(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】金属素形材用の表面処理液、複合体の製造方法および処理液付与具
(51)【国際特許分類】
C23C 22/07 20060101AFI20230419BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230419BHJP
B32B 15/095 20060101ALI20230419BHJP
B32B 15/085 20060101ALI20230419BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230419BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230419BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230419BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230419BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20230419BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20230419BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20230419BHJP
C23C 22/76 20060101ALI20230419BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C23C22/07
B32B15/08 N
B32B15/095
B32B15/085 Z
B32B27/18 Z
B32B27/32 Z
B32B27/40
B05D7/24 301F
B05D7/24 302G
B05D7/24 302T
B05D7/24 303B
B05D3/02 Z
B05D1/02 Z
B05D7/14 Z
C23C22/76
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2019024812
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2021-10-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 大地
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 佑弥
(72)【発明者】
【氏名】森川 茂保
(72)【発明者】
【氏名】中野 忠
(72)【発明者】
【氏名】辻村 太佳夫
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108493(JP,A)
【文献】特開2018-039967(JP,A)
【文献】特開2009-275284(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0160356(US,A1)
【文献】特開2009-127061(JP,A)
【文献】特開2015-020364(JP,A)
【文献】特開2015-110318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00
B32B 15/00
B05D 1/02
B05D 7/14
B05D 7/24
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の金属素形材に対して、樹脂組成物の成形体
に接して前記成形体を接合させ得る表面処理層を、前記一の金属素形材の表面に形成するための金属素形材用の表面処理液であって、
固形分の全量に対する含有量がP原子換算で0.05質量%以上3.0質量%未満となる量のリン酸化合物と、
Ti、Zr、VおよびMoからなる群から選択される金属の酸化物、水酸化物またはフッ化物である密着性助剤と、
前記表面処理液の全質量に対して5質量%以上35質量%以下の量で含有される有機溶媒と、
樹脂のエマルジョンと、
を含み
(水溶性有機樹脂及び/又は水分散性有機樹脂の含有量が全固形分中0~15mass%であるものを除く)、
粘度が2mPa・s以上50mPa・s以下である、
金属素形材用の表面処理液。
【請求項2】
前記樹脂はポリウレタン系樹脂を含む、請求項1に記載の金属素形材用の表面処理液。
【請求項3】
前記樹脂はポリプロピレン系樹脂を含む、請求項1に記載の金属素形材用の表面処理液。
【請求項4】
一の金属素形材の表面に請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理液を付与し、乾燥させて表面処理層を形成する工程と、
前記一の金属素形材に対し、前記表面処理層に接するように樹脂組成物の成形体を配置する工程と、
前記表面処理層と前記樹脂組成物の成形体との接触部を加熱する工程と、
を有する、複合体の製造方法。
【請求項5】
一の金属素形材の表面に請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理液を付与し、乾燥させて表面処理層を形成する工程と、
前記表面処理層が形成された上記一の金属素形材を射出成型金型に挿入する工程と、
前記一の金属素形材が挿入された前記射出成型金型の内部に溶融した熱可塑性樹脂組成物を射出する工程と、
を有する、複合体の製造方法。
【請求項6】
容器と、
前記容器の内部に収容された請求項1~3のいずれか1項に記載の金属素形材用の表面処理液と、
を有し、
前記容器は、
前記金属素形材用の表面処理液を収容する収容部と、
前記収容部に収容された前記表面処理液を前記金属素形材に付与するための付与部と、
を有する、処理液付与具。
【請求項7】
前記付与部は、スプレーまたはノズルヘッドからの前記表面処理液の噴射により、前記表面処理液を前記金属素形材に付与する、
請求項6に記載の処理液付与具。
【請求項8】
前記付与部は、前記金属素形材に接した繊維の集合体への前記表面処理液の通過により、前記表面処理液を前記金属素形材に付与する、
請求項6に記載の処理液付与具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属素形材用の表面処理液、複合体の製造方法および処理液付与具に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板もしくはそのプレス成形品、または鋳造、鍛造、切削、粉末冶金などにより成形された、いわゆる金属素形材は、自動車などの様々な工業製品に使用されている。これらの金属素形材を部品とする場合、金属素形材同士または金属素形材と樹脂組成物の成形体とが接合した複合体を用いることが多い。
【0003】
金属素形材と樹脂組成物の成形体とが接合された複合体は、金属のみからなる部品よりも軽量であり、かつ樹脂のみからなる部品よりも強度が高いため、様々な工業製品に使用されている。従来、このような複合体は、金属素形材と樹脂組成物の成形体を嵌合させることにより製造されていた。さらには、近年では、インサート成形や接着剤による接合によって複合体を製造する方法が注目されている。しかしながら、これらの嵌合、インサート成形および接着剤などによる複合体の製造方法は、作業工程数が多く、生産性が低かった。
【0004】
そこで、作業性および密着性に優れた、金属素形材と樹脂組成物の成形体との接合方法として、金属素形材の表面に有機樹脂を含む表面処理液を塗布して乾燥させ、有機樹脂層を形成する方法が開発されている(特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1などに記載の方法によれば、金属素形材と樹脂組成物の成形体とを容易にかつ密着性よく接合できる。そこで、当該方法をより容易に行える方法のさらなる開発が望まれている。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、金属素形材と樹脂組成物の成形体とを容易に接合可能な金属素形材用の表面処理液、当該表面処理液を用いる複合体の製造方法、および当該表面処理液を金属素形材の表面に付与するための処理液付与具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、一の金属素形材に対して、樹脂組成物の成形体を接合させ得る表面処理層を、上記一の金属素形材の表面に形成するための金属素形材用の表面処理液に関する。上記表面処理液は、リン酸化合物と、Ti、Zr、VおよびMoからなる群から選択される金属の酸化物、水酸化物またはフッ化物である密着性助剤と、その全質量に対して5質量%以上35質量%以下の量で含有される有機溶媒と、樹脂のエマルジョンと、を含み、粘度が2mPa・s以上50mPa・s以下である。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の他の態様は、一の金属素形材の表面に上記表面処理液を付与し、乾燥させて表面処理層を形成する工程と、上記一の金属素形材に対し、上記表面処理層に接するように樹脂組成物の成形体を配置する工程と、上記表面処理層と上記樹脂組成物の成形体との接触部を加熱する工程と、を有する、複合体の製造方法に関する。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の他の態様は、一の金属素形材の表面に上記表面処理液を付与し、乾燥させて表面処理層を形成する工程と、上記表面処理層が形成された上記一の金属素形材を射出成型金型に挿入する工程と、上記一の金属素形材が挿入された上記射出成型金型の内部に溶融した熱可塑性樹脂組成物を射出する工程と、を有する、複合体の製造方法に関する。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の他の態様は、容器と、上記容器の内部に収容された上記金属素形材用の表面処理液と、を有する処理液付与具に関する。上記容器は、上記金属素形材用の表面処理液を収容する収容部と、上記収容部に収容された上記表面処理液を上記金属素形材に付与するための付与部と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属素形材と樹脂組成物の成形体とを容易に接合可能な金属素形材用の表面処理液、当該表面処理液を用いる複合体の製造方法、および当該表面処理液を金属素形材の表面に付与するための処理液付与具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に関する処理液付与具の例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.金属素形材用の表面処理液
本発明の一実施形態は、一の金属素形材に対して、樹脂組成物の成形体を接合させ得る表面処理層を、上記一の金属素形材の表面に簡易に形成できる、金属素形材用の表面処理液(以下、単に「表面処理液」ともいう。)に関する。具体的には、上記表面処理液は、上記一の金属素形材の表面に塗布され、自然乾燥または加熱乾燥されることで、上記表面処理層を形成する。そして、上記表面処理液は、形成された表面処理層を介して、上記一の金属素形材に対して、上記樹脂組成物の成形体を、より強固に密着して接合させることができる。
【0015】
上記表面処理液は、後述する処理液付与具などに収容しての持ち運びが容易であり、かつ、特別な装置などがなくても任意の時間および場所で、金属素形材の表面に上記表面処理層を簡易に形成することを可能とする。また、後述するように、上記表面処理液は、防錆油や加工油などが塗油された金属素形材(以下、単に「油面金属素形材」ともいう。)や、ステンレス、アルミニウムおよびマグネシウムなどの有機樹脂が接着しにくい金属素形材(以下、単に「難接着金属素形材」ともいう。)などの表面にも、上記表面処理層を容易に形成することができ、これらの油面金属素形材や難接着金属素形材の表面にも、樹脂組成物の成形体を密着性よく接合させ得る。
【0016】
1-1.金属素形材
金属素形材とは、金属板、そのプレス成形品、あるいは鋳造、鍛造、切削、粉末冶金などにより金属が成形されたり力などが加えられたりして、形を与えられたものをいう。これら金属素形材の種類は、特に限定されない。例えば、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、Zn-Al合金めっき鋼板、Zn-Al-Mg合金めっき鋼板、Zn-Al-Mg-Si合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、およびフェライト・マルテンサイト二相系を含む)、アルミニウム板、アルミニウム合金板、マグネシウム板、マグネシウム合金板および銅板などの金属板やそのプレス成形品が含まれる。また、アルミダイカスト、亜鉛ダイカストおよびマグネシウムダイカストを含む鋳造、鍛造、切削加工、および粉末冶金などにより成形された金属部材なども含まれる。
【0017】
金属素形材は、金属素形材の表面に化成処理皮膜が形成されていてもよい。化成処理皮膜は、金属素形材の耐食性を向上させる。化成処理皮膜は、金属素形材表面のうち、少なくとも上記表面処理液が塗布される領域に形成されていればよいが、皮膜形成を容易にする観点からは、金属素形材の表面全体に形成されていることが好ましい。
【0018】
化成処理皮膜を形成するための化成処理の種類は、特に限定されない。例えば、クロメート処理、クロムフリー処理およびリン酸塩処理などが含まれる。化成処理によって形成された化成処理皮膜の付着量は、金属素形材の耐食性向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。例えば、クロメート処理の場合、Cr換算付着量が5mg/m2以上100mg/m2以下となるように調整すればよい。また、クロムフリー処理の場合、Ti-Mo複合皮膜では付着量が10mg/m2以上500mg/m2以下、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量が3mg/m2以上100mg/m2以下となるように調整すればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、付着量が0.1mg/m2以上5g/m2以下となるように調整すればよい。
【0019】
金属素形材は、その表面に陽極酸化皮膜が形成されていてもよい。陽極酸化皮膜は、金属素形材の耐食性、耐摩耗性などを向上させる。陽極酸化皮膜は、たとえば、硝酸、硫酸、クロム酸などを含む水溶液の電解液中で陽極酸化させる公知の方法で形成することができ、特にアルミニウムおよびマグネシウムなどの金属に対して広く形成されている。
【0020】
1-2.表面処理液
上記表面処理液は、リン酸化合物と、密着性助剤と、有機溶媒と、樹脂のエマルジョンと、を含む。
【0021】
1-2-1.リン酸化合物
リン酸化合物は、表面処理層と金属素形材との密着性を高める。リン酸化合物のリン酸基は金属(金属素形材または化成処理中の無機元素)と強い親和性を発揮し、錯体を形成する。リン酸化合物は、この錯体形成により、防錆油や加工油などが塗油された油面金属素形材の表面に対する上記表面処理液の濡れ性を高めて、金属素形材に強く密着した表面処理層を形成することができる。また、リン酸化合物は、この錯体形成によりステンレス、アルミニウムおよびマグネシウムなどの表面に形成されている酸化皮膜との間の上記表面処理液の親和性を高めるため、これらの難接着金属素形材の表面に対する上記表面処理液の濡れ性を高めて、金属素形材に強く密着した表面処理層を形成することができる。これらにより、リン酸化合物は、金属素形材の表面への前処理を不要または簡素化させることができ、表面処理層の形成を容易にする。
【0022】
上記リン酸化合物の例には、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素カルシウムおよびリン酸水素マグネシウムなどが含まれる。
【0023】
表面処理液中に含まれるリン酸化合物の含有量は、油面金属素形材および難接着金属素形材の表面への上記表面処理層の密着性を十分に高め得る範囲において、適宜に決めることができる。例えば、表面処理液中に含まれるリン酸化合物の含有量は、表面処理層におけるリン酸化合物の含有量(固形分の全量に対するリン酸化合物の含有量)がP原子換算で0.05質量%以上3.0質量%未満となる量であることが好ましい。
【0024】
1-2-2.密着性助剤
密着性助剤は、Ti、Zr、VおよびMoからなる群から選択される金属の酸化物、水酸化物またはフッ化物である。密着性助剤は、表面自由エネルギーが低いため、上記表面処理液の付与および乾燥により形成された表面処理層の内部のうち、金属素形材表面の近傍に選択的に濃化する傾向がある。密着性助剤は、この濃化作用により、油面金属素形材や難接着金属素形材の表面に対する上記表面処理液の濡れ性をより高めて、上記リン酸化合物による金属素形材への表面処理層の密着性向上効果を助勢する。
【0025】
また、密着性助剤に含まれる金属は、金属素形材の耐食性を向上させることができる。特に、上記金属のフッ化物には、自己修復作用により、表面処理層の欠陥部における腐食を抑制することも期待できる。
【0026】
表面処理液中に含まれる密着性助剤の含有量は、油面金属素形材および難接着金属素形材の表面への上記表面処理層の密着性を十分に高め得る範囲において、適宜に決めることができる。例えば、表面処理液中に含まれる密着性助剤の含有量は、表面処理層における密着性助剤の含有量(固形分の全量に対する密着性助剤の含有量)がTi原子換算で0.005質量%以上0.6質量%未満、Zr原子換算で0.05質量%以上12.0質量%未満、V原子換算で0.02質量%以上3.0質量%未満、Mo原子換算で0.005質量%以上3.0質量%未満となる量であることが好ましい。
【0027】
上記含有量は、電子マイクロアナライザ(EPMA)にて元素分析することで確認することができる。具体的には、Arミリングにて断面加工を行い、ついで収束イオンビーム(FIB)加工にて厚さ500nm程度の薄片を作製し、得られた断面をオスミウム蒸着する。その後、例えば、加速電圧15kV、照射電流100nAにてEPMA分析を行って、表面処理層に含まれる元素の合計量に対する、各元素量の割合を求める。
【0028】
1-2-3.有機溶媒
有機溶媒は、金属素形材の表面に対する上記表面処理液の濡れ性を調整する。
【0029】
また、有機溶媒は、上記表面処理液が金属素形材の表面へ付与された後、比較的早期に揮発することにより、有機溶媒は、金属素形材の表面へ付与された上記表面処理液を早期に乾燥させることができる。これにより、有機溶媒は、乾燥用の設備などがない環境などでも、上記表面処理層の形成を可能とする。
【0030】
有機溶媒は、特に限定されないが、脂肪族系溶媒、脂環族系溶媒、芳香族系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒およびアミド系溶媒などの公知の溶媒から上記表面処理液の各成分と反応しないものを、単独あるいは組み合わせて使用することができる。
【0031】
上記有機溶媒は、水溶性有機溶媒が好ましい。水溶性有機溶媒は、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、tert-ペンチルアルコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタジオール、1,5-ペンタンジオールおよびグリセリンなどのアルコール系溶媒または多価アルコール系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、2-ピロリドンおよびN-メチル-2-ピロリドンなどのアミド系溶媒を挙げることができる。
【0032】
上記表面処理液に含まれる有機溶媒の含有量は、油面金属素形材または難接着金属素形材の表面への上記表面処理液の濡れ性を高める観点から、5質量%以上35質量%以下とする。上記表面処理液の安定性を高め、かつ環境への負荷を低減する観点から、有機溶媒の含有量は、5質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
1-2-4.樹脂のエマルジョン
樹脂は、金属素形材に密着できるものであればよい。たとえば、樹脂は、金属素形材と水素結合する官能基(水素結合性官能基)を有するものとすることができる。上記水素結合性官能基の例には、カルボキシル基およびアミノ基が含まれる。水素結合性官能基を有する樹脂の例には、エポキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂が含まれる。これらの樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
これらの樹脂は、エマルジョンとなっている。油面金属素形材および難接着金属素形材の表面への上記表面処理層の密着性を高め、かつ、表面処理液の粘度を後述する範囲に調整する観点からは、上記樹脂のエマルジョンの光散乱法により測定される平均粒子径は、5nm以上500nm以下であることが好ましく、10nm以上400nm以下であることがより好ましい。
【0035】
エポキシ系樹脂の例には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、およびビスフェノールAD型エポキシ樹脂などが含まれる。ポリオレフィン系樹脂の例には、ポリエチレン樹脂、およびポリプロピレン樹脂などが含まれる。フェノール系樹脂には、ノボラック型樹脂、およびレゾール型樹脂などが含まれる。ポリウレタン系樹脂は、ジオールとジイソシアネートが共重合することで得られる。ジオールの例には、ビスフェノールA、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオールなどが含まれる。イソシアネートの例には、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートなどが含まれる。
【0036】
上記樹脂は、市販品として入手することが可能である。また、上記表面処理液中の樹脂の存在は、NMR、IR、およびGC-MSなどの通常の分析機器によって確認することが可能である。
【0037】
さらに、上記樹脂は、架橋されていてもよい。樹脂の架橋は、例えば、樹脂中の水素結合性官能基と反応する架橋性官能基を有する架橋剤によって行うことができる。上記樹脂を架橋することは、表面処理層の強度を向上させる観点から好ましい。上記架橋剤には、樹脂の架橋に用いられる公知の架橋剤を用いることができる。架橋剤の例には、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、メラミン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤および金属塩を有する架橋剤が含まれる。架橋剤の使用量は、金属素形材に対する表面処理層の密着性と、上記表面処理層における架橋による効果との両方が得られる範囲で適宜に決められる。
【0038】
後述する樹脂の成形体との間の密着性をより高める観点からは、上記表面処理液中に含有される樹脂はポリウレタン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。上記ポリウレタン系樹脂は、ポリカーボネートユニット含有ポリウレタン樹脂を含んでいることが好ましい。
【0039】
ポリウレタン系樹脂は、ポリウレタン骨格と、上記水素結合性官能基とを含む高分子化合物である。上記ポリウレタン系樹脂の例には、ポリカーボネート含有ポリウレタン(以下、「PC含有ポリウレタン」とも言う)が含まれる。上記ポリウレタン系樹脂中の当該水素結合性官能基の量は、金属素形材に対する十分な密着性が得られる範囲から適宜に決められる。また、上記ポリウレタン系樹脂は、上記水素結合性官能基以外の他の官能基をさらに含んでいてもよい。また、上記ポリウレタン系樹脂の重量平均分子量は、本発明の効果が得られる範囲において特に限定されない。
【0040】
PC含有ポリウレタンは、分子鎖中にポリカーボネートユニットを有する。「ポリカーボネートユニット」とは、ポリウレタンの分子鎖中において下記に示す構造をいう。当該カーボネート基は、上記PC含有ポリウレタン中に、個別に存在していてもよいし、連続して存在していてもよい。表面処理液におけるポリカーボネートユニットの含有量は、表面処理液中の全樹脂の質量に対して15質量%以上80質量%以下であることが、金属素形材に対する密着性と樹脂の成形体に対する密着性との両方を高める観点から好ましい。ポリカーボネートユニットの上記含有量が15質量%よりも少ないと、表面処理層が金属素形材に対して十分な強度で密着しないことがあり、80質量%よりも多いと、表面処理層が樹脂の成形体に対して十分な強度で密着しないことがある。全樹脂の質量に対するポリカーボネートユニットの質量の割合は、核磁気共鳴分光法(NMR分析)により求めることができる。
【0041】
【0042】
PC含有ポリウレタンは、公知の手法で調製することができ、特に限定されない。例えば、以下の工程により調製することができる。まず、有機ポリイソシアネートと、ポリカーボネートポリオールと、三級アミノ基またはカルボキシル基を有するポリオールとを反応させてウレタンプレポリマーを生成する。なお、本発明の効果が得られる範囲内において、ポリカーボネートポリオール以外のポリオール、例えばポリエステルポリオールやポリエーテルポリオールなどを併用することは可能である。
【0043】
次いで、製造したウレタンプレポリマーの三級アミノ基を、酸で中和するかまたは四級化剤で四級化した後、水で鎖伸長する。こうして、カチオン性のポリカーボネートユニット含有ポリウレタンを生成することができる。あるいは、上記ウレタンプレポリマーのカルボキシル基を、トリエチルアミンやトリメチルアミン、ジエタノールモノメチルアミン、ジエチルエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基性化合物で中和してカルボン酸の塩類に変換する。こうして、アニオン性のポリカーボネートユニット含有ポリウレタンを生成することができる。上記PC含有ポリウレタンは、カチオン性のポリカーボネートユニット含有ポリウレタンであってもよいし、アニオン性のポリカーボネートユニット含有ポリウレタンであってもよい。
【0044】
上記有機ポリイソシアネートの種類は、特に限定されない。有機ポリイソシアネートの例には、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジクロロ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、および4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが含まれる。上記有機ポリイソシアネートは、一種でもそれ以上でもよい。
【0045】
上記ポリカーボネートポリオールは、カーボネート化合物と、ジオール化合物と、を反応させることで得られる。上記カーボネート化合物の例には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、およびプロピレンカーボネートなどが含まれる。上記ジオール化合物の例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオール、ジメチルブタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、および1,6-ヘキサンジオールなどが含まれる。上記ポリカーボネートポリオールは、イソシアネート化合物によって鎖延長された化合物であってもよい。上記ポリカーボネートポリオールは、一種でもそれ以上でもよい。
【0046】
三級アミノ基またはカルボキシル基を有するポリオールは、例えば、開始剤の存在下でアルカノールアミン類とジカルボン酸とを、酸塩基反応または脱水縮合させることによって得られる。上記開始剤の例には、アンモニア、第1級または第2級のモノアミン類、第1級または第2級の脂肪族ポリアミン類、および第1級または第2級の芳香族モノまたは芳香族ポリアミン類などが含まれる。上記第1級または第2級のモノアミン類の例には、メチルアミン、およびエチルアミンなどが含まれる。上記第1級または第2級の脂肪族ポリアミン類の例には、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミンなどが含まれる。上記第1級または第2級の芳香族モノまたは芳香族ポリアミン類の例には、アニリン、ジフェニルアミン、トルエンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、およびN-メチルアニリンなどが含まれる。上記アルカノールアミン類の例には、モノエタノールアミンおよびジエタノールアミンなどが含まれる。上記ジカルボン酸の例には、アジピン酸およびフタル酸などが含まれる。上記三級アミノ基またはカルボキシル基を有するポリオールは、イソシアネート化合物によって鎖延長された化合物であってもよい。上記三級アミノ基またはカルボキシル基を有するポリオールは、一種でもそれ以上でもよい。
【0047】
ポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン骨格と、水素結合性官能基とを含む高分子化合物である。上記ポリプロピレン系樹脂の例には、酸変性ポリプロピレンが含まれる。上記酸変性ポリプロピレンは、ポリプロピレンの構成単位中にカルボキシル基またはその無水物基が導入されたポリプロピレンである。上記ポリプロピレン系樹脂中の当該水素結合性官能基の量は、金属素形材に対する十分な密着性が得られる範囲から適宜に決められる。また、上記ポリプロピレン系樹脂は、上記水素結合性官能基以外の他の官能基をさらに含んでいてもよい。
【0048】
上記酸変性ポリプロピレンの含有量は、表面処理液中の全樹脂に対して40質量%以上であることが、金属素形材と他の金属素形材または樹脂組成物の成形体との密着性を高める観点から好ましい。酸変性ポリプロピレンの上記含有量の上限値は、本発明の効果が得られる範囲において、適宜に決めることができる。
【0049】
上記酸変性ポリプロピレンの酸価は、1mgKOH/g以上500mgKOH/g以下であることが好ましい。酸変性ポリプロピレンの酸価が上記の範囲内であれば、後述のエマルジョンを作製する際に酸変性ポリプロピレンを中和することで、酸変性ポリプロピレン自体が界面活性剤として作用する。
【0050】
上記酸変性ポリプロピレンの融点が60℃以上120℃以下であり、かつ上記酸変性ポリプロピレンの結晶化度が5%以上20%以下であることが好ましい。上記融点および結晶化度を有する酸変性ポリプロピレンは、金属素形材の表面に対する濡れ性が高い。このため、表面処理層の密着性の観点から好ましい。上記融点が60℃未満または上記結晶化度が5%未満の場合、比較的低温で表面処理層が軟化してしまうため、例えば、保管時に金属素形材の耐ブロッキング性が不十分となることがある。
【0051】
なお、酸変性ポリプロピレンの融点および結晶化度は、上記表面処理液に含まれる状態と表面処理層の状態(乾燥後)とでほとんど変化しない。したがって、表面処理層中の酸変性ポリプロピレンの結晶化度は、酸変性ポリプロピレンを含む上記表面処理液を、Ruland法によるX線回折により測定することで調べることができる。
【0052】
上記酸変性ポリプロピレンは、例えば、酸変性ポリプロピレンを分散質とする酸変性ポリプロピレン系エマルジョンとして調製される。酸変性ポリプロピレン系エマルジョンは、酸変性ポリプロピレンを調製した後、酸変性ポリプロピレンを水に配合して分散することで調製される。また、酸変性ポリプロピレン系エマルジョンには、乳化剤として各種界面活性剤を添加してもよい。
【0053】
ポリプロピレンには、アイソタクティク、アタクティク、シンジオタクティク、ヘミアイソタクティクおよびステレオタクティクの立体規則性が知られている。酸変性ポリプロピレンにおけるポリプロピレンの立体規則性は、剛性や衝撃強さなどの力学特性または耐久性の観点から、アイソタクティクであることが好ましい。
【0054】
上記ポリプロピレンの重量平均分子量は、1000以上300000以下であることが好ましく、5000以上100000以下であることがさらに好ましい。ポリプロピレンの重量平均分子量が1000以上であると、表面処理層の強度をより高めることができる。一方、ポリプロピレンの重量平均分子量が300000以下であると、ポリプロピレンを酸変性する際に、粘度が増大してしまうことによる作業性の低下が抑制される。
【0055】
ポリプロピレンの酸変性は、ポリプロピレンをトルエンまたはキシレンに溶解させ、ラジカル発生剤の存在下で、α,β-不飽和カルボン酸および/またはα,β-不飽和カルボン酸の酸無水物および/または1分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物を用いて行うことができる。または、ポリプロピレンの軟化温度あるいは融点以上まで昇温させることができる機器を使用し、ラジカル発生剤の存在下または非存在下で、α,β-不飽和カルボン酸および/またはα,β-不飽和カルボン酸の酸無水物および/または1分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物を用いて行うことができる。ポリプロピレンの変性反応をトルエンおよび/またはキシレンなどの有機溶媒中で溶液状態として行う場合、または水系などでの非溶媒中で行う不均一分散系での反応の場合には、窒素置換を充分に行うことが望ましい。このようにして、酸変性ポリプロピレンが調製される。
【0056】
上記ラジカル発生剤の例には、パーオキサイドおよびアゾニトリルが含まれる。上記アゾニトリルの例には、ジ-tert-ブチルパーフタレート、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシエチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、およびジ-tert-ブチルパーオキサイドなどが含まれる。上記アゾニトリルの例には、アゾビスイソブチロニトリル、およびアゾビスイソプロピオニトリルなどが含まれる。ラジカル発生剤の配合量は、ポリプロピレン100質量部に対して0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
【0057】
α,β-不飽和カルボン酸またはその酸無水物の例には、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、および無水アコニット酸が含まれる。上記α,β-不飽和カルボン酸またはその酸無水物は、一種でもそれ以上でもよい。上記α,β-不飽和カルボン酸またはその酸無水物の2種以上を組み合わせて使用すると、表面処理層の物性が良好になる場合が多い。
【0058】
上記の1分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物の例には、(メタ)アクリル酸系モノマーおよびスチレン系モノマーが含まれる。上記(メタ)アクリル酸系モノマーの例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸、ジ(メタ)アクリル酸(ジ)エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、ジ(メタ)アクリル酸グリセリン、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、およびアクリルアミドなどが含まれる。上記スチレン系モノマーの例には、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、およびクロロメチルスチレンなどが含まれる。さらに、上記化合物に、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、バーサチック酸のビニルエステルなどのビニル系モノマーを併用することができる。
【0059】
上記の1分子当たり1個以上の二重結合を有する化合物は、一種でもそれ以上でもよい。当該化合物の配合量は、ポリプロピレン100質量部に対して0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
【0060】
1-2-5.その他の添加剤
上記表面処理液は、本発明の効果が得られる範囲において、添加剤をさらに含有していてもよい。当該添加剤の例には、金属酸化物、防錆剤、潤滑剤、消泡剤、エッチング剤、無機化合物、ならびに色材などが含まれる。
【0061】
上記防錆剤は、金属素形材の耐食性を向上させる。防錆剤は、一種でもそれ以上でもよい。防錆剤の例には、金属化合物系防錆剤、非金属化合物系防錆剤、および有機化合物系防錆剤が含まれる。表面処理液における防錆剤の含有量は、防錆剤の種類に応じて、防錆剤による防錆効果と本発明の効果とが得られる範囲から適宜に決めることができる。
【0062】
上記金属化合物系防錆剤の例には、Si、Cr、Hf、Nb、Ta、W、MgおよびCaからなる群から選択される金属の酸化物、水酸化物またはフッ化物が含まれる。
【0063】
上記非金属化合物系防錆剤の例には、チオ尿素などのチオール化合物が含まれる。
【0064】
上記有機化合物系防錆剤の例には、インヒビターおよびキレート化剤が含まれる。当該インヒビターの例には、オレイン酸、ダイマー酸、ナフテン酸などのカルボン酸、カルボン酸金属石鹸(ラノリンCa、ナフテン酸Zn、酸化ワックスCa、Ba塩など)、スルフォン酸塩(Na、Ca、Baスルフォネート)、アミン塩、および、エステル(高級脂肪酸のグリセリンエステル,ソルビタンモノイソステアレート,ソルビタンモノオレートなど)が含まれる。上記キレート化剤の例には、EDTA(エチランジアミンテトラ酢酸)、グルコン酸,NTA(ニトリロトリ酢酸)、HEDTA(ヒドロキシエチル、エチレンジアミン三酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、および、クエン酸Naが含まれる。
【0065】
上記潤滑剤は、金属素形材の表面におけるカジリの発生を抑制することができる。潤滑剤は、一種でもそれ以上でもよく、潤滑剤の種類は、特に限定されない。潤滑剤の例には、フッ素系やポリエチレン系、スチレン系、ポリプロピレン系などの有機ワックス、および、二硫化モリブデンやタルクなどの無機潤滑剤、が含まれる。表面処理液中の潤滑剤の含有量は、表面処理液における上記樹脂の総量100質量部に対して1質量部以上20質量部以下となる量であることが好ましい。潤滑剤が1質量部未満の場合、カジリの発生を十分に抑制することができないことがある。一方、潤滑剤が20質量部超の場合、カジリの発生を抑制する効果が頭打ちとなり、また、潤滑性が高すぎて取り扱い性が劣ることがある。
【0066】
上記消泡剤は、上記表面処理液の調製時における気泡の発生を抑制する。消泡剤は、一種でもそれ以上でもよい。消泡剤の種類は、特に限定されない。消泡剤は、シリコーン系消泡剤などの既知の消泡剤を適量添加すればよい。
【0067】
上記エッチング剤は、金属素形材の表面を活性化することで、金属素形材に対する表面処理層の密着性を向上させる。エッチング剤の例には、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、ジルコンフッ化水素、チタンフッ化水素などのフッ化物が含まれる。
【0068】
上記無機化合物は、表面処理層を緻密化して耐水性を向上させる。無機化合物の例には、シリカ、アルミナ、ジルコニアなどの無機系酸化物ゾルなどが含まれる。
【0069】
上記色材は、表面処理層に所定の色調を付与する。色材の例には、無機顔料、有機顔料および有機染料などが含まれる。
【0070】
1-2-6.表面処理液の物性
上記表面処理液は、粘度が2mPa・s以上50mPa・s以下である。上記表面処理液の粘度が2mPa・s以上50mPa・s以下であると、金属素形材への優れた濡れ性が得られ、油面金属素形材および難接着金属素形材などの表面に対しても上記表面処理液がムラなく均一に濡れ広がり、密着性の良好な表面処理層を形成することができる。なお、上記表面処理液の粘度は、脱泡後に20℃の環境下でブルックフィールド型粘度計を用いてJISZ-8803(2011年)に定められた方法で測定された値とする。
【0071】
また、上記粘度が2mPa・s以上50mPa・s以下であると、スプレー法、刷毛塗り、および文房具塗りなどによって金属素形材の表面へ上記表面処理液を付与するために使用する処理液付与具に適用したときに、処理液付与具の目詰まり(スプレーやノズルヘッドなどの目詰まり)の抑制や、刷毛の毛束部やマーカーのペン先などの繊維集合体からなる樹脂組成物やフェルトなどへの含浸性に優れる。また、上記表面処理液は、粘度が2mPa・s以上であるため、これらの処理液付与具からの液のボタ落ちなどの、いわゆる直流現象や、付与された後の滲みが生じにくい。また、上記表面処理液は、粘度が50mPa・s以下であるため、これらの処理液付与具の目詰まり、付与時の擦れおよび液体成分の揮発によるドライアップ(処理液付与具の乾燥による付与不良)が生じにくい。これらの観点から、上記表面処理液の粘度は5mPa・s以上35mPa・s以下であることがより好ましい。
【0072】
上記表面処理液の粘度は、表面処理液中の樹脂固形分の含有量または粘性調整剤の添加により調整することができる。粘性調製剤の例には、高分子多糖類、水溶性アクリル樹脂および無機鉱物形などが含まれる。表面処理液における粘性調整剤の含有量は、粘性調整剤の種類に応じて、増粘効果と本発明の効果とが得られる範囲から適宜決めることができる。
【0073】
2.複合体の製造方法(接触および加熱)
本発明の他の実施形態は、上述した表面処理液を用いる、複合体の製造方法に関する。具体的には、上記表面処理液は、(1)一の金属素形材の表面に上述した表面処理液を付与し、乾燥させて表面処理層を形成する工程と、(2)上記一の金属素形材に対し、上記表面処理層に接するように樹脂組成物の成形体を配置する工程と、(3)上記表面処理層と上記樹脂組成物の成形体との接触部を加熱する工程と、による複合体の製造に使用できる。
【0074】
2-1.表面処理層の形成
まず、一の金属素形材の表面に上述した表面処理液を付与し、乾燥させて表面処理層を形成する。
【0075】
上記表面処理液の付与は、ロールコート法、カーテンフロー法、スピンコート法、スプレー法、浸漬引き上げ法などの公知の方法で行うことができる。また、上記表面処理液の付与は、刷毛塗り、およびサインペン、マジックペン、筆ペン、およびマーカーなどの筆記具を用いての文房具塗りなどによって行ってもよい。
【0076】
これらのうち、大掛かりな設備が不要かつ必要な箇所のみの部分的な表面処理が可能であり、作業性に優れる観点から、スプレー法、刷毛塗り、および文房具塗りが好ましく、刷毛塗りおよび文房具塗りがより好ましい。
【0077】
上記表面処理液の付与量は、乾燥により形成される表面処理層の膜厚が0.5μm以上となる量であることが好ましい。形成される表面処理液の厚さが0.5μm以上であると、上記一の金属素形材に対する上記樹脂組成物の成形体の接合力が十分に高まり、かつ、表面処理層中に含まれる添加物の機能(例えば、防錆剤の防錆作用)も十分に発現される。形成される表面処理層の厚さの上限は、特に限定されないが、上記の効果が頭打ちになる観点やコストの観点などから決めることができる。たとえば、形成される表面処理層の厚さは、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0078】
付与された表面処理液の乾燥は、自然乾燥でもよいし加熱による乾燥でもよい。これらの乾燥条件は、上記表面処理液の組成などに応じて適宜選択すればよい。たとえば、付与された表面処理液を加熱により乾燥させるときは、上記表面処理液を塗布した金属素形材を水洗することなく乾燥オーブン内に投入し、到達板温が80℃以上250℃以下の範囲内となるように加熱すればよい。
【0079】
2-2.樹脂組成物の成形体の配置
次に、上記表面処理層が形成された一の金属素形材に対し、上記表面処理層に接するように、樹脂組成物の成形体を配置する。
【0080】
たとえば、上記樹脂組成物の成形体は、少なくとも、その接合されるべき部分と、上記一の金属素形材の接合されるべき部分とが、上記表面処理層を介して接するように、上記一の金属素形材に対して配置される。当該工程において、上記樹脂組成物の成形体の接合されるべき部分と、上記一の金属素形材の接合されるべき部分とは、少なくとも後述する加熱工程を行う時点で、上記表面処理層を介して接触していればよい。このとき、上記一の金属素形材と上記樹脂組成物の成形体とは、固定用の治具などによって互いに押圧されて付着していることが、位置ずれ防止などの観点から好ましい。
【0081】
上記樹脂組成物の成形体は、上記一の金属素形材の表面に密着する形状を有する成形体であればよい。
【0082】
上記樹脂組成物の成形体を構成する樹脂組成物は、表面処理層への溶着性が高いことから、熱可塑性樹脂組成物であることが好ましい。上記熱可塑性樹脂組成物の例には、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)系樹脂組成物、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂組成物、ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂組成物、ポリカーボネート(PC)系樹脂組成物、ポリアミド(PA)系樹脂組成物、ポリフェニレンサルファイド(PPS)系樹脂組成物、ポリプロピレン(PP)系樹脂組成物、および、これらの組み合わせなどが含まれる。上記熱可塑性樹脂組成物の種類は、上記表面処理層との溶着性に応じて決めることが可能である。
【0083】
上記熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率は、1.1%以下であることが、複合体の製造時の温度変化による変形を抑制する観点から好ましい。上記成形収縮率は、上記成形体に対する塗装金属素形材の接合力をより高める観点から、0.9%以下であることが好ましく、0.7%以下であることがより好ましい。熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率は、公知の方法で調整することができる。たとえば、上記成形収縮率は、熱可塑性樹脂組成物へのフィラーの添加や、熱可塑性樹脂組成物中の結晶性樹脂および非結晶性樹脂の混合割合などによって調整することができる。非結晶性樹脂は、例えば、PVCやPMMAなどである。結晶性樹脂は、例えば、PEや、PP、POMなどである。上記成形収縮率は、例えば、フィラーの含有量を多くすることや、結晶性樹脂に対する非結晶性樹脂の混合比率を高くすることなどによって、低くすることができる。
【0084】
上記成形収縮率(%)は、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物(例えば熱可塑性樹脂の融点の熱可塑性樹脂組成物あるいは射出成形の金型のキャビティーの容積)の体積をVa、当該溶融状態から冷却して固化した熱可塑性樹脂組成物(例えば室温(20℃)の熱可塑性樹脂組成物)の体積をVbとしたときに、下記式で求められる。
{(Va-Vb)/Va}×100
【0085】
また、αp/αmが6以下であることが、複合体の製造時の温度変化による変形を抑制する観点から好ましい。αpは、熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数であり、αmは、金属素形材の線膨張係数である。αp/αmが6よりも大きいと、上記成形体に対して塗装金属素形材が十分強固に接合しないことがある。αp/αmは、上記成形体に対する塗装金属素形材の接合力をより高める観点から4.5以下であることが好ましい。αmおよびαpは、それぞれ、例えばTMA(Thermal Mechanical Analysis:熱機械分析法)により、材料の温度変化に伴う寸法変化量を測定することによって求められる。αpは、例えば、熱可塑性樹脂組成物中のフィラーの含有量が多いと小さくなる。
【0086】
熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、上記有機樹脂以外の他の成分をさらに含有していてもよい。このような他の成分の例には、フィラーおよび熱可塑性エラストマーが含まれる。
【0087】
上記フィラーは、上記成形体の成形収縮率を低減させるとともに、上記成形体の剛性を向上させる。フィラーの種類は、特に限定されず、既知の物質を使用することができる。フィラーは、一種でもそれ以上でもよい。フィラーの例には、ガラス繊維、炭素繊維およびアラミド樹脂などの繊維系フィラー、カーボンブラック、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、ガラス、粘土、リグニン、雲母、石英粉およびガラス球などの粉フィラー、ならびに、炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物が含まれる。中でも、ガラス繊維は、上記成形体の光透過性を保つ観点から、より好ましい。熱可塑性樹脂組成物におけるフィラーの含有量は、上記の観点から5質量%以上60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0088】
上記熱可塑性エラストマーは、上記成形体の耐衝撃性を向上させる。熱可塑性エラストマーの種類は、特に限定されず、熱可塑性エラストマーは、一種でもそれ以上でもよい。熱可塑性エラストマーの例には、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、および、これらの組み合わせ、が含まれる。
【0089】
2-3.接触部の加熱
次に、上記表面処理層と上記樹脂組成物の成形体との接触部を加熱して、これらを溶着させる。これにより、上記表面処理層を介して、上記一の金属素形材と上記樹脂組成物の成形体とが接合する。
上記加熱は、上記表面処理層と上記樹脂組成物の成形体とが接触している面の少なくとも一部に行えばよいが、より密着性を高める観点からは、上記接触している面の全面に対して行うことが好ましい。
【0090】
加熱方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。そのような加熱方法の例には、炎などによる直接加熱、ヒーター加熱、超音波加熱、電磁誘導加熱およびレーザー加熱が含まれる。
【0091】
このとき、たとえば、到達温度が上記表面処理層に含まれる樹脂の融点以上となるように加熱することで、上記表面処理層を介して上記一の金属素形材と上記樹脂組成物の成形体とを密接に接合させることができる。到達温度の上限値は、特に制限されないが、上記の効果が頭打ちになる観点や、表面処理層の分解を抑制する観点などから決めることができ、たとえば、250℃以下とすることができる。
【0092】
3.複合体の製造方法(射出成型)
本発明の他の実施形態は、上述した表面処理液を用いる、複合体の他の製造方法に関する。具体的には、上記表面処理液は、(1)一の金属素形材の表面に上述した表面処理液を付与し、乾燥させて表面処理層を形成する工程と、(2)表面処理層が形成された上記一の金属素形材を射出成型金型に挿入する工程と、(3)上記一の金属素形材が挿入された射出成型金型の内部に溶融した熱可塑性樹脂組成物を射出する工程と、による複合体の製造に使用できる。
【0093】
3-1.表面処理層の形成
まず、一の金属素形材の表面に上述した表面処理液を付与し、乾燥させて表面処理層を形成する。本工程は、上述した方法で行うことができるので、重複する説明は省略する。
【0094】
3-2.射出成型金型への挿入
次に、表面処理層が形成された上記一の金属素形材を射出成型金型に挿入する。
【0095】
3-3.熱可塑性樹脂組成物の射出
次に、上記一の金属素形材が挿入された射出成型金型の内部に溶融した熱可塑性樹脂組成物を射出する。上記熱可塑性樹脂組成物は、上述した樹脂組成物の成形体を構成する熱可塑性樹脂組成物と同様とすることができる。
【0096】
このとき、熱可塑性樹脂組成物は高圧で射出することが好ましい。また、射出成形金型にガス抜きを設けて、熱可塑性樹脂組成物が円滑に流れるようにすることが好ましい。溶融した熱可塑性樹脂組成物は、上記一の金属素形材の表面に形成された表面処理層に接触する。射出成形金型の温度は、上記熱可塑性樹脂組成物の融点近傍であることが好ましい。
【0097】
4.処理液付与具
本発明の他の実施形態は、上記一の金属素形材に対して、上記表面処理液を付与するための、処理液付与具に関する。処理液付与具は、持ち運び可能であることが好ましい。
【0098】
図1は、本実施形態に関する処理液付与具の例を示す模式断面図である。
【0099】
図1Aは、スプレー型の、処理液付与具の一例を示す模式断面図である。
図1Aに示すように、処理液付与具100aは、容器110aと、上述した表面処理液120aと、を有する。容器110aは、表面処理液120aを収容する収容部112aと、収容部112aに収容された表面処理液120aを上記一の金属素形材の表面に付与するための付与部114aと、を有する。
【0100】
処理液付与具100aにおいて、付与部114aは、ノズル115aと弁116aとを有する。ノズル115aが配置されたノズルヘッド117aを収容部112aに対して押し込むと、弁116aが解放され、収容部112aの内部に収容された気体の圧力によって収容部112aの内部の表面処理液120aが押し出され、ノズル115aから噴射される。これにより、付与部114aは、ノズル115aが上記一の金属素形材の表面を向いた状態で、ノズルヘッド117aを収容部112aに対して押し込むことにより、ノズル115aから噴射された表面処理液120aを上記一の金属素形材の表面に付与することができる。
【0101】
図1Bは、サインペン型の、処理液付与具の一例を示す模式断面図である。
図1Bに示すように、処理液付与具100bは、容器110bと、上述した表面処理液120bと、を有する。容器110bは、表面処理液120bを収容する収容部112bと、収容部112bに収容された表面処理液120bを上記一の金属素形材の表面に付与するための付与部114bと、を有する。
【0102】
処理液付与具100bにおいて、付与部114bは、繊維集合体、フェルトおよび不織布などの、繊維の集合体である。付与部114bは、上記一の金属素形材の表面に接触された状態で、重力や収容部112bへの押圧などにより収容部112bから移動した表面処理液120bに、上記繊維の集合体を通過させることで、表面処理液120bを上記一の金属素形材の表面に付与することができる。
【0103】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0104】
1.金属素形材
金属素形材として、難接着金属素形材であるアルミ板を準備した。アルミ板は板厚が1.0mmのAl6061合金(JISH 4000(2014年))を用いた。Al6061合金は、脱脂や酸洗などの前処理を行なわずに用いた。
【0105】
2.表面処理液
表面処理液中の樹脂のエマルジョンとしては、ポリウレタン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂のエマルジョンを用いた。ポリウレタン系樹脂のエマルジョンとしては、スーパーフレックスE-4800(第一工業製薬株式会社)を用いた。ポリプロピレン系樹脂のエマルジョンとしては、酸変性ポリプロピレン系樹脂を含有するMGP-1650(丸芳化学株式会社)を用いた。
【0106】
得られた上記表面処理液にリン酸化合物、密着性助剤および有機溶媒を添加した。
【0107】
表面処理液中のリン酸化合物としては、リン酸水素二アンモニウム(キシダ化学株式会社)を用いた。上記表面処理液中のリン酸化合物の含有量は、形成される表面処理層中のP換算含有量が0.25質量%となる量に調整した。
【0108】
表面処理液中の密着性助剤としては、Ti、Zr、VおよびMoの酸化物を用いた。Ti酸化物としては、酸化チタン(IV)(キシダ化学株式会社)を用いた。Zr酸化物としては、炭酸ジルコニウムアンモニウム(第一稀元素化学工業株式会社)を用いた。V酸化物としては、五酸化バナジウム(太陽鉱工株式会社)を用いた。Mo酸化物としては、七モリブテン酸六アンモニウム四水和物(キシダ化学株式会社)を用いた。密着性助剤は単独または組み合わせて添加した。上記表面処理液中の密着性助剤の含有量は、形成される表面処理層中のTi換算含有量が0.25質量%、Zr換算含有量が0.5質量%、V換算含有量が0.25質量%およびMo換算含有量が0.5質量%となる量に調整した。
【0109】
表面処理液中の有機溶媒としては、エタノール(キシダ化学株式会社)を用いた。上記表面処理液中の有機溶媒の含有量は、5質量%以上35質量%以下となる量に調整した。
【0110】
表面処理液の粘度は、粘性調整剤(アデカノールUH550:株式会社ADEKA)の添加量を変更することにより、表1に記載の値に調整した。
【0111】
3.表面処理層の形成
処理液付与具としてフェルト状のペン先が装着されたマーカーペン(Cutter 15 Emptyマーカー:GROG社)を用いた。処理液付与具の筒先(収容部)に上記表面処理液を封入し、ペン先(付与部)に上記表面処理液を含浸させた後、前処理なしの金属素形材の表面に塗布(筆記)し、自然乾燥させることで厚みが0.5μm以上の表面処理層を形成した。
【0112】
4.表面処理液の塗布性の評価
表面処理層を形成した後、ハジキおよび滲みを目視にて確認して、表面処理液の塗布性を評価した。塗布部(筆跡)のハジキが見られず、かつ滲みが見られず塗布部の端が鮮明な場合は、評価を◎とした。塗布部のハジキが見られず、かつ滲みが見られず塗布部の端が鮮明であるが、塗りムラが認められた場合は、評価を○とした。塗布部でのハジキ発生および滲みによる塗布部の端が不鮮明となることの両方またはいずれかが認められた場合は、評価を×とした。
【0113】
5.樹脂組成物の成形体との接合
上記表面処理層を形成した金属素形材に樹脂組成物の成形体を接合した。樹脂組成物の成形体は、熱可塑性樹脂組成物であるポリカーボネート(PC)系樹脂およびポリプロピレン(PP)系樹脂を用いた。PC系樹脂には、ユーピロンGSH2030FT(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社)を使用した。PP系樹脂には、プライムポリプロR-350(株式会社プライムポリマー)を使用した。
【0114】
上記金属素形材と樹脂組成物の成形体との接合は、射出成形機の金型に金属素形材を挿入し、溶融させた樹脂組成物を射出すること、または金属素形材の表面に熱可塑性樹脂組成物を押圧して金属素形材を加熱することで行なった。樹脂組成物を射出する場合は、金型内で樹脂組成物を冷却固化することで、金属素形材と樹脂組成物の成形体が接合した複合体を得た。樹脂組成物を押圧して金属素形材を加熱する場合は、ヒータチップを用いた加熱装置(パルスヒートユニットNA-154:日本アビオニクス株式会社)を使用し、電流値を調整することで加熱温度を制御した。なお、複合体の形状はISO19095-2に定められたタイプBの試験片とした。
【0115】
6.表面処理層の密着性評価
樹脂組成物の成形体を接合させた後、ISO19095-3に定められた引張せん断試験方法により接合部を破断させ、破断面を観察することで表面処理層の密着性を評価した。金属素形材側に80%以上の表面処理層が残存した場合は、評価を◎とした。金属素形材側に40%以上80%未満の表面処理層が残存した場合は、評価を○とした。金属素形材側に40%未満の表面処理層が残存した場合は、評価を×とした。
【0116】
7.評価結果
樹脂組成物の成形体と上記表面処理液中の含有成分および粘度を変更して実施例1~14および比較例1~15を行なった。実施例および比較例の条件の組み合わせならびに評価結果を表1に示す。
【0117】
【0118】
実施例1~2、4~6および9~10では、リン酸化合物および密着性助剤を含有しており、有機溶媒および粘度が本発明を満たす範囲であることから、全ての実施例で塗布性および密着性が良好であった。
【0119】
実施例3および7~8では、塗布部に塗りムラ(塗布量に差)が認められたものの、リン酸化合物および密着性助剤を含有しており、有機溶媒および粘度が本発明を満たす範囲であることから、全ての実施例で塗布性および密着性が良好であった。
【0120】
実施例11~14では、リン酸化合物および密着性助剤を含有しており、有機溶媒および粘度が本発明を満たす範囲であることから、全ての実施例で塗布性および密着性が良好であった。
【0121】
比較例1~2では、有機溶媒の含有量が範囲下限より少なく、金属素形材への上記表面処理液の濡れ性が劣り、一部ハジキが認められた。よって、塗布性が劣る結果となった。
【0122】
比較例3~4では、有機溶媒の含有量が範囲上限より多く、金属素形材への上記表面処理液の濡れ性は良好であったものの、密着性が劣った。これは有機溶媒の含有量が多くなったことで、上記表面処理液の安定性が低下したためと推測される。
【0123】
比較例5~6では、粘度が範囲下限よりも低く、滲みが認められたことから塗布性が劣った。また、粘度が範囲外となったことで表面処理層の密着性も劣る結果となった。
【0124】
比較例7~8では、粘度が範囲上限よりも高く、ハジキが認められたことから塗布性が劣った。また、粘度が範囲外となったことで表面処理層の密着性も劣る結果となった。
【0125】
比較例9~10では、有機溶媒の含有量が範囲下限より少なく、金属素形材への上記表面処理液の濡れ性が劣り、一部ハジキが認められた。よって、塗布性が劣る結果となった。
【0126】
比較例11~12では、有機溶媒の含有量が範囲上限より多く、金属素形材への上記表面処理液の濡れ性は良好であったものの、密着性が劣った。これは有機溶媒の含有量が多くなったことで、上記表面処理液の安定性が低下したためと推測される。
【0127】
比較例13~15では、有機溶媒および粘度が範囲内であるが、塗布性および密着性が劣る結果となった。これは塗布性および密着性を向上する効果があるリン酸化合物および密着性助剤のいずれか、または両方が含有されていなかったためである。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の表面処理液は、持ち運び可能な処理液付与具にも好適な粘度を有し、前処理なしで油面金属素形材および難接着金属素形材への密着性に優れるため、例えば、各種電子機器、家庭用電化製品、医療機器、自動車車体、車両搭載用品および建築資材などに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0129】
100a、100b 処理液付与具
110a、110b 容器
112a、112b 収容部
114a、114b 付与部
115a ノズル
116a 弁
117a ノズルヘッド
120a、120b 表面処理液