(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】水素誘起割れ抵抗性に優れた圧力容器用鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230418BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20230418BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/50
C21D8/02 C
(21)【出願番号】P 2021530829
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(86)【国際出願番号】 KR2019014805
(87)【国際公開番号】W WO2020111547
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-26
(31)【優先権主張番号】10-2018-0153077
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,デ‐ウ
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/117545(WO,A1)
【文献】特開2005-290554(JP,A)
【文献】特開2017-057449(JP,A)
【文献】特開2017-110249(JP,A)
【文献】特開平08-283839(JP,A)
【文献】特開2009-221539(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111416(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00- 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.2~0.3%、シリコン(Si):0.05~0.50%、マンガン(Mn):0.03%以下、アルミニウム(Al):0.005~0.1%、リン(P):0.010%以下、硫黄(S):0.0015%以下、ニオブ(Nb):0.001~0.03%、バナジウム(V):0.001~0.03%、チタン(Ti):0.001~0.03%、クロム(Cr):0.01~0.20%、モリブデン(Mo):0.01~0.15%、銅(Cu):0.01~0.50%、ニッケル(Ni):0.05~0.50%、カルシウム(Ca):0.0005~0.0040%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、
面積分率でフェライト:70%以上、残部はパーライトである微細組織を有し、
前記フェライトの平均結晶粒度が5~15μmであり、
中心部のMn最大濃度が0.05重量%以下であることを特徴とする水素誘起割れ抵抗性に優れた圧力容器用鋼材。
【請求項2】
前記鋼材は、厚さが6~50mmであることを特徴とする請求項1に記載の水素誘起割れ抵抗性に優れた圧力容器用鋼材。
【請求項3】
請求項1に記載された水素誘起割れ抵抗性に優れた圧力容器用鋼材の製造方法であって、
重量%で、炭素(C):0.2~0.3%、シリコン(Si):0.05~0.50%、マンガン(Mn):0.03%以下、アルミニウム(Al):0.005~0.1%、リン(P):0.010%以下、硫黄(S):0.0015%以下、ニオブ(Nb):0.001~0.03%、バナジウム(V):0.001~0.03%、チタン(Ti):0.001~0.03%、クロム(Cr):0.01~0.20%、モリブデン(Mo):0.01~0.15%、銅(Cu):0.01~0.50%、ニッケル(Ni):0.05~0.50%、カルシウム(Ca):0.0005~0.0040%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを1000~1100℃で再加熱する段階、
前記再加熱されたスラブを未再結晶領域の温度である800~900℃でパス当たりの平均圧下率15%以上で熱間圧延して熱延鋼材を得る段階、及び
前記熱延鋼材を常温まで空冷した後、800~900℃まで加熱してから15~60分間維持して焼きならし熱処理する段階を含むことを特徴とする水素誘起割れ抵抗性に優れた圧力容器用鋼材の製造方法。
【請求項4】
前記熱間圧延後の熱延鋼材のオーステナイト平均結晶粒度は25μm以下であることを特徴とする請求項
3に記載の水素誘起割れ抵抗性に優れた圧力容器用鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素誘起割れ抵抗性に優れた圧力容器用鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、石油化学の製造設備、貯蔵タンクなどに用いられる圧力容器用鋼材は、使用時間の増大。設備の大型化及び鋼材の厚物化に伴い、大型構造物を製造するようになり、母材と共に溶接部の構造的安定性を確保するために、炭素当量(Ceq)を下げ、不純物を極限まで制御する傾向にある。また、H2Sが多量に含有された原油の生産が増大するにつれ、耐水素誘起割れ(HIC)に対する品質特性がさらに厳しくなっている。
特に、低品質の原油を採掘、処理、輸送、貯蔵するすべてのプラント設備に用いられる鋼材にも原油中の湿潤硫化水素によるクラックの発生を抑制する特性が必須に求められているのが実情である。最近、プラント設備の事故による環境汚染が全地球的な問題となっており、これを復旧するためには、天文学的な費用がかかるため、エネルギー産業に用いられる鉄鋼材の耐HICに対する要求特性のレベルが次第に厳しくなる傾向にある。
【0003】
一方、水素誘起割れ(HIC)は、次のような機作で発生する。鋼板が原油に含まれた湿潤硫化水素と接触することによって腐食が起こり、上記腐食により発生した水素は、鋼内部に侵入し、拡散して鋼内部に原子状態で存在する。この水素原子が鋼内部に水素ガスの形態に分子化してガス圧力が発生し、その圧力によって鋼内部の脆弱な組織、例えば、介在物、偏析帯、内部空隙などで脆性割れが発生し、クラックが徐々に成長して材料が耐えられる強度を超えた場合、破壊が起きる。
それ故に、硫化水素雰囲気で用いられる鋼材の水素誘起割れ抵抗性を向上させる方案が提案されており、その例として、第1に、銅(Cu)などの元素を添加する方法、第2に、加工工程を変えてNACT、QT、DQTなどの水処理を介して基地組織を焼戻しマルテンサイト(Tempered Martensite)、焼戻しベイナイト(Tempered Bainite)などの硬質組織を形成し、クラック開始(initiation)に対する抵抗性を増大させる方法、第3に、水素の集積及びクラック開始点として作用することができる鋼内部の介在物及び空隙などの内部欠陥を制御する方法、第4に、クラックが容易に発生及び伝播する硬化組織(例えば、パーライト相など)を最小限に抑えるか、その形状を制御する方法などがある。
【0004】
上記のCuを一定量添加する方法は、弱酸性の雰囲気で材料表面に安定したCuS皮膜を形成することにより、水素が材料内部に浸透することを低減させる効果があるため、水素誘起割れ抵抗性を向上させる。このようなCu添加による効果は、強酸性雰囲気では大きな効果がないことが知られており、また、Cuの添加により、高温割れを起こして鋼板表面にクラックを発生させるため表面研磨などの工程コストを増加させる問題がある。
第2の方法は、NACT(Normalizing and Accelerated Cooling and Tempering)、QT(Quenching and Tempering)、DQT(Direct Quenching and Tempering)、TMCP(Thermo-Mechanical Controlled Processing)などの水処理を介して基地相がフェライト(Ferrite)+パーライト(Pearlite)ではない焼戻しマルテンサイト(Tempered Martensite)、焼戻しベイナイト(Tempered Bainite)或いはこれらの複合組織を形成して基地相の強度を増大させるものである。基地相の強度が増大した場合、クラック開始(Crack Initiation)に対する抵抗性が増大するため、発生頻度を比較的減少させることができる。
【0005】
これに関する特許文献1では、質量%で、C:0.01~0.1%、Si:0.01~0.5%、Mn:0.8~2%、P:0.025%以下、S:0.002%以下、Ca:0.0005~0.005%、Ti:0.005~0.05%、Nb:0.005~0.1%、sol.Al:0.005~0.05%、N:0.01%、V:0.2%、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:3%以下、Mo:1.5%以下、B:0.002%以下で構成されたスラブを加熱及び700℃~850℃で仕上げ圧延した後、Ar3~30℃以下の温度で加速冷却を開始し、350~550℃で仕上げする過程を介して耐HIC特性を向上させることができることを開示している
【0006】
また、特許文献2においても、DQT(Direct Quenching and Tempering)工程を介して焼戻しマルテンサイト(Tempered Martensite)組織を確保することで、耐HIC特性を向上させることができることを開示している。しかし、基地相が低温相(マルテンサイト、ベイナイト、アシキュラーフェライトなど)などで構成された場合、耐HIC特性は増大するが、熱間成形(Hot-forming)が不可能になり、圧力容器への成形時に困難があり、表面硬度値が高くて製品の均一延伸率の値が低下し、加工過程で表面クラックの発生率が高くなる問題が生じる。また、Quenching時の冷却能が十分でない場合、低温変態組織を確保し難く、却って、HIC Crackの開始点として作用するMA(Martensite-Austenite constituent)相の生成により、HIC抵抗性が低下する虞がある。
【0007】
第3の方法は、スラブ内の介在物や空隙を最小限に抑えて清浄度を高めることで、HIC特性を増大させる方法であって、代表的な技術としては特許文献3がある。特許文献3では、溶鋼中にCaを添加するとき、0.1≦(T.[Ca]-(17/18)×T[O]-1.25×S)/T[O]≦0.5を満たすように制御した場合、耐HIC特性に優れた鋼材を製造することができると開示している。上記方法は、薄物材のように累積圧下量が多い場合、酸化性介在物の破砕を防止することによってHIC抵抗性の改善に役立つ。しかし、Mn中心偏析やMnS介在物などの偏析性欠陥が過多の場合、大きな助けにはならない。また、厚さが厚くなるほど、酸化性介在物による欠陥よりは、中心空極性の欠陥によってHIC欠陥が発生し、圧延としては中心部に存在する残留空隙を十分に機械的圧着(Full Mechanical Bonding)することができないため限界がある。
【0008】
第4の方法は、硬化組織を最小化するか、形状を制御する方法であって、主にNormalizing熱処理後に基地相に発生するバンド組織のB.I(Band Index)値を下げてクラック伝播速度を遅延させる方法である。これに関する特許文献4では、重量%で、C:0.1~0.30%、Si:0.15~0.40%、Mn:0.6~1.2%、P:0.035%以下、S:0.020%以下、Al:0.001~0.05%、Cr:0.35%以下、Ni:0.5%以下、Cu:0.5%以下、Mo:0.2%以下、V:0.05%以下、Nb:0.05%以下、Ca:0.0005~0.005%、Ti:0.005~0.025%、N:0.0020~0.0060%を含むスラブを加熱及び熱間圧延した後、室温で空冷し、Ac1~Ac3変態点で加熱した後、徐冷する工程を介してBanding Index(ASTM E-1268に基づいて測定)が0.25以下であるフェライト+パーライト微細組織を得ることができ、このような工程により引張強度が500MPa級の耐HIC特性に優れた(NACE基準平均CLR:0)鋼を製作することができることを開示している。
【0009】
しかし、Banding indexは、C及びMnの含有量が高いほどまたは厚板圧下量が高いほど増大するため、提示されたC及びMnの条件範囲内では、厚さが50mm以下の薄物材を製造することには限界がある。また、連鋳工程で軽圧下及び2次冷却条件が適切でない場合、中心部のMn偏析度はさらに増大して鋼板の表層部及び1/4t部はBanding indexが低くても、中心部に行くほど局部的にBanding index値が高い部分が存在することがあるため、全厚さ区間において優れたHIC抵抗性を確保することが難しい。
したがって、上記の従来の方法は、厚さ6~50mm、引張強度450~585MPa級の耐水素誘起割れ特性を有する圧力容器用鋼を製作するには限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】日本公開特許第2003-013175号公報
【文献】韓国登録特許第0833071号公報
【文献】日本公開特許第2014-005534号公報
【文献】韓国公開特許第2010-0076727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的とするところは、硫化水素雰囲気で水素誘起割れ(HIC)に対する抵抗性に優れた圧力容器用鋼材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の水素誘起割れ抵抗性に優れた圧力容器用鋼材は、重量%で、炭素(C):0.2~0.3%、シリコン(Si):0.05~0.50%、マンガン(Mn):0.03%以下、アルミニウム(Al):0.005~0.1%、リン(P):0.010%以下、硫黄(S):0.0015%以下、ニオブ(Nb):0.001~0.03%、バナジウム(V):0.001~0.03%、チタン(Ti):0.001~0.03%、クロム(Cr):0.01~0.20%、モリブデン(Mo):0.01~0.15%、銅(Cu):0.01~0.50%、ニッケル(Ni):0.05~0.50%、カルシウム(Ca):0.0005~0.0040%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、フェライトの平均結晶粒度が5~15μmであることを特徴とする。
【0013】
本発明の水素誘起割れ抵抗性に優れた圧力容器用鋼材の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.2~0.3%、シリコン(Si):0.05~0.50%、マンガン(Mn):0.03%以下、アルミニウム(Al):0.005~0.1%、リン(P):0.010%以下、硫黄(S):0.0015%以下、ニオブ(Nb):0.001~0.03%、バナジウム(V):0.001~0.03%、チタン(Ti):0.001~0.03%、クロム(Cr):0.01~0.20%、モリブデン(Mo):0.01~0.15%、銅(Cu):0.01~0.50%、ニッケル(Ni):0.05~0.50%、カルシウム(Ca):0.0005~0.0040%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを1000~1100℃で再加熱する段階、上記再加熱されたスラブを未再結晶領域の温度である800~900℃でパス当たりの平均圧下率15%以上で熱間圧延して熱延鋼材を得る段階、及び上記熱延鋼材を常温まで空冷した後、800~900℃まで加熱してから15~60分間維持して焼きならし熱処理する段階を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、本発明の水素誘起割れ抵抗性に優れた圧力容器用鋼材及びその製造方法は、硫化水素雰囲気で水素誘起割れ(HIC)に対する抵抗性に優れた圧力容器用鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る発明例1の1/4t(t:製品厚さ)における微細組織を光学顕微鏡で観察した写真である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る比較例2の1/4t(t:製品厚さ)における微細組織を光学顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、合金組成、微細組織、中心部のMn濃化程度、フェライトの結晶粒度などを制御して鋼材の強度及び水素誘起割れに対する抵抗性をより向上させることを特徴とする。
本発明の主要概念は、次のように合金設計部分、工程制御部分の2部分に分けられる。
【0017】
1)本発明では、製品の中心部にMn偏析及びバンド構造のパーライトの生成を抑制するために、Mnを意図的に投入せず、不純物としてもその含有量を0.03重量%以下に制御する。本発明と類似した強度を有する焼きならし(Normalizing)材の場合、通常のMn含有量が1.0~1.4重量%であり、Mn添加を排除した場合、フェライト基地内のMnの固溶強化の効果がすべて消滅されるため、急激な強度低下が発生する。本発明では、かかる強度低下を補うためにC含有量を高める。本発明と類似強度を有する焼きならし材の場合、上記Cは、通常0.13~0.18重量%を有するが、本発明では、上記C含有量を0.2~0.25重量%のレベルに増大させることで、パーライト分率を高めて強度を向上させた。Cは、高温でのDelta/Liquid、或いはGamma/Liquid相間の拡散係数がMnより低いが、オーステナイト単相における拡散係数はMnよりも非常に高いため、偏析が発生したとしても、焼きならし熱処理時に全て拡散させることができるため、最終製品では中心部の偏析が発生しないように制御することができる。
【0018】
2)相変態後のフェライトの結晶粒を微細化させる場合、鋼板の強度及び靭性を全て向上させるだけでなく、水素誘起割れが発生した後、割れの平均伝播長さを増大させることで、割れの伝播速度を減少させることができ、水素誘起割れ伝播抵抗性も向上させることができる。フェライトの結晶粒大きさを微細化するためには、相変態前のオーステナイト粒度を微細化する必要があるが、高温では圧延後の結晶粒成長(Grain growth)が発生し、未再結晶領域の低い温度では、オーステナイトの変形抵抗値が増大するため、圧延時に付加することができる最大荷重に制限がかかる。したがって、フェライトの核生成サイトを効果的に増大させることができないため、フェライトの平均結晶粒度を15μm以下に制御することが容易でない。本発明では、Mn含有量を極低く制限することで変形抵抗値を比較的減少させることができ、800℃基準のパス当たりの平均圧下率を従来の8%水準から15%以上に高めることで、未再結晶域の温度でフェライト核生成サイトを可能な限り多く生成することができる。
【0019】
以下では、本発明の一実施形態に係る水素誘起割れ抵抗性に優れた圧力容器用鋼材について詳細に説明する。まず、本発明の合金組成について説明する。下記で説明される合金組成の単位は、特に断りのない限り、重量%を意味する。
【0020】
炭素(C):0.2~0.3%
Cは、基本的な強度を確保するために最も重要な元素であるため、適切な範囲内で鋼中に含有される必要がある。上記の添加効果を得るためには、Cは0.2%以上添加することが好ましい。しかし、C含有量が0.3%を超えると、10mm未満の厚さ鋼材の場合、空冷過程でフェライト+ベイナイト組織などが形成されて強度や硬度が過度に高くなる虞があり、特にMA組織の生成時にHIC特性も阻害されるため、上記Cは0.2~0.3%の範囲に制限することが好ましい。
【0021】
シリコン(Si):0.05~0.50%
Siは、置換型元素として固溶強化により鋼材の強度を向上させ、強力な脱酸効果を有していることから、清浄鋼の製造に必須の元素であるため、0.05%以上添加されることが好ましい。しかし、0.50%を超えた場合、MA相を生成させ、フェライト基地組織の強度を過度に増大させて耐HIC特性及び衝撃靭性の低下を引き起こす虞がある。したがって、上記Siは0.05~0.50%の範囲に」制限することが好ましい。
【0022】
マンガン(Mn):0.03%以下
Mnは、固溶強化により強度を向上させ、低温変態相が生成されるように硬化能を向上させる有用な元素である。このため、耐HIC特性を向上させるための引張強度450~585MPa級の鋼材では、上記Mnが1.0~1.4%の範囲で添加されることが一般的である。しかし、Mn含有量が高くなるほど圧延過程でBandedパーライト組織が発達するようになり、HIC品質が劣化する。また、製品中心部のMn偏析度も増大し、高温変形抵抗値も急激に増大するため、未再結晶域における最大圧下量の設定に限界が発生する。したがって、本発明では、製品の全厚さ区間でBand形態ではなく、微細なフェライト+パーライト微細組織を生成させるために、上記Mn含有量を0.03%以下に制御することが好ましい。
【0023】
アルミニウム(Al):0.005~0.1%
Alは、上記Siと共に製鋼工程で強力な脱酸剤の一つである。この効果を得るためには、0.005%以上添加することが好ましい。しかし、その含有量が0.1%を超える場合には、脱酸の結果物として生成される酸化性介在物のうちAl2O3の分率が過度に増加し、大きさが粗大になるだけでなく、精錬中に除去が難しくなる問題があり、酸化性介在物による水素誘起割れ抵抗性が低下する虞がある。したがって、上記Al含有量は0.005~0.1%の範囲に制御することが好ましい。
【0024】
リン(P):0.010%以下
Pは、結晶粒界に脆性を誘発したり、粗大な介在物を形成させて脆性を誘発する元素であって、脆性割れ伝播抵抗性を向上させるために、上記P含有量を0.010%以下に制御することが好ましい。
【0025】
硫黄(S):0.0015%以下
Sは、結晶粒界に脆性を誘発したり、粗大な介在物を形成させて脆性を誘発する元素であって、脆性割れ伝播抵抗性を向上させるために、上記S含有量を0.0015%以下に制御することが好ましい。
【0026】
ニオブ(Nb):0.001~0.03%
Nbは、NbCまたはNbCNの形態で析出し、母材の強度を向上させる。また、高温で再加熱時に固溶されたNbは、圧延時にNbCの形態で非常に微細に析出されてオーステナイトの再結晶を抑制して組織を微細化させる効果がある。上記効果のために、上記Nbは0.001%以上添加されることが好ましい。但し、0.03%を超える場合には、未溶解のNbがTi、Nb(C、N)の形態で生成され、UT不良、衝撃靭性の低下及び耐水素誘起割れ性を阻害させる要因となる虞がある。したがって、上記Nb含有量は、0.001~0.03%の範囲に制限することが好ましい。
【0027】
バナジウム(V):0.001~0.03%
Vは、再加熱時にほぼすべてが再固溶されることから、後続する圧延時の析出や固溶による強化効果は僅かであるが、この後のPWHTなどの熱処理過程で非常に微細な炭窒化物として析出し、強度を向上させる効果がある。このような効果を十分に得るためには、上記Vを0.001%以上添加する必要があるが、その含有量が0.03%を超えるようになると、溶接部の強度及び硬度を過度に増加させて圧力容器などで加工する際、表面クラックなどの要因として作用する虞がある。また、製造原価が急激に上昇して経済的に不利になる。したがって、上記V含有量は、0.001~0.03%の範囲に制限することが好ましい。
【0028】
チタン(Ti):0.001~0.03%
Tiは、再加熱時にTiNとして析出して母材及び溶接熱影響部の結晶粒の成長を抑制し、低温靭性を大きく向上させる成分であり、この添加効果を得るためには、0.001%以上添加されることが好ましい。しかし、Tiが0.03%を超えて添加されると、連鋳ノズルの目詰まりや中心部の晶出によって低温靭性が低下することがあり、Nと結合して厚さの中心部に粗大なTiN析出物が形成された場合、水素誘起割れの開始点として作用する虞があるため、上記Ti含有量は、0.001~0.03%の範囲に制限することが好ましい。
【0029】
クロム(Cr):0.01~0.20%
Crの固溶による降伏及び引張強度を増大させる効果は僅かであるが、後工程である焼戻しや溶接後熱処理(PWHT)の間、セメンタイトの分解速度を抑えることで強度の低下を防止する効果がある。上記の効果を得るためには、上記Crを0.01%以上添加することが好ましいが、その含有量が0.20%を超えると、M23C6などのCr-Rich粗大炭化物の大きさ及び分率が増大して衝撃靭性が大きく低下するようになり、製造費用が上昇し、溶接性が低下する問題がある。したがって、上記Cr含有量は、0.01~0.20%の範囲に制限することが好ましい。
【0030】
モリブデン(Mo):0.01~0.15%
Moは、Crのように後工程である焼戻しまたは溶接後熱処理(PWHT)の間の強度の低下防止に有効な元素であり、Pなどの不純物の粒界偏析による靭性低下を防止する効果がある。また、フェライト内の固溶強化元素として基地相の強度を増大させる。上記の効果を得るためには、上記Moを0.01%以上添加することが好ましいが、高価な元素であるため過度に添加した場合、製造費用が大きく上昇するため、0.15%以下を添加することが好ましい。したがって、上記Mo含有量は、0.01~0.15%の範囲であることが好ましい。
【0031】
銅(Cu):0.01~0.50%
銅(Cu)は、フェライト内の固溶強化により基地相の強度を大きく向上させることができるだけでなく、湿潤硫化水素雰囲気での腐食を抑制する効果があるため、本発明において有利な元素である。上記の効果を十分に得るためには、上記Cuを0.01%以上添加する必要があるが、その含有量が0.50%を超えると、鋼板の表面にスタークラックを誘発する虞が大きくなり、高価な元素として製造費用が大きく上昇する問題がある。したがって、上記Cu含有量は、0.01~0.50%の範囲に制限することが好ましい。
【0032】
ニッケル(Ni):0.05~0.50%
Niは、低温で積層欠陥を増大させ、電位の交差スリップ(Cross slip)を容易にし、衝撃靭性及び硬化能を向上させ、強度を増加させる上で重要な元素である。これらの効果を得るためには0.05%以上添加されることが好ましい。しかし、上記Niが0.50%を超えて添加されると、硬化能が過度に上昇する。又、他の硬化能の元素よりも高価であることから製造原価を上昇させる虞があるため、上記Ni含有量は、0.05~0.50%の範囲に制限することが好ましい。
【0033】
カルシウム(Ca):0.0005~0.0040%
Caは、Alによる脱酸後に添加すると、MnS介在物を形成するSと結合してMnSの生成を抑制するとともに、球状のCaSを形成して、水素誘起割れによるクラックの発生を抑制する効果がある。本発明では、不純物として含有されるSを十分にCaSとして形成させるために、上記Caを0.0005%以上添加することが好ましい。但し、0.0040%を超えて添加された場合には、CaSを形成して残ったCaがOと結合して粗大な酸化性介在物を生成するようになり、これが圧延時に延伸、破壊されて水素誘起割れを助長する虞がある。したがって、上記Ca含有量は、0.0005~0.0040%の範囲に制限することが好ましい。
【0034】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料や周囲環境から意図されない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かることであるため、そのすべての内容を特に本明細書に記載しない。
【0035】
本発明が提供する鋼材は、フェライトの平均結晶粒度が5~15μmであることが好ましい。上記フェライトの平均結晶粒度が5μm未満の場合には、圧延によりオーステナイトの結晶粒大きさを減らすのに物理的な限界があり、15μmを超える場合には、衝撃遷移試験時にDBTTが増大して衝撃靭性が低下するという欠点がある。
一方、本発明の鋼材は面積分率で、フェライト:70%以上、残部がパーライトであることが好ましい。上記フェライト分率が70%未満の場合には、パーライト分率が比較的高く、衝撃靭性が劣化するという欠点がある。
【0036】
また、本発明の鋼材は、中心部のMn最大濃度が0.05重量%以下であることが好ましい。中心部のMn最大濃度が0.05重量%を超える場合には、偏析による成分濃化によってMnSまたは低温変態相などが生成される虞がある。一方、本発明で言及した上記中心部とは、1/2t(t:製品厚さ)において製品全体厚さの±5%を占める領域を意味する。
なお、本発明の鋼材は、厚さが6~50mmであることが好ましい。鋼材の厚さが6mm未満の場合には、厚板圧延機で製造し難いという問題があり、50mmを超える場合には、引張強度450MPa以上の強度を確保することが難しいという問題がある。
上記のとおり、提供される本発明の鋼材は、引張強度が450~585MPaの範囲を有することができる。
【0037】
以下、本発明の一実施形態に係る水素誘起割れ抵抗性に優れた圧力容器用鋼材の製造方法について詳細に説明する。
まず、上記の合金組成を有する鋼スラブを1000~1100℃で再加熱する。上記鋼スラブ再加熱は、この後の圧延過程で過度の温度低下を防止するために、1000℃以上で行うことが好ましい。但し、上記鋼スラブの再加熱温度が1100℃を超える場合には、未再結晶域の温度における総圧下量が不足となり、制御圧延開始温度が低くても過度の空冷待機によって、炉運営にかかるコストが上昇し、競争力が低下するという欠点がある。したがって、上記鋼スラブの再加熱温度は1000~1100℃の範囲を有することが好ましい。
【0038】
この後、上記再加熱されたスラブを未再結晶領域の温度である800~900℃でパス当たりの平均圧下率15%以上で熱間圧延して熱延鋼材を得る。上記熱間圧延温度が800℃未満の場合には、オーステナイト-フェライト二相領域で圧延が行われる虞があるため、正常な目標の厚さで圧延が行われず、一方、900℃を超える場合には、オーステナイトの結晶粒が過度に粗大化し、結晶粒の微細化による強度及び耐HIC特性の向上を期待することができない。また、パス当たりの平均圧下率が15%未満の場合、未再結晶域でフェライトの核生成サイトを十分に生成させることができず、焼きならし熱処理後のフェライト平均結晶粒度を15μm以下に制御することが困難になる。したがって、圧延温度においてパス当たりの平均圧下率は15%以上に制御することが好ましい。但し、ミル(Mill)別の圧延機の限界圧下量及びロールの寿命などを考慮したとき、パス当たりの平均圧下率は30%以下であることが好ましい。
【0039】
上記熱間圧延後の熱延鋼材のオーステナイト平均結晶粒度は25μm以下であることが好ましい。このように、上記熱間圧延後の熱延鋼材のオーステナイト平均結晶粒度を25μm以下に制御することにより、最終的に得られるフェライトの平均結晶粒度を微細にすることができる。上記熱間圧延後の熱延鋼材のオーステナイト平均結晶粒度は20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。
【0040】
この後、上記熱延鋼材を常温まで空冷した後、800~900℃まで加熱してから15~60分間維持して焼きならし熱処理する。上記焼きならし熱処理は、オーステナイト組織の十分な均質化及び固溶元素(solute)の十分な拡散のためのものであり、上記焼きならし熱処理温度が800℃未満であるか、焼きならし熱処理時間が15分未満の場合には、上記効果を十分に得ることが困難である。但し、上記焼きならし熱処理温度が900℃を超えるか、焼きならし熱処理時間が60分を超える場合には、NbC、VCなどの微細析出物が粗大化する虞がある。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定される。
【0042】
(実施例)
下記表1に記載した合金組成を有する鋼スラブを1070℃で再加熱した後、下記表2に記載した条件で熱間圧延して50mm厚さの熱延鋼材を得、その後、常温まで空冷した後、890℃で30分間維持して焼きならし熱処理を実施した。
このように製造されたそれぞれの熱延鋼材に対し、中心部のMn最大濃度をEBSD(Electron Back Scattered Diffraction)を活用して測定し、光学顕微鏡で鋼板の1/4t(t:厚さ)及び中心部(1/2t)の微細組織を分析し、焼きならし熱処理後のフェライト平均結晶粒度を測定し、下記表2に示した。
【0043】
最終的に、製品の品質を評価するために引張試験及び水素誘起割れ(HIC)テストを実施した後、その結果を下記表2に示した。この時、鋼材の水素誘起割れ抵抗性の指標として使用された板の長さ方向への水素誘起割れのクラックの長さ比(CLR、%)は、関連国際規格であるNACE TM0284に従い、1気圧のH2Sガスで飽和した5%NACl+0.5%CH3COOH溶液に試験片を96時間の間浸漬した後、超音波探傷法により割れの長さを測定し、試験片の長さ方向におけるそれぞれの割れの長さの合計を、試験片の全体長さで除した値で計算して評価した。引張試験は常温で評価し、2回の評価結果の平均値を示した。
【0044】
【0045】
【0046】
上記表1及び2に示したとおり、本発明が提案する合金組成及び製造条件を満たす発明例1~5の場合には、鋼材の1/4tと中心部(1/2t)のいずれもフェライトとBand形態ではないパーライトの複合組織を有し、フェライトの平均結晶粒度が5~15μmと非常に微細で450MPa以上の引張強度を有し、耐HIC性に非常に優れることが確認できる。
しかし、比較例1~5の場合には、本発明が提案する合金組成は満たすものの、製造条件のうち仕上げ圧延温度または圧延時のパス当たりの圧下率の条件を満たしていないことから、フェライトの平均結晶粒度が非常に大きくなって、これにより、引張強度及び耐HICの品質が劣位であることが確認できる。
【0047】
比較例6及び7の場合には、本発明が提案する製造条件は満たすものの、合金組成のうちMn含有量を満たしていないため、中心部のMn最大濃度が非常に高く、これにより、耐HIC性が低下することが確認できる。
比較例8の場合には、本発明が提案する製造条件は満たすものの、合金組成のうちC含有量を満たしていないため、引張強度が低いレベルであることが確認できる。
【0048】
図1は、発明例1の1/4t(t:製品厚さ)における微細組織を光学顕微鏡で観察した写真である。
図1に示したとおり、発明例1の場合には、1/4tにおける微細組織が微細なフェライトとパーライトからなっていることが確認できる。
図2は、比較例2の1/4t(t:製品厚さ)における微細組織を光学顕微鏡で観察した写真である。
図2に示したとおり、比較例2の場合には、1/4tにおける微細組織がフェライトとベイニティックパーライトからなっていることが確認できる。