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特許7265009脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材及びその製造方法
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  • 特許-脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230418BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20230418BHJP
   C22C 38/16 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C21D8/02 B
C22C38/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021530867
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 KR2019016702
(87)【国際公開番号】W WO2020111860
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】10-2018-0151871
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ハク‐チョル
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2011-0075321(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0073091(KR,A)
【文献】特表2018-504523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.02~0.07%、Mn:1.8~2.2%、Ni:0.7~1.2%、Nb:0.005~0.02%、Ti:0.005~0.02%、Cu:0.1~0.4%、P:0.01%以下、S:0.004%以下、残部はFe及び不可避不純物からなり、
t/4~(3*t)/8領域(ここで、tは鋼材の厚さを意味する、以下同一)で、EBSDにより測定した15度以上の高傾角粒界を有する結晶粒の平均粒度が15μm以下であり、
t/4領域から採取される試験片に対して、ASTM E208-06で規定されたNRL-DWT(Naval Research Laboratory-Drop Weight Test)を行う場合、NDT(Nil-Ductility Transition)温度が-45℃以下であり、
t/4領域から採取される試験片の微細組織は、針状フェライトと粒状ベイナイトの複合組織を含み、第2相として島状マルテンサイトを含み、前記針状フェライトは60~80面積%の比率、前記粒状ベイナイトは20~40面積%の比率、前記島状マルテンサイトは10面積%以下の比率で含まれる極厚物鋼材であり、
前記極厚物鋼材の厚さが50~120mmであることを特徴とする脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材。
【請求項2】
t/4領域から採取される試験片の衝撃遷移温度が-60℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材。
【請求項3】
前記鋼材の降伏強度が500MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材。
【請求項4】
重量%で、C:0.02~0.07%、Mn:1.8~2.2%、Ni:0.7~1.2%、Nb:0.005~0.02%、Ti:0.005~0.02%、Cu:0.1~0.4%、P:0.01%以下、S:0.004%以下、残部はFe及び不可避不純物からなるスラブを再加熱し、
前記再加熱されたスラブを850~1050℃の温度範囲で、40%以上の累積圧下率で粗圧延し、
前記粗圧延されたスラブを50%以上の累積圧下率で仕上圧延し、前記仕上圧延は、700~850℃の温度範囲で開始され、
前記仕上圧延された鋼材冷却され、
製造された極厚物鋼材の厚さが50~120mmであり、
t/4~(3*t)/8領域(ここで、tは鋼材の厚さを意味する、以下同一)で、EBSDにより測定した15度以上の高傾角粒界を有する結晶粒の平均粒度が15μm以下であり、
t/4領域から採取される試験片に対して、ASTM E208-06で規定されたNRL-DWT(Naval Research Laboratory-Drop Weight Test)を行う場合、NDT(Nil-Ductility Transition)温度が-45℃以下であり、
t/4領域から採取される試験片の微細組織は、針状フェライトと粒状ベイナイトの複合組織を含み、第2相として島状マルテンサイトを含み、前記針状フェライトは60~80面積%の比率、前記粒状ベイナイトは20~40面積%の比率、前記島状マルテンサイトは10面積%以下の比率で含むことを特徴とする脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材の製造方法。
【請求項5】
1000~1120℃の温度範囲で前記スラブを再加熱することを特徴とする請求項に記載の脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材の製造方法。
【請求項6】
3℃/s以上の冷却速度で、500℃以下の温度範囲まで前記仕上圧延された鋼材を冷却することを特徴とする請求項に記載の脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、1/4t基準のNDTT(Nil-Ductility Transition Temperature)値が-45℃以下であって、脆性割れ伝播抵抗性を効果的に確保可能な、脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶などの構造物の設計において、極厚物及び高強度鋼材の開発が求められている。これは、高強度鋼材を用いて船舶などの構造物を製作する場合、鋼材の厚さを薄くして構造物の軽量化を図ることができるだけでなく、鋼材の薄い厚さにより、加工及び溶接作業の容易性を同時に確保することができるためである。
一般に、高強度の極厚物鋼材を製造する場合、総圧下率の低下により組織全体にわたって十分な変形がなされず組織が粗大化し、強度を確保するための急速冷却を行う時に、厚い厚さによって表面部-中心部の間に冷却速度差が発生するため、表面部にベイナイトなどの粗大な低温変態組織が多量に生成され、靭性の確保が困難がある。特に、構造物の安定性を示す脆性割れ伝播抵抗性は、船舶などの主要構造物への適用時に、その保証を要求する事例が増加しており、極厚物鋼材は、靭性の低下により、脆性割れ伝播抵抗性を保証することにおいて困難を抱えている。
【0003】
実際に、多数の船級協会及び鉄鋼企業では、脆性割れ伝播抵抗性を保証するために、実際の脆性割れ伝播抵抗性を正確に評価することが可能な大型引張試験を行っているが、このような大型引張試験を行うには、莫大なコストがかかるため、量産時には、大型引張試験を適用して脆性割れ伝播抵抗性を保証することが困難な状況である。このような不都合を改善するために、近年、大型引張試験に代わる小型の代替試験に関する研究が持続的に進められており、最も有力な試験として、ASTM E208-06規格の表面部NRL-DWT(Naval Research Laboratory-Drop Weight Test)試験が多数の船級協会及び鉄鋼企業で採択されている。
表面部NRL-DWT試験は、表面部の微細組織を制御する場合に、脆性割れ伝播時におけるクラックの伝播速度を減少させ、脆性割れ伝播抵抗性を向上させるという既存の研究結果を基に採択されているが、NRL-DWT試験は、鋼材の表面部から試験片を採取して試験を行うため、最近、船舶などの構造物に適用されている厚さ80mm以上の厚物鋼材における脆性割れ伝播抵抗性を保証することが可能な物性試験であるという意見がある。
【0004】
また、鋼材の表面部は、鋼材の中心部またはt/4部(ここで、tは鋼材の厚さを意味する、以下同一)に比べて、水冷時に速い冷却速度で冷却される領域であり、降伏強度500MPa級の鋼材のように高い硬化能を有する鋼材では、多量の低温変態相が形成される可能性がある。したがって、実際の大型引張試験で測定された脆性割れ伝播に係る指数が優れているにもかかわらず、NRL-DWT試験では結果が劣っていると評価される傾向を示す。
近年、500MPa級以上の高強度の極厚物鋼材は、既存の試験法のように鋼材の表面部に対してNRL-DWT試験を行うのではなく、鋼材のt/4部に対してNRL-DWT試験を行って脆性割れ伝播特性を判断する傾向にある。したがって、t/4部のNRL-DWT物性を保証可能な、高強度の極厚物鋼材及びその製造方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0079163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材及びその製造方法を提供することにある。
本発明の課題は、上記の内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全体的な内容から本発明の付加的な課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材は、重量%で、C:0.02~0.07%、Mn:1.8~2.2%、Ni:0.7~1.2%、Nb:0.005~0.02%、Ti:0.005~0.02%、Cu:0.1~0.4%、P:0.01%以下、S:0.004%以下、残部はFe及び不可避不純物からなり、t/4~(3*t)/8領域(ここで、tは鋼材の厚さを意味する、以下同一)で、EBSDにより測定した15度以上の高傾角粒界を有する結晶粒の平均粒度が15μm以下であることを特徴とする。
【0008】
上記鋼材のt/4領域から採取される試験片に対して、ASTM E208-06で規定されたNRL-DWT(Naval Research Laboratory-Drop Weight Test)を行う場合、NDT(Nil-Ductility Transition)温度が-45℃以下であることができる。
上記鋼材のt/4領域から採取される試験片の衝撃遷移温度が-60℃以下であることがよい。
上記鋼材のt/4領域から採取される試験片の微細組織は、針状フェライト(Acicular ferrite)と粒状ベイナイト(Granular bainite)の複合組織を含み、第2相として島状マルテンサイトをさらに含むことが好ましい。
【0009】
上記針状フェライトは60~80面積%の比率、上記粒状ベイナイトは20~40面積%の比率、上記島状マルテンサイトは10面積%以下の比率で含まれることが好ましい。
上記鋼材の厚さは50~120mmであることがよい。
上記鋼材の降伏強度は500MPa以上であることができる。
【0010】
本発明の一側面による脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材は、重量%で、C:0.02~0.07%、Mn:1.8~2.2%、Ni:0.7~1.2%、Nb:0.005~0.02%、Ti:0.005~0.02%、Cu:0.1~0.4%、P:0.01%以下、S:0.004%以下、残部はFe及び不可避不純物からなるスラブを再加熱し、上記再加熱されたスラブを粗圧延し、50%以上の累積圧下率で上記粗圧延されたスラブを仕上圧延し、上記仕上圧延された鋼材を冷却することで製造されることを特徴とする。
【0011】
1000~1120℃の温度範囲で上記スラブを再加熱することができる。
850~1050℃の温度範囲で、40%以上の累積圧下率で上記再加熱されたスラブを粗圧延することが好ましい。
【0012】
上記仕上圧延は、700~850℃の温度範囲で開始されることがよい。
3℃/s以上の冷却速度で、500℃以下の温度範囲まで上記仕上圧延された鋼材を冷却することができる。
上記課題の解決手段は、本発明の特徴を全て挙げたものではなく、本発明の様々な特徴とそれによる利点及び効果は、下記の具体的な実施形態を参照してより詳細に理解される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、本発明の脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材は、高強度特性を備えると共に、脆性割れ伝播抵抗性を効果的に保証することが可能であって、船舶などの構造物素材として特に好適な極厚物鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】試験片1のt/4部を光学顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材及びその製造方法に関し、以下では、本発明の好ましい実現形態を説明する。本発明の実現形態は様々な形態に変形可能であり、本発明の範囲が下記で説明される実現形態に限定されると解釈されてはならない。本実現形態は、当該発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明をより詳細にするために提供されるものである。
以下、本発明の鋼の組成についてより詳細に説明する。以下、別に表示しない限り、各元素の含量を示す%は重量を基準とする。
【0016】
本発明の一側面による脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材は、重量%で、炭素(C):0.02~0.07%、マンガン(Mn):1.8~2.2%、ニッケル(Ni):0.7~1.2%、ニオブ(Nb):0.005~0.02%、チタン(Ti):0.005~0.02%、銅(Cu):0.1~0.4%、リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.004%以下、残部はFe及び不可避不純物からなる。
【0017】
炭素(C):0.02~0.07%
炭素(C)は、鋼の強度確保に最も効果的な元素であるため、適切な範囲内で鋼中に含有される必要がある。本発明では、強度を確保するために、炭素(C)の含量の下限を0.02%に制限する。好ましい炭素(C)の含量の下限は0.03%である。一方、硬化能向上元素である炭素(C)が過多に添加された場合、多量の島状マルテンサイト及び低温変態相の生成による靭性低下が懸念される。したがって、本発明では、炭素(C)の含量の上限を0.07%に制限することができる。好ましい炭素(C)の含量の上限は0.06%である。
【0018】
マンガン(Mn):1.8~2.2%
マンガン(Mn)は、固溶強化及び硬化能向上により、鋼の強度を効果的に向上させる元素である。本発明では、500MPa以上の降伏強度を確保するために、マンガン(Mn)の含量の下限を1.8%に制限する。一方、マンガン(Mn)が過多に添加された場合、硬化能が過度に増加し、上部ベイナイト(upper bainite)及びマルテンサイトの生成促進による衝撃靭性の低下、及びt/4部(ここで、tは鋼材の厚さを意味する、以下同一)でのNRL-DWT物性の低下が懸念される。したがって、本発明では、マンガン(Mn)の含量の上限を2.2%に制限する。好ましいマンガン(Mn)の含量の上限は2.1%である。
【0019】
ニッケル(Ni):0.7~1.2%
ニッケル(Ni)は、低温における転位の交差滑り(cross slip)を容易にし、衝撃靭性の向上に寄与する元素であり、硬化能の向上により鋼の強度向上に寄与する元素でもある。本発明では、このような効果を享受するために、ニッケル(Ni)の含量の下限を0.7%に制限する。好ましいニッケル(Ni)の含量の下限は0.75%である。一方、ニッケル(Ni)が過多に添加された場合、製造原価が過度に上昇して経済性の観点において好ましくないだけでなく、硬化能の向上により多量の低温変態組織が生成される虞がある。したがって、本発明では、ニッケル(Ni)の含量の上限を1.2%に制限することができる。好ましいニッケル(Ni)の含量の上限は1.15%である。
【0020】
ニオブ(Nb):0.005~0.02%
ニオブ(Nb)は、炭化物または窒化物として析出され、母材の強度向上に寄与する元素である。また、高温再加熱時に固溶されたニオブ(Nb)は、圧延時に炭化物(NbC)の形態で非常に微細に析出され、オーステナイトの再結晶を抑えるため、組織の微細化に効果的に寄与する元素である。本発明では、このような効果を享受するために、ニオブ(Nb)の含量の下限を0.005%に制限する。一方、ニオブ(Nb)が過多に添加された場合、鋼材の角に脆性割れを引き起こす虞があり、過度な析出物及び多量の島状マルテンサイトの生成により靭性低下が問題となる虞がある。したがって、本発明では、ニオブ(Nb)の含量の上限を0.02%に制限する。好ましいニオブ(Nb)の含量の上限は0.017%である。
【0021】
チタン(Ti):0.005~0.02%
チタン(Ti)は、TiN析出物を形成し、母材及び溶接熱影響部の結晶粒の成長を抑えるため、低温靭性の向上に効果的に寄与する元素である。本発明では、TiN析出物の形成のために、チタン(Ti)の添加量を0.005%以上に制限することができる。一方、チタン(Ti)が過多に添加された場合、粗大なTiNの晶出により、低温靭性が却って劣化するという問題が発生する。したがって、本発明では、チタン(Ti)の含量の上限を0.02%に制限する。好ましいチタン(Ti)の含量の上限は0.015%である。
【0022】
銅(Cu):0.1~0.4%
銅(Cu)は、硬化能を向上するとともに、固溶強化により鋼の強度向上に寄与する元素である。また、銅(Cu)は、熱処理時にイプシロン銅(Cu)析出物を生成し、降伏強度の向上に寄与する元素でもある。本発明では、このような強度向上の効果を享受するために、0.1%以上の銅(Cu)を添加することができる。好ましい銅(Cu)の含量の下限は0.15%である。一方、銅(Cu)が過多に添加された場合、製鋼工程で赤熱脆性(hot shortness)によるスラブ割れを誘発する虞がある。したがって、本発明では、銅(Cu)の含量の上限を0.4%に制限する。好ましい銅(Cu)の含量の上限は0.35%である。
【0023】
リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.004%以下
リン(P)及び硫黄(S)は、結晶粒界に脆性を誘発するか、粗大な介在物を形成させて脆性を誘発する元素であるため、本発明では、脆性割れ伝播抵抗性を確保するために、リン(P)及び硫黄(S)の含量をそれぞれ0.01%以下及び0.004%以下に制限する。
【0024】
本発明は、上述の鋼の組成以外に、残部はFe及び不可避不純物である。不可避不純物は、通常の鉄鋼の製造工程で不意に混入され得るものであるため、これを全面的に排除することはできない。通常の鉄鋼製造分野の技術者であれば、その意味を容易に理解できる。また、本発明は、上記の鋼の組成以外の他の組成の添加を全面的に排除しない。
【0025】
本発明の一側面による鋼材のt/4~(3*t)/8領域(ここで、tは鋼材の厚さを意味する、以下同一)で、EBSDにより測定した15度以上の高傾角粒界を有する結晶粒の平均粒度が15μm以下である。
本発明の一側面による鋼材のt/4領域から採取される試験片に対して、ASTM E208-06で規定されたNRL-DWT(Naval Research Laboratory-Drop Weight Test)を行う場合、NDT(Nil-Ductility Transition)温度は-45℃以下であり、より好ましいt/4領域のNDT温度は-50℃以下である。
本発明の一側面による鋼材のt/4領域から採取される試験片の衝撃遷移温度は-60℃以下であり、より好ましいt/4領域の衝撃遷移温度は-70℃以下である。
【0026】
本発明の一側面による鋼材のt/4領域から採取される試験片の微細組織は、針状フェライトと粒状ベイナイトの複合組織を含み、第2相として、島状マルテンサイトをさらに含む。この際、t/4領域での針状フェライトの分率は60~80面積%であり、t/4領域での粒状ベイナイトの分率は20~40面積%である。また、第2相の生成を抑えることが、靭性確保の点からより好ましいため、本発明の島状マルテンサイトの分率は、t/4領域を基準として10面積%以下であることがよい。
針状フェライトと粒状ベイナイトの複合組織の形態で微細組織が生成される場合、高温で生成される針状フェライトが粒界及び粒内で同時多発的に生成された後、残部はオーステナイトで粒状ベイナイトが生成されることで、粗大ベイナイトパケットの生成を抑え、t/4部の組織を微細化することができる。また、針状フェライトの単独では、500MPa以上の降伏強度を確保しにくいため、粒状ベイナイトが20~40面積%になるように生成させて強度を確保することが必要である。島状マルテンサイトは、変形時に割れ開始点として作用するため、できる限りその分率を抑えることが、衝撃靭性及びNRL-DWT物性を確保する点から好ましい。
【0027】
本発明の一側面による鋼材の厚さは50~120mmであることがよい。好ましい鋼材の厚さは50~100mmであり、より好ましい鋼材の厚さは70~100mmである。
本発明の一側面による鋼材の降伏強度は500MPa以上であり、より好ましい降伏強度は520MPa以上である。
したがって、本発明の一側面によると、高強度特性を備えながらも、脆性割れ伝播抵抗性を効果的に保証することが可能であり、船舶などの構造物素材として特に好適な極厚物鋼材を提供することができる。
【0028】
以下、本発明の製造方法についてより詳細に説明する。
本発明の一側面による脆性割れ伝播抵抗性に優れた極厚物鋼材は、重量%で、C:0.02~0.07%、Mn:1.8~2.2%、Ni:0.7~1.2%、Nb:0.005~0.02%、Ti:0.005~0.02%、Cu:0.1~0.4%、P:0.01%以下、S:0.004%以下、残部はFe及び不可避不純物からなるスラブを再加熱し、上記再加熱されたスラブを粗圧延し、上記粗圧延されたスラブを、700~850℃の仕上圧延開始温度で50%以上の累積圧下率で仕上圧延し、上記仕上圧延された鋼材を冷却することで製造される。
【0029】
スラブの再加熱
本発明のスラブは、上記の鋼材の合金組成と対応する合金組成を有して備えられるため、本発明のスラブの合金組成についての説明は、前述の鋼材の合金組成についての説明で代替する。
上記の組成で提供されるスラブを、1000~1120℃の温度範囲で再加熱する。鋳造中に形成されたTi及び/またはNb炭窒化物を固溶させるために、スラブの再加熱は1000℃以上の温度範囲で行うことが好ましい。しかし、スラブの再加熱温度が過度に高い場合、オーステナイトの粗大化の虞があるため、スラブの再加熱は1120℃以下の温度範囲で行うことが好ましい。
【0030】
粗圧延
再加熱されたスラブの形状を調整するために、粗圧延を行う。粗圧延により、鋳造中に形成されたデンドライトなどの鋳造組織の破壊とともに再結晶により、粗大なオーステナイトの微細化を達成することができる。このような効果を得るために、粗圧延の温度を850~1050℃の範囲に制限する。十分な再結晶を起こして組織を微細化するために、総累積圧下率40%以上の条件で粗圧延を行うことがよい。
【0031】
仕上圧延
仕上圧延は、本発明が目的とする鋼材のt/4部の組織及び物性を確保するための重要な工程であるため、厳格な工程条件の制御が必要である。仕上圧延は、粗圧延された鋼材のオーステナイトに不均一な微細組織を導入するために行い、鋼材のt/4部に加えられた変形が維持されるように、700~850℃の温度範囲で行うことが好ましい。また、粒度微細化の効果を達成するために、総累積圧下率50%以上の条件で仕上圧延を行うことができる。
仕上圧延の開始温度が700℃未満である場合、設備的な限界により圧下率が低下するため、t/4部の粒度微細化を達成しにくく、鋼材のt/4部にポリゴナルフェライトが生成され、目的とする水準の強度を確保することができない。また、仕上圧延の開始温度が850℃を超える場合、高温に露出して変形による転位帯(Dislocation Band)が減少するため、t/4部での十分な組織微細化の効果を確保できない。したがって、本発明の仕上圧延は700~850℃の温度範囲で開始されることが好ましく、より好ましい仕上圧延の開始温度は730~850℃の範囲である。
【0032】
冷却
仕上圧延後に鋼材の冷却を行う。本発明の冷却方式は特に限定されないが、冷却効率の点から水冷が好ましい。仕上圧延された鋼材は、3℃/s以上の冷却速度で500℃以下の温度範囲まで冷却することができる。冷却速度が3℃/s未満である場合、鋼材の中心部の微細組織が適切に形成されないため、降伏強度が低下する虞がある。また、冷却終了温度が500℃を超える場合、鋼材の微細組織が適切に形成されないため、降伏強度が低下する虞がある。
【0033】
本発明の一側面による製造方法により製造された鋼材は、鋼材のt/4~(3*t)/8領域(ここで、tは鋼材の厚さを意味する、以下同一)で、EBSDにより測定した15度以上の高傾角粒界を有する結晶粒の平均粒度が15μm以下である。
本発明の一側面による製造方法により製造された鋼材は、鋼材のt/4領域から採取される試験片に対して、ASTM E208-06で規定されたNRL-DWT(Naval Research Laboratory-Drop Weight Test)を行う場合、NDT(Nil-Ductility Transition)温度が-45℃以下であり、より好ましいt/4領域のNDT温度は-50℃以下である。
【0034】
本発明の一側面による製造方法により製造された鋼材は、鋼材のt/4領域から採取される試験片の衝撃遷移温度が-60℃以下であり、より好ましいt/4領域の衝撃遷移温度は-70℃以下である。
本発明の一側面による製造方法により製造された鋼材のt/4領域から採取される試験片は、微細組織として針状フェライトと粒状ベイナイトの複合組織を含み、第2相として島状マルテンサイトをさらに含むことができる。この際、t/4領域での針状フェライトの分率は60~80面積%であり、t/4領域での粒状ベイナイトの分率は20~40面積%である。また、第2相の生成を抑えることが、靭性を確保する点からより好ましいため、本発明の島状マルテンサイトの分率はt/4領域を基準として10面積%以下であることがよい。
【0035】
本発明の一側面による製造方法により製造された鋼材の厚さは50~120mmであることができる。好ましい鋼材の厚さは50~100mmであり、より好ましい鋼材の厚さは70~100mmである。
本発明の製造方法により製造された鋼材の降伏強度は500MPa以上であり、より好ましい降伏強度は520MPa以上である。
したがって、本発明の一側面によると、高強度特性を備えながらも、脆性割れ伝播抵抗性を効果的に保証することが可能であって、船舶などの構造物素材として特に好適な極厚物鋼材の製造方法を提供することができる。
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好ましい例を説明するためのものであり、以下の実施例により本発明の範囲が制限されるものではないということに留意する必要がある。
(実施例)
下記表1の合金組成で備えられる厚さ400mmの鋼スラブを製造した。1030~1090℃の温度範囲でそれぞれの鋼スラブを再加熱した後、910~1040℃の温度範囲で粗圧延を行って粗圧延バーを製造した。粗圧延時に、40%以上の総圧下率を適用した。粗圧延の後、下記表2のとおり仕上圧延を行い、3.5~5℃/sの冷却速度で350~480℃の範囲まで水冷を行って試験片を製作した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表2の試験片に対して、微細組織、降伏強度、衝撃遷移温度、及びNDT温度を評価し、その結果は下記表3に示した。微細組織は、各試験片のt/4~(3*t)/8領域から試験片を採取し、光学顕微鏡及びEBSDを用いて観察及び評価した。降伏強度は、各試験片に対する引張試験を行って評価した。衝撃遷移温度は、各試験片に対して、0℃から20℃単位で適用温度範囲を下げながら行った衝撃試験結果から、上部吸収エネルギーが50%になる地点を衝撃遷移温度として評価した。NDT温度は、各試験片のt/4部から試験片を採取し、ASTM E208-06で規定されたDRL-DWT試験により評価した。
【0040】
【表3】
QPF:Quasi-Polygonal Ferrite
AF:Acicular Ferrite
GB:Granular Bainite
UB:Upper Bainite
MA:Martensite-Austenite Constituent
【0041】
表3に示したとおり、本発明の合金組成及び工程条件を何れも満たす試験片1~5は、t/4~(3*t)/8部の高傾角粒界の平均粒度が15μm以下、降伏強度が500MPa以上、t/4部のNDT温度が-45℃以下、及びt/4部の衝撃遷移温度が-60℃以下とすべの基準を満たし、船舶などの構造物素材として特に好適な物性を備えることが確認できる。図1は試験片1のt/4部を光学顕微鏡で観察した写真であり、微細な針状フェライト及び粒状ベイナイトの複合組織を備えることが確認できる。
【0042】
試験片6及び7は、本発明が提示した仕上圧延の総累積圧下率よりも低い圧下率で仕上圧延を行ったことにより、t/4部に十分な変形が加えられなかったため、粒度微細化に大きい影響を与える針状フェライトが十分に形成されず、粗大なベイナイトが多量形成され、これにより、粒度が粗大化していることが確認できる。すなわち、試験片6及び7は、t/4~(3*t)/8部の高傾角粒界の平均粒度が15μmを超え、t/4部のNDT温度が-45℃を超え、t/4部の衝撃遷移温度が-60℃を超えて、目的の物性を備えることができないことが確認できる。
試験片8は、本発明が提示した炭素(C)の含量よりも高い含量の炭素(C)を含有するため、高い硬化能により高い降伏強度を有するのに対し、粗大なベイナイトが多量生成されたことが確認できる。すなわち、試験片8は、t/4~(3*t)/8部の高傾角粒界の平均粒度が15μmを超え、t/4部のNDT温度が-45℃を超え、t/4部の衝撃遷移温度が-60℃を超えて、目的の物性を備えることができないことが確認できる。
【0043】
試験片9は、本発明が提示したマンガン(Mn)の含量よりも高い含量のマンガン(Mn)を含有するため、高い硬化能により高い降伏強度を有するのに対し、粗大なベイナイトが多量生成されたことが確認できる。すなわち、試験片9も、t/4~(3*t)/8部の高傾角粒界の平均粒度が15μmを超え、t/4部のNDT温度が-45℃を超え、t/4部の衝撃遷移温度が-60℃を超えて、目的の物性を備えることができないことが確認できる。
試験片10は、本発明が提示した炭素(C)及びマンガン(Mn)の含量より低い含量の炭素(C)及びマンガン(Mn)を含有するため、t/4部にポリゴナルフェライトのような軟質組織が多量生産され、これにより、目的の降伏強度を備えることができないことが確認できる。
【0044】
試験片11は、本発明が提示したニッケル(Ni)の含量よりも低い含量のニッケル(Ni)を含有するため、表面部に十分に微細なベイナイトが形成されたにもかかわらず、低いニッケル(Ni)の含量により靭性低下が誘発されたことが確認できる。すなわち、試験片11は、t/4部のNDT温度が-45℃を超え、t/4部の衝撃遷移温度が-60℃を超えて、目的の物性を備えることができないことが確認できる。
試験片12は、本発明が提示したチタン(Ti)及びニオブ(Nb)の含量よりも高い含量のチタン(Ti)及びニオブ(Nb)を含有するため、過度な硬化能及び析出物の生成により靭性低下が誘発されたことが確認できる。すなわち、試験片12も、t/4部のNDT温度が-45℃を超え、t/4部の衝撃遷移温度が-60℃を超えて、目的の物性を備えることができないことが確認できる。
【0045】
試験片13は、本発明が提示した仕上圧延の温度範囲よりも高い温度で仕上圧延を行ったことにより、十分な変形帯がオーステナイトに残留しないため、粒度微細化に大きい影響を与える針状フェライトが十分に形成されず、粗大なベイナイトが多量に形成され、これにより、粒度が粗大化していることが確認できる。すなわち、試験片13は、t/4~(3*t)/8部の高傾角粒界の平均粒度が15μmを超え、t/4部の衝撃遷移温度が-60℃を超えて、目的の物性を備えることができないことが確認できる。
したがって、本発明の極厚物鋼材は、高強度特性を備えながらも、脆性割れ伝播抵抗性を効果的に保証可能であって、船舶などの構造物素材として特に好適な極厚物鋼材及びその製造方法を提供可能であることが確認できる。
【0046】
以上、実施形態を参照して本発明について詳細に説明したが、これと異なる形態の実施形態も可能である。したがって、添付の特許請求の範囲の技術的思想と範囲は実施形態に限定されない。

図1