IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プライスマン,ソール ジェイ.の特許一覧 ▶ フォーマン,スティーブン ジェイ.の特許一覧 ▶ ブラウン,クリスティーン イー.の特許一覧

<>
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図1
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図2
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図3
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図4
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図5
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図6
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図7
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図8
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図9
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図10
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図11
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図12
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図13
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図14
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図15
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図16
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図17
  • 特許-HER2を標的とするキメラ抗原受容体 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】HER2を標的とするキメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230418BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230418BHJP
   C12N 5/22 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230418BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230418BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20230418BHJP
   C07K 16/32 20060101ALN20230418BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00 ZNA
C12N5/0783
C12N5/22
A61K35/17
A61P35/04
A61P35/00
A61P25/00
C07K14/705
C07K16/32
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021133074
(22)【出願日】2021-08-18
(62)【分割の表示】P 2018543279の分割
【原出願日】2016-11-04
(65)【公開番号】P2021192617
(43)【公開日】2021-12-23
【審査請求日】2021-09-14
(31)【優先権主張番号】62/251,052
(32)【優先日】2015-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518156369
【氏名又は名称】プライスマン,ソール ジェイ.
(73)【特許権者】
【識別番号】518156370
【氏名又は名称】フォーマン,スティーブン ジェイ.
(73)【特許権者】
【識別番号】518156381
【氏名又は名称】ブラウン,クリスティーン イー.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】プライスマン,ソール ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】フォーマン,スティーブン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,クリスティーン イー.
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-510108(JP,A)
【文献】特表2013-531474(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0099309(US,A1)
【文献】国際公開第2014/100385(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/105522(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/164594(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/070957(WO,A1)
【文献】ZHAO, Yangbing et al.,The Journal of Immunology,2009年,Vol. 183, No. 9,pp. 5563-5574
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
CAplus/REGISTRY(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号26及び27並びに1~5個のアミノ酸修飾を有するその変異体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、ここで、前記変異体はHER2を標的化し、かつ、前記アミノ酸修飾はHER2を標的化するためのscFv部分には存在しないHER2を標的化するためのキメラ抗原受容体。
【請求項2】
配列番号26及び27並びに1~5個のアミノ酸修飾を有するその変異体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、ここで、前記アミノ酸修飾はHER2を標的化するためのscFv部分には存在しない、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項3】
配列番号26又は27で表されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項4】
1~5個のアミノ酸修飾は、1~5個のアミノ酸置換である、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項5】
1~5個のアミノ酸修飾は、1又は2個のアミノ酸修飾である、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項6】
配列番号26又は27で表されるアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性があるアミノ酸配列を含む、キメラ抗原受容体。
【請求項7】
配列番号28~41で表されるアミノ酸配列のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むキメラ抗原受容体をコードする、核酸分子。
【請求項8】
キメラ抗原受容体をコードする発現カセットを含むベクターによって形質導入されたヒトNK細胞の集団であって、前記キメラ抗原受容体は、配列番号26及び27並びに1~5個のアミノ酸修飾を有するその変異体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、ヒトNK細胞の集団であって、ここで、前記変異体は、HER2を標的化し、かつ、前記アミノ酸修飾はHER2を標的化するためのscFv部分には存在しない、ヒトNK細胞の集団。
【請求項9】
患者のHER2発現脳腫瘍の治療方法で用いられる、キメラ抗原受容体をコードする発現カセットを含むベクターによって形質導入されたヒトNK細胞の集団であって、前記ヒトNK細胞の集団は、患者に投与され、かつ、前記キメラ抗原受容体は、配列番号26及び27並びに1~5個のアミノ酸修飾を有するその変異体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、ヒトNK細胞の集団であって、ここで、前記変異体は、HER2を標的化し、かつ、前記アミノ酸修飾はHER2を標的化するためのscFv部分には存在しない、ヒトNK細胞の集団。
【請求項10】
前記腫瘍が乳房から脳への転移である、請求項のヒトNK細胞の集団。
【請求項11】
T細胞が腫瘍内または脳室内に投与される、請求項記載のヒトNK細胞の集団。
【請求項12】
配列番号26及び27から選択されるアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含むポリペプチド又は1~5個のアミノ酸修飾を有するその変異体を発現する、ヒトNK細胞の集団であって、ここで、前記変異体はHER2を標的化し、かつ、前記アミノ酸修飾はHER2を標的化するためのscFv部分には存在しない、ヒトNK細胞の集団。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
腫瘍特異的T細胞を用いた免疫療法は、遺伝子操作されたT細胞を用いた療法も含めて、抗腫瘍治療について研究されている。しかし、このような治療法で用いられるT細胞は、生体内で十分な期間、活性を維持できない場合がある。また、固形腫瘍が不均一であることや、自己抗原を標的とした場合に非がん細胞へのオフターゲット効果が生じる可能性があること等のため、T細胞の腫瘍特異性が比較的低い場合もある。そのため、当技術分野では、抗腫瘍特異性と機能が改善された腫瘍特異的ながん治療法が求められている。
【0002】
キメラ抗原受容体(CARs)は、細胞外腫瘍認識/標的ドメイン、細胞外リンカー/スペーサー、膜貫通ドメイン及び細胞内T細胞活性化及び共刺激シグナル伝達ドメインで構成される。有害なオフターゲット作用の回避には、認識/標的ドメインの設計が重要である。CAR腫瘍標的ドメインの大部分は、特定の抗原に対する抗体の結合の特異性を利用する抗体配列由来の単鎖可変領域フラグメント(scFvs)である。また、IL-13受容体であるIL13Rα2を発現する細胞を標的とするIL-13サイトカインCAR等、正常な受容体リガンド由来のCAR腫瘍標的ドメインの例もある。
【0003】
CARを発現する操作されたT細胞を利用する養子T細胞療法(ACT)は、CD19+B細胞悪性腫瘍の患者において、強固で持続的な臨床効果を示してきた(非特許文献1及び2)。血液疾患における初期の成功により、固形腫瘍に対するこのアプローチのより広範な適用について、現在、熱心に研究されている。
【0004】
米国国立がん研究所のSurveillance,Epidemiology,and End Results Program(SEER)のデータによると、2014年の乳がんによる死亡者数は推定4万人で、主に転移性疾患が原因とされている。乳がん患者の約25~30%ではHER2遺伝子が増幅しており、特に予後が悪い。標的治療を含む新しい薬剤が出現しても、ステージIVの疾患における全死亡率の改善はわずかである。例えば、HER2陽性の乳がん患者を対象とした無作為化試験では、トラスツズマブとペルツズマブという2つのHER2標的抗体とドセタキセルの併用療法が最も有望とされているものの、トラスツズマブとドセタキセルの単独療法に比べて、全生存期間の中央値は56.5カ月、無増悪生存期間は6.3カ月しか延長されなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Priceman et al.2015 Curr Opin Oncol
【文献】Maus et al.2014 Blood 123:2625-2635
【文献】Kabat et al.1991 Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.,United States Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda
【文献】Edelman et al.1969 Proc Natl Acad Sci USA 63:78-85
【発明の概要】
【0006】
本明細書には、細胞外ドメイン、膜貫通領域、および細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ膜貫通免疫受容体(キメラ抗原受容体または「CAR」)が記載される。細胞外ドメインは、HER2を標的としたscFvと、場合によっては、例えば、ヒトFeドメインの一部を含むスペーサーを含む。膜貫通部分は、例えば、CD4膜貫通ドメイン、CD8膜貫通ドメイン、CD28膜貫通ドメイン又はCD3膜貫通ドメインを含む。細胞内シグナル伝達ドメインには、ヒトCD3複合体のゼータ鎖由来のシグナル伝達ドメイン(CD3ξ)と、1つ以上の共刺激ドメイン(例えば、4-1BB又はCD28共刺激ドメイン)が含まれる。
【0007】
細胞外ドメインは、T細胞の表面に発現したCARに、HER2を発現している細胞にT細胞活性を誘導させうる。当該細胞としては、特定の乳がん細胞や特定の脳がん細胞があげられる。また、細胞内領域にCD3ξと直列に並んだ4-1BB(CD137)共刺激ドメイン等の共刺激ドメインが含まれているため、T細胞が共刺激シグナルを受け取ることができる。T細胞、例えば、患者特異的自己T細胞を操作して、本明細書に記載されるCARを発現することができ、当該操作された細胞を増殖させて、ACTに用いることができる。アルファベータT細胞とガンマデルタT細胞とともに含む、様々なT細胞サブセットを用いることができる。
【0008】
さらに、CARは、NK細胞等の他の免疫細胞で発現させることができる。本明細書に記載のCARを発現する免疫細胞で患者を治療する場合、その細胞は自己T細胞または同種T細胞であることができる。ある場合、用いられる細胞は、CD62L+、CCR7+、CD45RO+及びCD45RA-であるCD4+及びCD8+のセントラルメモリーT細胞(TCM)をともに含む細胞集団であるか、又は、用いられる細胞は、CD4+及びCD8+のTCM細胞、ステムセルセントラルメモリーT細胞及びナイーブT細胞を含む細胞集団(すなわち、TCM/SCM/N細胞の集団)である。TCM/SCM/N細胞の集団は、CD62L+、CCR7+であり、CD45RA+及びCD45RO+の細胞をともに、並びに、CD4+細胞及びCD8+細胞をともに含む。このような細胞を用いると、他のタイプの患者特異的T細胞を用いる場合と比較して、養子移入後の細胞の長期持続性を向上させることができる。
【0009】
本明細書において記載されているのは、CARをコードする核酸分子であり、CARは:HER2を標的とするscFv(例えば、
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKGSTSGGGSGGGSGGGGSSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSS;配列番号1)又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体;CD4膜貫通ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体、CD8膜貫通ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体、CD28膜貫通ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体及びCD3ξ膜貫通ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体から選択される膜貫通ドメイン;共刺激ドメイン(例えば、CD28共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体;又は、4-1BB共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体;又は、CD28共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体及び4-1BB共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体の両方);並びに、CD3ξシグナル伝達ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾を有するその変異体;を含む。
【0010】
様々な実施形態では、共刺激ドメインは:CD28共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾を有するその変異体、4-1BB共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾を有するその変異体、及び、OX40共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾を有するその変異体を含む群から選択される。特定の実施形態では、4-1BB共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾を有するその変異体が存在する。一部の実施形態では、例えば、CD28共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体及び4-1BB共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体等、2つの共刺激ドメインが存在する。様々な実施形態では、1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾は置換である。
【0011】
ある場合、共刺激ドメインとCD3ξシグナル伝達ドメインとの間、及び/又は、2つの共刺激ドメイン間に1~6のアミノ酸の短い配列(例えばGGG)が存在する。
【0012】
さらなる実施形態では、CARは:HER2を標的とするscFv;CD28共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾を有するその変異体、4-1BB共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾を有するその変異体、及び、OX40共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾を有するその変異体を含む群から選択される2つの異なる共刺激ドメイン;CD28共刺激ドメイン又は1~2のアミノ酸修飾を有するその変異体、4-1BB共刺激ドメイン又は1~2のアミノ酸修飾を有するその変異体、及び、OX40共刺激ドメイン又は1~2のアミノ酸修飾を有するその変異体を含む群から選択される2つの異なる共刺激ドメイン;HER2 scFv又は1~2のアミノ酸修飾を有するその変異体;CD4膜貫通ドメイン又は1~2のアミノ酸修飾を有するその変異体、CD8膜貫通ドメイン又は1~2のアミノ酸修飾を有するその変異体、CD28膜貫通ドメイン又は1~2のアミノ酸修飾を有するその変異体及びCD3ξ膜貫通ドメイン又は1~2のアミノ酸修飾を有するその変異体から選択される膜貫通ドメイン;共刺激ドメイン(例えば、CD28共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体;又は、4-1BB共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体;又は、CD28共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体及び4-1BB共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体の両方);及び、CD3ξシグナル伝達ドメイン又は1~2のアミノ酸修飾を有するその変異体;HER2 scFv又はその変異体と膜貫通ドメインとの間に位置するスペーサー領域(例えば、スペーサー領域は、配列番号2~12及び42を含む群から選択されるアミノ酸配列(表3)又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾を有するその変異体を含む);を含み、スペーサーは、IgGヒンジ領域を含み;スペーサー領域は、1~150のアミノ酸を含み;スペーサーはなく;4-1BBシグナル伝達ドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含み;CD3ξシグナル伝達ドメインは、配列番号21アミノ酸配列を含み;3乃至15のアミノ酸のリンカーが、共刺激ドメインとCD3ξシグナル伝達ドメイン又はその変異体との間に位置する。特定の実施形態では、2つの共刺激ドメインがある場合、1つは4-1BB共刺激ドメインであり、もう一方は、CD28及びCD28ggから選択される共刺激ドメインである。様々な実施形態では、1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾は、例えば保存的置換等の置換である。
【0013】
ある実施形態では、核酸分子は、配列番号26~41から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを発現し;キメラ抗原受容体は、配列番号26~41から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0014】
キメラ抗原受容体をコードする発現カセットを含むベクターによって形質導入されたヒトT細胞の集団も開示され、キメラ抗原受容体は:HER2を標的とするscFv;CD4膜貫通ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体、CD8膜貫通ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体、CD28膜貫通ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体及びCD3ξ膜貫通ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体から選択される膜貫通ドメイン;共刺激ドメイン(例えば、CD28共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体;又は、4-1BB共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体;又は、CD28共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体及び4-1BB共刺激ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体の両方);及び、CD3ξシグナル伝達ドメイン又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体;を含む。様々な実施形態では、ヒトT細胞の集団は、配列番号26~41のうちいずれかから選択されるアミノ酸配列又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体を含むキメラ抗原受容体を発現するベクターを含み;ヒトT細胞の集団は、セントラルメモリーT細胞(TCM細胞)を含み、例えば、細胞の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%がTCM細胞であり、又は、ヒトT細胞の集団は、セントラルメモリーT細胞、ナイーブT細胞及びステムセルセントラルメモリー細胞の組み合わせ(TCM/SCM/N細胞)を含み、例えば、細胞の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%がTCM/SCM/N細胞である。いずれの場合においても、T細胞の集団は、CD4+細胞もCD8+細胞も含む(例えば、CD3+T細胞の少なくとも20%がCD4+であり、CD3+T細胞の少なくとも3%がCD8+であり、少なくとも70、80又は90%が、CD4+又はCD8+であり;CD3+細胞の少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、60%がCD4+であり、CD3+細胞の少なくとも4%、5%、8%、10%、20%がCD8+細胞である)。
【0015】
また、自己又は同種のヒトT細胞(例えば、中心記憶T細胞(TCM細胞)または中心記憶T細胞、ナイーブT細胞および幹中心記憶細胞の組み合わせ(すなわち、T細胞はTCM/SCM/N細胞である)を含む自己又は同種T細胞の集団を投与することを含む、患者のがんを治療する方法が記載され、ここで、細胞の少なくとも20%、30%、40%、50%60%、70%、80%はTCM/SCM/N細胞である。いずれの場合でも、T細胞の集団は、キメラ抗原受容体をコードする発現カセットを含むベクターによって形質導入されたCD4+細胞もCD8+細胞も含み(例えば、CD3+T細胞の少なくとも20%がCD4+であり、CD3+T細胞の少なくとも3%がCD8+であり、少なくとも70、80又は90%が、CD4+又はCD8+であり;CD3+細胞の少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、60%がCD4+であり、CD3+細胞の少なくとも4%、5%、8%、10%、20%がCD8+細胞である)、キメラ抗原受容体は、配列番号26~41から選択されるアミノ酸配列又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体を含む。様々な実施形態では、がんは、脳がん、例えば、乳がんからの転移であるHER2発現脳がんであり;形質導入されたヒトT細胞は、患者からT細胞を取得する工程、T細胞を処理してセントラルメモリーT細胞を単離する工程、及び、キメラ抗原受容体をコードする発現カセットを含むウイルスベクターを用いてセントラルメモリー細胞の少なくとも一部に形質導入を行う工程、を含む方法によって調製され、ここで、キメラ抗原受容体は、配列番号26又は27から選択されるアミノ酸配列又は1~5(例えば1又は2)のアミノ酸修飾(例えば置換)を有するその変異体を含む。ある場合、CAR T細胞は、脳腫瘍に直接は投与されず、代わりに、患者の脳内の脳室内空間に投与される。
【0016】
配列番号26~41から選択されるアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子;5以下のアミノ酸の置換、欠失、存在又は挿入の存在を除いて、配列番号26~41から選択されるアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子;5以下のアミノ酸置換の存在を除いて、配列番号26~41から選択されるアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子;及び、2以下のアミノ酸置換の存在を除いて、配列番号26~41から選択されるアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子;も記載される。
【0017】
本開示は、本明細書において記載されるCARのいずれかをコードする核酸分子(例えば、CARのうちの1つをコードする核酸配列を含むベクター)及び本明細書において記載されるCARのいずれかを発現する単離されたTリンパ球も含む。
【0018】
本明細書において記載されるCARは、HER2結合ドメイン(例えばHER2 scFv)と膜貫通ドメインとの間に位置するスペーサー領域を含みうる。様々な異なるスペーサーを用いてよい。それらの一部は、ヒトFc領域の少なくとも一部、例えば、ヒトFc領域のヒンジ部分、又は、CH3ドメイン又はその変異体を含む。以下の表1は、本明細書で記載されるCARで用いることができる様々なスペーサーを提供する。
【0019】
【表1】
いくつかのスペーサー領域は、免疫グロブリン(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4)のヒンジ領域のうち全て又は部分、すなわち、例えばIgG4 Feヒンジ又はCD8ヒンジ等、免疫グロブリンのCHIドメインからCH2ドメインの間に入る配列を含む。いくつかのスペーサー領域は、免疫グロブリンCH3ドメイン又はCH3ドメイン及びCH2ドメインをともに含む。免疫グロブリン由来の配列は、1つ以上のアミノ酸修飾、例えば1、2、3、4又は5の置換、例えばオフターゲット結合を減少させる置換を含むことができる。
【0020】
「アミノ酸修飾」とは、タンパク質又はペプチド配列におけるアミノ酸置換、挿入、及び/又は欠失を意味する。「アミノ酸置換」又は「置換」とは、親ペプチド又はタンパク質配列中の特定の位置のアミノ酸を他のアミノ酸で置換することをいう。当該置換は、非保存的様式(すなわち、コドンを、ある特定の大きさ又は特性を有するアミノ酸のグループに属するアミノ酸から別のグループに属するアミノ酸に変化させることにより)で、又は保存的様式(すなわち、コドンを、ある特定の大きさ又は特性を有するアミノ酸のグループに属するアミノ酸から同じグループに属するアミノ酸に変化させることにより)で、得られたタンパク質中のアミノ酸を変化させるように行いうる。当該保存的変化では、一般に、結果として生じるタンパク質の構造及び機能の変化がより少なくなる。以下に、アミノ酸の様々な群分けを例示する:1)非極性R基を有するアミノ酸:アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン;
2)非荷電極性R基を有するアミノ酸:グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン;3)荷電極性R基を有するアミノ酸(pH6.0で負に荷電):アスパラギン酸、グルタミン酸;4)塩基性アミノ酸(pH6.0で正に荷電):リジン、アルギニン、ヒスチジン(pH 6.0で正に荷電)。他の群はフェニル基をもつアミノ酸:フェニルアラニン、トリプトファン、チロシンである。
【0021】
特定の実施形態では、スペーサーは、未修飾のスペーサーにおいて存在するものとは異なるアミノ酸残基で置換される1つ以上のアミノ酸残基を含むIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4から得られる。1つ以上の置換されるアミノ酸残基は、位置220、226、228、229、230、233、234、235、234、237、238、239、243、247、267、268、280、290、292、297、298、299、300、305、309、218、326、330、331、332、333、334、336、339又はその組み合わせの1つ以上のアミノ酸残基から選択されるが、これらに限定されない。以下により詳細に記載されるこのナンバリングスキームにおいて、表1のIgGヒンジ配列及びIgG4ヒンジリンカー(HL)配列における最初のアミノ酸のように、表1のIgG4(L235E、N297Q)スペーサーにおける最初のアミノ酸は219であり、表1のIgG4(HL-CH3)スペーサーにおける最初のアミノ酸は219である。
【0022】
ある実施形態では、修飾されたスペーサーは、以下のアミノ酸残基置換:C220S、C226S、S228P、C229S、P230S、E233P、V234A、L234V、L234F、L234A、L235A、L235E、G236A、G237A、P238S、S239D、F243L、P247I、S267E、H268Q、S280H、K290S、K290E、K290N、R292P、N297A、N297Q、S298A、S298G、S298D、S298V、T299A、Y300L、V305I、V309L、E318A、K326A、K326W、K326E、L328F、A330L、A330S、A331S、P331S、I332E、E333A、E333S、E333S、K334A、A339D、A339Q、P396L又はその組み合わせのうち1つ以上の置換を含むがこれらに限定されないIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4から得られる。
【0023】
特定の実施形態では、修飾されたスペーサーは、未修飾の領域に存在するものとは異なるアミノ酸残基で置換される1つ以上のアミノ酸残基を含むIgG4領域から得られる。1つ以上の置換されるアミノ酸残基は、位置220、226、228、229、230、233、234、235、234、237、238、239、243、247、267、268、280、290、292、297、298、299、300、305、309、218、326、330、331、332、333、334、336、339又はその組み合わせの1つ以上のアミノ酸残基から選択されるが、これらに限定されない。
【0024】
一部の実施形態では、修飾されたスペーサーは、以下のアミノ酸残基置換:220S、226S、228P、229S、230S、233P、234A、234V、234F、234A、235A、235E、236A、237A、238S、239D、243L、247I、267E、268Q、280H、290S、290E、290N、292P、297A、297Q、298A、298G、298D、298V、299A、300L、305I、309L、318A、326A、326W、326E、328F、330L、330S、331S、331S、332E、333A、333S、333S、334A、339D、339Q、396L又はその組み合わせのうち1つ以上の置換を含むがこれらに限定されないIgG4領域から得られ、未修飾のスペーサーにおけるアミノ酸は、示された位置にて上記の同定されたアミノ酸で置換される。
【0025】
本明細書において論じられる免疫グロブリンのアミノ酸位置について、番号付けは、EUインデックス又はEUナンバリングスキーム(参照により全内容が本願に援用される非特許文献3)による。EUインデックス又は非特許文献3に記載のEUインデックス又はEUナンバリングスキームは、EU抗体の番号付けをいう(非特許文献4)。
【0026】
様々な膜貫通ドメインを用いることができる。表2は、適当な膜貫通ドメインの例を含む。スペーサードメインが存在する場合、膜貫通ドメインは、スペーサードメインのカルボキシ末端に位置する。
【0027】
【表2】
本明細書に記載されるCARの多くは、1つ以上の(例えば2つの)共刺激ドメインを含む。共刺激ドメインは、膜貫通ドメインとCD3ξシグナル伝達ドメインとの間に位置する。表3は、CD3ξシグナル伝達ドメインの配列と共に適当な共刺激ドメインの例を含む。
【0028】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】Her2scFv-IgG4(S228P、L235E,N297Q)-CD28tm-CD28gg-Zeta-T2A-CD19t(配列番号26)のアミノ酸配列を示す図である。様々なドメインが、配列の下に順番に記載され、下線と非下線を交互に表示する。成熟CAR配列(配列番号34)は、GMCSFRaシグナルペプチド、T2Aスキップ配列又は切断型CD19を含まない。また、図3A~8E及び本明細書中では、HER2(EQ)28ζともいう。
図2】Her2scFv-IgG4(S228P、L235E,N297Q)-CD8tm-41BB-Zeta-T2A-CD19t(配列番号27)のアミノ酸配列を示す図である。様々なドメインが、配列の下に順番に記載され、下線と非下線を交互に表示する。成熟CAR配列(配列番号35)は、GMCSFRaシグナルペプチド、T2Aスキップ配列又は切断型CD19を含まない。また、図3A~8E及び明細書中では、HER2(EQ)BBζともいう。
図3】HER2特異的CARのコンストラクト及びCAR T細胞増殖データを示す図である。
図4】乳がん細胞株に対するHER2-CAR T細胞のin vitroを示す図である。
図5】HER2-CAR T細胞のin vitroの腫瘍活性に対する研究の結果を示す図である。
図6】局所腫瘍内送達されたHER2-CAR T細胞のin vivoの抗腫瘍有効性に対する研究の結果を示す図である。
図7】ヒト同所性BBM異種移植モデルにおけるHER2-CAR T細胞の局所送達に対する研究の結果を示す図である。
図8】HER2-CAR T細胞の脳室内送達に対する研究の結果を示す図である。
図9】Her2scFv-CD8ヒンジCD8tm-41BB-ゼータ-T2A-CD19t(配列番号28)のアミノ酸配列を示す図である。様々なドメインは、配列の下に順に記載され、下線と非下線を交互に表示する。成熟CAR配列(配列番号36)は、GMCSFRaシグナルペプチド、T2Aスキップ配列又は切断型CD19を含まない。
図10】Her2scFv-IgG4ヒンジ(S228P)-リンカー-CD8tm-41BB-ゼータ-T2A-CD19tのアミノ酸配列(配列番号29)を示す図である。様々なドメインは、配列の下に順に記載され、下線と非下線を交互に表示する。成熟CAR配列(配列番号37)は、GMCSFRaシグナルペプチド、T2Aスキップ配列又は切断型CD19を含まない。
図11】Her2scFv-IgG4(S228P)-リンカーIgG4 CH3-CD8tm-41BB-ゼータ-T2A-CD19tのアミノ酸配列(配列番号30)を示す図である。様々なドメインは、配列の下に順に記載され、下線と非下線を交互に表示する。成熟したCAR配列(配列番号38)は、GMCSFRaシグナルペプチド、T2Aスキップ配列又は切断型CD19を含まない。
図12】Her2scFv-IgG4(S228P)-リンカー-IgG4 CH3-CD28tm-CD28g-ゼータ-T2A-CD19t(配列番号31)のアミノ酸配列を示す図である。様々なドメインは、配列の下に順に記載され、下線と非下線を交互に表示する。成熟したCAR配列(配列番号39)は、GMCSFRaシグナルペプチド、T2Aスキップ配列又は切断型CD19を含まない。
図13】Her2scFv-リンカー-CD28tm-CD28g-ゼータ-T2A-CD19t(配列番号32)のアミノ酸配列を示す図である。様々なドメインは、配列の下に順に記載され、下線と非下線を交互に表示する。成熟したCAR配列(配列番号40)は、GMCSFRaシグナルペプチド、T2Aスキップ配列又は切断型CD19を含まない。
図14】Her2scFv-リンカー-CD8tm-41BB-ゼータ-T2A-CD19tのアミノ酸配列を示す。配列番号33)を示す図である。様々なドメインは、配列の下に順に記載され、下線と非下線を交互に表示する。成熟したCAR配列(配列番号41)は、GMCSFRaシグナルペプチド、T2Aスキップ配列又は切断型CD19を含まない。
図15】様々なスペーサーを有する特定のさらなるCARを特徴づける研究の結果を示す図である。IgG3(EQ)は図2にあり;DeltaCh2は図11にあり;CD8hは図9にあり;HLは図10にあり;Lは図14にある。
図16】様々なCAARを発現するTCMが、HER2が発現しない細胞(MDA-MB-468)、HER2の発現が少ない細胞(231BR)、HER2の発現が少ない細胞(231BRHER2LO)又はHER2の発現が多い細胞(231BRHER2HI)に曝露される場合に産生されるCD107a及びINFガンマを検査する研究の結果を示した図である。
図17図2のCAR(HER2(EQ)BBζ)又は図14のCAR(HER2(L)BBζ)を用いた様々な細胞株におけるPD-1の生成及び腫瘍細胞の死滅を検査する研究の結果を示した図である。
図18】様々なCAARを発現するTCMが、HER2の発現がない細胞(MDA-MB-468)、HER2の発現が少ない細胞(231BR)、HER2の発現が少ない細胞(231BRHER2LO)又はHER2の発現が多い細胞(231BRHER2HI)に曝露される場合に産生されるCD107a及びINFガンマを検査する研究の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に記載されるのは、HER2を標的とし、HER2発現乳がん並びに乳房から脳への転移に治療に有用な様々なキメラ抗原受容体の構造、構築及び特徴づけである。重要なことは、本明細書で記載されるCARをACTで用いると、脳室内又は腫瘍内送達によって脳内のHER2発現腫瘍を治療することができることである。
【0031】
キメラ抗原(CAR)は、少なくとも、細胞外認識ドメイン、膜貫通領域及び細胞内シグナル伝達ドメインを含有する組換え生体分子である。したがって、用語「抗原」は、抗体に結合する分子に限定されず、標的に特異的に結合することができるいかなる分子をいう。例えば、CARは、細胞表面受容体に特異的に結合するリガンドを含むことができる。細胞外認識ドメイン(細胞外ドメイン又は単に細胞外認識ドメインが含有する認識要素ともいう)は、標的細胞の細胞表面上に存在する分子に特異的に結合する認識要素を含む。膜貫通領域は、膜内にCARを固定する。細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD3複合体のゼータ鎖由来のシグナル伝達ドメインを含み、場合によっては、1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインを含む。CARは、MHCによる制限を受けず、抗原に結合し、かつ、T細胞活性化を伝達することができる。したがって、CARは、そのHLA遺伝子型に関係なく、抗原陽性腫瘍患者の集団を治療することができる「普遍的な(ユニバーサルな)」免疫受容体である。腫瘍特異的CARを発現するTリンパ球を用いた養子免疫療法は、がんの治療の強力な治療戦略となりうる。
【0032】
ある場合、本明細書に記載されるCARは、CARオープンリーディングフレームの後に、T2Aリボソームスキップ配列及び、細胞質シグナル伝達テールがない(アミノ酸323で切断されている)切断型CD19(CD19t)が続く、ベクターを用いて作製することができる。この構成では、CD19tを共発現させることにより、不活性で非免疫原性の表面マーカーが得られ、遺伝子改変細胞を正確に測定できるようになり、かつ、遺伝子改変細胞のポジティブ選択、並びに、養子縁組後の生体内の治療用T細胞の効率的な細胞追跡及び/又はイメージングが可能になる。CD19tの共発現により、臨床的に利用可能な抗体及び/又は免疫毒素試薬を用いて、生体内に導入された細胞を免疫学的に標的化するマーカーがもたらされて、治療用細胞が選択的に除去され、それによって自殺スイッチとして機能する。
【0033】
本明細書中に記載されるCARは、好ましくは組換えDNA技術を用いて製造されるが、当技術分野で公知のいかなる手段により製造されうる。キメラ受容体のいくつかの領域をコードする核酸は、当技術分野で公知の分子クローニングの標準的な技術(ゲノムライブラリースクリーニング、オーバーラップPCR、プライマー支援ライゲーション、部位特異的突然変異誘発等)により、簡便に調製し、完全なコード配列に構築することができる。
得られたコード領域は、好ましくは発現ベクターに挿入され、好適な発現宿主細胞系、好ましくはTリンパ球細胞系、最も好ましくは自己Tリンパ球細胞系の形質転換に用いられる。
【0034】
非選択のPBMC若しくは濃縮されたCD3のT細胞、又は、濃縮されたCD3若しくはメモリーT細胞のサブセット又はTCM若しくはTCM/SCM/Nを含む、患者から単離された様々なT細胞サブセットは、CAR発現用ベクターを用いて形質導入することができる。セントラルメモリーT細胞は、1つの有用なT細胞のサブセットである。セントラルメモリーT細胞は、例えば、所望の受容体を発現する細胞を免疫磁気的に選択するCliniMACS(登録商標)装置を用いて、CD45RO+/CD62L+細胞を濃縮することによって末梢血単核球(PBMC)から単離することができる。セントラルメモリーT細胞のために濃縮された細胞は、抗CD3/CD28で活性化され、例えばCARの発現を指示するSINレンチウイルスベクター及び生体内検出及び潜在的な生体外選択用の非免疫原性の表面マーカーである切断型ヒトCD19(CD19t)で形質導入することができる。活性化/遺伝子修飾されたセントラルメモリーT細胞は、IL-2/IL-15を用いてインビトロで増殖させた後、凍結保存することができる。
【実施例1】
【0035】
2つのHER2-CARの構造
本明細書に記載のHER2 scFvを含む1つのCARは、Her2scFv-IgG4(L235E、N297Q)-CD28tm-CD28gg-Zeta-T2A-CD19tという。このCARには、HER2を標的とするscFv;Fe受容体(FcRs)との結合を阻害するようにCH2領域内の2つの部位(L235E;N297Q)が変異しているIgG4 Fe領域、CD28膜貫通ドメイン、CD28共刺激ドメイン及びCD3ξ活性化ドメインを含む、様々な重要な特徴が含まれる。図1は、このCARのアミノ酸配列を示し、CAR発現のモニターに用いられる切断型CDI9配列の配列、及び、切断型CDI9配列を融合せずにCARを作製することができるT2Aリボソームスキップ配列を含む。図2に示すように、未成熟CARは、以下の:GMCSFRシグナルペプチド、HER2 scFv、スペーサーとして機能するIgG4、CD8膜貫通ドメイン、LLからGGへの配列変化を含む4-1BB共刺激ドメイン、3つのGly配列、CD3ゼータ刺激ドメインを含む。また、転写物には、CARタンパク質配列には含まれないT2Aリボソーム配列及び切断型CDI9配列がコードされる。当該成熟CARは、未成熟CARと同一であるが、GMCSFシグナルペプチドがない。
【実施例2】
【0036】
HER2特異的CAR T細胞の発現に用いられるepHIV7の構築及び構造
epHIV7ベクターは、HER2特異的CARの発現に用いることができるベクターであり、pHIV7ベクターから作製した。重要なことは、このベクターは、ヒトEFIプロモーターを用いてCARの発現を駆動する。ベクターの5’配列及び3’配列はともに、以前にHXBc2プロウイルスから得られたように,pv653RSNに由来する。ポリプリントラクトDNAフラップ配列(cPPT)は、NIH AIDS Reagent RepositoryのHIV-I株pNL4-3に由来する。ウッドチャック転写後制御要素(WPRE)配列は以前に記載された。
【0037】
pHIV7の構築を以下のように行った。簡潔には、介在性SL3-ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(Neo)を備えるgag-pol+5’及び3’の末端反復配列(LTRs)由来の653bpを含有するpv653RSNを、以下のようにpBluescriptにサブクローニングした。つまり、工程1では、5’LTRからRev応答配列(RRE)までの配列で、p5’HIV-I 5Iを作製した後、5’LTRを、TATAボックスの上流の配列を除去して修飾し、最初にCMVエンハンサーに連結させた後、SV40複製開始点に連結した(p5’HIV-2)。工程2では、3’LTRをpBluescriptにクローニングしてp3’HIV-1を作製した後、3’LTRエンハンサー/プロモーターから400bpを欠失させて、HIV U3のシス制御要素を除去し、p3’HIV-2を形成した。工程3では、p5’HIV-3及びp3’HIV-2から単離したフラグメントを連結させて、pHIV-3を作製した。工程4では、上流の余分なHIV配列を除去してさらにp3’HIV-2をさらに修飾してp3’HIV-3を作製し、WPREを含む600bpのBamHI-SalI断片をp3’HIV-3に付加して、p3’HIV-4を作製した。工程5では、pHIV-3のRREをPCRによってサイズダウンし、pHIV-3の5’断片(図示せず)及びp3’HIV-4に連結させて、pHIV-6を作製した。工程6では、HIV-I pNL4-3(55)由来のcPPT DNAフラップ配列を含有する190bpのBglII-BamHI断片をpNL4-3から増幅し、pHIV6のRRE配列とWPRE配列の間に配置してpHIV-7を作製した。この親プラスミドpHIV7-GFP(GFP、緑色蛍光タンパク質)を用いて、4-プラスミド系を用いて親ベクターをパッケージングした。
【0038】
ウイルスゲノムをベクターに効率よくパッケージングするためには、パッケージングシグナルpsi(ψ)が必要である。。RRE及びWPREは、RNA転写物の運搬と導入遺伝子の発現を促進する。フラップ配列は、WPREと組み合わせて、哺乳動物細胞におけるレンチウイルスベクターの形質導入の効率を高めることが実証されている。
【0039】
ウイルスベクターの作製に必要なヘルパー機能は、組換えによる複製能力のあるレンチウイルスの作製確率を下げるために3つの別々のプラスミド:l)pCgpは、ウイルスベクター構築に必要なgag/polタンパク質をコードする;2)pCMV-Rev2は、効率的なパッケージングのためにウイルスゲノムの運搬に寄与するRRE配列に作用するRevタンパク質をコードする;かつ、3)pCMV-Gは、ウイルスベクターの感染性に水疱性口内炎ウイルス(VSV)の糖タンパク質をコードする;に分けられる。
【0040】
pHIV7にコードされたベクターゲノムとヘルパープラスミドとの間には最小限のDNA配列相同性がある。相同性のある領域としては、pCgpヘルパープラスミドのgag/pol配列に位置する約600ヌクレオチドのパッケージングシグナル領域;3つのヘルパープラスミドの全てに存在するCMVプロモーター配列;かつ、ヘルパープラスミドpCgp内のRRE配列;があげられる。これらの領域における相同性のために複製可能な組換えウイルスが生成される見込みは極めて低いが、それは、多数の組換え事象が必要であるからである。さらに、得られた組換え体には、レンチウイルスの複製に必要な機能的なLTRもtat配列もないであろう。
【0041】
CMVプロモーターをEFlα-HTLVプロモーター(EFIp)に置換し、新しいプラスミドをepHIV7と命名した。EFlpは563bpであり、CMVプロモーターを切除した後、NruI及びNheIを用いてepHIV7内に導入した。
【0042】
野生型ウイルスの病原性に必要で、標的細胞の増殖性感染に必要なgag/pol及びrevを除くレンチウイルスゲノムは、この系から除かれてきた。さらに、当該ベクター構築物には、インタクトな3’LTRプロモーターがないため、結果として、標的細胞で発現かつ逆転写されたDNAプロウイルスゲノムのLTRは不活性である。このような設計の結果、HIV-I由来の配列はプロウイルスから転写されず、治療用の配列のみが各々のプロモーターから発現されることになる。SINベクターのLTRプロモーター活性を除去すると、宿主遺伝子の意図せぬ活性化の可能性が著しく軽減されると予想される。
【実施例3】
【0043】
患者T細胞の形質導入用の作製
患者T細胞の形質導入用ベクターは、以下のように調製することができる。CAR、及び、場合によっては、切断型CD19;2)pCgp;3)pCMV-G;及び4)pCMV-Rev2等のマーカーを発現する各プラスミドに対して、種子バンクが生成され、当該種子バンクを発酵槽に播種して、十分量のプラスミドDNAを生成する。プラスミドDNAは、レンチウイルスベクターの作製に用いる前に、同一性、無菌性及びエンドトキシンについて試験される。
【0044】
簡潔には、細胞を、無菌性及びウイルス汚染がないことの確認に試験された293Tワーキングセル(WCB)から継代する。293T WCB由来の293T細胞のバイアルを解凍する。ベクター作製及び細胞トレイン維持に適する数の10層のセルファクトリー(CFs)を播種に十分数の細胞となるまで、細胞を増殖させて、継代する。細胞の単一トレイン用いて作製することができる。
【0045】
レンチウイルスベクターは、最大10CFのサブバッチで作製される。同じ週に2つのサブバッチを作製することができ、1週あたり約20Lのレンチウイルス上清を作製することができる。全てのサブバッチから作製された材料は、下流の処理段階でプールされ、1ロットの製品が作製される。293T細胞を、293T培地(10%FBS含有DMEM)内のCFに播種する。ファクトリーを、37℃のインキュベーター内に置き、水平にして、CFの層全てに細胞を均一に分布させる。2日後、Tris:EDTA、2M CaCh、2X HBS及び4つのDNAプラスミドの混合物を含むCaPQ4法を用いて、細胞に上記の4つのレンチウイルスプラスミドを遺伝子導入する。遺伝子導入から3日後、分泌されたレンチウイルスベクターを含む上清を回収し、精製して、濃縮する。CFから上清を除去した後、各CFから最終生成物である細胞を回収する。細胞をトリプシン処理し、遠心分離によって各ファクトリーから回収される。細胞を凍結培地に再懸濁し、凍結保存する。これらの細胞は、後に、複製コンピテントレンチウイルス(RCL)の試験に用いる。
【0046】
ベクターを精製して製剤化するため、未精製の上清を膜ろ過法で洗い細胞片を除去する。宿主細胞のDNA及び残存プラスミドのDNAは、エンドヌクレアーゼによる消化(Benzonase(登録商標))で分解される。ウイルス上清を、0.45μmのフィルターを用いて細胞片を除去して洗浄する。洗浄された上清を、予め秤量した容器に回収し、そこにBenzonase(登録商標)を添加する(最終濃度50U/mL)。残存プラスミドのDNA及び宿主ゲノムのDNAをエンドヌクレアーゼで、37℃で6時間消化する。エンドヌクレアーゼ処理された上清の最初のタンジェンシャルフローウルトラフィルトレーション(TFF)濃縮で、ウイルスを20倍まで濃縮し、かつ未精製の上清から残存の低分子量成分を除去する。洗浄されたエンドヌクレアーゼ処理されたウイルス上清を、流動速度を最大にして、剪断速度を4,000秒-1以下に維持されるように設計された流速で500kDのNMWCOを備えるホローファイバーカートリッジで循環する。ヌクレアーゼで処理された上清の透析ろ過を濃縮プロセスで開始して、カートリッジの性能を持続させる。透析ろ過緩衝液としてPBS中4%ラクトースを用いて、80%の透過置換速度(permeate replacement rate)を確立する。ウイルス上清を、未精製上清の20倍の濃度を表す目標量とし、かつ、透過液交換率を100%として、さらに4回の交換容量で透析濾過を継続する。
【0047】
高速遠心分離技術を用いてウイルス生成物のさらなる濃縮を達成する。レンチウイルスの各サブバッチを、6℃で16~20時間、6000RPM(6,088RCF)でSorvall RC-26plus遠心機を用いてペレット状にする。次に、各サブバッチからのウイルスペレットは、4%ラクトース含有PBSで50mLの量で再構成される。この緩衝液中の再構成されたペレットは、ウイルス調製に対する最終製剤である。ベクター濃縮工程全体で、約200分の1まで体積が減少する。全てのサブバッチが完了した後、材料を-80℃に保存し、各サブバッチの試料の無菌性を試験する。試料の無菌性の確認後、サブバッチを、頻繁に攪拌して37℃で急速解凍する。その後、クラスIIタイプA/B3バイオセイフティキャビネット内で、この材料をプールし、手動で分注する。濃縮レンチウイルスを、無菌のUSPクラス6の外部ネジ付き0リングクライオバイアルに1mLで充填する構成を用いる。
【0048】
レンチウイルスベクター調製物の純度を確保するため、残存宿主のDNA混入物及び残存宿主及びプラスミドのDNAの導入が試験される。他の試験のうち、特に、正しいベクターが存在していることを確実にするため、ベクター同一性をRT-PCRで評価する。
【実施例4】
【0049】
ACTで用いるのに適するT細胞の調製
CARの発現にTCMを用いる場合、適当な患者細胞を以下のように調製することができる。まず、白血球フェレーシスによって患者からTリンパ球を得て、さらに、適当な同種又は自己T細胞のサブセット、例えばセントラルメモリーT細胞(TCM)を、CARを発現するように遺伝子操作して、いかなる臨床的に許容可能な手段で患者に再投与して、抗がん療法を達成する。
【0050】
適当なTcMを以下のように作製することができる。同意が得られた研究参加者から得られたアフェレーシス生成物を、フィコール処理(ficolled)し、洗浄し、一晩インキュベートする。次に、GMPグレードの抗CD14、抗CD25及び抗CD45RA試薬(Miltenyi Biotec社製)及びCliniMACS(商標)分離装置を用いて、細胞から単球、調節性T細胞及びナイーブT細胞の集団を枯渇する。枯渇後、陰性画分の細胞は、DREG56-ビオチン(COH臨床グレード)及び抗ビオチンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)で、CliniMACS(商標)分離装置を用いて、CD62L+TCM細胞を濃縮する。
【0051】
濃縮後、TCM細胞を、完全なX-Vivo15に50IU/mLのIL-2及び0.5ng/mLのIL-15に配合し、teflon性(登録商標)の細胞培養バッグに移し、Dynal ClinEx(商標)Vivo CD3/CD28ビーズで刺激する。刺激から最大5日後、細胞を、1.0~0.3の感染多重度(MOI)で所望のCARを発現するレンチウイルスベクターで形質導入する。培養は、細胞増殖に必要な完全X-Vivo15及びIL-2及びIL-15サイトカインを添加しながら(細胞密度を3x10~2x10生細胞/mLに保ち、かつ、毎週月曜日、水曜日及び金曜日の培養時にサイトカインを補給する)、42日間まで維持される。細胞は、通常、21日以内にこれらの条件下で約10の細胞まで増殖する。培養期間が終わると、細胞を収集し、2回洗浄し、臨床等級の凍結保存培地(Cryostore CS5、BioLife Solutions)で製剤化する。
【0052】
T細胞注入の日に、凍結保存され放出された生成物を解凍し、洗浄し、再注入のために製剤化する。放出される細胞生成物を含む凍結保存されたバイアルを、液体窒素保存から取り出し、解凍し、冷却し、PBS/2%ヒト血清アルブミン(HSA)洗浄緩衝液で洗浄する。遠心分離後、上清を除去し、細胞を、防腐剤無添加生理食塩水(PFNS)/2%HSA輸液希釈剤に再懸濁する。品質管理試験用に試料を取り出す。
【実施例5】
【0053】
HER2を標的とするCARの発現
図3Aは、図1及び図2で示される2つのHER2特異的CAR構築物の概略図である。HER2(EQ)28ξでは、scFvは、CD28膜貫通ドメイン、細胞内CD28共刺激ドメイン及び細胞溶解性CD3ξドメインを含む、改変IgG4Fcリンカー(二重変異体、L235E;N297Q)によって膜に繋がれている。T2Aスキップ配列により、CARが細胞トラッキングに利用される切断型CD19(CD19t)タンパク質から分離される。HER2(EQ)BBξは、共刺激ドメインがCD28ではなく4-1BBであること、及び、膜貫通ドメインがCD28膜貫通ドメインではなくCD8膜貫通ドメインであること以外は類似する。ヒトセントラルメモリー(TCM)細胞を、HER2(EQ)28ξ又はHER2(EQ)BBξのいずれかを発現するレンチウイルスベクターで形質導入した。図3Bは、ヒトTCM表面表現型の代表的なFACSデータを示す。図3Cは、HER2(EQ)28ξ又はHER2(EQ)BBξのいずれかを発現するレンチウイルスベクターで形質導入されたTCMにおけるCD19及びタンパク質Lの発現に対するアッセイの結果を示す。これらの結果からわかるように、CD19の発現によって評価された形質導入効率は、両方のCARで同程度であった。しかし、タンパク質Lの発現は、HER2(EQ)28ξよりもHER2(EQ)BBξで低く、HER2(EQ)BBξCARは、HER2(EQ)BBξよりも安定性が低いことを示唆された。細胞増殖の分析(図3D)から、いずれのCARもT細胞増殖を阻害しないことが示された。
【実施例6】
【0054】
様々な乳がん細胞株に対するHER2-CAR T細胞のインビトロ特性評価
HER2陰性細胞株(LCLリンパ腫、MDA-MB-468、U87グリオーマ)、低HER2発現細胞株(MDA-MB-361、231BR)及び高HER2発現細胞株(SKBR3、BT474、BBM1)を含む様々な乳がん細胞株を用いて、HER2(EQ)28及びHER2(EQ)BBξを特徴づけた。図4Aは、当該細胞株各々のHER2発現レベルを示す。フローサイトメトリー(CAR+T細胞を対象とする)を用いて、MDA-MB-361腫瘍細胞との(低HER2発現)、又は、BBM1腫瘍細胞(高いHER2発現)との5時間の共培養後、Mock(非形質導入)、HER2(EQ)28ξ又はHER2(EQ)BBξ CAR T細胞におけるCD107a脱顆粒及びIFNyの産生で解析した。この分析結果を図4Bに示す。同様の研究を、他の乳がん細胞株を用いて行い、その結果を図4Cにまとめた。組換えHER2タンパク質又は腫瘍標的の24時間の培養後、HER2-CAR T細胞によるIFNγ産生を、ELISAで測定して、分析した結果を図4Dに示す。
【実施例7】
【0055】
インビトロ抗腫瘍活性
フローサイトメトリーを用いて、Mock(非形質導入)、HER2(EQ)28ξ又はHER2(EQ)BBξ CAR T細胞を腫瘍標的と72時間の共培養後、腫瘍細胞死滅を評価した。この分析の結果を図5Aに示す。全CAR T細胞を、をHER2陰性MDA-MB-468又はHER2陽性BBM1細胞との72時間の共培養後、PD-1及びLAG-3誘導を測定し、この分析の結果を図5Bに示す。CD8+CAR T細胞を、HER2陰性(LCLリンパ腫、MDA-MB-468、U87グリオーマ)、低HER2発現(MDA-MB-361、231BR)又は高HER2発現(SKBR3、BT474、BBM1)である腫瘍標的と72時間の共培養後、PD-1誘導を測定し、この分析の結果を図5Cに示す。これらの研究から、HER2(EQ)BBξは、HER2(EQ)28ξよりもPD-1誘導が低いことを示唆する。エフェクター:腫瘍(E:T)比の範囲が0.25:1~2:1である腫瘍細胞死滅を、HER2(EQ)28ξCAR T細胞又はHER2(EQ)BBξCAR T細胞で測定した。この分析の結果は図5Dに示され、HER2(EQ)28ξもHER2(EQ)BBξも、インビトロで腫瘍細胞死滅に効果があることが示された。HER2-CAR T細胞を、MDA-MB-468又はBBMI細胞と72時間共培養後のCFSE増殖を、フローサイトメトリーで測定した。この分析の結果は図5Eに示され、HER2(EQ)BBξCAR T細胞はHER2(EQ)28ξCAR T細胞よりも増殖することが示された。
【実施例8】
【0056】
生体内抗腫瘍活性
患者由来の乳房から脳への転移モデルについて、腫瘍内に送達されたHER2 CAR T細胞の活性を評価した。図6A~6Cは、腫瘍のH&E染色である。マウスを、Mock(非形質導入)又はHER2(EQ)BBξCAR T細胞で腫瘍に直接注入して処置した。図6D~6Fは、腫瘍の光学イメージングの結果を示し、図6G~6Iは、腫瘍注入後3日、8日又は14日に局所処置したマウスに対するカプラン・マイヤー生存曲線である。これらの研究は、HER2(EQ)BBξCAR T細胞を、腫瘍に直接注入した場合、生体内で強力な抗腫瘍効力を発揮することを示す。
【0057】
乳房から脳への転移のヒト異種移植モデルにおける抗腫瘍効力を評価するために、BBM1細胞(0.2M)又はBT474(0.15M)をNSGマウスにおいて頭蓋内に注入した。腫瘍注入後8日に、HER2(EQ)28ξ又はHER2(EQ)BBξ又はMock(非形質導入)のT細胞(IM)を、腫瘍内に注入した。BBMI(図7A)及びBT474(図7B)の腫瘍を、ルシフェラーゼに基づく光学イメージングによってモニターした。カプラン・マイヤー曲線を、図7C及び図7Dに示す
【0058】
乳がんから脳への転移のヒト患者由来の同所性異種移植モデルも用いて、HER2(EQ)28ξ及びHER2(EQ)BBξのCAR T細胞を評価した。図8Aは、BBM 1細胞(0.2M)の定位注入による腫瘍注入の領域、及び、脳心室内T細胞送達を示す。図8Bでは腫瘍の染色が示される。腫瘍注入から14日後、HER2(EQ)28ξ、HER2(EQ)BBξ又はMock(非形質導入)のT細胞(0.5M)を、腫瘍内に注入した。腫瘍成長を、ルシフェラーゼに基づく光学イメージングでモニターした。図8Cは、各処置群に対する流束の平均値を示し、図8Dは、各処置群のカプラン・マイヤー生存曲線である。
【実施例9】
【0059】
HER2を標的としたさらなるCAR
図9~14は、リンカーが異なる様々なCARのアミノ酸配列を示す。具体的には、CARは、HER2を標的とするscFvと膜貫通ドメインとの間の部分の配列及び長さが異なる。膜貫通ドメインは、CD8、CD28又はCD28ggである。共刺激ドメインは、4-1BB又はCD28である。全てにCD3ζ刺激ドメインがある。いずれの場合も、T2Aスキップ配列が、細胞トラッキングに利用される切断型CD19(CD19t)タンパク質からCARを分離する。
【0060】
図15Aは、HER2 scFvとCD8膜貫通ドメインとの間の部分の配列及び長さを除いて同一である様々なHER2 CARの概略図である。全てが、4-1BB共刺激ドメインとそれに続くCD3ζ刺激ドメインを含む。図15Bは、示されたCARを発現するレンチウイルスベクターで遺伝子導入されたTCMにおけるCD19及びタンパク質Lの発現に対するアッセイの結果を示す。これらの結果からわかるように、CD19の発現によって評価した導入効率は、両方のCARで同程度であった。しかし、タンパク質Lの発現は、HER2(EQ)28ζよりもHER2(EQ)BBζでは低く、HER2(EQ)BBζCARは、HER2(EQ)BBζよりも安定性が低いことを示唆する。細胞増殖の分析(図15C)から、CARのいずれもT細胞増殖を阻害しないことを示す。図16~18は、さらなる研究の結果を示し、スペーサーが極めて短いCAR(図14)が、高レベルのHER2を発現するCARに対して比較的選択的であることを示す。そのようなCARは、がん細胞よりも低レベルのHER2を発現する細胞を残すことが望ましいHER2発現がんの治療で有用であると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
0007264954000001.app