軽減のレベルに関して、並びに鎮痛の持続時間に関して、その両方においてフェニレン10%クリームを支持する、明らかな用量反応効果を示している。
【0186】
症例12.N-of-1試験SFN
以下の症例は、臨床的単純盲検N-of-1試験に関連して報告する。
【0187】
2012年から、神経科医によって診断されたSFNに罹患していた77歳の女性。彼女は両方の足部に夜間にのみ灼熱痛を経験し、NRSで6の疼痛と評価された。同じ領域にしびれ感が存在した。身体検査により、膝における振動感覚が減少し、足関節と中足骨関節において振動感覚がなく、アキレス腱反射がなく、膝反射が減少し、膝下10cmまで温かさ/冷たさの識別がなく、膝下20cmまでピンクリックと接触に関する知覚減退が存在した、ことが明らかになった。副作用が多過ぎるため、患者はプレガバリンの使用を中止した。
【0188】
その後、彼女は、就寝前に、フェニトイン10%クリームの適用を開始した。彼女は、フェニトイン10%クリームを投与すると、しばしば、10分以内に、疼痛が50%軽減し、NRSは6から3となり、その持続時間はおよそ3.5時間であると報告した。効果が短時間であるため、彼女は夜間にもう一度フェニトイン10%クリームを適用する必要があった。
【0189】
より一貫性のある臨床像を得るために、彼女は0日目から開始されるN-of-1単純盲検試験に参加した。この時点での灼熱痛は夜間にのみ存在した。この単純盲検試験では、それぞれ4、1、2、5及び3の番号を付した試験管にそれぞれ準備した4つの異なる用量のフェニトイン、すなわち5%、10%、15%、及び20%のクリームと、プラセボのクリームとについて比較した。患者は、NRSによる疼痛スコアを評価し、また簡易疼痛問診票(Brief Pain Inventory)のサブスケールによって疼痛による睡眠干渉(0は干渉なし、10は完全干渉)を評価した。患者は、まだ疼痛がない就寝前に、試験管からクリームを適用するように指示された。彼女は、同じ試験管から連続して3日間ずつクリームを適用した。1番から開始して5番で終了した。試験の総継続期間は15日であった。彼女は、効果について予め把握している10%フェニトインクリームを含有する試験管で離脱時療法(escape therapy)を受けた。フェニトイン及びプラセボのクリームが、次の順序で、すなわち10%、15%、プラセボ、5%及び20%で試験された。
【0190】
【表1】
【0191】
フェニトイン10%クリームを適用しない最初の夜、彼女は、疼痛をNRSに基づいて5と評価し、また疼痛による睡眠干渉を記録した。彼女は1日も欠かすことなく連続して毎夜23時30分頃にクリームを適用した。午前3時、彼女は常に疼痛により目を覚まし、かつ/又はトイレに行く必要があった。次いで、睡眠時の疼痛強度及び疼痛干渉を観察し、所見を記録した。プラセボ、5%、10%及び15%を適用した後では、患者は午前3時00分に離脱時用(escape)フェニトイン10%クリームを適用する必要があった。(表1を参照されたい)。
【0192】
フェニトイン20%クリームを適用した後では、患者は、午前3:00にNRSで自分の疼痛を3.5と評価した。疼痛による睡眠干渉はNRSで1.5と明らかに軽減した。彼女はフェニトイン20%クリームを適用した後、離脱時用フェニトイン10%クリームを午前3:00に適用する必要はなかった。彼女は、フェニトイン20%クリームを適用した後の鎮痛の持続時間が、およそ7時間であったことを報告した。
【0193】
したがって、単純盲検N-of-1試験により、フェニトイン20%クリームの適用は、鎮痛について最も長い持続時間(7時間)をもたらし、彼女の睡眠に最も干渉しなかったことが明らかになった。
【0194】
その後の新しい非盲検試験では、一方の足にフェニトイン10%クリーム、もう一方の足に15%又は20%クリームを適用したときの効果を観察するために、患者は10%、15%及び20%の試験管を受け取った。患者は異なるクリームの効果を比較した。患者は何を使用したのかを知っていた。彼女は、77日目に、フェニトイン10%クリームと15%クリームとでは、効果において明確な差がないことを報告した。
【0195】
次に、彼女はフェニトイン10%のクリームと20%のクリームとをそれぞれ違う足で比較した。すると、彼女はフェニトイン20%のクリームを支持する明確な差異を報告した。次に、彼女は、以降の数日間にはフェニトイン20%クリームを適用することを選び、それ以降では明らかに離脱時用クリームを使用する必要がなかった。彼女は、全てのクリームを適用した後、全く副作用を報告しなかった。
【0196】
局所クリーム中に20重量%のフェニトインナトリウムを含有する本発明の医薬組成物は、皮膚浸透促進剤デシリスオレアス(クリームの20重量%)から更に構成される。医薬組成物のpHは5.0であった。各投与中、患者は、各前足部に0.5FTU、すなわち合計約0.5グラム~0.6グラムのクリームを適用した。したがって、そのクリームは約0.1グラム~0.12グラムのフェニトインを含有していた。患者は、1日1回、本発明のクリームを適用した。患者は、2ヶ月間、本発明のクリームを適用した。患者は、寿命の間、すなわち人生の残りの間、本発明のクリームを使用し続けることが意図されている。
【0197】
実施例:皮膚浸透促進剤を含んでいない本発明の医薬組成物
末梢神経障害性疼痛の治療に関する有効性及び効率性を、本発明の2つの医薬組成物について実証する。当該2つの組成物は、皮膚浸透促進剤を全く含んでいない。2つの製剤、すなわち、ワセリン中の、本発明による医薬組成物の10重量%フェニトイン、及びカルボマーゲル中の、本発明による医薬組成物の10重量%フェニトインの、配合及び臨床効果。
【0198】
100グラムのフェニトイン10%ワセリン製剤(表14)を配合するために、10gのフェニトイン粉末を30gのワセリンに添加し、混合する。この混合物をワセリンの融点(およそ50℃)まで加熱して混合し易くする。粒状体が存在しなくなるまで混合する。1回目の混合後の均質なペースト中のフェニトイン濃度は、組成物の重量に基づいて、40重量%である。続いて、更に70gのワセリンを添加し、融点まで加熱し、均質な物質に達するまで再び混合する。運転(steering)しながら物質を冷却する。結果として、良好な塗布性を有し、症例13に関して以下に記載するように所望の臨床効果を誘導する、均質な白色製剤が得られた。
【0199】
フェニトイン10%ゲルを配合するために(表15)、本発明者らは、皮膚浸透促進剤を使用せずに本発明の医薬組成物を調製するために、以下のプロトコルを適用した。すなわち、1つのジャーにおいて、カルボマー974P、エデト酸二ナトリウム及びトロメタモールを混合する(粉末混合物)。別のジャーにおいて精製水をプロピレングリコールと混合する。粉末混合物を、精製水/プロピレングリコール混合物中に分散させる。15分の膨潤時間をとる。フェニトイン粉末を添加する。全ての成分を混合する。
【0200】
症例13.CIAP
下肢部、特に足部の灼熱痛の愁訴を伴うCIAPに罹患していた73歳の男性。灼熱感及びピンや針で刺されているような感覚を特徴とし、その平均疼痛スコアはNRSで7~8であった。座っているときやベッドに横たわっているときに疼痛は悪化した。
【0201】
相談中、彼は、足部灼熱感を経験し、NRSで彼の疼痛は3と評価された。単純盲検プラセボ反応試験を実施した。右足にはプラセボクリーム(1FTU)を適用し、左足には上記(表14)のようにフェニトイン10%ワセリン(1FTU)を適用した。医師から与えられた情報は次のとおりである。「一方の局所製剤は、機能の仕組みが判明していないもののあなたの苦痛を軽減する効果がある可能性があります。他方の局所製剤Iは、作用メカニズムがより明確に分かっているものです。異なる足で試験してください。医師は両方の局所製剤の効果を評価するために30分後に戻ります。」
【0202】
2分後、フェニトイン10%ワセリンの鎮痛効果が認められた。彼は、左足の疼痛をNRSで0.5、右足(プラセボ)の疼痛をNRSで2.5と評価した。明確に、フェニトイン10%ワセリンは、NRSで0.5ポイントの疼痛軽減をもたらしただけのプラセボと比較して、NRSで2.5ポイントのより顕著な疼痛軽減をもたらした。続いて、表6に掲載した組成によるフェニトイン10%クリームを、前述の反応試験における右足(これまでにプラセボが適用された足)に適用した。2分以内に疼痛の軽減が顕著に発現し、20分後に医師が戻ったときには、患者はNRSにおいて2.5ポイントの疼痛軽減を報告した。明らかに、フェニトイン10%ワセリンと、浸透促進剤を含むフェニトイン10%クリームとは、作用の発現に関して同等の効果を有し、かつ同じ鎮痛効果を有していた。両方の組成物の鎮痛効果の持続時間は同程度であり、5~6時間であった。
【0203】
ワセリン中に10重量%のフェニトインを含有する本発明の医薬組成物は、いかなる皮膚浸透促進剤も含まなかった。各投与中、患者は、両足部に2FTU、すなわち約1グラム~1.2グラムの局所鎮痛剤クリームを適用した。それは約0.1グラム~0.12グラムのフェニトインを含有していた。患者は、1日に4回まで局所鎮痛剤を適用するようにという使用説明と共に、彼の寿命の間、すなわち彼の一生の残りの間、本発明の鎮痛製剤を使用し続けることが意図されている。
【0204】
これらの結果は、本発明の医薬組成物中に何らかの皮膚浸透促進剤を存在させることは、末梢神経障害性疼痛の軽減に関し有益な効果を患者に誘導する当該医薬組成物の要件ではないことを示している。
【0205】
症例14.CIPN
2017年6月からCIPNに罹患し、結腸癌のオキサリプラチンによる治療のために両足部に神経障害性疼痛があった72歳の男性。彼は、自分の疼痛をNRSで8と評価し、その疼痛は、同じ領域における、電気ショックを受けたような感覚、ピンや針で刺されているような感覚、刺痛感、及びしびれ感を特徴とした。身体検査により、両足部において、膝までの振動感覚の欠如、膝蓋反射とアキレス腱反射がないこと、ピンクリックに関する知覚減退、及びアロディニアが明らかになった。また、両足部において温冷識別が損なわれていた。
【0206】
単純盲検プラセボ反応試験を実施した。左足にはプラセボクリーム(1FTU)を適用し、右足にはフェニトイン10%ゲル(1FTU)を適用した。フェニトイン10%ゲルは、本明細書で上述したゲルであった(表15)。医師から使用説明は次のとおりである。「一方の局所製剤は、機能の仕組みが判明していないもののあなたの苦痛を軽減する効果がある可能性があります。他方の局所製剤Iは、作用メカニズムがより明確に分かっているものです。異なる足で試験してください。医師は両方の局所製剤の効果を評価するために30分後に戻ります。」
【0207】
15分後、フェニトイン10%ゲルの鎮痛効果が認められた。フェニトイン10%ゲルを適用した領域の疼痛はNRSで8から5.5に軽減し、プラセボクリームを適用した領域の疼痛はNRSで8から7に軽減した。したがって、フェニトイン10%ゲルは、明確に神経障害性疼痛の疼痛軽減をもたらした。
【0208】
これらの結果は、本発明の医薬組成物中に何らかの皮膚浸透促進剤を存在させることは、末梢神経障害性疼痛の軽減に関し有益な効果を患者に誘導する当該医薬組成物の要件ではないことを示している。
【0209】
局所ゲル中に10重量%のフェニトインを含有する本発明の医薬組成物を、各投与中に、両足部に2FTUとして、すなわち約1グラム~1.2グラムのゲルとして患者によって適用された。したがって、そのゲルは約0.1グラム~0.12グラムのフェニトインを含有していた。患者は、1日に6回まで局所鎮痛剤を適用するようにという使用説明と共に、彼女の寿命の間、すなわち彼女の一生の残りの間、本発明のゲルを使用し続けることが意図されている。
【0215】
本発明による例示的な組成物
【0216】
【表2】
【0217】
【表3】
【0218】
【表4】
【0219】
【表5】
【0220】
【表6】
【0221】
【表7】
【0222】
【表8】
【0224】
【表10】
【0225】
理論に拘束されることを望むものではないが、表2~10中の本発明の上記クリームの3つの化合物は、親油性であり、それにより、本発明に従って、表皮の様々な部分への親油性フェニトインの浸透を促進する。その3つの化合物は、セラセトマクロゴリス乳化剤、鉱物油、白色ワセリンである。
【0226】
実施例:神経障害性疼痛に罹患している68名の患者を治療するためのフェニトインクリーム及びフェニトインナトリウムクリーム
神経障害性疼痛は、機能障害性であり、通常は治療が困難である。神経障害性疼痛治療に関するガイドラインは限られた数の治療法しか提供しておらず、ほとんどの介入処置のために必要とされる数としては6~10という期待外れなものであり、現在利用可能な様々な鎮痛剤を処方した後でも多くの患者は疼痛を感じていることを示している。現在治療されている患者の半数以上が1年以内に神経障害性疼痛薬の使用を中止しており、これはおそらく副作用及び/又は期待外れの臨床結果によるものである。今までのところ、リドカイン5%プラスター及びカプサイシン8%プラスターのみが神経障害性疼痛の治療に登録されている。しかしながら、カプサイシン8%プラスターは、3ヶ月毎に外来患者は診療所で適用されなければならず、またリドカイン5%プラスターは、特に高齢患者の足部に適用される場合、取り扱いが面倒である。
【0227】
3年間で、本発明者らは定期的に、神経障害性疼痛に罹患していて、かつ本発明の医薬組成物で治療されている患者に関する詳細な臨床情報を集めた。クリームの総重量に基づいて5重量%のフェニトインを含むクリーム(「フェニトイン5%」、「フェニトインナトリウム5%」)及び/又はクリームの総重量に基づいて10重量%のフェニトインを含むクリーム(「フェニトイン10%」、「フェニトインナトリウム10%」)で治療されていた68名の患者からなるこの治療コホートに関する臨床データを、以下に示す。
【0228】
材料及び方法
前述のフェニトイン5%又はフェニトイン10%のクリームを使用した68名の患者からデータを44ヶ月間収集した。疼痛強度は、11段階の数値評価スケール(NRS)で測定した。社会人口統計データ、診断、及び疼痛の特徴について記述統計学を使用した。神経障害性疼痛のスクリーニングツール(DN-4:Douleur Neuropathique、4つの質問)を使用して疼痛の特徴を決定した。各プロトコルに基づく試験前/試験後比較を、ウィルコクソンの符号順位検定を使用して行った。NRSで測定した30%(中程度の効果:MEC30)及び50%(かなりの効果:MEC50)のベースラインを超えて疼痛緩和の最小有効性基準(MEC)を達成している患者の数を計算した。2つの異なる群(フェニトイン10%使用者及びフェニトイン5%使用者)間の差に関して独立t検定分析を使用した。統計分析はSPSS 22(SPSS Inc.(Chicago,IL,USA))で行った。反応者を早期に識別するために、本発明者らは単純盲検反応試験を開発した。この単純盲検反応試験は単純であり、実施にはわずか1分しか要しなかった。最初に、2つの領域(例えば両足部)に関してNRSによってベースライン疼痛を記録した。次いで、患者は、汚染を避けるために、別々の手で2つの異なる領域に等量のプラセボクリーム及び活性クリームを投与する。患者が、30分以内に活性クリームとプラセボクリームとの間で、NRSの減少において2ポイント差の最小疼痛軽減を経験したとき、当該患者をフェニトイン10%クリームに対する反応者として識別した。16名の患者のサブコホートにおけるフェニトインレベルの決定のために血漿を採取した。クリームの適用1~3時間後に、血液をTmax付近で採取した。
【0229】
結果
2014年1月から2017年10まで、患者を、フェニトインナトリウム5%及びフェニトインナトリウム10%、又はフェニトイン5%及びフェニトイン10%のクリームで治療した。合計で63名の患者を治療し、治療及び治療結果を詳細に記録した。ほとんどの患者は、末梢神経障害に起因する慢性疼痛を有すると神経学者によって診断された。32名の患者は男性(50.8%)であり、31名(49.2%)の患者は女性であった。患者の年齢は43~89歳の範囲であり、平均年齢は68.0歳(SD:10.5)であった。フェニトイン5%又はフェニトイン10%のクリームで治療した患者の診断を表11に要約する。7名の患者はフェニトイン(ナトリウム)5%クリームを使用し、56名の患者は(ナトリウム)10%クリームを使用した。
【0230】
ほとんどの患者において、非盲検又は単純盲検反応試験を実施した。今日まで、このコホートに記載されている患者は、殆ど全てが全く副作用を経験せずに、数週間~34ヶ月の期間中治療されている。
【0231】
DN-4によって定義されるある特定の神経障害性疼痛の特徴を経験している患者を表12に示す。44名(70%)の患者は、3つ以上の神経障害性疼痛の特徴を経験した。
【0232】
表13に、フェニトインクリームの適用に関する様々なパラメータを要約する。
【0233】
【表11】
【0234】
【表12】
【0235】
【表13】
【0236】
適用後の作用の平均発現(知覚可能な疼痛緩和の発現)は、フェニトイン5%クリーム及びフェニトイン10%クリームの両方について約15分であった。鎮痛の平均持続時間は、フェニトイン5%クリームに関してはほぼ5時間であったが、フェニトイン10%クリームで治療した患者は、有効な鎮痛の平均持続時間はほぼ9時間であると報告した。独立t検定を用いたところ、2群間の3.3時間の差は有意なものではなかった(t(59)=0.9,p=0.4)。
【0237】
2名の患者のみが局所的な副作用、すなわち、灼熱感の一時的な悪化を報告し、うち一名の患者では、フェニトイン10%クリーム投与後に赤い丘疹が現れた。しかしながら、この症例において、フェニトイン5%クリームの適用後には副作用はなかった。これらの副作用は一時的なものであり、治療を停止した後には消失した。
【0238】
16名の患者におけるフェニトイン10%クリームの適用数日後に、血漿サンプルを採取した。
【0239】
16名の患者において、フェニトイン10%クリームの適用後にフェニトイン血漿濃度を測定した。ほとんどの患者は、1~2週間にわたってフェニトインクリームを適用して、定常状態に到達した。平均適用日数(SD)[範囲]:14(25.1)、[1~104]。フェニトイン10%クリームの平均(SD)[範囲]1日量は1.4グラム(1.5)[0.3~6.7]であった。血漿サンプリングは、クリームの最後の適用から通常は1.5~3時間後に行った。平均持続時間(SD)、[範囲]:2.3(1.8)、[0.5~8.5]。驚くべきことに、1症例において、6.7グラムのフェニトイン10%クリームを適用した後であっても、フェニトインの血漿レベルは検出されなかった(検出限界未満)。したがって、本発明の製剤は、表皮用製剤として特性評価することができる。
【0240】
患者データは、フェニトインクリームが神経障害性疼痛の治療に有用であることを示している。フェニトインクリームの作用が迅速に発現することから、プラセボクリームと、フェニトイン又はフェニトインナトリウムを含む活性クリームとを皮膚の2つの異なる領域に適用することに基づく単純盲検反応試験により、反応者を非反応者と区別(「層別化」)することが可能である。この方法は、フェニトイン又はフェニトインナトリウムを含む本発明の活性鎮痛剤クリームが、反応者のみに投与されるという利点を有し、したがって、当該方法は、各患者を特異的に対象とした療法を個別化できるという利点を提供する。更に、そのような標的処方は、数週間の初期プラセボ反応の後に患者がクリームに対し非反応者となる可能性を低下させる。ほとんどの経口神経障害性疼痛治療薬では、作用の発現には数日から数週間を要し、それ故に作用の発現は、本発明のフェニトインクリームで経験される作用の発現よりはるかに長い。カプサイシン8%プラスター及び経口プレガバリンの両方ともが、それぞれ7.5日及び36日の作用発現の中央値(≧30%の疼痛軽減)を有する。別の研究では、プレガバリンは、2日目に有意な疼痛軽減を示したことが分かった。また2日目に、胃内に保持されたガバペンチンはプラセボよりも有意に多くの疼痛緩和を示した。リドカイン5%パッチについては、4時間以内に作用の発現が報告された。したがって、現在利用可能な治療方法と比較したとき、平均15分の作用発現は非常に早い。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明の医薬組成物の作用の早い発現は、表皮内の神経終末に対するフェニトインの効果、並びに、ケラチノサイト及び免疫担当細胞に対する潜在的な影響に起因している可能性がある。それらは全て、神経終末及び侵害受容体とクロストークすることが知られている。
【0241】
NRSで少なくとも50%の疼痛軽減を経験する患者の割合はおよそ65%である。
【0242】
フェニトイン10%の鎮痛効果の平均持続時間は8時間を超え、それは1日平均2.3回の適用に相当する。したがって、患者は、1日をカバーするために、朝と夕方に、必要ならば正午にも、本発明のフェニトインクリームを適用することができる。
【0243】
全身性有害反応は報告されていない。この所見は、フェニトイン血漿レベルが、本発明の医薬組成物で治療された患者のデータプールの16名において検出限界を下回っていたという事実と一致している。2名の患者のみが局所的な有害事象を報告した。すなわち、灼熱感の一時的な悪化を報告し、うち一名の患者では、フェニトイン10%クリーム投与後に赤い丘疹が現れた。しかしながら、この症例において、本発明のフェニトイン5%クリームの適用後には局所的な有害事象はなかった。これらの有害事象は一時的なものであり、治療を停止した後に消失した。
【0244】
本発明のフェニトインクリームは安全であり、神経障害性疼痛に罹患している63名の患者コホートにおいて有効である。ほとんどの患者は、それまでに、ガイドラインに記載の鎮痛剤介入に対する非反応者又は部分反応者であったため、このデータは、本発明のかかるクリームが、末梢神経障害性疼痛の治療に有効かつ効率的であることを示している。ほとんどの患者では、作用の発現はおよそ15分である。ほとんどの経口鎮痛剤の投与は十分な疼痛軽減に達するまでに数日から数週間を要する場合があるため、これは特に興味深い。更に、作用の迅速な発現により、単純盲検プラセボ対照反応試験が可能となる。したがって、この単純盲検プラセボ対照反応試験により、臨床医は最初の来診時に反応者を直接識別した後で、本発明のクリームを処方することができる。かかるアプローチは、作用の迅速な発現と共に、コンプライアンスの向上にも寄与する。副作用は希であった。
【0245】
皮膚浸透促進剤を含まない本発明の2つの例示的な医薬組成物における構成成分及びそれらの量は、患者の皮膚に局所投与したときに末梢神経障害性疼痛を軽減するのに有効かつ効果的なものである。
【0246】
表14及び表15の医薬組成物は、それぞれ上で詳細に概説した症例13及び症例14に関するものである。
【0247】
【表14】
【0248】
【表15】
【0249】
症例1~14の結果の概要
以下の表16において、末梢神経障害性疼痛に罹患しているヒト患者の皮膚に局所投与した本発明の医薬組成物の効率性に関する要約を示す。
【0250】
【表16】
【0251】
小分子化合物の態様
表17に、いくつかの皮膚浸透化合物を掲載する。
【0252】
【表17】
【0253】
20名の患者におけるフェニトイン10%クリームによる単純盲検反応試験
上記において、例えば5%、10%及び20%のフェニトインクリームが、ヒト患者の皮膚に局所的に適用されたときに、末梢神経障害性疼痛を治療するのに有効かつ効果的であることを説明してきた。疼痛緩和の発現は30分以内であり、本発明の医薬組成物が患者の皮膚に局所的に投与された場合、患者は、睡眠に関する肯定的な効果を報告してくる。
【0254】
本発明の医薬組成物の有効性を評価する単純盲検プラセボ対照反応試験の要約結果
末梢神経障害性疼痛に罹患している20名の患者に関する単純盲検プラセボ対照反応試験では、フェニトイン10%クリームの有効性を他のパラメータで評価した。ほとんどの患者は、対称性末梢神経障害性疼痛に罹患しており、11ポイントの数値評価スケール(NRS)で少なくとも3の疼痛スコアを有する。この単純盲検反応試験では、患者は、フェニトイン10%の鎮痛効果を、通常は両足部の異なる疼痛領域に適用されるプラセボクリームと比較した。反応により、フェニトイン10%クリーム及びプラセボクリームが適用された領域間でNRSによって測定された疼痛軽減差は2ポイントであったととらえられた。反応者はその後フェニトイン10%クリームを処方された。20名の患者のうち、75%はフェニトイン10%クリームに対する反応者であった。フェニトイン10%クリーム領域においてNRSで測定された平均軽減は3.4(SD:1.3)であり、プラセボクリーム領域では1.2(SD:1.2)であった。フェニトイン10%クリームとプラセボクリームとの間の平均疼痛軽減率の差は37.0%であった(SD:23.1、p<0.001)。完全な反応基準としてNRSで50%軽減させるとき、フェニトイン10%クリームでは60%の反応者があり、プラセボクリームでは10%のみ反応者が存在した。単純盲検反応試験は、患者及びその臨床医が適切な治療法を迅速に特定し、個別化医療を確立するのに役立った。
【0255】
本発明の医薬組成物の有効性を評価する単純盲検プラセボ対照反応試験の詳細な結果
合計で20名の患者が単純盲検プラセボ対照反応試験に参加した。9名の患者は女性(45%)であり、11名の患者は男性であった(55%)。患者の年齢は49~89歳の範囲であり、平均年齢は66.2歳(SD:9.6)であった。表18に診断を要約する。ほとんどの患者(N=12、60%)は、両足部においてのみ神経障害性疼痛を経験した。表19に他の部位を要約する。神経障害性疼痛の持続時間は1~150ヶ月の範囲であり、平均持続時間は47.4ヶ月(SD:43.5)であった。
【0256】
【表18】
【0257】
フェニトイン10%領域におけるNRSの平均軽減度は3.4(SD:1.3)であり、プラセボ領域は1.2(SD:1.2)であった。フェニトイン10%クリームとプラセボクリームとの間の平均疼痛軽減度の差は37.0%(SD:23.1、p<0.001)であった。ウィルコクソンの符号順位検定は、スコア間に有意差(Z=-3.828、p<0.001)が存在することを示した。合計で、75%の患者が、フェニトイン10%クリームを支持し、NRSで少なくとも2ポイントの疼痛軽減の差を経験した。正確なマクネマー検定では、フェニトイン10%クリーム及びプラセボクリームの適用後、MEC50の割合には統計的な有意差が存在していることが判定された。p=0.002(表20参照を参照されたい)。同じことがMEC30についても当てはまる。p<0.001(表3を参照されたい)。
【0258】
【表19】
【0259】
【表20】
ウィルコクソンの符号順位検定†p<0.001、マクネマー検定p=0.002、マクネマー検定**p<0.001
【0260】
この患者20名のコホートのうち6名の患者において、フェニトイン10%クリームの適用の1~2週間後に、フェニトイン血漿レベルを測定した。最後の適用の1.5~3時間後に血漿サンプリングを行った。フェニトイン血漿レベルは検出されなかった(検出限界未満)。他の患者10名では、一症例においては6.7グラムのフェニトイン10%クリームを適用した後さえでも、血漿レベルは検出されなかった。
【0261】
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