(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】電子部品用ポリイミド基板
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20230419BHJP
H10K 50/00 20230101ALI20230419BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20230419BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230419BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C08G73/10
H05B33/14 A
H05B33/02
H05K1/03 610N
G09F9/30 310
(21)【出願番号】P 2018092210
(22)【出願日】2018-05-11
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江口 弘
(72)【発明者】
【氏名】原 由香里
(72)【発明者】
【氏名】松永 佳
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-119504(JP,A)
【文献】特開平04-328891(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190170(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/165455(WO,A1)
【文献】特開2013-010096(JP,A)
【文献】国際公開第2010/053185(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/053186(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00- 73/26
H10K 50/00
H05B 33/00- 33/28
H05K 1/00- 1/18
G09F 9/00- 9/46
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される繰り返し単位と、式(5)で表される繰り返し単位
からなるポリイミドを含み、該式(1)で表される繰り返し単位と該式(5)で表される繰り返し単位の存在比は、繰り返し単位(1):繰り返し単位(5)=1:0.05~1:1である、電子部品用ポリイミド基板。
【化1】
(式(1)中、R
1は式(2)で表される2価の有機基である。R
2は4価の有機基である。)
【化2】
(式(2)中、R
3は水素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、aは1~2の整数である。)
【化3】
(式(5)中、R
2は前記式(1)におけるR
2と同義である。R
4は、以下の式で表されるいずれかの2価の有機基である。)
【化4】
【請求項2】
前記R
2が、以下のいずれかの4価の有機基である、請求項1に記載の電子部品用ポリイミド基板。
【化5】
【請求項3】
前記R
1が、以下のいずれかの2価の有機基である、請求項1または請求項2に記載の電子部品用ポリイミド基板。
【化6】
【請求項4】
前記ポリイミドの重量平均分子量が、10000以上、500000以下である、請求項1乃至請求項
3のいずれか1項に記載の電子部品用ポリイミド基板。
【請求項5】
50℃以上、200℃以下における熱膨張係数が
21ppm/℃以上45ppm/℃以下である、請求項1乃至請求項
4のいずれか1項に記載の電子部品用ポリイミド基板。
【請求項6】
弾性率が3.0GPa以上、6.0GPa以下である、請求項1乃至請求項
5のいずれか1項に記載の電子部品用ポリイミド基板。
【請求項7】
基板の厚さ20~70μmにおける、波長400nm以上780nm以下の光透過率が、60%以上
87%以下である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の電子部品用ポリイミド基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品用ポリイミド基板に関する。特に、電子部品である表示パネルおよびプリント配線板に用いる電子部品用ポリイミド基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、特に表示パネル等の部品において、樹脂基板は軽量で薄くすることが可能であり、且つ柔軟で割れにくいことから、ガラス基板から樹脂基板への置き換えが進んでいる。なお、表示パネルを用いた装置としては、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、液晶ディスプレイおよび電子ペーパー等を挙げることができる。
【0003】
例えば、非特許文献1に、表示パネルとしての薄膜トランジスタをスイッチング素子とするTFT(thin film transistor)液晶パネルに、樹脂基板を用いることが記載されている。さらに、非特許文献1には、TFT液晶パネルに用いる樹脂基板には、TFT製造工程における300~350℃の加熱に耐える耐熱性が必要であること、その際、加熱後の基板に反りが発生しないこと、およびフォトレイヤ間の正確な位置合わせのため熱膨張係数(以下、CTEと記載することがある)が低いことが必要であると記載されている。
【0004】
プリント配線板としては、樹脂基板を用いたタッチパネルを挙げることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリカーボネート(PC)を基材とする酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide、ITO)層付き導電性基板が、帝人株式会社よりエレクリアの商品名でタッチパネルの部品として市販されている。
ポリイミドはPET、PCに比べ、高い耐熱性を示す。耐熱性に加え、ポリイミドは優れた電気絶縁性を有していることが知られており、絶縁材に用いられている。ポリイミドの中でも、全芳香族ポリイミドは熱膨張係数が低く、それが金属配線に近いことから、絶縁材料として用いた際に、金属配線との間に熱膨張による歪が生じ難く、高精度の配線回路の絶縁が可能である。なお、機械強度とは、その材料が持つ変形や破壊に対する抵抗量であり、本明細書においては、同軸方向の歪と応力の比である弾性率を指す。
【0005】
しかしながら、全芳香族ポリイミドの成形体は通常、黄色から褐色に着色しており透明性に劣り、透明性が必要とされる表示パネルおよびプリント配線板の基板として適しているとはいい難い。
【0006】
また、ポリイミドは原料として芳香族ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を反応させて、ポリアミド酸を得た後、本ポリアミド酸を脱水環化する(以下、イミド化と呼ぶことがある)手順で合成される。
【0007】
全芳香族ポリイミドは有機溶剤に対する溶解性が低い。しかしながら、前駆体であるポリアミド酸の段階では有機溶剤に溶解するので、ポリアミド酸の溶液の状態で塗布または成形した後でイミド化し、ポリイミドの成形品を得ることが行われている。
【0008】
特許文献1~2には、へキサフルオロイソプロパノール基(-C(CF3)2OH、以下、HFIP基と呼ぶことがある)を構造中への導入したポリイミド(以下、HFIP基含有ポリイミドと呼ぶことがある)の成形体からなる有機エレクトロルミネッセンス用基板が開示されている。
【0009】
特許文献1~2には、HFIP基を構造中に導入することで、全芳香族ポリイミドが特定の有機溶剤に溶解可能となることが記載される。また、特許文献1~2には、HFIP基含有ポリイミドを有機溶剤に溶解してポリイミド溶液を得、それを基板上に塗布し塗膜を成形し、そのまま乾燥させてあるいは膜を基板から剥がしてポリイミド基板とすることが記載される。特許文献1~2に開示されるHFIP基含有ポリイミドを含む有機エレクトロルミネッセンス用基板は、可視光領域における透明性に優れ、耐有機溶剤性、耐熱性、寸法安定性および機械強度をバランスよく併せ持つと記載されている。
【0010】
具体的には、特許文献1には、以下の繰り返し単位を有するHFIP基含有ポリイミド(K)を含む成形体からなる、有機エレクトロルミネッセンス用基板が開示されている。
【0011】
【0012】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはトリフルオロメチル基であり、R3は芳香環を含む4価の有機基であって、以下の何れかの構造で表される。)
【0013】
【0014】
特許文献2には、以下の式で表される繰り返し単位を50モル%以上有するHFIP基含有ポリイミド(L)を含む成形体からなる、有機エレクトロルミネッセンス用基板が開示されている。
【0015】
【0016】
(式中、R1は、エーテル結合、スルフィド結合、スルホキシ結合、メチレン基またはエチレン基であり、R2およびR3はそれぞれ独立に水素原子、メチル基またはトリフルオロメチル基であり、R4は芳香環を含む4価の有機基であって、以下の何れかの構造で表される。)
【0017】
【0018】
また、特許文献3には、以下の繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリイミド(M)が開示されている。
【0019】
【0020】
(a は、1 ~ 4 の整数を表す。R1は脂環、芳香環、アルキレン基から選ばれた一種以上を含有した4 価の有機基であり、フッ素、塩素、酸素、硫黄、窒素等を含有してもよく、さらには水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シアノ基で置換されてもよい。n は重合度を表す。)
【0021】
特許文献3には、HFIP基含有ポリイミド(M)は、含フッ素材料としての表面特性( 撥水性、撥油性等) 、耐性( 耐熱性、耐候性、耐腐食性等) 、その他の特性(透明性、低屈折率性、低誘電性等) とアルカリ可溶性、感光性、有機溶剤溶解性等を併せ持ち、電子デバイス用感光性絶縁膜に使用可能であることが記載されている。
【0022】
特許文献3の実施例には、HFIP基含有ポリイミド(M)の例として、以下の繰り返し単位を含むHFIP基含有ポリイミド(M1)~(M3)が記載されている。
【0023】
【0024】
また、特許文献4には、表示装置の部品として用いる無色透明フレキシブル基板には、十分な透明性と高いヤング率が要求されることが記載され、要求を満たすものとして、1,4-シクロヘキサンジアミンと、特定構造のテトラカルボン酸二無水物2種を共重合させることによるポリイミド樹脂膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【文献】特開2016-76481号公報
【文献】特開2016-76480号公報
【文献】特許第4940623号
【文献】特開2018-2963号公報
【非特許文献】
【0026】
【文献】シャープ技報第85号 プラスチックカラーTFT液晶の開発 2003年4月 30~33頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
特許文献1または特許文献2に記載のHFIP基含有ポリイミドは特定の有機溶剤に可溶でありポリイミド基板の成形が容易であり、ポリイミド基板とした際に優れた透明性および耐熱性を有し、有機エレクトロルミネッセンス用基板として使用可能である。
【0028】
本発明は、これらの特徴に加え、さらに機械強度および寸法安定性に優れる電子部品用ポリイミド基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、意外なことに、以下の繰り返し単位(1)を有するポリイミドを含むポリイミド基板の弾性率を測定したところ、測定値は3.0GPa以上であった。また、50℃以上、200℃以下における熱膨張係数は40ppm/℃以下であった(本明細書の[実施例]の表1における実施例1~4参照)。
【0030】
比較して、特許文献1~2に開示される有機エレクトロルミネッセンス用基板の弾性率は、その明細書の実施例において、低い値である(特許文献1、2.20~2.91GPa、特許文献2、1.65~2.40GPa)。
【0031】
HFIP基含有ポリイミド(1)は特定の有機溶剤に可溶なことから、基板への形成が容易であり、それから得られた基板は透明性および耐熱性に優れる。本発明者らは、さらに弾性率に係る機械強度に優れ、熱膨張係数が低く寸法安定性に優れることを見出した。
【0032】
これらの特徴から、本発明者らは、HFIP基含有ポリイミド(1)を含む基板は、電子部品用ポリイミド基板、特に透明性が必要とされる表示パネルおよびプリント配線板に用いる電子部品用ポリイミド基板として優れていることがわかり、本発明に到達するに至った。
【0033】
本発明は、以下の発明1~7を含む。
[発明1]
式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドを含む、電子部品用ポリイミド基板。
【0034】
【0035】
(式(1)中、R1は式(2)で表される2価の有機基である。R2は4価の有機基である。
【0036】
【0037】
式(2)中、R3は水素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、aは1~2の整数である。)
[発明2]
前記R2が、以下のいずれかの4価の有機基である、発明1の電子部品用ポリイミド基板。
【0038】
【0039】
[発明3]
前記R1が、以下のいずれかの2価の有機基である、発明1または発明2の電子部品用ポリイミド基板。
【0040】
【0041】
[発明4]
前記ポリイミドが、さらに、式(5)で表される繰り返し単位を含むポリイミドである、発明1~3の電子部品用ポリイミド基板。
【0042】
【0043】
(式(5)中、R2は前記式(1)におけるR2の意味するところと同義である。R4は、以下の式で表されるいずれかの2価の有機基である。)
【0044】
【0045】
[発明5]
前記ポリイミドの重量平均分子量が、10000以上、500000以下である、発明1~4の電子部品用ポリイミド基板。
【0046】
[発明6]
50℃以上、200℃以下における熱膨張係数が45ppm/℃以下である、発明1~5の電子部品用ポリイミド基板。
【0047】
[発明7]
弾性率が3.0GPa以上、6.0GPa以下である、発明1~6の電子部品用ポリイミド基板。
【0048】
[発明8]
基板の厚さ20~70μmにおける波長400nm以上、780nm以下での光透過率が60%以上である、発明1~7に記載の電子部品用ポリイミド基板。
【発明の効果】
【0049】
本発明の電子部品用ポリイミド基板は、特定の有機溶剤に可溶でありポリイミド基板の成形が容易であること、透明性および耐熱性に優れることに加え、さらに機械強度且つ寸法安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】
図1は、実施例1~2および比較例1で作製したポリイミド基板の光透過曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下の実施形態における各構成およびそれらの組み合わせは、本発明の電子部品用ポリイミド基板に用いる実施形態の一例であり、本発明の電子部品用ポリイミド基板はこれに限定されるものではない。本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。
【0052】
1.HFIP基含有ポリイミド
本発明の電子部品用ポリイミド基板が含むHFIP基含有ポリイミド について説明する。
【0053】
[式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミド]
本発明の電子部品用ポリイミド基板は、以下の式(1)で表される繰り返し単位を有するHFIP基含有ポリイミド(1)を含む。
【0054】
【0055】
(式(1)中、R1は式(2)で表される2価の有機基である。R2は4価の有機基である。
【0056】
【0057】
式(2)中、R3は水素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、aは1~2の整数である。)
【0058】
前記R2は、以下のいずれかの4価の有機であることが好ましい。
【0059】
【0060】
前記R1は、以下のいずれかの2価の有機であることが好ましい。
【0061】
【0062】
HFIP基含有ポリイミド(1)として、以下のいずれかの繰り返し単位を有するポリイミドを例示することができる。
【0063】
【0064】
[式(5)で表される繰り返し単位を有するポリイミド]
HFIP基含有ポリイミド(1)は、耐熱性、寸法安定性、および機械強度等の物性の調製のために、さらに式(5)で表される繰り返し単位を有してもよい。以後、一般式(5)で表される繰り返し単位を繰り返し単位(5)と呼ぶことがある。
【0065】
【0066】
(式(5)中、R2は前記式(1)のR2の意味するところと同義である。R4は、以下の式で表されるいずれかの2価の有機基である。)
【0067】
【0068】
なお、式(5)において、前記R2は、以下のいずれかの4価の有機基であることが好ましい。
【0069】
【0070】
HFIP基含有ポリイミド(1)として、繰り返し単位(1)に加え、以下に例示されるいずれかの繰り返し単位(5)を有するポリイミドを例示することができる。
【0071】
【0072】
[HFIP基含有ポリイミド(1)における繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の存在比]
HFIP基含有ポリイミド(1)が繰り返し単位(1)に加え、さらに繰り返し単位(5)を有する場合において、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(5)の存在比は、特に限定されるものではないが、繰り返し単位(1)と繰り返し単位(5)を有するHFIP基含有ポリイミド(1)を本発明の電子部品用ポリイミド基板として使用する際に必要とされる、耐熱性、寸法安定性、および機械強度等の物性を得るためには、繰り返し単位の個数比で表して繰り返し単位(5)の存在が、繰り返し単位(1)を1として、好ましくは、0.05以上あり、さらに好ましくは0.1以上であり、さらに好ましくは0.5以上である。すなわち、繰り返し単位(1):繰り返し単位(5)=1:0.05~1:1である。繰り返し単位(5)の存在が0.05より小さいと、得られるHFIP基含有ポリイミド(1)の物性値を調製する効果がなく、繰り返し単位(5)の存在比が1より大きいと、弾性率が低下する。
【0073】
[HFIP基含有ポリイミド(1)の重量平均分子量]
HFIP基含有ポリイミド(1)の重量平均分子量(Mw)は、限定されるものではないが、好ましくは、10000以上、500000以下であり、特に好ましくは、30000以上、200000以下である。20000より少ないと、強靭なポリイミド基板を得ることが難しく、500000より多いと基材上に製膜し基板を得ることが難しい。なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)により測定し、標準ポリスチレン検量線を用いポリスチレン換算して得られる値である。
【0074】
2.HFIP基含有ポリイミド(1)の製造方法
本発明の電子部品用基板に用いるHFIP基含有ポリイミド(1)の製造方法について以下に示す。
【0075】
HFIP基含有ポリイミド(1)は、原料にテトラカルボン酸二無水物と、芳香環を1個のみ有する芳香族単環化合物であって芳香環の水素原子をHFIP基に置換したジアミンを用いて合成される。
【0076】
HFIP基含有ポリイミド(1)の製造方法は限定されるものではないが、例えば、以下に示す式(6)で表されるフェニレンジアミンと、式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得ることができる。
【0077】
【0078】
(式(6)中、R3は水素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基であり、aは1~2の整数である。)
【0079】
【0080】
(式(7)中、R2は4価の有機基である。)
式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物として、以下のテトラカルボン酸二無水物を例示することができる。
【0081】
【0082】
[ポリイミドの製造方法(A)~(B)]
HFIP基含有ポリイミド(1)の製造方法として、以下のポリイミドの製造方法(A)または(B)を挙げることができる。
<製造方法(A)>
式(6)で表されるフェニレンジアミンと式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物を有機溶剤中で縮重合してポリアミック酸を得て、次いで該ポリアミック酸を脱水閉環させてイミド化することでHFIP基含有ポリイミド(1)を得るポリイミドの製造方法。
<製造方法(B)>
式(6)で表されるHFIP基を有するフェニレンジアミンと式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物の共存下、無溶剤で150℃以上に加熱溶融し反応させることで、HFIP基含有ポリイミド(1)を得るポリイミドの製造方法。
【0083】
(A)または(B)のポリイミドの製造方法において、得られるポリイミドの物性値の調製等の必要に応じ、式(6)で表される以外のジアミン、式(7)で表される以外のテトラカルボン酸二無水物、またはその両方を加えてもよい。
【0084】
(A)または(B)のポリイミドの製造方法ともに、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との縮重合反応はモル比で表して1対1で反応することから、式(6)で表されるフェニレンジアミンと式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物の存在比は、モル比で表して、フェニレンジアミン:テトラカルボン酸二無水物=0.5:1~1:0.5であり、好ましくは1:1である。
【0085】
2-1.ポリイミドの製造方法(A)
以下、ポリイミドの製造方法(A)について説明する。
【0086】
[有機溶剤]
使用する有機溶剤は、式(6)で表されるフェニレンジアミンと式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物からポリアミック酸を得る縮重合反応を阻害しなく、式(6)で表されるフェニレンジアミン、式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物および生成するポリアミック酸を溶解させるものであればよく、このような有機溶剤として、アミド系溶剤、芳香族系溶剤、ハロゲン系溶剤、ラクトン類溶剤、アルコール類溶剤またはグリコールエーテル類溶剤を挙げることができる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0087】
<アミド系溶剤>
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、またはN-メチル-2-ピロリドンを例示することができる。
【0088】
<芳香族系溶剤>
ベンゼン、アニソール、ジフェニルエーテル、ニトロベンゼン、ベンゾニトリル、またはp-クロロフェノールを例示することができる。
【0089】
<ハロゲン系溶剤>
クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、または1,1,2,2-テトラクロロエタンを例示することができる。
【0090】
<ラクトン類溶剤>
γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、またはα-メチル-γ-ブチロラクトンを例示することができる。
【0091】
<アルコール類溶剤>
n-ブチルアルコールを例示することができる。
【0092】
<グリコールエーテル類溶剤>
2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、または2-ブトキシエタノールを例示することができる。
【0093】
[有機溶剤の量]
有機溶剤の量は、式(6)で表されるフェニレンジアミンと式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物をあわせた量に対する質量比で表して、フェニレンジアミン+テトラカルボン酸二無水物:有機溶剤=1:001~1:10である。
【0094】
[反応温度]
式(6)で表されるフェニレンジアミンと式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物からポリアミック酸を得る縮重合反応は、前記有機溶剤中で、反応温度-20℃以上、80℃以下で行うことができる。
【0095】
[イミド化]
HFIP基含有ポリイミド(1)は、得られたポリアミック酸をさらに脱水閉環させイミド化することで得られる。
【0096】
脱水閉環は、前記ポリアミック酸の溶液を100℃以上、350℃以下に加熱し有機溶剤を揮発させつつ行うことができる。または、前記ポリアミック酸の溶液に0℃以上、50℃以下で、式(7)で表されるフェニレンジアミンに対し、ピリジンまたはトリエチルアミン等の塩基と無水酢酸をそれぞれ0.1モル当量以上、10モル当量以下を加えることでイミド化し、HFIP基含有ポリイミド(1)の溶液を得ることができる。得られたHFIP基含有ポリイミド(1)溶液は、そのまま後述の電子部品用ポリイミド基板の製造に供してもよく、あるいは、濃縮または希釈してもよく、あるいは、HFIP基含有ポリイミド(1)の溶液中から有機溶剤等を除去してHFIP基含有ポリイミド(1)そのものを得て使用してもよい。
【0097】
3.電子部品用ポリイミド基板の製造方法
本発明の電子部品用ポリイミド基板は、支持基板上にポリイミド溶液の状態での塗布することで、支持基板上に形成が可能である、また、支持基板上に形成した状態で、あるいは支持基板から剥がして電子部品用ポリイミド基板として使用できる。例えば、前項のポリイミドの製造方法で得られたHFIP基含有ポリイミド(1)の溶液を基材に塗布展開することで得ることができる。
【0098】
HFIP基含有ポリイミド(1)の溶液が含む有機溶剤としては、前項の[(A)のポリイミドの製造方法]に記載のアミド系溶剤、芳香族系溶剤、ハロゲン系溶剤、ラクトン類溶剤、アルコール類溶剤またはグリコールエーテル類溶剤を挙げることができる。
【0099】
本発明の電子部品用HFIP基含有ポリイミド基板の製造工程は特に限定されるものではないが、例えば、HFIP基含有ポリイミド(1)の溶液を支持基板に塗布する塗布工程、有機溶剤を除去乾燥しHFIP基含有ポリイミド(1)を含む膜を得る有機溶剤除去工程、得られた膜を加熱する加熱工程を経て得ることができる。
【0100】
[塗布工程]
塗布工程におけるHFIP基含有ポリイミド(1)の溶液の塗布方法は、特に制限されず、公知の塗布方法および印刷を用いることができる。HFIP基含有ポリイミド(1)溶液の粘度および求める膜厚に応じて、スピンコーター、バーコーター、ドクターブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、ロータリーコーター、フローコーター、ダイコーター、リップコーター、プレーコート、フローコート、ディップコート、ハケ塗り、スクリーン印刷、グラビア印刷を適宜選択し使用することができる。
【0101】
HFIP基含有ポリイミド(1)溶液を塗布する基材としては、その後の工程に耐えうる耐熱性を有していれば、特に限定されず、無機基材、有機材料を適宜選択して使用されることができる。
【0102】
無機基材としては、ガラス、シリコン、ステンレス鋼、アルミナ、銅、またはニッケル、有機機材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリエチレングリコールナフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルホンまたはポリフェニレンスルフィドを例示することができる。好ましくは、ガラス、シリコン、ステンレス鋼である。
【0103】
HFIP基含有ポリイミド(1)の塗膜の膜厚は、HFIP基含有ポリイミド(1)溶液の濃度調製および塗布法の選択により適宜調製することができる。膜厚は1μm以上、1000μm以下であり、好ましくは、3μm以上500μm以下である。膜厚が1μmより薄いと成形後に得られるポリイミド基板に十分な強度が得られず、1000μmより厚いとポリイミド基板に割れ等の欠陥が発生する虞がある。
【0104】
[有機溶剤除去工程および加熱工程]
前記塗布工程により塗布膜を得た後、さらに塗布膜から有機溶剤を除去・乾燥する有機溶剤除去工程と、有機溶剤除去工程後のポリイミド基板をさらに熱処理し、硬化させる加熱工程を経ることで、機械強度に優れたポリイミド基板が得られる。有機溶剤除去工程、加熱工程における加熱時間は、通常0.5時間以上、3時間以下であり、それぞれの工程を連続または別々に行うことができる。
【0105】
<有機溶剤除去工程>
有機溶剤除去工程で有機溶剤を除去し乾燥を行う際の温度は、本発明のHFIP基含有ポリイミド(1)溶液に使用される有機溶剤の種類にもよるが、30℃以上、400℃以下であり、好ましくは、50℃以上、250℃以下である。30℃より低い温度では乾燥が不十分となり、400℃より高い温度ではHFIP基含有ポリイミド(1)が熱分解する虞がある。
【0106】
<加熱工程>
加熱工程の温度は、150℃以上、400℃以下であり、好ましくは200℃以上、300℃以下である。150℃より低い温度では、有機溶剤が残存し、400℃より高い温度ではHFIP基含有ポリイミド(1)が熱分解する虞がある。
【0107】
加熱工程で使用される加熱装置は特に限定されるものではなく公知の装置を使用することができ、例えば、イナートガスオーブン、ホットプレート、箱型乾燥機、またはコンベアー型乾燥機を例示することができる。
【0108】
加熱工程は、ポリイミド基板の酸化防止から、不活性ガス雰囲気化や減圧下で行うことが好ましい。
【0109】
<剥離工程>
使用用途および目的によっては、ポリイミド基板を得るには、加熱工程後に支持基材からポリイミド膜を剥離し、それをポリイミド基板とする剥離工程が必要となる。剥離工程は、前記加熱工程後、室温(20℃)から50℃程度まで冷却した後、実施することができる。この際、剥離を容易に行うためには、支持基材に剥離剤を塗布してもよい。その際の剥離剤は特に限定されるものではないが、シリコン系またはフッ素系の剥離剤を挙げることができる。
【0110】
3.電子部品用ポリイミド基板の用途
上記電子部品用ポリイミド基板の製造で得られた本発明の電子部品用ポリイミド基板は、表示分野においては、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、液晶ディスプレイおよび電子ペーパー等に用いることができる。また、表示分野においては、カバーフィルムにおいても好適に用いることができる。プリント配線板の分野では、タッチパネル等の透明配線板用途として用いることができる。
【0111】
4.電子部品用ポリイミド基板の性能
本発明の電子部品用ポリイミド基板は、十分な透明性、耐熱性を有し、さらに寸法安定性および機械強度に優れる。
【0112】
[透明性]
本発明の電子部品用ポリイミド基板の透明性は、膜厚20~70μmにおいて、波長400nm~780nmでの光透過率が、60%以上に達する(本明細書の
図1参照)。電子部品用ポリイミド基板の透明性は高い方がよく、好ましくは60%以上であり、より好ましくは、70%以上である。
【0113】
[耐熱性]
本発明の電子部品用ポリイミド基板の耐熱性は、ガラス転移温度(以下、Tgと呼ぶことがある)および5%重量減少温度(以下、Td5と呼ぶことがある)を指標とする。本明細書において、ガラス転移温度は、基板を熱機器分析(TMA)で昇温速度10℃/分の条件で測定した時の値である。Td5は、熱重量分析装置を用いて基板の熱重量測定を行い、初期の重量に対して5%重量損失があった際の温度である。
【0114】
本発明の電子部品用ポリイミド基板は、Tg、200℃以上、Td5、300℃以上を達成する(本明細書の[表1]の実施例1~2参照)。Tgが200℃より低いと耐熱性に乏しく、Td5が300℃より低いと、デバイス作製プロセスで基板の劣化の原因になる。好ましくは、TgおよびTd5ともに、300℃以上である。
【0115】
[機械強度]
本発明の電子部品用ポリイミド基板の機械強度は、弾性率を指標とする。本明細書において、弾性率は、JIS K 7161に準じて、基板の引張試験を行うことで求めた値である。本発明の電子部品用ポリイミド基板は、弾性率は、3.0GPa以上、6.0GPa以下を達成する(本明細書の[表1]の実施例1~2参照)。弾性率は高い方が基板の剛性が高く好ましいが、弾性率が6.0GPaより大きいと、電子部品作製プロセスで、基板が反る懸念がある。
【0116】
[寸法安定性]
本発明の電子部品用ポリイミド基板の寸法安定性(以下、CTEと呼ぶことがある)は、50℃以上、200℃以下の温度範囲における熱膨張係数を指標とする。本明細書において、熱膨張係数は、熱機器分析(TMA)で昇温速度10℃/分の条件で基板を加温し測定した時の値である。
【0117】
本発明の電子部品用ポリイミド基板は、50℃以上、200℃以下における熱膨張係数45ppm/℃以下を達成する(本明細書の[表1]の実施例1~2参照)。熱膨張係数が45ppm/℃より大きいと基板の寸法安定性に劣る。
【実施例】
【0118】
以下に実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
1.ポリイミド基板の作製
HFIP基含有ポリイミド(1)に属するポリイミド(A)~(D)の溶液(実施例1~4)、本発明の範疇に属さないポリイミド(R1)~(R3)の溶液(比較例1~3)を調製し、さらに調製した各々のポリイミド溶液を用い、ポリイミド基板(A)~(D)および(R1)~(R3)を作製した。
【0119】
実施例1
[ポリイミド(A)の溶液の調製]
窒素導入管および攪拌翼を備えた容量500mLの三口フラスコに、以下の式に示すHFIP-pPDを20.0g(73mmol)、および6FDAを32.4g(73mmol)加え、さらに、有機溶剤としてジメチルアセトアミド(DMAc)を119g加え、窒素雰囲気下、室温(20℃)で24時間攪拌した後、ピリジン12.1g(153mmol)、無水酢酸15.6g(153mmol)を順に加え、窒素雰囲気下、室温(20℃)で3時間攪拌し、イミド化を行った。その後、DMAc加えてイミド化後の反応液を希釈し、加圧濾過することで、式(A)で表される繰り返し単位を含むポリイミド(A)のDMAc溶液を調製した。
【0120】
【0121】
[ポリイミド(A)の分子量の測定]
ポリイミド(A)のDMAc溶液のGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)による分子量の測定を行ったところ、Mw=174000、Mw/Mn=2.5であった。Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量である。
【0122】
なお、GPCには、東ソー株式会社製、機種名:HLC-8320GPC、カラム:TSKgel SuperHZM-Hを用い、展開溶剤にはテトラヒドロフラン(THF)を用いた。
【0123】
[ポリイミド基板(A)の作製]
調製したポリイミド(A)のDMAc溶液をガラス基材上に垂らし、スピンコーターを用い、ガラス基材上に塗布した。窒素雰囲気下、180℃下で30分間乾燥してDMAc、ピリジンおよび無水酢酸を除去し、250℃で2時間加熱した後、冷却し、ガラス基材からポリイミド膜を剥がすことで、上記ポリイミド(A)からなるポリイミド基板(A)を厚さ、49μmで得た。尚、測定は、膜厚計(株式会社ニコン製、機種名:DIGIMICRO MH-15)を用いおこなった。
【0124】
実施例2
[ポリイミド(B)の溶液の調製]
窒素導入管および攪拌翼を備えた容量500mLの三口フラスコに、以下の式に示すHFIP-mTBを19.9g(36.5mmol)、HFIP-pPDを10.0g(36.5mmol)および6FDAを32.4g(73mmol)加え、窒素雰囲気下、室温(20℃)で24時間攪拌した後、ピリジン12.1g(153mmol)、無水酢酸15.6g(153mmol)を順に加え、窒素雰囲気下、室温(20℃)で3時間攪拌し、イミド化を行った。その後、DMAc加えてイミド化後の反応液を希釈し、加圧濾過することで、以下の式(A)および(B)で表される繰り返し単を含むポリイミド(B)のDMAc溶液を調製した。
【0125】
【0126】
[ポリイミド基板(B)の作製]
調製したポリイミド(B)のDMAc溶液をさらにDMAcで希釈し、スピンコーターを用い、ガラス基材上に塗布した。窒素雰囲気下、180℃下で30分間乾燥してDMAc、ピリジンおよび無水酢酸を除去し、250℃で2時間加熱した後、冷却し、ガラス基材からポリイミド膜を剥がすことで、上記ポリイミド(B)からなるポリイミド基板(B)を厚さ、60μmで得た。尚、測定は、実施例と同じ膜厚計を用いた。
【0127】
実施例3
[ポリイミド(C)の溶液の調製]
窒素導入管および攪拌翼を備えた容量500mLの三口フラスコに、以下の式に示すHFIP-pPDを20.0g(73mmol)、6FDAを16.2g(36.5mmol)、ODPAを11.3g(36.5mmol)加え、窒素雰囲気下、室温(20℃)で24時間攪拌した後、ピリジン12.1g(153mmol)、無水酢酸15.6g(153mmol)を順に加え、窒素雰囲気下、室温(20℃)で3時間攪拌し、イミド化を行った。その後、DMAc加えてイミド化後の反応液を希釈し、加圧濾過することで、以下の式(A)および(C)で表される繰り返し単を含むポリイミド(C)のDMAc溶液を調製した。
【0128】
【0129】
[ポリイミド基板(C)の作製]
調製したポリイミド(C)のDMAc溶液をさらにDMAcで希釈し、スピンコーターを用い、ガラス基材上に塗布した。窒素雰囲気下、180℃下で30分間乾燥してDMAc、ピリジンおよび無水酢酸を除去し、250℃で2時間加熱した後、冷却し、ガラス基材からポリイミド膜を剥がすことで、上記ポリイミド(C)からなるポリイミド基板(C)を厚さ、53μmで得た。尚、測定は、実施例と同じ膜厚計を用いた。
【0130】
実施例4
[ポリイミド(D)の溶液の調製]
窒素導入管および攪拌翼を備えた容量500mLの三口フラスコに、以下の式に示すHFIP-pPDを20.0g(73mmol)、TFMBを7.8g(24mmol)、6FDAを28.1g(63mmol)、BPDAを10.0g(34mmol)加え、窒素雰囲気下、室温(20℃)で24時間攪拌した後、ピリジン16.2g(204mmol)、無水酢酸20.9g(204mmol)を順に加え、窒素雰囲気下、室温(20℃)で3時間攪拌し、イミド化を行った。その後、DMAc加えてイミド化後の反応液を希釈し、加圧濾過することで、以下の式(A)、(D)、(E)、(F)で表される繰り返し単を含むポリイミド(D)のDMAc溶液を調製した。
【0131】
【0132】
[ポリイミド(D)の分子量の測定]
ポリイミド(D)のDMAc溶液のGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)による分子量の測定を行ったところ、Mw=118000、Mw/Mn=2.1であった。Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量である。
【0133】
なお、GPCには、東ソー株式会社製、機種名:HLC-8320GPC、カラム:TSKgel SuperHZM-Hを用い、展開溶剤にはテトラヒドロフラン(THF)を用いた。
【0134】
[ポリイミド基板(D)の作製]
調製したポリイミド(D)のDMAc溶液をさらにDMAcで希釈し、スピンコーターを用い、ガラス基材上に塗布した。窒素雰囲気下、180℃下で30分間乾燥してDMAc、ピリジンおよび無水酢酸を除去し、250℃で2時間加熱した後、冷却し、ガラス基材からポリイミド膜を剥がすことで、上記ポリイミド(D)からなるポリイミド基板(D)を厚さ、60μmで得た。尚、測定は、実施例と同じ膜厚計を用いた。
【0135】
比較例1
[ポリイミド(R1)の溶液の調製]
窒素導入管および攪拌翼を備えた容量500mLの三口フラスコに、以下の式に示すpPDを10.0g(93mmol)、および6FDAを41.2g(93mmol)加え、さらに、有機溶剤としてジメチルアセトアミド(DMAc)を85g加え、窒素雰囲気下、室温(20℃)で24時間攪拌した後、ピリジン15.4g(194mmol)、無水酢酸19.4g(194mmol)を順に加え、室温(20℃)で3時間攪拌し、イミド化を行った。その後、DMAcを加えてイミド化後の反応液を希釈し、加圧濾過することで、以下の式(R1)で表される繰り返し単位を含むポリイミド(R1)のDMAc溶液を調製した。
【0136】
【0137】
[ポリイミド基板(R1)の作製]
調製したポリイミド(R1)のDMAc溶液をさらにDMAcで希釈し、スピンコーターを用い、ガラス基材上に塗布した。窒素雰囲気下、180℃下で30分間乾燥してDMAc、ピリジンおよび無水酢酸を除去し、250℃で2時間加熱した後、冷却し、ガラス基材からポリイミド膜を剥がすことで、上記ポリイミド(B)からなるポリイミド基板(B)を厚さ、30μmで得た。尚、測定は、実施例と同じ膜厚計を用いた。
【0138】
比較例2
[ポリイミド(R2)の溶液の調製]
窒素導入管および攪拌翼を備えた容量500mLの三口フラスコに、以下の式に示すHFIP-MDAを58.3g(110mmol)、およびDSDAを39.1g(110mmol)加え、さらに、有機溶剤としてジメチルアセトアミド(DMAc)を220g加えた後、窒素雰囲気下、室温(20℃)で24時間攪拌した後、ピリジン34.8g(440mmol)、無水酢酸44.9g(440mmol)を順に加え、室温(20℃)で3時間攪拌し、イミド化を行った。その後、DMAcを加えてイミド化後の反応液を希釈し、加圧濾過することで、以下の式(R2)で表される繰り返し単位を含むポリイミド(R2)のDMAc溶液を調製した。
【0139】
[ポリイミド(R2)の分子量の測定]
実施例1と同様の方法で分子量を測定した結果、ポリイミド(R2)のDMAc溶液のGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)による分子量の測定を行ったところ、Mw=85100、Mw/Mn=2.0であった。Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量である。
【0140】
【0141】
[ポリイミド基板(R2)の作製]
調製したポリイミド(R2)のDMAc溶液をさらにDMAcで希釈し、スピンコーターを用い、ガラス基材上に塗布した。窒素雰囲気下、180℃下で30分間乾燥してDMAc、ピリジンおよび無水酢酸を除去し、200℃で2時間加熱した後、冷却し、ガラス基材からポリイミド膜を剥がすことで、上記ポリイミド(R2)からなるポリイミド基板(R2)を厚さ、51μmで得た。尚、測定は、実施例と同じ膜厚計を用いた。
【0142】
比較例3
[ポリイミド(R3)の溶液の調製]
窒素導入管および攪拌翼を備えた容量500mLの三口フラスコに、以下の式に示すTFMBを22.4g(70mmol)、およびODPAを21.7g(70mmol)加え、さらに、有機溶剤としてジメチルアセトアミド(DMAc)を68g加え、窒素雰囲気下、室温(20℃)で24時間攪拌した後、ピリジン11.6g(147mmol)、無水酢酸15.7g(147mmol)を順に加え、室温(20℃)で3時間攪拌し、イミド化を行った。その後、DMAcを加えてイミド化後の反応液を希釈し、加圧濾過することで、以下の式(R3)で表される繰り返し単位を含むポリイミド(R3)のDMAc溶液を調製した。
【0143】
【0144】
[ポリイミド基板(R3)の作製]
調製したポリイミド(R3)のDMAc溶液をさらにDMAcで希釈し、スピンコーターを用い、ガラス基材上に塗布した。窒素雰囲気下、180℃下で30分間乾燥してDMAc、ピリジンおよび無水酢酸を除去し、250℃で2時間加熱した後、冷却し、ガラス基材からポリイミド膜を剥がすことで、上記ポリイミド(R3)からなるポリイミド基板(R3)を厚さ、60μmで得た。尚、測定は、実施例と同じ膜厚計を用いた。
【0145】
2.ポリイミド基板の物性測定
実施例1~4で作製したポリイミド基板(A)~(D)、比較例1~3で作製したポリイミド基板(R1)~(R3)の以下の物性を測定した。
【0146】
2-1.物性評価項目
[透明性]
透明性は、株式会社島津製作所製、紫外可視近赤外分光光度計(UV-VIS-NIR SPECTROMETER 機種名 UV-3150)を用い、基板の波長300nmから800nmの光透過スペクトル、および波長400nmの光透過率(T400)、波長420nmの光透過率(T420)を測定した。
【0147】
[耐熱性]
5%重量減少温度(Td5)ポリイミド基板の耐熱性の指標である。5%重量減少温度(Td5)は、示差熱熱重量同時測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス社製、機種名STA7200)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
またはガラス転移温度(Tg)は、熱機械分析装置(株式会社リガク社製、機種名TMA8310)を用いた引張試験で測定した。
【0148】
[寸法安定性]
寸法安定性の指標である熱膨張係数(CTE)は、上記の熱機械分析装置を用い、昇温速度10℃/分の条件で基板を加温し、50℃以上、200℃以下における熱膨張係数を測定した。
【0149】
[機械強度]
機械強度の指標である弾性率は、万能試験機オートグラフ(株式会社島津製作所製、Autograph AG-IS)を用い、基板にJIS K 7161に準拠する引張試験を行い測定した。
【0150】
2-2.物性測定結果
上記実施例1~4および比較例1~3で作製した各ポリイミド基板を用い、上記物性の測定を行った。表1に測定結果を示す。表1おいて、電子部品用基板とする際に、特に良好な評価結果をA、良好な評価結果をB、十分でない評価結果はCとした。
【0151】
【0152】
[透明性]
図1の光透過率曲線に示す様に、実施例1~2で製した、ポリイミド基板(A)~(B)は、良好な透明性を示し、基板の厚さ20~70μmにおける、波長400nm以上780nm以下の光透過率が60%以上であった。
【0153】
表1に示す様に、実施例1~4で作製したポリイミド基板(A)~(D)は、波長420nmにおける光透過は各々84~87%であり、比較例1~3で作製したポリイミド基板(53~83%)に比べ、特に短波長側で優れていた。特にHFIP基を有しないポリイミド基板(R1)、(R3)に比べ優れる。
【0154】
[耐熱性]
表1に示す様に、実施例1~4で作製したポリイミド基板(A)~(D)は、Tgが307~330℃、Td5が340~367℃であり、電子部品用の基板として使用するのに十分な値であった。ポリイミド基板(A)~(D)に比較して、比較例1~3で作製した、ポリイミド基板(R1)~(R3)はTgが低い値であった。
【0155】
[機械強度]
表1に示す様に、実施例1~4で作製したポリイミド基板(A)~(D)の弾性率は各々3.0~3.7GPaであり、電子部品用の基板として使用するのに十分な値であった。
【0156】
[寸法安定性]
表1に示す様に、実施例1~4で作製したポリイミド基板(A)~(D)のCTEは21~40ppm/℃であった。比較して、ポリイミド基板(R1)~(R3)は、CTEは高い値であった(44~55ppm/℃)。
【0157】
実施例1~4で作製したポリイミド基板(A)~(D)は、透明性および耐熱性に加え、さらに機械強度および寸法安定性に優れ、ポリイミド基板(R1)~(R3)に対し、電子部品用ポリイミド基板として優れていた。