(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルス剤組成物、抗菌・抗ウイルス性構造体、及び、抗菌・抗ウイルス性構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 57/12 20060101AFI20230418BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20230418BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230418BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230418BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230418BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
A01N57/12 E
A01N25/10
A01N57/12 Z
A01P1/00
A01P3/00
C09D7/63
C09D201/00
(21)【出願番号】P 2022550183
(86)(22)【出願日】2022-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2022029827
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2021129260
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】坂下 真一
(72)【発明者】
【氏名】梅村 深雪
(72)【発明者】
【氏名】堀口 泰士郎
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表昭61-502058(JP,A)
【文献】特表平02-504401(JP,A)
【文献】国際公開第2011/080207(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/013494(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/076334(WO,A1)
【文献】特表2004-532942(JP,A)
【文献】特開昭63-264523(JP,A)
【文献】特開昭63-264509(JP,A)
【文献】特開昭63-258812(JP,A)
【文献】特開昭63-258811(JP,A)
【文献】特開昭63-258802(JP,A)
【文献】特表平07-500607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるリン酸モノエステル又はその塩と、
下記一般式(2)で表されるリン酸ジエステル又はその塩と、
の少なくとも一方を含み、且つ、
水系ポリウレタン樹脂及び水系アクリル樹脂のうちの少なくとも一方である水系樹脂と水とを含
む、
抗菌・抗ウイルス剤組成物。
【化1】
【化2】
式(1)及び(2)において、
R
1、R
2及びR
3は、各々独立して、
分岐を有する炭素数8~20のアルキル基であり、
A
1、A
2及びA
3は、各々独立して、炭素数2~4のアルキレン基であり、
x、y及びzは、各々独立して、0~10の整数である。
【請求項2】
前記水系ポリウレタン樹脂及び前記水系アクリル樹脂を両方含む、
請求項1に記載の抗菌・抗ウイルス剤組成物。
【請求項3】
前記水系樹脂を0.01質量%以上50質量%以下含む、
請求項1に記載の抗菌・抗ウイルス剤組成物。
【請求項4】
基材と、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルス剤組成物と、
を備える、抗菌・抗ウイルス性構造体。
【請求項5】
前記抗菌・抗ウイルス剤組成物が前記水系ポリウレタン樹脂を含み、
前記基材に対する前記水系ポリウレタン樹脂の付着量が、0.01g/m
2以上20g/m
2以下である、
請求項
4に記載の抗菌・抗ウイルス性構造体。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルス剤組成物を基材に接触させること、
を含む、抗菌・抗ウイルス性構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は抗菌・抗ウイルス剤組成物、抗菌・抗ウイルス性構造体、及び、抗菌・抗ウイルス性構造体の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
界面活性剤を有効成分とする種々の抗菌・抗ウイルス剤組成物が公知である。例えば、特許文献1には、ドデシル硫酸ナトリウムを有効成分とするウイルス不活化剤が開示されている。また、特許文献2には、ポリソルベートの群から選ばれる非イオン性界面活性剤によって脂質エンベロープウイルスを不活化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-095112号公報
【文献】特開平10-234362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の抗菌・抗ウイルス剤組成物は抗ウイルス性に関して改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
下記一般式(1)で表されるリン酸モノエステル又はその塩と、
下記一般式(2)で表されるリン酸ジエステル又はその塩と、
の少なくとも一方を含む、抗菌・抗ウイルス剤組成物
を開示する。
【0006】
【0007】
【0008】
式(1)及び(2)において、
R1、R2及びR3は、各々独立して、炭素数8~20のアルキル基であり、
A1、A2及びA3は、各々独立して、炭素数2~4のアルキレン基であり、
x、y及びzは、各々独立して、0~10の整数である。
【0009】
本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物において、前記R1、R2及びR3が、分岐を有するものであってもよい。
【0010】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、基材と、本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物とを備える、抗菌・抗ウイルス性構造体を開示する。
【0011】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物を基材に接触させることを含む、抗菌・抗ウイルス性構造体の製造方法を開示する。
【発明の効果】
【0012】
本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物は優れた抗ウイルス性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.抗菌・抗ウイルス剤組成物
一実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、下記一般式(1)で表されるリン酸モノエステル又はその塩と、下記一般式(2)で表されるリン酸ジエステル又はその塩と、のうちの少なくとも一方を含む。
【0014】
【0015】
【0016】
式(1)及び(2)において、
R1、R2及びR3は、各々独立して、炭素数8~20のアルキル基であり、
A1、A2及びA3は、各々独立して、炭素数2~4のアルキレン基であり、
x、y及びzは、各々独立して、0~10の整数である。
【0017】
1.1 リン酸モノ/ジエステルの化学構造
式(1)及び(2)において、R1、R2及びR3は、各々独立して、炭素数8~20のアルキル基である。このように、R1、R2及びR3の炭素数が8~20である場合に、優れた抗ウイルス性が発現する。当該炭素数の下限は好ましくは9以上であり、上限は好ましくは18以下、より好ましくは16以下、さらに好ましくは15以下である。R1、R2及びR3は、各々、直鎖であっても分岐を有するものであってもよいが、特に、R1、R2及びR3が分岐を有する場合に、抗ウイルス性に一層優れたものとなり易い。
【0018】
式(1)及び(2)において、x、y及びzは、各々独立して、0~10の整数である。抗ウイルス性の観点からは、x、y及びzが小さいほうが好ましい。具体的には、x、y及びzが、各々独立して、0~8の整数、特に0~5の整数である場合に、抗ウイルス性に一層優れたものとなり易い。
【0019】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物においては、上記のモノ/ジエステルの少なくとも一部が塩の形態で含まれていてもよい。塩としては、アルカリ金属塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0020】
アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。
【0021】
アルキルアミン塩を構成するアルキルアミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジブチルアミン、ブチルジメチルアミン等が挙げられる。
【0022】
アルカノールアミン塩を構成するアルカノールアミンとしては、ジメチルモノエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロピルエタノールアミン等が挙げられる。
【0023】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物において、上記のリン酸モノエステル又はその塩と、上記のリン酸ジエステル又はその塩との比率(質量比)は特に限定されるものではない。例えば、リン酸モノエステル又はその塩と、リン酸ジエステル又はその塩との比率は、0:100~100:0であり、好ましくは10:90~90:10であり、より好ましくは20:80~80:20である。
【0024】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物において、上記のモノ/ジエステル又はその塩の含有量は、当該組成物の用途に応じて適宜調整されればよい。本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物においては、上記のモノエステル又はその塩と、上記のジエステル又はその塩と、のうちの少なくとも一方が含まれていればよく、双方が含まれていてもよい。組成物における成分含有量の詳細については後述する。
【0025】
1.2 その他の成分
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、上記のモノ/ジエステル又はその塩に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、水や有機溶媒が挙げられる。また、その他の成分として後述する各種の樹脂が含まれていてもよい。さらに、その他の成分として各種の添加剤が含まれていてもよい。尚、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、上記のモノ/ジエステル又はその塩に加えて、これ以外の抗ウイルス成分を含んでいてもよい。或いは、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、抗ウイルス成分として上記のモノ/ジエステル又はその塩のみを含んでいてもよい。
【0026】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物を用いて各種の構造体を処理する際は、例えば、上記のモノ/ジエステル又はその塩と任意に樹脂とを用いて、水系で処理してもよいし、非水系(有機溶媒を用いる場合のほか、溶媒を用いない場合も含む)で処理してもよい。モノ/ジエステル又はその塩とともに用いられる樹脂としては、例えば、ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物、エポキシ化合物、メラミン化合物、フェノール化合物、オキセタン樹脂、ユリア樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン共重合樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、塩素化ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。以下、水系で処理する場合と非水系で処理する場合との各々について、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物に含まれる好適な成分を例示する。
【0027】
1.2.1 水系の抗菌・抗ウイルス剤組成物に含まれる好適な成分
(1)水系ポリウレタン樹脂
各種の構造体に対して、上記のモノ/ジエステル又はその塩と、樹脂とを用いて水系で処理する場合は、当該樹脂として水系ポリウレタン樹脂を用いるとよい。言い換えれば、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、上記のモノ/ジエステル又はその塩と、水系ポリウレタン樹脂と、水とを含むものであってよい。
【0028】
水系ポリウレタン樹脂は、例えば、ポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、アニオン性基(カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基などのうちの少なくとも1種)と2個以上の活性水素とを有する化合物と、を反応して得られるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、水中に乳化分散(以下、分散又は乳化することを「乳化分散」という。)させたのち、アミン系鎖伸長剤を用いて水中で鎖伸長反応して得られたものであってよい。尚、本願にいう水系ポリウレタン樹脂とは、水に対して乳化分散性を有するポリウレタン樹脂を意味する。具体的には、本願にいう水系ポリウレタン樹脂は、当該ポリウレタン樹脂の濃度が35質量%である乳化分散液(溶媒:水)を調製した後に、当該乳化分散液を、大気圧にて、20℃で12時間静置しても、分離や沈降が観察されないものである。
【0029】
水系ポリウレタン樹脂を構成するポリイソシアネート化合物に特に制限はなく、例えば、芳香族ポリイソシアネート化合物、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環式ポリイソシアネート化合物などを挙げることができる。芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トルエンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などを挙げることができる。脂環式ポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、ノルボルナンジイソシアネートなどを挙げることができる。これらのポリイソシアネート化合物は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。このようなポリイソシアネートの中でも、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネート化合物は、基材に対して無黄変性を与えることができる。特に、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート及び1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンのうちの少なくとも1種が好適である。
【0030】
水系ポリウレタン樹脂を構成するポリオール化合物に特に制限はなく、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどを挙げることができる。これらのポリオール化合物は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、ポリカーボネートポリオールを用いた場合、耐摩耗性が良好となる。ポリオール化合物の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば、1,000以上3,000以下であってもよい。数平均分子量がその範囲であると外観品位と耐摩耗性とが良好となる。
【0031】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びテトラメチレンオキサイドなどの炭素数2~4のアルキレンオキサイドの単独付加重合物又は共付加重合物(ブロック共重合でも、ランダム共重合でもかまわない)であるポリオールなどを挙げることができる。
【0032】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオール類とカーボネート類との脱アルコール反応、脱フェノール反応等で得られるものが挙げられる。ポリオール類は、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、あるいはビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物等から選ばれる1種または2種以上であってよい。カーボネート類は、例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等から選ばれる1種または2種以上であってよい。上記ポリカーボネートポリオールは、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、二塩基酸と、上述のポリオール類との重縮合反応により得られるものが挙げられる。二塩基酸は、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸等から選ばれる1種または2種以上であってよい。上記ポリエステルポリオールは、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
水系ポリウレタン樹脂を構成するアニオン性基と2個以上の活性水素とを有する化合物のうち、カルボキシル基及びカルボキシレート基のうちの少なくとも一方を有する化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、及びこれらの塩を挙げることができる。さらに、このようなジオール化合物として、カルボキシル基を有するジオール化合物と、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸等とを反応させて得られるペンダント型カルボキシル基を有するポリエステルポリオールを用いることもできる。なお、前記カルボキシル基を有するジオール化合物に、ジオール成分としてカルボキシル基を有しないジオール化合物を混合して反応させても良い。これらのジオール化合物は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
水系ポリウレタン樹脂を構成するアニオン性基と2個以上の活性水素とを有する化合物のうち、スルホ基及びスルホネート基のうちの少なくとも一方を有する化合物としては、例えば、3,4-ジアミノブタンスルホン酸、3,6-ジアミノ-2-トルエンスルホン酸、2-(2-アミノエチルアミノ)エタンスルホン酸、エチレンジアミンプロピルスルホン酸、エチレンジアミンブチルスルホン酸、1,2-または1,3-プロピレンジアミン-β-エチルスルホン酸、2-(3-アミノプロピルアミノ)-エタンスルホン酸、2,4-ジアミノベンゼンスルホン酸などのジアミノスルホン酸;及びそれらの塩が挙げられる。これら化合物は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
水系ポリウレタン樹脂中のアニオン性基の含有量は、特に限定されるものではない。例えば、抗菌・抗ウイルス剤(上記のリン酸モノ/ジエステル)との相溶性の観点から、水系ポリウレタン樹脂は、アニオン性基のうちの少なくとも1種を、0.5質量%以上4.0質量%以下含んでいてよい。また、水系ポリウレタン樹脂が、複数のアニオン性基を有する場合、当該アニオン性基の合計の含有量が、0.5質量%以上4.0質量%以下であってよい。尚、カルボキシル基及びカルボキシレート基の含有量は、ポリウレタン樹脂100gあたりのCOO量を原料仕込み量から計算することで求めることができる。また、スルホ基及びスルホネート基の含有量は、ポリウレタン樹脂100g当たりのSO3量を原料仕込み量から計算することで求めることができる。アニオン性基の含有量が4.0質量%以下であることで、風合いが一層軟らかくなり、また、屈曲時の白化の問題を一層抑制し易い。また、アニオン性基の含有量が0.5質量%以上であることで、水系ポリウレタン樹脂の貯蔵安定性が向上し、より安定的な加工が可能となる。
【0037】
上述のイソシアネート基末端プレポリマーを調製する際、ポリオール化合物として、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコールなどの低分子量多価アルコールを用いてもよい。
【0038】
鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、4,4’-ジアミノジシクロへキシルメタン、ピペラジン、2-メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボランジアミン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミンなどの低分子量ポリアミン(1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ基を1分子中に2個以上含有するポリアミン化合物)などを挙げることができる。これらの鎖伸長剤は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
尚、水系ポリウレタン樹脂は、例えば、特開2006-206839号公報に開示されたリン系化合物を難燃成分として含む難燃剤ブレンドウレタン系樹脂であってもよい。
【0040】
次に、上記水系ポリウレタン樹脂の製造方法について説明する。
【0041】
上述のイソシアネート基末端プレポリマーを製造する具体的な方法としては特に制限はなく、例えば、従来公知の一段式のいわゆるワンショット法、多段式のイソシアネート重付加反応法等により製造することができる。この時の反応温度は、40~150℃であることが好ましい。また、反応中又は反応終了後に、イソシアネート基と反応しない有機溶剤を添加してもよい。このような有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、テトラヒドロフラン等を使用することができる。反応中には、必要に応じて、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジ-2-エチルヘキソエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルモルホリン、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)等の反応触媒、あるいは燐酸、燐酸水素ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加してもよい。
【0042】
イソシアネート基末端プレポリマーにおける残存イソシアネート基の含有率は、0.2~4.5質量%であることが好ましい。この範囲であると、その後ポリアミンにより鎖伸張して得られる水系ポリウレタン樹脂組成物の成膜性が良好となり、また、形成されるフィルムが柔らかくなり適度な柔軟性を示す。尚、残存イソシアネート基含有率は以下の方法で求めることができる。
【0043】
得られたウレタンプレポリマー0.3gを三角フラスコに採取し、0.1N ジブチルアミントルエン溶液10mlを配合し、溶解させる。次いで、ブロモフェノールブルー液を数滴加え、0.1N塩酸メタノール溶液で滴定し、下記式により遊離イソシアネート基含有量NCO%を求めることができる。
NCO%=(a-b)×0.42×f/x
a:0.1N ジブチルアミントルエン溶液10mlのみを滴定した場合の0.1N塩酸メタノール液の滴定量
b:反応中の組成物を滴定した場合の0.1N塩酸メタノール液の滴定量
f:0.1N 塩酸メタノール液のファクター
x:サンプリング量。
【0044】
残存イソシアネート基の含有率を上記範囲とするには、プレポリマー製造時の、原料のイソシアネート基/ヒドロキシル基のモル比を100/80~100/60に調整することが好ましい。イソシアネート基/ヒドロキシル基のモル比をこの範囲に調整することで、イソシアネート基末端プレポリマーが適度な粘度を有し、乳化し易くなる。また、抗菌・抗ウイルス剤組成物で処理した構造体において、風合いを一層軟らかくすることができ、屈曲時における白化を一層防止し易くなる。
【0045】
イソシアネート基末端プレポリマーのアニオン性基の中和は、イソシアネート基末端プレポリマーの調製前、調製中又は調製後に適宜公知の方法を用いて行うことができる。このようなアニオン性基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和に用いる化合物には特に制限はなく、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン、N-メチル-ジエタノールアミン、N,N-ジメチルモノエタノールアミン、N,N-ジエチルモノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等を挙げることができる。中でも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン等の第3級アミン類が特に好ましい。
【0046】
イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を水に乳化分散させる際に用いる乳化分散機器に特に制限はなく、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパー等を挙げることができる。また、イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を水に乳化分散させる際には、イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、0~40℃の温度範囲で水に乳化分散させて、イソシアネート基と水との反応を極力抑えることが好ましい。さらに、このように乳化分散させる際には、必要に応じて、燐酸、燐酸二水素ナトリウム、燐酸水素二ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加することができる。
【0047】
水に乳化分散させたイソシアネート基末端プレポリマーは、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ基を1分子中に2個以上含有するポリアミン化合物を用いて鎖伸長させてよい。イソシアネート基末端プレポリマーとポリアミン化合物との反応は、20~50℃の反応温度で、通常、30~120分間で完結する。
【0048】
イソシアネート基末端プレポリマーを製造する際に前述の有機溶剤を使用した場合には、例えば、鎖伸長反応又は乳化分散後に、減圧下、30~80℃で当該有機溶剤を留去することが望ましい。このような調製方法によって水系ポリウレタン樹脂の乳化分散液が得られる。水系ポリウレタン樹脂の乳化分散液中の樹脂固形分(不揮発分)濃度は、例えば、20%以上60%以下であってよい。樹脂固形分濃度は、水を追加または留去することで調整することも可能である。
【0049】
(2)水系アクリル樹脂
各種の構造体に対して、上記のモノ/ジエステル又はその塩と樹脂とを用いて水系で処理する場合は、当該樹脂として水系アクリル樹脂を用いるとよい。言い換えれば、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、上記のモノ/ジエステル又はその塩と、水系アクリル樹脂と、水とを含むものであってよく、上記の水系ポリウレタン樹脂と水系アクリル樹脂とを併用してもよい。水系ポリウレタン樹脂と水系アクリル樹脂とを併用する場合、その質量比率は、特に限定されるものではないが、例えば、水系ポリウレタン樹脂100質量部に対して、水系アクリル樹脂が10質量部以上1000質量部以下であってよい。
【0050】
水系アクリル樹脂を構成するモノマーとしては、例えば、水酸基を有する(メタ)アクリレート、水酸基を有する(メタ)アクリレートとジカルボン酸又はその誘導体との反応物であるカルボキシ基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。前記水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、前記ジカルボン酸としては、例えば、しゅう酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。これらの水酸基を有する(メタ)アクリレート及びジカルボン酸は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。なお、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートとの総称であり、アクリレート及びメタクリレートの一方又は両方を意味する。
【0051】
また、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、その他のアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジンクモノ(メタ)アクリレート、ジンクジ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4-ヘキサフロロブチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、N,N'-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N'-エチレンビス(メタ)アクリルアミド、1,2-ジ(メタ)アクリルアミドエチレングリコール、ジ(メタ)アクリロイロキシメチルトリシクロデカン、N-(メタ)アクリロイロキシエチルマレイミド、N-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、N-(メタ)アクリロイロキシエチルフタルイミド等の(メタ)アクリレート化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド、n-ビニル-2-ピロリドン、スチレン誘導体、α-メチルスチレン誘導体等のビニル化合物;アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸アミド等のアクリルアミド類;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン;(メタ)アクリル酸も、モノマーとして用いることができる。これらのモノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0052】
(3)水系樹脂の含有量
水系の抗菌・抗ウイルス剤組成物において、水系樹脂(水系ポリウレタン樹脂や水系アクリル樹脂)の含有量は、特に限定されるものではない。例えば、水系の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、前記水系樹脂を0.01質量%以上又は0.02質量%以上含んでいてもよく、50質量%以下又は20質量%以下含んでいてもよい。また、水系の抗菌・抗ウイルス剤組成物が水等の溶媒で希釈して使用される場合、希釈後の組成物は、前記水系樹脂を0.001質量%以上、0.005質量%以上又は0.1質量%以上含んでいてもよく、20質量%以下又は10質量%以下含んでいてもよい。
【0053】
(4)その他の成分及び成分含有量
水系の抗菌・抗ウイルス剤組成物には、各種の添加剤等が含まれていてもよい。例えば、乳化剤、増粘剤、防腐剤、緩衝材、pH調整剤、レベリング剤、フィラー、消泡剤等が含まれていてもよい。増粘剤としては、例えば、アルカリ増粘型アクリル樹脂、会合型増粘剤、水溶性有機高分子等が挙げられる。これらの増粘剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。前記アルカリ増粘型アクリル樹脂として市販のものを用いることができる。前記アルカリ増粘型アクリル樹脂の市販品としては、例えば、ニカゾールVT-253A(日本カーバイド工業株式会社製)、アロンA-20P、アロンA-7150、アロンA-7070、アロンB-300、アロンB-300K、アロンB-500(以上、東亞合成株式会社製)、ジュリマーAC-10LHP、ジュリマーAC-10SHP、レオジック835H、ジュンロンPW-110、ジュンロンPW-150(以上日本純薬株式会社製)、プライマルASE-60、プライマルTT-615、プライマルRM-5(以上、ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製)、SNシックナーA-818、SNシックナーA-850(以上、サンノプコ株式会社製)、パラガム500(パラケム・サザン株式会社製)、レオレート430(エレメンティス・ジャパン株式会社製)、ネオステッカーV-420(日華化学株式会社製)等が挙げられる。このようなアルカリ増粘型アクリル樹脂は、通常、樹脂の乳化分散物として市販されており、乳化分散させた状態で使用することが好ましい。
【0054】
水系の抗菌・抗ウイルス剤組成物における、上記のモノ/ジエステル又はその塩の含有量は、特に限定されるものではない。例えば、水系の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、上記のモノ/ジエステル又はその塩を0.01質量%以上又は0.02質量%以上含んでいてもよく、50質量%以下又は20質量%以下含んでいてもよい。また、抗菌・抗ウイルス剤組成物が水等の溶媒で希釈して使用される場合、希釈後の組成物は、上記のモノ/ジエステル又はその塩を0.001質量%以上、0.002質量%以上、0.01質量%以上又は0.02質量%以上含んでいてもよく、5質量%以下又は4質量%以下含んでいてもよい。
【0055】
1.2.2 非水系の抗菌・抗ウイルス剤組成物に含まれる好適な成分
(1)硬化成分
各種の構造体に対して、上記のモノ/ジエステル又はその塩を用いて非水系で処理する場合は、上記のモノ/ジエステル又はその塩とともに硬化成分を用いるとよい。言い換えれば、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、上記のモノ/ジエステル又はその塩と、硬化成分とを含み、さらに任意に溶剤(有機溶媒)を含むものであってよい。硬化成分としては、後述の熱硬化成分や、活性エネルギー線硬化成分等が挙げられる。
【0056】
(1-1)熱硬化成分
熱硬化成分は、熱硬化性化合物及び熱硬化樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である。熱硬化性化合物とは、加熱により反応して硬化する特性を有する化合物を意味し、例えば、重合開始剤の存在下で加熱することによって重合する重合性官能基を有するプレポリマー等、硬化剤や架橋剤の存在下で加熱することによって硬化(架橋)する熱硬化性のモノマーやオリゴマー等が挙げられる。また、熱硬化樹脂とは、前記熱硬化性化合物が加熱により重合(硬化)したものを意味し、例えば、前記重合性官能基を有するプレポリマーが重合したポリマー等、前記熱硬化性のモノマーやオリゴマーの硬化物や半硬化物等が挙げられる。また、前記重合性官能基を有するプレポリマーのうち、重合性官能基を有するモノマーが熱重合したプレポリマーは、重合開始剤を使用せずにそのままの状態で熱硬化樹脂として使用することもできる。以上の通り、「熱硬化成分」とは、前記熱硬化性化合物と前記熱硬化樹脂の両者を包含する概念である。
【0057】
前記熱硬化樹脂の製造方法としては特に制限はないが、例えば、
(I)重合性官能基を有するモノマーと他のモノマーとを共重合したり、プレポリマーの構成するポリマー鎖に重合性官能基を導入したりして前記重合性官能基を有するプレポリマーを調製した後、この重合性官能基を有するプレポリマーを、重合開始剤の存在下で加熱することによって重合させ、ポリマーを形成する方法、
(II)重合性官能基を有するモノマーを、重合開始剤の存在下で加熱することによって重合させ、ポリマーを形成する方法、
(III)熱硬化性のモノマーやオリゴマーを、硬化剤や架橋剤の存在下で加熱することによって硬化(架橋)させ、前記熱硬化性のモノマーやオリゴマーの硬化物や半硬化物を得る方法等が挙げられる。
【0058】
前記熱硬化性化合物としては、例えば、ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物、エポキシ化合物、メラミン化合物、フェノール化合物、オキセタン樹脂、ユリア樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、スチレン-ブタジエンゴム等が挙げられる。これらの熱硬化性化合物は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの熱硬化性化合物のうち、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、スチレン-ブタジエンゴムは、熱硬化樹脂としても使用することができる。また、硬化後のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、スチレン-ブタジエンゴム(すなわち、これらの熱硬化物)も、熱硬化樹脂として使用することができる。
【0059】
また、熱硬化成分は、抗菌・抗ウイルス剤組成物の作業性の観点から、室温(25℃)で液状であることが好ましい。
【0060】
(1-1-1)ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物
ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物とは、分子内に炭素-炭素二重結合を有する化合物であり、炭素-炭素二重結合が反応することで、硬化する化合物である。このようなラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物においては、硬度・耐摩耗性・耐熱性等が向上するという観点から、ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を1分子内に2つ以上有する化合物が好ましい。
【0061】
ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、例えば、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン又はブタジエンアクリロニトリル共重合体であってアクリル基を有する化合物;ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン又はブタジエンアクリロニトリル共重合体であってアリル基を有する化合物;マレイミド基を有する化合物、熱反応性モノマー等が挙げられる。
【0062】
以下に、好ましいラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を例示するが、抗菌・抗ウイルス剤組成物に用いられるラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物はこれらに限定されるものではない。
【0063】
(ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン又はブタジエン-アクリロニトリル共重合体であってアクリル基を有する化合物)
アクリル基を有するポリエーテルを構成するポリエーテルとしては、炭素数3~6の有機基がエーテル結合を介して繰り返したものが好ましい。このようなアクリル基を有するポリエーテルは、ポリエーテルポリオールと(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応により得ることができる。
【0064】
アクリル基を有するポリエステルを構成するポリエステルとしては、炭素数3~6の有機基がエステル結合を介して繰り返したものが好ましい。このようなアクリル基を有するポリエステルは、ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応により得ることができる。
【0065】
アクリル基を有するポリカーボネートを構成するポリカーボネートとしては、炭素数3~6の有機基がカーボネート結合を介して繰り返したものが好ましい。このようなアクリル基を有するポリカーボネートは、ポリカーボネートポリオールと(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応により得ることができる。
【0066】
アクリル基を有するポリ(メタ)アクリレートを構成するポリ(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリレートとの共重合体、水酸基を有する(メタ)アクリレートと極性基を有さない(メタ)アクリレートとの共重合体、グリシジル基を有する(メタ)アクリレートと極性基を有さない(メタ)アクリレートとの共重合体等が好ましい。このようなアクリル基を有するポリ(メタ)アクリレートは、カルボキシ基を有する共重合体(例えば、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリレートとの共重合体)と水酸基を有する(メタ)アクリレート又はグリシジル基を有する(メタ)アクリレートとの反応、水酸基を有する共重合体(例えば、水酸基を有する(メタ)アクリレートと極性基を有さない(メタ)アクリレートとの共重合体)と(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応、或いは、グリシジル基を有する共重合体(例えば、グリシジル基を有する(メタ)アクリレートと極性基を有さない(メタ)アクリレートとの共重合体)と(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応によって、得ることができる。
【0067】
アクリル基を有するポリブタジエンは、カルボキシ基を有するポリブタジエンと水酸基を有する(メタ)アクリレート又はグリシジル基を有する(メタ)アクリレートとの反応、水酸基を有するポリブタジエンと(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応、或いは、無水マレイン酸を付加したポリブタジエンと水酸基を有する(メタ)アクリレートとの反応により得ることができる。
【0068】
アクリル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体は、カルボキシ基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体と水酸基を有する(メタ)アクリレート又はグリシジル基を有する(メタ)アクリレートとの反応によって得ることができる。
【0069】
(ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン又はブタジエン-アクリロニトリル共重合体であってアリル基を有する化合物)
アリル基を有する化合物としては、ジアリルエステルとジオールとの反応物等が挙げられる。前記ジアリルエステルとしては、ジカルボン酸又はその誘導体とアリルアルコールとの反応物等が挙げられ、前記ジカルボン酸としては、しゅう酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。前記ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0070】
(マレイミド基を有する化合物)
マレイミド基を有する化合物としては、例えば、N,N’-(4,4’-ジフェニルメタン)ビスマレイミド、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン等のビスマレイミド化合物;ダイマー酸ジアミンと無水マレイン酸との反応物;マレイミド酢酸、マレイミドカプロン酸等のマレイミド化アミノ酸とポリオールとの反応物等が挙げられ、中でも、ダイマー酸ジアミンと無水マレイン酸との反応物;マレイミド酢酸、マレイミドカプロン酸等のマレイミド化アミノ酸とポリオールとの反応物が好ましい。前記マレイミド化アミノ酸は、無水マレイン酸とアミノ酢酸又はアミノカプロン酸とを反応させることによって得られるものである。ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリメタクリレートポリオールが好ましい。
【0071】
(熱反応性モノマー)
熱反応性モノマーとしては、例えば、水酸基を有する(メタ)アクリレート、水酸基を有する(メタ)アクリレートとジカルボン酸又はその誘導体との反応物であるカルボキシ基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。前記水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、前記ジカルボン酸としては、例えば、しゅう酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。これらの水酸基を有する(メタ)アクリレート及びジカルボン酸は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0072】
また、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、その他のアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジンクモノ(メタ)アクリレート、ジンクジ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4-ヘキサフロロブチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、N,N'-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N'-エチレンビス(メタ)アクリルアミド、1,2-ジ(メタ)アクリルアミドエチレングリコール、ジ(メタ)アクリロイロキシメチルトリシクロデカン、N-(メタ)アクリロイロキシエチルマレイミド、N-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、N-(メタ)アクリロイロキシエチルフタルイミド等の(メタ)アクリレート化合物;n-ビニル-2-ピロリドン、スチレン誘導体、α-メチルスチレン誘導体等のビニル化合物も、熱反応性モノマーとして用いることができる。これらの熱反応性モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0073】
(熱ラジカル重合開始剤)
前記ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物の熱ラジカル重合開始剤としては、特に制限はないが、急速加熱試験(試料1gを電熱板の上にのせ、4℃/分で昇温した時の分解開始温度)における分解温度が40℃以上140℃以下となるものが好ましい。分解温度が前記下限未満になると、前記ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物と熱ラジカル重合開始剤とを含む組成物の常温における保存性が悪くなる傾向にあり、他方、前記上限を越えると、硬化時間が極端に長くなる傾向にある。
【0074】
このような熱ラジカル重合開始剤として具体的には、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n-ブチル4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、t-ブチルハイドロパーオキサイド、P-メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t-ヘキシルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α'-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、イソブチリルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、桂皮酸パーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-3-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、α,α'-ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3,-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルへキサノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシマレイックアシッド、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-m-トルオイルベンゾエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t-ブチルパーオキシ)イソフタレート、t-ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、3,3',4,4'-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が挙げられる。これらの熱ラジカル重合開始剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0075】
(1-1-2)エポキシ化合物
エポキシ化合物は、グリシジル基を分子内に1つ以上有する化合物であり、加熱によりグリシジル基が反応することで3次元的網目構造を形成し、硬化する化合物である。このようなエポキシ化合物においては、十分な硬化物特性を示すという観点から、1分子にグリシジル基が2つ以上含まれている化合物が好ましい。
【0076】
エポキシ化合物としては、特に制限はないが、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビフェノール等のビスフェノール化合物又はこれらの誘導体、水素添加ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールF、水素添加ビフェノール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール等の脂環構造を有するジオール又はこれらの誘導体、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール等の脂肪族ジオール又はこれらの誘導体等をエポキシ化した2官能の化合物、トリヒドロキシフェニルメタン骨格、アミノフェノール骨格を有する3官能の化合物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等をエポキシ化した多官能のエポキシ樹脂等が挙げられる。また、このようなエポキシ化合物は、単独で又は混合物として室温で液状のものが好ましい。これにより、室温で液状の抗菌・抗ウイルス剤組成物が得られる。なお、ジオール又はその誘導体をエポキシ化する方法としては、ジオール又はその誘導体の2つの水酸基と、エピクロルヒドリンとを反応させて、グリシジルエーテルに変換することにより、エポキシ化する方法等が挙げられる。また、3官能以上のものについても、同様である。
【0077】
また、このようなエポキシ化合物は、反応性の希釈剤を用いて希釈して使用することも可能である。反応性の希釈剤としては、フェニルグリシジルエーテル、ターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル等の1官能の芳香族グリシジルエーテル類、脂肪族グリシジルエーテル類等が挙げられる。
【0078】
(エポキシ化合物の硬化剤)
前記エポキシ化合物の硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、ジシアンジアミド、ジヒドラジド化合物、酸無水物、フェノール化合物等が挙げられる。前記ジヒドラジド化合物としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、ドデカン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、p-オキシ安息香酸ジヒドラジド等のカルボン酸ジヒドラジドが挙げられる。前記酸無水物としては、フタル酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0079】
また、前記エポキシ化合物の硬化剤として用いられるフェノール化合物は、1分子内にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物である。1分子内にフェノール性水酸基を1つのみ有する化合物の場合には、架橋構造を形成することができず、硬化物特性が低下する。また、前記フェノール化合物としては、1分子内にフェノール性水酸基を2つ以上有しているものであればよいが、1分子内にフェノール性水酸基を2つ以上5つ以下有するものが好ましく、1分子内にフェノール性水酸基を2つ又は3つ有するものがより好ましい。1分子内のフェノール性水酸基数が前記上限を超えると、分子量が大きくなりすぎ、抗菌・抗ウイルス剤組成物の粘度が高くなりすぎる傾向にある。このようなフェノール化合物としては、ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールS、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシベンゾフェノン、テトラメチルビフェノール、エチリデンビスフェノール、メチルエチリデンビス(メチルフェノール)、シクロへキシリデンビスフェノール、ビフェノール等のビスフェノール類及びその誘導体、トリ(ヒドロキシフェニル)メタン、トリ(ヒドロキシフェニル)エタン等の3官能のフェノール類及びその誘導体、フェノール類とホルムアルデヒドとを反応することで得られるフェノールノボラック、クレゾールノボラック等のフェノール樹脂及びその誘導体等が挙げられる。
【0080】
さらに、前記エポキシ化合物の硬化促進剤としては、イミダゾール類、トリフェニルホスフィン又はテトラフェニルホスホニウムの塩類、ジアザビシクロウンデセン等のアミン系化合物及びその塩類等が挙げられる。これらの硬化促進剤の中でも、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール-2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-C11H23-イミダゾール、2-メチルイミダゾールと2,4-ジアミノ-6-ビニルトリアジンとの付加物等のイミダゾール化合物が好ましく、融点が180℃以上のイミダゾール化合物が特に好ましい。
【0081】
(1-1-3)メラミン化合物
メラミン化合物は、メラミン又はその誘導体である。メラミンの誘導体としては、例えば、イミノ基やメチロール基、メトキシメチル基、ブトキシメチル基等のアルコキシメチル基等の官能基を有する誘導体が挙げられる。また、メチロール基を有するメラミン誘導体に低級アルコールを反応させて部分的或いは完全にエーテル化した化合物も挙げられる。このようなメラミン化合物として具体的には、モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等のメチロール基を有する誘導体が挙げられる。
【0082】
(1-1-4)フェノール化合物
フェノール化合物は、1分子内にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物である。本発明に用いられるフェノール化合物としては、前記エポキシ化合物の硬化剤として例示したフェノール化合物が挙げられる。
【0083】
(1-1-5)ウレタン樹脂
ウレタン樹脂は、ポリオール及びポリイソシアネートを含む原料の反応物であり、必要に応じて、鎖延長させてもよい。このようなウレタン樹脂は、水酸基、アミノ基、イミノ基のうちの少なくとも1種の官能基を有するウレタン樹脂が好ましい。このような官能基を有するウレタン樹脂は、ポリイソシアネートに対して、ポリオールと鎖延長剤とを、それらの合計量が当量を超える量で使用することにより得ることができる。以下に、ウレタン樹脂の原料の各成分について説明する。
【0084】
(ポリオール)
ポリオールは、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物である。前記ポリオールとしては、特に制限はなく、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリオレフィンポリオール、シリコンポリオール、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、芳香族系ポリオール等が挙げられる。これらのポリオールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらのポリオールの中でも、硬化膜の耐候性、機械的強度、耐摩耗性が向上するという観点から、ポリカーボネートポリオールが好ましい。
【0085】
ポリオールの総使用量に対するポリカーボネートポリオールの使用量としては、硬化膜の硬度及び耐候性が良好になるという観点から、25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、70モル%以上が更に好ましい。
【0086】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びテトラメチレンオキサイドなどの炭素数2~4のアルキレンオキサイドの単独付加重合物又は共付加重合物(ブロック共重合でも、ランダム共重合でもかまわない)であるポリオール等が挙げられる。
【0087】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオール類とカーボネート類との脱アルコール反応、脱フェノール反応等で得られるものが挙げられる。ポリオール類としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらのポリオール類は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。カーボネート類としては、例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等が挙げられる。これらのカーボネート類は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このようなポリオール類とカーボネート類との組合せからなるポリカーボネートポリオールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0088】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、二塩基酸と、上述のポリオール類との重縮合反応により得られるものが挙げられる。二塩基酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。これらの二塩基酸は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このような二塩基酸とポリオール類との組合せからなるポリエステルポリオールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0089】
ポリエーテルエステルポリオールとしては、前記ポリエステルポリオールに環状エーテルを開環重合した化合物や、前記ポリエーテルポリオールと前記ジカルボン酸とを重縮合した化合物が挙げられ、中でも、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートが好ましい。
【0090】
ポリオレフィンポリオールは、2個以上の水酸基を有するポリオレフィンである。前記ポリオレフィンポリオールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。前記ポリオレフィンポリオールとしては、例えば、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、及びポリイソプレンポリオールが挙げられる。
【0091】
シリコンポリオールは、2個以上の水酸基を有するシリコーンである。前記シリコンポリオールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。前記シリコンポリオールとしては、例えば、ポリジメチルシロキサンポリオールが挙げられる。
【0092】
脂肪族ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,5-ペンタンジオール、2,3,5-トリメチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等が挙げられる。
【0093】
脂環式ポリオールとしては、シクロプロパンジオール、シクロプロパンジメタノール、シクロプロパンジエタノール、シクロプロパンジプロパノール、シクロプロパンジブタノール、シクロペンタンジオール、シクロペンタンジメタノール、シクロペンタンジエタノール、シクロペンタンジプロパノール、シクロペンタンジブタノール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、シクロヘキサンジプロパノール、シクロヘキサンジブタノール、シクロヘキセンジオール、シクロヘキセンジメタノール、シクロヘキセンジエタノール、シクロヘキセンジプロパノール、シクロヘキセンジブタノール、シクロヘキサジエンジオール、シクロヘキサジエンジメタノール、シクロヘキサジエンジエタノール、シクロヘキサジエンジプロパノール、シクロヘキサジエンジブタノール、水添ビスフェノールA、トリシクロデカンジオール、アダマンチルジオール等が挙げられる。
【0094】
これらの脂肪族ポリオールや脂環式ポリオールの中でも、得られる硬化膜の耐候性、機械的強度が向上するという観点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール等の水酸基間の炭素数が1~4のポリオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA等の水酸基が脂環式構造を挟んで対称な位置に存在している脂環式ポリオールが特に好ましい。
【0095】
芳香族系ポリオールとしては、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチルテレフタレート、ビスフェノール-A等が挙げられる。
【0096】
また、N-メチルジエタノールアミン等のジアルカノールアミン;ペンタエリスリトール;ソルビトール;マンニトール;グリセリン;トリメチロールプロパン等もその他のポリオール成分として使用することができる。
【0097】
(ポリイソシアネート)
ポリイソシアネートは、1分子中に2個以上のイソシアネート基及びイソシアネート基を含む置換基の一方又は両方(「イソシアネート基類」とも言う)を有する化合物である。ポリイソシアネートは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、ポリイソシアネートの多量体(ポリイソシアネート単量体同士が反応した変性体)であってもよい。さらに、1種のポリイソシアネートにおいて、イソシアネート基類は同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、ポリイソシアネートのNCO基の一部をウレタン、ウレア、ビュレット、アロファネート、カルボジイミド、オキサゾリン、アミド、イミド、ポリオール等に変性したものであってもよい。さらに、多核体にはこれら以外の異性体が含まれていてもよい。
【0098】
イソシアネート基を含む置換基としては、例えば1個以上のイソシアネート基を含む、炭素数1~5のアルキル基、アルケニル基、又はアルコキシル基が挙げられる。イソシアネート基を含む置換基としての前記アルキル基等の炭素数としては1~3が好ましい。
【0099】
前記ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式構造を有するポリイソシアネート、及び芳香族ポリイソシアネートが挙げられる。
【0100】
脂肪族ポリイソシアネートは、脂肪族構造とそれに結合する2以上のイソシアネート基類とを有する化合物である。脂肪族ポリイソシアネートは、硬化膜の耐候性を高め、かつ屈曲性を付与する観点から好ましい。脂肪族ポリイソシアネートにおける脂肪族構造としては特に限定はされないが、炭素数1~6の直鎖又は分岐のアルキレン基が好ましい。このような脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、メチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、及びダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、及びトリス(イソシアネートヘキシル)イソシアヌレート等の脂肪族トリイソシアネートが挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチレンジイソシアネートが好ましい。
【0101】
ポリイソシアネートは、硬化膜の機械的強度、耐汚染性の点から、脂環式構造を有するものが好ましい。脂環式構造を有するポリイソシアネートは、脂環式構造とそれに結合する2以上のイソシアネート基類とを有する化合物である。脂環式構造を有するポリイソシアネートにおける脂環式構造としては特に限定はされないが、炭素数3~6のシクロアルキレン基が好ましい。脂環式構造を有するポリイソシアネートとしては、例えば、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、シクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートシクロヘキシル)メタン、ビス(イソシアネートシクロヘキシル)プロパン、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート(水添TDI:)等の脂環式構造を有するジイソシアネート、及びトリス(イソシアネートイソホロン)イソシアヌレート等の脂環式構造を有するトリイソシアネートが挙げられる。これらの脂環式構造を有するポリイソシアネートのうち、硬化膜の強度及び密着性を高める観点や、経時での着色も少なく、透明性を必要とする材料に好適に用いることができるという観点から、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、シクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートシクロヘキシル)メタン、及びイソホロンジイソシアネートが好ましい。
【0102】
芳香族ポリイソシアネートは、芳香族構造とそれに結合する2以上のイソシアネート基類とを有する化合物である。芳香族ポリイソシアネートにおける芳香族構造としては特に限定はされないが、炭素数6~13の2価の芳香族基が好ましい。このような芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、及びm-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。これらの芳香族ポリイソシアネートのうち、硬化膜の機械的強度を高める観点から、トリレンジイソシアネート、及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0103】
(鎖延長剤)
鎖延長剤は、主として、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物(短鎖ポリオール)、2個以上のアミノ基を有する化合物(ポリアミン化合物)、水に分類される。この中で水については反応を安定に行うために、できるだけ低減することが好ましい。
【0104】
2個以上のヒドロキシル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2-ブチル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジオール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン等の脂環族グリコール、キシリレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香環を有するグリコール、グリセリン、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、及びトリメチロールプロパンなどの3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなど、4つ以上の水酸基を有するアルコール等が挙げられる。
【0105】
2個以上のアミノ基を有する化合物としては、例えば、2,4-もしくは2,6-トリレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’-ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン、エチレンジアミン、1,2-プロピレンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,3-ジアミノペンタン、2,2,4-もしくは2,4,4-トリメチルヘキサンジアミン、2-ブチル-2-エチル-1,5-ペンタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン等の脂肪族ジアミン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(IPDA)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン(水添MDA)、イソプロピリデンシクロヘキシル-4,4’-ジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、トリシクロデカンジアミン等の脂環族ジアミン等が挙げられる。これらの鎖延長剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0106】
(鎖停止剤)
また、ウレタン樹脂の分子量を制御する目的で、必要に応じて、1個の活性水素基を有する鎖停止剤を使用することができる。このような鎖停止剤のうち、活性水素基として1個の水酸基を鎖停止剤としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族モノオールが挙げられ、また、1個のアミノ基を有する鎖停止剤としては、ジエチルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等の脂肪族モノアミンが挙げられる。これらの鎖停止剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0107】
(ウレタン樹脂の製造方法)
前記ウレタン樹脂の製造方法としては特に制限はなく、一般的に実験的/工業的に用いられる公知の方法を採用することができる。具体的には、(1)ポリオール、ポリイソシアネート及び鎖延長剤を一緒に反応させる方法(一段法)や、(2)先ず、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて両末端がイソシアネート基のプレポリマーを調製した後、このプレポリマーと鎖延長剤を反応させる方法(二段法)が挙げられる。この二段法は、ポリオールを予め1当量以上のポリイソシアネートと反応させることにより、ウレタン樹脂のソフトセグメントに相当する両末端がイソシアネート基で封止された中間体(プレポリマー)を調製する工程を経る方法である。予めプレポリマーを調製した後に鎖延長剤と反応させることにより、ソフトセグメント部分の分子量を調整しやすく、ソフトセグメントとハードセグメントの相分離がしっかりとなされやすく、ウレタン樹脂としての性能を発揮しやすいという特徴がある。特に、鎖延長剤がジアミンの場合には、ポリオールの水酸基と比較して、イソシアネート基との反応速度が大きく異なるため、二段法(プレポリマー法)でポリウレタンウレア化を実施することがより好ましい。
【0108】
(一段法)
一段法とは、ワンショット法とも呼ばれ、ポリオール、ポリイソシアネート及び鎖延長剤を一緒に仕込むことにより反応を行う方法である。一段法における反応温度は、通常、0~250℃であるが、溶剤の量、使用原料の反応性、反応設備等により適宜設定することができる。反応温度が低すぎると、反応の進行が遅すぎたり、原料や重合物の溶解性が低くなるため、生産性が低下する傾向にあり、他方、高すぎると、副反応やウレタン樹脂の分解が起こる場合がある。また、反応は、減圧下で脱泡しながら行ってもよい。さらに、必要に応じて、触媒、安定剤等を添加してもよい。触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチル錫ジラウレ-ト、オクチル酸第一錫、酢酸、燐酸、硫酸、塩酸、スルホン酸等が挙げられ、安定剤としては、例えば、2,6-ジブチル-4-メチルフェノール、ジステアリルチオジプロピオネ-ト、ジβ-ナフチルフェニレンジアミン、トリ(ジノニルフェニル)フォスファイト等が挙げられる。
【0109】
(二段法)
二段法は、プレポリマー法ともよばれ、予めポリイソシアネートとポリオールとを、通常、反応当量比=1.0~10.00で反応させたプレポリマーを製造し、次いで、これにポリイソシアネート又は多価アルコール、アミン等の活性水素を有する化合物を加えることにより二段階で反応させる方法である。特に、ポリオールに対して当量以上のポリイソシアネートを反応させて両末端イソシアネート基含有プレポリマーを調製し、次いで、これに鎖延長剤である短鎖ジオールやジアミン等を作用させてウレタン樹脂を得る方法が有用である。
【0110】
二段法により製造する場合、(1)溶媒を使用せずに直接ポリイソシアネートとポリオールとを反応させてプレポリマーを合成し、そのまま鎖延長剤を作用させてもよいし、(2)前記(1)の方法でプレポリマーを合成し、次いで、プレポリマーを溶媒に溶解した後、鎖延長剤を作用させてもよいし、(3)ポリイソシアネートとポリオールとを溶媒中で反応させてプレポリマーを合成し、そのまま、溶媒中で鎖延長剤を作用させてもよい。また、前記(2)の方法においては、鎖延長剤を溶媒に溶解した後、プレポリマーに作用させてもよいし、プレポリマーを溶媒に溶解する際に同時に鎖延長剤も溶解してもよい。
【0111】
二段法における反応温度は、通常、0~250℃であるが、溶剤の量、使用原料の反応性、反応設備等により適宜設定することができる。反応温度が低すぎると、反応の進行が遅すぎたり、原料や重合物の溶解性が低くなるため、生産性が低下する傾向にあり、他方、高すぎると、副反応やウレタン樹脂の分解が起こる場合がある。また、反応は、減圧下で脱泡しながら行ってもよい。さらに、必要に応じて、触媒、安定剤等を添加してもよい。触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチル錫ジラウレ-ト、オクチル酸第一錫、酢酸、燐酸、硫酸、塩酸、スルホン酸等が挙げられ、安定剤としては、例えば、2,6-ジブチル-4-メチルフェノール、ジステアリルチオジプロピオネ-ト、ジβ-ナフチルフェニレンジアミン、トリ(ジノニルフェニル)フォスファイト等が挙げられる。なお、鎖延長剤が短鎖脂肪族アミン等の反応性の高いものの場合には、触媒を添加せずに前記反応を実施することが好ましい。
【0112】
このようなウレタン樹脂の製造方法(一段法及び二段法)においては、粘度の調整を目的に溶剤を使用することができる。溶剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよく、公知の溶剤のいずれも使用することができる。このような溶剤としては、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、ノナン、オクタン、イソオクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、エチルベンゼン等の芳香族系炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル等のエーテル系溶媒;シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、ジメチルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒が挙げられる。これらの溶剤のうち、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンが好ましい。
【0113】
(1-1-6)好ましい熱硬化性化合物
抗菌・抗ウイルス剤組成物に含まれる熱硬化性化合物は、上記の熱硬化性化合物の中でも、水酸基、アミノ基、イミノ基のうちの少なくとも1種の官能基を有する熱硬化性化合物が好ましく、前記官能基を有するウレタン樹脂、前記官能基を有するアクリル樹脂、前記官能基を有するポリエステル樹脂、前記官能基を有するエチレン酢酸ビニル樹脂、前記官能基を有するスチレン-ブタジエンゴム、前記官能基を有するエポキシ樹脂がより好ましく、水酸基を有するウレタン樹脂、水酸基を有するアクリル樹脂、水酸基を有するポリエステル樹脂、水酸基を有するエチレン酢酸ビニル樹脂、水酸基を有するスチレン-ブタジエンゴム、水酸基を有するエポキシ樹脂が更に好ましく、水酸基を有するウレタン樹脂、水酸基を有するアクリル樹脂、水酸基を有するポリエステル樹脂、水酸基を有するエポキシ樹脂が特に好ましい。また、このような官能基を有する熱硬化性化合物の硬化剤としては、ポリイソシアネート単量体、ポリイソシアネート変性体、エポキシ化合物、メラミン化合物、オキサゾリン化合物等が挙げられる。
【0114】
水酸基を有する熱硬化性化合物の市販品としては、例えば、東レ・ファインケミカル株式会社製アクリル樹脂(商品名「コータックスLH-601」、「コータックスLH-591」)、三井化学株式会社製アクリル樹脂(商品名「アルマテックス646」、「アルマテックス646SB」、「オレスターQ810」、「オレスターQ519」)、DIC株式会社製アクリル樹脂(商品名「アクリディックA-811」)、DIC株式会社製ポリエステル樹脂(商品名「バーノックD-161」)、和信化学工業株式会社製ウレタン樹脂(商品名「ポリウレックスエコV-HK500クリヤーP液(主剤)」)等が挙げられる。
【0115】
(1-1-7)熱硬化性化合物の硬化剤
前記官能基を有する熱硬化性化合物の硬化剤としては、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤、メラミン系硬化剤、オキサゾリン系硬化剤が挙げられる。
【0116】
前記イソシアネート系硬化剤は1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートである。このようなイソシアネート系硬化剤としては、例えば、前記ウレタン樹脂の原料として例示したポリイソシアネートの単量体及び変性体が挙げられ、中でも、脂肪族ポリイソシアネート及びその多量体が好ましい。これらのポリイソシアネートは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0117】
前記エポキシ系硬化剤は1分子中に2個以上のグリシジル基を有する架橋可能なエポキシ化合物である。このようなエポキシ系硬化剤としては、前記エポキシ化合物として例示したものが挙げられ、中でも、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、脂環式エポキシ化合物、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが好ましい。
【0118】
前記ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂としては、常温で液状である樹脂であれば特に制限されず、市販品を用いてもよい。このような市販品としては、例えば、EPICLON840、840-S、850、850-S、EXA-850CRP、850-LC(商品名、DIC株式会社製)、jER828EL、827(商品名、三菱ケミカル株式会社製)、エポミックR-140P(商品名、三井化学株式会社製)が挙げられる。
【0119】
前記脂環式エポキシ化合物は、エポキシシクロアルキル基又はエポキシシクロアルケニル基を分子内に2個以上有する化合物、或いは、少なくとも1個のエポキシ基が脂環に単結合で結合した基を分子内に2個以上有する化合物である。このような脂環式エポキシ化合物としては、例えば、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3',4'-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、3',4'-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシシクロヘキシルオクチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールジ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、1,2,8,9-ジエポキシリモネン、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物、特開2008-214555号公報に記載の化合物が挙げられる。また、前記脂環式エポキシ化合物としては、セロキサイド2021P、EHPE3150、EHPE3150CE、エポリードGT401(商品名、株式会社ダイセル製)等の市販品を用いてもよい。これらの脂環式エポキシ化合物の中でも、部材に対する硬化膜の接着性が向上するという観点から、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物が好ましい。
【0120】
前記トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルとしては、例えば、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、及びこれらの混合物が挙げられる。また、前記トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルとしては、EX-321L(商品名、ナガセケムテックス株式会社製)等の市販品を用いてもよい。
【0121】
前記メラミン系硬化剤はメラミン又はその誘導体である。このようなメラミン系硬化剤としては、例えば、前記メラミン化合物として例示したものが挙げられる。
【0122】
前記オキサゾリン系硬化剤は、1分子中に2個以上のオキサゾリン基を有する架橋可能なオキサゾリン化合物である。このようなオキサゾリン系硬化剤としては、例えば、オキサゾリン基含有モノマーの重合体、オキサゾリン基含有モノマーと他のモノマーとの共重合体等のオキサゾリン基含有ポリマーが挙げられる。また、前記オキサゾリン系硬化剤としては、「エポクロス」シリーズ(商品名、日本触媒株式会社製)等の市販品を用いてもよい。
【0123】
前記オキサゾリン基含有モノマーとしては、例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4,4-ジメチル-2-オキサゾリンが挙げられる。これらのオキサゾリン基含有モノマー1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0124】
前記他のモノマーとしては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート(アルキル基の炭素数1~14程度);アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、(アルキル基:メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα,β-不飽和モノマー類;スチレン、α-メチルスチレン等のα,β-不飽和芳香族モノマーが挙げられる。これらは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0125】
(1-2)活性エネルギー線硬化成分
活性エネルギー線硬化成分は、ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を含有するものであり、紫外線等の活性エネルギー線により短時間で重合し硬化する特性を持つものである。このようなラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、3次元的網目構造を形成しやすいという観点から、ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を1分子内に2つ以上有する化合物であることが好ましい。
【0126】
前記ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、例えば、ポリオール、ポリイソシアネート、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含む原料の反応物であるポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー;活性エネルギー線反応性モノマー;ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン又はブタジエン-アクリロニトリル共重合体であってアクリル基を有する化合物;ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン又はブタジエン-アクリロニトリル共重合体であってアリル基を有する化合物;マレイミド基を有する化合物等が挙げられる。
【0127】
(1-2-1)ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、ポリオール、ポリイソシアネート、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含む原料の反応物である。このようなポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。以下に、ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの原料の各成分について説明する。
【0128】
(ポリオール)
ポリオールは、熱硬化成分としてのウレタン樹脂において用いられるものとして例示したポリオールの中から適宜選択して使用されればよい。好ましいポリオールについても、上記と同様であってよい。
【0129】
(ポリイソシアネート)
ポリイソシアネートは、熱硬化成分としてのウレタン樹脂において用いられるものとして例示したポリイソシアネートの中から適宜選択して使用されればよい。好ましいポリイソシアネートについても、上記と同様であってよい
【0130】
(ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、1個以上の水酸基と1個以上の(メタ)アクリロイル基と炭素数1~30の炭化水素基とを有する化合物である。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0131】
前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとカプロラクトンとの付加反応物、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートとカプロラクトンとの付加反応物、グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との付加反応物、グリコールのモノ(メタ)アクリレート体、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、得られる硬化膜の機械的強度の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基と水酸基との間に炭素数が2~4のアルキレン基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0132】
(その他の成分)
上記のポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、その原料に、他の成分を更に含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば、鎖延長剤が挙げられる。鎖延長剤は、熱硬化成分としてのウレタン樹脂にて用いられるものとして例示した鎖延長剤の中から適宜選択して使用されればよい。
【0133】
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーにおける全イソシアネート基の量と水酸基及びアミノ基等のイソシアネート基と反応する全官能基の量は、通常、理論的に当モルであり、モル%で表される。
【0134】
すなわち、前記ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーにおける前記ポリイソシアネート、ポリオール、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、及びその他の原料化合物の使用量は、ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーにおける全イソシアネート基の量とそれと反応する全官能基の量とが当モル、又はイソシアネート基に対する官能基のモル%で50モル%以上200モル%以下になる量である。
【0135】
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーを製造するときは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの使用量を、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、2個以上の水酸基を有するポリオール化合物、及び鎖延長剤等のイソシアネートと反応する官能基を含む化合物の総使用量に対して、通常10モル%以上(好ましくは15モル%以上、更に好ましくは25モル%以上)、また、通常70モル%以下(好ましくは50モル%以下)とする。この割合に応じて、得られるポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの分子量を制御することができる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの割合が多くなるにつれて、ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの分子量は小さくなる傾向となり、割合が少なくなるにつれて、分子量は大きくなる傾向となる。
【0136】
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーが鎖延長剤を含む反応物の場合には、ポリオールと鎖延長剤とを合わせた化合物の総使用量に対するポリオールの使用量としては、液安定性が向上するという観点から、70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましく、95モル%以上が特に好ましい。
【0137】
(ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの製造方法)
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、前記ポリイソシアネートに、前記ポリオールと前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを付加反応させることにより製造することができる。ここで、前記鎖延長剤等を原料に併用する場合、ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、前記ポリイソシアネートに、前述のそれ以外の他の原料化合物を付加反応させることにより製造することができる。これらの付加反応は、公知の何れの方法でも行うことができる。このような方法としては、例えば、以下の(i)~(iii)の方法が挙げられる。
(i)前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート以外の成分を、イソシアネート基が過剰となるような条件下で反応させたイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得た後、このイソシアネート末端ウレタンプレポリマーと前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとを反応させるプレポリマー法。
(ii)全成分を同時に一括添加して反応させるワンショット法。
(iii)前記ポリイソシアネートと前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとを先に反応させ、分子中に(メタ)アクリロイル基とイソシアネート基とを同時に有するウレタン(メタ)アクリレートプレポリマーを合成した後、得られたプレポリマーに、それら以外の原料成分を反応させる方法。
【0138】
これらのうち、(i)の方法によれば、前記ウレタンプレポリマーが前記ポリイソシアネートと前記ポリオールとをウレタン化反応させてなり、前記ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとをウレタン化反応させてなる構造を有することから、分子量が制御可能で両末端にアクリロイル基が導入可能である。このような観点から、(i)の方法が好ましい。
【0139】
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの製造時において、粘度の調整を目的に溶剤を使用することができる。溶剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよく、公知の溶剤のいずれも使用することができる。このような溶剤としては、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、ノナン、オクタン、イソオクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、エチルベンゼン等の芳香族系炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル等のエーテル系溶媒;シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、ジメチルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒が挙げられる。これらの溶剤のうち、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンが好ましい。溶剤は、通常、活性エネルギー線硬化性重合体組成物100質量部に対して300質量部以下で使用可能である。
【0140】
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの製造時においては、反応速度が高くなり、製造効率が向上するという観点から、反応温度は通常20℃以上(好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上)である。また、アロハナート化反応等の副反応が起きにくくなるという観点から、反応温度は通常120℃以下(好ましくは100℃以下)である。また、反応液に溶剤が入っている場合にはその溶媒の沸点以下が好ましく、(メタ)アクリレートが入っている場合には(メタ)アクリロイル基の反応防止の観点から70℃以下が好ましい。反応時間は通常5~20時間程度である。
【0141】
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの製造時における付加反応触媒としては、本発明の効果が得られる範囲から選ぶことができ、例えば、ジブチルスズラウレート、ジブチルスズジオクトエート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクトエート、ビスマストリス(2-エチルヘキサノアート)、ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトナート)、チタンテトラ(アセチルアセトナート)、ジオクタノキシチタンジオクタネート、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)等に代表される公知のウレタン重合触媒が挙げられる。付加反応触媒は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの付加反応触媒のうち、環境適応性、触媒活性及び保存安定性の観点から、ビスマストリス(2-エチルヘキサノアート)が好ましい。
【0142】
ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの製造時に、反応液に(メタ)アクリロイル基が入っている場合には、重合禁止剤を併用することができる。このような重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノエチルエーテル、ジブチルヒドロキシトルエン等のフェノール類、フェノチアジン、ジフェニルアミン等のアミン類、ジブチルジチオカルバミン酸、銅等の銅塩、酢酸マンガン等のマンガン塩、ニトロ化合物、ニトロソ化合物等が挙げられる。重合禁止剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの重合禁止剤のうち、フェノール類が好ましい。
【0143】
また、各原料成分の仕込み比は、上述のポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの組成と実質的に同等(好ましくは同一)である。
【0144】
(1-2-2)活性エネルギー線反応性モノマー
活性エネルギー線反応性モノマーとしては、例えば、芳香族ビニル系モノマー類、ビニルエステルモノマー類、ビニルエーテル類、アリル化合物類、(メタ)アクリルアミド類、及び(メタ)アクリレート類が挙げられ、具体的には、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、α-クロロスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル系モノマー類;酢酸ビニル、酪酸ビニル、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、アジピン酸ジビニル等のビニルエステルモノマー類;エチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ジアリルフタレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のアリル化合物類;アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、メチレンビスアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸-i-ブチル、(メタ)アクリル酸-t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸モルフォリル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカン、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸-2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フェニル等の単官能(メタ)アクリレート;及びジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール(n=5~14)、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール(n=5~14)、ジ(メタ)アクリル酸-1,3-ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ポリブチレングリコール(n=3~16)、ジ(メタ)アクリル酸ポリ(1-メチルブチレングリコール)(n=5~20)、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸-1,9-ノナンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸ジシクロペンタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸トリシクロデカン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシプロピル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリオキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリオキシプロピル(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ビルフェノールFジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFエポキシジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの活性エネルギー線反応性モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0145】
これらの活性エネルギー線反応性モノマーの中でも、塗布性が要求される用途では、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカン、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の分子内に環構造を有する単官能(メタ)アクリレートが好ましい。一方、得られる硬化膜の機械的強度が求められる用途では、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸-1,9-ノナンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリシクロデカン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートが好ましい。
【0146】
(1-2-3)ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン又はブタジエン-アクリロニトリル共重合体であってアクリル基を有する化合物
ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン又はブタジエン-アクリロニトリル共重合体であってアクリル基を有する化合物は、上記の熱硬化成分であるラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物として用いられるものとして例示した化合物の中から適宜選択して使用されればよい。好ましいものについても、上記と同様であってよい。
【0147】
(1-2-4)ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン又はブタジエン-アクリロニトリル共重合体であってアリル基を有する化合物
ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン又はブタジエン-アクリロニトリル共重合体であってアリル基を有する化合物についても、熱硬化成分であるラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物として用いられるものとして例示した化合物の中から適宜選択して使用されればよい。好ましいものについても、上記と同様であってよい。
【0148】
(1-2-5)マレイミド基を有する化合物
マレイミド基を有する化合物についても、熱硬化成分であるラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物として用いられるものとして例示した化合物の中から適宜選択して使用されればよい。好ましいものについても、上記と同様であってよい。
【0149】
活性エネルギー線硬化成分としては、これらのラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0150】
(1-2-6)好ましい活性エネルギー線硬化成分
特に、高硬度でありながら屈曲性に優れ、さらには部材(構造体)に対する密着性が良好な硬化膜が得られ、また、組成物の幅広い粘度調整が可能であるという観点から、ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー、アクリル基を有する化合物、アリル基を有する化合物、及びマレイミド基を有する化合物のうちの1種又は2種以上と、活性エネルギー線反応性モノマーとを含有するものが好ましい。
【0151】
さらに、硬化成分においては、当該成分全体に対して、ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー、アクリル基を有する化合物、アリル基を有する化合物、及びマレイミド基を有する化合物のうちの1種又は2種以上を1質量%以上45質量%以下の割合で含有し、活性エネルギー線反応性モノマーを55質量%以上99質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0152】
(1-2-7)活性エネルギー線重合開始剤
抗菌・抗ウイルス剤組成物においては、主に、紫外線、電子線等の活性エネルギー線照射で進行する重合反応の開始効率を向上させること等を目的として、活性エネルギー線重合開始剤が更に含まれていることが好ましい。このような活性エネルギー線重合開始剤としては、光によりラジカルを発生する性質を有する化合物である光ラジカル重合開始剤が一般的であり、公知の何れの光ラジカル重合開始剤でも使用可能である。前記重合開始剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0153】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、メチルオルトベンゾイルベンゾエート、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、クロロチオキサントン、2-エチルアントラキノン、t-ブチルアントラキノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、メチルベンゾイルホルメート、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノプロパン-1-オン、2,6-ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、及び2-ヒドロキシ-1-〔4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル〕-2-メチル-プロパン-1-オンが挙げられる。
【0154】
これらの中でも、硬化速度が速く、架橋密度を十分に増大させることができるという観点から、ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、及び2-ヒドロキシ-1-〔4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル〕-2-メチル-プロパン-1-オンが好ましく、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、及び2-ヒドロキシ-1-〔4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル〕-2-メチル-プロパン-1-オンがより好ましい。
【0155】
また、抗菌・抗ウイルス剤組成物において、ラジカル重合性基と共にエポキシ基等のカチオン重合性基を有する化合物が含まれる場合には、重合開始剤として、前記光ラジカル重合開始剤と共に光カチオン重合開始剤が含まれていてもよい。光カチオン重合開始剤も、公知の何れのものも使用可能である。
【0156】
これらの光重合開始剤の含有量としては、開始剤分解物による機械的強度の低下が起こり難いという観点から、活性エネルギー線反応性成分の合計100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0157】
(1-2-8)光増感剤
また、抗菌・抗ウイルス剤組成物においては、前記光ラジカル重合開始剤と光増感剤とを併用してもよい。光増感剤は、重合開始剤と同じ目的で用いることができる。光増感剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよく、公知の光増感剤のいずれをも使用することができる。このような光増感剤としては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸アミル、及び4-ジメチルアミノアセトフェノンが挙げられる。前記光増感剤の含有量としては、架橋密度の低下による機械的強度の低下が起こり難いという観点から、活性エネルギー線反応性成分の合計100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0158】
(2)その他の成分及び成分含有量
非水系の抗菌・抗ウイルス剤組成物においても、種々の材料をその他の添加剤として用いることができる。その他の添加剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。このようなその他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤(例えば、2,6-ジブチル-4-メチルフェノール(BHT)のほか、サンケミカル株式会社製「CYANOX1790」、BASFジャパン株式会社製「IRGANOX245」及び「IRGANOX1010」、住友化学株式会社製「Sumilizer GA-80」等の市販品);光安定剤(例えば、BASFジャパン株式会社製「TINUVIN622LD」及び「TINUVIN765」、三共ライフテック株式会社製「SANOL LS-2626」及び「SANOL LS-765」等の市販品);紫外線吸収剤(例えば、BASFジャパン株式会社製「TINUVIN328」及び「TINUVIN234」等の市販品);シリコーン化合物(例えば、ジメチルシロキサンポリオキシアルキレン共重合体等);添加型及び反応型難燃剤(例えば、赤リン、有機リン化合物、燐及びハロゲン含有有機化合物、臭素又は塩素含有有機化合物、ポリ燐酸アンモニウム、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン等);顔料(例えば、二酸化チタン等);染料;着色剤(例えば、カーボンブラック等);加水分解防止剤(例えば、カルボジイミド化合物等);フィラー類(例えば、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、雲母、酸化亜鉛、酸化チタン、マイカ、タルク、カオリン、金属酸化物、金属繊維、鉄、鉛、金属粉、炭素繊維、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、C60等のフラーレン類、メラミン、白土等);熱安定剤、耐指紋剤、表面親水化剤、帯電防止剤、滑り性付与剤、可塑剤、離型剤、消泡剤、レベリング剤、沈降防止剤、界面活性剤、チクソトロピー付与剤、滑剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、シランカップリング剤、油剤、柔軟剤、架橋剤、撥水撥油剤、防曇剤、触感付与剤等の改質剤類;色相調整剤等の着色剤類;並びに前記熱硬化成分以外のモノマー又は/及びそのオリゴマー、触媒、硬化促進剤類等が挙げられる。このようなその他の添加剤の含有量としては、架橋密度の低下による機械的強度の低下が起こり難いという観点から、前記硬化成分100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0159】
非水系の抗菌・抗ウイルス剤組成物において、上記のモノ/ジエステル又はその塩の含有量としては、特に制限はないが、硬化膜の硬度の低下が少なく、優れた抗ウイルス性が得られるという観点から、上記の硬化成分100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下が好ましく、0.2質量部以上30質量部以下がより好ましく、0.5質量部以上20質量部以下が特に好ましい。
【0160】
抗菌・抗ウイルス剤組成物には、塗膜を形成するためのコーティング方式に応じて、粘度の調整を目的として、溶剤を配合することができる。溶剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよく、公知の溶剤のいずれも使用することができる。このような溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式の炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;クロルベンゼン、トリクレン、パークレン等のハロゲン化炭化水素類;γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒が好ましい。溶剤は、通常、前記硬化成分100質量部に対して500質量部以下で使用可能である。また、溶剤を配合した抗菌・抗ウイルス剤組成物において、上記のモノ/ジエステル又はその塩の濃度としては、特に制限はないが、組成物全体に対して、0.01質量%以上30質量%以下が好ましく、0.02質量%以上20質量%以下がより好ましく、0.04質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0161】
抗菌・抗ウイルス剤組成物の粘度は、その用途や使用態様等に応じて適宜調節することができるが、取り扱い性、塗工性、成形性、立体造形性等の観点から、E型粘度計(ローター1°34’×R24)により25℃で測定される粘度が、10mPa・s以上であることが好ましく、100mPa・s以上であることがより好ましく、また、100,000mPa・s以下であることが好ましく、50,000mPa・s以下であることがより好ましい。粘度の調節は、前記硬化成分の含有量、その他の成分の種類や含有量等によって適宜調整することができる。
【0162】
抗菌・抗ウイルス剤組成物は、モノ/ジエステル又はその塩と、前記硬化成分と、必要に応じて、硬化剤、その他の添加剤、溶媒とを混合することによって製造することができる。混合方法としては特に限定はなく、従来公知の混合、分散方法等が挙げられる。ホモミキサー、ディスパー、二本ロール、三本ロール、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペブルミル、トロンミル、サンドグラインダー、セグバリアトライター、遊星式攪拌機、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速度衝撃ミル、ニーダー、ホモジナイザー、超音波分散機等の分散機を用いてもよい。
【0163】
抗菌・抗ウイルス剤組成物の塗工方法としては、バーコーター法、アプリケーター法、カーテンフローコーター法、ロールコーター法、スプレー法、グラビアコーター法、コンマコーター法、リバースロールコーター法、リップコーター法、ダイコーター法、スロットダイコーター法、エアーナイフコーター法、ディップコーター法等の公知の方法を適用可能であるが、その中でもバーコーター法及びグラビアコーター法が好ましい。
【0164】
2.抗菌・抗ウイルス性構造体及びその製造方法
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、各種の構造体に少なくとも抗ウイルス性を付与するための処理剤として用いることができる。例えば、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物を各種の構造体に接触させることで、当該構造体に少なくとも抗ウイルス性を付与することができる。この場合、抗菌・抗ウイルス剤組成物は、処理液や塗料といった液状にて使用される。或いは、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物を付着させた各種の構造体によって、その他の各種の構造体の表面を拭き取ってもよい。具体的には、例えば、抗菌・抗ウイルス剤組成物を基材等に浸み込ませた拭き取り用シートとして使用されてもよい。或いは、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物によって手指や器物等の消毒を行うことも可能である。この場合、例えば、スプレーボトルに抗菌・抗ウイルス剤組成物を充填して使用されてもよい。
【0165】
上記の通り、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物を用いて各種の構造体に抗ウイルス性を付与することができる。例えば、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス性構造体は、基材と、上記の抗菌・抗ウイルス剤組成物とを備える。また、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス性構造体の製造方法は、上記の抗菌・抗ウイルス剤組成物を基材に接触させることを含む。
【0166】
2.1 基材
構造体を構成する基材としては、種々のものが挙げられる。例えば、基材は、プラスチック、ガラス、金属、木材、塗装塗膜又は合成皮革等であってよい。基材の形状は特に限定されるものではなく、構造体の用途に応じて適宜決定されればよい。
【0167】
2.2 水系処理
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物を用いて基材に対して水系で処理を行う場合、基材に対する抗菌・抗ウイルス剤組成物の付着量は、特に限定されるものではない。例えば、基材に対する抗菌・抗ウイルス剤(モノ/ジエステル又はその塩)の付着量は、0.01g/m2以上又は0.02g/m2以上であってよく、20g/m2以下又は10g/m2以下であってよい。抗菌・抗ウイルス剤の付着量が0.01g/m2以上である場合、一層高い抗ウイルス効果が得られる。抗菌・抗ウイルス剤の付着量が20g/m2を超えた場合、抗菌・抗ウイルス剤による効果が飽和し、それ以上の性能向上が少ないおそれがある。また、抗菌・抗ウイルス剤組成物が水系ポリウレタン樹脂を含む場合、基材に対する水系ポリウレタン樹脂の付着量は、0.01g/m2以上又は0.06g/m2以上であってよく、20g/m2以下又は10g/m2以下であってよい。水系ポリウレタン樹脂の付着量が0.01g/m2以上である場合、抗ウイルス剤の耐久性が一層向上する。水系ポリウレタン樹脂の付着量が20g/m2以下である場合、風合いを一層柔らかくすることができる。
【0168】
抗菌・抗ウイルス性構造体は、さらなる添加剤等を有していてもよい。このような添加剤等としては、例えば、着色剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、柔軟剤、架橋剤や他の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0169】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物を用いて基材に対して水系で処理を行う場合、当該抗菌・抗ウイルス剤組成物は、上記の通りモノ/ジエステル又はその塩と水系樹脂とを含む処理液(分散液)からなっていてもよく、この場合、当該処理液を基材に接触させることで、基材に抗菌・抗ウイルス剤組成物を付着させることができる。例えば、上記のモノ/ジエステル又はその塩を10~80重量%含む水系分散体又は溶液、水/アルコール溶液、或いは乳化液とし、水系ポリウレタン樹脂を、固形分(不揮発分)が10~50重量%である水系分散体又は乳化液としたうえで、これらを、アルコール及び/又は水で、所定の濃度になるように希釈することで、基材に抗ウイルス性を付与するための処理液とすることができる。
【0170】
処理液におけるモノ/ジエステル又はその塩の濃度(抗菌・抗ウイルス剤の有効成分濃度)は、例えば、0.001質量%以上、0.002質量%以上、0.01質量%以上又は0.02質量%以上であってよく、5質量%以下又は4質量%以下であってよい。0.001質量%以上4質量%以下であると性能及びコストのバランスに優れる。処理液を構成する溶媒としては、水系溶媒(水又は水と有機溶媒との混合物)を用いればよい。有機溶媒としては、例えば、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリル等を用いることができる。また、処理液における水系樹脂の濃度(樹脂の有効成分濃度)は、例えば、0.001質量%以上、0.005質量%以上又は0.1質量%以上であってよく、20質量%以下又は10質量%以下であってよい。0.001質量%以上20質量%以下であると性能及びコストのバランスに優れる。
【0171】
いずれの場合も、まず、上述のモノ/ジエステル又はその塩、及び、水系ポリウレタン樹脂等を、所定の濃度になるように、水系溶媒で希釈して処理液を調製する。続いて、当該処理液と基材とを接触させて、抗ウイルス性を有する構造体を製造する。
【0172】
処理液と基材とを接触させる方法としては、例えばコーティング法、スプレー法等が挙げられる。
【0173】
コーティング法で処理を行う場合、抗菌・抗ウイルス剤組成物を適切な粘度を有するように調整し、組成物(処理液)を基材にコーティングした後乾燥させて、モノ/ジエステル又はその塩を基材に固定化することができる。コーティング方法としては、特に限定されるものではないが、例えばグラビアロール加工、スプレー加工、ロールコーター加工、ジェットプリント加工、転写プリント加工、スクリーンプリント加工等が挙げられる。
【0174】
モノ/ジエステル又はその塩、及び、水系ポリウレタン樹脂等を含む処理液で基材を処理した後は、必要に応じて洗浄し、自然乾燥させてもよいし、加熱乾燥を行うこともできる。加熱乾燥の場合、例えば、ループ式乾燥機、ネット式ドライヤー、オーブン、ヒートセッターなどの装置を用いることができる。モノ/ジエステル又はその塩及び水系ポリウレタン樹脂等を含む処理液を付与した基材の乾燥・熱処理温度は、80~190℃とすることができ、100~160℃であることが好ましい。処理時間は30秒以上又は1分以上、10分以下又は30分以下であってよい。
【0175】
尚、上記の抗菌・抗ウイルス剤組成物は2液型であってもよい。すなわち、水系ポリウレタン樹脂を含む第1液と、モノ/ジエステル又はその塩を含む第2液とを用意し、基材に対して一方の液を接触させた後に、もう一方の液を接触させることで、抗ウイルス性構造体を製造してもよい。この場合も、基材の表面に抗菌・抗ウイルス剤組成物を付着させることができる。
【0176】
2.3 非水系処理
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物を用いて基材に対して非水系で処理を行う場合、処理後の構造体は、その表面に硬化膜を備えていてもよい。以下、硬化膜及び当該硬化膜を備える構造体について説明する。
【0177】
硬化膜は、上記の抗菌・抗ウイルス剤組成物の硬化物であり、抗ウイルス性のほか、例えば、抗ウイルス即効性及び透明性を備え得る。このような硬化膜は、上記の抗菌・抗ウイルス剤組成物からなる塗膜に対して、必要に応じて洗浄を行った後、硬化処理を施すことによって形成することができる。硬化処理は、硬化成分によって選択されればよく、例えば、自然乾燥や加熱乾燥による熱硬化処理、活性エネルギー線による硬化処理などが挙げられる。
【0178】
2.3.1 熱硬化処理
加熱乾燥は、ループ式乾燥機、ネット式ドライヤー、オーブン、ヒートセッター等の公知の加熱乾燥装置を用いて行うことができる。
【0179】
自然乾燥又は加熱乾燥における処理温度としては、抗菌・抗ウイルス剤組成物に含まれる前記熱硬化成分に応じて適宜設定することができるが、5~190℃が好ましく、10~160℃がより好ましい。また、自然乾燥又は加熱乾燥における処理時間についても、抗菌・抗ウイルス剤組成物に含まれる前記熱硬化成分に応じて適宜設定することができるが、30秒~24時間が好ましく、1~30分間がより好ましい。
【0180】
硬化膜の膜厚としては、目的とされる用途に応じて適宜決定することができるが、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、5μm以上が特に好ましく、また、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下が特に好ましく、20μm以下が最も好ましい。硬化膜の膜厚が前記下限未満になると、硬化後の意匠性や機能性の発現が不十分となる場合があり、他方、前記上限を超えると、内部硬化性、三次元加工適性が不十分となる場合がある。
【0181】
上記の硬化膜を備える構造体は、基材と、前記基材の表面に配置された前記硬化膜からなる層とを備えるものである。この構造体は、優れた抗ウイルス性を有する。また、基材が透明性を有するものである場合には、透明性にも優れている。
【0182】
構造体においては、前記硬化膜からなる層が前記基材の表面に直接配置されていてもよいし、前記硬化膜からなる層と前記基材との間に、前記硬化膜及び前記基材以外の他の層が更に配置されていてもよい。また、構造体においては、前記硬化膜からなる層と前記基材とからなる積層体の外側に、前記硬化膜及び前記基材以外の他の層が更に配置されていてもよい。
【0183】
このような硬化膜を備える構造体の製造方法としては、例えば、(1)前記基材上に、抗菌・抗ウイルス剤組成物からなる塗膜を含む全ての層を未硬化の状態で積層し、必要に応じて洗浄した後、自然乾燥又は加熱乾燥により硬化させる方法が挙げられる。複数の層を未硬化の状態で積層する方法としては、特に制限はないが、下層を未硬化の状態で形成した後、その上に上層を未硬化の状態で形成する逐次塗工法や、多重スリットを用いて2層以上の層を未硬化の状態で同時に形成する同時多層塗工法等の公知の塗工方法が挙げられる。また、構造体が前記硬化膜からなる層と他の層とを備えている場合(すなわち、複数の層を備えている場合)においては、(2)前記基材上に、下層を未硬化の状態で積層し、必要に応じて洗浄した後、自然乾燥又は加熱乾燥により硬化又は半硬化させ、さらに、その上に上層を未硬化の状態で積層し、再度、必要に応じて洗浄した後、自然乾燥又は加熱乾燥により硬化させる方法や、(3)離型フィルムやベースフィルムの上に、未硬化又は半硬化の状態で各層を形成し、これらの層を貼り合わせ、必要に応じて洗浄した後、自然乾燥又は加熱乾燥により硬化させる方法を採用してもよい。これらの方法のうち、層間密着性が向上するという観点から、前記方法(1)を採用することが好ましい。
【0184】
硬化膜を有する構造体を製造する際の前記基材に対する前記抗菌・抗ウイルス剤組成物の付着量としては、特に制限はないが、硬化膜の硬度の低下が少なく、優れた抗ウイルス性が得られるという観点から、前記基材に対する抗菌・抗ウイルス剤(モノ/ジエステル又はその塩)の付着量が0.01g/m2以上50g/m2以下となる量が好ましく、0.02g/m2以上25g/m2以下となる量がより好ましい。また、優れた抗ウイルス性と優れた透明性及び部材に対する密着性とを兼ね備える硬化膜が得られるという観点から、前記基材に対する前記熱硬化成分の付着量が0.05g/m2以上100g/m2以下であることが好ましく、0.1g/m2以上50g/m2以下であることがより好ましい。
【0185】
2.3.2 活性エネルギー線による硬化処理
活性エネルギー線としては、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等が挙げられる。装置コストや生産性の観点から、電子線又は紫外線を利用することが好ましく、光源としては、電子線照射装置、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、Arレーザー、He-Cdレーザー、固体レーザー、キセノンランプ、高周波誘導水銀ランプ、太陽光等が適している
活性エネルギー線の照射量は、活性エネルギー線の種類に応じて適宜設定することができ、例えば、電子線照射で硬化する場合、その照射量としては1~10Mradが好ましい。また、紫外線照射の場合は50~1,000mJ/cm2が好ましい。硬化時の雰囲気は、空気、窒素やアルゴン等の不活性ガスでもよい。また、フィルムやガラスと金属金型との間の密閉空間で照射してもよい。
【0186】
活性エネルギー線による硬化膜の膜厚としては、目的とされる用途に応じて適宜決定することができるが、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、5μm以上が特に好ましく、また、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下が特に好ましく、20μm以下が最も好ましい。硬化膜の膜厚が前記下限未満になると、硬化後の意匠性や機能性の発現が不十分となる場合があり、他方、前記上限を超えると、内部硬化性、三次元加工適性が不十分となる場合がある。
【0187】
構造体は、基材と、前記基材の表面に配置された前記硬化膜からなる層とを備えるものである。この構造体は、優れた抗ウイルス性及び抗ウイルス即効性を有するものである。また、部材が透明性を有するものである場合には、透明性にも優れている。
【0188】
構造体においては、前記硬化膜からなる層が前記基材の表面に直接配置されていてもよいし、前記硬化膜からなる層と前記基材との間に、前記硬化膜及び前記基材以外の他の層が更に配置されていてもよい。また、構造体においては、前記硬化膜からなる層と前記基材とからなる積層体の外側に、前記硬化膜及び前記基材以外の他の層が更に配置されていてもよい。
【0189】
このような活性エネルギー線による硬化膜を備える構造体の製造方法としては、例えば、(1)前記基材上に、上記の抗菌・抗ウイルス剤組成物からなる塗膜を含む全ての層を未硬化の状態で積層した後、活性エネルギー線を照射して硬化させる方法が挙げられる。複数の層を未硬化の状態で積層する方法としては、特に制限はないが、下層を未硬化の状態で形成した後、その上に上層を未硬化の状態で形成する逐次塗工法や、多重スリットを用いて2層以上の層を未硬化の状態で同時に形成する同時多層塗工法等の公知の塗工方法が挙げられる。また、構造体が前記硬化膜からなる層と他の層とを備えている場合(すなわち、複数の層を備えている場合)においては、(2)前記基材上に、下層を未硬化の状態で積層し、活性エネルギー線を照射して硬化又は半硬化させた後、その上に上層を未硬化の状態で積層し、再度活性エネルギー線を照射して硬化させる方法や、(3)離型フィルムやベースフィルムの上に、未硬化又は半硬化の状態で各層を形成し、これらの層を貼り合わせた後、活性エネルギー線を照射して硬化させる方法を採用してもよい。これらの方法のうち、層間密着性が向上するという観点から、前記方法(1)を採用することが好ましい。
【0190】
活性エネルギー線による硬化膜を備える構造体の製造する際の前記基材に対する前記抗菌・抗ウイルス剤組成物の付着量としては、特に制限はないが、硬化膜の硬度の低下が少なく、優れた抗ウイルス性が得られるという観点から、前記部材に対する抗菌・抗ウイルス剤(モノ/ジエステル又はその塩)の付着量が0.01g/m2以上20g/m2以下となる量が好ましく、0.02g/m2以上10g/m2以下となる量がより好ましい。また、優れた抗ウイルス性と優れた透明性及び部材に対する密着性とを兼ね備える硬化膜が得られるという観点から、前記基材に対する活性エネルギー線硬化成分の付着量が0.05g/m2以上50g/m2以下であることが好ましく、0.1g/m2以上20g/m2以下であることがより好ましい。
【0191】
3.抗菌・抗ウイルス性繊維製品及びその製造方法
上記の構造体は、各種の製品として用いられるものであってもよい。上述の通り、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、種々の形態により利用することができ、例えば、ウイルスと接触する可能性のある製品に担持させることにより、利用することができる。抗菌・抗ウイルス剤組成物を担持させることのできる製品としては、例えば、繊維製品や、繊維製品以外の製品(例えば、通気性シート、医療用器具、壁材等の内装材)が挙げられる。以下、構造体の一例として抗菌・抗ウイルス性繊維製品について詳細に説明する。
【0192】
3.1 繊維
抗ウイルス性を付与する対象が繊維である場合、当該繊維の種類は特に限定されるものではなく、天然繊維であってもよいし化学繊維であってもよい。繊維の具体例としては、綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ポリアミド(ナイロン等)、ポリエステル、ポリウレタン、ポリプロピレン等の合成繊維、及びこれらの複合繊維、混紡繊維が挙げられる。ポリアミドとしてはナイロン6、ナイロン6,6等が挙げられる。ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸等が挙げられる。繊維は、糸、編物(交編を含む)、織物(交織を含む)、不織布、カーペット、紙、木材などの形態を採るものであってもよい。繊維は染色されたものであってもよい。繊維は、その表面に何らかの修飾処理が施されたものであってもよい。
【0193】
3.2 付着量
繊維に対する抗菌・抗ウイルス剤組成物の付着量は、特に限定されるものではない。例えば、繊維100質量部に対して抗菌・抗ウイルス剤(モノ/ジエステル又はその塩)が0.001~10質量部となるような付着量が好ましい。下限未満では抗ウイルス効果が低下する傾向にある。一方、上限を超える場合は、抗ウイルス性に係る効果が飽和する傾向にある。
【0194】
3.3 組成物に含まれるその他の成分
繊維製品に適用される場合、抗菌・抗ウイルス剤組成物は、水を含んでいてもよく、有機溶媒及び水を含んでいてもよい。また、抗菌・抗ウイルス剤組成物は、酸成分、アルカリ成分、キレート剤、防腐剤、メラミン樹脂、グリオキザール樹脂、イソシアネート化合物、消泡剤、撥水剤、柔軟剤等を含んでいてもよい。
【0195】
3.4 抗菌・抗ウイルス性繊維製品の製造方法
抗菌・抗ウイルス性繊維製品の製造方法は、抗ウイルス性を付与する繊維に、上記の抗菌・抗ウイルス剤組成物を接触させること、を含む。繊維に上記の抗菌・抗ウイルス剤組成物を接触させる方法としては、特に限定されるものではない。例えば、抗菌・抗ウイルス剤組成物を含む処理液(溶液であってもよいし、分散液であってもよい)に対象物を接触させることで、当該対象物に当該抗菌・抗ウイルス剤組成物を付着させてもよい。処理液による処理を行うタイミングは特に限定されるものではない。
【0196】
処理液は、例えば、上記のモノ/ジエステル又はその塩を含むものであればよい。また、処理液は、酸成分、アルカリ成分、界面活性剤、キレート剤等のその他の成分を含んでいてもよい。処理液のpHは、特に限定されないが、例えば、2以上8以下であってもよい。耐久性を向上させたい場合には、抗菌・抗ウイルス剤組成物が含まれる処理液で対象物を処理する上述の工程において、メラミン樹脂、グリオキザール樹脂、イソシアネート化合物などを併用し、処理液を対象物に付着させてこれを加熱する工程を含む方法によって、対象物を処理することもできる。
【0197】
処理液で対象物である繊維を処理する方法の具体例としては、パディング処理、浸漬処理、塗布処理(例えば、スプレー処理、インクジェット加工、泡加工及びコーティング処理等から選ばれる少なくとも1種の処理であってもよい)等が挙げられる。このときの処理液の濃度や付与後の熱処理等の処理条件は、その目的や性能等の諸条件を考慮して、適宜調整すればよい。処理液で対象物を処理した後は、余分な抗菌・抗ウイルス剤を除去するために、水洗等の洗浄処理を行ってもよい。また、処理液が水を含有する場合は、対象物に処理液を付着させた後に水を除去するために、乾燥処理を行ってもよい。乾燥方法としては、特に制限はなく、乾熱法、湿熱法のいずれであってもよい。乾燥温度や乾燥時間も特に制限されず、例えば、室温~200℃で10秒~数日間乾燥させればよい。40~130℃で20秒~60分がさらに好ましい。
【0198】
4.用途についての補足
上述したように、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、様々な分野に用いることができる。上記した繊維以外にも、例えば、以下の分野に用いることができる。
【0199】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、エラストマー、塗料、接着剤、床材、シーラント、医療用材料、人工皮革、コーティング剤等に広く用いることが可能であり、これらの用途において、多様な特性を発現させることができる。特に、人工皮革、合成皮革、医療用材料、床材、コーティング剤等の用途に、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物を用いると、抗ウイルス性に加え、耐摩擦性、耐ブロッキング性に優れるため、引っ掻き等による傷がつきにくく、摩擦による劣化が少ないという良好な表面特性を付与することができる。
【0200】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、熱可塑性エラストマーとしての用途にも適用できる。例えば、食品、医療分野で用いる空圧機器、塗装装置、分析機器、理化学機器、定量ポンプ、水処理機器、産業用ロボット等におけるチューブやホース類、スパイラルチューブ、消防ホース等に使用できる。また、丸ベルト、Vべルト、平ベルト等のベルトとして、各種伝動機構、紡績機械、荷造り機器、印刷機械等に用いることができる。さらに、履物のヒールトップや靴底、カップリング、パッキング、ポールジョイント、ブッシュ、歯車、ロール等の機器部品、スポーツ用品、レジャー用品、時計のベルト等に使用できる。また、オイルストッパー、ギアボックス、スペーサー、シャーシー部品、内装品、タイヤチェーン代替品等の自動車部品にも用いることができる。さらに、キーボードフィルム、自動車用フィルム等のフィルム、カールコード、ケーブルシース、ベロー、搬送ベルト、フレキシブルコンテナー、バインダー、合成皮革、ディピンイング製品、接着剤等に使用できる。
【0201】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、楽器、仏壇、家具、化粧合板、スポーツ用品等の木材製品に適用できる。また、自動車補修用にも使用できる。
【0202】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、例えば、プラスチックバンパー用塗料、ストリッパブルペイント、磁気テープ用コーティング剤、床タイル、床材、紙、木目印刷フィルム等のオーバープリントワニス、木材用ワニス、高加工用コイルコート、光ファイバー保護コーティング、ソルダーレジスト、金属印刷用トップコート、蒸着用ベースコート、食品缶用ホワイトコート等に適用できる。
【0203】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、接着剤として、食品包装、靴、履物、磁気テープバインダー、化粧紙、木材、構造部材、液晶パネル内部のOCR材料等に適用できる。
【0204】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、鉄、銅、アルミニウム、フェライト、メッキ鋼板等の金属材料、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂等の樹脂材料、ガラス、セラミック等の無機材料を効率良く接着することができる。
【0205】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、バインダーとして、磁気記録媒体、インキ、鋳物、焼成煉瓦、グラフト材、マイクロカプセル、粒状肥料、粒状農薬、ポリマーセメントモルタル、レジンモルタル、ゴムチップバインダー、再生フォーム、ガラス繊維サイジング等に使用可能である。
【0206】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、シーラント・コーキングとして、コンクリート打ち壁、誘発目地、サッシ周り、壁式PC目地、ALC目地、ボード類目地、複合ガラス用シーラント、断熱サッシシーラント、自動車用シーラント等に使用できる。
【0207】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、医療用材料としての使用が可能であり、血液適合材料として、チューブ、カテーテル、人工心臓、人工血管、人工弁等、また、使い捨て素材としてカテーテル、チューブ、バッグ、手術用手袋、人工腎臓ポッティング材料等に使用できる。
【0208】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、UV硬化型塗料、電子線硬化型塗料、フレキソ印刷版用の感光性樹脂組成物、光硬化型の光ファイバー被覆材組成物等の原料として用いることができる。
【0209】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物において、上記のモノ/ジエステル又はその塩とともに水系の樹脂を用いる場合は、当該抗菌・抗ウイルス剤組成物は、特に、皮革(人工皮革、合成皮革)に対する抗ウイルス処理剤として好適に用いられる。また、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物において、上記のモノ/ジエステル又はその塩とともに非水系の樹脂を用いる場合は、折り曲げ可能なフィルム等のフレキシブル材料のコーティング剤として使用することが好ましく、例えば、携帯電話、モニター、タブレット等のタッチパネル等の電子機器やメガネレンズ等の光学機器に有効に適用することができる。
【0210】
5.抗菌・抗ウイルス剤組成物によるウイルス不活化方法
本開示の技術は、抗菌・抗ウイルス剤組成物によるウイルス不活化方法としての側面も有する。例えば、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物は、病院などの各病室、浴室、台所、トイレ等におけるドアノブ、ベッド柵、手すり等、床面、壁、天井、排水口、浴槽、シンク、便器、洗面台等や、食品工場等の各工場における、トイレ等におけるドアノブ、手すり等、床面、壁、天井、排水口、便器、洗面台等や各種製造装置の表面に対してウイルス不活化処理を施す場合にも使用できる。特に、病院等医療機関や食品工場における高頻度手指接触面等の使用に有用である。
【0211】
この場合、抗菌・抗ウイルス剤組成物には、キレート剤、防錆剤、消泡剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤、着色剤、消臭剤、芳香剤、酸成分、アルカリ成分等を配合することができる。
【0212】
また、この場合、抗菌・抗ウイルス剤組成物をそのまま使用してもよいが、当該組成物を水で希釈してそれを処理液として使用してもよい。この場合の水としては、水道水、井戸水、イオン交換水、又は蒸留水を好適に用いることができる。この場合、抗菌・抗ウイルス剤組成物におけるモノ/ジエステル又はその塩の濃度は、用途に応じて適宜調整可能である。
【0213】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤組成物を用いたウイルス不活化方法は、当該組成物と、ウイルスの不活化処理を施したい器具などの対象物とを接触させる工程を含むものであれば特に限定されるものではない。処理すべき対象表面、及び機器等上にノズル等を備えた器具を用いて処理液を噴霧すること、処理すべき対象表面、及び機器を処理液で単純に湿潤又は浸漬させること、ワイプ等の基体に含浸させて清掃用物品として使用すること、並びに、機器の内部を循環させること等が挙げられる。また、処理する際の温度は、特に限定されるものではないが、抗ウイルス性、洗浄性、経済性の観点から10~60℃であることが好ましく、10~30℃がより好ましい。処理時間は、対象物の形状・大きさ、処理方法、処理条件に応じて変わり、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0214】
以下、本発明について、実施例を示しつつさらに説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0215】
1.繊維に対する抗ウイルス処理
1.1 化合物A~C、E~Kの溶液の調製
下記表1に示されるアルコールと、無水リン酸(五酸化二リン)とから調整したアルキルリン酸エステルに、水と下記表1に示される中和塩とを添加し、アルキルリン酸エステル塩が15質量%となるように調整した。均一な液体が得られない場合は、適宜有機溶剤を添加してアルキルリン酸エステル塩が15質量%となるように調整した。アルキル基や塩の種類については下記表1の通りである。
【0216】
1.2 化合物Dの溶液の調製
大八化学社製MP-10(有効成分濃度100質量%)に、水と下記表1に示される中和塩とを添加し、イソデシルリン酸エステルNa塩が15質量%となるように調整した。
【0217】
1.3 化合物Lの溶液の調製
花王社製エマール2F-30(有効成分濃度30質量%)を水で50%に希釈して、有効成分濃度15質量%とした。
【0218】
1.4 化合物Mの用意
東京化成工業株式会社製Tween80(有効成分濃度100質量%)を用いた。
【0219】
【0220】
1.5 処理液の調製
上記の化合物A~Mの溶液の各々を下記表2に示される濃度にまで水で希釈して、参考例1~18、比較例1~5に係る処理液を得た。
【0221】
1.6 処理条件
参考例1~13、比較例1~3:ポリエステルニット(目付120g/m2、株式会社色染社製)を上記の各処理液に浸漬させ、絞り率110%にて処理し、次いで、130℃で2分間熱処理することで、抗ウイルス性を有する繊維製品を得た。
参考例14、15:綿100%ニット(目付165g/m2)を上記の各処理液に浸漬させ、絞り率90%にて処理し、次いで、130℃で2分間熱処理することで、抗ウイルス性を有する繊維製品を得た。
参考例16:ウール100%織物(目付100g/m2)を上記の処理液に浸漬させ、絞り率80%にて処理し、次いで、120℃で1分間熱処理することで、抗ウイルス性を有する繊維製品を得た。
参考例17、比較例4:ポリプロピレン100%不織布(目付22g/m2)を上記の各処理液に浸漬させ、絞り率100%にて処理し、次いで、100℃で1分間熱処理することで、抗ウイルス性を有する繊維製品を得た。
参考例18、比較例5:ナイロン100%タイルカーペットを上記の各処理液に浸漬させ、絞り率120%にて処理し、次いで、150℃で4分間熱処理することで、抗ウイルス性を有する繊維製品を得た。
【0222】
1.7 抗ウイルス性の評価方法
JIS L1922(2016)により抗ウイルス活性値を測定し、繊維製品の抗ウイルス性能を評価した。使用ウイルスとして、A型インフルエンザウイルス(H3N2) ATCC VR-1679を使用した。抗ウイルス活性値=log(Va)-log(Vc)として評価した。log(Va)はウイルス接種直後の無加工試料から回収したウイルス感染価の常用対数値であり、log(Vc)はウイルス2時間作用後の加工試料から回収したウイルス感染価の常用対数値である。活性値が高いものほど抗ウイルス性に優れる。尚、JISにおいては、抗ウイルス性の活性値が2.0以上の場合を効果ありとしているが、活性値2.0以下でもウイルスは減少する。本実施例では活性値が1.4でも抗ウイルス効果があるものと判定する。
【0223】
1.8 抗菌性の評価方法
JIS L1902(2015)定量試験(8.2菌液吸収法)により抗菌活性値を測定し、繊維製品の抗菌性能を評価した。使用菌として肺炎桿菌Klebsiella pneumoniae NBRC13277を用いた。活性値が高いものほど抗菌性に優れる。本実施例においては、抗菌活性値2.0以上である場合に抗菌性が良好であると判断した。
【0224】
1.9 評価結果
結果を下記表2に示す。
【0225】
【0226】
表2に示される結果から明らかなように、抗菌・抗ウイルス剤として炭素数9~18のアルキル基を有するリン酸エステルを使用した場合に、繊維製品に優れた抗菌性及び抗ウイルス性を付与することができる。また、分岐のアルキル基を有するリン酸エステルを使用した場合にも繊維製品に優れた抗菌性及び抗ウイルス性を付与することができる。また、炭素数8のアルキル基を有するリン酸エステルについては、処理液におけるリン酸エステルの濃度を高めることで、繊維製品に優れた抗菌性及び抗ウイルス性を付与することができる。
【0227】
2.皮革に対する抗ウイルス処理
2.1 化合物Aの溶液及び化合物Lの溶液の調製
上記と同様にして、化合物A(イソデシルリン酸エステルNa)の溶液及び化合物L(ドデシル硫酸エステルNa)の溶液を得た。
【0228】
2.2 水系ポリウレタン樹脂の合成
本実施例で用いた水系ポリウレタン樹脂は以下の通りである。尚、以下の水系ポリウレタン樹脂は、当該ポリウレタン樹脂の濃度が35質量%である乳化分散液(溶媒:水)を調製した後に、当該乳化分散液を、大気圧にて、20℃で12時間静置しても、分離や沈降が観察されないものであった。
【0229】
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、1,6-ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール(分子量1,000)251.9部、DMPA(ジメチロールプロピオン酸)10.3部、1,4-BD(ブタンジオール)3.4部、溶媒としてメチルエチルケトン 114.5部を量り取り、均一に混合した後、ポリイソシアネートとしてとしてHDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)77.0部を加え、80±5℃で180分間反応させ、イソシアネート基の含有量が1.68質量%である末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。その後60℃でトリエチルアミン7.3部を加え中和反応を行った。次に水643.2部を徐々に加えて攪拌し、前記末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを乳化分散させた。この乳化分散液に、ヒドラジン一水和物を9.2部及びジエチレントリアミン1.9部を水33.1部に溶解したポリアミン水溶液を添加し、40±5℃で90分間攪拌した後、減圧下に40℃で脱溶剤(脱メチルエチルケトン)を行い、得量:1kg、不揮発分35%の水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0230】
2.3 水系アクリル樹脂の合成
本実施例で用いたアクリル樹脂は以下の通りである。
【0231】
温度計、撹拌機、滴下装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた反応装置に、イオン交換水28部を秤量し、窒素を封入して内温を80℃まで昇温させた。そして、その温度に保ちながら、10%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液2部を添加し、直ちに、別に準備しておいた、下記のようにして調製した単量体乳化物を連続的に4時間滴下して乳化重合した。上記で用いた単量体乳化物は、メタクリル酸メチル25部及びアクリル酸ブチル75部の単量体混合物に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王株式会社製、商品名:ラテムルE-118B)4部とイオン交換水30部を混合し、乳化することで調製した。また、この単量体乳化物の滴下に並行して、5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液4部を滴下した。滴下終了後、80℃で4時間熟成し、その後、室温まで冷却した。最後に、アンモニア水で中和し、水で調整して、不揮発分60%である水系アクリル樹脂組成物を得た。
【0232】
2.4 抗菌・抗ウイルス剤組成物の調製
上記の化合物Aの溶液又は化合物Lの溶液と、水系ポリウレタン樹脂組成物と、水系アクリル樹脂組成物と、その他の添加剤等とを、下記表3に示される質量比にて混合し、実施例1A、2A及び比較例1Aに係る抗菌・抗ウイルス剤組成物を得た。
【0233】
2.5 表皮層形成用水性ポリウレタン樹脂組成物の調製
水系ポリウレタン樹脂と、会合型増粘剤と、消泡剤とを、下記組成を有するように調液し、調液後、1日間25℃にて静置して表皮層形成用水性ポリウレタン樹脂組成物を得た。得られた組成物の粘度は3200mPa・s(BM型粘度計、4号ローター、60rpm)であった。
【0234】
(表皮層形成用水性ポリウレタン樹脂組成物の組成)
エバファノールHA-107C(日華化学株式会社製、水性ポリウレタン樹脂)100g
ネオステッカーN(日華化学株式会社製、会合型増粘剤)3g
NXH-6022(日華化学株式会社製、消泡剤)0.1g
【0235】
2.6 表皮層の作製
離型紙(朝日ロール株式会社、アサヒリリースAR-148)上に、表皮層形成用水性ポリウレタン樹脂組成物を、乾燥後の膜厚が30μmとなるように塗布し、ピンテンターを用いて温度80℃で2分間乾燥させた後、さらに温度120℃で時間1分の条件で乾燥し、離型紙上に表皮層を形成した。次いで、表皮層上に、下記接着剤を乾燥後の厚さが50μmとなるよう塗布し、ピンテンターを用いて温度80℃で1分間乾燥し、更に温度110℃、時間1分の条件で乾燥した。乾燥後、直ちに、基材となるポリエステルニットと貼り合わせ、更にカレンダーを用いて温度150℃及び圧力30kg/cm2の条件でラミネートを行った。その後、温度45℃及び湿度40%RHの条件に調整した恒温恒湿器中で2日熟成を行い、離型紙を剥がして皮革状積層体を得た。
【0236】
(接着剤の組成)
エバファノールHO-38(日華化学株式会社製、二液型水性ポリウレタン樹脂系接着剤の主剤)100g
バイヒジュール3100(住化バイエルウレタン株式会社製、架橋剤)10g
ネオステッカーN(日華化学株式会社、会合型増粘剤)1g
【0237】
2.7 皮革状積層体に対する抗菌・抗ウイルス剤組成物の固定化処理
皮革状積層体の表面に、下記表3に示す各組成物を20g/m2となるよう均一に塗布した後、120℃で2分乾燥を行い、抗菌・抗ウイルス剤組成物の固定化処理を行った。
【0238】
2.8 抗ウイルス性の評価方法
ISO21702:2019に準じて抗ウイルス活性値を測定し、抗菌・抗ウイルス剤組成物の固定処理後の皮革状積層体の抗ウイルス性能を評価した。使用ウイルスとして、A型インフルエンザウイルス(H3N2) ATCC VR-1679を使用した。抗ウイルス活性値R=(Ut-U0)-(At-U0)とした。U0は接種直後の未加工試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm2)であり、Utは24時間後の未加工試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm2)であり、Atは24時間後の加工処理した試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm2)である。活性値が高いものほど抗ウイルス性に優れる。本実施例においては、抗ウイルス活性Rが1.5以上である場合に抗ウイルス性が良好であると判断した。
【0239】
2.9 抗菌性の評価方法
JIS Z2801:2010により抗菌活性値を測定し、抗菌・抗ウイルス剤組成物の固定処理後の皮革状積層体の抗菌性能を評価した。使用菌として黄色ぶどう球菌Staphylococcus aureus NBRC12732を用いた。活性値が高いものほど抗菌性に優れる。本実施例においては、抗菌活性値2.0以上である場合に抗菌性が良好であると判断した。
【0240】
2.10 評価結果
結果を下記表3に示す。
【0241】
【0242】
表3に示される結果から明らかなように、イソデシルリン酸エステルを含む実施例1A及び2Aによって処理された皮革状積層体は、イソデシルリン酸エステルに替えてドデシル硫酸エステルを含む比較例1Aによって処理された皮革状積層体と比べて、抗菌性及び抗ウイルス性に優れるものであった。
【0243】
3.抗ウイルススプレー
3.1 スプレー用組成物の調製
下記表4に示されるように、参考例1B及び比較例1Bに係るスプレー用組成物として、化合物A(イソデシルリン酸エステルNa)の溶液と化合物L(ドデシル硫酸エステルNa)の溶液とを各々準備した。
【0244】
3.2 スプレー処理方法
100μm厚のコロナ処理ポリエステルフィルム(東洋紡株式会社製「コスモシャインA4160」に抗菌・抗ウイルス剤組成物をスプレー噴霧し(0.012g/cm2)、自然乾燥後の抗ウイルス性を測定した。また、同様にスプレー噴霧した後に綿布で拭き取った試料の抗ウイルス性を測定することで耐久性を評価した。
【0245】
3.3 抗ウイルス性の評価方法
ISO21702:2019に準じて抗ウイルス活性値を測定し、抗ウイルス剤組成物の固定処理後の皮革状積層体の抗ウイルス性能を評価した。使用ウイルスとして、A型インフルエンザウイルス(H3N2) ATCC VR-1679を使用した。抗ウイルス活性値R=(Ut-U0)-(At-U0)とした。U0は接種直後の未加工試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm2)であり、Utは24時間後の未加工試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm2)であり、Atは24時間後の加工処理した試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm2)である。
【0246】
3.4 除菌性の評価
除菌性の評価については、第十七改正日本薬局方における消毒法及び除染法を参考に実施した。以下の実験は25℃の環境下で行った。
【0247】
3.4.1 菌液の調製
黄色ぶどう球菌(菌株NBRC13276)を用いて、以下の通りにして菌液を調製した。
(1)所定の菌をソイビーン・カゼイン・ダイジェスト液体培地で37℃、24時間培養した。
(2)培養後、pH7.4リン酸緩衝生理食塩水で107~109CFU/mlになるよう菌数を調製したものを菌液とした。
【0248】
3.4.2 除菌性の評価方法
参考例1B又は比較例1Bに係るスプレー用組成物9.9mLに上記菌液0.1mLを添加して懸濁液とし、1分間接触させた。次に懸濁液1mLを中和液9mLに素早く投入して不活化を行った。ここで、上記中和液はLP希釈液「ダイゴ」(日本製薬株式会社製)6.5g(内訳:カゼインペプトン0.22g、レシチン0.15g、ポリソルベート804.33g、精製水1.8g)をpH7.2リン酸緩衝生理食塩水で1Lに希釈し、120℃、20分間オートクレーブ処理したものである。引き続いて、中和液にて10倍希釈を段階的に行い、希釈段階ごとに1mLを滅菌シャーレに取り、あらかじめ45℃以下に保温したソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地で混和した。寒天培地の冷却固化後、37℃で24時間培養した後、発育したコロニー数をカウントし、懸濁液1mL当りの生菌数を算出した。
【0249】
また、参考例1B又は比較例1Bに係るスプレー用組成物9.9mLの代わりに、生理食塩水9.9mLを用いて同じ操作を行ったものを対照操作として、対照操作後の生残菌数と、参考例1B又は比較例1Bの組成物に接触させた後の生残菌数との対数差を計算して除菌性能の指標とし、対数差3以上を良好とした。
【0250】
3.5 評価結果
結果を下記表4に示す。表4に示される活性値が高いもの程、抗ウイルス性に優れる。本実施例においては、抗ウイルス活性Rが1.5以上である場合に抗ウイルス性が良好であると判断した。
【0251】
【0252】
表4に示される結果から明らかなように、イソデシルリン酸エステルを含む参考例1Bに係る組成物は、イソデシルリン酸エステルに替えてドデシル硫酸エステルを含む比較例1Bに係る組成物よりも、優れた抗菌性(除菌性)及び抗ウイルス性を有し、且つ、耐久抗ウイルス性(拭き取り後の抗ウイルス性)にも優れるものであった。
【0253】
4.活性エネルギー硬化性(UV硬化性)樹脂を用いた非水系処理
4.1 化合物Nの調製
上記表1に示されるアルコールと、無水リン酸(五酸化二リン)とから調整したアルキルリン酸エステルに、上記表1に示される中和塩を添加し、アルキルリン酸エステル塩が100質量%となるように調整した。アルキル基や塩の種類については上記表1の通りである。
【0254】
4.2 化合物Oの準備
化合物Oとして、花王社製エマール0(有効成分≧97%、ドデシル硫酸Na)を用意した。
【0255】
4.3 ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーの準備
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素/酸素吹き込み管を備えた4ツ口フラスコに、原料ジオールとして3-メチル-1,5-ペンタンジオールと1,6-ヘキサンジオールを9/1(モル比)で用いたポリカーボネートポリオール(株式会社クラレ製「クラレポリオールC-1090」、数平均分子量:976、平均水酸基価:115mgKOH/g)62.8g、ポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート(エボニック・ジャパン株式会社製「VESTANAT IPDI」、数平均分子量:222)28.5g、メチルエチルケトン23.6g、ビスマストリス(2-エチルヘキサノアート)0.009gを加え、80~90℃でポリカーボネートポリオールを反応させた。反応の終了はNCO%を測定することにより確認した。
【0256】
4.4 ペンタエリスリトール・トリ/テトラアクリレートの準備
東亜合成株式会社製「アロニックス306」を用いた。
【0257】
4.5 光重合開始剤の準備
光重合開始剤としてヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASFジャパン株式会社製「Omnirad184」)を用いた。
【0258】
4.6 抗菌・抗ウイルス剤組成物の調製
抗菌・故ウイルス剤としてのリン酸モノ/ジエステルと、ポリウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーと、ペンタエリスリトール・トリ/テトラアクリレートと、光重合開始剤とを、下記表5に示される配合量で混合し、さらに、メチルエチルケトンを混合して、有効成分量(触媒と溶媒以外の成分量)が50質量%の抗菌・抗ウイルス剤組成物を調製した。なお、表5に示された配合量は各成分の固形分量に換算した値である。また、光重合開始剤の配合量は、前記有効成分100質量部に対して5.3質量部となる量とした。
【0259】
4.7 皮革状積層体に対する抗菌・抗ウイルス剤組成物の固定化処理
皮革状積層体の表面に、下記表5に示す各組成物を20g/m2となるよう均一に塗布した後、120℃で2分乾燥を行い、抗菌・抗ウイルス剤組成物の固定化処理を行った。
【0260】
4.8 抗ウイルス性の評価方法
ISO21702:2019に準じて抗ウイルス活性値を測定し、抗菌・抗ウイルス剤組成物の固定処理後の皮革状積層体の抗ウイルス性能を評価した。使用ウイルスとして、A型インフルエンザウイルス(H3N2) ATCC VR-1679を使用した。抗ウイルス活性値R=(Ut-U0)-(At-U0)とした。U0は接種直後の未加工試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm2)であり、Utは24時間後の未加工試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm2)であり、Atは24時間後の加工処理した試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm2)である。活性値が高いものほど抗ウイルス性に優れる。本実施例においては、抗ウイルス活性Rが1.5以上である場合に抗ウイルス性が良好であると判断した。
【0261】
4.9 抗菌性の評価方法
JIS Z2801:2010により抗菌活性値を測定し、抗菌・抗ウイルス剤組成物の固定処理後の皮革状積層体の抗菌性能を評価した。使用菌として黄色ぶどう球菌Staphylococcus aureus NBRC12732を用いた。活性値が高いものほど抗菌性に優れる。本実施例においては、抗菌活性値2.0以上である場合に抗菌性が良好であると判断した。
【0262】
4.10 評価結果
結果を下記表5に示す。
【0263】
【0264】
表5に示される結果から明らかなように、イソデシルリン酸エステルを含む参考例1Cに係る組成物は、抗菌・抗ウイルス剤を含まない比較例1Cに係る組成物や、イソデシルリン酸エステルに替えてドデシル硫酸エステルを含む比較例2Cに係る組成物よりも、皮革状積層体に対して優れた抗菌性及び抗ウイルス性を付与することができた。
【0265】
5.熱硬化性樹脂を用いた非水系処理
5.1 化合物Nの調製及び化合物Oの準備
上記の活性エネルギー硬化性(UV硬化性)樹脂を用いた非水系処理と同様に化合物Nを得た。また、上記と同様に、化合物Oとして、花王社製エマール0(有効成分≧97%、ドデシル硫酸Na)を用意した。
【0266】
5.2 水酸基を有さないウレタン樹脂(1)の準備
ラッカー型ウレタン樹脂(DIC株式会社製「バーノック16-411」、重量平均分子量:29796、ガラス転移点(Tg):20℃)を用いた。
【0267】
5.3 水酸基を有するウレタン樹脂(2)の準備
二液型ポリウレタン樹脂塗料用主剤(和信化学工業株式会社製「ポリウレックスエコV-HK500クリヤーP液」)を用いた。
【0268】
5.4 水酸基含有アクリル樹脂の準備
イソシアネート硬化型アクリル樹脂(DIC株式会社製「アクリディックA-811」、不揮発分:50%、水酸基価:14~20mgKOH/g、酸価:3~5mgKOH/g)を用いた。
【0269】
5.5 水酸基含有ポリエステル樹脂の準備
イソシアネート硬化型ポリエステル樹脂(DIC株式会社製「バーノックD-161」、不揮発分:100%、水酸基価:155~180mgKOH/g、酸価:max.4.5mgKOH/g)を用いた。
【0270】
5.6 二液型ポリウレタン樹脂塗料用硬化剤の準備
和信化学工業株式会社製「ポリウレックスエコV-HK500フラットクリヤー(1:1用)D液」を用いた。
【0271】
5.7 HDI系イソシアヌレート型硬化剤
イソシアヌレート型ヘキサメチレンジイソシアネート(旭化成株式会社製「デュラネートTPA-100」、粘度:1350mPa・s/25℃)を用いた。
【0272】
5.8 抗菌・抗ウイルス剤組成物の調製
上記の各成分を下記表6に示される配合量で配合し、さらに、酢酸ブチルを混合して、有効成分量(溶媒以外の成分量)が45質量%の抗菌・抗ウイルス剤組成物を調製した。なお、表6に示される配合量は各成分の固形分量に換算した値である。
【0273】
5.9 ポリエステルフィルムに対する抗菌・抗ウイルス剤組成物の被覆処理
得られた抗菌・抗ウイルス剤組成物を硬化膜厚が5μmとなるように100μm厚のコロナ処理ポリエステルフィルム(東洋紡株式会社製「コスモシャインA4160」)上に塗工し、得られた塗膜を80℃で12時間加熱して、前記ポリエステルフィルム上に硬化膜を備える積層体を得た。
【0274】
5.10 抗ウイルス性の評価方法
ISO21702:2019に準じて抗ウイルス活性値を測定し、抗菌・抗ウイルス剤組成物で被覆処理後のポリエステルフィルムの抗ウイルス性能を評価した。使用ウイルスとして、A型インフルエンザウイルス(H3N2) ATCC VR-1679を使用した。抗ウイルス活性R=(Ut-U0)-(At-U0)とした。U0は接種直後の未加工試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm2)であり、Utは24時間後の未加工試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm2)であり、Atは24時間後の加工処理した試料から回収したプラーク数の平均常用対数(PFU/cm2)である。
【0275】
5.11 評価結果
結果を下記表6に示す。表6に示される活性値が高いもの程、抗ウイルス性に優れる。本実施例においては、抗ウイルス活性Rが1.5以上である場合に抗ウイルス性が良好であると判断した。
【0276】
【0277】
表6に示される結果から明らかなように、イソデシルリン酸エステルを含む参考例1D~4Dに係る組成物は、イソデシルリン酸エステルに替えてドデシル硫酸エステルを含む比較例1Dに係る組成物よりも、ポリエステルフィルムに対して優れた抗ウイルス性を付与することができた。
【0278】
6.まとめ
以上の実施例の結果から、以下の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、従来の抗菌・抗ウイルス剤組成物と比較して、優れた抗ウイルス性を発現可能といえる。
【0279】
炭素数8~20のアルキル基を有するリン酸モノエステル又はその塩(上記一般式(A))と、炭素数8~20のアルキル基を有するリン酸ジエステル又はその塩(上記一般式(B))と、のうちの少なくとも一方を含む、抗菌・抗ウイルス剤組成物。
【0280】
尚、一般的に、カチオン界面活性剤よりもアニオン界面活性剤のほうが、皮膚刺激性が低い傾向にある。この点、本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物は皮膚刺激性が低いという利点も有する。
【要約】
抗ウイルス性に優れる抗菌・抗ウイルス剤組成物を開示する。本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、炭素数8~20のアルキル基を有するリン酸モノエステル又はその塩と、炭素数8~20のアルキル基を有するリン酸ジエステル又はその塩と、のうちの少なくとも一方を含む。