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特許7265087高純度エステトロールを調製するための産業的方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】高純度エステトロールを調製するための産業的方法
(51)【国際特許分類】
   C07J 1/00 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
C07J1/00
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022511285
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-02
(86)【国際出願番号】 IB2020058148
(87)【国際公開番号】W WO2021044302
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P1900315
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HU
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】310008859
【氏名又は名称】リヒター ゲデオン ニュイルヴァーノシャン ミューコェデー レースヴェーニュタールシャシャーグ
【氏名又は名称原語表記】Richter Gedeon Nyrt.
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ロバシュ、ローベルト
(72)【発明者】
【氏名】マホー、シャーンドル
(72)【発明者】
【氏名】バチャ、イルディコー
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー、ベアトリクス
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/041839(WO,A2)
【文献】国際公開第2013/012328(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/034780(WO,A2)
【文献】FISHMAN, J et al.,Synthesis of Epimeric 15-hydroxyestriols, New and Potential Metabolites of Estradiol,Journal of Organic Chemistry,1968年,Vol.33, No.8,p.3133-3135
【文献】NAMBARA, T et al.,SYNTHESES OF ESTETROL MONOGLUCURONIDES,STEROIDES,1976年,Vol.27, No.1,p.111-122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のエステトロール
【化1】
を調製するための方法であって、
当該方法は、式(II)の化合物
【化2】
から出発し、下記工程:
(a)式(II)の化合物を、適切な反応物質を用いて、適切な溶媒中でアシル化し、一般式(III)の化合物
【化3】
(式中、Rは、メチル基または水素である。)
を得ること、
(b)移動水素化または接触水素化により、3位におけるベンジル保護基を除去し、一般式(IV)の化合物
【化4】
(式中、Rは、メチル基または水素である。)
を得ること、
(c)適切な溶媒中のアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属アルコラートまたはアルカリ金属水酸化物を用いて、アルカリ媒体中で脱保護すること
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
工程(a)で使用される溶媒が、脂肪族および芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル、ならびにエーテルからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)で用いられる反応物質が、無水酢酸、塩化アセチルまたは臭化アセチルである、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)で用いれる反応物質が、酢酸-ギ酸混合無水物である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)が、第3級アミン塩基の存在下で実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)が、得られた一般式(III)の化合物を、C1~3アルコールから結晶化させることをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)が、式(II)の化合物を精製および/または単離することなく実施される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(b)が、水素ガスを用いた接触水素化によって実施され、触媒が、パラジウムまたは支持体にパラジウムを担持させたものからなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
接触水素化のために使用される溶媒が、アルコール、エステルおよびケトンからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(b)が、シクロヘキセン試薬を用いた移動水素化によって実施される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
移動水素化のために使用される溶媒がアルコールである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)が、得られた一般式(IV)の化合物を、エステル、炭化水素、アルコール、またはそれらの混合物から結晶化させることをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(c)で使用される溶媒が、水、アルコール性溶媒、またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(c)が、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属炭酸水素塩の存在下で実施される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程(c)が、アルカリ金属アルコラートまたはアルカリ金属水酸化物の存在下で実施される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
Rがメチル基である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
Rが水素である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
三酢酸(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル、または
ギ酸(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル。
【請求項19】
三ギ酸(15α,16α,17β)-3-ヒドロキシエストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)のエステトロール(エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,15α,16α,17β-テトロール)、その誘導体であって、一般式(III)で表される3位、15α位、16α位、17β位が保護された当該誘導体、およびその3-ヒドロキシ誘導体であって、一般式(IV)で表される15α位、16α位、17β位が保護された当該誘導体の調製に関し、さらにその方法において使用される一般式(III)および(IV)の中間体に関する。本発明の別の態様は、医薬組成物を調製するための、本発明の方法によって得られる式(I)のエステトロールの使用である。
【背景技術】
【0002】
式(I)のエステトロール(エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,15α,16α,17β-テトロール)は、ヒトの妊娠の間に、胎児肝臓によって内因的に産生される、弱いエストロゲン様活性を有する化合物である。
【化1】
【0003】
エステトロールは、ホルモン補充療法、腟乾燥を治療する方法、更年期障害(例えば、のぼせ、寝汗)を治療する方法、避妊の方法、性欲を増強する方法、皮膚を治療し創傷治癒を促進する方法、自己免疫障害、乳房腫瘍、前立腺がんおよび結腸直腸腫瘍を治療または予防する方法、ならびに神経保護(例えば、新生児脳症)の方法において有効であることが見出されている(WO02/094275A1、WO02/094276A1、WO02/094278A1、WO02/094279A1、WO03/041718A1、WO03/103684A1、WO03/103685A1、WO2004/006936A1、WO2004/037269A1、WO2007/081206A1、WO2008/085038A2、WO2013/021025A1、WO2013/156329A1、WO2018/024912A1、WO2018/065076A1、WO2019/025031A1;2019年5月14日に最終更新されたエステトロール-https://adisinsight.springer.com/drugs/800044874;Gaspardら、Maturitas 124(2019)153頁 要約P09;Apterら、Eur J Contracept Reprod HC(2017)22(4):260-267;Tskitishviliら、J Endocrinol.(2017)232(1):85-95;Coelingh Bennickら、Climacteric(2008)11(補遺1):47-58)。
【0004】
反応スキーム1に示されるエステトロールの合成は、Fishmanら(Fishman,JおよびGuzik,H.、Tetrahedron Letters、1967、30:2929-2932)に最初に記載された。水素化リチウムアルミニウムを用いた15-エン-17-ケト出発化合物の還元は、アリルアルコール型化合物を生じ、それから二酢酸エステルが形成された。ピリジン中の四酸化オスミウムを用いたこの二酢酸エステルの酸化は、二酢酸エステトロールを生じ、これをメタノール中で酢酸カリウムを用いて煮沸し、エステトロールを得た。上記刊行物には、収率および純度のデータは含まれておらず、融点(230~235℃)、比旋光度([α]26D=135°(EtOH))およびNMR(60MHz)のデータが、識別データの証拠として提供された。
【化2】
【0005】
反応スキーム2に示される、Suzukiら(Suzuki,E.、Namba,S.、Kuruhara,H.、Goto,J.、Matsuki,Y.、Nambara,T.、Steroids、1995、60、277-284)に記載された合成では、15-エン-17-アセトキシ化合物が、ピリジンの存在下で、当量の四酸化オスミウムを用いてベンゼン中で酸化された。得られた二酢酸エステル異性体は、カラムクロマトグラフィーによって分離され、15α,16α,17β-二酢酸エステルが収率46%で得られ、15β,16β,17β-二酢酸エステル異性体が収率12%で得られた。
【0006】
得られた生成物の所与の量から計算された異性体比は、78.9/21.1(15α,16α/15β,16β)である。
【0007】
15α,16α,17β-二酢酸エステルのアルカリ加水分解により、エステトロールを収率67%で得た。純度データは提供されず、233~235℃が生成物の融点として与えられた。
【化3】
【0008】
特許出願WO2004/041839A2(Pantarhei)-反応スキーム3-では、3-ベンジルエーテルとして保護されたエストロンから出発して、いくつかの公知の工程によってΔ15-エストラジオール-ベンジルエーテル17-酢酸エステルが形成される:ポリマーを結合させた四酸化オスミウムを用い、ヘプタン-酢酸エチル溶媒混合物を用いた処理によって、酸化し、粗生成物を得て、次いでこれを三元溶媒混合物(ヘプタン-酢酸エチル-エタノール)中で結晶化させ、エステトロール-ベンジルエーテル-17-酢酸エステルを収率43%で、98.7%の純度(異性体純度:99.5%)で得る。接触水素化による脱保護(92%の収率)およびアルカリ加水分解による脱保護(92.5%の収率)により、エステトロール化合物を得た。生成物の純度に関するデータは、99.5%と与えられる。同様の解決手段が、特許出願WO2013/012328A1(Donesta)にも開示されている。
【0009】
この開示によれば、純粋な中間体が高損失で得られ、結晶化は技術的に不利な三元溶媒混合物から実施される。この解決手段もまた、経済的な問題を生じる。
【化4】
【0010】
特許出願WO2013/050553A1(Estetra)-反応スキーム4-もまた、酸化剤としての過マンガン酸カリウムを記載しているが、異性体比、純度および収率データは与えられていない。
【化5】
【0011】
特許出願WO2013/034780A2(Crystal Pharma)-反応スキーム5-の実施例では、ポリ(4-ビニルピリジン)(PVP)に結合した四酸化オスミウムを、55~60℃の温度で、シス-ヒドロキシル化のための酸化剤として使用する。Δ15-17-アセトキシ誘導体の四酸化オスミウム酸化の場合、反応混合物における15α,16α/15β,16β異性体比が80/20と測定され、生成物は収率88%で得られたが、純度データは与えられていない。
【化6】
【0012】
Δ15-17β-ヒドロキシ化合物の場合、62%の収率および90/10の15α,16α/15β,16β異性体比が提供されたが、純度データは報告されていない:
【化7】
【0013】
ベンジルエーテルの場合、90/10の比を有する15α,16α/15β,16β異性体混合物が、99%の収率で得られるが、純度データは与えられていない:
【化8】
【0014】
3-ベンゾイル化合物の場合、90/10の比を有する15α,16α/15β,16β異性体混合物が、92%の収率で得られるが、純度データは与えられていない:
【化9】
【0015】
t-ブチル-ジメチル-シリルエーテル化合物の場合、90/10の比を有する15α,16α/15β,16β異性体混合物が、101%の収率で得られるが、純度データは与えられていない:
【化10】
【0016】
(1-ブトキシエチル)-エーテル化合物の場合、90/10の比を有する15α,16α/15β,16β異性体混合物が、96.5%の収率で得られるが、純度データは与えられていない:
【化11】
【0017】
WO2013/034780A2(Crystal Pharma)には、本明細書に記載される式(I)で表される3-OH保護されたエステトロール誘導体の純度に関する情報が提供されておらず、当該誘導体からエステトロールを調製することは開示されておらず、上記文献の教示は、活性物質純度でのエステトロールの調製の実現を可能にしない。
【0018】
特許出願WO2015/040051A1(Crystal Pharma)には、同一のまたは異なる保護基を有するΔ15-3,17β-ジヒドロキシの誘導体を介したシス-ヒドロキシル化が示されている。過マンガン酸カリウム酸化剤を用いた非常に低い(1~9%)変換が記載されている。四酸化オスミウム-PVP酸化剤を使用して、3位および17位においてヒドロキシル基上で保護されたエステトロール誘導体が、良好な変換で得られる。脱保護により、98/2~99/1の比を有する15α,16α/15β,16β異性体混合物として、エステトロールを個々に得る。上記文献には純度データは与えられていない。さらに、得られた中間体から活性物質純度でエステトロールを調製する方法に関する情報が含まれていない。
【0019】
これらの全てから、薬物グレード純度でエステトロールを調製する方法は解決されていない、すなわち、純粋な活性物質の製造は、好ましくない収率および低い経済性で解決されていると結論付けることができる。
【0020】
最新の薬局方要件は、高速液体クロマトグラフ純度試験法など多数の試験方法を規定するだけでなく、不純物の数および量も指示、制限する。ステロイド系活性物質の場合、一般的な要件は、総不純物は0.5%に制限され、そして個々の不純物は0.10%に制限されている。標的生成物の品質を伴ってこれらの要件を満たすために、適切な純度で重要な中間体(複数可)を調製することは目的にかなっており、これは、例えば、エステトロールなどの、好ましくない結晶化特性および精製特性を有する化合物について、特に当てはまる。
【0021】
上記を考慮すると、高純度でのその産生を可能にする、有利な特性(例えば、結晶化、精製、単離可能性、収率)を有する中間体を介して実施され得る、エステトロールの産生のための代替的な産業的方法を提供するという満たされていない要求がなおも存続する。
【発明の概要】
【0022】
本発明は、式(I)のエステトロール、その誘導体であって、一般式(III)で表される3位、15α位、16α位、17β位が保護された当該誘導体、およびその3-ヒドロキシ誘導体であって、一般式(IV)で表される15α位、16α位、17β位が保護された当該誘導体の調製方法、さらにこの方法において使用される一般式(III)および(IV)の中間体に関する。
【0023】
本発明の産業的方法は、式(II)の化合物から出発する、式(I)のエステトロールの調製である。
【0024】
式(II)で表される3位が保護されたトリオール誘導体は、3-ベンジルオキシ-エストラ-1,3,5(10),15-テトラエン-17-オールから出発して、特許出願WO2013/034780A2(Crystal Pharma)に記載される方法-反応スキーム7-に従って調製され得る。
【0025】
一般式(III)の化合物は、式(II)の化合物のアシル化およびそれらの精製によって得られる。
【0026】
一般式(IV)の化合物は、一般式(III)の化合物の脱ベンジル化によって得られる。
【0027】
式(I)のエステトロールは、一般式(IV)の化合物の塩基性加水分解によって調製される。
【0028】
本発明はまた、上記方法の一般式(III)および(IV)の中間体に関する。
【0029】
本発明はさらに、医薬組成物の調製のための、本発明による方法によって得られる式(I)のエステトロールの使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、式(I)のエステトロール、その誘導体であって、一般式(III)で表される3位、15α位、16α位、17β位が保護された当該誘導体、およびその3-ヒドロキシ誘導体であって、一般式(IV)で表される15α位、16α位、17β位が保護された当該誘導体の調製方法、さらにこの方法において使用される一般式(III)および(IV)の中間体に関する。
【0031】
本発明の産業的方法は、下記反応スキームに従って、式(II)の化合物から出発して、式(I)のエステトロールを調製することである。なお、Rは、メチル基または水素を示す。
【化12】
【0032】
式(II)で表される3位が保護されたトリオール誘導体は、特許出願WO2013/034780A2(Crystal Pharma)に記載される方法に従って調製され得る、即ち、上記公報に開示される例示化合物7、3-ベンジルオキシ-エストラ-1,3,5(10),15-テトラエン-17-オールは、水混和性溶媒、例えば2-ブタノン、アセトン、テトラヒドロフラン、tert-ブタノール中、好ましくは2-ブタノン中で、場合により、共酸化剤、例えばトリアルキルアミンN-オキシド、例えばトリメチル-アミンN-オキシドまたはトリエチル-アミンN-オキシドの存在下で、酸化剤、例えばオスミウム酸カリウムまたは四酸化オスミウムで酸化される。
【0033】
工程(a) 15,16,17-トリオール誘導体のアシル化
本発明による方法の工程a)では、一般式(III)で表される3位、15α位、16α位、17β位が保護されたエステトロール誘導体が、単離されている又は単離されていない、式(II)で表される3位が保護された15,16,17-トリオール誘導体を、適切な反応物質を用いて、適切な溶媒中でアシル化することによって得られる。
【0034】
アシル化において使用される溶媒は、脂肪族および芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル、ならびにエーテル、好ましくは、水不混和性溶媒、例えば、トルエン、ジクロロメタンまたは酢酸エチルからなる群から選択される溶媒である。
【0035】
一実施形態では、Rがメチルの場合にアシル化(アセチル化)のために使用される反応物質は、好ましくは、無水酢酸、塩化アセチルまたは臭化アセチルである。
【0036】
別の実施形態では、Rが水素の場合にアシル化(ホルミル化)のために使用される反応物質は、好ましくは、酢酸-ギ酸混合無水物である。
【0037】
アシル化は、アミン塩基、好ましくは、ピリジンまたは4-ジメチルアミノピリジンの存在下で実施される。
【0038】
アシル化は、不活性雰囲気下で、好ましくは、N雰囲気下で実施される。
【0039】
一実施形態では、アシル化工程は、得られた式(III)の化合物を、C1~3アルコール、好ましくはメタノールから結晶化させることをさらに含む。
【0040】
別の実施形態では、工程(a)は、中間体-式(II)の化合物-の精製および/または単離なしでも、上述のジヒドロキシル化、これに続くアシル化を実施することができ、これにより依然良好な収率で高純度の最終生成物を得ることができる。これは、2つの工程間での精製および/または単離などの工程がもはや必要ないため、方法の工程数を低減させることが経済的利点および方法の単純化双方をもたらす産業的適用において特に有利である。
【0041】
本発明は、Rがメチルまたは水素である一般式(III)の化合物、即ち、三酢酸(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル(実施例1)、および三ギ酸(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル(実施例3)を提供する。
【0042】
工程(b) 3,15,16,17位が保護された誘導体の脱ベンジル化
本発明による方法の工程b)では、一般式(IV)で表される15α位、16α位、17β位が保護された3-ヒドロキシエステトロール誘導体が、一般式(III)で表される誘導体の3位のベンジル保護基を、移動水素化または接触水素化によって除去することによって得られる。
【0043】
一実施形態では、脱ベンジル化は、水素ガスを用いた接触水素化によって実施され、触媒は、パラジウムまたは支持体(炭素、酸化アルミニウムなど)にパラジウムを担持させたものからなる群から選択される。触媒は、好ましくは、Pd/Cである。接触水素化に使用される溶媒は、アルコール、エステルおよびケトンからなる群から選択され、好ましくは酢酸エチルである。
【0044】
別の実施形態では、脱ベンジル化は、シクロヘキセン試薬を用いた移動水素化によって実施される。移動水素化に使用される溶媒は、アルコール、好ましくはエタノールである。
【0045】
脱ベンジル化工程は、得られた一般式(IV)の化合物を、エステル、炭化水素、アルコール、またはそれらの混合物から、好ましくは、酢酸エチル/n-ヘプタンの混合物から結晶化させることをさらに含む。
【0046】
本発明は、Rが水素である一般式(IV)の化合物、即ち、三ギ酸(15α,16α,17β)-3-ヒドロキシエストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル(実施例4)を提供する。
【0047】
工程(c) 15,16,17位がアシル保護された誘導体の加水分解
本発明による方法の工程c)では、アルカリ媒体中で、一般式(IV)の誘導体を、適切な溶媒中のアルカリ炭酸塩またはアルカリ水酸化物を用いて脱保護することによって式(I)のエステトロールが、調製される。
【0048】
加水分解において使用される溶媒は、水、アルコール系溶媒、またはそれらの混合物、好ましくはC1~3アルコール、より好ましくはメタノールおよび水の混合物からなる群から選択される。
【0049】
一実施形態では、加水分解は、アルカリ炭酸塩またはアルカリ炭酸水素塩、好ましくは炭酸カリウムの存在下で実施される。
【0050】
別の実施形態では、加水分解は、アルカリアルコラート、例えばアルカリ金属アルコラート、またはアルカリ水酸化物、例えばアルカリ金属水酸化物、好ましくは水酸化ナトリウムまたは水酸化リチウムの存在下で実施される。
【0051】
上記に基づいて、当業者は、試薬、溶媒、温度、圧力および他の反応条件を容易に選択することができる。本発明の方法において使用される出発材料、試薬および溶媒は、市販されており、および/または当業者によって容易に調製され得る。実施例に開示される生成物の純度は、固定相として最も広く使用されるシリカゲル(例えば、Ascentis、Kintex)を使用し、また一般に使用される溶離液(例えば、水、メタノール、アセトニトリル)の多成分混合物をリニアグラジエントセットで使用し、当業者に公知の高速液体クロマトグラフ分離技法によって決定した。
【0052】
先行技術文献に記載の式(I)の化合物および式(II)で表される3位が保護された15α,16α,17β-トリオールは好ましくない結晶化特性を有するが、予期せぬことに、一般式(III)および(IV)の化合物は、良好に結晶化し、高い収率で精製され、異性体副生成物から高い選択性で分離され得る。
【0053】
本発明の実施に関して、工程(a)~(c)は、Rがメチル基である場合がより好ましい。
【0054】
本発明の別の実施形態は、医薬組成物の調製のための、上記方法によって得られる式(I)のエステトロールの使用である。
【0055】
用語「医薬組成物」(または「組成物」)は、薬学的に許容される賦形剤と共に、治療有効量で、患者、例えばそれを必要とするヒト、好ましくは閉経前または閉経後の女性に投与される活性成分、例えば式(I)の化合物を含む混合物または溶液を指す(WO2016/203006A1、WO2016/203009A1、WO2016/203044A1)。
【0056】
本発明の医薬組成物は、種々の剤形、例えば固体または液体の剤形で製剤化され得る。好ましくは、当該医薬組成物は、固体経口剤形、例えば錠剤(例えば、頬側、舌下、発泡性、チュアブル、口腔分散性(orodispersible))である。
【0057】
本発明において、式(I)の化合物は、単回用量または複数回用量で、薬学的に許容される賦形剤と共に共投与され得る。
【0058】
本発明はまた、1種以上の、好ましくは他の1種の活性成分と組み合わせて式(I)の化合物を含む医薬組成物に関する。組み合わせ組成物は、単一の投薬形態において、薬学的に許容される賦形剤と共に、また他の1種以上の活性成分と共に、式(I)の化合物を含む。他の活性成分は、好ましくはプロゲストーゲンの作用を有する化合物であり、例えば、プロゲステロン、レボノルゲストレル、ノルゲスチメート、ノルエチステロン、ジドロゲステロン、ドロスピレノン、3-ベータ-ヒドロキシ-デソゲストレル、エトノゲストレル、17-デスアセチル-ノルゲスチメート、19-ノルプロゲステロン、アセトキシプレグネノロン、アリルエストレノール、アナゲストン(anagestone)、クロルマジノン、シプロテロン、デメゲストン、デソゲストレル、ジエノゲスト、ジヒドロゲステロン(dihydrogesterone)、ジメチステロン、エチステロン、二酢酸エチノジオール、酢酸フルゲストン、ガストリノン(gastrinone)、ゲストデン、ゲストリノン、ヒドロキシ-メチルプロゲステロン、ヒドロキシプロゲステロン、リネストレノール、メドロゲストン、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、メレンゲストロール、ノメゲストロール、ノルエチノドレル、ノルゲストレル(d-ノルゲストレルおよびd1-ノルゲストレルが含まれる)、ノルゲストリエノン、ノルメチステロン(normethisterone)、キンゲスタノール、(17アルファ)-17-ヒドロキシ-11-メチレン-19-ノルプレグナ-4,15-ジエン-20-イン-3-オン、チボロン、トリメゲストン、アルゲストンアセトフェニド、ネストロン(nestorone)、プロメゲストン、17-ヒドロキシプロゲステロンエステル、19-ノル-17-ヒドロキシプロゲステロン、17-アルファ-エチニル-テストステロン、17-アルファ-エチニル-19-ノル-テストステロン、d-17ベータ-アセトキシ-13ベータ-エチル-17-アルファ-エチニル-ゴナ-4-エン-3-オン-オキシムが挙げられるがこれらに限定されない。より好ましくは、プロゲストーゲンの作用を有する化合物はドロスピレノンである。他の活性成分は、カルシウムまたはビタミン、好ましくは、例えば、ビタミンDであってもよい。
【0059】
所望の治療効果を達成するために必要とされる投薬量は、広い制限内で変動し、疾患の重症度、治療される患者の状態および体重、活性成分に対する感受性、投与の経路、ならびに毎日の治療の数を考慮して、各ケースにおける個別の要件に適応され得る。本発明による式(I)の活性成分を含む医薬組成物は、一般に、1投薬単位当たり、0.01~20mg、好ましくは1.5mg~15mg、より好ましくは15mgの活性成分を含む。組成物が他の活性成分としてドロスピレノンを含む場合、この組成物は、一般に、1投薬単位当たり、0.01~10mg、好ましくは1.5mg~5mg、より好ましくは3mgのドロスピレノンを含む。組み合わせ組成物は、ビタミンDを含んでいてもよい。
【0060】
本発明の医薬組成物は、公知の方法によって、例えば、造粒(湿式もしくは乾式)または圧縮によって調製され得る。本発明の医薬組成物は、1種以上の生理学的に(または薬学的に)許容される賦形剤を使用して、従来の方法で製剤化され得る。当該分野で周知の任意の技法および賦形剤を使用することができ、かかる賦形剤は、例えば、錠剤賦形剤、錠剤バインダー、放出改変剤、崩壊剤、流動促進剤、滑沢剤、甘味料、香味剤、調味料またはコーティング材料であるがこれらに限定されないカテゴリーから選択される。適切な薬学的賦形剤の例は、デンプン、微結晶性セルロース、タルク、グルコース、ラクトース、ゼラチン、シリカ、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、セルロース誘導体、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどである。上記賦形剤および調製方法は、代表例に過ぎない。当該分野で公知の他の材料および方法もまた使用され得る。
【0061】
本発明のある実施形態は、ホルモン補充療法、腟乾燥を治療する方法、更年期障害(例えば、のぼせ、寝汗)を治療する方法、避妊の方法、性欲を増強する方法、皮膚を治療する方法、創傷治癒を促進する方法、自己免疫障害、乳房腫瘍、前立腺がん、および結腸直腸腫瘍を治療もしくは予防する方法のための、または神経保護における使用のための、医薬を製造するための、上記方法によって得られる式(I)のエステトロールの使用である。
【0062】
本発明の別の実施形態は、好ましくは、避妊における使用のための医薬を製造するための、上記方法によって得られる式(I)のエステトロールの使用であり、より好ましくはドロスピレノン(WO 2019/154899 A1)と組み合わせた使用である。
【0063】
本発明のさらなる実施形態は、好ましくは、ホルモン補充療法における使用のための医薬を製造するための、上記方法によって得られる式(I)のエステトロールの使用である。
【0064】
本発明の別の実施形態は、好ましくは、神経保護(例えば、新生児脳症)における使用のための医薬を製造するための、上記方法によって得られる式(I)のエステトロールの使用である。
【0065】
本発明の別の実施形態は、更年期障害の治療における使用のための医薬を製造するための、上記方法によって得られる式(I)のエステトロールの使用であり、より好ましくはドロスピレノンおよびビタミンDと組み合わせた使用である。
【0066】
参照例
WO2013/034780A2(Crystal Pharma)に従う((15ξ,16ξ,17β)-エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,15,16,17-テトロール)のエステトロール異性体混合物の調製
a)シス-ヒドロキシル化
(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリオールおよび(15β,16β,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリオール
20.0g(55.5mmol)の3-ベンジルオキシ-エストラ-1,3,5(10),15-テトラエン-17-オール(WO2004/041839(Pantarhei)、実施例7)を、N雰囲気下で20~25℃で、1400mLのテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、tert-ブタノール中2w/v%の四酸化オスミウム(OsO)(280mgのOsO含量)14mLおよび11gのN-メチルモルホリンN-オキシドおよび150mLの水からなる溶液を、反応混合物に添加し、N雰囲気下で20~25℃で24時間攪拌した。反応をTLC(n-ヘプタン:アセトン1:1)によってモニタリングした。
【0067】
ワークアップ:得られた溶液に、140mlの5%Na溶液を滴加し、これに100mgの活性炭素を添加し、混合物を30分間攪拌した。この混合物を、セライトパッドを用いて濾過する。濾液から有機溶媒を蒸留して除き、400mLのジクロロメタンを添加した。相分離した。有機相を、200mLの10%塩酸で洗浄し、200mLの飽和塩化ナトリウムの溶液で洗浄し、次いで乾燥させ、濃縮した。濃縮残渣を200mLのメタノールに溶解させ、0~5℃で2Lの水に滴加し、1時間攪拌し、濾過し、結晶をフィルター上で20mLの水で洗浄した。材料を真空下で40℃で乾燥させて一定重量にした。19.68g(89.86%)の黄色がかった白色結晶が得られた。
【0068】
純度(HPLC):85.18% ααβ-異性体、5.43% βββ-異性体(面積)(比率94.0:6.0)
【0069】
(15ξ,16ξ,17β)-エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,15,16,17-テトロールは、有機溶媒中で、典型的には、炭化水素、エーテル、エステル、アルコールまたはそれらの混合物中でそれを再結晶化させる間に、固まった(結晶がくっつき、これにより、材料が濾過および回収されるのを防止し、したがって、精製されるのを防止する)。典型的には、化合物は、水、または水混和性溶媒(典型的にはアルコール)の混合物から結晶化させられるだけであり得るが、この場合、異性体比の改善に関して有意な変化は達成され得ない。
【0070】
b)水素化
(15α,16α,17β)-エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリオールおよび(15β,16β,17β)-エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリオール
19.5gの(15ξ,16ξ,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリオールを、N雰囲気下で20~25℃で、400mLのメタノールに溶解させた。2.0gの10%Pd/C触媒を、100mLの急速冷凍されたメタノールに懸濁し、次いで、溶液に添加した。N雰囲気をH雰囲気に交換し、反応混合物を、大気圧下で20~25℃で6時間攪拌した。
【0071】
ワークアップ:触媒を濾過して除き、反応混合物を、減圧下で45mLに濃縮し、45mLの水を添加し、混合物を0~5℃で1時間攪拌し、次いで濾過し、フィルター上で20mLの水で2回洗浄し、乾燥させて一定重量にし、こうして、14.5g(96.67%)の白色結晶性生成物が得られた。
【0072】
純度(HPLC):87.53% ααβ-異性体、5.46% βββ-異性体(面積)(比率94.13:5.87)
【0073】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに示される。上記説明および実施例から、当業者は、本発明の本質的特徴を確認することができ、その思想および範囲から逸脱することなく、本発明を種々の用途および状況に適応させるために、特定の変更および改変を行うことができる。結果として、本発明は、以下に記載される例示的な実施例に限定されず、添付の特許請求の範囲の記載に限定される。
【実施例
【0074】
実施例1
三酢酸(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル
方法A(単離あり)
a.)シス-ヒドロキシル化
(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリオールおよび(15β,16β,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリオール
40mgのオスミウム酸カリウム二水和物(KOsO.2HO)を、N雰囲気下で20~25℃で、100mLの2-ブタノン(メチルエチルケトン)中に懸濁し、これに7.7mLの純水および1.1gのトリメチル-アミンN-オキシド二水和物を添加した。2.0g(5.5mmol)の3-ベンジルオキシ-エストラ-1,3,5(10),15-テトラエン-17-オール(WO2004/041839(Pantarhei)、実施例7)を、40mLの2-ブタノン中に溶解させ、反応混合物に滴加した。次いで、反応混合物を、N雰囲気下で20~25℃で28時間攪拌した。反応を、TPLC(n-ヘプタン:アセトン1:1)によってモニタリングした。
【0075】
ワークアップ:25mLの10%Na溶液を上記混合物に添加し、その後、100mgの活性炭素を添加し、次いで、1時間攪拌した。セライトパッドを用いて濾過し、次いで、EtOAcおよび10%のHCl溶液を添加した。相分離し、水相をEtOAcで抽出した。合わせた有機相を、飽和NaClおよび10%Na溶液で洗浄した。NaSOで乾燥させ、濾過し、次いで濃縮した。こうして、1.8g(81.8%)の生成物が得られた。
【0076】
純度(HPLC):85.0% ααβ-異性体、9.9% βββ-異性体(面積)(比率89.6:10.4)
【0077】
b)アシル化
三酢酸(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリオール
1.0g(2.53mmol)の(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリオールを、N雰囲気下で15mLのジクロロメタン中に溶解させた。1.5mLのトリエチル-アミン、6.0mLの酢酸、および72mgの4-ジメチルアミノピリジンを添加し、2時間攪拌した。反応をTLC(トルエン:アセトン4:1)によってモニタリングした。
【0078】
ワークアップ:3mLのエタノールを上記混合物に滴加し、30分間攪拌し、次いで、10%NaHCO溶液を添加し、さらに30分間攪拌した。相分離し、有機相を10%NaHCO溶液で2回洗浄し、次いで、飽和ブラインで洗浄した。NaSOで乾燥させ、濾過し、溶媒をMeOHに交換し、そこから結晶化させた。濾過および乾燥の後、1.2gの材料が得られた。適切な異性体比を得るために、生成物を、メタノールから2回再結晶化させ、こうして、1.1g(84.46%)の生成物が得られた。
【0079】
純度(HPLC):99.2% ααβ-異性体、0.14% βββ-異性体(面積)。
【0080】
方法B(単離なし)
a)シス-ヒドロキシル化
3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリオールの(15α,16α,17β)、(15β,16β,17β)異性体混合物
30.03g(83.3mmol)の3-ベンジルオキシ-エストラ-1,3,5(10),15-テトラエン-17-オール(WO2004/041839(Pantarhei)、実施例7)を、N雰囲気下で20~25℃で、480mLの2-ブタノン(メチルエチルケトン)中に溶解させ、次いで、600mgのオスミウム酸カリウム二水和物(KOsO.2HO)、48.0mLの純水、および16.5gのトリメチルアミンN-オキシド二水和物を添加した。次いで、反応混合物を、N雰囲気下で40~45℃で7時間攪拌した。反応をTLC(n-ヘプタン:アセトン1:1)によってモニタリングした。
【0081】
ワークアップ:300mLの10%(w/v)メタ重亜硫酸ナトリウム溶液(ピロ亜硫酸ナトリウム)を、40~45℃で上記混合物に滴加し、1時間攪拌した。次いで、スラリーを、セライトパッドを用いて濾過し、フィルターを2-ブタノンで洗浄した。次いで、2-ブタノンを、蒸留によって濾液から除去した。600.0mLの酢酸エチルおよび300mLの10%(w/v)炭酸水素ナトリウム溶液(30gのNaHCO)を残渣に添加し、数分間激しく攪拌し、次いで沈殿させた後、相分離した。水相を酢酸エチルで2回洗浄した。合わせた有機相を、1%(w/v)EDTA-四Na塩溶液および飽和ブラインの混合物で洗浄した。相分離後、酢酸エチル有機相を濃縮して450mLの最終体積にし、それによって脱水も行った。生成物は単離せず、アシル化反応にさらに移した。
【0082】
b)アシル化
三酢酸(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル
72.0mLの無水酢酸、48mLのトリエチルアミン、および1.8gの4-ジメチルアミノピリジンを、工程a)で得られた酢酸エチル溶液に添加し、その後、N雰囲気下で35~40℃で3時間攪拌した。反応をTLC(トルエン:アセトン4:1)によってモニタリングした。
【0083】
ワークアップ:24mLのエタノールを上記混合物に滴加し、30分間攪拌し、次いで、20~25℃に冷却し、その後、240mLの純水および60mLの10%(w/v、d=1.047、17.88g cc.HCl)塩酸溶液を添加し、数分間激しく攪拌し、次いで沈殿させた後、相分離した。水相を酢酸エチルで抽出した。合わせた有機相を、10%(w/v)炭酸水素ナトリウム溶液および飽和ブラインの混合物で洗浄し、相分離した。有機相を、NaSOで乾燥させ、アルミナ、シリカゲル、および活性炭素を用いて清澄化し、20~25℃で1時間攪拌した。次いで、清澄剤を濾過して除き、フィルターを酢酸エチルで洗浄した。
【0084】
濾液を減圧下で濃縮し、次いで、溶媒を濃縮し、蒸留して、溶媒をメタノールに交換し、最後に、材料を純粋なメタノールから結晶化させた。得られた粗生成物を、乾燥させずに再結晶化させた。
【0085】
c)再結晶化
工程b)で得られた粗生成物を、ジクロロメタン中に溶解させ、メタノールを蒸留して除き、最後に、純粋なメタノールから結晶化させた。この操作をもう一回繰り返した。こうして、30.4g(69.8%)の白色結晶が得られた。
【0086】
純度(HPLC):99.2% ααβ-異性体、0.14% βββ-異性体(面積)。
Mp.:156.5~157.5℃。
EI-HRMS:C3136[M]についての計算値:520.24555;実測値:520.24459;デルタ=-1.86ppm。
H NMR(499.9MHz,CDCl) δ=5.39(1H,dd,J=8.4Hz,J=6.6Hz,H-16),5.16(1H,dd,J=10.4Hz,J=8.4Hz,H-15),5.01(1H,d,J=6.6Hz,H-17),2.08(3H,s,17-アセチル),2.06(3H,s,15-アセチル),2.04(3H,s,16-アセチル),0.94(3H,s,H-18)
13C NMR(125.7MHz,CDCl) δ=169.8(17-アセチル CO C-20),169.0(15-アセチル CO),168.7(16-アセチル CO),83.1(C-17),72.5(C-16),69.8(C-15),51.4(C-14),39.2(C-13),19.9(17-アセチル-CH),19.7(15-アセチル-CH),19.6(16-アセチル-CH),13.5(C-18)
【0087】
実施例2
三酢酸(15α,16α,17β)-3-ヒドロキシエストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル
方法A
25.7g(49.36mmol)の三酢酸(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル(実施例1)を、N雰囲気下で20~25℃で、315mLの酢酸エチル中に溶解させた。770mgの10%パラジウム炭素触媒を、19mLの急速冷凍された酢酸エチル中に懸濁し、次いで、上記溶液に添加した。N雰囲気をH雰囲気に交換し、反応混合物を大気圧下で20~25℃で3時間攪拌した。
【0088】
ワークアップ:触媒を濾過して除き、酢酸エチルで洗浄し、減圧下で濃縮して最終体積にし、次いで、n-ヘプタンを添加し、懸濁物を0~5℃で1時間維持し、次いで、濾過し、結晶性生成物をフィルター上でn-ヘプタンで洗浄し、真空中で40℃で乾燥させて一定重量にした。こうして、19.88g(93.55%)の白色結晶性生成物が得られた。
【0089】
純度(HPLC):99.42% ααβ-異性体、0.04% βββ-異性体(面積)。
【0090】
方法B
0.5gの三酢酸(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル(実施例1)を、20~25℃で14mLのエタノール中に懸濁し、次いで、0.5mLのシクロヘキセンおよび38mgの10%Pd/C触媒を添加し、その後、還流温度で1時間攪拌した。反応をTLC(トルエン:アセトン4:1)によってモニタリングした。
【0091】
ワークアップ:触媒を反応混合物から濾過して除き、混合物を濃縮して乾燥させた。こうして、0.41g(99.17%)の白色結晶性生成物が得られた。
【0092】
純度(HPLC):97.99% ααβ-異性体、0.14% βββ-異性体(面積)。
Mp.:181.5~185.5℃
EI-HRMS:C2430[M]についての計算値:430.19860;実測値:430.19927;デルタ=1.55ppm。
H NMR(499.9MHz,CDCl) δ=5.41(1H,dd,J=8.4Hz,J=6.6Hz,H-16),5.18(1H,dd,J=10.5Hz,J=8.4Hz,H-15),5.03(1H,d,J=6.6Hz,H-17),(3H,s,17-アセチル),2.10(3H,s,15-アセチル),2.07(3H,s,16-アセチル),1.77(1H,t,J=11.1Hz,H-14),0.95(3H,s,H-18)
13C NMR(125.7MHz,CDCl) δ=170.9(17-アセチル CO),170.1(15-アセチル CO),169.8(16-アセチル CO),84.1(C-17),73.5(C-16),70.8(C-15),52.4(C-14),40.2(C-13),20.9(17-アセチル-CH),20.7(15-アセチル-CH),20.6(16-アセチル-CH),14.5(C-18)
【0093】
実施例3
三ギ酸(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル
5.00gの(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリオール(実施例1、方法「A」、工程a))を、73mLのピリジン中に溶解させ、0℃に冷却し、次いで、0℃に冷却した49mLのギ酸および18.3mLの無水酢酸で作製した混合無水物の混合物を、添加漏斗を用いて0℃~10℃の間で約25分間添加した。1時間攪拌した後、305mLの水を反応混合物に添加し、得られた白色沈殿物を濾過して除き、水で洗浄した。乾燥粗生成物は5.65g(93.23%)の重量であった。
【0094】
粗生成物-実施例1方法B工程c)に従う-を、メタノールから再結晶化させて、3.92g(69.4%)の純粋な表題生成物を白色結晶として得た。
【0095】
純度(HPLC):99.2% ααβ-異性体、0.05% βββ-異性体(面積)。
Mp.:153.5~154.3℃
EI HRMS:M=478.19866;デルタ=0.06ppm;C2830
H NMR(499.9MHz,CDCl) δ=5.41(1H,dd,J=8.4Hz,J=6.6Hz,H-16),5.18(1H,dd,J=10.5Hz,J=8.4Hz,H-15),5.03(1H,d,J=6.6Hz,H-17),(3H,s,17-アセチル),2.10(3H,s,15-アセチル),2.07(3H,s,16-アセチル),1.77(1H,t,J=11.1Hz,H-14),0.95(3H,s,H-18)
13C NMR(125.7MHz,CDCl) δ=170.9(17-アセチル CO),170.1(15-アセチル CO),169.8(16-アセチル CO),84.1(C-17),73.5(C-16),70.8(C-15),52.4(C-14),40.2(C-13),20.9(17-アセチル-CH),20.7(15-アセチル-CH),20.6(16-アセチル-CH),14.5(C-18)
【0096】
実施例4
三ギ酸(15α,16α,17β)-3-ヒドロキシエストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル
5.0gの三ギ酸(15α,16α,17β)-3-(ベンジルオキシ)エストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル(実施例3)を、N雰囲気下で20~25℃で、150mLの酢酸エチル中に溶解させた。380mgの10%Pd/C触媒を、5mLの急速冷凍された酢酸エチル中に懸濁し、上記溶液に添加した。N雰囲気をH雰囲気に交換し、反応混合物を、大気圧下で20~25℃で4時間攪拌した。
【0097】
ワークアップ:触媒を濾過して除き、反応混合物を減圧下で濃縮して4分の1(38mL)にし、次いで、52mLのn-ヘプタンを添加した。0~5℃で1時間攪拌した後、それを濾過し、フィルター上で16mLのn-ヘプタンで2回洗浄し、乾燥させて一定重量にし、こうして、3.51g(94%)の白色結晶性生成物が得られた。
【0098】
純度(HPLC):99.42% ααβ-異性体、0.04% βββ-異性体(面積)。
Mp.:234~235℃
MS:M-H=387(ESI)
H NMR(499.9MHz,DMSO-d) δ=8.17(1H,s,17-ホルミル-H),8.09(1H,s,15-ホルミル-H),8.04(1H,s,16-ホルミル-H),5.52(1H,t,J=7.4Hz,H-16),5.24(1H,dd,J=10.1Hz,J=8.6Hz,H-15),5.11(1H,d,J=6.5Hz,H-17),0.99(3H,s,H-18)
13C NMR(125.7MHz,DMSO-d) δ=159.5(17-ホルミル-C),159.3(15-ホルミル-C),158.8(16-ホルミル-C),82.4(C-17),71.7(C-16),69.2(C-15),51.3(C-14),39.6(C-13),13.5(C-18)
【0099】
実施例5
エステトロール((15α,16α,17β)-エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,15,16,17-テトロール)
方法A
19.88g(46.18mmol)の三酢酸(15α,16α,17β)-3-ヒドロキシエストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル(実施例2)を、N雰囲気下で20~25℃で、596mLのメタノール中に懸濁し、次いで、19.88gの炭酸カリウムを一部ずつ添加し、3時間攪拌した。反応をTLC(n-ヘプタン:アセトン1:1)によってモニタリングした。
【0100】
ワークアップ:14.91mLのcc.酢酸を上記混合物に添加し、30分間攪拌し、298mLの水を添加した後、メタノールを蒸留によって除去し、次いで、沈殿した結晶を0~5℃で1時間維持し、濾過し、フィルター上で水で洗浄した。次いで、これを、真空下で40℃で乾燥させて一定重量にした。こうして、13.66g(97.22%)の白色結晶性生成物が得られた。
【0101】
純度(HPLC):99.67% ααβ-異性体、0.04% βββ異性体(面積)、全ての夾雑物<0.10%
【0102】
方法B
5g(12.87mmol)の三ギ酸(15α,16α,17β)-3-ヒドロキシエストラ-1,3,5(10)-トリエン-15,16,17-トリイル(実施例4)を、N雰囲気下で20~25℃で、150mLのメタノール中に懸濁し、次いで、5.34g(38.6mmol)の炭酸カリウムを一部ずつ添加し、3時間攪拌した。反応をTLC(n-ヘプタン:アセトン1:1)によってモニタリングした。
【0103】
ワークアップ:4mLの酢酸を上記混合物に添加し、30分間攪拌し、75mLの水を添加した後、メタノールを蒸留によって混合物から除去し、沈殿した結晶を0~5℃で1時間維持し、次いで、濾過し、フィルター上で5mLの0~5℃の水で2回洗浄した。次いで、これを、真空下で40℃で乾燥させて一定重量にした。こうして、3.80g(97%)の白色結晶性生成物が得られた。
【0104】
純度(HPLC):99.67% ααβ-異性体、0.04% βββ異性体(面積)、全ての夾雑物<0.10%
Mp.:240~243℃
EI-HRMS:C1824[M]についての計算値:304.16691;実測値:304.16716;デルタ=0.82ppm。
H NMR(499.9 MHz,DMSO-d) δ=4.86(1H,d,J=4.8Hz,OH(17)),4.61(1H,br s,OH(16)),4.26(1H,br d,J=3.3Hz,OH(15)),3.55-3.78(2H,m,H-16,15),3.25(1H,dd,J=5.7,4.7Hz,H-17),1.05(1H,dd,J=10.9Hz,J=9.4Hz,H-14),0.67(3H,s,H-18)
13C NMR(125.7MHz,DMSO-d) δ=86.3(C-17),75.0(C-16),69.2(C-15),55.5(C-14),39.5(C-13),14.0(C-18)