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  • 特許-組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/15 20170101AFI20230418BHJP
   C01B 33/40 20060101ALI20230418BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20230418BHJP
   C09K 11/70 20060101ALI20230418BHJP
   C09K 11/65 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C01B32/15
C01B33/40
C09K11/08 A ZNM
C09K11/08 G
C09K11/70
C09K11/65
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022524887
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2021005142
(87)【国際公開番号】W WO2021235024
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2020088985
(32)【優先日】2020-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】葛尾 巧
(72)【発明者】
【氏名】坂部 宏
【審査官】中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-214604(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039079(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/039080(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106318389(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106318387(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106365143(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C01B 33/36-33/46
C09K 11/00-11/89
B82Y 40/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性基を有する有機化合物、ホウ素化合物、および層状粘土鉱物を、それぞれ固体の状態で混合して混合物を調製する工程と、
固体状の前記混合物を加熱し、ホウ素をヘテロ原子として含むホウ素含有炭素量子ドット、および層状粘土鉱物、を含む組成物を得る工程と、
を有する、組成物の製造方法。
【請求項2】
前記反応性基を有する有機化合物は、カルボン酸、アルコール、フェノール類、アミン化合物、および糖類からなる群から選ばれる少なくとも一種である、
請求項1に記載の組成物の製造方法。
【請求項3】
前記反応性基を有する有機化合物は、カルボン酸とアミン化合物との組合せである、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
反応性基を有する有機化合物およびホウ素化合物を、それぞれ固体の状態で混合して混合物を調製する工程と、
固体状の前記混合物を加熱し、ホウ素をヘテロ原子として含むホウ素含有炭素量子ドットを得る工程と、
前記ホウ素含有炭素量子ドットおよび層状粘土鉱物を混合する工程と、
を有する、組成物の製造方法。
【請求項5】
前記反応性基を有する有機化合物は、カルボン酸、アルコール、フェノール類、アミン化合物、および糖類からなる群から選ばれる少なくとも一種である、
請求項4に記載の組成物の製造方法。
【請求項6】
前記反応性基を有する有機化合物は、カルボン酸とアミン化合物との組合せである、
請求項4に記載の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素原子をヘテロ原子として含むホウ素含有炭素量子ドットを含み、かつ室温で固体状の組成物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素量子ドットは粒子径が数nm~数10nm程度の安定な炭素系微粒子である。炭素量子ドットは、良好な蛍光特性を示すことから、太陽電池、ディスプレイ、セキュリティインク等のフォトニクス材料としての用途が期待されている。また、低毒性で生体親和性も高いため、バイオイメージング等の医療分野への応用も期待されている。
【0003】
炭素量子ドットに各種機能を付与するため、従来、炭素量子ドットにホウ素原子をドープしたホウ素含有炭素量子ドットが提案されている。例えば特許文献1には、ホウ素含有炭素量子ドットを利用したグルコースセンサーが記載されており、特許文献2には、イメージング試薬が記載されている。さらに、特許文献3には、ホウ素含有炭素量子ドットを利用した水素生成光触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】中国特許出願公開第103881708号明細書
【文献】米国特許公開第2019/0184037号明細書
【文献】中国特許出願公開第105329876号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1~3のホウ素含有炭素量子ドットは、いずれも溶媒に分散されている。これらのホウ素含有炭素量子ドットを固体状態で使用しようとすると、凝集が生じ、発光効率が低下する、という課題があった。さらに、ホウ素含有炭素量子ドットを様々な環境で使用するためには、室温だけでなく、高温でも安定であることが求められている。しかしながら、従来のホウ素含有炭素量子ドットでは、高温において劣化や分解が進行しやすく、これによっても発光効率が低下しやすい、という課題があった。
【0006】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものである。本願は、ホウ素含有炭素量子ドットを含み、室温で固体状であり、発光効率が良好であり、さらには高温での熱安定性が高い組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の組成物を提供する。
ホウ素をヘテロ原子として含むホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含み、25℃、1気圧において固体である、組成物。
【0008】
本発明は、以下の組成物の製造方法を提供する。
反応性基を有する有機化合物、ホウ素化合物、および層状粘土鉱物の混合物を調製する工程と、前記混合物を加熱し、ホウ素をヘテロ原子として含むホウ素含有炭素量子ドット、および層状粘土鉱物、を含む組成物を得る工程と、を有する、組成物の製造方法。
【0009】
本発明は、以下の組成物の製造方法も提供する。
反応性基を有する有機化合物およびホウ素化合物の混合物を調製する工程と、前記混合物を加熱し、ホウ素をヘテロ原子として含むホウ素含有炭素量子ドットを得る工程と、前記ホウ素含有炭素量子ドットおよび層状粘土鉱物を混合する工程と、を有する、組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物は、ホウ素含有炭素量子ドットを含み、室温で固体状であり、発光効率が良好であり、さらには高温での熱安定性が高い。したがって、各種用途に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例7で調製した組成物の赤外線吸収スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「~」で示す数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を含む数値範囲を意味する。
【0013】
本発明の組成物は、ホウ素原子をヘテロ原子として含むホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む。当該組成物は、25℃、1気圧において固体である。本明細書において、ホウ素含有炭素量子ドットとは、粒子径が1~100nmの、炭素を主に含む量子ドットであって、当該量子ドットの炭素鎖や炭素環の一部が、ホウ素に置換されたものをいう。当該ホウ素の有無は、例えばフーリエ変換赤外分光法、もしくはX線電子分光法により、確認できる。
【0014】
前述のように、ホウ素含有炭素量子ドットは、固体にすると凝集が生じやすく、固体では量子収率が低い、という課題があった。またさらに、耐熱性が十分でなく、高温で劣化や分解が生じやすいため、発光特性が低下しやすい、という課題があった。
【0015】
これに対し、本発明の組成物は、固体状のホウ素含有炭素量子ドットとともに層状粘土鉱物を含む。そのため、ホウ素含有炭素量子ドットが凝集し難く、高い耐熱性を示す。その理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0016】
層状粘土鉱物は、層間にイオンを有しており、極性を示す。一方、ヘテロ原子としてホウ素原子を導入したホウ素含有炭素量子ドットも、ホウ素によって極性を示す。このような層状粘土鉱物とホウ素含有炭素量子ドットとを十分に混合すると、ホウ素含有炭素量子ドットが層状粘土鉱物に担持された状態、すなわちホウ素含有炭素量子ドットが層状粘土鉱物中に微分散された状態となる。したがって、固体発光量子収率(固体蛍光量子収率)が上がると考えられる。
【0017】
また、ホウ素含有炭素量子ドットと層状粘土鉱物とが相互作用することで、ホウ素含有炭素量子ドット中の分子の運動がある程度抑制される。さらに、ホウ素含有炭素量子ドットが微分散されていることから、複数のホウ素含有炭素量子ドット間での反応が抑制される。したがって、組成物に熱がかかっても、ホウ素含有炭素量子ドットが分解反応し難く、耐熱性が非常に高くなる、と考えられる。
【0018】
ここで、本発明の組成物は、ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物とを含んでいればよいが、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、分散性を高めるための界面活性剤やホウ素含有炭素量子ドット以外の発光体等をさらに含んでいてもよい。
【0019】
(ホウ素含有炭素量子ドット)
上述のように、本発明の組成物が含むホウ素含有炭素量子ドットは、ヘテロ原子としてホウ素原子を含む。ホウ素含有炭素量子ドットが含むホウ素原子の量は、ホウ素含有炭素量子ドットの全ての原子の量に対して0.1~60質量%が好ましく、1~50質量%がより好ましい。ホウ素原子の量が当該範囲であると、ホウ素含有炭素量子ドットが極性を有しやすくなり、層状粘土鉱物との親和性が高まる。ひいては、組成物の量子収率が高まりやすくなる。ホウ素原子の量は、X線光電子分光法によって確認できる。ホウ素原子の量は、ホウ素含有炭素量子ドットを作製する際に使用するホウ素化合物の量と、炭素を含む有機化合物の量との比等によって調整できる。ホウ素含有炭素量子ドットの調製方法については、後で詳しく説明する。
【0020】
ここで、ホウ素含有炭素量子ドットは、ホウ素原子以外の原子をヘテロ原子としてさらに含んでいてもよい。ホウ素含有炭素量子ドットが含むヘテロ原子の例には、窒素原子、リン原子、硫黄原子、ケイ素原子、フッ素原子が含まれる。ホウ素含有炭素量子ドットは、これらを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0021】
ホウ素原子以外のヘテロ原子は、ホウ素含有炭素量子ドットを調製する際に、これらの元素を含む化合物を、ホウ素化合物や炭素を含む有機化合物と共に加熱することで導入できる。また、有機化合物もしくはホウ素化合物として、これらの元素を含む化合物を使用してもよい。
【0022】
ホウ素含有炭素量子ドットにおけるホウ素原子以外のヘテロ原子の量は、ホウ素含有炭素量子ドット中のホウ素原子の量に対して1~100モル%が好ましく、20~70モル%がより好ましい。ホウ素原子以外のヘテロ原子の量が当該範囲であると、ホウ素含有炭素量子ドットの発光波長等を所望の範囲に調整すること等ができる。なお、ホウ素原子以外のヘテロ原子の量は、X線光電子分光法によって確認できる。ホウ素原子以外のヘテロ原子の量は、ホウ素含有炭素量子ドットを作製する際に使用する化合物の量によって調整できる。
【0023】
また、ホウ素含有炭素量子ドットは、表面官能基を有することが好ましく、表面官能基は、ボロン酸、ボリン酸、ホウ酸エステル、ボロン酸エステル、およびボリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物由来の構造であることが好ましい。表面官能基の構造は、例えばフーリエ変換赤外分光法により、確認できる。
【0024】
ホウ素含有炭素量子ドットがこれらの表面官能基を有すると、ホウ素含有炭素量子ドット、ひいては組成物の溶媒等に対する分散性が良好になり、種々の用途に使用しやすくなる。ホウ素含有炭素量子ドットが有する表面官能基の種類は、例えばIRスペクトル等により特定できる。また、ホウ素含有炭素量子ドットが有する官能基は、ホウ素含有炭素量子ドットを調製する際に使用する、ホウ素を含む化合物の構造や、炭素を含む有機化合物の構造に由来し、これらを適切に選択することで、表面官能基を選択できる。
【0025】
ここで、ホウ素含有炭素量子ドットの発光波長は特に制限されないが、極大発光波長は350~650nmが好ましく、440~600nmがより好ましい。ホウ素含有炭素量子ドットの極大発光波長が可視光の範囲にあると、本発明の組成物を種々の用途に使用しやすくなる。ホウ素含有炭素量子ドットの発光波長や構造は、ホウ素含有炭素量子ドットの原料や、ホウ素含有炭素量子ドットの大きさ、層状粘土鉱物の種類、層状粘土鉱物の平均層間隔等に応じて定まる。
【0026】
なお、ホウ素含有炭素量子ドットを原子間力顕微鏡(AFM)により観察したときの断面図における高さは、1~100nmが好ましく、1~80nmがより好ましい。ホウ素含有炭素量子ドットの大きさが当該範囲であると、量子ドットとしての性質が十分に得られやすい。
【0027】
また、組成物中のホウ素含有炭素量子ドットの量は、1~80質量%が好ましく、10~75質量%がより好ましい。組成物中のホウ素含有炭素量子ドットの量が上記範囲であると、組成物から十分な発光が得られる。また、ホウ素含有炭素量子ドットの量が上記範囲であると、組成物内でホウ素含有炭素量子ドットが凝集し難くなり、組成物の安定性が高まる。
【0028】
(層状粘土鉱物)
層状粘土鉱物は、ケイ素、アルミニウム、酸素等が所定の構造で配列した結晶層の積層体であり、一般的に、結晶層どうしの間には、水や金属イオン、カリウムやマグネシウム、水、有機物等が取り込まれている。層状粘土鉱物は、アニオン交換性であってもよく、カチオン交換性であってもよい。
【0029】
層状粘土鉱物の例には、スメクタイト、層状複水酸化物、カオリナイト、および雲母等が含まれる。これらの中でもスメクタイトまたは層状複水酸化物が、ホウ素含有炭素量子ドットを担持するのに適した平均層間隔を有する点で好ましい。
【0030】
スメクタイトは、水等によって膨潤する粘土鉱物であり、その例には、サポナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、バイデライト、ノントロナイト、ソーコナイト、スティーブンサイト等が含まれる。
【0031】
一方、層状複水酸化物は、2価の金属酸化物に3価の金属イオンが固溶した複水酸化物であり、その例には、ハイドロタルサイト、ハイドロカルマイト、ハイドロマグネサイト、パイロオーライト等が含まれる。
【0032】
層状粘土鉱物は天然物であってもよく、人工物であってもよい。また、結晶層に含まれるヒドロキシ基がフッ素で置換されたものであってもよい。さらに、層間イオンがアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、アンモニウムイオン等で置換されたものであってもよい。また、層状粘土鉱物は、各種有機物によって修飾されていてもよく、例えば、四級アンモニウム塩化合物や四級ピリジニウム塩化合物で化学修飾されたスメクタイトであってもよい。
【0033】
組成物中の層状粘土鉱物の量は、20~99質量%が好ましく、25~90質量%がより好ましい。層状粘土鉱物の量が上記範囲であると、相対的にホウ素含有炭素量子ドットの量が十分に多くなり、十分な発光量が得られる。また、層状粘土鉱物の量が上記範囲であると、層状粘土鉱物によってホウ素含有炭素量子ドットを十分に担持でき、ホウ素含有炭素量子ドットの分散性が良好になりやすい。
【0034】
(組成物の調製方法)
上記ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む組成物の調製方法の例には、以下の2つの方法が含まれる。ただし、上記組成物の調製方法は、当該方法に限定されない。
【0035】
(1)第1の調製方法
第1の調製方法は、反応性を有する有機化合物、ホウ素化合物、および層状粘土鉱物の混合物を調製する工程(混合物調製工程)と、当該混合物を加熱し、上述の組成物を得る工程(焼成工程)と、を含む。当該方法では、層状粘土鉱物の存在下でホウ素含有炭素量子ドットを生成する。そのため、層状粘土鉱物の層間をテンプレートとして、ホウ素含有炭素量子ドットの大きさを調整しやすく、得られる組成物の固体蛍光量子収率が高まりやすい、という利点がある。以下、各工程について説明する。
【0036】
(1-1)混合物調製工程
混合物調製工程では、反応性を有する有機化合物と、ホウ素化合物と、層状粘土鉱物とを混合する。有機化合物は、反応性基を有し、炭化によって炭素量子ドットを生成可能な化合物であれば特に制限されない。本明細書において、「反応性基」とは、後述の焼成工程において、有機化合物どうしの重縮合反応等を生じさせるための基であり、ホウ素含有炭素量子ドットの主骨格の形成に寄与する基である。なお、ホウ素含有炭素量子ドットには、これらの反応性基の一部が残存してもよい。反応性基の例には、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、スルホ基、およびアミノ基等が含まれる。当該有機化合物は、ホウ素含有炭素量子ドットにおいて、ホウ素原子以外のヘテロ原子となる成分(例えば、リン原子や硫黄原子、ケイ素原子、フッ素原子等)を含んでいてもよい。なお、混合物調製工程では、二種以上の有機化合物を層状粘土鉱物と混合してもよい。この場合、複数の有機化合物は、互いに反応しやすい基を有することが好ましい。
【0037】
上記反応性基を有する有機化合物の例には、カルボン酸、アルコール、フェノール類、アミン化合物、および糖類が含まれる。有機化合物は、常温で固体状であってもよく、液体状であってもよい。
【0038】
カルボン酸は、分子中にカルボキシ基を1つ以上有する化合物(ただし、フェノール類、アミン化合物、または糖に相当するものは除く)であればよい。カルボン酸の例には、ギ酸、酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、α-リポ酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ポリアクリル酸、(エチレンジチオ)二酢酸、チオリンゴ酸、テトラフルオロテレフタル酸等の2価以上の多価カルボン酸;クエン酸、グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、5-スルホサリチル酸等のヒドロキシ酸;が含まれる。
【0039】
アルコールは、ヒドロキシ基を1つ以上有する化合物(ただし、カルボン酸、フェノール類、アミン化合物、または糖に相当するものは除く)であればよい。アルコールの例には、エチレングリコール、グリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アスコルビン酸、ポリエチレングリコール等の多価アルコールが含まれる。
【0040】
フェノール類は、ベンゼン環にヒドロキシ基が結合した構造を有する化合物であればよい。フェノール類の例には、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、フロログルシノール、ピロガロール、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、没食子酸、タンニン、リグニン、カテキン、アントシアニン、ルチン、クロロゲン酸、リグナン、クルクミン等が含まれる。
【0041】
アミン化合物の例には、1,2-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,4-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、尿素、チオ尿素、チオシアン酸アンモニウム、エタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、メラミン、シアヌル酸、バルビツール酸、葉酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド、グアニジン、アミノグアニジン、ホルムアミド、グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、グルタチオン、RNA、DNA、システアミン、メチオニン、ホモシステイン、タウリン、チアミン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、4,5-ジフルオロ-1,2-フェニレンジアミン等が含まれる。
【0042】
糖類の例には、グルコース、スクロース、グルコサミン、セルロース、キチン、キトサン等が含まれる。
【0043】
上記の中でも、縮合反応が効率的に進行する有機化合物が好ましく、好ましいものの一例として、カルボン酸、フェノール類、アミン化合物、もしくはカルボン酸とアミン化合物との組み合わせが挙げられる。
【0044】
一方、ホウ素を含むホウ素化合物の例には、ホウ素、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、酸化ホウ素、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリオクタデシル、ホウ酸トリフェニル、2-エトキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン、ホウ酸トリエタノールアミン、2,4,6-トリメトキシボロキシン、2,4,6-トリフェニルボロキシン、トリス(トリメチルシリル)ボラート、ホウ酸トリス(2-シアノエチル)、3-アミノフェニルボロン酸、2-アントラセンボロン酸、9-アントラセンボロン酸、フェニルボロン酸、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸、4,4’-ビフェニルジボロン酸、2-ブロモフェニルボロン酸、4-ブロモ-1-ナフタレンボロン酸、3-ブロモ-2-フルオロフェニルボロン酸、4-カルボキシフェニルボロン酸、3-シアノフェニルボロン酸、4-シアノ-3-フルオロフェニルボロン酸、3,5-ジフルオロフェニルボロン酸、4-(ジフェニルアミノ)フェニルボロン酸、3-フルオロフェニルボロン酸、3-ヒドロキシフェニルボロン酸、4-メルカプトフェニルボロン酸、1-ナフタレンボロン酸、9-フェナントレンボロン酸、1,4-フェニレンジボロン酸、1-ピレンボロン酸、2-アミノピリミジン-5-ボロン酸、2-ブロモピリジン-3-ボロン酸、2-フルオロピリジン-3-ボロン酸、4-ピリジルボロン酸、キノリン-8-ボロン酸、4-アミノフェニルボロン酸ピナコール、3-ヒドロキシフェニルボロン酸ピナコール、4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン、ジボロン酸、水素化ホウ素ナトリウム、テトラフルオロホウ酸ナトリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素等が含まれる。
【0045】
これらの中でも、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエタノールアミン、3-アミノフェニルボロン酸、フェニルボロン酸、3-シアノフェニルボロン酸、3-ヒドロキシフェニルボロン酸、4-メルカプトフェニルボロン酸、1,4-フェニレンジボロン酸、4-ピリジルボロン酸、ジボロン酸、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、三フッ化ホウ素、または三臭化ホウ素が好ましい。
【0046】
有機化合物とホウ素化合物との混合比は、ホウ素含有炭素量子ドットにおける所望のホウ素の含有量に合わせて適宜選択される。
【0047】
上述のように、ホウ素含有炭素量子ドットは、ホウ素原子以外のヘテロ原子を含んでいてもよく、本工程において、ホウ素原子以外の原子(例えば、窒素原子、リン原子や硫黄原子、ケイ素原子、フッ素原子等)を含む化合物(以下、「その他の化合物」とも称する)を、有機化合物やホウ素化合物と共に混合してもよい。
【0048】
窒素を含む化合物の例には、上記のアミン化合物の他、イミダゾール、1,2,4-トリアジン、1,3,5-トリアジン、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、が含まれる。
【0049】
リンを含む化合物の例には、リン単体、リン酸、酸化リン、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、フィチン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、O-ホスホリルエタノールアミン、塩化リン、臭化リン、ホスホノ酢酸トリエチル、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド、リン酸メチル、亜リン酸トリエチル、O-ホスホセリン、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、アデノシン5’-三リン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、グアニジンリン酸塩、グアニル尿素リン酸塩、が含まれる。
【0050】
また、硫黄を含む化合物の例には、硫黄、チオ硫酸ナトリウム、硫化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸、メタンスルホン酸、リグニンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、スルファニル酸、水硫化ナトリウム、が含まれ、ケイ素を含む化合物の例には、テトラクロロシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、1-(トリメチルシリル)イミダゾール、テトラエトキシシランが含まれ、さらにフッ素を含む化合物の例には、2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロ-1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、2-(ペルフルオロヘキシル)エタノール、フッ化ナトリウムが含まれる。
【0051】
上記有機化合物やホウ素化合物、その他の化合物の混合比は、ホウ素含有炭素量子ドットにおける所望のホウ素の含有量や、ホウ素原子以外のヘテロ原子の量に合わせて適宜選択される。
【0052】
一方、上記有機化合物やホウ素化合物、その他の化合物と組み合わせる層状粘土鉱物は、上述の層状粘土鉱物(組成物が含む層状粘土鉱物)と同様である。層状粘土鉱物は、有機化合物が有する反応性基の種類やホウ素化合物の種類、所望のホウ素含有炭素量子ドットの発光波長、すなわち所望のホウ素含有炭素量子ドットの粒子径等に合わせて、選択することが好ましい。例えば、アニオン交換性の層状粘土鉱物を選択してもよく、カチオン交換性の層状粘土鉱物を選択してもよい。
【0053】
一方、有機化合物やホウ素化合物と組み合わせる層状粘土鉱物の平均層間隔は、有機化合物の分子構造やホウ素化合物の分子構造、所望のホウ素含有炭素量子ドットの粒子径等に合わせて適宜選択されるが、0.1~10nmが好ましく、0.1~8nmがより好ましい。層状粘土鉱物の平均層間隔は、X線回折装置等によって解析できる。なお、層状粘土鉱物の平均層間隔とは、層状粘土鉱物の隣り合う結晶層の一方の底面と他方の天面との間隔をいう。前述のように、第1の調製方法において、ホウ素含有炭素量子ドットは、層状粘土鉱物の層間をテンプレートとして合成される。そのため、層状粘土鉱物の平均層間隔が、10nm以下であると、発光波長が所望の範囲のホウ素含有炭素量子ドットが得られやすくなる。一方で、平均層間隔が0.1nm以上であると、これらの間に有機化合物の一部が入り込みやすくなり、層状粘土鉱物の層間をテンプレートとして炭素量子ドットが形成されやすくなる。
【0054】
なお、層状粘土鉱物の平均層間隔を調整するため、層状粘土鉱物を水や各種溶媒によって膨潤させてもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。混合物(有機化合物とホウ素化合物と層状粘土鉱物と溶媒)中の溶媒の量は、10~80質量%が好ましく、10~70重量%がより好ましい。
【0055】
また、層状粘土鉱物を塩酸等の酸と接触させて、層間のナトリウムイオンをプロトンに置換した酸処理粘土鉱物を使用することもできる。
【0056】
ここで、有機化合物とホウ素化合物と層状粘土鉱物と、必要に応じてその他の化合物と、を混合する方法は、これらを均一に混合可能であれば、特に制限されない。例えば、乳鉢ですりつぶしながら混合したり、ボールミル等によって粉砕しながら混合したり、水や有機溶媒に溶解、混和あるいは分散させて混合したり、有機化合物またはホウ素化合物自体が液体である場合は、これらにその他の成分を溶解、混和あるいは分散させて混合したりしてもよい。液体状の混合物は乾燥させてもよいし、そのまま次の工程に用いてもよい。副反応を抑制する観点から、混合物は固体状であることが好ましい。有機化合物とホウ素化合物と層状粘土鉱物とをいずれも固体の状態で混合すると、有機化合物とホウ素化合物の一部が層状粘土鉱物の層間に入りこむことによって、適量が反応に供されると考えられ、より好ましい。層状粘土鉱物の層間は狭いため、有機化合物の集合体が形成されづらくなって、粒子径の揃った炭素量子ドットが調製されやすくなる。
【0057】
また、有機化合物やホウ素化合物、その他の化合物と層状粘土鉱物との混合比は、所望のホウ素含有炭素量子ドットと層状粘土鉱物との含有比に合わせて適宜選択される。
【0058】
(1-2)焼成工程
焼成工程は、上述の混合物を加熱し、有機化合物やホウ素化合物を層状粘土鉱物と共に焼成してホウ素含有炭素量子ドットと層状粘土鉱物とを含有する組成物を得る工程である。混合物の加熱方法は、有機化合物やホウ素化合物を反応させてホウ素含有炭素量子ドットを調製可能であれば特に制限されず、例えば加熱する方法や、マイクロ波を照射する方法等が含まれる。
【0059】
混合物を加熱する場合、加熱温度は70~700℃が好ましく、100~500℃がより好ましく、100~300℃がさらに好ましい。また、加熱時間は0.01~45時間が好ましく、0.1~30時間がより好ましく、0.5~10時間がさらに好ましい。加熱時間によって、得られるホウ素含有炭素量子ドットの粒子径、ひいては発光波長を調整できる。またこのとき、窒素等の不活性ガスを流通させながら非酸化性雰囲気で加熱を行ってもよい。
【0060】
マイクロ波を照射する場合、ワット数は1~1500Wが好ましく、1~1000Wがより好ましい。また、マイクロ波による加熱時間は0.01~10時間が好ましく、0.01~5時間がより好ましく、0.01~1時間がさらに好ましい。マイクロ波の照射時間によって、得られるホウ素含有炭素量子ドットの粒子径、ひいては発光波長を調整できる。
【0061】
当該焼成工程により、ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物とが均一に分散された組成物が得られる。またこのとき、当該組成物を有機溶媒で洗浄して、未反応物や副生物を除去して精製してもよい。
【0062】
(2)第2の方法
上述の組成物を調製する方法の第2の方法は、反応性基を有する有機化合物およびホウ素化合物の混合物を調製する工程(混合物調製工程)と、混合物を加熱し、ホウ素をヘテロ原子として含むホウ素含有炭素量子ドットを得る工程(焼成工程)と、ホウ素含有炭素量子ドットおよび層状粘土鉱物を混合する工程(組成物調製工程)と、を含む。当該方法では、ホウ素含有炭素量子ドットを調製した後、当該ホウ素含有炭素量子ドットを層状粘土鉱物と混合する。当該方法においても、ホウ素含有炭素量子ドットと層状粘土鉱物とを十分に混合することで、ホウ素含有炭素量子ドットを組成物中に微分散させることができる。以下、各工程について説明する。
【0063】
(2-1)混合物調製工程
混合物調製工程では、反応性基を有する有機化合物と、ホウ素を含むホウ素化合物とを混合し、混合物を調製する。必要に応じて、上述のその他の化合物を混合してもよい。有機化合物やホウ素化合物、その他の化合物については、上述の第1の方法で使用するものと同様である。また、有機化合物やホウ素化合物、その他の化合物を混合する方法は、これらを均一に混合可能であれば、特に制限されない。例えば、乳鉢ですりつぶしながら混合したり、ボールミル等によって粉砕しながら混合したり、水や有機溶媒に溶解、混和あるいは分散させて混合したり、有機化合物またはホウ素化合物自体が液体である場合は、これらにその他の成分を溶解、混和あるいは分散させて混合したりしてもよい。液体状の混合物は乾燥させてもよいし、そのまま次の工程に用いてもよい。副反応を抑制する観点から、混合物は固体状であることが好ましい。
【0064】
また、有機化合物、ホウ素化合物、およびその他の化合物との混合比は、ホウ素含有炭素量子ドット中のホウ素の量やホウ素原子以外のヘテロ原子の量に合わせて適宜選択される。
【0065】
(2-2)焼成工程
焼成工程は、上述の混合物調製工程で調製した混合物を加熱し、有機化合物やホウ素化合物を反応させてホウ素含有炭素量子ドットとする工程である。混合物の加熱方法は、有機化合物やホウ素化合物を反応させて、ホウ素含有炭素量子ドットを調製可能であれば特に制限されず、例えば加熱する方法や、マイクロ波を照射する方法等が含まれる。当該加熱方法や、マイクロ波の照射方法は、第1の調製方法の焼成工程と同様である。
【0066】
(2-3)組成物調製工程
上述の焼成工程で得られたホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物とを混合する。これにより、ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物とが均一に分散された炭素量子ドット含有組成物が得られる。ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物との混合は、乳鉢ですりつぶしながら行ってもよく、ボールミル等によって粉砕しながら混合したり、水や有機溶媒に分散させて混合したりしてもよい。水や有機溶媒は、混合後、乾燥等によって除去する。
【0067】
またこのとき、当該組成物を有機溶媒で洗浄して、未反応物や副生物を除去して精製してもよい。
【0068】
(用途)
上述のホウ素含有炭素量子ドットおよび層状粘土鉱物を含む組成物は、発光性が良好であったり、ホウ素含有炭素量子ドットが有する官能基を利用して特定物質を分離させる分離剤として有用であったりする。したがって、当該組成物は各種用途に利用可能である。
【0069】
また、上述の組成物の用途は、特に制限されず、炭素量子ドットの性能に合わせて、例えば太陽電池、ディスプレイ、セキュリティインク、量子ドットレーザ、バイオマーカー、照明材料、熱電材料、光触媒、特定物質の分離剤等に使用できる。
【0070】
なお、上述の組成物は、25℃、1気圧において固体であるが、これを溶媒等に分散させた溶液の状態で、各種用途に使用してもよい。
【実施例
【0071】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
[実施例1]
(1)組成物の調製
サポナイト(スメクトンSA、クニミネ工業社製)1.0gと、フロログルシノール二水和物0.15gと、ホウ酸0.057gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む組成物(複合体)を調製した。
【0073】
(2)発光特性の評価
上記で得られた組成物をKBrプレートに挟み、プレスして測定用サンプルを作製した。積分球ユニットILF-835付属の分光蛍光光度計FP-8500(日本分光社製)を用いて、当該測定用サンプルの固体状態での発光波長(極大発光波長)、蛍光量子収率を評価した。励起光は、組成物の蛍光量子収率が最大となる波長の光とした。
【0074】
(3)熱安定性の評価
熱重量分析装置TGA2(Mettler社製)を用いて、組成物の熱安定性を評価した。40ml/分の空気気流下、昇温速度10℃/分で測定を行い、測定開始から5%の重量が減少した温度を5%重量減少温度とした。
【0075】
[実施例2]
ハイドロタルサイト(富士フイルム和光純薬社製)0.5gと、クエン酸0.15gと、ジシアンジアミド0.1gと、ホウ酸0.048gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、170℃で1.5時間加熱し、ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性および熱安定性を評価した。
【0076】
[実施例3]
サポナイト0.5gと、クエン酸0.15gと、ジシアンジアミド0.1gと、四ホウ酸ナトリウム0.039gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、170℃で1.5時間加熱し、ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性および熱安定性を評価した。
【0077】
(層状粘土鉱物含有量の評価)
蛍光X線分析装置ZSX Primus IV(リガク社製)を用いて、組成物の元素分析を行った。組成物0.1gのケイ素由来のピーク強度と、原料として用いたサポナイト0.1gのケイ素由来のピーク強度とを比較し、組成物中の層状粘土鉱物含有量を評価した。結果を表2に示す。
【0078】
[実施例4]
クエン酸0.15gと、ホウ酸0.048gとを乳鉢ですりつぶした。当該混合物を、三方コックを取り付けた内容積50mlのフラスコに入れ、窒素気流下、170℃で90分加熱して炭素量子ドットを合成した。合成した炭素量子ドットを0.01g測り取り、サポナイト0.09gとともに乳鉢ですりつぶすことで両者を混合し、組成物を得た。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性および熱安定性を評価した。さらに、実施例3と同様に、組成物中の層状粘土鉱物含有量を評価した。結果を表2に示す。
【0079】
[実施例5]
サポナイト0.5gと、L-システイン塩酸塩一水和物0.15gと、ホウ酸0.055gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、170℃で1.5時間加熱し、ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0080】
[実施例6]
サポナイト0.1gと、フロログルシノール二水和物0.015gと、ホウ酸0.0057gと、酸化リン(V)0.004gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0081】
[実施例7]
サポナイト0.1gと、フロログルシノール二水和物0.04gと、ホウ酸0.015gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。また、実施例3と同様に、組成物中の層状粘土鉱物含有量を評価した。結果を表2に示す。
【0082】
(表面官能基の評価)
上述の組成物と臭化カリウムを乳鉢ですりつぶして混合し、この混合物を加圧成形して臭化カリウム錠剤を作製した。フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR-4100(日本分光社製)を用いて、当該臭化カリウム錠剤の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図1に示す。当該赤外吸収スペクトルの横軸は波数、縦軸は透過率である。
【0083】
[比較例1]
フロログルシノール二水和物0.15gと、ホウ酸0.057gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、ホウ素含有炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、調製した炭素量子ドットの発光特性および熱安定性を評価した。
【0084】
[比較例2]
クエン酸0.15gと、ジシアンジアミド0.1gと、ホウ酸0.048gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、170℃で1.5時間加熱し、ホウ素含有炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、調製した炭素量子ドットの発光特性および熱安定性を評価した。
【0085】
[比較例3]
サポナイト1.0gと、フロログルシノール二水和物0.15gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性および熱安定性を評価した。
【0086】
[比較例4]
フロログルシノール二水和物0.15gを内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、炭素量子ドットを合成した。
【0087】
[比較例5]
クエン酸0.15gと、ホウ酸0.048gとを乳鉢ですりつぶした。当該混合物を、三方コックを取り付けた内容積50mlのフラスコに入れ、窒素気流下、170℃で90分加熱して炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性、熱安定性を評価した。
【0088】
[比較例6]
クエン酸0.15gと、ジシアンジアミド0.1gと、四ホウ酸ナトリウム0.039gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、170℃で1.5時間加熱し、ホウ素含有炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性および熱安定性を評価した。
【0089】
[比較例7]
L-システイン塩酸塩一水和物0.15gと、ホウ酸0.055gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、170℃で1.5時間加熱し、ホウ素含有炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0090】
[比較例8]
内容積15mlのねじ口試験管内で、サポナイト1.0gに対して、フルフリルアルコール(液体)0.15gを含侵させ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
上記表1に示されるように、ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物とを含む実施例1~7では、ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物との混合方法にかかわらず、固体蛍光量子収率が高かった。
【0094】
例えば、ホウ素含有炭素量子ドットのみからなる比較例1と炭素量子ドット(ホウ素含まず)と、層状粘土鉱物とを含む比較例3とを比較すると、ホウ素含有炭素量子ドットのほうが、固体蛍光量子収率が低く、さらには耐熱性も非常に低い。しかしながら、当該ホウ素含有炭素量子ドットをサポナイトと混合した実施例1では、耐熱性が非常に高く、かつその固体蛍光量子収率も高い。層状粘土鉱物と混合することで、ホウ素含有炭素量子ドットの安定性が高まり、さらには耐熱性も高まったといえる。また、比較例2と実施例2との比較、実施例3と比較例6との比較、実施例4と比較例5との比較、さらに実施例5と比較例7との比較においても、同様の結果が見られた。なお、比較例4の炭素量子ドットは発光が確認できなかった。
【0095】
また、室温で液状の材料(フルフリルアルコール)を用いて、炭素量子ドット(ホウ素含まず)と層状粘土鉱物とを含む組成物を調製した場合、発光が確認できなかった(比較例8)。
【0096】
また、図1に示すように、実施例7で調製した組成物の赤外吸収スペクトルにおいて、1387cm-1付近にホウ酸エステルのB-O結合に由来すると考えられる吸収ピークが観察された。このことから、ホウ素含有炭素量子ドットの表面官能基としてホウ酸エステルが存在すると考えられる。
【0097】
さらに、表2に示されるように、実施例3、4、7では、層状粘土鉱物の量が、組成物の量に対して20~99質量%であり、いずれも固体発光量子収率が高かった。
【0098】
[実施例8~9]
サポナイト、クエン酸(実施例9は使用無し)、ジシアンジアミド、およびホウ酸を表3に示す質量比で秤量して混合し、乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、表3に示す温度と時間で加熱し、ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0099】
[実施例10~14]
(1)酸処理粘土鉱物の調製
サポナイト(スメクトンSA、クニミネ工業社製)5.0gをイオン交換水250mLに分散させ、撹拌下、塩酸を加えてpH4とした水分散液を3日静置した。次に、水分散液を1300rpmで10分間遠心分離し、得られたゲル状固体をイオン交換水に再分散させ、再度遠心分離を行う操作を繰り返し行った。回収したゲル状固体を90℃で真空乾燥し、白色固体(以下、酸処理サポナイトという)を得た。
【0100】
(2)組成物の調製
上記のように調製した酸処理サポナイト、クエン酸(実施例14は使用無し)、ジシアンジアミド、およびホウ酸を表3に示す質量比で秤量して混合し、乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、表3に示す温度と時間で加熱し、ホウ素含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0101】
【表3】
【0102】
表3に示されるように、仕込みのホウ酸量の増加にともなって固体発光量子収率が向上する傾向があり、さらに酸処理サポナイト(実施例10~14)の方が未処理のサポナイト(実施例8および9)よりも固体発光量子収率が向上する傾向、がみられた。
【0103】
本出願は、2020年5月21日出願の特願2020-088985号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の組成物は、ホウ素含有炭素量子ドットの発光効率が良好であり、さらには高温での熱安定性が高い。したがって、当該組成物を各種用途に使用可能である。
図1