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特許7265000第1の親水性のブロック、第2の疎水性のブロック、およびチオールに特異的に結合可能な官能基を含むブロックコポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】第1の親水性のブロック、第2の疎水性のブロック、およびチオールに特異的に結合可能な官能基を含むブロックコポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/00 20060101AFI20230418BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230418BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20230418BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20230418BHJP
   C12N 11/08 20200101ALI20230418BHJP
【FI】
C08G73/00
A61K47/34
A61K9/51
A61K35/15
A61P35/00
A61P35/02
C12N5/078
C12N11/08
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021517755
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 KR2019017899
(87)【国際公開番号】W WO2020130580
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】10-2018-0163379
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521126254
【氏名又は名称】ジーアイ・セル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】GI CELL, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】キム・ウォンジョン
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ドンヒョン
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-523595(JP,A)
【文献】国際公開第97/006202(WO,A1)
【文献】特表2008-520798(JP,A)
【文献】特表2008-534732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00
A61K 47/34
A61K 9/51
A61K 35/15
A61P 35/00
A61P 35/02
C12N 5/078
C12N 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性の第1のブロック;
疎水性の第2のブロック;および、
チオールに特異的に結合可能な官能基、
を含むブロックコポリマーであって、
疎水性の第2のブロックが、その主鎖に、pH4.5~7の条件で分解するユニットを含むか、その主鎖または側鎖に、pH4.5~7の条件でカチオン性になるユニットを含むか、またはその両方のユニットを含み、
前記ブロックコポリマーが、式5で表され、そしてチオールに特異的に結合可能な官能基が、直接またはリンカーを介して、前記ブロックコポリマーの末端(*)に結合しているブロックコポリマー。
[式中、
およびAは、それぞれ独立して、C~Cの直鎖または分枝鎖のアルキレン基;C~Cの直鎖または分枝鎖のアルケニレン基;および、C~Cの直鎖または分枝鎖のアルキニレン基、から選択され、
は、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルケニレン基;および、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキニレン基、から選択され、
およびBは、それぞれ独立して、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルケニレン基;および、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキニレン基、から選択され、
およびBは、それぞれ独立して、水素;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキル基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルケニル基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキニル基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルケニレン基;および、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキニレン基、から選択され、
ここで、BおよびBは、互いに接続して、C~C20の脂環式環または芳香族環を形成していてもよく、および、
およびBは、互いに接続して、C~C20の脂環式環または芳香族環を形成していてもよく、
およびDは、それぞれ独立して、CまたはCのアルキレン基であり、
、D、D、およびDは、それぞれ独立して、水素;ハロゲン;ヒドロキシル基;および、メチル基、から選択され、
およびLは、リンカーであり、
p、q、およびrは、それぞれ独立して、1~100の整数であり
が式4で表され、Lが式6で表される。
[式中、
およびBは、それぞれ独立して、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルケニレン基;および、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキニレン基、から選択され、
およびBは、それぞれ独立して、水素;ハロゲン;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキル基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルケニル基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキニル基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルケニレン基;および、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキニレン基、から選択され、および、
およびEは、それぞれ独立して、アミンと反応可能な官能基に由来するユニットであり、
ここで、BおよびBは、互いに接続して、C~C20の脂環式環または芳香族環を形成していてもよく、および、
およびBは、互いに接続して、C~C20の脂環式環または芳香族環を形成していてもよい。]]
【請求項2】
ブロックコポリマーの分子量が、1,000~50,000Daである、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項3】
チオールに特異的に結合可能な官能基が、ジスルフィド基、マレイミド基、アルケニル基、アルキニル基、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項4】
の分子量が、10~2,000Daである、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項5】
(p+r)/qが、(1:10)~(10:1)である、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項6】
ブロックコポリマーが、式7:
【化1】
[式中、pおよびrは、それぞれ独立して、5~100の整数であり、qは1~60の整数である。]
で表される、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項7】
請求項1に記載のブロックコポリマーを含む、ナノ粒子。
【請求項8】
請求項7に記載のナノ粒子;および、
薬物、
を含む、薬物送達ビヒクル。
【請求項9】
薬物が、抗癌剤、抗増殖剤または化学療法剤、鎮痛剤、抗炎症剤、抗寄生虫剤、抗不整脈剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗凝固剤、抗うつ剤、抗糖尿病薬、抗てんかん薬、抗真菌薬、抗痛風薬、抗高血圧薬、抗マラリア薬、抗片頭痛薬、抗ムスカリン薬、抗腫瘍薬、抗勃起不全薬、免疫抑制薬、抗原虫薬、抗甲状腺薬、抗不安薬、鎮静剤、催眠薬、神経弛緩薬、β-ブロッカー、強心剤、コルチコステロイド、利尿薬、抗パーキンソン病薬、胃腸薬、ヒスタミン受容体拮抗剤、角質溶解剤、脂質モジュレーター、狭心症薬、Cox-2阻害剤、ロイコトリエン阻害剤、マクロライド、筋弛緩薬、栄養物、麻薬性鎮痛薬、プロテアーゼ阻害剤、性ホルモン、刺激剤、抗浸透圧剤、抗肥満薬、向知性薬、尿失禁薬、良性前立腺薬、必須脂肪酸、非必須脂肪酸、およびそれらの組み合わせ、から選択される、請求項8に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項10】
請求項8に記載の薬物送達ビヒクル;および、
免疫細胞、
を含む、改変細胞。
【請求項11】
免疫細胞が、T細胞、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞(DC)、マクロファージ、ミクログリア細胞、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項10に記載の改変細胞。
【請求項12】
請求項1に記載のブロックコポリマー;および、
抗癌剤、
を含む、抗癌用の医薬組成物。
【請求項13】
癌が、結腸癌、肺癌、非小細胞肺癌、骨肉腫、膵臓癌、皮膚癌、頭部癌、頸部癌、皮膚黒色腫、眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、胃癌、肛門周囲癌、乳癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰部癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部腫瘍、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性白血病、急性白血病、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓癌、尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌、および中枢神経系(CNS)腫瘍、から選択される、請求項12に記載の抗癌医薬組成物。
【請求項14】
請求項1に記載のブロックコポリマー;
薬物;および、
免疫細胞、
を含む、抗癌用、または感染症の予防または治療用の、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性の第1のブロック、疎水性の第2のブロック、およびチオールに特異的に結合可能な官能基を含むブロックコポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
現代人の代表的な難病である癌の治療法として広く知られている抗癌化学療法および放射線療法は、患者の体全体に非特異的な薬理作用を引き起こし、したがって、治療効率が悪く、患者にさまざまな副作用を引き起こすという問題がある。
【0003】
これらの問題を解決するために、人体の免疫応答に基づく新しい治療法が、最近現れている。これらの中で、T細胞とナチュラルキラー細胞は、癌細胞を的確に認識して攻撃する特定のメカニズムを有しているため、従来の抗癌化学療法/放射線療法とは異なり、正常細胞にダメージを与えることなく、癌を治療する可能性がある。
【0004】
しかしながら、免疫細胞だけでは、遺伝的変異による癌細胞の免疫回避、個々の免疫細胞の毒性の不足などのために、癌の完全な治療を達成することは困難であった。
【0005】
したがって、これらの問題を解決するために、抗癌化学剤を免疫細胞と同時に癌に作用させることによって治療効率を向上させる方法が必要であり、また、抗癌化学剤が正常な組織に作用するのを防ぐ、聡明な薬物送達システムの開発も必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の問題を解決するために、本発明者らは、親水性の第1のブロック;pH4.5~7の条件で分解またはカチオン性になるユニットを含む疎水性の第2のブロック;および、チオールに特異的に結合可能な官能基、を含むブロックコポリマーを製造し、このブロックコポリマーが免疫細胞の表面に存在するチオールに付着し、薬物を保有し、酸性条件でのみ薬物を放出して、免疫細胞の作用が増強し得ることを確認し、それにより本発明を完成させた。
したがって、本発明の目的は、保有した薬物が免疫細胞と同時に作用することを可能にし、それにより、癌の疾患または障害、または様々な感染症の予防または治療を可能にする、ブロックコポリマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の実施形態によれば、親水性の第1のブロック;疎水性の第2のブロック;および、チオールに特異的に結合可能な官能基、を含むブロックコポリマーであって、疎水性の第2のブロックは、その主鎖に、pH4.5~7の条件で分解するユニットを含むか、その主鎖または側鎖に、pH4.5~7の条件でカチオン性になるユニットを含むか、またはその両方のユニットを含む、ブロックコポリマー、が提供される。
【0008】
本発明の別の実施形態によれば、ブロックコポリマーを含むナノ粒子が提供される。
【0009】
本発明のさらに別の実施形態によれば、ナノ粒子および薬物を含む薬物送達ビヒクルが提供される。
【0010】
本発明のさらに別の実施形態によれば、薬物送達ビヒクルおよび免疫細胞を含む改変細胞が提供される。
【0011】
本発明のさらに別の実施形態によれば、ブロックコポリマーおよび抗癌剤を含む、抗癌用の医薬組成物が提供される。
【0012】
さらに、本発明のさらに別の実施形態によれば、ブロックコポリマー、薬物、および免疫細胞を含む、抗癌用または感染症の予防または治療用の医薬組成物が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のブロックコポリマーは、免疫細胞の表面に存在するチオールに特異的に結合することができ、そして、免疫細胞によって誘導される酸性条件でのみ構造変化を受けて、薬物を放出することができる。したがって、ブロックコポリマーは、化学療法を通じて、免疫細胞の抗癌能力または感染症に対する予防的または治療的能力を増強するとともに、保有する薬物の非特異的な副作用を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施形態によるブロックコポリマーが体内に投与された場合のブロックコポリマーによって引き起こされる応答をシミュレートした図を示している。
図2図2は、本発明の実施形態によるブロックコポリマーにおいて、親水性の第1のブロックを合成するための反応スキームを示す。
図3図3は、本発明の実施形態によるブロックコポリマーにおいて、親水性の第1のブロックの合成における中間化合物および最終化合物の1H-NMRスペクトルを示す。
図4図4は、本発明の実施形態によるブロックコポリマーにおいて、疎水性の第2のブロックを合成するための反応スキームを示す。
図5図5は、本発明の実施形態によるブロックコポリマーにおいて、疎水性の第2のブロックの合成における中間化合物および最終化合物の1H-NMRスペクトルを示す。
図6図6は、本発明の実施形態による薬物送達ビヒクルの、pH条件に応じた平均水和サイズを示すグラフを示す。
図7図7は、本発明の実施形態による薬物送達ビヒクルの、pH条件に応じた透過型電子顕微鏡画像を示す。
図8図8は、本発明の実施形態による薬物送達ビヒクルの、pH条件に応じた薬物放出挙動を示すグラフを示す。
図9図9は、細胞に付着した本発明の実施形態による薬物送達ビヒクルの蛍光画像を示す。
図10図10は、本発明の実施形態による薬物送達ビヒクルがナチュラルキラー細胞に付着し、ナチュラルキラー細胞が癌細胞を認識して攻撃する間に撮影された蛍光画像を示す。
図11図11は、本発明の実施形態による薬物送達ビヒクルがナチュラルキラー細胞に付着し、ナチュラルキラー細胞が癌細胞を認識して攻撃する間に撮影された蛍光画像を示す。
図12図12は、本発明の実施形態による薬物送達ビヒクルの細胞毒性を評価して得た結果を示す。
図13図13は、本発明の実施形態による薬物送達ビヒクルの癌細胞殺傷作用を示すグラフを示す。
図14図14は、本発明の実施形態による薬物送達ビヒクルを癌動物モデルに投与した場合の、IFN-γレベルを測定して得たグラフを示す。
図15図15は、本発明の実施形態による薬物送達システムを癌動物モデルに投与した場合の、薬物送達システムの転移性腫瘍形成阻害効果を評価して得た結果を示す。
図16図16は、本発明の実施形態による薬物送達システムを癌動物モデルに投与した場合の、薬物送達システムの転移性腫瘍形成阻害効果を評価して得た結果を示す。
図17図17は、本発明の実施形態による薬物送達システムを癌動物モデルに投与した場合の、薬物送達システムの転移性腫瘍形成阻害効果を評価して得た結果を示す。
図18図18は、本発明の実施形態による薬物送達システムを癌動物モデルに投与した場合の、薬物送達システムの転移性腫瘍形成阻害効果を評価して得た結果を示す。
図19図19は、本発明の実施形態による薬物送達システムを癌動物モデルに投与した場合の、薬物送達システムの転移性腫瘍形成阻害効果を評価して得た結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一態様において、低pHで構造変化を受けるブロックコポリマーが提供される。
【0016】
本発明の一実施形態において、親水性の第1のブロック;疎水性の第2のブロック;および、チオールに特異的に結合可能な官能基、を含むブロックコポリマーであって、疎水性の第2のブロックが、その主鎖に、pH4.5~7の条件で分解するユニットを含むか、その主鎖または側鎖に、pH4.5~7の条件でカチオン性になるユニットを含むか、またはその両方のユニットを含む、ブロックコポリマー、が提供される。
【0017】
本発明の一実施形態において、親水性の第1のブロックは、水への溶解性が高いポリマーを意味し得る。例えば、親水性の第1のブロックは、ポリマーとして、室温の水に溶解した場合、濁りを示さないものであってよい。さらに、親水性の第1のブロックは、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(オキサゾリン)、またはポリ(エーテル)、またはそれらのコポリマーを含み得る。具体的には、親水性の第1のブロックは、ポリ(エーテル)であり、そして、ポリ(エチレングリコール)、デキストラン、マンナン、プルラン、またはセルロース、またはそれらのコポリマーを含み得る。より具体的には、親水性の第1のブロックは、ポリ(エチレングリコール)を含み得る。
【0018】
さらに、親水性の第1のブロックは、式1で表されるユニットを含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなるものであってよい。
【化1】
[式中、Dは、CまたはCアルキレン基であり、および、DおよびDは、それぞれ独立して、水素;ハロゲン;ヒドロキシル基;および、メチル基、から選択される。]
【0019】
一方、本発明の一実施形態において、疎水性の第2のブロックは、水への溶解性が低いポリマーを意味し得る。例えば、疎水性の第2のブロックは、室温で水に溶解した場合、濁りを示すものであってよい。さらに、疎水性の第2のブロックは、その主鎖に、pH4.5~7の条件で分解するユニットを含み得るか、その主鎖または側鎖に、pH4.5~7の条件でカチオン性になるユニットを含み得るか、または両方のユニットを含み得る。
【0020】
具体的には、疎水性の第2のブロックは、その主鎖に、pH5.8~6.8の条件で分解するユニットを含み得るか、その主鎖または側鎖に、pH5.8~6.8の条件でカチオン性になるユニットを含み得るか、または両方のユニットを含み得る。ここで、酸性条件、例えば、pH4.5~7.0またはpH5.8~6.8の条件で、カチオン性になるユニットは、その共役酸のpKaが、4.5~7.0または5.8~6.8であるユニットであり得る。また、ここで、酸性条件で分解するまたはカチオン性になるユニットは、pH7.0より大きいまたはpH6.8より大きい条件などの非酸性の条件において、分解しないまたはカチオン性にならないユニットであり得る。
【0021】
酸性条件で分解するまたはカチオン性になるユニットを含むため、本発明のブロックコポリマーは、疎水性基が酸性の条件(例えば、pH4.5~7.0またはpH5.8~6.8の条件など)で、カチオン性になった場合、または疎水性基が分解した場合、親水性/疎水性バランスが崩れ、構造変化を起こし得る。したがって、薬物を保有する場合、本発明の実施形態のブロックコポリマーは、酸性条件で薬物を選択的に放出するという特徴を有し得る。特に、被験体に投与する場合、ブロックコポリマーは、被験体にすでに存在する免疫細胞、または被験体に追加で添加された免疫細胞に結合することができ、したがって、免疫細胞がその役割を果たすときに形成される酸性環境において薬物を選択的に放出し得る。そのため、本発明のブロックコポリマーは、保有する薬物の非特異的副作用を抑制しながら、免疫細胞の能力を増強し得る。
【0022】
具体的には、疎水性の第2のブロックにおいて、pH4.5~7.0またはpH5.8~6.8の条件などの酸性条件で分解するユニットを含むポリマーは、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(アセタール)、ポリ(ケタール)、またはポリ(アミノエステル)、またはそれらのコポリマーを含み得る。さらに、pH4.5~7.0またはpH5.8~6.8などの酸性条件でカチオン性になるユニットを含むポリマーは、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(プロピレンイミン)、ポリ(アミノエステル)、ポリ(アミドアミン)、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(リジン)、キトサン、またはゼラチン、またはそれらのコポリマーを含み得る。より具体的には、疎水性の第2のブロックは、酸性条件で分解するユニットと酸性条件でカチオン性になるユニットの両方を含むポリマーとして、ポリ(アミノエステル)を含み得る。より具体的には、疎水性の第2のブロックは、式2で表されるユニットを含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなるものであってよい。
【化2】
[式中、AおよびAは、それぞれ独立して、C~Cの直鎖または分枝鎖のアルキレン基;C~Cの直鎖または分枝鎖のアルケニレン基;および、C~Cの直鎖または分枝鎖のアルキニレン基、から選択され、Aは、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルケニレン基;および、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキニレン基、から選択され、そして、BおよびBは、それぞれ独立して、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルケニレン基;および、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキニレン基、から選択され、そして、BおよびBは、それぞれ独立して、水素;ハロゲン;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキル基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルケニル基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキニル基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルケニレン基;および、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキニレン基、から選択され、ここで、BおよびBは、互いに接続して、C~C20の脂環式環または芳香族環を形成していてもよく、および、BおよびBは、互いに接続して、C~C20の脂環式環または芳香族環を形成していてもよい。]
【0023】
より具体的には、上記式において、AおよびAは、それぞれ独立して、C~Cの直鎖または分枝鎖のアルキレン基であり得る。Aは、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基であり得る。BおよびBは、それぞれ独立して、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基であり得る。BおよびBは、それぞれ独立して、水素;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキル基;および、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基、から選択され得る。BおよびBは、互いに接続して、C~C10の脂環式環を形成していてもよい。BおよびBは、互いに接続して、C~C10の脂環式環を形成していてもよい。
【0024】
より具体的には、上記式において、AおよびAは、それぞれ独立して、C~Cの直鎖または分枝鎖のアルキレン基であり、AはC~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基であり、BおよびBは、それぞれ独立して、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基であり、および、BおよびBは、それぞれ独立して、水素;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキル基;および、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基、から選択され、ここで、BおよびBは、互いに接続して、C~C10の脂環式環を形成していてもよく、および、BおよびBは、互いに接続して、C~C10の脂環式環を形成していてもよい。
【0025】
本発明の一実施形態において、チオールに特異的に結合可能な官能基は、例えば、ジスルフィド基、マレイミド基、アルケニル基、またはアルキニル基、またはそれらの組み合わせであり得る。あるいは、官能基は、ジスルフィド基の誘導体、マレイミド基の誘導体、アルケニル基の誘導体、またはアルキニル基の誘導体、またはそれらの組み合わせであり得る。ここで、ジスルフィド基の誘導体は、保護基をジスルフィド基に結合することによって形成される官能基を意味し得る。本明細書において、特に断りのない限り、アルケニル基またはアルキニル基は、それぞれ、2~60個の炭素原子を有し、二重結合または三重結合を有し、直鎖または分枝鎖の基を含む官能基を意味し得るが、これに限定されるものではない。チオールに特異的に結合可能な官能基は、特に、マレイミド基またはその誘導体であり得る。
【0026】
より具体的には、本発明の実施形態のブロックコポリマーは、親水性の第1のブロックとしてポリ(エーテル)を含み、疎水性の第2のブロックとしてポリ(アミノエステル)を含み、および、チオールに特異的に結合可能な官能基を含み得る。
【0027】
より具体的には、本発明の実施形態のブロックコポリマーは、式1で表されるユニットを含む親水性の第1のブロックを含み、式2で表されるユニットを含む疎水性の第2のブロックを含み、および、チオールに特異的に結合可能な官能基を含み得る。
【0028】
例えば、ブロックコポリマーは式3で表され、チオールに特異的に結合可能な官能基を含み得る。
【化3】
[式中、A~AおよびB~Bは、式2において記載された通りであり、D~Dは、式1において記載された通りである。Lは、リンカーであり、pおよびqは、それぞれ独立して、1~100の整数である。具体的には、pおよびqは、それぞれ独立して、5~100の整数であり得る。より具体的には、pは、10~80の整数、または20~70の整数であり得、および、qは、1~30の整数、または5~25の整数であり得る。しかしながら、pおよびqは、特にこれに限定されるものではない。さらに、p/qは(1:5)~(5:1)であり得る。具体的には、p/qは(1:1)~(5:1)であり得る。]
【0029】
一方、リンカーLは、親水性の第1のブロックと疎水性の第2のブロックを互いに接続することができ、リンカーLが本発明のブロックコポリマーの効果を阻害するものでない限り、特に限定されるものではない。リンカーLの分子量もまた、リンカーLが本発明のブロックコポリマーの効果を阻害するものでない限り、特に限定されるものではないが、例えば、10~2,000Da、10~1,800Da、10~1,600Da、または20~1,000Daであり得る。リンカーLは、2つ以上のポリマーを互いに接続するために一般的に用いられる化合物/官能基に由来する構造を有し得る。例えば、Lは、式4で表され得る。
【化4】
[式中、BおよびBは、式2において記載された通りであり、および、Eはアミンと反応可能な官能基に由来するユニットである。]
【0030】
アミンと反応可能な官能基としては、例えば、アルケニル基、アルキニル基、またはアクリレート基を挙げることができ、アミンと反応可能な官能基に由来するユニットとしては、例えば、*-C-*、*-C-*、および*-OOC-C-*、を挙げることができる。しかしながら、Lの構造は、特にこれに限定されるものではない。
【0031】
あるいは、例えば、ブロックコポリマーは、式5で表され、チオールに特異的に結合可能な官能基を含み得る。
【化5】
[式中、A~AおよびB~Bは、式2において記載された通りであり、D~Dは、式1において記載された通りであり、Lは、式4において記載された通りである。さらに、DおよびDは、それぞれ独立して、CまたはCのアルキレン基であり得、D、D、D、およびDは、それぞれ独立して、水素;ハロゲン;ヒドロキシル基;および、メチル基、から選択され得、Lは、リンカーであり得、p、q、およびrは、それぞれ独立して、1~100の整数、または5~100の整数であり得る。具体的には、(p+r)/qは(1:10)~(10:1)、(1:5)~(10:1)、(1:3)~(10:1)、または(1:1)~(10:1)であり得る。]
【0032】
一方、Lと同様に、リンカーLは、親水性の第1のブロックと疎水性の第2のブロックを互いに接続することができ、リンカーLが本発明のブロックコポリマーの効果を阻害するものでない限り、特に限定されるものではない。リンカーLの分子量もまた、Lについて記載された通りであり、リンカーLは、2つ以上のポリマーを互いに接続するために一般的に用いられる化合物/官能基に由来する構造を有し得る。例えば、Lは、式6で表され得る。
【化6】
[式中、Bは、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルケニレン基;および、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキニレン基、から選択され、Bは水素;ハロゲン;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキル基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルケニル基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキニル基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキレン基;C~C10の直鎖または分枝鎖のアルケニレン基;および、C~C10の直鎖または分枝鎖のアルキニレン基、から選択され、および、Eは、アミンと反応可能な官能基に由来するユニットであり、ここで、BおよびBは、互いに接続して、C~C20の脂環式環または芳香族環を形成していてもよい。BおよびBは、式2において記載された通りである。]
【0033】
アミンと反応可能な官能基としては、例えば、アルケニル基、アルキニル基、またはアクリレート基を挙げることができ、アミンと反応可能な官能基に由来するユニットとしては、例えば、*-C-*、*-C-*、および*-OOC-C-*、を挙げることができる。しかしながら、Lの構造は、特にこれに限定されるものではない。
【0034】
本発明の一実施形態によるブロックコポリマーは、具体的に、式7で表され得る。
【化7】
[式中、pおよびrは、それぞれ独立して、1~100の整数、5~100の整数、5~90の整数、10~80の整数、20~65の整数、または30~60であり得、およびqは、1~60の整数、1~45の整数、1~30の整数、5~45の整数、または5~30の整数であり得る。]
【0035】
一方、本発明の実施形態によるブロックコポリマーにおいて、親水性の第1のブロックは、ブロックコポリマーの総重量に基づいて、1~99重量%、1~80重量%、または20~60重量%の量で含まれ得る。具体的には、親水性の第1のブロックは、20~55重量%、25~60重量%、25~55重量%、25~50重量%、30~55重量%、30~50重量%、30~45重量%、35~50重量%、または35~45重量%の量で含まれ得るが、これに限定されるものではない。さらに、ブロックコポリマーの総重量に基づいて、疎水性の第2のブロックは、1~99重量%、10~90重量%、または40~80重量%の量で含まれ得、そして、具体的には、40~75重量%、45~80重量%、45~75重量%、45~70重量%、50~75重量%、50~70重量%、50~65重量%、55~70重量%、または55~65重量%の量で含まれ得る。他方、ブロックコポリマーの総重量に基づいて、チオールに特異的に結合可能な官能基は、0.01~10重量%、または0.01~5重量%の量で含まれ得、そして、具体的には、0.05~5重量%、0.1~5重量%、0.5~5重量%、または1~4重量%の量で含まれ得る。
【0036】
例えば、本発明の実施形態によるブロックコポリマーにおいて、ブロックコポリマーの総重量に基づいて、ポリ(エーテル)または親水性の第1のブロックとして式1で表されるユニットは、1~99重量%、1~80重量%、または20~60重量%の量で含まれ得、そして、具体的には、20~55重量%、25~60重量%、25~55重量%、25~50重量%、30~55重量%、30~50重量%、30~45重量%、35~50重量%、または35~45重量%の量で含まれ得る。一実施形態によるブロックコポリマーにおいて、ブロックコポリマーの総重量に基づいて、ポリ(アミノエステル)または疎水性の第2のブロックとして式2で表されるユニットは、1~99重量%、10~90重量%、または40~80重量%の量で含まれ得、具体的には、40~75重量%、45~80重量%、45~75重量%、45~70重量%、50~75重量%、50~70重量%、50~65重量%、55~70重量%、または55~65重量%の量で含まれ得る。さらに、本実施形態によるブロックコポリマーにおいて、ブロックコポリマーの総重量に基づいて、チオールに特異的に結合可能な官能基として、ジスルフィド基、マレイミド基、アルケニル基、またはアルキニル基は、0.01~10重量%、または0.01~5重量%の量で含まれ得、具体的には、0.05~5重量%、0.1~5重量%、0.5~5重量%、または1~4重量%の量で含まれ得る。
【0037】
さらに、本発明の実施形態によるブロックコポリマーに含まれる親水性の第1のブロックにおいて、親水性の第1のブロックの総重量に基づいて、ポリ(エーテル)または式1で表されるユニットは、10~100重量%の量で含まれ得、具体的には、30~100重量%、50~100重量%、60~100重量%、70~100重量%、80~100重量%、または90~100重量%の量で含まれ得る。
【0038】
他方、本発明の実施形態によるブロックコポリマーに含まれる疎水性の第2のブロックにおいて、疎水性の第2のブロックの総重量に基づいて、ポリ(アミノエステル)または式2で表されるユニットは、10~100重量%の量で含まれ得、具体的には、30~100重量%、50~100重量%、60~100重量%、70~100重量%、80~100重量%、または90~100重量%の量で含まれ得る。
【0039】
一方、本発明の実施形態によるブロックコポリマーにおいて、親水性の第1のブロックの総重量と、疎水性の第2のブロックの総重量との比は、(1:20)~(20:1)であり得、具体的には、(1:10)~(10:1)、(1:10)~(5:1)、(1:5)~(5:1)、(1:5)~(3:1)、(1:5)~(2:1)、または(1:5)~(1:1)であり得る。
【0040】
さらに、本発明の実施形態によるブロックコポリマーは、1つの親水性のブロックおよび1つの疎水性のブロックを含む2ブロック型のブロックコポリマーであり得るか、あるいは、2つ以上の親水性のブロックまたは疎水性のブロックを含む、3、4または5ブロック型のブロックコポリマーであり得る。例えば、ブロックコポリマーは、親水性の第1のブロック-疎水性の第2のブロックの構造、または、親水性の第1のブロック-疎水性の第2のブロック-親水性の第1のブロックの構造、または、疎水性の第2のブロック-親水性の第1のブロック-疎水性の第2のブロックの構造、を有し得る。
【0041】
他方、本発明の実施形態によるブロックコポリマーにおいて、チオールに特異的に結合可能な官能基は、直接またはリンカーを介して、ブロックコポリマーの主鎖、側鎖、または末端、あるいはそれらの組み合わせに結合し得る。具体的には、チオールに特異的に結合可能な官能基は、リンカーを介して、ブロックコポリマーの末端、例えば、親水性の第1のブロックとしてのポリ(エーテル)のエーテル基、または、疎水性の第2のブロックとしてのポリ(アミノエステル)のアミンまたはエステル基に結合し得る。
【0042】
本発明の実施形態によるブロックコポリマーは、総分子量が1,000~50,000Daであり得、具体的には、総分子量が、2,000~45,000Da、3,000~40,000Da、4,000~30,000Da、または5,000~20,000Daであり得る。
【0043】
本発明の別の態様において、上記のブロックコポリマーを含むナノ粒子が提供される。
【0044】
本発明の一実施形態において、ブロックコポリマーは、疎水性ブロックの自己集合によってミセル構造を有するナノ粒子を形成することができ、親水性ブロックと疎水性ブロックの両方を含むことで、疎水性ブロックが自己集合して被験体内または水中において核を形成するとともに、親水性ブロックが水と接触する表面を形成することができる。ミセルは、特定の濃度以上で集まった分子の集合体であり、両親媒性分子が均一なサイズと形状で集合する構造体を意味し得る。ナノ粒子またはミセルは、球、楕円体、円柱、リング、およびラメラなどのさまざまな形状を有し得る。
【0045】
さらに、本発明のさらに別の態様において、上記のナノ粒子および薬物を含む、薬物送達ビヒクルが提供される。ナノ粒子は、ブロックコポリマーで形成されたミセル構造を有することができ、疎水性ブロックの集合によって形成されたミセルの核内に疎水性の薬物を保有することができる。
【0046】
薬物送達ビヒクルは、平均粒径が、50~1,000nmであり得、より具体的には、平均粒径が、100~200nmであり得る。しかしながら、本発明はそれに限定されるものではない。一例として、ドキソルビシンが薬物送達ビヒクルに含まれる場合、薬物送達ビヒクルは、中性のpHで、20~400nmの平均粒径となり得、より具体的には、100~200nmの平均粒径となり得る。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。対応する範囲の平均粒径を有する薬物送達ビヒクルは、被験体に投与されて血流を通って流れる間、それらのナノ粒子構造またはミセル構造が破壊または分解することなく、細胞表面に容易に付着することができる。
【0047】
ここで、薬物は、上記のブロックコポリマーを含むナノ粒子の内部コアにおいて保有されるのに十分な親水性/疎水性の特性を有する限り、限定されるものではない。そのような薬物は、疎水性または弱親水性であり得、例えば、水への溶解性が、室温で20mg/mL以下であり得る。ここで、薬物は、これに限定されるものではないが、抗癌剤、抗増殖剤または化学療法剤、鎮痛剤、抗炎症剤、抗寄生虫剤、抗不整脈剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗凝固剤、抗うつ剤、抗糖尿病薬、抗てんかん薬、抗真菌薬、抗痛風薬、抗高血圧薬、抗マラリア薬、抗片頭痛薬、抗ムスカリン薬、抗腫瘍薬、抗勃起不全薬、免疫抑制薬、抗原虫薬、抗甲状腺薬、抗不安薬、鎮静剤、催眠薬、神経弛緩薬、β-ブロッカー、強心剤、コルチコステロイド、利尿薬、抗パーキンソン病薬、胃腸薬、ヒスタミン受容体拮抗剤、角質溶解剤、脂質モジュレーター、狭心症薬、Cox-2阻害剤、ロイコトリエン阻害剤、マクロライド、筋弛緩薬、栄養物、麻薬性鎮痛薬、プロテアーゼ阻害剤、性ホルモン、刺激剤、筋弛緩薬、抗浸透圧剤、抗肥満薬、向知性薬、尿失禁薬、良性前立腺薬、必須脂肪酸、非必須脂肪酸、およびそれらの組み合わせ、から選択され得る。
【0048】
一例として、薬物は、疎水性または弱親水性の抗癌剤であり得、ドキソルビシン、シスプラチン、エトポシド、パクリタキセル、ドセタキセル、カンプトテシン、ポドフィロトキシン、シクロホスファミド、アクチノマイシン、メトトレキサート、サリドマイド、エルロチニブ、ゲフィチニブ、カンプトテシン、タモキシフェン、アナストロゾール、フルタミド、ゾレドロネート、ビンクリスチン、レチノイン酸、クロラムブシル、ビンブラスチン、プレドニゾン、テストステロン、イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、フェニルブタゾン、デキサメタゾン、セレコキシブ、バルデコキシブ、ニメスリド、コルチコステロイド、またはそれらの組合せ、を挙げることができる。
【0049】
薬物送達ビヒクルは、天然に存在しない担体を含み得る。さらに、薬物送達ビヒクルは、生物活性物質をさらに含んでもよく、それにより、癌に関連する疾患の治療においてより高い効果を示し得る。そのような生物活性物質とは、疾患の治療、治癒、予防、診断などに用いられる物質を意味し、その例としては、細胞、タンパク質、成長因子およびホルモンなどのペプチド、核酸、細胞外マトリックス物質、および医学治療機能を有する薬物、を挙げることができる。
【0050】
薬物送達ビヒクルに保有される生物活性物質としての薬物としては、例えば、抗生物質、抗炎症剤、抗ウイルス剤、および抗菌剤を挙げることができる。抗生物質としては、例えば、テトラサイクリン、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、オフロキサシン、レボフロキサシン、シプロフロキサシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、セファクロル、セフォタキシム、イミペネム、ペニシリン、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、バンコマイシンなどの誘導体および混合物から選択される抗生物質を挙げることができる。抗炎症剤としては、例えば、インドメタシン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ピロキシカム、フルルビプロフェン、ジクロフェナクなどの誘導体および混合物から選択される抗炎症剤を挙げることができる。抗ウイルス剤としては、例えば、アシクロビル、ロバビン(robavin)などの誘導体および混合物から選択される抗ウイルス剤を挙げることができる。抗菌剤としては、例えば、ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、アムホテリシン-B、グリセオフルビンなどの誘導体および混合物から選択される抗菌剤を挙げることができる。
【0051】
さらに、薬物送達ビヒクルに保有されるかまたは結合して生体に送達され得るタンパク質またはペプチドとしては、例えば、様々な生物活性ペプチド、例えば、疾患の治療または予防の目的で使用される、ホルモン、サイトカイン、酵素、抗体、成長因子、転写調節因子、血液因子、ワクチン、構造タンパク質、リガンドタンパク質、多糖類および受容体、細胞表面抗原、および受容体アンタゴニスト、およびそれらの誘導体および類似体、を挙げることができる。具体的には、タンパク質またはペプチドとしては、例えば、骨成長因子、肝臓成長ホルモン、ホルモンおよびペプチドを放出する成長ホルモン、インターフェロンおよびインターフェロン受容体(例えば、インターフェロン-アルファ、-ベータ、および-ガンマ、可溶性I型インターフェロン受容体など)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、グルカコン様ペプチド(GLP-1など)、G-タンパク質結合受容体、インターロイキン(例えば、インターロイキン-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9など)およびインターロイキン受容体(例えば、IL-1受容体、IL-4受容体など)、酵素(例えば、グルコセレブロシダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、アルファ-ガラクトシダーゼ-A、アガルシダーゼ-アルファおよび-ベータ、アルファ-L-イズロニダーゼ、キチナーゼ、ブチリルコリンエステラーゼ、リパーゼ、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、イミグルセラーゼ、ウリカーゼ、血小板活性化因子、アセチルヒドロラーゼ、中性エンドペプチダーゼ、ミエロペルオキシダーゼなど)、インターロイキンおよびサイトカイン結合タンパク質(例えば、IL-18bp、TNF結合タンパク質など)、マクロファージ活性化剤、マクロファージペプチド、B細胞因子、T細胞因子、プロテインA、アレルギー阻害剤、腫瘍壊死因子(TNF)アルファ阻害剤、細胞壊死糖タンパク質、免疫毒素、リンホトキシン、腫瘍壊死因子、腫瘍抑制剤、転移成長因子、アルファ-1アンチトリプシン、アルブミン、アルファ-ラクトアルブミン、アポリポタンパク質-E、エリスロポエチン、高糖化エリスロポエチン、アンギオポエチン、ヘモグロビン、トロンビン、トロンビン受容体活性化ペプチド、トロンボモジュリン、血液因子、血液因子a、血液因子XIII、プラスミノーゲン活性化剤、フィブリン結合ペプチド、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ヒルジン、プロテインC、C反応性タンパク質、レニン阻害剤、コラゲナーゼ阻害剤、スーパーオキシドジスムターゼ、レプチン、血小板由来成長因子、上皮成長因子、表皮成長因子、アンギオスタチン、アンギオテンシン、骨形成成長因子、骨形成タンパク質、カルシトニン、インスリン、アトリオペプチン、軟骨誘導剤、エルカトニン、結合組織活性化剤、組織因子経路阻害剤、卵胞刺激ホルモン、ルテイン形成ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、神経成長因子(例えば、神経成長因子、毛様体神経栄養因子、軸索形成因子-1、脳性ナトリウム利尿ペプチド、グリア由来神経栄養因子、ネトリン、好中球阻害因子、神経栄養因子、およびニュールツリン)、副甲状腺ホルモン、レラキシン、セクレチン、ソマトメジン、インスリン様成長因子、副腎皮質ホルモン、グルカゴン、コレシストキニン、膵臓ポリペプチド、ガストリン放出ペプチド、コルチコトロピン放出因子、甲状腺刺激ホルモン、オートタキシン、ラクトフェリン、ミオスタチン、受容体(例えば、TNFR(P75)、TNFR(P55)、IL-1受容体、VEGF受容体、B細胞活性化因子受容体など)、受容体アンタゴニスト(例えば、IL1-Ra)、細胞表面抗原(例えば、CD 2、3、4、5、7、11a、11b、18、19、20、23、25、33、38、40、45、69)、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体フラグメント(例えば、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFd)、および、ウイルス由来ワクチン抗原、を挙げることができる。
【0052】
薬物送達ビヒクルに物理的に保有されるかまたは化学的に結合することができて生体に送達され得る核酸としては、例えば、DNA、RNA、PNA、およびオリゴヌクレオチドを挙げることができる。
【0053】
薬物送達ビヒクルにおいて生物活性物質と共に物理的に運ばれて生体に送達され得る細胞としては、例えば、幹細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞、神経細胞、軟骨細胞、骨細胞、皮膚細胞、およびシュワン細胞を挙げることができる。
【0054】
本発明の実施形態による薬物送達ビヒクルは、平均粒径が、25~400nm、または50~200nmであり得る。例えば、薬物送達ビヒクルが、薬物としてドキソルビシンを、式4または式5で表されるブロックコポリマーを含むナノ粒子で保有することによって形成された場合、ナノ粒子は、平均粒径が、100~200nmであり得、そして、ドキソルビシンの含有率は、ナノ粒子の総重量に基づいて、5~10重量%と高くなり得る。
【0055】
本発明の実施形態による薬物送達ビヒクルの作用は、例えば、図1を参照してより詳細に説明される。図1に示すように、抗癌剤を保有する一実施形態のブロックコポリマーを含む薬物送達ビヒクル(ミセルの形態)は、ブロックコポリマーに含まれるチオール基に特異的に結合可能な官能基(図示せず)を介して、免疫細胞であるナチュラルキラー細胞の表面に付着し、それにより、免疫細胞が増強され;増強された免疫細胞が癌細胞を認識して攻撃し始めると、周囲の環境が酸性になり、薬物送達ビヒクルが構造変化を受けて、ミセルに保有された抗癌剤が放出されて、癌細胞死を誘導し得る。
【0056】
このように、本発明の実施形態による薬物送達ビヒクルは、癌細胞の近くに毒性の高い抗癌剤を正確に送達することができ、それにより、抗癌作用が大きいが、その非特異的毒性によって引き起こされる副作用が大きいために制限がある化学抗癌剤を利用することを可能にし、また抗癌治療の効率と能力を最大化する効果を発揮することができる。さらに、本実施形態の薬物送達ビヒクルは、免疫細胞に付着して血流を流れる際に、周囲の中性環境により薬物放出が抑制され、それにより、その保有される抗癌剤によって引き起こされる全身的な毒性を避けることが可能になる。
【0057】
本発明のさらに別の態様において、上記のブロックコポリマーおよび薬物を含む薬物送達ビヒクルを、免疫細胞の表面に結合させることによって得られる、改変細胞、が提供される。改変細胞は、上記のように、天然に存在しない担体および/または生物活性物質をさらに含み得る。
【0058】
さらに、免疫細胞は、例えば、T細胞、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞(DC)、マクロファージ、ミクログリア細胞、およびそれらの組み合わせから選択され得る。さらに、免疫細胞は、その表面にチオール基が含まれていてよく、したがって、実施形態のブロックコポリマーに結合した場合に作用を増強することができ、そのような結合は、ブロックコポリマーに含まれるチオール基に特異的に結合可能な官能基を介して行われる。具体的には、T細胞およびナチュラルキラー細胞のように、免疫細胞は、免疫シナプスを形成し、溶解性顆粒を放出して細胞殺傷作用を発揮し得る。さらに、免疫細胞は、癌細胞を攻撃している間、免疫シナプスの近くで酸性化されるという特徴を有し得る。免疫細胞のこの特徴により、癌細胞の周囲の酸性環境に応答して、実施形態のブロックコポリマーの疎水性の第2のブロックが分解しまたはカチオン性になり、ブロックコポリマーに保有された薬物が放出される。
【0059】
本発明のさらに別の態様において、上記のブロックコポリマーおよび抗癌剤を含む、抗癌用の医薬組成物が提供される。さらに、本発明のさらに別の態様において、上記のブロックコポリマー、薬物、および免疫細胞を含む、抗癌用、または感染症の予防または治療用の医薬組成物が提供される。
【0060】
癌は、結腸癌、肺癌、非小細胞肺癌、骨肉腫、膵臓癌、皮膚癌、頭部癌、頸部癌、皮膚黒色腫、眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、胃癌、肛門周囲癌、乳癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰部癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部腫瘍、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性白血病、急性白血病、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓癌、尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌、および中枢神経系(CNS)腫瘍、から選択され得る。しかしながら、癌は、特にこれらに限定されるものではない。
【0061】
本発明の一実施形態において、医薬組成物は、特定の目的のために投与される組成物を意味する。本発明の目的のために、本発明の医薬組成物は、癌の疾患または障害または感染症を予防または治療する目的で使用することができ、それに関与するタンパク質および薬学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含み得る。さらに、本発明の医薬組成物は、上記のように、天然に存在しない担体および/または生物活性物質をさらに含み得る。
【0062】
薬学的に許容される担体または賦形剤は、政府の規制部門によって承認されたもの、または、脊椎動物、特にヒトに使用するために、政府承認の薬局方または他の一般的に認められた薬局方に記載されたものである。
【0063】
非経口投与に適するように、医薬組成物は、油性または水性の担体を有する、懸濁液、溶液、またはエマルジョンの形態に調製されてもよく、固体または半固体の形態に調製されてもよく、および、製剤化剤、例えば、懸濁剤、安定剤、可溶化剤、および/または分散剤、を含んでいてもよい。この形態は無菌であり得、そして液体であり得る。医薬組成物は、製造および保存条件下で安定であり得、細菌または真菌などの微生物の汚染作用に対抗して保存され得る。あるいは、医薬組成物は、使用前に適切な担体で再調製するための無菌粉末形態であり得る。医薬組成物は、単位剤形、マイクロニードルパッチ、アンプル、または他の単位用量容器または複数用量容器に入れられ得る。あるいは、医薬組成物は、無菌の液体担体、例えば、注射用の水を使用直前に添加するだけでよい、凍結乾燥(フリーズドライ)の状態で保存され得る。即時注射溶液および懸濁液は、無菌の粉末、顆粒、または錠剤を用いて製造することができる。
【0064】
いくつかの実施形態において、これに限定されるものではないが、本発明の医薬組成物は、液体に製剤化されるか、あるいは液体中にマイクロスフェアの形態で含まれ得る。特定の実施形態において、これに限定されるものではないが、本発明の医薬組成物は、0.001~100,000U/kgの濃度で、薬学的に許容される化合物および/または混合物を含む。さらに、特定の実施形態において、これに限定されるものではないが、本発明の医薬組成物に適した賦形剤には、保存剤、懸濁剤、安定剤、染料、緩衝液、抗菌剤、抗真菌剤、および等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウム、が含まれる。安定剤は、その保存寿命を延ばすために、本発明の医薬組成物において任意に使用される化合物を意味する。実施形態において、これに限定されるものではないが、安定剤は、糖、アミノ酸、化合物、またはポリマーであり得る。医薬組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体を含み得る。担体は、溶媒または分散媒であり得る。薬学的に許容される担体としては、これに限定されるものではないが、例えば、水、生理食塩水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール)、油、およびそれらの適切な混合物、が挙げられる。さらに、非経口製剤は滅菌され得る。滅菌技術としては、これに限定されるものではないが、例えば、細菌残留フィルターによる濾過、最終滅菌、滅菌製剤の組み込み、放射線滅菌、滅菌ガス照射、加熱、真空乾燥、および凍結乾燥が挙げられる。
【0065】
本発明の実施形態において、「投与」との用語は、本発明の組成物を適切な方法によって患者に導入することを意味する。本発明の組成物は、経路が本発明の組成物を目的の組織に到達させることを可能にする限り、任意の一般的な経路を通して投与することができる。本発明の組成物は、経口、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、鼻腔内、肺内、直腸内、腔内、または髄腔内に投与することができる。しかしながら、本発明による薬物送達ビヒクルを含む医薬組成物の場合、化学療法および免疫療法の両方が行われるように薬物送達ビヒクルを細胞に付着させることが求められるため、医薬組成物は、好ましくは、非経口的に投与され、注射剤の形態で投与され得る。
【0066】
本発明のさらに別の態様において、被験体に上記のブロックコポリマーおよび抗癌剤を投与することを含む、癌の疾患または障害を予防または治療するための方法、が提供される。予防または治療方法は、被験体に、上記のブロックコポリマーおよび薬物を含む医薬組成物を、薬学的に有効な量で同時に投与することによって実施することができる。あるいは、予防または治療方法は、被験体に、ブロックコポリマーおよび薬物を、時間間隔をおいて投与することによって実施することができる。
【0067】
本発明のさらに別の態様において、上記のブロックコポリマー、薬物、および免疫細胞を投与することを含む、癌の疾患または障害、または感染症を予防または治療するための方法が提供される。予防または治療方法は、被験体に、上記のブロックコポリマー、薬物、および免疫細胞を含む医薬組成物を、薬学的に有効な量で同時に投与することを含み得る。あるいは、予防または治療方法は、被験体に、ブロックコポリマー、薬物、および免疫細胞を、時間間隔をおいて投与することによって実施することができる。
【0068】
本発明において、有効量は、癌疾患の種類、疾患の重症度、組成物に含まれる有効成分および他の成分の種類および量、製剤の種類、および、患者の年齢、体重、普段の健康状態、性別および食事、投与時間、投与経路および組成物の分泌速度、治療期間、および同時に使用される薬物などの、様々な要因に応じて調整され得る。
【0069】
本発明において、「被験体」との用語は、ヒト、および、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ラクダ、アンテロープ、イヌなどを含む、哺乳動物を意味し得、ヒト以外の哺乳動物を意味してもよい。
【0070】
一方、本発明のさらに別の態様において、上記のブロックコポリマーの製造方法が提供される。
【0071】
ブロックコポリマーの製造方法は、次の工程:S1)親水性の第1のブロックを含む親水性ポリマーを、疎水性の第2のブロックを含む疎水性ポリマーと反応させる工程;および、S2)親水性ポリマーまたは疎水性ポリマーを、チオール基に特異的に結合可能な官能基を含む化合物と反応させる工程、を含み得る。製造方法のそれぞれの工程は、その順序について変更してもよい。
【0072】
工程S1は、親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーのうちの一方に第1の誘導官能基を導入する工程;および、第1の誘導官能基が導入された親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーの一方を、疎水性ポリマーおよび親水性ポリマーの他方と反応させる工程、を含むことによって実施することができる。
【0073】
さらに、工程S2は、親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーのうちの一方に第2の誘導官能基を導入する工程;および、親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーのうちの、第2の誘導官能基が導入された一方を、チオール基に特異的に結合可能な官能基を含む化合物と反応させる工程、を含むことによって実施することができる。ここで、第2の誘導官能基を導入する工程は、工程S1の前に実施してもよい。さらに、工程S2は、チオール基に特異的に結合可能な官能基を含む化合物に、第3の誘導官能基を導入する工程をさらに含んでいてもよい。
【0074】
具体的には、実施形態のブロックコポリマーの製造方法は、次の工程:S1-1)親水性の第1のブロックを含む親水性ポリマーに、第1の誘導官能基および第2の誘導官能基を導入する工程;S1-2)第1の誘導官能基および第2の誘導官能基を含む親水性ポリマーを、疎水性の第2のブロックを含む疎水性ポリマーと反応させる工程であって、反応を第1の誘導官能基を介して行う工程;S2-1)チオール基に特異的に結合可能な官能基を含む化合物に、第3の誘導官能基を導入する工程;および、S2-2)親水性ポリマー、疎水性ポリマーまたはそれらの組み合わせを、第3の誘導官能基が導入された、チオール基に特異的に結合可能な官能基を含む化合物と反応させる工程であって、反応を第3の誘導官能基を介して行う工程、を含み得る。製造方法のそれぞれの工程は、その順序について変更してもよい。例えば、工程S2-1は、工程S1-1の前に実施してもよい。
【0075】
親水性ポリマーとは、上記の親水性の第1のブロックを含み、親水性であるポリマーを意味する。親水性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、特に限定されるものではいが、500~5,000g/mol、具体的には、1,000~3,000g/mol、または1,500~2,500g/molであり得る。親水性ポリマーの数平均分子量が500g/mol未満であるかまたは5,000g/molを超える場合、特定のpH条件において、親水性/疎水性バランスによる自己集合によって親水性ポリマーがミセルを形成することが難しくなるかもしれず;または、ミセルが形成されたとしても、ミセルが、水に溶解することによって分解するか、あるいは沈殿するかもしれない。親水性ポリマーは、例えば、ポリエチレングリコール系ポリマーであり得る。
【0076】
疎水性ポリマーとは、上記の疎水性の第2のブロックを含み、疎水性であるポリマーを意味する。疎水性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、同様に特に限定されるものではないが、1,500~27,000g/mol、3,000~13,000g/mol、3,000~10,000g/mol、または4,500~8,500g/molであり得る。疎水性ポリマーは、例えば、ポリ(アミノエステル)、ポリ(アミドアミン)、またはポリ(アミノエステル)(アミドアミン)であり得る。これらのポリマーは、アミン基が存在するため、pH条件に応じて水への溶解度が変化する特性があるので、pH条件の変化によって、ミセル構造を形成したり、あるいは破壊したりすることができる。疎水性ポリマーは、当技術分野で一般に知られている方法に従って製造することができ、例えば、マイケル反応によって、ビスアクリレート化合物またはビスアクリルアミド化合物とアミン系化合物との重合を行うことによって得ることができる。
【0077】
チオール基に特異的に結合可能な官能基を含む化合物とは、チオール基に特異的に結合可能な上記の官能基を含む化合物を意味する。具体的には、チオール基に特異的に結合可能な官能基を含む化合物は、ジスルフィド、マレイミド、アルケン、アルキンなどであり得る。より具体的には、化合物は、マレイミドまたはマレイミドアルキンであり得るが、特にこれに限定されるものではない。
【0078】
第1の誘導官能基は、親水性ポリマーまたは疎水性ポリマーに導入して親水性ポリマーと疎水性ポリマーを互いに結合させるための官能基を意味し、この第1の誘導官能基は、親水性ポリマーまたは疎水性ポリマーに存在する官能基の種類に応じて、適宜、選択され得る。例えば、親水性ポリマーがヒドロキシル基を含み、疎水性ポリマーがアミン基を含む場合、第1の誘導官能基としてのアルケニル基、アルキニル基またはアクリレート基は、親水性ポリマーのヒドロキシル基位置に導入することができ、それにより、第1の誘導官能基は、疎水性ポリマーのアミン基と反応することができ、そのような第1の誘導官能基は、ラジカル重合による親水性ポリマーと疎水性ポリマーの結合/共重合を可能にする。さらに、溶媒、重合温度などの選択を考慮すると、アルケニル基、アルキニル基、またはアクリレート基などの第1の誘導官能基は、親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーのうちの親水性ポリマーに、容易に導入することができる。
【0079】
第2の誘導官能基は、親水性ポリマーまたは疎水性ポリマーに導入して、チオール基に特異的に結合可能な官能基を含む化合物に親水性ポリマーまたは疎水性ポリマーを結合させるための官能基を意味し、この第2の誘導官能基は、親水性ポリマーまたは疎水性ポリマーに存在する官能基の種類、およびチオール基に特異的に結合可能な官能基の種類に応じて、適宜、選択され得る。例えば、親水性ポリマーがヒドロキシル基を含む場合、第2の誘導官能基としてのアジド基は、親水性ポリマーのヒドロキシル基の位置に導入することができる。
【0080】
第3の誘導官能基は、チオール基に特異的に結合可能な官能基を含む化合物に導入して、チオール基に特異的に結合可能な官能基を含む化合物に親水性ポリマーまたは疎水性ポリマーを結合させるための官能基を意味し、この第3の誘導官能基は、親水性ポリマーまたは疎水性ポリマーに存在する官能基の種類、およびチオール基に特異的に結合可能な官能基の種類に応じて、適宜、選択され得る。例えば、親水性ポリマーまたは疎水性ポリマーにアジド基が存在する場合、第3の誘導官能基としてのアルケニル基、アルキニル基、アクリレート基、またはジスルフィド基は、チオール基に特異的に結合可能な官能基を含む化合物に導入することができる。これらの中で、アルケニル基およびアジド基は、クリックケミストリーにより実施される反応などの非常に簡単な反応条件により、簡単なプロセスで反応を容易に進行させることができるという利点がある。しかしながら、本発明は、特にそれに限定されるものではない。
【0081】
工程S1において、親水性ポリマーと疎水性ポリマーとの反応の重量比は、(1:20)~(20:1)であり得、具体的には、(1:10)~(10:1)、(1:10)~(5:1)、(1:5)~(5:1)、(1:5)~(3:1)、(1:5)~(2:1)、または(1:5)~(1:1)であり得る。反応重量比が上記範囲内にない場合、最終のブロックコポリマーの疎水性ブロックが少なすぎるとミセルの形成が妨げられる可能性があり、親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーが溶解状態で存在するかもしれず、あるいは、疎水性ブロックが多すぎるとミセルの形成が妨げられる可能性があり、親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーが沈殿するかもしれない。さらに、親水性ポリマーと疎水性ポリマーとの反応のモル比は、(1:5)~(5:1)であり得、具体的には、(1:4)~(4:1)、(1:3)~(3:1)、(1:2)~(3:1)、または(1:1)~(3:1)であり得る。反応モル比を調節することにより、ダブルブロックコポリマー、トリプルブロックコポリマーまたは高次ブロックコポリマーを含む、様々なブロック形態を形成することが可能である。
【0082】
製造方法に従って製造されるコポリマーの分子量の範囲は、特に限定されるものではいが、1,000~50,000g/mol、具体的には、2,000~45,000g/mol、3,000~40,000g/mol、4,000~30,000g/mol、または5,000~20,000g/molであり得る。分子量が1,000g/mol未満の場合、ブロックコポリマーが特定のpHでミセルを形成しにくくなるだけでなく、ミセルが形成されたとしてもミセルが水に溶解して容易に破壊される。さらに、分子量が50,000g/molを超える場合、親水性/疎水性バランスの崩れにより、ミセルが形成されないかもしれず、特定のpHで沈殿を生じるかもしれない。
【0083】
一方、本発明のさらに別の実施形態において、ブロックコポリマーを製造する工程;および、ブロックコポリマー、溶媒、および水溶液を混合して、ナノ粒子を形成する工程、を含む、上記のブロックコポリマーを含むナノ粒子の製造方法、が提供される。例えば、ナノ粒子形成工程は、まずブロックコポリマーと溶媒を混合し、次に、混合物を水溶液と混合させてミセルを形成することによって、実施することができる。
【0084】
溶媒としては、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、塩化メチレンなどを使用することができる。さらに、ミセル形成工程において、撹拌、加熱、超音波走査、乳化を用いた溶媒蒸発、マトリックス形成、または有機溶媒を用いた透析などの方法を、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0085】
本発明のさらに別の実施形態において、ブロックコポリマーを製造する工程;および、ブロックコポリマーと薬物を混合して薬物送達ビヒクルを形成する工程、を含む、上記のブロックコポリマーおよび薬物を含む薬物送達ビヒクルの製造方法、が提供される。例えば、薬物送達ビヒクル形成工程は、まずブロックコポリマー、薬物、および溶媒を混合して混合物を製造し、次に、水溶液を混合物に加えてミセルを形成することによって、実施することができる。溶媒およびミセル形成方法は上記の通りである。
【0086】
さらに、本発明のさらに別の実施形態において、上記のブロックコポリマーを製造する工程;および、ブロックコポリマー、薬物、および免疫細胞を混合して、改変細胞を形成する工程、を含む、上記の薬物送達ビヒクルおよび免疫細胞を含む改変細胞の製造方法が提供される。例えば、改変細胞形成工程は、ブロックコポリマーおよび薬物を含むナノ粒子を形成し、次に、ナノ粒子を免疫細胞と混合することによって、実施することができる。改変細胞は、免疫細胞の表面に存在するチオール基と、ナノ粒子の表面に露出したチオールに特異的に結合する官能基との結合によって形成され得る。溶媒およびナノ粒子形成方法は上記の通りである。
【実施例
【0087】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提供する。しかしながら、以下の実施例は単に本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲および意図の範囲内で様々な変更および修正を行うことができることは当業者に明らかであり;また、そのような変更および修正が添付の特許請求の範囲に属することも明らかである。
【0088】
実施例1.ブロックコポリマーおよび薬物送達ビヒクルの合成、ならびにそれらの特性評価
実施例1.1.ブロックコポリマーにおける親水性の第1のブロックを含む親水性ポリマーの合成
親水性の第1のブロック、疎水性の第2のブロック、およびチオールに特異的に結合可能な官能基を含むブロックコポリマーを合成するために、親水性のブロックを含む親水性ポリマーとして機能する、アクリレート-PEG-Nを、図2に示すのと同じ方法により、まず合成した。まず、分子量2,000DaのPEG(10.000g;5.0mmol)を160mLの冷却したCHClに溶解し、次いで、20mLのCHClに溶解された、AgO(1.738g;7.5mmol)、KI(0.332g;2.0mmol)、およびTsCl(1g;5.25mmol)を加え、激しく撹拌した。この反応を窒素雰囲気下で2時間進行させ、反応生成物をシリカゲルで濾別した。反応生成物から溶媒を除去し、次に再結晶化して、純粋なトシレート-PEG-OH(化合物1)を得た。この反応の収率は81%と定められた。続いて、NaN(0.605g;9.3mmol)を、40mLのDMF溶媒下でトシレート-PEG-OH(化合物1)(4.00g;1.86mmol)に加え、65℃で18時間撹拌した。温度を室温まで下げ、次いで、DMFを真空で除去した。得られたものをCHClに溶解し、シリカゲルに通して、HO-PEG-N(化合物2)を得た。この反応の収率は76%と定められた。
最後に、こうして得られたHO-PEG-N(化合物2)(2.0g、0.980mmol)を、TEA(0.397mL;3.980mmol)を含む15mLの冷却したCHClに溶解した。この混合物に、15mLのCHClに溶解した塩化アクリロイル(0.266mL;2.940mmol)の溶液を、窒素雰囲気下でゆっくりと滴下して加えた。添加がすべて完了した後、反応生成物を窒素雰囲気下で24時間撹拌し、反応生成物をゆっくり室温に冷却した。溶媒を真空で除去し、次に、残った反応生成物を再びTHF溶媒に溶解してEtN・HCl塩を除去した。その後、得られたものをジエチルエーテルで沈殿させて、最終生成物であるアクリレート-PEG-N(化合物3)を得た。この反応の収率は75%と定められた。
図3に、化合物1~3のH NMR(CDCl)の結果を示す。
【0089】
実施例1.2.ブロックコポリマーにおける疎水性の第2のブロックを含む疎水性ポリマーの合成
ブロックコポリマーを続いて合成するために、疎水性の第2のブロックを含む疎水性ポリマーとして機能する、分子量10,000DaのMal-PEG-PBAE-PEG-Malを、図4に示すのと同じ方法により合成した。
まず、4,4’-トリメチレンジピペリジン(TMDP)(M1、0.542g;2.578mmol)およびヘキサン-1,6-ジイルジアクリレート(HDDA)(M2、0.500g;2.210mmol)を、10mLの無水CHClに溶解した。次いで、40℃で2日間重合を行い、これにより、ポリ(β-アミノエステル)(PBAE)(化合物4)を合成した。図5に、化合物4のH NMR(CDCl)の結果を示す。
【0090】
実施例1.3.ブロックコポリマーの合成
次に、実施例1.1で合成したアクリレート-PEG-N(化合物3)(0.794g;0.382mmol)を、2mLの無水CHClに溶解し、反応物に加えた。反応を40℃で2日間進行させた。その結果、N-PEG-PBAE-PEG-N(化合物5)を合成し、ジエチルエーテルによる沈殿により精製した。この反応の収率は93%と定められた。
最後に、アルキン-マレイミド(0.032g;0.230mmol)を、銅を介したクリックケミストリーによって、N-PEG-PBAE-PEG-N(化合物5)(0.500g、0.045mmol)に結合させた。両方の反応物を、1-(プロパ-2-イニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン(0.008g、0.045mmol)を含む10mLのDMFに溶解し、反応を窒素注入の環境下で30分間進行させた。続いて、CuBr(0.007g;0.045mmol)を窒素雰囲気下で添加し、クリックケミストリーを45℃で24時間進行させた。その後、得られたものをシリカゲルに通して銅触媒を除去し、ジエチルエーテルで沈殿させて、Mal-PEG-PBAE-PEG-Malコポリマー(化合物6)を得た。
図5に、化合物5および6のH NMR(CDCl)の結果を示す。
【0091】
実施例1.4.薬物送達ビヒクルの形成
ブロックコポリマーと薬物を含む薬物送達ビヒクル(ReMi)を形成するために、実施例1.3で合成したMal-PEG-PBAE-PEG-Malコポリマー(化合物6)100mgを4mLのDMSOに溶解し、これに、抗癌剤であるドキソルビシン(DOX)を50μg/mLの濃度で加えた。続いて、混合物を激しく撹拌しながら20mLの蒸留水を滴下して加え、さらに30分間撹拌した。この溶液を、3,500Daのサイズの透析膜によって蒸留水に対して透析した。このようにして得られたReMiを、凍結乾燥し、保存した。
【0092】
実施例1.5.酸性度の増加とともに蛍光が増加するインジケータービーズの合成
アミン修飾ポリスチレンビーズ(200nm、5.68×1011個の粒子)およびスクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)(1.16mg;3.7248μmol)を5mLのDMSOに溶解し、振とうしながら、室温で30分間、反応を進行させた。次いで、10mMのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)(1.43mg;5μmol)を加え、室温で30分間撹拌した。次に、pHrodo-マレイミド蛍光体(0.6mg、0.65μmol)を加え、暗条件下、室温で1時間撹拌した。次に、NHS-PEG-マレイミド(5000Da;31.04mg;6.208μmol)を加えて残ったアミン残留物を除去し、暗条件下、室温で24時間反応を進行させた。このように合成したビーズを4000rpmで2分間遠心分離し、その後、上澄みを除去してインジケータービーズを得た。
【0093】

実施例1.6.薬物送達ビヒクルの特性分析
実施例1.4で形成した薬物送達ビヒクル(ReMi)がpH変化に応じて刺激応答性を有するかどうかを確認するために、平均水和サイズ分布を、pH11、pH7.5、およびpH5.5の条件下、およびpH7.5で3日間放置した条件下で、動的光散乱(DLS)を用いて計測した。図6に結果を示す。
図6に示すように、ReMiは酸性条件下でのみ分解され、水和サイズが減少することが確認され、ReMiは、3日間放置した後もその水和サイズが維持されていることから、通常の条件下で安定であることが確認された。この結果はまた、図7で示す透過型電子顕微鏡画像によっても確認された。
【0094】
実施例1.7.薬物送達ビヒクルにおける薬物放出制御の特性分析
実施例1.4で形成した薬物送達ビヒクル(ReMi)がpH変化に応じて薬物放出挙動の変化を示すかどうかを確認するために、ドキソルビシン(DOX)の特徴的な蛍光波長(ex=495nm;ex=595nm)での蛍光を測定することにより、pHによるReMiの薬物放出挙動を調べた。ReMiは、pH7.5およびpH5.5にそれぞれ設定された水溶液条件に入れられ、透析によって放出されたDOXの蛍光強度を、蛍光光度計によって測定した。図8に結果を示す。
図8から、酸性環境下で48時間以内に薬物の70%がReMiから放出され、中性条件下では同じ時間で外部に放出された薬物は約20%だけであったことが確認された。
【0095】
実施例1.8.薬物送達ビヒクルの細胞付着の特性分析
実施例1.4で形成した薬物送達ビヒクル(ReMi)が免疫細胞に良好に付着できるかどうかを確認するために、ReMiをナチュラルキラー細胞(NK細胞)とインキュベートし、30分後に細胞を収集し、顕微鏡サンプルを調製した。このようにして調製した顕微鏡サンプルを蛍光顕微鏡で観察した。図9に結果を示す。
図9に示すように、ReMiが免疫細胞の表面に良好に付着していることが確認された。
【0096】
実施例2.薬物送達ビヒクルが、使用された場合に、癌細胞を認識して攻撃するか否かの確認
実施例1.4で形成した薬物送達ビヒクル(ReMi)をナチュラルキラー細胞の表面に付着させ、次いで、蛍光顕微鏡画像を4時間連続して撮影した。図10および図11に、その画像を示す。ここで、ナチュラルキラー細胞の表面は、実施例1.5によって調製した、酸性度の増加とともに蛍光強度が増加するインジケータービーズで修飾したものであった。
図10に示すように、ナチュラルキラー細胞が癌細胞を攻撃した場合、ナチュラルキラー細胞の周囲環境の酸性度が徐々に増加することが確認された。
図11に示すように、抗癌剤を保有するReMiを蛍光顕微鏡で4時間連続して観察したところ、その結果、蛍光強度の増加により、ナチュラルキラー細胞が癌細胞を認識して攻撃を始めると、ReMiから抗癌剤ドキソルビシンが放出されることが確認された。
すなわち、免疫細胞が癌細胞を認識して攻撃した場合、免疫細胞周辺の酸性度が増加し、薬物送達ビヒクルから薬物が放出されることが確認された。
【0097】
実施例3.薬物送達ビヒクルの安定性の評価
薬物送達ビヒクルの安定性は、細胞毒性アッセイによって確認した。8,000個のA549-LUC細胞または24,000個のNK-92MI細胞を、96ウェル細胞培養プレートに分注し、1日間インキュベートした。続いて、0.3μMのドキソルビシンを保有する20μLのReMiを各ウェルに加え、12時間インキュベートした。次に、細胞死をMTS細胞毒性アッセイによって調べた。図12にその結果を示す。
図12に示すように、ReMi自体は、癌細胞およびナチュラルキラー細胞にダメージを与えないことが確認された。
【0098】
実施例4.薬物送達ビヒクルによって増強された免疫細胞の抗癌作用の確認
薬物送達ビヒクルによって増強された免疫細胞の抗癌作用は、細胞毒性アッセイによって確認した。8,000個のA549-LUC細胞を96ウェル細胞培養プレートに分注し、1日間インキュベートした。次いで、A549-LUC細胞を1ウェルあたり1×10細胞の密度で分注し、各サンプルを、表1に示す条件に従って各ウェルに加えた。インキュベーションを12時間行った。次に、細胞死をMTS細胞毒性アッセイによって調べた。図13にその結果を示す。ここで、図13に示した結果は、ドキソルビシンとナチュラルキラー細胞(DOX+NK)を共投与した場合に発揮される抗癌能力を100%として設定し、また、PBSによる処理のみがなされた場合に得られる抗癌能力を0%として設定して得た、グラフ表示である。使用したReMiは、実施例1.4で製造した0.3μMのドキソルビシンを保有するものであり、ReNKは、ReMiが付着したナチュラルキラー細胞を意味する。
【0099】
【表1】
【0100】
図13に示すように、ナチュラルキラー細胞の溶解性顆粒の形成を阻害するシリオブレビンD(CD)を投与した場合(NK+CDまたはReNK+CD)、ナチュラルキラー細胞の抗癌能力は全体的に低下した。このことは、薬物送達が溶解性顆粒によって行われる系の必要性をよく説明している。一方、ReNKは70%に相当する抗癌能力を示し、抗癌免疫療法と抗癌化学療法の同時送達が有効であることが確認された。また、ナチュラルキラー細胞に付着した状態で薬物を保有する薬物送達ビヒクルを投与した場合、免疫療法と化学療法の薬物送達システムを同時に実施することが可能であり、それにより、抗癌作用が増加することが確認された。
【0101】
実施例5.動物モデルによる薬物送達ビヒクルの抗癌作用の確認
雌のBalb/c-nu/nuマウスに、A549-LUC細胞を1×10細胞/マウスで静脈内接種した。1日後、表2に示す条件下で、それぞれの実験群に対して異なるサンプルを静脈内注射した。さらに1日後、心臓血液をマウスから採取し、血漿中のIFN-γレベルをELISAにより測定した。図14に結果を示す。ここで、ReNKとは、ReMiが付着したナチュラルキラー細胞を意味し、使用したReMiは、実施例1.4で製造した0.3μMのドキソルビシンを保有するものであった。さらに、IFN-γは免疫サイトカインであり、IFN-γが高いほど抗癌細胞毒性が高いことを意味する。
【0102】
【表2】
【0103】
図14に示すように、癌細胞を投与したマウスにReNKを投与した場合、IFN-γレベルが有意に増加することが確認され、これは、ナチュラルキラー細胞の細胞毒性が活発に発現していることを意味する。さらに、このインビボ実験において、ReNKは、実施例4のインビトロ実験とは異なり、NK+DOXよりも著しく優れた結果を示し、このような結果は、薬物送達ビヒクルがナチュラルキラー細胞に付着し、ナチュラルキラー細胞が癌細胞を標的にして、薬物が放出される、という事実によるものと理解される。したがって、ReMiがナチュラルキラー細胞に付着することで、ナチュラルキラー細胞が増強され、それにより、抗癌作用の著しい増加を示すことが確認された。
【0104】
実施例6.動物モデルによる薬物送達ビヒクルの転移性腫瘍形成阻害効果の確認
雌のBalb/c-nu/nuマウスにA549-LUC細胞を1×10細胞/マウスで静脈内接種した。1日後、表2に示す条件下で、それぞれの実験群に異なるサンプルを静脈内注射し、投与後3週間、マウスを癌増殖のために飼育した。続いて、一部のマウスにルシフェラーゼを腹腔内注射し、安楽死させた。そこから肺を採取し、図15に示すように、A549-LUCの発光をインビボ画像化システムによって測定した。発光を定量化して、図16にその結果を示す。その他の一部のマウスに麻酔をかけ、麻酔下で陽電子放出断層撮影(PET)画像を得た。図17に結果を示す。続いて、マウスを安楽死させた。そこから肺を採取し、エクスビボ陽電子放出断層撮影(PET)画像を得た。図18に結果を示す。図17および図18の画像を定量化して、図19にその結果を示す。
図15および図16に示すように、ReNKを投与した実験群は、他の実験群よりも癌のサイズが著しく縮小することが確認され、これにより、優れた転移性腫瘍形成阻害効果を示すことが確認された。
さらに、図17~19で示すように、ReNKを投与した実験群は、他の実験群よりも癌細胞の発光が低いことも確認され、これにより、免疫細胞がインビボとエクスビボの両方で増強して、転移性腫瘍形成を阻害することが確認された。
【0105】
実施例1~6の結果から、本発明の薬物送達ビヒクルは、ミセル構造で、ナチュラルキラー細胞の表面に付着し、ナチュラルキラー細胞を優れた癌細胞殺傷能力を有する強力な免疫細胞に変化させることが確認され、そのような強力な免疫細胞が優れた抗癌作用を示すことが分かった。
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