(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】フィルムシートのロールからの繰り出し手段
(51)【国際特許分類】
B65H 16/06 20060101AFI20230419BHJP
【FI】
B65H16/06 B
(21)【出願番号】P 2019075171
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000105280
【氏名又は名称】ケイディケイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木村 義和
(72)【発明者】
【氏名】土屋 雅人
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-007316(JP,A)
【文献】実開昭56-173548(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 16/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
シャフト表面に複数の球状回転体が設けられ且つ前記球状回転体を含む外径が紙管の内径より小さいシャフト状の紙管取り付け部材からなることを特徴とした請求項1に記載のフィルムシートのロールからの繰り出し手段。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばラミネータ等で、印刷物表面に被覆するためのフィルムシートを紙管に巻き取ったロールから繰り出す際の繰り出し手段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラミネート装置で、印刷物表面に被覆するためのフィルムシート(紙管にロール状に巻き付けられている)を繰り出す手段として、例えば、前記紙管の両端に切り欠きを設け、さらに紙管の両端に前記切り欠きに嵌合する突起を設けた保持装置で、両者を嵌め合わせることにより空回りを防いだり、或いは紙管の両端からエアチャック等の保持装置により強制的に押圧したりして、保持装置の回転力を伝え空回りを防いでいた。
【0003】
ところで前記保持装置により紙管を回転させる手段では、一つの紙管を保持することしかできず、例えば一つの印刷物表面の異なる箇所に異なる幅のフィルムシートを複数分割して被覆することは困難であった。また仮に複数のフィルムシートのロールを保持することが出来たとしても、巻き径(外径)が異なるロールを同じ回転軸から繰り出すことは困難である。仮に巻き径の異なるロールを同一軸から繰り出そうとすると、一回転で繰り出すフィルムシートの量が巻き径の多いロールでは多く繰り出され、巻き径の少ないロールでは繰り出し量が少なくなる。従ってそれぞれのロールから繰り出される量がバラバラになり、回転するたびに引っ張られるロールや弛むロールが混在することになり不具合が生じる。
【0004】
ところで最近では前記のように、同一印刷用紙の表面に、デザイン及び機能的な観点等から複数個所をスポット的にフィルムシートにより被覆ラミネートする作業が急増している。使用者としては経済的な面からしても中途使用の巻き径の異なるロールを混ぜ合わせて使用し最後まで使い切りたいところである。そこで本発明者等は特開2017-7316号公報に記載されるフィルムシートの被覆手段及びそれを用いた情報通信体の製造方法を提供した。
【0005】
前記引用文献に記載されるラミネータは、巻き径の異なるロールでも1枚の印刷用紙の複数個所を同時に部分被覆することができ、従って使い残しの径の小さいロールでも、複数同時に最後まで余すことなく利用できる極めて経済的なラミネータである。そしてその具体的な構成として、1単位の印刷用紙に少なくとも2本のフリーローラ10a、10b上に配置された複数の異なる径のロールR1、R2から繰り出されるフィルムシートFを、前記1単位の印刷用紙の任意の複数部分に被覆するというものである。
【先行技術】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記引用文献の発明では同軸に設置した複数のロールからフィルムシートを繰り出すのではなく、2本のフリーローラ上に載せフィルムシートを引き出すため、仮に異なる径の複数のロールを同時に使用しても同じ繰り出し速度で各々のフィルムシートが引き出されることになり何ら問題なく作業を継続することができる。ところが2本のフリーローラに接触する部分に圧力が加わり、仮にフィルムロールの巻き取りが甘いような場合に、前記2本のフリーロール間でロールに弛みが発生し、さらに前記弛みはロールの回転時間と共に蓄積されるため、最終的にフリーローラや他の部材に巻き込まれてしまう。そのためオペレータはシステムを停止させて修復する作業を余儀なくされる。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑み、複数の巻き径が異なるフィルムシートロールを使用して、同じ一つの印刷物表面の複数の異なる箇所に、同時に異なる幅のフィルムシートをスポット的に被覆することが可能であると共に、繰り出しに際してロールの巻き取りテンションの甘さによる弛みの心配もなく、また異なる径のロールであっても最後まで使い切ることが可能なフィルムシートの繰り出し手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のフィルムシートのロールからの繰り出し手段は、紙管に巻き取られたフィルムシートのロールから前記フィルムシートを繰り出すフィルムシートのロールからの繰り出し手段であって、前記紙管の内径よりも小さい外径からなる一本の固定されたシャフト状の紙管取り付け部材に巻き径の異なる複数の紙管が前記シャフト状の紙管取り付け部材と遊びのある状態で装着され、前記巻き径の異なる複数の紙管が各々独立して回転しフィルムシートを同時に繰り出すことにより、一つの印刷物の異なる被覆予定箇所に同時に被覆することができることを特徴としている。
【0010】
前記フィルムシートのロールからの繰り出し手段の具体的な例として、外径が紙管内径よりもやや小さめのシャフトの表面に複数の突起部が前記シャフトの軸方向に沿って並列に形成されていても良い。この場合も突起部の頂点で計測される外径が紙管内径よりもやや小さめで若干の遊びがある設定が好ましい。前記突起部は、例えばリング状にシャフトを輪切りするように複数間隔をおいて並列に設置されても構わない。そしてリング状の前記突起部の頂点で計測される外径が取り付けられるロールの紙管内径よりもやや小さめで若干遊びがある設定が好ましい。
【0011】
前記突起部の材質に格別の制限はない。例えばアルミ、鉄、ステンレス等の金属、を初めジュラコン、MCナイロン、オイル含有の樹脂等或いはセラミック等でも構わない。
また前記リング状の突起部の数にも制限はない。また突起部の形成に関しては取り付けるシャフトと別体の部材で校正されていてもよく。或いは同一材質から削り出して継ぎ目がない状態でも構わない。
【0012】
また前記手段と異なる手段として、例えば紙管内径よりも外形の小さいベアリングを複数並列に取り付けたシャフト状の紙管取り付け部材に、巻き径の異なる複数のロールを装着してフィルムシートを繰り出せば、各ロールがベアリングの回転に合せて独自の回転速度でフィルムシートを繰り出すことができる。すなわち1本のシャフトで有るにも関わらず装着された紙管毎に異なる回転速度で対応することが可能になる。よって異なる巻き径のロールでも、同時に繰り出して一つの印刷物表面の異なる箇所にスポット的にフィルムシートを被覆することができる。
【0013】
なお前記ベアリングの外形は装着される紙管内径よりもやや小さめで若干の遊びを必要とする。そうすることで隣り合わせて装着されたロールが、お互いの異なる回転速度により干渉し、フィルムシートの繰り出しに支障をきたすことがなくなる。
【0014】
前記ベアリングの並列な並びにおいて、例えば一本のシャフトにベアリング同士が隣り合わせてほぼ接触するように装着されても良く、また若干の間隔を置いて配置されていても構わない。但し前記間隔が広すぎると幅の狭い紙管の正常回転に支障をきたすため、使用する予定の紙管の幅を考慮してベアリングの取り付け位置を決定する必要がある。
【0015】
さらに前記と異なる手段として例えば、シャフト表面に、複数の球体を回転自在に配置しておくことにより前記ベアリングの場合と同様の作用効果を得ることができる。この場合も球体頂点で計測される外径が紙管内径よりもやや小さめで若干の遊びがある設定が好ましい。なお前記球体の径や数に格別な制限はない。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、一本の固定されたシャフト状の紙管取り付け部材へのロールの装着に際して、紙管内面と接触する前記シャフト状の紙管取り付け部材の外径が、前記紙管の内径より若干小さく遊びがある状態に設定される。そのため紙管の回転に余裕が生じ、ロールがスムーズに回転することでフィルムシートはストレスなく繰り出される。
また単純な構造の1本のシャフトに複数の巻き径や幅の異なるロールを装着するだけで各々のロールが独立して回転することができ、一の印刷物表面の複数の箇所にそれぞれのフィルムシートをスポット的に同時に被覆することができるため、巻き径が異なるロールでも最後まで使い切ることができ経済的である。
さらに前記スポット被覆は多様な目的を持つ印刷物の美的効果、訴求効果等を効率的に引き出すことができるが、その加工が極めて容易になるためデザインの幅が広がる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)は本発明の
フィルムシートのロールからの繰り出し手段を構成するシャフトSの正面図、(B)は(A)におけるI-I線拡大断面図である。
【
図2】(A)は
図1(A)のシャフトSの右側部分拡大図、(B)は(A)における一点鎖線の円で示す突起部1の拡大図である。
【
図3】シャフトSに巻き径と幅の異なるロールR1、R2及びR3を装着し
、それぞれのロールからフィルムシートF1、F2及びF3を繰り出す様子を示す斜視図である。
【
図4】
図3に示すロールR1、R2及びR3を装着したシャフトSの断面図である。
【
図5】(A)及び(B)は本発明の実施例に記載されるシャフトSと異なる態様を示す部分拡大図である。
以下本発明を、図面に沿って分かりやすく説明する。
【0018】
図1(A)及び(B)に示すように。本実施例のシャフトSは例えばMCナイロン等の樹脂から複数の突起部1が並列に間隔を開けて配列された円柱状態に切り出されている。シャフトSの最大径である突起部1の外径Xは74mmである。そして突起部1の形状は
図2(A)及び一点鎖線の円内の拡大断面図である同図(B)に示すように、α=1.5mm、β=0.5mm、γ=0.5mmの台形となっている。なお現状のプリントラミ業界で多用されている紙管は内径3インチ=約76.2mmである。即ち前記外径74mmのシャフトSに3インチ紙管のロールを装着すると約2.2mmの遊びが生じることになる。前記約2.2mmの遊びは76.2mm(3インチ)の紙管内径に対して約3%となるが、そのあたりの遊びで紙管内側とシャフトSの外側とのこすれ合いが良好である。それよりも遊びが多くても或いは少なくても、ロールの回転に対する抵抗は大きくなる。
【0019】
既述の構成のシャフトSに例えば
図3に示すように3種類の巻き径及び幅の異なるロールR1、R2及びR3が装着されたとする。その場合紙管の内側では
図4に示すように、紙管の内側上部で突起部1が接触した状態となり、各紙管の内側下部には遊びの空間2が生じて吊り下げられた状態になる。この状態で各ロールからフィルムシートは引き出されるのであるが、回転する紙管内面と接触するのは突起部1の頂点近辺だけなので、例えば紙管内面と突起部1を有しない円柱の外面が全面的に接触する場合と比較して格段に摩擦力が軽減される。従ってフィルムシートF1、F2及びF3が巻回された各ロールは引き出される方向に容易に追従して回転することができる。
【0020】
なお、本発明では、ロールから引き出されるフィルムシートにつられて紙管が回転するが、シャフトSは固定されたまま回転しない。即ちフィルムシートの繰り出しにつられて、装着されたロールは各々自由回転するため、同じシャフトSに装着されているにも関わらず
図3に示すようにフィルムシートF1及びF2は上側から繰り出し、フィルムシートF3は下側から逆回転で繰り出すことも可能である。
【0021】
前記実施例ではシャフトSの材質としてMCナイロンを使用しているが、他にもジュラコンやオイル含有樹脂等を使用しても構わない。またアルミやステンレス或いは鉄を使用しても構わず、表面に滑走性を付加するフッ素樹脂等によりコーティングがされていればなお良い。さらにセラミック等体摩耗性の材質も好適に使用することができる。
【0022】
本発明ではシャフトSを固定した状態で紙管が自由に回転するものであるが、そのような構成として以下の方法が考えられるが何れにしても得られる効果は同じである。例えば
図5(A)に示すように、複数の紙管内径よりも若干小さめの外径を有するベアリングQをシャフトSに取り付けたものや、同図(B)に示すように複数の球体Pを全方向回転可能状態でシャフトS表面に装着したもの(この場合も回転可能な球体Pを含む外径が紙管の内径よりも若干小さめの外径となる)も好適に使用することができる。何れも紙管の回転を補助するものでありそのような機構であれば他の物でも構わない。
【0023】
またシャフトSに隣り合わせに装着されたロール同士の境界としてスペーサーを設けたり、固定用のカラーでロールの両側を押さえてロールの移動や蛇行を制御したりしても構わない。さらにシャフトSは、ラミネータ等のシステムに対して効率よくロールを装着することが可能で、またフィルムシートの引き出しが容易となる位置であれば、ラインやシステムのどの位置に配置されても構わない。
【符号の説明】
【0024】
1 突起部
S シャフト
F1、F2、F3 フィルムシート
R1、R2、R3 ロール
Q ベアリング
P 球体