(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】円錐台形ピンを用いて摩擦攪拌溶接を行う工具、このような工具を用いて2つの部品を溶接する方法、溶接された製品
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
B23K20/12 344
B23K20/12 360
(21)【出願番号】P 2020534234
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 FR2018053438
(87)【国際公開番号】W WO2019122736
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-10
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】519326703
【氏名又は名称】コンステリウム イソワール
【氏名又は名称原語表記】CONSTELLIUM ISSOIRE
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】オディエブル,ティエリ
(72)【発明者】
【氏名】アルメニオ,ジャン-ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ベロ,ダニエル
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06676004(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0251571(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦撹拌溶接ステーション用の工具(1)において、回転可能であり、かつ
- 横断方向表面を画定しショルダ(11)を形成する本体(10)と、
- ショルダ(11)から長手方向軸(Z)に沿って端部(13)に向かって延在するピン(12)であって、ショルダ(11)と端部の間で細くなり、端部(13)とショルダ(11)の間の距離がピンの高さ(h)に対応する、ピン(12)と、
を含む工具(1)であって、ピン(12)が、
- ショルダ(11)に隣接し、ショルダ(11)からピンの高さ(h)の少なくとも20%にわたり端部(13)に向かって延在する近位部分(12p)と、
- 端部(13)に隣接し、端部(13)からピンの高さ(h)の少なくとも1%にわたりショルダ(11)に向かって延在する遠位部分(12d)であって、円錐台(14)に内接しており、この円錐台(14)がショルダ(11)まで円錐台(14)を延長させる延長表面(15)と呼ばれる表面を画定し、この延長表面が円錐台形体積(16)を境界画定している、遠位部分(12d)と、
を含み、
- 近位部分(12p)において、ピンが、延長表面(15)によって境界画定された円錐台形体積(16)の外部に延在しており、
ピン(12)が、長手方向軸(Z)に対して平行でかつこの長手方向軸を通る平面内において、
- 近位部分(12p)内で、曲線(C)が延長表面(15)に接するような、曲線(C)に沿った外形
、
に内接する外側表面(12s)を描
き、
遠位部分(12d)が、ピンの高さ(h)の2%まで、またはピンの高さの5%まで、またはピンの高さの10%まで延在することを特徴とする、工具(1)。
【請求項2】
曲線(C)の外形がショルダ(11)に接している、請求項1に記載の工具。
【請求項3】
曲線(C)が、楕円または双曲線または放物線の一部である、請求項1に記載の工具。
【請求項4】
近位部分(12p)が、ピンの高さ(h)の25%まで、またはピンの高さの33%まで、またはピンの高さの50%まで延在している、請求項1から3のいずれか一つに記載の工具。
【請求項5】
端部(13)とショルダ(11)
とをつなぐように延びている螺旋スクリュの全部または一部を形成するネジ山を形成するために、ピン上に溝(18)が設けられている、請求項1から
4のいずれか一つに記載の工具。
【請求項6】
少なくとも1つの平面部(19)がピン上に設けられ、この平面部が端部(13)とショルダ(11)
とをつなぐように延びている、請求項1から
5のいずれか一つに記載の工具。
【請求項7】
支持体(2)との関係において回転可能であるような形で支持体(2)上に配置されるように構成され、支持体と工具が溶接ヘッドを形成する、請求項1から
6のいずれか一つに記載の工具。
【請求項8】
ピン(12)および/または本体(10)が、高温での使用に適合した材料、好ましくは、
- 好ましくはニッケルまたはクロムまたはモリブデンまたはバナジウムタイプの合金元素を有する工具鋼タイプの焼入れ鋼、
- および/またはタングステン合金、
- および/またはニッケルおよびコバルトの合金、
の中から選択された材料で構成されている、請求項1から
7のいずれか一つに記載の工具。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか一つに記載の工具(1)を用いた2つの部品(21、22)の摩擦攪拌溶接方法において、
- 部品間の界面(23)を画定するような形で部品を互いに接して維持するステップと、
- 部品(21、22)に圧力を加えながら、これらの部品に対し工具のショルダ(11)が押し当てられるまで、ピン(12)が部品の中に貫入するような形で、工具を回転させ界面レベルに工具を適用するステップと、
- 部品間の摩擦攪拌溶接を得るような形で、界面(23)に沿って、このように配置された回転工具を並進運動させるステップと、
を含む方法。
【請求項10】
各部品がアルミニウム合金で形成されている、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
工具が、部品間界面(23)に沿って10m超、さらには12メートル超または15メートル超の距離にわたり並進運動させられる、請求項
9または
10に記載の方法。
【請求項12】
部品の厚みが25mm超、好適には30mm超、さらに好適には40mm超であり、厚みは長手方向軸(Z)に沿って延在している、請求項
9から
11のいずれか一つに記載の方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、摩擦攪拌溶接である。本発明は詳細には、厚みのある部品の長い長さにわたる溶接に関する。本発明は、構成要素の製造、詳細には航空機産業向けの、特にアルミニウム合金製の構成要素の製造に応用可能である。
【背景技術】
【0002】
通常FSW(Friction Stir Welding)の頭字語で呼称される摩擦攪拌溶接は、1990年代に開発されたものである。これは、例えば国際公開第93/10935号および国際公開第95/26254号の対象となっている。この技術は、互いに接して配置された2つの金属部品を、これらの部品との関係において回転させられる溶接用工具を用いて組立てることからなる。
【0003】
図1Aは、先行技術に係る溶接用工具1Aを表わしている。この工具は、ショルダ11を画定する、円筒形の主本体10と、ピン12Aで構成される。工具1Aは、回転可能であり、回転速度Rは毎分100~1500回転である。
図1Bは、互いに接して維持されアンビル25上に載置されている2つの部品21および22を表わす断面である。部品は、あそび無く互いに接してしっかり固定される。溶接用工具1Aは、その回転および部品に沿ったその並進運動を可能にする支持体2により担持される。この溶接用工具は、2つの部品の間に延在する界面23のレベルで、溶接すべき部品と接触させられる。開始段階において、部品上のピン12Aの摩耗は局所的加熱を発生させ、これらの部品を構成する材料の軟化をひき起こす。このとき、ピン12Aは、工具のショルダ11が前記部品に対し押しつけられるまで、撹拌された材料を押出しながら、漸進的に部品内に貫入する。このとき、ショルダ11は、界面23に沿って、部品21および22に圧力を及ぼす。部品の表面に対するショルダの回転は、工具の周りで、材料の局所的加熱を誘発する摩擦を生成する。温度上昇の影響下で、各部品を構成する金属材料は、ピン12Aの近傍で塑性変形を起こす。
【0004】
ピンの運動学は、界面近傍での軟化した材料の攪拌をひき起こす。このとき回転工具は、界面23に沿って並進運動させられ、並進運動速度つまり前進速度Vは概して30mm/分~500mm/分である。
図1Cは、
図1Bの上面図を表わし、界面23に沿った溶接用工具の移動を示し、溶接用工具の運動は、回転速度Rでの回転と前進速度Vでの並進運動とを組合わせたものである。回転方向は、
図1Bおよび1Cに示されており、工具は、前進側AS(「advancing side」)から後退側RS(「retreating side」)に向かって回転する。前進側ASは、工具の回転に起因する工具の表面の局所的方向と溶接方向が同一である側であり、部品(21)は前進側に位置する。後退側は、工具の回転に起因する工具の表面の局所的方向と溶接方向が反対である側であり、部品(22)は後退側に位置する。
【0005】
攪拌された材料の冷却によって、界面23に沿って、継手24、つまり溶接ビードが形成される。こうして、融解無く、金属/金属間結合によって、溶接が少しずつ実現される。溶接継手24は、界面に沿った工具の漸進的前進に応じて形成される。溶接作業が完了した時点で、撤去段階によって、組立てられた部品から工具を撤去することができる。
図1Dは、溶接ステーションの写真である。2つのプレート21および22の間にピン12Aが導入されている溶接用工具1Aを維持する支持体2が表わされている。溶接用工具1Aは回転し、並進運動し、並進運動の軸は、この図に表わされている軸Xである。
【0006】
こうして、溶加材無しで溶接が実現され、部品間の継手24は、組立てられた部品を形成する材料のみで構成される。FSW溶接に関係するもう1つの利点は、通常の溶接方法に比べて温度が低いという点にある。これにより溶接の結果得られる構成要素の機械的特性が改善され、こうして変形は減少する。この方法は同様に、容易に自動化可能であり、リスクはほとんどなく、1回のみのパスで長い長さにわたり、厚みの大きい溶接を実施することを可能にし得る。溶接パラメータが確立された時点で、溶接品質の再現性はこの方法のもう1つの利点となる。
【0007】
摩擦攪拌溶接は、アルミニウム部品の組立てのための有望な技術である。アルミニウムに適用される摩擦攪拌溶接は、ISO EN25239規格の対象である。この溶接により、高強度アルミニウム合金、例えば2000、6000、および7000系のアルミニウム合金を組立てることができる。
【0008】
航空機製造技術の分野において、この方法は、翼パネル、小骨または胴体パネルなどの構成要素を製造するため、リベット締めまたはボルト締めなどの従来の固定用手段に対する1つの代替案である。FSWによる溶接には組立てられる構成要素の質量の削減、ならびに、組立てを実現するための時間の節約を伴う。航空機製造技術の分野以外では、FSWによる方法は、輸送産業、特に船舶または鉄道輸送ならびに自動車産業においても応用可能である。
【0009】
FSWによる溶接は、アルミニウム以外の材料、例えば、照射済み核燃料を閉じ込めるための容器の製造向けの銅にも関係し得る。
【0010】
FSWによる溶接の性能を最適化する目的で、多くの研究が行なわれてきた。これらの研究は、工具の形状、詳細にはピンの形状に向けられる可能性がある。実際、ピンは、材料の攪拌および加熱された材料の循環を条件付ける。ピンは概して、円錐形の形状を有する。溶接の質を改善するためのピンの最適化は、本質的に、前記ピンの表面に設けられ得る溝および/または平面部の修正に関係する。溝は、ピン近傍に軟化した材料の流れを生み出すような形で、ピンの表面にネジ山を形成する。ピンに沿って延在する平面部は、主として攪拌を改善することを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第93/10935号
【文献】国際公開第95/26254号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明者らは、性能が改善された溶接を行なうことを可能にする摩擦攪拌溶接用の回転工具の具体的形状を構想した。より厳密に言うと、追及されている目的の1つは、1回のみのパスで、すなわち溶接の長さ全体にわたり破断無くあるいは工具交換無しで、数メートルの長さ、詳細には10メートル超、さらには15メートル超の長さにわたり、典型的には20mmまたは25mm超の厚みの2つの厚い部品の溶接を行なうことにある。これは以下に述べられている発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の対象は、請求項1に記載の摩擦攪拌溶接ステーション用の工具にある。
【0014】
工具は、回転可能であり、かつ
- 横断方向表面を画定し、ショルダを形成する好ましくは円筒形の本体と、
- ショルダから好ましくはショルダに直交する長手方向軸に沿って端部に向かって延在するピンであって、ショルダと端部の間で細くなり、端部とショルダの間の距離がピンの高さに対応する、ピンと、
を含む。
【0015】
ピンは、
- ショルダに隣接し、ショルダからピンの高さの少なくとも10%または20%にわたり端部に向かって延在する近位部分と、
- 端部に隣接し、端部からピンの高さの少なくとも1%または2%にわたりショルダに向かって延在する遠位部分であって、この遠位部分が円錐台に内接しており、この円錐台がショルダまで円錐台を延長させる延長表面と呼ばれる円錐形表面を画定し、この延長表面が円錐台形体積を境界画定している、遠位部分と、
を含むことができる。
【0016】
ピンはこのとき、延長表面によって境界画定された円錐台形体積の外部に延在している。
【0017】
円錐台に内接するとは、ピンの高さの少なくとも1%または2%にわたり分布する異なる点において円錐台に接していることを意味する。遠位部分は、必ずしもピンの端部に位置している必要はない。遠位部分は、端部から少なくとも1%または2%さらには4%以上離隔し得るが、必ず端部と近位部分の間に位置している必要がある。遠位部分が内接する円錐台は、遠位部分の周りに延在する包絡線を形成する。
【0018】
ショルダを形成する横断方向表面は、平面であってもよいし、または横断方向平面との関係において湾曲し、平面に対し10°未満、さらには5°未満の角度を成していてもよい。
【0019】
好ましくは、近位部分において、
- 円錐形表面は、長手方向軸に直交する半径方向切断平面において、有利には長手方向軸を中心として、特に円形の輪郭を画定する、
- ピンは、切断平面において、円形輪郭の周りに外周が延在するような外周を有する。
【0020】
近位部分において、延長表面は、x2+y2=z2(tanα)2タイプの方程式を描くことができ、ピンは、k(x,y,z)2>Z2(tanα)2で、x2+y2=k2(x,y,z)となるような点を有する周囲表面を有してしており、ここでx、yは長手方向軸に直交する半径方向平面内の動径座標であり、zは長手方向軸に沿った座標であり、k(x,y,z)は周囲表面を描くスカラ関数であり、αは円錐台により画定された頂点における半角を表わす。
【0021】
近位部分において、ピンは、長手方向軸に平行で、かつこの長手方向軸を通る平面内で、曲線が延長表面に接することになるような、曲線の一部に沿って延在する外側表面を描くことができる。好ましくは、曲線はショルダにも接している。好ましくは、曲線は、楕円または双曲線または放物線である。このとき、楕円、双曲線または放物線は、一方では遠位部分が内接する円錐台に対して、および/または他方ではショルダに対して接していてよい。
【0022】
換言すると、ピンは、長手方向軸(Z)に平行でかつこの長手方向軸を通る平面内において、
- 近位部分内では、曲線、好ましくは、楕円または双曲線または放物線の一部である曲線に沿った外形、
- 遠位部分内では、遠位部分が内接する円錐台に対してすなわち延長表面に対して曲線が接するような、円錐台に沿った外形、
を描く包絡線に内接する外側表面を描く。
【0023】
好ましくは、楕円または双曲線または放物線の一部である曲線は、延長表面に接している。
【0024】
好ましくは、曲線はショルダに接している。好ましくは、楕円または双曲線または放物線の一部である曲線は、ショルダに接している。
【0025】
好ましくは、曲線が、延長表面およびショルダに接している。好ましくは、楕円または双曲線または放物線の一部である曲線は、延長表面およびショルダに接している。
【0026】
近位部分は、ショルダから、ピンの高さの25%まで、またはピンの高さの33%まで、またはピンの高さの50%まで延在することができる。遠位部分は、端部から、ピンの高さの2%まで、またはピンの高さの5%まで、またはピンの高さの10%まで、さらには20または25%までさえも延在することができる。
【0027】
一実施形態においては、端部とショルダの間に延在するスクリュまたは螺旋スクリュの全部または一部を形成するネジ山を形成するために、ピンの表面に溝が設けられている。ネジ山は特に、溶接の際に、ピンの端部に軟化した材料を移動させるように配設され得る。単数または複数の平面部がピン内に設けられ、この平面部は端部とショルダの間に延在している。
【0028】
溶接用工具は特に、支持体との関係において回転可能であるような形で支持体上に配置されるように構成され、支持体と工具は溶接ヘッドを形成する。
【0029】
ピンおよび/または本体は特に、高温での使用に適合した材料、好ましくは、
- 好ましくはニッケル、クロム、モリブデンまたはバナジウムタイプの合金元素を有する工具鋼タイプの焼入れ鋼、
- タングステン合金、
- ニッケルおよびコバルトの合金、
の中から選択された材料、で構成され得る。
【0030】
本発明の第2の対象は、本発明の第1の対象に係る工具を用いた2つの部品の摩擦攪拌溶接方法であり、その方法は、
- 部品間の界面を画定するような形で、部品を互いに接して維持するステップと、
- 部品上に圧力を加えながら、これらの部品に対し工具のショルダが押し当てられるまで、ピンが部品の中に貫入するような形で、工具を回転させ界面レベルに工具を適用するステップと、
- 部品間の摩擦攪拌溶接を得るような形で、界面に沿って、このように配置された回転工具を並進運動させるステップと、
を含む。
【0031】
各部品は、好適には、組み立てるべき2つの部品間で同一であっても異なるものであっても良いアルミニウム合金で製造される。
【0032】
工具は、10m超、さらには15メートルまたは20メートル超の距離にわたり、部品間界面に沿って並進運動させられ得る。部品の厚みは好ましくは20mmまたは25mm超、さらには30、35または40mm超であり、厚みは長手方向軸に沿って延在している。溶接は好適には、2つの部品間の界面の長さ全体にわたり一回のみのパスで行なわれ、組立てるべき部品が極めて厚く、例えば70mm超の厚みを有する場合、部品の2つの主要面上で実現することができる。後者の場合、溶接はこのとき好適には、組立てるべき部品の各々の主要面上で界面に沿って一回のみのパスで実現される。溶接は同様に、先の形態に適合する本発明の有利な形態にしたがって恒常な前進速度Vで、または詳細には国際公開第2010/004109号中に記載の通りのパルス型の前進速度Vで実現することもできる。
【0033】
本発明の第3の対象は、2つの部品を溶接するために、本発明の第2の対象に係る方法にしたがって実現された溶接製品にある。2つの部品の各々は、特に、アルミニウム合金で構成され得、各部品の合金は同一であるかまたは異なるものである。
【0034】
他の利点および特徴は、非限定的な例として提供され、以下で列挙する図に表わされている本発明の特定の実施形態についての以下の説明からより明確になるものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1A-1F】先行技術の構成を例示する。
図1Aは、溶接用工具の概略図である。
図1Bおよび1Cは、溶接すべき2つの部品の主要面のうちの1つの上で、これらの部品間の界面で作用する溶接用工具を例示する。
図1Dは、溶接ステーションの写真である。
図1Eおよび1Fは、溶接用工具の図を示す。
【
図2A-2C】実験的試験中の先行技術の工具の写真を示す。
【
図2D.2E】実験的試験中に先行技術の工具上に加わる応力の時間的推移を表わすグラフである。
【
図3A】先行技術に係る、ならびに拡大型構成と呼ばれる第1の構成に係る、および楕円型構成と呼ばれる第2の構成に係る、溶接用工具の形状の幾何形状をそれぞれ図で表わしており、この最後の構成は本発明の応用例である。
【
図3B】第1の構成に係る溶接用工具の形状の平面図である。この溶接用工具は「拡大型」と呼ばれる。
【
図3C】第2の構成に係る溶接用工具の形状の平面図である。この溶接用工具は「楕円型」と呼ばれる。
【
図3D】ピンが沿って延在している長手方向軸に直交する平面内の、本発明に係るピンの形状の断面を図で表わす。
【
図3E】ピンが沿って延在している長手方向軸に平行で、かつ長手方向軸を通る平面内で、本発明に係るピンの形状の断面を示す。
【
図3F.3G】それぞれ先行技術に係る、および本発明に係るピンの2つの表現である。
【
図4A.4B.4C】実験的に測定され、それぞれ以下のものに加わる応力の時間的推移を表わすグラフである:- 溶接すべき部品間の界面内へのピンの挿入に応じた、拡大型溶接用工具、- 溶接すべき部品間の界面内へのピンの挿入に応じた、楕円型溶接用工具、- 9メートルの溶接距離をたどった後の、楕円型溶接用工具。
【
図5A.5B.5C】拡大型溶接用工具を利用して得られた溶接継手を示す。
図5Aは、継手の写真であり、一方
図5Bおよび5Cは、超音波検査(それぞれC走査、B走査)の結果として得られた画像である。
【
図6A.6B.6C】楕円型溶接用工具を利用して得られた溶接継手を示す。
図6Aは、継手の写真であり、一方
図6Bおよび6Cは、超音波検査(それぞれC走査およびB走査)の結果として得られた画像である。
【
図6D.6E】19メートルの長さにわたる溶接の実現前後の楕円型溶接用工具の写真である。
【
図7A】FSWによる溶接の適用の結果として得られる、4つのゾーンへの材料の分割を図で表わしている。
【
図7B.7C】それぞれ先行技術の工具および楕円型工具を用いて溶接された構成要素の断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
「1つ」とは、「少なくとも1つ」を意味する。
【0037】
発明者らは、長くかつ/または厚みのあるアルミニウム合金製構成要素を実現するために摩擦攪拌溶接(FSW)を利用することを望んだ。そのために、発明者らは、
図1A~1Fに表わされた通りの、先行技術の溶接ステーションを使用した。プレートの形をした2つのアルミニウム合金製部品21および22を、16メートルの長さにわたり延在する界面23を画定するような形で、互いにしっかり固定した。第1の部品21はAA2050合金で作製され、第2の部品22は、AA7140合金で作製された。AA2050およびAA7140合金については特に、アルミニウム協会編の「Registration Record Series-Teal Sheets-International Alloy Designations and Chemical Compoistion Limits for Wrought Aluminium and Wrought Aluminium Alloys」、特に2015年1月改訂版中に記載されている。各部品の厚みは、68mmである。厚みは、溶接用工具、より厳密には、溶接用工具のピンが沿って延在している長手方向軸Zと1つである長手方向軸Zに沿って延在する。
【0038】
図1A、1B、1Eおよび1Fは、使用される溶接用工具の幾何形状を示し、この溶接用工具は、先行技術と関連して説明されたように、ショルダ11を画定する円筒形本体10ならびに、ピン12Aを含む。ピン12Aは、
図1Eに表現され、ピンの端部13とショルダ11の間に延在する円錐台14に内接する。ピンの高さhは、長手方向軸Zに沿った、ショルダ11と端部13の間の距離に対応する。この例において、ピンの高さは35mmである。このピンの高さは概して20mm~50mmである。部品21および22は、平担な上部主要面21s、22sと平担な下部主要面21iおよび22iの間にそれぞれ延在する。部品の厚みに沿って溶接を実現する目的で、溶接用工具は、
図1Bに図示されているように、上部主要面21sおよび22s上に連続的に適用されて、第1の溶接を実現する。その後、溶接用工具は、下部主要面21iおよび22i上に適用されて、第2の溶接を実現する。上部および下部主要面は、長手方向軸Zに直交して延在する。溶接の間、部品21および22は、アンビル25上に載置されている。
【0039】
円筒形本体10の材料は、AISI(米国鉄鋼協会)の分類によるH13タイプの工具鋼である。ピンの材料は、MP159(登録商標)タイプのコバルトとニッケルの合金である。この合金の公称組成は、Co:35.7%(質量分率)、Ni:25.5%、Cr:19%、Mo:7%、Ti:3%、Cb:0.6%、Al:0.2%である。ピン12Aは、その外側表面に沿って設けられたネジ山18を形成する溝によって構造化されており、このようなネジ山は
図1Eに表現されている。ネジ山は、ピンの近傍での、ピンの端部13に向かう軟化材料の移動を改善することができる。同様に、外側表面に沿って平面部19を設けることもできる。図示された例において、ピンは、角度的に120°ずらされた3つの平面部19を含む。概して、ネジ山または平面部の深さは5mm未満であり、例えば1mm~2mmの間に含まれる。
【0040】
図1E上で、ショルダ11は、ピン12Aが沿って延在する長手方向軸Zに直交する平面Pに沿って延在する。
図1Fには、ショルダ11がほぼ平面Pに沿って延在する一変形形態が表わされており、ここで「ほぼ」なる用語は、ショルダが±10°または±5°の角度範囲にしたがって、平面Pとの関係において湾曲し得るということを意味している。
【0041】
図1Dに表わされているような溶接ステーションを使用して、実験的試験が行なわれ、溶接用工具10の回転速度Rおよび前進速度Vはそれぞれ毎分180~220回転および毎分40~60mm(平均前進速度)である。使用された工具は、
図2Aに撮影されている。この図には、
図1Eに関連して説明されたネジ山18および平面部19が識別されている。
【0042】
発明者らは、先行技術の溶接用工具が、長い長さに沿った溶接の実現に適応されていないことを確認した。実際、12メートルの長さに沿って溶接を行なった後、溶接用工具は、ピン12Aとショルダ11の間の溶接部に対応する、ピン12Aのベースのレベルで、壊れた。
図2Bに、溶接後の、溶接用工具が表わされている。
図2Cは、5メートルの長さに沿って、類似の条件下で溶接を行なった後の、同じタイプの溶接用工具を表わしている。ショルダの近くで、ピンのベースレベルに亀裂が出現している。これらの観察事実から、先行技術の溶接用工具は、溶接すべき部品の長さが10メートルを超えた時点で直ちに溶接の実現には適さなくなるということが分かる。
【0043】
溶接の実現の間、溶接用工具は、並進運動軸、つまり前進軸Xに沿って、ならびに並進運動軸に直交するY軸に沿って大きな機械的応力を受ける。並進運動軸Xの反対側の軸-Xに沿って、軸Yに沿って、溶接用工具に及ぼされる応力、ならびに回転抵抗を測定するように、溶接用工具を維持する支持体2上に力センサが配置された。
図2Dおよび2Eは、軸-XおよびYに沿ってそれぞれ測定された力FxおよびFyの時間的推移、ならびに回転応力を示す。これらの図の各々で、横座標軸は、秒単位で表現された時間を表わし、一方、縦座標軸は、力FxおよびFyの強さ(右の目盛、N単位)および回転応力(Nm単位、左の目盛)を表わす。
図2Dは、横座標t=250に対応する、ピンの挿入時点と、横座標t=700に至るまでの間の、450秒の時間的間隔に対応する測定値を表わす。前進方向Xと反対の、軸Xに沿って及ぼされる応力は、前進方向に直交する、軸Yに沿って及ぼされる応力よりも大きく、これは予期されたことである。
図2Eは、横座標t=2250秒とt=2700秒の間の測定値、すなわち、ピンが約9メートルの距離をたどった後の測定値を表わす。並進運動方向Xに対抗して及ぼされる、力Fxに対応する信号が、大きな変動を呈し、溶接用工具の劣化を証明していることが分かる。同様に、軸Yに沿って加えられる力に影響を及ぼす大きな変動も見られる。
【0044】
発明者らは、溶接用工具の破壊が、回転の結果としてもたらされる疲労に由来するものと考えている。溶接用工具を、典型的には15m超の長い距離にわたる使用に適合したものにするため、発明者らは、ピンの形状を修正し、2つの選択肢が企図された。
図3Aは、先行技術に係るピン12Aの形状、ならびに先行技術の場合よりもピンがさらに幅広である、拡大型構成と呼ばれる、第1の構成を表わしている(曲線I)。溶接用工具の形状とは、場合によって存在する平面部および/またはねじ切りを考慮に入れない前記工具の包絡線を意味する。拡大型構成によると、ピンの直径は、その機械的強度を強化するように、均一に2mmだけ増大される。この構成によると、ピンの幾何形状は、ピンがショルダ11と端部13の間の円錐形表面に内接するかぎりにおいて、円錐形である。
【0045】
図3Aは、同様に、楕円型構成と呼ばれる、第2の構成(曲線II)も表わしている。この構成によると、ピン12の直径は、ピンの近位部分12pと呼ばれる部分においてのみ、先行技術の構成との関係において、増大されている。ピンの近位部分は、ショルダ11と、ピンの高さhの少なくとも10%、有利には20%、好ましくはピンの高さhの少なくとも25%またはピンの高さhの少なくとも33%に位置する限界との間に延在するピンの部分に対応する。近位部分12pは、ピンの高さhの50%まで、さらにはピンの高さhの75%以上まで延在することができる。好ましくは、近位部分12pは、ピンの高さhの25%と50%の間に延在する。ピンは、端部13からショルダ11に向かって延在する、遠位部分12dを含む。遠位部分は、ピンの高さhの少なくとも1%にわたり延在する。有利には、遠位部分12dは、ピンの高さ(h)の2%まで、またはピンの高さの5%まで、またはピンの高さの10%まで延在する。
【0046】
第2の構成によると、ピン12は、遠位部分12dにおいて、先行技術と類似の形で、円錐台14に内接しながら延在する。円錐台14は、ショルダ11まで、すなわち本体10まで円錐台14を延長する延長表面と呼ばれる円錐台形表面15を画定する。近位部分12pにおいて、延長表面15は、円錐台形体積16を境界画定する。近位部分12pにおいて、ピンの体積は、円錐台形体積16を超えて延在する。したがって、近位部分12pにおいて、ピンは、好ましくは漸進的に拡大し、こうして、その外側表面12sは、円錐台形体積16の外部に位置し曲線Cをたどることになる。円錐台形体積16は、
図3Eおよび3G上に灰色で表現されている。
【0047】
図3Bは、テスト対象の第1の構成(「拡大型」と呼ばれる溶接用工具)のピンの平面図である。ピンは、円錐形の包絡線に内接した形状をとり、曲率半径1.5mmの円弧に沿ってショルダ11の近傍で拡大する。こうして、ショルダ11から最初の1.5mm内を除いて、ピンは円錐形表面に内接している。この例では、円錐形表面は、頂点で8°の半角を形成しながら延在する。ピンの端部13における直径は11mmであり、先行技術の構成では9mmである。
【0048】
図3Cは、テスト対象の第2の構成に係るピンの平面図であり、この構成は、本発明の実施例に対応する(「楕円型」と呼ばれる溶接用工具)。遠位部分12dにおける、ピンの直径は、先行技術のピンの直径に対応する。端部13のレベルで、ピンの直径は9mmに達する。この構成によると、ピンは、近位部分12pにおいてのみ先行技術のピンよりも幅広である。長手方向軸Zに平行で、長手方向軸を通る中央平面に沿って、近位部分12p内では、外側表面12sは、楕円形の外形をとる曲線Cに沿って内接している。この外形は、長軸が15mmに等しく短軸が2.4mmである楕円Eの一部を描く。楕円Eは、
図3Cにおいて、点線で表わされている。この例において、近位部分12pは、ショルダ11から15mmの距離にわたり延在しており、一方、ピンの高さは35mmになる。こうして近位部分は、ピンの高さhの約40%にわたり延在する。こうして、遠位部分12dにおいて、ピンの外側表面12sは、方程式x
2+y
2=z
2(tanα)
2の、円錐台14に内接しており、ここでx、yおよびzはそれぞれ軸X、YおよびZに沿った座標であり、αはこの場合8°である、円錐台14の頂点における半角である。近位部分12pにおいて、外側表面12sは、k(x,y,z)
2>z
2(tanα)
2として、x
2+y
2=k(x,y,z)
2タイプの方程式を描く。k(x,y,z)は、近位部分12pにおける外側表面12sの推移を描くスカラ関数である。
【0049】
好ましくは、楕円Eは、ピンの周りの材料の流れを改善するように、延長表面15に接している。楕円Eと延長表面の間の交差表面は、好ましくは、長手方向軸Zに直交する平面内に位置する円を描く。交差表面は、遠位部分と近位部分を境界画定することができる。
【0050】
好ましくは、楕円Eはショルダ11に接している。好ましくは、楕円Eは、延長表面15およびショルダ11に接している。
【0051】
それぞれ
図3Bおよび3Cに表現されている2つの構成において、ショルダ11のレベルにおけるピンの直径は24mmである。
【0052】
長手方向軸Zに直交する切断平面内で見ると、延長表面15は、近位部分12p内で、円形輪郭cを描く。ピン12の外側表面12sは、切断平面内で、円形輪郭cを格納する外周pを描く。換言すると、横断方向軸Zに直交する切断平面に沿って、近位部分12p内で、延長表面15の円形輪郭cはピン12の外周p内に包含される。このことが、
図3Dに表現されている。
【0053】
図3Eおよび3Gを見ると分かるように、近位部分12pにおいて、ピンは、延長表面15により画定された円錐台形体積16よりも幅広である。概して、近位部分12pにおいて、ピン12の外側表面12sは、延長表面15よりも大きい直径を有する。
図3Eに表現されているように、外側表面12sは、長手方向軸Zに平行で、かつこの長手方向軸を通る平面内において、
- 近位部分12p内では、楕円または双曲線または放物線の一部である、曲線Cに沿った外形、
- 遠位部分12d内では、円錐台14に沿った外形、
を描く包絡線に内接する。
【0054】
好ましくは、楕円または双曲線または放物線の一部に沿った外形は、延長表面15に接している。好ましくは、楕円または双曲線または放物線の一部に沿った外形は、ショルダ11に接している。
【0055】
図3E上には、遠位部分12dにおいてピンが内接する円錐台14を延長する延長表面15も表現されている。同様に、延長表面15により境界画定された、円錐台形体積16も表現されている。近位部分12pにおいて、ピン12は円錐台形体積16を包含し、この円錐台を超えて延在する。
【0056】
好ましくは、ピン12は長手方向軸Zに対して対称である。
【0057】
遠位部分12dとショルダ11の間の、ピンの漸進的拡大によって、近位部分12pのレベルでピン12を補強しながら、遠位部分12dを比較的細く維持することが可能になっている。
図3Fおよび3Gは、それぞれ先行技術および本発明に係るピンを例示している。
図3F上で、ピン12Aの外側表面は、点線で表わされた、円錐台14に内接している。
図3G上では、遠位部分12dにおいて、ピンの外側表面12sは、円錐台に内接している。円錐台14は、近位部分12pにおいて、延長表面15により延長される。延長表面15により境界画定された、円錐台形体積16が表現されている。近位部分12pにおいて、ピン12は円錐台形体積16を超えて延在する。
【0058】
構成の如何に関わらず、ネジ山18および/または平面部19をピンの外側表面内に設けて、先行技術のピン12Aに関連して先に説明したように、撹拌された材料を端部13に向かって誘導することができる。
【0059】
図3Bおよび3Cに表現された2つの構成は、厚み68mmのプレートの形をした2つのアルミニウム部品21および22の溶接に関連して先に説明した実験条件と類似の実験条件にしたがって、テストされた。
図4Aは、「拡大型」構成と呼ばれる、第1の構成に係る工具を使用した、並進運動軸X、軸Yに沿って測定された力の時間的推移、ならびに回転応力を表わしている。軸および単位は、
図2Dおよび2Eに関連して説明したものと類似である。
図4Aで、ピンの挿入は横座標t=300秒に対応する。
図4Bおよび4Cは、
図4Aと類似で、第2の「楕円型」構成を利用して得られたものである。
図4Bは、ピンの挿入(横座標t=250秒)と横座標t=700秒の間に含まれる時間的間隔に対応する。
図4Cは、横座標t=2300秒と横座標x=2700秒の間に含まれる時間的間隔に対応し、このとき溶接用工具がたどった距離は約9メートルである。
【0060】
図4Aおよび4Bを比較すると、第1の構成を利用した場合では、第2の構成を利用した場合に比べて、検査対象の応力の如何に関わらず変動がより大きいものであることが分かる。その上、
図4Cは、この場合9mである、長い距離に沿って溶接を実施した後でも、第2の構成に係る溶接用工具の挙動が安定していることを示している。すなわち測定された信号の変動は、たどった距離が短い場合に実現された測定値について観察されたものに匹敵する。
図4Bを参照のこと。
図4Cと
図2Eを比較すると、第2の構成の場合、溶接用工具上に及ぼされる力を表わす測定された信号が、より安定しているということが分かる。こうして、溶接パラメータは、長い長さにわたり安定したものである。
【0061】
第2の構成は、溶接用工具のピン12を壊すことなく、先に説明した通りの、プレート21および22の溶接を16メートルの長さにわたり実現するために利用された。別の試験の間に、溶接の長さは19メートルにも達した。
【0062】
図5Aおよび6Aは、それぞれ第1の構成および第2の構成を利用して得られた溶接継手24の外観を示しており、ここで溶接の長さは350mmである。第1の構成を利用して得られた溶接継手は、
図5A上で白色矢印により印付けされた、黒色の痕跡の形で現われる、欠陥を有する。
図6Aでは、第2の構成の結果として得られる溶接継手がより鮮明なものであることが観察される。
【0063】
図5Bおよび5Cは、第1の構成を利用した際に形成された溶接継手24の上方で、横断方向平面XYに沿って、およびピンの挿入軸を通る断面XZに沿って、それぞれ実施された超音波による非破壊構造検査の結果である。
図5Bおよび5Cは、溶接された材料内、特に溶接された部品の表面から約1cmの厚みεの範囲内での多孔性の存在を証明する不均質性を明らかにしている。このような多孔性は、特に航空機産業において使用される溶接部品内には許容できない。
図6Bおよび6Cは、それぞれ
図5Bおよび5Cと類似しており、
図6Aに表されている、第2の構成を利用した結果得られた溶接継手24についての超音波検査に対応する。
図5Bおよび5Cに見られる多孔性は、
図6Bおよび6Cには存在しないか、または明らかにより小さい規模でしか存在しない。第2の構成に係るピンを利用することにより、溶接は、先行技術のピンに係る場合に比べてより均質になり、多孔性ははるかに少なくなる。
【0064】
図6Dおよび6Eはそれぞれ、16mの長さにわたり溶接を実現した後の、第2の構成に係る溶接用工具のピン12を示す。ピンの外側表面12s内に設けられたネジ山18上には摩耗痕跡が現われているものの、ピンの無欠性は保たれている。
【0065】
図7Aは、4つの明らかに異なるゾーンへの溶接材料の分割を例示している。界面23のレベルで、コアと呼ばれる中央ゾーン26が、特に溶接の際にピン12が占有するゾーン、ならびにピンに直接隣接するゾーンに対応している。塑性変形が最も大きく温度が最も高いのは、この部分内である。コア26は、内部の塑性変形が穏やかである熱力学的影響を受けるゾーンと呼ばれるゾーン27で取り囲まれている。熱力学的影響を受けるゾーンの近傍には、内部で材料の特性が温度上昇によってのみ影響を受ける熱的影響を受けるゾーン28と呼ばれるゾーンが延在している。このゾーンは、温度上昇によって改質されず変形しない、基本材料を含むゾーン29によって境界画定されている。
図7Aは、平面YZに沿った断面に対応し、ピンの並進運動は、軸Xに沿って実現される。平面XYに沿って、2つの明白に異なる側が、ピンの回転方向に応じて画定される。前進側ASは、工具の回転に起因する工具の表面の局所的方向と溶接の方向とが同一である側であり、部品21は、前進側に位置する。後退側は、工具の回転に起因する工具の表面の局所的方向と溶接の方向とが反対である側であり、部品22は後退側に位置する。
図7Bおよび7Cは、それぞれ先行技術の工具およびテスト対象の第2の構成に係るピンを備えた工具を使用することによって溶接された構成要素の断面について実現された顕微鏡写真である。本発明に係る溶接用工具(
図7C参照)が、材料のより均質な分布を得ることを可能にするということが指摘される。これらの図は、工具に沿った、より詳細には前進側ASのショルダに近いゾーン内におけるより均質な材料の流れを明らかにしている。したがって、溶接継手24の機械的特性は改善される。
【0066】
第2の構成に係るピンの性能は、先行技術のピンに比べて、以下の点で改善される:
- 堅牢性が増大し、そのため、典型的には10m、15m、さらには20m超の長い長さに沿った溶接を行なうことが可能であり、ここで厚みは20mm、25mmあるいは30、35さらには40mm超でさえある。
- 近位部分のレベルでの漸進的拡大により、溶接に沿った機械的応力を安定化することができ、こうしてより均質な溶接継手が得られることになる。
【0067】
溶接用工具を形成する材料は、高温での使用に適合したものである。潜在的に使用可能な材料を選択するためには、刊行物Rai R、「Review:friction stir welding tools」、Science and Technology of Welding and joining、2011、vol.16 N°4 325~342を参照することができる。この材料は、特に以下のものであり得る。
- 好ましくはニッケルまたはクロムまたはモリブデンまたはバナジウムタイプの合金元素を有する工具鋼タイプの焼入れ鋼、
- タングステン合金、
- ニッケルおよびコバルトの合金。
【0068】
本発明は、長い長さの構成要素、例えば航空機産業向けのアルミニウム合金製構成要素、そして特に翼または胴体の製造用の構成要素の製造に応用されるものである。
【符号の説明】
【0069】
1 工具
2 支持体
10 本体
11 ショルダ
12 ピン
12p 近位部分
12d 遠位部分
12s 外側表面
13 端部
14 円錐台
15 延長表面
16 円錐台形体積
18 溝
19 平面部
21、22 部品
23 界面
C 曲線
h ピンの高さ
Z 長手方向軸