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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】安定な調節性T細胞の単離及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20230418BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230418BHJP
【FI】
C12N5/0783
C12Q1/06
A61P37/06
A61P29/00
A61P3/10
A61P25/00
A61P37/02
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P7/06
A61P7/04
A61P17/06
A61P1/04
A61P37/08
A61P11/06
A61K35/17
【請求項の数】 35
(21)【出願番号】P 2019553877
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2018058211
(87)【国際公開番号】W WO2018178296
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-10
(31)【優先権主張番号】17163525.3
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511111046
【氏名又は名称】シュティッヒティング・サンコン・ブロードフォールジーニング
(73)【特許権者】
【識別番号】516363112
【氏名又は名称】シュティッヒティング・ヘト・ネーデルランズ・カンケル・インスティテュート-アントニ・ファン・レーウェンフック・ゼィーケンハイス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】デルク・アムゼン
(72)【発明者】
【氏名】エロワ・クアドラド・ゴディア
(72)【発明者】
【氏名】ヤンネチェ・ヘルトラウダ・ボスト
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-504370(JP,A)
【文献】特表2007-518404(JP,A)
【文献】特表2016-532865(JP,A)
【文献】The Journal of Immunology,2013;190(5),pp.2001-2008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPA33+調節性T細胞について細胞の集団を濃縮する方法であって、
a.細胞の集団を、GPA33に結合する能力がある剤と接触させる工程、
b.前記細胞のGPA33に結合する能力がある前記剤への結合を決定する工程、及び
c.細胞の前記集団におけるGPA33の発現の平均レベルより高い、GPA33の発現のレベルを有するCD4+T細胞を選択し、及び/又は単離する工程
を含む方法。
【請求項2】
調節性T細胞を単離する方法であって、CD4+GPA33+T細胞を細胞試料から単離する工程を含む方法。
【請求項3】
CD4+CD25+CD127-GPA33+細胞を選択し、及び/又は単離する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
CD4+CD25+CD127-GPA33+又はCD4+CD25+CD127GPA33+細胞を選択し、及び/又は単離する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
細胞の前記集団又は前記試料が、哺乳類の血液、滑液若しくはリンパ液を含むか、又は哺乳類の血液、滑液若しくはリンパ液から得られるT細胞を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記血液が、臍帯血又は末梢血である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記単離する工程又は接触させる工程が、前記試料又は細胞の集団を、GPA33に特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントと接触させる工程を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞の増殖、活性化及び/又は増加を促進する1つ又は複数の因子の存在下で単離された細胞を培養する工程を更に含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
調節性T細胞を同定する方法であって、細胞をCD4及びGPA33の発現について解析する工程を含み、CD4+GPA33+発現パターンが、調節性T細胞又は調節性T細胞の集団の指標である、方法。
【請求項10】
記細胞が、腫瘍又は腫瘍試料から得られる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
調節性T細胞を検出する方法であって、試料における細胞をCD4及びGPA33の発現について解析する工程を含み、CD4+GPA33+発現パターンが、調節性T細胞又は調節性T細胞の集団の指標である、方法。
【請求項12】
前記試料を、抗CD4抗体又はその抗原結合フラグメント及び抗GPA33抗体又はその抗原結合フラグメントと接触させる工程、及び前記試料における細胞と前記抗CD4抗体又はその抗原結合フラグメント及び前記抗GPA33抗体又はその抗原結合フラグメントの間での結合を検出する工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記試料が、自己免疫疾患に罹患している個体由来の試料である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記試料が、未知の自己免疫疾患に罹患している個体由来の試料である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記試料におけるCD4+GPA33+細胞のレベルを定量する工程を含む、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
CD4+CD25+GPA33+細胞のレベルを定量する工程を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
自己免疫疾患を調節性T細胞不全により特徴付けられる自己免疫疾患として分類する方法であって、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法に従い、自己免疫疾患に罹患している個体由来の試料におけるCD4+CD25+GPA33+細胞のレベルを定量する工程、及び前記レベルを参照試料におけるCD4+CD25+GPA33+細胞のレベルと比較する工程を含み、参照試料と比較したCD4+CD25+GPA33+細胞の低減が、調節性T細胞不全によって特徴づけられる免疫疾患の指標である、方法。
【請求項18】
前記参照試料が健常個体由来の試料である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
調節性T細胞についてのマーカーとしてのGPA33の使用。
【請求項20】
細胞の少なくとも80%がCD4+GPA33+調節性T細胞である、細胞の単離された集団。
【請求項21】
前記細胞が、CD4+CD25+CD127-GPA33+又はCD4+CD25+CD127GPA33+細胞である、請求項20に記載の細胞の集団。
【請求項22】
請求項20又は21に記載の細胞の集団、並びに医薬的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項23】
療法における使用のための、CD4+GPA33+T細胞又は請求項20又は21に記載の細胞の集団。
【請求項24】
免疫応答の抑制において使用するための、CD4+GPA33+T細胞又は請求項20又は21に記載の細胞の集団。
【請求項25】
移植片対宿主疾患(GVHD)、移植片拒絶、慢性炎症状態又は自己免疫疾患の処置、緩和又は予防における使用のための、CD4+GPA33+T細胞又は請求項20又は21に記載の細胞の集団。
【請求項26】
それを必要とする対象において免疫応答を抑制するための、CD4+GPA33+T細胞、又は、請求項20又は21に記載の細胞の集団を含む医薬組成物。
【請求項27】
移植片対宿主疾患(GVHD)、移植片拒絶、慢性炎症状態若しくは自己免疫疾患の処置、緩和又は予防するためのCD4+GPA33+T細胞又は請求項20又は21に記載の細胞の集団を含む医薬組成物。
【請求項28】
前記状態又疾患が、1型糖尿病、多発性硬化症(MS)、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ、乾癬性関節炎、骨関節炎、強直性脊椎炎、再生不良性貧血、血小板減少性紫斑病、グレーブス病、アジソン病、乾癬、ぶどう膜炎、自己免疫性溶血性貧血、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、アレルギー状態及び喘息状態からなる群から選択される、請求項25に規定の使用のためのCD4+GPA33+T細胞もしくは細胞の集団、又は、請求項27に記載の医薬組成物
【請求項29】
癌に罹患している個体を不良な予後又は良好な予後を有すると分類する方法であって、
a)腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33+T細胞のレベルを決定する工程、
b)参照試料におけるCD4+CD25+GPA33+T細胞のレベルを決定する工程、及び
c)a)において決定された前記腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33+T細胞のレベルをb)において決定された前記参照試料におけるCD4+CD25+GPA33+T細胞のレベルと比較する工程
を含み、
前記参照試料におけるCD4+CD25+GPA33+T細胞のレベルより高い、前記腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33+T細胞のレベルが、不良な予後の指標である
方法。
【請求項30】
癌に罹患している個体における療法に対する応答を予想する方法であって、
a)腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33+T細胞のレベルを決定する工程、
b)参照試料におけるCD4+CD25+GPA33+T細胞のレベルを決定する工程、及び
c)前記腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33+T細胞のレベルを前記参照試料におけるCD4+CD25+GPA33+T細胞のレベルと比較する工程
を含み、
前記参照試料におけるCD4+CD25+GPA33+T細胞のレベルより高い、前記腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33+T細胞のレベルが、療法に対する不良な応答の指標である
方法。
【請求項31】
腫瘍試料及び参照試料におけるCD4+T細胞の総集団におけるCD4+CD25+GPA33+T細胞のパーセンテージが、決定され、参照試料におけるCD4+CD25+GPA33+T細胞のパーセンテージより高い腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33+のパーセンテージが、不良な予後又は療法に対する不良な応答の指標である、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項32】
前記参照試料における比又はパーセンテージの中央値+(2×標準偏差)より高い前記腫瘍試料において決定された比又はパーセンテージが、不良な予後の指標である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記腫瘍試料及び前記参照試料が、単離された細胞、又は1つ若しくは複数の組織切片を含む、請求項29から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記参照試料が、前記個体由来の、前記腫瘍の周囲の健常組織の試料又は前記腫瘍を含有する組織と同じタイプの組織の健常組織の試料である、請求項29から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
癌が、結腸直腸癌であり、参照試料が、健常な結腸直腸組織の試料である、請求項29から33のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定な調節性T細胞の集団、その使用及び調節性T細胞を同定し、定量し、単離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系は、外来の侵入者に対して我々の身体を保護し、通常CD4 T細胞(Tconv)が、この防御機能において重要である。しかしながら、免疫系は、それがまさに保護するはずの身体を対象としてしまうこと(自己免疫疾患中に)、又は無害若しくは有用でさえある微生物(例えば、我々の腸にいる細菌)を攻撃することを防ぐために、注意深く制御されなければならない。免疫系の主要な制御因子は、調節性T細胞(Treg)としても知られている、第2のタイプのCD4 T細胞である。Tregは免疫を抑制し、したがって、免疫寛容、過剰な免疫及び組織修復の予防に重要である。
【0003】
Tregのアイデンティティーは、転写因子Foxp3により組み込まれる。2つの根本的に異なるタイプのTregが存在する。胸腺の(t)Tregは、胸腺においてT細胞発生中に自己反応性CD4 T細胞の正の選択から生じる。tTregは、Foxp3発現及びTregの運命に安定的にコミットされており、通常T細胞とは別の系統を構成する。第2のタイプのTregは、(外来)抗原に対するそれらの応答中にFoxp3発現を獲得しTregに変換される成熟CD4 Tconvから生じる。これらの抹消で誘導されたTreg(iTreg)は、不安定である。炎症シグナルに曝露されるとき、iTregは、Foxp3発現を失い、Tconvアイデンティティー及び機能を回復し得る。
【0004】
世界中で、自己免疫疾患(例えば、I型糖尿病及び多発性硬化症)の処置のためにTregを使用するため、並びに臓器移植の拒絶を防ぐための多大な努力が成されている。この目的のため、Tregは、ドナーから単離され、インビトロで拡大され、患者に注入される。現在、(安定な)tTregと(不安定な)iTregの間での区別を可能にするマーカーは存在しない。一般に、Tregは、現在、CD25の高発現及びCD127の不存在に基づき、CD4+T細胞から単離される。特に、CD127の発現特性には、Tconvを厳格に除外するのに十分な識別力はないので、これらの単離基準は、通常CD4+T細胞の混入の包含をもたらす。更に、TregのCD127-CD25集団は、安定なtTregと不安定なiTregの混合物を含有し、後者は、炎症シグナルの影響下でTconvに分化することがある。Tregが患者に養子移植される療法において、Tconvと不安定なTregの存在の両方は、これらの細胞がレシピエントを攻撃し得るのでリスクをもたらす。
【0005】
CD39、LAP及びGARPを含む、機能的Tregの多数のマーカーが同定されている。これらのマーカーは、活性化Tregにおいて見出され、それらが、安定なTregと不安定なTregの間を区別するという証拠はない。
【0006】
加えて、Tregを用いた養子細胞療法の難題の1つは、選別されたTreg集団が安定でないことであり、インビトロ拡大中に、混入したTconvが、Tregよりも過剰に増加し得、iTregが、そのTregアイデンティティーを失い得る。この問題を回避するために、Tregは、現在、通常T細胞の増加を阻害するが、依然として、Tregの生存及び増加を可能にする薬物ラパマイシンの存在下で拡大される。しかしながら、ラパマイシンに対しTregが相対的に寛容であるにもかかわらず、この薬物の包含は、Tregの拡大率を抑制し、それらの機能特性を変化させ得る。更に、患者への注入後、ラパマイシンは、選択圧を維持するのに利用できない。
【0007】
したがって、現在使用されているマーカーは、純粋な安定なTregの精製を可能にするのに十分ではなく、それ故、Treg調製物は、レシピエントに対する有害な活性を発生し得る細胞を含む。それ故、安定なTreg、特に、インビトロでの拡大後に調節性T細胞機能を維持する安定なTregの改善された単離、精製及び同定方法が依然として必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Heath, J.K.ら、1997年
【文献】Saitoら、2016年
【文献】Cox, J.及びM. Mann、2008年
【文献】Wisniewski, J.Rら、2014年
【文献】Miyara, M.ら、2009年
【文献】Pesenacker, A.M.ら、2013年
【文献】Ayyoub, M.ら、2009年
【文献】Saito, T.ら、2016年
【文献】Wan, Y.Y.及びR.A. Flavell、2007年
【文献】Feng, Y.ら、2014年
【文献】Thornton, A.M.ら、2010年
【文献】Himmel, M.E.ら、2013年
【文献】Hippen, K.L.ら、2011年
【文献】Trzonkowski, P.ら、2015年
【文献】Bluestone, J.A.ら、2015年
【文献】Sakaguchi, S.ら、2008年
【文献】Kanamori, M.ら、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
安定な調節性T細胞集団、特に、インビトロでの拡大後及び患者への投与後にそれらの調節性T細胞機能を維持するTregの集団を提供することが、本発明の目的である。安定なTregの改善された同定、単離、精製及び/又は濃縮方法を提供することが、本発明の更なる目的である。これらのTregは、例えば、養子免疫療法における使用に適当である。かかる安定なTregが、特に、癌及び自己免疫疾患において疾患及び処置応答の予後並びに/又は診断において使用される方法を提供することが、本発明の更なる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
それ故、本発明は、調節性T細胞について細胞の集団を濃縮する方法であって、
a.細胞の集団を、GPA33に結合する能力がある剤と接触させる工程、
b.当該細胞のGPA33に結合する能力がある当該剤への結合を決定する工程、及び
c.細胞の当該集団におけるGPA33の発現の平均レベルより高い、GPA33の発現のレベルを有するCD4+T細胞を選択し、及び/又は単離する工程
を含む方法を提供する。
【0011】
調節性T細胞について細胞の集団を濃縮する方法であって、
a.細胞の集団を、CD4に結合する能力がある剤及びGPA33に結合する能力がある剤と接触させる工程、及び
b.当該細胞のCD4及びGPA33に結合する能力がある当該剤への結合を決定する工程、
c.CD4に結合する能力がある当該剤に結合し、細胞の当該集団におけるGPA33の発現の平均レベルより高い、GPA33の発現のレベルを有する細胞を選択し、及び/又は単離する工程
を含む方法もまた提供される。
【0012】
当該調節性T細胞は、好ましくは、安定な調節性T細胞である。細胞の当該集団に存在するCD4+細胞におけるGPA33の発現の平均レベルより高い、GPA33の発現のレベルを有する細胞が、選択され、及び/又は単離されることが、更に好ましい。CD4+T細胞におけるGPA33の発現の平均レベルより高い、GPA33の発現のレベルを有するCD4+細胞が、選択され、及び/又は単離されることが、更に好ましい。故に、細胞の集団は、好ましくは、T細胞を含み、より好ましくは、CD4+T細胞を含む。当該T細胞、より好ましくは、CD4+T細胞は、好ましくは、哺乳類の血液、滑液又はリンパ液から得られ、当該血液は、好ましくは、臍帯血又は抹消血である。選択され、及び/又は単離される細胞が、CD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞であることが、更に好ましい。故に、細胞の集団が、CD25に結合する能力がある剤及びCD127に結合する能力がある剤と更に接触されること、及びCD25に結合する能力がある剤に結合し、CD127に結合する能力がある剤に本質的には結合しないか、又はCD127に結合する能力がある剤への弱い結合を示す細胞が、選択され、及び/又は単離されることが、好ましい。
【0013】
更なる態様において、本発明は、調節性T細胞を単離する方法であって、CD4+GPA33T細胞を細胞試料から単離する工程を含む方法を提供する。当該調節性T細胞は、好ましくは、安定な調節性T細胞である。単離される細胞が、CD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞であることが、更に好ましい。
【0014】
更なる態様において、本発明は、調節性T細胞を同定する方法であって、CD4+T細胞をGPA33の発現について解析する工程を含み、CD4+GPA33発現パターンが、調節性T細胞又は調節性T細胞の集団の指標である、方法を提供する。好ましくは、CD25の発現が、更に解析され、CD4+CD25+GPA33高発現パターンが、調節性T細胞又は調節性T細胞の集団の指標である。
【0015】
調節性T細胞を同定する方法であって、細胞をCD4及びGPA33の発現について解析する工程を含み、CD4+GPA33発現パターンが、調節性T細胞又は調節性T細胞の集団の指標である方法もまた、提供される。当該調節性T細胞は、好ましくは、安定な調節性T細胞である。単離される細胞が、CD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞であることが、更に好ましい。
【0016】
更なる態様において、本発明は、調節性CD4+T細胞を検出する方法であって、細胞をGPA33の発現について解析する工程を含み、CD4+GPA33発現パターンが、調節性T細胞又は調節性T細胞の集団の指標である、方法を提供する。調節性T細胞を検出する方法であって、細胞をCD4及びGPA33の発現について解析する工程を含み、CD4+GPA33発現パターンが、調節性T細胞又は調節性T細胞の集団の指標である、方法もまた提供される。検出される当該調節性T細胞は、一実施形態において、安定な調節性T細胞であり、CD4+GPA33細胞の存在が、安定な調節性T細胞の指標である。検出される細胞が、CD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33であり、発現パターンが、調節性T細胞又は調節性T細胞の集団の指標であることが、更に好ましい。
【0017】
更なる態様において、本発明は、本発明による方法を用いて単離されるか、又は得られる細胞の集団を提供する。
【0018】
更なる態様において、本発明は、細胞の少なくとも75%がCD4+GPA33調節性T細胞である、細胞の単離された集団を提供する。
【0019】
更なる態様において、本発明は、本発明による調節性T細胞の集団並びに医薬的に許容される担体、希釈剤及び/又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0020】
更なる態様において、本発明は、試料における調節性T細胞を検出する方法であって、試料を、抗CD4抗体又はその抗原結合フラグメント及び抗GPA33抗体又はその抗原結合フラグメントを接触させること、並びに当該試料における細胞と当該抗CD4抗体又はその抗原結合フラグメント及び当該抗GPA33抗体又はその抗原結合フラグメントの間の結合を検出することにより、CD4+GPA33細胞が試料に存在するかどうかを検出する工程を含む方法を提供する。
【0021】
更なる態様において、本発明は、調節性T細胞についてのマーカーとしてのGPA33の使用を提供する。
【0022】
更なる態様において、本発明は、療法における使用のための本発明によるCD4+GPA33T細胞又は細胞の集団を提供する。当該細胞は、好ましくは、細胞の当該集団であり、細胞の当該集団は、好ましくは、少なくとも75%のCD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞を含む。
【0023】
更なる態様において、本発明は、免疫応答の抑制における使用のための本発明によるCD4+GPA33T細胞又は細胞の集団を提供する。当該細胞は、好ましくは、細胞の当該集団であり、細胞の当該集団は、好ましくは、少なくとも75%のCD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞を含む。
【0024】
更なる態様において、本発明は、移植片対宿主疾患(GVHD)、移植片拒絶、慢性炎症状態又は自己免疫疾患の処置、緩和又は予防における使用のための本発明によるCD4+GPA33T細胞又は細胞の集団を提供する。当該細胞は、好ましくは、細胞の当該集団であり、細胞の当該集団は、好ましくは、少なくとも75%のCD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞を含む。
【0025】
更なる態様において、本発明は、それを必要とする対象において免疫応答を抑制する方法であって、対象に治療上有効量の本発明によるCD4+GPA33T細胞、細胞の集団又は本発明による医薬組成物を投与する工程を含む方法を提供する。当該細胞は、好ましくは、細胞の当該集団であり、細胞の当該集団は、好ましくは、少なくとも75%のCD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞を含む。
【0026】
更なる態様において、本発明は、移植片対宿主疾患(GVHD)、移植片拒絶、慢性炎症状態又は自己免疫疾患の処置、緩和又は予防する方法であって、それを必要とする対象に本発明によるCD4+GPA33T細胞又は細胞の集団を投与する工程を含む方法を提供する。当該細胞は、好ましくは、細胞の当該集団であり、細胞の当該集団は、好ましくは、少なくとも75%のCD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞を含む。
【0027】
更なる態様において、本発明は、それを必要とする対象において免疫応答を抑制するための医薬の製造における本発明によるCD4+GPA33T細胞、細胞の集団又は本発明による医薬組成物の使用を提供する。当該細胞は、好ましくは、細胞の当該集団であり、細胞の当該集団は、好ましくは、少なくとも75%のCD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞を含む。
【0028】
更なる態様において、本発明は、移植片対宿主疾患(GVHD)、移植片拒絶、慢性炎症状態又は自己免疫疾患の処置、緩和又は予防のための医薬の製造のための本発明によるCD4+GPA33T細胞又は細胞の集団の使用を提供する。当該細胞は、好ましくは、細胞の当該集団であり、細胞の当該集団は、好ましくは、少なくとも75%のCD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞を含む。
【0029】
更なる態様において、本発明は、自己免疫疾患を調節性T細胞不全により特徴付けられる自己免疫疾患として分類する方法であって、請求項11又は12に記載の方法に従い、自己免疫疾患に罹患している個体由来の試料におけるCD4+GPA33細胞のレベルを定量する工程、及び当該レベルを参照試料におけるCD4+GPA33細胞のレベルと比較する工程を含み、好ましくは、当該参照試料が健常個体由来の試料である、方法を提供する。好ましくは、方法は、請求項11又は12に記載の方法に従い、自己免疫疾患に罹患している個体由来の試料におけるCD4+CD25+GPA33細胞のレベルを定量する工程、及び当該レベルを参照試料におけるCD4+CD25+GPA33細胞のレベルと比較する工程を含み、好ましくは、当該参照試料が健常個体由来の試料である。
【0030】
更なる態様において、本発明は、癌における予後についてのマーカーとしてのGPA33の使用を提供する。
【0031】
更なる態様において、本発明は、癌に罹患している個体を不良な予後又は良好な予後を有すると分類する方法であって、
a)腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを決定する工程
b)参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを決定する工程、及び
c)a)において決定された当該腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルをb)において決定された当該参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルと比較する工程
を含み、
当該参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルより高い、当該腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルが、不良な予後の指標である
方法を提供する。
【0032】
更なる態様において、本発明は、癌に罹患している個体の腫瘍試料をタイピングする方法であって、
a)腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを決定する工程
b)参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを決定する工程、及び
c)当該腫瘍試料及び当該参照試料において決定されたCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルに基づき、当該腫瘍試料をタイピングする工程
を含む方法を提供する。
【0033】
更なる態様において、本発明は、癌に罹患している個体における療法に対する応答を予想する方法であって、
a)腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを決定する工程
b)参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを決定する工程、及び
c)当該腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを当該参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルと比較する工程
を含み、
当該参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルより高い、当該腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルが、療法に対する不良な応答の指標である
方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
Tregは、細胞表面マーカーにより特徴付けることができる。Tregの大部分は、CD4及び高レベルのCD25(インターロイキン-2受容体アルファ鎖)を発現する。加えて、CD4及びCD25発現の存在との組合せでのCD127の不存在又は低レベルの発現は、Tregについてのマーカーとして使用される。更に、Tregは、フォークヘッドファミリー転写因子ボックスp3(Foxp3)の発現により特徴付けられる。FoxP3は、Treg系統を支配する転写因子である。全てのTregは、この因子を発現し、その安定な発現は、Treg機能に重要である。FoxP3発現の喪失は、通常T細胞への変換をもたらす。Tregと関連する第2の転写因子は、ヘリオスである。しかしながら、全てのTregが、この転写因子を発現するわけではない。マウスTregにおいて、ヘリオスの発現は、安定なtTregを印づける。しかしながら、ヒトTregにおいて、ヘリオスの発現は、活性化の際にヘリオス- Tregにおいて誘導され得、したがって、それは、tTregについての信頼を欠くマーカーである。これらの転写因子の発現を使用して、養子免疫療法のための生存可能なTregを単離することはできない。これらの分子は細胞内に存在するので、それらの検出は、それらの生存能と両立しない、細胞膜の透過処理及び細胞の固定手法を要求する。
【0035】
本発明者らは、細胞表面分子糖タンパク質A33(GPA33)を調節性T細胞のサブセット、特に、CD4+調節性T細胞についてのマーカーとして同定した。GPA33が、安定な調節性T細胞において選択的に高度に発現され、通常CD4+T細胞及び誘導されたTregを含む、他のタイプのT細胞では発現されないことが、見出された。
【0036】
本明細書において使用される、「通常T細胞」は、例えば、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞及びメモリーT細胞を含む、免疫系を活性化する全てのT細胞をまとめて指す。用語「通常CD4+T細胞」は、それらの細胞表面上でCD4を発現するような通常T細胞を指す。用語、調節性T細胞、Treg細胞及びTregは、本明細書において互換的に使用される。本明細書において先に記載された通り、Tregを含む、T細胞は、細胞表面マーカーの存在及び/又は不存在により特徴付けることができる。Tregのような、T細胞上での細胞表面マーカーの存在はまた、T細胞上でのマーカーの発現として言及され、すなわち、T細胞はマーカーを発現する。本明細書において使用される「細胞表面マーカー」は、通常T細胞又はTreg細胞のような、特定のタイプの細胞の表面に存在する抗原決定基又はエピトープを指す。同様に、マーカーの「発現すること」又は「発現」は、特定のタイプの細胞の表面上でのかかる抗原決定基又はエピトープの存在を指す。細胞表面マーカーは、それに結合する剤を用いて標的化することができる。したがって、細胞表面マーカーは、細胞表面マーカーに特異的に結合する剤により、特定のタイプの細胞の表面上で見出される抗原決定基又はエピトープを介して認識され、検出され得る。例えば、細胞の表面上のマーカーは、特定のマーカーに特異的な抗体が結合し得る。
【0037】
本明細書において使用される、用語「安定なTreg」は、Tregとしてコミットされ、IL-1、IL-6及び/又はTNFαの影響下のような、環境要因又は変化の影響下でTreg以外のT細胞タイプに分化しないTregを指す。これらの安定なTregはまた、それらは、胸腺由来の安定なTregに限定されないが、それらは、典型的には胸腺から生じると考えられるので、本明細書において、胸腺のTreg又はtTregとして言及される。これらの安定なTregが、依然としてTregのままであるという事実は、例えば、FOXP3及びヘリオスの継続した発現により証明される。故に、本明細書において使用される安定なTreg又はtTregは、FOXP3+ヘリオス+であるT細胞である。本明細書において使用される、用語「不安定なTreg」は、通常T細胞、特に、通常CD4+T細胞として生じ、胸腺外でTregに変換されるか、又は誘導されたTregを指す。それ故、これらの不安定なTregはまた、誘導されたTreg又はiTregとして言及される。tTregとは異なり、これらのiTregは、Treg細胞タイプに不可逆的にはコミットされず、それらは、通常T細胞機能を、例えば、炎症シグナル(例えば、IL-1、IL-6及びTNFα)のような環境要因の影響下で回復することができる。これらのiTregは、通常T細胞機能を回復すると、それらはもはやFOXP3を発現しない。
【0038】
上で記載された通り、本発明者らは、安定なTreg(又はtTreg)を不安定なTreg(又はiTreg)から区別するため使用することができる細胞表面マーカー、GPA33を同定した。このマーカーを使用して、高発現のGPA33により特徴付けられる安定なTregの集団を同定し、得ることができ、一方、マーカーCD4、CD25及びCD127に基づく、現在使用されるストラテジーを用いて、安定なTregと不安定なTregの混合物が得られる。上で示された通り、後者は、例えば、炎症誘発因子の影響下で通常T細胞機能を回復することができる。特に、処置された患者は、頻繁に炎症性疾患を示すので、かかる因子は、投与後、患者の体内に存在する。故に、現在知られているマーカーを使用して単離されたTregの集団に存在する不安定なTregは、免疫応答の抑制を目的とする療法において望ましくない、患者における免疫系を活性化する通常T細胞の存在及び/又は発生をもたらし得る。更に、インビトロでのT細胞の拡大中、通常T細胞は、一般に、Tregより迅速に増殖する。結果として、Tregの通常T細胞に対する比は、拡大中に徐々に減る。したがって、開始集団における微量の通常T細胞でさえ、大きい細胞数に拡大し得る、すなわち、Tregよりも通常T細胞の増加が過剰になり得る。現在、Tregは、通常T細胞の増加を抑制するがTregの増加及び他の特性に負に影響し得るラパマイシンの存在下で拡大される。それ故、安定なTregにおける出来るだけ純品としての集団で、インビトロでの拡大を開始することが非常に望ましい。本発明に従いGPA33を発現するCD4+T細胞を単離することにより、通常CD4 T細胞と不安定なTregの両方を最小にすることができる。加えて、高いGPA33発現に基づくTregの選択は、Tregの拡大率及びそれらの機能特性に負に影響する化合物であるラパマイシンの存在下でのTregの拡大の必要性を排除する。
【0039】
GPA33は、正常な胃腸上皮において発現する膜貫通型タンパク質である。それは、大腸癌の95%において発現することが見出されている。成熟タンパク質は、213個のアミノ酸の細胞外領域、膜貫通型ドメイン、及び62個のアミノ酸の細胞内末端を有する。GPA33は、免疫グロブリンスーパーファミリのCD2サブグループの特徴である、Ig様C2タイプドメイン及びIg様Vタイプドメインを細胞外で含有する。GPA33は、細胞と細胞の認識及びシグナル伝達において役割を果たし得る。T細胞上でのGPA33の発現は、従前に報告されていない。更に、それは、T細胞の一般的なサブセット又は特定のサブセットにおいてT細胞のマーカーとして従前に認識されていない。GPA33に対する抗体は、例えば、Abcam社、Sigma-Aldrich社、Novus Biologicals社、R&D Systems社及びLifeSpan BioSciences社から市販されている。加えて、GPA33に対する抗体は、Heath, J.K.ら、1997年において記載されている。
【0040】
第1の態様において、本発明は、細胞の少なくとも75%がCD4+GPA33調節性T細胞である、細胞の単離された集団を提供する。かかる集団はまた、本明細書において、本発明による調節性T細胞の集団として、本発明によるTregの集団として、又は本発明による集団として言及される。本明細書において使用される「調節性T細胞の集団」又は「細胞の少なくとも75%がCD4+GPA33調節性T細胞である細胞の集団」は、複数の調節性T細胞(Treg)を指す。好ましくは、集団は、少なくとも100個のTreg、より好ましくは、少なくとも103、104、105、106、107、108、109、1010、又は1011個のTregを含む。細胞の集団は、特定の実施形態において、少なくとも105個のTreg、例えば、105~107個のTreg、106~108個のTreg、又は105~1011個のTregを含む。T細胞を含有する任意の供給源を使用して、CD4及びGPA33を発現するTregを単離して、本発明によるTregの単離された集団を得ることができる。好ましくは、集団は、抹消血若しくは臍帯血のような血液から、又は滑液若しくはリンパ液から得られる。しかしながら、本発明によるTregの集団はまた、胸腺、脾臓、リンパ節、骨髄及びパイエル板のような組織から、又は新生児の臍帯血から得ることができる。
【0041】
本明細書において使用される「単離された」は、それらの天然の環境から取り出されているTregを指す。好ましくは、それは、血液、滑液若しくはリンパ液のような体液に、又は組織に存在する成分のような他の細胞タイプを含む他の成分から分離されるか、又は精製されたTreg集団を指す。
【0042】
本発明による細胞の単離された集団は、少なくとも75%のCD4+GPA33調節性T細胞を含む。典型的には、ヒトにおいて、循環CD4+T細胞の約1~5%が、Tregであり、そのおよそ40%が、安定なtTregである。現在使用される、CD4の発現、CD25の発現及びCD127発現を欠くか又は低レベルのCD127発現に基づく方法を用いて、安定と不安定なTregの両方が単離される。故に、本発明による細胞の集団は、(ヒト)血液と比較して、及び通常の方法を用いて単離されるTregの集団と比較して、Treg及び安定なtTregが豊富である。本発明による細胞の単離された集団は、好ましくは、少なくとも80%のCD4+GPA33調節性T細胞、より好ましくは、少なくとも85%のCD4+GPA33調節性T細胞、より好ましくは、少なくとも90%のCD4+GPA33Treg、より好ましくは、少なくとも95%のCD4+GPA33高Treg、より好ましくは、少なくとも98%のCD4+GPA33高Treg、より好ましくは、少なくとも99%のCD4+GPA33高Tregを含む。好ましい実施形態において、本発明によるTregの集団における本質的には全ての細胞が、高いGPA33を発現するTregである。更なる実施形態において、本発明によるTregの集団における全ての細胞は、高いGPA33を発現するTregである。
【0043】
本発明による細胞の単離された集団は、25%未満の安定でない調節性T細胞(非Treg)、すなわち、CD4+GPA33Treg以外の細胞を含む。本明細書において使用される、用語「安定でない調節性T細胞」は、通常CD4+T細胞又は通常CD8+T細胞のような、他のタイプのT細胞、マクロファージ、単球、好中球、内皮細胞等のような、他の細胞タイプも含む、本明細書において定義される安定な調節性T細胞以外の任意のタイプの細胞を指す。好ましくは、本発明によるCD4+GPA33Tregの集団は、CD4+GPA33Treg以外の20%未満の細胞、より好ましくは、CD4+GPA33Treg以外の15%未満の細胞、より好ましくは、CD4+GPA33Treg以外の10%未満の細胞、より好ましくは、CD4+GPA33Treg以外の5%未満の細胞、より好ましくは、CD4+GPA33Treg以外の2%未満の細胞、より好ましくは、CD4+GPA33Treg以外の1%未満の細胞を含む。好ましい実施形態において、本発明によるTregの集団は、本質的には、CD4+GPA33Treg以外のT細胞を含まない。更なる実施形態において、本発明によるTregの集団は、CD4+GPA33Treg以外のT細胞を含まない。
【0044】
本発明による集団におけるCD4+GPA33Tregは、好ましくは、CD25を発現する。更に、CD4+GPA33Tregは、好ましくは、CD127又は陰性であり、これは、Tregが、CD127を発現しないか、又は低発現のCD127を有することを意味する。故に、好ましい実施形態において、本発明によるTregの集団は、少なくとも75%のCD4+CD25+CD127-GPA33細胞又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞を含む。更に、CD4+GPA33Tregは、好ましくは、FoxP3も発現する。故に、好ましい実施形態において、本発明による細胞の集団は、少なくとも75%のCD4+GPA33FoxP3+細胞、より好ましくは、CD4+CD25+CD127-GPA33FoxP3+細胞又はCD4+GPA33CD25+CD127低FoxP3+細胞を含む。
【0045】
特に、T細胞に対する、細胞表面マーカー又は細胞内マーカーの関係において、用語「+」、「-」、「低い」及び「高い」は、当該技術分野において周知である。それは、特定のマーカーの発現のレベルを指す。
【0046】
特に、用語「+」は、細胞の表面上又は細胞内の特定のマーカーの存在を指す。例えば、用語「CD4+」は、細胞が、その表面上でCD4を発現することを示す。
【0047】
用語「-」は、細胞の表面上又は細胞内の特定のマーカーの不存在を指す。例えば、用語「CD127-」は、細胞が、その表面上でCD127を発現しないことを示す。
【0048】
用語「低い」は、集団における若しくは細胞の集団が得られる試料における他の細胞上のマーカーの発現のレベルと比較したとき、又は全体としてのかかる試料における細胞の集団と比較して、存在しないか或いは比較的低い、試料内又は試料から単離された細胞或いは細胞の集団による特定のマーカーの発現のレベルを指す。例えば、用語「CD127」は、解析されるか、若しくは細胞の集団が得られる試料における細胞の集団における細胞によるCD127の発現の平均レベルと比較して、存在しないか、又は低い、細胞或いは細胞の集団によるCD127の発現のレベルを指す。好ましくは、「CD127」は、解析されるか、又は細胞の集団が得られる細胞の集団におけるCD4+T細胞上のCD127の発現の平均レベルの少なくとも2分の1の低さの、より好ましくは、解析されるか、又は細胞の集団が得られる細胞の集団におけるCD4+T細胞上のCD127の発現の平均レベルの少なくとも5分の1の低さの、解析されるか、又は細胞の集団が得られる細胞の集団におけるCD4+T細胞上のCD127の発現の平均レベルの少なくとも8分の1の低さの、例えば、解析されるか、又は細胞の集団が得られる細胞の集団におけるCD4+T細胞上のCD127の発現の平均レベルの少なくとも10分の1の低さの、CD127の発現のレベルを指す。
【0049】
この関係における用語「高い」はまた、当該技術分野において周知である。それは、集団における若しくは細胞の集団が得られる試料における他の細胞上のマーカーの発現のレベルと比較したとき、又は全体としてのかかる試料における細胞の集団と比較して、比較的高い、試料内或いは試料から単離された細胞或いは細胞の集団による、CD4或いはGPA33のような特定のマーカーの発現のレベルを指す。用語「GPA33」は、解析されるか、若しくは細胞の集団が得られる試料における細胞の集団におけるGPA33の発現の平均レベルと比較して、又は全体としてのかかる試料における細胞の集団と比較して高い、細胞或いは細胞の集団によるGPA33の発現のレベルを指す。好ましくは、本明細書において使用される、用語「GPA33」は、個体、好ましくは、ヒト個体の血液試料におけるT細胞、好ましくは、CD4+T細胞上でのGPA33の発現の平均レベルより高い発現のレベルを指す。より好ましくは、「GPA33」は、ヒト個体の血液試料における又はCD4+GPA33細胞が得られる試料におけるCD4+T細胞上でのGPA33の発現の平均レベルの少なくとも2倍である、より好ましくは、ヒト個体の血液試料における又はCD4+GPA33細胞が得られる試料におけるCD4+T細胞上でのGPA33の発現の平均レベルの少なくとも5倍である、より好ましくは、ヒト個体の血液試料における又はCD4+GPA33細胞が得られる試料におけるCD4+T細胞上でのGPA33の発現の平均レベルの少なくとも8倍である、例えば、ヒト個体の血液試料における又はCD4+GPA33細胞が得られる試料におけるCD4+T細胞上でのGPA33の発現の平均レベルの少なくとも10倍である、発現のレベルを指す。典型的には、用語「GPA33」は、ヒト個体の血液におけるCD4+CD25+CD45RA+T細胞の70%が含まれる、GPA33の発現レベルにより更に定義される。
【0050】
同様に、用語「細胞の当該集団におけるGPA33の発現の平均レベルより高いGPA33の発現のレベルを有する細胞」は、細胞の当該集団におけるCD4+T細胞上でのGPA33の発現の平均レベルより少なくとも2倍高い、より好ましくは、細胞の当該集団におけるCD4+T細胞上でのGPA33の発現の平均レベルより少なくとも5倍高い、より好ましくは、細胞の当該集団におけるCD4+T細胞上でのGPA33の発現の平均レベルより少なくとも8倍高い、例えば、細胞の当該集団におけるCD4+T細胞上でのGPA33の発現の平均レベルより約10倍高い、発現のレベルを指す。好ましい実施形態において、調節性T細胞について濃縮されている細胞の当該集団は、個体、好ましくは、ヒト個体の血液試料、滑液試料又はリンパ液試料を含み、GPA33細胞の発現の当該レベルは、当該血液、滑液又はリンパ液試料におけるCD4+T細胞上でのGPA33の発現の平均レベルの少なくとも2倍、より好ましくは、当該血液、滑液又はリンパ液試料におけるCD4+T細胞上でのGPA33の発現の平均レベルの少なくとも5倍、より好ましくは、当該血液、滑液又はリンパ液試料におけるCD4+T細胞上でのGPA33の発現の平均レベルの少なくとも8倍、例えば、当該血液、滑液又はリンパ液試料におけるCD4+T細胞上でのGPA33の発現より約10倍高い。
【0051】
表面マーカーが細胞の表面上で発現されるかどうか、存在するなら、かかる発現が低いか、又は高いかどうかを決定する方法は、当該技術分野において周知である。例えば、細胞表面マーカーの発現及びその発現レベルは、関連する細胞表面マーカーに対して指向された抗体を使用したフローサイトメトリー、例えば、蛍光標識細胞分取(FACS)により決定することができる。適当な方法は、本明細書における実施例において記載される。かかる方法を使用し、試料における全てのT細胞の平均発現レベル並びにT細胞の特定のサブセット上での発現レベルを決定することができる。
【0052】
本発明による安定なTregは、GPA33の高レベルの発現を示し、すなわち、これらの細胞は、GPA33細胞である。
【0053】
本発明によるTregの集団は、好ましくは、Tregの安定な集団である。本発明によるTregの集団は、更に好ましくは、Tregの生存可能な集団である。
【0054】
本発明による集団におけるTregは、好ましくは、免疫抑制性である。一実施形態において、Tregは、インビトロで免疫抑制性である。一実施形態において、Tregは、インビボで免疫抑制性である。好ましくは、Tregは、インビトロとインビボの両方で免疫抑制性である。本明細書において使用される、用語「免疫抑制性」は、免疫応答を低減するか、弱めるか、又は予防する能力を指す。例えば、Tregは、それらが、対象に投与されるとき、例えば、臓器又は組織移植後に、対象の免疫系が免疫応答を開始するのを防ぐ、例えば、自己免疫疾患又は慢性炎症性疾患のような過剰反応性の免疫系により引き起こされる疾患に応答して、対象において既に開始された免疫応答を低減する点において、免疫抑制性である。
【0055】
更なる態様において、本発明は、調節性T細胞を単離する方法であって、CD4+GPA33T細胞を細胞試料から単離する工程を含む方法を提供する。細胞は、好ましくは、安定なTreg若しくはtTregであるか、又はFoxP3及びヘリオスの発現を含む、安定又はtTregの特徴、及びそれらが、場合により、炎症シグナル(例えば、IL-1、IL-6及びTNFα)のような環境要因の影響下で、FoxP3及びヘリオスの維持された発現により証明される、インビトロでの拡大後に安定なままであるという事実を有する。加えて、当該細胞は、好ましくは、サイトカインであるインターフェロンγ(IFNγ)、IL-2及びIL-17を産生する能力がないことにより特徴付けられる。Treg、好ましくは、安定なTregを単離する方法は、好ましくは、CD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞を試料から単離する工程を含む。GPA33細胞は、例えば、GPA33に結合する剤を使用して単離される。同様に、CD4+細胞は、例えば、CD4に結合する剤を使用して単離される。CD25+CD127-又はCD25+CD127細胞は、例えば、CD25に結合する剤及びCD127に結合する剤を使用して単離される。複数のマーカーについて陽性の細胞の単離は、全てのマーカーについて同時に、又は1つ若しくは同時での2つのマーカーに基づき続いて行われ得る。特定の実施形態において、細胞は、CD4についてまず選択され、CD25発現、CD127の発現の欠如又は低発現、及び高いGPA33発現について続いて選択される。更に特定の実施形態において、細胞は、CD8発現の不存在及びCD4発現の存在についてまず選択され、CD25発現の存在、CD127の低レベル発現の不存在及び高いGPA33発現について続いて選択される。
【0056】
一実施形態において、調節性T細胞を単離する工程は、本発明による調節性T細胞の集団を調製する工程を含む。
【0057】
調節性T細胞について細胞の集団を濃縮する方法であって、
a.細胞の集団を、GPA33に結合する能力がある剤と接触させる工程、
b.当該細胞のGPA33に結合する能力がある当該剤への結合を決定する工程、及び
c.細胞の当該集団におけるGPA33の発現の平均レベルより高い、GPA33の発現のレベルを有するCD4+T細胞を選択し、及び/又は単離する工程
を含む方法もまた提供される。
【0058】
CD4の存在又は不存在のいずれかは、例えば、CD4に結合する能力がある剤を使用したフローサイトメトリーにより、細胞上でのCD4の発現を決定することにより直接決定され得る。故に、一実施形態において、調節性T細胞について細胞の集団を濃縮する方法は、
a.細胞の集団を、CD4に結合する能力がある剤及びGPA33に結合する能力がある剤と接触させる工程、
b.当該細胞のCD4及びGPA33に結合する能力がある当該剤への結合を決定する工程、及び
c.CD4に結合する能力がある剤に結合し、細胞の当該集団におけるGPA33の発現の平均レベルより高い、GPA33の発現のレベルを有する細胞を選択し、及び/又は単離する工程
を含む。
【0059】
或いは、CD4の存在又は不存在は、細胞の集団、特に、細胞の集団が、哺乳類の血液、滑液又はリンパ液細胞を含むなら、CD4+T細胞以外の細胞を枯渇させることにより直接決定することができる。本実施形態において、細胞の集団は、細胞の集団を、GPA33に結合する能力がある剤と接触させる前に、例えば、密度勾配(フィコール-ハイパックを使用したf.i.)により、赤血球及び顆粒球について、続いて、例えば、磁気標識細胞分取(MACS)により、CD8、CD11b、CD11c、CD14、CD16及び/又はCD19を発現する細胞について枯渇させる。細胞の集団は、更に好ましくは、細胞の集団を、GPA33に結合する能力がある剤と接触させる前に、CD127+T細胞について枯渇される。故に、別の実施形態において、調節性T細胞について細胞の集団を濃縮する方法は、
a.CD4+T細胞以外の細胞から細胞の集団を枯渇させる工程、
b.場合により、CD127+細胞から細胞の当該集団を枯渇させる工程、
c.細胞の当該集団を、GPA33に結合する能力がある剤と接触させる工程、
d.当該細胞のGPA33に結合する能力がある当該剤への結合を決定する工程、及び
e.細胞の当該集団におけるGPA33の発現の平均レベルより高い、GPA33の発現のレベルを有するCD4+T細胞を選択し、及び/又は単離する工程
を含む。細胞の当該集団は、好ましくは、哺乳類の血液細胞、滑液細胞又はリンパ液細胞
を含む。
【0060】
細胞の集団が濃縮される調節性T細胞は、GPA33Tregである。したがって、細胞は、好ましくは、安定なTregである。選択され、及び/又は単離される細胞が、CD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞であることが、更に好ましい。細胞は、好ましくは、FoxP3及びヘリオスの発現を含む、本明細書において定義される安定なtTreg(tTreg)の特徴、及びそれらが、場合により、炎症シグナル(例えば、IL-1、IL-6及びTNFα)のような環境要因の影響下で、FoxP3及びヘリオスの維持された発現により証明される、インビトロでの拡大後に安定なままであるという事実を有する。加えて、当該細胞は、好ましくは、サイトカインであるインターフェロンγ(IFNγ)、IL-2及びIL-17を産生する能力がないことにより特徴付けられる。CD4に結合する能力がある剤及びGPA33に結合する能力がある剤と接触される細胞の当該集団は、好ましくは、本明細書において定義される細胞試料である。一実施形態において、細胞の集団は、臍帯血、抹消血、末梢血単核細胞、リンパ液又は滑液からTregについて濃縮される。別の実施形態において、細胞の集団は、胸腺、脾臓又はリンパ節のような、組織試料からTregについて濃縮される。細胞の集団に関して本明細書において使用される「濃縮すること」又は「濃縮された」は、細胞の開始集団における又は細胞を含む試料におけるTregの数と比較して、細胞の集団における増加した数のTreg、好ましくは、安定なTregを指す。Tregの濃縮のレベル及び/又は純度のパーセンテージは、細胞の開始集団又は細胞を含む試料、細胞又は試料がもたらされるか、又は得られるドナー、及び体液又は組織供給源を含む因子に依存する。好ましくは、CD4+GPA33Treg、好ましくは、安定なTregは、少なくとも2倍、より好ましくは、少なくとも5倍、より好ましくは、少なくとも10倍、より好ましくは、少なくとも20倍、より好ましくは、少なくとも30倍、より好ましくは、少なくとも40倍、より好ましくは、少なくとも50倍、より好ましくは、少なくとも75倍濃縮される。本明細書において上で記載された通り、ヒト抹消血におけるCD4+GPA33Tregの平均レベルは、総CD4+T細胞のおよそ1~4%である。本発明による濃縮方法は、好ましくは、細胞の少なくとも75%、より好ましくは、80%、より好ましくは、85%、より好ましくは、90%が、本明細書において上で記載された高いGPA33を発現する調節性T細胞である、調節性T細胞の単離された集団をもたらす。
【0061】
細胞の当該集団は、好ましくは、哺乳類の血液細胞、滑液細胞若しくはリンパ液細胞を含むか、又は哺乳類の血液、滑液若しくはリンパ液から得られる細胞を含み、当該血液は、好ましくは、臍帯血又は抹消血である。
【0062】
好ましい実施形態において、調節性T細胞について細胞の集団を濃縮する方法は、CD4+GPA33T細胞を単離する工程を更に含む。上で記載された方法により単離されるか、又は得られる調節性T細胞の濃縮された集団もまた、提供される。
【0063】
細胞の少なくとも75%がCD4+GPA33調節性T細胞である、細胞の単離された集団は、例えば、本明細書において定義される試料からの単離後又は本発明によるTregについての濃縮後に得られた安定なTregの集団である。しかしながら、調節性T細胞について細胞の集団を濃縮する方法又は本発明による調節性T細胞を単離する方法は、CD3及びCD28及びIL-2に対する架橋した抗体のような、当該細胞の増殖、活性化及び/又は増加を促進する1つ又は複数の因子の存在下で単離された細胞を培養する工程を更に含んでもよい。かかる培養工程は、好ましくは、当該Tregの拡大をもたらす。このように、本明細書において記載される投与及び/又は処置、緩和若しくは予防に十分な量のTregを得ることができる。故に、細胞の集団はまた、本明細書において定義される試料からの単離後又は本発明によるTregについての濃縮、続いて本明細書において記載される培養工程後に得られた安定なTregの集団であってもよい。場合により、安定なTregの増殖、活性化及び/又は増加を促進する当該1つ又は複数の因子の存在下での当該培養工程後、本発明によるTregの集団を濃縮する方法の工程又は本発明によるTregを単離する方法の工程を繰り返して、投与前に、残存する及び/又は拡大されたCD4+GPA33又はCD4+GPA33-T細胞を取り除く。例えば、細胞は、例えば、哺乳類の血液、滑液又はリンパ液からの細胞の単離後、CD4+及びGPA33発現、並びに場合により、CD25+及びCD127-又はCD127発現について解析され、及び/又は濃縮され;続いて、細胞の増殖、活性化及び/又は増加を促進する1つ又は複数の因子の存在下で培養され;再度、患者への投与前に、CD4+及びGPA33発現、並びに場合により、CD25+及びCD127-又はCD127発現について解析され、及び/又は濃縮される。別の例として、細胞は、CD8、CD11b、CD11c、CD14、CD16及びCD19発現細胞についてのような、CD4+T細胞以外の細胞について枯渇され、例えば、哺乳類の血液、滑液又はリンパ液からの細胞の単離後に、GPA33発現について解析され、及び/又は濃縮され;続いて、細胞の増殖、活性化及び/又は増加を促進する1つ又は複数の因子の存在下で培養され;患者への投与前に、CD4+及びGPA33発現、並びに場合により、CD25+及びCD127-又はCD127発現について解析され、及び/又は濃縮される。細胞の増殖、活性化及び/又は増加を促進する当該1つ又は複数の因子は、好ましくは、CD3に対する架橋した抗体、CD28及びIL-2に対する架橋した抗体、又はその組合せからなる群から選択される。
【0064】
本明細書において使用される、用語「細胞試料」は、細胞を含む、哺乳類、好ましくは、ヒトから取り出された組織又は体液を指す。試料は、好ましくは、T細胞、好ましくは、CD4+T細胞を含む。好ましい試料は、血液試料、リンパ液試料、滑液試料又は胸腺、脾臓、リンパ節、骨髄若しくはパイエル板試料のような組織試料である。好ましい試料は、血液試料若しくは細胞を含む血液分画試料、リンパ液試料又は滑液である。好ましい血液又は血液分画試料は、抹消血又は臍帯血であるか、又は抹消血又は臍帯血から得られる。故に、好ましい実施形態において、試料は、哺乳類の血液又は哺乳類の血液、リンパ液試料若しくは滑液から得られるT細胞を含み、当該血液は、好ましくは、臍帯血又は抹消血である。かかる試料を得る方法は、免疫学及び外科の分野において周知であり、血液を採取する工程及び関連する組織又は器官から生検を得る工程を含む。いくつかの実施形態において、本発明の方法において使用される細胞又は細胞の集団を含む試料は、処置、特に、免疫抑制処置を必要とする対象から得られる。他の実施形態において、細胞又は細胞の集団を含む試料は、処置を必要とする対象とは異なるドナーから得られる。
【0065】
CD4+及びGPA33発現に加えて、本発明によるTregの単離及びTregについての細胞の集団の濃縮は、好ましくは、CD25+発現及び/又はCD127若しくはCD127-発現、並びに場合により、CD8発現の不存在に更に基づく。
【0066】
本発明によるTregの単離及びTregについての細胞の集団の濃縮は、好ましくは、CD4に結合する能力がある剤及びGPA33に結合する能力がある剤を使用して行われる。加えて、単離及び濃縮が、CD8発現の不存在、CD25の発現及び/又はCD127の発現の不存在若しくは低レベルに更に基づくなら、CD8、CD25及び/又はCD127に結合する能力がある剤が使用され得る。当該剤は、好ましくは、それらの標的、すなわち、CD4、GPA33、CD8、CD25又はCD127に特異的に結合する。
【0067】
好ましい実施形態において、調節性T細胞について細胞の集団を濃縮する方法であって、
a.細胞の集団を、CD4に結合する能力がある剤及びCD25に結合する能力がある剤、CD127に結合する能力がある剤及びGPA33に結合する能力がある剤と接触させる工程、
b.当該細胞のCD4、CD25、CD127及びGPA33に結合する能力がある当該剤への結合を決定する工程、及び
c.CD127に結合する能力がある剤に結合しないか、又は当該剤に低レベルで結合し、CD4、CD25及びGPA33に結合する能力がある剤に結合する細胞を選択し、及び/又は単離する工程
を含む方法が提供される。
【0068】
CD4及びGPA33、及び場合により、CD25及びCD127のような他のマーカーに結合する能力がある当該剤は、好ましくは、マーカーに特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントである。故に、CD4に結合する能力がある剤は、好ましくは、CD4に特異的に結合する抗体又はCD4に特異的に結合するその抗原結合フラグメントである。GPA33に結合する能力がある剤は、好ましくは、GPA33に特異的に結合する抗体又はGPA33に特異的に結合するその抗原結合フラグメントである。CD25に結合する能力がある剤は、好ましくは、CD25に特異的に結合する抗体又はCD25に特異的に結合するその抗原結合フラグメントである。CD127に結合する能力がある剤は、好ましくは、CD127に特異的に結合する抗体又はCD127に特異的に結合するその抗原結合フラグメントである。
【0069】
GPA33、CD4、CD25及び/又はCD127に特異的に結合する剤に加えて、他の細胞表面マーカーに特異的に結合する剤を、本発明の方法において使用して、異なる細胞タイプについて選択するか、又は排除することができる。かかる剤の例は、CD3、CD8、CD45RA、CD19、CD45等に特異的に結合する剤、例えば、抗体又はそのフラグメントである。加えて、リガンド若しくはそのフラグメント、又はGPA33に特異的に結合するようなリガンド若しくはそのフラグメントを含む融合タンパク質が使用され得る。
【0070】
本明細書において使用される、細胞表面マーカー、例えば、GPA33に特異的に結合する抗体の抗原結合フラグメントは、それが当該抗体と同じ細胞表面マーカーに特異的に結合し結果として細胞表面マーカーの検出において使用することができるという点において、当該抗体と同じ特性を少なくとも1つ有する抗体の一部を指す。フラグメントは、好ましくは、特定の細胞表面マーカーに特異的に結合する抗体の少なくとも1つ又は複数の重鎖及び/若しくは軽鎖CDR配列を含む。より好ましくは、フラグメントは、かかる抗体の重鎖CDR1、CDR2及びCDR3並びに軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3、なおより好ましくは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。
【0071】
本明細書において使用される、用語「特異的に結合する」、「に特異的」又は「特異的に結合する能力がある」は、抗体とそのエピトープの間での非共有結合性相互作用を指す。それは、抗体又はそのフラグメントが、他の抗原又は抗原決定基より当該エピトープに優先的に結合することを示す。故に、抗体又はフラグメントは、抗原又は抗原決定基に非特異的に結合し得るが、そのエピトープについての当該抗体又はフラグメントの結合親和性は、任意の他の抗原又は抗原決定基についての当該抗体又はフラグメントの結合親和性より有意に高い。
【0072】
調節性T細胞を単離するか、又は調節性T細胞について細胞の集団を濃縮する方法は、試料から、抗体若しくはその抗原結合フラグメント、又は抗体若しくはそのフラグメントに結合する細胞を分離して、CD4+GPA33調節性T細胞の単離された集団を生じる工程を更に含んでもよい。
【0073】
細胞表面マーカーに特異的に結合する剤、好ましくは、抗体又はその抗原結合フラグメントを好ましくは標識して、例えば、細胞ソーティングにより、細胞表面マーカーを発現する細胞の検出及び/又は単離を可能にする。或いは、剤、好ましくは、抗体又はそのフラグメントは、標識されている二次抗体で標的化される。抗体又はフラグメントは、例えば、蛍光色素に及び/又は磁気性若しくは常磁性粒子にコンジュゲートされる。細胞をソーティングする方法は、当該技術分野において周知である。セルソーターを使用して、細胞の混合物を単一細胞タイプの集団に分取することできる。本明細書において使用される、用語「ソーティング」は、本発明のCD4+GPA33Tregのような、細胞が、それらの形若しくは蛍光標識のような、それらの光学及び/又は容積測定特性に基づき分取される方法を指す。一実施形態において、選択工程又は単離工程は、フローサイトメトリー、蛍光標識細胞分取(FACS)、磁気選択、磁気標識細胞分取(MACS)、アフィニティークロマトグラフィー若しくはパニング、又はその組合せにより行われる。
【0074】
例えば、抗体又はフラグメントを磁気ビーズとコンジュゲートさせて、Treg細胞の区別を可能にすることができる。或いは、抗体又はフラグメントは、アビジン又はストレプトアビジンに高い親和性で結合するビオチンにコンジュゲートさせることができる。なお別の例として、抗体又はフラグメントは、FACSによるような、フローサイトメトリーによる単離のため使用することができる、蛍光色素にコンジュゲートさせることができる。本明細書において上で示された通り、複数のマーカーの不存在又は存在についての選択が、続いて行われ得る。或いは、1つより多くの細胞表面マーカーの不存在又は存在についての選択が、同時に行われ得る。例えば、多色解析及びセルソーティングが、FACSを用いて行われ得る。複数の細胞表面マーカー、例えば、CD4、CD25、CD127及びGPA33に基づく細胞の分離及び単離は、単一の工程において行われ得る。
【0075】
FACSは、細胞がレーザービームを通過するときのその光散乱特性に基づき、細胞の集団の区別を可能にする。前方光散乱は、細胞の大きさに関連し、側方散乱特性(SSC)は、細胞の内部構造の複雑さに関連する。細胞は、蛍光色素でコンジュゲートされた抗体での標識後の蛍光強度により更に特徴付けられる。抗体にコンジュゲートされ得、例えば、細胞分取及び/又はFACSによる細胞の単離のため使用され得る蛍光色素は、当該技術分野において周知である。適当な蛍光色素の例は、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)、ヨウ化プロピジウム(PI)、Alexa Fluor 488、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)、カルボキシフルオセイン二酢酸サクシニミジルエステル(CFDA-SE)、DyLight 488、ペリディニンクロロフィルタンパク質複合体(PerCP)、PerCP-Cy5.5、PE-Alexa Fluor 700、PE-Cy5、PE-Alexa Fluor 750、PE-Cy7、アロフィコシアニン(APC)、APC-Cy7、Alexa Fluor 700、Cy5、Pacific Orange、Pacific Blue、Amine Aqua、Pacific Blue、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドールHCl(DAPI)、Alexa Fluor 405を含むが、これらに限定されない。
【0076】
磁気選別は、例えば、磁場勾配におけるチューブ又はカラム内の磁気標識された細胞の選択的保持に基づく。Tregは、例えば、細胞を、磁気粒子に結合させた抗体で標識することにより、特定の相互作用を介して細胞の表面に磁気粒子にコンジュゲートさせることによって磁気標識され得る。本発明のGPA33+Tregのような、細胞を選択し、及び/又は単離するために使用され得る適当な磁気粒子の例は、MACS粒子(Miltenyi Biotec社)、StemSep(商標)コロイド(StemCell Technologies社)、EasySep(StemCell Technologies社)、Imag粒子(BD Biosciences社)、Dynabeads(Dynal Biotech社)を含むが、これらに限定されない。
【0077】
本発明はまた、調節性T細胞を同定する方法であって、CD4+T細胞をGPA33の発現について解析する工程を含み、CD4+GPA33発現パターンが、調節性T細胞又は調節性T細胞の集団の指標である、方法を提供する。一実施形態において、当該方法は、細胞をCD4及びGPA33の発現について解析する工程を含み、CD4+GPA33発現パターンが、調節性T細胞又は調節性T細胞の集団の指標である。当該調節性T細胞は、好ましくは、安定な調節性T細胞である。単離される細胞が、CD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞であることが、更に好ましい。調節性T細胞を検出する方法であって、細胞をCD4及びGPA33の発現について解析する工程を含み、CD4+GPA33+発現パターンが、調節性T細胞又は調節性T細胞の集団の指標である、方法もまた提供される。検出される当該調節性T細胞は、特に、安定な調節性T細胞であり、これにより、CD4+GPA33発現パターンは、調節性T細胞又は調節性T細胞の集団の指標である。細胞が、CD25及びCD127の発現について更に解析され、これにより、CD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33発現パターンが、調節性T細胞又は調節性T細胞の集団の指標であることが、更に好ましい。試料における調節性T細胞を検出する方法であって、試料を、抗GPA33抗体又はその抗原結合フラグメント及び抗CD4抗体又はその抗原結合フラグメントと接触させること、並びにGPA33と当該抗GPA33抗体又はフラグメントの間及びCD4と抗CD4抗体又はフラグメントの間の結合を検出することにより、CD4+GPA33細胞が試料に存在するかどうかを検出する工程を含む方法もまた提供される。細胞が、CD25及びCD127の発現について更に解析されることが、更に好ましい。故に、方法が、試料を、抗CD25抗体又はその抗原結合フラグメント及び抗CD127抗体又はその抗原結合フラグメントと更に接触させること、及びCD25と抗CD25抗体又はフラグメントの間及びCD127と抗CD127抗体又はフラグメントの間の結合を検出することにより、CD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞が試料に存在するかどうかを検出する工程を含むことが、好ましい。
【0078】
当該方法は、好ましくは、GPA33に特異的に結合する能力がある剤を使用して解析される当該細胞の表面上でのGPA33の発現の存在若しくは不存在及び/又はレベルの検出、CD4に特異的に結合する能力がある剤を使用して解析される当該細胞の表面上でのCD4の存在又は不存在の検出、CD25に特異的に結合する能力がある剤を使用して解析される当該細胞の表面上でのCD25の存在又は不存在の検出、及び/又はCD127に特異的に結合する能力がある剤を使用して解析される当該細胞の表面上でのCD127の存在若しくは不存在又は発現レベルの検出を含む。解析される当該細胞の表面上での少なくともCD4及びGPA33発現が検出されることが、好ましい。更に好ましい実施形態において、解析される当該細胞の表面上での少なくともCD4、CD25、CD127及びGPA33発現が検出される。Tregの単離について本明細書において上で記載された通り、これらのマーカーの発現は、連続して、任意の順序で、同時に、又はその組合せで検出され得る。
【0079】
本発明は、Tregについてのマーカーとして、好ましくは、安定なTreg又はtTregについてのマーカーとしてGPA33を更に提供する。好ましい実施形態において、GPA33は、TregについてのマーカーとしてのCD4との組合せで使用される。別の好ましい実施形態において、GPA33は、Tregについてのマーカーとして、好ましくは、安定なTreg又はtTregについてのマーカーとしてのCD4、CD25及びCD127と組合せで使用される。
【0080】
CD4+GPA33細胞、好ましくは、CD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞、本発明によるTregの集団又は本発明による方法を用いて単離されるか、若しくは得られる集団は、治療適用において有利に使用することができる。それ故、CD4+GPA33T細胞、好ましくは、CD4+CD25+CD127-GPA33若しくはCD4+CD25+CD127GPA33細胞を含むか、又は本発明による細胞の集団並びに医薬的に許容される担体、希釈剤及び/若しくは賦形剤を含む医薬組成物が提供される。
【0081】
「医薬的に許容し得る」により、担体、希釈剤又は賦形剤が、製剤の他の成分と適合可能であり、その受け手に有害であってはならないことを意味する。一般に、有効な化合物の機能と干渉しない任意の医薬的に適当な添加剤が、使用され得る。本発明による医薬組成物は、好ましくは、ヒト使用に適している。適当な担体の例は、溶液、ラクトース、でんぷん、セルロース誘導体等、又はその混合物を含む。好ましい実施形態において、当該適当な担体は、溶液、例えば、食塩水である。投薬単位、例えば、錠剤を製造するため、充填剤、着色剤、高分子接着剤等のような通常の添加剤の使用が、考慮される。錠剤、カプセル剤等において取り込まれ得る賦形剤の例は、次の:トラガカントガム、アカシア、コーンスターチ又はゼラチンのような結合剤;微結晶セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、アルファ化でんぷん、アルギン酸等のような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤;スクロース、ラクトース又はサッカリンのような甘味剤;ペパーミント、イチャクソウ又はチェリーのオイルのような香味剤である。投薬単位形態がカプセル剤であるとき、それは、上記のタイプの材料に加えて、脂肪油のような液体担体を含有してもよい。様々な他の材料が、コーティング剤として、又はそうでなければ、投薬単位の物理的形態を改変するために存在してもよい。例えば、錠剤は、セラック、糖又は両方でコーティングされてもよい。シロップ剤又はエリキシル剤は、有効な化合物、甘味剤としてスクロース、保存剤としてメチル及びプロピルパラベン、色素及びチェリー又はオレンジフレーバーのような香料を含有してもよい。静脈内投与用の組成物は、例えば、無菌の等調水性バッファー中の本発明の化合物の溶液であってもよい。必要な場合、静脈内用組成物は、例えば、溶解剤、安定化剤及び/又は注射の部位での痛みを軽くするための局所麻酔薬を含んでもよい。
【0082】
本発明の実施形態において、本発明による1つ又は複数の医薬組成物並びに場合により、本明細書において記載される1つ又は複数の医薬的に許容される担体、希釈剤及び/又は賦形剤を充填した1つ又は複数の容器を含む、医薬キット又はキットの一部が、提供される。かかる容器には、使用のための指示書、又はヒト若しくは動物投与のための製造、使用又は販売の機関による承認を表す、医薬製品の製造、使用又は販売を管理する政府機関により規定された形態での注意のような様々な文書が添付され得る。好ましくは、医薬キット又はキットの一部は、使用のための指示書を含む。
【0083】
療法における使用のための、CD4+GPA33T細胞、好ましくは、CD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞、又は本発明による細胞の集団もまた提供される。
【0084】
免疫応答の抑制における使用のための、CD4+GPA33T細胞、好ましくは、CD4+CD25+CD127-GPA33又はCD4+CD25+CD127GPA33細胞、又は本発明による細胞の集団が、更に提供される。それを必要とする対象において免疫応答を抑制する方法であって、対象に治療上有効量のCD4+GPA33T細胞、好ましくは、CD4+CD25+CD127-GPA33若しくはCD4+CD25+CD127GPA33細胞、又は本発明による細胞の集団を投与する工程を含む方法もまた提供される。それを必要とする対象において免疫応答を抑制するための医薬の製造のための、CD4+GPA33T細胞、好ましくは、CD4+CD25+CD127-GPA33若しくはCD4+CD25+CD127GPA33細胞、又は本発明による細胞の集団の使用もまた提供される。本明細書において使用される、用語「免疫応答を抑制すること」は、対象における免疫応答の低減、減弱又は予防を指す。例えば、例えば、臓器又は組織移植後に、対象の免疫系が免疫応答を開始するのを防ぎ、例えば、自己免疫疾患又は慢性炎症性疾患のような過剰反応性の免疫系により引き起こされる疾患に応答して、対象において既に開始された免疫応答を低減する。免疫応答を抑制することは、好ましくは、移植片対宿主疾患(GVHD)の処置、緩和又は予防のため、移植片拒絶の処置、緩和又は予防のため、或いは慢性炎症状態若しくは自己免疫疾患の処置、緩和又は予防のためである。
【0085】
本発明は、移植片対宿主疾患(GVHD)、移植片拒絶、慢性炎症状態又は自己免疫疾患の処置、緩和又は予防における使用のための、CD4+GPA33T細胞、好ましくは、CD4+CD25+CD127-GPA33若しくはCD4+CD25+CD127GPA33細胞、又は本発明による細胞の集団を更に提供する。移植片対宿主疾患(GVHD)、移植片拒絶、慢性炎症状態若しくは自己免疫疾患の処置、緩和又は予防する方法であって、それを必要とする対象に、CD4+GPA33T細胞、好ましくは、CD4+CD25+CD127-GPA33若しくはCD4+CD25+CD127GPA33細胞、又は本発明による細胞の集団を投与する工程を含む方法もまた提供される。移植片対宿主疾患(GVHD)、移植片拒絶、慢性炎症状態若しくは自己免疫疾患の処置、緩和又は予防のための医薬の製造のための、CD4+GPA33T細胞、好ましくは、CD4+CD25+CD127-GPA33若しくはCD4+CD25+CD127GPA33細胞、又は本発明による細胞の集団の使用もまた提供される。
【0086】
本発明の方法を用いて処置され、緩和され、及び/又は予防され得る状態又は疾患の例は、1型糖尿病、多発性硬化症(MS)、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ、乾癬性関節炎、骨関節炎、強直性脊椎炎、再生不良性貧血、血小板減少性紫斑病、グレーブス病、アジソン病、乾癬、ぶどう膜炎、自己免疫性溶血性貧血、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、アレルギー状態及び喘息状態からなる群から選択される状態又は疾患を含むが、これらに限定されない。
【0087】
本明細書において使用される用語「治療上有効量」は、処置されている疾患の予防、処置、又は管理において治療上の利益をもたらす、医薬組成物の量を指す。
【0088】
本明細書において使用される、用語「対象」及び「個体」は、ヒト及び動物、好ましくは、哺乳類を包含する。好ましくは、対象又は個体は、哺乳類であり、より好ましくは、ヒトである。
【0089】
本明細書において使用される、用語「予防」は、障害又は疾患の臨床症状をまだ経験していない対象における、状態若しくは疾患の開始及び/又は状態若しくは疾患の臨床症状の出現を予防すること、或いは遅延させることを指す。用語「処置」は、障害又は疾患を阻害すること、すなわち、その発症若しくはその少なくとも1つの臨床症状を停止すること、又は低減すること、及び障害又は疾患の症状を軽減することを指す。本発明によるTregの集団又は本発明の方法を用いて調製されるか、若しくは濃縮されるTregの集団は、養子免疫療法又は養子調節性T細胞移植において特に有用である。本明細書において使用される、用語「養子免疫療法」は、細胞の患者への移植を指す。同様に、「養子調節性T細胞移植」は、細胞の患者への移植を指す。細胞は、患者自身から生じ得る(自家養子細胞移植若しくは免疫療法)か、又は患者自身以外のドナー由来であり得る(同種養子細胞移植又は免疫療法)。
【0090】
GPA33は、更に、自己免疫疾患についてのマーカーとしての使用に特に適している。多くの自己免疫疾患は、少なくとも、部分的に、Treg不全に起因する。かかる疾患の例は、全身性エリテマトーデス(SLE)及び関節リウマチ(RA)である。実施例(図12を参照)において、GPA33レベルが、Treg不全と関連する異なる自己免疫疾患において劇的に変化し得ることが示されている。図12は、異なる自己免疫疾患におけるGPA33発現のレベルが、健常個体におけるGPA33発現のレベルと比較して、低減されることを示す。特に、低減されたTreg機能性をもたらす、CTLA-4遺伝子において遺伝性変異を有する患者が、血液において低減したGPA33発現レベルを有することが示されている。更に、APECED(自己免疫性多腺性内分泌不全症・カンジダ症・外胚葉ジストロフィー)に罹患している患者はまた、血液細胞における低減したレベルのGPA33発現を有する。APECEDは、Aire遺伝子における変異により特徴付けられ、その結果として、自己反応性Tregのサブセットが、胸腺において生成されず、これにより、抗原のサブセットに対して誘導される寛容の欠如に起因して複数の器官の炎症を導く。特定の自己免疫異常が分かっていない、第3の患者において、GPA33発現パターンは、他の2種の自己免疫疾患患者におけるものと異なり、GPA33発現パターンは、健常対照におけるものとより密接に似ている。これらの結果は、GPA33が、一部だが全てではない自己免疫異常において差別的に発現されることを示す。故に、GPA33の発現レベルを、自己免疫疾患におけるマーカーとして使用して、特に、特定の自己免疫疾患が、Treg不全と関連するかどうかを決定することができる。例えば、かかる方法により、症状的に類似するが、Treg不全の存在又は不存在により区別可能である異なる自己免疫異常の間での区別を可能になる。それ故、1つの態様において、GPA33Tregは、自己免疫疾患に罹患している患者由来の試料において、本発明の方法を使用して検出される。かかる方法は、患者が罹患している自己免疫疾患の決定において使用され得る。故に、好ましい実施形態において、それは、患者が罹患している自己免疫疾患からは、分かっていない。
【0091】
それ故、本発明は、本発明による方法を用いて試料における調節性T細胞を検出する方法であって、当該試料が、自己免疫疾患に罹患している個体由来の試料である、方法を提供する。1つの態様において、当該試料は、同定されていない自己免疫疾患に罹患している個体由来の試料である。当該試料は、好ましくは、血液、滑液若しくはリンパ液を含むか、又は血液、滑液若しくはリンパ液から得られるT細胞を含み、当該血液は、抹消血である。当該方法は、更に好ましくは、当該試料におけるCD4+GPA33細胞のレベルを定量する工程、より好ましくは、当該試料におけるCD4+CD25+GPA33細胞のレベルを定量する工程を含む。
【0092】
調節性T細胞不全により特徴付けられる自己免疫疾患として自己免疫疾患を分類する方法であって、請求項11から15のいずれか一項に記載の方法に従い、自己免疫疾患に罹患している個体由来の試料におけるCD4+GPA33細胞のレベルを定量する工程、及び当該レベルを、参照試料におけるCD4+CD25+GPA33細胞のレベルと比較する工程を含む方法もまた提供される。CD4+CD25+GPA33細胞のレベルが、定量され、参照試料におけるCD4+CD25+GPA33細胞のレベルと比較されることが、好ましい。
【0093】
本明細書において使用される、「CD4+GPA33細胞のレベルを定量すること」及び「CD4+CD25+GPA33細胞のレベルを定量すること」は、試料が、参照試料、例えば、健常個体由来の試料と比較され得るように、試料におけるCD4+GPA33若しくはCD4+CD25+GPA33細胞の絶対量又は相対量を決定することを指す。自己免疫疾患の分類におけるGPA33の使用に関して本明細書において使用される参照試料は、好ましくは、健常個体由来の試料である。本明細書において使用される、健常個体由来の試料は、Treg不全に罹患していない個体の試料を指す。Treg不全は、集団における平均Tregレベル及び/又はTreg機能と比較して、Tregレベル及び/又はTreg機能における低減を指す。
【0094】
GPA33は、腫瘍のタイピング又は予後診断のためのマーカーとしての使用に更に適している。CD4+CD25+Treg及びCD4+CD25+通常T細胞(本明細書における実施例において、P3細胞として言及される)は、それらの表現型の類似性にも関わらず、劇的に異なる機能性の能力を有する。eTregが、免疫を抑制し、炎症性サイトカインを生じる能力を欠く一方、CD4+CD25+CD45RA-通常T細胞は、炎症性サイトカインを生じ、抑制性でない。腫瘍における本物のeTregの存在が、不良な予後と関連する一方、これらのCD4+CD25+CD45RA-T細胞の存在について逆が真であり(Saitoら、2016年)、これは、これらの細胞のIFNγ及びIL-17を産生する能力と関連すると考えられる。Saitoらは、これらの2つの異なるCD4+T細胞の両方が、FoxP3を発現するが、発現パターンが異なることを示す。eTregは、高いFoxP3発現を有し、一方、第2の集団は、FoxP3のより低い発現により特徴付けられる。Saitoらにより記載されたCD4+FoxP3T細胞は、この出願の図1及び3において示されるP3細胞である。CD4+CD25+Tregは、CD45RA+又はCD45RA-のいずれかであり得、CD4+CD25+非Tregは、CD127+又はCD127-のいずれかであり得るので、これらの細胞の区別は困難である。更に、現在使用されるマーカー(すなわち、FoxP3又はCD25)に基づく、Saitoらにより記載されたCD4+FoxP3T細胞とCD4+FoxP3T細胞の間の区別は、これらのマーカーにおける差が十分に規定されておらず、はっきり区別されているというよりはむしろ漸進的であるので、幾分恣意的である。
【0095】
実際、本実施例において示される通り、Saitoらにより記載されたCD4+FoxP3は、GPA33+又はGPA33-のいずれかであり得る(図1、P3細胞を参照)。GPA33-細胞は、IFNγ及びIL-17を産生し、したがって、非免疫抑制性であり、腫瘍患者の良好な生存予後と関連するCD4+FoxP3+T細胞である。GPA33+細胞は、図5において示される通り、IFNγ及びIL-17陰性であり、不良な生存予後と関連する免疫抑制性細胞であるCD4+FoxP3+T細胞である。故に、GPA33はまた、腫瘍におけるCD4+T細胞が、良好又は不良な予後と関連するかどうかを決定するための既存のT細胞マーカーと比較して、より良好なマーカーである。
【0096】
故に、腫瘍におけるCD4+CD25+GPA33+Tregの存在は、不良な予後と相関し、一方、CD4+CD25+GPA33-T細胞の存在は、良好な予後と関連する。Tregに存在し、CD4+CD25+通常T細胞に存在しないマーカーとしてのGPA33の同定を用いて、ここで、不良又は良好な予後と関連するCD4+CD25+T細胞を明白に区別することが可能になる。それ故、GPA33は、腫瘍に罹患している患者における逆の予後と関連する、腫瘍におけるTreg及び通常T細胞の存在及び/又は不存在並びにレベルの決定におけるマーカーとして特に適している。腫瘍におけるT細胞のGPA33発現は、例えば、これらの患者における免疫スコアの決定の一部として評価され得る。腫瘍の免疫細胞のタイプ及びレベルが決定される、免疫スコアは、腫瘍の分類へのアプローチとして近年注目を集めており、とりわけ、腫瘍の診断及び予後診断評価の一部として結果の予想のため使用され得る。特に、免疫スコアは、生存予後及び処置に対する応答、特に、免疫療法による処置に対する応答の決定のため使用され得る。最近まで、例えば、結腸直腸腫瘍の、腫瘍分類は、外科的除去後に腫瘍組織の組織学的解析に主に基づく。かかる分類は、不運なことに、癌の結果が、同じ組織学的腫瘍ステージ内の患者の間で有意に変動し得るので、予後について限られた情報をもたらす。
【0097】
それ故、一実施形態において、本発明によるGPA33調節性T細胞を検出する方法であって、GPA33発現について解析されるCD4+T細胞が、腫瘍又は腫瘍試料から得られる、方法が提供される。
【0098】
CD4+CD25+調節性T細胞とCD4+CD25+通常T細胞を区別する方法であって、T細胞を含む腫瘍試料において、当該T細胞の表面上でのCD4、CD25及びGPA33の発現の存在又は不存在を決定する工程を含む方法が更に提供される。
【0099】
癌における予後についてのマーカーとしてのGPA33の使用もまた提供される。
【0100】
癌に罹患している個体における予後診断マーカーとしてのGPA33の使用もまた提供される。
【0101】
癌に罹患している個体を不良な予後又は良好な予後を有すると分類する方法であって、
a)腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを決定する工程
b)参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを決定する工程、及び
c)a)において決定された当該腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルをb)において決定された当該参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルと比較する工程
を含み、
当該参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルより高い、当該腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルが、不良な予後の指標である
方法もまた提供される。更なる態様において、当該腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルが、当該参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルより低いなら、良好な予後が予想される。
【0102】
癌に罹患している個体の腫瘍試料をタイピングする方法であって、
a)腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを決定する工程
b)参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを決定する工程、及び
c)当該腫瘍試料及び当該参照試料において決定されたCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルに基づき、当該腫瘍試料をタイピングする工程
を含む方法もまた提供される。更なる態様において、当該腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルが、当該参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルより低いなら、良好な予後が予想される。
【0103】
本明細書において使用される、「癌に罹患している個体を不良な予後又は良好な予後を有すると分類すること」は、当該個体が、不良又は良好な予後を有するかどうかを予想することを指す。本明細書において使用される、「予後」は、個体における状態、特に、癌の予後又は結果を予想することを指す。用語「予後」は、100%の正確さ又は確実さで予後又は結果を予想することを指さない。代わりに、用語、予後は、ある種の予後又は結果が生じる増大した確率を指すことが理解される。好ましい実施形態において、用語「予後」は、1年又は5年生存予後、すなわち、癌に罹患している個体が、示された期間生存する可能性のような、生存予後を指す。
【0104】
本明細書において記載される、CD4+GPA33Tregは、免疫を抑制し、炎症性サイトカインを生じる能力を欠く。したがって、Tregは、抗腫瘍免疫を制限し、血管新生を促進するそれらの能力を通じて、癌の進行を促進する強力な免疫抑制細胞である。故に、癌に罹患している個体における療法に対する応答を予想する方法であって、
a)腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを決定する工程
b)参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを決定する工程、及び
c)当該腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを当該参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルと比較する工程
を含み、
当該参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルより高い、当該腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルが、療法に対する不良な応答の指標である
方法もまた提供される。更なる態様において、当該腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルが、当該参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルより低いなら、療法に対する良好な応答が予想される。
【0105】
本明細書において使用される、「療法に対する応答」は、療法から生じる臨床上有意な恩恵の存在又は不存在を指し、例えば、腫瘍縮小、低減した腫瘍増加、症状の阻害及び生存のような、臨床上関連するパラメーターにより証明され得る。処置に対する良好な応答は、かかる恩恵の存在を指し、一方、処置に対する不良な応答は、かかる恩恵の不存在を指す。当該療法は、放射線療法、化学療法及び免疫療法を含む、任意のタイプの腫瘍療法であり得る。好ましい実施形態において、免疫療法に対する応答が決定される。本明細書において使用される「免疫療法」は、腫瘍細胞に対する免疫応答を誘導する工程又は増強する工程を含む方法による、個体の処置を指す。
【0106】
予後又は療法に対する応答へのCD4+CD25+GPA33+Treg及びCD4+CD25+GPA33-Tconvの効果は、典型的には、腫瘍タイプに依存しない。Tregが、無数の腫瘍タイプにおいて腫瘍を浸潤させることが見出され、これらの腫瘍を浸潤させるTregは、これらの腫瘍タイプの多くにおいて不良な臨床結果と関連する。GPA33が予後マーカーとして使用され得る、癌の非限定的な例は、肺癌、結腸直腸癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、卵巣癌、脳癌、膀胱癌、子宮頚癌、肝臓癌、腎臓癌、白血病、メラノーマ、ニューロブラストーマ、腎臓癌、皮膚癌、肉腫、子宮癌、食道及び胃腸管の癌腫又は多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫及びホジキンリンパ腫のような血液系腫瘍である。好ましい実施形態において、当該癌は、結腸直腸癌であり、及び/又は当該個体は、結腸直腸癌、より好ましくは、結腸癌腫に罹患している。結腸又は直腸において生じる癌は、結腸直腸癌又は腸の癌と呼ばれる。当該癌は、大腸癌及び直腸癌を含む。好ましい実施形態において、本明細書において使用される結腸直腸癌は、大腸癌、より好ましくは、結腸癌腫に関する。別の好ましい実施形態において、本発明による結腸直腸癌は、直腸癌に関する。
【0107】
本明細書において使用される、「腫瘍試料」は、腫瘍細胞を含む試料を指す。かかる腫瘍試料は、当該腫瘍に罹患している患者から得られ、解析のため直接使用されるか、又は例えば、4℃、-20℃又は-70℃での保存後に使用され得るかのいずれかである。腫瘍試料及び参照試料は、当該技術分野において公知の任意の方法を使用して得ることができる。例えば、試料は、外科手術中、例えば、腫瘍の除去を目的とする外科手術中に得ることができるか、又は試料は、1つ又は複数の生検から得られる。例えば、癌が結腸直腸癌であるなら、腫瘍試料及び参照は、外科手術中に大腸から直接得られる。代わりの実施形態において、試料は、大腸内視鏡検査中に採取される生検試料から調製される。
【0108】
癌に罹患している個体においてマーカーとして並びに/又は腫瘍のタイピング又は予後診断及び/若しくは療法に対する応答の予想におけるGPA33の使用に関する参照試料は、好ましくは、腫瘍が発生している組織と同じタイプの健常組織、例えば、腫瘍周辺の健常組織、又は腫瘍とより離れているが、同じタイプの健常組織の試料である。例えば、癌が結腸直腸癌であるなら、参照試料は、結腸組織のような、健常な結腸直腸組織の試料である。故に、好ましい実施形態において、参照試料は、当該個体由来の、当該腫瘍周囲の健常組織の試料又は当該腫瘍を含有する組織と同じタイプの組織の健常組織の試料である。更に好ましい実施形態において、癌は、結腸直腸癌であり、より好ましくは、結腸癌腫であり、参照試料は、結腸組織のような、健常な結腸直腸組織の試料である。
【0109】
好ましい実施形態において、腫瘍及び参照試料は、単離された細胞、好ましくは、生存可能な細胞、又はパラフィン切片若しくは凍結切片のような1つ又は複数の組織切片を含む。CD4+CD25+GPA33T細胞は、例えば、本明細書において記載される通り、CD4に特異的な抗体及びGPA33に特異的な抗体を使用して、単離された細胞又は組織切片において検出され、定量され得る。
【0110】
本明細書において使用される、「個体」は、好ましくは、ヒト個体である。
【0111】
CD4+CD25+GPA33T細胞のレベルを決定することは、好ましくは、CD4+CD25+GPA33T細胞を定量すること、より好ましくは、CD4+CD25+GPA33T細胞の量を定量することを含む。或いは、CD4+CD25+GPA33T細胞の比又はパーセンテージは、決定される。例えば、腫瘍及び参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のCD4+CD25+GPA33及びCD4+CD25+GPA33T細胞に対する比、又は腫瘍及び参照試料におけるCD4+T細胞の総集団におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のパーセンテージが決定される。好ましくは、総CD4+T細胞に対するCD4+CD25+GPA33T細胞のパーセンテージが、決定される。
【0112】
CD4+CD25+GPA33T細胞のCD4+CD25+GPA33及びCD4+GPA33T細胞に対する比は、例えば、以下の通り:
比=CD4+CD25+GPA33T細胞:(CD4+CD25+GPA33+CD4+CD25+GPA33T細胞)
決定される。
【0113】
CD4+T細胞の総集団におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のパーセンテージは、例えば、以下の通り:
CD4+CD25+GPA33T細胞のパーセンテージ=(CD4+CD25+GPA33T細胞/CD4+T細胞)×100
決定される。
【0114】
腫瘍試料及び参照試料において決定されるレベル、比又はパーセンテージは、任意の順で決定され得る。すなわち、まず、腫瘍試料における比又はパーセンテージが決定され、続いて、参照試料における比又はパーセンテージが決定されるか、又はまず、参照試料における比又はパーセンテージが決定され、続いて、腫瘍試料における比又はパーセンテージが決定されるかのいずれかである。
【0115】
本明細書において使用される、参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルより高い、腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベル、比又はパーセンテージが、不良な予後の指標である。癌に罹患している個体を不良な予後を有すると分類するのに特に適当な閾値は、参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベル、比又はパーセンテージの中央値プラス2標準偏差である。故に、好ましい実施形態において、参照試料におけるレベル、比又はパーセンテージの平均+(2×標準偏差)より高い、腫瘍試料における本明細書において記載されるレベル、比又はパーセンテージが、不良な予後の指標である。この目的のため、参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞の複数の測定値、例えば、単一又は複数の参照試料における3、4、5、6つ以上の測定値の平均及び標準偏差が、決定される。更に、単一又は複数の腫瘍試料における本明細書において記載されるレベル、比又はパーセンテージ、例えば、単一又は複数の腫瘍試料における3、4、5、6つ以上の測定値の中央値が、決定され得る。
【0116】
更なる態様において、当該腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルが、当該参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルの中央値引く2倍の標準偏差より低いなら、良好な予後が予想される。更なる態様において、当該腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルが、当該参照試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベルの中央値引く2倍の標準偏差より低いなら、療法に対する良好な応答が予想される。
【0117】
本明細書において記載されるCD4+CD25+GPA33T細胞のレベル、量、比又はパーセンテージの決定は、好ましくは、腫瘍及び参照試料における細胞において行われる。例えば、CD4+CD25+GPA33T細胞は、単離された細胞上で定量することができる。故に、好ましい実施形態において、腫瘍及び参照試料は、単離された細胞、好ましくは、生存可能な細胞を含む。CD4+CD25+GPA33T細胞は、例えば、本明細書において記載される通り、フローサイトメトリーを使用して、CD4に特異的な(例えば、蛍光標識された)抗体及びGPA33に特異的な抗体を用いて検出され、定量することができる。或いは、CD4+CD25+GPA33T細胞は、パラフィン切片又は凍結切片のような、組織切片において定量することができる。次に、CD4+CD25+GPA33T細胞は、例えば、CD4に特異的な抗体、CD25に特異的な抗体及びGPA33に特異的な抗体を用いて検出され、定量することができ、これらの抗体は、(例えば、蛍光)標識されるか、又は二次抗体とインキュベートされ、続いて、染色され、顕微鏡を使用して定量され得る。標識及び抗体を染色し、フローサイトメトリーを使用して抗体を検出する方法は、当業者に周知である。組織切片における抗体で染色された細胞の定量もまた、当該技術分野において周知である。定量は、例えば、顕微鏡、場合により、蛍光顕微鏡を使用して行うことができる。CD4及びGPA33の検出に加えて、CD25、CD127及び/又はCD45RAのような、本明細書において記載される他のT細胞マーカーは、本発明の方法及び使用において、例えば、これらのT細胞マーカーに特異的な抗体を使用して検出することができる。
【0118】
1つの好ましい実施形態において、結腸直腸癌に罹患している個体を不良な予後又は良好な予後を有すると分類する方法であって、
a)1つ又は複数の結腸直腸腫瘍試料及び当該個体由来の健常な結腸組織の1つ又は複数の試料を用意する工程、
b)当該1つ又は複数の腫瘍試料におけるCD4+T細胞の総集団におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のパーセンテージを決定する工程、
c)健常な結腸組織の当該1つ又は複数の試料におけるCD4+T細胞の総集団におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のパーセンテージを決定する工程、及び
d)当該1つ又は複数の腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞の当該パーセンテージと、健常な結腸組織の当該1つ又は複数の試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞の当該パーセンテージを比較する工程
を含み、
当該1つ又は複数の試料が、単離された細胞又は1つ若しくは複数の組織切片を含み、
健常な結腸組織の当該1つ又は複数の試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のパーセンテージの中央値+(2×標準偏差)より高い、当該1つ又は複数の腫瘍試料におけるCD4+CD25+GPA33T細胞のパーセンテージが、不良な予後の指標である、
方法が提供される。
【0119】
なお別の態様において、本発明は、癌、好ましくは、結腸直腸癌に罹患している個体に対する処置を評価する方法であって、本発明の方法により癌に罹患している個体における免疫療法による処置に対する応答を予想する工程、及び処置に対する良好な応答が予想されるなら、免疫療法を指定する工程を含む方法を提供する。
【0120】
特性は、本明細書において、明瞭さ及び簡潔な記載の目的のため、本発明の同じ若しくは別の態様又は実施形態の一部として記載されてもよい。本発明の範囲が、同じ又は別の実施形態の一部として本明細書において記載される特性の全て又は一部の組合せを有する実施形態を含んでもよいことは、当業者により理解される。
【0121】
本発明は、以下の非限定的な実施例においてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0122】
図1】ヒト血液由来の5種のCD4 T細胞集団。ヒト抹消血液CD4+T細胞を健常なドナーから単離し、5種の集団のそれぞれにおいてCD45RA及びCD25の発現について(上)、並びにFoxP3及びヘリオスについて解析した(下-色及び数値は上図におけるものと一致する)。
図2A】質量分析によるタンパク質の定量。FACSにより精製したCD4+サブセットを溶解し、タンパク質量を、質量分析により決定した。標識を用いない定量(LFQ)方法論を使用して、絶対的タンパク質量を推定した。強度値をlog10変換した。
図2B】GPA33mRNAレベルを、RNAシーケンスにより決定し、相対値として表した。
図3】ヒト血液における5つのCD4 T細胞集団におけるGPA33についての発現特性。PBMCを単離し、図1において同様に染色した。図1において示されるCD45RA/CD25発現特性により定義される集団のGPA33特性(上のプロット)、アイソタイプ対照と比較したGPA33発現細胞のパーセンテージ(中央のプロット)、及び異なる集団におけるGPA33染色の中央値蛍光強度(下のプロット)を示す。図を通じて、カラーコードが一致することに注意。下の2つのパネルにおけるデータは、5人の異なるドナーを表し、それぞれを個々の記号により示す。統計比較を、一元配置分散分析、続いて、チューキーHSDにより行った。***=p≦0.0001。
図4】GPA33細胞は、FoxP3及びヘリオスを発現し、CD127を欠く。PBMCを、単一の、生きた、CD4+T細胞においてゲートをかけ、次に、CD45RA及びCD25の表面発現に基づき、ナイーブTconv、メモリー様Tconv、P3、ナイーブTreg及びエフェクターTregに分けて描写した。1つの集団当たりのFoxP3(上)、ヘリオス(中央)及びCD127(下)に対するGPA33の発現を示す。灰色の輪郭は、アイソタイプ対照の染色を表す。データは、5人の血液ドナーの代表である。
図5A】GPA33細胞は、エフェクターサイトカインを産生しない。FACSソーティングしたnTconv、mTconv、P3(CD127+及びCD127-)、nTreg及びeTregを、PMA及びイオノマイシンを用いて4時間刺激し、次に、IFNγ(上)及びIL-17(下)について細胞内染色した。Aにおけるデータは、代表的な特性であり、Bは、4人の血液ドナーの累積結果であり、GPA33細胞(緑色/淡い灰色)及びGPA33中/低細胞(赤色/濃い灰色)についての中央値+/-SDを示す。統計比較を、ウエルチT検定(両側、GPA33高対GPA33低)により行った。*=0.05≦p<0.01;**=p≦0.01。
図5B】GPA33細胞は、エフェクターサイトカインを産生しない。FACSソーティングしたnTconv、mTconv、P3(CD127+及びCD127-)、nTreg及びeTregを、PMA及びイオノマイシンを用いて4時間刺激し、次に、IFNγ(上)及びIL-17(下)について細胞内染色した。Aにおけるデータは、代表的な特性であり、Bは、4人の血液ドナーの累積結果であり、GPA33細胞(緑色/淡い灰色)及びGPA33中/低細胞(赤色/濃い灰色)についての中央値+/-SDを示す。統計比較を、ウエルチT検定(両側、GPA33高対GPA33低)により行った。*=0.05≦p<0.01;**=p≦0.01。
図6A】GPA33細胞についての選択はFoxP3+ヘリオス+集団の純度を改善する。CD4+T細胞を、CD25及びCD45RA発現に基づき、P3、ナイーブTreg及びエフェクターTregに分けて描写した。(A)次に、それぞれの集団を、CD127-(1.)、GPA33(2.)、GPA33(3.;ナイーブTregの75%を捕捉するゲートとして定義した)又はCD127-GPA33+(4.)のいずれかに更に分割した。%純度(パーセントゲートの頻度)を、FoxP3+細胞(B)及びヘリオス+細胞(C)について示す。データは、4人のドナーの代表であり、中央値+/-SDを示す。統計比較を、一元配置分散分析、続いて、チューキーHSDにより行った。***=p≦0.0001;**=0,01<p≦0,001;*=0,05<p≦0,01。
図6B】GPA33細胞についての選択はFoxP3+ヘリオス+集団の純度を改善する。CD4+T細胞を、CD25及びCD45RA発現に基づき、P3、ナイーブTreg及びエフェクターTregに分けて描写した。(A)次に、それぞれの集団を、CD127-(1.)、GPA33(2.)、GPA33(3.;ナイーブTregの75%を捕捉するゲートとして定義した)又はCD127-GPA33+(4.)のいずれかに更に分割した。%純度(パーセントゲートの頻度)を、FoxP3+細胞(B)及びヘリオス+細胞(C)について示す。データは、4人のドナーの代表であり、中央値+/-SDを示す。統計比較を、一元配置分散分析、続いて、チューキーHSDにより行った。***=p≦0.0001;**=0,01<p≦0,001;*=0,05<p≦0,01。
図6C】GPA33細胞についての選択はFoxP3+ヘリオス+集団の純度を改善する。CD4+T細胞を、CD25及びCD45RA発現に基づき、P3、ナイーブTreg及びエフェクターTregに分けて描写した。(A)次に、それぞれの集団を、CD127-(1.)、GPA33(2.)、GPA33(3.;ナイーブTregの75%を捕捉するゲートとして定義した)又はCD127-GPA33+(4.)のいずれかに更に分割した。%純度(パーセントゲートの頻度)を、FoxP3+細胞(B)及びヘリオス+細胞(C)について示す。データは、4人のドナーの代表であり、中央値+/-SDを示す。統計比較を、一元配置分散分析、続いて、チューキーHSDにより行った。***=p≦0.0001;**=0,01<p≦0,001;*=0,05<p≦0,01。
図7A】GPA33は安定なTregの集団を特徴付ける。ナイーブ(nTreg)及びエフェクターTreg(eTreg)(図1においてと同様に同定した)を、GPA33(図6においてと同様に定義した-緑色/淡い灰色のヒストグラム)及びGPA33(赤色/濃い灰色のヒストグラム)集団に分取し、続いて、100U/ml IL-2の存在下で抗CD3+抗CD28でコーティングしたビーズを用いてインビトロで活性化した。7日間の培養後、nTregよりもたらされたT細胞を、図1におけるのと同様の細胞内染色によりFoxP3(下)及びヘリオス(上)の発現について解析した。
図7B】GPA33、GPA33又は総nTreg細胞を、ラパマイシンの存在又は非存在下でAにおけるのと同様に培養した。1週間後、細胞を6時間、PMA及びイオノマイシンで再刺激し、IFNγ(上)及びIL-17(下)の産生を、細胞内フローサイトメトリーにより測定した。サイトカインを産生する細胞のパーセンテージを示す。
図8A】GPA33Tregについての選択は、現在の基準より安定な拡大したTregを生じる。CD4 T細胞を、CD25、CD127及びGPA33を組み合わせた異なるゲーティングストラテジーにより:CD25-CD127+Tconv(1)、CD25+CD127-Treg(2)、CD127-GPA33Treg(3)及びCD25+CD127-GPA33Treg(4)に分取した(A)。
図8B】次に、細胞を、抗CD3/CD28ビーズ(3つのビーズ:1個の細胞)、300IU/ml IL-2と共に及び100nmラパマイシンと共に、又はなしで培養した。7日目に、細胞を、FoxP3及びヘリオスについて染色した(B)。
図8C】数字は、それぞれ、FoxP3及びヘリオスについて陽性の細胞の%を示す。細胞の残りから、ラパマイシンを取り除き(必要な場合)、IL-2を含む培地中で一晩休ませた。翌日、これらの細胞を、ゴルジ-プラグの存在下で4時間37℃にて、PMA(20ng/ml)及びイオノマイシン(1μM)で刺激して、IFNγ、IL-2及びIL-17の産生を評価した(C)。
図9A】GPA33により選択したTregは、拡大後完全に抑制性である。CD25+CD127-GPA33Treg及びCD25-CD127+Tconvを、ラパマイシンなしで、CD3及びCD28に対する抗体並びにIL-2を用いて2週間インビトロで拡大した。続いて、拡大したTregを、抗CD3及び抗CD28の存在下で、CFSEで標識したPBMCと異なる比で培養した。4日後、CD4+のCFSE特性(A)及びCD8+応答T細胞(B)を、フローサイトメトリーにより測定した。
図9B】GPA33により選択したTregは、拡大後完全に抑制性である。CD25+CD127-GPA33Treg及びCD25-CD127+Tconvを、ラパマイシンなしで、CD3及びCD28に対する抗体並びにIL-2を用いて2週間インビトロで拡大した。続いて、拡大したTregを、抗CD3及び抗CD28の存在下で、CFSEで標識したPBMCと異なる比で培養した。4日後、CD4+のCFSE特性(A)及びCD8+応答T細胞(B)を、フローサイトメトリーにより測定した。
図10】GPA33は、iTreg上で発現しない。Tconv CD4 T細胞を、TGFβの存在下、又は含まない(黄色のヒストグラム)でCD3及びCD28に対する抗体で刺激して、iTreg(赤色のヒストグラム)を産生した。参照として、nTreg(青色のヒストグラム)もまた、同じ条件下(TGFβを含まない)で増加させた。14日後、細胞を、IL-2の存在下で、抗CD3及び抗CD28で再刺激した。GPA33の発現を、18日目にフローサイトメトリーにより測定した。iTregについて、細胞を、FoxP3+細胞上でゲーティングした。
図11】GPA33は、集団3においてIL-17産生と非産生FOXP3+T細胞の間で区別する。ヒト血液由来のCD4+T細胞を、ゴルジ-プラグの存在下で4時間37℃にて、PMA(20ng/ml)及びイオノマイシン(1μM)で刺激して、IL-17の産生を評価した。CD45RA-FOXP3CD25CD4+集団でのゲーティング(集団3を定義する)は、GPA33発現とIL-17サイトカイン産生の間での逆相関が存在することを示す。
図12】自己免疫疾患に罹患している患者及び健常対照の血液から単離したnTregにおけるGPA33発現。APECEDは、自己免疫性多腺性内分泌不全症・カンジダ症・外胚葉ジストロフィーであり;AIは、自己免疫疾患である。CTLA4変異を有する患者を、処置の前又は組換えCTLA4-Igでの処置の後に試験し、それは、疾患を軽減した。
【実施例
【0123】
材料及び方法
細胞の単離及びセルソーティング
ヒト抹消血単核球(PBMC)を、Ficoll-Paque Plus(GE Healthcare社)勾配遠心分離を使用して、健常な男性ドナーの新鮮バフィーコートから得た。総CD4+T細胞を、CD4マイクロビーズ(Miltenyi Biotec社)を用いた磁気分取を使用して単離し、次に、生存可能な細胞を、FACS Aria III(BD Biosciences社)でのCD25(43839、BD社)、CD127(351309、Biolegend社)及びCD45RA(560675、BD社)についてのフローサイトメトリーソーティングを使用して分けた。血液試料を、医薬倫理委員会により確立されたガイドラインに従い使用した文書のインフォームドコンセントのある匿名化したボランティアから得た。
【0124】
フローサイトメトリー
細胞を、PBS 0.5%BSA中の蛍光色素でコンジュゲートされた抗体で30分間4℃にて標識した。細胞内及び核染色のため、細胞を固定し、製造元の指示に従い、Foxp3/転写因子固定化/透過バッファー(eBioscience社)を使用して透過処理した。細胞を、LSR Fortessa又はLSR IIサイトメーター(BD Biosciences社)にて解析した。次の分子に対する抗体を使用した:CD25、CD45RA、CD127、FOXP3(25-4777-42、eBioscience社)、ヘリオス(48-9883、eBioscience社)。A. Scott博士(Olivia Newton-John Cancer Research Institute、Heidelberg Australia)から頂いた、GPA33に対する抗体[Heath, J.K.ら、1997年]を、Lynx迅速APC抗体コンジュゲーションキット(LNK032APC、Biorad社)を使用してAPCで標識した。
【0125】
質量分析によるタンパク質の定量
FACSで精製したCD4+サブセットを、PBSにおいて洗浄し、直ちに、タンパク質LoBindチューブ(Eppendorf社)中の溶解バッファー(4%SDS、100mM DTT、100mM Tris HCl[pH8.0])にて溶解した。次に、試料を沸騰させ、超音波処理(Bioruptor)し、遠心分離(16,000g)後、上清を-80℃にて凍結維持した。次に、細胞溶解液を、試料調製を目的としたフィルター(FASP)を使用して処理した。簡単に言うと、溶解液を、還元、アルキル化及びシーケンスグレードのトリプシン(Promega社)での溶液内切断の対象にした。切断後、ペプチドを、StageTipsを使用して脱塩し、speedvacにて還元し、MSによる解析前に水中の0.1%TFA中の2%アセトニトリルにおいて復元した。ナノエレクトロスプレーイオン源(Nanospray Flex Ion Source、Thermo Scientific社)を介したOrbitrap Fusion Tribrid質量分析計(Thermo Scientific社)にオンラインで繋げたナノスケールのC18逆相クロマトグラフィーにより、MS実験をトリプリケートで行った。単離ウィンドウ1.6を有する四極子を使用した単離、高衝突解離(HCD)断片化、及びイオントラップにおける迅速スキャン質量分析解析により、タンデム質量分析を行った。
【0126】
全てのデータを、Proteome Discovererソフトウエア(バージョン2.0、Thermo Scientific社)を用いて取得し、未処理の質量分析ファイルを、標識を用いない定量(LFQ)アルゴリズム[Cox, J.及びM. Mann、2008年]を使用したMaxQuant計算プラットフォームバージョン1.5.3.30を用いて処理した。ペプチドとタンパク質レベルの両方で、1%偽発見率(FDR)カットオフを有するヒトUniprotデータベースを検索することによるAndromeda検索エンジンにより、ペプチドを同定した。可能性のある汚染物質及び逆ヒットを、Perseusバージョン1.5.0.31を使用して除去した。著者らにより記載された[Wisniewski, J.Rら、2014年]通り、Perseusにおけるプラグイン構築物を使用したプロテオミクス規定方法論を使用して、絶対タンパク質量を推定した。存在量をタンパク質コピー数として表し、値をlog10変換し、Prism 6.0(GraphPad Software社、San Diego、CA、USA)を使用してグラフにおいて示す。
【0127】
RNA単離
製造元のプロトコールに従い、TRIzol試薬(カタログ番号15596-018、Ambion Life Technologies社)を使用して1×106細胞から、総RNAを抽出した。総RNAペレットを、8分間風乾させ、適量のヌクレアーゼを含まない水(カタログ番号AM9937、Ambion life technologies社)に溶解し、続いて、ナノドロップUV-VIS分光光度計(Thermo Scientific社)を使用して総RNA定量を行った。製造元の指示に従い、MinElute Cleanupキット(カタログ番号74204、Qiagen社)を使用して、総RNAを更に精製した。総RNAの質及び量を、ナノチップ(Agilent社、Santa Clara、CA)を使用した2100 Bioanalyzerにより評価した。RNA強度数(RIN)>8を有する総RNA試料を、ライブラリー生成の対象にした。
【0128】
TruSeq鎖mRNA試料の調製
製造元(Illumina社、パーツ番号15031047 Rev. E)の指示に従い、TruSeq鎖mRNA試料調製キット(Illumina Inc.社、San Diego、RS-122-2101/2)を使用して、鎖特異的ライブラリーを生成した。簡単に言うと、インタクトな総RNA由来のポリアデニル化RNAを、オリゴ-dTビーズを使用して精製した。精製後、RNAを、断片化し、アクチノマイシンDを添加して、SuperScript II逆転写酵素(Invitrogen社、パーツ番号18064-014)を使用してランダムプライム及び逆転写した。dTTPをdUTPに置換して、ポリメラーゼI及びRNaseHを使用して、第2の鎖合成を行った。生成したcDNAフラグメントを、3'末端でアデニル化し、イルミナ対末端シーケンスアダプターにライゲーションし、続いて、12サイクルのPCRにより増幅した。7500チップ(Agilent社、Santa Clara、CA)を使用して2100 Bioanalyzerにて、ライブラリーを解析し、希釈し、15-plex、10nMシーケンスプールに等モルでプールし、-20℃にて保存した。
【0129】
RNA-Seqデータ処理
RNA-Seq未処理読み取り値Fastqを、TopHat(バージョン2.0.12、Bowtieバージョン1.0.0、Samtoolsバージョン:0.1.19)を用いて、Ensembl参照ゲノム(Homo_sapiens.GRCh38.dna.primary_assembly)に整列させた。固有にマッピングした読み取り値を含むHTseq-カウントにより、読み取り値カウントを生成した。マッピングしてない読み取り値を取り除いた。配列読み取り値を、1つの試料当たり1000万の読み取り値に対して標準化し、式、log2(((発現遺伝子×÷ライブラリーサイズ)106)+1)(式中、ライブラリーサイズは、1つの試料当たりの全発現値の合計である)を用いて、log2変換した。差次的発現についてQlucore Omics Explorer(3.1)により、読み取り値カウントを更に解析した。
【0130】
細胞培養及び機能アッセイ
細胞を、様々な時間、抗CD3/CD28ビーズ(Miltenyi社:3つのビーズ:1個の細胞比)、300IU/ml IL-2と共に、IMDM(Lonza社)中の100nmラパマイシンあり又はなしで培養し、10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び1%L-グルタミンを補充した。機能アッセイ(サイトカイン産生、抑制)のため、細胞から、ラパマイシンを取り除き(必要な場合)、IL-2を含む培地にて一晩休ませた。細胞内サイトカイン染色のため、細胞を、ゴルジ-プラグの存在下で4時間37℃にて、PMA(20ng/ml)及びイオノマイシン(1μM)で刺激し、続いて、細胞内サイトカインを使用して染色した。
【0131】
結果
異なるCD4 T細胞集団を、CD45RA及びCD25の発現により区別する
5つのCD4 T細胞集団を、CD25及びCD45RA表面マーカーの発現に基づき、健常ヒトドナー由来の末梢血単核球(PBMC)の間で同定することができる(図1)[Miyara, M.ら、2009年]。これらのうち2つの集団が、Tregを含有する。CD25+CD45RA+CD4 T細胞は、ナイーブTreg(図1において赤色で特徴付け、1を用いて示したnTreg)として知られている。これらの細胞は、決して活性化されず、定義により、恐らく、胸腺由来である。Tregの第2の集団を、CD25CD45RA-発現特性に基づき同定する(eTreg、図1において橙色で特徴付けられ、2を用いて示す)。これらの細胞は、活性化されており、活性化tTregとiTregの混合物からなる。本発明者らの解析における他のCD4 T細胞集団は、CD45RA+CD25-ナイーブTconv細胞(図1において、濃い青色、及び4を用いて示す)及びCD45RA-CD25-エフェクター/メモリーTconv細胞(図1において、淡い青色、及び5を用いて示す)を含む。最後に、CD25+CD45RA-細胞の集団(図1において、P3-緑色、及び3を用いて示す)を解析した。エフェクターTreg(eTreg)からのこれらの後者の細胞の分離は、使用したマーカーに基づき、幾分恣意的である。CD127の発現も、追加のマーカーとして採用することはできるが、P3細胞の一部はCD127-である[Pesenacker, A.M.ら、2013年]ので、これは依然として、2つの集団の明白な分離を可能にしない。それらの表現型類似性にも関わらず、eTreg及びP3細胞は、劇的に異なる機能を有する。eTregは、免疫を抑制し、炎症性サイトカインを生じる能力を欠く一方、P3細胞は、炎症性サイトカインを生じ、抑制性でない[Miyara, M.ら、2009年;Pesenacker, A.M.ら、2013年;Ayyoub, M.ら、2009年]。事実、腫瘍における本物のTregの存在は、不良な予後と関連付けられる一方、これらのP3細胞の存在については、逆が真であり、これが、T細胞のこれらの表現型上類似する集団の間での機能の差の根底をなす[Saito, T.ら、2016年]。
【0132】
FoxP3転写因子は、Treg系統の分化及び維持を司る。全てのTregは、この因子を発現し、その安定な発現は、Treg機能に重要である。FoxP3発現の欠如、又は低減でさえ、Tconvへの変換をもたらす[Wan, Y.Y.及びR.A. Flavell、2007年;Feng, Y.ら、2014年]。図1(下)に示す通り、nTregとeTregの両方が、この因子を発現し、一方、nTconv及びmTconvは発現しない。P3集団における大部分の細胞は、低レベルのFoxP3を発現するが、この発現は、これらの細胞における調節能力と関連しない[Miyara, M.ら、2009年]。P3ゲートにおける細胞の小さい割合は、高レベルのFoxP3を発現し、「混入している」eTregを表し得る(図1、下)。Tregと関連する第2の転写因子は、ヘリオスである。マウスにおいて、ヘリオスの発現は、(安定な)tTregを特徴付ける[Thornton, A.M.ら、2010年]。しかしながら、ヒトTregにおいて、ヘリオスの発現は、活性化の際にヘリオス- Tregにおいて誘導され得、これにより、それは、tTregを同定するのに不適切なマーカーである[Himmel, M.E.ら、2013年]。更に、これらの転写因子の発現を使用して、生存可能なTregを同定できないことに、注意すべきである。これらの分子は細胞内に存在するので、それらの検出は、それらの生存能と両立しない、細胞膜の透過処理及び細胞の固定手法を要求する。
【0133】
GPA33は、Tregのサブセットを特徴付ける
特定のTreg集団の精製を可能にする新規の表面マーカーを同定するために、本発明者らは、CD25及びCD45RA発現により定義した5種のCD4 T細胞タイプでの全細胞定量質量分析(MS)を行った。サブセットを、FACSソーティングにより単離し、続いて、MSにより解析した。この解析において、本発明者らは、表面分子GPA33が、nTreg集団において、CD4、CD27及びCD28のような周知のT細胞表面分子の範囲内にあるレベルで優先的に発現されることを見出した(図2A)。他のCD4 T細胞集団もまた、この分子を発現するが、レベルは、nTregにおいて見出されるものの約10分の1の低さである。nTregサブセットにおけるGPA33の優先的発現をまた、mRNAレベルで表した(図2B)。MSは、溶解液のタンパク質濃度を測定するので、このより低い発現レベルは、1個の細胞当たりより少ない分子の存在又は細胞のより少ない集団でのこのマーカーの存在(若しくはその組合せ)を表す。
【0134】
GPA33は、CD2と関連する膜貫通型糖タンパク質であり、T細胞上でのその発現は、これまで報告されていない。蛍光標識した抗体を使用したフローサイトメトリーは、GPA33の発現は、nTconv及びmTconvの一部もまた、このマーカーを発現するので、それ自体、Tregに特異的でないことを示した(図3)。それにもかかわらず、GPA33のレベルは、nTreg上でずっと高く、低い発現を示すのは少数集団である(図3)。eTreg及びP3細胞のサブセットはまた、高レベルのGPA33を発現したが、これらの細胞の大部分が、中レベルのこのマーカーを発現したか、又は全体でこのマーカーの発現を欠きさえした(図3)。
【0135】
Tregは、低レベルのCD127、IL-7受容体のアルファ鎖を発現する。実際、nTconvとmTconv集団の両方は、ほぼ普遍的にCD127+であり、一方、ほぼ全てのnTreg及びeTreg集団は、このマーカーの発現を欠く。注目すべきことに、P3集団内で、高発現のGPA33を、CD127-細胞上で独占的に見出した(図4)。更に、高レベルのGPA33は、FoxP3及びヘリオスも発現する細胞においてのみ見出し、逆もまた同様であるが、全てのFoxP3及びヘリオス発現細胞がGPA33+なわけではなかった(図4)。まとめると、この発現パターンは、高発現のGPA33が、FoxP3+ヘリオス+CD127-Tregの集団を特徴付けるが、全てのTregが、このマーカーを発現するわけではないことを示す。
【0136】
GPA33高Tregは、エフェクターサイトカインを産生する能力を欠く
集団として、Tregは、IFNγ及びIL-17のような、エフェクターサイトカインをわずかに産生する。興味深いことに、これらのサイトカインを産生するnTreg及びeTreg集団におけるそれらの少数の細胞を、GPA33陰性及び中集団に主に限定されていた。この効果は、CD127-P3集団において最も著しく明らかであった。この集団におけるこれらのサイトカインを産生する能力は、GPA33の発現と逆に相関し、最高レベルのこのマーカーを発現する細胞は、ほとんど、検出可能なサイトカイン産生を全く示さない(図5)。したがって、CD127-CD4 T細胞(nTreg、eTreg及びP3)上でのGPA33の高発現は、エフェクターサイトカインを産生する最低の能力を有する集団を特徴付ける。
【0137】
GPA33Tregについての選択は、より純粋かつより安定な集団をもたらす
Tregを用いた養子細胞療法の課題の1つは、Treg調製物は、拡大を抑制し機能特性を変え得るラパマイシンを添加しない限り、Tconvの増加の方が過剰になってしまうことである[Hippen, K.L.ら、2011年]。この過剰増加は、TregのTconvへの変換、並びにTconvを含む開始Treg集団の混入の両方により説明し得る。本発明者らは、高発現のGPA33についての選択が、より純粋なTreg集団の単離をもたらし得ると推論した。実際、高発現のこのマーカー(nTregの75%がGPA33+であるレベルとして定義した)についての選択が、CD25+単独についての選択と比較して、FoxP3+及びヘリオス+細胞の割合を顕著に上昇した。純度は、現在の臨床上の調製物のため使用される[Trzonkowski, P.ら、2015年;Bluestone, J.A.ら、2015年]、CD25+CD127-特性に基づく選択と比較してさえ改善した。このより高い純度は、eTreg及びP3集団内で最も顕著であった(図6)。
【0138】
高発現のGPA33についての選択が、より安定なTreg集団の拡大を可能にするかどうかを試験するために、本発明者らは、nTreg及びeTregサブセットからGPA33及びGPA33CD25+細胞を単離し、1週間の培養後にFoxP3及びヘリオスの発現を調べた。明らかに、GPA33細胞は、両方のこれらのマーカーの発現をほぼ均一に失い、一方、GPA33細胞はほとんどがこれらのマーカーの発現を保持する(図7A)。TconvよりTregの拡大を好むため、ラパマイシンをこれらの培養物に加えていないので、この結果は全て、より顕著であった。GPA33細胞についての選択はまた、エフェクターサイトカインを産生する能力を安定的に欠いたnTregの拡大を可能にした。ラパマイシンの存在が、GPA33nTregにおいて又は未分画nTregにおいても大部分のサイトカイン産生を抑制する一方、その非存在下で、両方のこれらの集団は、検出可能なレベルのIL-17及びIFNγを明確に産生した。しかしながら、GPA33細胞を播種した培養物において、かかる産生は観察されなかった(図7B)。最後に、拡大したGPA33nTreg細胞は、標準的なインビトロ抑制アッセイにおいてTconvの増殖を容易に抑制し、一方、拡大したGPA33nTreg細胞は、この能力を欠き、事実、かかる細胞の増殖を刺激した(データを示していない)。まとめると、これらの結果は、GPA33nTreg集団が、Treg系統に安定的にコミットされている細胞からなり、一方、GPA33及びGPA33集団が、まして安定的でなく、及び/又はTconvが混入することを示す。
【0139】
これらの知見は、GPA33細胞についての選択が、臨床グレードのTregを単離するために現在使用される選択基準[Trzonkowski, P.ら、2015年;Bluestone, J.A.ら、2015年]と比較して、培養物の安定なTreg含有量を改善し得ることを示唆した。これを試験するために、本発明者らは、ラパマイシンの存在又は非存在下で、CD25-CD127+Tconv、CD25+CD127-Treg、CD127-GPA33及びCD25+CD127-GPA33細胞を活性化し、1週間の培養後にFoxP3及びヘリオスの発現を測定した。GPA33CD127-T細胞についての選択は、伝統的に使用されるCD25+CD127-基準と比較して、FoxP3+及びヘリオス+細胞のパーセンテージを改善した(図8A、B)。しかしながら、全3種の基準を組み合わせたとき、最大のパーセンテージのFoxP3+及びヘリオス+細胞を得た。実際に、ラパマイシンの存在下と非存在下の両方で、CD25+CD127-GPA33細胞の培養物は、最大の割合のFoxP3+及びヘリオス+細胞を含有した。これは、エフェクターサイトカインを産生する能力においても反映された。伝統的な基準を用いて開始したTreg培養物は、特に、ラパマイシンの非存在下で、かかるサイトカインを産生する多くの細胞を生じた一方、CD25+CD127-GPA33細胞を用いて開始した培養物から出現したサイトカイン産生細胞はほとんどなかった(図8C)。
【0140】
拡大したCD25+CD127-GPA33Tregは、抑制性である
養子細胞療法における使用のため、本質的な課題は、拡大したTregが、それらの抑制性機能を果たす能力を保持しているかどうかである。このためのゴールドスタンダードのインビトロ試験は、異なる数のTregの存在下でTconvを活性化することである。この試験を使用して、本発明者らは、ラパマイシンなしで2週間培養したCD25+CD127-GPA33細胞が、TregのTconvに対する低い比でさえ、CD4+とCD8+Tconvの両方の増殖を強く抑制することを示す(図9)。
【0141】
誘導したTregは、高いGPA33を発現しない
tTregは、iTregよりTreg系統により安定的にコミットされると考えられている[Sakaguchi, S.ら、2008年]。組織培養物におけるGPA33細胞の徹底的な安定性を与えると、この表面分子が、ヒトtTreg集団を特徴付けることが想像できる。初代ヒト試料におけるiTregを明白に同定することは、現在可能でないが、かかる細胞を、TGFβの存在下でCD4 Tconvを培養することによりインビトロで生成することができる[Kanamori, M.ら、2016年]。これらの条件は、FoxP3の分化を誘導するが、Tconvへの抑制性能力を有するヘリオス発現細胞を誘導しない[Kanamori, M.ら、2016年]。しかしながら、Tregに分化するにもかかわらず、かかる細胞は、高発現のGPA33を獲得しない(図10)。他方、7日目のインビトロ培養物において、nTregは、高発現のGPA33を維持する(図10)。まとめると、これらの知見は、GPA33が、ヒトtTreg集団を安定的に特徴付けるという見解と一致する。
【0142】
GPA33の発現は、集団3におけるIL-17を産生する細胞と産生しない細胞の間で区別する
ヒトCD4+T細胞のサブセット(P3として言及する)は、Tregの特徴(FOXP3及びCD25)を発現するが、それにもかかわらず、Tconv機能を示す[Miyara, M.ら、2009年]。これらの細胞は、例えば、それらがCD127-であるときでさえ、高レベルのIL-17を容易に産生し、それ故、一般に使用されるTreg特性に対応する(図11)。他方、eTregは、IL-17を産生しない(図11)。重要なことに、CD127の発現にも関わらず、全てのIL-17産生細胞は、GPA33-亜集団において見出され、一方、GPA33+細胞は、常にこのサイトカインを産生する能力を欠いていた。
【0143】
腫瘍における本物のTregの存在は、不良な診断マーカーである。対照的に、結腸癌腫におけるP3細胞の存在は、好ましい疾患の進行と関連付けられる[Saito, T.ら、2016年]。これらの細胞のTconv活性は、腫瘍での免疫攻撃を助けると考えられている。本発明者らの結果は、GPA33の測定が、P3におけるTconv特性(GPA33-)を有する細胞と有さない(GPA33+)細胞との間での区別を助けることを示す。それ故、このマーカーの包含は、最も好ましい予後を有する、GPA33発現を欠く、高い頻度の浸潤性P3細胞を示すそれらの患者での、結腸癌腫のより信頼できる予後診断を可能にすると予想される。
【0144】
GPA33は、自己免疫疾患において、機能不全Treg上で差別的に発現する
Aire転写因子は、自己反応性胸腺細胞のTreg系統への分化をもたらすのに必要な、胸腺の髄質上皮細胞における自己抗原の発現を調節する。Aire欠損は、かかるTregを生じることができないことに起因して、マウスにおいて強力な自己免疫疾患を引き起こす[Sakaguchi, S.ら、2008年]。同様に、Aireをコードする遺伝子における変異は、自己免疫性多腺性内分泌不全症・カンジダ症・外胚葉ジストロフィー(APECED)としても知られる自己免疫症候群の発症を引き起こす。一部のTregは、Aireが欠損していても依然として発生するが、明らかに、病理の発症を防ぐことができない。興味深いことに、APECED患者において依然として発生するnTregは、低減した発現のGPA33を有する(図12を参照)。
【0145】
低減した発現のGPA33は、正常なTreg機能に必要であるタンパク質であるCTLA4をコードする遺伝子における機能喪失変異により引き起こされる先天性自己免疫異常を有する患者由来のTregにおいて同様に見出される[Sakaguchi, S.ら、2008年]。しかしながら、GPA33の発現が、自己免疫疾患を有する患者において常に低減するわけではない。未知の病因の自己免疫疾患を有する別の患者由来のnTregが正常な細胞表面レベルのこの分子を有するからである。それ故、GPA33の発現は、Treg不全により引き起こされる自己免疫疾患を同定するための診断ツールをもたらすと思われる。
【0146】
(参考文献)
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10
図11
図12