(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】タラロミセスアトロロセウス中でアザフィロンを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C12P 17/16 20060101AFI20230418BHJP
C07D 491/048 20060101ALI20230418BHJP
C12P 1/02 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C12P17/16
C07D491/048
C12P1/02 Z
(21)【出願番号】P 2019560640
(86)(22)【出願日】2018-05-08
(86)【国際出願番号】 EP2018061898
(87)【国際公開番号】W WO2018206590
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-04-26
(32)【優先日】2017-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】523017671
【氏名又は名称】クロモロジックス アンパルトセルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トルボルグ、ゲリット
(72)【発明者】
【氏名】ペテルセン、トーマス イスブランド
(72)【発明者】
【氏名】ラーセン、トーマス オステンフェルド
(72)【発明者】
【氏名】ワークマン、ムハイリ
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0044681(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0140073(KR,A)
【文献】国際公開第2012/022765(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/026923(WO,A2)
【文献】韓国公開特許第2015-0101164(KR,A)
【文献】Rasmussen, K. B.,Talaromyces atroroseus: Genome sequencing, Monascus pigments and azaphilone gene cluster evolution,[online],2015年,インターネット<URL:https://backend.orbit.dtu.dk/ws/portalfiles/portal/127588949/Talaromyces_atroroseus.pdf>[検索日:2022年3月25日]
【文献】Dajung Jo et al.,Biological evaluation of novel derivatives of the orange pigments from Monascus sp. as inhibitors of melanogenesis,Biotechnol Lett,2014年,Vol.36,pp.1605-1613
【文献】Heeyoung Jang et al.,Novel derivatives of monascus pigment having a high CETP inhibitory activity,Natural Product Research,2014年,Vol.28, No.18,pp.1427-1431
【文献】HEEYONG JUNG et al.,Color Characteristics of Monascus Pigments Derived by Fermentation with Various Amino Acids,J. Agric. Food Chem.,2003年,Vol.51,pp.1302-1306
【文献】JUN OGIHARA et al.,Effect of Ammonium Nitrate on the Production of PP-V and Monascorubrin Homologues by Penicillium sp. AZ,JOURNALO F BIOSCIENCAEN DB IOENGINEERJNG,2002年,Vol.93, No.1,pp.54-59
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程:
a.タラロミセス属(the genus Talaromyces)の種の菌糸又は胞子を提供すること、
b.液体成長培地中で(a)の菌糸又は胞子を培養すること、及び
c.工程b)における前記培養の間に製造されるアトロロシン色素を回収すること、
を含む、発酵によるアトロロシン色素を製造する方法であって、
しかも、工程(b)における成長培地のpHが、4~6の間に維持され;
しかも、工程(b)における前記液体成長培地中の唯一の窒素源が、一級アミンを含む単一のアミノ酸、ペプチド、及びアミノ糖から成る群から選択される1つの化合物であり、そして、
しかも、アトロロシン色素が、式Iの構造を有する、上記の製造方法:
【化I】
上記の式中、N-Rは、一級アミンを含むアミノ酸、ペプチド、及びアミノ糖から成る群から選択される化合物の残基であり、そして、炭素2と炭素3との間の二重結合の配置は、cisである。
【請求項2】
下記の追加の工程:
a’)予備液体成長培地中で(a)の菌糸又は胞子を培養することであって、しかも、唯一の窒素源が無機窒素源であり、NO
3
-の初期濃度が0mMよりも高く20mM以下であり、そして、NO
3
-の濃度が当該初期濃度未満でかつ5mM未満に枯渇するまで培養を続けること;
を含み、
しかも、前記工程(a’)の後が工程(b)である、請求項1に記載の発酵によるアトロロシン色素を製造する方法。
【請求項3】
工程(a’)における唯一の窒素源が、KNO
3及びNaNO
3から成る群から選択される無機窒素源である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)における唯一の窒素源が、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパルテート、L-システイン、L-グルタミン、L-グルタメート、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-トレオニン、L-チロシン、L-バリン、及びL-オルニチン:から成る群から選択される単一のアミノ酸である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
種が、タラロミセスアトロロセウス(Talaromyces atroroseus)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
予備液体成長培地及び液体成長培地が、合成培地であり、そして、塩、微量金属、及び炭素源を含み、
しかも、塩が、KH
2PO
4、NaCl、MgSO
4.7H
2O、KCl、及び、CaCl
2.H
2Oであり、そして、微量金属が、CuSO
4.5H
2O、Na
2B
4O
7.10H
2O、FeSO
4.7H
2O、MnSO
4.H
2O、Na
2MoO
4.2H
2O、及びZnSO
4.7H
2Oである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項7】
炭素源が、グルコース、スクロース、マルトース、可溶性デンプン、ビートまたはサトウキビ糖蜜、モルト、及び、それらの少なくとも2つのいかなる組合せの中から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
発酵が、好気的条件下でバッチ又はフェッドバッチ発酵を使用して実施される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程(b)における液体成長培地が、4.0~5.5のpHの範囲内に維持される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、アトロロシンと呼ばれる新規の類の天然のアザフィロン色素、及びそれらの製造方法を提供する。アトロロシンの製造方法は、好ましくはタラロミセスアトロロセウス種(the species Talaromyces atroroseus)である、タラロミセス属(the genus Talaromyces)に属する真菌種を使用する発酵による製造を含む。食料品用及び/又は非食料品用及び化粧品用着色剤としての、新規のアトロロシン色素の使用、及びそれを含むキット。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
天然の食品着色料は、合成着色料の潜在的な有害な影響の高まりつつある消費者意識に起因した後、ますます求められている1,2。食事と健康との間のリンクの増加する認識に鑑みて、食品添加物産業は、天然着色料の代替を提供する上で新しいチャレンジに直面する。これまでほとんど産業上使用されている天然着色料は、天然の源、例えば、アントシアニン(ビートルートテンサイ(Beta vulgaris)抽出物)、リコピン(トマト(Solanum lycopersicum)抽出物)又はカルミン酸(雌の昆虫コチニールカイガラムシ(Dactylopius coccus3)から抽出される)から直接抽出される。それらの製造は、原材料の供給に高く依存しており、それは、質及び量の両方に関して季節的変動を受ける4。これらの制限は、微生物などの天然色素用の新しい源を調査することによって、克服できる5。菌類は、広範囲の色の範囲内の色素を含む多様な類の2次代謝産物を天然に生合成して排出することが、公知である6。
【0003】
ベニコウジ(Monascus)は、アジア諸国で伝統的な食品の製造用に長く使用されてきた色素産生真菌属である7。ベニコウジからの色素は、「ベニコウジ色素」と呼ばれ、黄色、オレンジ色、及び赤色構成要素を含むアザフィロンの混合物である。
【0004】
ベニコウジ色素の製造用にベニコウジの種を使用すると、色相の範囲を有する異なるベニコウジ色素のカクテルという結果になり8、その組成物は、制御が困難で、バッチ間で変動し得る。更に、ベニコウジの種は、シトリニンなどのマイコトキシンを生産することが公知であり9、それは、腎毒性、肝細胞毒性及び細胞毒性を含む多様な中毒作用を引き起こし、そして、西欧諸国では産業目的でのそれらの使用を排除する。産業上の展望から、発酵によって個別にこれらの成分色素を生産するのが極めて好ましいであろう。そこでは、生産される個別の種の色素は、マイコトキシンを含まず、その結果、色素は、複合的でおそらく複雑な精製工程の必要なしに、容易に抽出できて回収できる。食品添加物としての天然の色素の重要な用途の中で、水溶性色素が極めて望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
第1の形態によれば、本発明は、下記の製造方法を提供する:
下記の工程:
a)タラロミセス属(the genus Talaromyces)の種の菌糸又は胞子を提供すること、
b)液体成長培地中で(a)の菌糸又は胞子を培養すること、
c)前記培養工程b)の間に製造されるアトロロシン色素を回収すること、及び
d)場合により、前記アトロロシン色素を単離すること、
を含む、発酵によるアトロロシン色素(好ましくは、単一の種のアトロロシン色素)を製造する方法であって、
しかも、工程(b)における成長培地のpHが、4~6の間に維持され;
しかも、工程(b)における前記液体成長培地中の唯一の窒素源が、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖、及び一級アミンから成る群から選択される1つの単一の化合物であり;そして、
しかも、アトロロシン色素が、式Iの構造を有する、上記の製造方法:
【化I】
上記の式中、N-Rは、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖、及び一級アミンから成る群から選択され、そして、炭素2と炭素3との間の二重結合の配置は、cisである。
【0006】
第1の形態による当該方法は、下記の追加の工程:
a’)予備液体成長培地中で(a)の菌糸又は胞子を培養することであって、しかも、唯一の窒素源が無機窒素源であり、NO3
-の濃度が20mM以下であり、そして、NO3
-の濃度が5mM未満に枯渇するまで培養を続けること;
を更に含むことができ、
しかも、前記工程(a’)の後が工程(b)である。
【0007】
第2の形態によれば、本発明は、式Iの構造を有する、アトロロシン色素を提供する:
【化I】
上記の式中、N-Rは、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖、及び一級アミンから成る群から選択され、そして、炭素2と炭素3との間の二重結合の配置は、cisであり、
しかも、前記アミノ酸が、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパルテート、L-システイン、L-グルタメート、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-トレオニン、L-チロシン、L-バリン、及びL-オルニチン:から成る群の1つから選択される。
【0008】
第3の形態によれば、本発明は、本発明の方法によって製造される上記で定義されるような式Iの構造を有するアトロロシン色素を提供する。
【0009】
第4の形態によれば、本発明は、食品用、非食品製品用、及び化粧品用のいずれか1つの着色剤としての、上記で定義されるような式Iの構造を有するアトロロシン色素の使用を提供する。
【0010】
第5の形態によれば、本発明は、上記で定義されるような式Iの構造を有するアトロロシン色素を含む生成物を提供し、生成物が、食品、非食品製品、及び化粧品の中から選択される。
【0011】
第6の形態によれば、本発明は、生成物を着色するためのキットを提供し、しかも、キットが、上記で定義されるような式Iの構造を有する少なくとも1つのアトロロシン色素を含み、しかも、色素が容器中に供給されており、しかも、生成物が、食品、非食品製品、及び化粧品の中から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
発明の記述
図面
【
図1】
図1は、アトロロシン色素の化学構造であり、しかも、Rは、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖、及び一級アミンの中から選択され、そして、炭素2と炭素3との間の二重結合の配置は、cisである。生体内で(In vivo)、それは、窒素含有分子を含む、イソクロメン含有アザフィロン前駆体、cis-PP-O及びtrans-PP-Oの誘導体化によって、合成される。
【
図2-1】
図2は、精製アトロロシン色素及びそれらの対応する標準曲線の吸光度スペクトルのグラフによる提示である:純粋なPP-Oの吸光度スペクトル、及び、方程式:y=54.869xの450nmでの対応する標準曲線。純粋なアトロロシン(例示のアトロロシン-S)の吸光度スペクトル、及び、方程式:y=95.244xの500nmでの対応する標準曲線。
【
図3】
図3は、唯一の窒素源として示される単一のアミノ酸(0.1M)又はKNO
3(0.1M)が補足された時の、合成発酵培地中で振とうフラスコ中で培養された時の(例1.2を参照)、96時間後にT.アトロロセウス(T. atroroseus)の1工程発酵によって製造される色素(g/L)(■)及びバイオマス蓄積(棒グラフ)のグラフによる提示である。サンプルは、96時間後に取り出された。データセットは、3回実施された振とうフラスコ発酵に基づく。
【
図4】
図4は、(例1.2で定義されるような)T.アトロロセウスの1工程発酵から誘導される発酵培養液から抽出される化合物のUV-クロマトグラム(520±20nmで測定)を示す図表であり、ここで、成長培地(100ml)には、0.1Mの濃度で唯一の窒素源として硝酸カリウム(KNO
3)、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、又はセリンのいずれかの形態で単一の窒素源が供給された。培地のpHは、水性NaOH及びHClにて、pH5に調節された。培養は、回転振とう培養器中で150rpm及び30℃で邪魔板なしの振とうフラスコ中で実施された。サンプルは、96時間後に取り出された。振とうフラスコ実験は、3回実施された。
【
図5-1】
図5は、唯一の窒素源としてセリン又は硝酸カリウム(KNO
3)及びセリンが供給されたT.アトロロセウスの1工程又は2工程発酵の間に経時的に検出されたスクロース及びCO
2、色素(PP-O及びアトロロシン-S)のレベル及びバイオマス蓄積(DW)のグラフによる提示である。A)10g/l KNO
3を含む1工程発酵の時間経過;B)10g/lセリンを含む1工程発酵の時間経過;C)2工程発酵の時間経過;D)10g/l KNO
3を含む1工程発酵の発酵培地上澄み液のカラープロファイル;E)10g/lセリンを含む1工程発酵の発酵培地上澄み液のカラープロファイル;F)2工程発酵の発酵培地上澄み液のカラープロファイル;G)色素の混合物を示す、10g/l KNO
3を含む1工程培養での発酵培地上澄み液のUVクロマトグラム(520±10nm);H)アトロロシン-Sを示す、10g/lセリンを含む1工程培養での発酵培地上澄み液のUVクロマトグラム(520±10nm);及びI)cis-及びtrans-PP-Oの両方が最初に形成して、その後のセリンの添加後には本質的に純粋なcis-アトロロシン-Sが形成することを示す、2工程培養での発酵培地上澄み液からのUVクロマトグラム(520±10nm)。
【
図6】
図6は、唯一の窒素源としての硝酸カリウム(KNO
3)と比較して、唯一のアミノ窒素源としてセリンが供給された時の、T.アトロロセウスの1工程発酵対2工程発酵から誘導される発酵培養液のサンプルのクロマトグラムと比較して、シトリニンの認証された標準のイオンクロマトグラム(m/z=251.0290)を示す図表である。
【
図7】
図7は、cis-アトロロシン-Sの化学構造を示す図表である。
【
図8】
図8は、A)アトロロシン-S及びモナスコルブラミン-S、及び、B)アトロロシン-E及びモナスコルブラミン-E、のlogD値を示す図表である。
【
図9】
図9は、硝酸塩試験紙を使用する比色硝酸塩測定である。左上:2工程培養から取り出されたサンプル。左下:5~100mgの範囲に適合するように40×希釈後の各サンプルで使用された硝酸塩試験紙。サンプル時点が、硝酸塩試験紙上に記録されている。
【
図10】
図10は、窒素源KNO
3で異なるpHでバイオリアクター中で培養されたタラロミセスアトロロセウス。A)pHの関数としての成長速度(μmax(h
-1));B)pHの関数としてのバイオマス(Ysx■)及び合計の色素(Ysp□)生産。
【0013】
略語及び用語:
PP-O:は、化学式C23H24O7を有する色素であり、cis形又はtrans形のいずれかであることができる。
アトロロシン:は、化学式C23H24O6NRを有する色素であり、ここで、NRは、アミノ酸などの一級アミンを含有する化合物であり、そして、炭素2と炭素3との間の二重結合の配置は、cisである。
利用可能な無機窒素に本質的に欠けている成長培地:は、利用可能な窒素の欠乏に起因して、指数関数的な成長を制限して、微生物(真菌)成長を引き起こして、ラグ又は細胞死フェーズに入る、成長培地である。成長培地が0.5g/L未満の窒素源(例えば、<0.5g/L KNO3又はNaNO3、例えば、<5mM NO3
-)を含有する時、窒素源は枯渇して、何の利用可能な窒素も残らない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な記述
本発明は、好ましくはタラロミセスアトロロセウス種(the species Talaromyces atroroseus)である、タラロミセス属(the genus Talaromyces)に属する真菌種を使用する発酵による個別の種のアザフィロン色素の製造方法を提供する。タラロミセスの種は、最初に、生産生物として使用するのに潜在的に適切であるとして選択された。なぜなら、ベニコウジの種と共通して、それらは、固体培地上で培養した時に、明赤色の色を排出すると考えられたからである。
【0015】
第1の形態によれば、本発明は、下記の製造方法を提供する:
下記の工程:
a)タラロミセス属(the genus Talaromyces)の種の菌糸又は胞子を提供すること、
b)液体成長培地中で前記の菌糸又は胞子を培養すること、
c)工程b)における培養の間に製造されるアザフィロン色素を回収すること、及び
場合により、1つ以上の前記アザフィロン色素を単離すること、
を含む、1工程発酵手順を使用する個別の種のアザフィロン色素を製造する方法であって、
しかも、工程(b)における前記液体成長培地中の唯一の窒素源が、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖、及びいかなる他の一級アミンから成る群から選択される単一の化合物であり;そして、
しかも、アトロロシン色素が、式Iの構造を有する、上記の製造方法:
【化I】
上記の式中、N-Rは、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖、及び一級アミンから成る群から選択され、そして、炭素2と炭素3との間の二重結合の配置は、cisである。
【0016】
適切な唯一の窒素源は、グルコサミン又はガラクトサミンなどのアミノ糖を含み;そして、アントラニル酸、アニリン又はp-フェニレンジアミンなどの一級アミンを含む。
【0017】
好ましくは、唯一の窒素源は、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパルテート、L-システイン、L-グルタミン、L-グルタメート、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-トレオニン、L-チロシン、L-バリン、及びL-オルニチン:から成る群の1つから選択される単一のアミノ酸である、
【0018】
窒素源を含む液体成長培地は、塩、微量金属、及び炭素源を含む合成培地である。適切な炭素源は、グルコース、スクロース、マルトース、可溶性デンプン、ビートまたはサトウキビ糖蜜、モルト、及び、それらの少なくとも2つのいかなる組合せを含む。
【0019】
成長培地は、好ましくは、下記の塩及び微量金属を含むか又はそれらから成る:KH2PO4(例えば、1g/L)、NaCl(例えば、1g/L)、MgSO4.7H2O(例えば、2g/L)、KCl(例えば、0.5g/L)、CaCl2.H2O(例えば、0.1g/L)及び微量金属溶液(例えば、2mL/L)。微量金属溶液は、下記のものを含むことができるか又はそれらから成ることができる:CuSO4.5H2O(例えば、0.4g/L)、Na2B4O7.10H2O(例えば、0.04g/L)、FeSO4.7H2O(例えば、0.8g/L)、MnSO4.H2O(例えば、0.8g/L)、Na2MoO4.2H2O(例えば、0.8g/L)、ZnSO4.7H2O(例えば、8g/L)。成長培地中に唯一の窒素源を提供する化合物の濃度は、0.05M~1M、例えば、少なくとも0.05、0.075、0.10、0.125、0.15、0.175、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、及び0.8Mであることができる。
【0020】
工程(b)の間に提供されて維持される成長培地のpHは、好ましくは4~6の間;より好ましくは4.5~5.5の間であり;ここで、pHは、水性NaOH又はHClの添加によって、調節できる。
【0021】
工程(b)における培養は、液体成長培地中にタラロミセス属の種の菌糸又は胞子を懸濁させることによって;又は、より好ましくは、液体成長培地中にタラロミセス属の種の菌糸又は胞子を浸すことによって、実施できる。
【0022】
工程(a)における胞子は、タラロミセス属の種の胞子の水性懸濁液を含むことができる。好ましくは、タラロミセス属の種は、タラロミセスアトロロセウス種(例えば、菌株タラロミセスアトロロセウスIBT11181)である。
【0023】
第2の形態によれば、本発明は、2工程発酵手順と呼ばれる、1工程発酵手順の修正を使用する個別の種のアザフィロン色素を製造する方法を提供する。この修正によれば、工程(a)の後に、追加の工程(a’)が実施される。工程(a’)では、工程(a)で提供された胞子又は菌糸が、予備液体成長培地中で培養され、しかも、唯一の窒素源が無機窒素源であり、NO3
-の濃度が20mM以下である。無機窒素源は、KNO3及びNaNO3から成る群から選択されることができる。
【0024】
唯一の窒素源として無機窒素を含む予備液体成長培地は、塩、微量金属、及び炭素源を含む合成培地である。塩及び微量金属に関してこの合成培地の組成は、下記のものである:KH2PO4(例えば、1g/L)、NaCl(例えば、1g/L)、MgSO4.7H2O(例えば、2g/L)、KCl(例えば、0.5g/L)、CaCl2.H2O(例えば、0.1g/L)及び微量金属溶液(例えば、2mL/L)。微量金属溶液は、下記のものを含むことができるか又はそれらから成ることができる:CuSO4.5H2O(例えば、0.4g/L)、Na2B4O7.10H2O(例えば、0.04g/L)、FeSO4.7H2O(例えば、0.8g/L)、MnSO4.H2O(例えば、0.8g/L)、Na2MoO4.2H2O(例えば、0.8g/L)、ZnSO4.7H2O(例えば、8g/L)。適切な炭素源は、グルコース、スクロース、マルトース、可溶性デンプン、ビートまたはサトウキビ糖蜜、モルト、及び、それらの少なくとも2つのいかなる組合せを含む。
【0025】
2工程発酵法によれば、工程(a’)で生産されるタラロミセス培養液の培養は、その後、液体成長培地中での更なる培養工程(b)に続く。工程(b)における液体成長培地は、塩及び微量金属に関して予備液体成長培地と同じ組成物を有する合成培地である。しかし、工程(b)における液体成長培地は、有機窒素の唯一の源として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖、及び一級アミンの1つから選択される化合物を含む。適切な有機窒素源は、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖、及びいかなる他の一級アミンから成る群から選択され;そして、1工程発酵手順において液体成長培地中で使用される適切な源に対応する。無機窒素の源は、工程(a’)における予備液体成長培地の成分であるが;工程(b)における液体成長培地中には何の追加の無機窒素源も含まれていない。しかし、その代わりに、無機窒素は、有機窒素の特定の源に置換えられる。
【0026】
第2の形態による2工程発酵は、工程(a’)において予備液体成長培地中で胞子又は菌糸を培養することによって、及びその後、工程(a’)によって製造された培養液に、有機窒素の唯一の源を、工程(b)において添加することによって、実施できる。予備液体成長培地の無機窒素含有量は、工程(a’)において真菌胞子又は菌糸の培養の間に枯渇し、その結果、成長培地は、工程(a’)の終わりに、利用可能な無機窒素に本質的に欠ける。予備液体成長培地の無機窒素含有量は、工程(a’)の終わりまでに完全な枯渇を確保するために、例えば、2g/L以下、1.75g/L、1.5g/L、1.25g/L、1g/L以下のKNO3又はNaNO3を提供することによって、例えば、20mM以下、17.5mM、15mM、12.5mM、10mM以下のNO3
-を提供することによって、調節できる。予備液体成長培地中に存在する無機窒素のレベルが、0.5g/L未満、0.4g/L、0.3g/L、0.2g/L、0.1g/L、又は0.05g/L未満の量のKNO3又はNaNO3に一旦枯渇すると、例えば、5mM未満、4mM、3mM、2mM、1mM、0.5mM未満の量のNO3
-に一旦枯渇すると、その後、タラロミセス培養液の成長を支持することは、もはやできない。
【0027】
代わりに、工程(a’)における予備液体成長培地は、更なる培養工程(b)の開始と同時に、唯一の窒素源として上記で認識される有機窒素化合物を含む液体成長培地によって交換される。
【0028】
工程(a’)において提供されてそして工程(b)の間に維持される成長培地のpHは、好ましくは4~6の間;好ましくは4.5~5.5の間であり;ここで、pHは、水性NaOH又はHClの添加によって、調節できる。
【0029】
1工程発酵及び2工程発酵の間の培養条件は、タラロミセス培養液における好気性代謝を支持する。好気性代謝は、十分な曝気に頼り、それは、液体培養液を振とうすることによって、又は、空気の源(例えば、酸素)を供給することによって、実現できる。
【0030】
1工程発酵及び2工程発酵手順は、バイオリアクター中で実施できる。1工程発酵及び2工程発酵手順の両方において使用される(上記の)液体成長培地は、真菌培養液のバッチ、フェッドバッチ、又は連続培養のいずれかを促進するために、バイオリアクターに供給されることができる。
【0031】
2工程発酵手順における培養工程(a’)及び(b)の持続時間は、(バイオマスによって測定される)タラロミセス培養液の成長及びタラロミセス培養液によって製造されるアザフィロン色素の収率を最適化するように、選択される。培養工程(a’)は、好ましくは、少なくとも28h;例えば、30h~40hの間である。培養工程(a’)は、約32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、及び54hの持続時間であることができる。工程(a’)に続く培養工程(b)の持続時間は、好ましくは、少なくとも50h;例えば、50h~80hの間である。培養工程(b)は、約50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、75、80hの持続時間であることができる。
【0032】
第1の形態又は第2の形態による、タラロミセス培養液の培養によって製造されるアザフィロン色素は、細胞外液であり、そして、その結果、液体培地から回収することができる。驚いたことに、アザフィロン色素合成の始まりは、1工程発酵手順と比較して、2工程発酵手順が使用される時、著しく少ない時間の培養後に、起こる(例3.2;
図5を参照)。更に、アザフィロン色素収率によって判断されるような、2工程発酵手順の炭素経済は、優れている(例3.4-3.5;表3及び表4を参照)。
【0033】
タラロミセスアトロロセウスの菌株は、黄色アザフィロン(PP-Y)、及びオレンジアザフィロン(PP-O)のcis-及びtrans-異性体、及びバイオレットアザフィロン(PP-V)を含む、ベニコウジ色素の混合物を生産することが可能であると報告される。驚いたことに、本発明の第1の形態及び第2の形態による方法によって製造されるアザフィロン色素は、アトロロシン色素の単一の種であって、色素の混合物ではない(例2を参照)。2工程発酵手順の工程(a’)の間に窒素の唯一の源として、KNO
3又はNaNO
3(少量、例えば、2g/L(0.02M NO
3
-))が提供される時、これは、工程(a’)の間にオレンジ色アザフィロン色素(PP-O)のcis形及びtrans形の両方の少量の合成を、選択的に促進する。その後の工程(b)において、有機窒素の源中に存在するアミノ基は、PP-Oアザフィロンコア異性体構造(cis-及びtrans-PP-O)の中に組込まれて、本質的に純粋な形の特定のcis-アトロロシン誘導体を形成する(
図1)。こうして、当該方法によって製造される単一の種のアトロロシン色素は、複合的でおそらく複雑な精製工程の必要なしに、抽出されることができて、回収されることができる。更に、当該方法を使用する発酵の生成物は、いかなるマイコトキシンも含まず(例4を参照)、そして、その結果、人間への使用に安全である。
【0034】
第3の形態によれば、本発明は、式Iを有する新規なアトロロシン色素を提供する:
【化I】
上記の式中、N-Rは、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖(例えば、グルコサミン又はガラクトサミン)及び一級アミン(例えば、アントラニル酸、アニリン又はp-フェニレンジアミン)の中から選択され、そして、炭素2と炭素3との間の二重結合の配置は、cisである。
【0035】
好ましい形態では、アトロロシン色素は、式Iを有し、ここで、N-Rは、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパルテート、L-システイン、L-グルタメート、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-トレオニン、L-チロシン、L-バリン、及びL-オルニチンから成る群の1つから選択されるアミノ酸である。
【0036】
上記で定義されるような式Iを有するこの新規のアトロロシンは、本発明の第1の形態又は第2の形態による発酵手順によって製造される真菌培養液から回収されるアザフィロン色素である。この発酵手順を使用するこの新規のアトロロシンの収率は、真菌菌株が同じ条件下で培養されるが唯一の窒素源として無機窒素を含む合成培地が供給される時、生産される異なるアトロロシンの組み合わせた合計よりも、少なくとも4倍高い(例3.4を参照)。
【0037】
式Iを有する新規のアトロロシンの重要な特性は、公知のベニコウジ色素と比較した時に、その増加した水溶性である。これは、アトロロシンの主鎖構造中のカルボン酸と、組込まれたアミノ含有部位によって与えられる極性とに、起因する(例6.1を参照)。
【0038】
式Iを有するアトロロシンを抽出して検出する方法は、例2.1及び例2.2に詳細に記載される。式Iを有するアトロロシンの化学構造は、例5.1及び例5.2に記載されるように、核磁気共鳴分光法及び高分解能質量分析法及びダイオードアレイ検出法と結合した超高速液体クロマトグラフィーを用いて、決定できる。
【0039】
式Iを有するアトロロシンは、食品生成物、非食品製品及び化粧品中に、着色剤として使用されることができる。食品生成物は、下記の食品の中から選択できる:パン類、ベーキングミックス、飲料及び飲料ベース、朝食用シリアル、チーズ、香辛料及び薬味、菓子及び艶消し、油脂、冷凍乳製品デザート及びミックス、ゼラチン、プディング及び詰め物、肉汁及びソース、ミルク製品、植物性タンパク質製品、果実加工品及び果汁、及びスナック食品。
【0040】
非食品製品は、下記の非食料品の中から選択できる:繊維製品、綿織物、羊毛、絹、皮革、紙、塗料、ポリマー、プラスチック、インク、錠剤。
【0041】
化粧品は、フリーパウ、液体で注がれた粉末又は圧縮粉、流動無水油性製品、身体及び/又は顔用のオイル、身体及び/又は顔用のローション、又は、ヘア製品の形態であることができる。
【0042】
本発明は、生成物を着色するためのキットを提供し、しかも、キットが、本発明による式Iを有する少なくとも1つのアトロロシン色素を含み;しかも、色素が、(場合により、コロイド又は増粘剤などの調剤剤と組み合わせた)容器中に供給されており、しかも、生成物が、食品、非食品製品、及び化粧品の中から選択される。
【0043】
例
例1.発酵による、新規の類のアザフィロン色素、アトロロシンの製造
1.1 菌株維持及び胞子製造:
真菌菌株タラロミセスアトロロセウスIBT11181(IBT DTU菌株保存)が、アトロロシンの製造のために使用された。T.アトロロセウスの胞子を、(70185 Sigma-Aldrichによって供給される)Czapek Dox Agar (CYA)寒天上のプレート上で増殖させて、そして、30℃で7日間、培養させた。胞子は、0.9%塩化ナトリウム(NaCl)溶液で収穫された。懸濁物がミラクロスを通して濾過されて、菌糸から胞子を分離した。胞子溶液が、4℃で10,000rpmで10分間、遠心分離された。上澄み液が除去されて、そして、胞子ペレットが0.9%NaCl溶液中で再懸濁された。胞子濃度は、Burker-Turkカウンティング・チャンバーを使用することによって、決定された。全ての培養は、106胞子/mlの初期胞子濃度を与えるように、接種された。
【0044】
1.2 アトロロシンの製造用の1工程発酵手順
小規模製造:
アトロロシンが、下記の成分を含む発酵培地を使用する1工程発酵によって製造された:スクロース(7.5g/L)、グルコース(0.375g/L)、KH2PO4(1g/L)、NaCl(1g/L)、MgSO4.7H2O(2g/L)、KCl(0.5g/L)、CaCl2.H2O(0.1g/L)及び微量金属溶液(2mL/L)。微量金属溶液は、CuSO4.5H2O(0.4g/L)、Na2B4O7.10H2O(0.04g/L)、FeSO4.7H2O(0.8g/L)、MnSO4.H2O(0.8g/L)、Na2MoO4.2H2O(0.8g/L)、ZnSO4.7H2O(8g/L)から成った。様々な窒素源が、下記のものから選択されるL-アミノ酸の0.1Mを提供することによって、供給された:L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパルテート、L-システイン、L-グルタミン、L-グルタメート、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン及びL-オルニチン。培地のpHが、水性NaOH及びHClで、pH5に調節された。100mlの容積中での発酵が、回転振とう培養器中で150rpm及び30℃で邪魔板なしの振とうフラスコ中で実施された。サンプルは96時間後に取り出された。振とうフラスコ実験は、3回実施された。コントロール/ベンチマークとして、アミノ酸の代わりに窒素源としてKNO3(0.1M)が試験された。
【0045】
大規模製造:
同じ培地を使用したが、培地が唯一の窒素源として20g/Lスクロース及びセリンを含んで4.5のpHという修正をした上で、1Lバイオリアクター中で1工程発酵によっても、アトロロシンが製造された。発酵は、30℃、800rpm、及び1vvmで、実施された。バイオリアクター実験は、2回実施された。
【0046】
1.3 発酵によって得られるT.アトロロセウスバイオマスの分析
発酵の間に蓄積されたT.アトロロセウスバイオマスが、事前計量済フィルターを使用して乾燥重量(DW)として測定された。フィルターは、マイクロウェーブ中で20分間、事前乾燥され、デシケータ中で最低限10分間維持され、そして、計量された。DW測定では、フィルターは、吸引濾過ポンプ中に置かれ、そして、約10mlの発酵培養液が添加された。その後、バイオマスを含むフィルターは、マイクロウェーブ中で20分間乾燥され、そして、再計量される前にデシケータ中で最低限10分間維持された。バイオマスの重量は、サンプル適用前後のフィルター重量の相違として決定された。1g/Lの培養液密度を想定する。
【0047】
1.4 発酵によって製造されるアトロロシンの定量分析
色素の吸光度値が、Synergy2フォトスペクトル及び96ウェルマイクロタイタープレートを使用して、決定された。窒素源として各アミノ酸を含む培地上での発酵から誘導される濾過された発酵培養液の150μlサンプルが、200-700nmの範囲でスキャンされ、そして、最大吸光度値が決定された。490nmでの吸光度は、赤色色素の存在を示した。オレンジ色及び赤色色素の標準曲線が、培地中の濃度を計算するために、使用された(
図2を参照)。
【0048】
1.5 合成発酵培地上でのT.アトロロセウスの発酵によって製造されるアトロロシン色素及びバイオマス
1工程発酵の間のT.アトロロセウス及びバイオマス蓄積による色素の製造上でのアミノ窒素の源の本質的な役割が、小規模振とうフラスコ中で例1.2で定義されるような合成培地中で、20の天然アミノ酸及び非タンパク質構成アミノ酸オルニチンの各々で評価された。対照として、唯一の窒素源としてKNO3を使用する合成培地中で、発酵が実施された。
【0049】
各発酵で生産された色素の濃度が、全体の発酵培養液の500nmでの吸光度を測定することによって決定され、それらから、
図2に示される標準曲線を使用して、色素濃度が計算された。
【0050】
図3に見られるように、各々の天然のアミノ酸は、唯一の窒素源として供給された時は、成長を支持したが、いくつかのアミノ酸は、他のものよりもバイオマス蓄積に有利に働いた。バイオマス蓄積は、プロリン(6.05+0.3g/L)で最も高く、その次に、アラニン(5.48+0.01g/L)及びオルニチン(4.83+0.07g/L)であった。アルギニン(4.45+0.02g/L)、アスパラギン(4.4+0.03g/L)、アスパラギン酸(4.26+0.5g/L)及びグルタミン酸(4.49+0.24g/L)も、高いバイオマス値につながる。窒素源としてKNO
3が供給された対照は、収率2.77±0.06g/Lであった。ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン及びチロシンは、2g/L未満の低いバイオマス値を支持した。
【0051】
色素製造に関して、最も高い収率を与えるアミノ窒素源は、収率0.39g/Lのグルタミン酸であった。他の高い収率のアミノ窒素源は、アスパラギン酸(0.25g/L)、ヒスチジン(0.19g/L)及びロイシン(0.11g/L)であり、その次に、セリン(0.08g/L)及びイソロイシン(0.07g/L)であった(
図3参照)。
【0052】
唯一のアミノ窒素源としてプロリンを提供すると、何の検出可能な色素製造も観察されなかった。これは、プロリン中の2級アミンに起因していると思われ、それは、色素のコア構造中へのその組込みを妨げる。他の17の天然アミノ酸は、それらの一級アミンを介して組込まれる。色素形成なしで、T.アトロロセウスは、成長の炭素源としてプロリンを使用するとみられ、それは、バイオマスの高い蓄積の観察につながる。
【0053】
グルタミン及びアスパラギンを含む培地中での比較的低い色素製造は、振とうフラスコ中の安定なpHを維持することの欠落によるものとされる。グルタミンを含む培地中での72時間後の発酵培養液のpHは、pH3.8に低下したが、その一方で、グルタミン酸を含む培地は、最終のpH6.1を有した(表1を参照)。
【0054】
【0055】
1工程法でのバイオリアクター実験は、発酵液のpHが色素及びバイオマス製造に極めて影響したことを、例証した。
【0056】
図10Aは、タラロミセスアトロロセウスIBT11181の成長速度は、(pH3-4.5)などの低いpHで培養すると、(pH5-7などの)高いpHと比較して、著しく高かったことを、示す。しかし、表2及び
図10Bに示されるように、発酵液のpHがpH3に維持された時、これは、色素製造を完全に妨げた。(pH≧6などの)高いpHでも、本質的に何の色素製造も観察されなかった。pH制御を欠く振とうフラスコ培養液からすでに見られるように、バイオリアクター実験は、色素製造に有利な条件を維持するためのpH制御の重要性を確認した。
【0057】
【0058】
例2.高純度の単一のアトロロシン色素が、合成発酵培地上でT.アトロロセウスの発酵によって得られる
発酵培養液から収集されたサンプルは、HPLC、吸光度及びLC-MSによるそれらの分析よりも前に、濾液からバイオマスを分離するために、孔径0.45μmを持つ無菌Statorius Stedimフィルターを通して、まず濾過された。合成発酵培地上でT.アトロロセウスの発酵によって製造されるアトロロシン精製のために、2つの方法が使用された。
【0059】
2.1 発酵によって製造されるアトロロシンの抽出及び精製
方法I:
タラロミセスアトロロセウス(IBT11181)の培養から誘導される発酵培養液が、濾過され、遠心分離されて、そして、上澄み液が、ギ酸(FA)で調節されたpH3の1:1酢酸エチル(EtOAc)で2回、抽出された。有機抽出液が、真空で濃縮された。目的化合物が、C18カラム材料上での水/メタノール勾配溶出を使用する、an Isolera One automated flash system (Biotage)上でのEtOAc抽出のフラッシュクロマトグラフィーによって、粗フラクション中にエンリッチされた。最終の単離が、50ppmトリフルオロ酢酸(TFA)を含む水/アセトニトリル勾配を使用するLUNA II C18カラム(250mm×10mm、5μm、Phenomenex)を備えている996フォトダイオードアレイ検出器を持つ半分取HPLC、a Waters 600 Controller上で、実施された。
【0060】
方法II:
タラロミセスアトロロセウス(IBT11181)の培養から誘導される発酵培養液が、濾過され、遠心分離されて、そして、濾液が、(FAで調節された)pH3の1/3容積のEtOAcで3回、抽出された。組み合わせたEtOAc相が、100mLに蒸発されて、そして、(水酸化アンモニウムで調節された)pH8のミリQ水(1:1)で、2回、抽出された。水相が、FAでpH3に再調節されて、そして、EtOAcで2回抽出されて、その後に蒸発されて、高エンリッチ>95%色素フラクション(いくつかのアトロロシン及びN-アミノ酸モナスコルブラミンの混合物、比率>10:1)を生産した。色素が、水/アセトニトリル勾配を持つLUNA II C18カラム(250mm×10mm、5μm、Phenomenex)を使用する、Gilson172ダイオードアレイ検出器を備えているGilson332半分取HPLCシステム上で、分離された。
【0061】
2.2 発酵によって製造されるアトロロシンの定量分析
個別の色素溶液の吸光度値が、Synergy2フォトスペクトル及び96ウェルマイクロタイタープレートを使用して決定された。各アミノ酸-色素-溶液の150μlのサンプル培養液が200-700nmの範囲でスキャンされて、最大吸光度値が決定された。490nmでの吸光度は、赤色色素の存在を示す。オレンジ色及び赤色色素の標準曲線が、培地中の濃度を計算するために、使用することができる(
図2を参照)。
【0062】
2.3 合成培地上で発酵されるT.アトロロセウスの発酵培養液中に検出される単一のアトロロシン色素
T.アトロロセウスの発酵によって製造される特定のアザフィロンの濃縮が、唯一の窒素源として単一のアミノ酸を提供することによって、極めて増加する(
図4)。窒素源として0.1M硝酸カリウムでT.アトロロセウスが培養されると、過剰の異なるアザフィロン色素が検出され、その一方で、唯一の窒素源として単一のアミノ酸のみが供給されると、その構造中にこの特別なアミノ酸を組込んでいるアトロロシンに対応するたった1つの主要なUV検出可能ピークが観察された(
図4)。
【0063】
例3.合成発酵培地上でのT.アトロロセウスの発酵による高純度の単一アトロロシン色素の大規模製造
3.1 アトロロシンの製造用2工程発酵手順
2工程培養:
2工程発酵が、1Lバイオリアクター中で実施された。発酵培地は、スクロース(20g/L)、グルコース(1g/L)、KH2PO4(10g/L)、NaCl(1g/L)、MgSO4.7H2O(2g/L)、KCl(0.5g/L)、CaCl2.H2O(0.1g/L)及び微量金属溶液(2mL/L)を含有した。最初の工程では、培地は、唯一の窒素源として2g/L(0.02M)のKNO3を含んだ。53hの培養後、アミノ酸誘導体の形成を引き起こすように、セリンが、1g/L(0.01M)の最終濃度に添加された。発酵条件は、30℃、800rpm、1vvm及びpH4.5に維持された。
【0064】
3.2 1工程発酵の代わりに2工程発酵手順を使用する、より速いアトロロシン製造
1工程発酵及び2工程発酵手順を使用するT.アトロロセウスによるバイオマス収率及び色素製造の両方が比較された。1工程発酵では、唯一の窒素源として0.1Mセリンが使用され、対照として0.1M KNO3が使用された。2工程発酵では、cis-及びtrans-PP-O製造が、0.02M KNO3によって最初に引き起こされ、それは、その後、成長培地からKNO3が枯渇した後、L-セリンの添加(最終濃度0.01M)によって、cis-アトロロシン-Sに転化された。
【0065】
1工程発酵の間に、発酵は、75h後に対照(唯一の窒素源としてKNO
3)では炭素限界になり、そして、発酵の終わりに、0.35g/Lの混合色素及び5g/Lのバイオマスの収率となった(
図5Aを参照)。培養の間に、炭素が枯渇した時、色素製造により、色がオレンジ色(PP-O)から赤色(アトロロシン及びベニコウジ色素の混合物)に変化した(
図5A&D)。
【0066】
唯一の窒素源としてL-セリンでの1工程発酵の間に、発酵は、180h後に炭素限界になり、そして、発酵の終わりに、0.9g/Lのcis-アトロロシン-S及び6.5g/Lのバイオマスの収率となった(
図5Bを参照)。他の天然のアミノ酸で同様の結果が得られた(
図4を参照)。発酵の全体の時間経過の間に、cis-アトロロシン-S製造は、真菌成長と共に増加し、そして、何のPP-O異性体も観察されなかった(
図5B&E)。
【0067】
2工程発酵手順では、窒素源として少量のKNO
3(20mM)が最初に供給され、オレンジ色色素PP-Oの生合成という結果になった(
図5C&F)。アミノ酸(この場合にはセリン)が濃度0.01Mで53h発酵後に最初に添加され、それは、その後、cis-及びtrans-PP-Oアザフィロンコア構造の中に組込まれ、赤色色素cis-アトロロシンSの合成という結果になった(
図1)。2工程培養が、0.9g/LのアトロロシンSだが6.5g/Lと比較してより高いバイオマスの7.4g/Lバイオマスの収率もあった一方で、これは、炭素限界の始まりで100h後にのみ得られた。
【0068】
3.3 T.アトロロセウスの発酵によって製造されるアトロロシン色素の確認
唯一の窒素源としてKNO
3又はセリンのいずれかを含む合成発酵培地上でT.アトロロセウスの1工程発酵によって製造されるアトロロシン色素のUVクロマトグラムプロファイル(520±20nm)は、
図5G&
図5Hに、それぞれ示され、その一方で、アミノ酸添加の直前後の2工程発酵の色素プロファイルは、
図5Iに示される。
【0069】
唯一の窒素源として0.1M KNO
3を含む発酵は、色素の混合物を生産し(
図5G)、その一方で、唯一の窒素源として0.1M L-セリンを含む発酵は、最小限の不純物を含むcis-アトロロシン-Sを生産した(
図5H)。
【0070】
2工程発酵では、第1の相(低いKNO3量)の間に2つの異性体のPP-Oが生産され:第2の相では(セリンの添加後)、両方の異性体のPP-Oが、cis-アトロロシン-Sに転化された。
【0071】
クロマトグラムH及びIの両方で8分で検出された主要なUVピークは、(質量分析法によって確認すると)アトロロシン-Sに対応し、クロマトグラムIで10分~11分の間に検出された2つのピークは、PP-Oのcis-及びtrans-異性体に対応する。
【0072】
3.4 2工程発酵の間の硝酸塩枯渇
54時間後、バイオマス及びCO
2中の排気のプラトーに起因して、KNO
3が枯渇したと推定された(
図5C)。これは、
図9に示されるように、カント-固定硝酸塩ストリップを使用する半定量的推定によって、確認された。42時間後にすでに、硝酸塩レベルは、発酵の早い時期と比較して低下し始めた;これは、2つの異性体の形の前駆体PP-Oが生産され始めた時に対応する(
図5C)。より明白だったことは、窒素源としてセリンにスイッチ後、上澄み中の色素が鮮やかな赤色に変わり、そして、硝酸塩カント-ストリップによって明白なように、硝酸塩が枯渇したことである。
【0073】
2工程発酵法によるT.アトロロセウスによる単一のアトロロシン色素の製造では、培地中の硝酸塩レベルが、アミノ酸の添加より前に(5mM未満に)枯渇することは、本質的である。
【0074】
(>0.02Mなどの)高い硝酸塩濃度を含む発酵培地中でT.アトロロセウスを培養すると、色素の混合物が、硝酸塩枯渇より前に(
図5A及び
図5Gに見られるように)生産され、そして、結果として、培養培地にアミノ酸が添加される時、単一の純粋なアトロロシン生成物を得ることは可能ではない。
【0075】
(<0.02Mなどの)低い硝酸塩レベルを含む発酵培地中でT.アトロロセウスを培養して、そして、「あまりにも早く」、すなわち、硝酸塩枯渇より前に及びPP-O蓄積の開始より前に、アミノ酸を培養培地に添加すると、単一のアトロロシン生成物は得られないが、むしろ色素の混合物が得られる。PP-O製造の開始より前に添加される時、アミノ酸は、細胞機能のために利用され、そして、アトロロシンの混合物という結果になる、(硝酸塩と比較して)過剰に存在しないであろう。
【0076】
3.5 アトロロシン製造の炭素経済は、2工程発酵を使用して向上する(表3に言及される計算)
セリンが供給される1工程発酵手順では、T.アトロロセウスは20g/Lのスクロース及び10g/Lのセリンを使用し、0.9g/Lのアトロロシン-Sを生産する。
【0077】
2工程発酵手順では、T.アトロロセウスは20g/Lのスクロース及び2g/Lのセリンを使用し、0.9g/Lのアトロロシン-Sを生産する。
【0078】
スクロースの分子量は、324.3g/molである。プロセスの炭素利用のみを考慮すると、単位c-モルが使用される。化学式C
12H
22O
11を有するスクロースは、その結果:
324.3g/molは28.53g/c-モルに対応する。
【数1】
20gのスクロース相当(n=m/c-モル=20g/28.53g/cモル)=0.7c-モル。
同じ計算が、アトロロシン-S及びセリンで実施できる。
アトロロシン-S:C
26H
29NO
9及び499.18g/mol。
セリン:C
3H
7NO
3及び105.09g/mol。
【0079】
【0080】
1工程培養法は、炭素の4.8%をアトロロシン-Sに転化し、その一方で、対応する2工程培養では、アトロロシン-Sへの炭素の転化率は、6.4%に増加した(表4を参照)。窒素源としてKNO3が供給される時、色素の混合物への炭素の転化率は、ほんの1%であった(表4)。その結果、アザフィロン色素の製造での1工程発酵法及び2工程発酵法の炭素経済は、無機窒素に基づく伝統的な発酵方法よりも少なくとも4倍高い収率を達成する。
【0081】
3.6 純粋なcis-アトロロシン-Sの向上した収率は、1工程及び2工程発酵手順を使用してT.アトロロセウスによって製造される
無機窒素を含む成長培地に基づく伝統的な発酵方法を使用すると(表4を参照)、T.アトロロセウスは、炭素を、ほんの1%以下の炭素経済で、色素の混合物に転化する。対照的に、単一のアザフィロン色素の製造での1工程発酵法及び2工程発酵法の炭素経済は、少なくとも4倍高い収率を持つ。
【0082】
【0083】
例4. 1工程又は2工程発酵法によって製造されるT.アトロロセウスの生成物は、マイコトキシンを含まない
(KNO
3、セリン、又は、KNO
3及びセリンのいずれかが供給された)T.アトロロセウスの1工程又は2工程発酵から誘導される発酵培養液の分析は、いかなる3つの培養条件下でもマイコトキシンシトリニン(m/z=251.0920)が生産されない(メビノリンも生産されない;示されていない)ことを、示す(
図6)。
【0084】
例5. T.アトロロセウスの発酵によって製造される新規のアトロロシン色素の構造
1工程又は2工程発酵から誘導されるT.アトロロセウスの発酵培養液中のアトロロシン色素が、例2.1に記載されるように、抽出されて分離され;そして、その後、下記の方法を使用して分析された。
【0085】
5.1 超高速液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析法(UHPLC-HRMS)
ダイオードアレイ検出器を備えているan Agilent Infinity 1290 UHPLCシステム(Agilent Technologies, Santa Clara, CA, USA)上で、UHPLC-HRMSが実施された。直線的勾配を持つan Agilent Poroshell 120フェニル-ヘキシルカラム(2.1×250mm、2.7μm)上で、分離が得られ、それは、共に20mMギ酸で緩衝されている水(A)及びアセトニトリル(B)から成り、10%Bで開始して15分で100%に増加し、そこでは、それは2分間保持されて、0.1分で10%に戻り、そして、3分間残った(0.35mL/分、60℃)。1μLの注入容積が使用された。乾燥ガス温度250℃、ガス流8L/分、シースガス温度300℃及び12L/分の流れで、Agilent Dual Jet Streamエレクトロスプレーイオン源を備えているan Agilent 6545 QTOF MS上のポジティブ検出モードで、MS検出が実施された。毛細管電圧は4000Vにセットされ、ノズル電圧は500Vにセットされた。捕捉速度10スペクトル/sで、MS/MSモードでm/z30-1700及びMSモードでm/z85-1700で、重心データとして10、20及び40eVで、質量スペクトルが記録された。1:100スプリッターを使用して15μL/分の流れでエクストラLCポンプを使用して第2のスプレイヤー中に、70:30メタノール:水のロック質量溶液が、注がれた。溶液は、ロック質量として、1μMトリブチルアミン(Sigma-Aldrich)及び10μMヘキサキス(2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ)ホスファゼン(Apollo Scientific Ltd., Cheshire, UK)を含有した。両方の化合物の[M+H]+イオン(それぞれ、m/z186.2216及び922.0098)が、使用された。
【0086】
5.2 核磁気共鳴(NMR)分光法
the Department of Chemistry at the Technical University of Denmarkに位置するa Bruker Avance 800 MHz上で、又は、a Bruker Ascend 400 MHz (Bruker, Billerica, MA, USA)上のいずれかで、1D及び2D NMRスペクトル(1H、DQF-COSY、edHSQC、HMBC及びNOESY)が、記録された。標準パルスシーケンスを使用してNMRスペクトルが取得された。使用された溶媒は、CD3OD(δH=3.31ppm及びδC=49.0ppmの参照)、又は、δH=2.50ppm及びδC=39.5ppmのシグナルを持つ参照としても使用されたDMSO-d6のいずれかであった。TopSpin 3.5 (Bruker), MestReNova v.6.2.1-7569 (Mestrelab Research, Santiago de Compostela, Spain)及びACD NMR Workbook (Advanced Chemical Development, Inc., Toronto, Ontario, Canada)を使用して、データ処理及び分析がなされた。J-カップリングがヘルツ(Hz)で、化学シフトがppm(δ)で報告される。
【0087】
5.3 cis-アトロロシン-Sの構造決定
精製アトロロシン-Sは、暗赤色で、ほとんど黒色で、アモルファスの固体であった。HR-ESI-MSは、分子式C26H30NO9(DBE=13)に対応する、質量電荷比[M+H]+=500.1915Daを与えた。
【0088】
【0089】
520nmでUVmaxを持つ公知のモナスコルブラミンと同様のUV吸収スペクトルを、Cis-アトロロシン-Sは有した。その構造を決定するために、1D及び2D NMR(表5にリストされたシフト)が、使用された。
【0090】
1H-NMR及びHSQCは、6.43~8.57ppmの範囲内に5つのオレフィン系プロトン(2、3、5、7、及び12)、及び、1.67(9-CH3)及び0.89ppm(22)に2つのメチル基を示した。更に、合計で7つのCH2基が確認できた。これらの6つは、脂肪酸鎖(16-21)中で一緒にリンクしており、1つ(3’)は、5.12ppm(2’)でCHとリンクしている。
【0091】
13C-NMR及びHMBCは、11個の4級炭素:5つのカルボニル(1、10、13、15、及び1’)、5つのアルケン炭素(4、6、8、11、及び14)、及び1つの4級アルカン(9)、を示した。
【0092】
HMBCは、3’をカルボニル1’にリンクする、アザフィロンスカフォードの範囲内の広範囲のH-C-カップリングを提供した。3’は、4とのカップリングも示した。16及び17は、15との相関を有し、5及び12は、6、10及び10との相関を有し、その一方で、7及び9-CH
3は、8及び9とのカップリングを示した。更に、2及び3から1及び4へのカップリングが観察された。最終的に、2と3との間の結合定数は、二重結合のcis配置を支持した。得られるスペクトルに基づき、アトロロシン-Sは、
図7に示す構造を有することが、決定された。
【0093】
5.4 アトロロシン-アミノ酸誘導体の構造決定
残りの18のアトロロシン-アミノ酸誘導体の構造が、明らかにされ、それぞれのアミノ酸が、cis-アトロロシン-Sに関してコアアザフィロン構造の中に組込まれたことが、確認された(データは示されない)。NMRデータは、分子のイソキノリン部分に付いているアミノ酸部位中のcis-アトロロシン-Sとの相違を示したのみである。全ての18のアトロロシン-アミノ酸誘導体は、明赤色を有した。
【0094】
例6 アトロロシン色素の物理的特性
6.1 (全てのアトロロシンにおけるような1位にカルボン酸のない)それぞれのモナスコルブラミンと比較したアトロロシン色素の親水性
logP及びlogD値は、2相の水/オクタノールシステム中の検体の溶解性の尺度である。当該値が低いほど、検体はより親水性であり、logP/D値0は、50:50分布に対応する。logPは、イオン化していない種のみに言及し、それに対して、logDは、イオン化種及びイオン化していない種の両方に言及しており、その結果、pHによって変わる。
【0095】
【0096】
LogP及びlogD値は、
図8においてアトロロシン-S及びアトロロシン-Eについて提示され、それらがより可溶性であることを、例証する。
【0097】
6.2 アトロロシン色素の比色値
CIELAB表色系(15)を使用して、アトロロシン色素の色の特徴が決定された。L*、a*、及びb*の値が、CIELAB表色系を持つCR-300比色計(Minolta Camera Co., Ltd., Osaka, Japan)によって、測定された。これらの値は、その後、彩度(C*)及び色相角(hab)値を計算するために、使用された。L*は、0(黒)から100(白)の明度を示す。a*における正及び負は、それぞれ、赤色及び緑色を表すのに対し、b*における正及び負は、それぞれ、黄色及び青色を表す。彩度値は、色の飽和(彩度)又は純度を示す。同じL*値で中央に近い値は、鈍色又は灰色を示すのに対して、周辺に近い値は、鮮明な色又は明るい色を表す。色相角値は、赤色では0、黄色では90、緑色では180、そして、青色では270を表す。純粋な色素のL*、a*、及びb*値が、それらの希釈濃度が4に調節された後に、得られた。
本発明に関連して、以下の内容を更に開示する。
[1]
下記の工程:
a.タラロミセス属(the genus Talaromyces)の種の菌糸又は胞子を提供すること、
b.液体成長培地中で(a)の菌糸又は胞子を培養すること、
c.工程b)における前記培養の間に製造されるアトロロシン色素を回収すること、及び
d.場合により、前記アトロロシン色素を単離すること、
を含む、発酵によるアトロロシン色素を製造する方法であって、
しかも、工程(b)における成長培地のpHが、4~6の間に維持され;
しかも、工程(b)における前記液体成長培地中の唯一の窒素源が、単一のアミノ酸、ペプチド、アミノ糖、及び一級アミンから成る群から選択される1つの化合物であり、そして、
しかも、アトロロシン色素が、式Iの構造を有する、上記の製造方法:
【化I】
上記の式中、N-Rは、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖、及び一級アミンから成る群から選択され、そして、炭素2と炭素3との間の二重結合の配置は、cisである。
[2]
下記の追加の工程:
a’)予備液体成長培地中で(a)の菌糸又は胞子を培養することであって、しかも、唯一の窒素源が無機窒素源であり、NO
3
-
の濃度が20mM以下であり、そして、NO
3
-
の濃度が5mM未満に枯渇するまで培養を続けること;
を含み、
しかも、前記工程(a’)の後が工程(b)である、[1]に記載の発酵によるアトロロシン色素を製造する方法。
[3]
工程(a’)における唯一の窒素源が、KNO
3
及びNaNO
3
から成る群から選択される無機窒素源である、[2]に記載の方法。
[4]
工程(b)における唯一の窒素源が、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパルテート、L-システイン、L-グルタミン、L-グルタメート、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-トレオニン、L-チロシン、L-バリン、及びL-オルニチン:から成る群から選択される単一のアミノ酸である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
種が、タラロミセスアトロロセウス(Talaromyces atroroseus)である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
予備液体成長培地及び液体成長培地が、合成のものであり、そして、塩、微量金属、及び炭素源を含み、
しかも、塩が、KH
2
PO
4
、NaCl、MgSO
4
.7H
2
O、KCl、及び、CaCl
2
.H
2
Oであり、そして、微量金属が、CuSO
4
.5H
2
O、Na
2
B
4
O
7
.10H
2
O、FeSO
4
.7H
2
O、MnSO
4
.H
2
O、Na
2
MoO
4
.2H
2
O、及びZnSO
4
.7H
2
Oである、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
炭素源が、グルコース、スクロース、マルトース、可溶性デンプン、ビートまたはサトウキビ糖蜜、モルト、及び、それらの少なくとも2つのいかなる組合せの中から選択される、[6]に記載の方法。
[8]
発酵が、好気的条件下でバッチ又はフェッドバッチ発酵を使用して実施される、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]
工程(b)における液体成長培地が、4.0~5.5のpHの範囲内に維持される、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
式Iの構造を有する、アトロロシン色素:
【化I】
上記の式中、N-Rは、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖、及び一級アミンから成る群から選択され、そして、炭素2と炭素3との間の二重結合の配置は、cisであり、
しかも、アミノ酸が、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパルテート、L-システイン、L-グルタメート、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-トレオニン、L-チロシン、L-バリン、及びL-オルニチン:から成る群から選択される。
[11]
[1]~[8]のいずれかの方法によって製造される、[10]に記載のアトロロシン色素。
[12]
食品用、非食品製品用、及び化粧品用のいずれか1つの着色剤としての、[10]又は[11]に記載のアトロロシン色素の使用。
[13]
生成物が、食品、非食品製品、及び化粧品の中から選択される、[10]又は[11]に記載のアトロロシン色素を含む生成物。
[14]
生成物を着色するためのキットであって、しかも、キットが、[10]又は[11]に記載の少なくとも1つのアトロロシン色素を含み、しかも、色素が容器中に供給されており、しかも、生成物が、食品、非食品製品、及び化粧品の中から選択される、前記のキット。